第43回 紹興酒を楽しむ

第
第三十八回:
第三十
四十三回:
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回:
回:紹
チャイナドレス
チャ
興 酒を楽しむ
常陽銀行上海駐在員事務所
最近は日本でも紹興酒(老酒とも呼ばれる)が当り前のように飲まれるようになりました。紹
興酒は、ワイン、日本酒と並んで世界3大醸造酒と呼ばれ、祝い事から普段の料理にまで使われ
る、中国を代表する伝統的な酒です。
1.紹興酒とは
中国の酒は製法・原料により白酒・紅酒・黄酒に分けられます。白酒はコウリャンなどを原
料に蒸留して造られる酒で茅台酒(貴州省)、五粮液(四川省)などが有名です。紅酒は果実を
原料に醸造して造られる酒で一般的にはワインを指します。黄酒はもち米を原料に造られる醸造
酒で紹興酒(浙江省)
、沈紅酒(福建省)
、陳年封缸酒(江西省)
、糯米酒(広東省)などが挙げ
られます。特に有名な紹興酒については紹興市で収穫されたもち米と天然水を使い、厳格に定め
られた製法を使って作られたもののみに付けられると2005年に規定されました。よって、紹興市
以外で造られた黄酒に例えば「上海紹興酒」や「○○紹興酒」という名前を付けることは出来ま
せん。フランスシャンパーニュ地方のスパークリングワインのみが「シャンパン」と称されるの
と同じです。紹興酒は黄酒の中の地酒ブランドの一つということになります。
また、黄酒の中でも長期熟成(3年以上)させたものを老酒と呼びます。紹興酒は熟成期間
が最低3年以上となっているので、老酒の一種ということにもなります。紹興酒のことを老酒と
呼ぶことがあるのはこのためです。
2.紹興酒の種類
更に、紹興酒は製造過程にて加えられる原料等により大きく4種類に分類されます。それぞ
れ発酵度合いや熟成期間により甘味、酸味、苦味などが違ってきます。(表1)
3.紹興酒と中華料理
中華料理は概して油をたくさん使っていることが多いので、まろやかな味わいに加えて酸味
もある紹興酒は、口の中をすっきりとさせ、料理を美味しく食べられるという効果があります。
ここに紹興酒と中華料理の相性の良さがあります。また、中国の陰陽の考えでは紹興酒は「陽」、
つまり体を温める飲物とされていることから、例えば「陰」の食物である上海蟹を食べる時は欠
かせない酒となっています。
相性がいいと言われている料理は、紹興名物の「臭豆腐」です。発酵させた豆腐を油で揚げ
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表 1:紹興酒の種類
名称
アルコール度数
特 徴
元紅酒
16 ∼ 17 度
酒母(ベースの酒)に水、もち米、麦麹を加えて製造。かつて紅色の
甕に入れて売られていたのでこのように呼ばれている。最も基本的な
紹興酒とされる。
加飯酒
18 ∼ 19 度
醸造過程で更にもち米・麦麹を加えて製造。熟成期間の長いものは花
彫酒(※)とも呼ばれる。最も多く造られており、日本でもお馴染み
の紹興酒はこれに分類される。
善醸酒
17 ∼ 18 度
水の代わりに元紅酒を使用して製造。アルコール度数が高く豊醇な味。
香雪酒
20 度
元紅酒の醪(もろみ)に焼酎を加え製造。澱粉の糖化が進んでおり、
甘味が際立ち口当たりも良い。
※紹興の古い習慣で、女児の誕生を祝って父親が甕に仕込んだ紹興酒を庭に埋めておき、娘の結婚の際に
土から堀出して彫刻、彩色を施し(花彫)、娘に持たせたことが由来。
たもので、周りに臭気をぷんぷん
と放ちますが、口にすればそれほ
ど臭みはなく、紹興酒を飲みなが
ら美味しく食べられます。
中国での紹興酒の飲み方は「常
温でそのまま」というのが一般的
ですが、日本人が好きな「ぬる燗」
で飲むことも寒い時期には人気が
あります。但し、紹興酒のぬる燗
を注文しても日本みたいにザラメ
が出てきたり、頼んだりする人は
①茶碗に注がれた紹興酒と臭豆腐。癖になる組合せです。
いません。日本でザラメが出され
るのは、以前はあまり品質のよい紹興酒がなく、その酸味を和らげる為に使われた名残が今もあ
るのが理由のようです。文献によれば中国でも紹興酒を振舞う時に氷砂糖が添えられたことが
あったそうです。しかし、それは「もし、美味しくなかったらどうぞお使い下さい」と儀礼的に
出されているものであり、もし本当に使ったとしたらホストの面子(メンツ)を潰すことになる
ので、使う人はいなかったそうです。
ザラメは入れないものの、例えば生姜の千切りや「活梅」と呼ばれる甘い梅干を入れるのみ
方は日本でもご存知かと思います。最近は紹興酒の味を活かしつつ、3年物など口当たりが軽い
ものは冷やしてドライフルーツを入れて飲んだり、5年物のやや芳醇なものをロックで飲むとい
うような新しい飲み方が紹介されています。
4. 紹興酒のふるさと
上海から南へ列車で約2時間半の所に紹興市はあります。春秋戦国時代、越王が都(会稽)を
建立したことから始まり、1131年に会稽を紹興と改名してから広く知れ渡るようになりました。
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昔から稲作地帯として有名であり、
宋代には「浙江熟すれば天下足る」
とまで言われた米どころです。書
聖の王羲之、中国近代文学の父魯
迅、周恩来などもこの地の出身で、
紹興酒と同様、日本人にも馴染み
の深い都市です。
当市も経済成長と共に都市化が
進み、古い町並みは少なくなって
きていますが、街の中を流れる運
河・堀や石造りの橋が多いことか
②紹興市内の随所で見ることができる石橋と堀
ら、かつては「東洋のベニス」呼
ばれました。
紹興酒はこの地の良質のもち米
と水により作られています。見学
を受入れている工場もあり、本場
の紹興酒造りを真近で見ることが
出来ます。甕に入れられて熟成が
行われている貯蔵庫に入ると、甘
酸っぱい香りがして、早く試飲が
したくなってしまいます。
また、紹興に来たら外せないの
が、魯迅の小説にも登場する紹興
③甘酸っぱい香りが漂う貯蔵庫。5 ∼ 20年物が熟成の時を
過ごしています。
酒の老舗「咸享酒店」です。ここ
では紹興酒が茶碗に注がれて登場します。茶碗酒をあおりつつ、ベストパートナーの名物料理「臭
豆腐」を食べれば至福の時が流れます。上海市内にも系列の支店がありますので、本場と同じ紹
興酒と料理を楽しみたい場合は訪
れてみては如何でしょうか。
5.上海で買うなら
(1)市内スーパー
安くて手頃な黄酒を購入するの
であれば、市内のスーパーがお薦
めです。値段もプラスチック袋に
入っている5元位のものから、20
∼ 50元( 約300円 ∼ 750円 ) 程 度
の物が手に入ります。100元以上
④スーパー内の黄酒コーナー。
の物もありますが、中身は安いも
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のと大差ないものの容器が高級なため高くなっている物もあるので、ラベルで熟成期間等に注意
する必要があります。また、空港で購入すると市内の2倍近い金額となるので、時間があるので
したら地元の人達がどんな銘柄の紹興酒を買っているのか、観察するついでに地元スーパーに
入ってみるのも面白いと思います。
(2)大境路沿い
上海の観光スポットである預園
の西側にある路上市場です。観光
客向けに整備された預園とは違っ
て、地元の人達の生活感をたっぷ
りと堪能できます。ここでは甕だ
し紹興酒の量り売りをしてくれる
店が数軒あります。どの店も10種
類前後の紹興酒を扱っており、希
望の銘柄、量を伝えると別売りの
ペットボトルに入れてくれます。
値段は5年物が500mlで10元(約
150円)前後からとなっています。
⑤大境路沿いにある紹興酒の量り売りをしてくれる店。
(3)咸享酒店
前述の「咸享酒店」上海店では、
店内で提供しているのと同じ12年
物の甕入り紹興酒(内容量約5ℓ、
総重量10kg)が380元(約5,700円)
で購入できます。
(但し、日本に
持ち帰れるかは不明です)自宅で
甕だし紹興酒を楽しみたい人が購
入していくとのことです。
6.おわりに
日本でも産地や製法、酒蔵など
により数万円もする日本酒やウィ
⑥上海の咸享酒店で購入した12年物甕入り紹興酒。
(5ℓ入り)
スキーが珍しくありませんが、中
国でも年代物の紹興酒、特に20年以上の物はそれなりの値段となっています。
確かに長年の熟成を経た味わいには、思わず「うまい」と声が出てしまいますが、そんなビ
ンテージ物でなくても安くて美味しく飲める紹興酒もたくさんあります。
色々と試飲してみてお気に入りの紹興酒を見つけるのも、中国での楽しみではないでしょうか。
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