第1 話完全版 - 凸版印刷株式会社

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深澤直人
F U K A S A W A
N A O T O
クリエーターズファイル
No.
vol.18 Apr.5, 2004
C R E ATO R ' S F I L E
ブレイクスルー
させるデザイ
ン
ふかさわなおと
プロダクトデザイナー
1956 年山梨県生まれ。80 年多摩美術大学立体デザイン科卒業。
セイコーエプソンのデザイナーを経て、
89 年渡米し IDEO 入社。96 年帰国後、
IDEO ジャパン設立。2002 年 Naoto Fukasawa Design 設立。
プロダクトデザインの開発、企業内デザイナー対象のワークショップなど多彩な活動を展開。2001 年より「au デザインプロジェクト」に
参加し「INFOBAR」
「WIN」のデザインを手がける。2003 年タカラとの共同開発で家電ブランド「± 0」
(プラスマイナスゼロ)発表。
無印良品より発売の壁掛式 CD プレーヤーで 2002 年独 IF 賞金賞受賞。
「環境と行為によりそうデザイン」
で 2002 年度毎日デザイン賞受賞。
「クリエーターのマーケティングとコミュニケーション」
第1話
シンプルなデザインが圧倒的な支持を受けた携帯電話「INFOBAR」は、メーカーではなく電話会社である
KDDI・au が推進した「au デザインプロジェクト」から生まれた。
二つ折りタイプが完全に主流となっていた日本のケータイシーンに、あえてバータイプで新鮮なショックを
与えたプロダクトデザイナー深澤直人氏は、どのようなデザインポリシーからこれを発想したのだろうか。
﹂
INFOBAR
プロダクトデザイナーを一躍時の人にした
﹁
誰かがモノを製品化したという情報は業界内で
は普通に流れてきたわけですが︑
﹁ INFOBAR
﹂の
場合には携帯電話ということもあって︑一般にも
広く情報がゆきわたるような力があったんでしょ
う︒知らない人から声をかけられるようなことが
あって驚きますが︑自分としてはいまの状況には
実感がわきませんね︒
かつて仕事をしていたアメリカでは︑つくった
モノに対してクレジットを与えるということは当
然のことで︑デザイナーとしてはとても重要なこ
とです︒製品の出来映えによっては︑作者が誰な
のかをを問われるのはさほど珍しいことではない
ですが︑今回はその反響の輪はかなり広いと思い
ました︒自分では特別なこととは意識していませ
んでしたが︒
日本ではすべてを企業のなかに取り込んで︑開
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発から生産までやっていますから︑デザインもイ
ンハウスのデザイナーが匿名的にやるシステムで
す︒誰がやったということよりも︑みんなでやっ
たという考え方ですね︒
今回の仕事は︑KDDI・auのデザイナーで
ある小牟田さんと企画の砂原さんから︑2001
年に最初の依頼がありました︒しかしメーカーで
はなく︑電話会社が独自に携帯をデザインするの
は︑日本ではまだ非常に珍しいことでした︒です
から会社も︑
当初は﹁auデザインプロジェクト﹂
ということで︑製品づくりとして予算を組むとい
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うよりは︑モーターショーでいえば未来のコンセ
プトカーをつくるようなイメージでした︒自分と
してはそれを逆に利用する形で︑あまりコンセプ
チュアルに見えない︑量産でも充分いけるものを
提案しようと考えたわけです︒だから当初は︑そ
れほど大きな企画話として来たわけではなかった
でも携帯電話は市場規模がものすごく大きく
のです︒
なっていますから︑もし成功すれば数字的にもか
なりなものになるだろうとは思っていました︒と
はいっても︑電話会社としては初めてといっても
いい取り組みでしたから︑最初は﹁やってみよう
かな﹂というくらいのニュアンスでしたね︒
し か し こ れ が メ ー カ ー か ら の 依 頼 だ っ た ら︑
﹁ INFOBAR
﹂は受け入れられなかったと思います︒
また電話会社でもいきなり経営層にこれを提案し
たのなら︑やはり実現は難しかっただろうと思い
ます︒当時は市場が︑二つ折りタイプ一辺倒になっ
ていましたから︒
ユーザーの本音に訴えたかった
日本ではひとつ主流が形成されてしまうと︑そ
れを変えようとする力が働きにくいところがあ
ります︒僕がこれを考えた頃も二つ折りタイプが
圧倒的だったのですが︑周囲からは﹁ケータイで
いいデザインのものがない﹂という不満の声は多
かったのです︒だからケータイは二つ折りだけと
いう流れに︑自分は疑問をもっていました︒
同時に携帯電話は完全に日本人の必需品になっ
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第1話
深澤直人
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「INFOBAR」
上段:
「NISHIKIGOI」
下段(左より)
:
「BUILDING」
「ICHIMATSU」
「ANNIN」
て い ま し た か ら︑ そ う い う 時 に こ そ ユ ー ザ ー の
本音に訴えるようなものにチャンスがあるのでは
ないかと思っていたのです︒つまり既成の現象を
疑ってみると︑常識化している背景の裏側にこそ︑
人々の本音が隠されているのではないかというこ
とですね︒
僕は二つ折りタイプが好きな人とバータイプ
が 好 き な 人 は︑ 別 な 人 だ と は 考 え ま せ ん で し た︒
そ れ は︑ 同 じ 一 人 の 人 間 の な か に 共 存 し て い る
はずです︒だから二つ折りをあえて選択して使っ
ている人でも︑たとえば﹁ INFOBAR
﹂を見て﹁こ
れ も ア リ だ よ ね ﹂ と い う こ と は あ る で し ょ う︒
そ れ は 誰 で も︑ 自 分 自 身 の こ と を 考 え れ ば 分 か
ります︒
ところがマーケティングで陥りやすい間違いは︑
この人は二つ折りが好きな人︑この人はバータイ
別にと分けられ︑マーケットをフラットに分化し
プが好きな人︑さらにそれが男女にあるいは年齢
てしまうことです︒現在は︑そういうマーケティ
ン グ に よ っ て 生 み 出 さ れ た タ イ プ 分 け に よ っ て︑
様々なデザインが創り出されていますが︑その結
果一番の基本である﹁皆これが好き﹂という共有
の喜びみたいなものから離れてしまっているので
はないでしょうか︒
僕 は 他 の 製 品 も そ う で す が︑ 男 女 別 と か 年 齢
別 と か は あ ま り 考 え ま せ ん︒ 人 が 誰 で も 魅 力 的
に 思 う 感 覚 に 基 本 を お い て︑ デ ザ イ ン を 考 え て
い ま す︒ そ の 意 味 で は﹁ INFOBAR
﹂ も 同 じ で す︒
そ れ が︑ 多 く の 人 か ら 共 感 を 得 た の で は な い で
しょうか︒
今回は会社から非常に信頼してもらい︑﹁全部
任せます︒好きなようにやって下さい﹂というこ
とでしたから︑最初からアイディアは一つしか出
しませんでした︒レゴや透明な石鹸で最初の形を
つくってプレゼンテーションしたのですが︑どの
段階でも大変好意的に評価されました︒
でも僕は他の仕事でも︑メインのアイディアを
一つ用意して︑当て馬のように他にいくつか出す
ということはしません︒万が一その当て馬の方を
選ばれてしまうと︑こちらが提示したいと考えて
いたコンセプトの意味がなくなってしまうからで
す︒デザイナーは︑決してそういうことはしては
いけないと思います︒
プロダクトデザインの鍵を握る
エンジニアとの関係
携帯電話のように様々なテクノロジーが複雑
に 組 み 合 わ さ れ た 製 品 の 場 合︑ 単 純 な デ ザ イ ン
にしようとすればするほどテクノロジーはつい
て く る の が 難 し く な り ま す︒ ち ょ っ と し た 破
綻 か ら︑ 全 体 が 壊 れ て し ま う か ら で す︒ だ か ら
﹁ INFOBAR
﹂ の 場 合︑ エ ン ジ ニ ア は と て も 大 変 で
し た︒ し か も シ ン プ ル に で き あ が っ て し ま う と︑
逆にエンジニアの苦労というのは見えなくなっ
て し ま う も の な の で す︒ 今 回 も か な り 試 行 錯 誤
が あ っ た の で す が︑ 優 秀 な エ ン ジ ニ ア と 組 む こ
と が で き︑ シ ン プ ル で か つ ハ イ テ ク ノ ロ ジ ー な
製品ができました︒
プ ロ ダ ク ト デ ザ イ ン は︑ エ ン ジ ニ ア と う ま く
やっていくことはきわめて重要ですし︑仕事のな
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「INFOBAR」の最初のプレゼンテーションでは、
レゴでイメージをつくり提示した
名前は︑我々の制作過程で必要だったので﹁錦
プロモーションも非常に良いものになったのでは
ませんし︑反対にこちらの要求をごり押しすれば
鯉﹂とか﹁市松﹂などと自然に愛称で呼んでいた
かでもとても楽しい部分です︒うまくやっていく
いいというものでもありません︒厳しい関係であ
のです︒それを聞いたクリエーターが︑最終的に
ないでしょうか︒
りながら︑ともに高いゴールを目指す︑というの
﹁そのままいきましょう﹂といいだして製品の名
といっても仲良くなればいいというものではあり
がいい関係ではないでしょうか︒実際には相性の
前になりました︒ですから結果的には︑デザイン
我々の仕事は企業やエンジニアとの出会いもあ
も名前もつくったことになります︒
ただ︑我々は最初に確認したコンセプト︑ある
り︑こうやればかならずうまくいく︑というもの
ようなものもあり︑ケースバイケースで対応しな
いは到達点は守らなくてはなりません︒しかしそ
はありません︒でも︑だからコミュニケーション
ければなりませんが︒
れを狭く解釈して︑
﹁違う︑違う﹂とばかり言っ
が重要なのです︒今回の﹁auデザインプロジェ
クト﹂は︑それが非常にうまくいったケースだと
ていてもうまくいきません︒
エンジニアもこちらの要求に対して様々に工
思います︒
取材協力:KDDI 株式会社
夫 し て き ま す か ら︑ こ ち ら が 到 達 し た い と 考 え
取材:浅野正樹 福田大 福井信彦
文:福井信彦 編集:浅野正樹 デザイン:福田大
ていたレベルの範囲内で︑柔軟に考えていくこと
TEL.03-5840-4411
http://www.toppan.co.jp/gala
も大事です︒常に最初のコンセプトに戻って︑エ
企画・編集・制作
凸版印刷株式会社 GALA
検討します︒
﹁少し違うかもしれないが︑ソリュー
発行責任者
樋澤 明
ンジニアの工夫がその範囲内であるかどうかを
http://www.toppan.co.jp
ションとしてはいい﹂ということもあるわけです
発行
凸版印刷株式会社
東京都千代田区神田和泉町1番地
〒101-0024
から︒
2004年4月5日発行
結局技術的にそれが実現できないという場合に
は︑もう一度最初に立ち戻ってコンセプトから考
え直すことも必要になるでしょうね︒もう少しだ
けどしょうがないというものは︑結局その妥協の
部分が露出して目立ってしまうものです︒
こ れ ま で も 僕 は︑ プ ロ モ ー シ ョ ン な ど に は 直
接 関 係 し て き ま せ ん で し た が︑ 今 回 は 会 社 の 方
か ら︑ ク リ エ ー タ ー の 佐 藤 可 士 和 氏 を 推 薦 さ れ
ました︒
プロダクトデザイナーに︑そういう相談をする
ということ自体非常に稀なケースです︒結果的に︑
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「INFOBAR」に続くau design project 第2弾
CDMA 1X WIN「W11K」