ネット上の特定電気通信役務提供者に係る 法的措置等についての実態

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ネット上の特定電気通信役務提供者に係る
法的措置等についての実態調査報告書
プロバイダ責任制限法に係る法的措置等の実態
平成15年2月
財団法人
マルチメディア振興センター
(ネット上の特定電気通信役務提供者に係る法的措置等の実態調査報告書)
はじめに
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関
する法律(いわゆるプロバイダ責任制限法)が、平成14年5月27日に施
行されて以来、8か月が経過し、この法律が目標としている権利侵害情報へ
の迅速な対応等について、その結果が問われる時期にある。
この実態調査は、インターネット上の情報の流通に関し、電気通信事業者
に寄せられた相談・苦情及びこれに対する電気通信事業者の対応の実態を明
らかにするとともに、プロバイダ責任制限法が対象とする事案について、よ
り適切な対応が行われるようにすることを目的として事業者相談センターの
運営主体であるプロバイダ責任制限法対応事業者協議会の事務局である社団
法人テレコムサービス協会がマルチメディア振興センターからの委託を受け
て行ったものである。
この調査を通じて、プロバイダ責任制限法が対象とする事案に係る対応等
の実態を初めて明らかにすることができたが、この報告書では、これらの情
報について、個別情報や企業の内部情報等、広く開示することが不適当と考
えられるものを除き、出来る限り正確に、かつ、その全貌を盛り込むことに
努めた。
また、プロバイダ責任制限法が対象とする事案に係る対応に当たっては、
判例が大きな関わりを有し、電気通信事業者等は、絶えずこの動向を把握し、
その対応を見直していくことが必要であり、また、判例の動向をこれら対応
の指針となるガイドラインに反映していくことが不可欠であると考える。
このような視点から判例及びプロバイダ責任制限法に係る苦情・相談事例
などをこの報告書に盛り込むこととしたが、判例等については、プロバイダ
責任制限法が施行されてから日が浅いこともあり、プロバイダ責任制限法施
行後の権利侵害に関する事案を収集することは困難なため、今後の動向を注
視することとし、関連する判例、裁判係争事例を盛り込んだ。
この報告書は、プロバイダ責任制限法に係る具体的対応の事例集として、
また、先に第一法規出版株式会社から発行された「プロバイダ責任制限法〜
逐条解説とガイドライン〜」と一体で、マニュアル的に活用できるよう、そ
の内容と構成に配慮しつつ取りまとめたものであり、電気通信事業者におか
れては、これらの趣旨を踏まえ、本報告書をご活用頂ければ幸いである。
最後に、この報告書作成に当たってご協力頂いた有識者の方々、実態調査
やヒヤリング調査にご協力頂いた電気通信事業者等多くの関係者に深く謝意
を表するものである。
[目
次]
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
1.1 プロバイダ責任制限法のアウトライン
1.2 プロバイダ責任制限法に係る
ガイドライン等の作成経緯と検討体制
1.3 ガイドライン等の役割
1.4 ガイドライン等の検討
1.5 信頼性確認団体とその役割
2.相談体制とその役割
2.1 事業者相談センターとその役割
2.2 専門弁護士による相談体制
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.1 事業者相談センターにおける対応状況等
3.1.1 相談内容の概要とその特徴
3.1.2 具体的相談内容とそれに対する対応状況
3.2 事業者における対応状況
3.2.1 調査の視点と調査方法
3.2.2 権利侵害の申出等及びその対応の概要とその特徴
3.2.3 権利侵害の申出等及びその対応の具体的内容
4.苦情についての事例
4.1 名誉毀損・プライバシー侵害
4.2 著作権侵害
4.3 取引を巡るトラブル
4.4 不審なアクセス(なりすましの疑い等)
4.5 SPAMメール/広告宣伝メール
4.6 ウィルス
4.7 課金を巡るトラブル
4.8 運営妨害(掲示板あらし)
4.9 サービス利用上の問題(障害に関する苦情等)
4.10 会員情報の照会
4.11 その他
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係
5.1.1 PC-VAN チャットログ無断掲載事件
5.1.2 ニフティFSHISO事件(一審)
1
1
2
5
5
17
22
22
23
24
24
24
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73
73
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105
105
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131
136
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141
144
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150
150
150
161
5.1.3 都立大学事件
5.1.4 ニフティFBOOK事件(一審)
5.1.5 ニフティFSHISO事件(控訴審)
5.1.6 2ちゃんねる動物病院事件
5.1.7 ニフティFBOOK事件(控訴審)
5.1.8 2ちゃんねる運送会社事件
5.1.9 2ちゃんねる動物病院事件控訴審判決
5.2 著作権侵害関係
5.2.1 ナップスター事件
5.2.2 ファイルローグ著作権侵害差止請求仮処分命令申立事件
5.2.3 ファイルローグ著作権侵害差止等請求事件中間判決
6.調査結果のまとめ
6.1 権利侵害の実体とその対応についてのまとめ
6.1.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係
6.1.2 著作権侵害関係
6.1.3 プロバイダ責任制限法以外
6.2 判例係争案件についてのまとめ
6.2.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係
6.2.2 著作権関係
○
別紙
プロバイダ責任制限法に係るアンケート
207
218
236
255
269
285
286
296
296
311
322
329
329
334
375
401
410
410
422
427
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
1.
プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制等とその役割
1.1
プロバイダ責任制限法のアウトライン
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報開示に関
する法律」(いわゆる「プロバイダ責任制限法」。以下「本法律」又は「法」
ということがある)は、平成13年10月30日に国会に提出され、国会の
審議を経て、同年11月22日に成立した。その後、同月30日に公布され、
平成14年5月27日に施行された。
(1)この法律は、わずか4か条というコンパクトな法律の中に、
①他人の権利を侵害した情報の流通を防止するためプロバイダ等が当該
権利侵害情報を積極的に削除した場合、又は権利侵害情報の流通を防止
しなかったときに、プロバイダ等が責任を負わない場合を明確にしてい
ること
②権利侵害情報により被害を被ったとする者が、プロバイダ等に対し、当
該情報の発信者の情報の開示を求める権利を実体法上の権利として創設
したこと
が、大きな特徴である。
(2)一方、本法律では、法の適用の対象を「特定電気通信」とし、特定電気
通信の用に供される設備(特定電気通信設備)を他人の通信の用に供する
者を「特定電気通信役務提供者」と位置付けている(法第1条)。
具体的に、「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されること
を目的とする電気通信の送信」(法第2条1項)と定義され、ウェプページ、
電子掲示板、インターネット放送などが該当すると考えられる。なお、電
子メールのように特定の者相互間で行われる情報の流通は対象とされてい
ない。
また、「特定電気通信役務提供者」とは、「特定電気通信設備を用いて他
人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の用に供する者」
(同条
第3項)と定義され、上記の特定電気通信のサービスを行っている電気通
信事業者(プロバイダ)のほか、ウェブホスティング等を行ったり、第三
者が自由に書き込みのできる電子掲示板を運用している者であれば、電気
通信事業者に限らず、例えば企業、大学、地方公共団体や電子掲示板を管
理する個人等も該当し得ると考えられる。
なお、本法律は、
「情報の流通によって権利の侵害があった場合・・につ
1
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
き定める」(法第1条)、すなわち、権利の侵害が情報の流通自体によって
生じた場合を対象としているから、インターネット上の情報を閲覧し、特
定の者と契約関係に入ったが、その者により詐欺の被害を受けた場合など
は、本法律の対象とはならない。
(3)本法律により、プロバイダ等が取るべき個々の事案への対応は、権利侵
害の内容、権利侵害情報の削除の範囲、発信者情報開示請求権者と被害者
との関係等個別事案に応じて、各プロバイダ等において慎重に検討される
必要がある。
一方、本法律は、ウェブページ等における権利を侵害する情報について、
プロバイダの自主的な判断を促進することを目的としており、プロバイダ
等においては、本法律の目的を認識し、権利を侵害する情報に対し、迅速
かつ適切に対応することが求められる。したがって、プロバイダ等が権利
を侵害する情報について削除等の措置を講ずるよう申出を受けた場合、又
は権利を侵害する情報の存在を自ら知った場合に、必要な措置又は対応を
取らず、漫然と放置したときは、権利を侵害された者から不作為責任を問
われる可能性がある点を十分認識する必要がある。一方、安易に情報の削
除等の措置を講じた場合、情報の発信者から作為責任を問われる可能性が
あることにも、注意が必要である。
(4)プロバイダ等が、このような作為責任・不作為責任を負うこととならな
いよう、迅速かつ適正な対応を行うことを目的に作成されたのが、後述す
る2つのガイドラインである。また、著作権侵害への対応については、著
作権関係ガイドラインに基づき「信頼性確認団体」制度が設けられるなど、
迅速な対応を行うための体制が整備されている。
(5)このプロバイダ責任制限法の解説及び後述するガイドライン等を掲載し
た「プロバイダ責任制限法〜〜逐条解説とガイドライン〜〜」が第一法規
出版(株)
(電話03−3404−2251)において発行されているの
で活用願いたい。
1.2
プロバイダ責任制限法に係るガイドライン等の作成経緯と検討体制
プロバイダ責任制限法が制定されたことを受けて、ウエブページ等におけ
る情報の流通による権利の侵害に対し、プロバイダ等が迅速かつ適切に対応
することができるようにするため、平成14年2月、プロバイダ等関係の団
2
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
体、著作権関係団体、有識者その他の関係者を構成員とした「プロバイダ責
任制限法ガイドライン等検討協議会」が設置された。
同協議会においては、「名誉毀損・プライバシー関係ワーキンググループ」
及び「著作権関係ワーキンググループ」を設け、平成14年4月にそれぞれ
ガイドライン(案)を取りまとめ、パブリックコメントを経た後、本法律施
行直前の同年5月24日に「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」及
び「著作権関係ガイドライン」として公表した。
さらに「著作権関係ガイドライン」における「信頼性確認団体」の審査・
認定の仕組みについて検討するために「信頼性確認団体ワーキンググループ」
を設け、認定手続き等の検討が行われ、同年6月6日に案を公表し、パブリ
ックコメントを経た後、「信頼性確認団体の認定手続等」として取りまとめ、
7月29日に公表した。
この「信頼性確認団体の認定手続き等」の公表と同時に、信頼性確認団体
の認定審査を行うための「信頼性確認団体認定委員会」が設置され、同日付
けで5名の認定委員がプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の会
長から指名された。信頼性確認団体の認定は、これまで2回(同年9月30
日及び平成15年 1 月31日)行われ、今後も、年 3 回程度認定が行われる
予定である。
以上のように、この認定委員会の設置をもって、プロバイダ責任制限法の
制定を受けて策定されたガイドラインの円滑な運用体制(「プロバイダ責任制限
法ガイドライン検討協議会」と、その下に設けられた3つのワーキンググルー
プ及び1つの委員会)が確立されたことになる。これらの対応体制をまとめる
と図のとおりである。
3
ガイドライン等の検討・対応体制
プロバイダ責任制限法
ガイドライン等検討協議会
名誉毀損・プライバシー
関係WG
電気通信関連3団体
学識経験者・弁護士
総務省
著作権関係WG
信頼性確認団体WG
電気通信関連4団体・社
著作権関連8団体
その他5団体
学識経験者・弁護士
総務省・文化庁
著作権WG主査
著作権WG主査代理
学識経験者・弁護士
ガイドラインの
検証・見直し
事例の集積・対応の検討
信頼性確認団体の
ガイドラインの
要件及び認定手続き
検証・見直し
事例の集積・対応の検討 の検討
信頼性確認団体
認定委員会
委員5名
学識経験者・弁護士
著作権WG主査他
信頼性確認団体
の認定
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
1.3
ガイドライン等の役割
プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会により策定されたガイド
ライン等を列挙すると以下のとおりである。これらのガイドラインは、特定
電気通信に係る様々な権利侵害を想定し、プロバイダ等による適切かつ迅速
な対応を促進し、もってインターネットの円滑かつ健全な利用を促進するこ
とを目的としている。
・プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン
・プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン
・信頼性確認団体の認定手続等
情報の流通によって、本当に権利侵害があったか否か、また、情報を誤っ
て削除し、又は放置したことによって、プロバイダ等が責任を負うか否かに
ついては、最終的には、裁判所によって決定されるものであるが、このガイ
ドラインが信頼性の高いものであり、プロバイダ等をはじめ関係者がこのガ
イドラインに従って、適切に対応している場合には、仮に情報を誤って削除
し、又は放置したことによって、プロバイダ等が責任を負いうる場合があっ
ても、プロバイダ責任制限法第3条の「相当の理由」があると判断され、プ
ロバイダ等が責任を負わないとされるものと期待される。
すなわち、上記のガイドライン等は、特定電気通信による他人の権利を侵
害する情報の流通に対し、プロバイダ等の関係者が対応しようとする場合の
参考となるとともに、具体的な行動基準としての役割を担っていくことを期
待して作成されたものである。
1.4
ガイドライン等の概要
それでは、このガイドライン等についての概要を以下に紹介することとし
たい。
なお、このガイドライン等の全文については、前述の解説書及び(社)テ
レコムサービス協会ホームページ(http://www.telesa.or.jp)に掲載されて
いるので活用されたい。
(1)プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン
プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインは、特
5
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
定電気通信による情報の流通により、名誉を毀損され、あるいはプライバ
シーを侵害されたとして、プロバイダ等が被害者等から送信防止措置等の
申立てを受けた場合、当該プロバイダ等が取るべき行動基準を明らかにす
るために作成されたものである。
名誉毀損やプライバシー侵害への対応は、その程度や侵害の態様、権利
を侵害されたと主張する者(以下「申立者」という。
)が個人であるか公人
であるか等によっても異なるため、プロバイダ等は、個々の申立者が主張
する権利侵害の内容を精査して対応をする必要があることから、本ガイド
ラインでは、様々な名誉毀損・プライバシー侵害の態様ごとに、プロバイ
ダ等がどのように対応することが望ましいかを多面的に検討した上で作成
されている。
具体的には、送信防止措置を講ずるにあたっての判断基準と、実際の事
案における対応手順を2本の柱として、権利侵害の態様に応じた対応を明
らかにしつつ、プロバイダ等の判断の一助となるよう、行動指針を示して
いる。
以下に、このガイドラインのポイントを記述するが、以下の内容は、こ
のガイドラインの基本的な考え方を理解して頂くために整理したものであ
り、実務上の対応にあたっては、ガイドライン本文の内容を精読され、対
応願いたい。
なお、本ガイドラインは、
「社会環境の変容に伴って起こる名誉やプライ
バシーに関する意識の変化、情報技術の発展及び実務の運用状況に応じて、
策定後においても不断の見直しをすべきである。」とされている(「2 判
断基準の位置付け」)。
ア.
ガイドラインの目的及び範囲
このガイドラインの取りまとめに当たっては、違法情報に対するプロバ
イダ等の対応が適切であるかの基準を「プロバイダ等が送信防止措置を講
じた場合、あるいは講じなかった場合にプロバイダ責任制限法第3条によ
り、損害賠償責任が制限される場合」に該当するか否か、に視点を置き、
①送信防止措置を講じなかったとしても、申立者に対する損害賠償責任
を負わないケースには、どのようなものがあるか(法第3条第1項)。
6
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
②申立者からの要請に応じて送信防止装置を講じた場合に発信者に対す
る損害賠償責任を負わないケースにはどのようなものがあるか
(法第3条第1項)。
の観点で、整理が行われた、とされている。
しかしながら、プロバイダ責任制限法第3条の規定が適用され、プロ
バイダの責任が制限されるかどうかは、最終的には裁判所の判断によっ
て決定されるものであり、また、その判断は、情報の内容、情報が掲載
された場所の特性、情報に対する発信者、申立者又はプロバイダ等の対
応の仕方によっても異なると考えられる。
さらに、この名誉毀損・プライバシー侵害の判断基準は、社会環境の
変化によっても変わることを認識する必要がある。
以上のことから、プロバイダ等が、このガイドラインに従って対応し
なければ、常に損害賠償責任が生じるとは限らないし、逆に、このガイ
ドラインに従って対応したとしても、プロバイダ等の損害賠償責任が当
然に免責されるというものではないから、プロバイダ等は、本ガイドラ
インを参考とし、あくまで自らのリスクで判断しなければならないこと
に注意が必要である。
名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインの対象として、特定電気通
信以外の通信、例えば電子メールにおける名誉毀損・プライバシー侵害
等、及び刑事上の違法情報、有害な情報などについては、当然のことと
して含まれていない。
イ.送信防止措置の判断基準
本章では、送信防止措置の判断基準を、個人に対するプライバシー侵
害など「個人の権利を侵害する情報」と、法人に対する名誉・信用の毀
損など「企業その他法人の権利を侵害する情報」に分けて示している。
(ア)個人の権利を侵害する情報の送信防止措置
①プライバシー侵害の観点からの対応
ガイドラインでは、プライバシー侵害の観点で、個人を「一般私人」
と「公人等」とに分けて判断基準を示している。
そのポイントは、以下のとおりである
・氏名、連絡先等が掲載されたウェブページ等の取り扱いでは
「一般私人」については、氏名及び勤務先・自宅の住所・電話番
7
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
号が掲載されたウェブページ等の削除要求があった場合は、プロ
バイダ等において削除可能な場合は、原則として削除できる、と
している。
この理由として、当該情報を利用して私生活の平穏を害する嫌
がらせが行われる恐れが高いためとしている。
「公人等(国会議員、都道府県の長、議員その他要職につく公務
員)」については、氏名、勤務先等の連絡場所の住所・電話番号な
ど広く知られているものについては、削除の必要性が無い場合が
ある。しかし、公人であっても職務と関係のない自宅の住所及び
電話番号など広く知られる必要のない情報につては、原則として
一般私人の情報と同様に取り扱うことが望ましいとしている。
・更に、「氏名以外の個人情報」「写真、肖像等が掲載されたウェブ
ページ等」について、それぞれ「一般私人」「公人」「著名人」な
どの場合を例にし、かつ、関連の判例などを解説しながら分かり
易く判断基準を示している。
②名誉毀損の観点からの対応
個人の権利侵害のうち、名誉の毀損については、具体的な例を示し
ながら判断基準を示しており、そのポイントは以下のとおりである。
●特定個人の特定個人の社会的評価を低下させる誹謗中傷の情報が
ウェップページ等にアップロードされた場合には、当該情報を削除
できる場合があるが、以下の3つの要件を満たす可能性がある場合
には削除を行わない、としている。その3つの要件は、
・当該情報が公共の利害に関する事実であること
・当該情報の掲載が、個人攻撃の目的などではなく公益を図る目的
に出たものであること
・当該情報が真実であるか、又は発信者が真実と信じるに足りる相
当の理由があること
であり、この3要件について、具体例を示し説明している。
また、「名誉毀損の成否」について、「名誉とは、人の品性、徳行、
名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な社
会的評価のことであり、この社会的評価を低下させる行為は名
誉毀損として、民法709条に基づき不法行為が成立」する、
とした最高裁判例を示して説明している。
さらに「違法性阻却事由」の項を設け、誹謗中傷の情報がアッ
プロードされた場合であっても、名誉毀損が成立しないと考え
8
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
られる場合について、整理・解説を行っている。
なお、判例の動向についても本項の内容と関連付けを行いつつ
多面的に整理、引用されている。
(イ)企業その他法人の権利を侵害する情報の送信防止措置
企業等の法人に対して、名誉又は信用を毀損する表現行為が行われ
た場合について、以下のような特徴を示し、プロバイダ等において権
利侵害の「不当性」について信じるに足りる理由が整わない場合が多
い、と説明している。
・企業その他の団体はほとんどの場合、公的存在と見られること
・表現行為が公共の利害に関する事実に係り、専らかどうかは別と
しても(他の動機が含まれる場合がある。)、それなりに公益を図
る目的でなされたと評価できること
・表現が企業その他団体の社会的評価を低下させても、そこで摘示
された事実の真偽については、プロバイダ等において判断ができ
ない場合が多いこと
このため、一般的にはプロバイダ責任制限法3条2項2号の照会手
続等を経て対応するのが妥当であり、例外的に、企業の営業秘密が
ウェブページ等に掲載され、当該企業やその顧客に、経済的に多大
な損失を被らせる現実の切迫した危険がある場合などに削除が認め
られる場合もあり、プロバイダ責任制限法第3条に定める免責事由
に該当しないとしても、正当防衛や緊急避難などに該当する可能性
のある場合もある、としている。
以上の判断基準に係る判例等の動向についても解説として本ガイドラ
インで解説されている。
ウ.送信防止措置を講じるための対応手順
「送信防止措置の判断基準」と並んで、このガイドラインのもう1つ
の柱がこの「送信防止措置を講じるための対応手順」である。そのポイ
ントは以下のとおりである。
(ア)申立ての受付
この冒頭において、各プロバイダ等に対し、送信防止措置の申立て
に対し円滑に対応するための体制整備の必要性を指摘している。
さらに、プロバイダ責任制限法第3条2項2号による発信者への照
会手続を開始するためには、以下の条件を全て満たす形式で侵害情報
9
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
の送信防止措置の申出を受け付ける必要がある、としている。
①送信防止措置を要請する者が特定電気通信による情報の流通によ
って自己の権利を侵害されたとする者であること
②特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害された
とする情報であること
③侵害されたとする権利が特定されていること
④権利が侵害されたとする理由が述べられていること
⑤送信防止措置を希望することの意思表示があること
ただし、ガイドラインは、申立者との関係では、上記の5つの項目
が全て充足されなくとも損害賠償責任を免れない場合があることを指
摘し、その具体例を説明しているので精読願いたい。
(イ)プロバイダ等による自主防止措置の要否
プロバイダ等が、自主的な送信防止措置を行う必要があるかどうか
判断する場面の指針について、ガイドラインでは、以下のように述べ
られている。
「プロバイダ等の管理下にあるサーバに格納されたウェブページ上
に、送信防止措置の要請や違法情報が掲載されている旨の苦情を申
立者又は第三者から受けた場合、当該情報が個人の権利を侵害して
いるか否かをプロバイダ等なりに判断することとなる。
当該情報が他人の権利を侵害していることが、前述の判断基準に
従い明らかである場合、申立者との関係では「他人の権利が侵害さ
れていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があ
るとき」(法第3条1項2号)に該当することとなるため、自主的に
送信防止措置を講じてもリスクはないと考えられる。
」
また、プロバイダ等が送信防止措置を講じたことによる発信者からの
損害賠償請求に対する考え方や、前述の判断基準に照らしても送信防
止措置を講じても差し支えないかどうかの判断がつかない場合等につ
いての対応を解説している。
(ウ)照会手続の手順
プロバイダ等において送信防止措置を講じても差し支えがない場合
であるか否かの判断がつかない場合は、法第3条2項2号に定める手
続きを利用することができる、として、以下に掲げる照会手続きの具
体的手順について説明している。
①申立者の確認
②侵害情報等の特定
10
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
③照会が可能な場合とできない場合
④照会手続
⑤照会に対して発信者から送信防止措置を講じることに同意しない旨
の回答があったとき、又は同意しない旨の回答がなかったとき
その他、「送信防止措置以外の対応」についても項を設け、解説を行って
いるので、関係者は精読をお願いしたい。
このガイドライン最後の章(Ⅳ)には、
「送信防止措置依頼書」等の様式
及び判例等が掲載されている。
(2)著作権関係ガイドライン
著作権関係ガイドラインは、プロバイダ責任制限法の趣旨を踏まえ、著
作権等を侵害する情報への迅速かつ適切な対応についての行動基準を示し、
また、著作権侵害への対応を、より円滑に進めるための「信頼性確認団体」
制度が盛り込まれている。
ガイドラインのポイントは以下のとおりであるが、以下は、あくまでも
その概要であり、実務上の対応に当っては、ガイドライン本体を精読の上、
対応願いたい。
なお、本ガイドラインは、情報通信技術の進展や実務の状況等に応じて、
適宜見直しを行っていくこととされている。
(ガイドライン Ⅰの3 )。
ア.ガイドラインの目的
ガイドランの目的については、ガイドライン冒頭において、以下のよ
うに述べられている。
「本ガイドラインは、特定電気通信による著作権及び著作隣接権を侵
害する情報の流通に関して、プロバイダ等が責任を負わない場合を定め
るプロバイダ責任制限法3条の趣旨を踏まえ、情報発信者、著作権者等、
プロバイダ等それぞれが置かれた立場を考慮しつつ、著作権者等及びプ
ロバイダ等の行動基準を明確化するものである。」
イ.ガイドラインの適用範囲
この章では、本ガイドラインが対象とする著作権侵害に基づく送信防
11
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
止措置申出の範囲について、
・申出の主体
・対象とする著作権等侵害の範囲
・対象とする著作権物等の範囲
・対象とする権利侵害の態様
の4つの角度から限定を行っている。そのポイントは以下のとおりで
ある。
(ア)申出の主体
申出の主体は、権利者、具体的には著作権を侵害されたとする者本
人、その弁護士等の代理人及び著作権管理事業者とすることとしてい
る(なお、著作権管理事業者については、著作権者等との間の契約等
において認められた範囲内に限定)。
(イ)対象とする著作権等侵害の範囲及び著作物の範囲
対象とする著作権等侵害の範囲は、「特定電気通信による情報の流
通による著作権等が侵害される場合」であり、また、対象とする著作
物の範囲は、「著作権等が侵害されている著作物、実演、レコード、放
送、および有線放送及び侵害されている可能性がある著作物等」とさ
れている。
(ウ)対象としている権利侵害の態様
誤った送信防止措置を避けるとともに、ガイドラインの信頼性担保
のため、権利侵害が容易に判断できるものを対象とすることが好まし
い、として著作権侵害の態様を、
・著作権等侵害であって容易に判断できる態様
・一定の技術を利用することにより、個別に視聴等して著作物等と
比較すること等の手順をかけることにより著作権等侵害であるこ
とが判断できる態様
の2つに分け、これらについてガイドラインの対象とすることとされ
ている。なお、上記態様については、具体例を示して説明されている
ので、詳細はガイドラインで確認願いたい。
ウ.申出の手順等
この章では、実際に、著作権者等がプロバイダ等に対し送信防止措置
の申出を行う際の手続等について、添付の様式を引用するとともに、
・著作権者等における申出の際の手続(書面の様式等)
・プロバイダ等における申出を受けた際の手続(確認事項等)
12
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
の各段階の手続について説明している。その概要は以下のとおりであ
る。
(ア)著作権者等における申出の際の手続(書面の様式等)
このガイドラインによる申出手続は、申出書及びその他の必要な書
類をプロバイダ等に提出することにより行う。なお、申出書の書式は、
申出の主体に応じて、
・著作権者本人からの申出用(様式A)
・著作権等管理事業者からの申出用(様式B)
・信頼性確認団体を経由した申出用(様式C)
・信頼性確認団体による確認を受けた旨の証明用(様式D)
の4種類が用意されている。
なお、申出は書面によって行うことを原則としているが、緊急の場
合は、一定の条件の下に、電子メール、ファックス等の電磁的方法に
よる申出が認められるとしている。
(イ)プロバイダ等における申出を受けた際の手続(確認事項等)
ガイドラインに記載されている項目ごとに必要事項が記載され、必
要な書面が添付されていること等を確認した上で、プロバイダ等は、
ガイドラインに沿った対応を行うこととするとしている。
エ.申出における確認事項及びその方法
本ガイドラインに従った申出がなされた場合、プロバイダ等は送信防
止措置を講じることとなるが、本章では、プロバイダ等が確認を行うべ
き以下の事項について、その方法を示している。
・申出主体の本人性等
・著作権者等であることの確認
・侵害情報の特定
・著作権侵害であることの確認
概要は以下のとおりである。
(ア)申出主体の本人性等
プロバイダ等は、ガイドラインに従った申出を受けた場合、送信防
止措置を講じることとなるが、発信者に不利益が生じる可能性及び発
信者からの訴訟提起の可能性が考えられることから、プロバイダ等は、
・申出をした者が誰であるのか
・申出が当該者によりなされたのか
について確認する必要がある。この項では
13
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
①書面による申出の場合
②電子メール等による申出の場合
の双方について、申出者の本人性の確認方法を説明しており、実務上
の対応に当っては、この項の記述に従った対応を採る必要がある。
(イ)著作権者等であることの確認
次に申出をした者が著作権者等であることの確認が必要であるが、
我が国においては著作権等の登録が必須とされていないため、一般人
の判断からして、当該申出者が著作権等を有していると判断できるよ
うな証拠の提示が必要である、として、
①申出者が直接プロバイダ等に申出を行う場合
②著作権等管理事業者が申出を行う場合
の証拠となりうる資料を説明している。特に、①につては、具体的な
書面が例示されているので活用願いたい。
(ウ)侵害情報の特定
申出者から送信防止措置の申出があった場合、プロバイダ等による
適切かつ迅速な対応を促すという観点から、権利を侵害したとする情
報の特定が求められる。
このため、本項では、申出者による特定方法について説明している。
(エ)著作権侵害であることの確認
また、たとえ侵害情報を特定して申出がなされたとしても、権利侵
害があったとしてプロバイダ等が送信防止措置を講じるためには、著
作権等が確かに侵害されてたと判断できる必要がある。
本項では、
①侵害されたとする権利の確認
②侵害されたとする著作物等につての確認
③対象とする権利侵害の態様であることの確認
④著作権等の保護期間内であることの確認
⑤権利許諾していないことの確認
の5点について、具体的な確認方法を明らかにしている。
オ.信頼性確認団体を経由した申出
送信防止措置の申出において、申出者ではなく、他の信頼できる第三
者が一定の信頼できる手続により申出者の本人性等について確認し、そ
の旨の書面等が添付されている場合には、プロバイダ等は、当該書面を
確認することで、適切な確認がなされているとの判断をすることができ
14
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
ると考えられる。
本ガイドラインでは、このような確認を行う団体を「信頼性確認団体」
として、認定することにより、著作権等の権利侵害に対し、迅速かつ適
性に対応するための仕組みを設けている。
本章では、
・信頼性確認団体の基準、範囲等
・信頼性確認団体による確認
・信頼性確認団体の確認手続に過誤等があった場合の対応
について説明をしており、その概要は、以下のとおりである。
(ア)信頼性確認団体の基準、範囲等
申出者と一定の関係にある団体であって、かつ、ガイドライン所定
の基準を満たしていると認められるものについて、「信頼性確認団体」
として位置付けている。
本項では、その信頼性確認団体の要件、役割、認定の仕組み等を定
めており、これを受け後述する「信頼性確認団体の認定手続等」が策
定され、信頼性確認団体の認定が進められている。
本項では、その信頼性確認団体の要件、役割、認定の仕組み等を定
めており、これを受け、後述する「信頼性確認団体の認定手続等」が
策定されたものである。
この信頼性確認団体の要件は
①法人であること(法人格を有しない社団であった、代表者の定め
があるものを含む)
②申出者が持っている権利の内容を適切に確認しうるものであるこ
と
③著作権等に関する専門的な知識、相当期間にわたる充分な実績を
有していること
④ガイドラインに規定する確認等を適切に行うことができるもので
あること
(イ)信頼性確認団体による確認
ガイドラインでは、信頼性確認団体による確認方法について
①申出者の本人性確認
②申出者が著作権者であることの確認
③著作権等の侵害であることの確認
の項目ごとに詳細に規定しているが、具体的内容については、ガイド
ラインを確認願いたい。
(ウ)信頼性確認団体の確認手続に過誤等があった場合
15
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
信頼性確認団体がこのガイドラインの定める確認手続を踏まず、又
は、その手続に信頼性が失わせる過誤があった場合、当該信頼性確認
団体による確認手続の信頼性が失われることとなるため、過誤等のあ
った信頼性確認団体は、確認手順を改善したことが確認できるまでは、
原則として信頼性確認団体のとしての取り扱いは行わないこととして
いる。
カ.プロバイダ等による対応
ガイドラインでは、著作権等の権利侵害に係る送信防止措置の申出があ
った場合、プロバイダ等は必要な措置を講じることとし、
・申請及び確認がガイドラインの要件を満たす場合
・申出及び確認がガイドラインの要件を満たさない場合
に分けて、各措置の方針を規定している。
「申出及び確認がガイドラインの要件を満たす場合」については、速や
かに、必要な限度において、当該侵害情報の送信を防止するために削除等
の措置を講じることとしている。なお、削除等の措置を講じる場合、又は
講じた場合、プロバイダ等は、当該情報の発信者及び申出者に通知するこ
とができるとされている。
「申出及び確認が本ガイドラインの要件を満たさない場合」で申出書、
確認書等に補正が必要な場合については、申出者に対し再提出、補正等を
求めることができるとしている。なお、当該申出が信頼性確認団体を経由
したものである場合は、当該信頼性確認団体に連絡することとなる。
なお、前述のとおり、本ガイドラインの末尾に、様式A〜Dが掲載され
ているので、活用願いたい。
(3)信頼性確認団体の認定手続等
本規定は、プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドラインに基づき、信
頼性確認団体の認定を行うために、作成されたものである。
その内容は
①目的
②審査主体等
③決定手続等
④認定の要件等
16
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
⑤新規審査
⑥確認手続に過誤等があった場合の取扱い
⑦変更の認定等
から構成されるとともに、認定申請に不可欠な「マニュアル等の記載事項」
も付されている。
この認定手続等により、信頼性確認団体認定委員会が設置され、別紙の
とおり、5名の委員が選任されている。認定委員は、本規定の中に定数、
選任方法等が明記されており、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討
協議会の承認を得て同協議会の会長が指名することとされている。
なお、信頼性確認団体の認定申請は、年間を通じて常時受け付けが行わ
れており、また、認定委員会は、年間3回程度開催し認定審査を行ってい
る。
この規程の詳細は、前述の解説書に掲載されているので参照されたい。
1.5
信頼性確認団体とその役割
(1)信頼性確認団体とは
前述のとおり、信頼性確認団体は、プロバイダ責任制限法著作権関係
ガイドラインに基づき、著作権等に係る権利侵害情報に対し、プロバイ
ダ等が送信防止措置を迅速かつ適正に対応するために設けられた仕組み
である。
著作権関係ガイドラインでその役割(前出)が明記されているが、具
体的には、「(著作権関係)ガイドラインによる申出において、申出者か
ら個別に証拠を提示されるのではなく、他の信頼できる第三者が一定の
信頼できる手続により」著作権侵害に関する「確認をしている場合には、
社会的に見ても、申出者の本人性等について確認ができていると判断さ
れると考えられる」ことから、このような確認を行う者としての役割を
期待されたものである。
この信頼性確認団体の役割、要件、プロバイダ等に代わって行われる
著作権侵害であることの確認、確認手続に過誤があった場合の対応等に
ついては、著作権ガイドラインに詳細に規定されている(前述)。
(2)信頼性確認団体の認定等
この信頼性確認団体の認定手続等については、「信頼性確認団体の認
17
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
定手続等」(前述)に規定されており、これに基づき信頼性確認団体認定
委員会(前述)が設けられ、認定を希望する団体からの申請を受け、審
査が行われている。
平成15年2月1日現在、信頼性確認団体認定委員会は2回開催され、
別表の9団体が信頼性確認団体として認定されている。
また、信頼性確認団体の申請受付は、年間を通じ常時おこなわれてお
り、また、信頼性確認団体認定委員会は年3回程度開催が予定されてい
る。
なお、新しく認定された信頼性確認団体及び現在認定されている信頼
性確認団体の一覧は、当該委員会の事務局である(社)テレコムサービ
ス協会のホームページ
URL http://www.telesa.or.jp の「プロバイ
ダ責任制限法ガイドライン検討協議会」のページに掲載されているので、
実務上の対応に当っては、日常的に確認願いたい。
(3)信頼性確認団体からの申出の対応
プロバイダ等は、信頼性確認団体から送信防止措置等の申出がされた
場合、前出の著作権関係ガイドラインに基づいて対応することとなる。
著作権ガイドラインの「Ⅵ プロバイダ等による対応」において、「速
やかに、必要な限度において」措置を講ずることを求めていること、及
び、送信防止措置を講じる前、又は講じた後に申出者(信頼性確認団体
を経由した申出の場合は、当該団体)及び発信者へ通知することができ
る」とされていることを踏まえて、関係各事業者は、この信頼性確認団
体が設けられた趣旨等を十分に理解し、速やかな対応が必要であること
を認識していただきたい。
18
1.プロバイダ責任制限法に係る権利侵害への対応体制とその役割
信頼性確認団体認定委員会委員
(五十音順、敬称略)
枝
美 江
弁 護 士
( 認定委員会委員長代理 )
葛 山
博 志 (社)コンピュータソフトウェア著作権協会
桑 子
博 行 (社)テレコムサービス協会
森 田
宏 樹
東京大学大学院
法学政治学研究科 教授
( 認定委員会委員長 )
山 本
隆 司
弁 護 士
19
プロバイダ責任制限法にかかる信頼性確認団体
認定番号
団
認定年月日
代
001
H14.9.30
002
H14.9.30
003
H14.9.30
004
H14.9.30
005
H14.9.30
006
H14.9.30
007
H14.9.30
体
表
者
名
対象とする申出者
名
対象とする著作物
社団法人日本音楽著作権協会
吉田 茂
社団法人日本映像ソフト協会
角川 歴彦
社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会
辻本 憲三
ビデオ倫理監視委員会
箱崎 泰
協同組合日本映画製作者協会
新藤 次郎
役職及び氏名
社団法人日本音楽著作権協会
送信部部長
音楽の著作物
菅原 瑞夫
正会員
業務部 部長代理兼法務課長
映画の著作物及びその販売促進等に供さ
れる美術の著作物(ジャケット写真、ポスター
等)等
後藤 健郎
会
事業部事業調整課 課長
員
プログラムの著作物(表示画面又は映像を
含む)
BSA Business Software Alliance,Inc. 会
海野 貴史
確認業務担当責任者
員
E−メールアドレス
[email protected].
03−3481−2174
or.jp
03−3542−4433
[email protected]
03−5976−5175
[email protected]
03−5454−5854
[email protected]
日本事務局長
ソフトウェア
海野 貴史
会
事務局長
員
映画の著作物及び美術(ジャケット、ポスター、
写真等)の著作物
坂尻 壽男
組 合 員
事務局
映画の著作物及びその販売促進等に供さ
れる美術の著作物等
清水 香奈
株式会社日本国際映画著作権協会 APC実務担当者
飯山 恭高
葛山 博志
電話番号
[email protected].
03−3231−1747
or.jp
03−3582−2654
[email protected]
03−3265−1401
[email protected]
調査部 広報室 次長
映画の著作物(劇場公開用のフィルム、レンタ
ル、販売または上映用等のDVD、ビデオカ
セット等)及びその映画の著作物に付随する
写真等の著作物(DVD、ビデオカセット等の
ジャケット、宣伝用のポスター、パンフレット等)
20 ページ
太田 和宏
備考
認定番号
団
認定年月日
代
008
H15.1.31
009
H15.1.31
体
表
者
名
対象とする申出者
名
対象とする著作物
確認業務担当責任者
役職及び氏名
社団法人日本映画製作者連盟
会
松岡 功
映画の著作物及びその販売促進等に供せ
られる美術の著作物(ジャケット写真、ポスター
等)
堀籠 伊織
社団法人日本レコード協会
会
業務部 部長
富塚 勇
レコード及び映画の著作物並びにそれらの
販売促進等に供される美術の著作物及び
写真の著作物(ポスター、ジャケット写真等)
電話番号
員
E−メールアドレス
[email protected]
員
21 ページ
丸山 善光
03−3547−1800
03−3541−0471
[email protected]
備考
2.相談体制とその役割
2.
相談体制とその役割
2.1
事業者相談センターとその役割
(1)事業者相談センターの設置
プロバイダ責任制限法の施行を踏まえ(社)テレコムサービス協会、
(社)電気通信事業者協会、(社)日本インターネットプロバイダー協会
の電気通信関係3団体により「プロバイダ責任制限法対応事業者協議会」
が設置され、同協議会が運営主体となって、平成14年5月27日のプ
ロバイダ責任制限法に合わせ「事業者相談センター」が(社)テレコム
サービス協会内に設置された。
(2)事業者相談センターの概要
この事業者相談センターは、同協議会の構成員である前記3団体の会
員を対象に、プロバイダ責任制限法名誉毀損・プライバシー関係ガイド
ライン及び同著作権関係ガイドライン等に基づく対応や、ガイドライン
に関する質問等の質問を受け付けること及びプロバイダ責任制限法に関
連する事例の集積等を目的として設置されたものである。
この事業者相談センターは、常勤のセンター長をはじめ、顧問弁護士、
相談員により構成され、迅速かつ適切なアドバイスに応じられるような
体制が整備されているので、上記3団体の会員企業は、積極的に活用願
いたい。
(3)事業者相談センターによる会員サービス
事業者相談センターへの相談の受付は、基本的には、電子メールによ
り行うこととしており、具体的な相談センターのEメールアドレスは、
以下のとおりである。
[
]
[email protected]
なお、各会員からの相談内容等を集積し、個別情報や企業の内部情報
を除いた上でデータベースとして蓄積し、会員企業等に活用していただ
くこととして、データベースを構築中である。
22
2.相談体制とその役割
2.2
専門弁護士による相談体制
(1)経緯
事業者相談センターは、前述の電気通信関係3団体の会員を対象に、プ
ロバイダ責任制限法に関する法的問題を相談できる仕組みとして、平成1
4年10月1日から、第一東京弁護士会所属の弁護士を紹介する制度の運
用を開始している。
この制度が構築された理由としては、
①ネット上のトラブル対策を含め、この種の事案を担当する弁護士が少
なく、その傾向は、地方において顕著であると言えること
②今後、プロバイダ等の対応如何によっては、裁判上の係争案件に発展
する事案が予想され、日常的に専門の弁護士のアドバイスを仰ぎ対応
していくことが望ましいこと
等が挙げられる。
(2)相談方法及び費用
①事業者相談センターの事務局でもある(社)テレコムサービス協会に対
し、電話で申込を行う。この場合の連絡内容は、以下のとおりである。
・事業者名、所在地、連絡担当者名・電話番号
・事案の概要等
②事業者からの連絡を受け、事業者相談センターでは、弁護士に相談の依
頼を行い、その結果を依頼のあった事業者に連絡する。弁護士の対応が
可能となった場合は、その後の連絡は、相談を希望する事業者から、対
応する弁護士に対し、直接、電話で行うこととなる。
③費用の目安は、一般的な相談の場合は、30分毎に5千円程度である。
詳細については、相談を希望する事業者が弁護士と個別に交渉すること
となる。
23
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.権利侵害情報の実態とその対応状況
3.1 事業者相談センターにおける対応状況等
(社)電気通信事業者協会、(社)テレコムサービス協会及び(社)日本イ
ンターネットプロバイダー協会の3団体により、「プロバイダ責任制限法対応
事業者協議会」が組織され、同協議会は「事業者相談センター」を開設した。
事業者相談センターでは、平成14年5月27日にプロバイダ責任制限法が
施行されると同時に、同協議会の会員から、プロバイダ責任制限法ガイドライ
ン検討協議会が策定したガイドライン等に係る相談の受付を開始した。
ここでは、平成14年5月27日から平成14年12月31日の間に事業者
相談センターにおける同協議会会員からの相談73件について、相談内容の概
要と特徴およびその具体的対応状況について記述する。
なお、事業者相談センターの対応スタンスは、相談社がガイドライン等に円
滑に対応するための助言を行うことであって、トラブルに係る最終的な判断は
相談社自らの責任において行うことになっている。このため、ここでの具体的
対応内容は事業者相談センターからの助言の段階のものであって、最終的には
それを基に事業者が判断して対応していることに注意されたい。
3.1.1 相談内容の概要とその特徴
(1)相談件数の内訳(大分類)
相談件数の内訳から、トラブルの対応についての相談が約70%と多
く、対応能力の高い事業者は実際のトラブルの対応についての相談より、
プロバイダ責任制限法の内容の確認をしてくるケースが多い。
また、法やガイドラインに関する質問は、プロバイダ責任制限法が施
行された直後が多く、徐々に実際のトラブルの対応についての相談比率
の方が増加傾向にある。
相談件数合計:73件
(内訳)- トラブルについての対応相談:50件
- 法(プロバイダ責任制限法)についての質問:14件
- ガイドラインについての質問:9件
24
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談件数の内訳
ガイドラインにつ
いての質問
12%
法(プロバイダ責
任制限法)につ
いての質問
19%
トラブルについて
の対応相談
69%
(2)トラブルに係る対応相談の内訳比率
本来事業者相談センターの役割は、プロバイダ責任制限法関係ガイド
ライン等に係る相談を受け助言することであるが、プロバイダ責任制限
法以外の問合せも23%も含まれている。この問い合わせ内容には、警
察からの発信者情報開示の問い合わせ対応、詐欺行為をしている会員ホ
ームページの閉鎖要求の対応、ねずみ講まがいの行為を行っている会員
ホームページの対応、一時的に大量のメールを送信され事業者のメール
サーバに障害が発生したことに対する発信者の対応の相談などが含まれ
る。これは、事業者によってはプロバイダ責任制限法の対象としている
範囲がよくわからない場合と、プロバイダ責任制限法ではないことを知
っていて相談してくる場合があると思われる。
25
3.権利侵害の実体とその対応状況
トラブルに係る対応相談の内訳比率
プロバイダ責
任制限法以外
23%
送信防止措置
請求
65%
発信者情報開
示請求
12%
(3)請求内容別権利侵害比率(プロバイダ責任制限法に係る相談)
プロバイダ責任制限法に係るトラブルの相談については、送信防止措
置請求が85%に対し発信者情報開示請求については15%となってい
る。
また権利侵害種別では、プライバシー侵害・名誉毀損関係が75%と
多数を占めたのに対し著作権侵害関係が25%となった。これは、個人
のプライバシー情報の流出による対応の相談が多数あったためである。
請求内容別権利侵害比率
著作権侵害関係
(発信者情報開示請
求)
5%
プライバシー侵害・名
誉毀損関係 (発信
者情報開示請求)
10%
プライバシー侵害・名
誉毀損関係 (送信
防止措置請求)
65%
著作権侵害関係
(送信防止措置請求)
20%
26
3.権利侵害の実体とその対応状況
(4)送信防止措置依頼での申立者種別比率
(同一申立者からのトラブルはまとめて 1 件として集計)
申立者の種別は、プライバシー侵害・名誉毀損については権利者とし
て、権利を侵害されたとする本人、代理人弁護士および親権者が含まれ
ている。
著作権侵害については、権利者と第三者のほかに権利を持たない業界
団体からの申立もあったので第三者と分けて集計した。
ア.プライバシー侵害・名誉毀損関係
申立者種別比率(プライバシー侵害・名誉毀損)
第三者
33%
権利者
67%
27
3.権利侵害の実体とその対応状況
イ.著作権侵害関係
申立者種別比率(著作権侵害)
第三者
13%
権利者(含
信頼性確
認団体)
49%
業界団体
38%
(5)申立者のプロバイダ責任制限法の認知度(同一申立者からはまとめて 1 件として
集計)
プロバイダ責任制限法の対象範囲がよくわからない事業者がいることは
(2)で記述した。一方、申立者についてもプロバイダ責任制限法の認知
度を調べた。送信防止措置請求で申立者がプロバイダ責任制限法について
言及している比率はわずか29%と低く、ガイドラインに添付されている
書式を使用した申立は12%とさらに低い。代理人弁護士からの申立の場
合は書式を使用しないまでもプロバイダ責任制限法を認識して依頼してく
るケースがほとんどのようであるから、権利が侵害された本人の認知度は
さらに低いことになる。このような状況において事業者としては、直接プ
ロバイダ責任制限法に言及していなくても、プロバイダ責任制限法の適用
があるか否かについて、常に考慮する必要がある。しかし、申立内容はガ
イドラインの書式を使用していないため、事業者が対応するに必要な事項
が充分含まれておらず、すみやかな対応ができず、とまどいも発生してい
るようである。
発信者情報開示請求については、送信防止措置請求に比べ認知度が上回
っている。
28
3.権利侵害の実体とその対応状況
ア.送信防止措置請求
申立者のプロバイダ責任制限法認知度
(送信防止措置請求)
プロバイダ責任
制限法の言及有
29%
プロバイダ責任
制限法の言及無
71%
申立者のプロバイダ責任制限法認知度
(送信防止措置請求)
ガイドライン書式
の使用有
12%
ガイドライン書式
の使用無
88%
29
3.権利侵害の実体とその対応状況
イ.発信者情報開示請求
申立者のプロバイダ責任制限法認知度
(発信者情報開示請求)
プロバイダ責任
制限法の言及有
40%
プロバイダ責任
制限法の言及無
60%
申立者のプロバイダ責任制限法認知度
(発信者情報開示請求)
ガイドライン書式
の使用有
20%
ガイドライン書式
の使用無
80%
30
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.1.2 具体的相談内容とそれに対する対応状況
(1)プロバイダ責任制限法に係るトラブルの相談
ア プライバシー侵害・名誉毀損関係
相談 №1
動物の捕獲に対する扱いを告発したホームページ中に、個人名や電話番
号、顔写真が掲載されており、また掲載内容についても事実と異なる部分
があるとして、事実を知るという第三者から事業者に対する削除要請。
事業者からは、以前もこのホームページに対し別の方から申立てがあり、
その時点では当事者間での解決を回答したが、プロバイダ責任制限法が施
行されたので、どのように対応したらよいかの相談。
回 答
連絡内容から権利を侵害された本人の申出ではなく、事実確認がとれな
いのであれば、送信防止措置を採ることは難しいのではないか。
しかし、プロバイダとして通報を無視することは得策ではないので、ホ
ームページ開設者には、「明らかにプライバシーの侵害・誹謗中傷に当た
るのではないでしょうか?」との指摘があったことを伝え、本人の責任と
判断でホームページ掲載内容を見直していただくよう注意喚起するとの
対応でよいのではないかと思われる。
第三者からと思われる指摘により、権利侵害をはっきり認識できるのは
稀なケースなので、プロバイダ責任制限法ができたからといっていきなり
削除ではなく、注意喚起等を行ってみて、その後の様子をみることが望ま
しいのではないかと思う。
また、同一ホームページに対して、プロバイダ責任制限法施行前に申立
てがあったことの対応については、当事者で解決していただくようお願い
しているので、その時点における十分な対応であったと思われる。
仮に権利を侵害された当事者からガイドラインの様式に沿った申出が
あった場合は、申出内容等から対応を再度検討する必要が出てくると思わ
れる。
31
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №2
ある企業のホームページから顧客の個人情報が流出し、当該情報を取得
したユーザが自身のPC端末内に保存した同情報をP2Pファイル交換
ソフト(WinMX)を用いて第三者にさらに流通させており、流通させてい
るユーザが弊社サービスの加入者である。
情報の流出があった企業の代理人を通じ、弊社に対して「侵害情報の通
知書 兼 送信防止措置依頼書」が届いた。侵害されたとするのは、顧客
のプライバシーおよび同社の信用・名誉である。
発信者に関する情報としてIPアドレス、アクセス時間、ファイル名、
ファイル共有ソフト名などが記載されている。
当該情報のやり取りは、当社で管理・運営するところの掲示板や web サ
ーバーなど特定電気通信設備で行なわれているものとは異なり、ユーザの
PC端末を通じて直接送信されている。
したがって、代理人より届いた「侵害情報の通知書 兼 送信防止措置
依頼書」も、ガイドラインで示されている書式とは態様の表現等部分的に
異なるものとなっている。
また、弊社で管理する掲示板や web サーバーなどで起こっている事象で
はないために、弊社としては「当該情報の送信を防止する措置」は取るこ
とができず、対応できる内容としては、当該ユーザの回線の停止など全通
信を停止させる措置となる。
このような場合の弊社の取るべき措置について、ご教示いただきたい。
回 答
1)前提問題として、御社が、プロバイダ責任制限法の適用を受ける「特
定電気通信役務提供者」に該当するか、ということから考える。
同法の「特定電気通信」とは「不特定の者により受信されることを目的
とした電気通信の送信」をいうので、ISPの電気通信設備に情報が記録
されないP2Pによる情報の送信であっても、「不特定の者により受信さ
れることを目的としている」限り、直ちに「特定電気 通信」に該当しな
いということにはならないと考えられる。
また「特 定電気通信役務提供者」とは「特定電気通信設備を用いて他
人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する
32
3.権利侵害の実体とその対応状況
者」をいい、この「特定電気通信設備」とは「特定電気通信の用に供され
る電気通信設備」と定義されていて、「情報が記録される」といった要件
は付されていないので、本件の場合、御社が同法の「電気通信役務提供者」
に該当するとの主張も可能ではないかと思う。
そしてその場合、御社は本件において同法に基づく免責を受け得る可能
性を検討し得るということになる。
2)次に、送信防止措置を採った場合、または採らずに放置した場合につ
いて、次のように考えられる。
(1)送信防止措置を採った場合
送信防止措置を採った場合に、発信者に対する責任の問題が生じ得る
が、その場合には「当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防止
するため必要な限度」であって「当該電気通信による情報の流通によって
他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があった場合」
には、当該措置によって発信者に生じた損害については免責される。
しかし、本件のようなケースで問題となるのは、P2Pによる違法な情
報の送信を防止するために「電気通信設備に情報が記録されない」という
送信の性質上、ISPとしてどの程度の送信防止措置を講じ得るか、本件
のように送信防止措置を講じるには、技術的に接続を切るしかない場合
に、接続を停止することが過剰な措置にならないか、という点にあると考
えられるが、これらの点については、本件P2Pによる情報送信の実態や
発信者の行為の違法性の程度、重大性などを含めた総合的判断が必要にな
ると思われるので、慎重かつ十分な精査が必要と考える。
(2)送信防止措置を採らなかった場合
プロバイダ責任制限法により、御社は「権利を侵害した情報の不特定の
者に対する送信防止措置が技術的に可能」であって「他人の権利侵害を知
っている」か「情報の流通を知っていて、他人の権利が侵害されているこ
とを知ることができたと認めるに足りる相当な理由があるとき」に該当し
なければ免責される。
ガイドライン所定の手続に従っていないからといって、直ちに御社には
「相当な理由」がないと判断されるわけではないと考えられる。
3)契約約款に違法行為に対する措置が記載されていないが、この場合、
会員に対し注意喚起等を取ることはできないのか。
33
3.権利侵害の実体とその対応状況
規約にないからといって、注意喚起を含め、いかなる措置も取れない、
と思われるが、約款に基づく対応の問題であることから、御社の顧問弁護
士の方に相談されることをお薦めする。
4)通知されたIPアドレス等から特定個人を割り出すことが技術的に可能であ
る場合、その行為が、「通信の秘密」を侵すことにならないか。
原則論的には、「通信の秘密」を侵すことにならない、とは言い切れな
いが、自己が法律上の責任を問われるおそれがある場合、又は自己のサー
ビス提供に支障が生ずる場合には、正当な業務上の行為ということになる
ものと考えられる。
微妙な問題であるので、この点に関しても、念のため御社の顧問弁護士
の方に相談されることをお薦めする。
相談 №3
個人情報を、P2Pファイル交換ソフト(Winny)を使用して送信して
いる者に対する送信防止措置依頼が当社に届いた。
プロバイダ責任制限法に基づく違法行為の対応の要求である。
届いた資料に、発信者に関するIPアドレスやアクセス日時、共有ソフ
ト名、該当ファイル名等が記載されており、
「情報発信の停止勧告」
「通信
の遮断」を要求している。
連絡のあったIPアドレスは、当社所有のNAT型ファイヤーウォール
のもので、現状ログ情報の収集には膨大な情報を蓄積するための多額の費
用が必要となるため蓄積していない。また、ログ情報が保存できたとして
も、個人を特定し送信防止措置をとることも困難であると思われ、その理
由も申立者に説明できる。
申立者にどのように対応すればよいか。
回 答
ユーザに対して NAT 変換によりプライベートIPアドレスからファイア
ーウオール経由のインターネットアクセスを提供しており、現にログを保
存していないのであれば、ユーザの特定ができず、送信防止措置だけでな
く、警告その他の自主的対応も不可能だと思われる。
申立者には、サービス形態を説明して問題とする発信者の特定ができな
34
3.権利侵害の実体とその対応状況
いことを通知することが考えられる。
なお、プロバイダ責任制限法がログ保存を義務付けるものではないこと
は、逐条解説に明記されているので、参考にしていただきたい。
http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html
相談 №4
流出した顧客情報が、P2Pファイル交換ソフト(WinMX)で送信し
ている者に対する送信防止措置請求が届いた。
送付してきた資料にIPアドレスが含まれているが、このIPアドレス
は、事業者がローミングサービスとしてネットワークを提供している二次
事業者のアドレスである。このため、使用者は二次事業者の会員と思われ
る。
この場合、当社はどのような対応をとればよいか。
回 答
申立者からの連絡を御社のローミングサービスを提供している二次事
業者に伝え、申立者には、御社のローミングサービスを提供している会社
に伝えたことを回答することが考えられる。
この点については、御社のリスクを考慮した上での判断ということにな
る。
相談 №5
プライバシー(画像及び文字)に関する情報がP2Pファイル交換ソフ
トで交換されていることに対し、被害者の代理人弁護士から、プロバイダ
責任制限法の趣旨をふまえ、送信者に対し事業者から連絡をとり、これを
即刻破棄し、伝播防止措置するとともに、入手経路や送信先等を知りたい
ので、その仲介をして欲しい旨の「要望書」が送付されてきた。
なお、被害者は警察にも相談しているようである。
情報送信者のIPアドレスと時間が記載されているが該当のファイル
名等は記載されていないし、被害者の氏名は匿名とさせていただきたい、
とのことであった。
35
3.権利侵害の実体とその対応状況
回 答
この問題は、不明確な部分が多いことに加え刑事事件としての捜査が進
行している可能性があるので、法務担当部門を交えて検討することをお勧
めする。
なお、本件はP2Pファイル交換ソフトにより、プライバシー情報が交
換されているという申立てであり、御社には権利侵害の確認が困難である
こと、また、御社が送信防止措置を講じるには会員の接続自体を切断する
必要があり、そのような措置がプロバイダ責任制限法3条2項本文にいう
「必要な限度」といえるか問題であることにかんがみると、発信者の特定
が可能であれば、本件申立てがあったことを発信者に通知するという措置
を採ることが妥当と考えられる。
また、先方の弁護士に連絡をとり、以下の内容を検討して欲しいと伝え
てはどうか。
(1) (現在進行中という)刑事手続きを中心とするのであれば、当該
会員へのプロバイダからの連絡によって、会員は当該ファイルを削除する
ことも考えられるから、その場合は、捜査上の有用な証拠が失われる可能
性があるので、その点を考慮する必要があり、当該会員との連絡を仲介す
ることとは両立しがたいのではないか。
(2)権利侵害情報の入手先などについて、当該会員の協力
を得たいのであれば、刑事告訴を取り下げないと無理がある
のではないか。
(3)権利侵害情報の削除を優先するのであれば、名誉毀損
・プライバシーガイドラインに示されている通りの情報が必
要になるから、極力ガイドラインにある書式に則って依頼を
出していただきたい。
36
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №6
事業者の共有型ホスティングサービス契約者が運営する掲示板サイト
に第三者になりすまして(他人のハンドル名を使用して)書込みを行った。
書き込み内容は第三者の住所、携帯電話番号の上 7 桁(下4桁は伏せた
状態)等。
後にことの重大さに気づきサイト運営者に削除依頼を行ったが本人性
の確認が取れない為削除が行えないとの対応だった為、ホスティングサー
ビス提供者である事業者に対し、書込みを行った者の代理人弁護士から削
除依頼があった。
事業者としては、当該侵害情報を削除するために他の関係のない大量の
情報の発信を停止しなければならない為、削除は技術的に不可能と考え
る。
また、今回は発信者からの申立てである為、3 条 2 項に定める防止措置
依頼は、被害者のみが行えるもので、今回のような加害者からの申告では
行うことはできないと思うがいかがなものか。
回 答
名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインの、「Ⅱ 送信防止措置の判
断基準」や「Ⅲ.2 プロバイダ等による自主的防止措置の要否」などの
記載内容が参考になる。
たとえ発信者からの申立てであったとしても、当該申立てにより、御社
は個人のプライバシー情報が掲示板で公開されているという事実を「知っ
た」以上、御社は対応を迫られることとなる。送信防止措置請求への対応
の要否については、申立者が被害者が本人であるか、発信者であるか、第
三者であるかは影響しない。御社からサービス提供先の掲示板運営者に状
況を伝え、対処していただくなど何らかの対応が必要になるのではない
か。
37
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №7
事業者の会員が開設するホームページに対して、事業者がレンタルして
いるサーバ上に著作権・肖像権に違反しているサイトを発見した。削除対
象になるはずなので何か手を打って欲しいとの連絡が第三者からメール
で届いた。
連絡のあったURLをもとに事業者が調査したところ、芸能人の写真が
多数掲載されていることがわかり、肖像権の侵害に該当すると思われる。
対処方法を教えて欲しい。
回 答
第三者からの通報のため、開設者が許諾を受けていないことについての
確認がとれず、事業者がいきなり削除することは危険と思われることを回
答。
この段階では、規約に基づく対応ということで、発信者に対して、権利
者の許可を得ているのか確認をとり、もしも得ていないのなら、著作権侵
害、肖像権侵害にあたると考えられるので、とりやめていただきたいこと
を伝える、という方向で、顧問弁護士と相談してみてはどうか。
相談 №8
事業者が運営するポータルサイトにおいて、コンテンツのひとつとして
「業界ニュース」を扱っており、刑事事件の記事を掲載していたところ、
元被告人から公判が終了したとして記事の削除の要請があった。
事実に関する記事の削除を認めることは、業界ニュースの在り方の根幹
に関わる問題であるため対応に苦慮している。新聞社等も過去の記事は削
除されないものと思われるが、そのあたりの考え方を教えていただきた
い。
回 答
メールによる申し出であり、対応する場合には本人確認が必要ではない
か。
顧問弁護士と相談することを薦めた。
38
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №9
事業者会員の開設したホームページに申立者の顔写真や本人に関連す
る文章などが掲載されており、ホームページ掲載者に削除を申立てたが、
聞き入れてもらえず、弁護士に相談したところ、立派な名誉毀損なので、
プロバイダに連絡すれば削除等の対処をしてくれることを聞いた、とし
て、メールで削除の依頼があった。連絡の内容だけでは、本人確認もとれ
ないし、ホームページはかなりのページ数で何人もの写真や文章が含まれ
ていて、実際のところどの部分が該当するのかはっきりしない。
プロバイダ責任制限法に基づく発信者への照会を行い対応しようと考
えているが、発信者から7日以内に反論があった場合はどのようになる
か。
回 答
申立者からの連絡内容だけでは、「ホームページのどの部分が権利侵害に
該当するのか」がわからないので、事業者として削除等を行うのは難しい。
このため、申立者に対し、再度プロバイダ責任制限法のガイドライン書式
に基づいて送信防止措置依頼を提出してもらってはどうか。
また、事業者が送信防止措置を講じるには、当該ホームページをすべて
削除しなければならない場合には、プロバイダ責任制限法3条2項の「必
要な限度」とはいえないと考えられるから、事業者が削除等の措置を講じ
るのは困難である。
よって、事業者から発信者に対し自主的な削除を求めるのが適当ではな
いか。
39
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №10
事業者会員が開設するホームページの掲示板に、発信者が他人の住所電
話番号等を含むプライバシー情報を掲載したことに対し、被害者の親権者
から、事業者に対し掲示板管理者に早急に連絡をとり、関係する発言の削
除及び発信者情報の開示請求がされた。また、警察や弁護士とも相談して
いるとのことである。
事業者としては、掲載されている場所を確認し、問題の情報の部分をひ
とまずインターネットから切り離した。親権者からはその後、刑事事件の
名誉毀損として告訴したいので関係書類を送る等連絡があった。
今後どのような対応を採ればよいか。
回 答
被害者からの開示要求である、という点、ならびに諸般の事情(既に当
該書込みがインターネットから切り離されているという点や、刑事事件と
しても進行しつつある、という点など)を考慮すれば、まずはガイドライ
ンに添付されている開示請求の書類一式を申立人のもとへ送り、それに記
入していただくのが妥当ではないか、と考える。
ガイドライン添付の書類に不足なく書き込んでいただくことや、必要な
書類(この場合は本人確認の書類並びに親子関係確認の書類)を揃えて提
出していただくことで、あわてずに発信者情報の開示請求にあたっていた
だけると思われる。
被害の拡大は既に防止されているので、このプロセスを急ぐ理由はあま
りない。むしろ確実にやっていったほうがいいと思われる。
相談 №11
ホームページ上から流出した個人情報をファイル交換ソフトWinM
Xで公開している会員について、発信者情報開示請求が届いた。
この場合、アクセスプロバイダも「開示関係役務提供者」に該当するか。
回 答
P2Pファイル交換ソフトにより、プロバイダの電気通信設備に情報が
記録されない形態で情報が交換される場合でも、特定電気通信に該当しう
ると考えられるところ、アクセスプロバイダたる御社も「特定電気通信設
40
3.権利侵害の実体とその対応状況
備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の
用に供する者」すなわち特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)
に該当しうると思われる。
このため、プロバイダ責任制限法4条に基づく対応を考える必要がある
が、個々の判断に関して当センターからはお応えできないので、御社の顧
問弁護士を含め、プロバイダ責任制限法、逐条解説、発信者情報開示請求
手続きガイドライン(骨子)、テレサ協HPに掲載の発信者情報開示手続
きをもとに慎重に検討することになる。
相談 №12
大学の内部資料が事業者会員の開設するホームページ上に掲載されて
いることに対する削除要求が書面で届いた。
事業者としては、大学にとって都合の悪いものと理解できるので、発信
者に連絡せずに、直ちに削除に応じても問題ないと考えるがどうか。
回 答
問題の情報については、大学の内部資料とは思われるが、ホームページ
上に大学名の記載がないため、これだけで申立者たる大学の内部情報と断
言することは困難ではないか。
次にガイドラインに記載されている名誉毀損にあたるかどうかについ
ては、大学の名前が明示されていない以上、名誉毀損が成立すると解する
のは難しいと思われる。
また、企業秘密という観点からは、下記各要件を満たすことが必要とな
る。
①秘密管理性(秘密として管理されている)
②経済的有用性(経済的に有用であるもの)
③非公知性(公に知られていないこと)
②の要件については、おそらく満たしていると思われるが、①及び③の
要件は、提供された情報のみから企業秘密に該当するか否か(すなわち権
利侵害にあたるといえるか)、不明である。
以上から、直ちに削除しなければ、法3条の免責が得られない事案かど
41
3.権利侵害の実体とその対応状況
うかは疑問の残るところである。
したがって、御社の約款等を含めた判断となるが、当該情報の削除が技
術的に可能であるか否か確認した上で、発信者に対して削除要求が来てい
る旨は伝えて(大学の名前は出さない)、7日以内に反論がない場合は削
除するという方法を採ることがよいのではないか。
相談 №13
掲示板管理者から、事業者の会員(発信者)がいやがらせの書き込みを
行い、注意してもやめないので、事業者の方で発信者が掲示板に書き込め
ないようにして欲しいとの依頼があった。どのように対応すればよいか。
回 答
発信者と申立者は知り合い同士で、発信者が掲示板で申立者の批判を加
えているが、申立者側にも問題がないか不明であり、発信者の発言が明確
な権利侵害に該当するとも判断できないと思われる。この状況で、アクセ
ス権の全面停止や剥奪を行うことは、「必要な限度」を超えているとみな
される可能性がある。
事業者の内部で再度検討されてはどうか。
42
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №14
事業者Aに所属する会員が開設するホームページ(掲示板)に他人の名
前(申立者)を使って悪質な書き込みをした発信者に対し、法的措置をと
りたいとのことで発信者情報開示の要求があった。掲示板での発言内容を
コピーしたものと、書き込み者のアクセス経路が記載されている。
申立者は、アクセス経路から識別できる情報を元に事業者 B に申立てた
が、事業者 B が確認したところ、Bの二次プロバイダCの会員であること
がわかった。このため、B 社は申立者に該当するプロバイダに通知(社名
はださない)させていただくと回答したようで、C 社に申立内容と対応依
頼が回ってきた。
C 社から事業者相談センターに相談があったが、実際にこの発信者と契
約しているのは、三次プロバイダの D 社ということであった。
これに対し、C 社から次の相談があった。
①C 社として掲示板開設者と交渉する義務があるか。
②このケースで誰が責任を問われるか。
③C 社が責任を問われるとすると何をすればよいか。
回 答
申立者からのメールでの発信者情報開示の請求については、以下のこと
が言える。
・申立者の本人確認がはっきりできていない。
・送信してきたアクセス経路というものが本当のログかどうか、はっきり
しない。
次に、C社が特定電気通信役務提供者に該当するかどうかが 問題とな
るが、該当しうるものと思われる。B社及びD社も同様である。
C社が発信者を特定できるのであれば、対応することも考えられるが、
発信者はD社の会員であり、B社がC社に対応を任せたように、D社が直
接の当事者なのであれば、基本的にはD社に対する請求であるとし、D社
に対応を依頼するべきではないか。
請求内容は、外形的には発信者情報の開示請求に該当するので、正式な
対応をするかどうかであるが、C社からD社に連絡をとり「D社会員に対
する発信者情報請求があったので、請求者には発信者情報開示請求ガイド
ラインの参考書式にて請求してもらうよう依頼する。」こととしてはどう
か。
43
3.権利侵害の実体とその対応状況
「①C 社として掲示板開設者と交渉する義務があるか。
」は、正式な請
求であるならば、開示の可否を判断する当事者となり得るが、直接D社に
対応してもらうよう仕向けるほうが良いのではないか。
「②このケースで誰が責任を問われるか。」は、故意または重過失で発
信者情報の開示を拒絶しない限り、民事的な責任を問われることはないと
思われる(法4条4項)。
「③C 社が責任を問われるとすると何をすればよいか。
」は、D社に対
して請求するよう申立者に連絡をすることと思われる。
相談 №15
事業者の会員が電子掲示板に書き込んだ誹謗中傷に対し、被害者から発
信者情報開示請求が届いた。
発信者に照会したところ、電話で同意が得られたため、書面による正式
な回答が届いた段階で、開示に応じる見込みである。
開示請求内容に電話番号がないが、開示不要か。
回 答
情報開示請求者が必要なもの以上のものは開示する必要はない。開示に
あたっては慎重に判断する必要があるので、下記 URL の逐条解説をよく
読むよう回答した。
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020524_1.html
44
3.権利侵害の実体とその対応状況
イ
著作権侵害関係
相談 №21
事業者会員のホームページで、ゲーム用の音楽ファイルを作成、配信し
ているようで、第三者からhotmailで「違法ファイルを配信してい
る。著作権を無視した悪質な行為なので早急に対処してください。」との
連絡があった。
発信者には、
「著作権侵害に該当する旨を通知、修正依頼」かと思うが、
指摘してきた者に対してはどのような対応をすべきか。
また、事業者にホームページ削除義務等が発生するのか。
回 答
「通知を受けたISPの削除義務と対応について」
1)本件の場合、ISPの情報の削除義務は「ISPの不作為が著作権(お
よび著作隣接権)侵害による不法行為と評価されるか」ということとの
関係で問題となる。この点については、今後の判例の蓄積が待たれると
ころではあるが、著作権侵害である情報の流通とISPの提供サ−ビス
の態様や関係、それによる経済的利益の如何、技術的コントロ−ルの可
能性といった客観的要件やISPの認識内容といった主観的要件を考
慮した具体的判断が求められることになると思われる。
そして、仮に(a)問題のファイルが著作権等を侵害するものであった
場合にこれを放置し、かつ、かかる放置を違法と評価させるような条件
が認められれば、著作権者との関係で、ISPに損害賠償責任が生じ得
ることになる。
反対に(b)問題のファイルが適法なものであれば(権利者の許諾を得
ている等)そもそもISPに削除義務は生じないばかりか、その削除に
ついては、当該情報の発信者との関係で責任を問われる可能性が生じる
(約款等で別段の定めがあり、それが適用される場合は除いて)。
2)このような状況において、ISPが損害賠償責任を負う場合の必要条
件を明確にしてISPの責任を制限することにより、ISPの適切な対
応を促そうとした法律が「プロバイダ責任制限法」であると言える。
即ち、上記(a)の場合には、ISPは「権利を侵害した情報の不特定
の者に対する送信防止措置が技術的に可能」であって「他人の権利侵害
45
3.権利侵害の実体とその対応状況
を知っている」か「情報の流通を知っていて、他人の権利が侵害されて
いることを知ることができたと認めるに足りる相当な理由があるとき」
でなければ、賠償責任を負わないものとされている。
3)本件では、御社は「第三者からの匿名通知」の受領以前に当該情報の
存在を知っていたものとは思われないので、受領以後の御社の当該情報
についての認識内容、得に「相当な理由」の有無が問題となるものと思
われる。
(1)この「相当な理由」の判断については、ガイドラインの基準がその
解釈に影響を及ぼしていくことが期待されているが、本件通知は、匿名
の第三者からの通知であり、その内容からしてもガイドラインの基準を
満たすものではない。(なお、ガイドラインは、ガイドラインの要件を
満たす通知を受けた場合には、速やかに所定の手続き(削除)を行うこ
ととして、ISPの行動基準を明確にすることを目的としている)。
(2)そこで一般論として判断することになるが、御社が通知により当該
発信者のHPを調査したところア−ティストによる有名楽曲の実演(レ
コ−ド)が含まれていることを確認した(HP上での当該発信者による
自認または実際の視聴によって)というのであれば、当該利用は著作権
者および著作隣接権者双方の許諾がない限り著作権等の侵害にあたり、
御社は「相当な理由があった」と判断される可能性がある。
(3)但し、現在、個人がレコ−ドの利用許諾を受けることは非常に困難
と思われるが、楽曲については、個人であってもJASRACからライ
センスを受けるル−ルが既に成立しているので、すべての場合に「許諾
がない」と判断することもできないであろう。
そして、仮に「相当な理由」ありと判断された場合に「技術的可能性」
があると認められれば、御社は「プロバイダ責任制限法」第3条1項の
免責は受け得ないということになる。
他方、発信者との関係では、誤って適法である情報(許諾があった場合)
を削除してしまった場合、「当該措置が当該情報の不特定の者に対する
送信を防止するため必要な限度」であって「当該電気通信による情報の
流通によって他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理
由があった場合」には、当該措置によって発信者に生じた損害について
は免責される。本件では、情報の削除が「必要な限度」かどうかの判断
が問われるものと思われる。
46
3.権利侵害の実体とその対応状況
4)したがって、本件においては、御社として、上記による御社の法的リ
スクの程度、御社のISP事業における方針および約款の規定により、
リスクを回避できる可能性等を総合的に勘案されて「いかに対処すべき
か」を合理的に判断すべきと思われる。
なお、上記1)および3)に関する具体的事情は定かではないが、お聞
きした情報によれば、御社の「著作権侵害に該当する旨を発信者に通知
し、修正依頼」という対応に特に非難されるべき点は見あたらないと思
料する。
なお、通知者に対してどう対処するか、は、御社の方針によって決めら
れるのがよろしいかろうと思う。
相談 №22
外国の音楽関係の団体からメールで、Web上で音楽ファイル(MP3
ファイル)の著作権侵害と思われるものに対する対応依頼が届いた。
依頼内容に発信者情報開示も含まれている。
当社としては会員への警告は行うが、個人情報開示は行わないつもりで
あるがそれでよいか。
回 答
(1)申立のあった団体は、権利者本人でも代理人でもないが、第三者か
らの申立てであっても、プロバイダ責任制限法3条1項の「他人の権利
が侵害されていることを知っていたとき」に該当する可能性があるた
め、同項による免責が得られず、権利者に対して責任を負う可能性があ
る。
(2)したがって、発信者に連絡して注意喚起する等、何らかの対応をし
た方がよいということになる。
(利用規約があれば、それに基づく対応。)
(3)発信者情報開示請求については、権利者本人でもその代理人でもな
いので、プロバイダ責任制限法4条による対応はできないこととなる。
なお、今回は、サイト管理者が連絡先情報(メール)も開示している
ので、直接連絡をとりあうことも可能と思う。
47
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №23
あるメーカーのソフト製品の販売が、正規の販売形態ではない形で、個
人ホームページで行われていることに対し、メーカーからホームページ削
除要求があった。
弊社ユーザーの違法行為だと考えられるが、弊社での削除をすべきかど
うか、もしくは発信者に警告を与え、自主削除に委ねるか、あるいはその
他の適切な対処方法があるかどうか、最近の動向を踏まえての対応方法を
助言いただきたい。
回 答
1.前提事実
本件では、申立者から「当社にとって不適切な情報が掲載されている」
として、ISPに対し、当該情報を掲載した個人(以下「発信者」という)
のサイトの削除要請がなされたとのことである。しかし、「不適切情報」
の内容および掲載場所の具体的特定はなされていず、また何故「不適切」
なのかの理由の明示もなされていない。そこで、当該サイトを確認したと
ころ、ソフトウェア製品の中古品販売情報と「ID なしでも使える」との記
載があったこと、および申立者のURLの情報から(a)製品と共に提供
されたCD(ソフトウェア)を単独で販売していることらしいとの印象を
もたれたとのことである。本件では、販売対象CD(ソフトウェア)が(b)
違法複製により作成されたものである可能性もないとは言えないが、以上
の情報から(a)と前提して、ISPの対応を考える。
2.ISPの不作為による責任
1)以上の前提事実からすれば、本件通知に対し、ISPに何等かのアク
ションをとらねばならない法的義務は生じないものと考える。
(a)の場合、かかるCD(ソフトウェア)の譲渡は、当該ソフトウェア
のライセンス契約の違反に該当するのではないかと疑われるが、他方、
ソフトウェアの中古品販売は、ライセンス契約に違反することなく行う
ことも可能である。仮にライセンス契約に違反するものだとしても、H
P上でかかる譲渡の相手方を募ることそのものは、いわば予備的行為
で、未だ契約違反にはあたらない。契約違反の譲渡が行われなければ、
申立者に「権利の侵害による損害」も生じない。「情報の流通」と「権
利侵害行為」および「損害の発生」との関係も、直接的な関係にない。
また、本件では、申立者自体が発信者に警告をなし得ることや、明確な
情報を通知する努力がなされていないことも考慮すれば、ISPには、
48
3.権利侵害の実体とその対応状況
申立者と発信者間の契約違反行為を防止すべき作為義務は条理上認め
られず、仮に「情報の流通」によって買い手があらわれ、現実に売買が
行われたとしても、ISPに損害賠償責任は生じないものと思料する。
2)なお、本件では、上記のように、権利の侵害は「情報の流通」そのも
のによって生じるわけではないので、プロバイダ責任制限法第3条1項
の免責の適用の問題は生じない。
3.サイトを削除した場合のISPの発信者に対する責任
本件でISPが情報を削除した場合に、対発信者との関係での免責を検
討するにあたっては、プロバイダ責任制限法第3条2項の「情報の流通に
よって他人の権利が不当に侵害されていると信じる」に該当する余地が無
いわけではないとも思われる。しかし、上記のような通知の内容から得る
情報によって、ISPに「相当の理由」があるとすることは、困難と思料
する。また、仮に上記要件が満たされたとしても、「サイトの削除」措置
は「必要な限度」に該当するとすることは困難と思われ、プロバイダ責任
制限法第3条2項の免責事由には該当し得ないものと思料する。
そこで、発信者との関係で、不法行為または契約違反の問題が生じる可
能性を検討しなければならないが、本件では、上記のように発信者による
当該情報の掲載が、何ら問題を生じない場合もあり得ること、申立者の通
知内容が漠然としたものであること、そしてISPとしては、いきなり全
てを削除するという行為の他に、取り得る手段が存在すること等を考慮す
ると、責任を生じるおそれは無視できないものと思われる。
4.結論
そこで、御社としては、御社の約款の規定を考慮しつつ、上記のリスク
を勘案した対応を選択することになる。実務的には、当該発信者に対し、
「申立者からクレームがあった」旨注意喚起をされることをお勧めする。
49
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №24
信頼性確認団体より弊社会員の個人 HP 内に存在する MIDI ファイルにつ
いて送信防止措置を要求する文書が到着した。
著作権ガイドラインに関しての確認も含め、以下の内容についてお知恵
をいただきたい。
1.侵害されたとする情報の削除について
著作権関連のガイドラインにおいては ISP は速やかに削除策を講じるも
のと定められているが、例えば会員の心情を察し、7日程度の削除猶予期
間を設けて事前告知を実施の上対象情報を削除した場合、弊社に過失は発
生するか。
また、発信者への連絡(事前・事後問わず)の際、申立者の名前は記載
してもよいか。
2.申立者との連絡手段について
申立者からは今後の円滑な運営を図るため、連絡のとれる弊社担当者の
電子メールアドレスを教えて欲しいとの要請があったが、文書以外での申
立者とのやりとりはこの場合有効か。
回 答
1.侵害されたとする情報の削除について
当該の MIDI ファイルは、明らかに著作権を侵害していると考えられる
ので、削除に際して発信人にその旨を伝えることは問題ない。
ただし7日間の猶予期間を設けた場合は、御社は責任を問われる可能性
があるので、ガイドラインにしたがえば、削除は速やかに行われるのが妥
当であろうかと考えられる。
申立者の名前を記載することの可否は、こちらも問題ないと思料され
る。
2.申立者との連絡手段について
ガイドラインでは、申立は原則として書面によって行うものとするととも
に、電子メールでの申立が認められる場合として、以下のように規定して
いる。
a)継続的なやりとりがある場合等、プロバイダ等と申出者などとの間に
一定の継続的信頼関係が認められる場合であって、申出者等が、当該電
子メール、ファックス等による申出の後、速やかに電子メール、ファッ
50
3.権利侵害の実体とその対応状況
クス等による申出と同内容の申出書を書面によって提出する場合。
b)プロバイダ等と申出者等の双方が予め了解している場合には、申出を
行う電子メールにおいて、公的電子署名又は電子署名及び認証業務に関
する法律の認定認証業者によって証明される電子署名の措置を講じた
場合であって、当該電子メールに当該電子署名に係る電子証明書を添付
している場合。
(プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドラインP149)
したがって、申立者にメールアドレスを伝えること自体には何の問題も
ないが、ガイドラインに従う限り、申立てを受ける際には、メールとは別
に書面による申立書の提出を受けるほうがベターと思う。もちろん、御社
から申立者に対し、書面の提出を求めることは可能と考える。
このあたりに関しては、申立者からの申立を、メールだけで足りるとす
るのか、それとも書面の提出を必要と考えるか、という、御社の判断に拠
ることとなる。
相談 №25
ホームページに掲載された画像について、権利者から事業者に対し該当
するホームページの削除の申立てがあった。ホームページの構造は、リン
クの形式となっており、画像を選択するメニューの部分が、相談社(事業
者)のサーバにあり、表示される画像の部分は他社 ISP のサーバにある。
事業者から発信者に対し、権利者から著作権侵害の申立てがあったので
掲載画像を削除するよう伝えたところ、
「個人が購入した雑誌、CD 等の画
像の所有権は自分にあり、使い方は自由で、著作権侵害にあたらない」、
また「画像は、事業者のサーバに置いているのではなく、別のウェブサイ
トにあるものにリンクしているので、事業者から削除の依頼がくるのはお
かしい」との回答であった。
今後、発信者と平行線をたどるようであれば、当社が送信防止措置をと
っても問題ないか。
回 答
まず、
「個人が購入した雑誌、CD 等の画像の所有権は自分にあり、使い
方は自由で、著作権侵害にあたらない」といえるかについては、所有権と
著作権との関係については、最高裁判例も出ているところであるが、判例
51
3.権利侵害の実体とその対応状況
の判断に依拠するまでもなく、次のように言うことができる。
所有権は、有体物を客体として、これを使用収益することのできる権利
であり、CD、雑誌に対する所有権は、それらの有体物の面に対する権利に
とどまり、無体物である美術の著作物(この場合、画像)には及ばないと
考えられ、また、こうした著作物の利用は、所有権ではなく、著作権によ
るコントロールを受けており、たとえ、こうした著作物が化体または収納
された媒体の所有権を取得しても、当該著作物に対する著作権を取得する
ことにはならない。
したがって、ユーザは、CD 等の所有権に基づき、画像を自動公衆送信す
ることはできないこととなる。
なお、たとえ、当該ユーザに著作権侵害の認識がなくても、無許諾利用
の客観的事実があれば、著作権侵害は成立すると考えられる。
次に、この形態が「特定電気通信」といえるかについては、相談社のサ
ーバにあるページと別のサイトに保存されている画像のURLがソース
に貼り付けてあるわけで、当該ページにアクセスすることにより、誰でも
その情報を得ることができるわけであるから、「不特定者によって受信さ
れることを目的とする電気通信の送信」、すなわち特定電気通信に該当し
うると考えられる。
また、
「事業者のサーバにある発信者のページが著作権侵害といえるか」
については、当該ページにアクセスすることにより、誰でも、問題の画像
を閲覧することができる状態になっていることを、「著作権侵害」状態と
判断するか否かは、個別の事案の判断となるので、センターからお応えで
きる内容ではない。
リンクの問題については、事業者によっては約款の禁止事項にいれて対
応しているところもあり、その場合であれば、約款での対応も考えられる。
52
3.権利侵害の実体とその対応状況
相談 №26
弊社会員が弊社ホームページ登録サービスを利用して開設しているホ
ームページ上のコンテンツについて、海外著作権利者の日本国内代理店よ
り以下の通知があった。
・会員ホームページ上に当該団体が管理する著作物(キャラクターグッ
ズ)の悪質なパロディが掲載されている。
・当該団体より開設者(弊社会員)に使用中止の通知をすることを検討
しているが開設者を特定できていない(会員は E‑mail アドレスは掲
載している)
・よって、当該サイトのプロバイダである弊社での当該ホームページの
削除と開設者の情報開示の請求。
【対応予定】
弊社としては、上記に対して以下の回答を考えている。
1.通知にはプロバイダ責任制限法への言及の有無がないので、弊社方
針としては会員の規約への抵触行為(権利団体からの警告の受理に
基づく、第三者の権利の侵害のおそれ)として該当の会員へ警告措
置を行い、期限を設け該当コンテンツの削除を会員自身により対応
させる旨回答。
→ 会員自身による削除がなかった場合、弊社で削除すべきか?
→ 上述の対応ではなく「プロバイダ責任制限法」に基づく手続きを依
頼すべきか?
2.会員情報に関しては、通信の秘密により開示はできない。
→「プロバイダ責任制限法」に基づく発信者情報開示手続きについて案
内すべきか?
3.当該会員はホームページ上に自身の連絡先として「E‑mail アドレス」
を掲載しているので、そちらに直接連絡を行うよう案内。
→ 対応として適当か?
回 答
本件は、信頼性確認団体を経由した申出ではないので、当センターにて
著作権侵害の有無につき助言することはできない。
このため、会員規約等も含めどのような対応を採るかは、御社の顧問弁
護士等も含めて判断されるのが適当と思う。
当センターからは、「対応の選択肢としてこのような方法も考えられる」
53
3.権利侵害の実体とその対応状況
ということで判断の参考としていただければと思う。
まず、発信者情報開示については、①著作権侵害が明らかといえること、
②申出者が発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること、以上2
点を満たす場合に初めて開示することとなるから、通常、裁判手続を経ず
に開示されるケースは少ないと思われる。
また、削除依頼については、①削除等の措置を講ずることが技術的に可
能な場合であること、②他人の権利が侵害されていることを知っている
か、知ることができたと認めるに足りる相当の理由があること、以上2点
を満たす場合でなければ、御社が情報を削除しなかった場合でも、申出者
に対する損害賠償責任は免責される。
逆に、削除した場合の発信者に対する損害賠償責任は、①送信防止措置
が必要な限度であったこと、②他人の権利が不当に侵害されていると信じ
るに足りる相当な理由があったこと、以上2点を満たす場合には、御社が
情報を削除した場合でも御社会員に対する損害賠償責任は免責される。ま
た、②の代わりに、発信者である御社会員に対して、削除等に同意するか
否かを照会し、7日間以内に、削除等に同意しない旨の申出がない場合に
削除したときも、御社の損害賠償責任は免責される。
以上に基づき、削除の当否を判断していただくことになる。
相談 №27
当社の会員が米国の映画をP2Pファイル交換ソフトで自由に入手で
きる状態にしているとして、当社に対し送信防止依頼。
・ P2Pファイル交換ソフトを利用した著作権侵害であり、当社の電気
通信設備に情報が記録されていないことから、プロバイダ責任制限法
に基づいた対応ができるのかどうか。
・ 申立人が海外の団体であるため、著作権等管理事業者または信頼性確
認団体にあたるのかどうか。
・ 当社でできる該当ユーザへの対応は、警告するのみまたはインターネ
ットに接続できないようにするためのIDの解除(契約解除)になる
が、そこまでの対応をプロバイダとして、すべきかどうか。
54
3.権利侵害の実体とその対応状況
回 答
1.P2Pサービスを利用した著作権侵害であり、当社の 電気通信設備
に情報が記録されていないことから、プロバイダ責任制限法に基づいた対
応ができるのかどうか。
1)前提問題として、御社がプロバイダ責任制限法の適用を受ける「特定
電気通信役務提供者」に該当するかということから考える。
同法の「特定電気通信」とは「不特定の者により受信されることを目的と
した電気通信の送信」をいうので、ISPの電気通信設備に情報が記録さ
れないP2Pによる情報の送信であっても、「不特定の者により受信され
ることを目的としている」限り、直ちに「特定電気通信」に該当しないと
いうことにはならないと考えられる。また「特定電気通信役務提供者」と
は「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信
設備を他人の通信の用に供する者」をいい、この「特定電気通信設備」と
は「特定電気通信の用に供される電気通信設備」と定義されていて、「情
報が記録される」といった要件は付されていないので、本件の場合、御社
が同法の「電気通信役務提供者」に該当するとの主張も可能ではないかと
思われる。そしてその場合、御社は本件において同法に基づく免責を受け
得る可能性を検討し得るということになる。
2)次に「プロバイダ責任制限法に基づく対応」とは、何を念頭におかれ
ているのか定かではないが(プロバイダ責任制限法は、その名のとおり、
そもそもプロバイダの責任を制限するものなので)、仮に送信防止措置を
採った場合、または採らずに放置した場合のことを考慮されているのであ
れば、次のように考え得ると思う。
(1)送信防止措置を採った場合
送信防止措置を採った場合に、違法と思った情報(この場合は著作権
侵害の情報)が実は違法でなかった場合、発信者に対する責任の問題が
生じ得る(約款等で別段の定めがあり、それが適用になる場合は除き)
が、その場合には「当該措置が当該情報の不特定の者に対する送信を防
止するため必要な限度」であって「当該電気通信による情報の流通によ
って他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があっ
た場合」には、当該措置によって発信者に生じた損害については免責さ
れる。
実際に著作権侵害の情報の削除については、当該情報の送信防止措
置を講じても発信者に対する損害賠償義務は生じないと考えられる。
したがって、その場合はプロバイダ責任制限法第3条2項の適用の問
55
3.権利侵害の実体とその対応状況
題は生じない。
本件のようなケースで、問題となるのはP2Pによる違法な情報の送
信を防止するために「電気通信設備に情報が記録されない」という送信
の性質上、ISPとしてどの程度の送信防止措置を講じ得るか、過剰な
措置にならないかということだと思われる(現実問題として、接続を切
るしかないという場合など)が、この点については、本件P2Pによる
情報送信の実態の理解や通信者の行為の違法性の程度、重大性などを含
めた総合的事実判断が必要になると思われるので、慎重かつ十分な精査
が必要と考える。
(2)送信防止措置を採らなかった場合
仮に著作権侵害が事実であった場合、御社が著作権侵害の責任を負う
ためには(a)著作権法および不法行為法に照らして、御社に責任が認
められることと(b)プロバイダ責任制限法に基づく第3条1項の免責
の要件に該当しないことが必要である。プロバイダ責任制限法について
は、御社は「権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信防止措置が
技術的に可能」であって「他人の権利侵害を知っている」か「情報の流
通を知っていて、他人の権利が侵害されていることを知ることができた
と認めるに足りる相当な理由があるとき」に該当しなければ免責され
る。「相当な理由」については、ガイドラインの基準がその解釈に影響
を及ぼしていくことが期待されているが、本件はガイドラインの手続き
に基づく請求ではないこともあり、ガイドラインに従っていないからと
いって、直ちに御社に全く「相当な理由」がないと判断されるわけでは
ない。
なお、本件において相手方が御社の責任を問うためには、そもそも
(a)を主張立証することが必要なわけである、この点、本件ケ−スの
ようなグヌーテラタイプのP2Pに関する事例についての判例はまだ
ない。
以上の要素を勘案し、御社のリスクを御社の約款等による御社のポリシ
ーと併せて総合的に考慮して対応されることが相当と思われる。
2.申立人が海外の団体であるため、著作権等管理事業者または信頼性確
認団体にあたるのかどうか。
著作権等管理事業者であるかどうかは、文化庁のHPで確認できる。
56
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.当社でできる該当ユーザへの対応は、警告するのみまたはインターネ
ットに接続できないようにするためのIDの解除(契約解除)になるが、
そこまで の対応をプロバイダとして、すべきかどうか。
プロバイダ責任制限法における免責、という観点からは、非常に微妙な
ケースだといえる。したがって、法に拠って対処する、というよりも、同
法以前に、御社の契約約款に基づいた措置として対応を考えられること
が、適切ではないか。
相談 №28
当社の会員が米国の映画をP2Pファイル交換ソフトで公開している
として、当社に対し海外の団体からの送信防止依頼。行為者は二次プロバ
イダの会員と思われる。
①申立人はメールを送る際に当社以外にCCで国内の団体に
も送信しており、英語での対応は難しいので、国内の団体
を窓口にしたいが、どうか。
②専用の書面をもらいたい(著作権関係ガイドラインの様式B)
が、どうか。
③②の後に、二次プロバイダの承諾を得て、二次プロバイダに連絡して欲
しい旨の回答をおこなうということでよいか。
回 答
まず、全般的な考え方について説明する。
プロバイダ責任制限法は、送信防止措置の申出方法について定めた規定
はなく、プロバイダ等が送信防止措置を講じた場合、若しくは講じなかっ
た場合に、発信者若しくは被害者に対する損害賠償責任が免責される場合
を規定しているにすぎない。
よって、被害者がどのような方法で削除を求めてきたとしても、御社に
おいて、削除をするか、削除しないかを判断する必要がある。
送信者が御社の会員ではなく、また当該映画ファイルがP2Pファイル
交換ソフトで送信されていることを考えると、御社が、著作権者の「権利
が侵害されていると知ることができたと認めるに足りる相当の理由があ
るとき」に該当することは少ないと考えられる。
次に御社からいただいた個々のご質問についてお応えする。
57
3.権利侵害の実体とその対応状況
御社の対応案①「国内の団体を本件の窓口にして欲しい」について
窓口についての交渉をするのは御社のリスクでご判断願う。
御社の対応案②「著作権関係ガイドラインの様式Bが欲しい」について
本件通知は、権利者からの申出ではないし、その内容からしても、著作
権ガイドラインの基準を満たすものではない。
(なお、ガイドラインは、ガイドラインの要件を満たす通知を受けた場
合には、速やかに所定の手続き(削除)を行うこととして、プロバイダ
等の行動基準を明確にすることを目的としている。)
よって、著作権ガイドラインが定める書式による申出を求めても無意味
となる。
しかし、たとえ権利者からの申出でないからといって、御社が対応をし
なくても免責されることにはならない。
御社の対応案③「二次プロバイダに連絡して欲しい旨の回答をおこな
う」について
ご質問のような事情であれば、御社の対応で差し支えないと思われる。
58
3.権利侵害の実体とその対応状況
(2)プロバイダ責任制限法以外の対応の相談
相談 №31
会員開設ホームページで商品の購入をしたが、いつまでたっても届かな
い。返金を申し出ても理由をつけて返そうともしないので訴えようと考え
ている。相談社に対しては悪質なホームページは閉鎖して欲しいとの連絡
があった。ホームページを強制閉鎖するわけにもいかないので、約款の禁
止行為に該当するとして利用停止にできるか。
回 答
情報の流通によって特定の者の権利が侵害された訳ではないので、プロ
バイダ責任制限法の対象とはならない。このため、当該ホームページの削
除等の措置を講じたとき、同法による責任の制限は受けることはできない
と考える。
このため、事業者と当該ホームページ開設会員との契約約款に基づき、
きちんと合致するかどうか確認し、その上での対応になるかと考える。
相談 №32
フリーメールなので通報者が誰なのか確認できないが、会員開設ホーム
ページで、国内法に違反していると思われるのがあるので、当社に対処を
依頼する連絡が届いた。
当社としては、ねずみ講まがいに見えるが、法に抵触するのかわからず
苦慮している。対処方法を教えて欲しい。
回 答
プロバイダ責任制限法は、インターネット等による他人の権利を侵害す
る情報の流通に関して、プロバイダ等の損害賠償責任の制限および発信者
情報の開示について規定したものである。
この法律の対象となる「権利の侵害」とは、特定個人の民事上の権利を
侵害するような情報(例えば、他人を誹謗・中傷するような情報、他人の
プライバシーを侵害するような情報、他人の著作権を侵害するような情報
等)である。
ねずみ講まがいの情報がネット上に流通していたとしても、これにより
特定の者の権利が侵害されたとは言えず、プロバイダ責任制限法の対象と
59
3.権利侵害の実体とその対応状況
はならない。よって、御社が当該情報を削除したとしても、同法による責
任の制限を受けることはできないものと考えられる。
相談 №33
警察より、会員が犯罪行為をしたということで会員のアドレス等送信記
録の開示要請があった。当社としては会員のプライバシーに係ることの開
示はできないと断ったが、犯罪にかかわる内容に対して断り続けることが
可能か否か、正当性があるのか、法的に守られるものであるか迷うところ
もあり、対応について教えて欲しい。
[類似の相談]
詐欺行為を行っている会員の個人情報の開示について、警察から相談が
あった。どのように回答すればよいか。
回 答
警察からの「犯罪行為をした者に対する」問合せであるので、民事上の
権利侵害があった場合を対象としたプロバイダ責任制限法4条の適用は
ないものである。
発信者情報は、通信の秘密の該当するものであるから、警察署長の捜査
関係事項照会書等の任意捜査では開示することはできず、裁判所の令状が
ある場合でなければ開示することはできないものと考えられる。
相談 №34
当社のメールサーバに、アドレススキャンとも思える非常に大量のメー
ルが送信され、メールサーバが停止するという障害が発生した。
発信者情報開示及び直接該当者に対して厳重注意もしくは損害賠償等
を、プロバイダ責任制限法もしくはその他法的な手段を利用して行いた
い。
回 答
メール送信については、一般的にはプロバイダ責任制限法の対象ではな
い。
法律に沿った対応ということでは、「特定電子メールの送信の適正化等に
60
3.権利侵害の実体とその対応状況
関する法律」または「不正アクセス禁止法」等の法律を確認していただき
たい。
送信している会員の事業者に直接連絡をとり、事情を説明して会員への
注意喚起等の対応を行ってもらった方がよいのではないか。
相談 №35
警察から「通信ログの保存期間はどの程度か」との問合せを受けた。
これに対して回答する為に、以下の2点について教えて欲しい。
①通信ログの保存期間は、法律的な最低保存期間が定められているか。
(または、これ以上長期に保存していてはいけない、という期間がある
のか。)
②警察に通信ログの保存期間を回答する際に、留意すべき点は何か。
回 答
直接プロバイダ責任制限法に係るトラブル等の相談ではないが、通信ロ
グについてはプロバイダ責任制限法でも絡むところなので下記内容を回
答した。
ログの保存期間については、電気通信事業における個人情報保護に関す
るガイドライン(平成10年郵政省告示第570号)第8条第2項におい
て、「電気通信事業者は、保存期間が経過したとき又は記録目的を達成し
たときは、速やかに通信履歴を消去するものとする。
」と定められている。
したがって、プロバイダ等の電気通信事業者は、それぞれの業務事情(例
えば課金業務等)に応じて、必要な期間を定めて通信ログを保存すること
となり、保存期間が経過したときや記録目的を達成後には、速やかに消去
することが求められており、電気通信事業者に対し一律に最低保存期間が
定められていたり義務付けされているものではない。
ログの保存期間については、上記ガイドラインの趣旨に沿って、個々の
事業者が保存期間を定めるものであり、その保存期間自体を警察に回答し
ても問題ないが、警察から保存期間を他のプロバイダ同様に○○ヶ月にし
た方がいい、あるいは保存義務あるといった話については応じる必要は無
く、個々のプロバイダの事情に応じて保存期間を定めるものである旨をも
って対応していただければと思う。
なお、通信ログや個別の通信にかかわる情報、いわゆる通信の秘密に該
61
3.権利侵害の実体とその対応状況
当する情報については、プロバイダは警察署が作成した捜査関係事項照会
で通信の秘密を公開することはできず、裁判所の令状があってはじめて対
応できるものである。
相談 №36
当社の会員の書き込み等で荒れた状態の掲示板管理者から、当社に対し
会員の解約要求があったので、会員への事実確認を行ったところ、本人が
掲示板でお詫びを行った。しかし、掲示板管理者の収まりがつかず、さら
に会員本人から掲示板管理者に氏名、住所等を明かすよう伝えて欲しい旨
の依頼が当社にあった。掲示板管理者に当社から連絡をとるが、発信者情
報開示請求となった場合、どのように対応すればよいか教えて欲しい。
回 答
当該掲示板の管理者は、発信者の詳しい個人情報を要求しているが、プ
ロバイダ責任制限法にのっとった開示請求でない以上、開示すべきではな
い。
万が一、開示請求が正式に行われた場合にも、基本的には裁判所の判決
を待つのが望ましい、と考えられる。
また、もし正式な開示請求についてということになれば、(社)テレコ
ムサービス協会 HP の下記 URL
http://www.telesa.or.jp/index̲isp.htm
に「発信者情報開示の対応手順について」が公開されているので、こちら
を案内していただければよろしいかと思う。
相談 №37
当社のホームページから依頼のあった会員ホームページをリンクする
サービスを行っているが、会員から依頼のあった人物の写真で、本人に掲
載の承認を得ていないものは削除するよう伝えるが、それでよいか。
回 答
現在のところ、実際の権利侵害が発生しているわけではないため、当セ
ンターでお応えできる内容ではないので御社として判断していただきた
62
3.権利侵害の実体とその対応状況
い。
63
3.権利侵害の実体とその対応状況
(3)法(プロバイダ責任制限法)についての質問
質問 №1
逐条解説の第 1 条の用語の説明部分に、
『「特定電気通信」とはインター
ネットでのウェブページや電子掲示板等不特定の者により受信される・・』
となっているが、「不特定の者」とは特定の会員にクローズしてショッピ
ングモールなどのサービスを提供している場合もプロバイダ責任制限法
の適用の対象になるのか。
回 答
特定の会員に限定されたサービスであっても、誰でもが会員になれる場
合であれば、「特定電気通信」に該当する場合がある。
なお、具体的にどのようなものであれば「特定電気通信」にあたるのかに
ついて、一律のわかりやすい数値的な基準があるわけでない。
質問 №2
迷惑メールはプロバイダ責任制限法の対象にならないと聞いているが、
それでよいか。場合によって対象となる場合があるのか?
回 答
基本的に、電子メールは、特定の者に対する通信であるから、「特定電
気通信」には該当しない。これは、現在問題となっている迷惑メールであ
っても同様である。
質問 №3
ホスティングで企業から運用を請け負っているが、その場合、運用を請
け負っている当社が「特定電気通信役務提供者」として対象になるのか。
回 答
ホスティングを行っている場合でも、原則として「特定電気通信役務提
供者」に該当しうるものと考えられる。
64
3.権利侵害の実体とその対応状況
質問 №4
プロバイダ責任法第2条第1項で「公衆によって直接受信されることを
目的とする電気通信の送信を除く」とあるが、「公衆によって直接受信さ
れることを目的とする電気通信の送信」と「不特定の者によって受信され
ることを目的とする電気通信」との差異は何か。
回 答
2条1項の「公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の
送信を除く」という部分は、いわゆる「放送」のことである。
この部分は、別途放送法によって規律されているので、その部分を除く
ということである。
質問 №5
ハウジング、アウトソーシング、オンサイトアウトソーシングといった
業務を行う者が特定電気通信役務提供者に該当するか。
回 答
設備を所有していない管理・運営の場合も該当しうる。
65
3.権利侵害の実体とその対応状況
質問 №6
当社のお客さまである法人(以下「A」とする)、もしくはさらにそ
のお客さまのお客さま(法人もしくは個人、以下「AA」)の運営する
掲示板などに第三者「B」から書込みがあり、その書込みがプロバイダ
責任制限法上の侵害情報である場合で、「特定電気通信による情報の流
通によって自己の権利を侵害されたとする者」(以下「C」とする)が
いる場合について、以下考察をお願いする。
質問
(1)「C」が弊社に対して送信防止措置を講ずるよう申出をした場合
技術的に削除が不可能な場合
①弊社は「技術的に不可能」と回答するのみでよいか。もしくは、
「弊社では技術的に不可能であり、また、弊社が管理する情報ではな
いので「A」にその申出をすべき」旨回答しなければならないのか。
②その際、弊社が「A」の情報を回答するために「A」の同意が必要
か、また、その情報はどこまで回答する必要があるのか(氏名・住
所など)
③さらに、弊社と直接関係のない「AA」まで回答する必要はないとい
うことでよいか。
(2)「C」が弊社に対して送信防止措置を講ずるよう申出をした場合
技術的に削除が可能な場合
上記(1)①②③についてどう取扱えばよいか。
回 答
1.「C」から御社に送信防止措置の依頼があり、技術的に削除が不可能
な場合
プロバイダ責任制限法3条の措置は、削除が技術的に可能であることが
前提なので、削除が技術的に不可能である場合には、責任が問われること
はないものと思われる。
また、②③については、御社がA社(2次事業者)の名前を答えないと、
被害者が削除を要請する道を事実上閉ざしてしまうことになるから、「当
該情報はA社の管理下にあると思われるので、A社に尋ねられてはいかが
でしょうか」というような回答をせざるを得ないのではないかと思う。
そのときに、A社の名前を教えるか否かは、法3条とは関係ない。
66
3.権利侵害の実体とその対応状況
また、御社がAAの名前を答えるのは、通信の秘密との兼ね合いから避
けるべきではないか。
2.「C」から御社に送信防止措置の依頼があり、技術的に削除が可能な
場合
御社は、特定電気通信役務提供者という前提であるので、削除すること
が技術的に可能な場合であって、当該情報の流通によって、他人の権利が
侵害されていることを知っていて削除しないときは、法3条1項の免責が
得られないということになる。
とはいっても、御社が削除するのはA社との関係で問題となるケースが
あると思うので、1と同様の対応をとるという選択肢もあるものと思われ
る。
質問 №7
第4条に基づく発信者情報開示手続について
第2項では、「前項の規定による開示の請求を受けた ときは、・・・発
信者の意見を聴かなければならない。」 と定められている。そして第1項
では、「・・・次の 各号のいずれにも該当するときに限り、・・・開示を
請求することができる」とされている。
この点からは、①開示の求めがあった場合、ISP 等が 第1項各号に該当
すると判断し、開示しようとするときに、第2項の意見照会が必要となる
のであり、一次判断では意見照会は不要、②開示の求めがあった場合、ま
ず第2項の意見照会を行うことが必要、と2通りの解釈がありえると思う
が、全体構成を考えると②のように思われるところもあるが、法律の文言
からは、①のようにも読むこともできなくはない。
この点、どちらと解すべきなのか。
回 答
法第4条2項に「…前項の規定による開示の請求を受けたときは」と規
定されているとおり、プロバイダが発信者情報の開示請求を受けたとき
は、発信者と連絡することができない等特別な場合を除き、基本的には、
同法1項要件を満たしているかどうかにかかわらず、まず発信者の意見を
聴取しなくてはならないものと思われる。
67
3.権利侵害の実体とその対応状況
もっとも、総務省の逐条解説によれば、同法1項の定める要件を満たさ
ないことが一見して明白であるようなときなど、確認をせずとも発信者の
権利利益を不当に侵害することにはならない場合には、同項の義務の対象
外と解するのが相当とされているので、このような場合には、発信者に対
し連絡をする必要はないことになる。
質問 №8
アクセスプロバイダーと第4条との関係について
被害者の設置する掲示板にアクセスした者のアクセスプロバイダに発
信者情報開示請求が寄せられる。
この事例において、アクセスプロバイダは開示関係役務提供者となるの
か。
回 答
①当該アクセスプロバイダが「特定電気通信役務提供者」に該当するか
特定電気通信役務提供者とは、法2条3号で、「特定電気通信設備を他
人の通信の用に供する者」と定義され、具体的には、特定電気通信設備
を他人の通信のために運用することをいうとされる(総務省の逐条解説
参照)ので、当該アクセスプロバイダは当該特定電気通信を行うに当た
り用いられる電気通信設備を他人の通信の用に供しているから、「特定
電気通信役務提供者」に該当すると思われる。
②当該アクセスプロバイダは「開示関係役務提供者」に該当するか
当該アクセスプロバイダは、当該特定電気通信について、前述の①より、
「特定電気通信役務提供者」に該当することから、法4条1項にいう「開
示関係役務提供者」に該当すると思われる。
68
3.権利侵害の実体とその対応状況
質問 №9
第4条における意見照会と通信の秘密との関係について
発信者情報開示請求を受けたISPは、第2項の意見を聴取するために
は、自己の保有する(あるいは、しているかもしれない)アクセスログを
見て、発信者を特定することが必要となる。
その場合、このアクセスログを見る行為は、通信の秘密に該当する情報
を積極的に知得する、という行為にあたるため、第2項の意見聴取を行う
ためには通信の秘密を侵害することが必要、という状況が発生する。
この点、どのように解すべきか、法令に定められた義務を履行するので
あり、知得行為は違法性を欠くとして、整理されるのか、それとも、この
場合は、第2項の「特別な事情」にあたるとして、意見聴取は法定義務と
されない、という解釈になるのか。
回 答
原則論的には、「通信の秘密」を侵すことにならない、とは言い切れな
いが、自己が法律上の責任を問われるおそれがある場合、又は自己のサー
ビス提供に支障が生ずる場合には、正当な行為ということになるものと考
えられる。
質問 №10
ニュースグループについても、プロバイダ責任制限法第2条第1号でい
う「特定電気通信」に該当すると考えてよいか。
回 答
特定電気通信にあたると一概にいえないので、総務省に問合せていただ
きたい。
69
3.権利侵害の実体とその対応状況
質問 №11
アクセスプロバイダと第4条との関係について
発信者がP2Pファイル交換ソフトを用いて、他人の権利を侵害する情
報をインターネット上等の流通過程においた場合、被害者から当該発信者
にアクセスを提供したアクセスプロバイダに対して、発信者情報開示請求
が寄せられた。
この場合、アクセスプロバイダは開示関係役務提供者となるのか。
回 答
「特定電気通信」とは、「不特定の者により受信されることを目的とし
た電気通信の送信」をいうところ(プロバイダ責任制限法2条1号)、P
2Pによる情報の送信がプロバイダのサーバに当該情報が記録されない
形態で情報が交換される場合であっても、「不特定の者により受信される
ことを目的」としていれば、当該情報の流通は「特定電気通信」に該当す
る場合があると考えられる。
「特定電気通信設備」とは、「特定電気通信の用に供される電気通信設
備」をいうところ(同条2号)、前述のとおり当該情報の流通が特定電気
通信に該当するのであれば、御社のいわれる回線部分は特定電気通信の用
に供されていることから、
「特定電気通信設備」に該当すると考えられる。
また、
「特定電気通信役務提供者」とは、
「特定電気通信設備を用いて他
人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する
者」をいうところ(2条3号)、当該情報の流通が特定電気通信に該当す
るのであれば、御社は「特定電気通信役務提供者」に該当すると考えられ
る。
質問 №12
WinMXを使用して権利侵害情報を流している者を発信者といえるか。
回 答
「不特定者によって受信され
(1) P2Pによるファイル送信であっても、
ることを目的とする電気通信の送信」と言える場合があると考えられるの
で、この場合は、「特定電気通信」に該当すると思われる。
70
3.権利侵害の実体とその対応状況
(2) プロバイダ責任制限法にいう「発信者」は、「特定電気通信役務提供
者の用いる特定電気通信設備の記録媒体に情報を記録し、又は当該特定電
気通信設備の送信装置に情報を入力した者」をいい、これは「特定電気通
信において情報を流通過程に置いた者」を指す(逐条解説参照)ところ、
P2Pによるファイルの送信者でも同法の発信者に該当する場合があ
ると考えられるが、個別のケースごとに判断することが必要である。
71
3.権利侵害の実体とその対応状況
(4)ガイドラインについての質問
質問 №1
一般ユーザがガイドライン書式を入手するにはどのようにしたらよいか。
回 答
(社)テレコムサービス協会のホームページにガイドラインが掲載されて
おり、その巻末に添付されているので、ダウンロードして使用する。
・名誉毀損・プライバシー侵害関係ガイドライン
http://211.0.28.19/01provider/provider̲020524̲2.pdf
・著作権関係ガイドライン
http://211.0.28.19/01provider/provider̲020524̲1.pdf
・発信者情報開示依頼書
http://www.telesa.or.jp/images/pdf/isp̲form.pdf
質問 №2
著作権侵害の対応でISPから発信者に照会を行いたいが、著作権関係ガ
イドラインには照会の書式が入っていない。
名誉毀損・プライバシー侵害関係ガイドラインの書式を使用してよいか。
回 答
基本的にはフリーフォーマットで通知していただきたい。
その際、名誉毀損・プライバシー侵害関係ガイドラインの参考書式の内容
を参考にしていただいてかまわない。
72
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.2 事業者における対応状況
前述の「3.1 事業者相談センターにおける対応状況等」に加え、プロ
バイダ責任制限法の対応状況をより正確に把握するため、事業者に対してア
ンケートやヒアリングを実施し、対応件数や事例のデータを提供していただ
いた。ここでは、事業者の対応の概要と具体的内容について記述する。
なお、調査方法としては、プロバイダ責任制限法が施行された平成14年
5月27日から平成14年10月31日までに対応した件数や内容について
11月から 1 月の間に2回にわけてアンケートやヒアリングを行ったもので
ある。過去にさかのぼっての集計となり、対応件数についてはおおよその件
数となっているものと思われるが、アンケートの調査結果を客観的に記述し
た。
3.2.1 調査の視点と調査方法
(1)調査目的
平成14年5月27日に施行されたプロバイダ責任制限法に基づいた
対応の実態がどのようになっているかを把握するため、電気通信事業者
に「プロバイダ責任制限法に係るアンケート」を実施し、対応の実態を
明らかにするとともに、今後、同法に基づく対応をより適切に行うこと
を目的に実施したものである。
(2)調査項目
別紙(巻末に添付)のように、事業者のプロバイダ責任制限法に係る
権利侵害種別ごとの対応件数の集計と、その中から代表的な対応事例に
ついて提供していただいた。この代表的な事例は、
「3.2.3 権利侵
害の申し出等及びその対応の具体的内容」で記述する。
具体的な調査項目は以下のとおり。
ア.プロバイダ責任制限法に係る対応件数
・権利侵害種別対応件数
プライバシー侵害関係、名誉毀損関係、著作権侵害関係、
その他の権利侵害
・情報表示場所別対応件数
ウェブページ、電子掲示板、その他(P2P ファイル交換等)
・送信防止措置請求件数とそれに対する対応した件数/対応しなか
った件数/発信者に照会した件数
・発信者情報開示請求件数
・ガイドラインに添付の書式の使用の有無
73
3.権利侵害の実体とその対応状況
・申立者 被害主張者(代理人弁護士含む)、第三者
・著作権侵害での信頼性確認団体からの請求件数
イ.プロバイダ責任制限法に係る代表的対応事例
・権利侵害の種類
プライバシー侵害関係、名誉毀損関係、著作権侵害関係、その他
・申立者の依頼内容
送信防止措置請求、発信者情報開示請求
・発生した権利侵害状況
- 被害主張者 事業者会員
非会員
- 情報表示場所詳細 ウェブページ/電子掲示板/P2P ファイル
交換/その他の場所、及びその管理者
- 発信者 当社会員、当社、他社会員、他社、二次プロバイダ会
員、その他
・プロバイダ責任制限法の言及
・申立内容
・事業者のとった対応
・対応に苦慮した点
・検討課題等
(3)調査対象
(社)電気通信事業者協会、
(社)テレコムサービス協会、及び(社)日
本インターネットプロバイダー協会のいずれかに所属する会員
595社(プロバイダ事業を行っていない事業者を含み、重複を除く)
(4)調査対象期間と方法
・調査対象期間:平成14年5月27日〜平成14年10月31日
・平成14年11月29日付けで、各協会会員の窓口担当者宛にEメ
ールでアンケート用紙を送付し、プロバイダ事業を行っている会員
から E メールもしくはFAXによる回答をお願いした。
・回収率を上げるため、未回答の会員に対し12月から 1 月にかけ E
メールおよび電話で提供をお願いした。
(5)回答状況(平成15年1月14日現在)
・回答数:105社(プロバイダ事業を行っていない8社を含む)
・回答率:17.6%
74
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.2.2 権利侵害の申し出等及びその対応の概要とその特徴
(1)プロバイダ責任制限法に係る対応件数
ア.対応件数と会社数
・対応が1件もなかった
: 49社
・1〜5件対応した
: 27社
・6〜10件対応した
:
7社
・11〜50件対応した
:
9社
・51件以上対応した
:
4社
*代表的事例の提供は46社から82事例あり。
イ.平均対応件数
・1件以上対応した会社の平均対応件数
・回答ISP全社の平均対応件数
:
:
17.0件/社
8.4件/社
(2)権利侵害情報の表示場所別件数比率
権利侵害情報の表示場所別件数の比率は、ウェブページや電子掲示板
でのトラブルに比べP2Pファイル交換ソフトによる権利侵害が急速に
増大している状況で、一度流出した権利侵害情報を完全になくならせる
ための対応が難しく、類似の案件と思われる事例が多数を占めた。P2
Pに関する対応については、ガイドライン上その特殊性に応じた形で明
確に定められていないことから、プロバイダにおいてもその対応に苦慮
している実態があるものと思われる。
・ウェブページ: 56件
・電子掲示板 : 37件
・P2P等
:665件
75
3.権利侵害の実体とその対応状況
権利侵害情報の表示場所別件数比率
ウェブページ
7%
電子掲示板
5%
P2P等
88%
*P2Pの対応件数が他の表示場所より圧倒的な件数のため、以降必要に応じ
P2Pの対応件数を除いての集計も行った。
(3)権利侵害別件数比率
権利侵害別件数比率では、プライバシー侵害、名誉毀損及び著作権侵
害の3つで権利侵害の大半を占める結果となった。その他の権利侵害に
ついては、具体的にどのようなものか今回の調査からは把握できなかっ
た。
・プライバシー侵害
・名誉毀損
・著作権侵害
・その他権利侵害
P2P含
441件
295
66
12
76
P2P除
36件
43
58
12
3.権利侵害の実体とその対応状況
権利侵害別件数比率(P2P含)
その他権利侵害
1%
著作権侵害
8%
プライバシー侵害
55%
名誉毀損
36%
権利侵害別件数比率(P2P除)
プライバシー侵害
24%
その他権利侵害
8%
著作権侵害
39%
名誉毀損
29%
(4)申立者別比率
権利侵害を受けた者(代理人弁護士を含む)からの申立てと第三者か
らの通報については、P2Pを除いた場合には30%を占めている。
77
3.権利侵害の実体とその対応状況
・権利者
・第三者
P2P含
758件
44
P2P除
93件
44
申立者別比率(P2P含)
第三者
5%
権利者
95%
申立者別比率(P2P除)
第三者
32%
権利者
68%
78
3.権利侵害の実体とその対応状況
(5)送信防止措置請求と発信者情報開示請求の比率
P2P含
P2P除
・送信防止措置請求
727件
75件
・発信者情報開示請求
31
18
送信防止措置請求と発信者情報開示請求比率(P2P含)
発信者情報開示
請求
4%
送信防止措置請
求
96%
送信防止措置請求と発信者情報開示請求比率(P2P除)
発信者情報開示
請求
19%
送信防止措置請
求
81%
79
3.権利侵害の実体とその対応状況
(6)送信防止措置請求に対する対応
送信防止措置請求に対する対応では、事業者が直接送信防止措置を採
っているのは、P2Pを含めると4%とかなり低くなっており、発信者
への注意喚起での対応が71%を占めている。P2Pを除くと直接送信
防止措置を採っているのが、25%と増えるが、発信者に何もしない比
率も増えている。
なお、ここでの事業者から発信者への照会は、プロバイダ責任制限法
3条2項2号に基づく照会だけでなく、単なる確認レベルの照会も含ま
れている。
ア.依頼に対しての対応比率と照会比率
P2P含
P2P除
・依頼件数合計
727件
75件
・事業者が直接送信防止措置採った
31
19
・事業者は送信防止措置採らなかった 696
56
・発信者に照会した
44
12
送信防止措置請求に対する対応比率(P2P含)
送信防止措置採っ
た
4%
送信防止措置採ら
なかった
96%
送信防止措置請求に対する対応比率(P2P除)
送信防止措置採っ
た
25%
送信防止措置採ら
なかった
75%
80
3.権利侵害の実体とその対応状況
発信者に照会した比率(P2P含)
照会した
6%
照会しなかった
94%
発信者に照会した比率(P2P除)
照会した
16%
照会しなかった
84%
イ.事業者が直接送信防止措置を採らなかった場合の対応
P2P含
P2P除
・発信者に送信防止依頼
43件
14件
・発信者に注意喚起
486
17
・発信者に何もしない
161
19
81
3.権利侵害の実体とその対応状況
事業者が送信防止措置を採らなかった場合の対応(P2P含)
発信者に送信防
止依頼
6%
発信者に何もしな
い
23%
発信者に注意喚
起
71%
事業者が送信防止措置を採らなかった場合の対応(P2P除)
発信者に送信防
止依頼
28%
発信者に何もしな
い
38%
発信者に注意喚
起
34%
(7)申立者のプロバイダ責任制限法の認知度
プロバイダ責任制限法の認知度ということでは、ガイドライン書式
を使用した申立てかどうかで判断した。P2Pを除いた送信防止措置
請求では、書式を使用した申立ては43%と高い数字になった。前述
の事業者相談センターへの相談では12%であることにかんがみれば、
アンケート記述の際に、書式がなかった場合の申立てのカウント洩れ
があったのではないかとも思われる。
82
3.権利侵害の実体とその対応状況
ア.送信防止措置請求でのガイドライン書式の使用の有無
送信防止措置請求でのガイドライン書式の使用(P2P除)
書式の使用有
43%
書式の使用無
57%
イ.発信者情報開示請求でのガイドライン書式の使用の有無
発信者情報開示請求でのガイドライン書式の使用(P2P除)
書式の使用有
33%
書式の使用無
67%
(8)権利侵害種別と侵害情報の表示場所の違いによる事業者の対応
送信防止措置請求に対する対応については、すべての権利侵害を含
めた全体の対応と、権利侵害種別と権利侵害情報の表示場所の相違に
よる特性があるかも知れないため、両方の観点から集計を行った。
著作権侵害の送信防止措置請求については、最初に信頼性確認団体
の認定が行われた時期が昨年9月末であり、アンケートの集計期間と
しては 1 ヶ月しかなかったにもかかわらず、
17件もの依頼があった。
権利侵害種別と表示場所の相違の表から、事業者が送信防止措置を
採っている場合は、ウェブページ上のプライバシー侵害や著作権侵害
が高く、名誉毀損は低くなっており発信者への照会が高くなっている。
83
3.権利侵害の実体とその対応状況
これは、ある表現が名誉毀損に該当するかどうかについて事業者の
判断が難しいことが原因と考えられる。
ア.事業者の対応内容別件数(事業者の対応は複数行われることがあるた
め、その合計数と送信防止措置請求件数は一致しない。)
送信防止措置請求件数
ウェブページ
/事業者の対応
プ
ラ
イ
バ
シ
│
送信防止措置請求件数
侵害情報表示場所
電子掲示板
7件
P2P ファイル交換
計
12件
400件
419件
事業者の対応
事業者が送信防止措置
3
1
12
16
発信者に送信防止依頼
3
0
27
30
発信者に注意喚起
1
7
316
324
発信者に照会
0
1
31
32
発信者に何もしない
0
4
45
49
12件
14件
245件
271件
事業者が送信防止措置
0
1
0
1
発信者に送信防止依頼
4
1
2
7
発信者に注意喚起
1
8
153
162
発信者に照会
5
4
1
10
発信者に何もしない
5
1
90
96
侵
害
送信防止措置請求件数
名
誉
毀
損
事業者の対応
送信防止措置請求件数
著
作
権
(信頼性確認団体から)
0件
7件
37件
(17)
事業者の対応
事業者が送信防止措置
14
0
0
14
発信者に送信防止依頼
6
0
0
6
発信者に注意喚起
0
0
0
2
発信者に照会
2
0
0
2
発信者に何もしない
9
0
7
16
侵
害
30件
84
3.権利侵害の実体とその対応状況
イ.送信防止措置請求に対する各対応内容の比率
送信防止措置請求件数
ウェブページ
/事業者の対応
プ
ラ
イ
バ
シ
│
侵害情報表示場所
電子掲示板
P2P ファイル交換
計
7件
12件
400件
419件
事業者が送信防止措置
43 %
8 %
3 %
4 %
発信者に送信防止依頼
43 %
0 %
7 %
7 %
発信者に注意喚起
14 %
58 %
79 %
77 %
発信者に照会
0 %
8 %
8 %
8 %
発信者に何もしない
0 %
33 %
11 %
12 %
送信防止措置請求件数
12件
14件
245件
271件
事業者が送信防止措置
0 %
7 %
0 %
1 %
発信者に送信防止依頼
33 %
7 %
1 %
3 %
8 %
57 %
62 %
60 %
発信者に照会
42 %
29 %
1 %
4 %
発信者に何もしない
42 %
7 %
37 %
35 %
送信防止措置請求件数
30件
(17)
0件
7件
37件
事業者が送信防止措置
47 %
0 %
0 %
38 %
発信者に送信防止依頼
20 %
0 %
0 %
16 %
発信者に注意喚起
0 %
0 %
0 %
5 %
発信者に照会
7 %
0 %
0 %
5 %
30 %
0 %
送信防止措置請求件数
事業者の対応
侵
害
名
誉
毀
損
著
作
権
事業者の対応
発信者に注意喚起
(信頼性確認団体から)
事業者の対応
侵
害
発信者に何もしない
*100 %
* 発信者にではなく、申立者に確認を行っているケースあり。
85
43 %
3.権利侵害の実体とその対応状況
(9)事業者が対応に苦慮している点等
プロバイダ責任制限法に係る代表的対応事例として46社(82事
例)から、対応に苦慮した点などフリー形式で記述していただいた事
項の中で、目に付いた点を以下に列挙する。
・他社の管理する電子掲示板への会員の書き込みに対する被害主張者
からの送信防止措置請求(IP アドレスと書き込み時間の提示有)に
対し、事実確認がとれない。
・誹謗中傷や告発など名誉毀損関係の請求に対し、発信者と被害主張
者の発言にギャップがあり、名誉毀損にあたるか判断に迷う(6件)。
・発信者情報開示をすべきかどうか判断に苦慮した。
・連絡のあった IP アドレスは、ネットワークサーバ(プロキシ)のた
め、発信者が特定できない。
・第三者からの著作権侵害の申立てに対し、どのような法的根拠に基
づき対応すべきか。
・ウェブページの侵害情報として指摘のあったファイルだけを削除す
るのが困難。
[以降P2P関連]
・事実確認ができない(17件)。
・当社が特定電気通信役務提供者に当るか疑問(8件)。
・権利侵害をしている該当ファイルのみ送信防止措置を採ることはで
きず、通信を遮断するしかないが、それが必要な限度といえるか疑
問(7件)。
・発信者への注意喚起に対しやっていないとの回答あり(5件)。
・ファイル交換ソフトでの発信者特定技術の精度向上が必要。
・事実確認が取れない案件への対応として、注意喚起もプロバイダが
行わなければならない状況は、責任の所在がはっきりしないのに行
うべきか、人道的なものであるにしろ判断に迷う。
86
3.権利侵害の実体とその対応状況
3.2.3 権利侵害の申出等及びその対応の具体的内容
ここで取り上げる権利侵害の申出等及び対応の具体的内容は、電気通信事
業者に行ったアンケートで提供していただいた代表的な事例である。
3.1で取り上げた事業者相談センターでの対応との相違は、実際の事業
者の対応であるため、最終的にどのような対応を採ったかまでがカバーされ
ている点である。これを見ると、各事業者によって類似の事例でも対応スタ
ンスに若干の相違があることがわかる。
なお、事業者相談センターに寄せられる相談としては、事業者が今までに
対応したことのないトラブルについてや、今まで対応したことはある事例で
あっても、これをプロバイダ責任制限法との関係でどのように考えればよい
か、といった相談が多い。
(1)プライバシー侵害関係
№1 申立内容
個人の写真や動画がウェブページ上に公開されていることに対し、本人
から、プライバシーを侵害されたとして、ガイドライン書式に基づく送信
防止措置依頼あり。
事業者の対応
連絡内容から個人の写真等が個人情報つきで掲載されているという事
実関係が確認できたため、事業者が該当ファイルを削除し、発信者は以後
同様の行為を行わない約束をしたが、再び同様の写真を掲載したため、再
度送信防止措置を採ったところ、退会の申請がきた。
№2 申立内容
会員開設ホームページにタレントの写真が無断で掲載されており、メー
ルや掲示板で注意を促したが一切応答がなかった、として、事業者に送信
防止措置請求の連絡があった。
連絡内容には特にプロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
画像が無断で使用していることが確認できたため、発信者に送信防止依
頼をし、削除していただいた。
87
3.権利侵害の実体とその対応状況
№3 申立内容
被害主張者から、会員開設ホームページに本人の写真が無断掲載されて
いる発信者に削除要請を行ったが、対応の気配が見えない、として、事業
者に削除申立てがあった。特にプロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
被害者と発信者が知人とのことなので、被害者から発信者に再度、ホー
ムページの削除要請について事業者や弁護士に相談していることを伝え
てもらったところ、発信者が該当ホームページを削除した。
№4 申立内容
他社の管理する電子掲示板上に、プライバシーを侵害された内容が掲載
されているので、事業者に対して、発信者を解約して欲しい旨の依頼あり。
特にプロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
被害主張者が非会員で本人確認がとれず、掲載内容と発信者のIPアド
レスの確認が全く取れないので、様子を見ることにした。
№5 申立内容
事業者の会員が管理する電子掲示板に、被害者を誹謗する内容のメッセ
ージと被害者の住所、氏名、電話番号が掲載されている、として、被害者
の親権者から、当該メッセージの削除と、刑事告訴及び損害賠償するため
に、発信者情報の開示要求があった。
事業者の対応
掲載メッセージは、事業者の会員規約に明白に違反しているので、事業
者が送信防止措置をとったが、被害者が警察に被害届を出し、警察による
88
3.権利侵害の実体とその対応状況
捜査が開始されたため、以降の対応は様子を見ることにした。
№6 申立内容
他社の管理する電子掲示板上に、事業者の会員が悪質な書き込みをした
ため、被害主張者からの送信防止措置の請求があった。連絡内容には、発
信者の情報(IPアドレス、書き込み時間)の提示もあった。
事業者の対応
事業者のサーバ上に掲載された情報ではなかったため、会員が間違いな
く行っている事実確認ができないが、会員に対して事実確認を含めて注意
喚起を行った。
№7 申立内容
法人開設のホームページに登録された個人情報が社内使用のためにサ
ーバに蓄積されていたところ、何者かにハッキングされ、そのアドレスが
某掲示板に投稿された。このサーバーをアクセスしたものに、事業者の会
員がいることが判明し、申立者からIPアドレスとタイムスタンプを付
け、プロバイダ責任制限法に基づき発信者情報開示請求があった。
事業者の対応
会員に確認したところ、本人はネットサーフィンをしただけとのことで
あったが、最終的に開示に同意したため、メールアドレスと名前を開示し
た。
89
3.権利侵害の実体とその対応状況
№8 申立内容
Web サイトから流出した顧客データを含むファイルがP2Pファイル
交換ソフト(WinMX)を使用して公開されていることに対し、プライ
バシーを侵害されたとする個人の代理人からのプロバイダ責任制限法に
基づく送信防止措置依頼。
依頼書には、発信者の情報(IPアドレス、アクセス時間、ファイル名等)
が添付されている。
事業者の対応
発信者(事業者の契約者)が間違いなく行っている事実確認ができない
が、被害主張者の申立て内容から判断すると事態は深刻であり、仮に事実
だとすると権利侵害情報がますます広がってしまう危険性があるため、契
約者に対して、事実確認を含めて注意喚起を行った。
注意喚起後、発信者から「覚えがない」「使っていない」等の回答があ
ったが、電話および書面による状況説明および再度の注意喚起を行った。
№9 申立内容
Web サイトから流出した個人情報がインターネット上で、P2Pファイ
ル交換ソフトWinMXを使用して自由に入手できる状態にしている会
員に対する送信防止依頼。
事業者の対応
発信元まで確認できても発信者が契約者かの確認も含め照会を行った
が、WinMXの使用は認めたものの、そうしたファイルが存在していた
かについては認めなかったので、注意喚起にとどめた。
№1 0 申立内容
P2Pファイル交換ソフトで、プライバシー情報を自由に入手できる状
態にしている会員に対する送信防止依頼。
90
3.権利侵害の実体とその対応状況
事業者の対応
明確な侵害を確認できず、発信者に対し、申立者から該当するデータの
削除の要望があったことを伝えた。
№1 1 申立内容
Webサイトから流出した顧客リストがP2Pファイル交換ソフトで
公開されていることに対し、プライバシーを侵害されたとする者の代理人
弁護士からの送信防止措置依頼。依頼書には発信者の情報(IPアドレス、
アクセス時間、ファイル名、共有ソフト名)などが添付。
事業者の対応
当該行為を行っている可能性が高いが、発信データの物理的場所が利用
者の敷地内にあり、送信防止措置を講じることができないため、当該会員
に対し、送信防止依頼を行った。
当該会員において、自主的に削除いただいている場合が大半であるが、
依頼に応じない者もある。
№1 2 申立内容
当社契約の二次プロバイダの会員がP2Pファイル交換ソフトでプラ
イバシー情報を公開していることに対し、当社が管理する特定電気通信設
備により媒介されている情報の流通により権利が侵害されたとして、当該
情報の送信を防止する措置を講じるよう申立てがされた。
事業者の対応
二次プロバイダの了解の元、申立者に対し、二次プロバイダ名を連絡し、
そこに申立てするよう連絡した。
91
3.権利侵害の実体とその対応状況
№1 3 申立内容
企業の顧客情報がP2Pファイル交換ソフト(WinMX)を使用して
公開されていることに対し、プライバシーを侵害されたとする者から送信
防止措置依頼。依頼書には発信者の情報(IPアドレス、アクセス時間、
ファイル名、共有ソフト名)等が添付されている。
事業者の対応
依頼書に添付されているIPアドレスは当社のネットワークサーバ(プ
ロキシ)のため、発信者が特定できず、様子を見ることにした。
№1 4 申立内容
被害者の名誉、プライバシーを侵害する画像および文字のファイルがP
2Pファイル交換ソフトを用いて交換されているとして、送信防止措置の
申立てが被害者の代理人弁護士からあった。
事業者の対応
発信者に対し、被害者から申立てがあった旨を伝えた。
№1 5 申立内容
申立者(非会員)のパソコンの中身を見られた。プライバシーを侵害さ
れたとして不正に被害者のパソコンをアクセスした会員の情報を開示し
て欲しいとの申立てがフリーメールアドレスからあった。また、その申立
てにはプロバイダ責任制限法の言及がある。
事業者の対応
事実関係の確認が取れないが、申立者の内容だけ会員に伝えた。
92
3.権利侵害の実体とその対応状況
(2)名誉毀損関係
№2 1 申立内容
ある公的な団体に対する誹謗中傷めいた内容を掲載している事業者の
会員開設のウェブページに対して、「掲載を差し止めるべきではないか」
との申立てが第三者からきた。
事業者の対応
公的な団体に対する内容だったため、言論の自由の範囲だと判断したた
め、発信者に対し何の対応もとらなかった。
名誉毀損(誹謗中傷)にあたるのか、公的機関に対するコメントであるの
かの判断が難しい。
№22申立内容
某大学の内部資料が、事業者の会員開設ホームページで公開されている
事に対し、同大学より送信防止措置依頼。依頼書には、当該ホームページ
のURLが記載され、そのハードコピーが添付されている。
事業者の対応
当該会員の連絡先もはっきりしており、本人に削除してもらう方が、権
利侵害についての重要さを理解していただけると判断し、送信防止措置を
依頼した。
№23申立内容
事業者の会員開設ホームページに対し、会社の名誉を毀損するものなの
で削除の要請あり。
プロバイダ責任制限法のガイドライン書式に基づいた申立。
事業者の対応
名誉を毀損する事実関係の確認が取れない。
掲載は事実に基づいた内容である可能性が高く、それらを削除するのは
93
3.権利侵害の実体とその対応状況
不適当であったため、発信者に対し何の対応も採らなかった。
表現の自由と名誉毀損の区分けが難しい。
№24申立内容
事業者の会員開設のホームページに名誉毀損・信用毀損にあたる発言が
掲載されていることに対する削除要求。
プロバイダ責任制限法のガイドライン書式に基づく申出。
事業者の対応
いわゆる告発サイトであり、後に違法性が阻却される可能性があったの
で、発信者に対して何の対応もとらなかった。
申立者に対しては、送信防止措置を講じない旨の通知をした後、反応なし。
№25申立内容
事業者会員開設のホームページに、申立者を誹謗する内容が掲載されて
いることに対する削除要求。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
良し悪しの判断が難しいため、被害者とされる者からの要求にそう形で、
発信者に送信防止依頼した。
№26申立内容
事業者の会員の開設するホームページに被害主張者を名誉毀損した部
分が掲載されている。侵害防止措置を講じるか、発信者情報を開示して欲
しい。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
侵害情報防止措置を即座に講ずるほどの違法性を見受けられなかった
94
3.権利侵害の実体とその対応状況
ので、とりあえず被害主張者の了承のもと、侵害防止の依頼事項を発信者
に伝え、判断を求めた。
発信者に照会した段階で任意に情報を削除した。
№27申立内容
事業者の会員が開設するウェブページに、ある会社及び当該会社の代表
者に対する名誉毀損の内容が掲載されているとして、被害主張者からの送
信防止措置請求と発信者情報開示請求。
プロバイダ責任制限法ガイドライン書式に基づく申立。
事業者の対応
名誉毀損は、内容の真実性を問うものであり、事業者では判断できない
ので、発信者に照会を行い、発信者が自主的に削除を行った。
申立者側に、プロバイダ責任制限法の内容、趣旨についての誤解があっ
た。
№28申立内容
掲示板管理者の発言内容に対し、他人の権利の不当な侵害(名誉毀損)
の記載がある、として送信防止請求がされた。プロバイダ責任制限法の言
及はない。
事業者の対応
該当する箇所を確認したが、特に他人の権利が不当に侵害されたとは認
められないと判断したため、申立者に対しその旨回答。
発信者、申立者ともに了解した。
95
3.権利侵害の実体とその対応状況
№29申立内容
事業者の管理する電子掲示板に、名誉毀損に当たる発言があるとして、
被害主張者(事業者の会員)から、プロバイダ責任制限法のガイドライン
書式を用いて、送信防止措置請求がされた。なお、発信者も事業者の会員
である。
事業者の対応
発信者への照会を行い、当該発言が申立者の名誉を毀損するとは判断で
きなかったし、当該掲示板利用者の大半の意見も同様であった。
このため、発信者に対して何の対応もとらなかった。
申立者には、送信防止措置を講じない旨の通知をした後、反応はなし。
№30申立内容
他社会員の管理する電子掲示板で、掲示板が荒らされた。発信者が事業
者の会員であったことから、送信停止措置をして欲しいとの依頼がされ
た。なお、プロバイダ責任制限法に言及している。
事業者の対応
連絡内容がIPアドレスだけで掲載内容の確認がまったく取れなかっ
たので、発信者に対して何の対応もとらなかった。
№31申立内容
他社の管理する電子掲示板で、女性の名誉を毀損する書き込みがあり、
掲示板の書き込みログから事業者の管理するIPアドレスと判明したと
して、送信防止措置と発信者情報開示請求があった。
依頼内容に特にプロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
該当するIPアドレスは事業者のデモ環境の設置端末であった。不特定
多数が利用可能なことから発信者の特定が不可能であったが、デモ環境を
撤去した。
96
3.権利侵害の実体とその対応状況
申立者からは、発信者に対して法的措置を取る旨の連絡があったが、デ
モ環境からの書き込みであったことを伝え、理解していただいた。
№32申立内容
他社プロバイダの管理する掲示板で、悪質な書き込み(誹謗中傷)が行
われた件で、他社プロバイダを通して、発信者に対し事業者より注意をす
るよう求めてきた。書き込みが行われていたURLが記載されている。
事業者の対応
事実関係を明らかにするため、発信者への照会を行った。
また、書き込みログが添付されていたため、不正な書き込み(誹謗中傷)
を行った発信者に対し注意喚起した。
さらに、発信者には、事業者より注意を促した旨をメールで伝えた。
№33申立内容
他社が管理する電子掲示板に人権上問題のあると思われる書き込みが
なされたことに対し、基本的人権、名誉等を侵害されたとする本人からガ
イドライン書式に基づく発信者情報の開示依頼があった。
事業者の対応
発信者情報を開示すべきか判断に苦慮したが、発信者本人の同意が得ら
れたので開示に応じた。
№34申立内容
当社の会員が、他社会員が管理する電子掲示板で、誹謗中傷したことに
対して、被害申立者からメールで発信者情報開示の請求があった。
事業者の対応
ガイドライン書式に基づかない申し出であり、再三の情報開示請求を要
97
3.権利侵害の実体とその対応状況
求されたが、当社経由でのお詫びと当該発信者に注意喚起することで、解
決した。
№35申立内容
当社会員が他社会員の管理する掲示板で、他人の名前を掲載して誹謗中
傷したことに対し、被害主張者からメールで発信者の情報開示の申立てが
された。
申立内容に、特にプロバイダ責任制限法への言及は見当たらない。
事業者の対応
依頼のあった情報を元に、会員の特定をしようとしたが、すでに投稿か
ら 1 ヶ月が経過していたため、特定不可能であった。
このため、被害主張者には、その旨回答した。
№36申立内容
他社管理の掲示板で、当社会員と思われる者による申立者を誹謗中傷す
る書き込みがあったとして、当該発信者情報の開示請求があった。
プロバイダ責任制限法の言及はされている。
事業者の対応
申告内容に対応した侵害情報の流通の確認ができなかったため、発信者
に対しては何の対応もとらなかった。
98
3.権利侵害の実体とその対応状況
№37申立内容
被害者が開設するBBS上に、誹謗中傷を繰り返す者がおり、その都度、
発言の削除を行わなければならず、正常な運営を妨げ業務妨害を受けてい
る。
書き込み者に対して、損害賠償請求の訴えを準備中であるとして、弁護
士法第23条の2に基づく、加入者に関する照会があった。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
当社では、権利侵害にあたるか判断できないが、申立内容から、権利侵
害のおそれがある行為と判断し、当社サービス契約約款の規定に基づき、
会員に対し、注意警告を行った。
その後の書き込みは行わなくなった。
また、弁護士法23条の2に基づく照会のため、電気通信事業法の通信
の秘密の規定に抵触するおそれがあるため、当該照会には応じないことと
した。
№38申立内容
他人が自分のメールアドレスでウィルス感染メールを送信しているた
め、見知らぬ人から苦情を受けた者から、メールの送信元サーバの管理者
である当社に対し、サーバでブロックできないのか申立てがあった。
事業者の対応
さらにウイルスをばら撒く可能性があったため、当社で送信元を特定
し、実際のウイルス送信者に送信防止依頼した。
№39申立内容
誹謗中傷を掲載した掲示板を見るよう案内した電子メールを送信(メー
ル自体は誹謗中傷でない)している当社会員に対し、プロバイダ責任制限
法に基づき対応するよう依頼があった。
99
3.権利侵害の実体とその対応状況
事業者の対応
プロバイダ責任制限法の対象外のため、プロバイダ責任制限法に基づい
た措置は行えないが、会員規定でユーザ対応が必要と判断した場合は、会
員規定に基づき対応している。
(3)著作権侵害関係
№45申立内容
当社会員が開設しているホームページに掲載されている写真に対し、第
三者から著作権侵害ではないかとの申立があった。
事業者の対応
掲載写真が、本人又は所属事務所等の許可を得ているのか判断できなか
ったので、発信者に照会したところ、当社のサーバからは削除したが、他
社ISPのサーバに移動した模様である。
№46申立内容
当社会員が開設のホームページに対し、掲載しているゲームは自社の製
品であるとして削除要求があった。
プロバイダ責任制限法への言及はなかった。
事業者の対応
掲載している意図が判断しかねたため、発信者への照会を行ったとこ
ろ、発信者が自主的に削除した。
№47申立内容
当社会員開設のホームページに、ある者の商標権が設定された名称を使
用した掲載したページがあることに対し、商標権を侵害されたとする者か
らの送信防止措置依頼があった。
100
3.権利侵害の実体とその対応状況
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
当該会員に対し、申出内容を伝え削除するよう求めたが、しかるべき措
置を講じなかったため、当社において顧問弁護士と相談し、当該ホームペ
ージを削除した。
№48申立内容
当社会員開設のホームページ上に著作権侵害のmidiファイルが掲
載されているとして、信頼性確認団体から送信防止措置の請求があった。
ガイドラインの書式に基づく申立てがされた。
事業者の対応
指摘のあったファイルがあることを確認し、まず発信者2名に自主削除
を求めた。ガイドラインから速やかに削除する必要があるため、翌日まで
に削除されなかった片方は当社で削除した。
№49申立内容
会員開設のホームページに対し、ある信頼性確認団体から、当該団体の
管理する著作物に係る、著作権法第21条(複製権)及び第23条(公衆
送信権)を侵害されているので、送信防止措置を講じて欲しいとの依頼が
あった。
送付書類には、信頼性確認団体からの申立てであることがわかるガイド
ラインの書式がついていた。
事業者の対応
信頼性団体からの申立で、著作権侵害であることが明確なため、届いた
書面を確認して、該当ファイルだけを事業者が削除するには困難であった
ので、ホームページ全体を一時的に、他者が閲覧できない状態にし、その
後、発信者にメールで連絡をとり削除していただいた。
101
3.権利侵害の実体とその対応状況
№50申立内容
会員開設の着メロダウンロードサイトに対し、信頼性確認団体から、ガ
イドライン書式に基づき、送信防止措置の依頼があった。
事業者の対応
信頼性確認団体からであったため、同様の事案の再発防止も含め、発信
者に対し、注意喚起を行った。
№51申立内容
二次プロバイダの会員が開設しているホームページについて、当社に対
して、第三者から著作権違反の疑いのある画像の添付があるとの連絡があ
った。
プロバイダ責任制限法への言及はない。
事業者の対応
第三者からの著作権侵害の疑いに関する連絡であったため、通報者に対
しては、連絡のあった情報を元に対応するとのみ回答し、二次プロバイダ
に対して通報内容を転送した。
後日確認したところ、該当ページは自主削除されていた。
№52申立内容
当社会員の開設ホームページに対し、プロバイダ責任制限法のガイドラ
インの書式により、損害賠償請求権及び差止請求権の行使を理由とする氏
名または名称、住所、メールアドレス、IPアドレス及びタイムスタンプ
の開示請求があった。
事業者の対応
法の規定に則った対応で、発信者への照会を行い、その結果、発信者か
ら同意が得られたので、申立者に開示した。
102
3.権利侵害の実体とその対応状況
№53申立内容
当社会員が、著作権侵害になる映像ファイルをP2Pファイル交換ソフ
トを使用して公開していることに対し、著作権を持っていると主張する団
体から送信防止措置依頼があった。
事業者の対応
当社では、会員が間違いなく該当のファイルを発信しているという事実
関係が確認できないので、弁護士と相談して、再度申立者に確認を行った
ところ、何の連絡もなかったので、発信者に対し何の対応もとらなかった。
№54申立内容
二次プロバイダの会員が、P2Pソフト(グヌテラ)上で、権利者の許
諾を得ずに著作物を公開していることに対し、当社に(IPアドレスは当
社保有のため)送信防止措置の請求があった。
申立者は海外の者である。
事業者の対応
二次プロバイダに確認後、申立者に対して二次プロバイダ名とその会員
であるので、二次プロバイダに対して申立てるよう回答した。
その後、当社に連絡はないし、二次プロバイダにもない模様。
№55申立内容
当社会員の開設ホームページに対し、プロバイダ責任制限法のガイドラ
インの書式により、損害賠償請求権及び差止請求権の行使を理由とする氏
名または名称、住所、メールアドレス、IPアドレス及びタイムスタンプ
の開示請求があった。
事業者の対応
法の規定に則った対応で、発信者への照会を行い、その結果、発信者か
ら同意が得られたので、申立者に開示した。
103
3.権利侵害の実体とその対応状況
№5 6申立内容
当社の会員がSPAMメールを送信していることに対し、プロバイダ責
任制限法に基づき対処して欲しいとの依頼があった。
事業者の対応
SPAMメールはプロバイダ責任制限法の対象とするところではない
が、SPAMメール送信の確認が取れたため、通常の会員規約での対応を
行った。
104
4.苦情についての事例
4.苦情についての事例
プロバイダ責任制限法に基づく法的措置についての実態を調査する上では、
その背景として、日常的にISP事業者に寄せられる苦情の動向を把握する
ことが必要であるとの認識から、
(社)テレコムサービス協会の会員事業者を
対象に調査を行ったものである。
調査結果のとりまとめに当っては、苦情の背景にある問題に即したカテゴ
リーに分類した上で、分析検討も加えた。
従って、本章では、プロバイダ責任制限法の背景となる苦情の実態を把握
するにとどまらず、それに対する対応の方向性も明らかにし、日常の業務に
活用いただけるよう、以下のように取りまとめたものである。
4.1
名誉毀損・プライバシー侵害
4.1.1
全体の傾向
(1)苦情・クレームの類型
寄せられた苦情・クレームの事例を、対象となる情報の発信形態に着目
して分類すると、概ね以下のとおりとなる。苦情・クレームの内容(要求
内容)は、情報の削除、情報の発信者の住所・氏名の開示・強制退会であ
った。
① 会員が、自社が提供するホームページ開設サービスを利用して開設したホ
ームページの内容や電子掲示板に書き込んだ文章に関する苦情・クレーム
② 会員が、ファイル交換ソフトを利用してインターネット上で行なっている
と思われる情報の授受に関する苦情・クレーム
*
「会員が、自社のアカウントを利用してインターネットに接続し、他者
の管理する掲示板に書き込んだ文章に関する苦情・クレーム」は、なかった。
(2)全体の傾向
・
昨年5月にプロバイダ責任制限法が施行された関係から、同法に言及し
た苦情・クレームが寄せられたが、情報の削除等の要請を受けたプロバイダ
ーには要請に応えなければならない義務が生じると誤解しているケースや、
データの保全や会員資格の停止等も同法に基づき請求できると誤解してい
るケースがあった。施行から間がないことから、同法の趣旨が必ずしも正確
に理解されていないと考えられる。
・
また、同法に言及してはいるものの、「侵害情報の通知書兼送信防止措
105
4.苦情についての事例
置依頼書」あるいは「発信者情報開示依頼書」を使用した申し入れはなく、
同書を使用して再度具体的に申し入れてほしい旨を伝えると、その後コンタ
クトがなくなる。事例を収集した時期が施行から間がないことから、同書が
普及していないと考えられる。また、寄せられた事例に限っていえば、同法
に基づく救済が必要なレベルには達していなかったものとも推測される。
・
上記②のケースは、第三者に漏洩した個人情報がインターネット上で流
通していることが背景にあると推測される。後述のとおり、このようなケー
スでは、ホームページ等とは異なり、対象となる情報の内容を確認できない
ため、権利侵害性や違法性を検討することが困難であることから、対応に苦
慮することが多いと考えられる。
4.1.2
対応の方向性等
苦情・クレームの背景や情報発信の形態等は様々であり、対応の方向性
は事例毎に異なるのが通常であるが、今年度寄せられた事例にみられる対
応方針を、上記4.2.1の各類型ごとにみると以下のとおりである。
①の類型
・
実社会における取引を巡るトラブルに端を発し、ホームページの削除
(閉鎖)や開設者の住所、氏名の開示等を求められたケースでは、相手先へ
の連絡手段を有していると考えられるところから、当事者間解決へ誘導した。
電子掲示板上の紛争に端を発し、相手方の住所、氏名等の開示を求められた
ケースでも、通報者も激烈な調子で反論しているところから当事者間解決へ
誘導した。
(削除を行なうことだけがプロバイダーの取るべき措置ではなく、
警告や当事者間解決への誘導などのように削除以外の措置であっても、解決
に資する場合もあると考えられる。)
・
発信者情報(住所、氏名)の開示を求められたケースでは、発信者情報
開示依頼書を使用して再度具体的に申し入れてほしい旨を伝えた。
・
電子掲示板で自分を誹謗中傷した会員の強制退会を求められたケース
では、被害届を出し当該会員が逮捕、略式起訴されており、起訴の事実が確
認できたので、強制退会処分を講じた。
②の類型
・
侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書を用いずに送信防止措置を講
ずるよう要求されたケース。IP アドレスとタイムスタンプの提示があった
ので、一応該当の会員を特定することはできたが、ホームページや BBS への
書き込みと違って、当該会員が本当に違法性のある情報の送受信を行なって
いるのかを確認する術がないため、そのような通報があった旨を通知するに
106
4.苦情についての事例
とどまった。(違法な情報のやり取りを中止させるには、現時点では会員資
格を停止する以外に方法がないが、違法性の確認ができないのに、会員資格
の停止のように重大な措置を講ずることは困難である。)
4.1.3
関連事項
(1) 違法・有害情報に関する通報を受けたときの対応の方向性については、
以下のガイドラインを参照されたい。また、契約約款において禁止事項、
禁止事項が行なわれたときの制裁措置を予め明確に定めておくことが望
ましい。約款類の整備には、以下のサイトを参考にされたい。
・インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライ
ン
http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.html
・インターネット接続サービス契約約款モデル条項( α版)
http://www.telesa.or.jp/html/model/model̲index.htm
(2) 通報元がプロバイダ責任制限法に関する知識が十分でない場合や、
「侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書」あるいは「発信者情報開示依
頼書」を使用した申し入れを求める場合は、以下のサイトを参考にされた
い。
・プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会
http://211.0.28.19/01provider/index̲provider.html
・総務省が公表した同法の解説
http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html
(3) 不用意に自分の住所、氏名、電話番号等を他者に開示すること、ある
いはこれらの情報が他者に知られることが、プライバシー侵害につながる
ケースもあると考えられるところから、ユーザー(特に子供)に対して、
自分の情報の管理及び他人の情報の取り扱いに関する注意を喚起し、被害
者にならないだけでなく、加害者にもならないよう啓発していくことが重
要である。この点、以下のサイトを参考にされたい。
・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会)
http://www.telesa.or.jp/html/990426.htm
・インターネットを利用する方のためのルール&マナー集(インターネッ
ト協会)
http://www.iajapan.org/rule/
107
4.苦情についての事例
・親子でたのしむインターネット(日本ルーテル・アワー)
http://www.jlh.org/me/page2.html
4.1.4
事例
No.1 事例タイトル:自社を誹謗中傷するホームページの削除の要求
苦情等の内容:自分が経営する会社を誹謗中傷する内容のホームページ
が開設されている。
(URL の指定あり)新しい法律により、
プロバイダーは問題のあるホームページを削除しなけれ
ばならなくなった、と聞いているので、すぐにそのホー
ムページを削除してほしい。
苦情元の属性:一般ユーザー(非会員)
関係する自社サービス:自社のサービスは関係していない。
対応の方向性:該当のホームページを確認したところ、他のプロバイダ
ーのサービスを利用して開設されたホームページだった
ので、その旨を伝えるとともに、削除を要求する場合は、
当該プロバイダーに申し入れてほしい旨を併せて伝えた。
その後、接触はない。
検討課題:
「新しい法律」が、プロバイダ責任制限法を指している
のは明らかだが、削除等の要求を受けるとプロバイダー
には要求に応えなければならない義務が生じるとの誤解
あり。同法の趣旨について、正確な普及が望まれる。
No.2 事例タイトル:会員が開設したホームページに係わる削除等の要求
苦情等の内容:御社の会員が開設したホームページに、当社に対するい
われのない誹謗が含まれている。プロバイダ責任制限法
に基づき、当該ホームページの開設者に適切な法的措置
を講ずるため、以下の対応をお願いしたい。(URL の指定
はあったが、誹謗にあたる部分の指定はなかった。)
1.誹謗にあたる部分の掲載日時の開示
2.当該ホームページの閉鎖、及びデータの保全
3.当該ホームページ開設者の会員資格の停止
4.当該ホームページ開設者の住所、氏名の開示
5.当該ホームページのデータが蓄積されたサーバの所
在地の開示
苦情元の属性:一般ユーザー(非会員)
108
4.苦情についての事例
関係する自社サービス:ウェブホスティング(ホームページ開設サービス)
対応の方向性:当該ホームページを閲覧したところ、通報者が誹謗にあ
たると考えているらしい部分が1箇所見つかったが、実
社会における取引を巡るトラブルについて触れたもので
あり、直ちに違法ないし権利侵害にあたるとは考えられ
なかった。
また、通報者とホームページ開設者の間には実社会で接点
があると思われ、当該ホームページには開設者のメールア
ドレスが表示されており、開設者に直接申し入れることが
可能な状況に見受けられた。
このような事情から、以下の趣旨の回答を伝えたところ、
その後コンタクトはなかった。
・当事者間で解決を図ってほしい
・現状では、送信防止措置及び発信者情報の開示の要求に
は応じられない。
・その他の要求には、法的根拠がないので応じられない。
No.3 事例タイトル:掲示板上の小競り合い
苦情等の内容:御社が運営する掲示板に私を攻撃する発言を繰り返し書
き込んでいる御社会員の住所、氏名を開示してほしい。
苦情元の属性:一般ユーザー(非会員)
関係する自社サービス:掲示板(非会員も書き込みを行なうことが可能)
対応の方向性:当該掲示板を見たところ、通報者と思われる人物も応酬
しており、一方的に攻撃されているわけではなかったこ
とから、当事者間で解決するよう求めたところ、その後
コンタクトはなかった。
No.4 事例タイトル:プライバシー侵害
苦情等の内容:掲示板に、虚偽を書き込まれ写真まで載せられた。裁判
を起こすので、プロバイダ責任制限法に基づき、会員情
報を開示してほしい。
苦情元の属性:一般ユーザー(非会員)
関係する自社サービス:掲示板
対応の方向性:裁判を起こすことは、プロバイダ責任制限法に基づく発
信者情報開示請求権の要件(正当な理由)を満たすと考
えられるが、具体的な書き込みの特定や侵害されたとす
109
4.苦情についての事例
る権利の説明がなされていなかったため、テレサ協のホ
ームページに掲載されている「侵害情報の通知書兼送信
防止措置依頼書」書式を用いて再度申し入れてほしい旨
を伝えたところ、その後、コンタクトはなかった。
No.5 事例タイトル:誹謗・中傷
苦情等の内容:自分を誹謗する書き込みが行なわれた件に関し、被害届
を出したところ、書き込みを行なった人物は逮捕され、
略式起訴された。ついては、この人物を強制退会させて
ほしい。
苦情元の属性:一般ユーザー(会員)
関係する自社サービス:掲示板
対応の方向性:略式起訴の関係書類が送られてきたので内容を確認した
ところ、会員規約違反が認められたので、退会措置を講
じた。
No.6 事例タイトル:プライバシー侵害2
苦情等の内容:御社の会員が、当社ホームページにアクセスし、当社の
顧客リストをダウンロードし、ファイル交換ソフトを使
って、インターネット上でやり取りしている可能性があ
るので、送信防止措置を講じてほしい。
(プロバイダ責任
制限法への言及はあったが、
「侵害情報の通知書兼送信防
止措置依頼書」書式を用いた申入れではなかった。)
苦情元の属性:一般ユーザー以外(弁護士)
関係する自社サービス:インタ−ネット接続
対応の方向性:IP アドレスとタイムスタンプが提示されたので、一応、
該当の会員の特定はできたが、事実確認ができないので、
要請の内容を伝えるにとどまった。
対応に苦慮した点:直接の原因は、顧客リストのような重要な情報が誰
でもアクセスできる場所に置かれていたことであるが、
このような要求を受けたとき、プロバイダーとしてどこ
まで対応するべきか判断が難しい。特に、ホームページ
や掲示板等と異なり、対象となる情報の中身が確認でき
ないため、対応するとしても現時点では本件のように警
告を行なうのが限界ではないだろうか?
110
4.苦情についての事例
4.2
著作権侵害
4.2.1
全体の傾向
(1)苦情・クレームの類型
苦情・クレームの事例を、対象となる情報の発信形態に着目して分類す
ると、以下のとおりとなる。苦情・クレームの内容(要求内容)は、情報
の削除(送信防止措置)、情報の発信者の住所・氏名の開示であった。
①会員が、自社が提供するホームページ開設サービスを利用して開設したホー
ムページの内容に関する苦情・クレーム
② 会員が、ファイル交換ソフトを利用してインターネット上で行なっている
と思われる情報の授受に関する苦情・クレーム
*
「会員が、自社のアカウントを利用してインターネットに接続し、他者
の管理する掲示板に書き込んだ文章に関する苦情・クレーム」は、なかった。
(2)全体の傾向
・ 上記①のスキーム自体は、従来より苦情の対象となっていたが、昨年5
月にプロバイダー責任制限法が施行されたのに伴い、同法に基づき発信者
情報の開示を請求されたケースや、信頼性確認団体からプロバイダ責任制
限法ガイドライン等検討協議会所定の書式を用いて送信防止措置を要求
されたケースが含まれている。
・ 上記②のケースでは、ホームページ等とは異なり、対象となる情報の内
容を確認できないため、権利侵害性や違法性を検討することが困難である
ことから、対応に苦慮することが多いと考えられる。
4.2.2
対応の方向性等
今回寄せられた事例にみられる対応方針を、上記1の各類型ごとにみる
と以下のとおりであるが、著作権侵害の場合は、名誉毀損・プライバシー
侵害のカテゴリーと異なり、信頼性確認団体から送信防止措置の依頼が寄
せられることがある。
(信頼性確認団体については、4.2.3(4)を参
照されたい。)
①の類型
・信頼性確認団体から送信防止措置を依頼されたケースでは、該当の Web
ページを閲覧し、明らかな対象情報の誤解等が認められなかったので、
111
4.苦情についての事例
権利侵害に該当するとの前提で対応を行なった。
・プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を受けたケースでは、
証拠書類等から、請求者が著作権者であることや対象となる情報の確認
ができたので、同法に基づき該当の利用者に対して、発信者情報開示に
係る意見照会を行なった、
②の類型
・ 侵害情報の通知書兼送信防止措置依頼書を用いずに送信防止送信措置を
講ずるよう要求されたケース。IP アドレスとタイムスタンプの提示があ
ったので、一応該当の会員を特定することはできたが、ホームページや
BBS への書き込みと違って、当該会員が本当に違法性のある情報の送受信
を行なっているのかを確認する術がないため、そのような通報があった旨
を通知し、通報どおりの行為を行なっていたとしたら著作権侵害にあたる
ので止めるように求めるにとどまった。(違法な情報のやり取りを中止さ
せるには、現時点では会員資格を停止する以外に方法がないが、違法性の
確認ができないのに、会員資格の停止のように重大な措置を講ずることは
困難である。)
著作権侵害に関する申し入れを受け対応を検討するに際し、例えば、We
bページに複数のファイルがアップロードされていて、全てのファイルにつ
き著作権侵害が明らかな場合等は、苦慮することは少ないと考えられるが、
当該Webページ上のファイルの一部について申し入れを受けた場合等は
利用者の表現の自由やサービス利用契約上の権利への配慮から、対応に苦慮
することが少なくないと考えられる。送信防止措置の対象となる情報は、著
作権侵害に該当することが明らかなものに限定されるべきであるが、大半の
ファイルが著作権侵害に該当することが明らかな場合等はWebページそ
のものを著作権侵害と評価し得る可能性がある。対応にあたっては、条発信
の形態等を考慮し慎重な検討が必要である。
4.2.3
関連事項
(1) 著作権侵害に関する苦情を受けた時の対応の方向性については、以下の
ガイドラインを参照されたい。また、契約約款において禁止事項、禁止事
項が行われた時の制裁措置を予め明確に定めておくことが望ましい。約款
類の整備には、以下のサイトを参考されたい。
・インターネット接続サービスなどにかかる事業者の対応に関するガイド
ライン
112
4.苦情についての事例
http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.htmal
・インターネット接続サービス契約約款モデル条項(α版)
http://www.telesa.or.jp/html/model/model̲index.htm
(2) 著作権侵害(おそれのある場合を含む)に関する具体的な対応を検討す
るにあたっては、プロバイダ責任制限法に関する以下のサイトを参考にさ
れたい。
・プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン(プロバイダ責任制限法ガ
イドライン等検討協議会)
http://211.0.28.19/01provider/index̲provider.html
・総務省が公表した同法の解説
http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html
(3)ホームページを作成およびインターネット上で通信をする際、他人の著
作物の取り扱いに関する注意を喚起し、他人の著作権を侵害しないよう啓
発していくことが重要である。この点、以下のサイトを参考されたい。
・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会)
http://www.telesa.or.jp/html/990426.htm
・インターネットを利用する方のためのルール&マナー集(インターネッ
ト協会)
http://www.iajapn.org/rule
(4)著作権侵害においては、信頼できる第三者が一定の信頼できる手続きに
より著作権侵害を確認している場合には、社会的に見ても本人性等の確認
ができていると判断できると考えられる。プロバイダ責任制限法ガイドラ
イン等検討協議会では、著作権関係ガイドラインにおいて、著作権者等と
一定の関係にあり、一定の基準を満たすものを信頼性確認団体と位置付け
ている。
(当該基準については、上記(2)のガイドラインを参照されたい。)
昨年9月末の時点で、7団体が信頼性確認団体に認定されているので、以
下のサイトを参照されたい。
・信頼性確認団体の第1回認定について(プロバイダ責任制限法ガイドライ
ン等検討協議会)
http://211.0.28.19/01provider/index̲provider̲020930.htm
なお、信頼性確認団体が、申出者の本人性や著作権者等であることを確
認し、併せて著作権等の侵害を確認し、著作権関係ガイドライン所定の書
式の適切にその確認をした旨の書面等を添付している場合には、プロバイ
113
4.苦情についての事例
ダ等は、当該書面等を確認することで適切な確認がなされていると判断で
きると考えられている。
4.2.4
事
例
No.1
事例タイトル :会員ホームページによる著作権侵害(アニメーション)
苦情などの内容
:海外のアニメーションの映像がホームページ
上で使用され、著作権違反となる旨の通報を受けた。
(削
除等の対応の要求)
苦情元の属性 :一般ユーザ以外
関係する自社サービス:ウエブホスティング
対応の方向性 :確認したところ、既に問題のファイルはサイト上に
なく、開設自ら削除した模様。
検討課題
:特になし。
No.2
事例タイトル :会員ホームページによる著作権侵害(出版物)
苦情などの内容:会員が開設したホームページに自社の出版物を無断で
掲載した部分が含まれており、著作権法第 23 条の公
衆送信権(送信可能化権を含む)が侵害されたとして、
プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会所
定の書式(発信者情報開示依頼書)により、発信者情
報の開示を請求された。証拠書類として、ホームペー
ジの該当箇所のプリントアウト及び当該出版物の該
当箇所のコピーが添付されていた。
苦情元の属性 :一般ユーザ以外
関係する自社サービス:ウエブホスティング
対応の方向性 :依頼書及び添付された証拠書類を検討した結果、プロ
バイダ責任制限法第 4 条第 1 項の発信者情報開示請求に
当たると考えられるので、同法第 4 条第2項に基づく発
信者情報開示に係わる意見照会をプロバイダ責任制限
法ガイドライン等検討協議会所定の書式を用いて行っ
た。その結果、ホームページ開設者より、発信者情報の
開示に同意する旨の回答を得たので、請求者に当該発信
者情報を開示し、当事者間に解決を委ねることとした。
検討課題 :発信者情報の開示について同意が得られなかった場合は、
プロバイダーが権利侵害の明確性等を検討し、開示請求に
114
4.苦情についての事例
応じるか否かを慎重に決定しなければならないが、この検
討には困難な場合が多いと思われる。
No.3
事例タイトル :会員ホームページによる著作権侵害(音楽著作物)
苦情などの内容:会員が開設したホームページに信頼性確認団体が著作
権を有する著作物が無断で掲載されており、著作権法
第 21 条の複製権、同題 23 条の公衆送信権(送信可能
化権を含む)を侵害しているとして、プロバイダ責任
制限法ガイドライン等検討協議会所定の書式(著作物
等の送信を防止する措置の申出について)により、当
該著作物の送信を防止する措置を講ずるよう求めら
れた。添付書類として、権利を侵害されたとする著
作物のリスト(作詞者、作曲者、音楽出版社等)が添
付されていた。
苦情元の属性 :一般ユーザ以外
関係する自社サービス:ウエブホスティング
対応の方向性 :該当ホームページにアクセスしたところ、信頼性確認
団体の申し出が事実であることが確認できたが、会員が
開設したホームページの内容については、会員自身に責
任を負ってもらう方針でサービスを提供しているので、
弊社側での削除等の措置を講じるのではなく、期限を指
定して、リストに記載された音楽著作物を削除するよう、
開設者に求めた。その結果、開設者は該当のホームペー
ジを閉鎖した。
検討課題
:特になし
No.4
事例タイトル :peer‑to‑peer ソフトウエアによる情報の送受信に対
する著作権侵害の苦情
苦情などの内容:当社会員が Gunutella(peer‑to‑peer ソフトウエア)
を利用して権利者の承諾を得ずに、動画データ(The
Simpsons)を頒布していることに関する著作権侵害の
苦情。
苦情元の属性 :一般ユーザ以外
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性 :申告者は、係る行為に関して当該会員への
1. アクセスを不能にすること
115
4.苦情についての事例
検討課題
4.3
2. 会員規約に基づいた適切なアクション
を当社に要求しているが、peer‑to‑peer ソフトウエア
による行為であるため当社では、その事実関係を確認で
きない。そのため苦情申告だけに基づいて1の処置はで
きないので、2 に対する処置が適当と判断し、当該会員
に対し電話とメールで「苦情がある旨の連絡」と「事実
であれば著作権侵害行為の中止のお願い」を行った。
:最近、peer‑to‑peer ソフトウエアによる著作権侵害や
名誉毀損の苦情が多くなっているので、かかる苦情申告
に対する「取り扱い基準」を検討する必要性がある。
取引を巡るトラブル
4.3.1
全体の傾向
オークション等のオンライン上の取引において何らかのトラブルが生じ
た場合に、相手方が契約しているプロバイダに個人情報の開示を求めてく
るケースが寄せられている。このようなケースはプロバイダ責任制限法の
対象外であるが、同法が正確に理解されていないため、同法を根拠として
取引の相手方の住所、氏名等の開示を求められたケースが含まれている。
4.3.2
対応の方向性
オークション取引において、落札者と連絡が取れない、代金を払ったの
に商品が送られてこない等のトラブルが発生したときに、メールアドレス
に基づいてプロバイダに個人情報等の開示を求めてくるケースがあるが、
利用者間の取引は自己責任により行なわれるのが原則であり、また、ネッ
ト上の取引の当事者の個人情報は通信の秘密に該当するので、通信の秘密
の保護との関係上、開示の要求に応じることはできない。
プロバイダとしては、オークションやオンライン・ショッピングの利用に
関して、以下の事項を利用者の責任により実施する等の啓発を図ることが
重要である。
・利用条件が明示されているか否かを確認するとともに、条件をよく理解
した上で利用すること。条件が明示されていなかったり、不明確な場合
116
4.苦情についての事例
は利用を見合わせることが望ましいこと。
・Web ページ上で、住所・氏名・クレジットカード番号等の個人情報の入力
を求められた場合には SSL 等でセキュリティの確保がされているか確認
する。
・取引の相手や方法(支払いや商品発送等)を慎重に確認すること。
なお、オークション等の取引に関連して被害に遭遇したと思われる場合に
は、取引に関する情報や被害の発生状況を整理した上で、最寄の警察や国
民生活センター等に相談するように案内することが望ましい。
4.3.3
関連事項
以下の Web サイトでは、ショッピングやオークション等において実際に
利用者が遭遇したトラブルの事例、消費者が注意すべき事項、優良なオン
ラインショッピングサイトに付与されるマークや法令で通信販売業者が負
っている表示義務等が案内されているので参考にされたい。
・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会)
「そのサイトは信頼できるか?」
http://www.telesa.or.jp/html/990426.htm
・電子商取引ホームページ(日本消費者協会)
「電子商取引(Electronic Commerce)とは」「消費者保護のための法的整
備」
「安心して利用するためのセキュリティ」
「インターネットショッピ
ングトラブル事例」
http://www1.sphere.ne.jp/jca‑home/densi/index.html
・かしこい通販利用法(日本通信販売協会)
「通販110番」
http://www.jadma.org/
・ネット通販・EC お役立ち情報(日本商工会議所オンラインマーク総合セ
ンター)
「オンラインマークは安心の印」「トラブルは未然に防ごう!〜知って
いると安心法律の知識など〜」
http://mark.cin.or.jp/
・かしこい消費者となるために(電子商取引推進協議会)
http://www.ecom.or.jp/index.html
トラブルに巻き込まれないための予防策(電子商取引推進協議会)
http://www.ecom.or.jp/consumer/use.htm
117
4.苦情についての事例
・ネットワーク利用の悪質商法にご注意!!(警察庁)
http://www.npa.go.jp/police̲j.htm
・国民生活センター
http://www.kokusen.go.jp/
4.3.4
事
例
No.1 事例タイトル:オークションを巡る会員情報の開示請求
苦情等の内容:他者主催のオークションの出品者から、落札者(当社会員)
との連絡がとれないので「プロバイダ責任制限法」に基づ
き、連絡先を開示してほしい旨の申し入れがあった。
(落札
者が連絡用に使っていたメールアドレスの提示があった。)
苦情元の属性:一般ユーザ(非会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性:総務省が Web 上で公表している「プロバイダ責任制限法」
の解説を紹介し、本件の場合は発信者情報開示請求権は発
生しないことを説明した。また、会員が行う取引(個人売
買等)には関知しない旨をあわせて説明した。
対応に苦慮した点:プロバイダ責任制限法の適用対象について、正確な理
解が普及していない。
検討課題
:プロバイダ責任制限法に関する正確な理解が普及するよう
啓発活動が必要。
No.2 事例タイトル:
「中国痩身薬」の販売広告を掲載した会員に関する情報の開
示請求
苦情等の内容:当社会員が開設したホームページ上の掲載広告を見て「中
国製痩身薬」を購入した方から通報が寄せられた。病院よ
り、購入先を保健所に通報するよう指示されたので販売者
に問合せたが、電話番号が変わっており連絡がとれないの
で、被害の拡大を防ぐためにも広告掲載者の連絡先を開示
してほしい。
苦情元の属性:一般ユーザ(非会員)
関係する自社サービス:ウェブホスティング
対応の方向性:通信の当事者(本件ではホームページを開設し、広告掲載
した当社会員)の情報は通信の秘密の保護との関係上、
開示できない旨を回答した。
118
4.苦情についての事例
また、当該会員に対して以下の通知を行なった。
・あなたのホームページを通じ、中国製痩身薬を購入した
方からの問合せやクレームが当社に寄せられたが、広告
を掲載された方ご自身の責任で誠実に対応していただき
たい。そのためには連絡のつく電話番番号をホームペー
ジ上に掲載していただきたい。
通知を行なった後、トップページに電話番号が掲載された。
No.3 事例タイトル:ショッピングモール運営者に寄せられたテナントに関する
クレーム
苦情等の内容:当社が運営するショッピングモールのテナントが購入者の
注文と異なる商品を配送した模様。購入者(通報者)が誤
発送として返送手配をしたが、テナントがそれに気づかず
注文どおりの商品の発送を怠っていたため、モール運営者
である当社にクレームが寄せられた。
苦情元の属性:一般ユーザー(非会員)
(購入者)
関係する自社サービス:オンラインショッピング
対応の方向性:明らかにテナントの商品の取り違いや発送処理の滞りが原
因であることが判明した。本来は受注後の顧客対応はテナ
ントが行うが、当件についてはモール運営者である当社か
らもお詫びした。テナントに対しては、今後の受注、配送
管理を徹底し、同様の事態が起きぬよう厳重に申し入れた。
4.4
不審なアクセス(なりすましの疑い等)
4.4.1
全体の傾向
不正アクセス禁止法が定める不正アクセス行為(なりすまし)に該当す
る可能性があるものは1件のみであり、接続先の設定の誤りによるアクセ
スやパーソナルファイアーウォールによる不正アクセスの誤検知のケース
が3件寄せられている。接続先の設定の誤りによるアクセスに関しては、
一般ユーザーではなく、サーバの管理者から通報が寄せられている。
4.4.2
対応の方向性等
119
4.苦情についての事例
通常、ID 及びパスワード等の認証情報の組み合わせが正規のものである
場合、プロバイダ側は正規の利用者によるアクセスと認識するため、ID 及
びパスワードが盗用された旨の申出を受けても、盗用されたのかどうか直
ちに判断しかねるケースが多いと考えられるが、接続時間の急激な変化、
有料サービス利用の急激な増加あるいはアクセス経路の不自然な変更等が
認められる場合には盗用されている可能性が高いと推測される。
通報に対しては、念の為、パスワード変更を促したり、状況によっては、
一時的に利用を停止する等被害の発生あるいは拡大の防止のための措置を
講ずることが考えられる。なお、平素よりパスワードの管理に関しては、
以下のような注意喚起を行なうことが重要と考えられる。
・氏名、生年月日等を用いた推測されやすいパスワードを設定しない。
・一度設定したパスワードを長期間にわたって使用しない。
・パスワードは他人の目に触れないように管理する。
接続先の設定の誤りによるアクセスに関しては、設定自体は利用者が行な
うこと、あるいはソフトウェアの仕様等も関係するため、プロバイダ側で
未然に防止することは困難な側面もあるが、設定方法をわかりやすく案内
する等の対応が考えられる。また、通報が寄せられた場合には、迅速な対
応が望ましいことは当然ではあるが、原因を究明するために必要な情報(ロ
グ)が残っていない場合等は、対応が困難なことがある。
4.4.3
関連事項
(1)利用者に対し、パスワード管理等のセキュリティの重要性について啓発
を推進する際には、以下のサイトが参考になる。
・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会)
「自分の情報はきちんと管理−特にID・パスワードには細心の注意」
http://www.telesa.or.jp/html/990426̲3̲01.htm
・情報セキュリティ広場(警視庁)
「安全なネット利用」
http://www.keishicho.metro.tokyo.jp/haiteku/haiteku/haiteku40.htm
(2)ID 及びパスワード等の認証情報の盗用は、不正アクセス禁止法が定める
不正アクセス行為(なりすまし)に該当するだけでなく、メールの盗み見、
違法有害情報の発信、詐欺等の犯罪行為に結びつく可能性がある。各都道
120
4.苦情についての事例
府県警の相談の窓口については以下のサイトを参照されたい。
・都道府県警察本部のハイテク犯罪相談窓口等一覧(警察庁)
http://www.npa.go.jp/hightech/soudan/hitech‑sodan.htm
4.4.4.事
例
No.1 事例タイトル:ID の不正利用
苦情等の内容:自分の ID を他人に利用された可能性があるので、調査し
てほしい。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性:ログを調査したところ、本人が利用した認識のない日時
に接続があったことがわかったので、直ちにパスワード
を変更してもらった。
(事実関係は結局明らかにならなかった。)
検討課題:
パスワード管理を含む、自己の情報管理の重要性を周知
させることが重要と考える。
No.2 事例タイトル:ドメイン名の設定ミスによるアクセス
苦情等の内容:御社会員と思われるユーザから、弊社の DNS サーバへの
アクセスが続いているので、調査してほしい。
苦情元の属性:プロバイダ
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性:調査の結果、該当会員の勤務先のドメイン名が、苦情元
のプロバイダのドメイン名と類似していたため、誤った
ネットワーク設定がなされたために、苦情元の DNS サー
バへのアクセスが行なわれたことがわかった。該当の会
員がネットワーク設定を修正し、解決した。
対応に苦慮した点:原因の究明に時間がかかり、その間再三にわたり、
苦情が寄せられた。
No.3 事例タイトル:ダイナミック DNS の設定ミスによるアクセス
苦情等の内容:御社のネットワークから、弊社のサーバへのアクセスが
繰り返されている。
苦情元の属性:プロバイダ
関係する自社サービス:インターネット接続
121
4.苦情についての事例
対応の方向性:調査の結果、苦情元の社内ネットワークユーザがダイナミ
ック DNS の設定を誤っていたため、あたかも不正アクセス
であるかのようにアクセスが継続していたことがわかっ
た。
対応に苦慮した点:ログが残っていない時点のアクセスについては調査
することができなかったこと。
No.4 事例タイトル:不正アクセス誤検知
苦情等の内容:パーソナルファイアーウォールを導入したところ、不正
アクセスがみられるようだ。DNSのIPで呼び掛けが
あり、クローキング機能にも引っ掛かるようだ。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性:ログを送付していただき、IPは接続時に割り振られる
ものなので、ユーザをターゲットとしているとは考えら
れないこと、ネットワークエラーが検知されている可能
性もあること、ファイアーウォールのセキュリティレベ
ルが高に設定されていることから、不正アクセスの可能
性は低いことを説明し、納得していただいた。
対応の苦慮した点:納得していただけるまで、繰り返し説明した。
検討課題等:今後、パーソナルファイアーウォールの利用は増えると思
われるが、ユーザ向けに基準とされる設定のガイドがソフ
トメーカーからリリースされる必要がある。
4.5
SPAMメール/広告宣伝メール
4.5.1
全体の傾向
調査ではこの SPAM メールに該当する苦情がもっとも事例の多いカテゴリ
となった。収集した事例を苦情の内容に即して分類すると概ね以下のとお
りとなる。
①SPAMメール受信者が、送信元のプロバイダに対し、送信停止を要求
するケース
②SPAMメール受信者が、自分が契約しているプロバイダに対し、SPAM
122
4.苦情についての事例
メールのブロック等の対応を要求するケース
③SPAMメール受信側のサーバ管理者が、送信元のプロバイダに対し、
サーバの負荷解消のために発信停止を要求するケース
④SPAM メール受信者が、自分が契約しているプロバイダに対し、メールア
ドレスの漏洩を危惧する苦情を寄せるケース
⑤自分のメールアドレスを SPAM メールの送信元として利用されたユーザが、
自分が契約しているプロバイダに対し、無実、不安を訴える苦情を寄せ
るケース
4.5.2
対応の方向性
SPAMメールの受信者が、メールヘッダ情報(IPアドレス、日時、
経路情報等)やメールの内容を提示した場合には、これらの情報に基づい
て送信者を正確に特定できる場合には、警告等の措置を講ずることが可能
となる。
但し、SPAM メールの送信者は、from 欄を詐称したり、アドレス漏洩に見
せかけたり、また、通常の方法ではヘッダ情報が見えない仕様を採用して
いる通信事業者の会員のメールアドレスを宛先に設定する等、真の送信者
を特定しようとすると混乱を来たすようにさまざまな策を講じていること
もあり、結果的に苦情を受けるプロバイダとしても送信者を特定すること
が困難であることも多く、申告者が納得できる対応に窮することもある。
また、初心者など申告者の一人合点による誤解もあることから、申告内
容を理解した上、申告者にも、おのおののケースの発生要因をわかりやす
く説明することに労を要する場合もままある。今後の再発に不安を持つ申
告者にはメールアドレス変更を促す例もあるが、再発時には再びアドレス
変更を繰り返すことになり、必ずしもこの方法を推奨しないプロバイダも
あった。プロバイダではメール受信拒否などの上位サービスを充実させ、
これらのサービスを利用促進する方法もある。
SPAM メールの自社の会員である場合には、会員規約・契約約款またはそ
れに準じる運用規定等に照らして対応できるが、送信者が他のプロバイダ
の会員であり自社の契約条件が及ばない場合には、送信元のプロバイダ等
に対応を依頼するのみで、それ以上の対応が困難な場合もある。各プロバ
イダは当協会でまとめた「インターネット接続サービス規約約款モデル条
123
4.苦情についての事例
項」に準じた約款と運用で、それぞれの事業者の範囲内で円滑な問題対応
ができるように望まれる。
また、SPAM メールは特定の時間帯に大量の送信が行われ、その上、宛先
の中には存在しないメールアドレスが大量に含まれていることもあるため、
大量のエラーメッセージの返信を含め、多方面のサーバに影響を及ぼすこ
とがある。このため、大規模な SPAM メールが送信された場合、送信先のプ
ロバイダの設備にかかる負荷が上昇し、SPAM メールの受信に直接関係ない
利用者のメールサービスの利用にも遅延が生じる等の影響が及ぶことがあ
る。通信事業者は、大多数の正常なメール送信の円滑性を維持し、利用者
の保護を図るために、慎重な検討*を経て、やむを得ず特定のメール群の通
信の媒介を一時的に拒否する措置を講じざるを得ない場合もあると考えら
れる。
* 通信履歴(通信ヘッダー情報など)に関する情報は「通信の秘密」とし
て保護されなければならないが、自社のネットワークやサービスが脅威
にさらされており、自己又は他人の権利を防衛するため必要やむを得な
いと認められる場合であって、発信者への警告が必要な場合には、発信
者の特定のため他のプロバイダに対し提供しても「正当防衛又は緊急避
難」に該当し、違法性が阻却されると考えられるが、提供にあたっては
慎重な配慮が必要となる。(4.5.3.(2)参照)
SPAM メールの受信者や関係するサーバの管理者等から、プロバイダ責
任制限法を根拠として発信者情報の開示を要求されるケースが考えられ
るが、総務省の公開する「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制
限及び発信者情報の開示に関する法律の解説」によれば、メールは同法
の定める「特定電気通信には該当しない旨記載されており、対応には注
意が必要である。
・総務省プロバイダ責任制限法解説
( http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html)
4.5.3
関連事項
(1)SPAM メール(迷惑メール)に関する通報を受けたときの対応の方向性に
ついては、以下のガイドラインを参照されたい。また、契約約款において
禁止事項、禁止事項が行なわれたときの制裁措置を予め明確に定めておく
124
4.苦情についての事例
ことが望ましい。約款類の整備には、以下のサイトを参考にされたい。
・インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライ
ン
http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.html
・インターネット接続サービス契約約款モデル条項( α版)
http://www.telesa.or.jp/html/model/model̲index.htm
(2)一般に通信履歴の解析は正当な理由がある場合以外は「通信の秘密」の
侵害と考えられるが、大量、無差別なSPAMメールによりネットワーク
やサービスが脅威にさらされて、自己または他人の権利を防衛するため必
要であり、止むを得ないと認められる場合には、発信元の事業者に通信履
歴を提供することは許されていると考えられるが、その取扱いについては
慎重な配慮が必要である。以下のサイトも併せて参照されたい。
・電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン (平成 10 年
12 月 2 日郵政省告示第 570 号)及び同ガイドラインの解説(第 8 条の解
説(6))
http://www.soumu.go.jp/joho̲tsusin/whatsnew/guideline̲privacy̲1.html
http://www.soumu.go.jp/joho̲tsusin/whatsnew/guideline̲privacy̲2.html
・電気通信サービスにおけるプライバシー保護に関する研究会 報告書(「第
3章・個人情報保護ガイドラインの改訂」の第 3 章第 8 条第3項の解説)
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h11/press/japane
se/denki/1026d1.htm
(3)本年度の事例では触れられていなかったが、関連の法規制に関しては、
総務省、経済産業省の以下のサイトを参照されたい。
・総務省の迷惑メール関係施策
http://www.soumu.go.jp/joho̲tsusin/top/m̲mail.html
・「特定商取引に関する法律の改正」及び「特定電子メールの送信の適正化等
に関する法律」等のポイント(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho̲tsusin/top/pdf/pamphlet̲01.pdf
・電子メールによる一方的な商業広告の送りつけに関する新たな表示義務
について(経済産業省)
http://www.meti.go.jp/policy/consumer/index.html
4.5.4
事
例
125
4.苦情についての事例
No.1
No.2
事例タイトル :携帯電話宛の SPAM メール(迷惑メール)
苦情などの内容 :携帯電話を所有している方より、当社会員のメール
アドレスが差出人となっている迷惑なメールが届くと
の連絡があった。
苦情元の属性 :一般利用者(非会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:SPAMメール(迷惑メール)の対応は、通報に基
づき送信された内容の確認も重要ではあるが、メール
ヘッダ情報から送信者の特定が行えない限り対応は困
難であるため、メールヘッダ情報とメールの内容を連
絡してもらうところから対応が始まる。しかし、携帯
電話に送信されたメールにはヘッダ情報がないケース
では、対応が行えない旨の返信をするしかない場合が
ある。また、ほとんどのケースでは実際の発信元とは
異なるメールアドレス(あるいは架空のメールアドレ
ス)を差出人と表示しているが、仮にそのメールアド
レスが実在していたとしても上記理由で対応するのは
大変困難なことがある。
対応に苦慮した点:ヘッダ情報がなければ対応できないと返答しても、
誠意がない対応であるとのクレームが生じてしまう。
また、既に受領者が削除したメールへの苦情で「証拠
はそちらで調べるように」といわれる場合や、送信に
利用されたプロバイダ(メールアドレスが弊社風のア
ドレスであるため?)に責任があるとの主張をされた
りする場合など、インターネットに関する知識をあま
りお持ちでない方への対応に苦慮することがある。
事例タイトル
:弊社会員のメールアドレスを差出人として騙った、
主に海外から発信されているSPAMメール(迷惑メ
ール)
苦情などの内容 :自分のメールアドレスから発信しているSPAMメ
ール(迷惑メール)が届くが、私は送っていない!と
の連絡があった。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:SPAMメール(迷惑メール)を送信している業者
126
4.苦情についての事例
の中には、差出人(From)と宛先(To)を同じメールア
ドレスに設定している業者がいる模様で、自分のメール
アドレスから大量のメールが発信されていると勘違い
し「無実を証明したいがどうしたらよいか」「メールア
ドレスが勝手に送信に使われている」などの相談が寄せ
られる場合がある。メールヘッダ情報より発信元プロバ
イダをお知らせし、迷惑を被っている旨ご連絡されるよ
うお伝えするが、「自分がSPAMメールを送信してい
ないことを教えて下さい」「メールアドレスが勝手に送
信に利用されない方法を教えて下さい」など、状況を理
解されていない会員に対しては、理解できるように再度
説明を行う。メールアドレスの変更は、同様の事態が発
生した場合はまた同様の心配をされることもあり、あま
り推奨はしていないが、稀に本当に差出人を詐称されS
PAMメール(迷惑メール)を送信されている会員もい
るので、その場合にはメールアドレスを変更するよう回
答することもある。
対応に苦慮した点: 状況を理解できない会員に対しての説明対応など
No.3
事例タイトル :弊社会員メールアドレスを宛先に大量に設定してい
る、主に海外から発信されている SPAM メール(迷惑メ
ール)
苦情などの内容 :宛先(To)に弊社会員のメールアドレスが大量に
設定されていると思われるSPAMメール(迷惑メ
ール)が届いたとの苦情。メールが届いたとのこと
よりも個人情報漏洩を懸念する内容が多かった。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:SPAMメール(迷惑メール)送信業者がメールサ
ーバごとにメールアドレスを収集し、送信時に同じメ
ールサーバのアカウントを宛先として送信していると
思われることがある。一見するとメールサーバのアカ
ウント情報が漏洩しているように錯覚されるため、個
人情報が漏洩しているのではないかと心配される会員
が多い。申告者に対しては、メール発信元を調査し、
その詳細と発信元管理者へご連絡されてみるようお伝
127
4.苦情についての事例
えする。
対応に苦慮した点:個人情報の心配をされる会員が多いが、説明にご納
得いただくまでに時間を要することもある
No.4
事例タイトル
:弊社お問い合わせ窓口を差出人とする迷惑メール
苦情などの内容 :弊社お問い合わせ窓口を差出人とする迷惑なメール
(わいせつな画像添付)が届くとの苦情が複数寄せら
れた。また、個人情報が漏洩しているのではないかと
の苦情も少数寄せられた。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:問題のメールは、わいせつ画像が添付され差出人が
弊社お問い合わせ窓口となっていたが、発信元は弊社
以外のプロバイダであったため、連絡していただいた
メールヘッダ情報から送信に利用されたプロバイダを
特定し、対応を依頼した。また、個人情報が漏洩して
このようなメールが送信されている状況ではない旨も
お伝えした。
検討課題など
:差出人を改竄して送信できるサーバにより問題が発
生してい るので、各サーバ管理者にて改竄ができない
に設定を変更できれば問題は減少するように思われる。
SPAMメール(迷惑メール)の大半は、そのようなサ
ーバから発信されているようにも思われる。
No.5
事例タイトル
:共有型メールサーバにおける大量送信
苦情などの内容 :弊社がユーザから共有型メールサーバを利用した大
量メールの送信を行なったため、メールサーバの負荷
が上昇し、他の弊社ユーザのメールサービスの利用に
影響が出かねない状況となった。そのため、送信を行
なったユーザの担当者と連絡をとり、送信を止めてい
ただくように依頼したが、
「ビジネスに影響がある、他
に手段がない、他に上位サービスの提案がないのに一
方的に言われても困る。」と反論された。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:当社のサービス契約約款の規定に従い、一定の負荷
128
4.苦情についての事例
などの基準を超えた段階で、送信元 IP をブロックした。
同時に担当者に連絡を取り、状況を説明した上で、自
社メールサーバの構築、現在開発中の新しいメールサ
ーバサービスがリリースされた際には検討頂くなど、
将来的な視点を盛りこんで対応した。
対応に苦慮した点:現状では当社が案内できる上位サービスがないこと
から、どうしてもユーザ側のみ対応していただくこと
になってしまう。
検討課題:
上位サービスの早期開発とリリース
No.6
事例タイトル
苦情などの内容
:SPAM メール全般に関する問い合わせ・苦情
:1.SPAM メールの発信元 IP が当社が管理している
ものである。
2.SPAM メールのヘッダに記載されたメールサーバの
IP が当社が管理しているものである。
3.SPAM メールの内容に記載されている URL に対応す
る WEB サーバの IP が当社が管理しているものである。
上記3つが当社に苦情を寄せてくる根拠である。海外
からの問い合わせが 8 割を占め、ヘッダ情報だけを貼
りつけたのみなど、詳細については触れない問い合わ
せが多数を占める。
苦情元の属性 :一般利用者(非会員)
関係する自社サービス:その他(専用線、コロケーション契約)
対応の方向性
:問合せを受けた場合は、調査を行う旨を返信し、該
当 IP 利用者には対応要請のメールもしくは FAX を送る。
該当 IP からの SPAM 発信の多くはプロキシーサーバを
踏み台にされているため、こちらについての対応依頼
も出すなどして対応している。また、外国語での苦情
については、送信者に対応してもらえないケースが多
いので、事業者への苦情になるものと考えられる。
対応に苦慮した点:メールヘッダの一部を詐称した形で SPAM 配信する
例も見られ、実際に当社の IP を持つホストが関わって
いるのかを特定するのに時間がかかる。
検討課題:
SPAM 発信例に関する情報を収集し、典型的な詐称例を
記録/分析しつつ対応を模索中。オープン・プロキシー
サーバについては、サーバ管理者に対する啓発が必要
129
4.苦情についての事例
と考えられる。
No.7
No.8
No.9
事例タイトル
苦情などの内容
:SPAM メール受信による被害
:SPAM メールが日に何通もきて、通常のメールのや
り取りに支障をきたす。申し込みしていない英文メー
ルが頻繁に届く。どこからかアドレスが漏れたのだろ
うが対処方法はないものだろうか。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:SPAM メールをフォルダー分けして、削除する設定を
案内する。また、ユーザがメールアドレスの変更を希
望される場合は、対応している。
対応に苦慮した点:中には、とても不安に思われ、これが原因で気味悪
く、解約されるユーザもいる。
事例タイトル
:自分のメールアドレスが勝手に差出人として使用
されている
苦情などの内容 :送信した覚えのないメールのリターンが入ってく
る。SPAM メールのようなメッセージ内容なので、どう
やら差出人のアドレスに自分のメールアドレスが使用
されてしまった模様。早く処置して欲しい。また、自
分が送ったと思われて苦情がくるのも困る。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:ヘッダから送信元のネットワークを割り出し、管理
者のアドレス宛に対応依頼のメールを送付する。通報
者には申し訳ないがここまでしか対応できないことを
伝える。もし状況が好転せず、かなりの負担になる場
合には、アドレスの変更などをお勧めする。メールア
ドレスはありふれたものではない、文字列、数字等を
含むものにするようお願いしている。
対応に苦慮した点:エラーリターンをメールクライアントなどで、選択
して削除すると、本当に必要なエラーリターンも削除
されてしまうため、排除が難しい。
事例タイトル
:他社サーバを経由した大量メールの送信
130
4.苦情についての事例
苦情などの内容 :当社のネットワークからのアクセスで、通報者のサ
ーバを経由して大量のメールが送信されている。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:提供されたサーバのアクセスログから、該当時間に
アクセスしているユーザを特定し警告又は解約を行う。
対応に苦慮した点:海外からのアクセスであった場合には海外部署に問
い合わせなければならない。ログの保存期間もあるの
で迅速に対応しなければならない。
4.6
ウィルス
4.6.1
全体の傾向
(1)苦情・クレームの類型
苦情・クレームの事例を、ウィルスの特性により分類すると概ね以下の
とおりとなる。
①差出人詐称を行わない従来型ウィルス
ウィルスの送信により被害を受けたことに伴う苦情・クレーム
②KLEZ
差出人詐称の特性を持つウィルスの特性に伴う苦情・クレーム
(2)全体の傾向
ウィルスについての苦情は、今年度テレサ協事務局へ寄せられた事例の
中で2番目に多く、ウィルスの感染による被害やそれに伴う苦情は近年ま
すます増加傾向にあるといえる。今年度猛威をふるった KLEZ は差出人を詐
称するという特性を持ち、従来型のウィルスとは苦情の傾向が大きく異な
ることが特徴である。
従来型のウィルスにより被害を受けた利用者からの苦情については、差
出人のメールアドレスからウィルス発信元を比較的特定しやすく、ウィル
ス送信者への対策を要求されたプロバイダは早期に対策を実施できる。但
し、発信者情報の開示を請求されるケースもあり、プロバイダの立場とし
ては対応できない旨を説明すると苦情が大きくなることがある。
131
4.苦情についての事例
KLEZ による苦情については、差出人を詐称する特性を持つウィルスであ
る為に、差出人メールアドレスのドメインを元に該当するプロバイダへ苦
情がよせられた場合、ヘッダ情報を調査すると、実際には他プロバイダか
ら発信されたウィルスであることが多い。問い合わせを受けたプロバイダ
はウィルスの特性により発信者が自社の会員でないために対応が取れない
旨を説明することや、その過程でヘッダ情報の読み方を説明する等、対応
に時間がかかり苦情が大きくなることがある。
4.6.2
対応の方向性等
今回寄せられた事例にみられる対応方針を、上記4.6.1の各類型ご
とにみると以下のとおりである。
①の類型
ウィルスの発信元が自社のネットワークを利用する会員である場合、該当
者へは注意喚起・もしくはウィルス対策を依頼し対策を実施することで対
応している。但し、発信者情報の開示(注)をあわせて要求された場合に
ついては対応できない旨を説明する。
(注)プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報の開示を要求された場合
においても、総省の公開する「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任
の制限及び発信者情報の開示に関する法律の解説」によれば、メールは
同法の定める「特定電気通信」には該当しないとされている。プロバイ
ダ責任制限法に基づく発信者情報の開示を要求された場合においても、
応じるこはできないので注意が必要である。
②の類型
KLEZ による苦情の場合、ウィルスの発信元が他社のネットワークユーザ
であるケースがあり、①の類型における対策を取れない場合がある。この
場合、問い合わせを受けたプロバイダは自社の顧客が発信者でない事を証
明するために、メールのヘッダ情報の読み方やウィルスの特性について説
明をして問い合わせに対応しているが、プロバイダの自社ホームページ等
においてウィルス対策に関する情報を公開するなど、ウィルス問題に積極
的に取り組み、ユーザを啓発していく事で問題の収束を図る動きもある。
4.6.3
関連情報
132
4.苦情についての事例
(1)以下のサイトで各種コンピュータウイルス/ワームに関する最新の情報
が提供されている。また、ウイルスチェックソフトの開発/販売会社のサ
イトでも同様の情報が提供されているので、併せて参照されたい。
【ウィルス対策に関する参考サイト】
「 情 報 処 理 振 興 事 業 協 会 セ キ ュ リ テ ィ セ ン タ ー (IPA/ISEC) 」
http://www.ipa.go.jp/security/
「日本コンピュータセキュリティ協会」http://www.jcsa.or.jp/
(2)プロバイダ責任制限法に関わるメールの取り扱いについては下記のサイ
トで解説されているので、参照されたい。
【総務省プロバイダ責任制限法解説】
http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html
4.6.4
事
例
No.1 事例タイトル:KLEZ ウィルスに感染した会員に関する情報の開示要求
苦情元の属性:一般ユーザ(非会員)
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:KLEZ ファイルに感染し、PC 内の情報が漏洩した。自らの
権利が侵害されたのは明らかであり、プロバイダ責任制限
法に基づき、ウィルスの発信者情報の開示を要求する。
対応の方向性:以下の3点が基本的な方向性である。
・
総務省が Web 上で公表した同法の解説を紹介し、電子メ
ールの送信は同法の適用対象となる通信形態にあたらない
ため発信者情報開示請求権は発生しない事を説明。
・
会員情報は開示できないが、送信者が特定できれば警告
等を行う事を案内。
・
新種のウィルス情報を一般に提供し、この問題に取り組
んでいることを理解してもらうよう努めた。
対応に苦慮した点:プロバイダ責任制限法の適用対象となる通信形態に
ついて、正確な理解が普及していない。
検討課題:プロバイダ責任制限法に関する正確な理解が普及するよう啓
発活動が必要。
No.2 事例タイトル:ウィルスメールに関する苦情
133
4.苦情についての事例
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)もしくは一般ユーザ(非会員)
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:ウィルスメールが届くとの苦情
対応の方向性:苦情がよせられた場合ウィルスメールのヘッダ情報を連絡
いただいている。ヘッダ情報から発信者を特定する事がで
き、自社の顧客であった場合はウィルスに関する情報及び
ウィルス駆除・対策に関してメールで連絡。対策を実施し
ている。
なお、連絡済のユーザが再度ウィルスを発信している事が
確認された場合は電話による連絡の後改善が見られなけれ
ばアカウント停止等の対策を講じる場合がある。
対応に苦慮した点:ウィルスに関する苦情についての情報収集作業の中で
苦情が大きくなってしまうケースがあるが、情報の確定作
業は不可欠である。
また中には自分はウィルスに感染していないと判断して対
策をとらないユーザもあり、最終的に本人は無自覚である
状態でアカウント停止となってしまう事がある。
No.3 事例タイトル:ウィルスの送信元アドレス詐称
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:ウィルスメールを受信した会員から苦情を受け調査したと
ころ、送信者は、POP before SMTP を利用した他ネットワ
ークの会員(非会員)であったため、その旨説明をしたと
ころ、非会員から会員に宛てたメールの送信をブロックし
ているのではないか?との苦情が寄せられた。
対応の方向性:メールの送信元が会員の場合は注意を喚起することができ
るが、非会員の場合、対応する事ができない。
対応に苦慮した点:送信者が会員であるか否かどこまで話していいのか判
断に迷った。
検討課題:通信事業者の守秘義務とサポート情報の説明の折り合いをどう
つけるのか、担当者によって判断の差が生じないようにす
るのが難しい。
No.4 事例タイトル:ウィルスの送信元の問い合わせ
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
134
4.苦情についての事例
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:ウィルスの送信元について確認したい
対応の方向性:現状では、メールの送信元についての情報は案内できない
旨説明し、送信元に対して対処依頼を送信する旨回答し
た。
対応に苦慮した点:KLEZ の場合、差出人詐称が行われるためか、問い合わ
せが多い。
どうしても送信元を知りたいという場合には、顧客に自
身でヘッダ情報を確認することを奨め、相手先に問い合
わせが可能なようにヘッダーの解読法その他案内してい
る。
検討課題:ウィルスの特性についての案内をより一層 ISP 側が行う必要が
出てくるのではないか?
No.5 事例タイトル:ウィルスの送信元とされた汚名の返上
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:ウィルスの受信者から連絡があったが、調査の結果自分は
ウィルスメールを発信していないことがわかったので、
潔白を証明するために通信ログを開示して欲しい
対応の方向性:From を偽装するウィルス(KLEZ)であったため、確かに当
該会員から発信されたウィルスメールではなかった。ロ
グの開示はできない旨説明し、受信者からヘッダ情報を
入手すれば真の発信者を特定できる可能性があることを
案内した。
対応に苦慮した点:ログを開示したとしても発信していない事の証明はで
きない可能性があり、ユーザ自身の認識の向上が求めら
れる。
No.6 事例タイトル:ウィルスへの不安
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:リターンメール、ポストマスター、ウィルスを駆除するツ
ールを装ったウィルス等ユーザ側から何を信じてよいか
混乱し、不安感からクレームとなるケースがある。
対応の方向性:心当たりのない添付ファイルは絶対開かないように、メー
135
4.苦情についての事例
ルソフトのプレビュー設定もオフにしていただくよう案
内
対応に苦慮した点:中には事態を深刻にとられてしまう場合もあり、ハッ
キングされたと被害意識をもっている場合もある。KLEZ
によるクレームではポストマスターからウィルスメール
が送りつけられてきたというものもあり対応に苦慮した。
検討課題:ウィルス駆除依頼を送付したり、サイトでウィルスに関する情
報をすばやく掲載して、ユーザーに喚起を促す。
No.7 事例タイトル:ウィルスメールに関する苦情
苦情元の属性:一般ユーザ(非会員)
関係する自社サービス:電子メール
苦情等の内容:自社の会員がウィルスに感染し、無作為にウィルスメール
が送信され、それを受けとったユーザから、ウィルス対
策の徹底および当該会員への指導を要求される。
対応の方向性:当該会員に対してウィルスチェックを依頼するとともに、
実際に送信した形跡が無いかお調べいただき、必要な対
策を早急に実施していただくよう連絡した。苦情を寄せ
てきた方にはウィルス対策を徹底するよう会員に連絡し
た旨ご報告するメールを送信して対応完了
対応に苦慮した点:特になし
4.7
課金を巡るトラブル
4.7.1
全体の傾向
クレジットカードに係わるトラブル(2件)と、国際電話の高額請求(1
件)の事例が寄せられた。クレジットカードに係わるトラブルは、会員登
録に自分のカード番号が使われてしまった例と、虚偽のカード番号による
物品の購入に関する問い合わせである。
4.7.2
対応の方向性
防止策として、カード番号などの個人情報の管理の徹底に関する注意書
きを、会員サポート WEB ページや、初心者向け資料で啓発することが必要
であろう。また、寄せられた事例のように、被害にあった場合は、カード
136
4.苦情についての事例
会社にも連絡し被害の拡大を最小限に押さえるよう指導することが重要と
考えられる。また、国際電話については、原因となった国際電話ダイヤル
アップ設定を見つけ出しそれを削除することと、再発防止のために、電話
会社などが提供する「国際電話の接続検知ソフト」の利用を勧めることが
重要である。
4.7.3
関連事項
インターネット利用中の国際電話接続トラブルにつきましては、寄せられ
た事例こそ2件と少ないが、引き続き発生している(プロバイダや国際電
話会社への問合せ、苦情は毎月 1 万件を超える状況である)。プロバイダ
は、会員への注意喚起を継続する必要がある。例えば電話会社の以下のサ
イトなどを参考にされたい。
・
「インターネットの落とし穴」(日本プロバイダー協会)
http://www.jaipa.or.jp/info/2002/info̲021010̲2.html
・
「海外の情報提供サービスにはご注意下さい」
(NTT コミュニケーション
ズ)
http://www.ntt.com/0033caution/index̲2.html
・「ご注意下さい、海外の情報提供サービス!!」(KDDI)
http://www.kddi.com/topics/atx/image.html
4.7.4
No.1
No.2
事
例
事例タイトル :カード番号の盗用(1)
苦情などの内容 :盗難カードによる注文を受けたショッピングモール
の管理者から、注文者の連絡先のメールアドレスが当
社会員のものでありとの報告が入る。
苦情元の属性 :一般ユーザ以外
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性
:ユーザの登録情報を確認。登録情報に不正、無効な
点が見られたため、ID 停止状態にした。
対応に苦慮した点:被害者ご本人からの問い合わせではなかったため、
盗難カードという点に関しては、こちらから対応する
ことができなかった。
事例タイトル :カード番号盗用(2)
137
4.苦情についての事例
苦情などの内容 :カードが盗難にあった旨の連絡が入り、調べたとこ
ろ、当該カードを利用して本人以外の者が申し込んだ
と思われるアカウントが存在した。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性
:該当カードによる登録があったが、ユーザもカード
が盗難された旨、届け出を出していたようなので、課
金も出来ない状態となりアカウントは解約した。
No.3
4.8
事例タイトル :国際電話料金の請求
苦情などの内容 :身に覚えのない国際電話の請求が届いた。どうやら
WEB を見ている間に海外に接続されてしまったようだ。
苦情元の属性 :一般利用者(会員)
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性
:ダイヤルアップの設定を確認し、国際電話回線への
接続が設定されている場合には削除すること、接続時に
はアクセスポイントの番号にダイヤルしていることを
確認いただくよう説明した。また、ケースによっては、
警視庁ハイテク犯罪対策総合センタのサイトをご案内
する。また、当社WEBでもインターネットを利用した
国際情報提供サービスに注意を頂くよう喚起している。
運営妨害(掲示板荒らし)
4.8.1
全体の傾向
掲示板あらし行為を受けた掲示板管理人は、今後の掲示板運営に支障を
きたすと判断した場合には、発言者の属する事業者に対し苦情が発生する
場合がある。本年は 2 件の事例が上げられた。注意勧告してほしい旨の要
請はままあるが、本年は発信者情報開示要求もあった。
4.8.2
対応の方向性
掲示板の運営管理者は、円滑な掲示板運営を行うために、明らかに運営
続行を妨害するような類の荒らし行為となる書き込みは速やかに削除した
138
4.苦情についての事例
上で、次の行動として荒らし行為を行なった者の接続元のプロバイダに注
意勧告の要請を行うのが一般的であろう。従って、プロバイダは申告者が
通報に添付する書き込み記録などを参考にして書き込みの事実確認を行い、
書込みを行なったユーザを正確に特定した上で、申告者からの要請をユー
ザに伝えることが望ましい。また、事業者の会員規約、約款などで、他者
のサービス運営を妨げる行為なども禁止する条項を設け、警告を行うこと
が望ましい。
また、発信者情報開示請求については、申告者に開示請求権の要件を理
解してもらうことが重要であり、開示請求に必要な書面が提出された場合
でも、開示用件に合致しているかどうかを慎重に検討する必要がある。
4.8.3
関連事項
(1)迷惑行為、運営妨害行為に関する通報を受けたときの対応の方向性につ
いては、以下のガイドラインを参照されたい。また、契約約款において禁
止事項、禁止事項が行なわれたときの制裁措置を予め明確に定めておくこ
とが望ましい。約款類の整備には、以下のサイトを参考にされたい。
・インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライ
ン
http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.html
・インターネット接続サービス契約約款モデル条項( α版)
http://www.telesa.or.jp/html/model/model̲index.htm
(2)通報元がプロバイダ責任制限法に関する知識が十分でない場合や、
「侵害
情報の通知書兼送信防止措置依頼書」あるいは「発信者情報開示依頼書」
を使用した申し入れを求める場合は、以下のサイトを参考にされたい。
・プロバイダ責任法ガイドライン等検討協議会
http://211.0.28.19/01provider/index̲provider.html
・総務省が公表した同法の解説
http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html
4.8.4
No.1
事
例
事例タイトル :当社会員による掲示板荒らし行為(1)
苦情などの内容 :他プロバイダを利用して掲示板を運営している方よ
139
4.苦情についての事例
り、当社のアクセスポイントを利用している会員から
掲示板荒らし行為を受け、運営が極めて困難になり緊
急状況なので対応してほしいという旨の相談が寄せら
れた。
苦情元の属性 :一般利用者(非会員)
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性
:申告者である運営者から書き込み内容及び書き込み
日時とIPアドレスの情報をいただき、事実関係を確
認した上で該当会員に対し利用状況についてのヒヤリ
ングを実施。契約者の子供が荒らし行為を行っていた
可能性があり、注意勧告を行った。
No.2
事例タイトル :当社会員による掲示板荒らし行為(2)
苦情などの内容 :他プロバイダを利用してホームページを開設し、当
該ページで電子掲示板を運営しているインターネット
利用者からの苦情。掲示板上で荒らし行為をくりかえ
す者のリモートホストが当社会員のものであったため、
当社に苦情が寄せられた。再三の荒らし行為により運
営を妨害され、掲示板の利用者も迷惑しているとして、
プロバイダ責任制限法を根拠に該当する当社会員にか
かわる発信者情報の開示を求められた。
苦情元の属性 :一般利用者(非会員)
関係する自社サービス:インターネット接続
対応の方向性
:当社の立場は一応「特定電気通信役務提供者」にあ
たると考えられるが苦情内容が抽象的であり、発信者
情報開示請求権の用件を説明し、用件が満たされてい
るかどうかが不明なので、用件が満たされていること
の根拠を具体的に書面で提示してほしい旨を伝えた。
該当の会員が特定できれば、会員規約に基づき警告の
措置もとることも可能なので、特定に必要な情報を送
ってほしい旨を併せて伝えた。その後、コンタクトは
ない。
140
4.苦情についての事例
4.9
サービス利用上の問題(障害に関する苦情等)
4.9.1
全体の傾向
電子メールに関連した苦情、問い合わせが多く見受けれられる。また、
苦情、問い合わせに基づき調査を行ってみると、原因が自社にないケース
も含まれている。
4.9.2
対応の方向性
電子メールはインターネット利用において非常に高い比重を占めるため、
問い合わせ対応や問題解決の迅速性や正確性を非常に強く要請される場合
が多いが、前例がない場合には原因究明に調査に時間がかかる場合も少な
くない。また、調査結果や原因を説明し、利用者の理解を深めていただけ
るよう努める反面、自社だけでの解決が困難な場合もある。なお、サービ
スに起因する問題の補償に関しては、対応を図る場合の自社の責任の範囲
を利用規約等であらかじめ明示しておくことが重要である。
4.9.3
関連事項
(1)インターネット接続等のサービスに関するプロバイダの責任の範囲につ
いて利用規約等に明示する場合には、以下のサイトを参照されたい。
・インターネット接続サービス契約約款モデル条項( α版)
http://www.telesa.or.jp/html/model/model̲index.htm
4.9.4
事
例
No.1 事例タイトル:アンチウィルスソフトの設定によってメール受信が困難に
なる
苦情等の内容:メールがすべて受信できずに、途中で止まってしまうの
で、サーバ側でどのようになっているかを調べてほしい旨
の要請があった。
中にはかなり強い苦情となっているお問い合わせもあった。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性:メール受信が止まるのは、特定のスパムメールやウィルス
141
4.苦情についての事例
メールの受信時。アンチウィルスソフトは、ウィルスを取
り除くだけではなく、設定によってはメール受信を困難に
することもあり、その場合にはソフトを特定の設定に変更
してもらう必要があることを案内。
対応に苦慮した点:最初、原因不明であり、かつお問い合わせが多かった
ため、自社サーバ調査、クレーム対応に大変時間がかかっ
た。
ウィルスソフト、メールソフト会社のサイトを参照して、
事象を確認し、内容をユーザーに案内した。
No.2 事例タイトル:携帯電話メールへのメール遅延
苦情等の内容:特定の携帯電話会社のアドレスにメールを送信した時にの
み配信にかなり時間がかかることがある。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性:苦情に基づき調査し、サーバの状況を調べたが、当社サー
バはすぐにメールを送り出しており、到着するまで時間が
かかっていたのは、おそらく当該電話会社側のサーバで、
迷惑メールなどの原因により、配信遅延があるものと思わ
れる。
対応に苦慮した点:当社に非があるとの前提のもとにお問い合わせをいた
だいた点。
検討課題:
携帯電話会社との協力、迷惑メール問題の解決。
No.3 事例タイトル:逸失利益(馬券購入)の補償要請
苦情等の内容:弊社サーバが障害により 15 分程度一時停止となっていた
時間帯に、競馬サイト(他者サイト)を閲覧しようとして
接続が利用できなかったユーザーより、いつも利用してい
るサイトが閲覧できずに、その時間帯のレースの馬券を買
えなかったので補償を要請。
苦情元の属性:一般ユーザー(会員)
関係する自社サービス:インターネット接続(アカウント)
対応の方向性:障害により接続不能な時間があったことについては謝罪を
したが、サイト閲覧ができなかったことで馬券を購入でき
なかったとする指摘については、馬券購入は弊社サービス
とは何ら関係なく、また、弊社サービスを一切介さずに個
142
4.苦情についての事例
人の任意で購入するものであることと、会員規約で弊社サ
ービスに起因した逸失利益等は補償しないことを明示して
いることを説明し、ご理解いただけた。
対応に苦慮した点:非常に感情的になられており、こちらの説明等を一切
受付けない状態であったために苦慮した。
No.4 事例タイトル:メールマガジンを解約できない
苦情等の内容:弊社で提供しているメールマガジンの解約ができない、解
約をしてもまだメールマガジンが届く。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:その他(自社発行メールマガジン)
対応の方向性:問い合わせに応じて調査を行うが、ほとんどの場合、登録
者の以下の勘違いや操作ミスが原因であった。システム的
な異常がない場合には、以下のケースに該当しないかどう
かを確認していただくよう案内する。
<解約できない場合>
・登録したメールアドレスを本人が忘れている。
・登録したメールアドレスから別メールアドレスへ転送し
ていて、転送先のメールアドレス(未登録)から解約手
続きを行おうとしている。
<解約後も届く>
・複数のメールアドレスで登録しているのに、解約は1ア
ドレス分しか行っていない。
No.5 事例タイトル:特定メールクライアントでのメールのやり取りができない
苦情等の内容:メールの受信ができないので、クライアント側に問い合わ
せてみたところ、弊社メールサーバが RFC(規格)に準拠し
ていないことを指摘された。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性:RFC に準拠するよう対応を図り、解決した。
検討課題:
社内のサーバ管理者には通報内容を迅速に伝え、基準を重
視する。
143
4.苦情についての事例
4.10
会員情報の照会
4.10.1
全体の傾向
捜査機関の任意捜査によるメールアドレスに基づく会員情報の照会、及
び税務当局による URL に基づく会員情報の照会の2件の事例が寄せられた。
(あくまでも職務上の行為であり、苦情・クレームとは異なる。)
4.10.2
対応の方向性
いずれのケースも、通信の秘密の保護との関係上、照会には応じていな
い。
4.10.3
関連事項
(1) インターネット接続等のサービスを提供する事業者が各種照会を受け
たの対応の方向性については、以下の URL のテレコムサービス協会の「イ
ンターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」
(第6章 各種照会への対応)を参照されたい。
http://www.telesa.or.jp/guide/guide01.html
(2) 契約者に係わる情報(通信の秘密、個人識別に係わる情報等)について
は、いうまでもなく、電気通信事業法上の守秘義務、プライバシー保護あ
るいは自社の信用の維持等の観点から厳重に管理すべき性質の情報であ
るが、裁判所の発する令状に基づく強制捜査等のように、例外的に、本人
の承諾を得ることなく第三者に開示せざるを得ない場合がある。このよう
な例外的な取り扱いをする場合があることを、契約約款において予め明確
に定めておくことが望ましい。以下の URL のテレコムサービス協会の
「インターネット接続サービス契約約款モデル条項( α版)」
(第6章 当社
の義務等)参照されたい。
http://www.telesa.or.jp/html/model/model̲06.htm
(3)法令の規定に基づき個人情報を利用又は提供しなければならないとき、
あるいは通信履歴(ログ)と業務利用の関係については、以下の URL の旧
郵政省の「電気通信事業における個人情報保護に関するガイドライン(平
成 10 年 12 月 2 日郵政省告示第 570 号)」及び「同ガイドラインの解説」の
144
4.苦情についての事例
以下の部分を参照されたい。
・第4条(個人情報の利用及び提供)の解説(5)
・第8条(通信履歴)の解説(5)及び(6)
http://www.soumu.go.jp/joho̲tsusin/whatsnew/guideline̲privacy̲2.html
当該解説には、例外的な取り使いを行ない得る場合について述べられて
いるが、例外的な取り扱いをするのが相当かどうかは、個別の案件に応じ
て慎重な検討が必要である。
4.10.4
事
例
No.1 事例タイトル:メールアドレスからの会員情報の照会
要求の内容 :御社会員がメールにより行なった誹謗中傷の被害者から、
相談を受けている。該当する会員の個人情報の開示を受
けるために、令状を申請するところだが、当方で把握し
ている住所、氏名と合致しているかかどうか口頭で教え
て欲しい。
要求元の属性:警察
関係する自社サービス:電子メール
対応の方向性:通信の秘密に該当する情報であるため、令状の提示がな
ければ、開示できない旨を伝えた。
対応に苦慮した点:
「お答えいただけないなら、捜査員を連れて御社へお
伺いさせていただき、業務に支障が出ることも考えられ
るがいいか?」と言われた。
検討課題:
電気通信事業法については、広く認知されているとは
言い難い。今後も更なる認知活動が必要である。
No.2 事例タイトル:URL からの会員情報の照会
要求の内容 :御社のサービスを利用してホームページ(URL の指定あり)
を開設している会員について、住所・氏名・連絡先等を
開示してほしい。
要求元の属性:国税局電子商取引担当部署
関係する自社サービス:ホームページ開設サービス(ウェブホスティング)
対応の方向性:該当のホームページを閲覧したところ、昆虫の販売が行
なわれていた。照会の根拠について問い合わせたところ、
質問検査権に基づく協力のお願いである旨の説明があっ
145
4.苦情についての事例
検討課題:
4.11
たので、通信の秘密の保護との関係上、要請には応じら
れない旨を書面で回答した。テレサ協の「インターネッ
ト接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドラ
イン」第18条(任意捜査その他の照会への対応)の開
設をプリントアウトして同封した。
警察以外にも業務の性質上会員情報の開示を求めてくる
官公庁があるが、テレサ協ガイドライン18条を広く周
知していく必要がある。
その他
4.11.1
全体の傾向
インターネットのサービスや、そこで起こる事象も多様化しており、寄
せられた苦情に対応するため、事業者自身が苦情に近い形で対応を要求す
るケースが見受けられた。
4.11.2
対応の方向性
事象の多様化により苦情、問い合わせの対応のための知識が広範囲に事
業者に求められるが、中には自身での解決が面倒であることから事業者に
対応を求めてくるケースもあり、インターネット利用の自己責任の基本原
則を今後も啓発していく必要がある。自社契約者の便宜を図るために具体
的にどの範囲まで対処するかは、運営方針によって各社異なると考えられ
るが、利用者の保護には十分留意する必要がある。
4.11.3
関連事項
(1)多様化するインターネットサービスだが、インターネットを利用するた
めに知っていた方がよい基本的なルールやマナーを身につけること、無用
なトラブルに巻き込まれることないよう自己防衛することが重要であるこ
とを啓発していくために、以下のサイトを参考にされたい。
・インターネット自己防衛マニュアル(テレコムサービス協会)
http://www.telesa.or.jp/html/990426.htm
・インターネットを利用する方のためのルール&マナー集(インターネッ
146
4.苦情についての事例
ト協会)
http://www.iajapan.org/rule/
4.11.4
事
例
No.1 事例タイトル:生物採取に関するホームページへの苦情
苦情等の内容:弊社会員の生物採取に関するホームページ掲載について、
その中の某生物に関して、
「某委員会と某団体」より連名で
「生息数が激減している某生物に関して、採取方法と生息
地域が写真入りで掲載されている。」「 採取の環境が整え
られている。 との記載があるが、採取の環境を整えている
わけではなく、保護のために環境を整えているのであるの
で、事実と異なる部分がある。」との指摘と、絶滅の恐れが
ある生物を採取する方法を掲載しているのは、好ましくな
いので削除してほしい。
苦情元の属性:一般ユーザ以外
関係する自社サービス:個人ホームページサービス
対応の方向性:当該ホームページは、某生物に限らず一般的な生物採取方
法やその手引きとおもわれる内容のホームページで、極め
て健全な内容であると思われた。
また、某生物は環境庁から絶滅危惧種として指定を受けて
おらず、採取方法を掲載しているだけでは会員規約に抵触
するとは判断できない。従って、ホームページ開設者にそ
のような苦情が届いていることをお知らせし、事実と異な
っている部分の修正と団体名の削除をするように連絡した。
しかし、苦情元はその対応に満足せず、再度「採取方法」
を記載している部分について削除を求められたが、弊社よ
り当該部分の削除はできない旨、回答にて対応している間
に開設者により自主的に削除されたため、問題は一応解決
した。
対応に苦慮した点:削除要求に少しでも応えられるよう、某生物が絶滅危惧
種であるかなど、公序良俗に反する内容である可能性を探っ
たが、やはり生物採集の方法というだけでは削除は困難と思
われる。
検討課題:
基準は人により千差万別であるとは思われるが、自分の基
147
4.苦情についての事例
準に沿わないものは削除されるまで要求するという態度で
臨まれ、その意見に流され削除を行ってしまうと、表現の自
由との兼ね合いで掲載者との対応で困窮する場合がある。
No.2 事例タイトル:掲示板利用制限に関する苦情
苦情等の内容:弊社サーバ内ではない掲示板を利用している会員より、同
掲示板の利用ができなくなったとの苦情が複数寄せられた。
申告内容を総合すると、同掲示板において不適切な掲載を
行った弊社会員がいたため、その会員の利用を制限した(ド
メイン等を指定し利用不可とする等)巻き添えで他会員も
利用できなくなっていると推測された。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員)
関係する自社サービス:インターネット接続(アカウント)
対応の方向性:当該掲示板の利用制限に関しては、掲示板管理者の判断に
より行われている点、制限の解除などは弊社では行うこと
ができないことを説明の上、掲示板管理者に直接問い合わ
せるよう回答。また掲示板管理者が同掲示板に掲載してい
た「悪質行為を行った会員」に対する処置を行い、掲示板
管理者にその旨弊社より伝えるよう要望があったが、会員
規約に沿った対応を行う場合には、原則として掲示板管理
者からの連絡が必要である旨回答。
対応に苦慮した点:掲示板管理者は違法な内容の書き込みがあった場合に
は、適切に削除等の対応を行う必要があるものと考えられ
るが、その前提として、通常は削除を行ったり、掲示板の
利用を制限できる権利も併せ持っていると思われる。従っ
て、掲示板への利用制限に関する苦情については、管理者
へ問い合わせする以外に方法がないのであるが、ユーザ自
身で対応しなくてはならない問題に関して、自分で連絡を
するのが面倒であるため自分勝手な理由によりプロバイダ
等へ対応を求める人もかなり増えてきていると思われる。
検討課題: インターネット上においては、自己責任にて利用するのが
基本原則であると思われるので、その徹底と啓発活動を強化
していく必要があると思われる。
No.3 事例タイトル:メールアドレス収集企画サイトの協賛スポンサーであるか
のようなバナーの無断表示
148
4.苦情についての事例
苦情等の内容:メールアドレスを収集する企画サイト運営事業者が、当該
サイトにおいて「協賛スポンサー」として弊社が運営する
オンラインショッピング店名を表記しており、協賛が事実
か、その場合は信用問題にかかわるので確認したい、との
問い合わせが入った。
それに基づき確認を行ったところ、弊社が協賛スポンサー
かのような表記で無断でバナーを使用されていることを確
認した。
苦情元の属性:一般ユーザ(会員、購入者)
関係する自社サービス:ショッピング
対応の方向性:弊社が出店している企業より、出店者のバナーを無断で掲
載して「協賛スポンサー」として表記されていると同件に
ついて連絡があり、他出店者も同様に無断で掲載されてい
ることが判明、同企業にてとりまとめて掲載事業者へ抗議。
その後、掲載は取り下げられた。
弊社へのお問い合わせの顧客には、無断使用されたこと、
取り下げの抗議を行ったことを回答。
149
5.判例、裁判上の係争事項等
5.
判例、裁判上の係争事項等
5.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係
インターネット上の名誉毀損に係る判決で公表されたものを、ここに洩れ
なく収録した。プロバイダの責任が問われたケースのほか、当事者間の紛争
も、ネット上の名誉毀損の成否の判断には役立つと考えて収録してある。
できる限り、判決原文をありのまま転載するように努めたが、読みやすさ
を考えて、証拠等に言及している部分を抹消するなど、かなり編集を加えて
ある。
5.1.1 PC‑VAN チャットログ無断掲載事件
平成9年12月22日東京地裁判決
平成6年(ワ)第 9488 号 慰謝料等請求事件
【要旨】被告が、パソコン通信 PC‑VAN のオンライン会話サービスを利用し、原
告との間で交わしたユーザ ID の不正使用についての会話を抜枠して、会員であ
れば誰でも読むことができる電子掲示板に掲示した行為が、原告に対する名誉
毀損、プライバシー侵害、通信の秘密の侵害又は著作権の侵害の不法行為を構
成するとして、原告が、この行為によって被った精神的・財産的損害(220 万円
相当)の賠償を求めたことに対し、被告の本件掲示行為は、原告に対する名誉
毀損、プライバシ−侵害、通信の秘密の侵害又は著作権の侵害の不法行為を構
成するものとは認め難いので、原告の請求が棄却された事件。
(1)事案の概要
ア.本件は、被告が、パソコン通信 PC‑VAN のオンライン会話サービス(以下「OLT」
という。)を利用し、原告との間で交わしたユーザ ID の不正使用についての会
話を抜枠して、会員であれば誰でも読むことができる電子掲示板に掲示した行
為が、原告に対する(1)名誉毀損、(2)プライバシー侵害、(3)通信の秘密の侵
害又は(4)著作権の侵害の不法行為を構成するとして、原告が、この行為によ
って被った精神的・財産的損害(220 万円相当)の賠償を求めた事案である。
イ.原告及び被告は、双方ともパソコン通信網 PC‑VAN の加入者である。 PC‑VAN
は、会員に対し、電子メール、OLT、電子掲示板等の電気通信サービスを提供
する パソコン通信網である。 OLT は、日本電気が、複数の会員が同時にアク
セス可能な PC‑VAN 内の一定のデータ領域を会員に提供し、各会員が、メッセ
ージを書き込むと、そのメッセージが同時刻に OLT にアクセスしているすべて
の会員端末の画面に時刻の早い順に次々と表示される仕組みのものである。会
員であれば誰でも、いつでも OLT に参加でき、同時刻に同じデータ領域にアク
150
5.判例、裁判上の係争事項等
セスしている会員が相互にメッセージを読み、それに対する応答のメッセージ
を書き込むことを繰り返すことによって、会員相互間で会話をすることができ
るサービスである。
ウ.電子掲示板は、日本電気が、会員であれば誰でもアクセスすることができ
る PC‑VAN 内の一定のデータ領域を会員に提供し、各会員が、電子掲示板にメ
ッセージを書き込み、また、書き込まれているメッセージを読むことができる
仕組みのサービスであり、このように書き込まれたメッセージは、PC‑VAN 事
務局が消去するまでの期間は、会員であれば誰でもいつでも読むことができる。
エ.会員は、日本電気と会員契約を締結する際、アルファベット及び数字から
なるユーザID(以下「ID」という。)を付与され、会員が PC‑VAN を利用して
発信する場合は、その会員の ID が必ず表示されるほか、各会員が自分で付け
たハンドルネームと呼ばれる通称を表示することもできる。会員規約上、各会
員は、他の会員の ID を不正に使用してはならないとされている。PC‑VAN の会
員数は、平成 5 年 4 月当時において約 62 万人であったが、その後も漸次増加
している。
オ.平成 4 年 6 月ころ、エーアイ出版株式会社(以下「AI 出版」という。)が代
表取締役個人名義で所有する ID(THB*****)を原告が使用し、OLT 等を利用し
ていたことが判明した。原告は、電子掲示板に、この件は過失によるものであ
ると掲示したが、その後も、原告が ID 所有者の承諾を得ていないことを認識
しながらあえてこの ID を不正に使用した(以下「不正使用」という。
)のでは
ないかとの疑惑がとりざたされていた。
カ.被告は、平成 6 年 3 月 25 目、OLT において、ハンドルネーム「酔人テラ」
を使用して、同「ぽにいてーる」を使用する原告との間で会話(以下「本件会
話」という。)を交わし、3 月 30 日、本件会話の通信記録(以下「本件通信記
録」という。)を適宜抜枠して電子掲示板に掲示した(以下「本件掲示行為」
といい、その掲示内容を「本件掲示」という。
)。その内容は別紙のとおりであ
り、要するに、被告が原告に対し前記疑惑の真相を尋ねたが、原告が回答を拒
否したことから、被告が原告に対して「多分犯人は貴方なのでしょう。」と発
言したというものである。
キ.原告は、PC‑VAN において、ハンドルネーム「PONYTAIL(ぽにいてーる)」の
ほか、「百舌鳥伶人」の名を用いて OLT などを利用し、SIG(一定のテーマに関
する情報の交換・提供等に使用される特定のデータ領域)の一つである「市民
の討論広場」のアシスタントの一人としても活動していた。また、原告は、AI
出版が発行する「月刊パソコン通信」誌において記事を執筆するなどコンピュ
ーター関係のフリーライターとして活動していた。
ク.ハンドルネーム「右近」を使用している PC‑VAN の女性会員が、平成 4 年 6
151
5.判例、裁判上の係争事項等
月 15 日、PC‑VAN の電子掲示板の一つに次のような書き込みをした。すなわち、
『過日、OLT において、THB*****の ID を有する会員が、私に対し、私や私
の兄が他のネットで使用しているハンドルネームや職業などの個人的情
報について、嘲弄的態度で、卑劣な嫌がらせの発言を執勘に続けました。』
ケ.掲示の直後から 6 月 16 日にかけての電子掲示板には、他の PC‑VAN 会員か
ら、THB*****はポニーテールである、THB*****と SEB*****は同一人物が使用
しているとの趣旨の掲示があった。これに対し、原告が、SEB*****の ID を用
いて、電子掲示板に、私は右近が旧知の人物であるかを確認する目的で会話を
したにすぎないなど と掲示したので、同一人物が SEB*****と THB*****の ID
を使用していることが判明した。
コ.その後、右近が、SEB*****及び THB*****の各 ID に対してメール受信拒否機
能を行使したところ、原告は、6 月 17 日、右近に対し、SISIKAI の ID 及び「SIG
司会」のハンドルネームを用いて、「受信拒否しちゃだめだよ」と題する次の
内容を要旨とする百舌鳥伶人名の電子メールを発信した。
『ID(THB*****)の件については公開の場でやりとりすることはできませ
ん。この ID(SISIKAI)は、複数のサブオペ(SIG を自主的に運営する PC‑VAN
会員)の共有物なので、ここに宛てたメールは私が開封するとは限らない
ことを前提としてお返事下さい。とにかく、私の ID の使い方は複雑怪奇
なのです。』
サ.右近は、
「月刊パソコン通信」編集部I宛てに、百舌鳥伶人から OLT におい
て嫌がらせを受けたが、彼が使用している ID(THB*****)は AI 出版のもので
はないかという問い合わせの電子メールを発信し、6 月 19 日、その返答を得
た上、6 月 20 日、電子掲示板に、
「百舌鳥伶人氏の ID 不正使用について」と
題する次の内容を要旨とする掲示をした。
『百舌鳥伶人氏が ID を不正使用していたことについて、AI 出版からのメー
ルを引用します。「ID 番号 THB*****について調査したところ、間違いなく
AI 出版が所有する ID でした。AI 出版では、かって百舌鳥氏に原稿を依頼し
ていた時期があり、百舌鳥氏は、そのころ AI 出版が貸し出した ID を無断で
不正使用していたのですね。ID 管理の杜撰さからこのような不祥事を招い
たことを深くお詫び申し上げます。」』
シ.これに対し、原告は、6 月 20 日、電子掲示板に、SEB*****の ID を用いて、
それが事実と違うところが見られること、「月刊パソコン通信」編集部幹部及
び AI 出版社長と協議をしていることなどを掲示した。また、Iも、同日、電
子掲示板に、当該 ID が AI 出版から百舌鳥氏に貸与されていたことは憶測にす
ぎず、貸与の事実はまだ確認されていないこと、しかし当該 ID が AI 出版の所
有であり、百舌鳥氏により長期にわたり不正使用されていたことは事実である
152
5.判例、裁判上の係争事項等
ことなどを掲示した。
ス.その後、電子掲示板では、事実関係をめぐって論争が繰り返され、会員か
ら、原告に対し、納得のいく説明を求める声が多く揚がった。これに対し、原
告は、ID 使用について自分の方も多数の過失があったことは認めるが、ハッ
キングや賃借 ID のルーズな使用などの故意性の強いものではない、右近やI
は憶測だけで主張し、物的証拠を示していないのであるから、原告がこれ以上
答える必要はないと掲示し、ID の具体的な入手方法は明らかにしなかった。
セ.その後、AI 出版は、代表取締役N及び編集局長Oの連名に より、同年 7 月
17 日、電子掲示板に、「PC‑VAN 会員の皆さまへ」と題する次の内容を要旨とす
る掲示をした。
PC‑VAN 会員の皆さまへ(要旨)
AI出版
代表取締役N
編集局長O
この度、当社所有の ID(THB*****)について、管理の不注意から不祥事を引
き起こし、PC‑VAN 会員の皆さまに多大なご迷惑をおかけしましたことを深くお
詫び申し上げます。THB*****の ID を用いる者によって OLT において嫌がらせを
受けた PC‑VAN の一会員から、「月刊パソコン通信」編集部I宛てに、この ID は
AI 出版のものではないかという問い合わせがあったため調査したところ、この
ID は間違いなく当社所有のものであることが判明しました。また、OLT その他
の使用状況から、この ID を使用した 者は、SEB*****の ID 及び「PONYTAIL」の
ハンドルネームを用いる人物であることが特定されてきました。
(PONYTAIL 氏の説明)
同氏は、6 月 20 日、
「月刊パソコン通信」編集部のスタッフと会い、この ID
の入手経路について質疑応答し、次のように述べておられます。昨年秋、秋葉
原で会った人物と、喫茶店でパソコン通信の話をした。できれば ID を複数所有
して違う人物を演じてみたいと思っていると述べると、自分が持っている ID を
一万円で売ってもよいと言われた。PC‑VAN の「料金情報」を調ベ、一万円以上
になったら差額分を振り込んでくれればよいということで、一万円を支払って、
その ID を買い取った。主に OLT などで使用し、課金が一万円以上になったこと
は知っていたが、売主から電話はかかってこなかった。悪いとは思ったが、そ
のうちかかってくるだろうと軽く考え、そのまま使い続けてきた。
使い始めたのは、買い取ってすぐ、昨年秋(10〜11 月)からである。
ID の名義がNであることは、「料金情報」の「利用実績」を見て知っていたが、
AI 出版の代表取締役の名であるとは知らなかった。この ID の売主の名前は覚え
ていない。電話番号は、当時はメモをとっていたが、今は紛失していてわから
ない。
153
5.判例、裁判上の係争事項等
(AI 出版の社内調査)
当社では、一年ほど前まで PONYTAIL 氏に原稿を書いて頂いていたことがあり、
このとき何らかの必要から当該 ID を貸し出していた可能性があります。この貸
出の有無について社内調査致しましたが、貸し出したという事実は確認できま
せんでした。これは、現在の当社社員で貸出を記億する者がいないということ
であり、退職した社員につきましては、調査できておりません。
(本件に関する PONYTAIL 氏の御意見)
6 月某日、同氏は、当社担当者と面会し、金銭による弁償を含め、自分の落度
について全面的に謝罪したい、ただし自分にも釈明する機会を与えてほしい旨
述べられています。
(本件についての当社の立場)
まず、ID 管理のルーズさから、PC‑VAN ユーザーの皆さまにご迷惑をお掛けし
たことをお詫び申し上げなくてはなりません。THB*****の ID により、嫌がらせ
を受けたという訴えにつきましては、これを厳粛に受け止め、幾重にもお詫び
申し上げたく存じます。
また、ID を不正使用されたという面からは、当社は被害者の立場にもなって
おります。この点は、PONYTAIL 氏は落度を認められ、弁済と謝罪を申し出てお
られますので、今後、氏と当社の間で、納得がいく解決を図っていきたく存じ
ます。以上は、本件に関し、当社の把握する範囲内でのご報告であることを、
重ねて申し上げておきたく存じます。
ソ.SIG「市民の討論広場」のオペレーターの2名は、平成 4 年 7 月 26 日から
27 日にかけて、電子掲示板に、「PONYTAIL 氏をアシスタント解任」と題する次
の内容を要旨とする掲示をした。
PONYTAIL 氏をアシスタント解任(要旨)
PONYTAIL 氏を平成 4 年 7 月 26 日付で当 SIG のアシスタントから解任します。
PONYTAIL 氏は、平成 3 年秋ころから平成 4 年 6 月ころにわたって、AI 出版所
有の ID である THB*****を盗用し、OLT などに使用していたという重大疑惑がか
かっているのに、適切な対応をせず、信用を維持することができなかったこと
が解任の理由です。PONYTAIL 氏の、証拠がないという理由付を最大の論拠とし
た応対は、証拠の残らない行為なら何をしてもよいというスタンスにすら解釈
でき、適切な応対とはいえないと判断しました。
タ.それから1年以上も経過した平成 5 年 12 月に至っても、電子掲示板におい
て、PC‑VAN の会員らと原告との間で、不正使用に関する掲示が続き、会員か
154
5.判例、裁判上の係争事項等
らは、「AI は事の顛末を報告しているが、あなたからは黙秘だけ。」「誤認と言
い張るなら、あなたの言い分を間かせてもらいたい。」などの要望があったが、
原告は、なぜ私が命令されなければいけないのか、私に顛末を語る義務はない
などとして、これを拒否した。
チ.以上のような経過をたどり、原告が AI 出版の所有する THB*****の ID を使
用していた事実が明らかとなった。そして、原告は過失によるものであると弁
解したが、ID の入手方法について説得力のある説明を行わないため、不正使
用ではないかとの疑惑が強く残されたままとなった。
ツ.被告は、平成 5 年 8 月に PC‑VAN を利用し始めるまで、原告を全く知らなか
ったが、同年 9 月ころ、AI 出版が電子掲示板に掲示した前記「PC‑VAN 会員の
皆さまヘ」と題する掲示を読んだことを契機として、ID の不正使用問題に興
味を持った。そして、以上の掲示を可能な限り集めて検討したところ、原告自
身は具体的な事実を何一つ説明していないとの感想を持った。
被告は、平成 6 年 1 月ころまでに2度にわたり、OLT において、この疑惑に関
して、原告との間で会話を交わしたが、その際、原告は、一対一でスクランブ
ル(OLT において同時刻に同じデータ領域にアクセスしている各会員が同意し
てその時点でアクセスしていなかった会員が同じデータ領域にアクセスでき
ないようにする機能)をかけるならこの事件の真相を説明するなどと発言した。
原告のこの発言を受けた被告は、原告に対する疑惑は真実であると思うととも
に、PC‑VAN 会員の公的な利害にかかわる原告のこの疑惑については公開の場
で議論されるべきであると考えた。
テ.被告は、平成 6 年 3 月 25 日、OLT において、原告との間でこの疑惑に関し
て本件会話を交わした際に、本件通信記録を電子掲示板に掲示してもよいか許
可を求め、ID 間題の真相を聞きたいと尋ねた。しかし、原告は、これを拒否
し、ID 間題はでっち上げであって、その間題は解決済みである、第三者に答
える必要は一切ないなどと述べることに終始したため、被告は、「多分犯人は
貴方なのでしょう。AI の言うとおり。」と発言するなどした。 原告及び被告
は、本件会話にスクランブルをかけておらず、本件会話の途中、約 20 人の会
員がアクセスしたり、アクセスを終了したりした。なお、OLT において、ある
会員がアクセスしたときは、同時刻に同じデータ領域にアクセスしている各会
員端末の画面上に、この会員のハンドルネーム及びアクセスした旨が表示され、
アクセスを終了したり、異なるデータ領域にアクセスを変更する場合もその旨
表示される。
ト.被告は、同月 30 日、電子掲示板の一つに本件通信記録を適宜抜枠して掲示
した(本件掲示)。なお、本件掲示は、IHS ファイルという、そのままでは人
間に読むことのできない記号列の形式で掲載されていたため、これを読もうと
155
5.判例、裁判上の係争事項等
する者は、このメッセージを会員端末のディスクに一且保存した上で所定のソ
フトを用いて人間の読むことのできるテキストファイルに変換する必要があ
る。このようなことから、本件掲示の内容をどの程度の数の会員が現実に読ん
だのかは、全く不明である。
(2)争点とそのポイント
ア.名誉毀損
(原告の主張)
被告は、本件掲示中の「多分犯人は貴方なのでしよう。
」との発言部分により、
原告が AI 出版の ID を盗用したとの事実を摘示し、もって、原告の社会的評価
を低下させ、原告の名誉を毀損したものである。なお、原告は、この ID を秋葉
原の電気街で偶然に知り合った権利者と自称する者から一万円で借用したので
あり、盗用したものではない。
(被告の主張)
(ア) 本件掲示行為の当時、原告が、AI 出版の所有する THB*****の ID を不正
使用したとの疑惑があったので、被告は、本件会話を通じてこの疑惑に係る事
実の存否を確認した上、他の会員に対して注意を喚起する目的で本件掲示行為
に及んだものであり、この行為は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益
を図る目的に出たものである。
(イ) この疑惑に関しては、平成 4 年 6 月、ハンドルネーム「右近」を使用し
ている PC‑VAN の女性会員(以下「右近」という。)が、THB*****の ID を有する
会員から、OLT で個人的情報にかかわる嫌がらせの 発言を受けた旨を電子掲示
板に掲示したことを契機にして、電子掲示板において、他の会員がこのIDは
原告が使用していることを示唆する発言を掲載し、原告がこれに対する反論を
掲載するなどしていたところ、右近が、この ID は、AI 出版が所有するもので、
当時の AI 出版の代表取締役名義であることが判明した旨を掲示し、さらに、AI
出版が、同年 7 月 27 目、PC‑VAN 会員に対し、ID 管理の不始末を謝罪した上、
この ID の不正使用者を原告であると特定したことを電子掲示板に掲示するなど
の経緯があった。したがって、この経緯にかんがみると、原告が、AI 出版の所
有する THB*****の ID を不正使用したことは真実であり、仮に真実でないとして
も、被告は、AI 出版の掲示内容等を信用し、これを真実であると信じたもので
あり、真実であると信じるにつき相当な理由があった。
(ウ)したがって、被告の本件掲示行為は、公共の利害に関する事実に係り、専
ら公益を図る目的に出たものであって、本件掲示の内容が真実であり、仮に真
実でないとしても、被告が真実であると信じるにつき相当な理由があったので、
違法性が阻却される。
156
5.判例、裁判上の係争事項等
イ.プライバシー侵害
(原告の主張)
(ア) 本件掲示は、誰が何をどのような考えに基づき発言したかを具体的に知
ることができるものであるが、このような事柄は個人の思想、信条にかかわる
ものであって、プライバシーに関する事項として保護される。
(イ) 本件掲示は、当時の約 60 数万人の PC‑VAN 会員が読むことができ る状態
に置かれ、そのうち、一割に相当する約 6 万人の会員が実際にこれを読んだも
のと推測される。
(ウ) 被告は、原告が同意をしなかったのに、本件掲示を不特定多数の者に公
開し、原告のプライバシーを侵害した。
(被告の主張)
(ア) 本件会話の内容は、本件掲示行為によって初めて公開された情報でなく、
既に AI 出版によって、電子掲示板に掲示され、公開されていた情報であり、何
ら秘匿性、新規性のある情報ではない。
(イ) また、本件掲示においては、発言者である個人は全てハンドルネーム及
び ID だけで特定され、原告の住所、氏名、職業等の情報は表示されていないの
で、本件掲示における発言者が原告個人であることの特定は困難である。
(ウ) したがって、被告の本件掲示行為は、プライバシー侵害といえる程度の
実体を備えていない。
ウ.通信の秘密の侵害
(原告の主張)
パソコン通信において知り得た情報を第三者に漏らすことは禁止されている
(憲法 21 条 2 項)。被告は、OLT における本件会話の正当な受信者ではあるが、
正当に知り得た通信内容であっても、その秘密を第三者に公表する行為は禁止
されている(有線電気通信法)。
被告は、本件掲示行為により、原告の通信の秘密を侵害した。
(被告の主張)
憲法 21 条 2 項は、国家に対し、国民が行う通信を傍受するなどの侵害行為を
禁止するものであり、私人の行為に適用がない。仮に、憲法 21 条 2 項が私人の
行為にも適用されるとしても、被告は、OLT における本件会話の正当な受信者で
あるから、受信した本件会話内容の情報をいかに使用しようとも、原告に対し、
通信の秘密を侵害したことにはならない。
157
5.判例、裁判上の係争事項等
エ.著作権の侵害
(原告の主張)
本件会話は、4 時間半に及ぶ多岐のテーマにわたる原告、被告及び第三者を交
えた真剣な議論であるから、本件通信記録は著作物に該当する。被告は、本件
会話に参加した原告の許諾を受けずに、本件通信記録の内容を改変して電子掲
示板に公表しており、原告の著作人格権(公表権、同一性 保持権)、著作財産
権(複製権、有線送信権等)を侵害した。
(被告の主張)
本件会話は、偶然居合わせた会員が、明確な目的のないまま、本件会話を公
開してよいかどうかなどに関して、事実確認のための質疑等をやり取りしたに
すぎず、「事実の伝達にすぎない雑報」である(著作権法 10 条 2 項)。したがっ
て、本件通信記録は著作物ではない。
オ.正当防衛ないし社会的相当行為
(被告の主張)
仮に、被告の本件掲示行為が、原告に対する名誉毀損、プライバシー侵害、
通信の秘密の侵害又は著作権の侵害に当たるとしても、被告は、本件掲示行為
によって、PC‑VAN 会員全体の安全性を回復するため、パソコン通信の匿名性を
悪用した原告の間題行動を他の会員に周知させ、警告したのであって、加入者
による運用の自主性を確保すべきパソコン通信網において、対等の表現手段を
有する他の会員の違法・不正な行為を摘示した被告のこの行為は、正当防衛又
は社会的に相当な行為に該当し、違法性が阻却される。
(原告の反論)
争う。PC‑VAN 利用者全体の安全性の回復を図る行為は、PC‑VAN 運用の主催者
である日本電気が行うべきものである。
(3)判決内容等
ア.名誉毀損について
本件掲示中の「多分犯人は貴方なのでしょう。AI の言うとおり。
」という被告
の発言は、「多分」「AI の言うとおり。」などの表現などに照らすと、原告が AI
出版の所有する THB*****の ID を不正使用したという事実そのものを摘示したも
のではなく、その点についての原告に対する疑惑が極めて濃厚であると評価し、
表現したものと認めるのが相当である。
しかし、本件掲示行為の当時において、原告がこの ID を不正使用したという
疑惑は、AI 出版の前記「PC‑VAN 会員の皆さまへ」と題する掲示、右近の「百舌
158
5.判例、裁判上の係争事項等
鳥伶人氏の ID 不正使用について」と題する掲示等が電子掲示板に掲示されたこ
とに加え、原告の反論やその他の PC‑VAN 会員の発言が電子掲示板に多数回にわ
たり掲示されたことによって、不特定多数の会員が知ることのできる状態に置
かれていたのであり、不特定の会員の間で極めて濃厚な疑惑として受け止めら
れていたことは容易に推測される。しかも、本件掲示において、原告による ID
の不正使用に関する具体的事実は何ら摘示されていないこと、原告がこの疑惑
は事実ではないと反論していることがそのまま記載されていることなどに照ら
すと、本件掲示は、既に AI 出版や右近等により電子掲示板に掲示された前記情
報によって不特定の会員が知ることのできるこの疑惑の具体的な内容に新たな
事実を付加するもの ではなく、その掲示によって、疑惑の確度に対する従来の
印象を超えて新たに原告に対するこの疑惑を深めたとはいえない。したがって、
被告の本件掲示行為によって原告の社会的評価が低下したということはできな
い。
また、仮に、被告の発言が、原告において AI 出版の ID を不正使用したとの
事実を摘示するもので、本件掲示行為によって原告の社会的評価が低下したと
みる余地があるとしても、PC‑VAN サービスにおいて、会員が他人の ID を使用し
て無責任な内容の発信を行った場合、他の会員に迷惑を掛けることとなり、こ
のサービスの秩序ある運営を行うことが困難となることは明らかであつて、前
記疑惑の真偽は、多数の PC‑VAN 会員の公共の利害にかかわるものというべきで
ある。そして、原告と面識もなく、数回程度 OLT において会話を交わしたこと
があるにすぎない被告が、私怨を晴らし、あるいは個人的利益を図るなどする
ために本件掲示行為に及んだというような事情はうかがわれないから、被告は
専ら公益を図る目的をもって本件掲示行為に及んだものと認めるのが相当であ
る。さらに、原告が、AI 出版の所有する THB*****の ID を入手し、これを用い
て OLT を利用したことについて AI 出版の承諾を得ていないことは明らかである
上、AI 出版及び右近が電子掲示板に前記認定のような掲示をしていたことや、
この ID の入手経緯に関する原告の前記弁明はその内容が極めて不自然かつ不合
理なものであることなどを考慮すると、これらを読んだ被告において、原告が
この ID を不正使用したことが真実であると信じるにつき相当な理由があったと
いうべきである。
したがって、被告の掲示行為は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益
を図る目的に出たものであり、被告において、原告がこの ID を不正使用したと
信じるにつき相当な理由があったものと認められるから、違法性がない。
以上のとおり、被告の本件掲示行為は、原告の社会的評価を低下させるもの
ではなく、原告に対する名誉毀損に当たらないとみるのが相当であるし、これ
が原告の名誉を毀損したものとみる余地があるとしても、その違法性は阻却さ
159
5.判例、裁判上の係争事項等
れるので、原告の主張は理由がない。
イ.プライバシー侵害について
原告が AI 出版の所有する THB*****の ID を不正使用したという疑惑は、不特
定多数の会員が知ることのできる状態に置かれていたことは前記認定のとおり
であり、本件掲示中のこの疑惑に関する部分は、既に PC‑VAN の会員の間に公開
されていた情報であり、被告の掲示行為によって初めて公開された情報とは認
め難い上、本件掲示のその余の部分については、法的保護に値する個人的情報
が含まれているわけではない。そして、本件会話の途中で、約 20 名の不特定の
会員がアクセスしたことを原告は認識することができたにもかかわらず、本件
会話を終了することなく継続し、スクランブルをかけなかったことからしても、
原告は、OLT における公開性の限度において、本件会話を不特定人に公開された
場で行い、かつ、これを容認していたものというべきである。これらの事実関
係に照らすと、被告が原告の明示の意思に反して掲示行為に及んだことは、そ
の当否は疑問であるとしても、これが、原告のプライバシーを侵害し、不法行
為を構成するとまではいえない。
以上のとおり、前記疑惑に関する部分は被告の本件掲示行為によって初めて
公開された情報ではなく、また、原告は本件会話を不特定人に公開された場で
行い、かつ、これを容認していたことに照らし、被告の本件掲示行為が原告の
プライバシーを侵害したとまではいえない。
ウ.通信の秘密の侵害について
被告は、本件会話の当事者であり、本件掲示行為は、通信の当事者以外の第
三者が通信の秘密を犯す行為ではないから、このような行為は、憲法上保障さ
れる通信の秘密とはかかわりがなく、また、有線電気通信法が禁止する行為で
もない。この点に関する原告の主張は失当である。
エ.著作権の侵害について
本件通信記録は、OLT を利用して交わされた会話文であって、その内容は日常
の会話と特段異なると認められる点がなく、文芸、学術の範囲に属するものと
は到底認められない。したがって、本件通信記録は著作物に当たらないので、
被告の本件掲示行為は、何ら原告の著作権を侵害するものではない。
以上
160
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.2
ニフティFSHISO事件(一審)
平成9年5月26日東京地裁判決
平成6年(ワ)第7784号、同第24828号
損害賠償・反訴請求事件
【要旨】ニフティサーブ会員で現代思想フォーラム(FSHISO)に参加し
ていた被告Aにより、やはり同フォーラムに参加していた会員である原告に向
けた発言が、原告に対する名誉毀損、侮辱、脅迫であるとし、原告が、①被告
Aに対し不法行為に基づき、②同フォーラムのシスオペである被告Bに対し,
名誉毀損等の発言を削除すべき義務を怠ったとして不法行為に基づき,③被告
ニフティに対し,被告Bの使用者責任又は会員契約に付随する安全配慮義務違
反等の債務不履行責任に基づき,金1000万円の損害賠償と謝罪広告を求
め、被告Aが,反訴として、原告が①村八分にした,②被告Aのプライバシー
を暴露した、として,被控訴人に対し,不法行為に基づく金200万円の慰謝
料並びに謝罪広告を求めた。東京地裁は、①被告Aの本件各発言は名誉毀損に
当たる,②シスオペである被告Bは本件各発言を具体的に知ったときから条理
上、必要な措置を取るの作為義務を負い,本件各発言の一部につき作為義務を
怠った過失がある,③被告ニフティは被告Bの使用者責任を負うとして,原告
に対する損害賠償を一部認容し,その余の部分及び謝罪広告請求を棄却し,反
訴を棄却した。
(1) 事案の概要
ア.当事者及び本訴反訴の主張の概要
(ア)当事者
被告ニフティは、パーソナルコンピュータ、コンピュータ等の装置間の通信
(以下「パソコン通信」という。
)を主体とした一般第二種電気通信事業及び関
連情報処理サービス業等を営む会社であり、パソコン通信ニフティサーブの主
宰者である。
(イ)原告は、平成元年四月にニフティサーブの会員(以下、単に「会員」と
もいう。)となり、
「Cookie」とのハンドル名(ニフティサーブにおいて、
自己を表示するために用いる名称)を用いていた者である。
(ウ)被告Bは、平成五年一一月ころから(ただし、契約書は一〇月二五日付
け。)、ニフティサーブの現代思想フォーラム(略称・FSHISO。以下「本
件フォーラム」という。)のシステム・オペレーター(SYSOP。フォーラム
161
5.判例、裁判上の係争事項等
マネージャーともいう。以下「シスオペ」という。)を担当している者である。
なお、シスオペとは、被告ニフティとの間の契約に基づき、同被告から、ニフ
ティサーブ中の特定のフォーラムの運営・管理を委託されている者をいう。
(エ)被告Aは、
「気が小さいA」及び「A THE SHOGUN」とのハン
ドル名を用いていたニフティサーブの会員である。
イ.本訴関係の主張の骨子
(ア)被告Aは、本件フォーラムに設置されている電子会議室に、別紙発言一
覧表(一)ないし(四)の各「発信番号」欄記載の発言番号を付された文章(こ
れらに対応する「名誉毀損部分」欄記載の各文章を含むもの。なお、一つの発
言番号を付された文章全体を指して、以下「発言」といい、これらの各発言を
総称して、以下「本件各発言」という。)を書き込み、原告の名誉を毀損した。
(イ)被告Bは、本件フォーラムのシスオペとして、本件各発言を直ちに削除
する等の作為義務があったのにこれを怠り、右各発言によって原告の名誉が毀
損されるのを放置した。
(ウ)被告ニフティは、ニフティサーブの主宰者として、被告Bを指導し、本
件各発言を削除させるか、自らこれらを削除すべきであったのに、これらの措
置をとらず、右各発言によって原告の名誉が毀損されるのを放置した。また、
同被告が、被告Aの本名、住所等を開示するようにとの原告の要求に応じなか
ったため、原告の損害が拡大した。
(エ)そして、原告は、右(ア)のような主張事実を前提として、被告ら各自
に対し、
(1)慰謝料一〇〇〇万円及びこれに対する平成九年五月二七日(本判
決言渡しの日の翌日)から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害
金の支払、並びに、(2)ニフティサーブ上への謝罪広告の掲載を求めている。
なお、原告の、被告A及び同Bに対する請求は、いずれも不法行為に基づくも
のであり、被告ニフティに対する請求は、右(1)については使用者責任又は
債務不履行(安全配慮義務違反)
、右(2)については使用者責任に基づくもの
である。
ウ
反訴関係の主張の骨子
被告Aは、原告が、本件フォーラムにおいて、
(ア)被告Aをいわゆる村八分にして同被告の名誉を毀損した
162
5.判例、裁判上の係争事項等
(イ)被告Aの職場でのトラブルを暴露して、同被告のプライバシー権を侵害
したなどと主張して、原告に対し、不法行為に基づき、慰謝料合計二〇〇万円
及びこれに対する反訴状送達の日の翌日である平成六年一二月二〇日から支払
ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払、並びに、ニフティサ
ーブへの謝罪広告の掲載を求めている。
(2)争点およびそのポイント
【1.本訴関係】
(ア)被告Aの本件各発言によって、原告の名誉が毀損されたか(全被告関係)
。
(イ)被告Bの責任原因(被告B及び同ニフティ関係)
(ウ)被告ニフティの責任原因(被告ニフティ関係)
a.使用者責任
b.債務不履行責任(安全配慮義務違反)
(エ)損害額及び謝罪広告掲載の要否
【2.反訴関係】
(ア)後記スクランブル事件(第三の一2(一)
(2)
(C)
)によって、被告A
の名誉が毀損されたか。
(イ)原告が、被告Aのプライバシー権を侵害する書き込みをしたか否か。
(ウ)損害額及び謝罪広告掲載の要否
−争点についての当事者の主張
【本訴関係 − 原告の主張】
(ア)被告Aの責任
a.原告は、ニフティサーブで会員情報を公開していたほか、被告ニフティ
が発行する雑誌「ONLINE TODAY JAPAN」の平成五年九月号
においては、「Cookie」が原告であることが明らかにされていた。また、
原告は、ニフティサーブのオフラインパーティー(会員を集めて開催されるパ
ーティー)にも積極的に参加し、自己のID番号を印刷した名刺を多数の者に
配付していた。さらに、被告Aも、その発言中で、
「Cookie」が原告であ
ることを明言していた。これらの事情に照らすと、本件フォーラムに参加した
ニフティの会員なら誰でも、
「Cookie」が原告があることを知り得たとい
うべきである。したがって、本件各発言によって、原告の社会的評価が低下し、
その名誉が毀損されたことは明らかである。
163
5.判例、裁判上の係争事項等
b.被告Aの責任
被告Aは、故意又は過失によって、本件各発言を本件フォーラムの電子会議
室に書き込んだものであるから、不法行為に基づき、原告の損害を賠償する責
任がある。
(イ)被告Bの責任
a. (a)本件フォーラムのシスオペである被告Bは、被告ニフティとの
間のフォーラム運営契約によって本件フォーラムの運営・管理を委ねられてお
り、他人を誹謗中傷するなど会員規約に違反する発言を削除することもできる
地位にあること、
(b)これに対し、右のような発言によって被害を被った者に
は、有効な対抗手段が与えられていないこと、
(c)ニフティサーブの会員規約、
フォーラム運営契約書(丙一)及びフォーラム運営マニュアル(丙二。以下「運
営マニュアル」という。)の記載内容に照らし、ニフティサーブにおいては、他
人を誹謗中傷するような違法な発言については、原則として削除することがル
ールとして確立されていたというべきこと、
(d)被告ニフティは、会員に対し、
フォーラムに書き込まれる発言を常時監視すべき一般的注意義務を負うと解す
べきところ、被告Bは、被告ニフティに代わってフォーラムの運営・管理を行
っている者であるから、被告ニフティと同様の義務を負うものと解すべきこと
(被告B及び同ニフティは、被告Bの注意義務の存否について、作為義務の存
否の観点からのみ論じているが、それだけでは不十分というべきである。)等を
総合すると、被告Bには、本件フォーラムの電子会議室に書き込まれた発言が
他人の名誉を毀損しないかを常時監視し、そのような発言が書き込まれた場合
には、これを削除したり、右発言を書き込んだ会員を直接指導するなどして、
右発言の有線送信を未然に停止し、また、当該会員に、その後さらに他人の名
誉を毀損する発言を書き込むことを止めさせ、これによる損害の発生、拡大を
防止すべき義務があったというべきである。
b. ところが、被告Bは、原告の名誉を毀損する内容の本件各発言の存在
を、これらが書き込まれる毎に知りながら、これを削除せず放置した。その結
果、本件各発言による原告の損害が拡大したものである。
c. したがって、被告Bには、不法行為に基づき、原告の被った損害を賠
償する責任がある。
(ウ)被告ニフティの責任
a.使用者責任
(a)被告ニフティは、本来自ら行うべきフォーラムの運営・管理の業務を、
シスオペに委託して行わせているものであるから、右(イ)の被告Bの不法行
164
5.判例、裁判上の係争事項等
為は、被告ニフティの事業の執行につきされたものである。
(b)そして、フォーラム運営契約(丙一)、運営マニュアル(丙二)によ
れば、シスオペは、第三者に対する誹謗中傷等を内容とする文章が書き込まれ
た場合の対応については、被告ニフティに対する連絡や、右発言を削除するか
否かの判断、処理について、被告ニフティから詳細な義務を課せられており、
また、シスオペをフォローするために被告ニフティがシスオペに対して行った
指示にも拘束されると解される。さらに、フォーラム運営契約では、被告ニフ
ティは、シスオペを解任することができるものとされており、本件各発言がさ
れる以前にも、現実に被告ニフティによってシスオペが解任され、同被告の従
業員が当該フォーラムのシスオペを代行したこともあった。これらの事情に照
らすと、被告ニフティとシスオペである被告Bとの間には、使用者責任の基礎
となるべき実質的な指揮監督関係があるというべきである。
(c)したがって、被告ニフティは、使用者責任に基づき、右(イ)の被告
Bの不法行為によって原告が被った損害を賠償する責任がある。
b. 債務不履行(安全配慮義務違反)
(a)電気通信事業法一条が同法の目的として「利用者の利益」の保護をあ
げていること、ニフティサーブ上で被害を受けた会員を保護し得る立場にある
のは被告ニフティ及び同被告からフォーラムの運営・管理を委託されたシスオ
ペのみであること、被告ニフティは、会員に対して有償で各種サービスを提供
していることに照らすと、被告ニフティは、会員との間の会員契約に基づく付
随義務として、ニフティの会員が、ニフティサーブの利用により犯罪等の被害
に遭遇しないよう配慮して会員に損害が生じるのを未然に防止し、損害発生を
防止できないときでも損害を最小限度に止めるべき契約上の安全配慮義務を負
うと解すべきである。そして、本件において、被告ニフティが、原告に対して
負う安全配慮義務の具体的内容は次のとおりである。
(i) 電子会議室に会員の名誉やプライバシーを侵害するような書き込み
がないかを常時監視し、このような書き込みがされた場合はこれを削除して当
該会員の損害を最小限度に押さえるべく努力し、かつ、かかる不法な発言をし
た会員を適切に指導する義務
(ii)ニフティサーブ上で名誉毀損等の被害にあった会員に対し、加害者
である会員の氏名及び住所を開示する義務
(b)履行補助者の故意・過失による債務不履行
被告ニフティは、フオーラムの運営・管理を第一次的にはシスオペに委託し
ているから、右(a)の安全配慮義務は、シスオペが被告ニフティの履行補助
者として履行することになる。そして、本件フォーラムのシスオペの被告Bに
165
5.判例、裁判上の係争事項等
は、右(イ)
(b)のような注意義務違反があるところ、これは、被告ニフティ
が右(a)1の義務に違反したのと信義則上同視すべき行為というべきである
から、被告ニフティは、原告に対し、債務不履行責任を負う。
(c)被告ニフティによる債務不履行
(i) 右(a)(i)の義務違反
被告ニフティは、
− 別紙発言一覧表(二)の符号6ないし11の各発言については、原告が
平成六年一月六日付け電子メール(通信回線を通して、特定の相手方に対して
送る手紙のようなもの)で明確に削除を要求してから同年二月一五日までの間、
これらを削除せずに放置した。
− 同一覧表(一)記載の符号1及び2、並びに同一覧表(二)記載の符号
1ないし5及び12の各発言については、平成六年になってから、担当者が被
告Aの発言を読んだ際に名誉毀損発言と判断し、直ちに削除すべきであったの
に、これを行わず、平成六年五月二五日に、ようやくこれらを電子会議室の登
録から外す処理をした。
− 右a及びb以外の本件各発言については、被告ニフティは、少なくとも
訴状送達後、直ちにこれらを削除すべきであったのに、右bと同様の処理をし
た。
被告ニフティのこのような行為は、右(a)
(i)の義務に違反するものであ
る。
(ii) 右(a)(ii)の義務違反
− 原告は、被告ニフティに対し、平成六年二月一四日付け書面及び同年三
月一〇日付け書面をもって、被告Aの住所氏名の開示を要求したが、同被告は
これを拒否した。このような被告ニフティの行為は、右(a)2の義務に違反
するものである。
被告ニフティは、被告Aの住所氏名の開示を拒否した理由として電気通信事
業法一〇四条をあげるが、通信当事者の一方たる原告に、他方の通信当事者た
る被告Aの住所氏名を開示することは同条にいう「通信の秘密を侵」す行為に
はあたらないと解すべきであるから、同被告の主張には理由がない。
(iii)そして、右(i)及び(ii)の義務違反の結果、本件各発言に
よる原告の損害が拡大したのであるから、被告ニフティは、原告に対し、債務
不履行に基づき、その損害を賠償する責任がある。
(エ)損害額及び謝罪広告の必要性
a.本件各発言の内容はその一つ一つが極めて悪質であること、同一フォー
ラム上に継続、反復して書き込まれていること等に照らすと、本件各発言によ
166
5.判例、裁判上の係争事項等
って原告に生じた損害に対する慰謝料の額としては、一〇〇〇万円が相当であ
る。そして、原告の、被告らそれぞれに対する請求権は、不真正連帯の関係に
あると解されるから、被告らは、原告に対し、各自、一〇〇〇万円の損害を賠
償する責を負うものである。
b.また、本件各発言によって、原告が被った損害の回復のためには、被告
らにおいて、ニフティサーブ上に、別紙一の謝罪広告を同別紙記載の掲載条件
で掲載することが必要というべきである(ただし、被告ニフティに対しては、
使用者責任のみに基づいて、謝罪広告掲載の請求をするものである。)。
【本訴関係 − 被告Aの主張】
(ア)本件各発言についての違法性の不存在
a.ある言動が人の社会的名誉を低下させるものか否かの判断にあたっては、
事実摘示の程度、公益性、行為者とその対象となった者との関係、行為時の状
況・手段等を検討して、法が名誉毀損として類型的に予定した程度の違法性を
具備するかどうかを検討しなければならず、また、類型的には他人の社会的名
誉を毀損するものと考えられた場合でも、かかる行為が、真実を公表するもの
であって、その他人の行った言動に対する反論、弁明としての自己の権利・名
誉の擁護を図るものであり、かつ、その他人の行った言動に対比して、その方
法、内容において相当と認められる限度を超えない限り、違法性を欠くものと
解するのが相当である。
b.本件各発言がされるに至った経緯
(a)被告Aは、平成五年四月ころ、妻のIDを用いて本件フォーラムに入
会したが、右当時、原告は、本件フオーラムに設置されていたフェミニズム会
議室において、リアルタイム会議(RT会議。同一フォーラム内に同時にアク
セスしているニフティの会員が複数で会話を交わすことができる機能。)を主宰
するRT要員(リアルタイム会議において、
会員相互の会話を盛り上げるため、
運営に協力する会員。)という公的地位にあり、被告ニフティからフリー・フラ
ッグ(FF。特定のフォーラムへのアクセス中はニフティサーブの使用料金が
課されない課金免除の地位を表す標識。)を付与されていた。
(b)フェミニズム会議室は事実上原告を中心に運営されていたところ、そ
こでは、原告及び原告と親しい会員(以下「原告ら」という。)の考える「フェ
ミニズム」に異を唱えた会員に対しては、その意見を認めず、最終的には対話
を拒否するという運営が事実上されていた。被告Aは、原告らが考える「フェ
ミニズム」及び原告らが行っていた右のような運営のやりかたを批判したとこ
ろ、主として原告のシンパである会員から猛反発を受けた。
(c)平成五年五月七日、被告Aが、本件フォーラムのリアルタイム会議に
167
5.判例、裁判上の係争事項等
参加していたところ、RT要員としてこれを主催していた原告が、他の参加者
に呼びかけ、スクランブル機能(スクランブルモードにすることによって、ス
クランブルモード及びパスワードを知っている特定の会員のみしかアクセスす
ることができないようにする機能。)を用いて、被告Aを、リアルタイム会議に
参加できないようにした(この出来事を、以下「スクランブル事件」という。)
。
また、原告は、平成五年五月中旬、本件フォーラムのリアルタイム会議におい
て、被告Aが、以前勤めていた職場において原稿料のことでもめごとをおこし
た旨の書き込みをして、被告Aのプライバシーを暴露した。さらに、原告は、
そのころ、本件フォーラムに、「部落は怖い。
」との書き込みをした。
(d)スクランブル事件に関して、原告は、多数の会員から批判を受けたが、
右批判に対し、原告は、自分は一般会員であるから、気の合う人だけで話すた
めにやるスクランブルは正当であるとの弁明を行った。しかしながら、原告が
リアルタイム会議の主宰者であることは一般に知られていたため、右弁明によ
って原告への批判はさらに強まった。そのためか、原告は本件フォーラムから
の撤退を表明したが、その後の平成五年一〇月ころ、原告は、本件フォーラム
に、「朝鮮は怖い。」旨の書き込みをした。
(e)平成五年一一月中旬、原告が運営責任者となって、生涯学習フォーラ
ム(FLEARN)の中にフォーラム・イン・フォーラム(FinF。一つの
フォーラム内に独立したフォーラムの設置されるもので、いわば通常のフォー
ラムに昇格する前の準備段階的なもの。)の形式でフェミニストフォーラム(F
FEMI)が設置された。フェミニストフォーラムにおいては、ローカルルー
ル(フォーラム利用者に対して、当該フォーラムのみで適用される利用方法や
発言方法、発言の削除を含む保守管理に関するルール)によって、あらかじめ
発言の内容が拘束されており、事実、原告の考える「フェミニズム」に批判的
な書き込みは、一方的に削除されるという運営がされていた。
c.被告Aが本件各発言を書き込んだ趣旨
被告Aは、
(a)前記のように本件フォーラムの運営協力者であり、かつ、フ
ェミニストフォーラムの運営責任者という公的地位にあった原告が行ったフォ
ーラムの運営方法や、原告の運営責任者としての資質といういわばフォーラム
における公共的な問題に対する批判、
(b)原告が本件フォーラムに「部落は怖
い。」「朝鮮は怖い。」の書き込みをしたことに対する抗議・反論、(c)原告が
考える「フェミニズム」
「フェミニスト」に対する思想的な批判を目的として本
件各発言を書き込んだものである。そして、本件各発言より以前に、他の会員
からされた穏便な方法による原告批判が全く効果を現さなかったために、被告
Aの発言は、多少激烈な修辞を用いたスタイルにならざるを得なかったもので
ある。
168
5.判例、裁判上の係争事項等
d.さらに、本件においては、次のような事情も考慮されるべきである。
(a)パソコン通信及びコンピュータネットワーク(以下、「ネットワーク」
という。)においては、会員に関しては、通常、ID、ハンドル名、書き込んだ
日時、文章自体の四つの情報以外は明らかでなく、また、多くの会員が、実社
会とは別の人格としてふるまい、複数のIDを取得して複数の人格を演じる者
もいる。したがって、ネットワーク上において、名誉毀損の前提となるその人
の社会的評価というものを観念できるかは疑問である。
(b)また、ネットワーク上に社会的評価を低下させるおそれがある発言が
書き込まれたとしても、これに対しては容易に反論して社会的評価の回復を図
ることが可能である。また、書き込まれた発言を読む他の一般会員は、当該発
言自体が直ちに社会的評価に影響を及ぼすものとは考えず、むしろ、反論、批
判こそが重大関心事であって、それらの反論、批判をも考慮して、当該発言の
正確を判断するものである。これらのような事情は、会員相互で論争をしなが
ら現代社会の問題や思想的課題に取り組むことを目的とした本件フォーラムの
ような場においては、最も顕著に表われるものである。
(c)さらに、本件各発言は、現代社会と思想を扱う極めて特徴のあるフォ
ーラムである本件フォーラムに書き込まれたものである。
e.以上のような事情を総合すると、被告Aが行った本件各発言は、いずれ
も、法が名誉毀損として類型的に予定した程度の違法性は有しないものと言わ
ざるを得ない。
(イ)原告の精神的損害の不存在
原告は、
(a)平成六年四月五日発行の雑誌に掲載された座談会において、実
名でパソコン通信上の名誉毀損問題について自らの体験を語っていること、
(b)本訴提起に際し、各種マスコミに対し記者会見を行い、本件各発言の写
しを配布していること、(c)「婦人新聞」平成六年六月二五日号に実名(全身
の写真付き)で登場しており、記事の中には被告Aの発言の一部が具体的に引
用されていることに照らすと、本件各発言によって、原告が精神的損害を被っ
たことはないものというべきである。
(ウ)まとめ
以上のとおりであるから、被告Aに対する原告の請求は失当である。
【本訴関係 − 被告Bの主張】
(ア)予見可能性及び予見義務について
a.予見の困難性
(a)パソコン通信の歴史は浅く、そこで行動する人々の行動様式や行動原
169
5.判例、裁判上の係争事項等
理は経済的合理性に基づかないことが多い。また、
(b)名誉毀損による不法行
為では、損害の内容が人の社会的名誉であって、損害発生の予見は困難である
うえ、ネットワークにおいて、金銭で填補されるにふさわしい社会的評価の低
下があり得るかは不明である。さらに、
(c)被告Bは、本件フォーラムで活動
している者に関する情報として、書き込まれた文章、右文章が書き込まれた日
時、ID番号、ハンドル名のみしか与えられてないうえ、一人で多数のIDを
保有したり、一つのID番号を多数人が使用したりする者もいる。また、(d)
被告Bの本件フォーラムへの関与は留学していた期間をはさんで限定されてい
たこと、本件各発言は、同被告が留学から帰国して本件フォーラムのシスオペ
に就任した一か月後から書き込まれたこと、同被告は、シスオペを行うための
実費用に満たない程度の報酬を被告ニフティから受け取っていたにすぎず、本
業の傍ら、基本的にはボランティア的にシスオペを行っていたことに照らすと、
被告Bに過重な予見義務を課すことはできないというべきである。以上のよう
な事情に照らすと、本件において、被告Bが、損害発生を予見することは困難
であったものというべきである。
b.被告Bが予測し得た損害
右a.のような困難な状況であったにもかかわらず、被告Bは、被告Aの書
き込んだ発言による損害発生の危険性について、原告から電子メールで発言一
覧表(二)の符号6ないし11の各発言につき対処を求められた直後に、本件
フォーラムの運営会議室において討議をしたが、その結果、損害発生の危険の
現実性、具体性、重大性はないものと予測された。
c.常時監視義務を認めることの不当性
仮に、原告主張のとおり、シスオペにフォーラムが常時監視する義務を課す
とすれば、右(1)のように、ボランティア的に行われているシスオペの活動
に基礎をおいている現在のパソコン通信等のネットワーク発展の芽を摘んでし
まうことになりかねず、妥当ではない。
d.以上のとおりであるから、本件において、被告Bには、損害発生の予見
可能性及び予見義務はなかったものというべきである。
(イ)結果回避可能性及び結果回避義務について
a.右(ア)a.ないしc.に照らすと、被告Bに関して、結果回避可能性
及び結果回避義務を明確に確定することは困難である。
b.発言削除等の措置について
(a)削除の無効性
1 ネットワークにおいては、発言を削除しても、同趣旨の発言を何度でも容
易に書き込むことができること、一旦書き込まれた発言は、極めて短時間のう
170
5.判例、裁判上の係争事項等
ちに多くの者にダウンロードされ、それが電子会議室等から削除された後も、
ダウンロードした者から電子メールやフロッピーディスク等で流布されること
も多いことに照らすと、問題発言に対する対処としては、発言削除は有効なも
のではない。また、2 問題発言を書き込んだ者のフォーラムへのアクセスを
停止する措置(会員削除)も、当該会員において他のフォーラムに同趣旨の発
言を書き込むことが可能なこと、同一人が他のID番号でフォーラムに入会し
て同趣旨の発言を行うことも可能なこと、本件フォーラムでは、当時、フォー
ラムの会員でなくとも発言を書き込むことができたこと等に照らすと、問題発
言に対する対処としては有効な方法とはいえない(なお、被告ニフティが当該
会員のニフティサーブの会員としての資格を剥奪する措置(ID削除)をとっ
たとしても、当該会員が氏名・住所等を偽って新たなIDを取得したり、同趣
旨の発言を他の会員にさせることも容易なこと、他のネットワーク上に同趣旨
の発言を書き込むことも可能なことに照らすと、有効な対処方法とはいえな
い。)。
(b)シスオペにとっての発言削除の危険性
1 被告Bは、被告ニフティに対し、ニフティサーブの会員の権利を最大限尊
重する義務を負うとともに、電気通信事業法上、ニフティサーブの利用者が書
き込んだ発言等を伝達する義務を負っているが、みだりに発言削除を行うと、
このような義務に違反する危険性がある。なお、被告Bのように、思想を扱う
本件フォーラムのシスオペとしては、憲法に規定されている表現の自由や適正
手続の要請をできるだけ尊重せざるを得ないという事情もある。また、2 シ
スオペが発言の記載内容を監視し、これを削除するなど通信内容への関与を強
めると、それが、雑誌・新聞などの編集と同等の行為とみなされ、通信内容す
べてについて不法行為等の責任を負わされる危険性も生じる。
(c)被害を主張する者にとっての危険性
1 フォーラムにおいては、ある発言によって誹謗された者が、その発言を発
言者が削除できないように自ら当該発言にコメントをつけたうえで反論をする
ことさえあるところ、発言削除はこのような反論の機会を奪うことになる。ま
た、2 発言削除は、被害を受けたと主張する者が、訴えの提起等などのため
に必要な証拠を失わせる危険性も生じさせる。さらに、3 発言削除が契機と
なって、脅迫等の実生活上の被害が生じる危険性や、同趣旨の発言が当該フォ
ーラムや他のフォーラム等に繰り返し書き込まれるなどかえって被害が拡大す
る契機となる危険性がある。
(d)会員規約、フォーラム運営契約、運営マニュアルの解釈
後記4(一)(2)の被告ニフティの主張を援用する。
(e)以上のとおりであるから、被告Bに、発言削除等による結果回避可能
171
5.判例、裁判上の係争事項等
性及び結果回避義務はない。
c.発言の「一時預かり」について
右(2)のような事情は、シスオペが「一時預かり」等の名目で発言の送信
を停止する措置をとる場合にも、仮処分手続における立担保制度のように一時
的に不利益処分を受ける者の損害を担保する制度が整っているか、不利益処分
を受ける者の納得を得たうえで実行する場合で最終判断について明確な手続保
障があるとき以外はあてはまると解される。したがって、本件において、被告
Bに、いわゆる「一時預かり」による結果回避義務もない。
d.強権的な指導の無効性
被告Bが、原告に対し、本件フォーラムの会員を指導すべき義務を負う法的
根拠はないうえ、当時、被告Bが、強権的な指導を行えば、これによって、被
告Aが反発し、さらに問題発言を書き込む危険性が大きいことは、被告Aが書
き込んだ発言等からみて明白な状況にあった。
e.問題発言に対するシスオペの対処について
確立された基礎理論もない電子的なネットワークの世界で、現行法の要請を
満たし、フォーラム運営者としての債務を果たしながら、会員の人格を守るた
めには、シスオペとしては、自己の運営・管理するフォーラムの特性と会員の
個性とを把握し、自らの経験に基礎をおいた手法をもって対処していくしか方
法はない。被告Bは、このような観点から、シスオペ就任に際して本件フォー
ラムの過去の書き込みを検討し、フォーラムの現状が罵倒に満ちた憂うべきも
のであることを知り、思想を論ずる場のあり方を模索し、会員との対話によっ
て多くの会員の個性をつかむとともに、フォーラム運営に自己の教育学者とし
ての経験を生かせそうな途として、ぎりぎりまで発言削除は避け、会員と公開
の場での議論を積み重ね、会員の意識を変えることによって、他人を罵倒する
ような発言が多数書き込まれるような本件フォーラムの状況を根本的に改善す
ることをフォーラム運営の基本方針として採用したものである。そして、この
ような被告Bのフォーラム運営は、着実に成果を上げているものである。
(6)以上のとおりであるから、原告が主張するような発言削除や発言者に対
する「指導」では結果回避可能性があるとはいえないし、また、本件では被告
Bに結果回避義務違反もない。
(ウ)本件各発言の不法行為性の認識
a.本件各発言の不法行為性
右2における被告Aの主張を援用する。
b.不法行為性の認識
被告Bが原告に対し法的責任を負担する前提としては、単に問題発言が書き
172
5.判例、裁判上の係争事項等
込まれたことを認識したというだけでは不十分であり、不法行為の要件が全て
備わっていることの認識が必要であるというべきである。
(a)違法性の認識について
原告は、本件フォーラムにおいては通常会員がアクセスできない運営会議室
へのアクセスが許され、かつ、フリーフラッグが付与されていたなど、かつて
は「運営者側」にあった者であり、また、生涯学習フォーラムのフェミニスト
フォーラムにおいては「運営者」としての地位にあった。このような地位にあ
った原告については、その運営者としての言動が批判にさらされるのは当然で
あるし、原告の言動にその思想が顕著に反映している以上、その思想の源泉で
ある原告の人格に批判が及ぶこともやむを得ないことである。
本件各発言は、a 原告が「朝鮮・部落は怖い」と発言したことに対する非
難、b妊娠中絶に対する批判、c フェミニストフォーラムの運営に対する批
判、d 原告がアメリカに在留期限を超過して滞在したこのとに対する非難、
e 原告が、被告Aのプライバシーを暴露したことに対する非難をその柱とし
ている。そして、aについては、原告の本件フォーラム上における発言に照ら
し、原告が右のような発言をした可能性がないとは断定できなかったこと、b
については、原告が書き込んだ文章の中で自ら明らかにしていた事項に対する
異なった立場からの批判と理解できること、cについては、右1のような公的
立場にあった原告に対する正当な批判と理解できること、dについては、被告
Aの主張どおり原告が自ら書き込んだ文章の中で語っているとしたら、この発
言が違法とは断定できないこと、eについては、これが事実とすれば、このよ
うな行為を被告Aが非難し得るのは当然であり、右1のような原告の地位から
すれば、名誉毀損にあたらないことが明らかであることに照らすと、これらの
本件各発言をいわゆるフェア・コメントと理解することも可能であったものと
いうべきである。
したがって、被告Bには、違法性の認識はなかったというべきである。
(b)損害の認識について
右(ア)a.及びb.のとおり、被告Bには、本件各発言によって原告に損
害が発生するとの認識はなかった。
(エ)本件各発言に対する被告Bの対応の妥当性
後記の被告ニフティの主張を援用する。
(オ)まとめ
以上のとおりであるから、被告Bに対する原告の請求は失当である。
173
5.判例、裁判上の係争事項等
【本訴関係 − 被告ニフティの主張】
(ア)被告Bの作為義務の不存在(使用者責任に基づく損害賠償請求等につい
て)
a.原告の右1(イ)及び(ウ)
(1)の主張は、被告Bが、会員に対して、
発言削除等の作為義務を負うことを前提とするものであるが、シスオペに右の
ような義務を負わせる法令、契約及び慣習は存在せず、条理によってシスオペ
に右のような義務を負わせるのも法的安定性を害し妥当ではない。また、被告
ニフティが会員に対して安全配慮義務を負わず、被告Bがその履行補助者の地
位にあるとはいえないことは後記(イ)のとおりである。
b.会員規約(本件各発言当時のものは乙四)、フォーラム運営契約書(丙
一)、運営マニュアル(丙二)においては、被告Bのようなシスオペに、フォー
ラムの運営・管理については広範な裁量権が与えられており、
シスオペに対し、
被告ニフティとの関係においても右(1)のような作為義務を負わせる根拠と
なるものはない。
c.本件フォーラムは、現代思想上の議論を中心とする場であるが故に、攻
撃的色彩のある発言がされるのは日常茶飯事であり、被告Bがシスオペに就任
した平成五年一一月当時は、多かれ少なかれ問題性のある発言を全て削除する
とすれば、全発言の三分の一ないし半分程度までがその対象となるという状況
であり、また、軽卒に一方の立場に立っての発言削除は困難で、そのことを無
視してシスオペが一方的に発言削除を行えば、たちまちにして大議論が始まり、
シスオペが槍玉に挙げられることは容易に予想されることであった。被告Bは、
シスオペとして、強権発動である発言削除はかえって右のような本件フォーラ
ムの混乱状況を激化させがちであると考え。むしろ各紛争の当事者に徹底した
議論を行わせ、発展的かつ根本的に紛争を解消させるというフォーラム運営方
針をとっていたものである。そして、右のような方針の合理性は、被告Bのフ
ォーラム運営の結果、本件フォーラムにおいては問題発言が大幅に減少したこ
とから裏付けられたものである。
d.以上のとおりであるから、本件フォーラムのシスオペである被告Bは、
会員に対し、原告主張のような作為義務を負うものではない。
(イ)被告ニフティと被告Bの間の指揮監督関係の不存在(使用者責任に基づ
く損害賠償請求について)
運営マニユアル(丙二)の記載からも明らかなように、被告ニフティは、ニ
フティサーブにおけるフォーラムの運営・管理に関しては、被告Bのようなシ
スオペに広範な裁量権を与え、その自主的な判断に委ねている(そして、各フ
ォーラムはそれぞれ極めて多様な個性・特色を有しており、このようなフォー
174
5.判例、裁判上の係争事項等
ラムの独自性を最も把握しているのは当該フォーラムのシスオペであると考え
られること、三〇〇以上も存在するフォーラムの運営・管理の全てを被告ニフ
ティが行うことは不可能であることに照らし、このような運営方針は極めて合
理的というべきである。)。例えば、各フォーラム毎のローカルルールについて
はシスオペが独自に決定するのが原則であるし、どのような発言をどのような
手続を経て削除するかの判断についてもシスオペらが決定することになる。し
たがって、被告ニフティと被告Bの間には、使用者責任の前提となる指揮監督
関係は存在しないというべきである。
(ウ)被告ニフティの原告に対する安全配慮義務の不存在(債務不履行に基づ
く損害賠償請求について)
原告が、右1(ウ)(2)(a)で主張する諸事情は、原告主張の安全配慮義
務の根拠となるものではない。そもそも、被告ニフティと会員との間の会員契
約は、会員規約を基礎とし、同被告が会員にニフティサーブを利用することが
できる権利を与え、その対価として、当該会員が同被告に対し、一定の利用サ
ービス料を支払うことを主旨とするものであるから、これに基づく付随的義務
が同被告について観念されるとしても、あくまで、利用者たる会員が自由に情
報を提供し、円滑に情報を取得することができるよう配慮するという観点から
の義務であって、通信行為自体とは関係のない会員名誉等の利益保護の義務ま
で課されるものとは考えられない。
(エ)被告ニフティ及び同Bの具体的対応の妥当性(使用者責任及び債務不履
行に基づく請求について)
a.原告から被告ニフティあての最初の電子メールが届く以前(平成五年一
二月二九日まで)
本件フォーラムには二〇の電子会議室があり、一日あたりの発言は合計で平
均四万五〇〇〇字以上にのぼること、右(一)
(3)のような本件フォーラムの
状況に照らすと、被告ニフティ及び同Bには、この段階で積極的な問題発言を
探知し削除するような作為義務はなく、また、法律の専門家でない同被告らに
おいては、具体的に削除を求める発言を特定した発言削除の要求がない限り、
発言削除の作為可能性もない。したがって、この段階で、同被告らが責任を負
うことはない。
b.原告から被告ニフティが初めて誹謗中傷発言の存在可能性を指摘され、
初期対応をした期間(平成五年一二月二九日から平成六年一月六日まで)
(a)被告ニフティの担当者であるKは、年末年始の休み明けの平成六年一
月四日に原告からの最初の電子メールを読み、原告に対し、フォーラムの運営
175
5.判例、裁判上の係争事項等
は基本的にシスオペに一任しているので直接発言者に対応するか、まずシスオ
ペに相談するようにとの回答を行うとともに、被告Bにも連絡を取ったが、こ
れは、フォーラムの自主性を尊重するというニフティサーブの運営方針に基づ
く合理的なものであって、何ら違法性はない。
(b)また、被告Bは、平成六年一月六日に、原告から具体的発言を指摘し
て、対処を求める旨の電子メールの送信を受けると、直ちに、これらの発言の
取り扱いについて、本件フォーラムの運営委員会に付議したものであり、この
ような被告Bの対応は合理的なものである。なお、右電子メールが送信される
前の時点において、被告Bに積極的な作為義務も、発言削除の作為可能性もな
かったことは、右(1)の時点と同様である。
c.原告から被告Bが誹謗中傷発言とされる発言の削除を求められ、それに
対する対応を検討し、原告に提案した期間(平成六年一月七日から九日まで)
(a)被告Bは、原告から指摘を受けた各発言の取り扱いについて本件フォ
ーラムの運営委員会で三日間にわたって極めて慎重な議論を行ったうえ、平成
六年一月九日、原告に対し、原告に発言を読んでもらって具体的に指摘を受け
た部分についてニフティと協議したうえ削除が妥当と認められた場合には、原
告からの訴えがありニフティと法的検討をした結果であることを明示して削除
するとの提案を行ったものであるが、右のような被告Bの提案は、1原告自ら
が発言の問題性を判断することが最も選択に遺漏がないと考えられること、2
尖鋭的な議論の対立が日常茶飯事である本件フォーラムの特質に鑑み、指摘も
ない段階で発言削除を行うことは非常に困難と考えられたこと、3右のような
本件フォーラムの特質や本件フォーラムの過去の状況からすると、シスオペが
発言を一方的に削除した場合には他の会員からの強い反発を招くことが予想で
きたことに照らすと、右発言を直ちに削除しなかったからといってもなおシス
オペとして発言削除に向けた適当な措置をとっていたといえる。また、運営委
員会における議論中は、発言削除を行わなかったからといって、被告Bが責任
を問われる余地はない。
(b)また、この時点において、被告ニフティは、フォーラムの自主性を尊
重するという合理的な運営方針に沿って、被告Bに対応を委ねていたものであ
るから、被告ニフティについても、責任を問われる余地はない。
d.原告と被告ニフティ及び被告Bの間で、右提案の修正について交渉がさ
れた期間(平成六年一月一〇日から二〇日まで)
この期間においては、被告Bが右(3)のような合理的な提案をしているに
もかかわらず、原告がこれを拒絶したために、発言削除ができない状況に陥っ
てしまったものであり、このような状況下において、被告ニフティ及び同Bが
発言を削除することは到底不可能である。したがって、右両被告に責任は生じ
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5.判例、裁判上の係争事項等
ない。
e.右提案に対する原告からの回答待ち期間(平成六年一月二一日から二月
一四日まで)
被告Bは、平成六年一月二〇日、原告と電話で約一時間にわたって話合をし
た際、原告から発言削除を待つよう告げられたため、この期間中は、原告から
何らかの回答があるものと期待して発言削除を留保していたものであるし、被
告ニフティの担当者も、被告Bからその旨説明を受けていたものである。した
がって、この期間に被告らが被告Aに発言に対する対応をしなかったことをも
って、被告ニフティ及び同Bに責任は生じない。
f.原告からの要望書を被告ニフティ及び被告Bが受領し、これに対する対
応を行った期間(平成六年二月一五日から三月一八日まで)
平成六年二月一五日、原告代理人から被告ニフティ及び被告Bに対し、原告
の名誉を毀損する発言の削除、被告Aの住所氏名の開示を求める書面が送付さ
れたが、被告Bは、右書面を受領後、直ちに本件フォーラムの運営委員会にお
いて対応を協議し、即日、指摘を受けた発言については削除したものであり、
このような被告Bの対応は妥当である。また、この時点で指摘を受けていなか
った発言について削除しなかったからといって、被告ニフティ及び同Bが責任
を負うことはないことは、右(1)と同様である。
また、被告ニフティが、被告Aの住所・氏名を開示するようにとの原告の要
求に応じなかったことについても、被告Aは紛れもなく通信の当事者であるの
に対し、原告は、少なくとも問題とされる発言については通信の当事者ではあ
り得ないのであるから、電気通信事業法一〇四条に違反するおそれが極めて高
いのであって、右のような被告ニフティの対応は、通信の秘密の観点からはや
むを得ない判断であり、違法性は皆無である。
g.原告が本訴を提起し、訴状において新たに指摘された発言に対する対応
がされた期間(平成六年四月二一日から五月二五日まで)
被告ニフティ及び同Bは、訴状の送達を受けて初めて、右(6)で削除した
発言以外の発言に関する削除要求を認識したものであるところ、平成六年五月
二五日には、これらの発言を本件フォーラムの登録から外している。訴状の送
達を受けてから発言を登録から外すまで若干の時間はあるが、これは、訴訟方
針の決定作業との関連によるものであるから、何ら問題とされる余地はないも
のというべきである。したがって、この点についても被告ニフティ及び同Bが
責任を負うことはない。
(オ)まとめ
以上のとおりであるから、使用者責任又は債務不履行に基づく原告の被告ニ
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5.判例、裁判上の係争事項等
フティに対する請求は失当である。
【反訴関係 − 被告Aの主張】
(ア)名誉毀損
原告の起こした前記スクランブル事件は、リアルタイム会議において、被告
Aを、いわば「村八分」にしたものと評価できる。したがって、右のような原
告の行為によって、被告Aの名誉は毀損されたものである。
(イ)プライバシー権侵害
原告は、平成五年五月中旬、本件フォーラムのリアルタイム会議において、
被告Aが、以前勤めていた職場において原稿料のことでもめごとをおこした旨
の書き込みをしたものであるが、右書き込みの内容が、
(1)被告Aの私生活上
の事実に関することであり、
(2)一般人の感受性を基準として、被告Aの立場
に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であって、しかも、
(3)一般の人々に知られていない事柄であることは明らかである。したがっ
て、原告の右発言によって、被告Aのプライバシー権が侵害されたものである。
(ウ)損害額及び謝罪広告掲載の要否
原告の行為によって被告Aに生じた損害を金銭に換算すると、二〇〇万円を
下らないうえ、右損害の回復のためには、別紙二のとおりの謝罪広告を同別紙
記載の掲載条件で掲載することが必要である。
【反訴関係 − 原告の主張】
(ア)原告が、平成五年五月七日に、本件フォーラムのリアルタイム会議にお
いてスクランブルモードを用いたことは認めるが、その余は否認し、争う。被
告Aは、本件フォーラムにおいて他人を罵倒する発言を繰り返していたため、
原告は、やむを得ない措置としてスクランブルモードを用いたものである。
(イ)原告の主張(イ)及び(ウ)は否認し争う。
(3)判決の内容等
【前提事実(証拠の引用のない事実は、争いのない事実又は当事者が明らかに
争わない事実である。)】
ア.ニフティサーブの概要
(ア)被告ニフティが事業として行っているパソコン通信ニフティサーブは、
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5.判例、裁判上の係争事項等
パーソナルコンピュータ、ワードプロセッサー等(以下「パソコン等」という。
)
を電話回線で主宰会社のホストコンピュータに接続することにより、ネットワ
ークに加入している会員同士で情報交換を行ったり、会員がソフトコンピュー
タ内に蓄えられた情報を引き出したりすることを内容とする通信手段である。
(イ)会員と被告ニフティとの間の法律関係
a.ニフティサーブにおいては、会員規約(本件各発言がされた当然のもの
は乙四)が定められ、これを承諾したうえでニフティサーブへの加入手続をし
た者のみが会員となるものとされているところ、ニフティサーブに加入しよう
とする者は、被告ニフティの「イントロパック」等を取得し、仮IDにより、
公衆回線からニフティサーブにアクセスして、その場でこれに加入する手続(オ
ンラインサインアップ)によって、容易に会員となることができる。なお、会
員規約には、
(a)フォーラムに登録された発言等は、被告ニフティ又はシスオ
ペにより、会員への事前の通知なく、題名の変更、フォーラム内での複写、移
動等が行われる場合があること、
(b)フォーラム、電子掲示板等に書き込まれ
た発言等の内容が、被告ニフティ又はシスオペにより、他の会員又は第三者を
誹謗中傷し、または、その恐れがあると判断された等の場合には、会員への事
前の通知なく右発言等が削除されることがあること、
(c)会員が、会員規約に
違反したり、被告ニフティによって、
会員として不適当と判断された場合には、
被告ニフティは、当該会員の会員資格を、事前に通知、催告することなく、一
時停止し、又は、取り消すことができること等が規定されている。
b.右(1)のようなニフティサーブへの入会手続を経て、正式に会員とな
った者に対しては、被告ニフティから各会員固有のID番号を与えられる。会
員は、一定の基準に基づいて算出された額の利用サービス料を支払うことによ
り、ニフティサーブを利用することができる。
c.右(1)及び(2)に照らすと、被告ニフティと会員との間においては、
会員規約に基づき、被告ニフティが、会員に対し、ニフティサーブというパソ
コン通信のネットワークを利用することができる権利を与え、その対価として、
当該会員が、被告ニフティに対し、一定の利用サービス料を支払うことを主旨
とする契約(以下「会員契約」という。
)が締結されているものということがで
きる。
(ウ)フォーラム及び電子会議室
a.ニフティサーブにおいては、多様なテーマに関して、興味を同じくする
会員が自由に意見を交換したり、情報を取得したりすることができる場として
多くのフォーラムが開設されている。フォーラムには、会員が発言を書き込む
179
5.判例、裁判上の係争事項等
ことが可能で、また、そこにアクセスをすれば書き込まれている内容を読むこ
とができる場所(電子会議室)があるが、各フォーラムには複数の電子会議室
が設けられているのが通常である。ちなみに、原告が本訴を提起した時点では、
約三〇〇のフォーラムが存在していた。
会員のうち、どのような者に、どのようなかたちでフォーラムの利用を許す
かは、当該フォーラムのシスオペの判断に委ねられている(シスオペにより、
フォーラムの利用を正式に許された会員を、以下「フォーラム会員」という。)。
一般的には、フォーラム会員以外の会員については、フォーラムの利用に一定
の制限があることが多いが、本件各発言が書き込まれる当時、本件フォーラム
においては、正式にフォーラム会員にならなくても、自由に電子会議室に発言
を書き込んだり、そこに書き込まれている内容を読んだりすることができるも
のとされていた。
b.電子会議室への発言の書き込みは、当該電子会議室に発言を書き込む資
格を有する会員が、自己の使用するパソコン等から電話回線を通じて被告ニフ
ティが管理するホストコンピュータ等(以下「ホストコンピュータ等」という。)
に発言を送信すること(アップロード)により行われ、ホストコンピュータ等
は、このようにして送信された発言を、その内部の特定の場所(電子会議室)
に記録、蓄積する。一方、電子会議室に記録、蓄積されている発言の読み出し
(ダウンロード)は、当該電子会議室の発言を読む資格を有する会員が、ホス
トコンピュータ等に電話回線を通じてアクセスし、ホストコンピュータ等から、
右会員が指定した発言について、その使用するパソコン等に有線送信を受ける
ことによって行われる。
ニフティサーブにおいては、電子会議室に書き込まれた発言は、被告ニフテ
ィ及びシスオペによって、別の電子会議室に移動したり、削除したりすること
ができ、発言を書き込んだ会員自身も、他の会員が右発言にコメントをつける
までの間は、これを削除することができるものとされている。発言が削除され
ると、会員は、ホストコンピュータ等からその有線送信を受けることができな
くなる。
(エ)フォーラムの運営について
被告ニフティと個々のシスオペの間では、被告ニフティが、個々のフォーラ
ムのシスオペに対し、当該フォーラムの運営・管理を委託し、シスオペが、そ
の対価として、同被告から、フォーラムへのアクセス料金の一定割合及びその
他被告ニフティが定めるロイヤリティを報酬として支払を受けることを主旨と
する基本契約(フォーラム運営契約)が締結され、これに基づき、シスオペが
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5.判例、裁判上の係争事項等
フォーラムの運営・管理を行っている。
シスオペは、通常は被告ニフティの従業員以外の者で、当該フォーラムを扱
うテーマに造詣が深い者が務めているが、その多くが、シスオペを専門に行っ
ているわけではなく、他に本業を有し、空いた時間をシスオペとしての活動に
あてている者である。
(なお、甲一一九、一三五は、本件よりかなり後の記事で
あるし、甲一三四も、シスオペを本業とする者が出始めたというだけの雑誌記
事であって、右認定に反するものとはいえない。)。
また、シスオペは、サブ・システム・オペレーター(以下「サブシス」とい
う。)等の運営協力者(運営スタッフ)を自己の権限で選任し、フォーラムの運
営・管理を補佐させることができるものとされている。
そして、フォーラム運営契約に基づき、被告ニフティは、シスオペに対し、
「フォーラム運営マニュアル」を交付しており、同マニュアルには、シスオペ
の権限と責任、フォーラムの企画と育成、フォーラム関係のトラブル対応等に
ついて詳細な教示がなされていた。しかも、同マニュアルは第7章に「情報の
削除に関する法律問題」という項を設け、表現の自由に関する一般的説明を行
い、表現の自由においても名誉毀損、わいせつ文書、誇大広告などは法律上規
制がされており「表現の自由」といってもその行き過ぎについては制限がかか
っていること、
「表現の自由」は基本的には国と国民という関係で問題になるも
のであり、国民同士、民間人同士では問題は異なっていることを説明している
ほか、ニフティサーブの会員規約一四条に基づき発言を通知なしに削除できる
場合を掲げ、
「(a)明らかに公序良俗に反する、あるいは、個人(または団体)
を誹謗中傷していると思われるもの。
(b)明らかに商行為あるいは営利を目的
としていると思われるもの。
(c)会議の流れを全く無視し、参加者にとって迷
惑だと思われるもの。」のうち、
「客観的にみて、明らかに(a)
(b)に該当す
ると思われるものは、シスオペの判断で即座に削除して構わないでしょう。そ
して、発言した会員に対しても理由を述べて削除した旨電子メールで連絡する
ことが肝要です。合わせて、その経過と処理内容をニフティに連絡していただ
ければ、万が一発言者(登録者)からのクレームが発生したとしても、ニフテ
ィがフォローするようにいたします。」との言及がなされている。
なお、本件フォーラムにおいては、シスオペや、本件フォーラムの運営スタ
ッフが討議する場として、これらの者のみがアクセスすることができる電子会
議室(二〇番会議室。以下「運営会議室」という。)が設置されている。
イ.本件各発言が行われるに至った経緯
(ア)原告は、翻訳をフリーランスで請け負って生計を立てていたが、平成元
年四月ころ、パソコン通信を利用して翻訳した文書を納入すること及び翻訳者
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5.判例、裁判上の係争事項等
の横のつながりを作ることを考え、ニフティサーブに加入した。そして平成二
年九月ころ、本件フォーラムに「フェミニズム会議室」が設置されたことを知
り、本件フォーラムに参加するようになった。原告は、平成六年の春に至るま
で、断続的ではあるものの長期にわたって、本件フォーラムの特にフェミズム
会議室に活発に書き込みを続けてきた。そして、平成五年一二月には、当時の
シスオペである坂本旬からリアルタイム会議室(RT)における常駐要員とし
て、課金免除資格(フリーフラッグ)の資格を付与され、一般の会員のアクセ
スを許されない運営会議室にも参加を認められるようになっていた。
(イ)被告Aは、山口県乙原市に在住し、地元や関西の私立大学で非常勤講師
として英語を教えたりなどしている者であるが、妻がニフティサーブに入会し
ていたことから妻のIDを利用してフォーラムに参加するようになり、平成五
年四月、本件フォーラムに入会した。そして本件フォーラムのフェミニズム会
議室の過去の発言を読んでいるうちに原告であるCookie会員らの発言に
反発を感じ、同年五月五日からフェミニズム会議室においてフェミニズムを揶
揄する発言を書き込んだ。原告は、被告Aの右のような発言に不快の念を持っ
ていた。
(ウ)同月七日、被告Aがフェミニズム会議室の定例RT会議に参加したとこ
ろ、原告はその際その場に参加していた他の会員一〇名ほどに連絡して一斉に
スクランブル機能を用いて別の場で話をするよう勧誘し、事実上被告Aを同会
議室から排除してしまった。被告Aはこれに対し憤りを感じた。そしてこの事
件は他の一般会員からも批判を受けることとなった。
(エ)同月一〇日ころ、当時のシスオペである坂本旬は右のような事態に対処
すべく、被告Aに対し、電子メールにより被告Aの個人情報を質問したところ、
被告Aは電子メールによりかつて「ニューズウィーク」で編集者をやっていた
旨の返信を行った。ところが坂本は、右の返信を「絶対に他言禁止です。」と付
記した上、電子メールにより原告に送付した。原告は、右の情報に基づきニュ
ーズウィーク日本版の現編集長に事情を聞くなどしてさらに被告Aの人物調査
を行った。また坂本は同月一三日、被告Aと電話により話をし、被告Aの本名
が乙春夫であり韓国籍であることなども聞き出し、これを原告に連絡した。
(オ)ところが、同月二一日、フェミニズム会議室の定例RT会議において、
原告は、被告Aに対し、
「あのさ、Aさんて、NEWSWEEKにいたことない?
日本版のほうね」と質問した。原告の話の持ち出し方は「噂を聞いたことがあ
182
5.判例、裁判上の係争事項等
るから」という形のものであったが、被告Aは、シスオペである坂本に話した
内容が原告に漏れていることを察知し、原告に対する不信感を一層強めるに至
った。そして、同月二五日、被告Aは、坂本が同被告のプライバーに属する問
題を原告に漏らしたことを告発する旨の発言を同フォーラムに掲載した。
(カ)同年一一月一七日、原告は、本件フォーラムから撤退することとした。
そして、従前からの仲間とともに本件フォーラムとは別のフォーラムである「生
涯学習フォーラム」においてフォーラム中のフォーラムとして「フェミニスト・
フォーラム」を設立することを決め、本件フォーラムにその旨掲示した。
ウ.被告Aによる本件各発言
(ア)右のような経緯から原告は本件フォーラムにあまりアクセスすることは
なくなったが、被告Aは、本件フォーラムに、同年一一月二九日から平成六年
三月二七日にかけて、別紙発言一覧表(一)ないし(四)の各「年月日」欄記
載の時期に、これらに対応する「名誉毀損部分」欄記載のような文章を含む発
言(なお、個々の発言に対応する発言番号は、右各一覧表の各「発言番号」欄
記載のとおり。)を書き込んだ。なお、同一覧表(一)記載の発言は六番会議室
に、同一覧表(二)記載の発言は七番会議室に、同一覧表(三)記載の発言は
八番会議室に、同一覧表(四)記載の発言は一〇番会議室に、それぞれ書き込
まれたものである。
(イ)なお、被告Aは、同年一二月一九日晩から二〇日明け方にかけて、
「Mo
ther Fucker」のハンドル名によりフェミニスト・フォーラム会議
室に「COOKIEの場合は単純で、あの女は弱いのではなく、弱いふりして、
根性がひんまがっているからです。あれでは離婚になるでしょう。」といった原
告個人を誹謗中傷する別紙発言一覧表(二)記載の符号8と同様な文章を一一
回にわたり掲載した。しかし右文章は、生涯学習フォーラムのシスオペにより
削除され、同シスオペは被告Aがフェミニスト・フォーラム会議室にアクセス
できなくする措置をとったため、その後は発言削除がされない本件フォーラム
において専ら発言していた。
エ.本件各発言と本件訴訟に至るまでの経緯
(ア)被告Bは、本件フォーラムの前シスオペである坂本旬から、同人の後任
としてシスオペに就任するよう要請を受け、平成五年一〇月初めころから、サ
ブシスとして、本件フォーラムの運営にかかわるようになった。そして、平成
五年一一月ころ、本件フォーラムのシスオペに就任した。
183
5.判例、裁判上の係争事項等
(イ)右当時、本件フォーラムには、他人を罵倒するような内容の発言が繰り
返し書き込まれ、それまで、本件フォーラムにアクセスをしていた会員が、ア
クセスをやめてしまうといった事態が相次いでいた。そこで、被告Bは、右の
ような本件フォーラムの状況を根本的に改善することが必要であると考え、過
去に本件フォーラムの電子会議室等に書き込まれた発言の内容を検討した。そ
の結果、本件フォーラムでは、特に平成五年五月以降、シスオペ等によって多
くの発言が問題ありとして削除されていたが、発言を削除された者が、同様の
発言を繰り返し書き込むなどしたため、結果として、右のような発言は減少し
なかったこと、フォーラム会員が従前の運営スタッフに対して不信感を持って
いたことなどがみてとれた。このようなことから、被告Bは、本件フォーラム
の右のような状況を根本的に改善するためには、発言削除はできるだけ避け、
公開の場で議論を積み重ねることによって会員の意識を変え、発言の質を高め
ることが重要であると考え、これに沿ったフォーラム運営をすることとした。
(ウ)その後、右3のとおり、被告Aによる本件各発言の書き込みが始まった。
本件各発言のうち(a)別紙発言一覧表(二)記載の符号8、9の各発言につ
いてはこれらが書き込まれた当日に、同一覧表(二)記載の符号11の発言に
ついては、これが書き込まれた翌日に、運営会議室において、本件フォーラム
の運営スタッフから、発言番号等を特定したうえ、これらの発言は名誉毀損・
プライバーの侵害で脅迫ではないかとの指摘がされ、
(b)また、同一覧表(二)
記載の符号8の発言については、会員から、右発言が書き込まれた四日後の平
成五年一二月二二日に、
「このフォーラムではこのような個人的怨恨にみちた攻
撃も言論の自由として認めるのですか? Niftyの規約にも束縛されない
無法地帯なのですか?」
「これらの発言を掲載したまま、何の行動も起こさない
フォーラムの運営諸氏のお考えをおうかがいしたい。」といった指摘がされてい
る。
(エ)被告Bは、同一覧表(二)記載の符号3、8の各発言については、これ
らが書き込まれた当日に、同一覧表(一)記載の符号1、同一覧表(二)記載
の符号5及び11の各発言については、これらが書き込まれた翌日に、これら
の各発言の問題点を指摘する発言を、被告Aを名宛人とするかたちをとって、
本件フォーラムの七番会議室に書き込んだが、右(イ)のような考え方から右
各発言を積極的に削除することはせず、敢えて放置した。
(オ)さらに、被告Bは、平成五年一二月二九日、右(ウ)
(b)の指摘を行っ
184
5.判例、裁判上の係争事項等
た会員に対し、被告Aの発言は誹謗中傷を含むものであると考えているし、会
員規約一四条にも違反するものであると考えているが、被告Aの発言は論争に
より解決されるべきであるからそのまま放置する旨の発言を七番会議室に掲載
した。
(カ)同月二九日、原告は、被告ニフティのセンター窓口及び同被告の中村取
締役あてに、本件フォーラムの六番及び七番会議室に原告に対する誹謗中傷が
書き込まれているとの情報を得たので対処されたい旨の電子メール(具体的な
発言の指摘がないもの。)を送信した。
(キ)平成六年一月四日、被告ニフティの担当者である○○○○(以下「K」
という。)は、電子メールを用いて、原告に対し、フォーラムの運営は基本的に
シスオペに一任しているので、直接発言者に対応するか、まずシスオペに相談
するようにとの回答を行うとともに、被告Bに対しても、右のような経緯を連
絡し、対応を要請した。
(ク)同月六日、原告から、被告B及びKに対し、原告を誹謗中傷する発言と
して別紙発言一覧表(二)記載の符号6ないし11の各発言につき、発言番号
等を指摘したうえ、これらは原告に対する誹謗中傷であるので対処を求める旨
の電子メールが送信された。これを受けて、被告Bは、運営委員会に、右各発
言の取り扱いを付議した。
(ケ)同月九日、被告Bは、原告に対し、本件フォーラムの運営委員会におけ
る議論をふまえて、
(1)まず、原告に発言を読んでもらい、どの部分に名誉毀
損にあたるか指摘を受けたうえ、
(2)右(1)で指摘された発言の違法性につ
いて被告ニフティの判断を仰ぎ、削除が妥当ということになれば、当該文章を
削除する、
(3)発言削除の際は「原告からの訴えがあり、被告ニフティと厳密
な法的検討をした結果違法性のある発言と認め削除する」旨の理由を付記する
との処理案を、電子メールにより提示したが、同月一〇日、原告は、被告ニフ
ティに対し、右のような対応は受け入れられない旨の電子メールを送信した。
その後、同月一四日、Kは、原告に対し、電子メールによって、右のような被
告Bの案にしたがって、本件フォーラムの書き込みに目を通してもらいたい旨
の申入れをするとともに、具件的に指摘された発言については削除される可能
性が高い旨の指摘をした。
(コ)同月一六日、原告は、被告B及びKに対し、誹謗中傷の発言者は原告の
185
5.判例、裁判上の係争事項等
勤務先まで知っており、しかも発言内容から原告を脅迫しているのであるから
当面、原告の氏名(ハンドル名を含む)を出して発言の削除をすることはしな
いようにとの電子メールを送信した。これに対し、被告Bは、同月一八日、原
告に対し、右電子メールの趣旨がそもそも発言の削除はしない方がよいという
ことなのか、削除はして欲しいが名前を出すなということなのかを確認するた
め、自分に電話を入れて欲しい旨の電子メールを送信した。
(サ)同月二〇日、原告と被告Bは、約一時間にわたって、電話で本件各発言
に対する対応について話合いをした。その結果、被告Bは、最終的には、発言
削除にあたって、原告から要請があったことを積極的に付記することはしない
ことについては了承したが、原告に対し、会員から、原告からの要請があった
かどうかについて質問があれば、原告からの要請はなかったという説明をする
との約束はできない旨の説明も併せて行った。これに対し、原告は、信頼でき
る人に相談するので、その結論が出るまで発言削除は待って欲しい旨の回答を
した。
(シ)その後、原告から被告ニフティ及び被告Bに対して具体的な接触はなく、
被告ニフティ及び同Bも、右(ク)で原告から指摘された被告Aの発言に対し
て特に対処はしなかったが、平成六年二月一五日になって、原告代理人から、
被告ニフティ及び被告Bに対し、原告の名誉を毀損する発言の削除、被告Aの
住所・氏名の開示等を要求する書面が送付された。被告Bは、右のような要求
を受け、右同日、本件各発言のうち、右書面で指摘されていたもの(発言一覧
表(二)記載の符号6ないし11)について、本件フォーラムの七番会議室か
ら削除する措置をとった。
(ス)平成六年三月一一日、原告代理人は、被告ニフティに対し、被告Aの住
所・氏名の開示等を書面をもって要求した。被告ニフティは、同月一七日、被
告Aに対して、今後、誹謗中傷発言があった場合には、会員資格の剥奪もあり
得る旨、電子メールをもって警告するとともに、同月一八日、原告代理人に対
し、右(一二)の書面に対する回答を行った。右回答の中で、被告ニフティは、
被告Aの住所・氏名の開示については、電気通信事業法一〇四条に違反するお
それが極めて高いことなどを理由に、これを拒絶した。
オ.原告は、平成六年四月二一日、東京地方裁判所に本訴を提起し、被告Bに
対しては同月三〇日に、被告ニフティに対しては平成六年五月二日に、それぞ
れ訴状副本の送達がされた(記録上明らな事実)
。そして、被告B及び被告ニフ
186
5.判例、裁判上の係争事項等
ティは、それぞれの代理人を交え、原告から、訴状において初めて指摘を受け
た発言(本件各発言のうち、右4(一二)で削除した以外のもの)に対する対
応を協議し、平成六年五月二五日(本件第一回口頭弁論期日当日)、被告Bは、
これらの発言を本件フォーラムの電子会議室の登録から外し、同被告がフロッ
ピーに保管する措置をとった。
【本訴関係の争点について】
ア. 争点1(ア)
(本件各発言が原告の名誉を毀損し、不法行為となるか否か。
)
について
(ア)被告Aが、本件フォーラムの電子会議室に本件各発言を書き込んだこと
は当事者間に争いがないところ、これらの発言がいずれも原告に向けられてい
ることは、その内容に照らし明らかである。そして、これらの発言は、いずれ
も激烈であり、また、原告を必要以上に揶揄したり、極めて侮蔑的ともいうべ
き表現が繰り返し用いられるなど、その表現内容は、いずれも原告に対する個
人攻撃的な色彩が強く、原告の社会的名誉を低下させるに十分なものというべ
きである。
(イ)被告Aは、原告が本件フォーラムの運営協力者として公的な立場にあり、
本件各発言はこうした公的な立場にある人間に対する正当な批判である、ある
いは、「フェミニズム」「フェミニスト」に対する思想的な批判を目的としたも
のである旨主張するが、本件各発言は、明らかに個人を誹謗中傷する内容であ
ることは明らかであり、被告Aの本件各発言の意図ないし目的が所論のとおり
であるとしても、これが原告に対する正当な批判あるいは思想的な批判ないし
論争として是認し得る範囲を逸脱するものといわざるを得ない。
(ウ)また、被告Aは、原告が本件フォーラムに「部落は怖い。」
「朝鮮は怖い。
」
との書き込みをしたのでこれに対する抗議反論をした旨主張するが、原告が右
のような発言を行ったことを認めるに足りる証拠はない。
(エ)なお、被告A及び同Bは、ニフティサーブにおいては、匿名性が確保さ
れており、本件各発言によって原告の社会的評価が低下したといえるかは疑問
であると主張する。
しかしながら、右一1(ウ)
(1)のとおり、電子会議室に書き込まれた発言
は、多数の会員がこれを読むことができるという意味において公然性を有する
というべきところ、
(1)被告Aは、これらの発言中において、繰り返し「Co
okie」が原告であることを、人物の特定にとって最も重要な要素というべ
187
5.判例、裁判上の係争事項等
き原告の本名を示して明らかにしていること、
(2)被告ニフティ発行の会員情
報誌である「ONLINE TODAYJAPAN」の平成五年九月号には、
「Cookie」が原告であることが、原告の本名を示して明らかにされてい
たこと、
(3)原告は、ニフティサーブ上で、職業及び訳書名を公開していたこ
とに照らすと、本件各発言が書き込まれた当時、
「Cookie」とのハンドル
名を用いている者は、原告であるという事実を多数の会員が認識し得る状態に
あったものということができる。したがって、本件においては、原告に関して
匿名性が確保されているとはいえないから、本件各発言によって、原告の名誉
は毀損されたものというべきであって、右被告らの主張は、採用することはで
きない。また、本件各発言によって名誉毀損による不法行為は成立しない旨の、
被告A及び同Bのその余の主張についても、採用することができない。
(オ)したがって、本件フォーラムの電子会議室に本件各発言を書き込んだ被
告Aの行為は、原告に対する不法行為にあたるというべきである。
イ. 争点1(イ)(被告Bの責任原因)について
(ア)原告の主張は、被告Bの不作為による不法行為をいうものであるところ、
不作為による不法行為が成立するためには、その要件として、1 結果回避の
ため必要な行為を行うべき法律上の作為義務を負う者が、2 故意・過失によ
り、右1で要求されている必要な行為を行わず、3 その結果、損害が発生し
たことが必要とされるというべきである(最高裁昭和六〇年(オ)第三二二号
同六二年一月二二日第一小法廷判決・民集四一巻一号一七頁参照)。
(イ)そこで、右(ア)にいう作為義務が被告Bにあるかどうかを検討する。
a.前示事実によれば、以下の点が認められる。すなわち、
(a)シスオペは、被告ニフティとの間で締結されたフォーラム運営契約に
より、同被告から、特定のフォーラムの運営・管理を委託され、その対価とし
て報酬を受領している者であるところ、他人を誹謗中傷するような内容の発言
が書き込まれた場合の対処も、フォーラムの運営・管理の一部にほかならない
というべきこと、
(b)シスオペにおいては、当該フォーラムに他人の名誉を毀損するような
内容の発言が書き込まれた場合には、これを削除するなどして、その有線送信
を停止する措置をとることができ、これらの措置をとれば、それ以後は、当該
発言自体が他の会員の目に触れることはなくなること、
(c)その反面、当該発言によって名誉を毀損された者には、右のような内
容の発言が多数の会員によって読まれてしまう事態を避けるため、自ら行い得
188
5.判例、裁判上の係争事項等
る具体的な手段は何ら与えられていないこと、
(d)フォーラムの運営・管理に関して、シスオペの拠り所となるものとし
ては、会員規約(本件当時のものは乙四)及び運営マニュアル(丙二)がある
が、会員規約には、他人を誹謗中傷し、あるいはそのおそれがある発言が書き
込まれた場合には、右発言が削除されることがある旨の規定があり、運営マニ
ュアルにも、右のような発言が書き込まれた場合の対処に関する記載があるこ
と、
そして、これらの事情に照らすと、フォーラムに他人の名誉を毀損するよう
な発言が書き込まれた場合、当該フォーラムのシスオペにおいて積極的な作為
をしなければ、右発言が向けられている者に対し、何ら法的責任を負うことは
ないと解することは相当でなく、シスオペが、右(ア)にいう条理に照らし、
一定の法律上の作為義務を負うべき場面もあるというべきである。
この点、被告B及び同ニフティは、シスオペに法律上の作為義務はない旨主
張する。確かに、ニフティサーブには本訴提起時点で三〇〇に上るフォーラム
が存在し、テーマ、会員層等によって、それぞれ異なった個性を有するのであ
るが、これらを円滑に運営・管理するためには、各フォーラムの個性に応じ、
異なった配慮も必要とされるというべきこと、フォーラムの個性を最も熟知し
ているのは当該フォーラムのシスオペであると解されること、フォーラム運営
契約(丙一)及び運営マニュアル(丙二)の記載内容に照らすと、ニフティサ
ーブにおいては、フォーラムの運営・管理は、基本的にはシスオペの合理的な
裁量に委ねられているものと解されるが、右裁量も、私法秩序に反しない限り
において認められることは当然であるから、シスオペにつき、条理上の作為義
務の存在を一切否定する根拠となるものではない。また、その他、シスオペに
ついて法律上の作為義務を否定する同被告らの主張は、前示(a)ないし(d)
の事情に照らし、採用することができない。
b.一方、前示事実に《証拠略》を併せると、(a)フォーラムや電子会議
室においては、そこに書き込まれる発言の内容をシスオペが事前にチェックす
ることはできないこと(この点が、新聞、雑誌等の編集作業に携わる者とは根
本的に異なるところである。)、
(b)本件各発言がされた当時、ニフティサーブ
においては、被告Bを含むシスオペの多くが、シスオペとしての業務を専門に
行っているわけではなく、他に本業を有し、空いている時間をシスオペとして
の活動にあてている者であったこと、(c)シスオペが行うべき業務の内容は、
フォーラムの運営・管理全般に及ぶうえ、一つのフォーラム全体に一日あたり
書き込まれる発言は膨大な数にのぼることが認められ、この事実からすると、
シスオペにおいて、自己の運営・管理するフォーラムに書き込まれた個々の発
言の内容を、これが書き込まれる都度全てチェックし、その問題点をもれなく
189
5.判例、裁判上の係争事項等
検討することも、通常の場合は極めて困難であると解されること(なお、前示
のとおり、シスオペは運営協力者を選任することができるが、右(b)のよう
な実情に照らすと、全てのシスオペに対し、書き込まれた発言の全てを、常時
チェックするために必要な人員を確保することを要求するのは酷に失するとい
うべきである。)に照らすと、シスオペに対し、条理に基づいて、その運営・管
理するフォーラムに書き込まれる発言の内容を常時監視し、積極的に右のよう
な発言がないかを探知したり、全ての発言の問題性を検討したりというような
重い作為義務を負わせるのは、相当でない。
c.また、シスオペは、フォーラムを円滑に運営・管理し、もって、当該フ
ォーラムを利用する権限のある会員に対し、十分にフォーラムを利用させるこ
とをその重要な責務とするから、自己の行為により、フォーラムの円滑な運営・
管理や、会員のフォーラムを利用する権利が、不当に害されないかを常に考慮
する必要があるというべきところ、発言削除等の措置は、会員のフォーラムを
利用する権利に重大な影響を与えるものであり、当該フォーラムの個性を無視
した対応をすれば、フォーラムの円滑な運営・管理を害し、ひいては、会員に、
十分にフォーラムを利用させることができない状況に陥ってしまうこともあり
得る。また、当該発言の内容によっては、名誉毀損にあたるか否かの判断が困
難な場合も少なくないというべきである。このような事情に照らすと、名誉毀
損的な発言がフォーラムに書き込まれた場合、シスオペは、右(1)のような
作為義務と右のような責務との間で、板挟みのような状況に置かれたうえ、困
難な判断を迫られるような場面もあり得る。したがって、右のようなシスオペ
の地位、当該発言の内容、当該フォーラムの個性(テーマ、会員層、ローカル
ルール等)等の事情も考慮する必要がある。
d.以上のような事情を勘案すると、少なくともシスオペにおいて、その運
営・管理するフォーラムに、他人の名誉を毀損する発言が書き込まれているこ
とを具体的に知ったと認められる場合には、当該シスオペには、その地位と権
限に照らし、その者の名誉が不当に害されることがないよう必要な措置をとる
べき条理上の作為義務があったと解するべきである。
(ウ)そこで、被告Bが、本件各発言の存在を具体的に知ったと認められる時
期と内容について検討する。
a.前示事実によると、被告Bは、本件各発言のうち、(a)別紙発言一覧
表(ニ)記載の符号8、9の各発言についてはこれらが書き込まれた当日に、
同一覧表(二)記載の符号11の発言については、これが書き込まれた翌日に、
運営会議室において、本件フォーラムの運営スタッフから、発言番号等を特定
したうえ、これらの発言については問題があるのではないかとの指摘を受けた
190
5.判例、裁判上の係争事項等
こと、(b)また、同一覧表(二)記載の符号8の発言については、会員から、
右発言が書き込まれた四日後の平成五年一二月二二日に、右発言は中傷及び脅
迫であり、本件フォーラムではこのような発言を放置するのかとの指摘がされ
たこと、
(c)被告Bは、同一覧表(二)記載の符号3、8の各発言については、
これらが書き込まれた当日に、同一覧表(一)記載の符号1、同一覧表(二)
記載の符号5及び11の各発言については、これらが書き込まれた翌日に、こ
れらの各発言の問題点を指摘する発言を、被告Aを名宛人とするかたちをとっ
て、本件フォーラムの七番会議室に書込みを行い、さらに、右(b)の指摘に
対しては、平成五年一二月二四日、当該発言は、原告が過去に行った行為に対
する抗議の意味もあるから、これのみを問題とするわけにはいかない旨の説明
をしたことが認められる。
また、原告が、平成六年一月六日、被告Bに対し、同一覧表(二)記載の符
号6ないし11の各発言につき、発言番号等を指摘したうえ、これらは原告に
対する誹謗中傷であるので対処されたい旨の電子メールを送信したこと、平成
六年四月二一日に本訴を提起し、その訴状は、同月三〇日に被告Bに送達され
たことは、右一5において認定したとおりである。
b.そして、右認定事実によると、被告Bは、(a)別紙発言一覧表(二)
記載の符号3、8、9については、これらが書き込まれた当日(右各発言に対
応する同一覧表(二)の「年月日」欄記載の日)、同一覧表(一)記載の符号1、
同一覧表(二)の符号5、11については、これらが書き込まれた翌日(右各
発言に対応する同一覧表(一)又は(二)の「年月日」欄記載の日の翌日)の
各時点で、
(b)同一覧表(二)記載の符号6、7及び10については、平成六
年一月六日の時点で、
(c)右(a)及び(b)以外の発言については、本件訴
状副本送達の日である平成六年四月三〇日の時点までに、それぞれ、本件フォ
ーラムに原告の名誉を毀損する発言が書き込まれていることを具体的に知った
ものと認められる。
c.なお、被告B本人は、「本件各発言が書き込まれた当時、勤務先から大
幅に仕事を軽減されており、本件フォーラムの運営・管理のため、職場に出勤
する日は一日あたり五、六回、出勤しない日は一〇回以上、本件フォーラムに
アクセスし、平均して一日あたり約八時間を本件フォーラムのために費やして
いた。また、本件フォーラムの電子会議室における発言は全てダウンロードし、
会議室によっては流し読みをしたり、丁寧に読んだりという差はあったものの、
目を通しており、注目している議論については、大体フォローできている状況
にあった。」などと供述しているが、右供述のみでは、被告Bが、右(2)の(b)
及び(c)記載の各発言について、右(2)の認定より早い時点で、本件フォ
ーラムに原告の名誉を毀損する発言が書き込まれていることを具体的に知った
191
5.判例、裁判上の係争事項等
と認めることはできない。
(エ)次に、被告Bが、シスオペの地位と権限に照らし必要な措置をとったと
いえるかどうかについて検討する。
a.別紙発言一覧表(一)記載の符号1、同一覧表(二)記載の符号3、5、
8、9、11に対する対応について
(a)右一4(ウ)(エ)において認定したように、被告Bは、別紙発言一
覧表(一)記載の符号1、同一覧表(二)記載の符号3、5、8、9、11に
ついてはその発言後まもなく運営委員ないし会員から問題点の指摘を受け、又
は同被告自ら被告Aに対しその発言に注意を与えるなどして右各発言の存在及
び内容を知っており、かつ、右一4(五)によれば、被告Bは、右発言中に誹
謗中傷を含むものがあり、かつ、ニフティ会員規約一四条にも違反するもので
あると認識しつつ、右発言は討論により改められるべきであると考えながら敢
えてこれを削除せずにこれを放置したものである。
(b)そこで右措置の当否について考えると、原告に対する名誉毀損発言は、
これがフォーラム内で批判されたからといってその発言内容そのものの違法性
が減殺されるものではないし、本件フォーラムの特色が自由な議論にあり本件
各発言に反論を行い得ることをもってその違法性に消長を来すものとはいえな
い。しかも、原告が自ら被告Aの発言を削除することはシスオペの職責上、パ
ソコン通信の制度上不可能であるから、被告Bとしては、当該発言を削除し、
あるいはこれに向けた積極的な措置を講じるべきであったというべきである。
ところが、被告Bは、右(a)のとおり、原告から電子メール又は訴状によっ
てこれらの発言の削除を求められるまで、右のような状況を解消するため、何
ら積極的な措置をとらず、被告Aに単に本件フォーラム上で注意をしただけで
後記(2)の措置をとるまで一か月余りにわたりこれを敢えて放置したのであ
るから、被告Bは、この間右(イ)
(4)にいう必要な措置を執るべき義務を怠
ったというべきである。
この点、被告B及び被告ニフティは、原告からの指摘がない段階では被告B
に作為可能性はない旨主張するが、右1(ア)のとおり、右各発言については、
原告に対する正当な批判の域を明らかに逸脱した個人に対する誹謗中傷であり、
被告Bはこの発言を具体的に認識していたという状況に照らすと、右主張を採
用することはできない。
また、被告Bは、発言を削除しても再び同趣旨の発言を掲載したり、ID削
除という措置をとっても再度別のIDを取得して同様な発言をすることが可能
だから、このような措置は効果がない旨の主張をするが、問題発言は、これが
削除されない限り、当該発言による名誉毀損状態が解消することはあり得ない
192
5.判例、裁判上の係争事項等
のであるから、被告Bの右主張も理由がない。
b.発言一覧表(二)記載の符号6、7、10に対する対応について
(a)これらの発言について、被告Bがその発言の存在を具体的に知ったと
認められる平成六年一月六日以降に被告Bのとった措置は、右一4(八)ない
し(一二)のとおりである。
(b)まず、被告Bが、1 原告から指摘された発言について、その取り扱
いを運営委員会に付議したこと、2 同月九日に、原告に対し、発言削除に際
しては、
「原告からの訴えがあり、被告ニフティと厳密な法的検討をした結果違
法性のある発言と認め削除する」旨付記するとの提案をしたこと、3 右2の
提案が原告によって拒絶された後、被告Bが原告と接触し、平成六年一月二〇
日に電話で話合いを行ったことについては、右(イ)
(3)のようなシスオペの
立場、右一4(二)のような当時の本件フォーラムの状況に照らすと、原告の
利益の保護と本件フォーラムの円滑な運営・管理という二つの要請を調和させ
るという観点からは是認し得なくもない対応であったというべきであるから、
これらの点については、被告Bにおいて、必要な措置をとったものと評価でき
る。
(c)また、右一4(一〇)のとおり、右〔2〕3の話合いの際、原告から、
「信頼できる人に相談するので、その結論が出るまで発言削除は待って欲しい」
旨の回答がされている以上、被告Bにおいては、原告から再び接触があるまで
の間は、これらの発言について積極的な対応は期待できないというべきである。
そして、被告Bは、右二4(一二)のとおり、原告代理人からの発言削除を求
める書面を受領後、直ちにこれらの発言を削除する措置を行っているものであ
るから、この点についても、被告Bは必要な措置をとったものと評価できる。
この点、原告は、被告Bが、原告から要請があったことは明らかにしないこ
とを確約しなかっため、発言削除を待つよう要請せざるを得なかった旨主張す
るが、右(イ)
(3)のようなシスオペの立場を考慮すると、右一4(一〇)の
ような被告Bの対応を非難することはできないというべきである。
c.本件各発言のうち、右(1)及び(2)の発言を除くものに対する対応
について
これらの発言について、被告Bがその発言の存在を具体的に知ったと認めら
れる平成六年四月三〇日以降の被告Bの対応は右一5のとおりであるところ、
右各発言について本件フォーラムの電子会議室の登録から外す措置をとったこ
とが妥当であることは明らかである。また、この時点においては、被告Bは、
原告から訴えを提起され、訴訟の「被告」という立場に置かれるに至った以上、
被告ニフティや、各訴訟代理人などと線密な打ち合わせをしたうえ、具体的な
対応を決定せざるを得ないものというべきであるから、被告Bにおいて、訴状
193
5.判例、裁判上の係争事項等
の送達を受けてから、右各発言を本件フォーラムの電子会議室の登録から実際
に外す措置をとるまでの間に、本件程度の時間的間隔があることをもって、被
告Bを非難することはできないものというべきである。したがって、右各発言
については、被告Bは、右(イ)
(4)にいう必要な措置をとったものというべ
きである。
(オ)まとめ
以上のとおりであるから、別紙発言一覧表(一)記載の符号1、同一覧表(二)
記載の符号3、5、8、9、11の各発言に対する対応については、被告Bに
は作為義務違反があることになる。そして、作為義務違反が認められれば、少
なくとも同被告に過失があったことが事実上推認されるものというべきところ、
本件全証拠によっても、右推認を妨げるべき事情は認められないというべきで
あるから、右各発言に関しては、被告Bにも原告に対する不法行為が成立する
ものというべきである。
ウ.争点1(ウ)(1)(被告ニフティの責任原因・使用者責任について)
(ア)被告ニフティとシスオペである被告Bとのフォーラム運営契約(丙一)
においては、(1)シスオペは、
(a)被告ニフティの別途定める規約、マニュ
アル等に従うほか、被告ニフティの指示に従う(一条二項)、(b)フォーラム
の運営に関しては関係する法令、被告ニフティの規約、指示等に従う(六条四
項)とされ、シスオペがフォーラム運営契約に違反したときには、被告ニフテ
ィは、フォーラム運営契約を無催告で解約することができるとされていること
(一二条)、(2)シスオペが選任した運営協力者については、被告ニフティが
不適切と判断したときは、同被告は、これを解任することができるものとされ
ていること(五条)が認められ、このことに照らすと、被告ニフティとシスオ
ペである被告Bとの間には、使用者責任の基礎となるべき、実質的な指揮監督
関係は優に認められる。
(イ)そして、右のような被告Bの行為が、被告ニフティの事業の執行に関し
て行われたことは明らかである。したがって、被告ニフティは、原告に対し、
使用者責任に基づき、被告Bの右2の不法行為によって原告が被った損害を賠
償する責任がある。
(ウ)なお、争点1(ウ)(2)
(被告ニフティの責任原因・債務不履行〔安全
配慮義務違反〕)については、右一1(イ)
(3)のような会員契約の主旨に照
らすと、被告ニフティには、原告主張のような安全配慮義務がないことは明ら
194
5.判例、裁判上の係争事項等
かであるから、原告の同被告に対する債務不履行に基づく損害賠償請求は理由
がないというべきである。
エ.争点1(エ)(損害額及び謝罪広告掲載の要否)について
(ア)右1のような本件各発言の内容、右各発言が本件フォーラムに書き込ま
れた期間、会員が本件各発言を読むことが可能であった期間、本件フォーラム
の会員数(被告Bがシスオペに就任した当時六〇〇〇人程度)は、本件当時、
アクセスが少ない状態であったこと、その他、本件に関する諸事情に照らすと、
被告Aが、原告に支払うべき慰謝料の額としては五〇万円が相当であるが(本
件各発言によって原告が精神的損害を受けていないとの被告Aの主張は、到底
採用することができない。)、原告の損害を回復するための謝罪広告はその必要
性は認めない。
(イ)また、右(ア)のような事情に加え、被告Bは、自ら原告の名誉を毀損
する発言を書き込んだわけではないこと、作為義務違反が認められるのも本件
各発言の一部に止まることに照らすと、被告B及び同ニフティが、原告に支払
うべき慰謝料の額としてはそのうち一〇万円が相当である。
(ウ)なお、右(イ)の被告B及び同ニフティの損害賠償義務全額と、右(ア)
の被告Aの損害賠償義務のうち一〇万円については、原告に生じた同一の損害
を填補するものというべきであるから、両者は不真正連帯の関係に立つものと
いうべきである。
オ.まとめ
以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、
(ア)被告ら各自に対して、一
〇万円の、
(イ)被告Aに対して、さらに四〇万円の損害賠償を求める限度で理
由があるというべきである。
【反訴関係の争点(右第二の二2)について】
ア 争点2(ア)
(スクランブル事件が、被告Aの名誉を毀損し、不法行為とな
るか否か。)について
(ア)原告が、被告Aのリアルタイム会議室参加の際、スクランブル機能を用
いて事実上被告Aを排除したことは右一2(ウ)において認定したとおりであ
る。
(イ)いわゆる村八分は、継続して特定人をある集団や生活共同体等から排除
195
5.判例、裁判上の係争事項等
するものであって、排除された者の社会生活に深刻な悪影響を与えるものであ
る。これに対し、本件におけるスクランブル事件は、原告が、ニフティサーブ
において、会員が用いることを許されているスクランブル機能を用い、ただ一
度、一時的にRT会議室から離脱したにとどまるものであり、原告のとった右
措置についてのRT常駐要員としての相当性の問題は別としても、被告Aの社
会生活に重大な影響を与えたものということはできないから、法的に、いわゆ
る村八分と同視するほどの違法性が存すると認めることはできない。
イ 争点2(イ)
(原告が、被告Aのプライバシー権を侵害する発言を行ったか
否か。)について
(ア)この点について、平成五年五月二一日に行われたRT会議室の記録によ
ると、原告は、被告Aに「以前ニューズウィークに勤務していたことはないか」
と質問し、被告Aがこれを肯定している会話があることを認めることができる。
しかしながら、右の記録中には、これを越えて原告が「被告Aが職場でトラブ
ルを起こした」旨の発言があったことを認めることはできず、
「以前ニューズウ
ィークに勤務していたことはないか」と質問した以上に被告Aのプライバシー
を侵害したと認めることはできない。
なお、丁二の2には、ハンドル名TSこと○○○○が、五月中旬ころの本件
会議室のリアルタイム会議室において、原告と被告Aが参加していた場におい
て、被告Aがトラブルを起こしたとの話題が原告から出たことがある旨の記載
がみられるが、右の回答者の記憶にはあいまいな点があり、右書証の記載に全
幅の信頼を置くことができるかについては疑念が残り、これを裏付ける客観的
資料が証拠として提出されているわけではないことに照らすと、右証拠は採用
できない。
(イ)したがって、この点に関する被告Aの主張も理由がない。
ウ.よって、争点2(ウ)について判断するまでもなく、被告Aの原告に対す
る反訴請求は理由がないことになる。
(4)結論
以上の次第であって、(一)原告の本訴請求は、
(1)被告ら各自に対して一
〇万円、被告Aに対してさらに四〇万円及び右各金員に対する本判決言渡の日
の翌日である平成九年五月二七日から支払ずみまで民法所定年五分の割合によ
196
5.判例、裁判上の係争事項等
る遅延損害金の支払を求める限りにおいて理由があるからこれを認容し、(2)
その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、
(二)被告Aの反訴請求
は、いずれも理由がないからこれを棄却し、
(三)訴訟費用の負担につき民訴法
八九条、九二条、九三条但書、仮執行の宣言につき同法一九六条一項に従い、
主文のとおり判決する。
別紙 一・二《略》
別紙 発言一覧表(一)
(六番会議室に書き込まれた発言)
符号 年月日 発言番号 名誉毀損部分
1 5・12・1 #78 『#げげげ、離婚体験がなぜ「フェミ」になるの
か?「部落と朝鮮は怖い」という書き込みを平気で行うCOOKIEこと甲野
花子にフェミニズムを語る資格があるのか?』
『男運の悪さをどうして社会の責任に転嫁できるか?』
『そういって、フェミニズムについて質問すると、集団ヒステリーを起こす
丙川春子追っかけ女のCOOKIEでした』
『多様な意見を無視して、無料アクセスを目当てに泣き叫び、FLERAN
に逃げていったのは、COOKIK、あんたじゃないのかね』
『「具体論」というのは、いかにおたくが男に捨てられたかという身の上話か
ね?ふーん、女同士の喧嘩もすごいなな』
『フェミニズムに興味があっても傲慢なCOOKIEの声を聞きたくない人
は多いだろうけど』
『ふーん、フェミニズム好きでも、COOKIEを見ると気分が悪い人はど
うしたらいいのかね?」
『まあ、無料アクセスが目的だったから、逃げて正解だったみたいいだがね』
2 5・12・31 #84 『COOKIE教の教祖様がまたまた過去を潤
色して』
『やはり公開性とはありがたいもので、世間を騒がせる甲野花子ことCOO
KIEは原体験がやっとわかります。これは要は経済的理由で嬰児殺しをやり、
甲斐性がない亭主に飽きて、他に男を作り、アメリカに八ヶ月の不法滞在(ア
メリカの移民法では日本人が観光で滞在する場合は上限は半年。それ以降は不
法滞在)し、「依存」(別名、利用価値)がなくなったから、解消したという話
ですなあ、これは。』
『高らかに「私のふぇみにずむ」などと演説をぶち、他人の入会を拒絶し、
あげくの果てには、フォーラムの課金をたかり、それを批判させると、今度は
陰メールをとばして、まっとうな会社員の会員削除を要求し、それでも通用し
197
5.判例、裁判上の係争事項等
ないと、他人のプライバシーを利用して、陰湿な陰の脅しをやるから、その程
度の重い過去があるのかと思っていたら、たんに虫歯が痛い程度の話。最近、
「ワイルド・スワン」を読んで、人前で女が女であることを語るためにはどん
な苛烈な体験をくぐりぬける必要があるかを痛感した小生としては、期待して
読んだのですが、COOKIE教の開祖様の過去には何もなかったわけです。
』
(注) 「年月日」欄については、平成五年一二月五日を「5・12・5」の
ように記載する。また、
「名誉毀損部分」欄の『』内は、それぞれに対応する発
言番号の文章のうち、原告が名誉毀損にあたると主張する部分を引用したもの
である(発言一覧表(二)ないし(四)においても同様である)。
発言一覧表(二)
(七番会議室に書き込まれた発言)
符号 年月日 発言番号 名誉毀損部分
1 5・11・29 #111 『つまり、COOKIEやるい流の本読みが
集った丙川春子おっかけ会の手口』
『別にコメントしてもかまわんが、あんたはどうする気なの?それとも今ま
でのように丙川でも丁原でもいいけど(この二人は尊敬しているが)、借り物の
視点で他人を裁くわけかね?で、あんたは何を考えているの?短い文で本質だ
け説明してみたらどうかね?自分のオリジナルを。そうじゃないと、要は、失
恋しただけでフェミを知りたくなった戊田とか商売上の動機から部落を研究せ
ざるをえなくなった甲田みたいになるけど。まあ、どんな動機で何をやるのも
自由だけど、要はCOOKIEにしてもここでBLになって無料で書き込むを
する権利がなくて、イライラしていた時に、例の「騒動」が起きて、うれしか
ったんじゃないか?他所で無料でアクセスする権利を手にして。』
『COOKIE、フェミをきどるおまえの言動を反省してみろ。
「部落と朝鮮
は怖い」という発言を残したが、おまえはこの一言で他人に殺意を残したこと
はわすれないように。」
2 5・11・30 #125 『すると、馬鹿どもは俺を誤解して、
「電化反
対!ニューギニアの石器自体を保存せよ」会会長の春夏秋冬こと乙野と同じに
して集団ヒステリーを起こして、山に逃げていく。そして、被害者をきどって、
ちゃっかりと無料アクセスする権利を手にしてめでたしめでたし。パチパチで
した。』
3 5・12・2 #145 『御存じCOOKIEこと甲野花子センセ(O
nline Today Japanという公開資料によれば)がFlear
nで逆差別を慣行しております。それも課金をふんだくるというもっとも醜悪
な方法で。しかも「ローカルルール」という日本国憲法に違憲な運営法になっ
198
5.判例、裁判上の係争事項等
ており、これは公共機関であるFOLUMを高級ソープか会員制ゴルフクラブ
なみに堕落させる行為でしょう。』
『はたで見ていると、成人するまで、日本社会の前近代性を知らなかったC
ookieセンセのおめでたさの方が驚きます』
『要はCookie本人の未熟さということになるのでしょうから。そう、
幸福な相手を捕まえることこそが女の最大の知恵(男にとっても同じでしょう
が)なのに、その選択にしくじって、独演会の女になり、
「非婚宣言」などとえ
らそうに能書を垂れている。ドフトエフスキーは、
「人間は虫歯でも生きがいに
できる動物」だという明言を残しましたが、Cookieのエセふぇみにずむ
を見ていると、その意味がよーく分かります。』
『次にCOOKIEセンセが勝手にローカルルールを作って、他の会員を削
除し、あげくの果てには、奇特な男性会員がCookieセンセの参考資料を
勉強して、
〈男であること〉をお勉強することを約束して、Cookie教の信
者になることを条件に許しを得ると醜悪な図式を披露しています。』
4 5・12・5 #180 『要は会員がいなくなると、自分の商売が損を
するわけです。会費が取れなくなるし、Cookieセンセ一味の場合は無料
にアクセスができなくなる。そう、芸術も思想も形式だけのドグマになると、
悲しいものです。残るはお家安泰の意識だけですなあ』
5 5・12・8 #218 『それとCOOKIEは同じ発言をRTでもや
っている。当日現場にいたのは、戊田。おれがRTにアクセスした直後に、彼
らは話題を変えたが、俺はCOOKIEが「部落は怖い」という発言をしたの
は見ている。といっても、水掛論になる。本人はここに連れてこい。しらを切
るなら、その発言だけでも書き込みに残してもらおう。』
『じゃが、えらそうにフェミなんぞを語りながら、他人には平気で差別発言
をする女などは信用できない。要は、階級性どころか専門性どころの問題では
ない。あの女は乞食なみじゃ。あのRTの発言がばれたのが怖くなったのだろ
う。COOKIEはぱたりと逃げた。』
『そして、FLEARNで嘘をばらまいて、被害者を装って、待望の無料ア
クセス権を手にした。』
6 5・12・15 #343 『そうそう、身銭を使って書くのですから、
その程度の自由はないと困るわけです。確かにCOOKIEや甲田やるいやJ
UNEのように、勝手に分離主義をやらかして、他人の負担で、課金負担者の
発言を封殺するという倒錯的手口もありますが。あれはどんな背景から生まれ
た馬鹿どもでしょうか。いいたいことを的確にいうというのは、こんな管理社
会では重要なことです。その一点だけでは団結しましょうか。まさか、当方の
口調を普及しろとは言いません。そこまでやるからCOOKIEになる。』
199
5.判例、裁判上の係争事項等
7 5・12・16 #362 『先ずはCOOKIEが先。あの女は馬鹿だ
から、自分の居場所をあちこちで吹聴している。そう、バイト先を得意になっ
て、ブランド指向バーサンたいに吹聴している。そして、そこに俺の友人も何
人もいる。そこで、あの女がやらかしたインチキを全部公開する。』
『せっかく資料を公開してもらったが、甲田のファイルは丁寧に読むと相当
にいじっている。あれでは情報公開にはならない。現物を公開されたし。それ
と問題はシャーマンであるCOOKIEの文章。この場でしりえないプラバシ
ーを持ち出すという手口を始めたのはあの女。だから、逆に、同じ手口を使っ
ても構わない。悪いが、あの女の裏メールも全部無修正で公開されたし。そう
すれば、あの女の表の顔と裏の顔が明らかになる。そう、寄生虫的な逆差別女
の思想的限界が。』
8 5・12・18 #391 『COOKIEの場合は単純で、あの女は弱
いのではなく、弱いふりして、根性がひん曲がっているからです。あれでは離
婚になるでしょう』
『具体的に言いましょうか?あの女がバイト(本人はフリー
などという言い方で粉飾してますが)しているところで偶然小生もはるか昔に
一時バイトしたことがありまして、その話を聞いて、あの女は職場の人間に聞
いたらしいですなあ、これが。それはいいとして、あの女はやはり妙なブラン
ド指向があるみたいで、「そんなちゃんとした会社に朝鮮人が出入りできない」
という思いこみがあったみたいで、その時、当方がやらかした職場での喧嘩を
ネタに当方を脅迫しようとしたわけです。これは個々でスタッフをやっている
反A男の山野猫センセがRTの現場にいたから正直に証言してくれるでしょう。
当日起きたことは。必要ならば。つまり、当方は弱い人間は許容しますが、弱
いふりをして、利益を手にするご都合主義的な人間はいやなわけです。フツー
はそんなところに出入りする朝鮮人がいたら、統一協会かKCIA級のバック
があると思って、言動には注意するんですがね。もっとも、そんなヤバイ話は
ありませんが。』
9 5・12・20 #435 『ということで、COOKIEの場合はプラ
イバシーでもない。あの女が自分で公開した情報。ついでに、あの女のお仲間
の甲田によれば、甲野花子はアメリカに三年近くいたらしい。日本国籍保有者
が金髪漁りのリピーターでアメリカに滞在できるのは半年までが限界。となる
と、あの女はアメリカの出入国法にも違反した疑いが濃厚。これは完全な犯罪
者。いくら離婚後、寂しくても国法を犯す人間が、フォーラムのような公的な
場で他人の課金をむさぼって、お店を開店させるのは問題。ROMの方は誰で
もいい。誰かアメリカ大使館に通報されたし。今後1〇年間は入国禁止処分に
なるはず。』
『FLEARNの男どもをだました中年目前の離婚女のCOOKIEに対す
200
5.判例、裁判上の係争事項等
る疑問を書き込んだところ、こんな書き込みが一方的にメールされました。C
OOKIE教が実は原理教会やオウム教や創価学会なみの社会的害悪であるこ
とを了解されたし。』
10 5・12・20 #438 『この伝でいけば、甲野花子は何者か?や
はり、根性のひんまがったクロンボ犯罪者なみです。だってそうでしょう。要
は、COOKIE個人の態度が問題になると、「ふぇみにずむ」を持ち出して、
相手に「反フェミニズム」だの「差別主義」だのという御旗をつかって、レッ
テルを貼るわけです。これでは、クロンボが「俺がスーパーで強盗したのは、
俺の幼年時代に受けた差別のせいじゃ」と言って、開き直りをやらかしたよう
なもの。やはり、早々にワナにかけて、射殺した方がいいでしょう、あの女の
場合は。』
『それにあの女は二度の胎児殺しをFLERANのFinFの場で公言する
人間です。これは甘やかすとキリがない。本人が避妊をしくじったのも男社会
の責任というのでしょうかね?やはり、そうそうに射殺すべきでしょう。この
馬鹿だけは。』
11 5・12・23 #484 『この二つの書き込みを見ればわかるよう
に、JUNEのメールとあとのメールの時差に注目されたし。あとは本来Fi
nFとは無関係。その人間が先に勝手に削除して、Cookie一味のごきげ
んとり。そして、あとからの内部通達があったのか、大きく時間をおいて、J
UNEが事後報告。やはり前近代社会では女が○○○の汁を垂らすだけでうり
もんになるんだろうが、だったら、もう少しおいしい○○○を晒せばいいもの
を、あきれてものがいえん』
『これはどういう意味か?それでもCOOKIEのやらかした優生保護法違
反による二度の胎児殺しとアメリカの移民帰化法違反による不法滞在の指摘の
どこがわるい?要はCOOKIEは犯罪者。犯罪者に課金をたからせるような
公的な立場を与えることが許されるのか?一般論としてでもいい。伺おう。』
『いわば乙野的な自滅行為をやらかしたのが、COOKIEじゃった』
『そんなこんなで、思想的な総括をすれば、他人様の問いかけには素直に答
えましょう。教訓はこれだけ。そうしないと、職場の実力者に酒の場でCOO
KIEの嬰児殺しが暴露されるだけのこと。』
『COOKIE一味はやはり馬鹿としか思えない。』
『当方のターゲットですか?言論問題というよりも、もうここまでなめられ
ては、報復戦争です。COOKIEが先にやらかしたプライバシーの暴露と裏
攻撃をこちらもするだけのこと。それも一万倍の切れ味で。だから、言論の場
で話をつけないといかんわけです。』
『COOKIE一味のふぇみにずむは何かというと、あれはもっとも悪質な
201
5.判例、裁判上の係争事項等
わけです』
『つまり、最後は媚びてごまかしていますが、胎児殺しを二度もやったのは
社会の責任という論法です。これはクロンボがよくやる論理で、
「殺人事件をや
らかしたのも、社会の矛盾の産物」という論理です。要は状況が彼女の倫理基
準になっている。これを最近のアメリカでは文化相対主義とか価値多元主義と
いうのですが、身内が認めれば、普遍的な価値は相対化できるという論法でし
て、まさに弱者の脅し的な考え方なんですね。』
『あのペテン師女』
12 5・12・23 #485 『COOKIE教という固有名詞は必要で
しょう。日本初のスラム化フェミのサンプルだから。』
『こうやって被害者を装えば勝ちというエセ部落的な手口をやってるけど、
#391と#477のどこが「脅迫」であり、
「中傷」なのかを説明されたし。
』
『それともCOOKIEのような嬰児殺しをやり、不法滞在をやり、他人の
プライバシーをネタに脅迫するような人物を放置していいのかね?明確にされ
たし。』
13 5・12・29 #573 『それに、なにやら、最近、COOKIE
はまたまたHPの要求を出しているようですが、どうして、あれを課金負担を
免除されたまま要求できるのか?本来はパティオで自己負担でやることなのに。
まあ、匿名君の意地悪な観察によれば、あれもおたちだいネーチャン風にこの
会社の売り上げに貢献しているのでしょうが。だからといって、嬰児殺しまで
正当化する必要はない。うちの女房に言わせれが、こうなります。』
『ところで、女の寿司職人がいない理由を知っていますか?要はケチだから
なんですね。銀座あたりでデタラメをやっている食通の不動産屋の説明では、
台所感覚で寿司を握るから材料が古くて客が逃げるわけです。ということで、
身銭を節約するためにFlearnに逃げていったのがCOOKIEでした。
本音は、自分が先にRTでやらかしたことが怖くなったのでしょう。女同士で
は通用する陰湿な脅しも相手によっては逆効果だったわけです。この辺は過去
の書き込みを見ればあきらかですから。まあ、これで彼女もいい勉強になった
でしょう。私のふぇみにずむを形成する上で。』
発言一覧表(三)
(八番会議室に書き込まれた発言)
符号 年月日 発言番号 名誉毀損部分
1 6・2・10 #88 『COOKIEの馬鹿も少しは勉強になったでし
ょう』
『それが分かったのは、RTの場でのCOOKIEの一言。たぶん当方のい
202
5.判例、裁判上の係争事項等
やみを言うためのほのめかしでしょうが、戊田相手に、「部落の人は怖いのよ」
ということでした。こんな一言で分かるように、あれはエセ反差別教徒です。
あれらは自分の「差別」しか興味がないわけです。だから、当方はドストエフ
スキーの「人間は虫歯の痛みでも生きがいにできる動物」という言葉を以前あ
れらに紹介したわけでした。』
2 6・2・10 #89 『ということで、COOKIEがでてこない理由
はてめえがRTの場で*先に*当方のプライバーを暴露したからです。あれら
が陰でやらかした不法行為はまだまだありますが、現時点ではこの程度にして
おきましょう。』
3 6・3・8 #288 『これは当たり前のことですが、違憲というもの
は、表現された瞬間にもうその人の占有物ではありません。たとえば、FFE
MIで「離婚前夜」という題名を使って、胎児殺しを肯定する「ふぇみにずむ」
なる意見を吐く甲野花子ことCOOKIE会員のエロスを原理とした私的交友
関係存続のために、ロゴスを求めるはずの公共の場を独占しようとし、あげく
の果てには、公論の体裁をかりた私利私欲追求に対して、解放同盟的な手口で
異を唱える一般会員の言論封殺を陰で行う甲田会員の意見も意見である限り、
もう彼らの占有物ではない。明らかにおかしな意見に対しては、当然、コメン
トがつき、意見を止揚する立場の人間も登場するわけです。』
『COOKIEにとって、気分がいい発言は許容するが、COOKIEにと
って、気分が悪い発言は、発言者を封殺するか、もしくは批判の対象となった
意見そのものを削除する』
4 6・3・8 #291 『文句があるなら、しかるべき場所でやればいい
わけです。この点に関して、脅迫男である春夏秋冬こと丙山夏夫、他人の発言
権を裏から剥奪しようとしたエセ同和問題男甲田、他人のプライバシー公開ま
で嬰児殺害と米国不法滞在を奨励したCOOKIEこと甲野花子の三人に関し
ては、いつでも、かまいません。やるなら、いつでも、当方が受けて立ちます。
ということで、この三人に関しては、
「罵倒」ではありません。連中が行った行
為に対する正当の評価が、「罵鹿」ということになります。
』
『つまり、批判を浴びない場合はのうのうと嬰児殺しを奨励し、批判を浴びる
と、今度は発言を隠滅するような事態が起きるわけです。現に、甲野花子こと
COOKIEがやらかしたような。これでは悪質なプロパガンダです。』
5 6・3・10 #324 『今回の証拠堙滅(‖削除?)方式の導入で、
とくをするのは、COOKIE一味と春夏秋冬こと乙野です』
『ということで、私的に情通じた女のために(COOKIEが自発的に公開
した情報)、言論封殺会議室を作ったエセ同和男甲田と、
ヒステリーを起こして、
203
5.判例、裁判上の係争事項等
他人のプライバシーを暴露したうえに、嬰児殺害と米国不法滞在(FFEMI
で隠滅された「離婚前夜」によれば)を提唱するエセ・フェミニズム女COO
KIEこと甲野花子と、他人の女房を電子メールで脅迫し、のうのうと他人名
義取得した子IDを使って、馬鹿な発言を行う春夏秋冬こと福島一の暇人とし
て知られる乙野松夫に関しては、連中がWAKEIルールを利用して、証拠堙
滅を行えば、WAKEIさんの手間をとらせないところで、対応を考えましょ
う。』
6 6・3・12 #350 『COOKIE一味はFLEARNで証拠堙滅
を行ってます』
『ということですが、まさにこれ、この原則というか大人の常識があれば、
COOKIE教徒による解同の一部の悪質な脅迫行為を模放した裏政治でなく
なっていたでしょう。基本的にはこれでいきましょう。日本は近代国家です。
』
『「離婚の自由」や「中絶の権利」は、離婚や中絶の「奨励」ではありません。
できたら「しないほうがいい」とは、ほとんどの人が考えるはずです。でも、
どうしても、そうしなければならない、というときを考えて、それを、「法的」
に可能にしてあるわけです」COOKIEこと甲野花子の場合は違います。あ
れが「離婚前夜」で語ったことは虚構です。丁寧に読めば、あれは二度も中絶
している。つまり、全然、懲りていない。どこにも倫理的判断がない。まるで
避妊方法がない第三世界の娼婦のごとき、』
『それと「離婚」はいいでしょう。あることです。だが、問題はその経緯。
そう、人間は動物ではないはず。倫理がやはりあるわけです。ごく基本的な。
倫理の外でいきるならそこには深い葛藤がある。だが、COOKIEの「離婚
前夜」にはそんな真実味がない。まるで天災のように、嬰児ができ、天災のよ
うに、別の男ができ、まるで天災のように、アメリカに流れて行く。どこにも、
ぎりぎりの位置を生きる切実さがない。そのくせに、感情的な口実はやまほど
ある。つまり、あの女は経験から何も学びとっていない。道理で、どこのフォ
ーラムに行っても、袋叩きになるわけです。』
7 6・3・13 #365 『ということで、おまえが「アナキー」の原因。
無資格で入国する不法滞在者と同じこと。つまり、ニューズウィーク日本版で
長期バイトするFfemiのCOOKIEこと甲野花子がアメリカでやらかし
たことをおまえはやっている。同じ無資格滞在でも日本経済に貢献する地元の
スリランカ人の爪の垢でもせんじて呑め。馬鹿者。』
8 6・3・14 #399 『COOKIE一味のように、陰メールで気に
いらない人間を脅迫したり、自分で公開した情報を後になって、
「あれはプライ
バーよ」と泣き叫んだり、るいのように、運営論争のふりをして、先週、別の
主題が議論されているRTに登場し、COOKIE教徒得意の裏政治を、いや
204
5.判例、裁判上の係争事項等
がるWAKEIさんにえんえんとやらかさせなければだいじょうぶ。まだいた。
もう説明もいらないが、丙山夏夫のように、見苦しい態度をみせなければ安全
です。つまり、よほどの馬鹿だけが馬鹿という素直な評価を受けるだけで、フ
ツーの人には安全ですから、安心されたし。』
9 6・3・14 #409 『COOKIEは民事じゃないかね?投稿捏造
事件はどうかね?他人のプライバシー暴露事件はどうかね?米国不法滞在はど
うかね?』
10 6・3・17 #470 『まあ、あとはおまえの勝手にしてくれ。甲
田のように被害者ぶって発言の削除は求めない。Cookieのようにもめご
とを嫌うNIFTYに圧力をかけて、おまえを裏から脅迫したりもしない。安
心してかまわん。ただし、おまえの発言はいじるな。さらしものにすればいい
じゃろう。』
11 6・3・20 #531 『ところが、問題はその後だんべ。会議を終
わって、ビールでも呑んで、さて寝るかと思って、もう一度ボードを覗くと、
なんとるいがまだいた。深夜の会議室で誰かとボソボソ話している。
話の内容?
当然、いつもの調子。人の陰口だんべ。もっとも、オラに気が付くと、突然、
脈絡もなくパソコンの話に切り替えたが。いつか、COOKIEが「部落とチ
ョーセンは怖い」という本音をばらまいた時もこんな調子だったべ。人が来る
と、すぐに話題を切り替えたべ。』
発言一覧表(四)
(一〇番会議室に書き込まれた発言)
符号 年月日 発言番号 名誉毀損部分
1 6・3・25 #1695 『ということで、るいと「部落と朝鮮は怖い」
と陰口をたたいた甲野花子は絶対に許しません。でも、女々しい恨みめいた感
情ではない。あれは、宣戦布告をやったのと同じ。これだけは確か。WAKE
Iのクソタレ?まあ、あんなもんでしょう。まじめで誠実な人間でしょう、基
本的には。ただ、四〇過ぎて外国に行っても、肝心の歴史センスは身につかん
のでしょう、本当。やはり、感受性が鋭い時期にいかんとね。たぶん、今回の
るいの発言の重大さも皮膚感覚としては理解していないでしょう。まあ、これ
ばかりは音感がない人間にバイオリンを教えるようなもんで、どうしようもな
いけど。』
2 6・3・27 #1784 『いやまあ、これなんですが、当方はそんな
卑屈な人間じゃないです。これだけは明言しておきますが。それにるいに伝言
を要請したけど、法的にCOOKIEと当方の紛争をやる場合、両者の間でや
ります。これははったりではなくて、昨年の乙野騒動の時に臨戦状態で構えて
ましたから、いつでも、やりたいのはこちらも同じです。ということで、彼女
205
5.判例、裁判上の係争事項等
も言い分があれば、逆にこちらも彼女が行った本物のプライバシー暴露のけん
で、彼女の法的責任を追求したいほど。』
『いや、原因はCOOKIEがやらかした当方のプライバシー暴露です。そ
もそもは。それはともかく、本当にNIFTYとWAKEIさんに行くのです
か?彼女の提訴とやらは。無茶な話ですが。実はCOOKIEのせいにして、
あなたの負い目を解消していたりして……。かりにそうだったら、あなたは最
低ですぞ。』
以上
206
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.3 都立大学事件
平成11年9月24日東京地裁判決
平成 10 年(ワ)第 23171 号 謝罪広告等請求事件(判時 1707 号 139 頁)
【要旨】 原告らが、東京都立大学の学生である被告Dが同大学の管理下にあ
るコンピューターシステム内に開設したホームページ「東京都立大学A類学生
自治会ホームページ」に掲載した文書が原告らの名誉を毀損すると主張して、
被告らに損害賠償ないし名誉回復措置を求めたことに対し、名誉毀損の成立を
認め、被告Dは原告A、原告B及び原告Cのそれぞれに対し金三〇〇〇円及び
遅延損害金の支払を命じられた事件。
この文書に対する東京都の削除義務に関する原告らの請求はいずれも棄却さ
れた事件。
(1)事案の概要
ア.本件は、原告らが、東京都立大学(以下「都立大」という。)の学生である
被告Dが同大学の管理下にあるコンピューターシステム内に開設したホーム
ページ「東京都立大学A類学生自治会ホームページ」に掲載した文書(以下「本
件文書」という。)が原告らの名誉を毀損すると主張して、被告らに損害賠償
ないし名誉回復措置を求めた事案である。
イ.都立大には、教育研究用情報処理システム(以下「本システム」という。)
があり、キャンパス内をネットワーク化するとともに、インターネットとも接
続している。本システムの円滑な運用のため、全学的な構成の「都立大教育研
究用情報処理システム運営委員会」(以下「運営委員会」という。
)が設置され
ている。本システムを利用できる者は、原則として運営委員会が認めた教職員
ないし大学院生である。運営委員会は、本システムを利用したホームページの
作成、維持管理についての要綱を定めており、本要綱によれば、各ホームペー
ジに記載される情報については作成主体が責任を持つこととし、運営委員会は
公開された情報の内容が社会通念上許されないものと判断した場合にはその
除去を命じることができる旨が定められている。
ウ.これに対し、都立大に設置された教養教育用のパソコン教室のシステムで
ある教養部システム(通称Mac教室システム)は、被告東京都職員である情
報教育担当教員において運営されている。教養部システムは、本システムと接
続され、本システムを経由してインターネットに接続されているが、本システ
ムとは、一応別個のシステムである。したがって、教養部システムには前記要
綱の適用はない。
エ.都立大は、情報教育基礎科目の受講生に、教養部システム内においてホー
ムページを開設する資格を与えている。被告D(都立大A類学生自治会執行委
207
5.判例、裁判上の係争事項等
員長)は、教養部システム内におけるこの資格を有する都立大の学生で、教養
部システム内に学生個人として与えられた利用資格に基づき、自己のホームペ
ージを「都立大A類学生自治会ホームページ」(以下「本件ホームページ」と
いう。)という名称で開設している。本件ホームページは、実質的には、被告
D個人のホームページというよりは、被告Dが執行委員長をつとめる都立大A
類学生自治会という団体のホームページであり、被告Dがその運営責任者の地
位にある。
オ.都立大においては、学生の全員当然加入制をとり、その財源が全学生から
徴収される自治会費ないし購読料でまかなわれる学生自治会(昼間部について
はA類、夜間部についてはB類)及び東京都立大学新聞会(以下「新聞会」と
いう。)については、その公共的性格に鑑みて、入学手続の際に、自治会費等
徴収のために、入学手続の場所に隣接した教室の使用を認めるなどの便宜供与
をしてきた。
カ.ところで、新聞会については、平成9年6月から、被告Dらのグループ(A
類学生自治会執行部側の学生)と、新聞会執行部を自称して現実に新聞会の財
産を管理し東京都立大学新聞を発行している原告グループの間で、新聞会とし
ての正統性が争われるようになった。両グループ間においては、日常的に相手
方を非難する立看板やビラ等の応酬がされ、実力による小競り合いやもみ合い
等も生じていた。都立大当局は、調査の結果、新聞発行グループは、新聞会執
行部としての正統性に問題があり、少なくとも新聞購読料徴収の便宜を与える
団体としてはふさわしくないものであると判断し、平成10年3月に行われる
入学手続の際には、新聞会に対する便宜供与をしないこととした。また、B類
学生自治会についても、平成9年7月から、その正統な執行部であると主張す
る2つのグループが発生し、その一方は被告DらのA類学生自治会執行部側の
支持を受け、他方は前記新聞発行グループの学生の支持を受けていた。
キ.都立大当局は、調査の結果、前者にB類学生自治会執行部としての正統性
があると認め、入学手続の際に自治会費徴収のために教室使用の便宜を与える
こととし、後者のグループには与えないこととした。
ク.平成10年3月10日に行われた入試の合格発表の際、都立大当局は、A
類学生自治会執行部側の学生を中心とする新入生歓迎中央実行委員会(以下
「中央新歓」という。)に対して、新入生歓迎行事のために都立大講堂を使用
することを許可した。新入生の入学手続の際に会費徴収の便宜供与を認められ
なかったB類学生自治会執行部グループ及び新聞会の新聞発行グループ(原告
らを含む。)は、中央新歓の構成員ではなかったが、入学手続日における自治
会費及び新聞購読料等の徴収に関する書類を配付するため、中央新歓の主催す
る新入生歓迎行事中の講堂に入ろうとしたところ、A類学生自治会執行部側の
208
5.判例、裁判上の係争事項等
学生が実力でこれを阻止しようとしたため、両者の間で実力による衝突が起こ
り、講堂出入口付近で混乱が生じた。
ケ.都立大当局は、3月14日に予定された入学手続日に再び混乱が生じるこ
とを回避するため、都立大学生部長名で「合格発表時の混乱について」と題す
る文書を学生らに配布し、混乱を引き起こした学生らに再び混乱を起こすこと
のないように訴えた。また、都立大当局は、新入生に対しては、次のような文
書を配布した。
新入生の皆さんへ
都立大学学生部学生課
都立大学には、学生の自治組織として、第一部学生を会員とする「A類自治
会」と第二部学生を会員とする「夜間受講生自治会」
(通常「B類自治会」と言
われる)があります。大学は、学生の自主的な考えや行動を極力尊重するため
に、皆さんの入学手続きにあたって、上記の両自治会が第10室を使用するこ
とを認めています。
一方、学内には、同じ「B類自治会」を自称している別のグループがあり、
まぎらわしい状況になっています。しかし、大学としては、第10室を使用し
ている団体を第二部学生を代表する自治会として対応しています。このことに
ついては、インフォメーション・ギャラリーの学生部前の掲示板に掲示してあ
る、総長、学生委員会、学生部長の各声明文などを見てください。
また、これとは別に、
「都立大学新聞会」という名称で「都立大学新聞」を発
行しているグループがあり、場外等で新聞購読の勧誘、購読料の徴収活動など
を行うかもしれませんが、これらは大学の入学手続きとは一切関係がありませ
ん。新入生の皆さんは、入学手続き以降も、大学生としての自覚と責任におい
て判断し行動されるよう、注意を喚起します。
コ.平成10年3月14日に行われた入学手続の際、教養部棟は、大学当局者
及び便宜供与を認められた学生団体の関係者以外の者は立入禁止とされた。大
学当局に正統性を否定された新聞発行グループの学生等(原告らを含む。)は、
この措置を不当と考えて、例年通り教養部教室内で新聞購読料等の徴収手続を
実施しようとして教養部棟に近づいたところ、これに対峙していたA類学生自
治会執行部側の学生との間で実力による衝突が発生し、両グループ間で乱闘と
なり、双方のグループで複数の学生が1週間から10日間の傷害を負うという
本件事件が発生した。
サ.中央新歓は、本件事件の概要を都立大当局に報告した方がよいと考え、事
件現場にいたA類学生自治会執行部側の学生から事情聴取した結果をまとめ
て、中央新歓名で都立大学生部長宛の「入学手続日の混乱について」と題する
報告文書を作成し、3月18日ころにこれを都立大学生部に提出した。この文
209
5.判例、裁判上の係争事項等
書の内容は、本件ホームページ内の本件文書の内容と同一であった。
シ.被告Dは、本件事件の現場には直接立ち会っていなかったが、中央新歓の
中心メンバーとしてこの文書の作成経緯をよく知っており、都立大A類学生自
治会執行委員長として、この文書を都立大の学内の学生、教職員に広く読んで
もらいたいと考えて、これを本件ホームページに掲載することを思いついた。
被告Dは、そのころ、「3月14日、入学手続日の混乱の詳細」と題する本件
文書を本件ホームページに掲載し、インターネットを通じて不特定多数人が閲
読可能な状態に置いた。
ス.原告甲野及び同乙山は、本件文書の掲載を知った後の平成10年8月12
日に、運営委員会に対し、本件文書の内容は虚偽であること及び本件文書のホ
ームページヘの掲載は原告らに対する名誉毀損に当たることを指摘して、運営
委員会の公式謝罪を求める旨の文書(以下「抗議文書」という。
)を発送した。
セ.運営委員会は、平成10年8月15日、抗議文書を受領し、本件ホームペ
ージに本件文書が掲載されていることを知り、教養部システムを管理する情報
教育担当教員にこれを伝えた。情報教育担当教員においては、本件文書を削除
する措置はとらず、学生間における自主的な解決に期待して、8月19日に被
告Dに対して原告らの抗議の趣旨を伝えるにとどめた。
ソ.本件システム内に開設されたホームページについては、都立大教養部教務
課電算係がホームページ閲覧者の便宜のため、自らの判断で適宜リンクの開設
を行っていた。しかし、本件システム内に開設された学生活動のページに関し
ては、本件文書をめぐる紛争以前から、学生が自己のホームページとして民間
企業のホームページを掲載するなど、本件システムの設置目的に沿わない行為
が行われるという問題が発生していたため、電算係は抗議文書の受領を契機に
平成10年8月17日、本件ホームページを含む学生活動のページについてリ
ンク停止の措置をとった。
タ.情報教育担当教員は、8月20日、原告甲野に対して、「教養部システム内
に学生が開設したホームページについては当該ページを運営している個人が
管理し、すべての責任はその個人にあり、Mac教室管理者は一切の責任を持
たない、システム管理者が記事を検閲することはインターネットの哲学とも相
容れない」旨を記載した回答書を発送し、この回答書はそのころ原告甲野に到
達した。
チ.被告Dは、その後、本件文書に次の文章を付加した上で本件ホームページ
に掲載を続けた。
この文章に関して、実名を挙げて事の詳細を記している点が名誉棄損ではな
いかという声があがり、実際その当人からも抗議文が送られてきました。私た
ちA類自治会は、このような事実があったということを学内の学生、教職員の
みなさんにお知らせし、事実を知ったうえでみなさんに適切な判断を下してい
210
5.判例、裁判上の係争事項等
ただきたいと考えて、実名を明らかにして本大学構成員の利益のためにホーム
ページに公表した次第です。しかし、法律的な問題も含めこの問題への対処を
現在検討中です。結論が出次第、このホームページ上でもみなさんにお知らせ
いたします。
ツ.本件ホームページ中における本件文書が掲載されたページは、本件訴訟提
起の事実が新聞報道された直後の平成10年10月15日に、情報教育担当教
員によって閉鎖された。
(2)争点とそのポイント
ア.本件文書の掲載による名誉毀損の成否
被告Dが平成10年6月29日までの間に本件ホームページ内に「3月14
日、入学手続日の混乱の詳細」と題する本件文書の掲載を開始し、インターネ
ットを通じて不特定多数人が閲読可能な状態に置いた結果、原告らが傷害事件
を引き起こして刑事事件になったとの印象を一般人に与え、原告らの社会的評
価は低下し、名誉毀損が成立するといえるか。この争点に関し、被告D及び被
告東京都は、原告らの社会的評価は低下していないとして争っている。
イ.都立大担当職員が、原告らに対する関係において、本件文書の削除義務を
負うかどうか。
(ア)主位的主張
都立大担当職員は、教養部システム内のホームページ上の名誉毀損文書を削
除する権限を有するのであるから、条理上、または学生に対して負う安全配慮
義務の履行として、名誉毀損文書が掲載されたことを現実に知った場合には、
速やかにこれを削除すべき義務を負うものといえるか。
都立大担当職員は、抗議文書を受領した平成10年8月15日に本件文書が
教養部システム内に掲載されたことを知ったにもかかわらず、同年10月15
日まで掲載されたまま放置していたことにより、被告東京都は、原告らの名誉
が毀損されたことにより生じた損害を賠償すべき義務を負うかどうか。
(イ)予備的請求
本件文書が教養部システム内に掲載されたことを知った都立大の担当職員が
本件文書は名誉毀損には該当しないと判断したのであれば、そのように判断し
たことにつき過失があり、その結果本件文書が削除されずにインターネットを
通じて不特定多数人が閲覧可能な状態が継続したのであるから、この場合にお
いても、被告東京都は、原告らの名誉が毀損されたことにより生じた損害を賠
償すべき義務を負うかどうか。
被告東京都は、教養部システム内に開設されたホームページの内容について
211
5.判例、裁判上の係争事項等
は、開設する学生自身が責任を負うことを条件として学生個人に教養部システ
ムの利用を認めていること、本件文書が一見して明白に名誉毀損文書に当たる
ということはできないことによれば、都立大担当職員が原告らに対する関係に
おいて本件文書の削除義務を負うことはないとして争っている。
ウ.被告D主張に係る違法性阻却事由の有無
被告Dは、本件文書の掲載は、公共の利害に関わる事実に係り、専ら公益を
図る目的に出たものであり、本件文書に記載された内容はすべて真実であり、
仮に真実でないとしても真実と信じるにつき相当な理由が存在し、本件文書の
掲載についての違法性は阻却されると主張している。
さらに被告Dは、東京都立大学新聞会等の正統性をめぐる論争の存在、3月
10日・14日に両者間において発生した実力衝突、被告Dが都立大A類学生
自治会執行委員長という立場から3月14日の衝突の事実を学生、教職員に告
知しようとしたのが本件文書であることを考慮すると、本件文書の記載の一部
により原告らの社会的評価を低下させる結果が生じたとしても無理からぬ事情
が存在し、本件文書が事実を淡々と綴ったものであることをも考慮すると、被
告Dの行為には違法性がないものと主張している。
エ.損害額及び謝罪広告
原告らは、名誉毀損行為により原告らに生じた精神的損害についての慰謝料
としては各原告につきそれぞれ30万円が相当であり、弁護士費用としては各
原告につきそれぞれ3万円が相当であり、被告らに対して本件文書の削除、被
告Dに対して謝罪広告の掲載を命じるべきであると主張している。
(3)判決の内容等
ア.名誉毀損の成否
(ア) 公然性について
本件文書は、本件ホームページ内に掲載されることにより、インターネット
を経由して不特定多数の人間がこれを閲覧することが可能な状態に置かれたも
のであるから、公然性を有するものというべきである。
被告らは、インターネットを経由して本件ホームページに到達するには、数
多い学生のホームページの中から被告Dのホームページを探り当てなければな
らず、事実上都立大関係者以外の者が本件文書を閲覧する可能性はないと主張
する。しかしながら、当時、原告らの氏名をキーワードとしてインターネット
における検索サイトにより検索すれば、本件ホームページないし本件文書が検
索結果として出てくる蓋然性が極めて高かったものと認められ、都立大A類学
212
5.判例、裁判上の係争事項等
生自治会ホームページのことを知らない者であっても、検索サイトでの検索結
果により本件ホームページにアクセスすることは可能であり、原告らの知人等
がこのような検索をすることも十分にあり得ることであるから公然性を有する。
(イ)原告らの社会的評価の低下について
本件文書は、原告らの実名を挙げた上で、原告らグループが中央新歓グルー
プの学生に暴力を振るい傷害を負わせたため、中央新歓グループの学生が原告
らを交番に連れて行き、原告らを含む8名の学生が交番に収容された旨の記載
があり、本件文書を閲覧した者に対し、原告らが傷害事件という犯罪行為をお
かしたという印象を与えるものであるから、本件文書の記載内容が真実である
かどうかにかかわらず、本件文書の掲載によって原告らの社会的評価は低下し
たものというべきである。
被告らは、原告らは3月10日にも同様な混乱を引き起こしてすでに都立大
学内における原告らの名誉は低下していたから、本件文書の掲載により原告ら
の社会的評価が低下することはないと主張するが、名誉毀損文書の掲載により
原告らの都立大学内における社会的評価も一応低下するものというべきである
し、本件文書が都立大学外者からもインターネットの検索サイトを経由して簡
単にアクセスすることが可能なものであることは前説示のとおりであって、被
告ら主張の事情の有無にかかわらず本件文書は学外の者との関係において原告
らの社会的評価を低下させるものであることは明らかであるから、被告らの右
主張は採用することができない。
被告Dが本件ホームページに本件文書を掲載した行為は、本件文書の記載内
容が真実であるかどうかにかかわらず、原告らの名誉を毀損するという私法上
違法な行為であるというべきであり、被告Dは、右行為により原告らに生じた
損害を賠償すべき義務を負うことになる。
イ.都立大担当職員が本件文書の削除義務を負うかどうか
(ア)本システムにおいては各ホームページに記載された情報については作成
主体が責任を負うが運営委員会は社会通念上許されないと判断した公開情報の
除去を命じることができると定められている。そして、教養部システムにおい
ても、条理上、各ホームページに記載された情報については作成主体が責任を
負うが、情報教育担当教員は社会通念上許されないと判断した公開情報を除去
することができるものと解される。
ところで、大学におけるコンピューターネットワークのように、ネットワー
ク管理者がインターネットで外部に流される個々の情報の内容につき一般的に
指揮命令をする権限を有しない場合においては、情報の内容についてはその作
213
5.判例、裁判上の係争事項等
成主体が責任を負うのが当然のことであるが、それでもなお、ネットワーク管
理者は情報の削除権限を有するとされるのが通常である。管理者が削除権限を
有するのは、社会通念上許されない内容の情報が当該ネットワークから発信さ
れると当該ネットワーク全体の信用を毀損するので、そのような信用の毀損を
防止する必要があるからであり、本システムについていえば、被害者保護のた
めに運営委員会に情報の削除権限が認められているというよりは、本システム
の信用を維持するという都立大構成員全体の利益のために運営委員会に情報の
削除権限が認められているものとされる。 そうすると、社会通念上許されない
内容の公開情報について管理者の削除権限の定めは、社会内に存在する諸団体
がインターネットに接続することのできるコンピュータ・ネットワークを管理
する際の常識的な内容を定めたものであるということができる。
これと同様に、本件の教養部システム内において情報教育担当教員が有する
社会通念上許されない内容の公開情報の削除権限も、被害者保護のために認め
られたものというよりは、教養部システム(ひいては本システム)を維持する
という都立大構成員全体の利益のために認められているものというべきである。
したがって、都立大職員である情報教育担当教員が社会通念上許されない内
容の公開情報の削除権限を有することからただちに情報担当教員が原告らに対
する関係において本件文書の削除義務を負うという結論を導き出すことはでき
ないものというべきである。
なお、社会通念上許されない内容の公開情報を削除すべき権限の行使は情報
教育担当員の合理的裁量に委ねられ、裁量権の逸脱、濫用がない限り、情報教
育担当員の削除権限の行使が教養部システム内部の関係者に対する関係におい
て違法になることはないものというべきである 。
(イ)しかしながら、自ら管理するネットワークからインターネット経由で外
部に情報が流れる場合において、当該情報の流通を原因として外部の者に被害
が生じたときであっても、ネットワーク管理者は常に外部の被害者に対して被
害発生防止義務を負うことがないとまでいうことはできない。管理者の被害発
生防止義務の成否は、事柄の性質に応じて、条理に従い、検討すべきものであ
る。
ところで、インターネットにおける秩序が刑罰法規に触れてはならないとか、
私法秩序に反するものであってはならないとかいうのは、理念としてはそのと
おりである。しかしながら、刑罰法規や私法秩序に反する状態が生じたからと
いって、そのことを知ったネットワークの管理者が被害者との関係において被
害の防止に向けた何らかの措置をとる義務が生じるかどうかは、問題となった
刑罰法規や私法秩序の内容によって異なると考えられ、事柄の性質に応じた検
214
5.判例、裁判上の係争事項等
討が不可欠である。犯罪行為であり私法上も違法な行為であるからといって、
当該情報の存在を知った管理者に一律に当該情報を排除すべき義務を負わせる
のは、事柄の性質によっては無理があるからである。
(ウ)例えば、ネットワークからインターネット経由で外部にコンピュータ・
ウィルスを流す行為がされたり、ほかのコンピュータに不法に侵入してシステ
ムを破壊する行為がされたりした場合には、事柄の性質に照らして管理者は、
当該行為がされたことを確定的な事実として認識した時点において、条理上の
義務として、当該行為を妨げるための措置を可能な限度でとるべき義務が生じ
るものというべきである。このような行為は他人の財産に巨額の損害を与える
蓋然性の高い行為であるとともに様々な装置がコンピュータによる制御に依存
していることが通常となった今日の社会においては、一般人の日常の様々な生
活利益を侵害するおそれの強い行為でもあるから、そのような行為の実行を妨
げる手段を有する者は、社会全体から被害発生防止のための一定の責任を負う
ことが要請されており、私法秩序上も、可能な限度において、被害者に対する
被害発生防止義務を負わせることが条理にかなうからである。
(エ)これに対して、名誉毀損行為は、犯罪行為であり、私法上も違法な行為
ではあるが基本的には被害者と加害者の両名のみが利害関係を有する当事者で
あり、当事者以外の一般人の利益を侵害するおそれも少なく、管理者において
は当該文書が名誉毀損に当たるかどうかの判断も困難なことが多いものである。
このような点を考慮すると加害者でも被害者でもないネットワーク管理者に対
して名誉毀損行為の被害者に被害が発生することを防止すべき私法上の義務を
負わせることは、原則として適当ではないものというべきである。管理者にお
いては、品位のない名誉毀損文書が発信されることによるネットワーク全体の
信用の低下を防止すべき義務をネットワーク内部の構成員に負うことはあって
も、被害者を保護すべき、私法秩序上の職責までは有しないとみるのが社会通
念上相当である(なお、管理者が名誉毀損文書を削除するに当たり被害者の利
益にも配慮した上で削除の決断がされることが通常であろうが、このような削
除権の行使は、いわば被害者に対する道義上の義務の履行にすぎず、これを怠
ると損害賠償義務を負うべき私法秩序上の義務の履行とはいえないと解され
る。)。
そうであるとすれば、ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されてい
ることを現実に発生した事実であると認識した場合においても、その発信を妨
げるべき義務を被害者に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当
すること、加害行為の態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大で
215
5.判例、裁判上の係争事項等
あることなどが一見して明白であるような極めて例外的な場合に限られるもの
というべきである。
(カ)本件行為は、本件文書が名誉穀損に当たるかどうかも加害行為の態様の
悪質性も、被害の甚大性も、いずれもおよそ一見して明白であるとはいえない
ものというべきであるから、都立大担当職員が本件ホームページに本件文書が
掲載されたことを知った時点において、被害者である原告らに対してこれを削
除するための措置をとるべき私法上の義務を負うものとはいえないというべき
である。
なお、抗議文書の到達をきっかけとして都立大当局がリンク停止の措置をと
ったこと及び本件訴訟提起の情報に接した情報教育担当教員が本件文書の掲載
されたページを閉鎖したことは、教養部システム(ひいては本システム)の信
用を維持するという都立大構成員全体のために必要な行為であるとの判断に基
いて行われたものというべきである。原告らは、これらの行為が、都立大担当
者が本件文書が違法な名誉毀損文書であることを知っていたことのあらわれで
あると主張するが、このような行為があったことは、都立大担当職員に原告ら
に対する関係における私法上の義務違反行為があったことを何ら根拠付けるも
のではない。
ウ.被告D主張に係る違法性阻却事由の有無
本件文書の掲載当時、新聞会及びB類学生自治会の正統性等の問題をめぐっ
て、原告らグループと、被告Dらグループとの間で対立があり、互いに相手方
を非難する言動を繰り返し、実力による衝突も起きていたこと、本件文書は対
立の一方当事者とも言うべき立場にある都立大A類学生自治会のホームページ
に掲載されたものであること、本件文書の元となる中央新歓作成の文書は対立
の相手方である原告らのグループの学生からの取材を行わずに自らのグループ
の学生からの取材のみに基づき作成されたものであり、被告Dもこの作成経緯
を知っていたことからすれば、本件文書は、対立当事者の一方からの相手方を
非難する目的の文書の域を出ないものというほかはなく、公益を図る目的で本
件ホームページに掲載されたものとは到底いえないものというべきである。
被告Dは、本件文書の記載の一部により原告らの社会的評価を低下させる結
果が生じたとしても無理からぬ事情が存在することなどから被告Dの行為には
違法性がないとも主張するが、このような事実関係があったとしても本件名誉
毀損行為の違法性が阻却されるものではないから、主張自体理由がない。
以上によれば、本件文書の記載内容が真実であるかどうかについて判断する
までもなく、被告Dが主張する違法性阻却事由があるとはいえない。
216
5.判例、裁判上の係争事項等
エ.損害額並びに本件文書の削除及び謝罪広告掲載の要否
被告Dは、本件文書の掲載行為により原告らに生じた損害を賠償すべき義務
を負うことになる。
本件文書には原告らを侮蔑したり嘲ったりするような表現はなく事実の記載
にとどまるものであること、本件ホームページがインターネットの検索サイト
等を通じて広く学外の一般人にもアクセス可能であるとしても、実際に本件文
書を閲覧した者の数はごくわずかにとどまるものと認められること、本件文書
が掲載されたページは平成10年10月15日に閉鎖されて一般人が本件文書
を閲覧できなくなり実質的に本件文書が削除されたと同様の状態になっている
こと、本件が学生の自治活動家どうしの自治活動の内容をめぐる争いであり、
両者間においては日常的に相手方を非難する立看板やビラ等の応酬がされ、実
力による小競り合いやもみ合い等も生じていたことなどに照らすと、本件文書
の掲載行為によって原告らに生じた損害は比較的軽微なものというべきである。
以上のような点を考慮すると、慰謝料の額は原告一人につきそれぞれ3000
円が相当であり、本件文書の削除及び謝罪広告掲載の必要性は認められないも
のというべきである。
本件訴訟は、簡易裁判所における少額訴訟手続または通常訴訟手続において、
担当の簡易裁判所判事が本件文書を閲読し、双方当事者から本件文書掲載に至
るいきさつを聴取すれば、裁判所としての終局判決をするのに十分な資料を得
ることができ、したがって、本人訴訟で十分対処できる程度のものであるから、
弁護士費用は被告Dの行為と相当因果関係のある損害ということはできない。
原告らの請求は、被告Dに対してそれぞれ金3000円及びこれに対する遅
延損害金の限度で認容される。
217
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.4
ニフティFBOOK事件(一審)
平成13年8月27日東京地裁判決
平成11年(ワ)第2404号損害賠償請求事件
【要旨】ニフティサーブ会員で本と雑誌のフォーラム(FBOOK)に参加し
ていた訴外会員「神名」によりなされた書き込みが、同フォーラムに参加し
ていた会員である原告に対する名誉毀損、プライバシー侵害、嫌がらせの不
法行為であるとし、原告が精神的被害を受けていたにもかかわらず、ニフテ
ィサーブを管理運営している被告ニフティが、同書き込みの監視・削除や、
神名に対する指導・サービス停止・除名、 紛争解決のための個人情報の開
示等適切な措置を執らなかったなどと主張して、被告ニフティに対し、①債
務不履行又は不法行為に基づき、精神的被害に対する損害賠償金200万円
並びに②被控訴人が合理的な理由がないのに神名の契約者情報(氏名及び住
所)を秘匿・隠蔽し、控訴人の名誉権の回復を妨害し、積極的・継続的に名
誉権の侵害行為をしていることに対する人格権に基づく差止請求権及び不
法行為に基づく妨害排除請求権を根拠として、神名の氏名及び住所の情報開
示を求めた事案。東京地裁はいずれの不法行為の成立も認めず、原告の請求
を棄却した。
(本文中の個人名は仮名である)
(1)事案の概要
原告は,被告が「ニフティサーブ」の名称で提供しているパソコン通信サー
ビスの会員に加入し,そのサービスの提供を受けていた者であるが,ニフティ
サーブ上で,①ニフティサーブ会員ID番号QWS*****番(ハンドル名,
神名,以下「神名」という)から「あなたの妄想特急の勢いには,ほとほと感
服いたします。ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。精神的
文盲というものが存在するのではないかと思い始めた今日この頃です」, 「自
称東大卒に至ってはむしろ同情しております」, 「禁治産者って,裁判起こせ
ないんじゃなかったっけ(笑)?,証拠提示なき妄想申立を,果たして裁判所
が受理するか,私も非常に楽しみです(笑)」などと発言されたことにより名
誉穀損及び侮辱の被害を受けた,②神名が,ハンドル名に原告の本名を使用し
たことで,原告はプライバシー侵害及び嫌がらせの被害を受け,ニフティサー
ブを管理運営している被告が,神名の前記各不法行為に対し,適切な措置をと
らなかったために精神的被害を受けたなどと主張して,被告に対し,債務不履
行ないし不法行為に基づき損害賠償請求をしている。また,原告は,被告が,
合理的な理由がないのに神名の契約者情報(氏名及び住所)を隠匿,隠蔽し,
218
5.判例、裁判上の係争事項等
原告の名誉権回復を妨害しているとして,人格権による差止請求権及び不法行
為に基づく妨害排除請求権を根拠に神名の氏名,住所の情報開示を求めている。
他方,被告は,①神名の発言自体,原告に対する不法行為に当たらないとし,
また,②仮に,神名の発言が原告に対する不法行為に当たるとしても,被告は
適切な対応をとっていたから被告には責任がないと反論している。また,神名
の氏名,住所の開示請求に対しては,原告には開示を求める法的根拠がなく,
また,契約者情報は電気通信事業法(以下「電通事業法」という)4条の「通
信の秘密」に当たるから開示できないと主張している。
ア.争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を褐
記する)
(ア) 当事者
a.被告は,パーソナルコンピューター,コンピューター等の装置間の通信
を主体とした一般第二種電気通信事業及び関連情報処理サービス業等を業とす
る株式会社である。被告は,平成11年10月31日まで, 「ニフティサーブ」
の名称でパソコン通信サービスを提供しており,現在も同様のサービスを「ア
ット・ニフティ」の名称で提供している。
b.原告は,平成7年10月3日, 被告との間で, ニフティサーブの会員
(以下,単に「会員」ともいう)の加入契約を締結し,ID番号BYS***
**番として,被告からパソコン通信サービスの提供を受けている者である。
(イ)ニフティサーブの概要 (甲35,36,乙1,弁論の全趣旨)
a.ニフティサーブの仕組み
ニフティサーブは, パソコンなどの情報端末を, 電話回線やインターネット
を使ってホストコンピューターに接続し,会員同士が情報交換したり,ホスト
コンピューター内に蓄えられた情報を引き出したりするコミュニケーション手
段である。
b.ニフティサーブ会員規約(以下「会員規約」という)
ニフティサーブは,電子メール,フォーラム,ステーション,パティオ,イン
ターネット接続その他各種サービスにより構成されており, 会員は, これら
のサービスを, 会員規約に従って利用することができると同時に, 会員規約
を遵守する義務を負う。会員は, 被告に対し, 接続時間に応じて利用料金を
支払う。
c.ハンドル名
ハンドル名とは, ニフティサーブにおいて, 会員が自己を表示するために用
いる呼称をいう。ハンドル名は, 原則として漢字で8文字以内という字数のほ
219
5.判例、裁判上の係争事項等
かには特に制限がない。また, 会員は, ハンドル名を使用しないで, 本名を
用いることもできる。
d.フォーラム
フォーラムとは,同じ趣味や共通のテーマを持つ会員同士が集まり,議論を行
ったり,情報を交換したりする場のことをいい,会員のサークル的なエリアで
あり,特定のテーマごとに設置される。フォーラムの中心となるのが「電子会
議室」で,フォーラムへの入会が認められた会員であれば自由に発言でき,そ
の発言内容は,原則として会員に対し公開される。フォーラムにおける発言は,
発言者を特定,表示するために,発言内容の冒頭に会員番号とハンドル名が表
示される。
本と雑誌フォーラム(以下「本件フォーラム」という)は,①本と雑誌リーダ
ーズフオーラム,②本と雑誌フォーラム談話室,③本と雑誌クリエイターズフ
オーラム(以下「FBOOKC」という),④ライティングフォーラム,⑤大
人の本と雑誌フォーラム(以下「FBOOKA」という)により構成されてい
るフォーラムである。
FBOOKAにおいては成人向けの本や雑誌に関する話題が,FBOOKCに
おいては出版メディアを創作の舞台とするクリエイター達の議論の場を目的と
して,意見や情報の交換,作家や編集者の育成,サポート等を行っている。
フォーラムの運営,管理は,フォーラムマネージャー(SYSOP,以下「シ
スオペ」という)によって行われる。本件フォーラムのシスオペは,訴外○○
○○(以下「訴外G」という)であった。
e.パティオ
パティオとは,親しい会員が議論や情報交換を行う仮想的会議室である。
会員は,パスワードを入力するか,入会承認を得れば自由に発言内容を閲覧す
ることができる。
(ウ)本件訴訟提起に至るまでの事実経過の概要(甲5の1ないし15,同6
の1ないし4,同13の1及び2,同29,37,乙6,9の1ないし3,同
10の1ないし3,同11,12,原告本人)
a. 原告は,平成9年9月ころから,主に「A〜E」のハンドル名で,本
件 フォーラムに参加し,意見を述べるようになった。
b.ニフティサーブ会員ID番号QWS*****番(ハンドル名,神名)
も,本件フォーラムで,意見を述べていた。
c.原告は,平成10年3月21日,ハンドル名「千砂」に対し,別表1符
号3記載のとおり,神名の発言(別表1符号2)が,自分に対する個人的侮辱
であるとの発言をした。この原告発言を端緒として,原告と神名との間で,概
220
5.判例、裁判上の係争事項等
要,別表1記載のとおりの発言が繰り返された。これらの発言は,本件フォー
ラムの会議室及びパティオで行われており,原則として,原告と神名以外の第
三者も閲覧することが可能であった。
d.神名は,平成10年6月20日,本件フォーラムで,別表2符号1記載
のとおり,「神名ななこ」というハンドル名を使用した。
e.神名は,平成10年12月11日午後4時1分ころ,別表2符号2記載
のとおり, 「神名奈那子」というハンドル名を使用した。これに対し,原告は,
平成10年12月14日,被告に対し, 「神名奈那子」のハンドル名での発言
を中止させること及び神名とハンドル名「阿蘇慧」 (会員番号QWN****
*)が同一人物ではないことの確認等を求めた。これに対し,被告は,平成1
0年12月18日,原告に対し, 調査の結果,「奈那子」というハンドル名で
の発言は見当たらないこと,神名と阿蘇慧が同一人物であるかについては,個
人情報であるから開示することはできないと伝えた。
f.原告は,平成10年12月18日及び同月20日,被告に対し,神名と
阿蘇慧が同一人物でないことの保証及び神名の除名処分を求め,同月24日に
は,神名と阿蘇慧が同一人物でないことの保証及び神名を除名処分にすること,
被告が原告の要求を拒否した場合には提訴することを内容とする内容証明郵便
を送った。これに対し,被告は,平成10年12月29日,原告に対し,個人
情報の開示はできない旨回答した。
g.神名は,平成11年1月26日から同年7月23日にかけて,別表2符
号3ないし28記載のとおり, 「神名奈菜子」のハンドル名を使用した。この
間,原告は,平成11年1月26日, FBOOKC会議室で,本件フォーラムの
スタッフに対し,ハンドル名を「A〜E」から本名である「甲山奈那子」に変
更し, 「神名奈菜子」のハンドル名で発言した神名発言の保留を求めた。
ク 原告は,平成11年2月3日,被告に対し,神名の除名処分,個人情報開
示等を求める本件訴訟を提起した。
(2) 争点とポイント
ア.神名の行為は,原告への名誉段損,侮辱,プライバシー侵害,嫌がらせ
に当たり,原告に対する不法行為が成立するか。
イ.被告は,原告に対し,債務不履行責任ないし不法行為責任を負うか。
ウ.原告は,被告に対し,神名の個人情報について開示を求めることができ
るか。また,被告が,原告に対し,神名の個人情報について開示を拒絶する
ことは正当か。
エ.被告の行為により原告は損害を被ったか。仮に損害を被った場合,その
損害額は幾らか。
221
5.判例、裁判上の係争事項等
ア.神名の行為は,原告への名誉段損,侮辱,プライバシー侵害,嫌がらせに
当たり,原告に対する不法行為が成立するか。
【原告の主張】
a. 名誉毀損及び侮辱について
(a) 神名は,平成10年3月21日,FBOOKCにおいて,原告に対し,
別表1符号4記載のとおり,「やれやれ,妄想系ばっかりかい,この会議室
(笑)?」と発言した(以下「本件発言1」という)。
本件発言1は,これを読む者に,原告があたかも,被害妄想をもって神名を弾
劾しているとの印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当た
る。
(b) 神名は,平成10年3月29日,FBOOKCにおいて,原告に対
し,別表1符号13記載のとおり, 「最低でも妄想電波混じりの虚偽の発言だ
けでもお控え下されば幸いです。 」と発言した(以下「本件発言2」という)。
本件発言2は, これを読む者に, 原告の発言が虚偽で妄想に満ちているとの
印象を与えるもので,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(c)神名は,平成10年12月9日,FBOOKAにおいて,原告に対し,
別表1符号19記載のとおり, 「あなたの妄想特急の勢いには, ほとほと感
服いたします。 ご病状が悪化しているのでなければよろしいのですが。 精神
的文盲というものが存在するのではないかと思い始めた今日この頃です。 レス
にしろ辞書にしろ, きちんと字が読めてますか,A〜Eさん?」 との発言を
した(以下「本件発言3」という)。
本件発言3は, これを読む者に, 原告の反論が的外れであり,その原因が原
告の精神的障害に基づくものであるとの印象を与えるもので, 原告に対する名
誉毀損ないし侮辱に当たる。
(d)神名は,平成10年12月9日, FBOOKAにおいて, 原告に対
し,別表1符号20記載のとおり, 「日本語さえまともに綴れない・読めない
『自称東大卒』 に至っては,むしろ同情すらしております(自称・病気だそう
だからしかたないんだろうけど。 他の本物の東大卒に対して名誉毀損だよ
な)。」 との発言をした(以下「本件発言4」という)。
本件発言4は, これを読む者に, 原告が自己の学歴を偽っておりいるとの印
象を与えるもので, また, 原告の主張及びその発言内容が日本語として体を
なしていないとの発言により,原告は侮辱された。 よって,本件発言4は,原
告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(e) 神名は, 平成10年12月4日, バトルウオッチャーパティオにお
いて,別表1符号22記載のとおり, 「電波直撃」との題で発言した(以下「本
件発言5」という)。
222
5.判例、裁判上の係争事項等
本件発言5は, これを読む者に, 原告が虚言を用いて神名を糾弾していると
の印象を与えるもので, 原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(f)神名は, 平成10年12月4日, バトルウオッチャーパティオにおい
て,別表1符号23記載のとおり, 「電波障害(爆)がそちらに行っちゃいま
したか」との発言をした(以下 「本件発言6」という)。
本件発言6は, これを読む者に対し, 原告の発言が根拠のない誤った妄想で
あるとの印象を与えるもので, 原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
(g)神名は, 平成11年2月12日, 原告パティオにおいて,別表1符号
26記載のとおり,「禁治産者って裁判起こせないんじゃなかったっけ(笑)?」,
「証拠提示なき妄想申立を,果たして裁判所が受理するか,私も非常に楽しみ
です。 」 との発言をした(以下「本件発言7」という)。
本件発言7は, これを読む者に, 原告が禁治産者であるとの虚偽の事実を摘
示し, また, 原告の申立てが妄想に基づくものであるとの印象を与えるもの
で,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たる。
b.プライバシー侵害及び嫌がらせについて
(a)神名は, ハンドル名を「神名ななこ」, 「神名奈那子」, 「神名奈
菜子」として, 本件フォーラム及びパティオで発言することにより, ハンド
ル名「A〜E」が原告であり, その本名が甲山奈那子(若しくは奈菜子)であ
るとの事実を公開した。 原告の本名は個人情報であり, 情報をコントロール
する権利は原告にある。 神名は, 敢えて原告の本名をハンドル名に使用する
ことで, 原告の情報コントロール権を侵害した。
原告は, パソコン通信における公開発言の場では一切本名を使用することはな
かった。 神名は, 原告に対し,本名を含む原告のプライバシーを掌握してお
り,それらをいつでも公開できると誇示して, 精神的障害を持つ原告に大変な
苦痛を与えた。 更に, 神名の行為は,「A〜E」が原告であることを知って
いる本件フォーラムのメンバーに対して, 神名と原告は同一人物であるとの混
同を引き起こしてもいる。
(b) 以上によれば, 神名の各行為は原告に対するプライバシー侵害及び
嫌がらせ行為に当たり, 神名は原告に対し不法行為責任を負う。
c.被告の主張に対する反論
他人のプライバシーや名誉などの権利を侵害することは許されず, 表現行為
が不法行為に当たるかについては, 個別具体的な表現行為が違法性を有するか
について検討すべきである。
神名は, 議論の流れの中で自己の主張を基礎づけるために,合理的な理由及
223
5.判例、裁判上の係争事項等
び必要性があって原告の名誉を毀損し,プライバシーを侵害したのではない。
敢えて原告に対する激烈な表現を使用し,原告を必要以上に揶揄したり,極め
て侮辱的な表現を繰り返し行うなど,その内容はいずれも原告に対する個人攻
撃に終始しており,その違法性の程度は強いものがある。
【被告の主張】
a. 名誉毀損及び侮辱について
(a)原告は,神名が原告に対してした発言の一部分を取り上げ,名誉毀損
ないしプライバシー権侵害であると主張する。しかし,原告が,取り上げた神
名の原告に対する発言は,原告と神名とのやりとりのうち,神名の発言を一方
的に取り上げたものにすぎない。
(b) 原告と神名とのやりとり全体及びその流れを総合的に検討した場合,
原告及び神名の各発言は, 飽くまで原告と神名の言い争いの域を出るものでは
なく, 本件フォーラム及びパティオではありがちな発言と判断できる程度のも
のであった。
(c)以上のとおり,神名の各発言は,原告に対する名誉毀損ないし侮辱行
為と評価されるものではない。
b.プライバシー侵害及び嫌がらせについて
(a)神名が, ハンドル名として用いた 「神名ななこ」, 「神名奈那子」,
「神名奈菜子」 は, 原告の本名である「甲山奈那子」とは異なるし,「奈那
子」 の名称が一般に非公知性のある名称であるか否か不明である。
そもそも, 原告が, 平成11年1月26日,「奈那子」が自分の本名であること
を公表しなければ, その事実さえ第三者には全く不明であった。
(b) 神名は, 自らが使用した各ハンドル名が,原告の本名である「甲山
奈那子」と同一である旨の発言,混同を招く発言,原告の本名を暴露する発言
などは一切していない。 また,神名が,原告の本名を何らかの手段で知り,原
告に対する嫌がらせの目的で前記(ア)の各ハンドル名を使用したと認めるに足
りる根拠もない。
(c)以上のとおり,神名が,本件フォーラム及びパティオにおいて,「神
名ななこ」 , 「神名奈那子」, 「神名奈菜子」 のハンドル名を使用したこ
とは, 何ら,原告のプライバシー権侵害行為及び嫌がらせ行為には当たらない。
イ.被告は,原告に対し,債務不履行責任ないし不法行為責任を負うか。
【原告の主張】
電通事業法1条が同法の目的として「利用者の利益の保護」を挙げているこ
224
5.判例、裁判上の係争事項等
と,ニフティサーブ上で被害を受けた会員を保護することができる立場にある
のは被告のみであること,被告は会員に対して有償で各種サービスを提供して
いること等に照らすと,被告は,会員が,ニフティサーブの利用により犯罪あ
るいは不法行為の被害に遭遇しないように配慮し,損害の発生を未然に防止し,
損害発生を防止できない場合には損害を最小限にくい止め,被害回復のために
必要不可欠な措置を採るべき契約上の安全配慮義務を負っている。
具体的には,被告は,会員の名誉やプライバシーを侵害する書き込みがない
かを常時監視し,このような書き込みがされた場合にはこれを削除し,会員の
損害を最小限度に押さえるべき義務を負っている。更に,被告は,不法な発言
をした会員に対し,適切な指導をし,必要があれば,サービスの利用停止,除
名などの処分をとり,被害者が加害者との直接的な紛争の解決を望む場合には,
加害者の個人情報を開示するなどして紛争の解決に協力する義務を負っている。
しかるに,本件では,被告は,原告の再三の申出にもかかわらず,これらの義
務を怠っている。よって,被告は,原告に対し,債務不履行又は不法行為に基
づき責任を負う。
【被告の主張】
a.安全配慮義務に対し
被告の通信サービスに関する会員契約においては, 被告は,原告が主張する
ような安全配慮義務を負っていない。のみならず,そもそも本件では,神名の
発言は, 原告に対する名誉毀損に当たらないから, 安全配慮義務自体が問題
とならない。 また,健常人は,精神障害者に対し, 精神的損害を被らせない
よう配慮する義務があるという前提自体, 法的には無理な主張である。
b.注意義務違反に対し
(a)被告の調査によれば, ①原告が主張する神名の発言については, 原
告と神名の言い争いのようなものであり, 原告の神名に対する発言の中にも刺
激的な内容が含まれていること, ②シスオペの措置により, 原告と神名との
間のトラブルは, 一般参加者が閲覧することのできない特別会議室に移行させ
ていること, ③シスオペの措置により, 自主的に神名による「奈那子」とい
うハンドル名の使用が止められていること, ④神名が原告に対する嫌がらせ目
的で「奈那子」 のハンドル名を使用したとは確認できないことがそれぞれ判
明した。
(b) 原告の被告に対する要求は, 神名の個人情報開示及び除名処分であ
るところ, かかる要求は何ら法的根拠のない不合理な要求にすぎない。 よっ
て, 被告は,原告の前記要求に応じるべき義務はなく, 応じなかったことに
225
5.判例、裁判上の係争事項等
つき責任がない。
(c)また, 訴外Aは, 本件フォーラムのシスオペとして,神名の発言に
対して適切に対処しており, 原告に対しても, 親身な対応をとっており,被
告には責任はない。
ウ. 原告は,被告に対し,神名の個人情報について開示を求めることができ
るか。また,被告が,原告に対し,神名の個人情報について開示を拒絶するこ
とは正当か。
【原告の主張】
a. 情報開示請求の法的根拠について
(a)名誉権は, その性質上, 一旦侵害されると,侵害者による謝罪広告
等がない限り,十分には回復せず,侵害された状態が継続する。 本件でも,神
名による謝罪広告等をまたない限り, 侵害された原告の名誉権は回復しない。
他方, 本件のようなパソコン通信上での名誉毀損事件の特質として, プロバ
イダーである被告による加害者の情報開示がなければ, 被害者が, 加害者に
謝罪を求めることは絶対に不可能であり, 被害者の名誉権回復の機会は完全に
失われる。
(b) よって, 被告が,原告の名誉権が侵害されたことを知りながら, 合
理的理由なく, 神名の契約者情報を秘匿,隠蔽し続けることは,原告の名誉権
に対する積極的,継続的な侵害行為に当たり,このような場合, 原告は, 被
告に対し,侵害行為に対する人格権に基づく差止請求権あるいは不法行為に基
づく妨害排除請求権を根拠に, 神名の契約者情報の開示を請求することができ
ると解すべきである。
b.通信の秘密に関する被告の主張に対する反論
ID番号*****番という会員番号と契約者名等との結びつきは, 単なる
顧客情報であるにすぎない。 また, 会員規則12条には,会員がニフティサ
ーブのサービス提供を受けるに当たり, 損害を被っても, 被告は免責される
との規定があるから, 被告は, 神名の個人情報を開示しても会員に対し何ら
責任を負わない。
以上によれば, 電通事業法4条の通信の秘密における守秘義務を根拠に神名の
個人情報開示を拒否する被告の主張には理由がない。
【被告の主張】
a. 情報開示請求の法的根拠について
不法行為に基づく妨害排除請求を根拠に契約者情報開示請求が可能であると
226
5.判例、裁判上の係争事項等
は解されない。 また, 人格権侵害に基づく請求は,人格権侵害状態を除去又
は予防して侵害前の状態に回復し, 又は現状を維持することがその内容であり,
回復を維持する前提としての請求はその内容に含まれていないところ, 原告の
情報開示請求は回復を維持する前提としての請求であり,理由がない。
b.情報開示拒否の正当性について
(a)通信サービスを提供している被告は,電通事業法の適用を受け,電気
通信事業者として, その取扱中に係る通信の秘密を犯してはならない法律上
の義務を負っている(電通事業法4条)。
(b) 電通事業法4条にいう通信の秘密とは, 通信内容にとどまらず,通
信当事者の住所, 氏名, 発信場所等の通信の構成要素や通信回数等の通信事
実の有無を含んでいる。
(c)原告が開示を求めている神名の氏名, 住所に関する情報は, 通信の
構成要素であるから通信の秘密に該当する。 よって, 被告は,電通事業法4
条に照らし, 神名に関する情報開示を拒否するについて正当な理由を有してい
る。
エ.被告の行為により原告は損害を被ったか。仮に損害を被った場合,その損
害額は幾らか。
【原告の主張】
a.原告は,被告が神名による不法行為を放置し,神名の契約者情報を開示
せず,神名に対する権利行使を妨害したために,深刻な精神的苦痛を被った。
また,原告は,本件訴訟提起後の被告による不誠実な対応により,更に精神的
苦痛を被った。
b.原告は, 医師から情緒不安定性人格障害(境界型)の診断を受けており,
他人から被る名誉毀損行為やプライバシー権の侵害行為に対して通常人よりも
傷つき易く,被告の行為により,甚大な精神的損害を被った。
c.したがって,原告は,被告に対し,不法行為に基づく慰謝料請求権を有
する。原告の苦痛を金銭に換算することは困難であるが,強いて換算すると,
原告の精神的損害は200万円を下らず,原告は,本件訴訟ではそのうち90
万円及び弁護士費用10万円の合計100万円を請求する。
【被告の主張】
争う。
本件では,そもそも,神名の各発言が不法行為に該当しない。よって,原告
227
5.判例、裁判上の係争事項等
が神名の各発言により極度の精神的失調に陥ったとしても, それは,原告によ
る一方的かつ極端な思いこみによるものにすぎず,損害の発生自体認められな
い。
(3)判決の内容等
原告は,神名の各行為が,原告に対する不法行為に当たることを前提に,被
告に対し,損害賠償及び神名の個人情報開示を求めている。そこで,まず,神
名の各行為が,原告に対する不法行為に当たるか(争点(1))につき検討するこ
とにする。
(ア)名誉毀損ないし侮辱を理由とする不法行為の成否について
a. パソコン通信上の表現行為の特性
(a)神名の本件発言1ないし7(以下「本件各発言」という)は,いずれ
も被告が提供するパソコン通信サービス上の本件フォーラム会議室又はパティ
オで行われている。
(b) パソコン通信上の表現行為が,人の名誉ないし名誉感情を毀損したと
認められるような場合には,表現行為者は,対象者に対し,不法行為に基づく
責任を負うと解するのが相当である。
しかし, 証拠(甲35,36)及び弁論の全趣旨によれば,①本件各発言が行
われたフォーラムやパティオは, 同じ趣味や共通のテーマに関心を持つ会員が
集まり,議論を行ったり,情報を交換したりする場所であること,②フォーラ
ムやパティオに書き込まれる発言は,一般に,フォーラムやパティオの会員等
特定の人に限り理解することが可能な表現が多く用いられ,当該フォーラム,
パティオに書き込まれた過去の発言を前提にしていることも少なくないから,
不特定多数の第三者が,フォーラムやパティオでの発言内容を即時に把握する
ことは容易ではないことが認められる。
したがって,フォーラムやパティオに書き込まれた発言が人の名誉ないし名
誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっては,問題の発言がされた前後の
文脈等に照らして,発言内容が不特定多数の第三者に理解可能か否か,当該発
言内容が真実と受け取られるおそれがあるか否かを判断の基礎とする必要があ
る。
(c)加えて,言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが表現
の自由(憲法21条1項)の基本原理であるから,被害者が,加害者に対し,
十分な反論を行い,それが功を奏した場合は,被害者の社会的評価は低下して
いないと評価することが可能であるから,このような場合にも,一部の表現を
殊更取り出して表現者に対し不法行為責任を認めることは,表現の自由を萎縮
228
5.判例、裁判上の係争事項等
させるおそれがあり,相当とはいえない。
(d)これを本件各発言がされたパソコン通信についてみるに,フォーラム,
パティオヘの参加を許された会員であれば,自由に発言することが可能である
から,被害者が,加害者に対し,必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体
であると認められる。したがって,被害者の反論が十分な効果を挙げていると
みられるような場合には,社会的評価が低下する危険性が認められず,名誉な
いし名誉感情毀損は成立しないと解するのが相当である。
また,被害者が,加害者に対し,相当性を欠く発言をし,それに誘発される
形で,加害者が,被害者に対し,問題となる発言をしたような場合には,その
発言が,対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り,違法性を欠
くこともあるというべきである。
(e)以上のようなパソコン通信上の表現行為の特性に照らすと,パソコン
通信上の発言が人の名誉ないし名誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっ
ては,発言内容の具体的吟味とともに,当該発言がされた経緯,前後の文脈,
被害者からの反論をも併せ考慮した上で,パソコン通信に参加している一般の
読者を基準として,当該発言が,人の社会的評価を低下させる危険性を有する
か否か,対抗言論として違法性が阻却されるか否かを検討すべきである。
そこで以下,このような観点から,本件各発言が原告に対する名誉毀損ない
し侮辱行為に当たるかにつき検討する。
b.本件各発言の検討
(a)本件発言1について
(ⅰ)別表1符号4記載のとおり,神名は,本件発言1で,会議室が妄想
系の人物ばかりであると指摘していること,前記指摘の直前で,原告について,
少々自意識過剰であるとも発言しているから,妄想系の人物の中には,原告も
含まれていると理解することができる。よって,本件発言1の内容それ自体は,
原告に対する侮辱的な表現であると認めることができる。
(ⅱ)しかし,前記争いのない事実等及び証拠(甲3の1, 甲37) 並び
に弁論の全趣旨によれば,本件発言1は,原告が,神名の発言(別表1符号2
ほか)を原告に対する個人的侮辱だと指摘したこと(別表1符号3)を契機に
発言されたものだと認められるところ,問題とされた神名発言は,原告に対す
る発言ではなく,その内容も原告を個人的に侮辱する表現とは認められない。
したがって,神名が,原告の前記指摘に対し,少々自意識過剰であるとし,そ
れにカロえて,妄想系であると発言したことも許容される表現であると認めるの
が相当である。
(ⅲ)更に,証拠(乙10の1)によれば,原告は,本件発言1の後に,本
229
5.判例、裁判上の係争事項等
件フォーラムで, 「もう一つ,ここに許されざる形の妄想がある。それは神名
さん,貴方ご自身の妄想です」, 「徹底的に相手を貶めた心象を一応,公式の
場で披露する,貴方の精神の脱ぎっぷりには脱帽します。ここまで書けば,反
感を買うなんてもんではなく,言った当人の精神構造が異常だと確信させてし
まうものだからです」, 「神名さんの底知れぬ悪意に反吐が出ます」と発言し
ており (別表1符号5),これらの発言内容は,本件発言1に対抗する言論と
して必要かつ十分なものであり,本件発言1の直後に行われているから,本件
発言1により原告の社会的評価が低下する危険性は消滅したと認めるのが相当
である。
(ⅳ)以上によれば,本件発言1は,原告に対する名誉毀損及び侮辱に当
たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在し
ない。
(b)本件発言2について
(ⅰ)別表1符号13記載のとおり,本件発言2は,原告の本件フォーラ
ムでの発言が,妄想電波混じりの虚偽の発言であると指摘し,原告に対し,発
言を控えるよう求めるという内容であり,本件発言2自体は,原告に対する侮
辱的表現であると認められる。
(ⅱ)しかし,前記争いのない事実及び証拠(乙10の3)並びに弁論の全
趣旨によれば, 本件発言2は,「私が神名さんを暗に異常扱いしているのは,
これは別物です。 この人を私が,ネット犯罪者予備軍だと考えているからで
す。」, 「阿蘇さんという, 明らかなネット犯罪者がかつてこのフォーラム
にいました。その人と同じ行動ばかり取る,神名さんは『ネット犯罪者予備軍』
言えてしまう。 だから, 『異常だ』とかほのめかしているだけです。 」, 「ち
なみにこういう書き込みをしている私自身も,ネット犯罪者と断定されてもし
かたがないですね。」, 「神名さんや阿○さんもどきの人がが出てくると, ま
た出てくるかも」という原告発言(別表1符号12)に対するコメントであり,
原告の発言がその契機になっていることが認められる。
(ⅲ)そして,原告の前記bの発言が,神名について, 「ネット犯罪者予
備軍」であるというように過激な指摘をしているのに対し,本件発言2は,妄
想電波混じりの虚偽の発言であると反論するにとどまっているから原告の発言
に対抗する正当な言論の行使として許された表現行為の範囲内であると解する
のが相当であり,違法性が阻却されていると認めるのが相当である。
また,本件発言2と原告の前記発言をみたパソコン通信に参加している一般の
読者は,原告と神名が本件フォーラム上で論争しており,本件発言2は,その
一環として発言されていると理解するものと推認することができるから,本件
発言2の内容が真実であるとは考えず,本件発言2によって原告の社会的評価
230
5.判例、裁判上の係争事項等
は低下しないと解される。
(ⅳ)加えて,本件発言2に対する原告のコメント(別表1符号14)は,
やおい小説(主に女性が読むための男性同士の恋愛を扱った小説)に対する神
名の個人的回答を求める内容に終始しており,原告自身,当時は,本件発言2
について,さほど問題にする意思はなかったことが推認できる。
(ⅴ)以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言2は,原告に
対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を
左右するに足りる証拠は存在しない。
(c)本件発言3について
(ⅰ)別紙1符号19記載のとおり,本件発言3は,原告を精神的文盲で
あると指摘し,原告に対し,文字が読めているか確認する内容であるから,本
件発言3それ自体は,原告に対する侮辱的表現であると認められる。
(ⅱ)しかし, 前記争いのない事実等及び証拠(乙11)並びに弁論の全
趣旨によれば,本件発言3は, 「他人の肩書きをあげつらっておいて,自分は
何者なのか一切話せない人の言うことは信用しても無駄だけど。悔しかったら
言えるもんならちゃんと言ってご覧なさい。 『神名さん=帰国子女でよく日本
語を知らない主婦』に一票」との原告の発言(別表1符号17)に対するコメン
トであり, 原告の前記挑発的な発言に対する反論としては相当な言論行使の範
囲内であると認められるから,違法性が阻却されているというべきである。
(ⅲ)更に,証拠(乙11)によれば,原告は,本件発言3に対して, 「ち
ょっと留守にするといい加減なことばかりほざいて,大変な人だな」とコメン
トするなど(別表1符号21)していることが認められ, 必要かつ十分な反論を
しており,本件発言3により,原告の社会的評価は低下していないと解するの
が相当である。
(ⅳ)以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言3は,原告に
対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を
左右するに足りる証拠は存在しない。
(d)本件発言4について
(ⅰ)別表1符号20記載のとおり,本件発言4は,原告を日本語すらまと
もに綴ることも読むこともできない同情に値する人物であり,自称東大卒とい
うが他の東大卒に対して名誉毀損であると指摘しており,本件発言4それ自体
は,原告に対する侮辱的な表現であると認められる。
(ⅱ)しかし,前記争いのない事実等及び証拠(乙11)並びに弁論の全
趣旨によれば,本件発言4は,前記(ウ)bの原告発言(別表1符号17)に対す
るコメントであり,原告の発言自体,神名に対して日本語をよく知らない主婦
であると指摘するなど侮辱的な表現が用いられていること,本件発言4の直前
231
5.判例、裁判上の係争事項等
に,原告は,神名が原告の間違いを指摘したことに関し, 「『小中学校で児童・
生徒の苛めの対象となっている憂さをネットで晴らす,変態的国語教師』みた
いで私は嫌ですね。そういう変態よりは,きっぱり個人の趣味として社会的責
任をもった上で,SMやったり全員合意の上でスワッピングでもしている方々
の方が,変態度は遙かに低いと私は思います(^^)v。ところで,他人の経歴肩書
きをあげつらうだけあげつらう神名さん,貴方のご職業は名乗れないような恥
ずかしいものなんだね(^^)v。だから言えないんだよね。言える人に焼き餅を焼
くんだよね。神名さんてかわいそう(;̲;)」と発言しており(別表1符号18),
その発言内容は過激かつ神名に対する著しい侮辱表現であると認められる。本
件発言4は,この原告発言に対する対抗言論として発言されているものと推認
することができ,原告発言が著しい侮辱発言である以上,ある程度,神名の原
告に対する表現が過激になっても許されると解され,本件発言4の内容は,許
容された範囲内の表現であるから違法性が阻却されていると解するのが相当で
ある。
(ⅲ)また,原告は,前記(ウ)認定のとおり,本件発言4の後,「ちょっ
と留守にするといい加減なことばかりほざいて,大変な人だな」 (別表1符号
21)という発言をしており,必要かつ十分な反論をしていると認められる。
(ⅳ)以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,原告は本件発言4に対
し必要かつ十分な反論をしており,本件発言4は,原告に対する名誉毀損ない
し侮辱に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証
拠は存在しない。
(e)本件発言5,6について
(ⅰ)原告は,本件発言5,6に関し,読む者に,原告が虚言を用いて神
名を糾弾しているとの誤った印象を与えるものであると主張する。しかし,別
表1符号22,23記載のとおり,本件発言5,6には,抗議をしているのは
原告であるとは明示されていないし,その前後の文脈をみても,本件発言5,
6が,原告に対するコメントであることが明らかだとはいえない。よって,本
件発言5,6により,原告の社会的評価が低下するおそれがあるとは認められ
ない。
もっとも,原告と神名が本件フォーラムにおいて,論争していることを知る
者には, 「電波直撃」, 「電波障害」という表現が,原告を意識して発言さ
れていることは理解可能だと思われる。しかし,前記(ア)ないし(エ)で認定した
とおり,神名の各発言に対し,原告は,必要かつ十分な反論をしており,本件
発言5,6により,原告の社会的評価が低下するおそれがあるとは認められな
い。
232
5.判例、裁判上の係争事項等
(ⅱ)以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言5,6は,原
告に対する名誉毀損ないし侮辱には当たらないと認めるのが相当であり,この
判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(f)本件発言7について
(ⅰ)別表1符号26記載のとおり,本件発言7は,原告を禁治産者である
とし,禁治産者は裁判を起こせないのではないかと指摘している。また,原告
が起こそうとしている裁判は妄想による申立てであると指摘しており,本件発
言7の表現それ自体は,原告に対する侮辱的な表現に当たると認められる。
(ⅱ)しかし,証拠(乙12)によれば,本件発言7は,神名を「悪質ネ
ットワーカー」と指摘した原告の発言(別表1符号25)を契機として行われ
たものであることが認められ,また,原告は,前記(ア)ないし(オ)認定のとおり,
神名に対し,必要かつ十分な反論をしてきていることをも考慮すると,原告の
社会的評価は,本件発言7により,低下する危険性はないと認めるのが相当で
ある。加えて, 証拠(乙12)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件発言7
に対し, 「イエローカード1枚目(^^;),イエローカード制ですが当然2枚で
退場です。」と発言していること(別表1符号27)からも推認できるように,
本件発言7がされた当時は,殊更,この発言内容を問題にする意思はなかった
ことが認められ,本件発言7は,不法行為と認めるまでの違法性はないと解す
るのが相当である。
(ⅲ)以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言7は,原告に
対する名誉毀損ないし侮辱には当たらないと認めるのが相当であり,この判断
を左右するに足りる証拠は存在しない。
(イ)プライバシー侵害あるいは嫌がらせを理由とする不法行為の成否につい
て
a. プライバシー侵害について
(a)プライバシー侵害による不法行為が成立するためには,公表された事
柄が,①私生活上の事柄又はそのように受け取られるおそれのある事柄である
こと,②一般人の感受性を基準にして公開を欲しないと認められる事柄である
こと,③一般人に未だ知られていない事柄であること,さらには,④公表され
た事柄をみた一般人が,特定の人物を指していると認識できることが必要であ
る。そこで以下,このような観点から,神名の発言が,原告のプライバシーを
侵害したか否かにつき検討する。
(b) 前記争いのない事実等及び証拠(甲4の1ないし27,同29,30,
37,原告本人)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
233
5.判例、裁判上の係争事項等
(ⅰ)原告は,青森家庭裁判所八戸支部に対し,名を「奈々子」から「奈
那子」に変更する許可を申し立て,平成8年9月5日,許可された。
(ⅱ)神名は,別表2のとおり,平成10年6月20日に「神名ななこ」
のハンドル名で,同年12月11日に「神名奈那子」のハンドル名で,同11年1
月26日から同年7月23日にかけて「神名奈菜子」のハンドル名で発言した.
(ⅲ)原告は,平成11年1月26日,FBOOKCの会議室で,本件フ
ォーラムのスタッフに対し,ハンドル名を「A〜E」から本名である「甲山奈
那子」に変更し, 「神名奈菜子」のハンドル名を用いた神名発言の保留を求め
た。
(c)以上の認定事実及び弁論の全趣旨をもとに,本件を検討してみるに,
①「神名ななこ」, 「神名奈那子」, 「神名奈菜子」というハンドル名をみ
たパソコン通信に参加している一般の読者は,当該各ハンドル名が,実在する
特定の人物の名前を指しているとは考えないであろうこと,② 神名が用いた各
ハンドル名は,原告の本名と完全に−致せず,一般の読者の感受性を基準にす
ると,公開を欲しない事柄とはいえないこと,③ 原告は,神名が各ハンドル名
を使用する以前に,ハンドル名「阿蘇慧」,「うちださん」, 「安達B」等不
特定多数の人物に対し,本名でメールを送り(乙12), また, 公開のフォー
ラム上で周囲に原告自身の学歴が判明する議論をしており(甲5の1), 原告
自身,パソコン通信上で匿名が維持されることを必要不可欠の要件として希望
していたというには疑問が残ること, ④原告の本名が非常に稀で,「ななこ」,
「奈那子」,「奈菜子」と指摘すれば,原告と面識のない第三者も原告を指し
ていると認識することは困難であること, ⑤神名が,パソコン通信上で,原告
あるいは 「A〜E」 のハンドル名を使用している人物と 「奈那子」 , 「奈
菜子」,「ななこ」を結びつけるような発言をしたり, 原告の他のプライバシ
ーを暴露したことを認めるに足りる証拠はないことがそれぞれ認められる。そ
うだとすると,神名の行為は,原告のプライバシーを侵害したとは認められず,
この点に関する原告の主張は理由がないということになる。
b.嫌がらせ行為について
(a)次に,神名の行為が,原告に対する嫌がらせに当たるか否かについて
検討する。
証拠(甲4の1,同29,37,原告本人)及び弁論の全趣旨によれば,神
名が, 「神名ななこ」というハンドル名を初めて使用したのは,原告と本件フ
ォーラム上で論争を始めた後であることが認められるから,神名が,原告の本
名を知った上で,原告の本名に類似したハンドル名を使用した可能性自体は否
定できない。しかし,前記a.認定のとおり,神名が使用した各ハンドル名は,
234
5.判例、裁判上の係争事項等
原告個人を特定するような内容とは認められないし,一般読者の感受性を基準
とした場合,神名の行為をもって不法行為を構成するほどの権利侵害があった
と認めることは困難というほかない。
(b) 以上によれば,神名の行為が原告に対する嫌がらせに当たることを理
由とする原告の主張は理由がないということになる。
(4)結論
以上によれば,本件における神名の各発言は,原告に対する名誉毀損,侮辱,
プライバシー侵害,嫌がらせのいずれにも当たらないから, 神名は,原告に対
し, 不法行為責任を負わない。 よって,神名に不法行為が成立することを前
提とした原告の被告に対する本件請求はいずれもその余の点を判断するまでも
なく理由がない。 よって, 主文のとおり判決する。
以 上
235
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.5
ニフティFSHISO事件(控訴審)
平成13年9月5日東京高裁判決
平成9年(ネ)第2631号,第2633号,第2668号,第5633号
損害賠償・反訴各請求控訴事件,同附帯控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成6年(ワ)第7784号,同第24828号損害
賠償・反訴請求事件(原審言渡日平成9年5月26日))
【要旨】ニフティサーブ会員で現代思想フォーラムに参加していた原審被告
控訴人Aによるやはり同フォーラムに参加していた原審原告被控訴人に向け
た一連の発言が、被控訴人に対する名誉毀損、侮辱、脅迫であるとし、①控
訴人Aに対し不法行為に基づき,②同フォーラムのシスオペである控訴人B
に対し,名誉毀損等の発言を削除すべき義務を怠ったとして不法行為に基づ
き,③ 控訴人ニフティに対し,控訴人Bの使用者責任又は会員契約に付随
する安全配慮義務違反等の債務不履行責任に基づき,損害賠償と謝罪広告を
求め、控訴人Aは,反訴として、被控訴人が①村八分にした,②控訴人Aの
プライバシーを暴露したとして,被控訴人に対し,不法行為に基づく慰謝料
並びに謝罪広告を求めた。原審の判決は、① 控訴人Aの本件各発言は名誉
毀損に当たる,② 控訴人Bは本件各発言を具体的に知ったときから条理上
必要な措置を講ずる作為義務を負い,本件各発言の一部につき作為義務を怠
った過失がある,③ 控訴人ニフティは控訴人Bの使用者責任を負うとし
て,被控訴人に対する損害賠償を一部認容し,その余の部分及び謝罪広告請
求を棄却し,原審反訴事件を棄却したところ、原審当事者がそれぞれ控訴、
附帯控訴した。東京高裁は、控訴人Aの控訴を棄却し、本件発言の削除義務
違反は無いとして、控訴人Bおよびニフティの原審敗訴を取り消し、被控訴
人の請求を棄却し、被控訴人の附帯控訴を棄却した。
(1)事案の概要(以下,略称等は原判決の例に従う。)
ア.本件は、パソコン通信ネットワーク上の発言による名誉毀損等の成否、名
誉毀損等となる発言についてのシスオペの削除義務,パソコン通信の主宰者
の法的責任等をめぐって争われた損害賠償等請求事件である。
イ.原審本訴事件において,被控訴人は,控訴人らに対し,控訴人ニフティの
主宰するパソコン通信ニフティサーブで開催されていた現代思想フォーラム
と称する電子会議室において書き込まれた控訴人Aの発言が被控訴人に対す
る名誉毀損,侮辱,脅迫(侮辱及び脅迫については,当審で追加された。)
であるとして,① 控訴人Aに対し不法行為に基づき,② シスオペである
236
5.判例、裁判上の係争事項等
控訴人Bに対し,名誉毀損等の発言を削除すべき義務を怠ったとして不法行
為に基づき,③ 控訴人ニフティに対し,控訴人Bの使用者責任又は会員契
約に付随する安全配慮義務違反等の債務不履行責任に基づき,各自1000
万円(原審と同額であるが,当審で慰謝料を900万円に減縮し,弁護士費
用100万円を追加した。)及びこれに対する不法行為の後である平成9年
5月27日(原判決の言渡日の翌日)から完済まで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求めた。
原審反訴事件において,控訴人Aは,被控訴人が① 本件フォーラムでス
クランブル機能を使って控訴人Aを事実上排除し,村八分にした,② 本件
フォーラムにおいて控訴人Aのプライバシーを暴露したとして,被控訴人に
対し,不法行為に基づく慰謝料200万円及びこれに対する不法行為の後で
ある平成6年12月20日(反訴状送達の日の翌日)から完済まで民法所定
の年5分の割合による遅延損害金の支払並びに謝罪広告を求めた。
ウ.原判決は,原審本訴事件について,① 控訴人Aの本件各発言は名誉毀損
に当たる,② 控訴人Bは本件各発言を具体的に知ったときから条理上の削
除義務を負い,本件各発言の一部につき削除義務を怠った過失がある,③
控訴人ニフティは控訴人Bの使用者責任を負うとして,控訴人らに対する損
害賠償を一部認容(控訴人Aにつき50万円,控訴人B及び控訴人ニフティ
につき各10万円)し,その余の部分及び謝罪広告請求を棄却し,原審反訴
事件について,① 被控訴人のスクランブル機能を用いて控訴人Aを一時的
に除け者にした行為は,村八分と同視する程の違法性が認められない,②
被控訴人が控訴人Aのプライバシーを侵害したと認められないとしていずれ
も棄却した。
エ.当審における主張の骨子
(ア)被控訴人
被控訴人は,本判決別紙発言一覧表(一)から(四)までの発言(原判決別紙発
言一覧表(一)から(四)までと同じであるが,名誉毀損部分等を具体的に特定し
た。以下,「本件発言(一)」等という。なお,原審で名誉毀損に当たると主張
した同一覧表(二)符号6,同13及び同(三)符号3発言については,当審でこ
の主張を撤回した。)について,原審と同様,名誉毀損であり,当審において
は,一部が侮辱であり,追加的に,本件発言(五)及び本件発言(二)符号1,同
10,同11の一部は脅迫に当たると主張し,本件発言(一)から(五)までがさ
れたことを知りながら,控訴人Bが,対応のため最大限要する10日を経過し
てもこれを削除せず,条理上の作為義務に違反し,被控訴人に損害を与えたと
主張し,附帯控訴において,控訴人Aの各発言が,極めて激烈かつ侮辱的表現
をもって執拗に繰り返され,専ら人格を攻撃し,誹謗中傷して被控訴人の名誉
237
5.判例、裁判上の係争事項等
を著しく毀損しており,原判決の認容した額は不当に低額で,被控訴人の名誉
を回復するには,謝罪広告が必要であると主張した。
なお,被控訴人は,控訴人ニフティに対する,控訴人Aの氏名等を開示しな
かったことを安全配慮義務違反とする主張を撤回した。
(イ)控訴人A
控訴人Aは,本件各発言を文脈の中で理解すべきであり,その発言経緯や状
況からみて名誉毀損等に当たらず,公正な論評であると主張し,仮想空間(サ
イバースペース)における発言であって,社会的評価の低下を招かないとの原
審での主張は撤回した。
(ウ)控訴人B
控訴人Bは,シスオペによる発言の削除について作為義務が生じるのは,選
択権を尊重し,発言の相手方が削除を求める発言を特定して削除の要求をした
場合等の要件を満たしたときであり,本件において,控訴人Bには作為義務違
反は生じていないし,生じたとすれば過失がないと主張した。
(エ)控訴人ニフティ
控訴人ニフティは,原判決がシスオペである控訴人Bの条理上の作為義務を
肯定したのは,誤りであり,裁量権の行使は,それが著しく不合理な場合に限
り違法となるに過ぎず,本件では当たらないと主張し,控訴人Bに対して指揮
監督関係を有していないとの原審での主張を撤回した。
オ.当裁判所の判断
当裁判所は,控訴人Aの本件発言(一)から(五)までのうち,一部は名誉毀損
又は侮辱に当たると認めたが,脅迫に当たる発言があるとは認めず,控訴人A
に対し原審の認容額と同じ50万円(但し,慰謝料40万円,弁護士費用10
万円)及び平成9年5月27日から完済まで年5分の割合による遅延損害金の
支払を命じる限度で相当であるものの,その余の部分及び謝罪広告請求は失当
で,控訴人B及び控訴人ニフティについては,発言削除義務違反等の責任は認
められず,損害賠償の責は負わないと判断した。
238
5.判例、裁判上の係争事項等
(2)
争点とそのポイント
(1)控訴人Aの本件発言(一)から(五)までは,被控訴人に対する名誉毀
損,侮辱及び脅迫となるか(本訴)
(2)訴人Bは,本件発言(一)から(五)までの削除義務を負うか(本訴)
(3)訴人ニフティの責任(本訴)
(ア)控訴人Bの使用者としての責任
(イ)会員に対する安全配慮義務による本件発言(一)から(五)までの削除
義務
(3)損害額及び謝罪広告の要否(本訴)
(4)スクランブル事件により,控訴人Aの名誉は毀損されたか(反訴)
(5)被控訴人が控訴人Aのプライバシーを侵害する書込みをしたか(反
訴)
(6)損害額及び謝罪広告の要否(反訴)
ア.被控訴人の主張
(ア) 控訴人Aの責任
被控訴人は,当審において,主張を一部変更し,発言の一部が侮辱又は脅迫
に当たると主張した。
被控訴人は,ニフティサーブで会員情報を公開し,控訴人ニフティの発行す
る雑誌(平成5年9月号)においても「COOKIE」が被控訴人であることが明ら
かにされており,控訴人Aも発言中で「COOKIE」が被控訴人であることを明言
していたことなどから,本件フォーラムに参加したニフティの会員なら
「COOKIE」が被控訴人であることを認識し得た。
控訴人Aは,本件フォーラムの電子会議室において,本件発言(一)から(五)
までをし,被控訴人の社会的評価を低下させて名誉を毀損し,限度を超えて被
控訴人の名誉感情を害して侮辱し,又は被控訴人を畏怖させて脅迫した。
控訴人Aは,故意又は過失により,本件発言(一)から(五)までをしており,
不法行為に基づき,被控訴人の損害を賠償する責任を負う。
(イ)控訴人Bの責任
控訴人Bが,名誉毀損,侮辱及び脅迫である本件発言(一)から(五)までを削
除すべき条理上の作為義務を負うことは,原判決事実及び理由第三の一1(二)
控訴人Bの責任欄(1)(原判決13頁3行目から15頁2行目まで)記載のと
おりである。
控訴人Bは,本件発言(一)から(五)までについて,別紙3一覧表(一)から
(三)までのとおり名誉毀損,侮辱及び脅迫であるとの認識を持ち,具体的に知
239
5.判例、裁判上の係争事項等
ったにもかかわらず,その後上記各日時から運営者との協議を含めて対応のた
め最大限要する10日間を経過しても各発言を削除せず,条理上の作為義務に
違反し,被控訴人に損害を与えた。
(ウ)控訴人ニフティの責任
控訴人ニフティが,控訴人Bの使用者責任又は同人を履行補助者とする安全
配慮義務違反による若しくは独自の削除義務違反による債務不履行責任を負う
ことは,原判決事実及び理由第三の一1(三)控訴人ニフティの責任欄(原判決
15頁8行目から同22頁6行目まで)記載のとおりである。但し,名誉毀損
等の被害を受けた会員に対し,加害者である会員の氏名及び住所を開示する義
務(原判決18頁末行から同19頁初行まで,同21頁5行目から同22頁3
行目まで)に関する主張については,これを撤回した。
(エ)脅迫関係について
控訴人Aは,被控訴人に対し,本件発言(二)符号1,同10,同11,本
件発言(五)を行い,これによって被控訴人を充分畏怖させるに足りる内容の害
悪の告知をしており,電子会議上の他の会員が畏怖するに足りるかどうかを問
わず不法行為(脅迫)責任を負う。
控訴人Bは,① すでに損害発生の原因となる脅迫的発言がされており,被
害者がこれを閲覧すれば必ず畏怖して損害が発生する高度の蓋然性があり,②
シスオペが,被害発生を事前に防止しうる立場にあり,③ 当該脅迫的発言の
存在を具体的に知った以上,知ったときから10日以内に削除して被害者への
到達を阻止し,もって結果発生を事前に防止すべき条理上の作為義務を負う。
控訴人ニフティは,シスオペである控訴人Bの上記不法行為について使用者
責任を負う。また,控訴人ニフティは,主宰者として独自の削除義務を負って
おり,かつ,会員である被控訴人に対する安全配慮義務も負う。
(オ)損害額について
原判決の認容した額は,不当に低額である。控訴人Aの発言は,激烈な表現
に満ち,被控訴人の人格を徹底的に破壊する誹謗中傷又は脅迫であり,その目
的も専ら被控訴人の人格に対して攻撃を加えることにあり,その態様も長期間
に亘り計45回も執拗に繰り返され,被控訴人の社会的評価を著しく低下させ
ており,被害者救済のためにより高額な賠償額を算定すべきである。控訴人B
及び控訴人ニフティは,被控訴人側からの再三の削除要請にもかかわらず,意
図的に放置しており,控訴人Aの不法行為を助長し,被控訴人の損害を著しく
拡大させており,控訴人Aの責任と大差はない。しかも,本件発言(一)から
240
5.判例、裁判上の係争事項等
(五)までは,明らかに表現の自由の範囲を逸脱した名誉毀損等の表現行為であ
ることなどに照らして,慰謝料の額は900万円,弁護士費用の額は100万
円が相当である。
(カ)謝罪広告について
原判決が謝罪広告を認めなかったのは,不当である。被控訴人は,フリーラ
ンスの著述家として活動し,本件発言(一)から(四)までにより社会的評価を著
しく低下させられており,その影響は発言の舞台となったパソコン通信におい
て顕著であって,金銭賠償のみでは充分に回復されず,上記掲載条件での謝罪
広告の必要性は優に認められる。
イ.控訴人Aの主張
(ア)控訴人Aの主張は,次に当審の主張を付加するほか,原判決事実及び理
由第三の一2控訴人Aの主張(原判決23頁8行目から同32頁10行目ま
で)記載のとおりである。
(イ)控訴人Aの当審主張
本件発言(一)から(四)までは,文脈の中で理解されるべきであり,発言がさ
れるに至った経緯及び状況を斟酌すれば,類型的に名誉毀損等に当たる程度の
違法性を具備していない。
本件発言(一)から(四)までは,仮に名誉毀損・侮辱に当たるとしても,次の
とおり公正な論評として違法性が阻却される。すなわち,本件発言(一)から
(四)までは,① 被控訴人が,独自のフェミニズム思想を主張しながら,実際
には差別的思想を持つ人物であるとの批判,② 被控訴人が生涯学習フォーラ
ムにおいて「フェミニスト・フォーラム」を設立し,ニフティの無料使用権を
取得しながら,公的な場であるフォーラムにおいて,自らの意見と異なる意見
を排除するような専横的な運営方法を実施していることに対する批判,③ 被
控訴人が控訴人Aに対して「部落と朝鮮は怖い」と発言したり,プライバシー
を暴露するなど不当な行為をしたりしたことに関する抗議を内容とする。
(ウ)論争における対抗言論の法理について
自らの意思で社会に向かって発言する者は,当然,自己の発言・主張が反対
の立場の者から批判され,反論されることを覚悟しなければならない。名誉毀
損となる人格攻撃がされたとしても,批判や反論は,論争点に関連している限
り,許容される。節度を越えたかどうかは,論争の聴衆によって判断され,論
争の場に自ら身を置いた以上,批判には対抗言論で答えるべきであり,公権力
を借りて批判を封じるようなことは,よほどのことがない限り許されない。
241
5.判例、裁判上の係争事項等
被控訴人は,思想に関して自由な討論が予定されていた現代思想フォーラム
の中で,意見の対立が容易に予想されるフェミニズム会議室の公開討論に自ら
参加し発言した以上,ある程度激しい批判を覚悟して参加すべきであり,いつ
でも自由に反論できた。本件発言(一)から(四)までは,単なる人格攻撃ではな
く,控訴人Aが批判する主題との関連から公正な論評として許容され,違法性
が阻却される。
(エ)当審で追加された脅迫の主張について
本件発言(二)符号1,同10,同11,本件発言(五)は,内容自体いずれも
脅迫に当たらないし,被控訴人の主張によっても,害悪の告知が被控訴人に到
達したとの主張・立証がされていない。
ウ.控訴人Bの主張
(ア)控訴人Bの主張は,次に当審の主張を付加するほか,原判決事実及び理
由第三の一3控訴人Bの主張(原判決32頁末行から同46頁10行目まで)
記載のとおりである。
(イ)控訴人Bの当審主張
シスオペには,会員規約上,会員の発言を削除する権限が付与されているが,
権限であって,義務に転換することはない。
条理上,シスオペに削除義務が発生するには,本件フォーラムの性質上表現
の自由が最大限尊重される必要があること,言論には言論で対抗すべきこと等
から発言の削除に抑制的であるべきで,かつ相手方の自己決定権が尊重される
べきであって,① 誰の目から見ても名誉を毀損する発言であり,② 発言の
相手方が発言を特定して削除の要求をし,③ シスオペ以外の者(例えば,当
該発言者)が削除できない状態にある場合に限られる。
仮に控訴人Bに何らかの作為義務違反があったとしても,控訴人Bに過失は
ない。ネットワーク上の名誉毀損等の可能性のある発言については,当該発言
の相手方等からの抗議や反論が極めて有効であり,事後的な救済手段しかない
既存のメディアと異なり,多様な対応が考えられる上,シスオペは,あくまで
事後的な判断者であり,正確性の保障されない情報に基づいて削除すると会員
の発言権や自己決定権を奪うことにもなりかねず,いわゆる義務の衝突状態に
ある。したがって,シスオペは,当該発言の相手方の利益を明らかに害する処
理方針をとったなどという明らかに合理性のない対処を行った場合を除いて,
相手方の利益にそう措置として一応の合理性がある選択をした限り,過失がな
い。
エ.控訴人ニフティの主張
242
5.判例、裁判上の係争事項等
(ア)控訴人ニフティの主張は,次に当審の主張を付加するほか,原判決事実
及び理由第三の一4控訴人ニフティの主張(原判決46頁末行から同60頁1
0行目まで)記載のとおりである。但し,控訴人ニフティと控訴人Bの間の指
揮監督関係が存在しないとの主張(原判決49頁9行目から同51頁初行ま
で)は,当審で撤回した。
(イ)控訴人ニフティの当審主張
原判決がシスオペである控訴人Bについて条理上の作為義務として削除義務
を認めたのは,誤りである。けだし,① 条理を作為義務の根拠とする際には,
その基準は不明確であるから,作為義務の認定判断は慎重に行なわなければな
らない。② 裁量権の不行使は,それが著しく不合理である場合に限り違法と
なるにすぎない。本件において,現代思想フォーラムの状況に照らし,削除権
限を行使しない判断は合理的であり,原判決が控訴人Bの作為義務違反を肯定
した平成6年2月15日(この時期に平成5年12月2日から同月23日にか
けての発言(本件発言(二)符号6から11までの各発言)が削除された。)又
は同年5月25日までの間において,削除対象発言が明確ではなく,削除につ
いて期待可能性が認められず,シスオペである控訴人Bの削除義務は,未だ生
じていない。
オ.原審反訴関係
原審反訴関係の当事者(控訴人A及び被控訴人)の主張は,原判決事実及び
理由第三の二反訴関係欄(原判決60頁末行から同63頁4行目まで)に記載
のとおりである。但し,原判決61頁8行目の「右一2(2)③のとおり」を
「右一2(一)(2)③のとおり」に改める。
(3) 判決内容等
ア.前提となる事実
ニフティサーブの概要,本件発言(一)から(五)までが行われるに至った経緯,
内容及び本件訴訟に至るまでの経緯等は,次に補正するほか,原判決事実及び
理由第四の一前提事実欄(原判決63頁6行目から90頁5行目まで)に記載
のとおりである。
(原判決の補正)
(ア)原判決74頁7行目の「平成5年12月」を「平成4年12月」に改め
る。
243
5.判例、裁判上の係争事項等
(イ)原判決76頁7行目の「電子メールにより原告に送付した」を「運営協
力者しか読むことのできない20番会議室において,#747(同年5月12
日),#760(同月13日)で掲載した」に改める。
(ウ)同判決77頁9行目から同78頁2行目までを次のとおり改める。
「(六) 被控訴人は,平成5年5月17日,非公開の運営会議室において,
「運営陣への質問と要請」と題し,本件フォーラムにつき,「今のフェミニズ
ム会議室では,フェミニズムは語られているとは思えない。フェミニズムとい
う看板を外してほしい。」旨発言し,同月下旬以降本件フォーラムにおいて発
言することを止めた。被控訴人は,同年11月頃,意見の一致する仲間6名と
とともに,本件フォーラムとは別の「生涯学習フォーラム(FLEARN)」
において,フォーラムの中のフォーラムとして「フェミニスト・フォーラム」
を設置し,その代表者に就いた。このフェミニスト・フォーラムは,設立の趣
旨の中で,フェミニズムを「生まれながらの性によって人間の考え方や社会活
動を制約している,さまざまな文化や社会制度を取り上げ,問いなおし,それ
に働きかけるための思考と実践」であると定義した上,「このフォーラムは,
このフェミニズムを肯定的に評価し,自らの生き方に関するものとして考え,
語り合い,行動していこうとする人のための場であるから,フェミニズムを知
ろうとせず,あるいはフェミニストの声に耳を傾けようともしない人は,発言
をお断りします。」旨の発言内容によって規制を行う趣旨が明らかにされてい
た。被控訴人は,同月23日或る会員からフェミニスト・フォーラムでされた
「全ての性差別に反対するという立場から男性差別の問題もある」との発言を
上記の発言規制に触れるとして,削除した。なお,被控訴人は,フェミニス
ト・フォーラムにおいて,課金免除を受けていた(甲114,丙3,70,7
1,丁11)。」
(エ)原判決78頁4行目から同79頁初行までを次のとおりに改める。
「(一) 被控訴人は,平成5年5月下旬以降,本件フォーラムにほとんどアク
セスしなかった。控訴人Aは,別紙3一覧表(一)から(三)までのとおり,平成
5年11月29日から平成6年3月27日にかけて,本件発言(一)から(五)ま
での各「年月日」欄記載の時期に,発言番号欄記載のとおり,「名誉毀損部
分」,「脅迫部分」記載の文章を含む発言を書き込んだ。」
イ.争点(1)(本件発言(一)から(五)までによる名誉毀損,侮辱又は脅迫の成
否)
(ア)判断の前提となる本件の事情
本件フォーラムは,現代思想フォーラムと題して公開討論の中で,フェミニ
ズムという意見の対立の大きい思想内容を扱っており,発言内容も他人に対す
244
5.判例、裁判上の係争事項等
る批判や人格攻撃を含んだものになりやすく,攻撃的な表現もあって,正当な
批判か中傷かについては一概には決めつけにくい状況にあった(丁11)。
被控訴人は,平成2年9月頃から平成5年春頃まで,本件フォーラムに参加
し,殊に「わたしのふぇみずむ」と題する長期に亘る連載において,個人的体
験を公表しながら,自己のフェミニズムについての考え方を発言し,相当数の
会員から好意的評価を得ており,被控訴人自身もこれらの評価に満足していた。
この個人的体験を公表する中で,被控訴人は,予定外の妊娠をし,1回目は経
済的理由で中絶し,その後再び予定外の妊娠をし,相手の男性と婚姻したが,
流産し,その後留学目的でアメリカに長期滞在し,後はその男性と離婚したこ
とを明らかにしていた。被控訴人は,平成4年12月からリアルタイム会議室
(RT)の常駐要員として課金免除(フリーフラッグーFFー)の資格を当時
のシスオペのDから付与され,一般の会員がアクセスできない運営会議室(2
0番会議室)にアクセスし,発言することを認められていた。被控訴人は,平
成5年5月下旬以降,スクランブル事件について本件フォーラムで批判を受け
たことや,控訴人AからシスオペのDに内密で伝えられた個人情報についてリ
アルタイム会議室で発言し,プライバシーを侵害したのではないかと抗議を受
けたことなどから,本件フォーラムで発言したり,アクセスしたりすることを
止めた。被控訴人は,平成5年11月頃,前記の「フェミニスト・フォーラ
ム」を設置し,その代表者に就いた(甲114,139,丁1,7,8,1
1)。
控訴人Aは,在日韓国人で,○○大学文学部を卒業し,出版社,新聞社勤務
を経て,渡米し,一時日本に帰国し,英文専門誌の編集者として勤務する傍ら
ニューズウィーク日本版翻訳者として勤め,米国の××大学でジャーナリズム
を学び,米国の新聞社に勤め,その後日本に帰国し,以降地元下関市や関西の
私立大学の英語の非常勤講師をしながら,翻訳や日米に関する評論を雑誌に寄
稿していた(丁7)。控訴人Aは,平成5年4月本件フォーラムに入会し,フ
ェミニズム会議室の過去の発言を読み,「COOKIE」会員が多数の発言を行って,
中心となり,特に「C」会員とともに,フェミニズムについて考え方の異なる
会員に対しては対話を拒否し,撤退させており,公開されている本件フォーラ
ムにおいて,反論や批判を認めないのは,本件フォーラムの私物化であり,改
められるべきであると考え,この考えに従って発言をし始めた(丁7)。控訴
人Aは,平成5年5月7日,スクランブル事件により,被控訴人によってRT
会議室から事実上排除され,さらに同月中旬のRT会議室では,シスオペのD
にだけ知らせた控訴人Aについての個人的な情報を前提として被控訴人が発言
したことで,シスオペのDから被控訴人にこの情報が伝えられたと推測した。
控訴人Aは,平成5年11月被控訴人らによって設置された「フェミニスト・
245
5.判例、裁判上の係争事項等
フォーラム」にアクセスし,被控訴人が被控訴人の考えるフェミニズムについ
て疑問を呈した会員の発言を削除したことについて,他の会員から運営に関す
る批判が相次いでいることを知った。このような経過を経て,控訴人Aは,本
件発言(一)から(五)までをした(丁7)。
本件フォーラム内において,ある会員に向けられた批判や反論の発言があれ
ば,当該会員は,直ちにこれに対する反論や再批判をすることができ,場合に
よっては全く無視することもできた(丁11)。
(イ)名誉毀損
本件各発言のうち,「経済的理由で嬰児殺しをやり」(本件発言(一)符号
2),「あの女はアメリカの出入国法にも違反した疑いが濃厚。これは完全な
犯罪者」(同(二)符号9),「あの女は二度の胎児殺し」(同符号10),
「COOKIE のやらかした優生保護法違反による二度の胎児殺しとアメリカの移
民帰化法違反による不法滞在・・・・COOKIE は犯罪者。COOKIE の嬰児殺し。
胎児殺しを二度もやった・・・」(同符号11),「COOKIE のような嬰児殺
し」(同符号12),「嬰児殺害と米国不法滞在を奨励した COOKIE こと(被
控訴人名)・・嬰児殺しを奨励し」(同(三)符号4),「嬰児殺害と米国不法
滞在を提唱するエセ・フェミニズム女 COOKIE」(同符号5),「あれは二度
も中絶している」(同符号6),「無資格で入国する不法滞在者と同じこ
と。・・・(被控訴人名)がアメリカでやらかしたことをおまえはやってい
る」(同符号7)の部分及び同旨の発言内容部分は,被控訴人が嬰児殺し及び
不法滞在の犯罪を犯したとする内容の発言で,被控訴人の社会的評価を低下さ
せる内容であり,名誉毀損に当たる。
控訴人Aは,これらの発言が言論の場においては許容されるかのように主張
する。しかしながら,対立する意見の容易に予想されるフェミニズムという思
想を扱うフォーラムにおいても,おのずから,議論の節度は必要である。上記
の各発言は,控訴人Aの議論の中では,その主張を裏付ける意味をおよそ有せ
ず,また,被控訴人の主張を反駁するためにされているとも解せられず,被控
訴人の公表した事実が犯罪に当たることを言葉汚く罵っているに過ぎないので
あり,言論の名においてこのような発言が許容されることはない。フォーラム
においては,批判や非難の対象となった者が反論することは容易であるが,言
葉汚く罵られることに対しては,反論する価値も認め難く,反論が可能である
からといって,罵倒することが言論として許容されることになるものでもない。
尤も,本件においては,先に認定したとおり,被控訴人において,意見の対立
の予想される思想を扱うフォーラムに身を置きながら,異見を排除したり,ス
クランブル事件の際のように控訴人Aを排除したりするなど,反対意見に対す
る寛容の必要性についての基本的な理解に欠けることを窺わせる行動が見られ
246
5.判例、裁判上の係争事項等
るが,このことを考慮しても,議論に臨むについて,節度を超えて他人を貶め,
又は他人の名誉を傷つけることが許されるものではなく,控訴人Aのこの点に
関する主張は,採用することができない。
控訴人Aのその余の各発言は,フェミニズムについて自己と異なる意見を排
除し,課金免除の特典を受けながら本件フォーラムにおける発言をしなくなっ
たとして,被控訴人を批判又は非難するもの,「フェミニスト・フォーラム」
について異なる意見や反論を排除し,私物化しているとして,その運営方法に
ついて被控訴人を批判,非難又は揶揄するもの,控訴人Aの個人的情報に関す
る被控訴人の発言についての非難を内容とするもので,一部には,表現が激烈
で相当性に疑問を抱かせるものもないではないが,被控訴人の社会的評価を低
下させる事実の公表を含むものではなく,名誉毀損に当たるものではない。
(ウ)侮辱
本件発言中,「あの女は乞食なみじゃ。」(本件発言(二)符号5),「あの
女の表の顔と裏の顔が明らかになる。そう,寄生虫的な逆差別女の思想的限界
が。」(同符号7),「あの女は弱いのではなく,弱いふりをして,根性がひ
ん曲がっている・・。あれでは離婚になるでしょう」(同符号8),「(被控
訴人名)は何者か?やはり,根性のひんまがったクロンボ犯罪者なみで
す。・・・この馬鹿だけは。」(同符号10),「COOKIE 一味はやはり馬鹿
としか思えない。・・・あのペテン師女」(同符号11),「COOKIE の馬
鹿」(同(三)符号1)等同旨の各部分は,事実を摘示している訳ではないが,
自己の意見を強調し,反対意見を論駁するについて,必要でもなく,相応しい
表現でもない,品性に欠ける言葉を用いて被控訴人を罵る内容のもので,被控
訴人の名誉感情を限度を超えて害するものというべきで,侮辱に当たる。
しかしながら,その余の各発言は,被控訴人を揶揄し,罵る内容のものも見
られるが,なお,侮辱に当たるとまでは認めることができない。
(エ)脅迫
本件発言(五)並びに同(二)符号1,同10及び同11の各発言中には,「こ
れは闇打ちにするのもいいでしょうかね,・・依頼した COOKIE 暗殺計画の立
案はどこまで進行していますか?」(本件発言(五)符号2),「あの女は闇打
ちにするのがいいでしょう。・・当方はあの会社の天皇級の人間をよーーーー
ーーーく知っているので,これからはいつでも闇打ちができるわけです。リス
トラの時にはバイトの人間は最初の犠牲者ですからねえ。・・本当にやるかど
うかは彼女しだいでしょうがね。」(同4),「かわいそうに,COOKIE も。
これで職場に恥がばらまかれることになった。・・ここまでなめられては,報
復戦争です。COOKIE が先にやらかしたプライバシーの暴露と裏攻撃をこちら
もするだけのこと。それも一万倍の切れ味で。」(同5),「COOKIE・・も職
247
5.判例、裁判上の係争事項等
場と居場所は分かっています。必要と有れば・・しかるべき対応はできますの
で,まさに「発言の当事者」責任を問うことにします。」(同7),「恐い目
に遭うのは,・COOKIE 一味」(同8),「「部落と朝鮮は怖い」という発言
を残したが,おまえはこの一言で他人に殺意を残したことはわすれないよう
に」(同(二)符号1),「早々にワナにかけて,射殺した方がいいでしょう,
あの女の場合は・・そうそうに射殺すべきでしょう。この馬鹿だけは」(同1
0)の各発言のように,「闇打ち」(闇討ちの趣旨か)「暗殺計画」「射殺」
「痛い目に遭う」等,被控訴人の生命に危害を加えるか,又はその他の方法で
被控訴人に害を与えることを表明したと理解される表現がある。しかしながら,
これらの発言は,字句自体は重大な内容を含むものの,会員に公開された仮想
空間において,会員の誰もが知ることのできる事情の下においてされただけに,
かえって,控訴人Aが,被控訴人の生命,財産その他に危害を及ぼす行動に現
実に及ぶ意思を有してはいないことが容易に了解されるというべきである。実
際にも,上記発言は,先に認定した本件についての事情,上記各発言がされる
に至った経過及び文脈を踏まえて検討すると,内密に提供した控訴人Aに関す
る個人情報をDから得た被控訴人の卑劣さ(情報を漏らした者と卑劣さに差異
はない。)や,反論によることなく,異見を排除するなどの本件フォーラムの
運営に対する強い怒りや非難を表現する趣旨を強調したものと認められる。被
控訴人においても,従前の発言を通じて,意見を異にしてはいたものの,控訴
人Aがフェミニズムという思想に関して積極的に発言する知性を備えた人物で
あることを知り,また,個人情報を得,控訴人Aがニューズウィーク誌におい
て働いた経歴を持ち,大学の講師を務めている者であることも知っていたと認
められる(丁11,弁論の全趣旨)。上記発言は,前記のとおり,被控訴人が
本件フォーラムへのアクセスや発言をしなくなった後にされており,被控訴人
がこれらの発言がされた事実を知っていたかどうかについても疑問があるが,
この点を措いても,前記の本件の事情の下においては,被控訴人が発言内容の
ような危害を控訴人Aから受けるかも知れないという危惧を抱く事情もないと
いうべきで,脅迫には当たらない。
ウ.争点(2)(控訴人Bの削除義務)について
(ア)フォーラムの仕組みとシスオペの役割等
標記に関し,前記認定事実(原判決引用部分を含む。)等を整理すると,以
下のとおりである。
a.シスオペは,控訴人ニフティとの間で締結されたフォーラム運営契約に
より,特定のフォーラムの運営及び管理を委託され,対価として歩合報酬を得
248
5.判例、裁判上の係争事項等
る。その報酬は,控訴人Bの場合,シスオペを務める上で必要なパソコン及び
周辺機器を揃える費用を賄うに足りる程度であった(原審控訴人B)。
b.シスオペは,会員規約(乙4)及び運営マニュアル(丙2)に従い,フ
ォーラムの運営及び管理をし,公序良俗に反する発言,犯罪的行為に結びつく
発言,会員の財産,プライバシーを侵害する発言,会員を誹謗中傷する発言等
一定の発言について,事前の通知を要せず,発言を削除することができ(会員
規約18条),フォーラムの運営に当たり,一般の社会人が多数参加している
場として公共性を維持し,健全な運営を心がけ,フォーラム運営上のトラブル
を未然に防止し,発生したトラブルに対しては素早い対応をし,対応できない
場合は控訴人ニフティに連絡し,明らかに削除しなければならない発言は速や
かに削除し,削除の判断に迷う場合は控訴人ニフティに相談する(運営マニュ
アル)ものとされている。
c.シスオペは,新聞,雑誌等の出版物と異なり,フォーラムや会議室にお
ける会員の発言の内容を事前に審査することができない上,平成5年12月こ
ろは,控訴人Bを始め,多数の者が,シスオペの業務を専門とせず,本業の傍
らこれに従事しており,会員による発言が日々多数に上り,その時刻も一定し
ていないこともあって,自己の管理及び運営するフォーラムにおける会員の発
言のすべてについて審査し,検討することはほとんど不可能であった。
d.シスオペが会員の発言を削除する措置を講じると,会員は,当該発言を
フォーラムにおいて読みとることができなくなるものの,この措置以前に当該
発言をダウンロード(パソコン等に発言等を保存する行為をいう。)した会員
を通じ,当該発言の内容を知ることができる。
e.会員は,フォーラム等において,自己に向けられた名誉毀損発言等に反
論し,自己の正当性を主張し,及びシスオペや控訴人ニフティに対しその削除
を求めることができるものの,自らは,当該発言を削除するなど,当該フォー
ラムにおいて他の会員にそれを読まれないようにする手段を採ることはできな
い。
(イ)シスオペの削除義務
上記によれば,次のとおりいうことができる。
a.シスオペは,会員規約に基づき,フォーラムの適切な運営及び管理を維
持するため,誹謗中傷等の問題発言を削除する権限を与えられ,当該発言の削
除により,完全ではないものの,他の会員の目に触れなくして,被害の拡大を
防ぐことができる。標的とされた会員は,自らは問題発言を削除することがで
きず,当該発言がフォーラムに記録され続けることによる被害の継続を防ぐに
は,シスオペに指摘した上でシスオペの行動に待つ他ない。
249
5.判例、裁判上の係争事項等
b.シスオペは,上記のとおり,それを業とする者でなく,他に職業を有す
る者から成る仕組みであった当時の実情から,問題発言を逐一点検し,削除の
要否の検討を適時に実施することはできなかった。本件フォーラムは,フェミ
ニズムという思想について議論することを標榜する以上,事後ではあっても,
会員の発言内容を審査することをシスオペに求めるに帰することも,民主主義
社会の議論の在り方とは背理する。
c.民主主義社会における議論においては,異論,異見は,容認される。尤
も,議論の在り方についての理解を共有するに至らない者同士においては,激
するあまり,相手を誹謗中傷するに等しい言辞により議論したり,スクランブ
ル事件におけるように,異論や異見を有したり,相容れない主張をしたりする
者をその故に排除するという未成熟な行動が生じ勝ちである。そのような場合
においても,誹謗中傷等の問題発言は,標的とされた者から当該発言をした者
に対する民事上の不法行為責任の追及又は刑事責任の追及により,本来解決さ
れるべきものである。
d.誹謗中傷等の問題発言は,議論の深化,進展に寄与することがないばか
りか,これを阻害し,標的とされた者やこれを読む者を一様に不快にするのみ
で,これが削除されることによる発言者の被害等はほとんど生じない。
e.以上の諸事情を総合考慮すると,本件のような電話回線及び主宰会社の
ホストコンピュータを通じてする通信の手段による意見や情報の交換の仕組み
においては,会員による誹謗中傷等の問題発言については,フォーラムの円滑
な運営及び管理というシスオペの契約上託された権限を行使する上で必要であ
り,標的とされた者がフォーラムにおいて自己を守るための有効な救済手段を
有しておらず,会員等からの指摘等に基づき対策を講じても,なお奏功しない
等一定の場合,シスオペは,フォーラムの運営及び管理上,運営契約に基づい
て当該発言を削除する権限を有するにとどまらず,これを削除すべき条理上の
義務を負うと解するのが相当である。
(ウ)本件発言の削除に至る事実経過
前記認定(原判決80頁初行から90頁5行目まで)により,経緯を要約す
ると,以下のとおりである。
a.控訴人Bは,平成5年11月,Dの後を受けて本件フォーラムのシスオ
ペになり,従前,問題発言が削除されても,更に同様の発言が書き込まれ,結
果的に減少しなかったこともあって,発言削除をできるだけ避け,公開の場で
議論を積み重ねることによって会員の意識を変え,発言の質を高めることが重
要と考え,これに沿ってフォーラムの運営をしてきた(同80頁から81頁ま
で)。
250
5.判例、裁判上の係争事項等
b.控訴人Bは,控訴人Aの「(被控訴人の)根性がひん曲がっている・・
あれでは離婚になる・・」(本件発言(二)符号8。平成5年12月18日)及
び「アメリカの出入国法にも違反・・」等(同符号9。同月20日)について,
各発言当日,「優生保護法違反,アメリカの移民帰化法違反」等(同符号11。
平成5年12月23日)について発言の翌日,運営会議室において,本件フォ
ーラムの運営スタッフから知らされ,本件発言(二)符号8については発言当日,
「経済的理由で嬰児殺しをやり」(本件発言(一)符号2。同月31日),「あ
の女は乞食なみじゃ」(本件発言(二)符号5。同月8日)及び本件発言(二)符
号11について,各発言の翌日,控訴人Aに宛て,本件フォーラムの7番会議
室において,これらの発言について,表現の自由といっても無制限ではなく,
市民社会のルールがあり,発言内容がこのルールに違反していること,復讐の
場として本件フォーラムを使うことは許されないこと,場合によっては控訴人
Aの会員削除をする事態に至ること等を指摘したが,削除することはしなかっ
た(同82頁から83頁まで,丙52,56,68)。
c.被控訴人は,平成5年12月29日,控訴人ニフティのセンター窓口及
びE取締役に対し,発言を特定することなく,本件フォーラムの6番及び7番
会議室に被控訴人に対する誹謗中傷が書き込まれている情報を得たとして,同
6年1月6日,控訴人B及び控訴人ニフティの担当者Fに対し,本件発言(二)
符号6から11までにつき,誹謗中傷であるとして,いずれも電子メールによ
り,対処を求めた(同84頁から85頁まで)。
d.控訴人Bは,これを受けて運営委員会に各発言の取扱いを付議し,同月
9日,被控訴人に対し,名誉毀損に当たる発言部分を指摘すべきこと,指摘さ
れた発言について控訴人ニフティの判断も削除相当となれば,削除すること,
削除は被控訴人の要望に基づく旨を付記すること,を内容とする対処案を電子
メールにより送付したが,同月10日,被控訴人から拒絶の応答を受け,同月
14日,被控訴人に対し,本件フォーラムにおける控訴人Aの発言を検索し
(なお,この検索自体は,極く簡単なパソコン上での操作により可能である。
原審F証言),削除することを希望する発言を指摘すべきこと,指摘された発
言については削除される可能性が高いことを電子メールにより指摘した(同8
5頁から86頁まで)。
e.控訴人Bは,同月16日,被控訴人から,発言者が被控訴人の勤務先ま
で知っていて,脅迫を受けており,当面,被控訴人の氏名(ハンドル名を含
む。)を明らかにして削除することはしないようにとの電子メールを受け,同
月20日,被控訴人と電話で話し合い,削除が被控訴人の要請によることを付
記することはしないものの,会員から質問があれば,要請がなかったと説明す
るとの約束をすることはできないと応答し,被控訴人から,信頼できる人に相
251
5.判例、裁判上の係争事項等
談するので,発言削除は待って欲しいとの回答を受けた(同86頁から88頁
まで)。
f.控訴人Bは,同年2月15日,被控訴人訴訟代理人から,本件発言(二)
符号6から11までが被控訴人の名誉を毀損するとして削除するよう求められ,
本件フォーラムの7番会議室から削除する措置を講じ,同年4月,本件訴訟の
提起を受け,控訴人ニフティとも相談の上,同年5月25日,被控訴人訴訟代
理人の指摘する本件発言(先に削除したものを除く。)について,本件フォー
ラムの電子会議室の登録から外した(同88頁から90頁まで)。
(エ)控訴人Bの削除義務違反
先に認定した本件の事実経過及びシスオペの削除義務を前提とすると,本件
において,控訴人Bについて,シスオペとしての削除義務に違反したと認める
ことはできない。その理由は,以下のとおりである。
a.本件発言中,前記認定のとおり,被控訴人の社会的評価を低下させ,名
誉感情を害するものは,本件発言が仮想空間においてされているものの,あた
かも公衆の面前と同様に多数の者の知ることのできる態様によりされており,
被控訴人に対する名誉毀損及び侮辱の不法行為が成立する。
b.控訴人Bは,削除を相当とすると判断される発言についても,従前のよ
うに直ちに削除することはせず,議論の積み重ねにより発言の質を高めるとの
考えに従って本件フォーラムを運営してきており,このこと自体は,思想につ
いて議論することを目的とする本件フォーラムの性質を考慮すると,運営方法
として不当なものとすることはできない。
c.控訴人Bは,会員からの指摘又は自らの判断によれば,削除を相当とす
る本件発言について,遅滞なく控訴人Aに注意を喚起した他,被控訴人から削
除等の措置を求められた際には,対象を明示すべきこと,対象が明示され,控
訴人ニフティも削除を相当と判断した際は削除すること,削除が被控訴人の要
望による旨を明示することを告げて削除の措置を講じる手順について了解を求
め,被控訴人が受け入れず,削除するには至らなかったものの,その後,被控
訴人訴訟代理人から削除要求がされて削除し,訴訟の提起を受け,新たに明示
された発言についても削除の措置を講じており,この間の経過を考慮すると,
控訴人Bの削除に至るまでの行動について,権限の行使が許容限度を超えて遅
滞したと認めることはできない。
d.控訴人Aの本件発言中,名誉毀損及び侮辱の不法行為となるものは,議
論の内容とはおよそ関わりがなく,これに対して反論するなどして対抗するこ
とを相当とするような内容のものではない。控訴人Bは,シスオペとして,そ
の運営方法についての前記考えに従い,このような発言についても,発言者に
疑問を呈した他,会員による非難に晒し,会員相互の働きかけに期待し,これ
252
5.判例、裁判上の係争事項等
により,議論のルールに外れる不規則発言を封じることをも期待したことが窺
われ,このような運営方法についても不相当とすべき理由は見あたらない。殊
に,控訴人Aの発言中には,思想を扱うフォーラムにおいて,異見を排除した
り,同控訴人についての個人的な情報を信義に悖る方法で得たりした被控訴人
に対する非難が含まれており,被控訴人において弁明を要する事柄にも関係し
ており,一方的に控訴人Aのみを責めることのできない事情が認められる。こ
れらをも考慮すると,控訴人Aの不法行為となる本件発言が議論の内容と関わ
りがなく,反論すべき内容を含まないからといって,控訴人Bが削除義務に違
反したと認めることもできない。
エ.争点(3)(控訴人ニフティの責任)について
(ア)控訴人ニフティは,前記のとおり,控訴人Bについての削除義務違反が
認められない以上,これを前提とする使用者責任を負わないことは明らかであ
る。
(イ)被控訴人は,会員規約上,控訴人ニフティ及びシスオペに対して削除権
限を定めていることをもって,個々の会員に対して誹謗中傷等の発言を削除す
る義務を負うなどと主張しているが,前提事実で認定したとおり,控訴人ニフ
ティと会員との間においては,会員規約に基づき,控訴人ニフティが会員に対
し,ニフティサーブというパソコン通信ネットワークを利用することができる
権利を与え,その対価として,当該会員が,控訴人ニフティに対し,一定の利
用料を支払うことを主旨とする契約であり,また前記会員規約第18条の削除
規定に照らしても,控訴人ニフティが被控訴人主張の安全配慮義務又はその他
の契約上の義務を負うとは認められず,債務不履行に基づく損害賠償請求は,
理由がない。
オ.争点(4)(損害額及び謝罪広告掲載の要否)
(ア)不法行為となる本件各発言の内容,本件フォーラムに書き込まれた期間,
態様は執拗で,被控訴人個人に対する攻撃とも評価できること,会員が上記各
発言を読むことが可能であった期間,本件フォーラムの会員数(控訴人Bがシ
スオペに就任した当時,6000人程度であったが,実際にアクセスする会員
は少ない状態にあった。(原審控訴人B本人))のほか,本件に顕れた諸般の
事情を考慮すると,控訴人Aの名誉毀損及び侮辱により被控訴人の被った精神
的苦痛の慰謝料としては,40万円が相当である。
(イ)訴訟経緯,認容額等諸般の事情を考慮すると,前記不法行為による弁護
士費用相当の損害としては,10万円が相当である。
253
5.判例、裁判上の係争事項等
(ウ)被控訴人の損害を回復させるための謝罪広告については,本件の名誉毀
損等の内容,程度,本件訴訟の経緯等に照らし,必要性があるとまでは認め難
い。
カ.争点(5),(6)(原審反訴関係)
控訴人Aは被控訴人に対し,① スクランブル事件によって名誉を毀損された,
② 被控訴人が本件フォーラムのRT会議室において控訴人Aのプライバシー
を侵害する発言をしたとして,不法行為に基づく損害賠償を求めているが,原
判決事実及び理由「第四の三 反訴関係の争点について」欄(原判決119頁
2行目から同122頁3行目まで)説示のとおり,被控訴人の行為が不法行為
であると認めることはできない。
(4)結論
以上によれば,(1) 被控訴人の本訴請求は,控訴人Aに対し,50万円及
びこれに対する不法行為後である平成9年5月27日から完済まで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認
容し,その余の部分は失当として棄却し(原審と認容額は同じである。),ま
た控訴人B及び控訴人ニフティに対する請求は,理由がないので棄却し,(2)
控訴人Aの反訴請求は,理由がないので棄却すべきである。
よって,控訴人Aの本件控訴及び被控訴人の附帯控訴をいずれも棄却し,控
訴人B及び控訴人ニフティの各控訴に基づき,原判決を取り消したうえ,被控
訴人の同人らに対する各請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。
以
上
254
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.6 2ちゃんねる動物病院事件
平成14年6月26日東京地裁判決
平成13年(ワ)第15125号 損害賠償等請求事件
【要旨】原告の動物病院とその経営者である獣医が,被告の運営するインター
ネット上の電子掲示板「2ちゃんねる」において、原告らの名誉を毀損する発
言が書き込まれたにもかかわらず、被告がそれらの発言を削除するなどの義務
を怠り、原告らの名誉が毀損されるのを放置し,これにより原告らは精神的損
害等を被ったなどとして、それぞれ被告に対し,不法行為に基づく損害賠償請
求(損害金250万円及び遅延損害金)、民法723条又は人格権としての名誉
権に基づき、本件掲示板上の名誉毀損発言の削除を求めたことについて、被告
2ちゃんねる運営者に対し、原告動物病院及び獣医のそれぞれに対し、200
万円及び遅延損害金の支払いを命じた事件。
また、被告に対し,「2ちゃんねる」(http://www.2ch.net)における文言(た
だし,番号764,872の文言を除く。)などの発言を削除することを命じた
事件。
(1) 事案の概要
ア.原告の動物病院とその経営者である獣医が,被告の運営するインターネッ
ト上の電子掲示板「2ちゃんねる」(以下「本件掲示板」という。)において,
原告らの名誉を毀損する発言が書き込まれたにもかかわらず,被告がそれらの
発言を削除するなどの義務を怠り,原告らの名誉が毀損されるのを放置し,こ
れにより原告らは精神的損害等を被ったなどとして,それぞれ被告に対し,不
法行為に基づく損害賠償請求(損害金250万円及び遅延損害金),民法723
条又は人格権としての名誉権に基づき,本件掲示板上の名誉毀損発言の削除を
求めた。
(ア) 本件掲示板の概要
本件掲示板は,被告が開設し運営しているインターネット上の電子掲示板で
あり,何人でも使用料等を支払うことなく,本件掲示板を閲覧し書き込みをす
るなどして利用することができ,本件訴訟提起時においては,1日当たり約8
0万件の書き込みがあった。
本件掲示板の利用者が,本件掲示板において書き込みをする際には,氏名,
メールアドレス,ユーザーID等を記載する必要はなく,また,被告は,発言
者が本件掲示板に書き込み等をする際に電子掲示板の運営者である被告におい
て把握することができるIPアドレス等の接続情報を原則として保存していな
い。そして,被告は,本件掲示板の「使い方&注意」と題するページにおいて,
「気兼ねなく,会社,学校,座敷牢からアクセスできるように,発信元は一切
255
5.判例、裁判上の係争事項等
分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」と記載し,本件掲示板の利
用者の情報が一切秘匿されていることを強調している。
本件掲示板には,平成13年9月の時点において,特定のテーマごとに個別
の掲示板が約330種類存在し,各掲示板には,個別の話題ごとに数百個のス
レッドが存在している。各スレッドに書き込まれた発言は,日時の古い順に1
から番号が付けられている。
(イ) 本件掲示板における発言の削除方法等
本件掲示板における発言は,「削除人」ないし「削除屋」(以下「削除人」と
いう。)によって削除される場合がある。削除人は,いわゆるボランティアであ
って,それを業とする者ではなく,後記の削除ガイドラインに従って本件掲示
板における発言を削除することができるが,削除すべき義務や,削除をし,又
は,しなかったことについて責任を負わないものとされている。本件掲示板の
「いろいろな決まり」と題するページ中の「削除する人の心得」と題する項目
には,本件掲示板の全責任は「管理人たる被告」が負い,削除人が行った削除
等の行為についても,被告が責任を負う旨記載されている。また,
「削除依頼@
2ch 掲示板」において「削除の最終責任は管理人にあります」との記載がある。
削除人になろうとする者は,その旨を被告に対し電子メールの送信により連
絡し,被告が適任であると判断した者を削除人に任命し,登録することとされ
ており,現在,約180人の削除人が存在する。
被告は,本件掲示板内の「いろいろな決まり」と題するページにおいて,削
除人が削除する場合の基準として,「削除ガイドライン」(下表)を定めている。
削除ガイドラインの内容
削除対象 電話番号,地域・人種等に関する差別的発言,連続してなされた発言,
重複して作られたスレッド,過度に性的で下品な発言,著作物に当た
るデータの存在する場所のURLの書き込み,宣伝を目的としたUR
Lの書き込み等
種
個 一群
人
類
個人名・住所・所属
誹謗中傷の書き込
み
政治家・芸能人・プ 公開されているもの・情報 管理人裁定の無い
ロ 活 動 を し て い る 価値があるもの・公益性が 限 り 削 除 し ま せ
人物・有罪判決の出 有るもの・等は削除しませ ん。
た犯罪者
ん。
削除の可否は管理人が判
断します。
256
5.判例、裁判上の係争事項等
二類
三種
板の趣旨に関係す
る職業で責任問題
の発生する人物
著作物 or 創作物 or
活動を販売または
提供して対価を得
ている人物 外部
になんらかの被害
を与えた事象の当
事者
上記2つに当ては
まらない全ての人
物
外部から確認できない・責
任や事象に無関係な情報
は削除対象です。
公開されたインターネッ
トサイト・全国的マスメデ
ィア・電話帳で確認でき
る・等,隠されていない情
報については削除しませ
ん。
公益性が有り板の
趣旨に則した事
象・直接の関係者
や被害者による事
実関係の記述・等
が含まれたものは
削除しません。
趣 旨 説 明 も 公 益 性 も 無 個人を特定する情
い・誹謗中傷の個人特定が 報を伴っているも
目的である・等の場合は削 のは全て削除対象
除対象になります。
です。
法人
社会・出来事カテゴリ内では,批判・誹謗中傷,
インターネット内で公開されている情報,イン
ターネット外のデータソースが不明確なもの,
は全て放置です。その他のカテゴリ内では,掲
示板の趣旨に関係があり,客観的な問題提起が
ある・公益性のある情報を含む・その法人・企
業が外部になんらかの影響を与える事件に関
係している・等の場合は放置です。
被告は,「削除依頼の注意」と題する項目において,本件掲示板における発言
の削除を求める場合の方法について定めており,本件掲示板内の「削除依頼掲
示板」において,削除を求める発言がなされたスレッドのURL,削除を求め
る発言のレス番号,削除を求める理由等を記載したスレッドを作るなどして,
削除を求めることが必要とされ,このような方法に従わない削除依頼は無視さ
れる可能性がある旨を記載している。
(ウ) 発言の書き込みとその後の原告らの対応等
平成13年1月14日,本件掲示板内の「ペット大好き掲示板」において,
匿名の者により,「悪徳動物病院告発スレッド!!」が作られ,同スレッドにお
いて,1月16日から6月8日にかけて,いずれも複数の匿名の者により,本
件1の発言が書き込まれた。また,平成13年6月11日,上記と同様に匿名
の者により,「悪徳動物病院告発スレッド−Part2−」が作られ,同日から
同年9月21日にかけて,いずれも複数の匿名の者により,本件2の発言が書
き込まれた。
本件1のスレッドは,診療態度,診療技術等に問題のある動物病院を挙げて
批判することを建前として作られたものと解されるが,スレッドを作った者の
257
5.判例、裁判上の係争事項等
発言内容は,「悪徳動物病院をこの世から滅殺しよう!!。pにある某動物救急
病院!あそこはちょっとテレビでとりあげられたからといって調子にのってい
る!!動物の命よりもまず「金」を請求します。」というものであり,その表現
からして,およそ相当の根拠を持って事実を摘示して病院を批判する内容のも
のではなく,特定の動物病院に対し侮蔑的な表現をもって誹謗中傷するものに
すぎない。そして,その後,「悪徳動物病院告発スレッド!!」には,動物病院
や獣医を誹謗中傷する発言が多数なされ,その中には,動物病院の病院名や所
在場所を特定して誹謗中傷する発言や,病院名の一部を仮名にしてあるものの,
その所在場所等から病院名を容易に特定することができる発言も多く存在した。
原告(獣医)は,インターネットに不慣れであり,本件掲示板において発言
を書き込み,閲覧するなどして利用した経験もなかったところ,平成13年5
月ころ,本件掲示板に原告らに関する本件1の発言が書き込まれていることを
友人から聞かされて知り,5月22日,5月25日及び5月28日に,本件掲
示板の削除依頼掲示板にスレッドを作って,原告らの名誉を毀損する発言の削
除を求めた。しかし,原告(獣医)がインターネットに不慣れであり,本件掲
示板内に記載されていた削除依頼の方法に従ったものではなかった。そして,
上記削除依頼にもかかわらず,一部は削除されたが,大部分は削除されず,か
えって,「悪徳動物病院告発スレッド!!」及び削除依頼掲示板内のスレッドに
おいて,原告(獣医)による上記削除依頼を揶揄・侮辱する発言が書き込まれ
た。
原告(動物病院)は,平成13年6月21日付けの通知書をもって,被告に
対し,発言番号を指摘したうえで各発言並びに本書面発送日以降に原告(動物
病院)について記載されたと特定し得る発言で原告(獣医)を中傷するものを,
書面到達後10日以内に削除するよう求め,同通知書は,6月22日,被告に
到達した。
原告らは,平成13年7月18日,本件訴訟を提起し,同年9月19日に第
1回口頭弁論期日が開かれたが,その後,被告は,
「a動物病院裁判報告の第1
回です。」などと記載した上,本件第1回口頭弁論期日における原告ら代理人と
被告代理人との間のやりとり等について記載したメールマガジン(以下「本件
メールマガジン」という。)を発行した(被告は,不定期でメールマガジンを発
行しており,購読者数は,平成13年9月の時点において,約7万人存在した。)。
両スレッドは,平成14年4月ころまでには,本件掲示板内の「ペット大好
き掲示板」の「過去ログ倉庫」へデータが移動された。
カ 本件訴訟の係属後,本件掲示板内の「法律勉強相談掲示板」において,「a
動物病院vsX」と題するスレッドが,
「イベント企画掲示板」において「Xま
た裁判−」と題するスレッドがそれぞれ作られ,原告らが被告に対し本件訴訟
258
5.判例、裁判上の係争事項等
を提起したことが話題とされた。そして,本件スレッドの番号93には,本件
1の発言の番号662,682,683及び812の各文言と同一の文言(本
件3の発言)が書き込まれており,また,「Xまた裁判−」と題するスレッドに
は,スレッドのURLが記載されリンクが貼られるなどしている。
被告は,本件掲示板上の発言を削除することは技術的に可能である。
(2)争点とそのポイント
ア. 被告の削除義務違反の有無
【原告らの主張】
(ア) 本件各発言は,原告らの経営体制,施設,診療態度,診療方針等に関
し,事実に反し,原告らの社会的評価を低下させるものであり,原告らに対す
る名誉毀損に当たる。
(イ) 被告は,本件掲示板を設置・運営し,その内容・システムについて管
理している者であり,本件掲示板上の発言を削除する権限を有している。
被告は,IPアドレスを原則として保存しないことを約束し,本件掲示板が,
完全に匿名の掲示板であり,発言を書き込んだ者が誰であるかを特定すること
が困難又は不可能であることを保証している。また,被告は,本件掲示板にお
いて,「気兼ねなく,会社,学校,座敷牢からアクセスできるように,発信元は
一切分かりません。お気楽ご気楽に書き込んで下さい。」と発言し,違法行為を
誘発している。このような被告の行為により,本件掲示板において,名誉毀損
等の違法な発言がなされ,損害が生じ得べき危険状態が惹起されたといえる。
そして,実際に,平成13年8月28日に東京地裁において,被告に対し,日
本生命保険相互会社の従業員を誹謗中傷する発言の削除を命じる仮処分決定を
していることなどから,被告は,本件掲示板において上記のような違法な発言
がなされる危険性について認識していたといえる。
(ウ)よって,被告は,本件掲示板において違法な発言がなされないように最
大限の注意を払い,然るべき措置を講じ,違法な発言がなされた場合にはこれ
を直ちに発見して,違法な発言を削除するなどして損害の発生拡大を防止すべ
き条理上の義務を負っているというべきである。
しかるに,被告は,これらの義務に違反し,本件各発言を発見し削除すること
を怠った。
【被告の主張】
(ア)本件掲示板における情報は,当該情報の公共性,公益目的,真実性の有
無が不明な段階では,他人の権利を侵害する違法な情報であるか否かも不明で
あり,このような場合には,被告において削除義務を負うとはいえない。そし
て,本件各発言についても,その内容が真実であるか否かは不明であり,原告
259
5.判例、裁判上の係争事項等
らの権利を侵害する違法な発言かどうかも不明であるから,被告は本件各発言
の削除義務を負わない。
(イ)原告らは,被告が本件掲示板において匿名性を保証していること,被告
自ら違法な発言を助長していることなどをもって先行行為とし,被告はこれに
基づき条理上の損害防止義務を負うと主張するが,匿名による発言も表現の自
由の一環として保障されるべきであり,匿名による発言の場を提供することを
先行行為ということはできない。また,被告は,本件掲示板において違法な発
言を助長してはいない。
(ウ)被告は,本件掲示板上の発言について,物理的には削除できるが,投稿
者の表現の自由等との関係で,法的に自由に削除できる訳ではない。
被告も「特定電気通信役務提供者」(以下「プロバイダー等」という。)とし
て,プロバイダー責任法の適用を受けることになり,施行後は,本件について
も同法が適用されるものと解される。
プロバイダー責任法によると,プロバイダー等は,違法可能性情報を削除す
る場合には,違法可能性情報によって他人の権利が不当に侵害されていると信
じるに足りる相当の理由があること,すなわち,違法可能性情報に違法性阻却
事由をうかがわせる事情のないことが必要である(3条2項)ところ,本件に
おいてそのような事情のないことは認められない。
このようなプロバイダー責任法の制定経緯,規制範囲等に照らすと,被告が
本件各発言を削除しなかったことにつき削除義務違反はなく,不法行為は成立
しない。
イ.被告によるその他の不法行為
【原告らの主張】
(ア)被告は,本件各発言を削除するなどの措置を講じないまま放置するだけ
でなく,原告が本件掲示板において削除を依頼する旨の書き込みをしたのに対
し,削除依頼の方法が間違っているなどとして,インターネット及びコンピュ
ーターに不慣れな原告を嘲笑い,原告に対し,更に深い精神的苦痛を与えた。
(イ)原告らが本件訴訟を提起した後,被告はその発行するメールマガジンに
おいて本件訴訟の内容を公開した。これにより,原告らに対する更なる中傷発
言が誘発され,また,原告に対し,多数の無言電話及び脅迫電話がされるよう
になるなど,原告らに対する損害が拡大した。
【被告の主張】
被告が,本件1,2の発言を削除していないこと,メールマガジンにおい
て本件訴訟に関する記載をしたことは認めるが,その余の原告らの主張は否認
する。
憲法は裁判の公開を制度的に保障しているから(憲法82条)
,本件訴訟に
260
5.判例、裁判上の係争事項等
関する情報を公開することは何ら禁止されるべきものではない。
ウ.原告らの損害
【原告らの主張】
原告は,獣医であり,獣医学会でも評価の高い著明な存在であるところ,
本件各発言により,社会的地位,獣医としての評価を傷つけられ,多大な精神
的苦痛を被った。また,原告は,小規模の動物病院であるものの,その治療方
針,医療技術等が評価され,日本各地から多数の飼主が来院しているところ,
本件各発言により,動物病院としての社会的地位・評価を傷つけられ,経営上
の損害を受けた。
本件各発言の中には,原告らを極端に揶揄,愚弄,嘲笑,蔑視するものが
多いことからすれば,原告らの損害額は,通常の場合よりも高額となってしか
るべきであり,原告らが本件各発言により被った損害は,各250万円を下ら
ない。
【被告の主張】
原告らの主張は争う。
エ.本件各発言の削除を求めることの可否
原告らは,民法723条又は人格権としての名誉権に基づき,本件各発言
の削除を求めたの対し、被告はこれを争っている。
(3)判決の内容等
ア.被告の削除義務違反の有無
(ア) 被告は,本件掲示板を設置し,本件掲示板上の発言を削除する際の基準,
削除依頼の方法等について定めるなどして,本件掲示板を運営・管理している。
そして,本件掲示板においては,削除人は削除ガイドラインに従って発言を削
除することができる旨が定められているところ,削除人は被告によって適任で
あると判断された者が任命されているのであるから,被告は当然に本件掲示板
における発言を削除する権限を有していると認められる。
(イ) 本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がなされた場合,名誉を
毀損された者は,その発言を自ら削除することはできず,本件掲示板において
定められた一定の方法に従って,本件掲示板内の「削除依頼掲示板」において
スレッドを作って書き込みをするなどして発言の削除を求め,削除人によって
削除されるのを待つほかない。
被告が定めた削除ガイドラインは,個人に関する書き込みについて,個人の
性質に応じて3種類に定義して分類した上,発言の内容について,
「個人名・住
所・所属」に関する発言,誹謗中傷発言等に分けて,上記各分類ごとに削除す
るか否かの基準を定めているが,そもそも個人の性質に関する3種類の定義が
261
5.判例、裁判上の係争事項等
不明確である上,各分類ごとの削除するか否かの基準も不明確であるほか,管
理人である被告の判断に委ねている部分も存在する。また,法人に関する発言
の削除の基準についても,電話番号を除き,削除されない場合についてしか定
められておらず,削除されない場合についても,その内容は不明確である。結
局,本件掲示板の削除ガイドラインは,その表現が全体として極めてあいまい,
不明確であり,個人又は法人を誹謗中傷する発言がいかなる場合に削除される
のかを予測することは困難であるといえる。
このように,削除人が削除する際の基準とされている削除ガイドラインの内
容が不明確であり,しかも,削除人は,それを業としないボランティアにすぎ
ないことから,本件掲示板における発言によって名誉を毀損された者が,所定
の方式に従って発言の削除を求めても,必ずしも削除人によって削除されると
は限らない。
(ウ) 本件掲示板においては,管理者である被告において,利用者のIPアド
レス等の接続情報を原則として保存せず,その旨を明示していることにより,
匿名で利用することが可能であり,利用者が意図しない限り,利用者の氏名,
住所,メールアドレス等が公表されることはない。したがって,本件掲示板に
おける発言によって名誉を毀損された者が,匿名で名誉を毀損する発言をした
者の氏名等を特定し,その責任を追及することは極めて困難である反面,発言
者は,自らの責任を問われることなく,他人の権利を侵害する発言を書き込む
ことが可能である。そして,このような匿名で利用できる電子掲示板において
は,他人の権利を侵害する発言が数多く書き込まれることが容易に推測され,
原告らのほかに,多くの動物病院,獣医等の名誉を毀損する発言が書き込まれ
ていることが認められる。
(エ) 本件掲示板は,約330種類のカテゴリーに分かれており,1日約80
万件の書き込みがあること,削除人はそれを業とする者ではないいわゆるボラ
ンティアであることからすると,被告が本件掲示板において他人の権利を侵害
する発言が書き込まれているかどうかを常時監視し,削除の要否を検討するこ
とは事実上不可能であった。
(オ)以上のような諸事情を考慮すると,被告は,遅くとも本件掲示板におい
て他人の名誉を毀損する発言がなされたことを知り,又は,知り得た場合には,
直ちに削除するなどの措置を講ずべき条理上の義務を負っているものというべ
きである。
(カ)この点につき,被告は,本件掲示板における発言の公共性,公益目的,
真実性等が明らかでない場合には,削除義務を負わないと主張する。
ところで,事実を摘示しての名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に
関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,摘
262
5.判例、裁判上の係争事項等
示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときに
は,上記行為には違法性がなく,仮に上記事実が真実であることの証明がない
ときにも,行為者において上記事実を真実と信ずるについて相当の理由があれ
ば,その故意又は過失は否定され,また,ある事実を基礎としての意見ないし
論評の表明による名誉毀損にあっては,その行為が公共の利害に関する事実に
係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に,上記意見ないし
論評の前提としている事実が重要な部分について真実であることの証明があっ
たときには,人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したもので
ない限り,上記行為は違法性を欠くものとされ,上記意見ないし論評の前提と
している事実が真実であることの証明がないときにも,行為者において上記事
実を真実と信ずるについて相当の理由があれば,その故意又は過失は否定され
ると解されている(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷
判決・民集51巻8号3804ページ参照。以下,合わせて「真実性の抗弁,
相当性の抗弁」という。)。
被告の主張は,被告において上記の真実性の抗弁,相当性の抗弁について主
張・立証責任を負うことはなく,むしろ原告らにおいて反対の事実を主張・立
証することを要求するものと解される。
しかしながら,本件掲示板における発言によって名誉権等の権利を侵害され
た者は,前記のとおり,被告が,利用者のIPアドレス等の接続情報を原則と
して保存していないから,当該発言者を特定して責任を追及することが事実上
不可能であり,しかも,被告が定めた削除ガイドラインもあいまい,不明確で
あり,また,他に本件掲示板において違法な発言を防止するための適切な措置
を講じているものとも認められないから,設置・運営・管理している被告の責
任を追及するほかないのであって,このような被告を相手方とする訴訟におい
て,発言の公共性,目的の公益性及び真実性が存在しないことを削除を求める
者が立証しない限り削除を請求できないのでは,被害者が被害の回復を図る方
途が著しく狭められ,公平を失する結果となる。
このことからすれば,本件において,本件各発言に関する真実性の抗弁,相
当性の抗弁についての主張・立証責任は,管理者である被告に存するものと解
すべきであり,本件各発言の公共性,公益目的,真実性等が明らかではないこ
とを理由に,削除義務の負担を免れることはできないというべきである。
よって,この点に関する被告の主張を採用することはできない。
(キ)また,被告は,この点に関連して,匿名の発言も表現の自由の一環とし
て保障されるべきであり,匿名による発言の場を提供していることを先行行為
として条理上作為義務を認めることは許されないとも主張する。
しかし,表現の自由といえども絶対無制約のものではなく,正当な理由なく
263
5.判例、裁判上の係争事項等
他人の名誉を毀損することが許されないのは当然であり,このことは匿名によ
る発言であっても何ら異なるところではない。しかも,被告は,本件掲示板に
ついて,IPアドレス等の利用者の情報を一切保存していないので,本件掲示
板にいったん掲示された発言については事実上被告以外に管理者はいないから,
被告が管理者としてその責任を負担するのは当然というべきであり,被告の上
記主張は採用することができない。
(ク)以上を前提に,被告が本件各発言を削除しなかったことが上記削除義務
の違反に当たるかどうかについて以下検討する。
(ケ)各発言は,いずれも,「悪徳動物病院告発スレッド!!」又は「悪徳動物
病院告発スレッド−Part2−」という題のスレッドの下で,原告らあるい
は原告(動物病院)又は原告(獣医)のいずれかの名前を挙げ,又は,原告ら
の名前の一部を伏字等にするものの,原告らを指し示すことが容易に推測され
る文言を記載した上,「ブラックリスト」
,「過剰診療,誤診,詐欺,知ったかぶ
り」,「えげつない病院」,「ヤブ(やぶ)医者」,「精神異常」,「精神病院に通っ
ている」,「動物実験はやめて下さい。」,「テンパー」,「責任感のかけらも無い」,
「不潔」,
「氏ね(死ねという意味)」,「被害者友の会」,「腐敗臭」,「ホント酷い
所だ」,「ずる賢い」,「臭い」などと侮辱的な表現を用いて誹謗中傷する内容で
あり,原告らの社会的評価を低下させるものであることは明らかである。
また,各発言は,その発言自体には原告らを特定する文言はないものの,本件
1のスレッドの他の発言と併せ読めば,これらの発言がいずれも原告らに向け
られていることは,その内容に照らし明らかであり,原告らの社会的評価を低
下させるものであるといえる。
さらに,
「a動物病院vsX」の発言は,各文言と同一の文言が書き込まれた
ものであり,これも原告らの社会的評価を低下させるものである。
したがって,上記各発言(「悪徳動物病院告発スレッド!!」の発言から番号
764,872を除く。),「悪徳動物病院告発スレッド−Part2−」の各発
言,「a動物病院vsX」の発言。以下「本件各名誉毀損発言」という。)は,
原告らの名誉を毀損するものというべきである。
なお,原告(動物病院)は,動物病院の経営等を目的とする有限会社であると
ころ,本件各名誉毀損発言は,いずれも悪徳動物病院の告発を目的とするスレ
ッドにおいて,原告(獣医)の経営体制,施設等を誹謗中傷するとともに,代
表者・獣医である原告(獣医)の診療態度,診療方針,能力,人格等をも誹謗
中傷するものであり,原告(動物病院)と原告(獣医)の両名に対して向けら
れ,原告らの社会的評価を低下させるものというべきである。
(コ)「悪徳動物病院告発スレッド!!」の番号764,872の各発言につい
ては,これを本件スレッドの各スレッド名及び他の発言と併せ読んでも,いず
264
5.判例、裁判上の係争事項等
れも原告らの社会的評価を低下させる内容のものということはできず,原告ら
に対する名誉毀損には当たらない。
(サ)そして,原告(動物病院)は,被告に対し,平成13年6月21日付け
の通知書をもって発言の削除を求め,同通知書は,同月22日,被告に到達し
たから,これにより,被告は,本件各名誉毀損発言のうち,各発言について,
本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。また,原
告らは,本件訴状の別紙発言目録1において,上記通知書で削除を求めた発言
の他に,「悪徳動物病院告発スレッド!!」の発言623,685の各発言につ
いても削除を求め,本件訴状は平成13年8月4日,被告に送達されたので,
被告は,同日までに,上記各発言が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に
知ったものと認められる。さらに,本件3の発言が記載された甲第9号証は,
平成13年11月5日に被告代理人が受領し,同月7日の本件第2回口頭弁論
期日に提出されたから,被告は,同日までに,本件3の発言が書き込まれたこ
とを具体的に知ったものと認められる。また,原告らは,平成14年1月30
日付け「請求の趣旨訂正申立書」において,被告に対し,「悪徳動物病院告発ス
レッド−Part2−」の発言297他10件の発言の削除を求め,同申立書
は,同日,被告に送達されたので,被告は,同日までに,上記各発言が本件掲
示板に書き込まれたことを具体的に知ったものと認められる。
(シ)しかるに,被告は,前記のとおり,本件口頭弁論終結時である平成14
年4月17日においても,本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置を講じて
いないのであるから,被告には作為義務違反が認められ,原告らに対する不法
行為が成立する。
(ス)なお,被告は,本件にはプロバイダー責任法が適用され,同法の制定経
緯,規制範囲等に照らすと,被告が本件各発言を削除しなかったことにつき削
除義務違反はないと主張する。
プロバイダー責任法は,平成13年11月30日に公布され,本件口頭弁論
終結後の平成14年5月27日に施行されたことは,当裁判所に顕著な事実で
あり,本件に直ちに適用されるものではないが,その趣旨は十分に尊重すべき
であるところ,同法は,3条1項において,特定電気通信による情報の流通に
より他人の権利が侵害されたときは,プロバイダー等は,権利を侵害した情報
の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合
であって,当該プロバイダー等が当該特定電気通信による情報の流通によって
他人の権利が侵害されていることを知っていたとき,又は,当該プロバイダー
等が,当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって,当該電
気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ること
ができたと認めるに足りる相当の理由があるときでなければ,当該プロバイダ
265
5.判例、裁判上の係争事項等
ー等が当該権利を侵害した情報の発信者である場合を除き損害賠償責任を負担
しない旨定めている。
しかしながら,被告は,前記のとおり,本件掲示板上の発言を削除すること
が技術的に可能である上,通知書,本件訴状,請求の趣旨訂正申立書等により,
本件1ないし3のスレッドにおいて原告らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発
言が書き込まれたことを知っていたのであり,これにより原告らの名誉権が侵
害されていることを認識し,又は,認識し得たのであるから,プロバイダー責
任法3条1項に照らしても,これにより責任を免れる場合には当たらないとい
うべきである。
イ.被告によるその他の不法行為
(ア) 原告らは,被告は,原告(獣医)が本件掲示板において発言の削除を求
めたのに対し,削除依頼の方法が間違っているなどとして原告(獣医)を嘲笑
ったなどと主張するが,前記のとおり,原告(獣医)の削除依頼に対し揶揄・
侮辱する発言が書き込まれたことは認められるが,被告がそれらの発言を書き
込んだことを認めるに足りる証拠はなく,原告らの主張は理由がない。
(イ) また,原告らは,被告がその発行するメールマガジンにおいて本件訴訟
の内容を公開したため,原告らに対する更なる中傷発言が誘発され無言電話等
がなされたなどと主張する。
本件訴訟の提起後も本件掲示板において原告らを誹謗中傷する発言がなされ
ていたことが認められ,また,原告(動物病院)に対し無言電話が多数回かか
ってきたことがうかがわれる。しかし,本件メールマガジンには本件第1回口
頭弁論期日における両当事者の発言等について記載されているにすぎず,原告
らに対する誹謗中傷に当たる記載,あるいは,原告らに対する中傷や嫌がらせ
を誘発する記載は認められないことからすれば,被告が本件メールマガジンを
発行したことが原告らに対する不法行為を構成するものということはできない。
よって,この点に関する原告らの主張も理由がない。
ウ.原告らの損害
(ア) 本件各名誉毀損発言については,その内容が真実であることを認めるに
足りる証拠はないし,専ら公益を図る目的のためになされたものであることを
認めるに足りる証拠もない。そして,本件各名誉毀損発言において用いられて
いる表現には,「ヤブ医者」,「精神異常」
,「動物実験」,「氏ね(死ね)」,「臭い」
などと激烈かつ侮蔑的なものが多数含まれている。
本件掲示板は,誰でも自由に閲覧することができ,極めて多数の利用者があ
る著名な電子掲示板であり,本件掲示板内の「ペット大好き掲示板」における
266
5.判例、裁判上の係争事項等
「悪徳動物病院告発スレッド!!」「悪徳動物病院告発スレッド−Part2
−」及び「法律勉強相談掲示板」における本件3のスレッドに書き込まれた本
件各名誉毀損発言は,動物病院の利用者,獣医等を含む不特定多数の者が認識
し得るものであり,その影響は大きい。しかも,被告は,原告らが通知書や本
件訴状等をもって本件各名誉毀損発言の削除を求めた後も,現在に至るまでこ
れに応じて削除することがなく,本件各名誉毀損発言が書き込まれた本件1な
いし3のスレッドは,現在も,本件掲示板に存在しており,不特定多数の者が
閲覧し得る状態に置かれている。
原告(獣医)は,昭和58年に動物病院を開業し,現在まで,原告(動物病
院)の代表者・動物病院の院長として動物病院を経営し,獣医として診療を行
い,日本獣医学会,日本臨床獣医学会等にいくつかの論文を発表しており,そ
のため,上記動物病院は,日本各地から多数の飼主が訪れる病院であることか
らすれば,本件掲示板に本件各名誉毀損発言が存在し続け,現在まで不特定多
数の者の閲覧し得る状況に置かれていることは,原告(獣医)に多大な精神的
苦痛を与えたほか,原告(動物病院)の経営にも相当の影響を及ぼすものと認
められる。
(イ) 以上のような諸般の事情に鑑みれば,本件各名誉毀損発言がなされた時
点において,電子掲示板を運用・管理する者が掲示板上の発言を削除する際の
指標となるべき法令等が存在しなかったこと,本件各名誉毀損発言の書き込み
をしたのは,複数人と思われる匿名の者であり,被告自身が本件各名誉毀損発
言の書き込みに直接関与したものとは認められないことなどの事情を考慮して
も,被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措置をとらなかったことによ
り,原告らが被った精神的損害,経営上の損害は,各200万円を下らないも
のと認めるのが相当である。
エ.本件各発言の削除を求めることの可否
(ア) 人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客
観的評価である名誉を違法に侵害された者は,損害賠償及び名誉回復のための
処分を求めることができるほか,人格権としての名誉権に基づき,加害者に対
し,現に行われている侵害行為を排除し,又は将来生ずべき侵害を予防するた
め,侵害行為の差止めを求めることができる場合がある(最高裁昭和56年(オ)
第609号同61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872ページ参照)。
(イ) そして,前記のとおり,被告が本件各名誉毀損発言を削除するなどの措
置を講じなかった行為は,原告らの名誉を毀損する不法行為を構成するのであ
り,これに加え,本件各名誉毀損発言の内容は,真実と認めるに足りず,その
表現も極めて侮辱的なものであり,獣医である原告(獣医)の受けた精神的苦
267
5.判例、裁判上の係争事項等
痛の程度は大きかったものと認められ,原告(獣医)の経営する原告(動物病
院)もその経営に相当の影響を受けたものと認められ,さらに本件各名誉毀損
発言が削除されない限り,原告らに継続して損害が生じると予想されること,
被告は,通知書,本件訴状及び請求の趣旨訂正申立書において本件各名誉毀損
発言の削除を求められた後も,これに応じて削除をすることはなく,本件各名
誉毀損発言は現在も本件掲示板に存在し,不特定多数人の閲覧し得る状態に置
かれていること,本件各名誉毀損発言を削除すべきものとしても,その内容及
び匿名で発言していることに照らし,発言者が被る不利益は少なく,また,被
告が被る不利益も少ないといえることなどの諸事情を考慮すると,原告らは,
それぞれ,人格権としての名誉権に基づき,被告に対し,本件各名誉毀損発言
の削除を求めることができるものというべきである。
(ウ) 以上に対し,「悪徳動物病院告発スレッド!!」の764,872の各発
言については,前記2(2)イのとおり,原告らの名誉を毀損するものとは認めら
れないから,これらの発言の削除を求めることはできない。
(エ) また,原告らは,被告に対し,本件掲示板内の各掲示板における「悪徳
動物病院告発スレッド!!」「悪徳動物病院告発スレッド−Part2−」の発
言と同一の文言の削除を求めており,その趣旨は必ずしも明らかではないもの
の,現に書き込まれている名誉毀損発言の削除を求めているものと解される。
そして,前記のとおり,本件3の発言(本件3のスレッドの番号93の文言)
については,人格権としての名誉権に基づき,削除を求めることができると解
するのが相当である。
しかし,上記以外には,本件掲示板内のいずれかの掲示板に本件1,2の発
言と同一の文言が書き込まれていることを認めるに足りる証拠はなく,上記以
外の発言の削除を求めることはできないというほかない。
仮に,原告らの請求が,将来生ずべき侵害の予防として削除を求めていると
しても,本件記録中に本件掲示板内の各掲示板に本件各名誉毀損発言と同一の
文言が記載される具体的なおそれがあるものと認めるに足りる証拠はないから,
本件掲示板内の各掲示板において本件各名誉毀損発言と同一の文言の削除を求
めることはできない。
(オ) なお,原告らは,民法723条を根拠としても本件各発言の削除を求
めているが,同様に,本件各名誉毀損発言以外の各文言の削除を認めることは
できない。
268
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.7
ニフティFBOOK事件(控訴審)
平成13年(ネ)第5204号
損害賠償請求控訴事件(原審・東京地方裁判所
平成11年(ワ)第2404号)
平成14年7月31日東京高裁判決
【要旨】ニフティサーブ会員で本と雑誌のフォーラム(FBOOK)に参加
していた訴外会員「神名」によりなされた書き込みが、同フォーラムに参加
していた会員である原告に対する名誉毀損、プライバシー侵害、嫌がらせの
不法行為であるとし、原告が精神的被害を受けていたにもかかわらず、ニフ
ティサーブを管理運営している被告ニフティが、同書き込みの監視・削除や、
神名に対する指導・サービス停止・除名、 紛争解決のための個人情報の開示
等適切な措置を執らなかったなどと主張して、被告ニフティに対し、①債務
不履行又は不法行為に基づき、精神的被害に対する損害賠償金200万円並
びに②被控訴人が合理的な理由がないのに神名の契約者情報(氏名及び住所)
を秘匿・隠蔽し、控訴人の名誉権の回復を妨害し、積極的・継続的に名誉権
の侵害行為をしていることに対する人格権に基づく差止請求権及び不法行為
に基づく妨害排除請求権を根拠として、神名の氏名及び住所の情報開示を求
めた事案。東京地裁はいずれの不法行為の成立も認めず、原告の請求を棄却
した。原告は控訴したが、東京高裁は請求を棄却した。
(注:本文中の個人名は仮名である)
(1)事案の概要
ア.本件は、プロバイダーである被控訴人との間で、平成7年10月3日に、
被控訴人が管理運営していたパソコン通信サービスである「ニフティサーブ」
に加入する契約を締結し、平成9年9月ころから、一定の趣味・テーマ等につ
いて議論・情報交換や情報提供等をするためのいわば仮想サークルである「本
と雑誌フォーラム」 (以下「本件フォーラム」という。)に加入し、 フォーラ
ム内における会員同士によるいわば仮想会議室である 「パティオ」(会員が自
由に書き込みをすることができ、かつ、その宛名にかかわらず、パスワードを
入力することなどにより他の会員が閲覧することができるので、多人数間での
論争や情報交換が可能となっている。) を利用していた際に、他人間の論争に
関する発言や、言葉遣いに対する批判の問題等から、ハンドル名「神名」なる
者(ニフティサーブ会員ID番号QWS*****番。ハンドル名とはニフテ
ィサーブ上で自己を表示するため仮想の呼称である。) と対立的な関係となっ
た控訴人 (ハンドル名 「A〜 E」 )が、神名が、平成10年3月21日か
ら平成11年2月12日までの間に、概要、原判決添付別表1符号4、13、
269
5.判例、裁判上の係争事項等
19、20、22、23及び26記載のとおりの本件フォーラムやパティオに
おける書き込みによって名誉毀損及び侮辱の不法行為を行い、さらに、神名が、
本件フォーラムやパティオにおける書き込みの際に、原判決添付別表2記載の
とおり、ハンドル名として「神名ななこ」 (平成10年6月20日)、 「神名
奈那子」
(同年12月11日) 及び「神名奈菜子」
(平成11年1月26日から
同年7月23日まで) という控訴人の名を使用したことにより、控訴人の情報
コントロール権を侵害し、控訴人と神名の混同を惹起し、さらにハンドル名「A
〜E」が控訴人(本名甲山奈那子)であるとの事実を公表して、プライバシー
を侵害し、かつ、嫌がらせの不法行為を行い、これらにより控訴人が精神的被
害を受けていたにもかかわらず、ニフティサーブを管理運営している被控訴人
が、神名の前記各不法行為に対して、上記書き込みの監視・削除や、 神名に対
する指導・サービス停止・除名、 紛争解決のための個人情報の開示等適切な措
置を執らなかったなどと主張して、
被控訴人に対し、①債務不履行又は不法
行為に基づき、精神的被害に対する損害賠償金200万円の内金90万円及び
弁護士費用10万円の合計100万円並びにこれに対する本件訴状の送達の日
の翌日である平成11年3月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合
による遅延損害金の支払、並びに②被控訴人が合理的な理由がないのに神名の
契約者情報(氏名及び住所)を秘匿・隠蔽し、控訴人の名誉権の回復を妨害し、
積極的・継続的に名誉権の侵害行為をしていることに対する人格権に基づく差
止請求権及び不法行為に基づく妨害排除請求権を根拠として、神名の氏名及び
住所の情報開示を求める事案である。
事案の概要は、当審における控訴人の補充主張の要旨として次項のとおり加
えるほかは、原判決「事実及び理由」欄中の「第2
事案の概要」1及び2に
記載のとおりであるから、これを引用する。
なお、本判決においても、原則として原判決と同じ略語を使用することとす
る。
イ.当審における控訴人の補充主張の要旨
(ア)原判決が、パソコン通信上の発言が名誉毀損ないし侮辱行為に該当する
ための判決基準の基礎として提示した、発言内容が不特定多数の第三者に理解
可能か否か、当該発言内容が真実と受け取られるおそれがあるか否かという基
準は、誤りであって、不合理な結果をもたらすものであり、先例における基準
にも反している。他人の社会的評価を低下させる危険性を有するかどうかにつ
いては、一般読者の普通の注意と読み方をもってすれば真実が含まれているで
あろうと信じるかどうかを判断基準とすべきであり、この点は、発言の媒体が
本件フォーラムやパティオであることによって変わるところはない。
270
5.判例、裁判上の係争事項等
(イ)原判決が、パソコン通信上の発言が名誉毀損ないし侮辱行為に該当する
ための判断基準として提示した、発言された前後の文脈に照らして判断すると
いう基準は、誤りであって、不合理な結果をもたらすものである。当該表現行
為が名誉毀損又は侮辱に当たるかは、原則として当該表現行為そのものを抽出
して判断されるべきであり、前後の文脈を判断するのは例外的な場合に限られ
るべきである。殊に、当該行為者以外の第三者(被害者も含む。)の言動を判断
基準に取り込むことは、原則として許されるべきではない。
(ウ)原判決が、パソコン通信上の発言が名誉毀損ないし侮辱行為に該当する
ための判断基準として提示した、被害者が加害者に対して十分な反論を行い、
それが功を奏した場合は、被害者の社会的評価は低下していないと評価するこ
とが可能であるという基準は、誤りであって、不合理な結果をもたらすもので
あり、先例における基準にも反している。名誉毀損行為又は侮辱行為が不特定
多数の者の認識可能な状態に置かれれば、直ちに不法行為に基づく損害賠償請
求権が発生するのであり、不法行為後の事情によってこれが左右されるもので
はない。
(エ)原判決が、パソコン通信上の発言が名誉毀損ないし侮辱行為に該当する
ための判断基準として提示した、被害者が加害者に対して相当性を欠く発言を
し、それに誘発される形で、加害者が被害者に対して問題となる発言をしたよ
うな場合には、その発言が対抗言論として許された範囲内のものと認められる
限り、違法性を欠くこともあるという基準は、誤りであって、不合理な結果を
もたらすものであり、先例における基準にも反している。被害者が自ら招いた
結果として加害者による名誉毀損行為が行われたとしても、当該名誉毀損行為
が、法令で規定された違法性阻却事由に該当するか、又は相手方の批判・非難
に対する反論として、自己の正当な利益を擁護するためにやむを得ず行った言
動で、かつ、その方法、内容について適当と認められる限度を超えていないと
いう場合を除き、加害者による名誉毀損行為が成立する。
(オ)原判決は、発言行為が、名誉毀損又は侮辱のいずれに当たるか、また、
単純な事実の摘示による名誉毀損行為又は事実の摘示を前提とした意見若しく
は論評の形を採った名誉毀損行為のいずれに当たるかの区別によって、その成
立要件又は違法性阻却事由が異なるにもかかわらず、そのような区別を全くせ
ずに判断している。
(カ)本件各発言は、議論としての目的を有しない、無意味な、単なる他人を
揶揄・ 罵倒する目的をもってされた発言であるから、 「対抗言論」あるいは
「表現の自由の保護」などといった観点からの議論をする必要はない。
(キ)本件発言1は、FBOOKフォーラムCの第19会議室における控訴人
を含む複数の発言者の発言が被害妄想の気質を持っている旨の特定事項に関す
271
5.判例、裁判上の係争事項等
る意見表明であって、事実を摘示しているものであり、名誉毀損行為に当たる。
また、前後の文脈を見ても、本件発言1は、ハンドル名「三枝」なる者の発言
に対する神名の執ようなあげ足取り的な非難・攻撃が続き、控訴人以外の他の
会員たちも困惑している中で行われたものであって、議論を装った単なる名誉
毀損行為にすぎない。これに対し、控訴人は、当該会議室における神名の無意
味な「三枝」攻撃を終結させる目的で、神名を諌めたり、当該会議室での議論
を本来の目的に戻すように発言していたものにすぎず、自己のための反論など
はしていない。さらに、神名は、原判決が控訴人による反論と評した発言の後
も、控訴人に対する誹謗中傷を継続している。
(ク)本件発言2は、FBOOKフォーラムCの第19会議室における控訴人
の発言に対する意見表明であり、控訴人の発言が虚構で、妄想であるかのよう
な印象を与える内容であるから、特定事項に関する意見表明であって、事実を
摘示しているものであり、名誉毀損行為に当たり、侮辱の要素も存在する。ま
た、同発言は、精神に障害を持つ者を侮辱するものである上、その後も、控訴
人及び三枝に対し、議論に名を借りて暗喩や推理を多用した誹謗中傷を継続し
ており、これに対する控訴人の反論は、防御的にされたものにすぎない。
(ケ)本件発言3は、控訴人が文字の意味内容を理解する能力が欠けており、
思い込みが甚だしいという事実を摘示しているものであって、名誉毀損行為に
当たり、本件発言4も、控訴人の日本語に対する読解力、表現力の欠如という
事実を摘示しているものであって、名誉毀損行為に当たる。両発言のされた経
緯は、ハンドル名「澤(ことpal)」と 「三枝」
との論争を収束に向かわ
せるべく、 控訴人やハンドル名 「ちだ」が双方をとりなす発言をしていたと
ころ、神名が突然介入して、控訴人の国語能力の不足等を揶揄する発言をした
ため、論争が始まり、さらに、神名が控訴人を「小学生並み」などと侮辱する
発言を繰り返したために、控訴人も神名を非難したところ、それに対し、両発
言がされたというものであり、控訴人が挑発したものではない。神名は、両発
言後も、控訴人の学歴を疑わしめる発言を多数回するなど、控訴人に対する攻
撃を継続した。
(コ)本件発言5及び6は、バトルウオッチャーパティオという公開会議室に
おける発言であり、FBOOKフォーラムAの第16会議室における近接する
日時の神名の発言(控訴人の感情を害する目的のみによってされた1010番
発言)との関係や、控訴人が多数の会員に対し自己の本名による電子メールを
送信したことがあることなどを勘案すると、上記神名の発言や控訴人の本名を
知る者にとっては、神名によって「奈那子」という名称を使用された特定の個
人、すなわち控訴人が、常識を逸脱した習癖の持ち主であることを指摘し、控
訴人の「自己の本名を使用された」との抗議が虚構のものであるとの事実を摘
272
5.判例、裁判上の係争事項等
示しているものであって、名誉毀損行為に当たる。
(サ)本件発言7は、控訴人が財産を管理する正常な能力を有さない者である
との事実を摘示しているものであって、名誉毀損行為に当たる。また、同発言
は、神名が度重なる控訴人に対する名誉毀損行為をし、控訴人が既に本件訴え
を提起した後に、これを揶揄したものであり、控訴人の発言に対する反論など
ではない。
(シ)神名の発言の前後の状況からすると、神名が用いた各ハンドル名が実在
する人物を指していると考えるのが常識であること、神名が用いた各ハンドル
名中の「ななこ」、 「奈那子」及び「奈菜子」という部分が控訴人の本名とそ
の重要部分が一致すること、パソコン通信は匿名社会であり、控訴人も匿名を
自己の発言の絶対条件としていたこと、しかるに、神名が「ななこ」、 「奈那
子」及び「奈菜子」というハンドル名を使用したことにより、控訴人と面識の
ない第三者も、当該名称が控訴人の名であると識別することができるようにな
ったことなどからすると、上記ハンドル名の使用が控訴人のプライバシー侵害
行為であることは明らかである。
(ス)嫌がらせ行為が違法か否かは、被害者の人格(個人の尊厳)が侵された
かどうかという点を基準に判断されるべきであるところ、本件では、神名が前
記ハンドル名を合計29回も使用したこと、控訴人との論争の最中に、「電波」、
「妄想」、 「自称東大卒」などという名誉毀損表現と並列的に使用したこと、
神名は、専ら控訴人の感情を害するという嫌がらせ目的でハンドル名を使用し
たこと、神名のシスオペに対する弁解は不合理であること、控訴人が既にPT
SDであることを公言し、精神的ぜい弱性を有することを知りつつ、控訴人の
本名をハンドル名に使用した悪質なものであること、ネットワークの匿名性を
悪用したものであることなどからすると、神名による前記ハンドル名の使用は、
控訴人に対する嫌がらせ行為として、不法行為に該当する。
(セ)神名による誹謗中傷行為や前記ハンドル名の使用を含めた神名の控訴人
に対する一連の行為は、全体として考えると、社会通念上許容される範囲を超
えており、控訴人に対する嫌がらせ行為として、不法行為に該当する。
(3)判決の内容等
ア.当裁判所も、神名の不法行為は認められないので、控訴人の請求は、その
余の点について判断するまでもなく、理由がないものと判断する。
その理由は、次のとおりに原判決を改め、次項のとおり当審における控訴人
の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決 「事実及び理由」欄中の「第
3
争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。
(ア)
原判決15頁2行目及び6行目の各「パソコン通信上の表現行為」を
273
5.判例、裁判上の係争事項等
いずれも「本件フォーラム又はパティオにおける書き込み」に改め、同7行目
の「表現」を削除し、同11行目の「議論を行ったり,情報を交換したりする」
を「自由に議論を交わしたり、論争したり、意見や感想を述べたり、情報を交
換・提供したり、あるいは、いわば雑談に類する話をしたりする」に、同21
行目から同22行目にかけての「否かを判断の基礎とする」までを「否かにつ
いても十分考慮する」にそれぞれ改める。
(イ)原判決15頁24行目の「被害者が」から同16頁2行目の「相当とは
いえない。」までを次のとおりに改める。
「本件フォーラムやパティオにおける書き込みによる論争ないし言い争いが
継続していた場合は、被害者が加害者に対して反論を行い、それが功を奏して
いるときや、被害者が加害者に対して相当性を欠く発言をし、それに誘発され
る形で、加害者が被害者に対してこれに対抗する発言をしたようなときなどに
は、被害者の社会的評価が低下していないと評価すべきときがあるから、この
ようなときに、上記のような発言の前後の事情を切り離して、加害者の1回の
書き込みのみ、あるいはその一部分の表現のみを取り出して、それが名誉毀損
あるいは侮辱に当たるか否かを判断することは、被害者の名誉の毀損又は名誉
感情の侵害の有無を正当に評価する方法とはいえない上、表現の自由を萎縮さ
せるおそれがあり、相当ではない。」に改める。
(ウ)原判決16頁5行目の「必要かつ十分な反論」を「相応な反論」に改め、
同6行目の「被害者」から13行目の「べきである。」までを次のとおりに改め
る。
「被害者の反論も相応の効果を挙げているか、あるいは、被害者が加害者に
対して相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が被害者に対抗
する発言をしており、双方の書き込みを全体としてみれば、論争ないし言い争
い又は単なる感情的な悪口を言い合う状況となっており、一般の読者にとって、
それらの書き込みのみによっては、格別被害者の社会的評価が低下すると受け
止められるとはいえない場合には、名誉毀損ないし名誉感情の侵害は成立しな
いと解するのが相当である。」
(エ)原判決16頁14行目の「パソコン通信上の表現行為」を「本件フォー
ラム又はパティオにおける書き込み」に、同行から同15行目にかけての「パ
ソコン通信上の発言」を「上記書き込みによる発言」にそれぞれ改め、同19
行目から20行目にかけての「,対抗言論として違法性が阻却されるか否か」
を削除する。
274
5.判例、裁判上の係争事項等
(オ)原判決17頁3行目の「侮辱的な表現である」を「侮辱的な表現を含む」
に、同12行目の「発言したことも許容される表現である」を「発言したこと
は、文言の適切を欠くものではあるが、結局、お互いの言い争いの中で、表現
の行き過ぎがあったものにすぎない」にそれぞれ改める。
(カ)原判決18頁5行目の「侮辱的な表現である」を「侮辱的な表現を含む」
に、同20行目の「対抗する」から同21行目の「阻却されている」までを「対
抗する言論の行使にすぎない」に、 同23行目の「また」を「そうすると」に、
同26行目の「真実である」を「そのまま真実である」にそれぞれ改め、同1
9頁2行目の「加えて」から同7行目の「e」までを削除する。
(キ)原判決19頁13行目の「侮辱的表現である」を「侮辱的な表現を含む」
に、 同21行目の「反論」から同22行目の「阻却されている」までを「反論
にすぎない」に、同25行目から26行目にかけての「必要かつ十分な反論を
しており」を「相応な反論をしていることも考え合わせると」にそれぞれ改め
る。
(ク)原判決20頁9行目の「侮辱的な表現である」を「侮辱的な表現を含む」
に、同21頁1行目の「ある程度」から同3行目の「阻却されていると解する」
までを「これに対応する神名の控訴人に対する発言内容もある程度過激なもの
になっても、これらの書き込みの一般読者の観点からすると、単なる感情的な
悪口にすぎないと認める」に、同7行目の「必要かつ十分な反論」を「相応な
反論」に、 同9行目の「原告は」から同10行目にかけての「必要かつ十分な
反論をしており,本件発言4は」を「本件発言4は、控訴人の社会的評価を低
下させるおそれのあるものとまでいうことはできないから」にそれぞれ改める。
(ケ)原判決21頁17行目の「しているのは」を「している対象が」に改め、
同19行目の「よって」から同20行目の「認められない。」までを削除し、同
22行目の「「電波障害」」の次に「など」を加え、同24行目から25行目に
かけての「,必要かつ十分な反論をしており」を「相応な反論をしている上、
本件発言5及び6には格別過激な表現は含まれていないことや、これが控訴人
に対するコメントであることまで理解し得る読者にとっては、神名と控訴人と
が単に論争ないし言い争いをしているものにすぎないこともまた理解し得るも
のと認めるのが相当である。したがって」に改める。
275
5.判例、裁判上の係争事項等
(コ)原判決22頁 8 行目から 9 行目にかけての 「侮辱的な表現に当たる」を
「侮辱的な表現を含む」に、同13行目の「必要かつ十分な反論」を「相応な
反論」にそれぞれ改め、同15行目の「加えて」から同21行目の「相当であ
る。」までを削除する。
イ.当審における控訴人の補充主張に対する判断
(ア)控訴人は、原判決が、パソコン通信上の発言が名誉毀損ないし侮辱行為
に該当するための判断基準として提示した、①発言内容が不特定多数の第三者
に理解可能か否か、当該発言内容が真実と受け取られるおそれがあるか否かを
判断の基準とする、②発言された前後の文脈に照らして判断する、③被害者が
加害者に対して十分な反論を行い、それが功を奏した場合は、被害者の社会的
評価は低下していないと評価することが可能である、④被害者が加害者に対し
て相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が被害者に対して問
題となる発言をしたような場合には、その発言が対抗言論として許された範囲
内のものと認められる限り、違法性を欠くこともあるという四つの考え方は、
いずれも誤りであって、不合理な結果をもたらしたり、先例における基準に反
するものであるとして、多数の判例を引用した上、詳細な主張を行っている
確かに、控訴人の批判する上記①ないし④の考え方は、 パソコン通信におけ
る名誉毀損又は侮辱の成否一般を判断するための独立した判断基準とするには
必ずしも適切なものではなく、 また、④の考え方を独立の違法性阻却事由と解
することも相当ではない。 しかし、本件のような、 パソコン通信により一定
の趣味ないしテーマに関する仮想サークルないし仮想会議室において自由に議
論が行われ、それが論争ないし言い争いの形を呈して継続するような場合に問
題となる書き込みがされたときは、 前示のとおり、①ないし④の点を重要な考
慮要素として、これらを総合して、 被害者の社会的評価を低下させる表現行為
であるか否かを判断するのが相当である。
控訴人の前記主張は、原判決中の本判決の引用しない部分に対する非難であ
って、前提を欠くものであるか、又は本件における具体的な認定判断を左右し
ない主張というべきであり、採用することができない。
(イ)控訴人は、原判決は、問題となる発言行為が、名誉毀損又は侮辱のいず
れに当たるか、また、単純な事実の摘示による名誉毀損行為又は事実の摘示を
前提とした意見若しくは論評の形を採った名誉毀損行為のいずれに当たるかを
全く区別せずに判断している旨非難する。
確かに、本件各発言につき、不法行為責任を肯定する判断をしたり、あるい
は、理論上名誉毀損又は侮辱のいずれかに当たるとした上で、さらに進んで、
276
5.判例、裁判上の係争事項等
違法性阻却事由の成否について判断する場合には、上記のような区別をする必
要性が生ずることもあり得るが、原判決は、そのような判断をしていないので
あるから、控訴人の上記主張は、的を射ないものであり、採用することができ
ない。
(ウ)控訴人は、神名の発言は、議論としての目的を有しない、無意味な、単
なる他人を揶揄・罵倒する目的をもってする発言であるから、
「対抗言論」ある
いは「表現の自由の保護」などという観点からの議論をする必要はない旨主張
する。
しかし、前示のとおり、本件各発言は確かに表現の適切を大きく欠く部分を
含むが、控訴人と神名の各書き込みは、全体としてみれば、相互に、論争ない
し言い争いの形を呈して継続しているものと認められるものであり、本件各発
言を、上記のような前後の事情と切り離して評価するべきではなく、これらの
事情をも考慮要素に加え、総合的に評価をするのが相当であるから、控訴人の
前記主張は、採用することができない。
(エ)控訴人は、前記第二、二7ないし11記載のとおり、本件各発言が名誉
毀損行為に当たる旨、前後の文脈との関係も含め、詳細な主張をしている。
しかし、本件各発言が、侮辱的表現を含み、不適切なものではあるものの、
控訴人と神名の発言の応酬を全体的に観察し、神名の発言内容や、その前後の
発言等との関係もしんしゃくすると、本件各発言は、これをみた一般読者の観
点からすれば、論争ないし言い争い、あるいは単なる感情的な悪口の域を超え
ないものであって、当該発言のみによって、控訴人の社会的評価を低下させる
おそれのあるものではなく、名誉毀損又は侮辱に当たらないことは、既に判示
したとおりであるから、控訴人の上記主張は、採用することができない。
(オ)控訴人は、神名が「ななこ」、「奈那子」及び「奈菜子」という部分を含
むハンドル名を使用したことが控訴人のプライバシー侵害行為である旨、その
前後の経緯等も説明しながら詳細に主張している。
しかし、上記各ハンドル名の使用が、プライバシー侵害に当たらないことは、
既に判示したとおりであるから、控訴人の上記主張は、採用することができな
い。
(カ)控訴人は、神名による「ななこ」、「奈那子」及び「奈菜子」という部分
を含むハンドル名の使用が、控訴人に対する嫌がらせ行為として、不法行為に
該当する旨主張する。
277
5.判例、裁判上の係争事項等
しかし、上記使用が不法行為に該当するとは認め難いことは、前記引用に係
る原判決の説示するとおりであるから、控訴人の上記主張は、採用することが
できない。
(キ)控訴人は、本件各発言による誹謗中傷行為や前記ハンドル名の使用を含
めた神名の控訴人に対する一連の行為は、全体として考えると、嫌がらせ行為
として、不法行為に該当する旨主張する。
しかし、本件各発言及び前記ハンドル名の使用が、名誉毀損、侮辱、プライ
バシーの侵害又は不法行為たる嫌がらせ行為に該当しないことは前記のとおり
であるところ、これらの各行為が不法行為に該当しないこととするのを相当と
した上記のような諸事情を総合的に考慮すると、これら神名の控訴人に対する
一連の行為を全体としてみても、不法行為に当たるということはできないから、
控訴人の上記主張は、採用することができない。
ウ.以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを
棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第67条第1項、第61
条を適用して、主文のとおり判決する。
===================================
(以下、地裁判決を高裁判決により読み替えた部分)
第3
1
争点に対する判断
原告は,神名の各行為が,原告に対する不法行為に当たることを前提に,
被告に対し,損害賠償及び神名の個人情報開示を求めている。そこで,ま
ず,神名の各行為が,原告に対する不法行為に当たるか(争点(1))につき
検討することにする。
(1) 名誉毀損ないし侮辱を理由とする不法行為の成否について
ア
本件フォーラム又はパティオにおける書き込みの特性
(ア) 神名の本件発言1ないし7(以下「本件各発言」という)は,い
ずれも被告が提供するパソコン通信サービス上の本件フォーラム会
議室又はパティオで行われている。
(イ)本件フォーラム又はパティオにおける書き込みが,人の名誉ないし
名誉感情を毀損したと認められるような場合には,行為者は,対象
者に対し,不法行為に基づく責任を負うと解するのが相当である。
しかし, 証拠(甲35,36)及び弁論の全趣旨によれば,①本
件各発言が行われたフォーラムやパティオは,同じ趣味や共通のテ
278
5.判例、裁判上の係争事項等
ーマに関心を持つ会員が集まり,自由に議論を交わしたり、論争し
たり、意見や感想を述べたり、情報を交換・提供したり、あるいは、
いわば雑談に類する話をしたりする場所であること,②フォーラム
やパティオに書き込まれる発言は,一般に,フォーラムやパティオ
の会員等特定の人に限り理解することが可能な表現が多く用いられ,
当該フォーラム,パティオに書き込まれた過去の発言を前提にして
いることも少なくないから,不特定多数の第三者が,フォーラムや
パティオでの発言内容を即時に把握することは容易ではないことが
認められる。
したがって,フォーラムやパティオに書き込まれた発言が人の名
誉ないし名誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっては,問題
の発言がされた前後の文脈等に照らして,発言内容が不特定多数の
第三者に理解可能か否か,当該発言内容が真実と受け取られるおそ
れがあるか否かについても十分考慮する必要がある。
(ウ) 加えて,言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが
表現の自由(憲法21条1項)の基本原理であるから,本件フォー
ラムやパティオにおける書き込みによる論争ないし言い争いが継続
していた場合は、被害者が加害者に対して反論を行い、それが功を
奏しているときや、被害者が加害者に対して相当性を欠く発言をし、
それに誘発される形で、加害者が被害者に対してこれに対抗する発
言をしたようなときなどには、被害者の社会的評価が低下していな
いと評価すべきときがあるから、このようなときに、上記のような
発言の前後の事情を切り離して、加害者の1回の書き込みのみ、あ
るいはその一部分の表現のみを取り出して、それが名誉毀損あるい
は侮辱に当たるか否かを判断することは、被害者の名誉の毀損又は
名誉感情の侵害の有無を正当に評価する方法とはいえない上、表現
の自由を萎縮させるおそれがあり、相当ではない。
(エ) これを本件各発言がされたパソコン通信についてみるに,フ
ォーラム,パティオヘの参加を許された会員であれば,自由に発言
することが可能であるから,被害者が,加害者に対し,相応な反論
をすることが容易な媒体であると認められる。したがって,被害者
の反論も相応の効果を挙げているか、あるいは、被害者が加害者に
対して相当性を欠く発言をし、それに誘発される形で、加害者が被
害者に対抗する発言をしており、双方の書き込みを全体としてみれ
ば、論争ないし言い争い又は単なる感情的な悪口を言い合う状況と
なっており、一般の読者にとって、それらの書き込みのみによって
279
5.判例、裁判上の係争事項等
は、格別被害者の社会的評価が低下すると受け止められるとはいえ
ない場合には、名誉毀損ないし名誉感情の侵害は成立しないと解す
るのが相当である。
(オ) 以上のような本件フォーラム又はパティオにおける書き込みの
特性に照らすと,上記書き込みによる発言が人の名誉ないし名誉感
情を毀損するか否かを判断するに当たっては,発言内容の具体的吟
味とともに,当該発言がされた経緯,前後の文脈,被害者からの反
論をも併せ考慮した上で,パソコン通信に参加している一般の読者
を基準として,当該発言が,人の社会的評価を低下させる危険性を
有するか否かを検討すべきである。
そこで以下,このような観点から,本件各発言が原告に対する名
誉毀損ないし侮辱行為に当たるかにつき検討する。
イ
本件各発言の検討
(ア) 本件発言1について
a
別表1符号4記載のとおり,神名は,本件発言1で,会議室が
妄想系の人物ばかりであると指摘していること,前記指摘の直前
で,原告について,少々自意識過剰であるとも発言しているから,
妄想系の人物の中には,原告も含まれていると理解することがで
きる。よって,本件発言1の内容それ自体は,原告に対する侮辱
的な表現を含むと認めることができる。
b
しかし,前記争いのない事実等及び証拠(甲3の1, 甲 37) 並
びに弁論の全趣旨によれば,本件発言1は,原告が,神名の発言
(別表1符号2ほか)を原告に対する個人的侮辱だと指摘したこ
と(別表1符号3)を契機に発言されたものだと認められるとこ
ろ,問題とされた神名発言は,原告に対する発言ではなく,その
内容も原告を個人的に侮辱する表現とは認められない。したがっ
て,神名が,原告の前記指摘に対し,少々自意識過剰であるとし,
それにカロえて,妄想系であると発言したことは、文言の適切を欠
くものではあるが、結局、お互いの言い争いの中で、表現の行き
過ぎがあったものにすぎないと認めるのが相当である。
c
更に,証拠(乙 10 の1)によれば,原告は,本件発言1の後に,
本件フォーラムで, 「もう一つ,ここに許されざる形の妄想が
ある。それは神名さん,貴方ご自身の妄想です」, 「徹底的に相
手を貶めた心象を一応,公式の場で披露する,貴方の精神の脱ぎ
っぷりには脱帽します。ここまで書けば,反感を買うなんてもん
ではなく,言った当人の精神構造が異常だと確信させてしまうも
280
5.判例、裁判上の係争事項等
のだからです」, 「神名さんの底知れぬ悪意に反吐が出ます」と
発言しており (別表1符号5),これらの発言内容は,本件発言
1に対抗する言論として必要かつ十分なものであり,本件発言1
の直後に行われているから,本件発言1により原告の社会的評価
が低下する危険性は消滅したと認めるのが相当である。
d
以上によれば,本件発言1は,原告に対する名誉毀損及び侮辱
に当たらないと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足
りる証拠は存在しない。
(イ) 本件発言2について
a
別表1符号13記載のとおり,本件発言2は,原告の本件フォ
ーラムでの発言が,妄想電波混じりの虚偽の発言であると指摘し,
原告に対し,発言を控えるよう求めるという内容であり,本件発
言2自体は,原告に対する侮辱的な表現を含むと認められる。
b
しかし,前記争いのない事実及び証拠(乙 10 の3)並びに弁論
の全趣旨によれば, 本件発言2は,「私が神名さんを暗に異常扱
いしているのは,これは別物です。 この人を私が,ネット犯罪
者予備軍だと考えているからです。」, 「阿蘇さんという, 明ら
かなネット犯罪者がかつてこのフォーラムにいました。その人と
同じ行動ばかり取る,神名さんは『ネット犯罪者予備軍』言えて
しまう。 だから,『異常だ』とかほのめかしているだけです。 」,
「ちなみにこういう書き込みをしている私自身も,ネット犯罪者
と断定されてもしかたがないですね。」, 「神名さんや阿○さん
もどきの人がが出てくると, また出てくるかも」という原告発
言(別表1符号12)に対するコメントであり,原告の発言がそ
の契機になっていることが認められる。
c
そして,原告の前記bの発言が,神名について, 「ネット犯罪
者予備軍」であるというように過激な指摘をしているのに対し,
本件発言2は,妄想電波混じりの虚偽の発言であると反論するに
とどまっているから原告の発言に対抗する言論の行使にすぎな
いと認めるのが相当である。
そうすると,本件発言2と原告の前記発言をみたパソコン通信
に参加している一般の読者は,原告と神名が本件フォーラム上で
論争しており,本件発言2は,その一環として発言されていると
理解するものと推認することができるから,本件発言2の内容が
そのまま真実であるとは考えず,本件発言2によって原告の社会
的評価は低下しないと解される。
281
5.判例、裁判上の係争事項等
d
以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言2は,原
告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当
であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(ウ) 本件発言3について
a
別紙1符号19記載のとおり,本件発言3は,原告を精神的文
盲であると指摘し,原告に対し,文字が読めているか確認する内
容であるから,本件発言3それ自体は,原告に対する侮辱的表現
を含むと認められる。
b
しかし, 前記争いのない事実等及び証拠(乙 11)並びに弁論
の全趣旨によれば,本件発言3は, 「他人の肩書きをあげつら
っておいて,自分は何者なのか一切話せない人の言うことは信用
しても無駄だけど。悔しかったら言えるもんならちゃんと言って
ご覧なさい。 『神名さん=帰国子女でよく日本語を知らない主
婦』に一票」との原告の発言(別表1符号 17)に対するコメント
であり, 原告の前記挑発的な発言に対する反論にすぎないとい
うべきである。
c
更に,証拠(乙11)によれば,原告は,本件発言3に対して,
「ちょっと留守にするといい加減なことばかりほざいて,大変な
人だな」とコメントするなど(別表1符号 21)していることが認
められ,相応な反論をしていることも考え合わせると,本件発言
3により,原告の社会的評価は低下していないと解するのが相当
である。
d
以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言3は,原
告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たらないと認めるのが相当
であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(エ) 本件発言4について
a
別表1符号 20 記載のとおり,本件発言4は,原告を日本語すら
まともに綴ることも読むこともできない同情に値する人物であ
り,自称東大卒というが他の東大卒に対して名誉毀損であると指
摘しており,本件発言4それ自体は,原告に対する侮辱的な表現
を含むと認められる。
b
しかし,前記争いのない事実等及び証拠(乙11)並びに弁論
の全趣旨によれば,本件発言4は,前記(ウ)bの原告発言(別表
1符号17)に対するコメントであり,原告の発言自体,神名に
対して日本語をよく知らない主婦であると指摘するなど侮辱的
な表現が用いられていること,本件発言4の直前に,原告は,神
282
5.判例、裁判上の係争事項等
名が原告の間違いを指摘したことに関し, 「『小中学校で児童・
生徒の苛めの対象となっている憂さをネットで晴らす,変態的国
語教師』みたいで私は嫌ですね。そういう変態よりは,きっぱり
個人の趣味として社会的責任をもった上で,SMやったり全員合
意の上でスワッピングでもしている方々の方が,変態度は遙かに
低いと私は思います(^^)v。ところで,他人の経歴肩書きをあげ
つらうだけあげつらう神名さん,貴方のご職業は名乗れないよう
な恥ずかしいものなんだね(^^)v。だから言えないんだよね。言
える人に焼き餅を焼くんだよね。神名さんてかわいそう(;̲;)」
と発言しており(別表1符号18), その発言内容は過激かつ神
名に対する著しい侮辱表現であると認められる。本件発言4は,
この原告発言に対する対抗言論として発言されているものと推
認することができ,原告発言が著しい侮辱発言である以上,これ
に対応する神名の控訴人に対する発言内容もある程度過激なも
のになっても、これらの書き込みの一般読者の観点からすると、
単なる感情的な悪口にすぎないと認めるのが相当である。
c
また,原告は,前記(ウ)認定のとおり,本件発言4の後,
「ちょ
っと留守にするといい加減なことばかりほざいて,大変な人だ
な」 (別表1符号21)という発言をしており,相応な反論を
していると認められる。
d
以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言4は、控
訴人の社会的評価を低下させるおそれのあるものとまでいうこ
とはできないから,原告に対する名誉毀損ないし侮辱に当たらな
いと認めるのが相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は
存在しない。
(オ) 本件発言5,6について
a
原告は,本件発言5,6に関し,読む者に,原告が虚言を用い
て神名を糾弾しているとの誤った印象を与えるものであると主
張する。しかし,別表1符号22,23記載のとおり,本件発言
5,6には,抗議をしている対象が原告であるとは明示されてい
ないし,その前後の文脈をみても,本件発言5,6が,原告に対
するコメントであることが明らかだとはいえない。
もっとも,原告と神名が本件フォーラムにおいて,論争してい
ることを知る者には, 「電波直撃」, 「電波障害」などという表
現が,原告を意識して発言されていることは理解可能だと思われ
る。しかし,前記(ア)ないし(エ)で認定したとおり,神名の各発言
283
5.判例、裁判上の係争事項等
に対し,原告は相応な反論をしている上、本件発言5及び6には
格別過激な表現は含まれていないことや、これが控訴人に対する
コメントであることまで理解し得る読者にとっては、神名と控訴
人とが単に論争ないし言い争いをしているものにすぎないことも
また理解し得るものと認めるのが相当である。したがって,本件
発言5,6により,原告の社会的評価が低下するおそれがあると
は認められない。
b
以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言5,6は,
原告に対する名誉毀損ないし侮辱には当たらないと認めるのが
相当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
(カ) 本件発言7について
a
別表1符号 26 記載のとおり,本件発言7は,原告を禁治産者で
あるとし,禁治産者は裁判を起こせないのではないかと指摘して
いる。また,原告が起こそうとしている裁判は妄想による申立て
であると指摘しており,本件発言7の表現それ自体は,原告に対
する侮辱的な表現を含むと認められる。
b
しかし,証拠(乙12)によれば,本件発言7は,神名を「悪
質ネットワーカー」と指摘した原告の発言(別表1符号25)を
契機として行われたものであることが認められ,また,原告は,
前記(ア)ないし(オ)認定のとおり,神名に対し,相応な反論をして
きていることをも考慮すると,原告の社会的評価は,本件発言7
により,低下する危険性はないと認めるのが相当である。
c
以上本件に顕れた諸事情を総合勘案すると,本件発言7は,原
告に対する名誉毀損ないし侮辱には当たらないと認めるのが相
当であり,この判断を左右するに足りる証拠は存在しない。
以
284
上
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.8 2ちゃんねる運送会社事件
平成14年9月2日東京地裁判決
平成13年(ワ)第25246号損害賠償請求事件
【要旨】 原告運送会社の元社員である被告が,2ちゃんねるにした発言が原
告らの名誉を毀損しているとして損害賠償を求めたことについて、被告に対し、
原告会社に対し金100万円,原告の役員乙丙に対しそれぞれ金30万円及び
遅延損害金の支払を命じた事件。
(1)事案の概要
ア.当事者につき、原告株式会社甲(以下「原告会社」という。)は,貨物の運
送等を業とする株式会社である。原告乙は,原告会社の代表取締役であり,同
丙は,原告会社の専務取締役であり,原告乙の妻である。
被告は,平成13年9月3日以降,原告会社に雇用され,運送業務に従事し
ていた者である。
イ.被告は,平成13年10月25日,インターネット上の掲示板ホームペー
ジ「2ちゃんねる」(以下「本件掲示板」という。)内に,「鬼☆」というハンド
ルネームを用い,「不当解雇」というスレッド(以下「本件スレッド」という。
)
を作成し,同日以降,「業務は多忙で休日もほとんどなく,」「内容は朝7時から
夜中の2時3時もざらであった。」「いきなりの解雇通知である。納得出来ず,
社長に抗議すると懲戒解雇にすると言われ同意書にサインしろと恫喝された。」
「納得出来ないので他の先輩社員に聞いて見るとタヤマ学校という自己啓発セ
ミナー行きを体力的な理由で断ったのが社長と専務の癇に障ったらしい。ただ,
それだけの理由なのだ。私は,許せない。一小市民をそんな理由だけで,解雇
してもいいのだろうか?」「この一ヶ月間,毎日が,忙しく平均3・4時間の睡
眠時間での運転手という肉体労働だったので,精根尽き果て,目覚ましがなっ
ても,おきれなかったのです。しかも,週休2日のはずが休みもほとんど取れ
ない状態だったのです。」「税引き後,18万そこそこの給料で,34万の請
求・・・・。一ヶ月馬車馬のように,心身ともに疲れ果てるまで働いて16万の赤
字です。」「今の社長は2代目,まさにボンボンです。」「奥さんはちなみに学習
院の短大出でお嬢様らしい。よって,人を人としてって言うか,従業員は奴隷
だと思っているふしがある(笑)
。」「そして,2代目ボンボンの精神的弱さから
か,タヤマ学校という,宗教に近い(洗脳して,今までの人格っていうか,生
き方を強制的に恫喝等で,三日間合宿場に缶詰にして,変えて,そこの校長の
いいなりに=経営者のいいなりに,なるようにしむけるらしい。)所に自ら,研
修にいき,どっぷり漬かって,それを自分なりに租借せずに,そのままを社員
全員に押し付け,わたしのように,研修を先延ばしにしたものは,全員,首を
きられたらしい。
」等の書き込み(以下「本件書き込み」という。)を行った。
285
5.判例、裁判上の係争事項等
(2)争点及びそのポイント
ア.本件書き込みが原告らの名誉,信用を毀損する不法行為か。
(ア) 原告らの主張
被告は,本件書き込みを行い,原告らについて虚偽の事実を摘示し,原告会
社の営業上の信用及び名誉,並びに原告乙及び同丙の名誉を著しく毀損した。
(イ) 被告の主張
被告は,原告会社から解雇通知を受け,大きなショックを受け,相談できる
相手もなかったことから,愚痴をこぼすような軽い気持ちで2ちゃんねるに本
件スレッドを立ち上げたにすぎず原告らの名誉を毀損する目的で本件書き込み
を行ったものではないとして、原告らの主張を争った。
イ.原告らの被った損害の額
(ア) 原告らの主張
本件書き込みは虚偽の内容を含んでおり,被告が故意に原告らの名誉,信用
を毀損する目的を持ってしたものである。被告は現在に至るまで,原告らに対
し何らの謝罪を行っていない。本件書き込みが行われた2ちゃんねるは,1か
月のアクセス数が数百万人ともいわれるインターネット上の巨大な掲示板サイ
トであり,本件スレッド中の書き込みの中には,本件書き込みを信じていると
思われるものもあり,実際に,被告の書き込みを信じている者はさらに多いは
ずであり,少なくとも,本件書き込みを見た人物に,原告らについての悪印象
を植え付けるものであり,これらの事情に,本件書き込みの内容の悪質さも考
え併せると,本件書き込みによる名誉等の毀損により,原告会社が受けた損害
は300万円を下らず,また,原告乙及び同丙が受けた損害は,それぞれ20
0万円を下らない。
(3)判決の内容等
ア.名誉毀損の成否
(ア) 前判示のとおり,被告が,インターネット上の掲示板2ちゃんねるに,
本件書き込みを行ったことが認められるところ,インターネットを利用する一
般の閲覧者の視点からすると,本件書き込みは,閲覧者に対し,被告会社が従
業員である運転手に休日を与えず,睡眠時間平均3,4時間で長時間酷使し,
低額の賃金しか支払わず,従業員の生き方を強制的に変えるようなセミナーへ
の参加を求めるなど理不尽な要求をした上,従わないときは解雇するような会
社である,その経営者である原告乙も,その資質に問題がある上,前記のよう
な研修への参加を強要し,それに従わない者は解雇するような者であり,原告
丙は,従業員を人間として尊重せず不合理な服従を強いるような人物であって,
286
5.判例、裁判上の係争事項等
いずれも,経営者として不適格であるかのような印象を与えるものであること
が認められる。
そうすると,被告が,インターネット上に本件書き込みを行った結果,原告
らの名誉,信用等について社会から受ける客観的評価が低下したことは明らか
であり,原告会社の信用及び名誉並びに原告乙及び同丙の名誉が毀損されたと
認められ,被告の前記行為は,不法行為に当たると解すべきである。
(イ) 被告らは,被告が,原告らの名誉及び信用を毀損する目的で本件書き込み
を行ったものではない旨主張し,被告はこれに沿うかのような供述をし,不法
行為の成立を争う。
しかしながら,名誉毀損の不法行為は,問題とされる表現が,人の品性,徳行,
名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるも
のであれば,当該行為が公共の利害に関する事実に係り,専ら公益を図る目的
に出た場合において,摘示された事実が真実であると証明されるか,その事実
が真実であると信じるについて相当な理由があるなどの事由が主張立証されな
い限り,仮にその表現が名誉毀損目的で行われたものでなかったとしても違法
性を欠くものとはいえず名誉毀損の不法行為の成立を妨げるものではない。そ
して,本件において前記の事由の主張立証はないのであるから,被告の前記行
為は不法行為に当たるものというべきであり,被告の主張は採用できない。
イ.損害の額
原告らの被った損害について検討すると,本件書き込みは,判示のとおり,
原告らの社会的評価を低下させるもので,その信用,名誉を毀損するものであ
り,証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件書き込みが行われたのはインターネ
ットの掲示板という,不特定多数の人間が閲覧する可能性がある場所であり,
また,インターネット上では,情報の伝達が容易かつ即時に行われ,その伝播
力は大きいため,文書等に比して,原告らの名誉,信用をより大きく損なう危
険性を有していることが認められる。しかも,原告会社の住所やホームページ
アドレスも本件掲示板上に公開したために,原告会社に対して本件書き込みを
読んだと推測される第三者からいたずらメールが送信されたり,実際に原告会
社内においても,原告乙及び同丙と従業員との関係に悪影響が生じるなどの事
態が発生したことが認められる。
他方,本件書き込みを実際にどの程度の人間が見たかは不明であり,実際に
どの程度伝播したかは明らかではない上,インターネット上の掲示板において
は,意見表明の容易さ,匿名性が相まって,信用性の乏しい情報も少なからず
見受けられる。そして,原告乙及び同丙については,その名誉毀損部分は,原
告会社の経営上の不適切な言動など原告会社の経営者としての名誉を毀損され
287
5.判例、裁判上の係争事項等
たのであるから,原告会社についての損害の賠償を認めることにより,その被
害は相当程度回復されるものと認められる。
以上本件に現れた全事情を総合考慮すると,原告会社が本件によって被った
損害を100万円,原告乙及び同丙の被った損害を各30万円と認めるのが相
当である。
以上
288
5.判例、裁判上の係争事項等
5.1.9 2ちゃんねる動物病院事件控訴審判決
平成14年12月25日判決
平成14年(ネ)第4083号 損害賠償等請求控訴事件(原審・東京地方
裁判所平成13年(ワ)第15125号)
【要旨】原審(5.1.6)を支持
(1)事実の概要等
原審参照
(2)争点とそのポイント等
原審参照
(3)判決内容等
ア.本件各発言は名誉毀損に当たるか。
(ア)各スレッドの下で、被控訴人(原審原告)の実名を挙げ、又はこれらの名
前の一部を伏字、あて字等にするものの、被控訴人らを指し示すことが容易に
推測される文言を記載した上、「ブラックリスト」
、「過剰診療、誤診、詐欺、知
ったかぶり」「えげつない病院」
「ヤブ(やぶ)医者」
「ダニ澤」「精神異常」「精
神病院に通っている」「動物実験はやめて下さい。」「テンパー」「責任感のかけ
らも無い」「不潔」「氏ね」「被害者友の会」「腐敗臭」「ホント酷い所だ」「ずる
賢い」「臭い」などと侮辱的な表現を用い、又は「脱税してる」のではないかと
の趣旨の直近のいくつかの発言を引用するなどして誹謗中傷する内容であり、
被控訴人らの社会的評価を低下させるものである。
したがって、本件各発言中発言番頭764、872を除く各発言(以下「本
件各名誉毀損発言」という。)は、いずれも被控訴人らの名誉を毀損するものと
いうべきである。
(イ)控訴人は、本件各発言について、匿名であり、読者は各発言に根拠がある
とは限らないことを十分認識しているものと考えられるから、被控訴人らの社
会的評価を低下させるものではなく、各発言は名誉を毀損するものではないと
主張する。
しかし、ある発言の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるか
どうかは、一般人の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり
(新聞記事についての最高裁判所昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集
10巻8号1059頁参照)、インターネットの電子掲示板における匿名の発言
であっても、「悪徳動物病院告発スレッド」と題して不正を告発する体裁を有し
ている場での発言である以上、その読者において発言がすべて根拠のないもの
と認識するものではなく、幾分かの真実も含まれているものと考えるのが通常
であろう。したがって、その発言によりその対象とされた者の社会的評価が低
289
5.判例、裁判上の係争事項等
下させられる危険が生ずるというべきであるから、控訴人の上記主張は採用す
ることができない。
(ウ)控訴人は、電子掲示板における論争には「対抗言論」による対処を原則と
すべきであり、本件においても、被控訴人らを擁護する趣旨の発言がされ、十
分な反論がされているから、被控訴人らの社会的評価は低下していないことに
なると主張する。
言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望ましい
ことはいうまでもないが、それは、対等に言論が交わせる者同士であるという
前提があって初めていえることであり、このような言論による対処では解決を
期待することができない場合があることも否定できない。そして、電子掲示板
のようなメディアは、それが適切に利用される限り、言論を闘わせるには極め
て有用な手段であるが、本件においては、本件掲示板に本件各発言をした者は、
匿名という隠れみのに隠れ、自己の発言については何ら責任を負わないことを
前提に発言しているのであるから、対等に責任をもって言論を交わすという立
場に立っていないのであって、このような者に対して言論をもって対抗せよと
いうことはできない。そればかりでなく、被控訴人らは、本件掲示板を利用し
たことは全くなく、本件掲示板において自己に対する批判を誘発する言動をし
たものではない。また、本件スレッドにおける被控訴人らに対する発言は匿名
の者による誹謗中傷というべきもので、複数と思われる者から極めて多数回に
わたり繰り返されているものであり、本件掲示板内でこれに対する有効な反論
をすることには限界がある上、平成13年5月31日に被控訴人らを擁護する
趣旨の発言がされたが、これによって議論が深まるということはなく、この発
言をした者が被控訴人であるとして揶揄するような発言もされ、その後も被控
訴訴人らに対する誹謗中傷というべき発言が執拗に書き込まれていったのであ
る。
このような状況においては、名誉毀損の被害を受けた被控訴人らに対して本
件掲示板における言論による対処のみを要求することは相当でなく、対抗言論
の理論によれば名誉毀損が成立しないとの控訴人の主張は採用することができ
ない。
イ.控訴人の削除義務の有無について
(ア)本件掲示板は、控訴人が開設し、管理運営しているが、控訴人は、利用
者のIPアドレス等の接続情報を原則として保存せず、またその旨を明示して
おり、利用者は、掲示板を匿名で利用することが可能であり、利用者が自発的
にその氏名、住所、メールアドレス等を明かさない限り、それが公表されるこ
とはない。したがって、本件掲示板に書き込まれた発言が他人の名誉を毀損す
ることになっても、その発言者の氏名等を特定し、その責任を追及することは
290
5.判例、裁判上の係争事項等
事実上不可能である。そして、このように匿名で利用でき、管理者ですら発信
元を特定できないことを標榜している電子掲示板においては、ややもすれば利
用者の規範意識が鈍磨し、場合によっては他人の権利を侵害する発言などが書
き込まれるであろうことが容易に推測される。実際に、本件スレッドに限って
みても、被控訴人らに対するもののほか、他の多くの動物病院、獣医等に対す
る名誉毀損と評価し得る発言などが数多く書き込まれており、また、本件掲示
板において、○○○○及びその従業員個人に対する多数の誹謗中傷の発言がさ
れた例もある。
(イ)控訴人は、削除ガイドライン、削除依頼の方法等について定め、自己の
判断で削除人を選任し、削除ガイドラインにしたがって発言を削除させ、ある
いは削除任の削除権を剥奪するなどして、本件掲示板を管理運営している者で
あるから、本件掲示板における発言を削除する権限は最終的には控訴人に帰属
しているものと認められる。
(ウ)本件掲示板において他人の名誉を毀損する発言がされた場合、名誉を毀
損された者は、その発言を自ら削除することはできず、控訴人の定めた一定の
方法に従って、本件掲示板内の「削除依頼掲示板」においてスレッドを作って
書き込みをするなどして上記発言の削除を求め、削除人によって削除されるの
を待つことになる。
控訴人が定めた削除ガイドラインは、3種類の分類では、当該個人が具体的
にどの分類に当てはまるかが明確でない上、各分類ごとの発言の削除の基準も
不明瞭であり、かつ、管理者である控訴人の判断に委ねられている部分もある。
また、法人に関する発言の削除の基準においても、電話番号を除き、削除され
ない場合についてしか定められておらず、削除されない場合についての内容も
明確ではない。結局、本件掲示板の削除ガイドラインは、その表現が全体とし
て極めてあいまいで、不明確であり、個人又は法人の名誉を毀損する発言がい
かなる場合に削除されるのかを予測することは困難であるといえる。
このように、削除人が発言を削除する際の基準とされている削除ガイドライ
ンの内容が明確でなく、しかも削除人は、それを業とするものでないボランテ
ィアにすぎないことから、本件掲示板における発言によって名誉を毀損された
者が、所定の方式に従って発言の削除を求めたとしても、必ずしも削除人によ
って削除されることは期待できないものである。
(エ)本件掲示板は、約330種類のカテゴリーに分かれており、1日約80
万件の書き込みがあること、削除人は、それを業とする者ではなく、いわゆる
ボランティアが180人程度であったことからすると、本件掲示板において他
人の権利を侵害する発言が書き込まれているかどうかが常時監視され、適切に
削除されるということは事実上不可能な状態であった。被控訴人らが本件掲示
291
5.判例、裁判上の係争事項等
板にスレッドを作ってした削除依頼も、実効性がなかった。
(オ)本件掲示板が、現在、新しいメディアとして広く世に受け入れられ、極
めて多数の者によって利用されており、大方、控訴人の開設意図に沿って適切
に利用されていることは、容易に推認し得るところであるが、他方、本件掲示
板は、匿名で利用することが可能であり、その匿名性のゆえに規範意識の鈍磨
した者によって無責任に他人の権利を侵害する発言が書き込まれる危険性が少
なからずある。そして、本件掲示板では、そのような発言によって被害を受け
た者がその発言者を特定してその責任を追及することは事実上不可能になって
おり、本件掲示板に書き込まれた発言を削除し得るのは、本件掲示板を開設し、
これを管理運営すう控訴人のみであるというのである。このような諸事情を勘
案すると、匿名性という本件掲示板の特性を標榜して匿名による発言を誘引し
ている控訴人には、利用者に注意を喚起するなどして本件掲示板に他人の権利
を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに、そのような発言が書き
込まれたときには、被害者の被害が拡大しないようにするため直ちにこれを削
除する義務があるものというべきである。
本件掲示板にも、不適切な発言を削除するシステムが一応設けられているが、
前記のとおり、これは、削除の基準があいまいである上、削除人もボランティ
アであって不適切な発言が削除されるか否かは予測が困難であり、しかも、控
訴人が設けたルールに従わなければ削除が実行されないなど、被害者の救済手
段としては極めて不十分なものである。現に、被控訴人は、本件掲示板に本件
各発言の削除を求めたが、削除してもらえず、本件訴訟に至ってもなお削除が
されていない。したがって、このような削除のシステムがあるからといって、
控訴人の責任が左右されるものではない。また、控訴人は、本件掲示板を利用
する第三者との間で特別の契約関係は結んでおらず、対価の支払も受けていな
いが、これによって控訴人の責任は左右されない。無責任な第三者の発言を誘
引することによって他人に被害が発生する危険があり、被害者自らが発言者に
対して被害回復の措置を講じ得ないような本件掲示板を開設し、管理運営して
いる以上、その開設者たる控訴人自身が被害の発生を防止すべき責任を負うの
はやむを得ないことというべきであるからである。
(カ)事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する
事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示され
た事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上
記行為には違法性がなく、仮に上記事実が真実であることの証明がないときに
も、行為者において上記事実を信ずるについて相当の理由があれば、その故意
又は過失は否定され、また、ある事実を基礎としての意見ないし論評の表明に
よる名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、
292
5.判例、裁判上の係争事項等
その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、上記意見ないし論評の前提と
している事実が重要な部分について真実であることの証明があったときには、
人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでない限り、上
記行為は違法性を欠くものとされ、上記意見ないし論評の前提としている事実
が真実であることの証明がないときには、行為者において上記事実を真実と信
ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定されると解される
(最高裁判所平成9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁)。
控訴人は、本件掲示板に書き込まれた発言について、その公共性、目的の公
益性、内容の真実性等が明らかでない場合には控訴人は削除義務を負わない、
すなわち、名誉を毀損されたという被控訴人らにおいて、当該発言の公共性、
目的の公益性、内容の真実性当の不存在につき主張立証する必要がある旨主張
する。
しかしならが、人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会的
評価を低下させる事実の摘示、又は意見ないし論評の表明となる発言により、
名誉毀損という不法行為は成立し得るものであり、名誉を毀損された被害者が、
その発言につき上記のとおり社会的評価を低下させる危険のあることを主張立
証すれば、発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性等の存在は、違法性阻
却事由、責任阻却事由として責任を追及される相手方が主張立証すべきもので
ある。
被控訴人らは、本件掲示板における匿名の者の発言によって名誉を毀損され
たものであり、本件掲示板の匿名の発言者を特定して責任を追及することが事
実上不可能であること、控訴人は、単に第三者に発言の場を提供する者ではな
く、電子掲示板を開設して、管理運営していることから、控訴人は名誉毀損発
言について削除義務を負うものであり、控訴人が発言者そのものでないからと
いって、被害者側が発言の公共性、目的の公益性及び内容の真実性が存在しな
いことまで主張立証しなければならないとは解されない。
したがって、本件において、控訴人が、本件各発言の公共性、目的の公益性、
内容の真実性が明らかではないことを理由に、削除義務の負担を免れることは
できないというべきである。
(キ)この点に関し、控訴人は、本件にプロバイダ責任法が適用され、同法の
制定経緯、規制範囲等に照らすと、プロバイダは直接名誉毀損に当たる発言を
した者ではなく、発言の公共性、目的の公益性、内容の真実性を判断すること
ができないから、名誉毀損における真実性等の存否についても、プロバイダの
責任を追及する者が主張立証責任を負うと解すべきであると主張する。同法は
平成14年5月27日に施行されたものであるから、本件に直ちに適用される
ものではないが、その趣旨について一応検討する。
293
5.判例、裁判上の係争事項等
プロバイダ責任法3条1項には、特定電気通信による情報の流通により他人
の権利が侵害されたときは、プロバイダ等は、権利を侵害した情報の不特定の
ものに対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、
当該プロバイダ等が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が
侵害されていることを知っていたとき、又は、当該プロバイダ等が、当該特定
電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該電気通信による情
報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認め
るに足りる相当の理由があるときでなければ、当該プロバイダが当該権利を侵
害した情報の発信者である場合を除き損害賠償責任を負担しない旨が定められ
ている。
これは、当該情報の内容が、人の品性、徳行、名声、信用当の人格的価値に
ついて社会的評価を低下させる事実の提示、又は意見ないし論評の表明である
など、他人の権利を侵害するものである場合に、プロバイダが当該情報が他人
の権利を侵害することを知っていたときはもちろん、プロバイダが当該情報の
流通を知り、かつ、通常人の注意をもってすればそれが他人の権利を侵害する
ものであることを知りえたときも責任を免れないとする趣旨であり、権利侵害
の認識又はその認識可能性の主張立証責任を被害者側に負わせた者と解される
が、それ以上に権利侵害についての違法性阻却事由、責任阻却事由の主張立証
責任についてまで規定をしているものではないと解される。
本件においては、控訴人は、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等に
より、本件スレッドにおいて被控訴人らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言
が書き込まれたことを知ったのであり、その各発言の内容から被控訴人らの名
誉が侵害されていることを認識し、又は認識し得たというべきであるから、同
法3条1項の趣旨に照らしても、これにより損害賠償責任を免れる場合には当
たらないことになる。
なお、同法3条1項は、情報の流通による権利侵害につき、プロバイダに対
する差し止め請求が認められるかどうかについては何ら規定していないもので
ある。
(ク)控訴人は、匿名の発言も表現の自由の一環として保障されるべきである
と主張する。しかし、匿名の者の発言が正当な理由なく他人の名誉を毀損した
場合に、被害者が損害賠償等を求めることは当然許されることであり、このこ
とが表現の自由の侵害となるものではないから、控訴人の主張は採用すること
ができない。
(コ)控訴人は、不正アクセス禁止法の立法過程において、議論の結果接続情
報の保存義務が否定されたということから、電子掲示板における匿名性は削除
義務の根拠としてはならない旨主張する。しかし、不正アクセス禁止法は、不
294
5.判例、裁判上の係争事項等
正アクセス行為の禁止、罰則及びその再発防止のための行政機関の援助措置当
を定めて、電気通信回線を通じて行われる電子計算機に係る犯罪の防止及びア
クセス制御機能により実現される電気通信に関する秩序の維持を図るために制
定されたものである(同法1条)から、同法における接続情報の保存義務を課
すかどうかについての議論の結果が、匿名の者による名誉毀損の発言がされた
本件掲示板を管理する控訴人に対し、民法の不法行為の法理により同発言の削
除義務を認めるとの判断を左右するものではない。
(サ)通知書、訴状、請求の趣旨訂正申立書における削除の請求の送達により、
控訴人は本件名誉毀損発言が本件掲示板に書き込まれたことを具体的に知った
ものと認められる。これを現在に至るまで本件名誉毀損発言を削除するなどの
措置を講じていないのであるから、控訴人には、削除義務に違反しているとい
うべきであり、被控訴人らに対する不法行為が成立する。
ウ.控訴人によるその他の不法行為について
被控訴人の主張を理由なしとした。
エ.被控訴人らの損害について
原審に同じ。
295
5.判例、裁判上の係争事項等
5.2
著作権侵害関係
ネットワーク上での著作権侵害に係る事案で注目すべきは、日
米において、中央の情報管理サーバによりファイル情報の検索機
能 を 提 供 し 、P C ユ ー ザ 間 の ピ ア・ツ ー・ピ ア( Peer to Peer)に
よる情報伝達を可能にする、いわゆるハイブリッド型のピア・ツ
ー・ピア・システムの運用者に対して提起された著作権侵害訴訟
に対する判断が示されたことである。こうしたシステムの運用者
が、プロバイダ責任制限法の適用を受けるプロバイダに該当する
か否かはさておき、この日米の裁判所の判断には、それぞれユー
ザによる直接的な著作権侵害行為につき、プロバイダはいかなる
条件で、いかなる責任を負うのかに関する、著作権法上の様々な
論点に対する示唆が含まれており、そのアプローチを知ることは、
有 益 で あ る と 思 わ れ る 。以 下 、米 国 の ナ ッ プ ス タ ー 事 件 を 紹 介 し 、
次に日本のファイルローグ事件を紹介する。
5.2.1
ナップスター事 件
(1)事案の概要
ア.ナップスター(以下「Y」という)は、米国カリフォルニア州
の創設間もない小企業であり、デジタル技術により、PCユーザ
が著作権のあるレコードを送信し、保有できるようにしたシステ
ム(以下「ナップスター・システム」という)の設計者であり、
運用者である。
イ . Y は 、 1999年 5 月 か ら 、 ピ ア ・ ツ ー ・ ピ ア に よ る フ ァ イ ル 交 換
技術により、インターネットを通じて、個々のユーザのパーソナ
ル・コンピュータ(以下「パソコン」という)のハード・ドライ
ブ内に蓄積された音楽ファイルを、他のユーザが検索してコピー
できるようにさせ、また他のユーザに送信できるようにさせるサ
ービスの提供を開始した。ナップスター・システムの仕組みは次
のとおりである。
(ア)Yが無償頒布しているアプリケーション・ソフトウェア(以
下「本件クライアントソフト」という)は、ユーザのパソコン
をYサーバのファイル検索システムに接続させ、これに参加さ
せることができる。
( イ ) ユ ー ザ が Y の Web サ イ ト か ら 本 件 ク ラ イ ア ン ト ソ フ ト を ダ ウ
ンロードし、自分のパソコンのディスクドライブ上にファイル
296
5.判例、裁判上の係争事項等
フォルダを作成して他人に利用可能とすると、当該ユーザがY
サーバのファイル検索システムに接続する都度、そのユーザ
が作成したフォルダ名が自動的にYのファイル検索システムに
追加される。
(ウ)YサーバにMP3の音楽ファイルそのものが蓄積されること
はない。
(エ)他のユーザのファイルをダウンロードしたいユーザは、Yサ
ーバのファイル検索システムにより検索し(ファイル名のテキ
スト情報による検索に限定される)求めるファイル名をクリッ
クするとYサーバから当該ユーザのインターネット上のアドレ
ス情報が提供され、当該ユーザのパソコンから直接、リクエス
トしたユーザに当該ファイルが送信される。
ウ.こうしてナップスター・システムは、クライアント・ベースの
リアルタイムのファイルの索引情報の提供を可能とし、サーバへ
の 負 荷 や Web サ イ ト の 作 成 と い う 手 間 を 省 い て 、 簡 単 に イ ン タ ー
ネット上の情報交換ができる環境を実現させた。この技術の有用
性自体は明白であり、インテル会長のアンディ・グローブをして
「全インターネットを再構築してしまうような技術」と言わせた
ように、IT業界を驚愕させるー方、ナップスター・システムを
運営するYのサービスは、開始数日で1万人以上、最盛期には、
世 界 で 8,000 万 人 以 上 と も 言 わ れ る ユ ー ザ を 獲 得 し 、 ユ ー ザ 間 の
無償のMP3の音楽ファイルの交換を蔓延させるに至った。
エ . 1999年 12月 6 日 、 米 レ コ ー ド 協 会 ( RIAA) 所 属 の 5 大 レ コ ー ド
レーベルを含むレコード会社(以下、あわせて「X」という)は、
Yによるファイル交換技術とインターネット索引サービスの提供
は 、ナ ッ プ ス タ ー・ユ ー ザ に よ る M P 3 音 楽 フ ァ イ ル の 交 換 と い う
著 作 権 侵 害( な お 、米 国 著 作 権 法 に よ れ ば 、レ コ ー ド は 著 作 隣 接 権
で は な く 、著 作 権 の 対 象 と し て 保 護 さ れ て い る )に 対 す る「 寄 与 侵
害 」( Contributory Infringement )ま た は「 代 位 責 任 」( Vicari
ous
Liability )を 構 成 す る も の と 主 張 し て 、カ リ フ ォ ル ニ ア 北
部 連 邦 地 方 裁 判 所( 以 下「 地 裁 」と い う )に 著 作 権 侵 害 訴 訟 を 提 起
した。
オ . そ し て 本 案 継 続 中 の 2000年 6 月 2 日 、 X は 地 裁 に 暫 定 的 差 止 命
令 ( Preliminary injunction) を 申 し 立 て た 。 地 裁 は 、 同 年 7 月 2
6日 「 ユ ー ザ に よ る フ ァ イ ル 交 換 は フ ェ ア ユ ー ス で あ り 、 著 作 権 侵
害にあたらない」とのYの抗弁を退け、Yのファイル交換サービ
スは、ユーザによる大規模な著作権侵害に寄与するものだとして、
Yに対し「Xの連邦または州法によって保護された著作権のある
297
5.判例、裁判上の係争事項等
楽曲およびレコード(音源)を、権利者の明示の許諾なく、コピ
ーし、ダウンロードし、アップロードし、送信し、もしくは頒布
すること、または他人にそれらをさせること」を禁ずる暫定的差
止命令を出した。
カ . 地 裁 の 命 令 は 同 月 28日 の 深 夜 ま で に 履 行 さ れ ね ば な ら な い こ と
に な っ て い た が 、 Y は 翌 27日 に 第 9 巡 回 区 連 邦 控 訴 裁 判 所 ( 以 下
「控訴裁判所」という)に、地裁の命令の停止を求める緊急の申
し立てを行い、その結果「暫定的差止命令のメリットと形式に対
する重要な疑問を提起した」と認められて、地裁の命令は停止さ
れた。
「暫定的差止め命令」は(a)本案の請求において勝訴する見
込みがあり、回復し得ない損害があるか、または(b)重大な問
題が提起され、かつ両当事者の不利益を比較衡量した場合、自己
の方が重いであろうことを示すことのできた当事者に認められる
救済手段である。控訴裁判所の判断は、かかる地裁の判断に逸脱
がなかったかどうかに関する判断となるが、同時にこの判断は、
前提問題として地裁による著作権法の適用を検証することになる
ので、本案訴訟に対する控訴裁判所の判断をも占うものとして、
世界の注目を集めた。
キ . 2001年 2 月 12日 、 控 訴 裁 判 所 は 、 Y の フ ェ ア ユ ー ス の 抗 弁 を 退
けて次のように判断し、地裁の暫定的差止命令を支持するー方、
地裁の命令は、YにYのシステム上でXの著作物の侵害行為が起
こらないようにする全ての責任を負わせるもので、広範囲にすぎ、
そ の 範 囲 を 縮 減 す べ き で あ る と 判 断 し た( 以 下「 本 判 決 」と い う )。
(ア)Yは、(a)著作権のある楽曲またはレコ−ドが含まれる特
定の侵害ファイルについての合理的な通知を受け(b)それら
のファイルがYのシステムで入手可能なことを知っているかも
しくは知るべきであったにもかかわらず(c)かかる著作物の
頒布を防ぐ行為を怠った限りにおいて、著作権の寄与侵害の責
任を負う。Yに対する現実の通知とYが侵害ファイルの除去を
怠ったことなくして、単に、ナップスター・システムの存在そ
れだけでは、寄与侵害責任を負わせることはできない。
(イ)Yは、そのシステムを監視し、その検索用インデックスにリ
ストアップされた侵害のおそれのあるファイルに対するアクセ
スを妨げる能力を発揮することを怠った場合には、代位責任を
負う。Yは、そのサーチ機能により、侵害ファイルを特定する
能力を有すると共に、侵害ファイルの送信を行うユーザの参加
を禁止する権限を有するものである。
298
5.判例、裁判上の係争事項等
ク .本 判 決 を 受 け て 、地 方 裁 判 所 は 同 年 3 月 5 日 、概 要 次 の と お り 、
修正された暫定的差止命令を決定した。
(ア)Yは、暫定的に、下記の手続きに従い、この命令に従い著作
権のある楽曲およびレコードをコピーし、ダウンロ−ドし、ア
ップロ−ドし、送信し、もしくは頒布すること、または他人に
それらをさせることを禁じられる。
(イ)Xはその著作権のある楽曲またはレコードにつき、各作品ご
とに次の事項をYに通知しなければならない。
(a)作品の題名
(b)作品の作曲者名(楽器の場合)または実演者であるレコ
ードアーティスト名(レコードの場合)
(c)かかる作品を含む、ナップスタ−・システム上で入手可
能なファイル名
(d)原告が、侵害を主張する権利を保有するかまたはコント
ロ−ルしていることの証明書
(ウ)Yは、侵害ファイルについての「合理的な通知」を受領した
ら、3営業日以内に当該ファイル名を検索して、かかるファイ
ルがYのインデックス上に掲載されないようにする。
こ の 地 裁 の 命 令 は 、( a ) X に 対 し て は 、 Y に 対 す る 上 記 内 容 の 通
知 を 行 わ せ ( b )Y に 対 し て は 、 そ の シ ス テ ム 上 の 限 界 の 範 囲 内 で
シ ス テ ム を 監 視 す る 責 任 を 負 わ せ る も の で あ る 。そ し て そ の こ と に
よ り 、「 著 作 権 の あ る 原 告 ら の 楽 曲 ま た は レ コ ー ド を コ ピ ー し 、 ダ
ウンロードし、アップロードし、送信し、もしくは頒布すること」
がないようにする負担は両者に分配されるとの控訴裁判所の判断
を反映したものである。
ケ.上記内容は、Yが、同年3月2日に裁判所に提案した内容にほぼ
沿ったものと言われ、「ナップスター側の小さな勝利」とも報道さ
れた。しかし、同年7月には、地裁はYに対し、防止措置により、
著 作 権 侵 害 が 1 件 も 起 こ ら な い よ う に す る よ う 命 令 し 、Y は 結 局「 1
00 パ ー セ ン ト 、そ の シ ス テ ム を 監 視 し 、そ の 検 索 用 イ ン デ ッ ク ス に
リストアップされた侵害のおそれのあるファイルに対するアクセス
を妨げる能力を発揮すること」ができず、サービスの停止に追い込
まれた。
(2)本判決の主な争点
ア.ユーザの直接侵害について
299
5.判例、裁判上の係争事項等
(ア)フェア・ユースにあたるか?
(イ)「家庭内録音法」によって許容されるか?
イ.Yの行為は「寄与侵害」にあたるか?
ウ.Yの行為は「代位責任」にあたるか?
エ.「デジタル時代の著作権法」(以下「DMCA」という)によ
る免責を受けるか?
オ.地裁の暫定的差止め命令の範囲
(3)争点のポイント
ア.ユーザの直接侵害
許諾なく、他人の著作権のある著作物を利用すれば、フェア・
ユースその他法律の規定により許容されない限り、その行為者は
著作権侵害の責任を負う(直接侵害)。
アメリカ著作権法によれば、その場合の損害賠償責任は、行為者
の「故意・過失」を要しない「厳格責任」とされている。
本件では、Yの「寄与侵害」または「代位責任」を問う前提と
して、ユーザのファイル交換によるXの著作権の直接侵害の成否
が問われた。けだし、直接ファイル交換を行っているのはユーザ
であるし、また米国の判例によれば「寄与侵害」または「代位責
任」は著作権の二次的侵害(間接侵害)にあたり、第三者による
直接侵害の存在を前提とするからである。従って、ユーザの行為
が著作権侵害に該当しない場合には、Yの責任も成立しない。
本判決は、(ア)「ユーザの行為はフェアユースにはあたらな
い」とし、また(イ)「家庭内録音法」は、コンピュータのハー
ド・ドライブへの音楽ファイルのダウンロードには適用されない
ので、ユーザの行為は同法の適用を受けないと判断して、Yの抗
弁を退けた。そしてユーザは「少なくともXの2つの排他的権利
を侵害している」とし(a)ファイル名をサーチ・インデックス
に登録するユーザは、Xの頒布権を(b)ファイルをダウンロー
ドするユーザは、Xの複製権の侵害を構成するとして、ユーザに
よるXの著作権の直接侵害の成立を認めた。本稿ではこの点は結
論にとどめ、説明は省略する。
なお、本判決は、Yが(ア)索引の出版および(イ)ユーザの
情報交換に関して、憲法上の言論の自由を主張したことに対し、
著作権と言論の自由の衝突の問題はフェアユースによって調整さ
れるのであり、本件ではこれに該当しないと判断していることは
注目される。
300
5.判例、裁判上の係争事項等
イ.寄与侵害
寄与侵害は、代位責任と同様、著作権法上の規定を有するもの
ではない。しかし、その責任の基準が判例法上形成され、「侵害
行為があることを認識して、当該侵害行為を招来もしくは惹起し、
こ れ に 実 質 的 に 寄 与 し た 場 合 」は 、そ の 直 接 の 行 為 者 で な く と も 、
著作権侵害の責任を負うとされている。寄与侵害は不法行為法に
源を有すると共に、他者の侵害行為に直接寄与した者は、責任を
負 う べ き で あ る と の 条 理 に 由 来 す る と い う ( Fonovisa,Inc.V.Cerr
y Auction,Inc,76F.3d259.9th Cir.1996; Sony v.Universal City,
464 U.S.at 417 ) 。 以 下 、 本 判 決 の 理 解 の た め 、 寄 与 侵 害 お よ び
代位責任の成否を巡るYの主張と地裁の判断の対立の要点を述べ
る。
(ア)有用な技術の提供と寄与侵害
ナップスター・システムは、たとえば、もっぱら複製管理技
術を回避することのみを目的とする機器やソフトウェアのよう
に、それ自体違法なテクノロジーには該当せず、有用な目的に
も使用され得る。このように、有用でありながら、ユーザの違
法複製行為にも使用され得る機器の製造・提供者の寄与侵害責
任が問われたリーディングケースとしては、ソニー・ベータマ
ックス事件が名高い。そしてこのケースで連邦最高裁判所は、
ソニーの寄与侵害責任を否定し「歴史と同様に、健全なポリシ
ーは、大きな技術的変革が著作物の市場を変容させてしまうよ
うな時には、議会の判断を尊重すべきだという裁判所の一貫し
た姿勢に組みしている。議会こそが、こうした新しい技術が不
可避的に提起する利害衝突を調整する憲法上の権限と機関とし
ての能力を有している。」と判示した。そこでYは、裁判所は
「寄与侵害」や「代位責任」といった理由で、新しい技術をシ
ャット・ダウンしようとする動きに対しては、常に現在の時点
で、それが将来どのように使用されるかを予測するのは危険だ
と説いてきたとし、ソニー判決によれば、公衆が新しい複製機
器の恩恵を受けられるようにするためには、実質的に、それが
非侵害的に利用されることが可能でありさえすればよく、有用
な技術の提供者に対し、寄与侵害責任や代位責任を負わせるべ
きでないと主張した。
(イ)寄与侵害の成立に必要な認識内容
301
5.判例、裁判上の係争事項等
寄与侵害の成立には、客観的要件である「実質的な寄与行為」
と主観的要件である行為者の認識、即ち、直接侵害を「知りま
たは知り得る理由があった」ことが必要である。しかし、そう
だ と し て も 、 そ れ は 侵 害 が あ る こ と の 「 実 際 の 認 識 ( actual kn
owledge) 」 を 意 味 す る の か 、 そ れ と も 「 推 定 的 な 認 識 ( Constr
uctive Knowledge) 」 で 足 り る の か が 問 題 と な る 。
Yは、プロバイダが責任を負うためには「特定の侵害行為に
つ い て の 認 識 」が 必 要 で あ る と 判 断 し た ネ ッ ト コ ム 判 決 *2 を 根
拠として、寄与侵害の成立には、自分の製品やサービスが著作
権侵害行為に利用されるかもしれないといった一般的な推測的
認識では足りず、「特定の侵害行為についての認識」が必要で
あると主張した。
そしてこの点、Yは侵害ファイルと侵害でないファイルとを区
別することはできず、ユーザの直接侵害について知ることはで
きないと主張した。しかし地裁は、Yはユーザが著作権のある
音楽を交換していることについて「実際知っていたし、また推
測もできた」と認定したものの、寄与侵害の成立には「特定の
侵害行為」についての認識は必要ないとして、Yの主張を退け
ている。
ウ.代位責任
他人の侵害行為を管理・監督する「権限と能力」を有し、それ
が著作権のある著作物の利用による明白かつ直接的利益と結び付
いている場合は、たとえ侵害の起きていることについて現実にこ
れを認識していなくとも、当該侵害について責任を負うとの判例
法が形成されている。代位責任を認めたリーディングケースとさ
れるのは、デパート・チェーンのオーナーが、デパート内での模
倣品の販売に責任を負うかが問われた、シャピロ事件とされる(F
onovisa,Inc.V.Cerry Auction,Inc,76F.3d259.9th Cir.1996 ) 。
即 ち 、 こ の 事 案 で 第 2巡 回 区 連 邦 控 訴 裁 判 所 は 、 そ れ ま で の 先 例 の
分析により、(ア)テナントの侵害行為を知らず、また賃貸した
施設について何等のコントロール権限を有していない賃貸人のケ
ースでは、著作権侵害に責任がないと判断され、また(イ)いわ
ゆる「ダンスホール・ケース」、つまり(a)施設のコントロー
ル権限を有し、(b)侵害の実演の享受に対して支払う観客から
直接の経済的利益を得ているエンタテイメント提供施設の運営者
のケースでは、責任が認められてきたと判示した。そして、たと
え雇用関係がなくとも、デパートの所有者は、侵害行為を止めさ
302
5.判例、裁判上の係争事項等
せる権限を有していて、かつその侵害行為から明らかな直接的利
益を得ているのだから、その施設内で行われた侵害行為について
代位責任を負わせることは、酷に過ぎることも、また不公正でも
ないと判断したのである。
本件では、Yは、Yにはユーザの行為をコントロールすること
はできず、ナップスター・システムの技術的性格からしても、侵
害ファイルと侵害でないファイルとを区別することはできないこ
と、またYは、すべてのユーザ、それも何千万というユーザに対
して、何の区別もなくアクセスを提供しているので、侵害行為を
監督する権限も能力もないと主張した。しかし、地裁は、Yが審
理において、苦情のあった権利者に関するユーザをブロックでき
るように改善された技術を有していると述べたことから、Yはそ
のサーバをしばしば監視しているし、また監視し得るものと認定
して、Yのユーザの行為に対する「監督権限と能力」を認め、そ
の上で、Yはシステムを監視する能力と権限がありながら、著作
権のあるファイルの交換の阻止を怠たったと判断した。
エ . D M C A *3 の 適 用
Y は 、 Y は D M C A 第 512 条 ( a ) の 情 報 の 導 管 と し て の サ ー
ビス・プロバイダに該当し、損害賠償責任の免責を受けると共に、
著 作 権 侵 害 に よ る 差 止 め 請 求 か ら 保 護 さ れ る と 主 張 し た 。し か し 地
裁 は 、 Y は 第 512 条 ( d ) の イ ン フ ォ メ ー シ ョ ン ・ ロ ケ ー シ ョ ン ・
ツ ー ル の 提 供 者 で あ っ て 、同 項 の 免 責 は 、寄 与 侵 害 者 に は 適 用 さ れ
ないと判断した。
(4)控訴裁判所の判断
ア.寄与侵害
本判決は、「伝統的に、侵害行為があることを認識して、当該
侵害行為を招来もしくは惹起し、またはこれに実質的に寄与した
者は『寄与侵害者』として責任を負う。
言い換えれば、Yが侵害を奨励しまたは幇助する行為に従事した
場 合 に は 、責 任 を 生 じ る 」と 判 示 し た 上「 Y は 、そ の 行 為 に よ り 、
Xの著作権の侵害を奨励し、幇助した」との地裁の判断に誤りは
ないとした。以下、各論点に対する控訴裁判所の判断について述
べる。
(ア)認識について
(a)Yの認識内容
303
5.判例、裁判上の係争事項等
本判決はまず、地裁の記録から、Yが、ユーザの直接侵害
を 実 際 に 知 り ( actual knowledge) ま た 推 測 す る こ と が で き
た ( Constructive Knowledge) こ と は 明 ら か で あ る と 判 断 し
て、地裁の事実認定を支持した。「実際の認識」を認めた根
拠としては、次の事実が指摘されている。
・Yの共同創立者の手になる文書には「ユーザの本当の氏名
とIPアドレスには関知しないことが必要。なぜなら彼等
は海賊版の音楽を交換しているんだから」と記載されてい
たこと
・ IRAAは 、 Y に 対 し 12,000も の 侵 害 フ ァ イ ル に つ い て 通 知 し
ており、それらの内には、まだナップスター・システムで
交換されているものがあること
また、推測的認識を認めた根拠としては、次の事実が指摘さ
れている。
・Yの役員はレコード業界での経験を有していたこと
・彼等は他のケースでは知的財産権の権利行使をしていたこ
とがあること
・彼等はシステムから著作権のある音楽をダウンロードした
ことがあること
・著作権侵害のファイルをリストしたスクリーンショットを
使って、サイトのプロモーションをしていたこと
(b)有用な技術の提供と寄与侵害
次に本判決は、Yがソニー判決を引用して、たとえ直接侵
害を知りまたは知り得たとしても、直接侵害の用に供された
システムが有用な用途にも使用され得るのであれば、寄与侵
害の責任を負わせるべきでないと主張したことについては、
「ナップスター・システムのアーキテクチャーと、システム
の運営者としてのYの行為とは峻別すべきである」と判示し
た。この峻別こそが、本判決の分析の要をなすものと思われ
る。そして、ソニー判決が、ビデオテープレコーダーの製造
者や販売者は、それが第三者の著作権侵害行為に使用される
ことがあっても寄与侵害の責任を負わないとしたのは、そう
でなければ「顧客がそれらを違法複製に使用するかもしれな
い」との推測的認識を持って道具を販売したことに対して責
任を負わせることになり、そのような、侵害にも、また多く
の侵害でない使用にも用いられ得る道具を製造・販売した者
に、必要とされるレベルの認識を認めることを良しとしなか
304
5.判例、裁判上の係争事項等
ったからであるとした。従って、本判決はこのソニー判決に
拘束され、単にピア・ツー・ピアのファイル交換技術がXの
著作権の侵害に使用されるかもしれないとの理由のみで、Y
に必要なレベルの認識があるとするものではなく、また、単
に侵害行為を完成させる「手段」を供給することは責任を生
じさせるものではないと判示した。そしてこの点の理由付け
において、控訴裁判所は地裁の判断とは見解を異にするもの
であり、「地裁は、システムの有用性を無視し、将来の非侵
害的使用との比較において、現在の侵害的使用に比重を置き
過ぎている」と地裁のアプローチを批判した。その上で、記
録によれば、上記のとおり、「Xは、Yがユーザの侵害行為
を知りまたは知る理由があったことを証明し得ている」との
地裁の判断は支持できるとした。
(c)コンピュータ・システムの運用者の寄与侵害
そ し て 、「 本 判 決 の 分 析 は 、オ ン ラ イ ン サ ー ビ ス に お い て 、
コンピュータ・システム・オペレータに寄与侵害の責任を負
わせるためには、特定の侵害行為を実際に知っていたことの
証拠が必要であることを示唆した、ネットコム判決に類似す
るものである。」とし、ネットコム判決は、オンライン・サ
ービス・プロバイダーは、誹謗・中傷の資料があるかもしれ
ないからといって、全てのハイパーリンクを調べることはし
な い し 、ま た で き な い と し た コ ン ピ ュ サ ー ブ 判 決 *1 を 踏 ま え
て、オペレータが侵害行為について「十分な認識」を持って
いたとするためには、著作権者は、著作権侵害であり得ると
いうことを示すために必要な文書を提出しなければならない
と判断したのであって、もし、このような文書が提出されて
いたら、同裁判所は、ネットコムが侵害資料を削除して、そ
れが世界中に頒布されるのを止めなかったことは、著作物の
頒布に実質的に参加したものとして、寄与侵害にあたると判
断しただろうと判示した。
その上で、本判決は「我々は、コンピュータ・システム・
オペレータが、そのシステム上で、特定の侵害資料が利用可
能とされていることを知りながら、それをシステムから除外
することを怠った場合には、かかるオペレータは、直接侵害
があることを知り、またこれに寄与しているものであること
に賛成する。」とし、「逆に、侵害行為を特定する特定の情
報がない場合には、単に、そのシステムの仕組みによって著
305
5.判例、裁判上の係争事項等
作権のある資料の交換が行われたことを理由として、コンピ
ュータ・システム・オペレータに寄与侵害の責任を負わせる
ことはできない。」とした。「単にコンピュータ・ネットワ
ークが侵害に使用され得ることのみを理由にこれを禁止する
ことは、ソニー判決に違反し、侵害使用とは関係のない行為
を潜在的に制限することになると考える。」と。しかしこの
点、記録によれば、Yは、特定の侵害資料がシステムの使用
により利用可能とされていることを知り、侵害資料の提供者
によるシステムへのアクセスをブロックできたのに、侵害資
料の除去を怠ったとの地裁の判断は支持できるとした。
(イ)実質的な寄与
本判決は、Yの提供したサポート・サービスがなければ、ユ
ーザはYが自慢したように容易にその目的とする音楽を探し出
すことも、またダウンロードすることもできなかったのであり、
Yは直接侵害のための「場所と施設」を提供したとした地裁の
判断を支持した。
イ.代位責任について
本判決は、「代位責任は、著作権法においては、侵害行為を監
督する権限と能力があり、かかる行為から直接の経済的利益を得
ている者に使用者と被使用者の関係の延長上の関係を認めるも
の」とし、次のように判断した。
(ア)経済的利益
本判決は、侵害資料が得られることにより顧客を誘因してい
るときは、経済的利益が存在するとし、Yの将来の収入は、ユ
ーザ・ベースの増大に依存しているとして、Yはそのシステム
上で著作物が得られることにより利益を得ているとの地裁の判
断に誤りはないとした。
(イ)監督権限と能力
地裁は、Yが地裁に対し「権利者から苦情のあったユーザを
ブロックできる、改良された技術」を有すると表明したことか
ら、それは、Yがそのサービスを監視でき、また監視している
ことに等しいとして、Yにユーザの行為に対する監督権限と能
力のあることを認めたものである。本判決は、この判断をー部
支持した上で、任意に、特定の環境への侵害者のアクセスを遮
306
5.判例、裁判上の係争事項等
断できるということは、監督権限と能力の証拠であるとし(フ
ォノビサ判決は、「チェリーオークションは、任意にベンダー
との契約を解約でき、その権利により、施設内でのベンダーの
行為をコントロールできた」とし、ネットコム判決は、「原告
は電子掲示板サービスは、会員のアカウントを停止できるとの
証拠の提出により、監督権限に関する、純粋な事実認定の問題
を提起した」と判断している)地裁の理由付を補足して、Yは
そ の Web サ イ ト 上 の 規 約 で 「 Y が ユ ー ザ の 行 為 が 適 用 法 に 違 反
すると判断した場合を含めて、Yはその裁量により、理由の如
何を問わず、サービスの提供を拒絶し、アカウントを解約する
権利」を留保していることをあげて、Xは、Yがそのシステム
へのアクセスをコントロールする権限を留保していることを疎
明したと判断した。その上でフォノビサ判決等の判例も示すよ
うに、代位責任を免れるためには、留保された監視権限は最大
限行使されねばならず、利益を得るために、発見できた侵害行
為に目をつぶることは責任を生じさせるとした。
し か し 、「 Y は シ ス テ ム を 監 視 す る 能 力 と 権 限 が あ り な が ら 、
著作権のあるファイルの交換の阻止を怠った」との地裁の判断
については、「地裁は、Yがコントロールし、パトロールする
施設の領域に限界があることを認識し得なかった。」と批判し
た。「換言すれば、Yの『権限と能力』は、システムの現在の
アーキテクチャーの範囲内に限られる。記録によれば、ナップ
スター・システムは、インデックスされたファイルが適切なM
P3フォーマットであることをチェックする以外には、ファイ
ルの中身を読み取ることはできない。しかし、他方Yは、イン
デックス上に掲載された侵害資料の場所を示す能力とユーザの
システムへのアクセスを終了させる権限を有しており、検索可
能とされるファイル名は、いわば、Yが監視する能力を有する
『施設内』に存在する。ファイル名はユーザが付すもので、正
確に著作権のある資料とー致しないことは了解しているが、Y
の機能が効果的に発揮されるためには、ファイル名は合理的に
または大雑把にファイルに含まれる資料を示すものでなければ
ならず、そうでなければユーザは目的の音楽のありかを知るこ
とはできない。実際問題として、Y、ユーザおよびXは、Yの
検索機能を使用して、侵害資料に等しくアクセスすることがで
きる。」とした。そしてその上で、Yは、そのシステム上で、
侵害ファイルの取得を可能とすることにより経済的利益を得て
いながら、そのシステムの『施設内』を監視することを怠った
307
5.判例、裁判上の係争事項等
ものであり、原告は代位責任を立証し得ると判断した地裁の結
論を支持し得るとした。
ウ . D M C A *3 の 適 用 に つ い て
本 判 決 は 、 D M C A 第 512 条 は 、 同 法 の 文 言 上 も 、 ま た 議 会 は
代位責任からの免責を与えることを意図していたとの委員会報告
書の記載からも、一般的に、二次侵害者(間接侵害者)には適用
されないとの見解をとるものではないとした。しかし、現段階で
は、Xは、YのDMCAによるセーフハーバーの適用を受ける資
格に関する重大な疑いを疎明し得たと判断した。そして、この点
は、本案の事実審理において、十分に審理されるべきであるとし
た。なお、重大な疑いとしては、次の事由が例示されている。
( ア ) Y は 第 512 条 ( d) の サ ー ビ ス ・ プ ロ バ イ ダ ー に 該 当 す る か ?
(イ)システム上で侵害行為があったことを知っていたとするため
には、侵害行為についての「正式な」通知が必要か?
(ウ)Yは、免責要件である著作権遵守ポリシーをタイムリーに採
用していたか?
エ.差止命令の範囲
本判決は、以上を踏まえて、地裁の暫定的差止め命令を支持し
ながらも、その範囲については広範囲にすぎるとし、Xに対し、
Yに侵害コンテンツの除去義務を課す前に、Yのシステム上で取
得可能な著作権のある著作物と、かかる著作物が含まれるファイ
ルについて、通知を行う義務を課した。そして、Yに対しては、
そのシステムの限界内で、システムを監視する義務を課した。
*1
カビー対コンピュサーブ事件
カビー社は、ジャーナリズム産業のレポート会社。コンピュ
サーブのフォーラムに掲載された競争会社のニュースレターで
「虚偽かつ名誉毀損的な記述」をされたとして、コンピュサー
ブを訴えた事件。コンピュサーブは、「名誉毀損」かどうかに
ついては争わず、「(コンピュサーブは)ディストゥリビュー
タであって、その内容を知らず、また知る理由もなかった」と
抗弁した。裁判所は、コンピュサーブが、当該フォーラムへの
ニュースレターの提供IPとの間で、情報の掲載について何等
編集上のコントロールをしないという契約関係にあったこと、
コンピュサーブが情報をロードしなければならないタイムフレ
ームの短さという技術的制約を考慮して、コンピュサーブの主
308
5.判例、裁判上の係争事項等
張を認めた。
*2
ネットコム事件
サイエントロジー教会の元牧師であるYは、教会に対する批
判 を B B S の フ ォ ー ラ ム に 掲 載 し て い た が 、こ の B B S は 大 手 ア
クセスプロバイダーのネットコム(以下「ネットコム」という)
を 通 じ て イ ン タ ー ネ ッ ト の ユ ー ズ ネ ッ ト に ア ク セ ス し て お り 、各
ユ ー ズ ネ ッ ト に 順 次 送 信 さ れ て い た 。教 会 の 関 連 団 体 で あ る 原 告
(以下「X」という)は、Yに教祖の経典等の相当部分をユーズ
ネ ッ ト に ア ッ プ ロ ー ド さ れ 、Y が X の 著 作 権 を 侵 害 し て い る の で 、
そ の ア ク セ ス を 停 止 す る よ う 要 請 し た が 拒 否 さ れ た と し て 、著 作
権 を 侵 害 に よ り 、Y と B B S の オ ペ レ ー タ と ネ ッ ト コ ム を 訴 え た 。
それに対してネットコムが、著作権侵害のないことの確認を
求めた簡易裁判の判決で、裁判所はYの直接侵害を認めた上で、
ネットコムの直接侵害および代位責任を否定したが、寄与侵害
については、次のように判断し、事実審理を要するとした。
すなわち、ネットコムはスペースの賃貸に止まらず、ユーズ
ネ ッ ト に 対 す る ア ク セ ス を 提 供 す る 事 業 者 で あ っ て 、そ れ に 必 要
な 情 報 の 保 管 や 送 信 を 行 っ て い る 。 そ う し た シ ス テ ム に 対するコ
ン ト ロ ー ル を 保 持 し て い る の だ か ら 、土 地 な ど の 賃 貸 人 と は 異 な
る と し 、侵 害 行 為 に つ い て 通 知 を 受 領 し た 後 の ネ ッ ト コ ム の 認 識
内容が問題となるとした。そしてー般論として「フェア・ユース
の 抗 弁 、著 作 権 表 示 の な い こ と 、著 作 権 者 が 著 作 権 侵 害 の 可 能 性
の あ る こ と を 示 す 文 書 の 提 出 を 怠 る な ど 、B B S オ ペ レ ー タ が 合
理 的 に 侵 害 の 認 識 が で き な い 時 は 、侵 害 行 為 の 認 識 を 欠 く 場 合 が
ある」とし、この点について事実審理を要するとした。
また、「実質的に寄与したか」という点について、「ナット
コムが容易に損害の拡大を防ぐ手段を取り得たとすれば、それ
にもかかわらず、侵害行為を知りながらYの頒布行為を幇助し
続けたこと」がこれにあたり、この点についての事実審理を要
するとした。なお、その後両者は和解したので、本案について
の判断は示されていない。
*3
D M C A 第 512 条 ( a ) と ( d ) 項
第512条
オンライン上の素材に関する責任の制限
(a) 通過的デジタルネットワーク通信 ―サ ービスプロバイダは、次の
309
5.判例、裁判上の係争事項等
場合には、サービスプロバイダが管理または運営するシステム又はネ
ットワークを通じた素材の送信、素材の転送若しくは素材への接続の
提供による、又は、送信、転送若しくは接続の提供に際する中間的か
つ一時的な当該素材の蓄積による著作権の侵害について、金銭的救済、
又は(j)に規定するものを除く差止命令その他の公平法上の救済の責
任を負わない。
(1) 当該素材の送信が、サービスプロバイダ以外の者又はその指示に
より開始されたこと
(2) 送信、転送、接続の提供又は蓄積が、サービスプロバイダによる
素材の選択なく、自動的な技術により行なわれること
(3) サービスプロバイダが、他者の求めにより自動的に行う場合を除
き、当該素材の受信者を選択しないこと
(4) 中間的又は一時的な蓄積に際するサービスプロバイダによる当
該素材のコピーが、システム又はネットワーク上で、予定される
受信者以外の者が通常アクセス不可能な方法で保存せず、かつ、
システム又はネットワーク上で、送信、転送又は接続の提供のた
めに必要な期間を超えてアクセス可能な方法で保存しないこと
(5) 当該素材が、システム又はネットワークで、改変されることなく
送信されること
(d)
情報探知ツールサービスプロバイダは、次に揚げる条件を満たす
場合には、著作権侵害の素材や侵害行為を含むオンラインの場所を、
ディレクトリ、インデックス、レフアランス、ポインタ又はハイパ
ーテキストリンクを含む情報探知ツールを用いて、参照し、又はリ
ンクすることによる著作権の侵害について、金銭的救済、又は(j)
に規定するものを除く差止命令その他の公平法上の救済の責任を負
わない。
(1)(A) 当該素材又は行為が侵害にあたることを現実に知らないこと
(B) そのような現実の知識がない場合で、侵害行為が明白となる
事実又は状況を知らないこと、または、
(c) そのような知識又は認識を得た場合に、速やかに当該素材を
削除し、又はアクセス不能とすること
(2) サービスプロバイダが、侵害行為をコントロールする権利及び能
力を有する場合には、当該行為に直接起因する財政的な利益を受
けないこと、および、
(3)
(c)(3)の侵害の通知を受けた場合には、速やかに、侵害している、
又は侵害行為の目的となっているとされる素材を削除し、又はア
310
5.判例、裁判上の係争事項等
クセス不能とすること。ただし、この節において、(c)(3)(A)(ⅲ)
の情報は、侵害であると主張され、削除され、又はアクセス不能
とされることとなる素材又は行為へのレファランス又はリンクを
特定するものであり、かつ、サービスプロバイダが当該レファラ
ンス又はリンクの場所を確認するのに合理的に十分な情報でなく
てはならない。
「プロバイダ責任制限法−逐条解説とガイドライン−2
63 頁 及 び 275 頁 」
総無省電気通信利用環境整備室著・社団法人テレコ
ムサービス協会編著
第一法規出版
5.2.2
ファイルローグ 著 作 権 侵 害 差 止 請 求 仮 処 分 命 令 申 立 事 件
東 京 地 裁 平 成 14年 ( ヨ ) 第 22010 号 ・ 平 成 14年 4 月 11日
決定(A事件)
東 京 地 裁 平 成 14年 ( ヨ ) 第 22011 号 ・ 平 成 14年 4 月 9 日
決定(B事件)
本件は「日本版ナップスター事件」とも言われるように、ナッ
プスター・システムと同様に、ハイブリッド型といわれるピア・
ツー・ピア、つまり、中央の情報管理サーバにより認証機能や交
換可能な電子ファイルリストの検索機能を提供して、利用者のパ
ーソナルコンピュータ(以下「パソコン」という)間でデータを
送受信させる方式による電子ファイル交換サービスの運営行為が、
日本の著作権法上どのように評価されるかが問われた事案である。
事案の内容もさることながら、同様の事案について、日本の裁判
所がどのようなロジックで判断したのかも注目されるところであ
る。
(1)事案の概要
ア.有限会社日本エム・エム・オー(以下「Y」という)は、平成1
3年 11月 1 日 か ら カ ナ ダ 国 内 に 中 央 サ ー バ ( 以 下 「 Y サ ー バ 」 と い
う ) を 設 置 し 「 フ ァ イ ル ロ ー グ ( FileRogue) 」 の 名 称 で 、 利 用 者
のパソコン間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア技術によ
り、インターネットを経由してYサーバに同時に接続されている
311
5.判例、裁判上の係争事項等
不特定多数の利用者間で、そのパソコンの共有フォルダ内に置か
れた電子ファイルの中から好みのものを選択して無料でダウンロ
ードできるサービスを日本向けに提供していた(以下「本件サー
ビス」という)。
イ.著作権管理事業法に基づく音楽著作権等管理事業者である社団
法 人 日 本 音 楽 著 作 権 協 会 ( 以 下 「 X 」 と い う ) は 、 平 成 14年 3 月
1日、Yサーバに接続してMP3ファイルを無作為に抽出してダ
ウ ン ロ ー ド し た と こ ろ 、 25曲 の う ち 24曲 が X の 管 理 す る 音 楽 著 作
物の演奏を収録したレコードをMP3形式で複製した電子ファイ
ルであることを確認した。
ウ . そ し て そ の う ち 18曲 ( 以 下 「 本 件 各 管 理 著 作 物 」 と い う ) に つ
いて、本件サービスにおける交換により、Xの有する著作権(複
製権、自動公衆送信権、送信可能化権)が侵害されていると主張
して、Yに対する当該電子ファイル(以下「本件各MP3ファイ
ル」という)の送受信の差止めと損害賠償を求めた(本案)事案
で、仮処分命令を申立てたものである(以下「本件」という)。
な お 、 B 事 件 は 、 レ コ ー ド の 製 造 、 販 売 等 を 目 的 と す る 会 社 19
社が、本件サービスにおけるMP3ファイルの交換により、それ
らの製造・販売にかかる音楽CD(以下「本件各レコード」とい
う)についての著作隣接権(送信可能化権及び複製権)が侵害さ
れていると主張して、Yに対し、本件各レコードを複製した本件
各MP3ファイルの送受信の差止めと損害賠償を求めた(本案)
事案で、仮処分命令を申立てたものである。
エ.裁判所は、本件サービスを提供するYの行為を、本件各管理著
作物の自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害行為にあたると判
断 し 、 X が 金 5000万 円 の 担 保 を 立 て る こ と を 条 件 と し て 、 Y が 本
件サービスにおいて、MP3形式によって複製され、かつ送受信
可能の状態にされた電子ファイルの存在及び内容等を示す、利用
者のためのファイル情報の内、ファイル名及びフォルダ名のいず
れかに、本件管理著作物の「原題名」(漢字、ひらがな、片仮名
並びにアルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わな
い)及び「アーティスト名」(漢字、ひらがな、片仮名並びにア
ルファベットの大文字及び小文字等の表記方法を問わない。姓又
は名のいずれかー方の表記を含む)の双方が表記されたファイル
情報を、利用者に送信してはならない、との仮処分を命じた。即
ち、Yの著作権侵害行為を認めつつ、Xの主張した差止めの範囲
(本件各MP3ファイルの送受信の差止め)を本件各MP3ファ
イルのファイル情報の送信の差止めに限定して認めた(以下「本
312
5.判例、裁判上の係争事項等
決定」という)。
なお、B事件においても、著作隣接権に認められていない自動
公衆送信権を除いて、本件とほぼ同じ内容の差止めの仮処分決定
がなされている。従って、ここではA事件について取り上げる。
(2)本件サービスの仕組み
本決定によれば、本件サービスの仕組みおよび運営状況は次の
とおりである。
ア.本件サービスの仕組
( ア ) 利 用 者 は 、 Y が 開 設 し た Web サ イ ト か ら 本 件 サ ー ビ ス 専 用 の
ファイル交換用ソフトウェア(以下「クライアントソフト」と
いう)をダウンロードして、パソコンにインストールする。次
に利用者は、任意のユーザー名(ユーザーID)及びパスワー
ドを設定し、登録する。その際、利用者の本人確認情報(戸籍
上の氏名や住民票の住所等)の入力は要求されない。
(イ)本件サービスにより電子ファイルを送信しようとする利用者
(以下「送信者」という)は、本件クライアントソフトの追加
コマンドの実行により送信可能とするファイルを蔵置するフォ
ルダ(以下「共有フォルダ」という)を指定し、当該フォルダ
に電子ファイルを蔵置して、当該電子ファイルのファイル情報
(ファイル名、フォルダ名、ファイルサイズ及びユーザー名)
を付する(電子ファイルの内容に対応しないファイル名を付す
ることもできる)。本件クライアントソフトを起動して当該パ
ソコンをYサーバに接続させると、共有フォルダ内の電子ファ
イルは自動的に他の利用者のパソコンに送信できる状態となり
(但し、自動的に送信できる状態としない設定も可能)当該フ
ァイル情報並びにIPアドレス及びポート番号に関する情報
(以下、あわせて「送信者情報」という)がYサーバに送信さ
れる。
(ウ)Yサーバは、Yサーバに接続している送信者から送信された
送信者情報により、現時点でダウンロード可能なファイルに関
するデータベースを作成する。
(エ)電子ファイルの受信を希望する利用者(以下「受信者」とい
う )は 、本 件 ク ラ イ ア ン ト ソ フ ト を 起 動 し て Y サ ー バ に 接 続 し 、
希望するファイルの検索を指示すると、上記データベース情報
の内から当該指示に従った送信者情報が送信されるので、取得
したいファイル情報を選択して必要な操作を行うと、当該ファ
313
5.判例、裁判上の係争事項等
イルを蔵置しているパソコンから自動的に当該ファイルが送信
さ れ 、受 信 者 の パ ソ コ ン の 保 存 先 フ ォ ル ダ( 既 定 の 状 態 で は「 共
有フォルダ」となっている)にダウンロードされる。
イ.本件サービスの運営状況
社 団 法 人 日 本 レ コ ー ド 協 会 が 平 成 13年 11月 1 日 か ら 平 成 14年 1
月 23日 ま で の 間 の 毎 平 日 の 午 後 5 時 前 後 に 行 っ た 調 査 に よ れ ば 、
Yサーバに接続しているパソコンの共有フォルダに蔵置されてい
る 電 子 フ ァ イ ル の 数 は 、 各 調 査 時 点 の 平 均 で 54万 弱 で あ る が 、 そ
の う ち M P 3 フ ァ イ ル は 平 均 8 万 で 全 体 の 約 15パ ー セ ン ト を 占 め
た 。 ま た 、 平 成 13年 12月 3 日 の 時 点 で 、 Y サ ー バ に 登 録 さ れ た 利
用者数は約4万2千人に達し、前期調査によれば各調査時点で同
時 に Y サ ー バ に 接 続 し て い る 利 用 者 数 は 平 均 約 340 人 で あ っ た 。
(3)本決定における主な争点
ア.被保全権利の有無
(ア)本件各管理著作物について、Xの有する著作権に対する侵害
行為の主体がYであるとして、Yに対して本件各MP3ファイ
ルの送受信の差止めを求めることはできるか
(イ)本件各管理著作物について、Xの有する著作権に対する侵害
行為をYが教唆又は幇助しているとして、Yに対して本件各M
P3ファイルの送受信の差止めを求めることはできるか
イ.保全の必要性の有無
ウ.仮処分命令の認められる範囲
(4)争点のポイント
ア.Yの行為は、著作権侵害行為か?
(ア)著作権侵害とは?
XのYに対する本件各MP3ファイルの送受信の差止めの仮
処分の申立が認められるための要件は(1)被保全権利の存在
と(2)保全の必要性である。
本件における被保全権利は、著作権侵害による差止め請求権
( 法 第 112 条 1 項 ) で あ り 、 同 条 は 「 著 作 者 、 著 作 権 者 、 出 版
権者又は著作隣接権者は、その著作者人格権、著作権、出版権
又は著作隣接権を侵害する者又は侵害するおそれのある者に対
し、その侵害の停止又は予防を請求することができる」として
314
5.判例、裁判上の係争事項等
いる。この著作権侵害は、著作権侵害による損害賠償責任の場
合と異なり、行為者の「故意・過失」を必要とせず、客観的に
著作権侵害と認められる行為があれば、それにより成立する。
すなわち、著作権とは、著作物につき、複製、自動公衆送信と
いった支分権に基づく利用を行うことのできる権利であり、法
律 上 、著 作 権 者 の 著 作 権 の 効 力 が 制 限 さ れ て い る 場 合( 例 え ば 、
私的使用のための複製の場合等)を除いて、著作権者の許諾な
く、著作物についてかかる利用行為を行えば、著作権侵害が成
立するのである。
(イ)Yの行為は著作権侵害か?
そこで本件では、本件サービスを提供するYの行為が、Xの
本件各管理著作物に対する著作権(複製権、自動公衆送信権、
送信可能化権)の侵害にあたるかどうかが問題となる。
けだし、本件サービスにおいて、本件各MP3ファイルの送受
信を行っているのは利用者であり、本件各MP3ファイルは、
利用者のパソコン間で直接送受信される。Yサーバにはファイ
ル情報等のみが送信され、当該電子ファイル自体は送信されな
い。
従って、Yは個別にダウンロードしない限り、交換される電子
ファイルの内容を知ることはできない。また、本件サービスに
おいて交換可能なファイルはMP3ファイルに限られない(こ
の 点 、ナ ッ プ ス タ ー・シ ス テ ム の 場 合 と 異 な る )。し か し 他 方 、
利用者間での電子ファイルの送受信が可能になるのは、Yサー
バが受信可能なファイル情報等のリストを提供し、これに基づ
き、本件クライアントソフトが、送信者と受信者とのパソコン
を直接接続するサービスを提供しているからである。従って、
このようなYの行為は、著作権法上、本件管理著作物の利用行
為と評価されるのかが問題となる。
イ.利用者の行為は著作権侵害か?
なお、Yの行為の評価にあたっては、直接的に本件各MP3フ
ァイルの送受信行為を行っているのは利用者なので、前提問題と
して、こうした利用者の行為は、Xの本件各管理著作物について
の著作権の侵害を構成するかが問題となる。そして利用者の行為
は、本件各MP3ファイルの送信行為と受信行為とに分けられる
ので、それぞれにつき、著作権者の許諾なくこれらの行為を行う
ことが、著作権法上、私的使用のための複製等の著作権の効力の
315
5.判例、裁判上の係争事項等
制限事由との関係で、どう評価されるかが問題となる。
ウ.著作権を間接的に侵害した者に対する差止の可否
仮にYが本件サービスの提供行為により、Xの著作権を直接侵
害するのではなく、利用者による著作権侵害行為を教唆又は幇助
しているものと認められた場合、このような教唆者又は幇助者に
対しても「著作権を侵害する者」として、著作権侵害による差止
請 求 権 ( 法 第 112 条 1 項 ) の 行 使 が 認 め ら れ る か が 問 題 と な る 。
けだし、この差止請求権については、条文上、著作権等を「侵害
する者又は侵害するおそれのある者」に対して「侵害の停止又は
予防を請求することができる」と規定されていることから、(ア)
文理解釈上、その行使は、直接著作権侵害を行った者(直接侵害
者 )に 対 し て の み 認 め ら れ 、教 唆 や 幇 助 に よ る 間 接 的 な 侵 害 者( 間
接侵害者)に対しては、差止め請求はできないとの見解もあるか
らである。この説はまた(イ)この差止め請求は「故意・過失」
を要件としていないことからも、直接的な侵害行為をしていない
者に対して、このような強力な権利行使を認めるべきではないと
いうことを根拠とするようである。この点、本件においてYは上
記 の 他 、( a )第 三 者 に よ る 著 作 権 等 侵 害 行 為 を 客 観 的 に 惹 起 し 、
補助し、又は容易ならしめる行為が全て差止め請求の対象となる
とすると、その範囲は過度に広範囲となり、われわれの日常生活
すら脅かされるおそれがあること(例えば、Xはパソコンメーカ
ーに対し、パソコンの製造・販売の差止めすら要求できることに
なる)(b)わが国の著作権法には、特許法上の間接侵害(特許
法 101 条 2 号 ) の よ う な 規 定 も 、 米 国 著 作 権 法 上 の 寄 与 侵 害 の よ
うな規定も設けられていないこと等からすれば、教唆又は幇助を
した者に対する差止請求は許されない、と主張した(但し、ナッ
プスター事件で見たように、米国著作権法上も、寄与侵害につい
ての規定はない)。
(4)争点に対する裁判所の判断
ア.前提問題(送信者の行為)
本決定は、送信者の行為は、(a)本件各MP3ファイルの共
有フォルダへの蔵置行為(前提として、音楽CDのMP3ファイ
ルへの複製が行われる場合もあるがここではその問題は省略す
る)と(b)Yサーバへの接続行為から成るが、次のとおり、そ
れぞれXの複製権、自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害を構
316
5.判例、裁判上の係争事項等
成すると判断した。
(ア)複製行為と複製権侵害の有無
(a)本件各MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置す
ることは、当該MP3ファイルの元となった音楽CDに複製
さ れ た 楽 曲 の 複 製 行 為 に 該 当 ( 法 2 条 1 項 15号 ) す る 。 従 っ
て 、 当 該 複 製 は 、 私 的 使 用 の た め の 複 製 ( 法 30条 1 項 ) に 該
当 し な い 限 り 複 製 権 の 侵 害 と な る 。ま た 、法 49条 1 項 1 号 は 、
たとえ当初は私的使用のために複製した場合であっても、当
該レコードに係る音を公衆に提示した者は、複製を行ったも
のとみなす旨を規定している(みなし侵害)。
(b)従って、送信者が(ⅰ)本件各MP3ファイルをパソコン
の 共 有 フ ォ ル ダ に 蔵 置 し て( ⅱ )Y サ ー バ に 接 続 す れ ば 、[ 1 ]
利用者が当初から公衆に送信する目的で蔵置した場合には、
法 30条 1 項 の 規 定 解 釈 か ら 当 然 に 、 ま た [ 2 ] 当 初 は 私 的 使
用目的で複製した場合であっても、公衆が当該MP3ファイ
ルを受信して音楽を再生できるような状態にした場合には、
当該複製物により当該著作物を公衆に提示したものとして、
法 49条 1 項 1 号 の 規 定 に よ り 、 当 該 複 製 時 点 で の 利 用 者 の 目
的の如何に関わりなく、本件各管理著作物について著作権侵
害( 複 製 権 侵 害 又 は そ の 見 な し 侵 害 の い ず れ か )を 構 成 す る 。
(イ)自動公衆送信及び送信可能化行為と自動公衆送信権及び送信
可能化権侵害の有無
(a)「公衆」への送信に該当するか?
著作権法上「公衆」とは、「不特定多数」ではなく、「不
特定」または「多数」を意味する。Yはこの点「送信者はリ
アルタイムチャット等を介して知り合った特定の人物によっ
て直接受信されることを目的として、特定のフォルダを共有
フォルダとして指定する場合があり得る」として、「このよ
うな場合、送信の相手方は少数人かつ特定人であるというべ
きである」と主張した。
しかし本決定は、本件サービスは、ユーザー名およびパス
ワードを登録すれば誰でも利用できるものであり、既に4万
人 以 上 の 者 が 登 録 し 、 平 均 し て 340 人 も の 利 用 者 が Y サ ー バ
に接続して電子ファイルの交換を行っているとして、本件サ
ービスにおける電子ファイルの送信の相手方は「公衆」にあ
317
5.判例、裁判上の係争事項等
たるとした。
(b)送信可能化権を侵害するか?
そして本決定は、送信者が電子ファイルをパソコンの共有
フォルダに蔵置して本件クライアントソフトを起動してYサ
ーバに接続すれば、当該パソコンはYサーバにパソコンを接
続させている受信者からの求めに応じ、自動的にかかるファ
イルを送信し得る状態となるので、かかる状態に至った送信
者のパソコンは、Yサーバとー体となって情報の記録された
自動公衆送信装置(法2条1項9号の5イ)に当たるという
ことができ、また、その時点で、公衆の用に供されている電
気通信回線への接続がされ、当該電子ファイルの送信可能化
(同号6)がされたものと解することができるとした。従っ
て(ⅰ)本件各MP3ファイルを共有フォルダへの蔵置行為
と(ⅱ)Yサーバへの接続行為は、Xが本件各管理著作物に
ついて有する送信可能可権の侵害となるとした。
(c)自動公衆送信権の侵害
更に本決定は、上記のようにして送信可能化された本件各
MP3ファイルが受信側のパソコンに送信されると、その時
点で、Xが本件各管理著作物について有する自動公衆送信権
の侵害となるとした。
イ.前提行為(受信者の行為)
受信者が、本件各MP3ファイルをそのパソコンにダウンロー
ド す る 行 為 は 複 製 に 該 当 す る が 、 著 作 権 法 30条 1 項 の 私 的 使 用 の
ための複製として、著作権者の許諾なく行える行為にあたるか否
かが問題となる。この点、Xは、本件クライアントソフトの機能
上、他の利用者のパソコンからダウンロードされた電子ファイル
は、既定の状態では共有フォルダに蔵置(複製)された上、さら
に再送信可能な状態に置かれるので、そこに電子ファイルを蔵置
することは、私的使用には該当せず、複製権の侵害にあたると主
張したが、本決定は、この点については判断しなかった。
ウ.Yの著作権侵害(自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)
の有無
(ア)Yの主張
Y は 、 最 判 昭 和 63年 3 月 15日 ( 民 集 42巻 3 号 199 頁 ) に よ れ
ば、実際に著作物の利用行為を行っている者以外の者を規範的
318
5.判例、裁判上の係争事項等
に利用行為主体と認めるためには[1]実際の利用者による利
用を管理していること[2]当該利用行為により利益を上げる
ことを意図していたことの2点が必要とされ、本件サービスは
いずれの要件も満たさないと主張した。そして、管理の点につ
いては、(ⅰ)本件各MP3ファイルを共有フォルダに蔵置し
て送信可能化し、本件クライアントソフトをインストールして
起動させたのは利用者であってYではなく、また利用者が送信
可能化する電子ファイルは、Yがあらかじめ指定するものに限
られるわけではない、(ⅱ)Yサーバが関与するのは特定の電
子ファイルのファイルを検索してカタログデータを入手するま
での過程に限られ、そのカタログデータを基に個人間で電子フ
ァイルを送受信するという行為には関与していない、(ⅲ)Y
は、本件各MP3ファイルを送信ないし保存するよう勧誘した
事実も、また利用者の求めに応じて、利用者に対して本件クラ
イアントソフトの操作方法を教えるようなサービスも行ってい
ない等と主張した。
(イ)裁判所の判断
しかし本決定は、Yの行為がXの送信可能化権および自動公
衆送信権を侵害するか否かについては[1]Yの行為の内容・
性質、[2]利用者のする送信可能化状態に対するYの管理・
支配の程度、[3]本件行為によって生ずるYの利益の状況等
を総合斟酌して判断すべきであるとして、次のように判断した。
(a)本件サービスの内容・性質
本決定は、Yは[1]債務者サーバに接続しているパソコン
の共有フォルダ内の電子ファイルに関するファイル情報を取得
し 、[ 2 ]そ れ ら を ー つ の デ ー タ ベ ー ス と し て 統 合 し て 管 理 し 、
[3]受信者の検索リクエストに応じた形式に加工したうえ、
[4]これを同時にYサーバに接続されている他の利用者に対
して提供し、[5]他の利用者が本件クライアントソフトによ
り、好みのファイルを検索・選択し、画面に表示されたダウン
ロードボタンをクリックするだけで(送信者のIPアドレスを
知る必要もないまま)当該ファイルの送信を受けることができ
るようにしており、利用者による電子ファイルの送受信を可能
にさせるために不可欠なファイル情報の取得等に関するサービ
スの提供並びにファイルをダウンロードする機会の提供その他
ー切のサービスを「Y自らが直接的かつ主体的に行っているも
319
5.判例、裁判上の係争事項等
の」とした。
そして本決定は、次のような事実が認められるとして「本件サ
ービスは、送信者が、市販のレコードを複製したファイルが大
多数を占めているMP3ファイルを、送信可能化状態にするた
めのサービスということができる」と判断した。
・本件サービスは、市販のレコードを安価に取得したいと思
う者にとって極めて魅力的であるー方、自己が著作した音
楽等の電子ファイルを不特定の者に無料で提供したり、そ
の取得を望む者は比較的少ないものと推測され、仮にその
ような者がいたとしても、本サービスの検索機能は、その
ような電子ファイルの交換のためには有効に機能しないも
のと解されること。
・実際、Yサーバが送受信の対象としているMP3ファイル
の 約 96.7パ ー セ ン ト が 市 販 の レ コ ー ド の 複 製 に な る も の で
あり、本サービスにおいて送受信されるMP3ファイルの
ほとんどが違法コピーに係るものとなることは避けられな
いものと予想され、Yとしても本サービスの開始当時から
かかる事態になることを十分に予想していたものと認めら
れること
・従って、本件サービスは、MP3ファイルの交換に関する
部分については、利用者に市販のレコードを複製したMP
3ファイルを交換させるためのサービスということができ、
利用者が市販のレコードが複製されたMP3ファイルを送
受信の対象とすることは、正に本件サービスを提供するY
の意図、目的に合致した行為ということができること
(b)管理性等
そして本決定は(ⅰ)利用者の本件サービスを利用した電子
ファイルの送受信には、本件クライアントソフトとYサーバへ
の接続が必要不可欠であり(ⅱ)対象ファイルとその所在の検
索に必要なー切の機会はYにより提供されており、そのために
Yサーバが必要不可欠であること、(ⅲ)受信は本件クライア
ントソフトの画面上の簡単な操作によって行うことができ、受
信者のための利便性、環境整備が図られていること(ⅳ)受信
可能な電子ファイルはYサーバに接続しているパソコンの共有
フォルダに蔵置されているものに限られていること(ⅴ)Yは
本 件 サ ー ビ ス の 利 用 方 法 に つ い て 自 己 の Web サ イ ト 上 で 説 明 し
ていること等の事実を認定し、利用者による電子ファイルの送
320
5.判例、裁判上の係争事項等
信可能化行為及び自動公衆送信行為は、Yの管理の下に置かれ
ているというべきであるとした。
(c)Yの利益
ま た 、 Y の 利 益 に つ い て は 、 Web サ イ ト へ の 接 続 数 が 多 く な
れば、広告掲載の需要が高まり広告収入等も多くなり、Yが本
件サービスにおいて送信者にYサイトに接続させてMP3ファ
イルの送信可能化行為をさせることは、それ自体Yサイトへの
接続数を増加させる行為であると共に、受信側パソコンの接続
数の増加に寄与する等、Yサイトの広告媒体としての価値を高
めYの営業上の利益を増加させる行為と評価できること、そし
てXは、将来本件サービスを有料化することを予定していると
して、これを認めた。
エ.保全の必要性
本決定は、以上のとおり判断したうえ[1]本件サービスの受
信者が多数に達していること、しかもその利用者は個人として特
定されないこと、[2]Yは交換情報を遮断するなどの措置を何
ら採っていなかったこと、[3]今後も同情報が公開されるおそ
れがあること等の事情に照らせば、Xに著しい損害が生じること
は明らかであるとして、保全の必要性を認めた。
オ.仮処分において命ずる不作為の範囲
しかし、仮処分において命ずる不作為の範囲については、Xは
本件サービスで本件各MP3ファイルを送受信の対象とすること
の差止めを求めたのに対し、本決定は、送信を差し止めるべきフ
ァイル情報の範囲としては、受信者のファイル選択を不可能なら
しめ、かつ他の著作物と本件各管理著作物のファイルとの誤認混
同を回避するのに必要かつ十分なファイル情報にとどめるべきで
あるとして、前述の範囲での不作為を命じた。
・本件サービスにおいて本件各MP3ファイルを共有フォルダに
蔵置してYサーバに接続させる物理的行為を行っているのは利
用者であり、Yサーバは、利用者の共有フォルダに蔵置された
MP3ファイル自体については送受信の対象としていないので
あるから、Yにおいてはいかなるファイルが利用者間で送受信
されているかを判別することはできず、本件各MP3ファイル
自体の送受信の差止めを求めるのでは、本件申立の目的を達成
できないこと。
321
5.判例、裁判上の係争事項等
・他方、仮に利用者が本件各MP3ファイルを共有フォルダに蔵
置しても、Yサーバがそのファイル名等のファイル情報を他の
利用者に送信することを差し止めれば、本件申立の目的を達す
ること。
以上、本決定は、Yの行為を本件管理著作物についてXの有する著
作権の直接侵害行為と判断したため、他の争点については判断しなか
った。
5.2.3
ファイルローグ 著 作 権 侵 害 差 止 等 請 求 事 件 中 間 判 決
東 京 地 裁 平 成 14年( ワ )第 4237 号・平 成 15年 1 月 29日 中
間判決(A事件)
東 京 地 裁 平 成 14年( ワ )第 4249 号・平 成 15年 1 月 29日 中
間判決(B事件)
(1)事案の概要
ア.A事件(以下「本件」という)は、日本音楽著作権協会(以下
「X」という)が、有限会社日本エム・エム・オー(以下「Y」
と い う ) に 対 し 、 Y が 「 フ ァ イ ル ロ ー グ ( File Rogue) 」 の 名 称
で、日本国内の利用者向けに提供していたファイル交換サービス
(以下「本件サービス」という)による著作権侵害行為の差止を
求め、併せてYとその代表者に対し、損害賠償を請求した裁判の
中 間 判 決 で あ る 。5 .2 .2 に て 紹 介 し た 仮 処 分 命 令 申 立 事 件( 以
下「仮処分申立事件」という)の本案にあたる。
イ.裁判所は概要次のように判決し、仮処分申立の決定(以下「仮
処 分 決 定 」と い う )と 同 様 の 理 由 で 、Y が 本 件 サ ー ビ ス に お い て 、
サービスの利用者により行われる著作権(自動公衆送信権及び送
信可能化権)侵害行為の主体であり、Yとその代表者は、Xに対
して連帯して著作権侵害による損害賠償責任を負うと判断した
(以下「中間判決」という)。またB事件は、国内のレコード会
社 19社 の 訴 え に よ り 、 同 様 に 著 作 隣 接 権 ( 送 信 可 能 化 権 ) に つ い
て判断されたものであり、本稿では省略する。
( ア )Y が 運 営 す る 本 件 サ ー ビ ス に お い て 、同 サ ー ビ ス の 利 用 者 が 、
Xの許諾なく、Xの申立にかかる各音楽著作物(以下「本件各
管 理 著 作 物 」と い う )を M P 3 形 式 で 複 製 し た 電 子 フ ァ イ ル( 以
下「本件各MP3ファイル」という)を利用者のパソコンの共
有フォルダ内に蔵置した状態で、同パソコンをYの設置に係る
322
5.判例、裁判上の係争事項等
サーバ(以下「Yサーバ」という)に接続させる行為は、本件
各管理著作物についてXの有する著作権(自動公衆送信権及び
送信可能化権)を侵害する行為にあたり、Xがその著作権侵害
行為の主体であると認められる。
(イ)Yらは、Xに対し、本件サービスにおいて本件各MP3ファ
イルが交換されたことについて、連帯して損害賠償金を支払う
義務を負う。
ウ.本判決は、Yの行為の違法性を判断した中間判決であり、Yに
対する差止め請求の範囲及びXの被った損害賠償額については、
年内にも終局判決として言い渡される予定である。本件サービス
の仕組み等、本件事案の詳細等については、前記仮処分申立事件
を 参 照 さ れ た い 。 な お 、 Y は 、 平 成 14年 4 月 の 仮 処 分 決 定 以 降 、
本件サービスの提供を停止している。
(2)中間判決の争点
ア.Yは、本件各管理著作物について、Xの有する著作権を侵害し
ているといえるか?
(ア)利用者の行為と著作権侵害の成否
この点、中間判決は仮処分決定と同様の理由で、(a)本件
各MP3ファイルを共有フォルダに蔵置して(b)Yサーバに
接続する送信者の行為は、本件各管理著作物についてXの有す
る複製権、自動公衆送信権及び送信可能化権の侵害を構成する
と判断した。
(イ)Yの本件サービス提供行為と著作権(自動公衆送信権及び送
信可能化権)の侵害の成否
イ.XのYらに対する著作権侵害を理由とする不法行為に基づく損
害賠償請求は理由があるか?
(ア)Xの故意または過失は認められるか?
(イ)Xは「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発
信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」
という)の第3条1項に規定されている特定電気通信役務提供
者に該当し、同項の免責を受けるか?
(3)争点のポイント
ア.Yの行為は、著作権侵害行為か?
これについては、仮処分申立事件の稿を参照いただきたい。送
323
5.判例、裁判上の係争事項等
信者の前記行為が著作権侵害を構成するとしても、Y自らは、か
かる行為を行っているわけではない。しかし、Yは本件サービス
の運営により、そうした著作権侵害行為に不可欠な手段を提供し
ている。こうしたYの行為が著作権法上いかに評価されるかが問
題となる。
そしてこの点、ナップスター判決がその分析において示唆した
ように、アーキテクチャーが、有用な用途に使用される反面、著
作権侵害にも使用され得る場合、そうしたアーキテクチャーその
ものと、そうしたアーキテクチャーの運用者の行為とを峻別した
うえで、いかなる場合にかかる運用者の行為が違法と評価される
のかの視点が重要なのではないかと思われる。
イ.Yらの損害賠償責任の有無
仮処分申立事件の稿で述べたように、著作権侵害は、著作権者
の許諾なく、法律上の著作権の効力の制限事由に該当しない著作
物の利用行為を行えば、そのこと自体により、当該利用者の「故
意・過失」を要さずに成立する。
しかし、著作権侵害による損害賠償請求は、民法上の不法行為制
度に基づいて認められるものであり、行為者による著作権侵害行
為 が 、 民 法 709 条 の 不 法 行 為 に 該 当 す る 違 法 な 行 為 で あ る こ と が
要件となる。従って、Yらに損害賠償責任が生じるとするために
は(a)Yらが故意に著作権侵害行為を行い、または(b)著作
権侵害という結果を予見し回避することが可能であったのに、こ
れを予見して回避する義務を怠った過失行為により著作権を侵害
し( c )そ の こ と に よ り X に 損 害 を 生 じ さ せ た こ と が 必 要 と な る 。
ウ.プロバイダ責任制限法の適用の有無
(ア)プロバイダ責任制限法の適用と損害賠償責任の要件の適用関
係
プロバイダ責任制限法は、特定電気通信(不特定の者によっ
て受信されることを目的とする電気通信であって、広義の放送
に該当しないもの)による情報の流通により他人の権利が侵害
されたときは、かかる通信設備を用いる特定電気通信役務提供
者は、これによって生じた損害については(a)送信防止措置
を講ずることが技術的に可能な場合であって(b)かかる情報
の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていた
ときまたは(c)知ることができたと認めるに足りる相当な理
324
5.判例、裁判上の係争事項等
由のあるときでなければ賠償の責めに任じない(法第3条1項)
として、特定電気通信役務提供者としてのISPの損害賠償責
任を制限している。
(ここで「情報の流通により」とされているのは、権利の侵害
が「情報の流通」自体によって生じたものである場合を対象と
するものであることを示すためである)
従ってISPが著作権侵害による損害賠償責任を問われるた
めには、この免責要件に該当しないことが主張立証されたうえ
で、更に上記の著作権侵害による不法行為責任の有無が問われ
ることになる(かかる免責要件に該当しないことが、直ちに著
作権侵害による損害賠償責任を構成するものではない)。
なお「この規定は、関係役務提供者(ISP)の不作為責任の
判断の際に、当然に考慮されるべき事情を独立の要件として抽
出し、類型化して規定することで、関係役務提供者が民事上の
責任を問われうる場合を明確化するものである。したがって、
被害を受けたと主張する者は、関係役務提供者に対して損害賠
償請求をするに当たっては、まず、本項の各要件に該当するこ
とを主張・立証したうえで、作為義務の存在や因果関係等損害
賠償請求に必要な他の要件をも主張・立証する必要がある。
すなわち、本項の規定は主張・立証責任を転換するものではな
く、また、本項の要件に該当した場合に当然に損害賠償責任が
あることとなるわけでもない。」(「プロバイダ責任制限法−
逐 条 解 説 と ガ イ ド ラ イ ン − 」 32頁 。 総 務 省 電 気 通 信 利 用 環 境 整
備室著/社団法人テレコムサービス 協会編著)とされる。
(イ)Yは、プロバイダ責任制限法の適用を受けるか?
但しこのISPの免責は、当該ISPが当該権利侵害情報の
発信者であるときは適用されない。「発信者」とは、「特定電
気通信役務提供者の用いる特定電気通信設備の記録媒体(当該
記録媒体に記録された情報が不特定の者に送信されるものに限
る )に 情 報 を 記 録 し 、又 は 当 該 特 定 電 気 通 信 設 備 の 送 信 装 置( 当
該送信装置に入力された情報が不特定の者に送信されるものに
限る)に情報を入力した者をいう。」と定義され(法2条4号)
ている。「情報の流通により他人の権利が侵害された場合、そ
の責任を一義的に負うべき者は、当該情報を流通過程に置いた
者であり(中略)これらの者を「発信者」として定義するもの
である。誰が情報を流通過程に置いた者に該当するかは、当該
情報を流通過程に置く意思を有していた者が誰かということに
325
5.判例、裁判上の係争事項等
かかわる。したがって、法人の従業員が業務上送信行為を行っ
たにすぎないような場合は、発信者は当該法人であるが、受委
託の関係があるものの委託先の業者が委託元とは独立して情報
流通に関与しているような場合は、委託先の業者が発信者にな
るものと考えられる。」(同上「プロバイダ責任制限法−逐条
解 説 と ガ イ ド ラ イ ン − 」 21、 22頁 ) と さ れ る が 、 本 件 に お い て
Yは、プロバイダ責任制限法との関係では、まず(a)同法に
規定する特定電気通信役務提供者なのか、(b)そうでないの
か、それとも(c)権利侵害情報の「発信者」なのかが問題と
なる。
(4)争点に対する裁判所の判断
ア.Yの著作権侵害(自動公衆送信権侵害及び送信可能化権侵害)
の有無
中間判決は、仮処分決定と同様に、Yの行為がXの送信可能化
権および自動公衆送信権を侵害するか否かについては[1]Yの
行為の内容・性質、[2]利用者のする送信可能化状態に対する
Yの管理・支配の程度、[3]本件行為によって生ずるYの利益
の状況等を総合斟酌して判断すべきであるとして、本件サービス
は「MP3ファイルの交換に係る分野については、利用者をして
市販のレコードを複製したMP3ファイルを自動公衆送信及び送
信可能化させるためのサービスという性質を有すること、送信者
がMP3ファイル(本件各MP3ファイルを含む)の送信可能化
行為及び自動公衆送信行為を行うことは、Yの管理の下に行われ
ていること、Yは自己の営業上の利益を図って、送信者にかかる
行為をさせていたことから、Yは本件各管理著作物の自動公衆送
信及び送信可能化を行っているものと評価でき、Xの有する自動
公衆送信権及び送信可能化権の侵害の主体であると解するのが相
当であると判断した。なお、判断の詳細については、5.2.2
の仮処分決定の稿を参照されたい。
イ.Yの損害賠償責任の有無
(ア)著作権侵害による損害賠償責任の有無
中間判決は、Yは遅くとも本件サービスの運営を開始した直
後には、本件サービスによって、他人の音楽著作物についての
送信可能化権及び自動公衆送信権が侵害されていることを認識
326
5.判例、裁判上の係争事項等
し得たと判断し、Yは本件サービスの運営を行う際に、このよ
うな著作権侵害が行われることを防止するための適切・有効な
措置を講じる義務があったとして、Yの結果回避義務の存在を
認めた。かかる義務を認めるにあたって、摘示された事実は次
のとおりである。
(a)Yは、本件サービスの運営を開始するにあたって、同様
のファイル交換サービスにより大量の無許諾のMP3ファ
イルの交換が行われ、社会問題となっていたことを十分に
認識していた。
(b)Yサーバは接続したパソコンの共有フォルダ内のファイ
ル名、フォルダ情報を受信するのだからこれを認識するこ
とができる。
(c)そして、それらの多くには市販のレコードに関する楽曲
名及び歌手名を示す文字列が表記されているのだから、当
該ファイルは当該音楽著作物の複製物であると考えるのが
常識的である。
(d)Y自ら検索すれば、上記を容易に認識し得た。
(イ)結果回避義務とその違反
そして、中間判決は、Yは著作権侵害を防止するための何等
の有効な措置を採らず、漫然と本件サービスを運営して、Xの
有する送信可能化権及び自動公衆送信権を侵害したのであるか
ら、Yにはこの点で過失があると判断した。
ウ.プロバイダ責任制限法との関係
中間判決は、著作権法の関係では、Yサーバは、電子ファイル
を共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソコンと一体となっ
て「公衆送信用記録媒体に情報の記録された自動公衆送信装置」
に該当し、送信者の共有フォルダに蔵置された電子ファイルの送
信可能化及び自動公衆送信を行った主体はYである、そしてプロ
バイダ責任制限法との関係でも、同法の「記録媒体」に当たるも
のは電子ファイルを共有フォルダに蔵置した状態の送信者のパソ
コンとー体となったYサーバであると解すべきであり、また、か
かる「記録媒体」に電子ファイルを蔵置した主体に該当する者は
Yであると解すべきであるので、Yは「記録媒体に情報を記録し
た者」すなわち「発信者」に該当するとの判断を示した。したが
って、同法が「施行前の行為についても適用されるか否かの判断
はさておき、Yの行為について、同法3条1項本文によりその責
327
5.判例、裁判上の係争事項等
任を制限することはできないというべきである。」とした。
328
6.調査結果のまとめ
6
調査結果のまとめ
6.1 権利侵害情報の実態とその対応についてのまとめ
この項は、事業者相談センターのデータベース構築の際に、必要なデータ
を体系的に整理し、記述したものである。
このデータベースは、プロバイダ責任制限法対応事業者協議会に所属する
会員向けに構築するもので、事業者からアンケートで提供していただいたデ
ータと、事業者相談センターで対応したデータが包含されている。
提供時期は、平成15年4月から活用できるよう、準備を進めているとこ
ろで、完成次第、別途アナウンスしたい。
用語の解説
・申立者:
事業者に対し要求なり通報をしてきた者で、被害者本人、被害主張者、
第三者、代理人弁護士、会員(事業者に加入している者)
、非会員(事業
者に加入していない者)などが記載されている。
・情報の表示場所詳細:
権利侵害情報が誰の管理(事業者、事業者に加入している会員、他社、
他社会員、事業者が契約する二次プロバイダ等)するどのような場所(ウ
ェブページ、電子掲示板、P2Pファイル交換等)に存在するのかが記
載されている。
・発信者:
上記情報の表示場所に置いた者で、事業者に加入している会員、事業者、
他社会員、二次プロバイダ会員等が記載されている。
329
6.調査結果のまとめ
(1)名誉毀損・プライバシー侵害関係の事例タイトル一覧
事例 №
事例タイトル(名誉毀損・プライバシー侵害関係)
001
告発ホームページに対する削除要請
002
個人の写真が掲載されたホームページの削除要請(その1)
(ガイドライン書式に基づく請求の場合)
003
タレントの写真のホームページへの無断掲載
004
個人の写真が掲載されたホームページの削除要請(その2)
(プロバイダ責任制限法の言及がない場合)
005
肖像権違反のホームページに関する第三者からの通報
006
元被告人からのニュース削除要請
007
個人の写真が掲載されたホームページの削除要請(その3)
(権利侵害部分が不明確な場合)
008
被害主張者からの発信者の解約要請
009
掲示板に住所、氏名等プライバシー情報が掲載された場合の対応
010
他社管理の掲示板への悪質な書き込み
011
個人情報を蓄積したサーバにアクセスした者の開示請求
012
掲示板に個人情報を掲載した者の発信者情報開示請求
013
掲示板に書き込みをした発信者本人からの削除要請
014
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その1)
(発信者に注意喚起)
015
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その2)
(発信者に照会)
016
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その3)
(申立者の要望を伝達)
017
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その4)
(発信者への送信防止依頼とその反応)
018
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その5)
(会員を特定できない場合)
019
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その6)
(画像を含むプライバシー情報の送信)
020
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その7)
(プロバイダ責任制限法の考え方と対応)
021
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その8)
(弁護士からの要望の対応)
330
6.調査結果のまとめ
事例 №
事例タイトル(名誉毀損・プライバシー侵害関係)
022
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その9)
(発信者情報開示請求)
023
発信者が二次プロバイダ会員の場合の対応(その1)
(二次プロバイダに申立てるよう依頼した場合)
024
ログ情報を蓄積していないサービス形態での対応
025
発信者が二次プロバイダ会員の場合の対応(その2)
(二次プロバイダに申立てを伝えた場合)
026
誹謗中傷めいた内容に対する第三者からの申立
027
内部資料のホームページでの公開
028
会社の名誉を毀損する内容の削除要請
029
告発サイトの削除要請に対する対応
030
申立者を誹謗する内容の削除要求
031
被害主張者を名誉毀損した部分の削除または発信者情報開示請求
032
内部資料公開に対する判断と対応
033
名誉毀損の申立に対する事業者の対応(その1)
034
名誉毀損の申立に対する事業者の対応(その2)
035
名誉毀損の申立に対する事業者の対応(その3)
036
他社会員管理の掲示板へのあらし行為に対する送信停止依頼
037
掲示板へのたびかさなるいやがらせ発言に対する掲示板管理者か
らの対応依頼
038
デモ環境端末からの権利侵害情報の発信
039
プロバイダ責任制限法に基づいた申立ではない発信者情報開示請
求(その1)
040
掲示板での名誉毀損に対する発信者情報開示請求の対応
041
プロバイダ責任制限法に基づいた申立ではない発信者情報開示請
求(その2)
042
申立内容を元に会員の確認ができなかった場合
043
申告に基づく侵害情報流通の確認ができなかった場合
044
弁護士法第23条の2に基づく発信者情報開示請求の対応
045
数社が特定電気通信役務提供者として関係する場合
046
発信者情報開示請求に対する開示内容
331
6.調査結果のまとめ
(2)著作権侵害関係の事例タイトル一覧
事例 №
事例タイトル(著作権侵害関係)
061
ホームページ掲載写真に対する第三者からの通報
062
著作権所有者からのホームページ掲載内容の削除要求
063
商標権を侵害されたとする申立の対応
064
信頼性確認団体からの送信防止措置請求の対応(その1)
065
信頼性確認団体からの送信防止措置請求の対応(その2)
066
信頼性確認団体からの送信防止措置請求の対応(その3)
067
二次プロバイダ会員の著作権侵害
068
第三者からの著作権侵害の通報に対する対応の考え方
069
ライセンス契約違反と思われる申立ての対応
070
信頼性確認団体からの申立てに対する対応
071
リンク先に著作権侵害の画像がある場合の対応
072
ファイル交換ソフトでの著作権侵害に対する海外からの申立て
(その1)
073
ファイル交換ソフトの著作権侵害に対する海外からの申立て
(その2)
074
ファイル交換ソフトで二次プロバイダ会員が著作権侵害情報を公
開していることに対する対応
075
著作権侵害での発信者情報開示請求
076
弁護士法第23条の2に基づく発信者情報開示請求の対応
077
海外から著作権侵害の申立のあった場合の対応
078
海外からの送信防止措置請求と発信者情報開示請求
079
著作物に対する悪質なパロディの対応
332
6.調査結果のまとめ
(3)プロバイダ責任制限法以外の事例タイトル一覧
事例 №
事例タイトル(著作権侵害関係)
091
SPAMメール送信に対する送信防止の要請
092
インターネット上の取引に関するトラブル
093
ねずみ講と思われるホームページへの対応
094
警察からの発信者情報開示請求
095
大量のメール送信によるメールサーバの障害
096
通信ログについての問い合わせ
097
掲示板でのトラブルの収拾に対する問い合わせ
098
トラブル未然防止の相談
099
ウイルスメールの送信
100
掲示板に掲載された誹謗中傷内容閲覧のメールでの案内
333
6.調査結果のまとめ
6.1.1
名誉毀損・プライバシー侵害関係
事例 №
001
タイトル
告発ホームページに対する削除要請
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
動物の捕獲に対する扱いを告発したホームページ中に、個人
相談内容
名や電話番号、顔写真が掲載されており、また掲載内容につい
ても事実と異なる部分があるとして、事実を知るという第三者
から事業者に対する削除要請。
事業者からは、以前もこのホームページに対し別の方から申立
てがあり、その時点では当事者間での解決を回答したが、プロ
バイダ責任制限法が施行されたので、どのように対応したらよ
いかの相談。
事業者相談セ
連絡内容から権利を侵害された本人の申出ではなく、事実確
ンターの回答 認がとれないのであれば、送信防止措置を採ることは難しいの
ではないか。
しかし、プロバイダとして通報を無視することは得策ではな
いので、ホームページ開設者には、
「明らかにプライバシーの侵
害・誹謗中傷に当たるのではないでしょうか?」との指摘があ
ったことを伝え、本人の責任と判断でホームページ掲載内容を
見直していただくよう注意喚起するとの対応でよいのではない
かと思われる。
第三者からと思われる指摘により、権利侵害をはっきり認識
できるのは稀なケースなので、プロバイダ責任制限法ができた
からといっていきなり削除ではなく、注意喚起等を行ってみて、
その後の様子をみることが望ましいのではないかと思う。
また、同一ホームページに対して、プロバイダ責任制限法施
334
6.調査結果のまとめ
行前に申立てがあったことの対応については、当事者で解決し
ていただくようお願いしているので、その時点における十分な
対応であったと思われる。
仮に権利を侵害された当事者からガイドラインの様式に沿っ
た申出があった場合は、申出内容等から対応を再度検討する必
要が出てくると思われる。
対応上の留意
第三者からの連絡とはいえ、発信者が個人の名前や電話番号
点等
などプライバシー情報の部分についてどのように扱うか難しい
判断が必要となる。
今後の状況次第で、ガイドラインの「プライバシー侵害の観
点からの対応」にあるように、当該情報を利用して私生活の平
穏を害する嫌がらせをされる恐れがある場合は、発信者に該当
部分の削除を求める個別の判断が必要である。
事例 №
002
タイトル
個人の写真が掲載されたホームページの削除要請(その1)
(ガイドライン書式に基づく請求の場合)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
有
事業者開設ウェブページ
申立内容
個人の写真や動画がウェブページ上に公開されていることに
対し、本人から、プライバシーを侵害されたとして、ガイドラ
イン書式に基づく送信防止措置依頼あり。
事業者の対応
連絡内容から個人の写真等が個人情報つきで掲載されている
という事実関係が確認できたため、事業者が該当ファイルを削
除し、発信者は以後同様の行為を行わない約束をしたが、再び
同様の写真を掲載したため、再度送信防止措置を採ったところ、
335
6.調査結果のまとめ
退会の申請がきた。
対応上の留意
点等
事例 №
003
タイトル
タレントの写真のホームページへの無断掲載
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
無
制限法の言及
権利侵害等の [情報の表示場所詳細]
発生状況
[発信者]事業者会員
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
会員開設ホームページにタレントの写真が無断で掲載されて
おり、メールや掲示板で注意を促したが一切応答がなかった、
として、事業者に送信防止措置請求の連絡があった。
連絡内容には特にプロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
画像が無断で使用していることが確認できたため、発信者に
送信防止依頼をし、削除していただいた。
対応上の留意
点等
事例 №
004
タイトル
個人の写真が掲載されたホームページの削除要請(その2)
(プロバイダ責任制限法の言及がない場合)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
336
無
無
6.調査結果のまとめ
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
被害主張者から、会員開設ホームページに本人の写真が無断
掲載されている発信者に削除要請を行ったが、対応の気配が見
えない、として、事業者に削除申立てがあった。特にプロバイ
ダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
被害者と発信者が知人とのことなので、被害者から発信者に
再度、ホームページの削除要請について事業者や弁護士に相談
していることを伝えてもらったところ、発信者が該当ホームペ
ージを削除した。
対応上の留意 ・被害者の本人確認方法
点等
事例 №
005
タイトル
肖像権違反のホームページに関する第三者からの通報
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
事業者の会員が開設するホームページに対して、事業者がレ
相談内容
ンタルしているサーバ上に著作権・肖像権に違反しているサイ
トを発見した。削除対象になるはずなので何か手を打って欲し
いとの連絡が第三者からメールで届いた。
連絡のあったURLをもとに事業者が調査したところ、芸能
人の写真が多数掲載されていることがわかり、肖像権の侵害に
該当すると思われる。対処方法を教えて欲しい。
337
6.調査結果のまとめ
事業者相談セ
第三者からの通報のため、開設者が許諾を受けていないこと
ンターの回答 についての確認がとれず、事業者がいきなり削除することは危
険と思われることを回答。
この段階では、規約に基づく対応ということで、発信者に対
して、権利者の許可を得ているのか確認をとり、もしも得てい
ないのなら、著作権侵害、肖像権侵害にあたると考えられるの
で、とりやめていただきたいことを伝える、という方向で、顧
問弁護士と相談してみてはどうか。
対応上の留意 ・第三者からの通報の場合の対応
点等
事例 №
006
タイトル
元被告人からのニュース削除要請
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 元被告人
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者
事業者からの
相談内容
無
無
事業者が運営するポータルサイト
事業者が運営するポータルサイトにおいて、コンテンツのひ
とつとして「業界ニュース」を扱っており、刑事事件の記事を
掲載していたところ、元被告人から公判が終了したとして記事
の削除の要請があった。
事実に関する記事の削除を認めることは、業界ニュースの在
り方の根幹に関わる問題であるため対応に苦慮している。新聞
社等も過去の記事は削除されないものと思われるが、そのあた
りの考え方を教えていただきたい。
事業者相談セ
メールによる申し出であり、対応する場合には本人確認が必
ンターの回答 要ではないか。
顧問弁護士と相談することを薦めた。
338
6.調査結果のまとめ
対応上の留意 ・申立者の本人確認
点等
事例 №
007
タイトル
個人の写真が掲載されたホームページの削除要請(その3)
(権利侵害部分が不明確な場合)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害者本人
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
事業者会員の開設したホームページに申立者の顔写真や本人
相談内容
に関連する文章などが掲載されており、ホームページ掲載者に
削除を申立てたが、聞き入れてもらえず、弁護士に相談したと
ころ、立派な名誉毀損なので、プロバイダに連絡すれば削除等
の対処をしてくれることを聞いた、として、メールで削除の依
頼があった。連絡の内容だけでは、本人確認もとれないし、ホ
ームページはかなりのページ数で何人もの写真や文章が含まれ
ていて、実際のところどの部分が該当するのかはっきりしない。
プロバイダ責任制限法に基づく発信者への照会を行い対応し
ようと考えているが、発信者から7日以内に反論があった場合
はどのようになるか。
事業者相談セ 申立者からの連絡内容だけでは、
「ホームページのどの部分が権
ンターの回答 利侵害に該当するのか」がわからないので、事業者として削除
等を行うのは難しい。このため、申立者に対し、再度プロバイ
ダ責任制限法のガイドライン書式に基づいて送信防止措置依頼
を提出してもらってはどうか。
また、事業者が送信防止措置を講じるには、当該ホームペー
ジをすべて削除しなければならない場合には、プロバイダ責任
339
6.調査結果のまとめ
制限法3条2項の「必要な限度」とはいえないと考えられるか
ら、事業者が削除等の措置を講じるのは困難である。
よって、事業者から発信者に対し自主的な削除を求めるのが
適当ではないか。
対応上の留意 ・対応する手順の整理
点等
・必要な限度での削除方法
事例 №
008
タイトル
被害主張者からの発信者の解約要請
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 不明
申立内容
無
無
他社管理の電子掲示板
他社の管理する電子掲示板上に、プライバシーを侵害された
内容が掲載されているので、事業者に対して、発信者を解約し
て欲しい旨の依頼あり。特にプロバイダ責任制限法の言及はな
い。
事業者の対応
被害主張者が非会員で本人確認がとれず、掲載内容と発信者
/事業者相談 のIPアドレスの確認が全く取れないので、様子を見ることに
センターの回 した。
答
対応上の留意
点等
事例 №
タイトル
009
掲示板に住所、氏名等プライバシー侵害情報が掲載された場合
の対応
340
6.調査結果のまとめ
対応依頼内容
・送信防止措置請求
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
有
無
事業者会員管理電子掲示板
事業者の会員が管理する電子掲示板に、被害者を誹謗する内
容のメッセージと被害者の住所、氏名、電話番号が掲載されて
いる、として、被害者の親権者から、当該メッセージの削除と、
刑事告訴及び損害賠償するために、発信者情報の開示要求があ
った。
事業者の対応
掲載メッセージは、事業者の会員規約に明白に違反している
ので、事業者が送信防止措置をとったが、被害者が警察に被害
届を出し、警察による捜査が開始されたため、以降の対応は様
子を見ることにした。
対応上の留意
点等
事例 №
010
タイトル
他社管理の掲示板への悪質な書き込み
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
無
無
他社管理電子掲示板
他社の管理する電子掲示板上に、事業者の会員が悪質な書き
込みをしたため、被害主張者からの送信防止措置の請求があっ
341
6.調査結果のまとめ
た。連絡内容には、発信者の情報(IPアドレス、書き込み時
間)の提示もあった。
事業者の対応
事業者のサーバ上に掲載された情報ではなかったため、会員
が間違いなく行っている事実確認ができないが、会員に対して
事実確認を含めて注意喚起を行った。
対応上の留意 ・事業者のサーバ上の情報ではないので、事実確認をどのよう
点等
に行うか。また削除が必要と判断した場合、削除の方法。
事例 №
011
タイトル
個人情報を蓄積したサーバにアクセスした者の開示請求
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
無
他社管理電子掲示板
申立内容
法人開設のホームページに登録された個人情報が社内使用の
ためにサーバに蓄積されていたところ、何者かにハッキングさ
れ、そのアドレスが某掲示板に投稿された。このサーバーをア
クセスしたものに、事業者の会員がいることが判明し、申立者
からIPアドレスとタイムスタンプを付け、プロバイダ責任制
限法に基づき発信者情報開示請求があった。
事業者の対応
会員に確認したところ、本人はネットサーフィンをしただけ
とのことであったが、最終的に開示に同意したため、メールア
ドレスと名前を開示した。
対応上の留意
点等
342
6.調査結果のまとめ
事例 №
012
タイトル
掲示板に個人情報を掲載した者の発信者情報開示請求
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・電子掲示板
・発信者情報開示請求
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
無
権利侵害等の [申立者] 被害者の親権者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 会員開設HPの掲示板
[発信者] 事業者会員
事業者からの
事業者会員が開設するホームページの掲示板に、発信者が他
相談内容
人の住所電話番号等を含むプライバシー情報を掲載したことに
対し、被害者の親権者から、事業者に対し掲示板管理者に早急
に連絡をとり、関係する発言の削除及び発信者情報の開示請求
がされた。また、警察や弁護士とも相談しているとのことであ
る。
事業者としては、掲載されている場所を確認し、問題の情報
の部分をひとまずインターネットから切り離した。親権者から
はその後、刑事事件の名誉毀損として告訴したいので関係書類
を送る等連絡があった。
今後どのような対応を採ればよいか。
事業者相談セ
被害者からの開示要求である、という点、ならびに諸般の事
ンターの回答 情(既に当該書込みがインターネットから切り離されていると
いう点や、刑事事件としても進行しつつある、という点など)
を考慮すれば、まずはガイドラインに添付されている開示請求
の書類一式を申立人のもとへ送り、それに記入していただくの
が妥当ではないか、と考える。
ガイドライン添付の書類に不足なく書き込んでいただくこと
や、必要な書類(この場合は本人確認の書類並びに親子関係確
認の書類)を揃えて提出していただくことで、あわてずに発信
者情報の開示請求にあたっていただけると思われる。
被害の拡大は既に防止されているので、このプロセスを急ぐ
理由はあまりない。むしろ確実にやっていったほうがいいと思
343
6.調査結果のまとめ
われる。
対応上の留意 ・民事訴訟とは異なり、刑事告訴は被疑者不詳でも行うことが
点等
可能であるから、これのみを理由として発信者情報開示請求
がされた場合には「発信者の情報の開示を受けるべき正当な
理由」
(プロバイダ責任制限法4条 1 項2号)があるとはいえ
ないと考えられ、慎重な対応が必要。
・プライバシー侵害情報をもとに、私生活の平穏を害するいや
がらせが行われるおそれが高い場合、事業者として、削除等
迅速な対応が必要となる。
事例 №
013
タイトル
掲示板に書き込みをした発信者本人からの削除要請
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
無
権利侵害等の [申立者] 掲示板に書き込んだ発信者の代理人弁護士
発生状況
[情報の表示場所詳細] ホスティングサービス提供先が運営
する電子掲示板
[発信者] 他人のハンドル名を使用して書き込んだ者
事業者からの
事業者の共有型ホスティングサービス契約者が運営する掲示
相談内容
板サイトに第三者になりすまして(他人のハンドル名を使用し
て)書込みを行った。
書き込み内容は第三者の住所、携帯電話番号の上 7 桁(下4
桁は伏せた状態)等。
後にことの重大さに気づきサイト運営者に削除依頼を行った
が本人性の確認が取れない為削除が行えないとの対応だった
為、ホスティングサービス提供者である事業者に対し、書込み
を行った者の代理人弁護士から削除依頼があった。
事業者としては、当該侵害情報を削除するために他の関係の
ない大量の情報の発信を停止しなければならない為、削除は技
344
6.調査結果のまとめ
術的に不可能と考える。
また、今回は発信者からの申立てである為、3 条 2 項に定める
防止措置依頼は、被害者のみが行えるもので、今回のような加
害者からの申告では行うことはできないと思うがいかがなもの
か。
事業者相談セ
名誉毀損・プライバシー関係ガイドラインの、
「Ⅱ 送信防止
ンターの回答 措置の判断基準」や「Ⅲ.2 プロバイダ等による自主的防止
措置の要否」などの記載内容が参考になる。
たとえ発信者からの申立てであったとしても、当該申立てに
より、御社は個人のプライバシー情報が掲示板で公開されてい
るという事実を「知った」以上、御社は対応を迫られることと
なる。送信防止措置請求への対応の要否については、申立者が
被害者が本人であるか、発信者であるか、第三者であるかは影
響しない。御社からサービス提供先の掲示板運営者に状況を伝
え、対処していただくなど何らかの対応が必要になるのではな
いか。
対応上の留意 ・事業者として送信防止措置依頼を受けた以上、放置すること
点等
なく何らかの対応が必要となる。
事例 №
014
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その1)
(発信者に注意喚起)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
有
有
事業者会員のPC
Web サイトから流出した顧客データを含むファイルがP2P
ファイル交換ソフト(WinMX)を使用して公開されている
ことに対し、プライバシーを侵害されたとする個人の代理人か
345
6.調査結果のまとめ
らのプロバイダ責任制限法に基づく送信防止措置依頼。
依頼書には、発信者の情報(IPアドレス、アクセス時間、フ
ァイル名等)が添付されている。
事業者の対応
発信者(事業者の契約者)が間違いなく行っている事実確認
ができないが、被害主張者の申立て内容から判断すると事態は
深刻であり、仮に事実だとすると権利侵害情報がますます広が
ってしまう危険性があるため、契約者に対して、事実確認を含
めて注意喚起を行った。
注意喚起後、発信者から「覚えがない」
「使っていない」等の
回答があったが、電話および書面による状況説明および再度の
注意喚起を行った。
対応上の留意 ・事実確認が取れないことに対し、どのような対応を採るか。
点等
慎重な判断が必要。
事例 №
015
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その2)
(発信者に照会)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
無
事業者会員のPC
申立内容
Web サイトから流出した個人情報がインターネット上で、P
2Pファイル交換ソフトWinMXを使用して自由に入手でき
る状態にしている会員に対する送信防止依頼。
事業者の対応
発信元まで確認できても発信者が契約者かの確認も含め照会
を行ったが、WinMXの使用は認めたものの、そうしたファ
イルが存在していたかについては認めなかったので、注意喚起
346
6.調査結果のまとめ
にとどめた。
対応上の留意
実際に指摘のあったプライバシー情報が入ったファイルを公
点等
開していることが確認できないことに対する対応。
事例 №
016
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その3)
(申立者の要望を伝達)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
・発信者情報開示請求
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
無
事業者会員のPC
申立内容
P2Pファイル交換ソフトで、プライバシー情報を自由に入
手できる状態にしている会員に対する送信防止依頼。
事業者の対応
明確な侵害を確認できず、発信者に対し、申立者から該当す
るデータの削除の要望があったことを伝えた。
対応上の留意
点等
事例 №
017
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その4)
(発信者への送信防止依頼とその反応)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
347
有
有
6.調査結果のまとめ
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
事業者会員のPC
申立内容
Webサイトから流出した顧客リストがP2Pファイル交換
ソフトで公開されていることに対し、プライバシーを侵害され
たとする者の代理人弁護士からの送信防止措置依頼。依頼書に
は発信者の情報(IPアドレス、アクセス時間、ファイル名、
共有ソフト名)などが添付。
事業者の対応
当該行為を行っている可能性が高いが、発信データの物理的
場所が利用者の敷地内にあり、送信防止措置を講じることがで
きないため、当該会員に対し、送信防止依頼を行った。
当該会員において、自主的に削除いただいている場合が大半
であるが、依頼に応じない者もある。
対応上の留意
点等
事例 №
018
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その5)
(会員を特定できない場合)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
有
有
事業者会員のPC
企業の顧客情報がP2Pファイル交換ソフト(WinMX)
を使用して公開されていることに対し、プライバシーを侵害さ
れたとする者から送信防止措置依頼。依頼書には発信者の情報
(IPアドレス、アクセス時間、ファイル名、共有ソフト名)
等が添付されている。
348
6.調査結果のまとめ
事業者の対応
依頼書に添付されているIPアドレスは当社のネットワーク
サーバ(プロキシ)のため、発信者が特定できず、様子を見る
ことにした。
対応上の留意
点等
事例 №
019
タイトル
P2Pファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その6)
(画像を含むプライバシー情報の送信)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
・発信者情報開示請求
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
事業者の対応
有
無
事業者会員のPC
被害者の名誉、プライバシーを侵害する画像および文字のフ
ァイルがP2Pファイル交換ソフトを用いて交換されていると
して、送信防止措置の申立てが被害者の代理人弁護士からあっ
た。
発信者に対し、被害者から申立てがあった旨を伝えた。
対応上の留意
点等
事例 №
020
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その7)
(プロバイダ責任制限法の考え方と対応)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
349
6.調査結果のまとめ
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
有
権利侵害等の [申立者] 代理人弁護士
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員のPC
[発信者] 事業者会員
事業者からの
ある企業のホームページから顧客の個人情報が流出し、当該
相談内容
情報を取得したユーザが自身のPC端末内に保存した同情報を
P2Pファイル交換ソフト(WinMX)を用いて第三者にさらに流
通させており、流通させているユーザが弊社サービスの加入者
である。
情報の流出があった企業の代理人を通じ、弊社に対して「侵
害情報の通知書 兼 送信防止措置依頼書」が届いた。侵害さ
れたとするのは、顧客のプライバシーおよび同社の信用・名誉
である。
発信者に関する情報としてIPアドレス、アクセス時間、フ
ァイル名、ファイル共有ソフト名などが記載されている。
当該情報のやり取りは、当社で管理・運営するところの掲示
板や web サーバーなど特定電気通信設備で行なわれているもの
とは異なり、ユーザのPC端末を通じて直接送信されている。
したがって、代理人より届いた「侵害情報の通知書 兼 送
信防止措置依頼書」も、ガイドラインで示されている書式とは
態様の表現等部分的に異なるものとなっている。
また、弊社で管理する掲示板や web サーバーなどで起こって
いる事象ではないために、弊社としては「当該情報の送信を防
止する措置」は取ることができず、対応できる内容としては、
当該ユーザの回線の停止など全通信を停止させる措置となる。
このような場合の弊社の取るべき措置について、ご教示いた
だきたい。
事業者相談セ 1)前提問題として、御社が、プロバイダ責任制限法の適用を
ンターの回答 受ける「特定電気通信役務提供者」に該当するか、ということ
350
6.調査結果のまとめ
から考える。
同法の「特定電気通信」とは「不特定の者により受信される
ことを目的とした電気通信の送信」をいうので、ISPの電気
通信設備に情報が記録されないP2Pによる情報の送信であっ
ても、
「不特定の者により受信されることを目的としている」限
り、直ちに「特定電気 通信」に該当しないということにはなら
ないと考えられる。
また「特 定電気通信役務提供者」とは「特定電気通信設備を
用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の
通信の用に供する者」をいい、この「特定電気通信設備」とは
「特定電気通信の用に供される電気通信設備」と定義されてい
て、「情報が記録される」といった要件は付されていないので、
本件の場合、御社が同法の「電気通信役務提供者」に該当する
との主張も可能ではないかと思う。
そしてその場合、御社は本件において同法に基づく免責を受
け得る可能性を検討し得るということになる。
2)次に、送信防止措置を採った場合、または採らずに放置し
た場合について、次のように考えられる。
(1)送信防止措置を採った場合
送信防止措置を採った場合に、発信者に対する責任の問題が
生じ得るが、その場合には「当該措置が当該情報の不特定の者
に対する送信を防止するため必要な限度」であって「当該電気
通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていると
信じるに足りる相当の理由があった場合」には、当該措置によ
って発信者に生じた損害については免責される。
しかし、本件のようなケースで問題となるのは、P2Pによ
る違法な情報の送信を防止するために「電気通信設備に情報が
記録されない」という送信の性質上、ISPとしてどの程度の
送信防止措置を講じ得るか、本件のように送信防止措置を講じ
るには、技術的に接続を切るしかない場合に、接続を停止する
ことが過剰な措置にならないか、という点にあると考えられる
が、これらの点については、本件P2Pによる情報送信の実態
や発信者の行為の違法性の程度、重大性などを含めた総合的判
351
6.調査結果のまとめ
断が必要になると思われるので、慎重かつ十分な精査が必要と
考える。
(2)送信防止措置を採らなかった場合
プロバイダ責任制限法により、御社は「権利を侵害した情報
の不特定の者に対する送信防止措置が技術的に可能」であって
「他人の権利侵害を知っている」か「情報の流通を知っていて、
他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認める
に足りる相当な理由があるとき」に該当しなければ免責される。
ガイドライン所定の手続に従っていないからといって、直ち
に御社には「相当な理由」がないと判断されるわけではないと
考えられる。
3)契約約款に違法行為に対する措置が記載されていないが、
この場合、会員に対し注意喚起等を取ることはできないのか。
規約にないからといって、注意喚起を含め、いかなる措置も
取れない、と思われるが、約款に基づく対応の問題であること
から、御社の顧問弁護士の方に相談されることをお薦めする。
4)通知されたIPアドレス等から特定個人を割り出すことが
技術的に可能である場合、その行為が、
「通信の秘密」を侵す
ことにならないか。
原則論的には、
「通信の秘密」を侵すことにならない、とは言
い切れないが、自己が法律上の責任を問われるおそれがある場
合、又は自己のサービス提供に支障が生ずる場合には、正当な
業務上の行為ということになるものと考えられる。
微妙な問題であるので、この点に関しても、念のため御社の
顧問弁護士の方に相談されることをお薦めする。
対応上の留意
点等
352
6.調査結果のまとめ
事例 №
021
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その8)
(弁護士からの要望の対応)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
無
権利侵害等の [申立者] 被害者から相談を受けた弁護士
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員のPC
[発信者] 事業者会員
事業者からの
プライバシー(画像及び文字)に関する情報がP2Pファイ
相談内容
ル交換ソフトで交換されていることに対し、被害者の代理人弁
護士から、プロバイダ責任制限法の趣旨をふまえ、送信者に対
し事業者から連絡をとり、これを即刻破棄し、伝播防止措置す
るとともに、入手経路や送信先等を知りたいので、その仲介を
して欲しい旨の「要望書」が送付されてきた。
なお、被害者は警察にも相談しているようである。
情報送信者のIPアドレスと時間が記載されているが該当の
ファイル名等は記載されていないし、被害者の氏名は匿名とさ
せていただきたい、とのことであった。
事業者相談セ
この問題は、不明確な部分が多いことに加え刑事事件として
ンターの回答 の捜査が進行している可能性があるので、法務担当部門を交え
て検討することをお勧めする。
なお、本件はP2Pファイル交換ソフトにより、プライバシ
ー情報が交換されているという申立てであり、御社には権利侵
害の確認が困難であること、また、御社が送信防止措置を講じ
るには会員の接続自体を切断する必要があり、そのような措置
がプロバイダ責任制限法3条2項本文にいう「必要な限度」と
いえるか問題であることにかんがみると、発信者の特定が可能
であれば、本件申立てがあったことを発信者に通知するという
措置を採ることが妥当と考えられる。
また、先方の弁護士に連絡をとり、以下の内容を検討して欲
しいと伝えてはどうか。
353
6.調査結果のまとめ
(1) (現在進行中という)刑事手続きを中心とするのであれ
ば、当該会員へのプロバイダからの連絡によって、会員は当該
ファイルを削除することも考えられるから、その場合は、捜査
上の有用な証拠が失われる可能性があるので、その点を考慮す
る必要があり、当該会員との連絡を仲介することとは両立しが
たいのではないか。
(2)権利侵害情報の入手先などについて、当該会員の協力
を得たいのであれば、刑事告訴を取り下げないと無理がある
のではないか。
(3)権利侵害情報の削除を優先するのであれば、名誉毀損
・プライバシーガイドラインに示されている通りの情報が必
要になるから、極力ガイドラインにある書式に則って依頼を
出していただきたい。
対応上の留意
点等
事例 №
022
タイトル
ファイル交換ソフトでの個人情報の公開(その9)
(発信者情報開示請求)
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
無
事業者会員のPC
事業者からの
ホームページ上から流出した個人情報をファイル交換ソフト
相談内容
WinMXで公開している会員について、発信者情報開示請求
が届いた。
この場合、アクセスプロバイダも「開示関係役務提供者」に
354
6.調査結果のまとめ
該当するか。
事業者相談セ
P2Pファイル交換ソフトにより、プロバイダの電気通信設
ンターの回答 備に情報が記録されない形態で情報が交換される場合でも、特
定電気通信に該当しうると考えられるところ、アクセスプロバ
イダたる御社も「特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介
し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者」す
なわち特定電気通信役務提供者(開示関係役務提供者)に該当
しうると思われる。
このため、プロバイダ責任制限法4条に基づく対応を考える
必要があるが、個々の判断に関して当センターからはお応えで
きないので、御社の顧問弁護士を含め、プロバイダ責任制限法、
逐条解説、発信者情報開示請求手続きガイドライン(骨子)、テ
レサ協HPに掲載の発信者情報開示手続きをもとに慎重に検討
することになる。
対応上の留意
点等
事例 №
023
タイトル
発信者が二次プロバイダ会員の場合の対応(その1)
(二次プロバイダに申立てるよう依頼した場合)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細] 他社の会員PC
[発信者] 二次プロバイダ会員
申立内容
当社契約の二次プロバイダの会員がP2Pファイル交換ソフ
トでプライバシー情報を公開していることに対し、当社が管理
する特定電気通信設備により媒介されている情報の流通により
権利が侵害されたとして、当該情報の送信を防止する措置を講
355
6.調査結果のまとめ
じるよう申立てがされた。
事業者の対応
二次プロバイダの了解の元、申立者に対し、二次プロバイダ
名を連絡し、そこに申立てするよう連絡した。
対応上の留意
点等
事例 №
024
タイトル
ログ情報を蓄積していないサービス形態での対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
有
事業者会員のPC
事業者からの
個人情報を、P2Pファイル交換ソフト(Winny)を使用し
相談内容
て送信している者に対する送信防止措置依頼が当社に届いた。
プロバイダ責任制限法に基づく違法行為の対応の要求であ
る。
届いた資料に、発信者に関するIPアドレスやアクセス日時、
共有ソフト名、該当ファイル名等が記載されており、
「情報発信
の停止勧告」「通信の遮断」を要求している。
連絡のあったIPアドレスは、当社所有のNAT型ファイヤ
ーウォールのもので、現状ログ情報の収集には膨大な情報を蓄
積するための多額の費用が必要となるため蓄積していない。ま
た、ログ情報が保存できたとしても、個人を特定し送信防止措
置をとることも困難であると思われ、その理由も申立者に説明
できる。
申立者にどのように対応すればよいか。
事業者相談セ
ユーザに対して NAT 変換によりプライベートIPアドレスか
356
6.調査結果のまとめ
ンターの回答
らファイアーウオール経由のインターネットアクセスを提供し
ており、現にログを保存していないのであれば、ユーザの特定
ができず、送信防止措置だけでなく、警告その他の自主的対応
も不可能だと思われる。
申立者には、サービス形態を説明して問題とする発信者の特
定ができないことを通知することが考えられる。
なお、プロバイダ責任制限法がログ保存を義務付けるもので
はないことは、逐条解説に明記されているので、参考にしてい
ただきたい。
http://www.soumu.go.jp/s‑news/2002/020524̲1.html
対応上の留意
点等
事例 №
025
タイトル
発信者が二次プロバイダ会員の場合の対応(その2)
(二次プロバイダに申立てを伝えた場合)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・プライバシー侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
・名誉毀損関係
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
有
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 二次プロバイダ会員のPC
[発信者] 二次プロバイダ会員
事業者からの
流出した顧客情報が、P2Pファイル交換ソフト(WinMX)
相談内容
で送信している者に対する送信防止措置請求が届いた。
送付してきた資料にIPアドレスが含まれているが、このI
Pアドレスは、事業者がローミングサービスとしてネットワー
クを提供している二次事業者のアドレスである。このため、使
用者は二次事業者の会員と思われる。
この場合、当社はどのような対応をとればよいか。
357
6.調査結果のまとめ
事業者相談セ
申立者からの連絡を御社のローミングサービスを提供してい
ンターの回答 る二次事業者に伝え、申立者には、御社のローミングサービス
を提供している会社に伝えたことを回答することが考えられ
る。
この点については、御社のリスクを考慮した上での判断とい
うことになる。
対応上の留意
点等
事例 №
026
タイトル
誹謗中傷めいた内容に対する第三者からの申立
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
ある公的な団体に対する誹謗中傷めいた内容を掲載している
事業者の会員開設のウェブページに対して、
「掲載を差し止める
べきではないか」との申立てが第三者からきた。
事業者の対応
公的な団体に対する内容だったため、言論の自由の範囲だと
判断したため、発信者に対し何の対応もとらなかった。
名誉毀損(誹謗中傷)にあたるのか、公的機関に対するコメン
トであるのかの判断が難しい。
対応上の留意
点等
358
6.調査結果のまとめ
事例 №
027
タイトル
内部資料のホームページでの公開
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
某大学の内部資料が、事業者の会員開設ホームページで公開
されている事に対し、同大学より送信防止措置依頼。依頼書に
は、当該ホームページのURLが記載され、そのハードコピー
が添付されている。
事業者の対応
当該会員の連絡先もはっきりしており、本人に削除してもら
う方が、権利侵害についての重要さを理解していただけると判
断し、送信防止措置を依頼した。
対応上の留意
点等
事例 №
028
タイトル
会社の名誉を毀損する内容の削除要請
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
有
有
事業者会員開設ウェブページ
事業者の会員開設ホームページに対し、会社の名誉を毀損す
るものなので削除の要請あり。
359
6.調査結果のまとめ
プロバイダ責任制限法のガイドライン書式に基づいた申立。
事業者の対応
名誉を毀損する事実関係の確認が取れない。
掲載は事実に基づいた内容である可能性が高く、それらを削
除するのは不適当であったため、発信者に対し何の対応も採ら
なかった。
表現の自由と名誉毀損の区分けが難しい。
対応上の留意 ・表現の自由と名誉毀損を事業者がどのように判断するか。
点等
事例 №
029
タイトル
告発サイトの削除要請に対する対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
・その他(信用毀損)
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
有
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
事業者の会員開設のホームページに名誉毀損・信用毀損にあ
たる発言が掲載されていることに対する削除要求。
プロバイダ責任制限法のガイドライン書式に基づく申出。
事業者の対応
いわゆる告発サイトであり、後に違法性が阻却される可能性
があったので、発信者に対して何の対応もとらなかった。
申立者に対しては、送信防止措置を講じない旨の通知をした後、
反応なし。
対応上の留意
違法性が阻却されるかどうかは、発信者の立証の成否にかか
点等
っており、事業者がそこまで視野にいれて対応するのは困難な
場合が多い。
360
6.調査結果のまとめ
事例 №
030
タイトル
申立者を誹謗する内容の削除要求
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
事業者会員開設のホームページに、申立者を誹謗する内容が
掲載されていることに対する削除要求。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
良し悪しの判断が難しいため、被害者とされる者からの要求
にそう形で、発信者に送信防止依頼した。
対応上の留意 ・前後関係が事業者でわからないため、判断がしにくい。
点等
事例 №
031
タイトル
被害主張者を名誉毀損した部分の削除または発信者情報開示請
求
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
・発信者情報開示請求
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
無
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者の会員の開設するホームページに被害主張者を名誉毀
損した部分が掲載されている。侵害防止措置を講じるか、発信
361
6.調査結果のまとめ
者情報を開示して欲しい。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
侵害情報防止措置を即座に講ずるほどの違法性を見受けられ
なかったので、とりあえず被害主張者の了承のもと、侵害防止
の依頼事項を発信者に伝え、判断を求めた。
発信者に照会した段階で任意に情報を削除した。
対応上の留意
点等
事例 №
032
タイトル
内部資料公開に対する判断と対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
・その他(企業秘密)
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
大学の内部資料が事業者会員の開設するホームページ上に掲
相談内容
載されていることに対する削除要求が書面で届いた。
事業者としては、大学にとって都合の悪いものと理解できる
ので、発信者に連絡せずに、直ちに削除に応じても問題ないと
考えるがどうか。
事業者相談セ
問題の情報については、大学の内部資料とは思われるが、ホ
ンターの回答 ームページ上に大学名の記載がないため、これだけで申立者た
る大学の内部情報と断言することは困難ではないか。
次にガイドラインに記載されている名誉毀損にあたるかどう
かについては、大学の名前が明示されていない以上、名誉毀損
が成立すると解するのは難しいと思われる。
362
6.調査結果のまとめ
また、企業秘密という観点からは、下記各要件を満たすこと
が必要となる。
①秘密管理性(秘密として管理されている)
②経済的有用性(経済的に有用であるもの)
③非公知性(公に知られていないこと)
②の要件については、おそらく満たしていると思われるが、
①及び③の要件は、提供された情報のみから企業秘密に該当す
るか否か(すなわち権利侵害にあたるといえるか)、不明である。
以上から、直ちに削除しなければ、法3条の免責が得られな
い事案かどうかは疑問の残るところである。
したがって、御社の約款等を含めた判断となるが、当該情報
の削除が技術的に可能であるか否か確認した上で、発信者に対
して削除要求が来ている旨は伝えて(大学の名前は出さない)、
7日以内に反論がない場合は削除するという方法を採ることが
よいのではないか。
対応上の留意 ・被害主張者の内部資料かどうかの事実確認
点等
事例 №
033
タイトル
名誉毀損の申立に対する事業者の対応(その1)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
・発信者情報開示請求
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
有
有
事業者会員開設ウェブページ
事業者の会員が開設するウェブページに、ある会社及び当該
会社の代表者に対する名誉毀損の内容が掲載されているとし
て、被害主張者からの送信防止措置請求と発信者情報開示請求。
363
6.調査結果のまとめ
プロバイダ責任制限法ガイドライン書式に基づく申立。
事業者の対応
名誉毀損は、内容の真実性を問うものであり、事業者では判
断できないので、発信者に照会を行い、発信者が自主的に削除
を行った。
申立者側に、プロバイダ責任制限法の内容、趣旨についての
誤解があった。
対応上の留意
点等
事例 №
034
タイトル
名誉毀損の申立に対する事業者の対応(その2)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員管理掲示板
申立内容
掲示板管理者の発言内容に対し、他人の権利の不当な侵害(名
誉毀損)の記載がある、として送信防止請求がされた。プロバ
イダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
該当する箇所を確認したが、特に他人の権利が不当に侵害さ
れたとは認められないと判断したため、申立者に対しその旨回
答。
発信者、申立者ともに了解した。
対応上の留意
点等
364
6.調査結果のまとめ
事例 №
035
タイトル
名誉毀損の申立に対する事業者の対応(その3)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 事業者会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
有
事業者管理掲示板
申立内容
事業者の管理する電子掲示板に、名誉毀損に当たる発言があ
るとして、被害主張者(事業者の会員)から、プロバイダ責任
制限法のガイドライン書式を用いて、送信防止措置請求がされ
た。なお、発信者も事業者の会員である。
事業者の対応
発信者への照会を行い、当該発言が申立者の名誉を毀損する
とは判断できなかったし、当該掲示板利用者の大半の意見も同
様であった。
このため、発信者に対して何の対応もとらなかった。
申立者には、送信防止措置を講じない旨の通知をした後、反
応はなし。
対応上の留意
点等
事例 №
036
タイトル
他社会員管理の掲示板へのあらし行為に対する送信停止依頼
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者]
非会員
365
無
有
6.調査結果のまとめ
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
他社会員管理掲示板
申立内容
他社会員の管理する電子掲示板で、掲示板が荒らされた。発
信者が事業者の会員であったことから、送信停止措置をして欲
しいとの依頼がされた。なお、プロバイダ責任制限法に言及し
ている。
事業者の対応
連絡内容がIPアドレスだけで掲載内容の確認がまったく取
れなかったので、発信者に対して何の対応もとらなかった。
対応上の留意 ・掲載内容の確認
点等
事例 №
037
タイトル
掲示板へのたびかさなるいやがらせ発言に対する掲示板管理者
からの対応依頼
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 掲示板管理者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 申立者管理掲示板
[発信者] 事業者会員
事業者からの
掲示板管理者から、事業者の会員(発信者)がいやがらせの
相談内容
書き込みを行い、注意してもやめないので、事業者の方で発信
者が掲示板に書き込めないようにして欲しいとの依頼があっ
た。どのように対応すればよいか。
事業者相談セ
発信者と申立者は知り合い同士で、発信者が掲示板で申立者
ンターの回答 の批判を加えているが、申立者側にも問題がないか不明であり、
発信者の発言が明確な権利侵害に該当するとも判断できないと
思われる。この状況で、アクセス権の全面停止や剥奪を行うこ
とは、「必要な限度」を超えているとみなされる可能性がある。
事業者の内部で再度検討されてはどうか。
366
6.調査結果のまとめ
対応上の留意
点等
事例 №
038
タイトル
デモ環境端末からの権利侵害情報の発信
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
・発信者情報開示請求
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 他社管理掲示板
[発信者] 事業者デモ環境利用者
申立内容
他社の管理する電子掲示板で、女性の名誉を毀損する書き込
みがあり、掲示板の書き込みログから事業者の管理するIPア
ドレスと判明したとして、送信防止措置と発信者情報開示請求
があった。
依頼内容に特にプロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
該当するIPアドレスは事業者のデモ環境の設置端末であっ
た。不特定多数が利用可能なことから発信者の特定が不可能で
あったが、デモ環境を撤去した。
申立者からは、発信者に対して法的措置を取る旨の連絡があ
ったが、デモ環境からの書き込みであったことを伝え、理解し
ていただいた。
対応上の留意
点等
事例 №
タイトル
039
プロバイダ責任制限法に基づいた申立ではない発信者情報開示
請求(その1)
367
6.調査結果のまとめ
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
他社管理掲示板
申立内容
他社プロバイダの管理する掲示板で、悪質な書き込み(誹謗
中傷)が行われた件で、他社プロバイダを通して、発信者に対
し事業者より注意をするよう求めてきた。書き込みが行われて
いたURLが記載されている。
事業者の対応
事実関係を明らかにするため、発信者への照会を行った。
また、書き込みログが添付されていたため、不正な書き込み
(誹謗中傷)を行った発信者に対し注意喚起した。
さらに、発信者には、事業者より注意を促した旨をメールで
伝えた。
対応上の留意 ・プロバイダ責任制限法に基づく申立ではない
点等
事例 №
040
タイトル
掲示板での名誉毀損に対する発信者情報開示請求の対応
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
有
有
他社管理掲示板
他社が管理する電子掲示板に人権上問題のあると思われる書
き込みがなされたことに対し、基本的人権、名誉等を侵害され
368
6.調査結果のまとめ
たとする本人からガイドライン書式に基づく発信者情報の開示
依頼があった。
事業者の対応
発信者情報を開示すべきか判断に苦慮したが、発信者本人の
同意が得られたので開示に応じた。
対応上の留意 ・事業者はプロバイダ責任制限法4条の発信者情報開示請求を
点等
受けた場合、同条2項に従い発信者の意見を聴き、発信者の明
示的な同意がある場合を除き、当該請求が同条第 1 項各号に定
める要件をいずれも満たしている場合であるかを慎重に検討な
ければならない。発信者情報は、発信者のプライバシーに関わ
る情報であり、また裁判外の請求に対してみだりに開示しては
ならない。
事例 №
041
タイトル
プロバイダ責任制限法に基づいた申立ではない発信者情報開示
請求(その2)
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
他社会員管理掲示板
申立内容
当社の会員が、他社会員が管理する電子掲示板で、誹謗中傷
したことに対して、被害申立者からメールで発信者情報開示の
請求があった。
事業者の対応
ガイドライン書式に基づかない申し出であり、再三の情報開
示請求を要求されたが、当社経由でのお詫びと当該発信者に注
意喚起することで、解決した。
対応上の留意
369
6.調査結果のまとめ
点等
事例 №
042
タイトル
申立内容を元に会員の確認ができなかった場合
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
他社会員管理掲示板
申立内容
当社会員が他社会員の管理する掲示板で、他人の名前を掲載
して誹謗中傷したことに対し、被害主張者からメールで発信者
の情報開示の申立てがされた。
申立内容に、特にプロバイダ責任制限法への言及は見当たら
ない。
事業者の対応
依頼のあった情報を元に、会員の特定をしようとしたが、す
でに投稿から 1 ヶ月が経過していたため、特定不可能であった。
このため、被害主張者には、その旨回答した。
対応上の留意
点等
事例 №
043
タイトル
申告に基づく侵害情報流通の確認ができなかった場合
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
権利侵害等の [申立者]
被害主張者
370
有
6.調査結果のまとめ
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
他社管理掲示板
申立内容
他社管理の掲示板で、当社会員と思われる者による申立者を
誹謗中傷する書き込みがあったとして、当該発信者情報の開示
請求があった。
プロバイダ責任制限法の言及はされている。
事業者の対応
申告内容に対応した侵害情報の流通の確認ができなかったた
め、発信者に対しては何の対応もとらなかった。
対応上の留意
点等
事例 №
044
タイトル
弁護士法第23条の2に基づく発信者情報開示請求の対応
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 掲示板管理者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 他社管理掲示板
[発信者] 事業者会員
申立内容
被害者が開設するBBS上に、誹謗中傷を繰り返す者がおり、
その都度、発言の削除を行わなければならず、正常な運営を妨
げ業務妨害を受けている。
書き込み者に対して、損害賠償請求の訴えを準備中であると
して、弁護士法第23条の2に基づく、加入者に関する照会が
あった。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
当社では、権利侵害にあたるか判断できないが、申立内容か
ら、権利侵害のおそれがある行為と判断し、当社サービス契約
約款の規定に基づき、会員に対し、注意警告を行った。
371
6.調査結果のまとめ
その後の書き込みは行わなくなった。
また、弁護士法23条の2に基づく照会のため、電気通信事
業法の通信の秘密の規定に抵触するおそれがあるため、当該照
会には応じないこととした。
対応上の留意 ・警察官、検察官、検察事務官、国税職員、麻薬取締官、弁護
点等
士会、裁判所等の法律上照会権限を有する者から照会を受けた
場合であっても、緊急避難または正当防衛の場合を除き、以下
の通信の秘密に属する事項等を開示してはならない。
- 通信の存在及び内容
- 通信当事者の氏名、住所または居所
- 通信当事者の電話番号、FAX番号、メールアドレス等の
通信ID
- 通信日時
事例 №
045
タイトル
数社が特定電気通信役務提供者として関係する場合
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 他社会員管理掲示板
[発信者] 他社事業者会員
事業者からの
事業者Aに所属する会員が開設するホームページ(掲示板)
相談内容
に他人の名前(申立者)を使って悪質な書き込みをした発信者
に対し、法的措置をとりたいとのことで発信者情報開示の要求
があった。掲示板での発言内容をコピーしたものと、書き込み
者のアクセス経路が記載されている。
申立者は、アクセス経路から識別できる情報を元に事業者 B
に申立てたが、事業者 B が確認したところ、Bの二次プロバイ
ダCの会員であることがわかった。このため、B 社は申立者に
372
6.調査結果のまとめ
該当するプロバイダに通知(社名はださない)させていただく
と回答したようで、C 社に申立内容と対応依頼が回ってきた。
C 社から事業者相談センターに相談があったが、実際にこの
発信者と契約しているのは、三次プロバイダの D 社ということ
であった。
これに対し、C 社から次の相談があった。
①C 社として掲示板開設者と交渉する義務があるか。
②このケースで誰が責任を問われるか。
③C 社が責任を問われるとすると何をすればよいか。
事業者相談セ
申立者からのメールでの発信者情報開示の請求については、
ンターの回答 以下のことが言える。
・申立者の本人確認がはっきりできていない。
・送信してきたアクセス経路というものが本当のログかどうか、
はっきりしない。
次に、C社が特定電気通信役務提供者に該当するかどうかが
問題となるが、該当しうるものと思われる。B社及びD社も同
様である。
C社が発信者を特定できるのであれば、対応することも考え
られるが、発信者はD社の会員であり、B社がC社に対応を任
せたように、D社が直接の当事者なのであれば、基本的にはD
社に対する請求であるとし、D社に対応を依頼するべきではな
いか。
請求内容は、外形的には発信者情報の開示請求に該当するの
で、正式な対応をするかどうかであるが、C社からD社に連絡
をとり「D社会員に対する発信者情報請求があったので、請求
者には発信者情報開示請求ガイドラインの参考書式にて請求し
てもらうよう依頼する。」こととしてはどうか。
「①C 社として掲示板開設者と交渉する義務があるか。
」は、
正式な請求であるならば、開示の可否を判断する当事者となり
得るが、直接D社に対応してもらうよう仕向けるほうが良いの
ではないか。
「②このケースで誰が責任を問われるか。」は、故意または重
過失で発信者情報の開示を拒絶しない限り、民事的な責任を問
373
6.調査結果のまとめ
われることはないと思われる(法4条4項)。
「③C 社が責任を問われるとすると何をすればよいか。
」は、
D社に対して請求するよう申立者に連絡をすることと思われ
る。
対応上の留意 ・誰が特定電気通信役務提供者に該当するのか
点等
・事業者の契約先事業者の会員が発信者の場合の、申立者に対
する対応と、契約先事業者への対応
事例 №
046
タイトル
発信者情報開示請求に対する開示内容
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
有
電子掲示板
事業者からの
事業者の会員が電子掲示板に書き込んだ誹謗中傷に対し、被
相談内容
害者から発信者情報開示請求が届いた。
発信者に照会したところ、電話で同意が得られたため、書面
による正式な回答が届いた段階で、開示に応じる見込みである。
開示請求内容に電話番号がないが、開示不要か。
事業者相談セ
情報開示請求者が必要なもの以上のものは開示する必要はな
ンターの回答 い。開示にあたっては慎重に判断する必要があるので、下記
URL の逐条解説をよく読むよう回答した。
http://www.soumu.go.jp/s-news/2002/020524_1.html
対応上の留意
点等
374
6.調査結果のまとめ
6.1.2
著作権侵害関係
事例 №
061
タイトル
ホームページ掲載写真に対する第三者からの通報
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
当社会員が開設しているホームページに掲載されている写真
に対し、第三者から著作権侵害ではないかとの申立があった。
事業者の対応
掲載写真が、本人又は所属事務所等の許可を得ているのか判
断できなかったので、発信者に照会したところ、当社のサーバ
からは削除したが、他社ISPのサーバに移動した模様である。
対応上の留意
点等
事例 №
062
タイトル
著作権所有者からのホームページ掲載内容の削除要求
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 権利者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
申立内容
無
無
事業者会員開設ウェブページ
当社会員が開設のホームページに対し、掲載しているゲーム
は自社の製品であるとして削除要求があった。
375
6.調査結果のまとめ
プロバイダ責任制限法への言及はなかった。
事業者の対応
掲載している意図が判断しかねたため、発信者への照会を行
ったところ、発信者が自主的に削除した。
対応上の留意 ・著作権所有者かどうかの確認方法
点等
事例 №
063
タイトル
商標権を侵害されたとする申立の対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
当社会員開設のホームページに、ある者の商標権が設定され
た名称を使用した掲載したページがあることに対し、商標権を
侵害されたとする者からの送信防止措置依頼があった。
プロバイダ責任制限法の言及はない。
事業者の対応
当該会員に対し、申出内容を伝え削除するよう求めたが、し
かるべき措置を講じなかったため、当社において顧問弁護士と
相談し、当該ホームページを削除した。
対応上の留意
点等
376
6.調査結果のまとめ
事例 №
064
タイトル
信頼性確認団体からの送信防止措置請求の対応(その1)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
有
権利侵害等の [申立者] 信頼性確認団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員開設ウェブページ
[発信者] 事業者会員
申立内容
当社会員開設のホームページ上に著作権侵害のmidiファ
イルが掲載されているとして、信頼性確認団体から送信防止措
置の請求があった。ガイドラインの書式に基づく申立てがされ
た。
事業者の対応
指摘のあったファイルがあることを確認し、まず発信者2名
に自主削除を求めた。ガイドラインから速やかに削除する必要
があるため、翌日までに削除されなかった片方は当社で削除し
た。
対応上の留意 ・信頼性確認団体からの申立の場合、書面がガイドラインの記
点等
述を満たしていることを確認し、速やかな削除が必要となる。
・認定された信頼性確認団体かどうかは(社)テレコムサービ
ス協会の下記URLで確認できる。
http://211.0.28.19/01provider/index_provider_030131.htm
事例 №
065
タイトル
信頼性確認団体からの送信防止措置請求の対応(その2)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
377
有
有
6.調査結果のまとめ
権利侵害等の [申立者] 信頼性確認団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員開設ウェブページ
[発信者] 事業者会員
申立内容
会員開設のホームページに対し、ある信頼性確認団体から、
当該団体の管理する著作物に係る、著作権法第21条(複製権)
及び第23条(公衆送信権)を侵害されているので、送信防止
措置を講じて欲しいとの依頼があった。
送付書類には、信頼性確認団体からの申立てであることがわ
かるガイドラインの書式がついていた。
事業者の対応
信頼性団体からの申立で、著作権侵害であることが明確なた
め、届いた書面を確認して、該当ファイルだけを事業者が削除
するには困難であったので、ホームページ全体を一時的に、他
者が閲覧できない状態にし、その後、発信者にメールで連絡を
とり削除していただいた。
対応上の留意 ・事業者が情報の送信防止措置をとる場合、必要な限度で行う
点等
必要がある。
事例 №
066
タイトル
信頼性確認団体からの送信防止措置請求の対応(その3)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
有
権利侵害等の [申立者] 信頼性確認団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員開設ウェブページ
[発信者] 事業者会員
申立内容
事業者の対応
会員開設の着メロダウンロードサイトに対し、信頼性確認団
体から、ガイドライン書式に基づき、送信防止措置の依頼があ
った。
信頼性確認団体からであったため、同様の事案の再発防止も
378
6.調査結果のまとめ
含め、発信者に対し、注意喚起を行った。
対応上の留意
点等
事例 №
067
タイトル
二次プロバイダ会員の著作権侵害
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]二次プロバイダ会員開設ウェブページ
[発信者] 二次プロバイダ会員
申立内容
二次プロバイダの会員が開設しているホームページについ
て、当社に対して、第三者から著作権違反の疑いのある画像の
添付があるとの連絡があった。
プロバイダ責任制限法への言及はない。
事業者の対応
第三者からの著作権侵害の疑いに関する連絡であったため、
通報者に対しては、連絡のあった情報を元に対応するとのみ回
答し、二次プロバイダに対して通報内容を転送した。
後日確認したところ、該当ページは自主削除されていた。
対応上の留意
点等
事例 №
068
タイトル
第三者からの著作権侵害の通報に対する対応の考え方
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
379
6.調査結果のまとめ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
事業者会員のホームページで、ゲーム用の音楽ファイルを作
相談内容
成、配信しているようで、第三者からhotmailで「違法
ファイルを配信している。著作権を無視した悪質な行為なので
早急に対処してください。」との連絡があった。
発信者には、
「著作権侵害に該当する旨を通知、修正依頼」か
と思うが、指摘してきた者に対してはどのような対応をすべき
か。
また、事業者にホームページ削除義務等が発生するのか。
事業者相談セ 「通知を受けたISPの削除義務と対応について」
ンターの回答
1)本件の場合、ISPの情報の削除義務は「ISPの不作為
が著作権(および著作隣接権)侵害による不法行為と評価さ
れるか」ということとの関係で問題となる。この点について
は、今後の判例の蓄積が待たれるところではあるが、著作権
侵害である情報の流通とISPの提供サ−ビスの態様や関
係、それによる経済的利益の如何、技術的コントロ−ルの可
能性といった客観的要件やISPの認識内容といった主観的
要件を考慮した具体的判断が求められることになると思われ
る。
そして、仮に(a)問題のファイルが著作権等を侵害するも
のであった場合にこれを放置し、かつ、かかる放置を違法と
評価させるような条件が認められれば、著作権者との関係で、
ISPに損害賠償責任が生じ得ることになる。
反対に(b)問題のファイルが適法なものであれば(権利者
の許諾を得ている等)そもそもISPに削除義務は生じない
ばかりか、その削除については、当該情報の発信者との関係
で責任を問われる可能性が生じる(約款等で別段の定めがあ
り、それが適用される場合は除いて)。
380
6.調査結果のまとめ
2)このような状況において、ISPが損害賠償責任を負う場
合の必要条件を明確にしてISPの責任を制限することによ
り、ISPの適切な対応を促そうとした法律が「プロバイダ
責任制限法」であると言える。
即ち、上記(a)の場合には、ISPは「権利を侵害した情
報の不特定の者に対する送信防止措置が技術的に可能」であ
って「他人の権利侵害を知っている」か「情報の流通を知っ
ていて、他人の権利が侵害されていることを知ることができ
たと認めるに足りる相当な理由があるとき」でなければ、賠
償責任を負わないものとされている。
3)本件では、御社は「第三者からの匿名通知」の受領以前に
当該情報の存在を知っていたものとは思われないので、受領
以後の御社の当該情報についての認識内容、得に「相当な理
由」の有無が問題となるものと思われる。
(1)この「相当な理由」の判断については、ガイドラインの
基準がその解釈に影響を及ぼしていくことが期待されている
が、本件通知は、匿名の第三者からの通知であり、その内容
からしてもガイドラインの基準を満たすものではない。(な
お、ガイドラインは、ガイドラインの要件を満たす通知を受
けた場合には、速やかに所定の手続き(削除)を行うことと
して、ISPの行動基準を明確にすることを目的としてい
る)。
(2)そこで一般論として判断することになるが、御社が通知
により当該発信者のHPを調査したところア−ティストによ
る有名楽曲の実演(レコ−ド)が含まれていることを確認し
た(HP上での当該発信者による自認または実際の視聴によ
って)というのであれば、当該利用は著作権者および著作隣
接権者双方の許諾がない限り著作権等の侵害にあたり、御社
は「相当な理由があった」と判断される可能性がある。
(3)但し、現在、個人がレコ−ドの利用許諾を受けることは
非常に困難と思われるが、楽曲については、個人であっても
JASRACからライセンスを受けるル−ルが既に成立して
いるので、すべての場合に「許諾がない」と判断することも
できないであろう。
381
6.調査結果のまとめ
そして、仮に「相当な理由」ありと判断された場合に「技術
的可能性」があると認められれば、御社は「プロバイダ責任
制限法」第3条1項の免責は受け得ないということになる。
他方、発信者との関係では、誤って適法である情報(許諾が
あった場合)を削除してしまった場合、
「当該措置が当該情報
の不特定の者に対する送信を防止するため必要な限度」であ
って「当該電気通信による情報の流通によって他人の権利が
侵害されていると信じるに足りる相当の理由があった場合」
には、当該措置によって発信者に生じた損害については免責
される。本件では、情報の削除が「必要な限度」かどうかの
判断が問われるものと思われる。
4)したがって、本件においては、御社として、上記による御
社の法的リスクの程度、御社のISP事業における方針およ
び約款の規定により、リスクを回避できる可能性等を総合的
に勘案されて「いかに対処すべきか」を合理的に判断すべき
と思われる。
なお、上記1)および3)に関する具体的事情は定かではな
いが、お聞きした情報によれば、御社の「著作権侵害に該当
する旨を発信者に通知し、修正依頼」という対応に特に非難
されるべき点は見あたらないと思料する。
なお、通知者に対してどう対処するか、は、御社の方針によ
って決められるのがよろしいかろうと思う。
対応上の留意 ・第三者からの通知に対する対応
点等
・他人の権利が侵害されているかどうか「相当な理由」の判断
・対応手順の明確化
事例 №
069
タイトル
ライセンス契約違反と思われる申立ての対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
・その他(ライセンス契約違反)
382
6.調査結果のまとめ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 権利者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
あるメーカーのソフト製品の販売が、正規の販売形態ではな
相談内容
い形で、個人ホームページで行われていることに対し、メーカ
ーからホームページ削除要求があった。
弊社ユーザーの違法行為だと考えられるが、弊社での削除を
すべきかどうか、もしくは発信者に警告を与え、自主削除に委
ねるか、あるいはその他の適切な対処方法があるかどうか、最
近の動向を踏まえての対応方法を助言いただきたい。
事業者相談セ 1.前提事実
ンターの回答
本件では、申立者から「当社にとって不適切な情報が掲載さ
れている」として、ISPに対し、当該情報を掲載した個人(以
下「発信者」という)のサイトの削除要請がなされたとのこと
である。しかし、
「不適切情報」の内容および掲載場所の具体的
特定はなされていず、また何故「不適切」なのかの理由の明示
もなされていない。そこで、当該サイトを確認したところ、ソ
フトウェア製品の中古品販売情報と「ID なしでも使える」との
記載があったこと、および申立者のURLの情報から(a)製
品と共に提供されたCD(ソフトウェア)を単独で販売してい
ることらしいとの印象をもたれたとのことである。本件では、
販売対象CD(ソフトウェア)が(b)違法複製により作成さ
れたものである可能性もないとは言えないが、以上の情報から
(a)と前提して、ISPの対応を考える。
2.ISPの不作為による責任
1)以上の前提事実からすれば、本件通知に対し、ISPに何
等かのアクションをとらねばならない法的義務は生じないも
のと考える。
(a)の場合、かかるCD(ソフトウェア)の譲渡は、当該ソ
フトウェアのライセンス契約の違反に該当するのではないか
と疑われるが、他方、ソフトウェアの中古品販売は、ライセ
ンス契約に違反することなく行うことも可能である。仮にラ
383
6.調査結果のまとめ
イセンス契約に違反するものだとしても、HP上でかかる譲
渡の相手方を募ることそのものは、いわば予備的行為で、未
だ契約違反にはあたらない。契約違反の譲渡が行われなけれ
ば、申立者に「権利の侵害による損害」も生じない。
「情報の
流通」と「権利侵害行為」および「損害の発生」との関係も、
直接的な関係にない。また、本件では、申立者自体が発信者
に警告をなし得ることや、明確な情報を通知する努力がなさ
れていないことも考慮すれば、ISPには、申立者と発信者
間の契約違反行為を防止すべき作為義務は条理上認められ
ず、仮に「情報の流通」によって買い手があらわれ、現実に
売買が行われたとしても、ISPに損害賠償責任は生じない
ものと思料する。
2)なお、本件では、上記のように、権利の侵害は「情報の流
通」そのものによって生じるわけではないので、プロバイダ
責任制限法第3条1項の免責の適用の問題は生じない。
3.サイトを削除した場合のISPの発信者に対する責任
本件でISPが情報を削除した場合に、対発信者との関係で
の免責を検討するにあたっては、プロバイダ責任制限法第3条
2項の「情報の流通によって他人の権利が不当に侵害されてい
ると信じる」に該当する余地が無いわけではないとも思われる。
しかし、上記のような通知の内容から得る情報によって、IS
Pに「相当の理由」があるとすることは、困難と思料する。ま
た、仮に上記要件が満たされたとしても、
「サイトの削除」措置
は「必要な限度」に該当するとすることは困難と思われ、プロ
バイダ責任制限法第3条2項の免責事由には該当し得ないもの
と思料する。
そこで、発信者との関係で、不法行為または契約違反の問題
が生じる可能性を検討しなければならないが、本件では、上記
のように発信者による当該情報の掲載が、何ら問題を生じない
場合もあり得ること、申立者の通知内容が漠然としたものであ
ること、そしてISPとしては、いきなり全てを削除するとい
う行為の他に、取り得る手段が存在すること等を考慮すると、
責任を生じるおそれは無視できないものと思われる。
384
6.調査結果のまとめ
4.結論
そこで、御社としては、御社の約款の規定を考慮しつつ、上
記のリスクを勘案した対応を選択することになる。実務的には、
当該発信者に対し、
「申立者からクレームがあった」旨注意喚起
をされることをお勧めする。
対応上の留意 ・
「情報の流通」そのものによって権利侵害が生じているかどう
点等
かの判定
・事業者のリスクを勘案した対応の選択
事例 №
070
タイトル
信頼性確認団体からの申立てに対する対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
有
権利侵害等の [申立者] 信頼性確認団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員開設ウェブページ
[発信者] 事業者会員
事業者からの
信頼性確認団体より弊社会員の個人 HP 内に存在する MIDI フ
相談内容
ァイルについて送信防止措置を要求する文書が到着した。
著作権ガイドラインに関しての確認も含め、以下の内容につ
いてお知恵をいただきたい。
1.侵害されたとする情報の削除について
著作権関連のガイドラインにおいては ISP は速やかに削除策
を講じるものと定められているが、例えば会員の心情を察し、
7日程度の削除猶予期間を設けて事前告知を実施の上対象情報
を削除した場合、弊社に過失は発生するか。
また、発信者への連絡(事前・事後問わず)の際、申立者の
名前は記載してもよいか。
385
6.調査結果のまとめ
2.申立者との連絡手段について
申立者からは今後の円滑な運営を図るため、連絡のとれる弊
社担当者の電子メールアドレスを教えて欲しいとの要請があっ
たが、文書以外での申立者とのやりとりはこの場合有効か。
事業者相談セ 1.侵害されたとする情報の削除について
ンターの回答
当該の MIDI ファイルは、明らかに著作権を侵害していると考
えられるので、削除に際して発信人にその旨を伝えることは問
題ない。
ただし7日間の猶予期間を設けた場合は、御社は責任を問わ
れる可能性があるので、ガイドラインにしたがえば、削除は速
やかに行われるのが妥当であろうかと考えられる。
申立者の名前を記載することの可否は、こちらも問題ないと
思料される。
2.申立者との連絡手段について
ガイドラインでは、申立は原則として書面によって行うものと
するとともに、電子メールでの申立が認められる場合として、
以下のように規定している。
a)継続的なやりとりがある場合等、プロバイダ等と申出者な
どとの間に一定の継続的信頼関係が認められる場合であっ
て、申出者等が、当該電子メール、ファックス等による申出
の後、速やかに電子メール、ファックス等による申出と同内
容の申出書を書面によって提出する場合。
b)プロバイダ等と申出者等の双方が予め了解している場合に
は、申出を行う電子メールにおいて、公的電子署名又は電子
署名及び認証業務に関する法律の認定認証業者によって証明
される電子署名の措置を講じた場合であって、当該電子メー
ルに当該電子署名に係る電子証明書を添付している場合。
(プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドラインP149)
したがって、申立者にメールアドレスを伝えること自体には
何の問題もないが、ガイドラインに従う限り、申立てを受ける
際には、メールとは別に書面による申立書の提出を受けるほう
がベターと思う。もちろん、御社から申立者に対し、書面の提
出を求めることは可能と考える。
386
6.調査結果のまとめ
このあたりに関しては、申立者からの申立を、メールだけで
足りるとするのか、それとも書面の提出を必要と考えるか、と
いう、御社の判断に拠ることとなる。
対応上の留意 ・信頼性確認団体からの送信防止措置請求に対しては、書面が
点等
ガイドラインの記述を満たしていることを確認し、速やかな削
除が必要となる。
・認定された信頼性確認団体かどうかは、
(社)テレコムサービ
ス協会の下記URLで確認できる。
http://211.0.28.19/01provider/index_provider_030131.htm
・ガイドラインによれば、電子署名等のない通常の電子メール
での申立では、本人確認が困難とされている。
事例 №
071
タイトル
リンク先に著作権侵害の画像がある場合の対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 権利者
発生状況
[情報の表示場所詳細] リンク先ウェブページ
[発信者] 事業者会員(リンク元ウェブページ)
事業者からの
ホームページに掲載された画像について、権利者から事業者
相談内容
に対し該当するホームページの削除の申立てがあった。ホーム
ページの構造は、リンクの形式となっており、画像を選択する
メニューの部分が、相談社(事業者)のサーバにあり、表示さ
れる画像の部分は他社 ISP のサーバにある。
事業者から発信者に対し、権利者から著作権侵害の申立てが
あったので掲載画像を削除するよう伝えたところ、
「個人が購入
した雑誌、CD 等の画像の所有権は自分にあり、使い方は自由で、
著作権侵害にあたらない」、また「画像は、事業者のサーバに置
いているのではなく、別のウェブサイトにあるものにリンクし
387
6.調査結果のまとめ
ているので、事業者から削除の依頼がくるのはおかしい」との
回答であった。
今後、発信者と平行線をたどるようであれば、当社が送信防
止措置をとっても問題ないか。
事業者相談セ
まず、「個人が購入した雑誌、CD 等の画像の所有権は自分に
ンターの回答 あり、使い方は自由で、著作権侵害にあたらない」といえるか
については、所有権と著作権との関係については、最高裁判例
も出ているところであるが、判例の判断に依拠するまでもなく、
次のように言うことができる。
所有権は、有体物を客体として、これを使用収益することの
できる権利であり、CD、雑誌に対する所有権は、それらの有体
物の面に対する権利にとどまり、無体物である美術の著作物(こ
の場合、画像)には及ばないと考えられ、また、こうした著作
物の利用は、所有権ではなく、著作権によるコントロールを受
けており、たとえ、こうした著作物が化体または収納された媒
体の所有権を取得しても、当該著作物に対する著作権を取得す
ることにはならない。
したがって、ユーザは、CD 等の所有権に基づき、画像を自動
公衆送信することはできないこととなる。
なお、たとえ、当該ユーザに著作権侵害の認識がなくても、
無許諾利用の客観的事実があれば、著作権侵害は成立すると考
えられる。
次に、この形態が「特定電気通信」といえるかについては、
相談社のサーバにあるページと別のサイトに保存されている画
像のURLがソースに貼り付けてあるわけで、当該ページにア
クセスすることにより、誰でもその情報を得ることができるわ
けであるから、
「不特定者によって受信されることを目的とする
電気通信の送信」、すなわち特定電気通信に該当しうると考えら
れる。
また、
「事業者のサーバにある発信者のページが著作権侵害と
いえるか」については、当該ページにアクセスすることにより、
誰でも、問題の画像を閲覧することができる状態になっている
ことを、
「著作権侵害」状態と判断するか否かは、個別の事案の
388
6.調査結果のまとめ
判断となるので、センターからお応えできる内容ではない。
リンクの問題については、事業者によっては約款の禁止事項
にいれて対応しているところもあり、その場合であれば、約款
での対応も考えられる。
対応上の留意 ・リンク先に権利侵害情報のある態様について、リンク元をど
点等
のように扱うか個別の判断が必要となるところである。約款等
の禁止事項に含まれていると判断がしやすくなる。
事例 №
072
タイトル
ファイル交換ソフトでの著作権侵害に対する海外からの申立て
(その1)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 海外の団体
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
事業者会員のPC
事業者からの
当社の会員が米国の映画をP2Pファイル交換ソフトで自由
相談内容
に入手できる状態にしているとして、当社に対し送信防止依頼。
・ P2Pファイル交換ソフトを利用した著作権侵害であり、当
社の電気通信設備に情報が記録されていないことから、プロ
バイダ責任制限法に基づいた対応ができるのかどうか。
・ 申立人が海外の団体であるため、著作権等管理事業者または
信頼性確認団体にあたるのかどうか。
・ 当社でできる該当ユーザへの対応は、警告するのみまたはイ
ンターネットに接続できないようにするためのIDの解除
(契約解除)になるが、そこまでの対応をプロバイダとして、
すべきかどうか。
事業者相談セ 1.P2Pサービスを利用した著作権侵害であり、当社の 電気
389
6.調査結果のまとめ
ンターの回答
通信設備に情報が記録されていないことから、プロバイダ責任
制限法に基づいた対応ができるのかどうか。
1)前提問題として、御社がプロバイダ責任制限法の適用を受
ける「特定電気通信役務提供者」に該当するかということから
考える。
同法の「特定電気通信」とは「不特定の者により受信されるこ
とを目的とした電気通信の送信」をいうので、ISPの電気通
信設備に情報が記録されないP2Pによる情報の送信であって
も、
「不特定の者により受信されることを目的としている」限り、
直ちに「特定電気通信」に該当しないということにはならない
と考えられる。また「特定電気通信役務提供者」とは「特定電
気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信
設備を他人の通信の用に供する者」をいい、この「特定電気通
信設備」とは「特定電気通信の用に供される電気通信設備」と
定義されていて、
「情報が記録される」といった要件は付されて
いないので、本件の場合、御社が同法の「電気通信役務提供者」
に該当するとの主張も可能ではないかと思われる。そしてその
場合、御社は本件において同法に基づく免責を受け得る可能性
を検討し得るということになる。
2)次に「プロバイダ責任制限法に基づく対応」とは、何を念
頭におかれているのか定かではないが(プロバイダ責任制限法
は、その名のとおり、そもそもプロバイダの責任を制限するも
のなので)、仮に送信防止措置を採った場合、または採らずに放
置した場合のことを考慮されているのであれば、次のように考
え得ると思う。
(1)送信防止措置を採った場合
送信防止措置を採った場合に、違法と思った情報(この場
合は著作権 侵害の情報)が実は違法でなかった場合、発信者
に対する責任の問題が生じ得る(約款等で別段の定めがあり、
それが適用になる場合は除き)が、その場合には「当該措置
が当該情報の不特定の者に対する送信を防止するため必要な
限度」であって「当該電気通信による情報の流通によって他
人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があ
った場合」には、当該措置によって発信者に生じた損害につ
いては免責される。
390
6.調査結果のまとめ
実際に著作権侵害の情報の削除については、当該情報の送
信防止措 置を講じても発信者に対する損害賠償義務は生じ
ないと考えられる。
したがって、その場合はプロバイダ責任制限法第3条2項
の適用の問題は生じない。
本件のようなケースで、問題となるのはP2Pによる違法
な情報の送信を防止するために「電気通信設備に情報が記録
されない」という送信の性質上、ISPとしてどの程度の送
信防止措置を講じ得るか、過剰な措置にならないかというこ
とだと思われる(現実問題として、接続を切るしかないとい
う場合など)が、この点については、本件P2Pによる情報
送信の実態の理解や通信者の行為の違法性の程度、重大性な
どを含めた総合的事実判断が必要になると思われるので、慎
重かつ十分な精査が必要と考える。
(2)送信防止措置を採らなかった場合
仮に著作権侵害が事実であった場合、御社が著作権侵害の
責任を負うためには(a)著作権法および不法行為法に照ら
して、御社に責任が認められることと(b)プロバイダ責任
制限法に基づく第3条1項の免責の要件に該当しないことが
必要である。プロバイダ責任制限法については、御社は「権
利を侵害した情報の不特定の者に対する送信防止措置が技術
的に可能」であって「他人の権利侵害を知っている」か「情
報の流通を知っていて、他人の権利が侵害されていることを
知ることができたと認めるに足りる相当な理由があるとき」
に該当しなければ免責される。
「相当な理由」については、ガ
イドラインの基準がその解釈に影響を及ぼしていくことが期
待されているが、本件はガイドラインの手続きに基づく請求
ではないこともあり、ガイドラインに従っていないからとい
って、直ちに御社に全く「相当な理由」がないと判断される
わけではない。
なお、本件において相手方が御社の責任を問うためには、
そもそも(a)を主張立証することが必要なわけである、こ
の点、本件ケ−スのようなグヌーテラタイプのP2Pに関す
る事例についての判例はまだない。
391
6.調査結果のまとめ
以上の要素を勘案し、御社のリスクを御社の約款等による御
社のポリシーと併せて総合的に考慮して対応されることが相
当と思われる。
2.申立人が海外の団体であるため、著作権等管理事業者また
は信頼性確認団体にあたるのかどうか。
著作権等管理事業者であるかどうかは、文化庁のHPで確認
できる。
3.当社でできる該当ユーザへの対応は、警告するのみまたは
インターネットに接続できないようにするためのIDの解除
(契約解除)になるが、そこまで の対応をプロバイダとして、
すべきかどうか。
プロバイダ責任制限法における免責、という観点からは、非
常に微妙なケースだといえる。したがって、法に拠って対処す
る、というよりも、同法以前に、御社の契約約款に基づいた措
置として対応を考えられることが、適切ではないか。
対応上の留意 ・信頼性確認団体であるかどうかは、
(社)テレコムサービス協
点等
会の下記URLで確認できる。
http://211.0.28.19/01provider/index_provider_030131.htm
事例 №
073
タイトル
ファイル交換ソフトの著作権侵害に対する海外からの申立て
(その2)
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 著作権を持っていると主張する団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員のPC
[発信者] 事業者会員
392
6.調査結果のまとめ
申立内容
当社会員が、著作権侵害になる映像ファイルをP2Pファイ
ル交換ソフトを使用して公開していることに対し、著作権を持
っていると主張する団体から送信防止措置依頼があった。
事業者の対応
当社では、会員が間違いなく該当のファイルを発信している
という事実関係が確認できないので、弁護士と相談して、再度
申立者に確認を行ったところ、何の連絡もなかったので、発信
者に対し何の対応もとらなかった。
対応上の留意
点等
事例 №
074
タイトル
ファイル交換ソフトで二次プロバイダ会員が著作権侵害情報を
公開していることに対する対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 海外の団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 二次プロバイダ会員のPC
[発信者] 二次プロバイダ会員
申立内容
二次プロバイダの会員が、P2Pソフト(グヌテラ)上で、
権利者の許諾を得ずに著作物を公開していることに対し、当社
に(IPアドレスは当社保有のため)送信防止措置の請求があ
った。
申立者は海外の者である。
事業者の対応
二次プロバイダに確認後、申立者に対して二次プロバイダ名
とその会員であるので、二次プロバイダに対して申立てるよう
回答した。
その後、当社に連絡はないし、二次プロバイダにもない模様。
393
6.調査結果のまとめ
対応上の留意
点等
事例 №
075
タイトル
著作権侵害での発信者情報開示請求
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
有
有
事業者会員開設ウェブページ
申立内容
当社会員の開設ホームページに対し、プロバイダ責任制限法
のガイドラインの書式により、損害賠償請求権及び差止請求権
の行使を理由とする氏名または名称、住所、メールアドレス、
IPアドレス及びタイムスタンプの開示請求があった。
事業者の対応
法の規定に則った対応で、発信者への照会を行い、その結果、
発信者から同意が得られたので、申立者に開示した。
対応上の留意
点等
事例 №
076
タイトル
弁護士法第23条の2に基づく発信者情報開示請求の対応
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・その他(個人情報の不正ダウンロード)
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者]
発生状況
[発信者]
弁護士会
事業者会員
394
無
有
6.調査結果のまとめ
申立内容
当社会員が、企業の所有する個人情報を不正にダウンロード
したことで、申立企業の著作権、プライバシー権及び経済的信
用を侵害されたとして、情報の公開の差止め及び損害賠償請求
訴訟を提起するため準備中として、弁護士会より、弁護士法2
3条の2による照会として、発信者情報(氏名、住所、メール
アドレス)の照会を受けた。照会文書の中には、プロバイダ責
任制限法第4条との記載もある。
事業者の対応
照会書に、
「発信者情報の開示を受ける理由がある(プロバイ
ダ責任制限法4条)」との記載があるも、プロバイダ責任制限法
に基づくとするなら、侵害を受けたとするもの(又は代理人弁
護士)からの請求を要することもあり、回答拒否にて対応した。
対応上の留意 ・警察官、検察官、検察事務官、国税職員、麻薬取締官、弁護
点等
士会、裁判所等の法律上照会権限を有する者から照会を受けた
場合であっても、緊急避難または正当防衛の場合を除き、以下
の通信の秘密に属する事項等を開示してはならない。
- 通信の存在及び内容
- 通信当事者の氏名、住所または居所
- 通信当事者の電話番号、FAX番号、メールアドレス等の
通信ID
- 通信日時
事例 №
077
タイトル
海外から著作権侵害の申立のあった場合の対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・P2Pファイル交換
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 海外の団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 二次プロバイダ会員のPC
[発信者] 二次プロバイダ会員
395
6.調査結果のまとめ
事業者からの
当社の会員が米国の映画をP2Pファイル交換ソフトで公開
相談内容
しているとして、当社に対し海外の団体からの送信防止依頼。
行為者は二次プロバイダの会員と思われる。
①申立人はメールを送る際に当社以外にCCで国内の団体に
も送信しており、英語での対応は難しいので、国内の団体
を窓口にしたいが、どうか。
②専用の書面をもらいたい(著作権関係ガイドラインの様式B)
が、どうか。
③②の後に、二次プロバイダの承諾を得て、二次プロバイダに
連絡して欲しい旨の回答をおこなうということでよいか。
事業者相談セ
ンターの回答
まず、全般的な考え方について説明する。
プロバイダ責任制限法は、送信防止措置の申出方法について
定めた規定はなく、プロバイダ等が送信防止措置を講じた場合、
若しくは講じなかった場合に、発信者若しくは被害者に対する
損害賠償責任が免責される場合を規定しているにすぎない。
よって、被害者がどのような方法で削除を求めてきたとして
も、御社において、削除をするか、削除しないかを判断する必
要がある。
送信者が御社の会員ではなく、また当該映画ファイルがP2
Pファイル交換ソフトで送信されていることを考えると、御社
が、著作権者の「権利が侵害されていると知ることができたと
認めるに足りる相当の理由があるとき」に該当することは少な
いと考えられる。
次に御社からいただいた個々のご質問についてお応えする。
御社の対応案①「国内の団体を本件の窓口にして欲しい」に
ついて
窓口についての交渉をするのは御社のリスクでご判断願う。
御社の対応案②「著作権関係ガイドラインの様式Bが欲しい」
について
本件通知は、権利者からの申出ではないし、その内容からし
ても、著作権ガイドラインの基準を満たすものではない。
(なお、ガイドラインは、ガイドラインの要件を満たす通知
を受けた場合には、速やかに所定の手続き(削除)を行うこ
396
6.調査結果のまとめ
ととして、プロバイダ等の行動基準を明確にすることを目的
としている。)
よって、著作権ガイドラインが定める書式による申出を求め
ても無意味となる。
しかし、たとえ権利者からの申出でないからといって、御社
が対応をしなくても免責されることにはならない。
御社の対応案③「二次プロバイダに連絡して欲しい旨の回答
をおこなう」について
ご質問のような事情であれば、御社の対応で差し支えないと
思われる。
対応上の留意
点等
事例 №
078
タイトル
海外からの送信防止措置請求と発信者情報開示請求
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
・発信者情報開示請求
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 海外の音楽関係団体
発生状況
[情報の表示場所詳細] 二次プロバイダ会員開設ウェブペー
ジ
[発信者] 二次プロバイダ会員
事業者からの
外国の音楽関係の団体からメールで、Web上で音楽ファイ
相談内容
ル(MP3ファイル)の著作権侵害と思われるものに対する対
応依頼が届いた。
依頼内容に発信者情報開示も含まれている。
当社としては会員への警告は行うが、個人情報開示は行わな
いつもりであるがそれでよいか。
事業者相談セ (1)申立のあった団体は、権利者本人でも代理人でもないが、
397
6.調査結果のまとめ
ンターの回答
第三者からの申立てであっても、プロバイダ責任制限法3条
1項の「他人の権利が侵害されていることを知っていたとき」
に該当する可能性があるため、同項による免責が得られず、
権利者に対して責任を負う可能性がある。
(2)したがって、発信者に連絡して注意喚起する等、何らか
の対応をした方がよいということになる。(利用規約があれ
ば、それに基づく対応。)
(3)発信者情報開示請求については、権利者本人でもその代
理人でもないので、プロバイダ責任制限法4条による対応は
できないこととなる。
なお、今回は、サイト管理者が連絡先情報(メール)も開
示しているので、直接連絡をとりあうことも可能と思う。
対応上の留意
点等
事例 №
079
タイトル
著作物に対する悪質なパロディの対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 海外著作権者の国内代理店
発生状況
[情報の表示場所詳細] 事業者会員開設ウェブページ
[発信者] 事業者会員
事業者からの
相談内容
弊社会員が弊社ホームページ登録サービスを利用して開設し
ているホームページ上のコンテンツについて、海外著作権利者
の日本国内代理店より以下の通知があった。
・会員ホームページ上に当該団体が管理する著作物(キャラ
クターグッズ)の悪質なパロディが掲載されている。
・当該団体より開設者(弊社会員)に使用中止の通知をする
ことを検討しているが開設者を特定できていない(会員は
E‑mail アドレスは掲載している)
398
6.調査結果のまとめ
・よって、当該サイトのプロバイダである弊社での当該ホー
ムページの削除と開設者の情報開示の請求。
【対応予定】
弊社としては、上記に対して以下の回答を考えている。
1.通知にはプロバイダ責任制限法への言及の有無がないの
で、弊社方針としては会員の規約への抵触行為(権利団体
からの警告の受理に基づく、第三者の権利の侵害のおそ
れ)として該当の会員へ警告措置を行い、期限を設け該当
コンテンツの削除を会員自身により対応させる旨回答。
→ 会員自身による削除がなかった場合、弊社で削除すべき
か?
→ 上述の対応ではなく「プロバイダ責任制限法」に基づく
手続きを依頼すべきか?
2.会員情報に関しては、通信の秘密により開示はできない。
→「プロバイダ責任制限法」に基づく発信者情報開示手続き
について案内すべきか?
3.当該会員はホームページ上に自身の連絡先として「E‑mail
アドレス」を掲載しているので、そちらに直接連絡を行う
よう案内。
→ 対応として適当か?
事業者相談セ
本件は、信頼性確認団体を経由した申出ではないので、当セ
ンターの回答 ンターにて著作権侵害の有無につき助言することはできない。
このため、会員規約等も含めどのような対応を採るかは、御
社の顧問弁護士等も含めて判断されるのが適当と思う。
当センターからは、
「対応の選択肢としてこのような方法も考え
られる」ということで判断の参考としていただければと思う。
まず、発信者情報開示については、①著作権侵害が明らかと
いえること、②申出者が発信者情報の開示を受けるべき正当な
理由があること、以上2点を満たす場合に初めて開示すること
となるから、通常、裁判手続を経ずに開示されるケースは少な
いと思われる。
399
6.調査結果のまとめ
また、削除依頼については、①削除等の措置を講ずることが
技術的に可能な場合であること、②他人の権利が侵害されてい
ることを知っているか、知ることができたと認めるに足りる相
当の理由があること、以上2点を満たす場合でなければ、御社
が情報を削除しなかった場合でも、申出者に対する損害賠償責
任は免責される。
逆に、削除した場合の発信者に対する損害賠償責任は、①送
信防止措置が必要な限度であったこと、②他人の権利が不当に
侵害されていると信じるに足りる相当な理由があったこと、以
上2点を満たす場合には、御社が情報を削除した場合でも御社
会員に対する損害賠償責任は免責される。また、②の代わりに、
発信者である御社会員に対して、削除等に同意するか否かを照
会し、7日間以内に、削除等に同意しない旨の申出がない場合
に削除したときも、御社の損害賠償責任は免責される。
以上に基づき、削除の当否を判断していただくことになる。
対応上の留意
点等
400
6.調査結果のまとめ
6.1.3
プロバイダ責任制限法以外
事例 №
091
タイトル
SPAMメール送信に対する送信防止の要請
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・その他(SPAM受信)
情報表示場所
・その他(電子メール)
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者]
発生状況
[発信者]
有
無
非会員
事業者会員
申立内容
当社の会員がSPAMメールを送信していることに対し、プ
ロバイダ責任制限法に基づき対処して欲しいとの依頼があっ
た。
事業者の対応
SPAMメールはプロバイダ責任制限法の対象とするところ
ではないが、SPAMメール送信の確認が取れたため、通常の
会員規約での対応を行った。
対応上の留意
点等
事例 №
092
タイトル
インターネット上の取引に関するトラブル
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・その他(プロバイダ責任制限法以外の違法行為)
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任
制限法の言及
権利侵害等の [申立者] 被害主張者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
会員開設ウェブページ
事業者からの
会員開設ホームページで商品の購入をしたが、いつまでたっ
相談内容
ても届かない。返金を申し出ても理由をつけて返そうともしな
401
6.調査結果のまとめ
いので訴えようと考えている。相談社に対しては悪質なホーム
ページは閉鎖して欲しいとの連絡があった。ホームページを強
制閉鎖するわけにもいかないので、約款の禁止行為に該当する
として利用停止にできるか。
事業者相談セ
情報の流通によって特定の者の権利が侵害された訳ではない
ンターの回答 ので、プロバイダ責任制限法の対象とはならない。このため、
当該ホームページの削除等の措置を講じたとき、同法による責
任の制限は受けることはできないと考える。
このため、事業者と当該ホームページ開設会員との契約約款
に基づき、きちんと合致するかどうか確認し、その上での対応
になるかと考える。
対応上の留意 ・本件のように情報の流通そのものによって特定の者の権利が
点等
侵害されたわけではないので、削除してもプロバイダ責任制限
法の免責は受けれない。
事例 №
093
タイトル
ねずみ講と思われるホームページへの対応
対応依頼内容
・送信防止措置請求
権利侵害の種類
・その他(プロバイダ責任制限法以外の違法行為)
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任
制限法の言及
権利侵害等の [申立者] 第三者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
事業者会員開設ウェブページ
事業者からの
フリーメールなので通報者が誰なのか確認できないが、会員
相談内容
開設ホームページで、国内法に違反していると思われるのがあ
るので、当社に対処を依頼する連絡が届いた。
当社としては、ねずみ講まがいに見えるが、法に抵触するの
かわからず苦慮している。対処方法を教えて欲しい。
事業者相談セ
プロバイダ責任制限法は、インターネット等による他人の権
402
6.調査結果のまとめ
ンターの回答
利を侵害する情報の流通に関して、プロバイダ等の損害賠償責
任の制限および発信者情報の開示について規定したものであ
る。
この法律の対象となる「権利の侵害」とは、特定個人の民事
上の権利を侵害するような情報(例えば、他人を誹謗・中傷す
るような情報、他人のプライバシーを侵害するような情報、他
人の著作権を侵害するような情報等)である。
ねずみ講まがいの情報がネット上に流通していたとしても、
これにより特定の者の権利が侵害されたとは言えず、プロバイ
ダ責任制限法の対象とはならない。よって、御社が当該情報を
削除したとしても、同法による責任の制限を受けることはでき
ないものと考えられる。
対応上の留意
点等
事例 №
094
タイトル
警察からの発信者情報開示請求
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・その他(プロバイダ責任制限法以外の違法行為)
情報表示場所
プロバイダ責任
制限法の言及
権利侵害等の [申立者]
発生状況
[発信者]
警察
事業者会員
事業者からの
警察より、会員が犯罪行為をしたということで会員のアドレ
相談内容
ス等送信記録の開示要請があった。当社としては会員のプライ
バシーに係ることの開示はできないと断ったが、犯罪にかかわ
る内容に対して断り続けることが可能か否か、正当性があるの
か、法的に守られるものであるか迷うところもあり、対応につ
いて教えて欲しい。
[類似の相談]
詐欺行為を行っている会員の個人情報の開示について、警察
から相談があった。どのように回答すればよいか。
403
6.調査結果のまとめ
事業者の対応
警察からの「犯罪行為をした者に対する」問合せであるので、
/事業者相談 民事上の権利侵害があった場合を対象としたプロバイダ責任制
センターの回 限法4条の適用はないものである。
答
発信者情報は、通信の秘密の該当するものであるから、警察
署長の捜査関係事項照会書等の任意捜査では開示することはで
きず、裁判所の令状がある場合でなければ開示することはでき
ないものと考えられる。
対応上の留意
点等
事例 №
095
タイトル
大量のメール送信によるメールサーバの障害
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・その他(業務妨害)
情報表示場所
・その他(メール)
プロバイダ責任
制限法の言及
権利侵害等の [申立者] 事業者
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 他社会員?
事業者メールサーバ
事業者からの
当社のメールサーバに、アドレススキャンとも思える非常に
相談内容
大量のメールが送信され、メールサーバが停止するという障害
が発生した。
発信者情報開示及び直接該当者に対して厳重注意もしくは損
害賠償等を、プロバイダ責任制限法もしくはその他法的な手段
を利用して行いたい。
事業者相談セ
メール送信については、一般的にはプロバイダ責任制限法の
ンターの回答 対象ではない。
法律に沿った対応ということでは、
「特定電子メールの送信の適
正化等に関する法律」または「不正アクセス禁止法」等の法律
を確認していただきたい。
404
6.調査結果のまとめ
送信している会員の事業者に直接連絡をとり、事情を説明し
て会員への注意喚起等の対応を行ってもらった方がよいのでは
ないか。
対応上の留意
点等
事例 №
096
タイトル
通信ログについての問い合わせ
対応依頼内容
・その他(通信ログ)
権利侵害の種類
・その他
情報表示場所
・その他
プロバイダ責任
制限法の言及
権利侵害等の [申立者]
発生状況
警察
事業者からの
警察から「通信ログの保存期間はどの程度か」との問合せを
相談内容
受けた。
これに対して回答する為に、以下の2点について教えて欲し
い。
①通信ログの保存期間は、法律的な最低保存期間が定められて
いるか。
(または、これ以上長期に保存していてはいけない、という
期間があるのか。)
②警察に通信ログの保存期間を回答する際に、留意すべき点は
何か。
事業者相談セ
直接プロバイダ責任制限法に係るトラブル等の相談ではない
ンターの回答 が、通信ログについてはプロバイダ責任制限法でも絡むところ
なので下記内容を回答した。
ログの保存期間については、電気通信事業における個人情報
保護に関するガイドライン(平成10年郵政省告示第570号)
第8条第2項において、
「電気通信事業者は、保存期間が経過し
たとき又は記録目的を達成したときは、速やかに通信履歴を消
405
6.調査結果のまとめ
去するものとする。」と定められている。
したがって、プロバイダ等の電気通信事業者は、それぞれの
業務事情(例えば課金業務等)に応じて、必要な期間を定めて
通信ログを保存することとなり、保存期間が経過したときや記
録目的を達成後には、速やかに消去することが求められており、
電気通信事業者に対し一律に最低保存期間が定められていたり
義務付けされているものではない。
ログの保存期間については、上記ガイドラインの趣旨に沿っ
て、個々の事業者が保存期間を定めるものであり、その保存期
間自体を警察に回答しても問題ないが、警察から保存期間を他
のプロバイダ同様に○○ヶ月にした方がいい、あるいは保存義
務あるといった話については応じる必要は無く、個々のプロバ
イダの事情に応じて保存期間を定めるものである旨をもって対
応していただければと思う。
なお、通信ログや個別の通信にかかわる情報、いわゆる通信
の秘密に該当する情報については、プロバイダは警察署が作成
した捜査関係事項照会で通信の秘密を公開することはできず、
裁判所の令状があってはじめて対応できるものである。
対応上の留意
点等
事例 №
097
タイトル
掲示板でのトラブルの収拾に対する問い合わせ
対応依頼内容
・発信者情報開示請求
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・電子掲示板
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
無
無
権利侵害等の [申立者] 掲示板管理者
発生状況
[情報の表示場所詳細] 他者管理掲示板
[発信者] 事業者会員
事業者からの
当社の会員の書き込み等で荒れた状態の掲示板管理者から、
406
6.調査結果のまとめ
相談内容
当社に対し会員の解約要求があったので、会員への事実確認を
行ったところ、本人が掲示板でお詫びを行った。しかし、掲示
板管理者の収まりがつかず、さらに会員本人から掲示板管理者
に氏名、住所等を明かすよう伝えて欲しい旨の依頼が当社にあ
った。掲示板管理者に当社から連絡をとるが、発信者情報開示
請求となった場合、どのように対応すればよいか教えて欲しい。
事業者相談セ
当該掲示板の管理者は、発信者の詳しい個人情報を要求して
ンターの回答 いるが、プロバイダ責任制限法にのっとった開示請求でない以
上、開示すべきではない。
万が一、開示請求が正式に行われた場合にも、基本的には裁
判所の判決を待つのが望ましい、と考えられる。
また、もし正式な開示請求についてということになれば、
(社)
テレコムサービス協会 HP の下記 URL
http://www.telesa.or.jp/index̲isp.htm
に「発信者情報開示の対応手順について」が公開されているの
で、こちらを案内していただければよろしいかと思う。
対応上の留意 ・発信者情報開示請求が行われた場合でも、プロバイダが判断
点等
することは難しいと思われる。その場合には裁判所の判決を待
つのが望ましいと考えられる。
事例 №
098
タイトル
トラブル未然防止の相談
対応依頼内容
・その他
権利侵害の種類
・著作権侵害関係
情報表示場所
・ウェブページ
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
権利侵害等の [申立者] 無
発生状況
[情報の表示場所詳細]
[発信者] 事業者会員
無
無
会員開設ウェブページ
事業者からの
当社のホームページから依頼のあった会員ホームページをリ
相談内容
ンクするサービスを行っているが、会員から依頼のあった人物
407
6.調査結果のまとめ
の写真で、本人に掲載の承認を得ていないものは削除するよう
伝えるが、それでよいか。
事業者相談セ
現在のところ、実際の権利侵害が発生しているわけではない
ンターの回答 ため、当センターでお応えできる内容ではないので御社として
判断していただきたい。
対応上の留意
点等
事例 №
099
タイトル
ウイルスメールの送信
対応依頼内容
・その他
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・その他(電子メール)
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
無
制限法の言及
権利侵害等の [申立者]
発生状況
[発信者]
他人にメールアドレスを使用された者
ウィルスメール送信者
申立内容
他人が自分のメールアドレスでウィルス感染メールを送信し
ているため、見知らぬ人から苦情を受けた者から、メールの送
信元サーバの管理者である当社に対し、サーバでブロックでき
ないのか申立てがあった。
事業者の対応
さらにウイルスをばら撒く可能性があったため、当社で送信
元を特定し、実際のウイルス送信者に送信防止依頼した。
対応上の留意 ・プロバイダ責任制限法の対象外
点等
408
6.調査結果のまとめ
事例 №
100
タイトル
掲示板に掲載された誹謗中傷内容閲覧のメールでの案内
対応依頼内容
・その他
権利侵害の種類
・名誉毀損関係
情報表示場所
・その他(電子メール)
プロバイダ責任 プロバイダ責任制限法の言及
制限法の言及
ガイドライン書式の使用
有
無
権利侵害等の [申立者] 非会員
発生状況
[情報の表示場所詳細] (電子掲示板)
[発信者] メールの送信が事業者会員
申立内容
誹謗中傷を掲載した掲示板を見るよう案内した電子メールを
送信(メール自体は誹謗中傷でない)している当社会員に対し、
プロバイダ責任制限法に基づき対応するよう依頼があった。
事業者の対応
プロバイダ責任制限法の対象外のため、プロバイダ責任制限
法に基づいた措置は行えないが、会員規定でユーザ対応が必要
と判断した場合は、会員規定に基づき対応している。
対応上の留意 ・プロバイダ責任制限法の対象外
点等
409
6.調査結果のまとめ
6.2 判例係争案件についてのまとめ
6.2.1 名誉毀損・プライバシー侵害関係
ア.プライバシー侵害の成否
(ア)すでに公開されていた情報
原告が AI 出版の所有する THB*****の ID を不正使用したという疑惑は、不特
定多数の会員が知ることのできる状態に置かれていたことは前記認定のとおり
であり、本件掲示中のこの疑惑に関する部分は、既に PC‑VAN の会員の間に公開
されていた情報であり、被告の掲示行為によって初めて公開された情報とは認
め難い上、本件掲示のその余の部分については、法的保護に値する個人的情報
が含まれているわけではない。そして、本件会話の途中で、約 20 名の不特定の
会員がアクセスしたことを原告は認識することができたにもかかわらず、本件
会話を終了することなく継続し、スクランブルをかけなかったことからしても、
原告は、OLT における公開性の限度において、本件会話を不特定人に公開された
場で行い、かつ、これを容認していたものというべきである。
(平成9年12月
22日東京地裁判決、本書5.1.1参照)
(イ)プライバシーの暴露がないとされた例
プライバシー侵害による不法行為が成立するためには,公表された事柄が,
①私生活上の事柄又はそのように受け取られるおそれのある事柄であること,
②一般人の感受性を基準にして公開を欲しないと認められる事柄であること,
③一般人に未だ知られていない事柄であること,さらには,④公表された事柄
をみた一般人が,特定の人物を指していると認識できることが必要である。本
件を検討してみるに,①「神名ななこ」等のハンドル名をみたパソコン通信に
参加している一般の読者は,当該各ハンドル名が,実在する特定の人物の名前
を指しているとは考えないであろうこと,②神名が用いた各ハンドル名は,原
告の本名と完全に−致せず,一般の読者の感受性を基準にすると,公開を欲し
ない事柄とはいえないこと,③原告は,神名が各ハンドル名を使用する以前に,
ハンドル名「阿蘇慧」,「うちださん」,「安達B」等不特定多数の人物に対
し,本名でメールを送り),また,公開のフォーラム上で周囲に原告自身の学
歴が判明する議論をしており,原告自身,パソコン通信上で匿名が維持される
ことを必要不可欠の要件として希望していたというには疑問が残ること,④原
告の本名が非常に稀で,「ななこ」,「奈那子」,「奈菜子」と指摘すれば,
原告と面識のない第三者も原告を指していると認識することは困難であること,
⑤神名が,パソコン通信上で,原告あるいは「A〜E」のハンドル名を使用し
ている人物と「奈那子」,「奈菜子」,「ななこ」を結びつけるような発言を
したり,原告の他のプライバシーを暴露したことを認めるに足りる証拠はない
410
6.調査結果のまとめ
ことがそれぞれ認められる。そうだとすると,神名の行為は,原告のプライバ
シーを侵害したとは認められず,この点に関する原告の主張は理由がないとい
うことになる。(平成13年8月27日東京地裁判決、本書5.1.4参照)
イ.名誉毀損の成否
(ア)社会的評価の低下が生じていない場合
本件掲示中の「多分犯人は貴方なのでしょう。AI の言うとおり。
」という被告
の発言は、「多分」「AI の言うとおり。」などの表現などに照らすと、原告が AI
出版の所有する THB*****の ID を不正使用したという事実そのものを摘示したも
のではなく、その点についての原告に対する疑惑が極めて濃厚であると評価し、
表現したものと認めるのが相当である。
しかし、本件掲示行為の当時において、原告がこの ID を不正使用したという
疑惑は、AI 出版の前期「PC‑VAN 会員の皆様へ」と題する掲示、右近の「百舌鳥
伶人氏の ID 不正使用について」と題する掲示等が電子掲示板に掲示されたこと
に加え、原告の反論やその他の PC‑VAN 会員の発言が電子掲示板に多数回にわた
り掲示されたことによって、不特定多数の会員が知ることのできる状態に置か
れていたのであり、不特定の会員の間で極めて濃厚な疑惑として受け止められ
ていたことは容易に推測される。しかも、本件掲示において、原告による ID の
不正使用に関する具体的事実は何ら摘示されていないこと、原告がこの疑惑は
事実ではないと反論していることがそのまま記載されていることなどに照らす
と、本件掲示は、既に AI 出版や右近等により電子掲示板に掲示された前記情報
によって不特定の会員が知ることのできるこの疑惑の具体的な内容に新たな事
実を付加するものではなく、その掲示によって、疑惑の確度に対する従来の印
象を超えて新たに原告に対するこの疑惑を深めたとはいえない。したがって、
被告の本件掲示行為によって原告の社会的評価が低下したということはできな
い。(平成9年12月22日東京地裁判決、本書5.1.1参照)
(イ)名誉毀損の成立が認められた例
「あの女はアメリカの出入国法にも違反した疑いが濃厚。これは完全な犯罪
者」,「あの女は二度の胎児殺し」,「COOKIE のやらかした優生保護法違反による
二度の胎児殺しとアメリカの移民帰化法違反による不法滞在・・・・COOKIE は
犯罪者。COOKIE の嬰児殺し。胎児殺しを二度もやった・・・」
,「COOKIE のよう
な嬰児殺し」,「嬰児殺害と米国不法滞在を奨励した COOKIE こと(被控訴人
名)
・・嬰児殺しを奨励し」
,「嬰児殺害と米国不法滞在を提唱するエセ・フェミ
ニズム女 COOKIE」
,「あれは二度も中絶している」,「無資格で入国する不法滞在
者と同じこと。・・・(被控訴人名)がアメリカでやらかしたことをおまえはや
411
6.調査結果のまとめ
っている」の部分及び同旨の発言内容部分は,被控訴人が嬰児殺し及び不法滞
在の犯罪を犯したとする内容の発言で,被控訴人の社会的評価を低下させる内
容であり,名誉毀損に当たる。
(平成13年9月5日東京高裁判決、本書5.1.
5参照)
(ウ)実名を挙げていない発言の取扱い
被害者の名前の一部を伏字、あて字等にするものの、被控訴人らを指し示す
ことが容易に推測される文言を記載した上、「ブラックリスト」、「過剰診療、誤
診、詐欺、知ったかぶり」「えげつない病院」「ヤブ(やぶ)医者」「ダニ澤」「精
神異常」「精神病院に通っている」「動物実験はやめて下さい。」「テンパー」
「責任感のかけらも無い」「不潔」「氏ね」「被害者友の会」「腐敗臭」「ホント
酷い所だ」「ずる賢い」「臭い」などと侮辱的な表現を用い、又は「脱税してる」
のではないかとの趣旨の直近のいくつかの発言を引用するなどして誹謗中傷す
る内容であり、被控訴人らの社会的評価を低下させる。(平成14年12月25
日東京高裁判決。本書の5.1.8)
(エ)匿名掲示板における名誉毀損の成否
ある発言の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、
一般人の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞記事
についての最高裁判所昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号
1059頁参照)、インターネットの電子掲示板における匿名の発言であっても、
「悪徳動物病院告発スレッド」と題して不正を告発する体裁を有している場で
の発言である以上、その読者において発言がすべて根拠のないものと認識する
ものではなく、幾分かの真実も含まれているものと考えるのが通常であろう。
したがって、その発言によりその対象とされた者の社会的評価が低下させられ
る危険が生ずるというべきであるから、控訴人の上記主張は採用することがで
きない。(平成14年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.8)
ウ.対抗言論により名誉毀損の成否
(ア)対抗言論が認められた例
フォーラムやパティオに書き込まれた発言が人の名誉ないし名誉感情を毀損
するか否かを判断するに当たっては,問題の発言がされた前後の文脈等に照ら
して,発言内容が不特定多数の第三者に理解可能か否か,当該発言内容が真実
と受け取られるおそれがあるか否かを判断の基礎とする必要がある。
加えて,言論による侵害に対しては,言論で対抗するというのが表現の自由
(憲法21条1項)の基本原理であるから,被害者が,加害者に対し,十分な
412
6.調査結果のまとめ
反論を行い,それが功を奏した場合は,被害者の社会的評価は低下していない
と評価することが可能であるから,このような場合にも,一部の表現を殊更取
り出して表現者に対し不法行為責任を認めることは,表現の自由を萎縮させる
おそれがあり,相当とはいえない。
これを本件各発言がされたパソコン通信についてみるに,フォーラム,パテ
ィオヘの参加を許された会員であれば,自由に発言することが可能であるから,
被害者が,加害者に対し,必要かつ十分な反論をすることが容易な媒体である
と認められる。したがって,被害者の反論が十分な効果を挙げているとみられ
るような場合には,社会的評価が低下する危険性が認められず,名誉ないし名
誉感情毀損は成立しないと解するのが相当である。
また,被害者が,加害者に対し,相当性を欠く発言をし,それに誘発される
形で,加害者が,被害者に対し,問題となる発言をしたような場合には,その
発言が,対抗言論として許された範囲内のものと認められる限り,違法性を欠
くこともあるというべきである。
以上のようなパソコン通信上の表現行為の特性に照らすと,パソコン通信上
の発言が人の名誉ないし名誉感情を毀損するか否かを判断するに当たっては,
発言内容の具体的吟味とともに,当該発言がされた経緯,前後の文脈,被害者
からの反論をも併せ考慮した上で,パソコン通信に参加している一般の読者を
基準として,当該発言が,人の社会的評価を低下させる危険性を有するか否か,
対抗言論として違法性が阻却されるか否かを検討すべきである。(平成13年
8月27日東京地裁判決、本書5.1.4参照)
(イ)対抗言論が認められなかった例
対立する意見の容易に予想されるフェミニズムという思想を扱うフォーラム
においても,おのずから,議論の節度は必要である。各発言は,控訴人Aの議
論の中では,その主張を裏付ける意味をおよそ有せず,また,被控訴人の主張
を反駁するためにされているとも解せられず,被控訴人の公表した事実が犯罪
に当たることを言葉汚く罵っているに過ぎないのであり,言論の名においてこ
のような発言が許容されることはない。フォーラムにおいては,批判や非難の
対象となった者が反論することは容易であるが,言葉汚く罵られることに対し
ては,反論する価値も認め難く,反論が可能であるからといって,罵倒するこ
とが言論として許容されることになるものでもない。
尤も,本件においては,先に認定したとおり,被控訴人において,意見の対
立の予想される思想を扱うフォーラムに身を置きながら,異見を排除したり,
スクランブル事件の際のように控訴人Aを排除したりするなど,反対意見に対
する寛容の必要性についての基本的な理解に欠けることを窺わせる行動が見ら
413
6.調査結果のまとめ
れるが,このことを考慮しても,議論に臨むについて,節度を超えて他人を貶
め,又は他人の名誉を傷つけることが許されるものではなく,控訴人Aのこの
点に関する主張は,採用することができない。
(平成13年9月5日東京高裁判
決、本書5.1.5参照)
(ウ)匿名掲示板を理由として対抗言論が認められなかった例
言論に対しては言論をもって対処することにより解決を図ることが望ましい
ことはいうまでもないが、それは、対等に言論が交わせる者同士であるという
前提があって初めていえることである。
本件においては、本件掲示板に本件各発言をした者は、匿名という隠れみの
に隠れ、自己の発言については何ら責任を負わないことを前提に発言している
のであるから、対等に責任をもって言論を交わすという立場に立っていないの
であって、このような者に対して言論をもって対抗せよということはできない。
(平成14年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.8)
複数と思われる者から極めて多数回にわたり繰り返されているものであり、
本件掲示板内でこれに対する有効な反論をすることには限界がある上、平成1
3年5月31日に被控訴人らを擁護する趣旨の発言がされたが、これによって
議論が深まるということはなく、この発言をした者が被控訴人であるとして揶
揄するような発言もされ、その後も被控訴訴人らに対する誹謗中傷というべき
発言が執拗に書き込まれていったような状況では、名誉毀損の被害者に対して
本件掲示板における言論による対処のみを要求することは相当ではない。
(平成
14年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.8)
エ.侮辱の成立を認めた例
本件発言中,「あの女は乞食なみじゃ。」,「あの女の表の顔と裏の顔が明らか
になる。そう,寄生虫的な逆差別女の思想的限界が。
」,「あの女は弱いのではな
く,弱いふりをして,根性がひん曲がっている・・。あれでは離婚になるでし
ょう」,「(被控訴人名)は何者か?やはり,根性のひんまがったクロンボ犯罪
者なみです。・・・この馬鹿だけは。」,「COOKIE 一味はやはり馬鹿としか思えな
い。
・・・あのペテン師女」,「COOKIE の馬鹿」等同旨の各部分は,事実を摘示し
ている訳ではないが,自己の意見を強調し,反対意見を論駁するについて,必
要でもなく,相応しい表現でもない,品性に欠ける言葉を用いて被控訴人を罵
る内容のもので,被控訴人の名誉感情を限度を超えて害するものというべきで,
侮辱に当たる。(平成13年9月5日東京高裁判決、本書5.1.5参照)
オ.脅迫の成立を否定した例
414
6.調査結果のまとめ
各発言中には,「これは闇打ちにするのもいいでしょうかね,・・依頼した
COOKIE 暗殺計画の立案はどこまで進行していますか?」,「あの女は闇打ちにす
るのがいいでしょう。
・・当方はあの会社の天皇級の人間をよーーーーーーーく
知っているので,これからはいつでも闇打ちができるわけです。リストラの時
にはバイトの人間は最初の犠牲者ですからねえ。
・・本当にやるかどうかは彼女
しだいでしょうがね。」,「かわいそうに,COOKIE も。これで職場に恥がばらまか
れることになった。
・・ここまでなめられては,報復戦争です。COOKIE が先にや
らかしたプライバシーの暴露と裏攻撃をこちらもするだけのこと。それも一万
倍の切れ味で。」,「COOKIE・・も職場と居場所は分かっています。必要と有れ
ば・・しかるべき対応はできますので,まさに「発言の当事者」責任を問うこ
とにします。」,「恐い目に遭うのは,
・COOKIE 一味」,「「部落と朝鮮は怖い」と
いう発言を残したが,おまえはこの一言で他人に殺意を残したことはわすれな
いように」,「早々にワナにかけて,射殺した方がいいでしょう,あの女の場合
は・・そうそうに射殺すべきでしょう。この馬鹿だけは」の各発言のように,「闇
打ち」(闇討ちの趣旨か)「暗殺計画」「射殺」「痛い目に遭う」等,被控訴人の
生命に危害を加えるか,又はその他の方法で被控訴人に害を与えることを表明
したと理解される表現がある。しかしながら,これらの発言は,字句自体は重
大な内容を含むものの,会員に公開された仮想空間において,会員の誰もが知
ることのできる事情の下においてされただけに,かえって,控訴人Aが,被控
訴人の生命,財産その他に危害を及ぼす行動に現実に及ぶ意思を有してはいな
いことが容易に了解されるというべきである。実際にも,上記発言は,先に認
定した本件についての事情,上記各発言がされるに至った経過及び文脈を踏ま
えて検討すると,内密に提供した控訴人Aに関する個人情報をDから得た被控
訴人の卑劣さ(情報を漏らした者と卑劣さに差異はない。)や,反論によること
なく,異見を排除するなどの本件フォーラムの運営に対する強い怒りや非難を
表現する趣旨を強調したものと認められる。
被控訴人においても,従前の発言を通じて,意見を異にしてはいたものの,
控訴人Aがフェミニズムという思想に関して積極的に発言する知性を備えた人
物であることを知り,また,個人情報を得,控訴人Aがニューズウィーク誌に
おいて働いた経歴を持ち,大学の講師を務めている者であることも知っていた
と認められる。
上記発言は,前記のとおり,被控訴人が本件フォーラムへのアクセスや発言
をしなくなった後にされており,被控訴人がこれらの発言がされた事実を知っ
ていたかどうかについても疑問があるが,この点を措いても,前記の本件の事
情の下においては,被控訴人が発言内容のような危害を控訴人Aから受けるか
も知れないという危惧を抱く事情もないというべきで,脅迫には当たらない。
415
6.調査結果のまとめ
(平成13年9月5日東京高裁判決、本書5.1.5参照)
カ.管理者の義務
(ア)削除義務を限定した例
大学におけるコンピューターネットワークのように、ネットワーク管理者が
インターネットで外部に流される個々の情報の内容につき一般的に指揮命令を
する権限を有しない場合においては、情報の内容についてはその作成主体が責
任を負うのが当然のことであるが、それでもなお、ネットワーク管理者は情報
の削除権限を有する。
本件の教養部システム内において情報教育担当教員が有する社会通念上許さ
れない内容の公開情報の削除権限も、被害者保護のために認められたものとい
うよりは、教養部システム(ひいては本システム)を維持するという都立大構
成員全体の利益のために認められているものというべきである。
したがって、都立大職員である情報教育担当教員が社会通念上許されない内
容の公開情報の削除権限を有することからただちに情報担当教員が原告らに対
する関係において本件文書の削除義務を負うという結論を導き出すことはでき
ない。
ネットワークの管理者が名誉毀損文書が発信されていることを現実に発生し
た事実であると認識した場合においても、その発信を妨げるべき義務を被害者
に対する関係においても負うのは、名誉毀損文書に該当すること、加害行為の
態様が甚だしく悪質であること及び被害の程度も甚大であることなどが一見し
て明白であるような極めて例外的な場合に限られる。(平成11年9月24日
東京地裁判決、本書5.1.3参照)。
(イ)削除義務違反がなかったと認めた例
誹謗中傷等の問題発言は,標的とされた者から当該発言をした者に対する民
事上の不法行為責任の追及又は刑事責任の追及により,本来解決されるべきも
のである。
誹謗中傷等の問題発言は,議論の深化,進展に寄与することがないばかりか,
これを阻害し,標的とされた者やこれを読む者を一様に不快にするのみで,こ
れが削除されることによる発言者の被害等はほとんど生じない。
以上の諸事情を総合考慮すると,本件のような電話回線及び主宰会社のホス
トコンピュータを通じてする通信の手段による意見や情報の交換の仕組みにお
いては,会員による誹謗中傷等の問題発言については,フォーラムの円滑な運
営及び管理というシスオペの契約上託された権限を行使する上で必要であり,
標的とされた者がフォーラムにおいて自己を守るための有効な救済手段を有し
416
6.調査結果のまとめ
ておらず,会員等からの指摘等に基づき対策を講じても,なお奏功しない等一
定の場合,シスオペは,フォーラムの運営及び管理上,運営契約に基づいて当
該発言を削除する権限を有するにとどまらず,これを削除すべき条理上の義務
を負うと解するのが相当である。
控訴人Bは,削除を相当とすると判断される発言についても,従前のように
直ちに削除することはせず,議論の積み重ねにより発言の質を高めるとの考え
に従って本件フォーラムを運営してきており,このこと自体は,思想について
議論することを目的とする本件フォーラムの性質を考慮すると,運営方法とし
て不当なものとすることはできない。
控訴人Bは,会員からの指摘又は自らの判断によれば,削除を相当とする本
件発言について,遅滞なく控訴人Aに注意を喚起した他,被控訴人から削除等
の措置を求められた際には,対象を明示すべきこと,対象が明示され,控訴人
ニフティも削除を相当と判断した際は削除すること,削除が被控訴人の要望に
よる旨を明示することを告げて削除の措置を講じる手順について了解を求め,
被控訴人が受け入れず,削除するには至らなかったものの,その後,被控訴人
訴訟代理人から削除要求がされて削除し,訴訟の提起を受け,新たに明示され
た発言についても削除の措置を講じており,この間の経過を考慮すると,控訴
人Bの削除に至るまでの行動について,権限の行使が許容限度を超えて遅滞し
たと認めることはできない。(平成13年9月5日東京高裁判決、本書5.1.
5参照)
(ウ)匿名による発言の誘引者としての責任
本件掲示板は、匿名で利用することが可能であり、その匿名性のゆえに規範
意識の鈍磨した者によって無責任に他人の権利を侵害する発言が書き込まれる
危険性が少なからずある。そして、本件掲示板では、そのような発言によって
被害を受けた者がその発言者を特定してその責任を追及することは事実上不可
能になっており、本件掲示板に書き込まれた発言を削除し得るのは、本件掲示
板を開設し、これを管理運営する控訴人のみであるというのである。このよう
な諸事情を勘案すると、匿名性という本件掲示板の特性を標榜して匿名による
発言を誘引している控訴人には、利用者に注意を喚起するなどして本件掲示板
に他人の権利を侵害する発言が書き込まれないようにするとともに、そのよう
な発言が書き込まれたときには、被害者の被害が拡大しないようにするため直
ちにこれを削除する義務がある。
(平成14年12月25日東京高裁判決。本書
の5.1.8)
(エ)匿名掲示板における削除システム
417
6.調査結果のまとめ
本件掲示板にも、不適切な発言を削除するシステムが一応設けられているが、
前記のとおり、これは、削除の基準があいまいである上、削除人もボランティ
アであって不適切な発言が削除されるか否かは予測が困難であり、しかも、控
訴人が設けたルールに従わなければ削除が実行されないなど、被害者の救済手
段としては極めて不十分なものである。現に、被控訴人は、本件掲示板に本件
各発言の削除を求めたが、削除してもらえず、本件訴訟に至ってもなお削除が
されていない。したがって、このような削除のシステムがあるからといって、
控訴人の責任が左右されるものではない。
(平成14年12月25日東京高裁判
決。本書の5.1.8)
(オ)無償の掲示板(危険責任)
控訴人は、本件掲示板を利用する第三者との間で特別の契約関係は結んでお
らず、対価の支払も受けていないが、これによって控訴人の責任は左右されな
い。無責任な第三者の発言を誘引することによって他人に被害が発生する危険
があり、被害者自らが発言者に対して被害回復の措置を講じ得ないような本件
掲示板を開設し、管理運営している以上、その開設者たる控訴人自身が被害の
発生を防止すべき責任を負うのはやむを得ないことというべきであるからであ
る。(平成14年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.8)
キ.違法性阻却事由
(ア)違法性阻却事由が認められる場合
疑惑の真偽は、多数の PC‑VAN 会員の公共の利害にかかわるものというべきで
ある。そして、原告と面識もなく、数回程度 OLT において会話を交わしたこと
があるにすぎない被告が、私怨を晴らし、あるいは個人的利益を図るなどする
ために本件掲示行為に及んだというような事情はうかがわれないから、被告は
専ら公益を図る目的をもって本件掲示行為に及んだものと認めるのが相当であ
る。さらに、原告が、AI 出版の所有する THB*****の ID を入手し、これを用い
て OLT を利用したことについて AI 出版の承諾を得ていないことは明らかである
上、AI 出版及び右近が電子掲示板に前記認定のような掲示をしていたことや、
この ID の入手経緯に関する原告の前記弁明はその内容が極めて不自然かつ不合
理なものであることなどを考慮すると、これらを読んだ被告において、原告が
この ID を不正使用したことが真実であると信じるにつき相当な理由があった。
(平成9年12月22日東京地裁判決、本書5.1.1参照)
(イ)侮辱的発言について違法性阻却事由が認められる場合
本件発言は,原告を精神的文盲であると指摘し,原告に対し,文字が読めて
418
6.調査結果のまとめ
いるか確認する内容であるから,本件発言それ自体は,原告に対する侮辱的表
現であると認められる。
しかし,本件発言は, 「他人の肩書きをあげつらっておいて,自分は何者な
のか一切話せない人の言うことは信用しても無駄だけど。悔しかったら言える
もんならちゃんと言ってご覧なさい。 『神名さん=帰国子女でよく日本語を知
らない主婦』に一票」との原告の発言に対するコメントであり, 原告の前記挑
発的な発言に対する反論としては相当な言論行使の範囲内であると認められる
から,違法性が阻却されているというべきである。
更に,原告は,本件発言に対して, 「ちょっと留守にするといい加減なこと
ばかりほざいて,大変な人だな」とコメントするなどしていることが認められ,
必要かつ十分な反論をしており,本件発言により,原告の社会的評価は低下し
ていないと解するのが相当である。(平成13年8月27日東京地裁判決、本
書5.1.4参照)
原告の発言自体,神名に対して日本語をよく知らない主婦であると指摘する
など侮辱的な表現が用いられていること,本件発言の直前に,原告は,神名が
原告の間違いを指摘したことに関し, 「『小中学校で児童・生徒の苛めの対象
となっている憂さをネットで晴らす,変態的国語教師』みたいで私は嫌ですね。
そういう変態よりは,きっぱり個人の趣味として社会的責任をもった上で,S
Mやったり全員合意の上でスワッピングでもしている方々の方が,変態度は遙
かに低いと私は思います(^^)v。ところで,他人の経歴肩書きをあげつらうだけ
あげつらう神名さん,貴方のご職業は名乗れないような恥ずかしいものなんだ
ね(^^)v。だから言えないんだよね。言える人に焼き餅を焼くんだよね。神名さ
んてかわいそう(;̲;)」と発言しており, その発言内容は過激かつ神名に対す
る著しい侮辱表現であると認められる。本件発言は,この原告発言に対する対
抗言論として発言されているものと推認することができ,原告発言が著しい侮
辱発言である以上,ある程度,神名の原告に対する表現が過激になっても許さ
れると解され,本件発言の内容は,許容された範囲内の表現であるから違法性
が阻却されている。(平成13年8月27日東京地裁判決、本書5.1.4参
照)
(ウ)違法性阻却事由が認められない場合
本件文書は、対立当事者の一方からの相手方を非難する目的の文書の域を出
ないものというほかはなく、公益を図る目的で本件ホームページに掲載された
ものとは到底いえない。(平成11年9月24日東京地裁判決、本書5.1.3
参照)。
419
6.調査結果のまとめ
(エ)匿名掲示板における違法性阻却事由の立証責任
本件掲示板における匿名の者の発言によって名誉を毀損された被害者として
は、本件掲示板の匿名の発言者を特定して責任を追及することが事実上不可能
であること、控訴人は、単に第三者に発言の場を提供する者ではなく、電子掲
示板を開設して、管理運営していることから、控訴人は名誉毀損発言について
削除義務を負うものであり、控訴人が発言者そのものでないからといって、被
害者側が発言の公共性、目的の公益性及び内容の真実性が存在しないことまで
主張立証しなければならないとは解されない。
したがって、本件において、控訴人が、本件各発言の公共性、目的の公益性、
内容の真実性が明らかではないことを理由に、削除義務の負担を免れることは
できない。(平成14年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.8)
(オ)プロバイダ責任制限法と違法性阻却事由
控訴人は、通知書、本件訴状、請求の趣旨訂正申立書等により、本件スレッ
ドにおいて被控訴人らの名誉を毀損する本件各名誉毀損発言が書き込まれたこ
とを知ったのであり、その各発言の内容から被控訴人らの名誉が侵害されてい
ることを認識し、又は認識し得たというべきであるから、同法3条1項の趣旨
に照らしても、これにより損害賠償責任を免れる場合には当たらない。(平成1
4年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.8)
ク.表現の自由と匿名掲示板
匿名の者の発言が正当な理由なく他人の名誉を毀損した場合に、被害者が損
害賠償等を求めることは当然許されることであり、このことが表現の自由の侵
害となるものではない。
(平成14年12月25日東京高裁判決。本書の5.1.
8)
ケ.損害の額の算定
(1)閲覧者が少ないウェブページ
実際に本件文書を閲覧した者の数はごくわずかにとどまるものと認められる
こと、本件文書が掲載されたページは平成10年10月15日に閉鎖されて一
般人が本件文書を閲覧できなくなり実質的に本件文書が削除されたと同様の状
態になっていること、本件が学生の自治活動家どうしの自治活動の内容をめぐ
る争いであり、両者間においては日常的に相手方を非難する立看板やビラ等の
応酬がされ、実力による小競り合いやもみ合い等も生じていたことなどに照ら
すと、本件文書の掲載行為によって原告らに生じた損害は比較的軽微なものと
いうべきである。(平成11年9月24日東京地裁判決、本書5.1.3参照)
。
420
6.調査結果のまとめ
(2)フォーラムの場合
不法行為となる本件各発言の内容,本件フォーラムに書き込まれた期間,態
様は執拗で,被控訴人個人に対する攻撃とも評価できること,会員が上記各発
言を読むことが可能であった期間,本件フォーラムの会員数(控訴人Bがシス
オペに就任した当時,6000人程度であったが,実際にアクセスする会員は
少ない状態にあった。(原審控訴人B本人))のほか,本件に顕れた諸般の事情
を考慮すると,控訴人Aの名誉毀損及び侮辱により被控訴人の被った精神的苦
痛の慰謝料としては,40万円が相当である。
(平成13年9月5日東京高裁判
決、本書5.1.5参照)
421
6.調査結果のまとめ
6.2.2
著作権関係
(1)著作権関係判例とプロバイダ責任制限法
ア.ファイルローグ事件の中間判決
既に述べたように、ファイルローグ事件においては、中央の情報管理
サーバにより認証機能とファイル検索機能を提供し、ピア・ツー・ピア
技術を用いて、当該サーバにアクセスしたユーザのパソコン間で、直接
ファイルの送受信を行うことを可能とさせるサービス(以下「本件サー
ビス」という)の運用者(以下「Y」という)に対すプロバイダ責任制
限法の適用の有無が、その中間判決で判断された。本件では、Yは中間
判 決 に 先 立 つ 平 成 14年 4 月 の 仮 処 分 決 定 以 降 、 サ ー ビ ス の 提 供 を 停 止 し
ていることから、裁判所は、プロバイダ責任制限法が「施行前の行為に
つ い て も 適 用 さ れ る か ど う か の 判 断 は さ て お き 」と し な が ら も 、Y は「 記
録媒体に情報を記録した者」である「情報の発信者」に該当し、同法3
条1項ただし書により、3条1項本文の適用を受けず「その責任を制限
す る こ と は で き な い 。 」 と 判 断 し た ( 東 京 地 裁 平 成 15年 1 月 29日 。 以 下
「本判決」という)。
イ.情報の発信者とプロバイダ
本判決は、MP3ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置し、Yサ
ーバに接続して、当該ファイルを送信可能化し、送信した本サービスの
利用者(送信者)の行為を著作権侵害行為と認めつつ、直接、かかるM
P3ファイルをパソコンに蔵置したものではないYを「記録媒体に情報
を記録した者」と認定したものである。本判決は、プロバイダ責任制限
法の適用の有無の判断に先立ち、Yの著作権侵害による損害賠償責任に
ついて判断し、Yを規範的に著作権侵害行為の主体であると判断してい
るものであるので、Yが情報の発信者であるとの判断も、かかる規範的
判断の延長線上になされたものと思われる。しかし、プロバイダ責任制
限法は、著作権との関係においては、「不特定の者によって受信される
ことを目的とする特定電気通信」の用に供される電気通信設備を用いて
他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供す
る 者 」( 以 下「 プ ロ バ イ ダ 」と い う )が 、著 作 権 侵 害 に 用 い ら れ た 道 具 ・
設備またはサービスの提供者であることのゆえに認められることのある
損害賠償責任について、ー定の条件を必要とすることにより(必ずしも
十分条件ではない)その責任の範囲を明確にすることが期待されるもの
422
6.調査結果のまとめ
であることからすると、本判決が「特定電気通信設備」を「送信者のパ
ソコンとー体となったYサーバ」とし、その記録媒体の範囲を送信者の
共有フォルダにまで拡大して解釈したうえで、Yを「情報発信者」であ
ると規範的に解釈したことは、「違法な情報を流通においた者」と「道
具・設備またはサービスの提供者」との境界を曖昧にし、プロバイダの
責任の範囲を不明確にすることにつながるのではないかと疑問が残る
(本件において、プロバイダ責任制限法の適用を認めなかったことの結
論は妥当であるとしても)。
この点、ナップスター判決では、DMCAは代位責任からの免責を意
図していたとの委員会報告書の記載がある旨述べられていること、また
同判決において、DMCAは寄与侵害者に適用されるか否かという点が
争点になったことは興味深い。なお、本判決は「特定電気通信設備」を
「送信者のパソコンとー体となったYサーバ」と解したこともあって、
違法な情報の流通、つまりMP3ファイル自体は、Yサーバに記録も、
入力もされないことが、プロバイダ責任制限法の適用においてどう影響
を及ぼすのかについては、ナップスター事件のようには明確に判断され
なかった。
(2)著作権関連判例とガイドライン
ア.著作権侵害に対するプロバイダの対応とガイドライン
「プロバイダ責任制限法著作権関係ガイドライン」は、「特定電気通
信による著作権及び著作隣接権(以下「著作権等」という)を侵害する
情報の流通に関して、プロバイダ等が責任を負わない場合を定めるプロ
バイダ責任制限法3条の趣旨を踏まえ、情報発信者、著作権者等、プロ
バイダ等のそれぞれが置かれた立場等を考慮しつつ、著作権者等及びプ
ロバイダ等の行動基準を明確化するものである。これにより、関係者の
予見可能性を高め、特定電気通信による著作権等を侵害する情報の流通
に対するプロバイダ等による迅速かつ適切な対応を促進し、もってイン
ターネットの円滑かつ健全な利用を促進することを目的」(「プロバイ
ダ 責 任 制 限 法 − 逐 条 解 説 と ガ イ ド ラ イ ン − 143 頁 ) と し て 作 成 さ れ 、 施
行されたものである。そしてその施行以来、現在までのところ、ガイド
ラインは、著作権侵害情報が流通した場合のプロバイダの行動基準を示
すものとして、プロバイダ側からも、また権利者側からも一定の評価を
得ることができたのではないかと思われる。
423
6.調査結果のまとめ
イ.判例との関係
著作権関連判例との関係でガイドラインを検証するということになる
と、日本の判例で考慮すべきものは、今のところ上記ファイルローグ事
件しか見当たらない。そして、ファイルローグ事件では、既に述べたよ
うに、ファイルローグサービスの運用者としてのYは「著作権侵害行為
の主体」であり、「情報の発信者」であると判断された。従って、そも
そもYがプロバイダ責任制限法の適用される関係役務提供者に該当する
かどうかはともかくとして、違法な情報の流通に対するプロバイダの適
切な対応を促すため、プロバイダに「相当な理由」があったと認められ
る場合の明確化に努めるために「権利者からの書面による通知」の要件
と、それに対するプロバイダの行動基準を具体的に定めようとするガイ
ドラインへの影響という観点からは、特筆すべき点はないのではないか
と思われる。
しかし、アメリカの判例を考慮すると、プロバイダが著作権侵害で訴
えられた初めてのケースであるプレイボーイ対フレナ事件を皮切りに、
セガ対マフィア事件、そして初めて明確に直接侵害者であるユーザの責
任とプロバイダの責任とを分けて、プロバイダの責任の要件を検証した
ネットコム事件、そのロジックの分析を踏まえて、それを特定のケース
に具体化させたナップスター事件と、インターネットというメディアや
プロバイダ事業の特質に則して、違法な行為とそうでない行為との境界
を見定めようとしてきた判例の底に流れるロジックの展開を追うことが
できる。そして、そうした判例の展開により認められてきた、著作権侵
害情報に対するプロバイダの責任の要件や、その前提として、権利者側
に要請された対応を見ると、まさにガイドラインが規定しようと努力し
てきたところとー致するように思われる。即ち、プロバイダに「相当な
理由」があったとされるための要件の明確化である。そしてこの点、ネ
ットコム判決が「オペレータが侵害行為について『十分な認識』を持っ
ていたとするためには、著作権者は著作権侵害であり得ることを示すた
めに必要な文書を提出しなければならない」とし、「ネットコムが容易
に損害の拡大を防ぐ手段を採り得たとすればそれにもかかわらず、侵害
行為を知りながら頒布行為を幇助し続けたこと」は、「実質的に侵害行
為に寄与した」ことにあたると判断したこと。そしてナップスター判決
が「ネットコム判決はオンライン・サービス・プロバイダは、誹謗・中
傷の資料があるかもしれないといって、全てのハイパーリンクを調べる
ことはしないし、またできないとしたコンピュサーブ判決を踏まえたも
のであって」、「本判決の分析は、オンライン・サービスにおいて、コ
424
6.調査結果のまとめ
ンピュータ・システム・オペレータに寄与侵害の責任を負わせるために
は、特定の侵害行為を実際に知っていたことの証拠が必要であることを
示唆した、ネットコム判決に類似するものであり」、「我々はコンピュ
ータ・システム・オペレータがそのシステム上で、特定の侵害資料が利
用可能とされていることを知りながら、それをシステムから除外するこ
と を 怠 っ た 場 合 に は 、か か る オ ペ レ ー タ は 、直 接 侵 害 が あ る こ と を 知 り 、
これに寄与しているものであることに賛成する。
逆に、侵害行為を特定する特定の情報がない場合には、単にそのシス
テムの仕組みによって著作権のある資料の交換が行われたことを理由と
して、コンピュータ・システム・オペレータに寄与侵害の責任を負わせ
ることはできない。」「単にコンピュータ・ネットワークが侵害に使用
され得ることのみを理由としてこれを禁止することは、ソニー判決に違
反し、侵害使用とは関係のない行為を潜在的に制限することになると考
える。」と述べていることが注目される。
従って、今後も、判例の動向を注視しつつも、健全な実務感覚と忌憚
のない活発な議論を通じて、様々な場合に則した「相当な理由」と行動
基準の明確化の努力が望まれるところと思われる。
425
別
紙
月
日
[アンケート用紙Ⅰ]
記入日
年
プロバイダ責任制限法に係るアンケート
会社名:
担当者名:
部署名:
E‑mail:
電話番号:
*平成14年5月27日〜平成14年10月31日までに対応したプロバイダ責任制限法に係る権
利侵害の件数について記入願います。
1.プライバシー侵害関係(氏名、住所など個人情報の掲載、肖像権等)
申 立 情報表示
者
場所
被害主張者の
依頼内容
当
送信防止措置請求
被
害
主
張
者
∧
代
理
人
弁
護
士
含
む
∨
社
対
①送信防止措置を採った:
・ガイドライン書式有:
件
ウェブペ ・ガイドライン書式無:
ージ
件
応
件
②送信防止措置を採らなかった:
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
件
件
①・②のうち、発信者へ照会した:
件
発信者情報開示請求
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
送信防止措置請求
①送信防止措置を採った:
・ガイドライン書式有:
件
電子掲示 ・ガイドライン書式無:
板
件
件
②送信防止措置を採らなかった:
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
件
件
(3)掲示板管理者に送信防止依頼した:
①・②のうち、発信者へ照会した:
件
件
発信者情報開示請求
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
①送信防止措置を採った:
送信防止措置請求
・ガイドライン書式有:
その他
( P 2 P ・ガイドライン書式無:
ファイル
共有等)
件
件
②送信防止措置を採らなかった:
件
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
①・②のうち、発信者へ照会した:
発信者情報開示請求
第
三
者
の
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
プライバシー侵害に係る第三者か
らの申立件数の合計:
件
プライバシー 侵 害 関 係 合 計
:
427
件
件
件
件
別
紙
2.名誉毀損関係(個人の誹謗中傷、法人の名誉又は信用毀損等)
申 立 情報表示
者
場所
被害主張者の
依頼内容
当
送信防止措置請求
被
害
主
張
者
∧
代
理
人
弁
護
士
含
む
∨
ウェブペ ・ガイドライン書式有:
・ガイドライン書式無:
ージ
社
対
①送信防止措置を採った:
件
件
応
件
②送信防止措置を採らなかった:
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
件
件
①・②のうち、発信者へ照会した:
件
発信者情報開示請求
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
送信防止措置請求
電子掲示 ・ガイドライン書式有:
・ガイドライン書式無:
板
①送信防止措置を採った:
件
件
件
②送信防止措置を採らなかった:
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
件
件
(3)掲示板管理者に送信防止依頼した:
①・②のうち、発信者へ照会した:
件
件
発信者情報開示請求
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
送信防止措置請求
・ガイドライン書式有:
その他
( P 2 P ・ガイドライン書式無:
ファイル
共有等)
①送信防止措置を採った:
件
件
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
①・②のうち、発信者へ照会した:
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
名誉毀損に係る第三者からの申立
件数の合計:
件
名 誉 毀 損 関 係 合 計
件
②送信防止措置を採らなかった:
発信者情報開示請求
第
三
者
の
:
件
428
件
件
件
別
紙
3.著作権侵害関係(著作権、商標権、特許権等)
申 立 情報表示
者
場所
被害主張者の
依頼内容
当
送信防止措置請求
・ガイドライン書式有:
被
害
主
張
者
∧
代
理
人
弁
護
士
含
む
∨
ウェブペ
ージ
・ガイドライン書式無:
の
対
①送信防止措置を採った:
件
うち
件
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
件
件
応
②送信防止措置を採らなかった:
うち 信頼性確認団体
からの請求:
社
件
件
①・②のうち、発信者へ照会した:
件
発信者情報開示請求
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
送信防止措置請求
・ガイドライン書式有:
電子掲示
板
①送信防止措置を採った:
件
②送信防止措置を採らなかった:
うち 信頼性確認団体
からの請求:
・ガイドライン書式無:
件
うち
件
(1)発信者に送信防止依頼した:
(2)発信者に注意喚起した:
件
件
件
件
(3)掲示板管理者に送信防止依頼した:
①・②のうち、発信者へ照会した:
件
件
発信者情報開示請求
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
送信防止措置請求
・ガイドライン書式有:
①送信防止措置を採った:
件
②送信防止措置を採らなかった:
件
件
うち 信頼性確認団体
うち (1)発信者に送信防止依頼した:
件
その他
(2)発信者に注意喚起した:
件
からの請求:
件
(P2P
件 ①・②のうち、発信者へ照会した:
件
ファイル ・ガイドライン書式無:
共有等)
発信者情報開示請求
第
三
者
・ガイドライン書式有:
件
・ガイドライン書式無:
件
著作権侵害に係る第三者からの申
件
立件数の合計:
著 作 権 侵 害 関 係 合 計
:
件
4.その他の権利侵害
・被害主張者からの申立件数の合計:
・第三者からの申立件数の合計:
件
件
5.総合計
総合計:
件(プライバシー侵害関係+名誉毀損関係+著作権侵害関係+その他権利侵害)
429
別
[アンケート用紙Ⅱ]
プロバイダ責任制限法に係る代表的対応事例( №
紙
)
下表、項番1の権利侵害の種類別に代表例を記入願います(1 事例に本用紙 1 枚使用)。
会社名:
担当者名:
1
2
3
項 目
権利侵害の種類
申立者の依頼内容
被害主張者
発生
した 情報表示場
権利 所の詳細
侵害
状況
発信者
4
部署名:
電話番号:
E‑mail:
プロバイダ責任制限
法の言及/ガイドライン
回
答
□プライバシー侵害関係
□名誉毀損関係
□著作権侵害関係
□その他(
)
□送信防止措置請求
□発信者情報開示請求
□当社会員
□非会員
ウェブページ(□当社開設 □当社会員開設 □他社開設 □他社会員
□当社契約二次プロバイダ開設
□当社契約二次プロバイダ会員開設)
電子掲示板 ( □当社管理 □当社会員管理 □他社管理 □他社会員
□当社契約二次プロバイダ管理
□当社契約二次プロバイダ会員管理)
P2Pファイル交換(□当社会員 PC □他社会員 PC □その他(
))
その他(
)
□当社会員 □当社 □他社会員 □他社 □その他(
)
□当社契約二次プロバイダ会員
□当社契約二次プロバイダ
プロバイダ責任制限法の言及(□有
□無)
ガイドライン書式(□書式に基づいた申出 □書式に基づかない申出)
5
申立内容
発信者への照会(□行った
理由
6
当社の
送信防止
対応
措置要求
( 送 信 防 の対応
止措置請
求の場合
の み 記
入)
発信者への対応(□当社が送信防止措置
□発信者に送信防止依頼
□発信者に注意喚起
□発信者に何の対応も採らず □その他)
理由
対応後の
状況
7
対応に苦慮した点
8
□行わなかった)
検討課題等
(7の解決策、問題点
等について記入)
430