Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis 特 集 財団法人 交通事故総合分析センター INFORMATION イタルダ・インフォメーション 発行者:大堀太千男 発行所: (財)交通事故総合分析センター 発行月:2006年3月 〒102-0083 東京都千代田区麹町6-6 麹町東急ビル5階 2006 No.61 ヘ ル メ ッ ト の あ ご ひ も 、 し っ か り 締 め て ま す か ? 財団 法人 交通事故総合分析センター Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis 2006 No.61 特集 ヘルメットのあごひも、 しっかり締めてますか? 近年、交通事故死者数の低減が進む中で二輪 今回は、ヘルメット脱落の発生する頻度と負 車乗車中の死者数も低下傾向を示しています。 傷への影響、そしてなぜ脱落が起きるのかにつ しかしながらその数は平成 16 年で運転者、同 いて分析した結果を紹介します。実情を知った 乗者合わせて1,313人であり、まだまだ多くの うえで二輪車事故の被害軽減に役立てていただ 人が亡くなっているのが実態です。 きたいと思います。 二輪車の乗員の負傷軽減にはヘルメットが大 きな役割を担っていますが、その着用者率は、 平成16年ではすでに98%を超える高い水準に 達しています。ヘルメットが役に立つことはも う十分に理解されていると言いたいところです が、実はそうとも言えません。ヘルメットを着 用していたにもかかわらず、事故時に脱落させ てしまった人が二輪車乗車中死者の 27 %にの ぼっています。脱落がなければより軽い被害で 済んだ人が少なくないのです。 Contents 1 主な内容 二輪車事故でのヘルメット脱落の実態 1-1 どのくらい多くの脱落が発生しているか? ―脱落の発生割合 1-2 脱落したときの負傷はどうなるか? ―脱落と負傷 1-3 脱落はどんな時に起きるのか? ―脱落事故発生の特徴 2 ヘルメットのタイプによる脱落状況と脱落原因 2-1 脱落はどんなヘルメットタイプで発生しているか? 2-2 ヘルメットのかぶり方によって脱落状況がどのように違うか? 2-3 どんな原因でヘルメットは脱落するのか? 3 2 おわりに No.61 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] ITARDA INFORMATION 1 Section 二輪車事故でのヘルメット脱落の実態 1-1 どのくらい多くの脱落が発生しているか? ― 脱落の発生割合 平成 16 年の二輪車乗員(運転者、同乗者) の死傷(死亡、重軽傷)者について、ヘルメッ ト着用の状況がどうであったかを図1に示しま また、自動二輪よりも原付の方が「脱落あり」 の割合が高いという特徴があります。 図1 死傷者のヘルメット着用状況(二輪車乗車中の死傷者) 脱落不明 0.7% 非着用 1.4% (2,455人) 脱落あり 6.9% す。 「脱落なし」が約90%でヘルメット着用者 率は大変高く、 「非着用」の人は1.4%と少ない ことがわかります。ところが、せっかく着用し ていながら事故によって脱落させてしまった人 (「脱落あり」)が、その5倍にあたる6.9%も見 られます。 さらに、対象を死者だけに限ってみると(図 着用不明 0.4% 基準不適合 0.5% (12,142人) 脱落なし 90.1% (157,571人) 2)、「脱落あり」の人は、左のグラフに示す原 付で 33.0 %、右のグラフに示す自動二輪で 22.0%であり、それぞれ死者の3人に1人、4.5 人に1人という大変高い割合となっています。 図2 死者のヘルメット着用状況 基準不適合 2.0% 着用不明 0.8% 脱落不明 3.4% 基準不適合 1.6% 脱落不明 1.8% 非着用 5.6% 非着用 7.5% 着用不明 0.6% (38人) (48人) 脱落なし 53.3% 脱落あり 33.0% (341人) 脱落あり 22.0% (148人) 脱落なし 68.4% (460人) (211人) 原付 自動二輪 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] No.61 3 図3のように死者や重傷者が発生するような 重大な事故ほど「脱落あり」の人の割合は多く なっています。これは、重大な事故ほど衝撃が 大きいため脱落が発生しやすいことと、「脱落 あり」の場合の方がより重い負傷を被りやすい ため重大な事故になりやすいこと、の2つの理 由が考えられます。また、平成16年の「脱落あ り」の人数は、死者359人ですが、重傷者で約 2,000人、軽傷者で約9,000人を数え、ヘルメッ ト脱落が重大な事故だけに発生する現象ではな いことがわかります。 図3 負傷程度別のヘルメット着用状況 脱落あり 脱落なし 非着用 基準不適合 脱落不明 その他 (平成16年) 脱落なし 61.0% 死者 脱落あり 27.3% 脱落なし 85.3% 重傷者 脱落あり 9.3% 脱落なし 91.2% 軽傷者 0 20 40 1-2 脱落したときの負傷はどうなるか? ― 脱落と負傷 二輪車事故の乗員の死亡率を「脱落なし」 「脱落あり」 「非着用」の場合に分けて見てみま 脱落あり 6.4% 60 80 100% 。平成7年から16年までの10年間の した(図4) データを用いています。 「死亡率」とは、死傷者のうちに占める死者 の割合をいいます。原付、自動二輪とも「脱落 図4 ヘルメット脱落有無と死亡率 脱落なし 脱落あり 非着用 (平成7∼16年) 20 3.0倍 18 16 死 亡 率 ︵ % ︶ 14 12 4.6倍 10 15.2% 8 12.8% 6 4 6.4% 2 0 原付 4 4.8% 5.0% 1.4% No.61 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] 自動二輪 ITARDA INFORMATION あり」の死亡率が最も高く、ヘルメット脱落事 故の危険性が大変高いものであることがうかが えます。「脱落あり」の死亡率が「非着用」よ りも高い理由は特定できていませんが、「脱落 あり」は「非着用」に匹敵する高い死亡率とな ると理解してください。さらに、「脱落あり」 の場合の死亡率を「脱落なし」と比べると、原 付で4.6倍、自動二輪で3.0倍にもなっていて、 ヘルメットの保護効果が高いことがあらためて わかります。 図5は原付に乗車していた人の最大負傷部位 を示しています。左のグラフに示す「死者」で は「頭部」が最も多く、その割合は「脱落なし」 で43.5%ですが、 「脱落あり」の場合には61.6% と高くなっています。これは「非着用」の 68.1%に近い値です。このように、 「脱落あり」 の場合はヘルメットによる頭部保護効果をほと んど期待できません。右のグラフに示す「重傷 者」では、 「脱落なし」では頭部負傷は6.7%と 少ないのですが、 「脱落あり」の場合には25.6% と約4倍にもなり、やはり「非着用」の31.9% に近い値となっています。重傷事故においても ヘルメットの保護効果が大きく発揮されている ことがわかります。 図5 原付のヘルメット着用状況と負傷部位 全損 頭部 顔部 頸部 胴部 腕部 腰脚部 その他 頭部6.7% 脱落なし 脱落なし 頭部43.5% 脱落あり 頭部61.6% 非着用 頭部68.1% 0 20 40 脱落あり 頭部25.6% 非着用 60 死者 80 100 % 頭部31.9% 0 20 40 60 80 100 % 重傷者 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] No.61 5 ここでは、原付について紹介しましたが、自 動二輪についてもまったく同じような状況が見 られます。 った人の割合を「脱落率」としています。「脱 落あり」の人数は発生件数の多い事故類型ほど 多くなっていますが、「脱落率」つまり脱落の 起こりやすさには大きな差が見られません。自 動二輪の単独事故の脱落率だけが33.6%とやや 高いのは、走行速度が高い事故が多く含まれる ためと考えられます。 二輪車の衝突した部位別に見た脱落状況は図 7のようになっています。 「脱落あり」の人数は 前面を衝突させた場合に最も多くなっています が、脱落率は原付と自動二輪の後面(被追突) 1-3 脱落はどんな時に起きるのか? ― 脱落事故発生の特徴 二輪車事故での乗員の死者数をヘルメットの 脱落有無で分けて見たものが図6です。データ は平成7年から16年までの10年分を用いていま す。 ヘルメットを着用していた人のうち脱落があ 図6 事故類型別の脱落発生状況 5,000 50 40.7 40.3 40.6 42.2 脱落あり 40 1,000 0 右直 単独 その他 40 脱落率 33.6 30.7 3,000 脱 落 31.2 30.2 29.0 30 率 2,000 ︵ % 20 ︶ 10 1,000 10 0 0 ︵ % 20 ︶ 脱落率 出会い頭 死 者 数 ︵ 人 ︶ 30 率 脱落あり 2,000 4,000 脱 落 脱落なし 3,000 50 脱落なし 41.1 4,000 死 者 数 ︵ 人 ︶ 5,000 全事故 0 出会い頭 右直 原付 単独 その他 全事故 自動二輪 図7 二輪車の衝突部位別の脱落発生状況 2,000 1,800 45.7 40.9 41.8 脱落なし 脱落あり 脱 20 800 ︵ % ︶ 1,400 死 者 数 1,200 ︵ 人 ︶ 600 10 400 40 34.0 脱 29.2 28.7 30 落 率 1,000 脱落なし 800 脱落あり 600 脱落率 20 ︵ % ︶ 左側面 右側面 10 400 200 200 0 0 前面 右側面 左側面 後面 原付 6 37.9 1,600 30 落 率 脱落率 1,000 前 面 1,800 40 1,400 死 者 数 1,200 50 2,000 41.3 1,600 ︵ 人 ︶ 50 No.61 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] 0 0 前面 右側面 左側面 自動二輪 後面 後 面 ITARDA INFORMATION で最も高くなっています。この傾向とヘルメッ ト脱落との因果関係はまだ明らかではありませ ん。これは今後のヘルメット脱落防止を考える 上で重要な研究課題といえます。 次に、二輪車の事故時の速度*とヘルメット 脱落との関係を死傷者の場合で見てみます(図 8) 。原付および自動二輪は、ともに速度が高く なると脱落率も高くなる傾向があります。注目 すべきことは、30km/h以下の速度域では速度 に関係なく、原付では9%程度、自動二輪では 7%程度の脱落率が見られる点です。これは、 比較的弱い衝撃でも脱落してしまうヘルメット があることや脱落しやすいヘルメットのかぶり 方をしている人がいるからではないかと推測で きます。さらに、もうひとつ注目すべきことは 自動二輪の場合、事故時の速度が90km/hを超 えても、ヘルメットの脱落率が上昇していない 点です。この理由については後ほど(2.3にお いて)説明します。 *「事故時の速度」=運転者が事故の危険を感じた時の速度で代 用しています。 図8 事故時の速度とヘルメット脱落の関係 50 50 45 死 傷 者 数 ︵ 万 人 ︶ 45 脱落なし 40 脱落あり 40 35 脱落率 35 30 30 25 25 20 20 15 15 10 10 5 5 0 0 停 止 中 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 10 20 30 40 50 60 60km/h以上の詳細 拡大図 脱 落 率 ︵ % ︶ 人 4,000 3,000 2,000 1,000 0 ∼ 70 60 超 70 超 事故時の速度(km/h) 原付 20 50 18 45 脱落なし 16 死 傷 者 数 ︵ 万 人 ︶ 脱落あり 14 脱落率 90km/h以上の詳細 拡大図 40 35 12 30 10 25 8 20 6 15 4 10 2 5 0 0 脱 落 率 ︵ % ︶ 人 2,000 1,500 1,000 500 0 ∼ ∼ ∼ 90 100 120 120 超 停 ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ ∼ 120 止 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 120 超 中 事故時の速度(km/h) 自動二輪 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] No.61 7 2 Section ヘルメットのタイプによる脱落状況と脱落原因 ここまでは、ヘルメットの脱落の状況を発生頻度と負傷程度の面から見てきました。次は、脱落 の原因についてヘルメットのタイプと着用の仕方の面から見ていきましょう。 平成5年から16年までに茨城県つくば地区において(財)交通事故総合分析センターが調査した 二輪車事故例426件のうち、ヘルメット脱落の有無が明らかになっている368件のヘルメットについ て分析します。 2-1 脱落はどんなヘルメットタイプで発生し ているか? 二輪車乗車用のヘルメットは図9に示す4タ イプに分類されています。そのなかでも、HA (ハーフ)形は用途が125cc以下に限定されてい ます。 分析対象とした368件のうち64件でヘルメッ トの脱落が発生していました。脱落発生件数と 脱落率をヘルメットのタイプ別に見ると図10 のようになっています。「その他」に分類され 図9 ヘルメットのタイプと特徴 HA:ハーフ形 通称“オワン形”、“半キャップ形”とも呼ばれ、保護範囲が耳部を覆っていない構造で、排気量125cc以下 の原付自転車乗車時の着用を対象としている。 TQ:スリークォーターズ形 通称“セミジェット形”とも呼ばれ、帽体の保護範囲がハーフ形に比べて耳部下方まで延長されている。 OF:オープンフェース形 通称“ジェット形”とも呼ばれ、帽体の保護範囲が、スリークォーターズ形に比べて側部のさらに下方まで延 長されている。 FF:フルフェース形 帽体が顎部分も含めて一体構造となっており、一般的には窓開口部に目の保護を目的としたフェースシールド が装着されている。 8 No.61 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] ITARDA INFORMATION たヘルメットの場合、件数としては少ないので すが、脱落率が42.9%と非常に高くなっていま す。 「その他」のヘルメットというのは図9の4 タイプ以外の自転車用、工事用および装飾用の ヘルメットであり、いずれも二輪車乗車用とし ては認められていません。正規のヘルメットの 中ではHA形が30.1%と最も高い脱落率となっ ています。 2-2 ヘルメットのかぶり方によって脱落状況 がどのように違うか? 次に、ヘルメットのかぶり方による脱落件数 の違いを、「かぶり方が正常であった」場合と 「あご紐が緩めか締めていなかった」場合とで 見てみます。「かぶり方が正常であった」例は 図11に示す283件ですが、脱落したのはそのう ちの6件(2.1%)とわずかです。ただ、HA形 に集中して4件発生している点は要注意です。 HA形は他のタイプに比べて頭部を覆う範囲が ひも ゆる 少ないため、ヘルメットが動きやすく、さらに その動きやすさはあご紐の締め付け方の影響を 受けやすい特徴があり、人によっては正常に締 めているつもりでも締め付け力が不十分であっ たケースがあると考えられます。 図10 ヘルメットタイプ別の脱落状況(分析対象数368件) 分析対象:368件 42.9 30.1 18.5 7.7 発 生 数 ︵ 件 ︶ 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 11.3 13.1 100 80 60 40 20 0 脱 落 率 ︵ % ︶ 100 80 60 40 20 0 脱 落 率 ︵ % ︶ 106 脱落なし 脱落あり 脱落率 71 65 36 28 22 5 3 HA TQ 16 OF FF 4 3 9 その他 不明 図11 「かぶり方が正常」な場合の脱落状況(分析対象数283件) 分析対象:283件 6.8 発 生 数 ︵ 件 ︶ 110 100 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 0.0 2.9 脱落なし 1.5 0.0 0.0 98 脱落あり 脱落率 65 55 33 1 4 HA TQ 22 0 OF 0 FF 4 1 0 その他 不明 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] No.61 9 「あご紐が緩めか締めていなかった」例は57 。そのうちの47件(82.5%) 件ありました(図12) ものケースで脱落が発生しています。OF(オ ープンフェース)形、 「その他」および「不明」 について件数は少ないのですが、全てのケース で脱落しており脱落率は100%です。HA形の 87.5%、FF(フルフェース)形の66.7%につい ても大変高い率です。 図12 「あご紐が緩めか締めない」場合の脱落状況(分析対象数57件) 100.0 100.0 87.5 100.0 100 80 60 40 20 0 66.7 50.0 分析対象:57件 発 生 数 ︵ 件 ︶ 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 脱 落 率 ︵ % ︶ 脱落なし 脱落あり 脱落率 21 12 1 1 3 HA 2 0 TQ 6 OF FF 2-3 どんな原因でヘルメットは脱落するのか? 脱落した原因を明らかにできた52件につい て、ヘルメットのタイプごとに原因を整理した ものが表1です。主な脱落原因は「あご紐を締 めない」か、あご紐はしていた(緩さ加減は問 わない)が「スッポ抜け」であったことがわか ります。特に「あご紐を締めない」場合にはご く弱い衝撃で脱落が発生すると考えられます。 3 0 その他 8 0 不明 これが5ページの図8で見られた、低い車速で も一定割合の脱落が発生している理由であると 容易に推測できます。脱落の件数が多く見られ るのはHA形とFF形ですが、その様子は両者で 異なります。 HA形では「スッポ抜け」が16件と多く、あ ご紐の締め方が不十分であったことがうかがえ ます。また、「あご紐を締めない」人も多く見 表1 ヘルメットタイプ別の脱落原因 脱落原因 あご紐を締めない スッポ抜け 締結・取付部破損 合計(件) 脱落したヘルメットのタイプ HA TQ OF FF その他 不明 合計 (件) 8 1 2 10 2 6 29 16 0 1 2 0 2 21 1 0 1 0 0 0 2 25 1 4 12 2 8 52 表2 「スッポ抜け」したケースのヘルメット着用の仕方 スッポ抜けしたヘルメットのタイプ HA TQ OF FF その他 不明 合計 (件) あご紐緩め 13 0 0 2 0 2 17 正常な着用 2 0 0 0 0 0 2 着用の仕方 かぶり方不明 合計(件) 1 0 1 0 0 0 2 13 0 1 2 0 2 21 10 No.61 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] ITARDA INFORMATION られます。一方、FF形では大部分が「あご紐 を締めない」ケースであり、その数は10件です。 頭部を最も深く覆うFF形でも、あご紐を締め ていなければ脱落の危険性が高いことを知って おかなければなりません。しかし、図8で見た ように、自動二輪の90km/hを超える速度域で は、速度が高くなっても脱落率は上昇しない傾 向が見られます。これは、ヘルメットの種類が 適正でかぶり方がしっかりしていれば高い速度 でも脱落は防ぎ得ることを示していると考えら れます。 事故が発生した際、乗員の頭部は何らかの物 体に衝突した直後に激しく反発や回転をしま す。その際、ヘルメットを脱がそうとする力が 極めて大きく発生したり、また、あご紐が抜け やすい頭部姿勢となったりするため、脱落の機 会は想像以上に多くあると理解してください。 さらに、「スッポ抜け」のケースについてヘ ルメット着用の仕方を見たのが表2です。「ス ッポ抜け」の原因はほとんどが「緩めのあご紐」 にあります。なお、阿弥陀かぶり*やヘルメッ トのサイズが大き過ぎるなど、ヘルメットの保 持力が不足するケースもスッポ抜けしやすくな ると考えられます。また、HA形では正常に着 用していたとされるケースでも2件の「スッポ 抜け」が見られ、あご紐の締め方に十分な注意 が必要なことは前述したとおりです。 あ み だ 以上の分析から、ヘルメットを着用する際に あご紐をしっかり締めることの重要性が理解で きたことと思います。 なぜあご紐を締めなかったりあご紐を緩めに 締めるのでしょうか。その理由についての事故 当事者からの回答を紹介します。 あご紐を締めないまたは緩めに締める理由 ●あご紐を締めない理由 ・頭の上に載せていれば着用したことになる。 ・締結が面倒。 ・締めると窮屈。 ・いつもの道、速度も出さないから大丈夫。 ・締めなくてもヘルメットの安定感が高い。 (FF形) ●あご紐を緩めに締める理由 ・締めると窮屈。 ・脱ぎかぶりが楽なようにしたい。 結局どの理由にしても、ヘルメット着脱のし やすさや装着感を優先させたり、自分に都合の よい思い込みによって、脱落しやすいかぶり方 に陥っている様子がうかがえます。いざという ときのヘルメットの助けを放棄する理由にして はあまりにも取るに足りない理由だと言わざる を得ません。 *「阿弥陀かぶり」=阿弥陀仏が光背を負っているように、帽子な どを後頭部に傾けてかぶること。 [ヘルメットのあごひも、しっかり締めてますか?] No.61 11 3 Section おわりに 以上の分析で、ヘルメットの脱落は他人事で はないと感じていただけたでしょうか。 「自分はヘルメットが脱落するような大事故 にあうことはないだろう、もし事故にあっても ら脱落することがあります。 頭に載せただけの、しっかり固定されていな いヘルメットでは衝撃が加わったときにヘルメ ットがズレますので、十分な衝撃吸収は期待で ヘルメットは簡単には外れないだろう、さらに、 ヘルメットが外れるとしても最初の一撃からは 頭を守ってくれるだろう」と考えているとした ら、これらすべてに対する答えは「ノー」です。 どのような事故の形態でもヘルメット脱落は 発生するおそれがあります。また、ごく低い衝 突速度でも発生します。 あご紐の締め方が緩ければ、高い確率で脱落 きません。しかも、頭部の衝突が一回で済むと は限りません(ヘルメットの衝撃吸収試験では 同じ場所に2回衝撃を加えることが決められて います) 。 重要なのは、まず、ヘルメットのタイプごと の保護機能をよく理解して最適なタイプを着用 すること。次に、あご紐をしっかり締めること でヘルメットの機能が発揮されると理解し実行 が起こります。特に頭を覆う範囲が少ないヘル メットではその傾向が強く現われます。あご紐 をしていなければFF(フルフェース)形です すること。これらによって、いざというときヘ ルメットが自分を守ってくれるのです。 Institute for Traffic Accident Research and Data Analysis ITARDA INFORMATION イタルダ・インフォメーション 財団法人 交通事故総合分析センター ホームページ http://www.itarda.or.jp Eメール [email protected] 事務局 〒102-0083 東京都千代田区麹町6-6 麹町東急ビル5階 TEL03-3515-2525 FAX03-3515-2519 つくば交通事故調査事務所 〒305-0831 茨城県つくば市西大橋字大窪647 TEL029-855-9021 FAX029-855-9131 このパンフレットは、平成17年用年賀寄附金により作成しました。
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