地学的現象を科学的な見方や考え方でとらえる指導の工夫

沖縄県立総合教育センター
前期長期研修員
第 54 集
研究集録
2013 年9月
〈地学〉
地学的現象を科学的な見方や考え方でとらえる指導の工夫
-固体地球の活動を視覚化した教材活用と探究的な学習活動を通して-
沖縄県立那覇高等学校教諭
宇佐美
賢
Ⅰ テーマ設定の理由
平成 24 年度より実施の「地学基礎」の目標は、「日常生活や社会との関連を図りながら地球や地
球を取り巻く環境への関心を高め,目的意識をもって観察,実験などを行い,地学的に探究する能
力と態度を育てるとともに,地学の基本的な概念や原理・法則を理解させ,科学的な見方や考え方
を養う」ことである。学習指導要領解説には「直接観察や調査をすることが難しいものも含まれる
ため,地球や宇宙に関する調査,観測などにより得られた情報や資料を基にした実習も大切である」
ことや、「単なる知識として理解させることが目的ではなく,それらを宇宙の誕生から現在の地球
に至るまでの時間的な推移の中で追究し,空間的な広がりの中でとらえる地学的な見方や考え方を
養うことが重要である」と示されている。
これまで時間的・空間的に大きく再現が難しい地学的現象についての指導は、視聴覚教材やコン
ピューター上のシミュレーションによって事物・現象を提示し、単なる知識の伝達として行うこ と
が多かった。学習指導要領では探究的な学習活動が重視されているが、標準2単位の中で探究活動
を行うには、効率よく実験・実習を行い学習を進める工夫が必要である。
単元「惑星としての地球」と「変動する地球」では「固体地球」の内部構造や活動等、再現が難
しいものが多数含まれる。「固体地球」に関して生徒は、中学校までに火山活動と火成岩、地震の
伝わり方と地球内部の働きや地層について学習しており、プレート運動が地震活動を引き起こすこ
とについてよく理解している。しかし、高校で初めて学習する地球深部のマントルや核と地球表層
の活動との関係は直接目にすることができないためイメージすることは難しい。これらをイメージ
させ科学的な見方や考え方でとらえさせる指導法についてはなお一層の工夫が必要となる。
そこで本研究では、中学校での学習内容と関連させながら、プレート運動に伴う地震や火山、地
球内部についての探究的な学習活動を設定し、科学的な興味・関心を高め、地 球の活動と内部構造
を地学的に探究する能力と態度を育てるとともに、科学的な見方や考え方を養うことを目的とする。
科学的な見方や考え方を養うとは「地学の基本的な概念や原理・法則を理解させて,地学的な見方
や考え方を養う」ことである。「地学的な見方や考え方」とは「時間的な推移 の中で追究し,空間
的な広がりの中でとらえる」(学習指導要領解説理科編)ことで、地学的事物・現象を図示または
文章で説明できることと定義する。その手だてとして、宇宙から見た火山・震源分布等の地球やそ
の活動を効果的に視覚化した教材や、2地点間の距離の観測記録、地球内部の地震波の伝わり方等
の観測により得られた情報をもとにした教材を活用する。これによりプレートの分布や形状、運動
方向・速度、地球内部構造を探究させ、固体地球全体の構造と運動を理解させたい。またこのよう
な効果的な教材活用による探究的な学習活動の効率的な授業づくりを目指して本テーマを設定した。
〈研究仮説〉
単元「変動する地球」において、固体地球とその活動を視覚化した教材を活用した探究的な学習
活動を行えば、固体地球とその活動についての興味・関心の高まりとともに理解が深まり、地学的
現象を科学的な見方や考え方でとらえることができるであろう。
Ⅱ 研究内容
1
実態調査と分析
(1) 目的
① アンケート調査及びレディネステストにより生徒の実態を把握し、授業設計を行う上で
の基礎資料とする。
② 研究仮説を検証するための資料とする。
(2) 対象および実施期日
① 対象:沖縄県立那覇高等学校2学年地学基礎選択者 27 名
② 実施期日:平成 25 年5月 14 日(火)~16 日(木)
- 1 -
(3) 結果と考察
① 事前アンケートの結果と考察
表1 興味・関心がある項目の割合
ア 地球の内部構造と火山、地震活動への興味・関心
項目
授業前(%)
「地学分野で学習する項目のうち最も興味・関心があるもの
銀河系・宇宙
53
を答えなさい」という質問に対し、約 70%の生徒が天文分野
惑星・恒星
14
(「銀河系・宇宙」53%、「惑星・恒星」14%)と答えた。
地球の歴史
7
「地球の形・構造」と「火山・地震」に最も興味・関心があ
地球の形・構造
7
ると答えた生徒は、両項目とも7%だった。「地層と化石」、
火山・地震
7
「岩石」は0%で、固体地球に関する内容は他の内容に比べ
自然災害
2
興味・関心は低い(表1)。
環境問題
7
イ 沖縄の地震、火山について
気象・海洋
3
「沖縄近海で巨大地震や大津波が起こる可能性はあると思
地層・化石
0
いますか」という質問に対して約 84%が「とてもある」また
岩石
0
は「まあまあある」と答えている。生徒は大地震や大津波の
発生する可能性をよく認識している。しかし「沖縄は地震が多いと感じることがありま
すか」という質問に対し、約 70%の生徒が「どちらかというとない」または「ない」と
答えている。また「沖縄に火山はあると思いますか」の質問に対し約 73%の生徒が「な
い」と答えており、沖縄県にも火山が存在する事実はあまり知られていない。
「地球の形・構造」は、私たちの住み家である地球そのもののことであるが、最も興味・
関心の低かった「岩石」と同様にあたりまえの存在であること、また地球内部の構造は、
実際に目にすることができないためイメージすることが難しく興味・関心が低いと考えら
れる。「火山・地震」については、2011年の東日本大震災後、2年しかたっていないこと、
また世界中で地震が頻発していることから、興味・関心が高いことを予想したが、意外に
低い状況にあった。本研究では固体地球とその活動に関連した視覚化した教材を活用しな
がら、生徒の興味・関心を高めたい。
② レディネステストの結果と考察
プレート境界と地震分布の関係、地震の発
生するしくみ等、中学校で履修した内容を問う
質問の平均正答率は 82%であった。火山がで
きるしくみやプレート境界と火山分布につい
て問う記述式テストの平均正答率は 43%であ
った。高校で学習するプルームやプレート運動
の原因について問う質問に対し正答できた生
図1 レディネステストの正答率(%)
徒はほとんどいなかった。地球の内部構造を図
で答える問題の正答率は 11%であった(図1)。さ
らに、内部構造の図に各部の状態やマグマの発生場所、
震源を記入させたところ、「マグマの発生、地震とも
に地球の表層付近で起こる」が正解であるが、次の3
つの誤答パターンがあった。①「マグマは地球の中心
震源(×印)
で発生し、地震は地球中層付近で起こる」
(39%)
(図
2)、②「マグマは地球中層付近で発生し、地震は表
層付近で起こる」(29%)、③「マグマの発生、地震
マグマの発生場所(●印)
ともに中層付近で起こる」(10%)。また、マグマの
発生場所の状態は「固体」であるが、大多数の生徒が
「液体」と答えた。
以上の結果は、地球表層の学習内容については、 図2 地球内部の状態やマグマの発生場所、
震源の図示問題の誤答の例
多数の生徒がよく理解しているが、地球深部の内容
については知識がほとんどないことを示している。地震が起こるところを中層と答えた生徒が
約半数いることについては、中学校の教科書の図では地震を引き起こすプレートとその下の一
部のみしか表示されていないため、生徒にとってプレートが実際よりかなり厚く認識されてお
り、地球全体の大きさとプレートの厚さとの関係がしっかりと理解されていないためと考えら
れる。生徒は地球の内部構造に関する予備知識はほとんどなく、中学校で学んだ地震や火山、
プレート運動などの地球表層の活動と地球の内部構造との関係がつながっていない状況であ
- 2 -
る。地球の比較的表層で起こる火山や地震活動は、地球深部の構造と運動の現れであり、密接
に関連している。そこで本研究では両者への興味・関心を高め、つながりをしっかりと理解さ
せたい。そのために固体地球とその活動に関連した視覚化した教材を活用しながら、探究的な
学習活動を行う。
2 理論研究
(1) 学習指導要領の改訂と「基礎を付した科目」の探究活動について
学習指導要領の高等学校理科の改善点の一つとして学習指導要領解説には「基本的な内容
で構成し,観察,実験などを行い,基本的な概念や探究方法を学習する科目として基礎を付
した科目を設けた」、『「基礎を付した科目」は,観察,実験を重視するとともに,従前の
「Ⅰを付した科目」と同様,各大項目に探究活動を位置付け,探究的な学習の推進を図るこ
ととした』、「科学的な思考力・表現力の育成を図る観点から,観察・実験,探究活動など
において,結果を分析し解釈して自らの考えを導き出し,それらを表現するなどの学習活動
を一層重視する」ことが示されている。
(2) 「地学基礎」における探究活動
学習指導要領解説理科編には「地学的な事物・現象には,
生徒が直接観察や調査をすることが難しいものも含まれる
ため,地学に関する調査,観測などにより得られた情報や資
料を基にした実習などによる探究活動も大切である。各探究
活動では,情報の収集,仮説の設定,実験の計画,野外観察,
調査,データの分析・解釈,推論などの探究の方法を課題の
特質に応じて適宜取り上げ,具体的な課題の解決の場面でこ
れらの方法を用いることができるよう扱う必要がある」と示
されている。
『-高等学校理科指導資料―「基礎を付した科目」の探究
活動』(岡山県総合教育センター)によると、「理科におけ
る探究活動とは、探究の過程を通して科学の方法を習得する
学習活動」であり、「探究活動は,探究の様々な方法(仮説
を立て,実験を計画し,実験を行い,データを処理し,仮説
の検証を行うなど)を利用」また『「基礎を付した科目」の
探究活動では,探究の方法の全てを網羅的に実施する必要は
図3 探究活動の授業の展開例
ないこと」つまり「探究の過程の一部(探究の方法)を重点
(岡山県総合教育センター)
化して実施することが可能となっていること』が示されてい
る(図3)。
(3) 観察、実験と探究活動の違い
『-高等学校理科指導資料―「基礎を付した科目」の探究活動』(岡山県総合教育センタ
ー)は、五島、小林(2009)が、川喜田二郎作成のW型問題解決モデルを理科教育のための科
学的探究の過程に対応させて作成した図を取り上げ、「観察,実験は,探究の過程の一部と
して示されていることを、さらに観察,実験も探究の方法の一つであるが,探究活動の目標
が,探究の過程を通した科学の方法の習得であることを考えると,観察,実験以外の探究の
方法を効果的に取り上げ,探究の過程を意識させるようにした取り組みが一層重要になる」
と示している。
(4) 探究活動を行うにあたって
基礎を付した科目の探究活動は、学習指導要領の大項目ごとに位置付けられている。標準
2単位の「地学基礎」の中で探究活動を行うには、年間指導計画で十分な時間配分をすると
ともに、毎時間の実験・実習を効率良く行い学習を進める工夫と、そのための教材・教具の
活用や展開を工夫した授業設計が必要である。
3 素材研究
固体地球とその活動についての興味・関心を高めるとともに理解を深め、地学的現象を科学
的な見方や考え方でとらえさせるために、探究的な学習活動の中で地球とその活動を視覚化し
た教材・教具の活用とモデル実験を考えた。使用した教材・教具、行ったモデル実験を表2に
示す。ここに挙げた教材・教具は「自作品」、「既製品を改良・工夫したもの」、「既製品」
に分けられ、モデル実験はオリジナルの実験と既存の実験を工夫したものがある。各教材等の
詳細については主な「自作品」、「既製品を改良・工夫したもの」のみ示す。
- 3 -
表2
授業で活用した教材・教具及びモデル実験の一覧
自作教材・既製教材・モデル
実験・利用した観測データ等
時限
ダジック地球儀
既製教材
宿題
ダジックアースによる
震央と火山、大地形の提示
既製教材を一部改良
自作半球スクリーン
1
日本付近の震源分布立体模型
既製教材を工夫
2
3D画像ビューアー「Molcer」に
よる日本周辺プレート分布
プレート構造や運動の模型、
地震波トモグラフィー等の
パネル
3D画像ビューアー
「Molcer」による既製教材
図を大型カラープリンタ
ーで出力し段ボール箱や
パネルに貼り付け自作
GNSS連続観測システムの
データ分析
国土地理院の観測データ
を利用
3
日本列島地殻変動
アニメーション
国土地理院の
ウェブサイト上から利用
3
トランスフォーム断層の模型
教科書(数研出版 地学Ⅱ)
の掲載物を工夫
4
ホットスポットと太平洋プレー
ト(ハワイ諸島と天皇海山列)
地球内部を伝わる地震波の
モデル実験
教科書(第一学習社 地学
Ⅰ)の掲載物を工夫
教科書教授資料(数研出版
地学ⅠB)の掲載物を工夫
プルームのモデル実験
モデル実験(オリジナル)
8
地球内部構造モデル
自作教具
8
ラバーライト
装飾品としての市販物を
利用
8
教材・教具
2
2
~
8
4
7
教材・教具・実験のねらい
地球を立体的に捉える。震央や火山、大地形を現
実に近い形で記録する。
地球を立体的に捉え、地球表層の地形や現象の位
置の特徴を観察し考察する。
日本付近の震源分布の特徴を捉え、プレート運動
との関係を考察する。
日本周辺のプレート分布と地下の構造を観察する
ことができる。
図を手元で提示が可能。スクリーンとの同時提示
も可能となる。図によっては箱に貼り付けること
により、簡単に立体構造模型を作ることも可能。
日本列島各地にある任意の観測点を固定点として
各地の相対的な地殻変動の様子をベクトルで捉え
ることができる。大東島がフィリピン海プレート
の運動に伴って北西方向に移動していることを考
察するために使用。
1996年4月~1999年12月の日本列島の地殻変動の
様子をアニメーションで観察でき、視覚的に変動
の様子を捉えることができる。日本列島がプレー
ト運動(沈み込み)により変動している様子を実
感させるために使用。
プレート境界の一つであるトランスフォーム断層
と通常の横ずれ断層との違いを簡単に考察するこ
とが可能。
ハワイ諸島と天皇海山列の並び方と年代から太平
洋プレートの運動と速度を考察する。
地震波によってどのようにマントルと核の存在が
明らかになったかを探究させる。
マントル内のプルームの温度と運動を再現し、マ
ントル内の運動が推測可能。
地球の内部構造や各層の厚さ・体積を視覚的に理
解可能。地震波が地球内部を伝わる図等のパネル
を内部に入れることにより、地球内部の様子がイ
メージしやすくなる。
対流の様子を簡単に観察できる。マントル内の運
動をイメージさせるために使用。
(1) 自作教材・教具の製作
① 地球内部のマントルのプルームのモデル実験
【目的】
マントルの物質を吸水ポリマーとしたモデル実験である。核によって加熱されたマントルの温度変化によ
る対流(プルーム)と温度との関係を検証するために行う。
【材料・道具】
・吸水ポリマー(昆虫保水ジェル) ・サーモインク・ビーカー(500mL) ・三脚
・アルコールランプ
【授業での使用法】
規定量のサーモインクを混合した吸水ポリマーをビーカーに入れ、アルコールランプでゆっくり加熱する。
ビーカー内の温度変化(温度が上昇した部分は赤っぽくなる)それに伴う運動を観察、 記録し考察する。
(ホットスポット)
吸水ポリマー
+
サーモインク
数分で上昇
(プルーム)
(マントル物質)
アルコールランプ
で加熱 (核)
図4
②
プルームのモデル実験の変化の様子
地球内部構造モデル(直径60cm、約1/2000万モデル)
【目的】
地球の内部構造(マントル、核の大きさ・厚
さ・体積)をイメージしやすくするために使用
した。内部には授業の内容に合わせてパネルが
入れ替えできるよう工夫し、また核の大きさを
示したいときには提灯カバー(直径 32cm)を内
部に挿入する。
【材料・道具】
・透明半球(直径 60cm)
・内部のパネル(発泡スチロール等のボード)
・スタンド ・核(100 円ショップの提灯カバー)
【授業での使用法】 地球の内部構造の提示
透明半球
(地球表面)
パネル
提灯カバー
(核)
図5
- 4 -
内部構造モデル
(2) 既製品を改良・工夫した教材・教具
① ダジックアース(http://www.dagik.net/)
【目的と概要】
京都大学大学院の地球科学輻合部可視化グループが中心となり開発され公
開されている。球形スクリーンと通常のパソコン、PC プロジェクタを使用し
手軽に立体的な地球の表示ができる。教育目的には無料で利用可能。地球を
はじめ様々な画像がフリーでダウンロード可能。また白地図やその他様々な
画像を利用してオリジナルコンテンツを作成することも可能である。震央と
火山、大地形、プレート分布の説明のため、オリジナルコンテンツと投影用
白色半球を作製し使用した。
【材料・道具】
・ダジックアースのソフト(ダウンロードする)
・投影用白色半球(透明半球をつや消し白色スプレーで着色し作製)
・震央、火山、大地形、プレート提示用に作製したオリジナルコンテンツ
【授業での使用法】
地球表面の震央、火山等の提示 (気象、天文分野でも使用可能)
②
図6
ダジックアース
日本付近の震源分布立体模型
【目的】
模型製作を通して震源の立体分布を捉え、日本がプレートの沈み込み帯であ
ることに気付かせる。プレートの沈み込みによって地震が発生することや、プ
レートが海溝から沈み込んでいる様子を震源の分布から視覚的に理解させる。
以前より弁当箱で製作する方法が紹介されているが、透明度をあげるために素
材を工夫しCDケースに変更した。
【材料・道具】・CDケース(3枚)厚型(中のCD固定板がとりはずせるもの)
・セロテープ ・台紙…日本付近の震源分布図(5 枚)・日本付近の地図(1枚)
0~30km、30~80km、80~150km、150~300km、300~700km の台紙と地図は「地
震活動解析システム」(http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.html)
にアクセスし、気象庁一元化地震カタログ(JMA PDE)を使って作成し、OHP フ
ィルムに印刷して使用。・油性ペン(6色)震源 0~30km → ○赤
30~80km → ▽オレンジ 80~150km → ◇緑 150~300km → △青
図7 震源分布立体模型
300~700km → +紫
海岸線→黒 火山前線→赤 海溝→青
【授業での使用法】
4 名のグループで協力して一つを製作した。協力して作業を進めれば作業時間は 30 分程度である。
③
地球内部を伝わる地震波のモデル実験
【目的】
光(地震波)
地震波によって、マントルと核の存在が明らかになった過程を探究、説
地殻
明するために使用した。教科書の教授資料に紹介されていたものを参考に
マントル
した。懐中電灯から放たれる光を地震波とし、シャーレ中の色のついた液
シャドーゾーン
体(コーヒーを使用)を核としたモデル実験。光(地震波)が物質の異な
る層で屈折することが確認でき、実際の地球上に現れる地震波のシャドー
外核
震源
ゾーンがなぜ現れるのかを考察することができる。実際にシャドーゾーン
(液体)
の角距離の測定も可能なので、角距離の指導にも有効である。
懐中電灯
【材料・道具】
シャドーゾーン
懐中電灯、シャーレ、ろ紙、色のついた液体、ワークシート
【授業での使用法】
実験結果をまとめ、地球の内部構造とそれによって現れる地球表面の
図8 地球内部を伝わる地震波のモデル実験
地震波の影の領域(シャドーゾーン)との関係を考察する。
33
Ⅲ 授業の実際
1
2
単元名 「地球の構造とプレート運動に伴う現象」
単元設定の理由
(1) 教材観
「固体地球」に関して生徒は、中学校までに火山活動と火成岩、地震の伝わり方と地球内
部の働きや地層、プレート運動と地震との関連について学習している。高校ではプレートテ
クトニクスや地球深部のマントルや核について学習し、マントル内の対流「プルーム」につ
いても学習指導要領に取り扱うことが示されている。そのため、地球深部のマントルや核と、
地震や火山活動など地球表層の活動との関係を結びつけて指導しなければならない。しかし、
地球内部は直接目にすることができずイメージすることが難しいため指導の工夫が必要であ
る。本単元では視覚化した教材を活用し、地震や火山、プレート運動など地球表層の活動と
内部構造を結びつけ、地球の活動と構造を科学的な見方や考え方でとらえて理解させる。
(2) 生徒観
中学校までの知識の習得状況を確認するテストの結果は、プレート境界と地震分布の関係、地
震の発生するしくみについての平均正答率は82%であったが、火山ができるしくみやプレート境
界と火山分布についての平均正答率は43%であった。これから学習する地球内部構造について自
分の考えを図で描写して説明させたところ、正答率は11%であった。また、マグマの発生場所の
状態は「固体」であるが、大多数の生徒が「液体」と答え、高校で新たに学習する「プルーム」
やプレート運動の原因について答えられる生徒もほとんどいなかった。このように、生徒は地球
- 5 -
の内部構造に関する予備知識はほとんどなく、中学校で学んだ地震や火山、プレート運動などの
地球表層の活動と地球の内部構造との関係がつながっていない状況である。
(3) 指導観
生徒はプレート運動が地震を引き起こしていることはよく理解している。しかし、プレート
運動が地球内部のどのような構造や運動と関係し起こっているか、また火山活動を生じさせる
マグマが地球内部のどこでどのように生じているかについては予備知識がない。そこで本単元
では、既習内容とのつながりを持たせながら、地球表層から深部へ向かう探究的な学習活動を
設定し、科学的な興味・関心を高める。また地球の活動と内部構造を地学的に探究する能力と
態度を育て、地球の表層で起こる地震・火山、プレート運動と、地球深部の構造やプルームを
結びつけ、地学的現象を科学的な見方や考え方でとらえることができるよう指導したい。探究
的な学習活動を行う際には、短時間で効率的な実施のため視覚化した教材の活用やワークシー
トを工夫して行う。また身近な地域の地震や火山等の情報も取り扱いながら、興味・関心を高
め、固体地球の正しい知識を習得させるとともに防災意識も高める。
3 単元の目標
固体地球とその活動の学習において、視覚化した教材などを活用し、探究的な学習をするこ
とによって、興味・関心を高め、地震や火山活動と地球内部の構造や運動とのつながりを科学
的な見方や考え方でとらえ、的確な表現ができる能力を養う。
4 単元の評価規準
関心・意欲・態度
思考・判断・表現
技能
知識・理解
・地球内部の層構造、プ ・プレートの分布と運動の様子や、 ・地球内部の層構造につ ・地球内部の層構造と状態を理解
レートの運動、火山活 プレート運動によって大地形が
いて観測データなどを し、知識を身に付けている。
動、地震について関心 どのように形成されるかについ
収集、処理し、その結 ・プレート分布と運動及びプレー
をもち、意欲的に探究 て考察し、導き出した考えを表現 果を的確に記録、表現 ト運動に伴う大地形形成につい
し よ う と す る と と も している。
している。
て理解し知識を身に付けてい
に、科学的な見方や考・火山活動と地震の発生の仕組みに ・プレート運動について る。
え 方 を 身 に 付 け て い ついて、プレート運動と関連付け データなどを処理し、 ・火山活動と地震の発生の仕組み
る。
て考察し、導き出した考えを表現 結果を的確に記録整理 を理解し、知識を身に付けてい
している。
している。
る。
5
単元の指導計画と評価計画
◎:指導に生かすとともに総括に用いる評価
過 時
程 間 学習内容
1
プ
レ
ー 2
ト
の
運
動
と
そ
れ
に
伴 3
う
現
象
4
評価の観点
関 思 技 知
〇:主に指導に生かす評価
学習活動
ねらい
評価規準
評価方法
・ダジックアースに示された ・大地形、震源分
大地形や震源分布を確 事前の課題
大地形や震央分布をダジ
布の特徴からプ
認する実習に 関心 をも ダジック地球儀
【データ分 ック地球儀に記録する。
レート境界と分 ○
ち意欲的に探究しよう ワークシート
析と解釈】・震源の深さの違いと大地形 布を理解する。
とする。
記述内容分析
「地震活動 の関係を考察し、プレート ・震源の深さと大
行動観察
とプレート 境界の特徴を考える。
地形の関係か
地形や震源の特徴とプ
ワークシート
分布・境界・プレート分布について考え ら、プレート境
レート境界との関係を 記述内容分析
の特徴」
ダジック地球儀に記録。プ 界の特徴の違い
〇
考察、導き出した考え 行動観察
レートについてまとめる。 を理解する。
を表現している。
・日本付近の震源分布立体模 ・プレートの境界
プレート境界で発生す ワークシート
型をグループで協力して
(沈み込み帯)で
◎ る現象についてその仕 記述内容分析
【模型作製 作製し、プレート境界の特 発生する現象に
組みを理解し知識を身 行動観察
と分析】
徴についてグループで考
ついて理解する。
に付けている。
「日本付近 え話し合う。意見をまとめ (震源分布、和達プレート境界で発生す ワークシート
のプレート 発表する。
ベニオフ面、海
る現象について関心を 記述内容分析
境界(沈み・地殻変動アニメーションを見て日 溝、火山前線) ○
もちプレート運動の模 行動観察
込み帯)」 本付近の地殻変動の特徴
型を作製し意欲的に探 期末テスト
とその原因を確認する。
究しようとしている。
・GNSS連続観測システムのデ ・GNSS連続観測シ
GNSS 連続観測システム ワークシート
ータを分析し、沖縄島-大 ステムデータ分
のデータを分析し、フ 記述内容分析
【データ分 東島間の距離の変化とそ
析から沖縄や日
ィリピン海プレートの
析】
の原因を考え、グループで 本周辺のプレー
運動方向と速度などそ 行動観察
「プレート 意見をまとめ発表する。
ト運動の特徴を
○
の結果を的確に記録、整
の運動方向 ・沖縄周辺の震源分布、火山 理解する。
理している。
と速度、プ の位置から沖縄周辺の地 ・プレート境界の
プレート運動と地球の ワークシート
レートの生 学的特徴について考える。 3タイプとそ ○
活動について関心をも 記述内容分析
成と消滅」・プレート境界で発生する現
こで発生する
ち意欲的に探究しよう 行動観察
象について考えまとめる。 現象について
としている。
理解する。
・ハワイ諸島と天皇海山列の ・ハワイ諸島や天
ハワイ諸島と天皇海山 ワークシート
【データ分 並びかたから、ホットスポ 皇海山列の特徴
○
列の配列から、太平洋 記述内容分析
析】
ットの特徴と太平洋プレ
から、ホットス
プレートの運動とホッ
「ホットス ートの運動について考え
ポットや、太平
トスポットとの関係に 行動観察
ポットと太 る。グループで意見をまと 洋プレートの速
ついて考察し、導き出
平洋プレー め発表する。
度と運動方向)
した考えを表現してい
ト」
・ワークシートにまとめる。 を理解する。
る。
- 6 -
5
6
7
地
球
の
内
部
構
造
8
(
本
時
)
・
9
6
・火山分布とプレートとの関 ・火山分布とマグ
火山分布とマグマの発 ワークシート
生条件との関係につい 記述内容分析
【データ分 係を考え、火山ができる原 マ発生条件の関
て理解し、知識を身に付
析と解釈】 因を考察する。グループで 係を理解する。
◎ けている。
行動観察
「火山分布 意見をまとめ発表する。 ・プレートテクト
期末テスト
とマグマの・マグマの発生場所と条件の説 ニクスについて
明を聞きまとめる。
理解する。
発生」
・プレートテクトニクスの説明を聞く。
・地震波の性質①(異なる物 ・地殻とマントル
地殻とマントルを伝わ ワークシート
質を通過するとき屈折す
の存在が明らか
る地震波の観測データ 記述内容分析
【データ分 る)について考えグループ になった過程を
などを分析、処理し、地
析と解釈】 で意見をまとめ発表する。 探究し、地殻と
殻とマントルの存在が 行動観察
「地殻とマ・走時曲線から、地殻下にモ マントルの特徴
明らかになった過程や
ントル」
ホ面やマントルがあるこ
について理解す
○
場所による地殻の厚さ
とが明らかになったこと
る。
の違いなどを的確に記
についてまとめる。
録、整理している。
・地震波の性質②(P波とS ・外核と内核の存
地球内部を伝わる地震
波)について考える。
在が明らかにな
波のモデル実験を行い、ワークシート
・地球深部を地震波が伝わる った過程を探究
◎
地球の層構造が明らか 記述内容分析
【モデル実 様子をモデル実験から考
し特徴を理解す
になった過程や結果を
験】
える。
る。
的確に記録、分析し、そ 行動観察
「外核と内・実験結果よりマントルと核 ・地球内部の固さ
の違いから内部構造を
核」
の深さと構造を考える。
と構成物質の違
◎ 図示できる。
課題レポート
・地球内部の固さと構成物質 いによる内部の
構成物質と固さの違い 期末テスト
による分類についてまと
区分について理
について理解し、知識を
める。
解する。
身に付けている。
・【データ分析と解釈】地震 ・地震波トモグラ
地震波トモグラフィ-
波トモグラフィ-からマ
フィ-から、マ
の分析から、マントル ワークシート
ントルの温度や固さ、プル ントルの温度や
の物理的状態(地震波 記述内容分析
ームの運動について考え
固さ、プルーム
◎
速度、固さ、温度、運
る。グループで意見をまと の運動につい
動)を推測し、導き出
め発表する。
て、理解する。
した考えを表現してい 行動観察
・【仮説設定】マントル内の
◎
る。
運動について仮説を設定
【 探 究 活 する。
動】
・【モデル実験】マントルプ
プルームモデル実験に
「プレート ルームモデル実験を行い、
関心をもち意欲的に探
テクトニク 実験結果をまとめる。
究しようとしている。
スとプルー・【推論】実験の仮説を検証、
ム」
結果をもとにプルームの
運動について推測する。
地震や火山活動、プレー 行動観察
・【考察とまとめ】地震や ・地震や火山活動
の原因をプレー
ト運動とプルームとの ワークシート
火山活動の原因をプレー
ト運動とともに
◎
関係を関連付けて考察 課題レポート・
トの運動とともに、地球の 内部構造・プル
し、導き出した考えを表 事後アンケー
内部構造と運動と関連さ
ームと関連させ
現している。
ト記述内容分
理解する。
析、期末テスト
せて考えまとめる。
本時の学習指導(第8・9時/全9時間)
(1) 小単元名「プレートテクトニクスとプルーム」
(2) 指導目標
これまで学習してきた地球表層の地震や火山活動の原因をプレート運動とともに、地球の内
部構造やプルームの運動と関連させて図示して説明することができる。
(3) 準備する教材・教具
・プロジェクター ・スクリーン ・パソコン ・ワークシート ・ダジックアース投影用白色半球 ・ダジックアース
・ダジック地球儀 ・プレート運動と構造の模型 ・ラバーライト ・地球大地形モデル ・固体地球モデル
・地震波トモグラフィーのパネル
・マントルの構造と運動のパネル
・プルームモデル実験:吸水ポリマー、サーモインク、ビーカー(500mL)、アルコールランプ、三脚
(4) 本時の展開
過程
生徒の活動(学習活動)
教師の活動・支援
形態 準備・備考 評価規準 評価方法
◇前時までを簡単に振り返り
○出席確認。
パソコン
第8時
震央や火山活動の分布をダジ ○前時までを簡単に振り返り、数
プロジェクター
ックアースで振り返り、地震や 名に発表させる。
一斉 スクリーン、白色
導入
火山活動の原因を発表する。 ○探究活動の目的、概要、流れに
半球、ワークシート
(10) ◇目的、概要、流れの説明を聞く。 ついて説明する。
ダジックアース
展開①
(20)
展開①<仮説>
地震波トモグラフィーの分析・解釈からマントルの運動を推測する。
◇地震波トモグラフィーとは何か理解 ○地震波トモグラフィーをパネ
地震波トモ
する。
グループ グラフィー
ルで提示し説明する。
◇地震波速度の違いが生じる理 ○地震波トモグラフィーに示さ
のパネル
由をこれまでの学習を振り返
れた地震波速度の違いがなぜ
り考える。
生じるのか考えるよう指示。
ワークシー
◇地震波トモグラフィーを見て、
ト
マントル内部を伝わる地震波
速度の分布の特徴をまとめる。
- 7 -
【思考・判断・表現】
地震波トモグラフィーの
分析からマントル
の物理的状態(地震
波速度、固さ、温度、
運動)を推測し、的
確に表現している。
展開①
(20)
◇マントル内部を伝わる地震波
速度の分布の特徴から、
マントルの状態を推測
①マントルの固さ
②マントルの温度
◇マントルの状態から
マントルの運動について推測
◇仮説の設定
◇マントルの運動についての仮
説をグループでまとめ発表す
る。
○マントル内部を伝わる地震波
速度の分布の特徴からマント
ル内部を伝わる地震波速度は グループ
一様でないことに気づかせ状
態を推測させる。
○マントル内の運動を推測
○状況に応じヒントを与える。
※固さと温度の関係
※物質の温度と密度の関係
※密度の違いによる物体の動
き
○仮説(マントル内の状態や運
動)を設定し、発表するよう
指示。
ワークシート
記述内容の分析
行動観察
課題レポート・
事後アンケート記
述内容の分析
展開②<検証> プルームのモデル実験によりマントルの運動を検証する
展開②
(20) ◇モデル実験の目的、手順の説明 ○実験の目的、手順を指示。
グループ プルームモデ 【関心・意欲・態度】
を聞く。
プルームのモデル実験:
ル実験:吸水ポ プルームのモデル
吸水ポリマーをマントルの構成
リマー、サーモ 実験に意欲的に参
◇グループごとに実験を行う。
物質とし加熱することにより、
インク、ビーカ 加しようとする。
◇実験結果をまとめ発表する。
その温度変化とそれに伴う動き
ー、アルコール 行動観察
を確認する。
ランプ、三脚 ワークシート
○結果をまとめ発表の指示。
記述内容の分析
第9時
展開③<推論・考察>
プルームの動きと地球表層の活動を結びつけて考える。
◇結果をまとめ考察する。
○結果をもとに考察の指示。
プレートの
◇実験結果とプルームの動き、プ 実験結果とプルームの動き、 グループ 運動と構造
展開③
レートの運動、地震・火山活動
地球表層の活動と地形を結び
の模型
地形を結びつけて考える。
つけるようなヒントを与える。
(30)
①上昇プルーム→ホットスポット
①上昇するプルームの上では何
地球の大地
②プルームの水平移動
ができる
形モデル
→プレートの水平移動
②上昇したプルームはマントル
一斉
③下降プルーム→海溝
上部を横へ広がる。その上の
◇グループでまとめて発表
プレートはどのように動くと
予想される
③下降流はどの付近でできる
【思考・判断・表現】
地球表層の地震や
火山活動、プレート
運動と、地球内部の
運動(プルーム)の
関係を考察し的確
に表現している。
まとめ 地球の表層から内部までの活動を地球内部モデルと視聴覚教材で確認。
まとめ ◇地震波トモグラフィーとマント ○地震波トモグラフィーとマン
地震波トモ ワークシート
(20)
ル内の構造のパネルと、固体地 トル内の構造のパネルと、固
一斉 グラフィー 記述内容の分析
球モデルで地球表層から内部
体地球モデルを提示し、プルーム
とマントル 行動観察
までの活動を確認する。
テクトニクスについて説明。
内の構造の
○固体地球表面を覆うプレート
パネル
課題レポート・事後
課題レポート
の運動は、マントル内のプル
固体地球モ アンケート記述内
地球の構造と運動を図示して
ームによって引き起こされる
デル
容分析
まとめる。(後日提出)
と考えられている。
◇実験道具の片付け、質問
○課題レポートの提示
平均
Ⅳ
仮説の検証
ダジックアースによる震央等の提示
82 87
87
94
94
1 地球の構造とその活動への興味・関心
日本付近の震源分布立体模型
87
77
トランスフォーム断層模型
は高まったか
65
84
ホットスポットと太平洋プレート
9時間の検証授業を通して地球の構造と
81
87
プレート構造模型、パネル
その活動について 84%の生徒が興味・関心
7781
地球内部を伝わる地震波のモデル実験
87
が高まったと事後アンケートで答えた。ま
プルームのモデル実験
87 94
た授業で活用した各教材・教具・実験につ
87
地球内部構造モデル
分かりやすい
いては多くの生徒が分かりやすく(平均
87
興味・関心高まった
0
20
40
60
80
100
87%)、興味・関心が高まった(平均 82%)
と答えている(図9)。さらに探究的な
図9 主な教材・教具・実験等に対する生徒の反応(%)(N=27)
学習活動については 94%が実験や実習等
表3 授業後の生徒の感想
に積極的に参加したと答えた。表3に探究 ・あまり経験したことがないような授業、じっくり考えなかっ
た事とかもよく考えて答えを導き出していく授業で難しか
的な学習活動により興味・関心が高まった
ったけど、実験とかが多く楽しく学習できた。
ことについて記した生徒の感想を示す。以 ・実験・動画・実習・模型などたくさんあって飽きずに興味を
持ちながら授業を受けることができた。
上の結果は、視覚化した教材を活用した探
・実験や探究するのはおもしろく周りとのコミュニケーション
究的な学習活動が生徒の興味・関心を高め
も必要だった。実験とかがあったので興味を深めることがで
きた。初めて見る教材・教具があったので普段よりも興味が
たことを示している。
わいて授業内容は分かりやすかった。
- 8 -
2
地学的現象を科学的な見方や考え方でとらえることができたか
(1) 地学的事物・現象を図示して説明できるようになったか
表4 授業前後の正答率(%)の変化
科学的な見方や考え方とは、地学
的事物・現象を図示または文章で説
授業前
授業後
問 題
種類
明できることと定義した。これらの
レディネス レポート 事後テスト 期末テスト
ことについて検証するため、レディ
地球の内部構造
4
65
73
79
ネステストに出題した中学までの基
マグマの発生する深さ
4
61
73
76
図示
震源の深さ
26
43
68
72
礎的知識の定着度を図る問題と、事
地球内部の状態
7
66
80
後の知識の定着を確認するために課
プルーム
0
100
68
96
したレポート・事後テストや、期末
地震・火山・プレート運動
記述
69
64
70
53
テストに出題した図示問題と記述問
固体地球の構成物質や固さと各部の名称
選択
84
題の正答率を比較した(表4)。授
業後、地球の内部構造について図示させたところ、多くの生徒が詳細に図示(図 10)できる
ようになり、授業前のレディネステストの正答率 4%は上昇し、期末テストでは 79%となっ
た。内部構造とともに多数の生徒が誤った認識をしていた事象の正答率は、マグマの発生す
る深さ(76%)、震源の深さ(72%)、地球内部の状態(80%)、プルームを図示(96%)
となり上昇した。また地球の構成物質や固さと各部の名称を語群から選択し答える問題の正答
率も高く 84%だった。以上のように視覚化した教材を活用した探究的な学習活動は、生徒の知
識・理解を深め科学的な見方や考え方のうち、図示により説明する能力を高めることに対し大
きな効果があったといえる。
レディネステスト
期末テスト
誤った簡単な図示
正しい詳細な図示
層構造は描けているが、マグマの発生場所、状態は誤り
図 10
層構造・名称、プルームの動き、プレート運動、火山
分布、マグマの発生場所・ 震源(深さ)等が正しい
生徒 A が描いた地球の内部構造図の変化
(2) 地学的事物・現象を文章で記述して説明できるようになったか
表5 分析・解釈、推論型記述問題の
記述式の問題は、授業前の正答率が
記載内容の割合(%)(N=27)
69%だったのに対し、レポートと事後
テストでは約 70%、期末テストでは
十分満足できる おおむね満足できる 支援が必要
記述問題
タイプ
正答率
53%であった(表4)。期末テストの
A
B
C(無答)
記述式の正答率の低さは、レポートや
分析・解釈
48
33
19(0)
81
沖縄周辺の震源分布
事後テストに出題した知識を問う単純
推論
22
33
44(7)
56
な記述問題ではなく、探究的な学習活
分析・解釈
37
30
33(7)
67
地震波トモグラフィ
動の流れと同様にデータを分析・解釈
推論
19
22
59(11) 41
してその結果から推論させる問題を出
題したためと考えられる。「沖縄周辺の震源分布」に関しては震源の深度分布データを分析
し沖縄周辺の地学的特徴を推論する問題、「地震波トモグラフィ-」に関してはマントル中
の地震波速度データを分析・解釈し、マントル中の温度や運動を推論する問題である。この
ような地学的事物・現象を文章で記述して説明できるようになったかを検証するために記述
内容の分析を行った。その結果をA:十分満足できる、B:おおむね満足できる、C:支援が
必要に分類し割合を算出した。結果を表5に、記載内容の評価基準を表6に、記述例を表7
- 9 -
表6
分析・解釈、推論型問題の評価基準
十分満足できる
おおむね満足できる 支援の具体的方法
に示す。データを分析・解釈する問題は「満
記述問題
タイプ
A
B
C
足できる」レベルで記載した生徒の割合が約
震源分布と深さ
震源分布と深さの関 震源分布(深さ)の との関係に注目
70~80%と高いものとなった。科学的な見方
分析・解釈
係の詳細な記述があ 違いの記述があ
させ、規則性が
や考え方とは探究的な学習を通して生徒が身
る。
る。
ないか考えさせ
沖縄周辺の
る。
に付ける分析・解釈に必要な力を包含してい
震源分布
沈み込みとともに地
震源分布の規則
震が発生、プレート
るものであり、視覚化した教材を活用した探
沈み込みの記述が 性と大地形との
推論
境界(海溝)の位置
ある。
関係に注目さ
究的な学習活動の成果を示すものとなった。
やプレート名等の記
せ、考えさせる。
述がある。
一方、分析・解釈した内容から推論させる問
地震波速度分布
地震波速度とマント 地震波速度とマント の違い、物質の
題については「満足できる」レベルで記載し
分析・解釈
ルの固さ、位置との ルの固さとの関係
固さとの関係を
関係の記述がある。 の記述がある。
例を挙げ考えさ
た生徒の割合は低かった。推論する問題は分
地震波トモグ
せる。
析・解釈した内容をさらに考察しまとめる必
ラフィ
物質の固さと温
マントルの温度と運
マントルの固さと温 度、運動との関
動(プルーム)、ホット
要があり難易度が高く、生徒は授業での探究
推論
度との関係の記述 係を考えさせ地
スポット、海溝との関
がある。
球と合致させ
的な学習活動と同様に戸惑ったことが予想さ
係の記述がある。
る。
れる。しかし、生徒の中には「十分満足でき
る」の記載例に挙げたような記述をする生徒もおり、探究的な学習活動の成果の一つとして
とらえることができる。
(3) 視覚化した教材を活用した探究的な学習活動の成果と課題
表7 分析・解釈、推論型記述問題の記述例
探究的な学習活動について 85%が肯定的な
十分満足できる
おおむね満足できる
感想を述べた(図 11)。その内容は「分かり
記述問題 タイ プ
A
B
やすく楽しく興味・関心が高まった」、「イ
沖縄本島西側は深さ150~300kmの震源が多
太平洋側から大陸側へ向け震源の深さが深く
メージしやすく印象に残り論理的思考が深ま
分析・解釈 く、東側は深さ80kmの深さの震源が多い。(海
なっている。
沖縄周辺の
溝を図示)
った」、「やる気が起き積極的に授業に参加
震源分布
フィリピン海プレートが海溝からユーラシアプ 海側のプレートが大陸側のプレートに沈み込ん
した」等であった。多くの生徒が肯定的な感
推論
レートに沈み込んでいることが考えられる。 でいると推測される。
想を記しながらも同時に「考えるのが大変で
仏領ポリネシアなどの赤い地域は地震波速度
難しい」とも記している。探究的な学習活動
赤いところは地震波速度が遅くやわらかい。青
分析・解釈 が遅くやわらかい。海溝付近の青いところは速
いところは速くかたい。
の成果はとても大きいが、生徒にとって自分
地震波トモ
くかたい。
グラ フィ
の力で分析し結果を表現することは難しく苦
仏領ポリネシア等、マントルのやわらかいとこ
マントルがやわらかいところは温度が高い。固
推論 ろは温度が高く上昇するプルームがある。海溝
労したことが読み取れる。探究的な学習活動
いところは温度が低い。
では、マントルは温度が低く重く沈み込む。
を指導するうえで、一番問題となったのは時
間的制約が大きいことであった。そのため、
生徒が考察等をまとめる前に答えを提示して
しまうことが多々あり、生徒自らが考え言葉
図 11 探究的な学習活動についての感想の内訳(N=27)
で表現する能力を十分に引き出せなかった。
以上が記述式テストの推論の正答率の低さに現れていると考えられる。一方、少数ではある
が「普段の授業(知識伝達型)が良い」という否定的感想もある。その理由は「要点が分か
りにくい(15%)」、「センター試験に通用するとは思えない(7%)」というものである。
知識伝達型の授業に慣れている生徒にとって、このような感想が出るのは仕方ないと思うが、
知識だけではなく、探究的な学習活動で得られる思考力、判断力、表現力等の能力が本当に
必要な力であることを継続して伝え、全ての生徒が納得するような授業作りを目指すべきだ
と考える。探究的な学習活動の進め方と、生徒自ら考える力や文章表現力を高める手立てに
ついては今後の課題である。
Ⅴ
成果と課題
1
成果
(1) 視覚化した教材は固体地球の活動と構造への興味・関心を高めるのに効果があった。
(2) 探究的な学習活動は多くの生徒が肯定的にとらえ知識・理解を深めるのに効果があった。
(3) 視覚化した教材を活用した探究的な学習活動は、地学的現象を科学的な見方や考え方でと
らえ図示することに成果があった。
2 課題
(1) 文章で表現し説明するために必要な能力を伸長させる手立てについて検討し、工夫・改善
するとともに継続した指導が必要である。
(2) 地学基礎における探究的な学習活動の進め方、授業設計にはなお一層の工夫が必要である。
(3) 効率的な授業展開となるようなワークシートの工夫・改善が必要である。
- 10 -
〈主な参考文献〉
岡山県総合教育センター 2013 高等学校理科指導資料生徒の力を引き出す「基礎を付した科目」の
探究活動実践事例集
国立教育政策研究所 教育課程研究センター 2012
評価規準の作成,評価方法等の工夫改善のための参考資料(高等学校 理科)
~新しい学習指導要領を踏まえた生徒一人一人の学習の確実な定着に向けて~
文部科学省 2012 言語活動の充実に関する指導事例集
岡山県総合教育センター 2012 -高等学校理科指導資料-「基礎を付した科目」の探究活動
文部科学省 2009 高等学校学習指導要領解説理科編理数編
文部科学省 2009 高等学校学習指導要領
文部科学省 2008 中学校学習指導要領解説理科編
文部科学省 2008 小学校学習指導要領解説理科編
浅野俊雄ほか
浅野俊雄ほか
家正則ほか
内海和彦ほか
力武常次ほか
2013 地学
数研出版
2012 地学基礎 数研出版
2011 地学Ⅱ
数研出版
2004 高等学校 地学Ⅰ
第一学習社
高等学校 地学ⅠB 教授資料 数研出版
〈参考 URL〉
ダジックアース
(http://www.dagik.net/)
地震活動解析システム
(http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.html)
国土交通省 国土地理院 地殻変動アニメーション 1996 年 4 月~1999 年 12 月 鳥瞰図
(http://mekira.gsi.go.jp/JAPANESE/crstanime9604_9912b.html)
国土交通省 国土地理院 最新の地殻変動情報
(http://mekira.gsi.go.jp/project/f3/ja/index.html)
3D 画像ビューアー「Molcer」(有限会社ホワイトラビット)
(http://www.white-rabbit.jp/molcer.html)
日本周辺プレート配置 3D モデル(有限会社ホワイトラビット)
(http://www.white-rabbit.jp/project/TectonicPlatesAroundJapan.html)
弁当パックによる日本列島の震源立体模型
(http://www.hayakawayukio.jp/project/kazan3D/bento/kawaji.htm)
東京大学地震研究所 広報アウトリーチ室
(http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/)
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