Ⅴ 自立活動の柱 【社会生活】

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自立活動の柱 【社会生活】
自立活動の柱「社会生活」について
(1)本校における「社会生活」
~なぜ「社会生活」なのか~
本校自立活動の柱の一つである「社会生活」は、平成23年度からの自立活動カリキュラム再
編成の取組で登場した新しい「柱」である。
取組を始めるにあたって、平成14年作成の旧カリキュラムを再検討し、現在の本校の自立活
動的課題は何かということを各学部で話し合った。その結果、当時から現在までの社会情勢の変
化や、幼児児童生徒の実態やニーズが変化してきていることを鑑み、本校自立活動の「柱」につ
いても考え直す必要があることが確認された。
特に高等部から、生徒の本校卒業後の社会参加を考えたときに、高等部卒業段階で不足してい
ると思われる力を指導していくことが必要だという指摘があり、「社会生活」という新しい柱を
立てることになった。このとき、高等部から出された具体的課題が「社会適応力」「自己決定を
する力」「コミュニケーション力」の3つである。
一般的に「社会生活」と言えば「人間の生活のうち、それが社会の一員として行われている部
分」を指す。本校の自立活動カリキュラムにおける「社会生活」も、そのような生活を送るため
に必要な力のことを意味する。
平成23年7月に本校で行われた、松本末男先生の講演会において、「幼児児童生徒の将来の
社会自立を見据えたときに、今身に付けなければならない本当に必要な力は何か」という質問が
出された。
その時の答え、意見の内容を大別すると次の①~⑤の項目になる。
①健康(基本的な生活習慣、時間の観念など)
②社会(社会適応力、課題解決力、自己実現、自己決定力など)
③心理(障害認識、自己の客観視、自分の気持ちの理解、相手の気持ちの理解など)
④人間関係(挨拶、言葉遣い、他者への思いやり、周囲への配慮、自己主張など)
⑤コミュニケーション(意思決定力、言語力、話を理解する力、表現する力など)
一方で文部科学省発行の特別支援学校学習指導要領(幼・小中・高)に示された自立活動の内
容のうち、特にろう学校において取り組むことができる内容、さらにろう学校において特に重要
と思われる事項が、「聾学校における専門性を高めるための教員研修用テキスト2011年改訂
版(全国聾学校長会専門性充実部会編)」に具体的に挙げられている。
上記1~5と、教員研修用テキストに収められている自立活動の内容を照らし合わせ、本校自
立活動「社会生活」の内容を6つの小項目として定めた。(後に5つに変更した)
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さらに、その6項目を前述した高等部から出された具体的な3つの課題に合わせ、自立活動の
柱「社会生活」は次のようなカテゴリーに分類された。
社会生活
社会適応力
・基本的な生活習慣
コミュニケーション力 ・他者とのかかわり
・社会マナー
・良好なコミュニケーション力
・他者の意見を受け入れ、自分の考えを伝える力(後に、「良好
なコミュニケーション力」に含めた)
自己決定力
・自己決定力
語句や分類の仕方は、その後のこれまでの研究で調整が加えられている。また、内容については
他の柱「コミュニケーション」
「障害認識」と重複する部分がある。
(2)「社会生活」をはぐくむということは
平成24年度のまとめの研究全体会で、助言者の松本末男先生から各学部の課題について説明があ
った。そのうち、
「社会生活」との関連で述べられている部分を抜粋する。
幼稚部:自分の身体の動きを中心とした環境への働きかけを通して学ぶ時期。
主体的にかかわっていくことが必要になる。人とのかかわりあい、人を介した、
ものとのかかわりあいを大事にする。さまざまな感情体験を分かち合いながら育
っていく。
小学部:自分の居場所を理解し、世界を広げていく。子どもが主体となって、環境にかかわり、自
分から周りの人にかかわって同心円的に関係を広げて生活を充実していく時期。
子どもと教師たちのつながりや、子ども同士(小学部全体・他校の子ども)のつながり
を大事にする。コミュニケーションのかかわりの中で生活を広げる。
中学部:環境に主体的にかかわって環境を取り入れ、または変えていき、自分がしていること・し
てきたことの社会的意味や価値を知り、役割を担いながら活動し、自分の存在への自信を
獲得する時期。
自分と学校や地域社会とのつながりを考えながら、自分が経験したことを正しく把握し、
大まかな概念、意図などをこれからの活動に役立てる。同級生同士のつながり、先輩や後
輩とのつながり。自分と教師との一定の距離を保ったつながりを考える。伝え合うコミュ
ニケーションを大切にする。
高等部:身近な仲間(先輩後輩も含む)との関係を正しく築きながら社会とのつながりを意識し、
新しい環境を取り入れて活かす。自分の行いに責任を持ちながら生活の主体者として自信
を持って活動する時期。
自分のことを大事に思いながらも、周りのことを意識し、理由を明確にしながら全体を
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リードできるような働きかけができるようにする。教師の思いをしっかり理解し、その中
で自分なりの理屈が形成できるようにする。慣れきっている、思い込んでいる生活や経験
に矛盾を突きつけて考え込ませるような工夫が必要である。
「社会生活」のカリキュラムはこれらの課題を念頭に置き、さらに、社会が個人に求めるものとの
バランスを考えて作成された。
このカリキュラムから、自立活動「社会生活」の内容は、卒業を控えた高等部でのみ指導されるも
のではなく、全学部での一貫した取り組みが必要になることがわかる。
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研究経過
(1)平成23年度
本校自立活動カリキュラムの再編成にあたり、1に詳述したような経過から7月に「社会生活」
という柱が立ちあげられた。
9月より他の柱同様に具体的な指導内容や支援内容の検討・整理を開始した。まず、1.
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で述べた項目を参考にしながら各学部で話し合い、ねらいと内容を挙げた。
それらを幼・小・中・高の各学部からなる縦割りの形で研究討議を行い、学部間で整合性をつ
けた。さらに、その結果を学部で確認するという形で検討が進められた。平成23年度は、縦割
りの形で集まる検討日は年4回設定された。
整合性の確認では、「高等部卒業」をゴールにし、その時点で必要となる力は何かを重視し、
下学部からの系統的な指導ができるような配慮をした。
年度終了時点で確認された小項目5つのねらいとそれぞれに対応した内容を表にした。
(2)平成24年度
自立活動カリキュラムの「社会生活」の柱は、新たに立ち上げたものであったため、
平成23年度中の完成には至らず、引き続き平成24年度も作成の年度とした。
研究内容
・縦割りグループでの検討を行わず、学部内研究を中心に行った。
・ろう学校または本校の幼児児童生徒が将来「社会」に参加するときに課題となる日常生活面
での行動を記録、整理する。
・その課題をもとに各学部で指導内容を検討し、次年度の実践・検証・修正のための「社
会生活」のカリキュラムの作成を進める。
・年度内に学部ごとに行われる授業研究の際、指導案に「社会生活」を含めた自立活動の各柱
の視点を盛り込む。そこで、各授業における「社会生活」にかかわる課題の具体的な指導方
法について意識を高める。
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幼稚部:障害認識の研究を中心に行う。24年度は取り組んでいない。
小学部: 教師個々の視点から見た児童が抱えている課題や日々の指導での悩み等をアンケー
トにより集約した。(「教科指導、言葉の指導場面」、「生活指導(朝の会、帰りの会、
休み時間など)の場面」
、
「マナー指導の場面」、
「教師の立場から難しいと思うこと」
)
その中から、「基本的生活習慣にかかわる課題」、「マナーに関する課題」、「人とのか
かわり方やコミュニケーションに関する課題」の3つに当てはまるものを社会生活カ
リキュラムを編成する際に活用することで検討。
中学部: 中学部の生徒に多くみられる日常生活面での課題とその対応について研究討議を行
い、アンケートで課題を列挙した。このように社会生活における課題を挙げる中で、
今後重点的に実践、検証していくべき課題として「かかわり方やコミュニケーション
に関する内容」を取り上げることを確認した。
高等部: 高等部の生徒に多くみられる課題とその対応について研究討議を行った。共通して
見られる具体的課題として、「コミュニケーション力」「自己決定力」「社会適応力」
が挙げられた。これらは、社会への出口である高等部で特に取り組むべき課題として
認識された。
さらに松本末男先生の助言などを受け、今後重点的に実践、検証していくべき課題
として「かかわり方やコミュニケーションに関する内容」を取り上げることを確認し
た。
また、カリキュラム検討とともに、特設の自立活動の在り方、内容の見直しを行う
ことを検討している。
(3)平成25年度
研究内容・方法(各学部共通)
○「社会生活」全体カリキュラムの完成
23年度作成の全体カリキュラムについて、学部で再検討し、3つのカテゴリー
に分かれて、学部縦割りのメンバーと学部で検討を行い、完成に至った。
【社会適応力】 良好な社会生活を営む上で必要となる基本的な生活習慣やマナーについて研
究討議が行われた。普段、教師が幼児児童生徒と接する中で「挨拶」
「習慣」
「健康安全」
「マナー」
「ルール」など、様々な側面から課題が出された。そ
れらの現状をもとに、各学部でどのような取組を行っていくのかについて検
討した。また、各学部の指導を一貫化させ高等部卒業を見越した指導ができ
るようにカリキュラムを作成した。
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【コミュニケーション力】
卒業後に社会で必要となるコミュニケーション力は何か、と
いうことを考え、各学部でどのような活動を大事にしていくべきかについ
て研究討議が行われた。コミュニケーションには相手の気持や立場を考え
るという気持の面、相手の話をきちんと受け止めようとする態度の面、そ
して内容を伝えあうためのコミュニケーション手段の工夫という面が必要である。
それらを念頭に置き、カリキュラムを作成した。
【自己決定力】 自己実現するために必要なことは適切な「自己理解」であり、それに伴う
「意思の決定」である。例えば、幼稚部ではそのために自分の好きなもの
を見つけるという活動を大切にしている。それを出発点として年齢を重ね
るにつれ、社会資源の活用も重要になる。このように、卒業後の自己実現
につなげるために、各学部で何をめざすかを中心に話し合い、カリキュラ
ムを作成した。
○学部カリキュラムの作成
「社会生活」全体カリキュラムに基づいた各学部の学習内容をまとめる「学部カリキュラ
ム」の作成を開始した。学習内容をまとめる作業の中で、全体カリキュラムの内容の見直し
も行った。きこえない子どもの発達段階にあわせて「社会生活」に必要な力を身につけられ
るように、また、一貫した指導支援が行えるように確認した。学習内容の書式に関しては、
幼稚部から中学部は幼児児童生徒の視点と教師の働きかけの2つの項目に分けて、より具体
的に作成した。高等部は生徒の学習内容に加え、4つのさまざまな場面(日常生活・自立活
動とHR・行事・進路)に区分した学習内容を作成した。
(4)平成26年度
○ カリキュラムに基づいた授業実践
これまで作成した全体・学部カリキュラムを基に、授業実践計画を立てて実施する。授業
実践を通した評価や課題について検討しながら、カリキュラムの見直しも図る。このような
取組を学部ごとに行い、研究係の中で報告し共有を図る。全体カリキュラム表については別
冊に掲載する。また、学部カリキュラム表は別冊、学部ごとの具体的な研究計画・内容は本
紀要学部研究に掲載してある。
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