Part 1 Part 1 特別寄稿 特別寄稿 i-ConstructionとCIM 立命館大学 理工学部 教授 建山和由 TATEYAMA Kazuyoshi 1 ける生産性の改善策が盛り込まれている。本稿では、 はじめに その中でもCIMに焦点を絞り、生産性向上との関わ りについて、著者の考えを記す。 i-Constructionが動き出した。他の生産業に比べ 遅れを取っていた建設分野における生産性の画期的 な改善を図り、もって建設業の産業としての体質自 体を変えていこうとするものである。 2 CIMを基調とするi-Construction 建設産業には、 「一品受注生産」、 「現地屋外生産」、 図−1に建設投資と建設許可業者数の推移を示す 。 1) 建設投資は1992年以降減少しているが、建設許可業 「労働集約型生産」などの制約があり、このため前述 のように一般製造業等で進められてきた様々な生産 者数が低下を始めるのは2000年に入ってからであ り、 8年程度の時間遅れを示している。この結果、毎年 減り続ける建設投資を多くの建設業者で分け合うこ とになり、結果として生産性は落ちざるを得ない状 況にあった。このことは、図−2の産業別の生産性の 推移で確認することができる。1990年以降一般製造 業は、ライン生産方式、セル生産方式及び自動化・ロ ボット化などの生産性向上策を導入することによ り、 20年間に生産性を2倍以上に向上させて来た。こ れに対し、建設業では、 1990年時点では一般製造業 より高い位置を保っていた生産性を年々低下させ、 図−1 建設投資と建設許可業者数の推移 (建設業ハンドブック2015版) 20年間に3割の低下を来たしている。 一方で、今後、日本の生産年齢人口は年々低下して 行き、 30年後には70%以下になると見られている2)。 これにより、建設業界は担い手不足と共に建設投資 の抑制という課題に対応しなければならないことに なる。限られた予算のもと、減少する建設従事者で将 来にわたり安定的にインフラを提供していくために は、現行の延長線上の議論では対処することができ ず、生産性を画期的に改善していかなければならな い。 i-Constructionでは、様々な視点から建設業にお 図−2 産業別生産性の推移(建設業ハンドブック2015版) ● 114号 5 1 2 3 4 Part 1 性向上策を導入することは困難であると考えられて きた。今回のi-Constructionでは、建設現場が有する この宿命の打破を目指すべく、建設現場においても、 「建設機械」と 「設計データ」や「施工管理データ」を繋 ぎ、その結果、 ICT 建機による3次元データを活用し た施工・検査など自動化・ロボット化による生産性向 上が可能になるとしている。また、 「調査・測量→設計 図−3 現行の発注・契約制度によるプロジェクトの進め方 →施工→検査→維持管理・更新」のあらゆる建設生産 プロセスにおいて3次元データを導入・活用すること ラ整備でこれを実現することは容易ではない。現行 により、 建設生産システム全体を見通した施工計画・ の発注・契約制度がこれを阻むからである。 管理などコンカレントエンジニアリングやフロント 図−3は、現行の発注・契約制度のプロセスとそれ ローディングが実現され、個々のプロセスの最適化 に関係する業種を示している。工事プロジェクトの を目指す 「部分最適」にとどまらず、全体プロセスの 開始にあたり、まず、調査・測量業務が地質調査会社 最適化を図る 「全体最適」を実現することができると や測量会社に発注される。つぎに、その結果を持って している。 コンサルタントに設計業務が発注される。その結果 ここで、コンカレントエンジニアリングとは、製品 に基づき入札が行われ、建設会社が施工を請け負う やシステムの開発において、設計技術者から製造技術 ことになる。維持管理・更新では、工事の内容に応じ 者まですべての部門の人材が集まり、諸問題を討議し て、調査会社、コンサルタント、建設会社が業務を担 ながら協調して同時に作業にあたる生産方式である うことになる。これらのプロセスでは、その他、各種 (出典:大辞林) 。また、フロントローディングとは、シ の専門工事業者や測量器械、建設機械のメーカー、レ ステム開発や製品製造の分野で、初期の工程において 後工程で生じそうな仕様の変更等を事前に集中的に この発注・契約制度は、これまでのように技術があ 検討し品質の向上や工期の短縮化を図ることである る程度固定化している場合には、合理的な方法と言 (出典: (一財) 日本建設情報総合センター HP) 。 著者の認識では、 CIMは、調査・測量→設計→施工 →検査→維持管理・更新の一連のプロセスで構造物 えるが、i-Constructionのように生産プロセスを新 たに見直そうという場合には、以下の理由から必ず しも有効とは言えない。 の3次元データを共通化し、かつ各プロセスで生じる すなわち、工事プロジェクトに関係する企業は、各 様々な実データを属性データとして共有することに プロセスの中でしか議論をすることができないた より、一連の建設生産システムの効率化や品質向上 め、改善の提案は限定的にならざるを得ない。施工時 を目指すものであり、上記の議論と方向性を一にし に建設会社が設計の見直し要求を出すようなプロセ ている。この意味からi-ConstructionはCIMの考え スを跨いだ改善の議論はあり得るが、この場合、改善 方を基調に据えているといえる。 の意見は、発注者が一端受けて、コンサルタントに検 発注・ 契約制度の見直しによる 生産性の向上 討指示を出し、その結果はやはり発注者が一端受け ここで注目したいのは、コンカレントエンジニア また、工事プロジェクトに参画する企業は、各工程内 リングやフロントローディングを実現して、建設生 の参加に留まるため、全体最適を考えることができ 産プロセスにおける全体最適を図るという点であ る の は、 発 注 者 だ け に な ら ざ る を 得 な い。 る。これが可能になると、一連のプロセス間の枠を超 i-Constructionでは、前述のようにコンカレントエ えた横断的な改善が図られ、生産性の大きな改善を ンジニアリングやフロントローディングの実現を目 期待することができる。しかしながら、現在のインフ 指しているが、この形の発注・契約体制では、その実 3 6 ンタル会社が必要に応じて関わることになる。 ● 114号 て建設会社に返すことになる。このため、発注者と企 業の関係に上下関係が入る形にならざるを得ない。 Part 1 特別寄稿 レントエンジニアリングやフロントローディングを プロジェクトの関係者が一緒に議論する形が作られ れば、その普及が進むことが期待される。 図−4 一括発注・契約制度によるプロジェクトの進め方 4 データの有効活用 CIMを基調にしたi-Constructionを展開する際に 現は困難と言わざるを得ない。 は、各種のデータを最大限有効に活用する方法を模 図−4は、 コンカレントエンジニアリングやフロン 索していかなければならない。生産性の改善は、デー トローディングを行いやすい発注・ 契約制度のイ タの取得方法と共にその利用方法に大きく依存する メージである。工事に関係する全企業は、工事プロ からである。一例として図−5にロックフィルダムの ジェクト開始の時点で契約し、それらの企業は、一連 造成工事において従来施工とi-Constructionの仕組 の工事プロセスの改善の議論に参加するというもの みを導入した場合で1日の作業効率が大きく異なる である。これを実現することができると、全ての企業 ことを示す。 は、全工程を通じて工事プロジェクトに参画するこ 土や岩塊を盛り立てて堤体を造成するロックフィ とができるため、各企業は、プロセスを横断して改善 ルダムの工事において従来施工では、ダンプトラッ の提案を行うことができる。設計や施工上必要な調 クで材料を運搬し、ブルドーザで敷き均し、法面部は 査項目、施工し易い構造設計、メンテナンスが容易な 油圧ショベルで整形する。この際、土砂の搬入に際し 構造なども議論することができる。また、これらの議 ては土量の集計をしなければならず、また整形作業 論では、発注者と企業が対等の立場で議論すること では、測量を行って丁張りを設置しなければならな ができ、また、発注者と参加企業が協働して 「全体最 い。敷き均された土はローラで締め固められるが、転 適」 を考えることができる。 圧回数の確認が必要となり、締固め面の測量を行い、 発注額の積算に基づく工事発注など、現行の発注・ 仕上げの出来形を計測しなければならない。さらに、 契約制度では変えることが難しい点も多く、また長 所定の締固めが行われているかどうか確認するた 期にわたり工事が継続される大規模工事では、各企 め、密度や含水比を計測し、施工管理を行わなければ 業が長期間そのプロジェクトに関わることになり、 ならない。これらのデータは、現場の作業終了後事務 継続して関わることのできる形を考える必要がある 所に持ち帰り、日報に整理されることになる。事務所 など、解決すべき課題は多いが、小規模なモデル工事 における日報の整理は、現場での作業終了後になる 等で試行的にこの発注・ 契約体制で工事を行い、長 ため、担当者は、日々遅くまで仕事をしなければなら 所・短所を見極めた上で、コンカレントエンジニアリ ない状況から解放されることはない。 ングやフロントローディングを実施することのでき る体制を模索していく必要があると考える。 東北の震災復興では、同様の考えから、事業促進 これに対して、i-Constructionでは、土砂搬入を管 理するダンプトラック運行管理システム等が導入さ れると、搬入されてくる土砂の土量はリアルタイム PPP (Public Private Partnership)が導入され、官民 で集計され、管理項目毎に帳簿が自動で作成される。 双方の技術者の多様な知識と経験を融合し、調査・設 また、ブルドーザによる敷き均しや油圧ショベルに 計の川上段階から事業の総合的なマネジメントを行 よる法面造成では、マシンコントロール(MC)やマ う取り組みがなされた。その結果、通常の道路事業で シンガイダンス(MG)による3次元施工システムが は、事業化から工事着手まで4年程度を要するとこ 導入されると、測量や丁張り作業を行うことなく、効 ろ、これを導入することで、約1〜2年程度で工事に 率よく、かつ高精度の施工を行うことができる。転圧 着手することができたなど画期的な効果が得られた 作業では、衛星測位システム(GNSS)やトータルス ことが報告されている テーション(TS)を用いた転圧管理システムを用い 。 CIMにおいてもコンカ 3),4),5) ● 114号 7 1 2 3 4 Part 1 ると、ローラのオペレータは、ローラの走行軌跡をモ ニターで確認しながら操作を行うことができるた め、むら無く確実に所定の回数で転圧を行うことが 5 おわりに でき、施工管理も大幅に削減することができる。日々 i-Constructionが動き出し、日本の建設が大きく変 の出来高や出来形は、 GNSS測量を用いると一人の わろうとしている。情報化施工を包含した形でCIMが 作業員で効率よく計測することができるとともに計 構築され、さらにそれを包含する形でi-Construction 測結果は即座にデータ処理されていく。これらの が提起された。 ある意味、 建設という技術がICTの導入 データは、 事務所のPCで集約管理され、各種集計表・ で進化していると見なすことができ、日本の建設が一 帳票として自動出力されるため、現場担当者の時間 段上の産業に変わる転機にさしかかっていると言え 外のデスクワークを大幅に削減することができる。 る。様々な場面でi-Constructionの確立に向けた取り これにより、現場において補助作業を行う人手を 大幅に削減することができ、またデータ処理の時間 短縮、データの転記等に伴うミスをなくすことによ る信頼性の向上を図ることができ、大幅な生産性の 向上を達成することができる。 図−5では、施工のプロセスのみを取り出して事例 を示したが、 「調査・測量→設計→施工→検査→維持 管理・更新」のあらゆる建設生産プロセスにおいて、 同様の合理化を図ることにより、さらなる生産性の 向上が期待され、今後、その方法を模索する必要が ある。 組みが進むことを期待する。 参考文献 1)一般社団法人日本建設業連合会:建設業ハンドブック2015版 2)総務省統計局ホームページ 3)岩崎泰彦:東日本大震災早期復興に向けた東北地方整備局の 取り組み-事業促進PPPをはじめとする東北の工夫-、土木 技術、第68巻3号、pp.18-23、2013年3月 4)岩崎泰彦他:事業促進PPPの導入効果について、建設マネジ メント技術、pp.45-55、2015年7月 5)近 藤和正他:事業促進PPPの導入効果の検証、土木学会第 70回 年 次 学 術 講 演 会 講 演 概 要 集、VI-185,pp.369-370、 2015年9月 図−5 従来施工とi-Constructionによる施工・施工管理の比較(鹿島建設・植木睦央氏提供) 8 ● 114号 Part 1 Part 1 特別寄稿 特別寄稿 現場(いま・ここ)からの報告 九州地方整備局・九州地方CIM導入検討会委員長 熊本大学大学院 先端科学研究部 教授 小林一郎 KOBAYASHI Ichiro 1 はじめに 筆者には、 CALS/ECの苦い思い出がある。第一に、 育成することが急務である。九州の取り組みは後述 する。⑤でいう専門家は情報学の専門家ではない。あ くまで、マネジメントを行うときにアドバイスがで きる専門家である。大学に求めることができなけれ ICT (情報通信技術)を具体的にどのように活用すれ ば、発注者のOBでCIMの適用事例が理解できる人を ば良いのかが誰にも見えなかった。第二に、実務とは 育成することも一案かもしれない。 無縁な細かなルール (たとえば、ファイル名の設定や さて本文では、筆者のCIM関連の取り組みの中で、 CADのコマンドの定義など)が議論され、CADを活 特に上記③から⑤に関連した話題のうち、技術的な 用したいという我々の意欲を削いだ。さらに第三で、 事柄ばかりではなく、様々な人との関わりについて CADで計算された面積や体積の精度はどのように 書きたい。建設事業は工学の上に成り立つが、各国 保証されるかといった、発注制度改革を伴う事項に (あるいは各地域)で独自の制度や慣習の下に実施さ 対し対応できなかった。 れているという意味では文化でもある。特に現場は、 その後、国土交通省九州地方整備局レベルで景観デ 人との関わりが重要である。CIMという新たな道具 ザインの普及に取り組んだときには、この経験が生か を、現場の人々に、いかに周知し、活用してもらうの された。その詳細は 『CIMを学ぶ』に書いたので、それ かに思いを巡らせることが急務であろう。 を読んでいただきたい。簡単にまとめると、次の5つ がセットとして保証されないと、地に足の付いた施策 にはならない。①全体を統括する制度、②具体的に職 員の間で実行するルール (やれば褒められる仕組み) 、 2 管理CIMの提案 まずは、発注者の話である。維持管理に関しては、管 ③発注者側の職員研修、④受注者側の職員研修、⑤プ 理者自らが考え、 CIMを活用した管理手法の提案をす ラットフォームとしての専門家集団の組織化である。 べきだと思っている。筆者は委員長を務める局の景観 九州ではこれらが、完璧とまではいえないにしても機 デザイン委員会をはじめ、各事務所の河川やダムの景 能している。 全国的にも珍しいことである。 観設計に関する実案件で、常に担当者と顔を合わせて CIMに関していえば、①は、i-ConstructionやCIM いる。 CIMに関しては担当部署が異なり、初めは、彼ら ガイドラインの策定を通し、ICT活用は施策として、 との交流が少なかった。しかし一昨年くらいから、各 ほぼ周知された。②は各事務所で試行がなされ、定着 事務所でデザイン関係で一緒に仕事をした方々が、局 していくしかないだろう。③はもう少し事例が増え の主要なポストに就き、河川やダムでのデータの管理 ていけば、おのずと仕組みはできると思っている。 へのCIM活用に関する議論が始まった。 『CIMを学ぶ』シリーズの発行は、この部分の支援で 私の河川管理モデルに関する提案(文献1)を踏ま ある。④については、まずはCADができる技術者を えつつ、河道管理に関する局の方針が示された。図- ● 114号 9 1 2 3 4 Part 1 1は、その発展型である。中心に基本フレームがあり、 ば、おそらく今後開発されていく各種ビューアーに 4方向にそれぞれの応用目的に従ったデータの項目 ものせやすいだろう。この部分に関しては、情報学の が示されている。局の会議でこれが示されたときに 専門家に知恵をお貸し頂きたいと思っている。 は、感動した。枠組みが簡単だ。世界測値系で記述さ なお、基本形からの展開は、実は各河川事務所の必 れた空間に、平面図と定期縦横断測量の結果を所定 要に合わせて発展型ができれば良いと考えている。 の位置に配置しただけである。また目的が極めて明 たとえば、河口周辺の整備のため右岸側の河川敷の 快である。つまり河道管理基本シートの見える化で 土工部体積を出したい事務所と、中流域の湾曲部で ある。また、既存の2次元情報を取り込むこともでき の河床の変化を観察したいところでは、画像の表現 る。 CIMの本道である 「見える化による関係者間での 方法が異なる(たとえば後者の場合、観測データのz 合意形成」をきちんと理解している。図-2は、完成イ 方向は10倍のスケールの方が見えやすい)。見える メージである。重要なのは、既存のデータが取り込め 化とは、正確に形状が表現されることではなく、関係 るだけでなく、当面は、考慮されていない様々な情報 者間で了解しないといけない事柄が、より理解しや (LPデータ、 MMSデータ、耐震対策やボーリングデー すいかたちで見えることである。デフォルメした方 タ等)を今後取り込むこともできる。データの持ち方 が良いときもあるし、いらないモノは全部消去した や表現形式等の基本形を簡単なルールにしておけ 方が解ることが少なくない。現在、九州地方整備局で は、特徴のある5河川で、試行的にこのデータを構築 することが決まっているらしい。単にモデル空間が 作られるだけでなく、基本的なデータ構成について のルール化(発注者側の仕様)も考えておいた方が良 いように思っているが、この件に関しては、関係者間 で、再び熱い議論が出来ることだろう。しかもこの部 分は、ローカルルールではなく、日本で統一されて行 くことが重要だ。いずれにしても、今年度中には明ら かになる成果を、いまから楽しみにしている。 3 図-1 河川管理CIM(国土交通省九州地方整備局提供) CIMチャンピオン養成講座 実際にモデル空間を誰が作るのかを考えると、最 終的には、コンサルや施工会社の技術者にCADを習 得してもらうことが重要だ。筆者の経験からも、設計 や施工のことが全く分からないCADオペレータが 作ったオブジェクトはどこかに違和感をもつ。作ら なくて良いところまで丁寧だったり、周辺を意識し ないので、境界でぶっつり切れていたりする。与えら れたものを正確に作っているという点では問題はな い。しかし多様に変化するモデル空間を使った問題 解決のためには、問題の本質がどこにあるかをある 程度予想できる技術者が作成すべきである。それは、 作成時間を短縮できるだけでなく、問題点をより明 図-2 河川管理CIMイメージ(株式会社東京建設コンサル タント提供) 10 ● 114号 確にし、建設プロセス全体の手戻りを防止するから である。ただし、最初から、このような趣旨の下に、モ Part 1 特別寄稿 デル空間作成のため統括責任者 (監理者)が決めら 表-1 平成27年度CIMチャンピオン養成講座年間プログラム 講座 れ、その人の指示の下でオブジェクトの作成をする のであれば、 問題はないかもしれない。 さて、上記の2点、①実際にCADソフトが自在に扱 える技術者、②CIM関連データの監理者をいかに育 成するのか。これは単に、 How toを伝授すれば良い ものではない。筆者はCADを駆使しCIMを推進する プレーヤーを育成したいと思っている。さらにその ようなプレーヤーに理解を示しつつ、CADは使えな くとも、その作成の勘所を理解し、適切なCAD作成 案件を見抜き、指示することでCIMの効果を最大化 することが出来る監理者の両方を育てるべきだと考 える。その様な考えで、 『CIMチャンピオン養成講座』 を開催している。 1社2名必ずペアで講習を受けることが条件で、年 配の方は、上記の監理者になって欲しい。若手は、社 内のCIMチャンピオンとして、習得した知識を社内 に水平展開して欲しい。表-1は昨年度の講座の年間 プログラムである。年配の方には、前半の講座をしっ かり聞いてもらうことにしている。後半の演習は若 手の出番。短期集中にしなかったのは、次回(約1ヶ月 後)までに何度か練習をし、質問をして欲しかったか らである。 そのために、 CIM-LINKで全員の質疑応答の場をも うけた。単純なFAQのような質問もあれば、早速実務 に使っているらしい質問もあった。講師陣の返事が 演習 「CIMの最新動向と事例 Civil3D の紹介」 第1回目 緒方正剛氏 Civil3Dの テ ン プ レート (6月27日) (一般財団法人 先端建 作成方法、サーフェスの 設技術センター) 作成、編集方法 第2回目 (7月25日) Civil3D 小林一郎教授 (熊本大学) Civil3Dを使用した土量 計算、3Dモデルの作成 「国 内/海 外 のBIM/CIM Civil3D プロジェクト事例」 第3回目 (8月22日) 福地良彦氏 Civil3Dテクニック集 (オートデスク株式会社) 「SketchUpのCIM国 内 SketchUp 事例紹介」 第4回目 (9月12日) 第5回目 「CIMを学ぶ」 重光崇雄氏 (VACS株式会社) SketchUpProを 使 用 し た課題作成(橋脚、ダム 堤体) 「Revitの利用事例」 Revit / SketchUp 小林優一氏 SketchUpProを使用した (9月26日) (八千代エンジニヤリン 課題作成 (非常用洪水吐) グ株式会社) 第6回目 「InfraWorksの利用事例」 InfraWorks 小林一郎教授 (10月24日) (熊本大学) 第7回目 InfraWorksを 使 用 し た モデルの作成・編集 「Navisworksの活用事例」 InfraWorks Subassembly Composer 椎葉祐士氏 によるサブアセンブリの (11月21日)(一般社団法人 施工技 作成、 Civil3DとInfraworks 術総合研究所) の連携 第8回目 「CIMの動向について」 Navisworks 山村洋平氏 NavisworksとNavis+の (12月19日)(伊藤忠テクノソリュー 基 本 的 な 操 作 方 法 に つ ションズ株式会社) いて 遅いときには、受講生の中でも、CADの詳しい人が、 色々と答えを投稿してくれた。 「CADのスキル」など というものは、部外秘にするようなものではないと 期待賞(年配組の優秀者)を選出し賞状・記念品を授 思っている。むしろ、これを通して、人的交流が起こ 与した。当初の予定では、チャンピオン・ベルトを作 り、全体のスキルアップが行われることを期待して り、その年のチャンピオンが一年間保持し、次年度の いる。また、この掲示板は次年度にも引き継がれてい はじめには返還式をするという案もあったが、見識 くので、初めての受講者は、過去にどのような質疑や や予算等諸般の事情で、いまだに実現していない。昨 応答があったのかを振り返って確認できる。 年は、期待賞の副賞として写真-1のようなCADオ なお、講師陣には、無理をいって東京から来て頂く こともある。できるだけ最新の情報を受講者ととも に学びたいと思っている。この場を借りて、謝意を表 したい。また実際に研究室で行っている実務に関連 した情報も受講生だけでなく、講師陣にも聞いても らい意見交換をしたいとも思っている。さて、講座修 了時には、 CIMチャンピオン (最終優秀賞) 、新人賞、 ブジェクトを作成し、3Dプリンターで出力したベル トのレプリカを贈呈した。 4 地形(『CIMを学ぶⅢ』) 国土交通省の各事務所職員にCIM事例を紹介した いという目的で、 『CIMを学ぶ』という冊子をつくっ ● 114号 11 1 2 3 4 Part 1 図-3 全体(俯瞰) 写真-1 上:ベルト(SketchUpで作成) 下:ベルト(3Dプリンターで出力) た。事例としてモデル空間を活用し、実際に完成した ものを探したが、国土交通省の事業では、曽木分水路 建設事業しかなかった。この事例と現在も続いてい 図-4 現場調査の様子 る熊本白川の激特事業をまとめた。さらに、新水前寺 交通結節点改善事業を事例とし、見える化の技法と 合意形成についてまとめたものを作りたいと考え 写真とモデル空間を並記している。A点は工事前に た。これは 『CIMを学ぶⅡ』として発行されることと は、アクセスできない場所であり、将来出現する良好 なった。 近日中には印刷されるはずである。 な視点場が発見された。B点は、推定通りの景観が確 また、来年春完成を目標にして、 『CIMを学ぶⅢ』をと 認されている。C点は、現場は木々に遮られ、対岸の りまとめることも決まった。 ここでは地形を取り込み、 山々が見通せないことが解った。しかし、この様な確 航空写真を張り込んだモデル空間で可能なことを、現 認ができれば、数本の木々を切ることで、すばらしい 在進行中の事例を通してまとめたいと考えている。 眺望がひらけることを示している。 最初の事例は、山国川の石橋保存とまちづくりを さてこの事例は、調査段階でのモデル空間の活用 考慮した堤防デザインへの事例である。中津市の教 の可能性検討であるが、被災地の発災直後の空間の 育委員会の方と作業を行った。現地調査に行く前の 読み解き(災害支援に入る前の、卓上シミュレーショ 段階でモデル空間を眺めることで何が解るのか。さ ン)としては極めて有効であると思っている。まだま らにはそれをもとに景観マスタープラン作成の基礎 だ、応用の可能性を検討する段階である。 資料を作れないかを議論した。図-3はAutodesk社 なお、 『CIMを学ぶⅢ』では、 3つのダムに関して、周 のInfraWorksで作成したモデル空間である。この中 辺整備の調査段階、設計段階さらに施工段階でのモデ に、石橋を作成し、景観検討を行った。その情報をも ル空間の活用事例をまとめて報告する予定である。 とに現地調査を行った(図-4)。通常は、一日歩き回 り、優れた眺望点を探し出す必要があるが、今回は、 モデル空間から数ヶ所の候補地点が決まっていたの で、 3時間くらいで効率よく調査ができた。図-5に、 12 ● 114号 5 CIM元年と3年発芽説 一昨年私が、 「九州では、今年がCIM元年です。皆で Part 1 特別寄稿 図-5 現地写真とモデル空間の比較 やりましょう」と話した。その原稿を読んだのか、人 者に石巻で講演する機会を作ってくれた。これも づてに聞いたのか、 昨年あるCIM関連の会議で、 「CIM あって、 石巻市の復興計画のなかで、CIMやCIM-LINK 元年!頑張りましょう」と挨拶された。わたしは、決 (SNS掲示板)の活用が計画され、このお手伝いをす して悪いことだと思っていない。九州では、毎年元年 ることにもなっている。 が繰り返されても良いと思っている。新たな気持ち 言い放しの講演会でも、受講された方に何らかの で、初めての取り組みをする人たちと協働できるの 知見を得ていただければうれしいが、そのような場 は、 常に新鮮なことである。 所でのCIMを介した出会いが、次に繋がっていった さて、その一昨年、 「各事務所に、 CIMの概要を出来 るだけ分かり易く、かつ、九州の事例のみで紹介した と言う意味で、CIMキャラバンは生涯で最も、痛快な 講演会であった。 い」という考えで、局のCIM担当者と筆者の考えが一 私は、長年国土交通省九州地方整備局の皆さんと 致し、九州7県を回る「CIMキャラバン」というのを実 おつきあいをするなかで、 「3年発芽説」と言うことを 施した。主としてその県の地方整備局の関係者に集 ボンヤリと考えている。その時の担当者が異動にな まっていただいた。受講者の多くは、まだ及び腰だっ り、新しい任地で、たまたまデザイン関係の部署にい たり、後から聞くと動員での参加も少なくなかった るとき、 「景観デザインやりましょう」と言いやすい らしい。しかし、鹿児島会場で聴講していた地場のコ し、私達も彼らも、お互いの気心が知れているので、 ンサル技術者から、 「他県だが国の発注者から是非砂 動きやすいようである。CIMもまた同じである。初め 防に適用したい」との意向があり、どうすれば良いで の出会いは、種を蒔く仕事であり、芽が出るまでは、 しょうと言う相談をうけた(これがCIMチャンピオ 待つしかない。百粒蒔いて一粒でも、芽が出るとした ン養成講座開催の発端である)。また、大分会場では、 ら、すばらしいことである。さらにその後も息長く成 人集めもかねてか工業高校の2年生全員が聴講した。 長を見守るのも我々の仕事であると思っている。 このご縁もあり、今年は高校での講演会が実現した。 さらに、佐賀会場では、講師の一人であったAさん (以前、ある事務所の所長をしておられ、環境アセス 関連の委員会でご一緒した)と再会した。その後彼 は、東北に転勤されたが、 CIMの実践を目指され、筆 参考文献 1)藤 田陽一、星野裕司、小林一郎、水野純生:複数の既存デー タを併用した河川管理CIMモデルの一考察、土木学会論文集 F3(特集号)Vol.71, No.2, I_79-I_86, 2015. ● 114号 13 1 2 3 4 Part 1 Part 1 特別寄稿 CIMに関する世界の動きについて 大阪大学大学院 工学研究科 環境・エネルギー工学専攻 教授 矢吹信喜 YABUKI Nobuyoshi 1 売されていた。しかし、当時は価格が非常に高く、 はじめに ハードウェアが実用化のレベルに達していなかった ため、一般的に利用される前に廃れてしまった。しか 建 築 分 野 で は、2004年 頃 か らBIM(Building In- し、2000年頃からAutodesk社やBentley社の3次元 formation Modeling) という言葉が頻繁に聞かれ 道路設計CADソフトウェアが徐々に広まり、ハード るようになり、 3次元モデルを中心とした建築物の新 ウェアが進歩したことも手伝って、道路の設計、施 しい設計・施工・維持管理の仕事の進め方として先進 工、維持管理においても、BIMと同じような考え方で 諸国を中心に広まっている。日本においても、2010 仕事をしようとする機運が高まっていった。 1) 年度から官庁営繕事業の対象事案に対してBIMを試 2011年、Marco Celelaという技術者・ 経営者 行し始めている2)。これに対して、土木分野では、3次 が、道 路 を 中 心 と す る 土 木 版BIMをCIM(Civil 元モデルの利用は一部の大規模工事などを除けば、 Integrated Management)と称し、連邦道路管理局 なかなか進まなかった。しかし、2012年、国土交通省 (FHWA:Federal Highway Administration)を主 では、土木版BIMをCIM(Construction Information に、米 国 全 州 道 路 交 通 運 輸 行 政 協 会(AASHTO: Modeling) と称して、 CIMの試行業務を開始し、 American Association of State Highway and 2016年度には 「CIM導入ガイドライン」を策定する Transportation Officials )、ARTBA(American 予定である。 CIMとは、3次元モデルを調査・測量・設 R o a d s a n d Tr a n s p o r t a t i o n B u i l d e r s 計から導入し、施工や維持管理まで利用することで、 A s s o c i a t i o n )、A G C( A s s o c i a t e d G e n e r a l 建設生産システム全体の効率化、高度化および生産 Contractors of America)の協力のもと、CIMの推 性の向上を図るものである。 進を提案した4)。 3) では、世界ではCIMに関してどのような動きをし 道路関係では、このCIMという用語を用いる人々も ているのだろうか、と気になるところである。本稿で いるが、一般的には、 BIM for(Civil)Infrastructure は、 CIMに関する最近の欧米の動向と国際標準化に (インフラBIM)と呼ぶ人が多いようである。ただし、 関する活動状況などについて紹介する。 2 米国におけるCIMの動き 2.1 米国のCIM 米国では、 1980年代半ばには、既に現在の3次元 道路設計CADとほぼ同じ機能を有する3次元CADシ ステムがComputerVision社やInterGraph社から販 14 ● 114号 本稿では、 単純にCIMと記すこととする。 (一財)日本建設情報総合センター(JACIC)は、 2015年9月、米国にCIMに関する海外調査団を派遣 し調査を行った。以下の3つの節においては、その報 告書5)から紹介する。尚、2013年9月に土木学会土木 情報学委員会が実施した米国のCIM技術調査につい ては、文献6),7)を参照されたい。 Part 1 特別寄稿 2.2 ウィスコンシン州交通局 トまでの目標を段階的に示している。また、人、プロ ウィスコンシン州交通局 (略称、 WisDOT)の方法 セスおよび技術のバランスを保つことが必要と考え 開発課 (MDU)は、3次元設計の有効性を高く評価し、 るとともに、トヨタ自動車のリーン(Lean)生産方式 州全体でのCIM導入のためのマニュアルなどを整備 とBIMを併せて導入している点が大きな特徴となっ している。 2008年にAutodesk社のCivil 3Dを導入 ている。 し、 2013年にWisDOTデザインモデルを定め、2014 年にその運用を開始した。CIMに関する教育・訓練に ついても熱心で、ビデオ教材を用いたオンライン教 育を導入している。 2.4 ニューヨーク市デザイン・建設部 ニューヨーク市デザイン・建設部 (略称、 NYCDDC) では、数年前から大規模プロジェクトを対象にBIM WisDOTの南東地域(SE) の管内にあるZooイン の導入を開始し、2012年にはBIMガイドラインを定 ターチェン ジ (IC )は、2本 の イ ン タース テート ハ イ め、対象構造物および詳細度(LOD)を定めている。各 ウェイと1本のUSハイウェイが交差する平均日交通 プロジェクトにおいて、受注者にはBIMガイドライ 量35万 台 の 大 規 模ICで あ り、2012年 に 着 手 し、 ンに基づいたBIM実行プランを30日以内に提出す 2020年度竣工を予定して大規模な改築工事を実施 ることを求めている。現在のBIMガイドラインは主 している。本工事の遂行に当たってはCIMを積極的 に建築物を対象としたものであるが、2016年に発行 に導入することにより、工事契約時に必要とされる 予定のガイドライン2.0ではインフラ構造物や施設 大 量 の 設 計 図 書 が 不 要 と な り、 工 種 間 で の 干 渉 管理への拡張を計画している。また、レーザー測量の チェックが容易となったことが確認されている。さ 有用性についても理解がなされ、BIMとの融合に取 らに、プロジェクトマネジメントにおいては、様々な り組んでいる。 文書管理をシステム化し、予算、工程、設計変更管理、 リスクなどの管理を実施している。また、 CIM全体の 調整役として 「CIMコーディネータ」が重要な役割を 担っていることが挙げられている。 3 欧州におけるCIMの動き 2015年10月にJACICは欧州にCIMに関する海外 調査団を派遣した。本章は、その報告書8)をもとに記 2.3 マサチューセッツ州港湾局 マサチューセッツ州港湾局 (略称、 Massport)では、 2012年から設計の正しい理解、 設計変更・干渉などに す。尚、2014年10月に土木学会土木情報学委員会が 実施した欧州のCIM技術調査については、文献9)を参 照されたい。 よる質問書 (RFI:Request for Information) の減少、 アセットマネジメントを目的にBIMの導入を進めて い る。 2015年 に、 “BIM Guidelines for Vertical and 3.1 英国 (1)英国全体の動き Horizontal Construction” 「建築物と土木構造物のた 2016年春から、英国政府が発注するほぼ全ての工 めのBIMガイドライン」を定め、概算費用に応じた 事についてBIMが義務化され始めた。これにより約 BIMの利用指針、 BIM実行計画の作成方法、建築物に 20%のコスト削減が実現されていることが調査に 関する詳細度 (LOD:Level of Development) を定め よりわかっている。また、2025年には、英国全体で完 ている。ここで、 Verticalとは 「鉛直の」ということから 全BIM化を図り、33%のコスト削減と50%の工期短 建築物を指し、 Horizontalは 「水平の」であるから土木 縮を目標としている。英国は、単に国内でのBIM化を 構造物を象徴している。 BIMもCIMも一緒にしたガイ 図るだけでなく、EU、中東、中南米、東南アジアから ドラインであることがわかる。 なる4つの地域ハブを設けたBIM4なる世界戦略を さらに、 2020年までのBIMのかなり詳細なロード マップを作成し、今後のプロジェクトマネジメント、 持っており、EU BIM Task Groupでこうしたプログ ラムを推進している。 教育・訓練、施設管理、統合的なアセットマネジメン ● 114号 15 1 2 3 4 Part 1 (2) 英国環境庁 英国の環境庁 (EA:Environmental Agency)は、 (3)王立英国建築家協会 王 立 英 国 建 築 家 協 会(RIBA )の 傘 下 に は、NBS 1996年に設立された、洪水対策、水路、運河、堤防な (National Building Specification) なる組織があり、 どの土木工事と環境保護に関する2つの役割を持つ この組織は共通化された仕様書を作成するためのプ 組織であり、 日本の環境省と国土交通省の水管理・国 ロセスに関する文書や仕様書書式の開発・運用を実 土保全局が合わさったようなものと思われる。EAで 施している。NBSでは、NBS BIMツールキットを開 は、 2011年に英国政府が制定したBIMの導入計画に 発している。このツールキットは、BIMレベル2を達 基づいて、 2012年から段階的にBIM推進組織を立ち 成するための様々な標準類が提供されており、BIM 上げて取り組んでいる。英国では、 BIMに関する標準 モデルとその仕様書、各種製品に関する情報、英国政 やガイドラインが整備されており、EAでもそれらに 府が整備しているBIMライブラリへもアクセスで 則って遂行することになるが、全てが当てはまるわ きる。 けではないため、組織に見合った運用をしなければ NBSは、詳細度についても定義し、ユーザが自分で ならない。標準やガイドラインを自分達で理解し、ど 詳細度を各部材に設定できるようなツールも提供し う運用するかを模索することが重要であり、改訂時 ている。NBSの詳細度は、幾何学的な情報に関する詳 には自分達のニーズなどを反映させることも重要で 細度をLOD (Level of Detail)とし、属性情報に関す ある。 EAでは、 3次元モデルが重要なのは当然として る詳細度をLOI(Level of Information)として、分け も、そのモデルにどの情報をどのように関連付ける て定義してあり、 LODとLOIを組合わせて、マトリッ か、ということがBIMに関しては重要だと考えて クスのように、部材のモデルを設定できる点が優れ いる。 ている。 EAでは、 2014年に外部のコンサルタント、建設会 社などによるワーキンググループ (WG)を組織し、 各WGのメンバーの中でBIMチャンピオンを指名し、 3.2 フランス (1)L2マルセイユBIMプロジェクト 彼らを中心に活発なコラボレーションができた。こ 建設コンサルタントEGIS社と建設会社ブイグ社 れにより、外部組織とEAとの間でパイロットプロ の協業により、延長11kmのPPPによる自動車道の ジェクトの成果や課題などを共有することができ、 設計施工維持管理プロジェクトに、BIMをフルに適 その情報を対外的にも提供している。 用させ、BIMによるインフラプロジェクト賞を受賞 EAにおいては、プロジェクトの各フェーズで業者 し た と の こ と で あ る。 本 プ ロ ジェク ト の 作 業 フ が提出する情報のテンプレートを定めており、各段 ロー、データ蓄積、データ共有には、Bentley社の 階でチェックゲートを設けて、クリアしたもののみ Project Wiseを使用し、設計や施工のチェックには が次のステージに進むように設定されている。受発 一切、2次元の図面は用いず、全て3次元モデルで 注者間の情報交換のために、 PAS (Publicly Available 行った。 可視化にはAutodesk社のNavisworksを Specification) 1192-3に基づくクラウドベースの 用いて、両ソフトウェア間でデータの共有も図っ 共通データ環境 (CDE)を構築している。 た。また、3次元モデルは、騒音解析ソフトにも使い、 EAでは、 BIM for TEAM2100と称するプロジェ 単なる可視化の利用以上の使い方をしている。これ クトを実施している。このプロジェクトは、テムズ川 らの努力により、3割から4割の時間短縮を図るこ の350kmに及ぶ堤防などを21世紀においてどう管 とができた。 理していくかという計画を策定するもので、BIMを フルに使いながら、段階的に、情報の流れを管理して いき、アセットマネジメントを高度化していくこと を目的としている。 (2)MINnDプロジェクト M I N nDは 、 マインドと読 み 、Modélisation des INformations INteropérables pour les INfrastructures Durablesの略で、 「社会インフラのための相互運用可 16 ● 114号 Part 1 特別寄稿 能な情報モデル化」と訳される。フランス政府も2割 り、4年間で約4億円をかけて研究開発を行ってい 程の資金は提供しているが、民間会社が中心となっ る。目的は、様々なステークホールダ間で、ライフサ て活動している。建設会社としては、ブイグ、ヴァン イクルを通じて、種々のソフトウェアやツール間で、 スィ等で、建設コンサルタントはEGIS等、研究機関 標準を用いてデータを交換するリンクトデータアプ としては、 CSTB(フランスの土研・ 建研にあたる)、 ローチやオープンデータをサポートするモジュール CEREMA (リスク、環境、流動、整備に関する研究・評 を開発することである。 価センタ) 、ソフトウェアベンダ、教育機関など約50 組織によって構成されている。 こ の プ ロ ジェク ト は、5つ の ワーク パッケージ と ユースケースから成り、前者は、現状把握、技術適用 調査、 試行・実験、情報のモデリング、 新規格の提案に よって構成され、後者は、IFC-Bridgeを含む6個の作 業に分かれている。 当初は、オープンスタンダードをサポートするソ フトウェアがほとんどなかった。そこで、オントロジ などを利用し、様々なユーザが情報交換できるよう な技術やツールの開発を目指している。 4 CIM関係の国際標準化 4.1 buildingSMART International 3.3 オランダ (1) 国立水管理局 (RWS) 1963年にIvan Sutherlandによって発明された CADは米国において瞬く間に航空機や自動車など RWSは、 1798年に設立された河川・道路・環境等 の分野で広まり、数多くのソフトウェア会社が異な を所管するオランダの土木関係の省庁で、オランダ るデータモデルに基づいてCADソフトを開発販売 国内最大の公共事業発注機関で、社会資本の情報管 した。そこで、お互いにデータの互換性を持たせる 理、 維持管理において重要な役割を担っている。 た め に、CADデータ の 標 準 化 さ れ た フォーマット RWSでは、 2012年からBIMの導入を開始し、2018 の 仕 様 I G E S( I n i t i a l G r a p h i c s E x c h a n g e 年までに21個の大規模なパイロットプロジェクト Specification)が利用されるようになった。しか を実施することになっている。 し、これは単なる図形情報しか対象としていなかっ 欧州やISOの標準を使いながら、データの共有を たため、1980年代から普及し始めたオブジェクト 図ることの重要性を認識している。そのため、パイ 指向技術に基づいた3次元CADソフトに対応でき ロット事業の一つとして、延長13kmの大規模な高 なかった。 速道路事業に、様々なデータ標準を適用させ、発注 そこで、部材をオブジェクトとして表現し、属性情 者、設計者、施工者の間でデータの共有や交換の改善 報をオブジェクトに関連付けることができる3次元 を図っている。 プ ロ ダ ク ト モ デ ル が 開 発 さ れ、1990年 代 に、ISO RWSでは、 IDM(Information Delivery Manual)、 10303(略称ISO-STEP)として標準化された。これ C O I N S( C o n s t r u c t i o n O b j e c t s a n d t h e に基づいて、機械系では標準化が進んだが、建築・土 Integration of processes and Systems )、GML 木は進まなかった。そこで、IAIが1995年に設立さ (Geography Markup Language )、CityGML、IFC れ、建築物のプロダクトモデルIFCの構築を開始し (Industry Foundation Classes)の5つのオープン た。IAIは、後にbSI(buildingSMART International) スタンダードを使用している。 に改名された。 bSIは、世界各国に支部(Chapter)を有しており、 (2) V-Conプロジェクト V-ConはVirtual Construction(仮想的な施工)の 日 本 の 支 部 は、buildingSMART Japan Chapterと 呼ばれる。従来は、日本国内では、一般社団法人IAI日 略 で あ り、 こ の プ ロ ジェク ト に は、 フ ラ ン ス の 本 と い う 名 称 で 登 録 さ れ て い た が、2016年6月、 CSTB、スウェーデンの交通局、オランダのRWSおよ buildingSMART Japan(略称、bSJ)に改名された。 びもう一つの組織の計4団体がメンバーとなってお bSJの中には、6個の委員会と11個の分科会(WG)が ● 114号 17 1 2 3 4 Part 1 存在し、活動している、当初は建築のみの活動であっ で、インフラ分科会では、フィンランドの国立技術研 たが、 2004年に土木分科会を設立した。 究 所VTTが 中 心 と なって、LandXML 1.2のMVD (Model View Definition)を2014年に開発した。こ 4.2 bSIのインフラ分科会 れ は、イ ン フ ラ 分 科 会 で 開 発 を 行って い るIFC 土木構造物のプロダクトモデルについては、2000 Alignmentが国際標準となって、民間のソフトウェ 年頃から、大学や研究所で研究はされていたが、国際 アに普及するまでの間のつなぎとしての役割を期待 標準化の活動が本格化したのは、 bSIの建築のIFCが して開発したものである。 ISO 16739となり、 bSI内にインフラ分科会が設立 された2013年からである。2013年10月にbSIのイ ンフラ分科会は正式に発足し、仏、独、蘭、スウェーデ (2)IFC Alignment インフラ分科会としては、LandXMLではなく、 ン、フィンランド、ノルウェー、米、豪、韓、日本がメン IFCのコンセプトに則った線形としての国際標準 バーとして加入した。インフラ分科会では当面、最も を 目 指 す べ く、IFC Alignmentプ ロ ジェク ト を 注力するプロジェクトとして線形モデルを選択し 2013年の設立時から開始した。このプロジェクト た。線形は道路、鉄道、トンネル、橋梁、河川などの要 では、道路、橋梁、トンネル、水路、河川などで利用 となるからである。次に注力するものとしては橋梁 可能な汎用的な線形が定義できること、平面線形 のプロダクトモデルIFC-Bridgeとし、3番目はデー と縦断線形を合成する方法を採用すること、横断 タ辞書と出来形データの2つのプロジェクトを選択 面、地形、道路構造などの要素は含めないことが合 した。以上4つのプロジェクトに対して、ワーキング 意された。 グループ(WG)を設置し活動すると共に、 GISの国際 その後、IFC Alignment 1.0の開発が開始される コ ン ソーシ ア ム で あ るOGC(Open Geospatial と、日本の道路線形の考え方やモデルが欧米各国と Consortium ) と 協 調 関 係 を 結 ん だ。OGCで は、 かなり異なることが判明した。特に、IP(Intersection LandInfraな る データ モ デ ル を 開 発 し て お り、 Point)を日本は重視するが、欧米は単に計算によっ L a n d X M L と G M L を 足 し て 、U M L( U n i f i e d て求まる点として軽視していることや、線形におけ Modeling Language)で記述したようなものと考え る曲線の関数が日本は、円弧とクロソイド曲線、2次 られている。 曲線の他に、3次曲線、サインカーブなど様々な関数 bSIでは、 Standards Summitと呼ばれる技術的な を用いているが欧米は比較的単純である点などの違 ことを議論し決定する国際会議を年2回、春と秋に開 いが明らかになり、我々は、欧米のメンバー達とかな 催している。 Standards Summitの間の期間は、幹事 り激しいやり取りを繰り返しながら、日本のニーズ 会が2週間おきにテレコンを開き、運営委員会は半年 を理解してもらい、様々な関数の曲線が加えられる に1、 2回テレコンを開いて、種々の取り決めを行っ ようにした。また、IPやステーションに関する事項に ている。 ついては、譲歩できると判断した。 こうして、IFC Alignment 1.0は、正式なbSIの標 4.3 bSIインフラ分科会のプロジェクト (1) LandXML 1.2のMVD 準として認められた。現在は、これを拡張してIFC Alignment 1.1の開発を実施中である。 bSIのインフラ分科会では、 2013年に線形モデル を最重要課題として選んだが、実務においては、既 に、プロダクトモデルとは言えないが、 LandXMLが 18 (3)IFC Bridge フランスのSETRA(現在のCEREMA) は、1998年、 道路等の線形データに関する実質的な交換標準とし 橋梁のプロダクトモデルとしてOA-EXPRESSを開 て広く利用されていた。ただ、 LandXMLのデータを 発したが、IFCが建築物のプロダクトモデルとして認 コンピュータディスプレイ上でどのように表現する 知され始めたことから、IFCに似た構造のデータモデ かという点については、何ら規定がなかった。そこ ルに変更し、2002年にIFC Bridgeとして公開した。 ● 114号 Part 1 特別寄稿 一方、筆者は独自にPC橋梁と鋼桁橋梁のプロダクト 日本は注視していくとともに、こうしたプロダクト モデルを同時期に開発した。そこで、両者を合体させ モデルの国際標準化活動に、国が関与することが望 てIFC Bridgeを開発することとし、 2007年まで二国 ましいのではないかと考えられる。 間共同研究を実施した。しかし、その後、大きな進展 はなく、 MINnDプロジェクトでフランスは様々な検 討 を 実 施 し た も の の、 標 準 化 は な か な か 進 ま な かった。 5 おわりに 本稿においては、CIMに関する米国と欧州のうち 一方、米国では、2014年から突然、独自に橋梁プロ 英、仏、蘭の3カ国の動きおよび土木構造物のプロダ ダクトモデルBrIM(Bridge Information Modeling) クトモデルの国際標準化に関する活動状況について を開発した。現在、IFC BridgeとBrIMを融合させた 紹介した。 モデルの開発を行う方向でbSIインフラ分科会では 進んでいる。 米国は、昔からBIM/CIMを牽引してきており、実 際、ウィスコンシン州、マサチューセッツ州、ニュー ヨーク市などにおける取組みからも、その先行性が (4) その他のプロジェクト 伺える。一方、欧州では、英国が非常に積極的であり、 bSIイ ン フ ラ 分 科 会 で は、そ の 他 に、IFC Asset 国として不退転の決意で取り組んでいる様子がはっ Management、 IFC Digital Built Enivironment、IFC きりとわかる。フランスとオランダは、英国の様子を Overall Architectureなどのプロジェクトが立ち上 見て、国際標準をうまく利用しながら、実際のプロ がり、 進行中である。 ジェクトを効率化して、実を取ろうという姿勢が伺 えた。また、欧米の建設コンサルタントやゼネコン 4.4 韓国と中国のIFC Road & Railway 韓国は、以前からインフラの3次元プロダクトモ は、国外でのプロジェクトに積極的にCIMを適用さ せている。 デルの開発と標準化による国際社会への貢献をし bSIのインフラ分科会については、2016年10月 たいと考えていた。そこで、KICT(Korea Institute of に発足して3年を迎える。当初は、IFC Bridgeなど Construction Technology)が、2012年から道路の はもっと早く国際標準になる予定であったが、bSI プロダクトモデルであるIFC Roadの開発に着手し、 における国際標準化の手続きが官僚化しつつあり、 2016年現在で、ほぼ完成の域に達している。 bS韓国 時間がかかっている。さらに、米国がBrIMを突然、 チャプターおよびKICTでは、IFC RoadをISOにしよ 作成したため、どのように進めるべきか思案のしど うと考えていたが、時間とコストがかかることから、 ころである。韓国のIFC Roadと中国のIFC Railway PASとする方向で進めている。 はアジアからもプロダクトモデルの国際標準を提 一方、 2015年10月にシンガポールで開催された 案するのだ、という強い意志が感じられたが、欧州 bSI Standards Summitに、bS中国チャプターが初 の壁もあり、今後はPASとしての道を進むことに めて参加し、清華大学や鉄道局の関係者約10名が、 なる。 鉄道の3次元プロダクトモデルIFC Railwayを披露 日本は、CIMの試行を2012年に開始し、相当数の し、インフラ分科会の参加者を驚かせた。 2016年4 試行事業を実施し、2016年度にはCIM導入ガイドラ 月にオランダで開催されたbSI Standards Summit インを策定することとしており、それなりにやって に再び参加し、開発状況のプレゼンテーションを行 いるとも言えるが、国際標準化においては、大きな貢 い、欧米諸国のメンバー達が特に熱烈に歓迎をして 献をしているとは言い難い。実が取れれば、名誉は要 いた。鉄道インフラの海外輸出は、日本はもとより、 らない、という考え方もある。しかし、今後は、将来の 欧米、中国にとっては重要であり、その根幹となるプ 公共事業投資額の減少、インフラ輸出の促進などを ロダクトモデルを中国が開発し、将来的には国際標 考えれば、国としてもう少し攻めの姿勢も必要なの 準や少なくともPASになる可能性があることから、 ではないかと考える次第である。 ● 114号 19 1 2 3 4 Part 1 5)一般財団法人日本建設情報総合センター:平成27年度CIMに 参考文献 関する海外調査 教育・訓練調査(米国方面)調査報告書、 1)C huck Eastman, Paul Teicholz, Rafael Sacks, Kathleen Liston: BIM Handbook, A Guide to Building Information Modeling for Owners, Managers, Designers, Engineers, and Contractors, Second Edition, John Wiley & Sons, 2011. 2)国 土交通省:官庁営繕事業におけるBIMモデルの作成及び利 用に関するガイドライン、2014. 3)国 土 交 通 省:CIMの 概 要、< http://www.mlit.go.jp/tec/ it/pdf/cimnogaiyou.pdf >(入手 2014.9.15) 4)矢吹信喜:CIM入門 -建設生産システムの変革-、理工図書、 るCIM技術調査2013報告書、2014. 7)土 木学会土木情報学委員会米国CIM技術調査団:米国におけ るCIM技術調査2013について、建設ITガイド、一般財団法 人経済調査会、pp.36-41, 2014. 8)一般財団法人日本建設情報総合センター:平成27年度CIMに 関する海外調査 要領・基準・ガイドライン調査(欧州方面) 調査報告書、2016. 9)土 木学会土木情報学委員会米国CIM技術調査団:欧州におけ るCIM技術調査2014報告書、2015. 2016. 20 2016. 6)土 木学会土木情報学委員会米国CIM技術調査団:米国におけ ● 114号
© Copyright 2024 Paperzz