動画共有サイトとテレビの今後

駒沢大学 小林ゼミ 2008 年度 卒業論文
動画共有サイトとテレビの今後
大竹
直樹 1
1 序論
2 変わるテレビの視聴方法
2-1 視聴率
2-2 1歩先に行く米国のテレビ事情
2-3 テレビが抱える問題も先取り
3 動画共有サイトの効力
3-1 インターネットの普及
3-2 動画共有サイトとは
3-3
YouTube について
3-4
YouTube のメリット、デメリット
3-5 インターネット広告とビジネスモデル
4 動画共有サイトとの付き合い方
4-1 変わる広告の手法
4-2 告訴から共存へ
文献一覧
1 序論
2006 年、YouTubeが 16 憶 5000 万ドルでグーグルに買収された。その翌年の東京での記者会見
で、YouTubeのデービッド・ユンが放った言葉がとても印象的だった。
「例えばマーティン・ルーサー・キングのことを知りたいと思えばグーグル検索ができるよう
になり、地図上で関連ある施設を探すことができるようになりました。そして今ではグーグルブ
ック検索では関連の資料を見つけ出せ、YouTubeではマーティン・ルーサー・キングのフィルムを
見つけ出すことが出来ます。また例えば誰かが撮影したトルコの民族舞踊の動画があったとしま
す。そんな映像がこの世界に存在することに誰も気づかないかもしれない。しかしYouTubeにアッ
プすればその映像が必要な人が気づくことになり、利用されることになります。」 2
いわゆるロングテール理論をかれは語った。そして、彼らは世界中に存在する動画をインター
ネット上に乗せたいのだと続ける。しかし、YouTubeには課題が残っている。他の動画共有サイ
トも同様である。そうした中で、どうビジネスを展開していくのか。テレビと動画共有サイトに
的を絞って議論したいと思う。
1
おおたけ
なおき
駒澤大学
経済学部
2岩戸佐智夫『著作権という魔物』p10
経済学科
4年
EK5378
動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
第 2 章ではインターネットの普及によって生じたテレビの視聴方法の変化について、米国の実
例を参考にし現在テレビの置かれている状況について考える。
第 3 章では課題を抱えている動画共有サイトの現状とその秘めている可能性についてYouTube
を基盤にして考えていく。
第 4 章ではこれまでの議論を踏まえて、テレビとインターネットの融合について考えていきた
い。
2 変わるテレビの視聴方法
2-1
視聴率
これまで、テレビ CM の市場価値を測るものさしは視聴率しかなかった。視聴率とはスポンサ
ーの CM がどれだけ見られているかということと同義だった。しかしいまや、視聴率の価値は崩
壊寸前まできていると思う。現在の視聴率は、地上波、BS、CS、CATV でリアルタイムに放送
されているものだけを対象に集計されており、録画は含まれていない。視聴率モニターは、統計
学的に正しい抽出方法によって選ばれてはいるが、テレビ放送時間帯に在宅している人が対象と
いう時点で、すでに大きなバイアスがかかってると考えられる。テレビの視聴スタイルが大きく
様変わりしつつあることを考えれば、今後は番組の人気度を測るバロメーターとして、既存の視
聴率だけではなく、
「録画率」や「再生率」なども調査されないと意味がないだろう。むしろ、ハ
ードディスクレコーダーや VTR、ワンセグ、ネット配信などにおける視聴率もきちんと調査する
手段を確立すべきだと考える。さらに言えば、広告主は視聴率よりも、商品およびサービスへの
購買活動につながったか否かで番組を評価すべきであると思う。
また、最近のコマーシャルは最後の 2 秒間に「○○○で検索」というメッセージを付けたもの
が増えているが、実はこれによって、テレビ CM からネットへの誘引率が計算できるというメリ
ットがある。これまでは、ゴールデンタイムやプライムタイムと呼ばれる視聴率の高い時間帯の
番組に提供していればよかったが、ハードディスクレコーダーの普及によって放送時間の概念が
なくなり、
「とりあえず皆が見ている番組に広告をだす」というのではなく、ターゲットを明確に
してスポンサーに付く番組を選ぶようになるだろう。
そうなると放送局側も、ネットと連動した番組づくりで、広告主に対して視聴率ではなく、番
組を放送することによるトラフィック増加や EC での直接販売という価値をアピールしていくこ
とも考えられる。いまだにテレビのビジネスモデルは広告主がいて初めて番組放送が成り立つと
いうものが中心で、有料放送でさえ、CM なしでは継続運営が難しい。考え方によっては YouTube
よりも貧弱なビジネスモデルかもしれない。
広告主は視聴率によって「媒体価値」を判断し、テレビ局や製作会社も視聴率のみを重視して
きた。その結果、「月 9」などと呼ばれるプライムタイムのドラマに人気俳優が集中し、夜 10 時
になったらどの局もニュースを流し、内容は同じでキャスターだけが違うというおかしな状況に
なっている。しかし、そんなテレビをたとえ一日中見ている人たちがいたとしても、その人たち
が CM で見た商品をどれほど購入してくれるだろうか。最近は深夜時間枠ばかりか昼下がりでも
通販事業者による番組型 CM が台頭しているが、彼らは CM 映像を垂れ流すだけの旧来型の広告
2
動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
主とは異なり、コマーシャルが直接販売に結びつくことにこそ価値を感じているのだろう。いま
のテレビでは、視聴者と広告主、テレビ局が乖離しているような気がしてならない。広告主は視
聴者と繋がれなくなってきているのではないか。企業のウェブサイトで視聴者による CM 作成を
公募する例が増えているのも、CM だけに頼ったアプローチに広告主が限界を感じているからで
はないだろうか。今こそ、視聴率ではなく新しい価値観の創造が不可欠である。
2-2
1歩先に行く米国のテレビ事情
見たいときに見たい番組を視聴するスタイルは、米国ではすでに定着しており、「ティーボ
(Tivo)」が台風の目になっている。これは、全米で 100 万人のユーザーを抱えるハードディスク
レコーダーのトップブランドである。これを発売するティーボ社は SGI(米国の大手コンピュー
タメーカーで、CG などの映像製作機能にすぐれた機器やソフトを販売している)の元社員が中
心となって、1997 年に設立された。ユーザーはティーボ製のハードディスクレコーダーを購入し
てインターネットに接続すると、自動的に番組表が表示されるようになる。この番組表は日本の
ハードディスクレコーダーのものとほぼ同じで、実はソニーの「おまかせスゴ録」のキーワード
録画機能もティーボのライセンスを受けている。おもしろいのはそのインターフェイスで、気に
入った番組は一覧の上のほうへ、気に入らないものは下へボタンひとつで移動させることで、お
好みの番組表が作れるのである。そのうちにティーボはユーザーの嗜好を判断してオリジナルの
番組表を分析し、その後は好まれそうな番組を自動的に録画するようになるのである。あるドラ
マがはじまるとその番組が最終回を迎えるまで、放送時間が変わったり、延びたりしても自動的
にすべてを録画してくれる「Season Pass」
(日本の 1 クールに当たる言葉を米国では 1 シーズン
という)機能もある。すべておまかせできるところが、ソファに座ってひたすら好きなテレビを
見ていたいという米国流のスタイルに適合し、大ヒットしているのである。米国は地上波や CATV、
衛星を含めると 1 万 8000 にも上るチャンネルがあるので、ティーボはそうした米国の事情なら
ではの機能で支持を集めているといえるかもしれないが、日本でも多チャンネル化は進んでおり、
見たい番組のすべてを自分で追いかけることが困難になりつつある。米国のようにできるだけた
くさんの番組を録画しておいて、後で検索して好きな番組を好きな時間に見るという視聴スタイ
はもっと定着するのではないだろうか。
最近では、インターネットの人気コンテンツをティーボにダウンロードしてテレビで見られる
サービスも登場している。ティーボの中のハードディスクでは「通信と放送の融合」が実現され
ているのだ。ユーザー側に立って考えてみれば、放送だろうが、通信だろうが、テレビで見るか
どうかの違いなのである。
2-3
テレビが抱える問題も先取り
ティーボが定着し、
「ロスト」や「ディスパレートな妻たち」といった人気ドラマが、テレビで
放送された翌日からアップルコンピュータの iTunes Store で購入できるようになった。価格もた
ったの 1.99 ドル。技術の進化よりもサービスの進化の速度が向上している米国では、テレビの存
在がますます危うくなっている。
アップルコンピュータは 2006 年 9 月、マッキントッシュ上に保存した映画を無線 LAN でテレ
ビに転送する「iTV」を 2007 年度中に発売すると発表した。すでに、iTunes Store ではハイビジ
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動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
ョン画質の映画コンテンツも発売されており、新作は 12.99 ドル、旧作なら 9.99 ドルで購入でき
る。アップルコンピュータは「放送を受信するテレビ本来の機能と競合するつもりはない」とコ
メントしているものの、コンテンツを再生するディスプレイをテレビ局と奪い合うことになるの
は事実であり、またも、テレビ局の存在意義は危うくなりつつある。
2006 年 9 月には、米国の優れたテレビ番組に贈られるエミー賞の授賞式がおこなわれた。その
授賞式の中でも、中継を担当する大手テレビ局の NBC が他局やインターネットにその地位を奪
われつつあることや、ティーボを使って見たいところだけをスキップしてみている視聴者が増え
ていることが揶揄されていた。さらに、一部のノミネート作品は iPod や携帯端末で紹介されてい
たことから、いかに視聴者の視聴スタイルが変わってきているかがわかる。
3 動画共有サイトの効力
3-1 インターネットの普及
2005 年末時点で、全世界のインターネットユーザーは、全世界人口の約 6 分の 1 に当たる 10
億人に到達した。さらに、高速回線を利用するブロードバンド加入者は 2 億 5000 万人で、日本は、
米国、中国についでブロードバンド加入者が多く、その普及率は 17.5%という数字が出ている。
かつて、インターネットの前に流行したパソコン通信は、当時はまだ高価だったコンピュータ
を購入できて、月額数千円のプロバイダー料金とさらに同額以上の電話回線料金が支払え、さら
にコンピュータ・リテラシーを持つ限られたユーザーしか利用することができなかった。だが、
インターネットはパソコンの普及や低価格化、プロバイダー同士の競争など、様々な要因が重な
って、あっという間にパソコン通信を追い抜き、普及していった。また、ケータイ等、簡単にイ
ンターネットに接続できる機器がたくさん登場したことにより、老若男女を問わずインターネッ
トが使われるようになり、日本ではすでにパソコンを使うより、ケータイを使ってインターネッ
トへアクセスする人のほうが多くなっている(総務省が 2006 年に公表した情報通信白書によると、
2005 年度末時点での国内ネットユーザーは 8529 万人で、そのうち、ケータイでインターネット
にアクセスしている人は 6923 万人と、パソコンの 6601 万人を上回っている)。
さらに、こうしたインターネットに接続する端末の進化だけではなく、インターネット自体も
ユーザーが使いやすくなるように進化を続けてきた。ウェブ 1.0 というポータルサイトの時代か
ら、ロングテール、集合知などユーザー同士が情報交換できる時代、ウェブ 2.0 へと進化した。
この急速な変化が我々の生活を便利にした反面、様々な社会問題も同時に引き起こしている。
以下では、動画共有サイトに焦点を当てて議論していきたい。
3-2 動画共有サイトとは
動画共有サイトとは、インターネット上のウェブサイトのうち、動画を投稿し、他のユーザーが
無料で閲覧可能な状態にする(共有する)ウェブサイトのことである。
動画共有サイトでは、映像コンテンツはユーザーによってアップロード(投稿)され、リクエ
ストに応じて再生される。コンテンツの再生はウェブブラウザを通じてストリーミング方式で行
われる場合が多い。
4
動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
動画共有サイトはデータ保存や処理などに際して膨大なコンピュータリソースやネットワーク
インフラを必要とするため、ながらく実現していなかった。2005 年から 2006 年にかけて、米国
のYouTubeの登場を契機に、動画共有サイトは一挙に一般的なサービスとして普及していった。
2007 年 11 月現在、国内外で数十単位の動画共有サイトが運営されている。
代表的な動画共有サイトとしては、YouTubeをはじめとして、MetacafeやGoogle Video などを
挙げることができる。また日本国内のサービスとしては、ニコニコ動画や字幕.in、Askビデオな
どがある。この他にも多く存在するが、代表的なものを次で紹介したい。
3-2-1 動画共有サイト紹介
日本
字幕.in
なんとか動画
ニコニコ動画
ニフティービデオ共有
ワッチミー!TV
アメリカ
Google Video
Metacafe
MySpace Video
Veoh
YouPorn
YourFileHost
YouTube
フランス
Dailymotion
中国
我楽(56.com)
土豆(Tudou)
優酷網(Youku)
韓国
Daum
Pandora TV
ここに紹介した多くのサイトは著作権には寛大で、多くのアニメや映画、ドラマが丸々アップ
されている。また、さほど人気のないサイトでは削除の要請もされていない。まさに、無法地帯
と化している。
3-3 YouTube について
ペイパル社の従業員であったチャド・ハーリー、スティーブ・チェン、ジョード・カリム
ら
が2005 年2 月 15 日にカリフォルニア州サンマテオでYouTube社を設立した。設立のきっかけはハ
5
動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
ーリーらが友人にパーティーのビデオを配る方法として考えた結果に作った技術を使い、
「皆で簡
単にビデオ映像を共有できれば」と思いついたことによる。
現在、YouTube の一日あたりのページビュー(ページが視聴された回数)は1億以上でユニー
クユーザー(視聴者数)は 600 万以上。動画ファイル総数は 4000 万で、毎日 3 万 5000 ずつ追加
されているという。米国の調査会社のニールセンネットレイティングスが 2006 年 7 月 21 日に報
告した調査結果によると、米国内における YouTube のユニークユーザーは1月には月間 490 万人
だったが、6 月には 1960 万人と 297%増加。ページビューは1億 1760 回から 7 億 2400 万回と、
515%の増加。ビジターのサイト滞在時間は平均 17 分から 28 分へと拡大するなど急成長を遂げ
た。
また、米国の調査会社コムスコア・メディアメトリクス社の発表によると、2006 年 7 月におけ
る世界の YouTube のユニークユーザーは、実に 6341 万 1000 人(米国のビジターは 1608 万人)、
世界中から一日あたり平均で 620 万 5000 人が YouTube を訪れた。これは全ウェブサイト中 17
位であるという。YouTube サイトでのビデオ閲覧数は世界全体で 29 億 7500 万回となり、一日の
閲覧数が 1 億回を突破したことが証明された。
YouTube は日本からのアクセスも多い。ネットレイティングスの調べによると、2005 年 12 月
に月間 20 万人だった視聴者数が、2006 年 3 月には約 10 倍の 212 万人になり、5 月には 400 万
人を突破。日本のネットユーザーの 5.2%が YouTube を利用しており、しかも 1 人あたりの利用
頻度や視聴時間はすでに米国を上回っている。
ただ、2006 年 7 月にコムスコア・メディアメトリクス社がオンラインでビデオ再生を行ってい
る米国のユーザー数を調べたところ、全体で 1 億 650 万人で、ユニークユーザーは 1 位がYahoo
で 3790 万人、2 位はMySpace Videoで 3740 万人、3 位はYouTubeの 3050 万人となっている。
再生数では、1 位はMySpace Videoで 14 億 6000 万件。2 位はYahooで 8 億 1200 万件、YouTube
は 3 位で 6 億 4900 万件となっている。
3-4YouTube のメリット、デメリット
動画共有サイトのメリットは原則として無料であること。簡単に動画を見れることにある。今
ではどの動画共有サイトでもたいした差はないが、その基盤を作った YouTube のメリット、デメ
リットについて考えていこうと思う。
YouTube のメリットは 6 つにまとめられる。1 つめは無料で大量の動画をアップロードできる
投稿機能である。YouTube の創業当時にも、すでに動画投稿サイトはあった。しかし、そのほと
んどが有料で、大容量とうたっているポスティングサービスでさえも、せいぜい数十メガバイト
程度の容量しか提供していなかった。それが、YouTube では無料で 500 メガバイト、時間も無制
限というものだった。現在のアップロード容量は 100 メガバイト、1 コンテンツあたりアップロ
ードできる時間は 10 分までという規約があるが、ディレクターアカウントをとれば、それ以上の
長さのコンテンツの掲載も可能になる。この規約は、YouTube の人気ゆえのもので、他の多くの
動画共有サイトでは、容量や時間制限をしているところは少ない。アニメや映画を丸々1 本アッ
プロードできるサイトも存在する。
2 つめは、膨大な作品の検索を可能にするタグ機能である。YouTube では動画ファイルをアッ
プロードする時に「タグ」と呼ばれるデータを書き込むことができる。これは、ファイルの中身
6
動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
を識別するための商標のようなもので、例えば「飼い猫のおもしろ映像」だったら「猫」
「ペット」
「タマ」
「曲芸」など、映像に関連したキーワードを設定しておくと、視聴者はそれをもとに作品
を検索できる。どんなタグを付けるかは人気のあるタグの一覧が表示されるようになっているの
で、そこから選ぶこともできる。いまやタグがなければ、膨大な量の投稿動画の中から気に入る
作品と出会うことさえままならないのだ。このように、ユーザーが主観でタグをつけてコンテン
ツを分類することを、
「フォークソノミー」という。この「タグ」機能はいまや、動画共有サイト
にはなくてはならないものになっている。
3 つめは動画でコミュニケーションする共有機能である。YouTube で気に入った動画があれば、
見終わった後の画面に表示される「Share」ボタンから友達にメールを送って映像のありかを紹
介し、共有することができるのも画期的な機能の一つだ。会員になれば、ボタン一つで友達に紹
介できるようになっている。また、気に入った作品をまとめて保存しておく「My Favorites」、
自分の放送局が作れる「My Channel」などを通じて、コミュニケーションを図ることもできる。
さらに、「My Groups」でグループを作って、SNS のように、趣味の合う知り合い同士で動画を
共有することもできる。しかし、一番はアップロードした動画に対する反応が動画で帰ってくる
ビデオトラックバック機能を使ったときだろう。だが、このコミュニケーションの機能で優れて
いるのは、YouTube よりも、ニコニコ動画のコメント機能だろう。このコメント機能とは、アッ
プロードされている動画に対し、リアルタイムでコメントを書き込めるという機能である。この
コメント機能で、視聴者と視聴者、視聴者と投稿者が意見、感想を交換できるという斬新で優れ
た機能である。
4 つめは埋め込みタグによるブログスフィア活用である。YouTube にアップロードされた動画
ファイルは動画像を軽くするため、自動的にフラッシュファイル形式に変換される。実際には、
このファイルが埋め込まれた HTML ファイルが、その映像専用のページとして表示されるのだが、
そのページの URL と、映像を埋め込むための Embed タグを自動的に書き出してくれる。そのタ
グをコピー&ペーストするだけで自分のウェブサイトやブログに簡単に貼ることができる。この
機能も、他の多くの動画共有サイトファイルの変換形式に多少の違いはあるものの共通のもので
ある。
5 つめは控えめな宣伝である。YouTube の収益構造は広告モデルのはずだが、お目当ての動画
が再生される前に強制的に CM を見なければならないという「プリロール CM」のビジネスモデ
ルを採用していない点もユニークである。他の動画共有サイトと比べても、
「プリロール CM」を
採用していない動画はかなり少ない。
6 つめはおおらかな著作権保護対応である。違法コピーされた映画が 1 本まるごとアップされ
ていたり、人気のアニメが全話そろっていたりと、YouTube のコンテンツの量は膨大である。見
逃した番組を YouTube で探すという使い方をする人も多い。また、削除対応が緩やかだったとい
うのも YouTube の爆発的な人気の一つである。現在は「MD5 ハッシュ」という技術が使用され
ていて、著作権侵害の通知に基づき削除されたファイルと同一のファイルがアップロードされた
ときにブロックされるようになっている。また、視聴者からの通報ボタンというものも設置して
ある。ニコニコ動画も同様な措置を取っている。しかし、他のさほど人気のない動画共有サイト
ではまだまだ無法地帯なサイトも多い。
デメリットとしては、著作権問題が一番大きいだろう。今のところでは、テレビ録画した動画
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動画共有サイトとテレビの今後
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がそのまま投稿されていたり、ドラマや映画、音楽に至るまで様々なコンテンツがアップロード
されている。2006 年には民放各社と NHK、JASRAC からの削除要請があり、約 3 万件の違法動
画が削除された。MD5 ハッシュという自動フィルタリングサービスで違法動画を投稿できない
ように対策はしているのだが、それでも完璧ではない。YouTube は世界中から絶え間なく、1 分
間に 6 時間分の動画がアップロードされているという。それを完璧にチェックする技術を開発で
きるようになるまでは、もうしばらく時間がかかりそうだ。
さらに、それと並行して問題になっているのがトラフィック量の問題だ。
「インターネットただ
乗り論」とも言われており、従来インフラ業者が負担してきたインターネットの維持費を、大容
量のコンテンツ配信を行っている事業者にも負担させるべきだという議論が起き始めている。特
に動画配信サイトは扱うデータ容量が大きく P2P ファイル交換ソフトと並んで、トラフィックに
対する負担が大きい指摘されている。インターネットサービスプロバイダーの IIJ の調査では、
ユーチューブの映像が日米間の回線の 6 分の 1 を占めているという。総務省が立ち上げる調査研
究会では、インターネットのインフラを構築・維持する通信事業者やプロバイダーとその上でサ
ービスを提供するコンテンツ事業者やサービス事業者の間で適正なコスト負担について議論する
としている。この議論の行方は、YouTube のこれからにも大きくかかわってくるだろう。これは
他の動画共有サイトでも同様にいえる問題である。
3-5 インターネット広告とビジネスモデル
YouTube も、それを買収したグーグルも、ビジネスモデルの基本はインターネット広告である。
では、どれだけこのネット広告に市場があるのか。
2006 年 2 月 21 日に電通が発表した資料によると、2005 年の国内のインターネット広告費は、
前年比 54.8%増の 2808 億円まで拡大し、2004 年の 1814 億円から 1000 億円近い増加を見せた。
2006 年に入っても市場は 3 割近く増加して、実際には 4826 億円に達した。現在ではそれ以上に
拡大し、雑誌広告(2006 年は 4777 億円)を抜くことになった。なお、この調査でいう「インタ
ーネット広告」のなかには個人サイトを介して商品を宣伝・販売する「アフィリエイト」と呼ば
れる手数料ビジネスや、サイトユーザー間のコミュニケーションから生まれるバイラル効果は含
まれていない。そのためこのデータ以上に市場は拡大しているだろう。
さらに世界全体の広告費は 2005 年の約 3980 億ドルから、2008 年には約 4690 憶ドルに拡大す
ると予想している。その中で、インターネット広告は、2005 年の約 198 億ドルから 2008 年には
約 342 億ドルへ拡大すると予想されている。
また、広告費全体に占めるインターネット広告のシェアが、英国とスウェーデンでは 2007 年
に世界初の 10%を超えると予想。2008 年末までには日本や韓国を含む計 8 カ国でも 2 ケタ台に
なろうとしている。
動画広告は普及しつつあるが、その名称は「インターネット CM」「ストリーミング広告」「リ
ッチバナー」と様々に呼ばれている。さらに、動画の本編が始まる前に流れる CM は米国で「プ
リロール広告」と呼ばれている。そこで、インターネット広告推進委員会(JIAA)では動画広告
を「インターネット CM」の名称で統一すると発表。その定義を以下の 4 点としている。
1、インターネット、携帯電話などの通信回線上のサービスの広告スペースに掲載されるもの。
2、映像と音楽を使用し、時間軸で展開される広告。
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3、映像・配信技術による区分は特にしないが、ストローミング式とダウンロード式では権利者
の許諾条件が異なるため区分して明記する。
4、地域限定配信の有無なども許諾条件上、明記が必要。
こうして新たに定義された「インターネット CM」に期待されるのは市場の拡大だ。上記にあ
るように、今後はインターネットで映像を見るユーザーが増える傾向にある。ブロードバンドの
普及といったインフラの整備も進んでおり、携帯電話や iPod などのシリコンメディアの普及もふ
くめて動画を気軽に見る機会が増えていくだろう。また、インターネットでは CM から商品情報
へパーマネントリンクを貼ることができるので、ユーザーの関心が喚起されているうちにアピー
ルができる可能性が高い。そして、見たい情報が簡単に検索できるということも重要だ。メタデ
ータなどにより動画データも検索しやすくなり、見たいものが見たいときに見られる。また、自
分が気に入ったコンテンツがあれば、友達にメールで伝えられるし、RSS などのフィード機能で
購読の習慣を提供することも容易だ。さらに、バイラル効果への期待も高い。最近では、無料ブ
ログであっても動画を貼り込めるものが多い。
4 動画共有サイトとの付き合い方
4-1 変わる広告の手法
上記のようにインターネット広告のシェアの拡大により、広告の世界に大きな変化がおきはじ
めている。これまで、CM とはテレビで流すだけのものであった。しかし、これからの CM は
YouTube や特設サイトなどを通じてインターネットで広げ、消費者に参加してもらう、消費者に
製品の詳しい説明をする、消費者に主導権を与えるといったように、CM の役割が変化している。
日本でもフジテレビが運営する動画投稿サイト「ワッチミー!TV」でエースコック「はるさめヌ
ードル」のオリジナル CM コンテストを実施したり、NTT 系の「クリップライフ」で映画『名犬
ラッシー』のプロモーション用に、ユーザーの愛犬映像を募集したりするなど、消費者が生成す
るコンシューマ・ジェネレーテッド・コマーシャル(CGCM)の活用例がいくつか見られる。ま
た、森永の「アロエヨーグルト」の CM のように CM の中で検索窓が表示され、それを検索する
と、特設サイトで CM の続きが視聴できるようになったり、森永の社員による詳しい製品の説明
を視聴したりすることができる。こうした、CM とインターネットの連携で新たな価値を創造し
ようとしている。
こうした、広告の変化のメリットは以下のように整理できる。
1 つめは、URL ではなく「検索」でキーワードを打ち込む方式をとっていることだ。かつては、
URL を読み上げるのが一般的であった。しかし、URL を一字一句間違えずに入力するよりも、
「検
索」でキーワードを入力するほうがはるかに簡単で、すぐにお目当てのサイトへたどり着くこと
ができる。
2 つめは、目的のページに直にリンクされているという点である。もともとインターネットの
世界では、
「リンクはトップページに貼る」というのが暗黙の了解であった。というのも、記事ご
との URL を持つブログとは異なり、普通のウェブサイトではサイトの構造を変えることがしば
しばある。そのとき、直にリンクされたファイルが表示するページは見られなくなってしまうか
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動画共有サイトとテレビの今後
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らだ。また、特設サイトに直にリンクされていたほうが消費者にとっても分かりやすく、探す手
間も省くことができる。
3 つめは SEO 対策ではなくユニークなキーワードを設定している点である。SEO とは簡単に
説明すると、企業が自分の会社や商品名に関するキーワードを検索する際に、検索エンジンの上
位に表示されるように工夫をすることである。検索エンジンの表示順は、他サイトからの被リン
ク数など様々な条件で決まるため、自社の名前を入れたから最上位に来るとは限らない。そこで
SEO 対策が必要になる。しかし、それよりも他のサイトと競合しないようなユニークなキーワー
ドを設定してしっかり上位に検索されることが重要だろう。「覚えやすく」「製品をイメージさせ
る」「他に使われない言葉の組み合わせ」が必要である。
4 つめは 15 秒で伝えきらないことを補うことである。こうした特設サイトには、俳優やアイド
ル、イメージキャラクターによる商品の説明や解説、さらにはゲームやプレゼントの応募等がつ
いているものもある。そして、サイトを見ていくうちに製品情報にたどり着くというものである。
こうして、CM をさらに深いものにさせることが可能になった。
5 つめは「友達に教える」ボタンの設置である。この「友達に教える」ボタンほど効果的なバ
イラル効果はない。友達に教えたくなるといのはサイトへの最大の評価である。YouTube が真っ
先に用意したのは「Share」ボタンだった。
6 つめはテレビでは見られないコンテンツの設置である。
「アロエヨーグルト」の CM は本編で
3 本、サイト用で 8 本もある。サイト用の CM の撮影はテレビに流すよりもコストが削減できる
というメリットもある。特設サイトでは CM の一覧が表示してあったり、テレビで流すよりも少
し長い CM が見れたり、CM の続きが見れるサイトも多い。また特設サイトでしか視聴できない
CM などもあり、視聴者を楽しませるための工夫がなされている。
企業が、コマーシャルはテレビだけのものではないことを意識しはじめたのが 2006 年。最近
はそういったコマーシャルであふれている。これから重要なのは、視聴者とどれだけサイトで親
密なコミュニケーションがとれるか、ということだ。
4-2 告訴から共存へ
YouTube といえば著作権、著作権といえば YouTube といってもいいくらい、何かと YouTube
と著作権侵害問題はセットで扱われることが多い。確かに今のところ YouTube には、録画した番
組をそのままアップロードしている動画も多数ある。そうした、著作権侵害により動画の削除要
請もあとを絶たない。しかし、対策をしていないわけではない。YouTube 側でも問題のある動画
は削除され、問題のあるユーザーもはじきだされていく。しかし、問題のある動画のアップロー
ドと削除のいたちごっこを繰り返している。
しかし、そんな YouTube と協力関係を結ぶ企業も多い。
米国で YouTube が注目を集めるようになったのは、米 NBC の人気番組「サタデーナイトクラ
ブ」で放送された映像が YouTube で公開されてしまったのがきっかけだった。NBC は 2006 年 2
月に削除依頼を申し立てた。すぐに動画は削除されたが、おかげで YouTube の知名度は一気に上
昇することになる。NBC は別の案件でも YouTube に訴訟を起こしているが、一方で 2006 年 6
月にはその YouTube と一転して協力関係を結ぶことを発表した。今後は積極的に YouTube に対
して広報活動をしていくという「同士戦略」へと手のひらをかえしたのだ。
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動画共有サイトとテレビの今後
(大竹)
その後、YouTube の人気が高まるにつれて、他のメディアも積極的に YouTube を利用するよう
になり、続々とその効果が表れている。テレビ側も、自身の番組を注目してくれる装置に対して
評価し始めているのだ。
テレビ局からの著作権侵害や訴訟問題で違法サイトのレッテルを貼られた YouTube は最初の
頃はすぐに消えてしまう企業のひとつと思われていたが、実際には全く逆の展開が訪れた。
YouTube を目の敵にしているはずのテレビ局をはじめとしたコンテンツメーカーが次々と提携を
持ちかけてきたのだ。
まず、ワーナー・ブラザーズが YouTube と提携し、同レーベルが権利を保有する音楽ビデオを
無料で配信できるようにした。現時点ではまだ所属アーティストとの条件の詳細を検討中だが、
YouTube のユーザーはワーナー・ブラザーズの所有する楽曲やアーティストのインタビューやビ
デオのメイキングなどを合法的に利用できる可能性が出てきた。また、複数の音楽レーベルを持
つ UMG が、条件づきながらもワーナー・ブラザーズと同様に、ユーザーが所属アーティストた
ちの作品を投稿できるようにすると発表。ほかにも、ソニーBGM はストローミング広告での提
携を目指しており、CBS はユーザーが CBS ブランドのテレビ局からニュースやスポーツ、ゴー
ルデンアワー番組を買い取ることができるようにするという。
そしてついに、2008 年 10 月 23 日、音楽著作権管理事業者である社団法人日本音楽著作権協
会(JASRAC)との間で、JASRAC が管理する楽曲の YouTube における利用に関する包括的な
利用許諾契約を締結した、と発表した。YouTube はすでに、株式会社ジャパン・ライツ・クリア
ランス(JRC)、株式会社イー・ライセンス(e-License)とも包括利用許諾契約を締結しており、
日本で最大の楽曲数を管理する JASRAC による許諾が加わることにより、ライセンス取得済み
の音楽著作物(曲および歌詞)の範囲が国内最大級のオンラインサービスとなる。この契約によ
る許諾は、レコード会社が制作するミュージックビデオ等の公式コンテンツにおける楽曲の利用、
ユーザーが作成するオリジナルビデオにおける楽曲の利用を含む、YouTube のサービス一般にお
ける管理楽曲の利用を対象としている。
まだ著作権問題が解決されたわけではないが、お互いを活かしたビジネスモデルを展開できる
ようになってきているのは事実である。
文献一覧
1. 岩戸佐智夫『著作権という魔物』アスキー新書
2008 年
2. 歌田明弘『ネットはテレビをどう飲み込むか?』アスキー新書 2007 年
3. 岡村 黎明
『テレビの 21 世紀』岩波新書 2003 年
4. 神田敏晶『ウェブ 3.0 型社会』大和書房 2007 年
5. 神田敏晶『YouTube 革命』ソフトバンク新書 2007 年
6. 北村行夫『情報化社会と著作権』コピライト
1990 年
7. 佐々木俊尚『ネットVSリアルの衝突』文春新書
8. 境 真良『テレビ進化論』 講談社現代新書
2006 年
2008 年
9. 名和小太郎『ディジタル著作権』みすず書房 2004 年
10. Joseph Jaffe著
織田 浩一 訳
『テレビCM崩壊 マス広告の終焉と動き始めたマーケティン
グ 2.0』2006 年
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