消化器疾患と旅行医学東京医科大学病院消化器外科・小児外科准教授土田明彦消化器疾患の中で、旅行をする際に支障となる病態は種々あるが、基本的に症状がないか、ごく軽度の場合には特別な対策を講じる必要はないことが多い。また、中等度以上の症状があっても、薬物療法などによって病状が十分にコントロールされている場合には同じく支障がない場合が多い。しかし、旅行では生活環境や食生活が大きく変化して体調を崩す可能性が高いため、特に、医療機関で治療中の患者さんに関しては、事前に主治医と相談して、病状が悪化した場合を念頭に置いて、十分な予防と対策を講じることが必要である。今回の講演では、人工肛門と旅行をテーマにお話したい。人工肛門の適応は、大腸癌・膀胱癌などのがん疾患、潰瘍性大腸炎・クローン病などの炎症性腸疾患、先天性疾患などであり、本来の肛門から便の排出が不可能な場合に、大腸もしくは小腸の一部を排泄孔として腹部の皮膚に造設する。ストーマとは、手術によって便や尿を排泄するために腹壁に造設された排泄孔を指す。パウチとは、ストーマからの便や尿を受ける袋のことであり、防臭性のある積層プラスチック製の使い捨ての製品。オストメイトとは、ストーマを持つ人のことで、人工肛門保有者、人工膀胱保有者ともいう。オストメイトが外出の際に困っていることは、一般のトイレには、ストーマ交換の際に作業スペースやストーマ装具などを手近に置く場所がないこと、トラブル発生時にストーマ周囲の皮膚や身体の汚れた部分の温水洗浄ができないこと、ストーマ装着を適切な位置に貼り付けるための下腹部を映す鏡がないこと、通常の便器では立ったままストーマ装具から排泄物を排出できないこと、身障者用トイレなどの入口にオストメートマークの表示がないため使用できないこと、等々である。オストメイト対応トイレに必要な設備としては、汚物流し台（サーモスタット付きハンドシャワー混合栓、水石けん容器、ペーパーホルダー）、カウンター（汚物流し台上部奥側：ストーマ装具・用品などを置くスペースと装着・交換のための作業用）、ダブルフック（汚物流し台の脇：小物入れ用）、化粧鏡（ストーマ周辺の腹部を映せるもの）、汚物入れボックス（足踏み開閉式）、衣服・手荷物用フック（複数のフックを設置）、収納式着替え台（汚物流しの近くにセット：服の着替え用）などであるが、 2006 年 12 月にいわゆる「バリアフリー新法」が制定され、公共トイレには、高齢者や子供連れ、車いすの利用者だけではなく、オストメイトへの配慮が義務化された。これによって、オストメイト対応トイレは急増し、公共の建物、駅、高速道路サービスエリア、学校、病院などの公共トイレを中心として全国 8000 箇所以上に整備されている。これらの情報は、オストメイト JP のホームページで検索できる。旅行での注意点は、１）慣れない場所での装具交換や体調の変化で使用枚数が増える可能性があるため、宿泊日数の中で装具を交換する予定枚数より多めに持参する。２）旅行先で装具を入手できるところを事前に確認する。また、飛行機に乗る時の注意点は、１）機内にはさみは持ち込めないので、初孔式の面板を使用している場合は、あらかじめ面板をストーマの大きさに穴をあけておく。２）荷物を預ける場合には、機内持ち込みの手荷物に装具を 1 セット入れておく。３）上空では、機内の気圧が少し低くなるためストーマ袋内の空気が膨張することがある。海外旅行での注意点は、１）海外では日本とトイレ事情が違うことがあるので、旅行の前に現地のトイレ事情を調べて、事前に準備をしておくと安心である。２）海外旅行ではスーツケースが紛失するトラブルもよく聞かれるので、装具の保管はスーツケースの 1 箇所にまとめず、数箇所に分散したり、可能ならば、同伴者の荷物にもいれてもらったりする。３）海外では、時差や食事の違いから、体調を崩してしまうこともある。病院などにかかる際には、英語や渡航先の言語で書かれた診断書や、簡単な会話文を用意しておくと便利。４）海外で灌注排便法をする時は飲料水を使用する。しかし、現地で灌注排便法が実施できない状況があるかもしれないため、自然排便法に切り替えられるようにしておく。５）渡航先では日本で販売している装具が販売されていないこともある。また、装具が不足した場合も考えて、渡航先で購入できる場所を調べておくと安心である。参考資料１）社団法人日本オストミー協会（http://www.joa-net.org/index.htm）２）ストーマ・イメージアップ・プロジェクトチーム（http://www.siup.jp/）３）オストメイト JP（http://www.ostomate.jp/）４）TOTO （http://www.toto.co.jp/products/public/p00003/index.htm）