NPOの将来展望 成熟した新しい社会を創る総合的力量を持つ セクター

<NPOの将来展望>
NPOの将来展望
成熟した新しい社会を創る総合的力量を持つ
セクターへの挑戦
0 展望の視座
「市民による公共」を担うにあたって、「社会的役割」と「発展の軌跡」をどう描くか
95 年の阪神淡路大震災では、社会がシステム不全に陥る中、駆けつけたボランティアが現場の
ニーズを拾い、自発的に創造的に行動していった姿が社会的な注目をあびた。緊急ニーズだけで
なく、被災者の立場に寄り添ったボランティアやNPO活動に対して独自の価値が認められ、N
POは従来専ら行政が担うとされてきた公共とは異なる、いわば「市民の参加による公共」を生
み出す存在であるという評価が生まれた。そして、NPOを育てるための法的基盤をつくろうと、
1998 年に特定非営利活動促進法が成立・施行された。
それから6年、NPO法人数は、2005 年1月末に全国で 20,350、愛知県で 634 を数える。2004
年には法改正があり、活動分野も社会ニーズの要請に応える形で 12 分野から 17 分野に広がった。
介護保険の分野では、数億円の事業規模を持つNPO法人も現れ、事業体としての展望が描ける
NPO法人も出てきた。また、任意団体も含めてNPOへの社会的注目は高まり、新聞などの登
場数も飛躍的に増加した。
他方、90 年代後半から、日本社会の形を転換していこうという方向性は、切実な必然性が加わ
ってきた。行政改革の推進、企業の社会的責任の遂行、住民自治の基盤づくりなど、行政や企業、
地域コミュニティなどのセクターも新たな社会づくりに向けて役割の転換が求められ、その方向
性をNPOとの協働を軸に、模索しようとしている。
しかし、NPOがこうした社会的な期待に応えうる内実を伴っているかというと、地域社会で
の認知は充分でなく、県内のNPOの財政規模は 100 万円未満の団体が約 60%、有給職員のいな
い団体が 80%という脆弱な組織基盤にある1。そこで、NPOへの期待と現実とのギャップが存在
する中、NPOは自らの社会的役割の軸をどう規定するのか、また、それを実現するための発展の
軌跡をどう描くのか、以下の項目を柱に展望した。
①
経済・政治・社会の変化の中で、自らの社会的役割をどう捉えるか。
②
社会の変化に対して、NPOとしてどんな活動分野を担い、開発・強化していくのか。
③
自らの組織展開の方向性をどう設定し、取り組んでいくのか。
④
他のセクターとどんな関係をつくることで、どんな効果が生まれていくのか。
⑤
③④を進める上で、中間支援組織はどんな役割を果たすべきか。
⑥
市民の参加をどう促進して、力を発揮していくのか。
1 「あいちNPO自己紹介ガイドブック」(2004 年、愛知県発行/(特)市民フォーラム 21・NPOセンター編集)p.9∼p.13
3
1 NPOの社会的役割
「社会問題の対症療法」だけでなく、「新たな価値や制度を創造する」役割をも担う
経済・政治・社会が変化し、新たな質の社会問題が続出してくる中で、市民が社会的課題に取
り組んでいく仕組みであるNPOは、一層重要な意味を持つようになる。
これらの社会問題は、制度が整うのを待つのではなく早急な取り組みが求められる。しかし、
同時に社会変化に即した新しい制度の確立に向けて働きかける必要もある。また、多様な主体が
自発的に力を出し合って、協働して解決していく方法もある。他方、人間の尊厳・生きがい・価
値観に関わる問題は制度だけで解決することは難しく、市民による内面を伴った働きかけが意味
を持つ分野もある。
これらを踏まえて、市民が社会的課題に取り組み、新たな公共をつくっていく展開の仕方を整
理し、NPOの社会的役割を展望してみた。
下図のように、社会的課題への<取り組み目的>と、<取り組みが及ぶ範囲>の2本の軸で整
理すると、NPOの社会的役割は4つの領域に分かれる。
■(横軸)取り組み目的
目前の社会問題に対応する
⇔
新しい価値や制度を創造する
■(縦軸)取り組みが及ぼす範囲
一人ひとりのニーズや行動形式に影響を及ぼす
⇔
社会的に共有され、
仕組みや制度に反映される
■4つの領域
1の領域
ニーズへの直接対応・サービス提供を行う
2の領域
人々の生きがい・学習・社会参加を促進する
3の領域
地域社会で、多様な主体の力を結集し、課題に取り組む
4の領域
制度や基盤を提案し、つくる
社会
4の領域
3の領域
地域社会で、多様な
主体の力を結集し、
課題に取り組む
制度や基盤を提案し、
つくる
問題対応
価値創造
2の領域
1の領域
人々の生きがい・教
育・社会参加を促進
する
ニーズへの直接対
応・サービス提供を
行う
4
個人
この4つの領域の分布は、NPOが担う社会的役割の総合性を示すものであると同時に、4つ
の領域がバラバラに存在するのでなく、相互に関係しあうことで、セクターとして社会を新しく
つくり変えていく展開ができることを示している。
従って、将来のNPOの社会的役割としては、当面の問題の対処療法だけでなく、上記のよう
な総合的な役割が果たせる存在になっていくことが求められる。
そのためには、個々の団体の中で多元的な力量(例;高齢者へのサービスを行うだけでなく、
高齢介護制度について提言していく)を持つこと、セクターとしてバランスのよい発展ができる
よう資源の配分や支援体制を整えていくこと、相互に関係を持って新たな活動を開発していくこ
と、を課題として挙げることができる。これらを通して、NPOセクターの総合的な力量が形成
され、市民が社会的課題に取り組み、新たな公共をつくっていく役割を果たしていくことができ
る。
5
2 NPOが将来担っていく活動分野
各領域の活動特性と領域を融合した活動展開について
前述した4つの領域分類ごとの活動特性を例示するとともに、領域を融合させる方法を含め、
NPOがどのように活動を展開していくことが社会で意味を持つことができるかを考え、NPO
が将来担っていく活動分野を展望してみた。
1の領域;多様なニーズ・少数者のニーズへの直接対応、サービス提供を行う
〇これらのサービス供給の対象者として、高齢者、傷病・障害者、虐待される子ども、引きこも
り、DV被害女性、在住外国人等をあげることができる。経済格差が広がり、家族やコミュニ
ティの絆が弱体化していく中で、
「健常者で安定した職業を持ち家族と暮している」という平均
的なライフスタイルとは異なる市民層が増えることが予測され、セイフティネットを受け持つ
役割はますます重要になっていく。
〇NPOは、彼らの生命の安全を守ることにはじまり、食事や住居などの基本的生活ニーズに応
え、医療・教育・移動など社会サービスの保障に至るまで、様々な働きをしている。社会保障
制度が後退・変容する中で、行政が最低限の生存権の保障部分を受け持つ役割になってくるな
らば、NPOの役割として、特に以下の点が期待されるだろう。
・新しい少数者の存在・ニーズを発見し、その解決策を彼らと共に考えること
・制度にないニーズに緊急に個別に対応すること
・生存権にとどまらず、人格を尊重され生きていくために必要な社会サービスを形成すること
【領域を融合した活動展開の方向】
ニーズへの直接対応から、それを社会化し、当事者や間接的なステークホルダーが解決に向け
て参加できるような展開が求められる。
領域分野
領域1×領域3
領域1×領域2
領域1×領域4
活動分野例・活動発展例
高齢者や障害者など移動困難者をサポートする移動サービス活動を行うだけで
なく、コミュニティバスをNPOが運営し、地域での移動の自由を確保する。
多文化を社会資源として捉えビジネス化する「エスニックビジネス」の支
援など、外国人が日本社会で力を発揮し、それが日本社会にとってもメリ
ットをもたらすような支援を行う。
バリアフリーのまちづくりに関して、少数者の考え・意見を個別要求だけ
でなく、多数派が納得する提言づくりに結びつけ、制度に反映させていく。
2の領域;人々の生きがい・学習・社会参加を促進する
〇人生の満足度や生活の質を問われる成熟社会では、
「個性が尊重され個人の存在が受け入れられ
る」
「多様性を尊重しつつ全体で調和していく」といった共生の価値観を社会として育てていく
必要がある。また、「精神的な支え」
「達成感を得る機会」「他者との関係づくり」「社会参加の
6
機会を創出」などを充実させていくことが重要課題になる。
〇今回の調査でNPO関係者が強調していたのは、新しい生き方を提示する、社会づくりの担い
手として市民参画を推進する、地域・世代間の交流を促進する、という役割であり、具体的に
は、以下のような活動分野や機能が挙がった。
・問題を解決することに価値観を持って、幸せややりがいを感じるといった生き方を青少年に提
示していく、また、経験の機会を与える。
・学校教育における社会参加やサービスラーニングのカリキュラムづくりが必要になる中、教職
員の研修にNPOが参画・協働していく。
・ボランティアやNPO活動の現場での経験を通して、多くの市民が社会問題に気づき、自立し
て考え、社会を変えようと動くようになる。
・高齢者・女性・子どもなど多様な市民がNPOに関わり、社会の一員としての意識や社会参画
への意欲を持ち、社会的統合を進めていく。
・外国人が持つ独自性を尊重する社会にするため「共生」の概念を育てる。
【領域を融合した活動展開の方向】
活動の中で培われた人々の価値観・社会参画意欲を、具体的ニーズや社会的な活動に結びつけ
るマッチング能力を持った展開が期待される。
領域分野
活動分野例・活動発展例
領域2×領域3
領域2×領域1
領域2×領域4
退職者が中心となり「麺」を通したまちづくりにしようと、地域の集まり
や学校教育で出張講座などを行っている。
高齢者の立場に立ったIT教育を高齢者が中心的な教え手となり展開して
いる。趣味の集まりのインフォーマルなグループも傘下に設け、高齢者の
社会参加を幅広く展開している。
一つの川の流域で、水道料金1トンあたり1円を森林整備のために拠出し
てもらう仕組みをつくった。上流部と下流部の関係を意識し、資源を守り、
資金を循環するシステムづくりを進めている。
〇国連「持続可能な社会のための教育の 10 年」が 2005 年からスタートするように、よりよい社
会をつくるための人々の価値観を教育する重要性が認識されている。このためには、従来の環
境教育・自然教育・国際理解教育・開発教育・平和教育・まちづくり教育などの高度な融合性
が求められ、NPO相互の経験交流も必要となる。
3の領域;
地域社会で、多様な主体の力を結集し、社会課題に取り組む
〇環境保全・まちの活性化・防災・防犯といったように、コミュニティをベースに多様な地域主
体の力を結集することで、課題の解決に取り組む分野も多い。特に、行政改革・市町村合併が
進む中で、一律の行政サービスは縮小し、これらの課題を地域が自立的に解決していくことが
求められるようになる。
〇地域ぐるみでの取り組みの際に、特にNPOに求められるのは、専門性と生活者としての視点
を持ち合わせ、新しい切り口・アイディア・アプローチをもって、多様な地域主体を参加させ
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る牽引力である。
【領域を融合した活動展開の方向】
コミュニティで問題を解決していくためには、小さなニーズ・個人のニーズの要因を見極め地
域の問題として捉えていくこと、地域の問題を自分たちの問題として責任を持って取り組む意
識づくりが必要になる。
領域分野
活動分野例・活動発展例
領域3×領域1
領域3×領域2
領域3×領域4
4の領域;
当事者の許可を得て、高齢者・障害者の訪問介護を行うNPOが把握して
いる災害時の個別ニーズを地域組織の役員も共有して災害時に備える。
青少年の非行を防止し、地域ぐるみで青少年育成に取り組むことを目的に、
スポーツを通して地域と子どもたちを結びつける活動を行う。
防災系NPOが小学校区と連携し、防災用備蓄品の整備、避難所体験、家
具転倒防止作業などを展開している。さらにこれをモデル化し、防災技術・
理論として広く普及させていく。
制度や基盤を提案し、つくる
〇社会の課題に対する中長期的・包括的な取り組みの中で、有効に課題を解決していくためには、
「取り組みの内容を政策化していく」「人・金・情報といった活動を支える資源を循環させる」
「基盤を確保・活用していく」ことが必要である。
〇具体的には、以下のような活動が展望された。
・地域課題について議論する場をつくる。
・地域のデザインを分野を越えて作っていくプラニングを行う。
・実態を明らかにし、課題を広く共有し、社会変化につなげていくような調査活動を行う。
・NPOが提案し、公共事業化していく試みを推進する。
・地域づくりやNPO強化につながる人材バンクをつくる。
・投資市場、地方税の一部をNPOに指定寄付できる仕組みをつくる。
・インターネット等の情報発信を活用して、NPOの取り組みを社会の共通認識にしていく。
・公共施設の運営を受託し、地域の活動を育てる拠点をつくる。
【領域を融合した活動展開の方向】
領域分野
領域4×領域1
領域4×領域2
領域4×領域3
活動分野例・活動発展例
子育てのニーズ、高齢者のグループホーム、デイケア、生活相談応対とい
った個別ニーズを、包括的に対応する拠点(小規模多機能型ケア施設)を
公共施設(公営住宅の一角など)でNPOが運営する。
市民が、自分たちの地域の問題を解決する事業を育てていくために、自ら
投資を行い資源を循環していく「地域資源バンク」を創設する。
地域での課題を可視化し、地域デザインを作っていく役割を果たす。例え
ば、自分のまちのゴミがどのように処理され、どれくらいのコストがかか
っているのか、どの方法が適しているのかを行政と対等に検討していくプ
ロセスを作っていく。
8
3 NPOが発展していくための組織展開
個々のNPOの組織運営強化、NPO同士の協働、他セクターとの協働
NPOが社会に根付いた発展をしていく上で、どんな組織展開が必要になってくるのか。1)
個々のNPOの組織運営、2)NPO同士のネットワーキングと協働、3)
「行政」
「企業」
「地域
組織」といった他セクターとの協働の3つのレベルで、将来に向けた展望を行った。
1 個々のNPOの組織運営強化
1 社会的使命を明確にし、共有した上で活動を行う
〇社会的使命に共感し、それを実現することを目的として活動を行うNPOにとって、社会的使
命を明確にし、関係者の間で共有しておくことは基本である。しかし、設立当初に設けた使命
と外的・内的環境の変化との整合、関係者の増加・事業の拡大に伴い使命の再確認と共有が必
要になる事態が生まれている。また、NPOとしての使命が希薄なまま組織を立ち上げるケー
スも増えてきており、NPOとしての使命の再確認がこれまで以上に大切になる。
2 継続的・効果的な事業を行う
〇NPOが行う事業は、望ましい社会変化に向けて自ら対応策を創造し、組織化・システム化す
る意味を持っているが、
「継続的・安定的に活動の成果を提供できる仕組みを作れていない=事
業化が未成熟」なNPOが多い。これを克服していくには、社会ニーズと地域資源2をしっかり
と把握し、働きかける対象、効果的なアプローチ、目標とする成果を明確に定め、小さくても
仕組みとして成り立つ「ビジネスモデル」を作っていくことが必要になる。
3 自立性を確保しつつ、必要規模の財源を確保できるバランスのとれた資金確保を行う
〇多くのNPOの自主事業は、対価取得ありきではなく、必要とする人を対象とするため、充分
な収入を望むことが難しく、経費や組織維持管理費をどんな財源から調達するかが課題となる。
介護保険・支援費以外の分野では資金調達の見通しが立たないという共通の課題がある。その
中で、寄付行動を促進するような制度の創出や寄付金開拓が重要である。他方、行政からの委
託事業については、NPOの財政基盤を支えるだけの量的拡大が望まれると同時に、
「NPO提
案型委託事業」のようにNPOの使命を確保しつつ一定規模の必要財源が確保できる形や中期
安定財源につながる「指定管理者制度」に活路を見出していく方法が考えられる。
4 運営体制を強化する
〇ある社会的使命に共鳴する者でスタートした組織も、責任ある活動を展開するためには、決定
機関と執行機関、現業部門と管理部門、中心メンバーと協力者といった役割分担が求められる
ようになる。そのため、これらの多様な役割を結びつけ、一貫性を持って運営処理にあたる事
2 ここでは、NPO の事業化のために使えそうな資源(資金・技術・商品・人材・情報・施設・土地・団体)など。
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務局の確立が課題になる。有給職員の設置が見込めないNPOも多いが、内部調整、対外的な
対応、情報の整理・提供・記録化を確実にすることで事業実施能力・組織力向上・対外的信用
につながることから、専従担当者など組織運営の核を作っていく展開が求められる。また、運
営体制の核を充実することによって、拠点を複数もち、より地域に密着した展開も可能になる。
5 人的ネットワークの蓄積や参加者の拡大に対応したマネジメントを行う
〇新しい活動を切り開く時期には、目標を明確に掲げリスクも覚悟する強力なリーダーシップが
求められるが、ある程度実績や人的ネットワークが蓄積されると、じっくりと話し合い多様な
力を組み合わせていく合議型の体制が有効に機能する。その段階では、当事者や関係者の参画
の推進、会議運営、社会的使命と個人の自己実現のマッチング、多様な活動メニューの開発、
ボランティアのマネジメントなどが必要とされる。これらを整備する組織としての姿勢と、運
営に体現化していくスタッフの力量が求められる。
6 説明・報告・評価を充分行い、社会的信用を確立する
〇NPOが社会的使命に関して理解・共感・参加を呼びかけ、寄付や労力を獲得した際に、その
資源を活用して達成した成果を報告することは不可欠である。また、行政の補助金・委託金、
企業や財団の寄付や助成金など、多様な形で資源やサポートを得ることが増えるにつれて、第
三者にとってわかりやすい説明・報告が問われるようになる。法人であれば事業報告、会計報
告は義務化されているが、それにとどまらず機関紙やインターネットなどを活用し、積極的に
情報公開することで、社会的な信用を育むことができる。さらに今後は、単純結果ではなく社
会的成果の視点から評価し、外部説明をしていく力をつけていくことも求められる。
7 課題や解決の方向性を示す社会的なメッセージを発信する
〇社会的な課題の所在、解決の方向性を提示することで、賛同者を広げ、世論を動かし、時には
政策を変えていくのもNPOの大切な役割である。そのためには、正確な情報の把握やデータ
分析などの情報収集・分析力を向上させていくこと、自らの社会的価値をわかりやすく表現す
る力をつけること、調査・政策提言活動に資源を配置すること、マスコミなど多様な情報媒体
にアクセスしていくことが必要となる。
2 NPO同士のネットワーキング・協働
1 総体としてのインパクトを持ち、社会への影響力を強める
〇数が増えても総体としてのまとまりが社会で意識されないと、NPOが持つ課題意識を社会問
題化していくことは難しい。特に、政策提言を有効に行っていくためには、共同キャンペーン
などの手法が有効である。
2 共有できる課題・政策について学びあう
〇例えば、介護保険制度の改正といった制度変化に対してどう活動を改変・維持していくかとい
った問題などに対して関係団体間で意見交換や相互学習をすることで、大局から見た方向性を
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見出していくことが可能になる。
3 組織運営についてのマネジメントを学びあう
〇異なる活動分野であっても、人材マネジメント、会計実務、広報活動など、組織運営について
のマネジメントの向上に向けて、経験交流・相互学習を進めていくことが重要である。
4 資源を共有化し、有効活用を図る
〇活動の成功要因やノウハウ、協力的な企業や専門家の情報、寄付の窓口や人材登録などを共有
化することで、各NPOが活動を展開する上で必要な資源を効率的に調達し、アクセスしやす
くすることができる。
5 分野横断型の活動、新しいニーズに対する活動を開発する
〇災害弱者の対応として福祉NPOと防災NPOとの連携を図る。また、団塊の世代の退職者問
題に対して多様な分野のNPOが取り組みを考えるといった展開がある。個別の協力として始
まった取り組みをモデル化して普及したり、異なる活動分野のNPOが共通のテーマで意見交
換することによって分野横断型の活動を推進することが重要である。
6 地域の総合的なビジョンづくりに結びつける
〇まちづくりや、地域福祉計画などの総合的な計画策定に関して、異なる活動分野のNPOが意
見交換をすることにより、地域の総合的なビジョンを形成することができる。
3 異なるセクターとの協働
1 行政とNPOとの協働
①NPOは、予算時期など行政の仕組みに対する理解を深め、お互いの行動様式や制度を理解し
ていくことが求められる。
②行政は、協働の前提条件となる情報提供について、一括した資料提供や共同説明会の開催など、
わかりやすく全体像を示すことが求められる。
③行政職員が当たり前のようにNPOへの派遣研修を受けるとともに、新任の係長や課長は「市
民社会との関係性」
「NPOと行政の協働」をテーマとした研修を受けるなど、NPOとの協働
をテーマとした研修システムを確立していくことが必要であり、NPO側もこれらに主体的に
関わっていくことが求められる。
④行政からNPOへの委託事業について、明確な指標の検討を進めるとともに、本格的な推進が
求められている。また、NPOの社会的使命を公共サービスに反映させていく可能性を持つ「N
PO提案型委託事業」のような仕組みを充実させていく必要がある。
⑤行政からの事業の受託に向けて、NPOも有効な提案を行う能力を培う必要がある。
⑥長期的には、新しい公共サービスのあり方として、一定の独立権限を持った公務員(就職後 15
年を目処)が、課題把握・政策構想立案・施策組み立て・実施の各段階において、NPOと協
働しつつ、予算執行をするような変革もあると考えられる。
11
⑦農山村部では行政と住民が非常に密接な関係にあり、また、行政は経験・ネットワーク・権限
を持っているので、行政と連携することが実際の地域づくりに有効である。NPOが成立する
要件もそろわないので、役場を土台に地域ぐるみでNPOを設立していく方策も考えられる。
2 企業とNPOとの協働
①全体的に見ると、企業のNPOに対する認識は低いため、NPO側は積極的に情報提供をする
など相互理解に努める必要がある。そのため、両者をコーディネートする中間組織を増やして
いくことが求められる。
②NPO側の人材ニーズを具体的に企業側に提供していくことで、企業退職者などで専門技術を
持った人を活かしていくことができる。
③企業における魅力ある職場環境づくりの側面から、育児サービスをNPOに委託するなど、企
業からの委託業務を拡大していくことも可能である。NPOはそのための情報収集を行うとと
もに、受託に耐えうる事業実施力を身に付けることが求められる。
④企業がNPO法人を作る動きが活発化すると予測される。設立時には手厚くサポートし、徐々
に自立的運営に移行することができ、NPOを段階的に成長させる一つの有効な方法である。
3 地域組織とNPOとの協働
①NPOが地域社会の現場で活動を展開していくためには、自治会・町内会との連携が基本にな
ることを再確認し、パートナーとして位置づけていくことが必要である。
②明確な地域ニーズに対応し、また問題解決の責任を担っていくためには、順送り型・地域ボス
型の体制では対応できないことが明らかになる中で、自分たちの地域は自分たちが責任を持つ
と意思表示する地域組織も出始めている。このような変化を踏まえて、子育て・高齢者福祉・
ゴミ・防災など、NPOと地域社会が共有できる課題を設定していくことが求められる。
③NPOと地域組織の両方で活動していく人を増やすことを推進し、またNPOでの活動経験を
地域組織でも活かしていく人を支える仕組みが重要である。
④地域コミュニティ組織へのNPOの認知を促進したり、両者が出会う場を設定するなどの点か
ら、行政も両者の協働についてサポートしていくことが求められる。
⑤NPOは自らが持つノウハウを生かし、地域コミュニティ組織の外側からアイディアや専門分
野のノウハウを提供したり、運営の活性化を手伝ったり、支援制度の情報提供を行うといった
形で、地域組織と連携していく方法も有効である。
⑥自治会の福祉部門が、高齢者の食事サービスを行うNPOを作るといった展開も生まれている。
生活安全調査票をつくるなどプライバシーが絡む問題でも、自治会への信頼があればこそ実施
が可能な活動もあり、地域密着型NPOの誕生の可能性を拓いていくことが望まれる。
4 研究機関・教育機関とNPOとの協働
①現状は、まちづくりやNPOに関心を持つ研究者やその学生といった個人をベースとするつな
がりであるが、教育・研究機関が持つ資源として、
「学生のインターンなど社会参加プログラム」
「大学の公開講座などを通した市民向け啓発・学習活動」
「地域の課題や解決方策を検討するシ
ンクタンク機能の設立」等を活かし、NPOと協働していくことが求められる。
12
4 中間支援組織の組織展開
支援機能の専門分化、中長期的な重点課題、地域状況による多様な展開
3で述べたNPOの今後の組織展開において、個々のNPOの組織展開の方向性をサポートし、
NPO同士の協働や他セクターとの協働を推進するためには、共同のインフラが必要であり、中
間支援組織の存在は重要な意味を持つと考えられる。
NPOは新たな社会課題に応じて生まれる組織であり、法人・任意団体共にこの先も数的に増
加していく見通しである(参考;県内のNPO法人認証数 50/99 年度、40/2000 年度、67/01
年度、132/02 年度、193/03 年度)
。そのため、裾野を広く新しい団体を支援していくことが常
に必要となるとともに、一定水準を持った活動展開を支えるためには、専門的な支援も行ってい
かなければならない。従って、将来のNPOの中間支援組織は、以下のような重層的な機能を蓄
積していく必要がある。
役割
活動内容例
組織展開例
啓発活動、情報提供、相談対応、 総合的な支援センター
①NPOの社会的認知 ボランティア情報
と参加を促進する
公設公営の支援センター
社会福祉協議会のボランテ
ィアセンター
②個々のNPOの能力 組織運営力の強化、分野ごとの専 マネジメント研修センター、
門性発揮への支援
コンサルタント
向上を図る
資源の需給に関する情報の提供、 情報バンク
③資源の仲介を行う
マッチング、効果的な活用のため 助成機関
の条件整備
マッチング仲介組織
④新しい社会ニーズに ニーズの明確化、課題の共有、立 コンサルタント
対応する活動を開発 上げの支援、運転コストの調達 協議体型支援組織
する
サービスの重複や欠落を調整す ネットワーク
⑤連絡調整・関係づく る、地域課題の共有、行政とNP 協議体型支援組織
Oの対話の促進、協働事業の枠組 プロジェクトチーム創出の
りを行う
みづくり、地域組織との連携促進 母体
調査研究、政策の理解促進、政策 シンクタンク
⑥指針を示し、意見表
化のサポート、共同キャンペー アドボカシー組織
明をとりまとめる
ン、社会的価値の表明
時限的キャンペーン組織
上記の機能について、現状の中間支援組織は、複数の機能を持ち総合的にNPO支援している
が、今後は、中間支援組織の専門分化が進んでいくと考えられる。
その中で、上記6つの役割については、現状取り組まれている①と②を当面推進していくのに
13
加え、③∼⑥は、中長期的に取り組みを強化していくことが必要であり、また、そのためにプロ
ジェクトを発足させたり、資源配分していくことが求められる。
また、諸外国の例を見ると、社会状況によって中間支援組織は多様な展開を見せている。例え
ば、アメリカでは、全般にわたって中間支援組織が充実しているが、特に、技術援助・マネジメ
ント研修・資源の仲介といった形で、個々のNPOの能力形成を促進する支援が盛んである。一
方、イギリスでは、NPOセクター内の意見調整、異なるセクターとの対話の促進を基にして、
地域社会に必要な活動の開発とコーディネートを重視する協議体型支援組織の役割が注目される。
愛知県においては、名古屋など都市部においては専門的なNPO活動がより求められ、また、
NPO間の競合関係も存在することから、中間支援組織のあり方は、アメリカ的な展開が進む可
能性が強い。一方、地方都市においては、地域活性化・地域づくりがテーマとなるため、イギリ
ス型の展開が進んでいくものと思われる。
14
5 担い手の構成
属性別の傾向、必要となる職能、人材マネジメントのあり方
NPOの組織運営にあたって、最も大切な資源である、人=担い手について、1)属性別の今
後の参加傾向、2)今後の組織展開に必要な職能、3)1)2)を踏まえた人材マネジメントの
あり方について展望してみた。
1 属性別の参加傾向について
社会的使命に共感する人々が自発性を持って参加することがNPOの担い手の基本であるが、
NPO全般の社会的認知が進むにつれて、また、働き方や社会参加に対する価値観の変化や多様
化によって、様々な属性を持つ人が、様々な動機から関わるようになっていくことが予測される。
以下では、属性別の関わり方の行方について整理してみた。
1 退職者層
〇団塊の世代の退職にともなって、NPOへの参加を促進したいという意欲と期待が存在する。
特に、若い時代に社会変革に意欲を持った世代であること、社会人として組織的行動やリーダ
ーシップの経験を積み重ねている点に期待を寄せている。また、彼らが現在ある組織に参加し
ていくことに加えて、自分たちで新たな活動を始める展開も想定している。NPOへのソフト・
ランディングのために、定年前の 50 歳位からNPOへの関わりを持つ機会を徐々に増やしてい
くことが求められている。また、このことについての企業側の認識も高まっている。
2 若者
〇フリーター・ニートの増加は、将来の人生設計が描きにくい社会環境を背景としているが、若
者の多くは、
「自分が求められている、役に立つ、自分の居場所が確認できる」場を求めている。
競争が激化する社会の中で、どう勝ち組になるかに追われてきた彼らに対して、社会問題を解
決するプロセスに生きがいを見出す新しい生き方をNPOは提示することができる。ただし、
多くのNPOは長期的に彼らを雇用する運営基盤が整っていないため、人材育成の場として事
業化したり、NPOでの経験を次の職業やライフワークとして生かしていく展開が考えられる。
3 女性
〇女性はNPOの主要な担い手であり、生活レベルでの地域課題を把握し、当事者感覚をもって
社会問題を解決しようと志向する。多様な関わり方や働き方を実現しようとするNPOの実情
にも合っている。今後の方向として、20 代から 30 代の若い母親層は、社会の矛盾に直面する
機会が多い反面、子育に忙しく社会との接点が持ちにくい状況にあり、彼女らがNPOに参加
しやすい環境を作っていく必要がある。また、共働きが主流になっていく中で、雇用の場とし
ても環境を整備していく必要がある。さらに、女性を束ねる組織であった「婦人会」が各地域
から姿を消しつつある中で、世代間の対話や経験の伝達を担うNPOも求められる。
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4 30 代から 40 代の有職者
〇多くのNPOでは、働き盛りであり子育てに忙しい 30 代から 40 代の有職者層との関わりが希
薄であり、この年代の人がNPO活動に長時間中心的に関わること難しい状況にある。しかし、
現役世代の活力ある発想をNPO活動に生かしていくことは有効である。また、子どもを通し
て地域社会に関心を持ってもらうアプローチが考えられる。
2 今後の組織展開に必要となる職能について
NPOが社会でより大きな役割を果たしていくためには、必要となる能力を戦略的に獲得して
いく必要がある。多くのNPOでは、リーダーが少数の中心メンバーが幾つもの役割を兼務して
いるのが現状だが、リーダーに集中している役割を任せられる人材の確保に努めるとともに、必
要に応じて一定の機能を任せる外部集団を設けていく方向性が求められる。
1 専門性
① 活動分野の専門性
互助的な活動から事業化が進むにつれて、また、現場の課題認識を制度に反映していく上で、
活動分野の高い専門性が求められる。ニーズ把握・事業実施・成果の分析・政策提案などの側面
でそうした専門性を発揮していくことが今後ますます重要になる。現在のNPOの専門性を高め
る方向と、専門家集団がNPOをつくる方向の両方向に進んでいくと思われる。
② 組織管理の専門性
NPOが行う事業の高度化や継続性が重視される中で、法務やリスク管理、あるいは会計管理
に伴う専門性が求められる。
2 当事者参加による課題解決能力
自らが当事者ではないが、社会の課題解決に取り組むNPOも少なくない。これらのNPOの
中には、恩恵的でサービス提供者側の発想に偏る側面もある。また、事業や組織が発展し、有給
職員が増えていくことによって、活動が当事者不在のまま進んでいく可能性も懸念される。NP
Oが社会的使命に基づく発展をしていくためには、当事者とのコミュニケーション、当事者参画
を促す力が求められる。
3 安定した組織運営力
関係者や地域社会から信頼される組織となるために、対外的な情報連絡、内部との情報共有、
会計管理、事業進捗の把握など、日常的な組織運営力を備えておくことが必要になる。
4 人材コーディネート
事業が拡大・高度化する中で、また社会のNPOへの参加意識の高まりを受けて、人材確保を
進めるとともに、多様な人々の動機を活かしながらより成果のあがる人材活用をするためのコー
ディネート力がますます求められる。
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5 資金調達
自主事業よって組織運営に必要な対価を得ていく見通しが難しい中、寄付や助成金・補助金の
確保などを戦略的に行っていくため、人脈や情報に通じた担い手が求められる。また、資金提供
側の要望に応えられる力を付けていくことが求められる。
6 広報・情報発信力
賛同者を広げ、世論を動かし、時には政策を変えていくために、広報・情報発信力を強化して
いくことはNPOの大きな課題である。特に、自らの目的や活動成果をわかりやすく表現する力、
ITなどの情報媒体の活用技術、マスコミなど多様な情報媒体との関係づくりなど、タイムリー
に情報発信していく力を持った担い手が求められる。
3 担い手のマネジメントのあり方
NPOが、多様な人材と各人が持つ能力を生かした組織展開をするためには、人材マネジメン
トが必要である。企業で行われているマネジメントを取り入れていく必要があると同時に、企業
以上に複雑で高度なマネジメントが求められる。それを確立していくことで、新しい働き方・生
きがい・社会参加を創出する役割を果たしていくことができる。
1 多様な活動メニューを開発する
〇今後の定年退職者層の参加を促進するためには、無償ボランティアの他に、実費や小額謝礼を
得られる有償ボランティア活動、10∼20 万円/月程度の受給が可能な市民事業など、多彩な活
動メニューを提供できる実力が求められる。
2 外部の発想を活かす
〇中心メンバーがいつも同じ顔ぶれで事業企画を行うのではなく、新しい市民層の新鮮な発想を
活用することで、新しい事業の切り口が見つかるチャンスがある。年に1∼2回は組織外の関
係者と意見交換を行ったり、アイディアを公募するなど、幅広いコミュニケーションの機会を
持ち、外部の発想に接触していくような運営が求められる。
3 機能的に関われる機会を持つ
〇事業実施についても同じ顔ぶれで行うのではなく、目的や関心に合わせて活動に参加していく
ことが可能な活動メニューの開発が必要である。会員やボランティアがやりたい仕事ややれる
仕事を把握し、組織にとって必要な仕事をリストアップしながら、特定の人に集中している業
務を分化・プログラム化することが必要である。活動内容の多様化やバリエーションある関わ
り方を提示することで、少ない中心メンバーで大きな力を発揮することが求められる。
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4 NPOならではの人材マネジメントを行う
〇「役割の分化」「責任・権限の設定」「成果・貢献の検証」といった一般企業で用いられてい
るような人材マネジメントの基本に加えて、NPOでは、特に、多様な人々の動機を活かし
ながら社会的使命を実現していく必要があるため、コミュニケーションを意識的に図り、活
動に関わる意味を関係者自ら実感していくマネジメントが求められる。
5 人材育成と循環の仕組みづくりを行う
〇青少年教育・雇用訓練・市民教育の視点からもNPOの役割が期待されるようになっており、
NPO活動を通して自分が成長したと実感できる運営体制を作っていくことが求められる。ま
た、参加者がそこで活動をしていく過程で、気づきを得てリーダーとなり、新たな活動と仲間
を生み出していく循環を起こす必要がある。具体的には、徐々に高度な役割に移っていけるス
テップを運営体制に整備していくこと、また、動機づけや成長のためのコーチングなど新たな
人材育成の技術も求められる。
6 多様な人材との接点づくりを行う
〇退職してからNPOへ参加をしようとしても意識の転換が難しいため、50 代位からNPOや地
域活動の体験をしていく機会を持つことが重要である。また、若い時にボランティア活動を体
験しておくことで、条件が整った時に躊躇なく参加できるという効果が期待される。さらに、
インターンシップや行政職員の派遣研修など、多様な形態で多様な人材と接点を作っておくこ
とは、直接的な人材確保のみならず、体験をした人を通して、相互理解を深めるなどの波及効
果も期待できる。従って、将来的に担い手を増やす土壌づくりとしても、多様な人材との接点
づくりをしていくことが求められる。
7 人材の流動化を前提に、力を育み活かす
〇NPO活動での実績を元に、進学や転職をしたり、審議会などに参加していくなど、NPO
と外の世界との人の流動化が進んでいく。このような外の世界での経験や人脈が、今後のN
PO活動に生かされることが求められる。また、NPOでは、人の出入りに耐えられるよう
な組織運営をしていくことが求められる。
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6 まとめ
地域づくりのビジョンと連動しつつ、社会的役割を発展させる
将来社会の未来図には、少子・高齢と人口減少、経済停滞と財政悪化、社会保障制度の崩壊、
治安の悪化など、暗い展望がある。しかし、成りゆきに任せるのではなく、より望ましい社会づ
くりに向けて社会的な努力を行い、制度を整えていくことが求められる。
NPOが担う「市民が参加することを通して創りあげる公共」は、NPOだけで完結するもの
ではなく、多様なセクターが協働して、新しい社会のあり様を牽引していく役割を持っている。
その中でNPOは、①多様なニーズ・少数者のニーズへの直接対応、サービス提供を行う。②人々
の生きがい・学習・社会参加を促進する。③地域社会で多様な主体の力を結集し、課題に取り組
む。④制度や基盤を提案し、つくる。といった総合的なアプローチを持っている。
しかし、個々のNPOの活動成果が評価されていても、
「市民的公共をつくる存在」と強く実感
されるまでには至っていない。その本質的な課題は、NPO活動の社会的成果を効果的に提示で
きていないことにある。その結果として、NPOに資源を集結する流れをつくることができず、
脆弱な基盤から抜け出すことが見通せない状況にある。この可能性と現状のギャップをどう克服
するかを最後に展望したい。一言で言うならば、個々のNPOの使命と地域づくりのビジョンを
連動し、NPOの社会的役割を発展させていくことが重要である。それは、以下のようなステッ
プを通して、展開していくことが可能である。
1 地域づくりのビジョンを共有する
〇住民自治が展望され、そのための手続・制度が整えられていく一方で、市民が自分たちの課題
とは何か、どんな社会を目指したいのかを議論する場がないのが現状である。将来のNPOに
は、こうした場づくりをコーディネートする役割が求められる。その中で、NPOは自らの社
会的使命と地域づくりのビジョンを市民とともに連動して捉えることができ、NPO活動への
共感が生まれ、市民参加が促進する土台ができると考えられる。
2 地域づくりのビジョンに向けた協働を生み出していく
〇地域づくりビジョンを実現していくためには、サービスの重複や欠落の調整、課題の共有、事
業の枠組みづくりなどの面からNPOが他者と協働する取り組みが必要である一方、他者では
提供できないが社会で必要とされている価値を実現するために独自性を発揮する取り組みも必
要である。いずれにおいても、自己完結から一歩踏み出し、他者との対話を通して、協働や独
自性を生かすという社会との関係性を意識した活動展開を行っていくことが求められる。
3 協働を推進するための資源を循環させていく
〇NPOは、自分たちの成果を見極める力や評価システムを持った上で、新しい社会的価値を生
み出していることを効果的に情報発信することとセットで資源を調達していくことが求められ
る。そして、行政・企業・地域・専門家など多様な市民層が自分から参加・投資して、成果を
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受けとめていく「資源循環」を作っていくことが必要である。
4 社会のあり方を提案し、社会変化を実現する
〇地域づくりのビジョンを共有し、協働を生み出し、それを推進するために資源を循環していく
一連のプロセスの成果や課題を総括し、よりよい問題解決の枠組みや制度を提案していくこと
が求められる。その提案は、NPOが行う直接の活動範囲にとどまらず、行政サービス、企業
の社会的責任、住民自治のあり方も再編し、文字通り「市民の参加による“公共”」を生み出し
ていく。
こうした働きを持つ存在としてNPOが発展していく中で、個々の切実なニーズに気づき行動
に移した市民の参加が、個別の問題解決にとどまらず、生きがいがもてる新しい社会を創る原動
力になり、また、市民もNPOを通して新しい社会づくりを担っていると実感できるようになる。
ひいては、NPOを将来の地域づくりに欠かせない社会的な財産として育てていく必要性も明確
になると考える。
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