地方自治体の企業誘致活動に関する取組の現状〔概要〕

地方自治体の企業誘致活動に関する取組の現状〔概要〕
~企業誘致活動に関するアンケート調査結果~
はじめに
本財団では、地方自治体(市区町村)での企業誘致活動に対する取組の現状を把握し、
今後の企業誘致活動に資するためアンケート調査を実施した。
以下に調査結果の概要をまとめた。
Ⅰ
アンケート実施概要
全国の市町村及び東京特別区(以下、
「自治体」とする)に郵送によるアンケート調査票
を発送し、回答を得たものである。
発
送
数
全国の市町村及び東京特別区:1,736
有効回答数(回答率) 1,029(59.27%)
調査期間
Ⅱ
平成 25年 10月 18日(金)~平成 25年 11月 8日(金)
アンケート結果
1.企業誘致活動の取組状況
企業誘致活動の取組状況では、ほぼ8割の地方自治体で「取り組んでいる」ほか、61自
治体で「これから取り組む予定」としている。一方、「取組んでいない(予定もない)」地
方自治体は 146(14.4%)1であった。
「取り組んでいない」自治体を見ると、小規模自治体を中心に、都市地域から遠隔地に
所在する場合が多い。また、当該自治体を含む地域が有数な観光地となっている、大都市
地域内に所在する場合となっている。
参考として、企業誘致担当者の最少は 1人、最多は 40人、平均人数は 3.9人であった。
表1
企業誘致活動の取組状況
№
項目名
1 取り組んでいる
2 これから取り組む予定
3 取り組んでいない(予定もない)
合計
件数
810
61
146
1017
(N=1017)
構成比
79.6%
6.0%
14.4%
100.0%
以下、「取り組んでいない(予定もない)」と回答した自治体を除いた結果についてまと
めた。
2.企業誘致の目的、企業誘致に期待する効果
企業誘致の目的、企業誘致に期待する効果について、最も重要とするもの(1つ)、重要
1
以下、無回答を除いた件数、構成比等でまとめた。
1
とするもの(複数回答)を合わせた回答では、
「雇用機会の確保」
(866件)、
「税収の確保」
(770件)を挙げている。企業誘致は「雇用機会及び税収の確保」を目的や効果として実
施されていると言っても過言ではない。これら以外では、
「地域企業への受発注機会の拡大」
(298件)、
「交流人口の拡大」
(271件)、
「地域産品・資源の利活用」
(223件)などが挙げ
られている。
0
200
雇用機会の確保
600
438
税収の確保
146
工業団地等事業用地の処分 9
123
地域企業への技術移転・高付加価値化 2
123
地域企業への受発注機会の拡大 4
800
428
624
294
地域産品・資源の利活用 4
日用品等資材の地元調達の拡大
400
219
98
交流人口の拡大 5
266
最も重要
インフラの整備・改修の進展 2 30
重要
その他12 27
図1
企業誘致の目的、企業誘致に期待する効果(件数)
3.現在、企業誘致のために取り組んでいる内容
企業誘致のために取り組んでいる内容について、
「工場跡地・遊休地、空き工場等の情報
収集・提供」が 65.6%と唯一過半を超え、他を大きく上回っている。以下、
「特定の業種・
業態等に絞った優遇措置の実施」(38.8%)、「条例・規制緩和の実施」(35.8%)、「首長に
よる積極的なトップセールスの展開」(29.1%)などとなっている。
0%
10%
20%
工場等を誘致するための用地整備
30%
40%
50%
65.6%
独自の立地情報把握・地域情報提供
20.0%
7.4%
外部ネットワークを活用した立地情報の入手・情報発信
20.0%
26.6%
地元立地企業のフォローによる立地情報の入手
成功報酬制度や報奨金制度
9.0%
首長による積極的なトップセールスの展開
広告掲載(新聞・雑誌・吊広告等)による情報発信
各種技術・企業展示会への出展
大都市圏での企業立地セミナーの開催
産業用地等の現地視察会の開催
29.1%
10.3%
17.1%
13.7%
3.5%
特定の業種・業態等に絞った優遇措置の実施
38.8%
35.8%
条例・規制緩和の実施
手続きの簡略化、ワンストップサービス化
22.8%
17.6%
戦略的な企業誘致活動の展開
企業誘致活動の外部機関への委託による実施
その他
図2
70%
23.3%
工場跡地・遊休地、空き工場等の情報収集・提供
民間企業出身者の企業誘致専門員の登用
60%
5.3%
9.2%
企業誘致のために取り組んでいる内容(複数回答)
2
4.企業誘致活動の課題
企業誘致活動における課題については、「企業誘致ノウハウが不十分」(40.7%)、「土地
利用規制(農地転用など)が厳しく、受け皿整備が難しい」
(39.8%)、
「交通アクセスの向
上」(33.0%)、「必要な誘致スタッフの確保」(29.3%)などが上位に挙げられた。
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
23.4%
技術者など高度な人材の確保・育成
13.9%
現場作業員やパート・アルバイトなどの労働力確保
9.8%
原材料・部品調達などが見込める関連企業の存在
7.8%
農林水産資源や水資源などの利活用
14.5%
大学・公設試験研究機関などが立地していない
33.0%
交通アクセスの向上
15.3%
充実した都市機能
39.8%
土地利用規制が厳しく、受け皿整備が難しい
29.3%
必要な誘致スタッフの確保
20.6%
必要な予算額の確保
独自の支援策・活動を困難にする法制度や規制
2.0%
13.2%
庁内の連携体制
9.4%
地域金融機関など外部機関・団体との連携体制
40.7%
企業誘致ノウハウが不十分
11.6%
その他
図3
45%
企業誘致活動の課題
5.企業誘致の対象として現在及び今後の重点産業分野(誘致対象)
現在及び今後の企業誘致対象の重点産業分野について見ると、現在では「食関連」
0%
5%
10%
15%
8.2%
二次電池関連・燃料電池関連
20%
25%
30%
15.2%
17.2%
8.3%
新素材関連
11.2%
26.7%
情報通信関連
22.3%
健康・医療・介護関連
14.3%
農業関連(植物工場・農業参入等)
15.3%
次世代自動車関連
6.2%
ロボット関連
航空宇宙関連
10.8%
9.1%
観光関連
20.0%
13.6%
31.6%
特にない
図4
34.1%
1.6%
2.6%
2.7%
4.2%
9.7%
14.6%
10.1%
10.1%
24.5%
26.0%
物流関連
その他
31.4%
25.4%
食関連
小売・商業関連
31.0%
31.1%
23.5%
環境・エネルギー関連
コンテンツ関連
40%
11.7%
次世代電機関連
ファッション関連
35%
9.6%
10.4%
15.3%
20.2%
現在
今後
企業誘致の対象として現在及び今後の重点産業分野(誘致対象)
3
(31.6%)、「情報通信関連」(26.7%)、「物流関連」(24.5%)、「環境・エネルギー関連」
(23.5%)、
「健康・医療・介護関連」
(22.3%)などが上位に挙げられた。また、今後につ
いては「食関連」
(34.1%)、
「環境・エネルギー関連」
(31.4%)、
「健康・医療・介護関連」
(31.1%)、
「情報通信関連」
(31.0%)などが差なく挙げられた。一方、伸びで見ると「農
業関連(植物工場・農業参入等)」(+11.1ポイント)が目立っている(図4参照)。
6.企業誘致以外の産業振興の取組で、現在及び今後注力していく取組分野
企業誘致以外の産業振興の取組分野で、
『現在』注力しているのは、
「観光」が 58.6%と
最も多く、以下、「地域ブランド化・ブランドづくり」(49.3%)、「農商工連携・6次産業
化」
(40.4%)、
「中心市街地の活性化」
(39.2%)、
「地域中小企業振興」
(38.4%)などと続
いている。一方、『今後』注力していこうと考えているのは、「農商工連携・6次産業化」
が 53.9%と最も多く、以下、
「観光」
(53.6%)、
「 地域ブランド化・ブランドづくり」
(53.5%)
が差なく続いている。
0%
10%
20%
30%
新事業・創業・ベンチャー支援
農商工連携・6次産業化
農林水産業の高度化
産産・産学等連携による地域イノベーションの促進
50%
39.2%
37.4%
40.4%
中心市街地の活性化
医工・医農連携などの異業種連携
40%
58.6%
53.6%
49.3%
53.5%
21.8%
29.6%
地場産業の高付加価値化・新分野展開
38.4%
37.8%
地域中小企業振興
その他
図5
53.9%
11.3%
10.5%
16.7%
14.6%
20.2%
地域ブランド化・ブランドづくり
特にない
70%
4.8%
観光
特定業種に対する振興支援・集積促進
60%
21.1%
27.0%
5.2%
5.0%
1.0%
1.5%
4.0%
3.0%
現在
今後
企業誘致以外の産業振興の取組で、現在及び今後注力していく取組分野
7.企業立地や産業振興策に関して期待する支援策等(自由記入)
企業立地や産業振興策に関して期待する支援策については、
「インフラ整備」
「規制緩和」
「優遇(支援)制度(企業及び自治体)」に関連する内容、及び「その他」に大別される。
Ⅲ
まとめ
●今回の調査は市区町村を対象としたが、都道府県を含む地方自治体の企業誘致は、現状
の制度条件の中では限界にきていると言える。組織面においては、規模しい財政運営の
中で、かつ地方分権化もあって所掌事務が増えたものの、活動予算や人は増えず、十分
な活動ができていないのが現状である。その中で、地方税・補助金等の優遇措置の実施、
魅力ある投資環境づくり、情報収集・発信など地道に取り組んでいる。
●企業の投資環境は、国・都道府県・基礎自治体とそれぞれの位置づけの中で、役割分担
において整備されていかなければならない。もちろん、その前提となる目的と方針、財
4
政的な裏付けなどが考慮された上であることは自明である。そうした期待される支援策
は多様なものが挙げられているが、現状で特に必要な支援策ものは、土地利用調整、優
遇措置制度、産業用地整備等の支援、情報提供機能関連にまとめられる。ただ、法人税
等の減税やインフラ整備、成長産業の育成・新事業展開等に着実に取り組まれているこ
とが前提となる。
●本稿では、企業誘致活動の現状についてまとめた。最近、企業“誘致”は域外から立地
するイメージが強く、域内の企業が立地する場合を考慮すると、企業“立地”とあえて
立地を使用する場面があった。そこで、種を植え大きく育てることも一方で重要な視点
である。ここでの企業誘致も同様である。また、雇用への期待では必ずしも製造機能が
多い訳ではなく、物流や商業機能が多い場合もある。こうした現状を踏まえながら、地
方自治体における政策的な位置づけを考慮する必要があろう。
●企業誘致も国際競争の中で投資環境について、国・地方自治体や関係事業者との連携を
もって構築していく必要があり、その方向性を示していくことがそれぞれに求められて
いる。地域経済活性化には地域の主要産業の強化が重要であり、そこには、農林水産業
なども含まれている。そこには企業の力・ノウハウを活用する場合もあり、これも企業
誘致の一環であるとも考えている。企業誘致だけではなく、その地域に必要な地域経済
活性化策を選択・実施していくことが必要である。
最後に本調査の実施にあたって、アンケートにご協力いただいた自治体の皆様に感謝申
し上げます。
(文責:本財団
産業立地部長
※調査結果につきましては、本財団機関誌「産業立地 2014年 3月号
および、ホームページの「賛助会員ページ」に掲載しております。
5
高野
泰匡)
Vol.53-No.2」、