ウミスズメ - 東京大学

ウミスズメ
生き物
図鑑
東京大学 大気海洋研究所
国際沿岸海洋研究センター
特任研究員 伊藤 元裕
NO.07
一般にはあまり馴染みのない海鳥であるウミスズメ。
今回は小さな海のハンター、ウミスズメの秘密を
ご紹介します。
ウミスズメは何の仲間?
ウミスズメの
高い潜水能力の秘密
ウミスズメはどんな鳥ですか?と言
ウミスズメは、小さくかわいらしい
れば、なかなかの鳥マニアとお見受け
す。小さな翼を高頻度で連続的に羽ば
われてパッと特徴が思い浮かぶ方がい
します。ウミスズメはウミスズメ科に
属する海鳥で、体長は 26cm ほど、黒
から灰色の背中と白いお腹が特徴です。
ウミスズメ科は現存種 23 種に分けら
れており、ウミスズメより体の大きな
くちばし
ウミガラス、嘴が鮮やかに赤いウミオ
ウム、首が少し長くスマートなウミバ
トなどもこの仲間に入ります。今の名
前で「あれ?」と思われた方もいらっ
しゃるかもしれません。この仲間は、
その大きさや形態から、陸にいる身近
な鳥にちなんだ名前を多く与えられて
いるのです。これらの体重は、コウミ
スズメの約 100g からハシブトウミガ
ラスの 1kg 強までバリエーションに富
み、北半球全域にそれぞれ適応して大
繁栄しています。その中で、今回ご紹
介するウミスズメは、250g 程度と小
~中型に位置する種となっています。
このようにバリエーションが大きなウ
ミスズメ科ですが、大きな共通点があ
外見ながら優れた運動能力を発揮しま
たかせ、水面すれすれを弾丸のように
この数は過去日本で一度に観察された
本種の最大数を大きく上回るものでし
た。実は、岩手県釜石市の沖合に位置
さんがんじま
する三貫島では、1971 年に本種が繁
殖していた記録があるのですが、その
間、水深 20m ほども潜水して小魚や
れていないと考えられてきました。今
同 じ 翼 を 器 用 に 使 い、 最 大 で 45 秒
オキアミ等を追いかけて捕食すると言
われています。彼らは、体のサイズの
割に大きな、大胸筋と小胸筋を持って
います。大胸筋と小胸筋は、ニワトリ
で言うとむね肉とササミとして売られ
ている部位に当たり、それぞれ翼の打
ち下ろしと打ち上げに利用される筋肉
です。大きな筋肉から生み出される強
い力で翼を羽ばたかせることで、素早
く飛び、かつ深く潜る能力を身につけ
ています。また、その筋肉には、多く
のミオグロビンという酸素と結び付き
やすい性質をもった色素が含まれてお
り、このお陰で、筋肉にも酸素を大量
に蓄えてより長い時間の潜水を可能に
しています。
鶏むね肉
(大胸筋)
たいて飛ぶだけでなく、水に潜ること
後の観察はなく、現在では繁殖は行わ
回観察された時期は、ちょうど繁殖期
にあたるため、今後は付近での繁殖地
の発見が期待されます。日本で 2 例
目の貴重な繁殖地が見つかれば非常に
喜ばしいことです。
また、津波のため大きな被害の出た
大槌湾に、多数のウミスズメやその他
の海鳥が観察されたことは、現在もそ
の餌となる小魚類などが豊富に存在
し、希少種を含めた多くの海鳥にとっ
ての重要な餌場となっていることを示
しています。これは、大槌湾が今なお
豊かな生態系を誇っている証に他なり
ません。
ウミスズメはカモメなどよりもずっ
と小さいので、海で見られる際には、
豆粒のような小さな点のようにしか見
えないことも多いでしょう。でもよく
見ると、数羽から 10 羽程度の群れを
作って 1 列に並んで盛んに潜り、時
が出来るという事です。その潜水能力
数十 m から百数十 m にも達します。
種の海鳥と共に多数発見されました。
時速数十 km で飛行したかと思えば、
ります。それは、彼らは皆、翼を羽ば
は種によって違いますが、潜水深度は
2016 年の 4 月から 5 月にかけ、多
ウトウの
大胸筋と小胸筋
ニワトリのむね肉
(大胸筋)スーパーで購入
ウトウとニワトリの胸筋の色の比較
左はウミスズメと近縁種のウトウの胸筋。
多くのミオグロビンを含み、かなり赤黒い。
三陸での
ウミスズメの現状
には小魚をくわえている姿を見ること
ができるかもしれません。ぜひ今後は
海に出かけた際に、小さな海のハン
ター、ウミスズメを探してみてくださ
い。その可愛らしい外見だけでも一見
の価値ありです。
ウミスズメは、全世界を見れば比較
的多くの個体が繁殖していますが、日
て うりとう
本では現在、北海道天売島という島で
しか繁殖が確認されておらず、環境省
レッドリストの絶滅危惧 IA 類に指定
されている非常に珍しい鳥です。
翼を羽ばたいて潜水し、魚を捕ることができる
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ところが、岩手県の大槌湾において、
群れを作り並んで泳ぐウミスズメ(大槌湾)