振動の話(設備診断)

振動の話(設備診断)
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機械振動学入門
私たちは日頃、機械の振動の大きさを測って機械の調子の良さを判断しています。
これは、機械内部に働く異常な力の有無を見たり、あるいは、ゆるみなどで小さな力が
働いて機械などが振動しやすい状態になってないかどうか判断しています。
またどのくらいの速さで振動が繰り返されているのか、振動の方向はどちらに向いて
いるかなどを調べると、機械内部でどのような異常が起きているか判断出来ます。
設備の現在の状態量を定量的に把握して異常、あるいは故障に関する原因および
影響の予知・予測し必要な対策を見出す技術を「設備診断技術」といいます。
ポータブル振動計
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振動の3要素
振動の単純な形は単振動で、振幅、周波数、位相の3つの要素から成り立っています。
1.振幅
振幅は、振動の激しさを示す上で非常に重要な役割をもっています。
2.周波数
1周期に要する時間を振動の周期と呼んでいますが、
機械の振動の場合、1秒間に何周期の振動があるかという周波数で表示されます。
周波数は振動の原因を調べる上で非常に重要な役割りを持っています。
周期(T)と周波数(f)の間には、次のような関係式が成立します。
周波数[Hz]=1/周期[sec]
3.位相(差)
位相とは、振動している部分が他の部分に対して、どのような位置関係にあるかを示す
量であり、位相は不具合の位置を探る上で重要な役割を持ちます。
右図のように、ばねに吊り下げた錘を距離D
引いて引き離すと錘が上下方向に運動します。
これも振動の一種で、錘の先にペンを取付け
一定の速さで送っている紙に書かせると青線
のような曲線(正弦波)を描きます。
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振動の3つのパラメータ
振動を測定するにあたっては、変位、速度、加速度の3つのパラメータがあります
周波数をfとすると以下の式で表せます。
変位
:D(mm)・・・片振幅
速度
:V=2πfD(mm/sec)
加速度 :A=(2πf)2D(mm/sec2)≒(2πf)2/9800(G)
変位が同じであれば周波数(f)が高いほど、速度・加速度の値が大きくなる
振動パラメータ
異 常 の 種 類
適
用 例
変
位
変位量または動きの大きさその
ものが問題となる異常
速
度
動きの大きさと、その繰り返し回数
(疲労度)が問題となる異常
回転機械の振動
衝撃力などの力の大きさが問題と
なる異常
軸受の損傷による振動
歯車の損傷による振動
加 速 度
回転機械の軸振れ
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センサーの種類
変位センサー:タービンの軸振動等で使用。コイルに高周波電流を流し、
距離の変化が電流変化と検出。
速度センサー:ケーシング内に固定された磁石が、振動体と共に振動し、一方内部に
ばねで固定されたコイルは動かないので、この速度差を検出。
加速度センサー:機械的ひずみが加わると、それに比例した電圧が発生する圧電素子で検出。
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センサーの取り付け方法
鉄製スタッドによる固定
最適の取り付け方法
絶縁ねじによる固定
鉄製スタッドと同様であるが、
電気的絶縁が必要なときに
用いる。
マグネットによる固定
周波数特性は、1~2KHz
までしか期待できない
接着剤による固定
絶縁と同様に周波数特性は良い
10KHz程度まで期待できる
ワックスによる固定
周波数特性は良いが、熱に弱い
手による固定
周波数特性は数百Hz
までしか期待できない
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周波数解析(FFT)
測定された波形からどのような周波数が、どの程度の割合で含まれているかを
調べる方法が周波数解析です。この方法は、振動解析手法として最も広く用いられ
ており、中でもFFT解析が一般的に用いられています。
1.機械を運転すると種々の振動が発生
2.この振動を取り出しただけでは原因は分かり難い
合成された振動
FFT解析結果
3.この振動を周波数解析することにより
原因が解析しやすくなる
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回転機械の代表的な異常
おもな異常現象
内
容
振動の特色
アンバランスによる
振動
ロータ軸心のまわりの質量分布が不適切で、
機械的アンバランスにより発生する振動
振動周波数は回転周波数
に等しい
ミスアライメントに
よる振動
軸継ぎ手で結ばれている2本の回転軸の中
心線がずれていることにより発生する振動
振動周波数は回転周波数、
または高周波となる
ガタによる振動
基礎ボルトのゆるみや、軸受の摩耗などに
よって発生する振動
振動周波数は回転周波数
の高次成分となる
オイルウイップに
よる振動
強制給油されたすべり軸受を持つロータに起
こる現象
軸の固有振動数の成分を
持った振動
キャビテーションに
よる振動
液体機械で気泡が発生したときにおこる現象
振動は、高周波振動となる
電動機の電気的
要因による振動
電気的不平衡、不平衡磁気吸引力、高調波
磁束などにより磁気吸引力に脈動が生じる
現象
電源周波数の2倍の周波
数の振動となる
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アンバランスによる振動
回転機械の異常によって発生する振動の中で、軸のアンバランスによるものが最も多く
発生します。この振動は、ロータの軸心の周りの質量分布が不釣合いになっていることに
より発生するもので、不釣合いの要因として
1.軸内径の偏芯
2.機械の偏芯
3.材料欠陥
4.偏摩耗
などがあります
中心より“r”mm離れた位置に重量“W”gのアンバランスが
ω:角速度
G:重力加速度
あると、軸受には遠心力が働きます。
回転数“N “rpmとすると、遠心力次のようになります。
W
F=
rω=1.118×10-6 ×N2×W×r
g
振動は、ラジアル方向に発生します。
振動“f0”は右図のように、1秒あたりの回転数N/60の
ところにピークがあります。
アンバランスの周波数分布
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ミスアライメントによる振動
ミスアライメントとは、軸継ぎ手で結ばれた二本の回転軸の中心線がずれている場合に
発生する振動現象です。
ミスアライメントの振動の特徴は
1.軸方向に振動が発生
2.発生する振が、軸方向に回転周波数の2倍、3倍になる。
軸継手のミスアライメント
ミスアライメントの周波数分布
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ガタによる振動
回転機械の基礎ボルトのゆるみやガタが発生したり、各要素が摩耗したときに発生します。
この振動の特徴は
1.振動の方向は通常上下方向
2.発生する周波数は、回転数の1/2、1/3の周波数や2倍、3倍の周波数成分が
現れます。
測定点1に対して2,3では大きく減少します。
ミスアライメントの周波数分布
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ころがり軸受の振動
転がり軸受が損傷したときに、転動体が内輪や外輪と接触したときに衝突することで振動を
発生します。
T=1/f
周期は、ベアリングのサイズや傷の位置で変わります。
内輪傷がある場合
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d
f=Z×
f0 (1+
2
D
外輪に傷がある場合
1
d
f=Z×
f0 (1-
2
D
転動体に傷がある場合
D
f=f0×
cosα)
Hz
Hz
d2
cos2α)
(1-
2d
cosα)
D2
Hz
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エンベロープ
エンベロープ解析は、振動の繰り返しの周期性を解析する事で、転がり軸受等の
異常部位の特定に役立ちます。振動がある周期により繰り返して発生(周期性)し
ているかどうかを解析し、もしそれが、回転に依存したものであればその周波数に
より、軸受の異常、軸受のガタ(クリープetc.)、静止部との接触等原因の判別がで
きます。エンベロープ解析の信号処理は振動波形の包絡線(エンベロープ)を周波
数解析しています。
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歯車の噛み合い周波数
大小の歯車が噛み合って回転するときに、大歯車の歯が小歯車の噛み合い、
次に大歯車の歯が小歯車に噛み合うまでの時間を噛み合い周期、その周波数を
噛み合い周波数と言います。
Z1:小歯車の歯数、 n1を小歯車の回転数(rpm)
Z2:大歯車の歯数、 n2を大歯車の回転数(rpm)
とすると
噛み合い周波数は
n2
n1
f = Z1 ×
60
= Z2 ×
60
となります。
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振動のまとめ
振動の方向
異常検出データ
周波数分析結果
回転軸の
アンバランス
半径方向
速度
回転周期の振動と
整数倍の振動が現れる
回転軸のミス
アライメント
軸方向
速度
回転周期より大きい
振動が整数倍に周期に
現れる
転がり軸受の
傷
3方向共
加速度
転がり軸受の転動体と
内輪・外輪の当たる周期
歯車の面振れ
X・Y共
加速度
回転周波数と
整数倍の周波数
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共振
機械が持っている固有振動数と外部からの加振力の周波数が一致したときの発生します。
これは、機械の振動が必ずしも最高速度で最大とはいえないということです。
共振のイメージをブランコで説明します。
ブランコの場合、固有振動数はブランコの長さ“L”で決まります。
振幅を大きくするには、赤矢印の位置で、ブランコが来るタイミングで押せば良い(加振力)
固有振動数=加振力の周波数が一致すると増幅される
機械装置で言えば、装置が持っている固有振動数とアンバランス等の加振力の周波数が
回転数を変えたときに一致すると、共振が起きる可能性がある。
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用語集
振動診断の際、良く出てくる言葉
1.O/A値とPeak値
下図のような振動波形があった時、O/A値(rms値 平均値 Eq Peak値)は平均的な高さを
示し、Peak値はその最高値を示します。Peak値は傷や欠損があると高くなる為、ギアや
ベアリング損傷の初期段階の発見に役立つ場合があります。O/A値は全体的な振動の
上昇を示し、設備や部品全体の劣化を示します。また、軸受の潤滑不良、摩耗などは
Peak値よりO/A値にでる傾向があります。
2.クレストファクタ(波高率)CF
インパクトインデックスとも呼ばれ、O/A値とPeak値との比により、状態の変化を捉え
ようとするもので、軸受の欠陥の判定等に使用します
転がり軸受の損傷例
・軸受損傷の場合はCFが大
・潤滑・摩耗の場合はCFが小
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振動教育機材
筆者が製作した、振動教育機材です
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