平成28年12月分 自由の女神は微笑むか?

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平成 28 年 12 月 1 日
伊予銀行 ニューヨーク駐在員事務所
<政治>
自由の女神は微笑むか?それとも・・・
★ 駐在員日記 ~ みるみる赤く染まっていく・・・
ついに歴史的瞬間を目の当たりにした――これが私
の率直な感想でした。忘れもしない 11 月 8 日、私は仕
事を終えてまっすぐ自宅へ戻り、テレビの前に座りまし
た。米大統領選挙の開票が始まった頃は正直軽い気持ち
で開票状況を眺めていましたが、次第に思わぬ展開へと
進んでいき、米国本土がみるみる赤色に染まっていくで
はありませんか。
“まさか、こんなことが!?”と徐々
に気持ちが高ぶり、固唾を呑んでじっと戦況を見守る自
<ああ、赤く染まっていく・・・>
(11 月 8 日のテレビ中継より)
分がいました。日付が変わり、翌 9 日午前 2 時頃には「トランプ氏当選」との声が大々的
に出始め、最終的な“大番狂わせ”にその後も興奮からしばらくは寝付けませんでした。
★ 有権者は変化を望んだ
トランプ氏当選を多くの米メディアや評論家は
“Upset”、
“Shocking”と論評しましたが、こうし
た大番狂わせの大統領選挙は 1948 年以来です1。ト
ランプ大統領の誕生は、米国内外に衝撃を与え、
“米国版「Brexit(英国の EU 離脱)
」”とも呼ばれ
ています。また、得票数で負けた候補が大統領に
<赤いネクタイと親指ポーズが米国史に刻まれる>
(11 月 9 日付「FINANCIAL TIMES」紙 1 面より)
当選したケースは、米国史上 5 回目のことです2。
トランプ氏は予備選で、白人勤労者を中心に
1,400 万票という共和党大統領候補として史上最高の得票をし、本選では、本命クリントン
候補を突き放して大統領の座を射止めました。
それはなぜか。まず第 1 に、
「有権者の“変化”を求める空気が強かった」ことが挙げら
れます。2 期 8 年続いたオバマ民主党リベラル政権を変えたい気持ちと、既成政治、国民か
ら離れてしまったワシントン政治への不満と怒りが募って、現状打破を求める機運が広が
りました。また、経済実態への不満や先行き不安から、政治のリーダーシップ一新を求め
る空気も強かったといえます。特に白人勤労者層は、所得格差の拡大、大学の学費高騰、
雇用不安、医療費上昇、大学卒業者と低学歴者との待遇や昇進面での開き拡大などに怒り
を募らせています。トランプ氏は、そうした世論に“既得権益者への挑戦”というかたち
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68 年前には本選を通じてデューイ共和党候補(当時のニューヨーク州知事)に負けると終始予想されて
いたトルーマン民主党大統領が 303 人の選挙人を獲得して逆転当選し、大統領再選を果たした。
1824 年、1876 年、1888 年、2000 年の各年に次いで米国史上 5 回目。
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で公約し、巧みに取り入りました。大統領選挙の出口調査の一つとして、次期大統領に求
める資質として“必要な変化をもたらすことができる”との回答が 39%で最多でしたが、
その回答者の 83%がトランプ氏に投票したといいます。これは変化を渇望している有権者
の広がりと見て取れます。
第 2 に、
「ヒラリー・クリントン不信感」は予想以上
に根深いものでした。クリントン氏は経験や知性、見
識、政策面における知識など申し分なく、大統領の資
質を備えた候補とされましたが、直前のメール問題は
もちろん、変化を求める有権者の目には、既成政治指
導者で既得権益の代表者として映り、大統領になって
も変わり映えしない存在として、多くの有権者の信頼
感を失いました。そのため、クリントン氏への支持熱
<“負ける”ということは・・・>
は大きく盛り上がらず、
“初の女性大統領”も強力なセ
(11 月 9 日付「THE WALL STREET JOURNAL」紙面より)
ールスポイントにはなり得ませんでした。
★ いよいよ米国も新スタートだ
さあ、来年からいよいよ米国も本格的に変化しそうです。トランプ氏は“初”づくし(下
表参照)で、とかく話題を振りまく第 45 代大統領の誕生です。さらに言えば、共和党であ
るトランプ氏の大統領当選によって、共和党はホワイトハウス、連邦議会(上下両院)、そ
して知事、州議会(それぞれ約 3 分の 2 を制する)の“政治 4 極”を牛耳る“単独天下”
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が実現されます。
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【 トランプ第45代大統領はとにかく“初”が多い 】
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○ 米国史上最高齢の大統領(2017年1月20日の就任時に70歳)
○ 歴代で最も裕福な大統領(2017年1月20日の就任時点における個人資産は約35億ドル<見込>)
○ 公職(行政、議会)と軍隊経験が全くない米国史上初の大統領・米軍最高司令官
○ 結婚歴3回、離婚歴2回の大統領もかつていない
○ 共和党3回、民主党2回、改革党、無党派各1回と、有権者登録を計7回変えた大統領も初めて(2012年以来共和党)
○ ジョン・クインシー・アダムズ第6代大統領以来、米国史上2人目の外国生まれの伴侶を持つ大統領
(ルイーザ・アダムズ夫人は英国、メラニア・トランプ夫人は旧ユーゴスラビア生まれ)
○ 息子のバロン君(10歳)は、ホワイトハウスに住む大統領の子供としては、ジョン・ケネディ・ジュニア君
(父親のジョン・F・ケネディ大統領暗殺直後に3歳)以来、初の息子。
○ ニューヨーク市民が大統領になるのは、リチャード・ニクソン氏が生地カリフォルニア州からマンハッタン
区に移住し(弁護士事務所勤務のため)、1968年の大統領選挙で当選して以来。
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人口動態において顕著に表れている「二つの米国」3
の姿が見える今、全米主要都市の一部では、“Not My
President”を合言葉に、トランプ氏に反旗を掲げる民
主党リベラル層の抗議デモも依然続いています。
“選挙は水物だ”――私は今回あらためてそれを深
く知りました。しかし、決着は着いた。一人の日本人
駐在である私も、ここ半年間ずっと追いかけてきて、
ようやく胸を撫で下ろしたのは事実です。これからは、
米国がどう歩んでいくのか、日米関係を含め日本に与
える影響はいかほどのものか、世界はどう変わるか、
景気や経済は良い方向に向かうか、しっかりこの目で
<さあ、彼らはこれからどう立ち向かう・・・>
鉄柵で囲まれたトランプ・タワー前で、多くの武
装警備隊と取材陣、シャッターを押しまくる観
光客が押し寄せる中、必死でデモを行う民衆
(ニューヨーク・マンハッタン区中心部)
見続けていきたいと思います。
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男女間(男性は共和党・保守、女性は民主党・リベラル各候補を支持する傾向)
、人種(白人や黒人、ヒス
パニック、アジア系による支持層の分断)
、宗教(プロテスタントとカトリック、ユダヤ教や仏教徒を含む
他宗教徒の二極分化)
、共和党・保守と民主党・リベラルの二分化、などが挙げられる。
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米国の見本市情報(2016 年 12 月~2017 年 2 月)
『International WorkBoat Show』 (ニューオリンズ)
11 月 30 日~12 月 2 日
商業用船舶、海洋機器、関連サービス:各種作業船舶・ボート(バージ、タグボート、湾内用ボート、
フィッシング用/消化・救助用/軍用・パトロール用/調査用/ゲーム用/オフショア用/旅客用/車両用ボ
ート・フェリー等)、船舶・マリーナ建造、潜水・サルベージ、港湾行政・管理等
『Grand Strand Gift & Resort Merchandise Gift Show』 (マートルビーチ)
12 月 4 日~7 日
ギフト用品、リゾート&観光商品、土産品、繊維製品等
『North American International Auto Show 2017』 (デトロイト)
1 月 8 日~22 日
新型自動車、トラック、スペシャルカー、メーカー関連展示。
『Winter Fancy Food Show』 (サンフランシスコ)
1 月 22 日~24 日
専門食品、菓子、チーズ、コーヒー、スナック、スパイス、エスニック、自然食品、有機食品等
『NY NOW』 (ニューヨーク)
2 月 4 日~8 日
家庭用品/衣料品、食卓用品、ライフスタイル:ベビー・子供服、ギフト、パーソナルアクセサリー、
パーソナルケア・ウェルネス、ハンドメイド製品。
『PLASTEC West 2017』 (アナハイム)
2 月 7 日~9 日
自動化技術、CAD/CAM/プロトタイピング、受託サービス、射出成形機械、金型&型用部品、
プライマリー加工機械、包装機器・材料。
『LeadingAge Minnesota』 (ミネアポリス)
2 月 8 日~10 日
介護ホーム・高齢者住宅産業用設備/食品/建築、経済コンサルタント、経営コンサルタント、ケア製品。
※上記見本市は予定が変更になる場合もありますのでご留意ください。
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★ トピックスレポート(現地スタッフ便り) ★
トランプ次期大統領 ~ 目に焼きついて離れない風刺画と造語 ~
今回の米大統領選は“まさか”の結果――私自身
はもちろん、テレビやラジオにおいてもキャスター
はみな、開票が進むにつれて次第に顔が引きつって
いき、開票結果が出た直後も呆然とした様子が手に
取るように分かりました。しかし、各メディアはす
ぐに方針を切り替え、現在では選挙前よりも一層激
しい調子で、トランプ次期大統領の報道を繰り広げ
ています。
<各誌を彩るトランプ風刺画>
そのメディアに関連した話ですが、大手テレビ局は選挙戦当時、高視聴率を獲る目的で、
トランプ氏に取材を依頼しましたが、その際同氏より「私のペースで会談を進めるよう
に!」との条件を出され、有利に進められたそうです。昨夏の「メキシコ人はみな犯罪者。
国境に壁をつくる!」との発言を聞いた時、私はこの候補は間違いなく脱落すると確信し
ていましたが、今思えば、その後に続く同氏への批判は自身にとって全てプラスへと働く
宣伝材料になったことは紛れもない事実といえそうです。これまでの選挙戦で同氏から放
たれた数々の過激発言や、その偏った一挙一動によって、米国民を含め世界中の人々が“次
は何を言い出すんだ!?”と次第に引き込まれていき、そして同氏はメディアの手によっ
てすっかりキャラクター化されていきました。テレビでは、人気番組の一つ「サタデーナ
イトライブ」がテレビ討論会の直後に両氏の討論の様子をパロディー化して放送し、大変
話題を集めました。さらに、「エコノミスト」や「タイム」、
「ザ・ウィーク」などの有名週
刊誌も、同氏の言動をパロディー風刺画として毎週こぞって掲載し、私もいつの間にかそ
れらの画を見るのがどんどん楽しくなって、次号に期待してしまうほどでした。
それに合わせて、知識人たちも同調するように、同氏を批判する数多くの造語を生み出
しています。一例を挙げると、“Trumponomics(トランプ経済)”や“Trumpist(トランプ
支 持 者 )”、“ Trump Slump ( ト ラ ン プ の ス ラ ン プ )”、“ Trumpism ( ト ラ ン プ 主 義 )”、
“Dump-Trump-Talk(トランプ降ろし)”、トリクルダウン 4の経済学を文字った“Trump-Up
Trickle-Down”など、枚挙にいとまがありません。
最近大きな話題を集めた一つとして、ある新聞で長期連載をしている漫画家のギャリ
ー・トゥルードー氏がいます。彼は 30 年前からトランプ氏を追いかけており、その様子を
4
“富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)
”とする経済理論。新
自由主義の代表的な主張の一つで、この学説を忠実に実行したかつての米大統領ロナルド・レーガンの経
済政策(レーガノミクス)について、その批判者と支持者がともに用いた言葉でもある。
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ずっと描き続けていますが、最近それらの作品を集めた「Yuge!」(下写真)が発売されま
した。先月 7 日に彼が出演したラジオ番組(NPR:Fresh Air)では、
“小学校 4 年生でも分
かる言葉を使って話すトランプ氏の表現を漫画にするのはワクワクし、非常に楽しかった”
と振り返っています。
メディアをうまく利用し、優れた交渉力と話題を総
なめにする巧みな話術で、これだけ多くの人たちのハ
ートをつかみ、大勝利をもぎ取ったトランプ次期大統
領。彼が主張する政策が今後どの程度実現されるのか、
そしてその影響はいかほどのものか、これから大変気
になるところです。今後彼が率いる米国、そして日本
を含めた世界中が良い方向へと導かれ、新たなかたち
でトランプ・ブランド(?)が確立されていくことを、
米国で暮らす一人の日本人として強く願いながら、こ
れからも注目していきたいと思っています。
<書店の店頭に並ぶ雑誌「YUGE!」>
※本来の言葉は“HUGE!(でっかい!)”だ
が、トランプ氏がこの言葉を発すると
“YUGE!”と聞こえるため、パロディー
でこの造語が生み出され、出版された。
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