2011 年度 共同研究等助成事業報告集

2011 年度
共同研究等助成事業報告集
財団法人
日中医学協会
財団法人
日中医学協会
2011 年度共同研究等助成事業報告集目次
1. 調査・共同研究
鈴木
李
亨
疾患関連蛋白質の高次構造に基づく機能害剤探索・・・・・・・・・・1
元元
Oridonin による膀胱がん細胞死誘導とその制御機構の研究:新規依存性受
容体 UNC5D の役割の検討・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
香山 不二雄
食品中有機塩素農薬、ダイオキシン類、重金属曝露の疫学調査・・・・14
戴
TRPA1 受容体を標的とする天然薬物成分の探索およびその鎮痛メカニズム
毅
の解析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
崔
星
癌幹細胞を標的とした肝癌の重粒子線治療の基礎的究・・・・・・・・37
秦野
伸二
筋萎縮性側索硬化症の発症分子メカニズムに関する研究・・・・・・・43
尾崎
由基男
ジスルフィド異性化酵素 ERp57 の血小板活性化、血栓形成に於ける役割 ・49
橋本
謙二
薬物依存症の治療薬としてのミノサイクリンの効果と作用メカニズムに
関する研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54
安井
孝周
尿路結石の一塩基多型を用いた遺伝子診断方法の開発と人種差の検討・60
浅村
尚生
小型肺癌に対する根治術としての縮小手術の評価~日中間における小型
肺癌に対する縮小手術の標準化に向けての検証・・・・・・・・・・・66
宋
培培
科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドラインの中国での構築に向けた先行
的基盤研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・72
吉川
雅之
チャ(Camellia
菅崎
弘幸
OPG 遺伝子導入へのセメント芽細胞の反応様式と歯根吸収抑制の関係・85
潔
日本と中国を精通する医療ソーシャルワーカー(MSW)の人材育成に関す
沈
sinensis)花部の生体機能成分の解明と定量分析・・79
る研究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・91
2. 中国人研究者・技術者招聘
河野
茂
中国吉林省の HIV 浸淫地域における真菌の薬剤耐心性と疫学研究・・・・95
3. 在留中国人研究者
張
冬頴
抗ヒスタミン薬含有 OTC 薬服用後における脳内ヒスタミン H1 受容体占拠
率の時間推移:健常者における陽電子断層撮影法(PET)測定・・・・102
焦
其彬
心房筋特異的遺伝子欠損法の開発と応用・・・・・・・・・・・・・・109
鄧
澤義
頭頸部癌発症における HPV 感染の役割及び SCCA と頭頸部癌予後に関する研
究・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 115
石
棟
開放隅角緑内障、正常眼圧緑内障、発達緑内障の分子遺伝学的解析・・123
郝
佳
ビスフォスフォネート(BP)局所投与による、骨粗鬆モデルラット脛骨骨
髄内に埋入した薄膜ハイドロキシアパタイト(HA)コーティングインプ
ラント骨性結合への効果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・130
裴
麗瑩
要介護高齢者と要介護者を介護している高齢者の精神健康と生活満足度
に影響する要因の研究-中国と日本の比較より・・・・・・・・・・・136
高
靖
新規分子 PRIP の開口分泌における役割の解明・・・・・・・・・・・143
4. トラベルグラント
祖父江
元
東アジア神経学フォーラム・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・150
帖佐
徹
アジア環境サーベイランスワークショップ・・・・・・・・・・・・・151
土井 由利子
2011年世界睡眠学会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・152
浅川
日本中医学会第 1 回学術総会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・153
要
。
-1-
-2-
-3-
-4-
-5-
-6-
-7-
-8-
-9-
-日中医学協会助成事業-
Oridonin による膀胱がん細胞死誘導とその制御機構の研究:
依存性受容体 UNC5 ファミリー/netrin1 の役割の検討
研
究 者 氏 名
李 元元
日 本 所 属 機 関
日本千葉県がんセンター 研究員
中国側共同研究者名
朱 育焱
中 国 所 属 機 関
中国医科大学第一臨床学院泌尿器外科 助教授
共 同 研 究 者 名
中川原 章
要 旨
膀胱がんは泌尿器悪性腫瘍の1つであり、尿路系腫瘍の中で発生頻度が一番高いものである。本研究
ではヒト膀胱がん T24、EJ および J82 細胞へのオリドニンの抑制効果およびその細胞死制御機構の解明と
標的分子の探索を行った。その結果、オリドニンはこれらの膀胱がん細胞株にアポトーシスおよびオート
ファジーを誘発することによって細胞死を引き起こすことが判明した。さらに、EJ 細胞を接種したマウス
モデルを用いた実験ではオリドニンの膀胱がんへの抑制効果を in vivo で検証した。
三つの細胞株の中に、
T24とEJ細胞には癌細胞の成長・転移に関わると言われる分泌蛋白質であるnetrin1の発現が非常に高く、
その発現はオリドニン処理によって時間依存的に減少することが分かった。さらに、netrin1 特異的 siRNA
を用いて内在性の netrin1 をノックダウンした条件下において、オリドニンによる細胞死誘導が促進され
ることが観察された。一方、netrin1 の発現がほとんど検出できない J82 細胞ではオリニン処理によって、
netrin1 依存性受容体である UNC5A および UNC5D が誘導されるのが明らかになった。さらに、臨床検体を
用いた解析では netrin1およびその受容体 UNC5A と UNC5D の発現が筋層浸潤性膀胱がんに有意的に高いこ
とが見出された。 これらの結果はオリドニンが膀胱がんに対して明らかな腫瘍抑制効果をもつことと、
netrin1 とその依存性受容体 UNC5 ファミリーが膀胱がんの進展に関わっており、オリドンによる膀胱がん
細胞死誘導機構の標的分子の一つであることが示唆された。
Key Words オリドニン, 膀胱がん, 細胞死, netrin1, UNC5 ファミリー
緒 言:
膀胱がんは泌尿器悪性腫瘍の1つであり、尿路系腫瘍の中で発生頻度が一番高いものである。膀胱腫瘍
の約8割を占めている表在癌は、内視鏡治療と化学療法の組み合わせで治療を行ったとしても、術後2年
の再発率が 50~70%と言われている[1]。
浸潤性膀胱がんは予後が不良で、
5 年生存率が 40-50%である[1]。
したがって、膀胱がんに対する新しい有効な治療法の開発が重要である。
一方、発生、血管新生、神経変性などに重要な役割を果たす netrin1 とその受容体 DCC おとび UNC5 ファ
ミリー(UNC5A,UNC5B,UNC5C と UNC5D)は腫瘍形成および転移に関与することが報告されている。DCC お
とびUNC5 ファミリーはリガンドであるnetrin1 の有無による抗アポトーシス応答とアポトーシス促進応答
を切り替える機能を持つことによって依存性受容体(Dependence Receptors)と呼ばれ、条件的な癌抑制
因子として働いていると考えられる[2,3]。その中に、UNC5D は最近我々が独自に開発した神経芽腫由来の
cDNA ライブラリーを用いて同定した UNC5 ファミリー新規メンバーである。
これまでの我々の研究結果から、
DNA損傷処理など様々な刺激に応じて細胞死が誘導される過程においてUNC5Dががん抑制遺伝子p53のター
ゲットとして、アポトーシスを誘導することが明らかになった [4]。これまでに、これらの netrin1 受容
-10-
体は遺伝子座のヘテロ接合性の消失(Loss of heterozygosity, LOH)および発現低下がさまざまな腫瘍に
検出された [5]。そして、netrin1 の発現は進行神経芽腫に高く、予後不良につながっている[6]。大腸が
んでは netrin1 の発現パターンも異常になり、その受容体 DCC および UNC5 ファミリーが、大腸がん全体の
半分以上においてダウンレギュレートされている[5, 7]。したがって、腫瘍形成および転移においては、
netrin1 受容体経路が重要な役割を果たしているものと思われる。
オリドニン(Oridonin)は冬凌草(Rabdosia Rubescens)と呼ばれる植物により抽出した生薬成分である。
このオリドニンには抗炎症作用および抗腫瘍作用があることが知られている。これまでに、白血病、肝臓
がん、大腸がんなど様々な悪性腫瘍においてオリドニンがアポトーシス(apoptosis)や自食作用(autophagy)
などを誘導し、がん細胞を細胞死させることが報告されているが[8-10]、膀胱がんでの抗腫瘍効果はまだ
不明である。
本研究において、我々は定量的PCR法により3種類の膀胱がん細胞株および膀胱がん臨床検体におけ
る netrin1/UNC5 ファミリーの発現レベルを調べた。また、膀胱がんに対してオリドニンの抑制効果を in
vivo および in vitro で検討した。さらに、オリドニンの細胞死制御機構における netrin1/UNC5 ファミリ
ーの関与の有無を検討した。
対象と方法:
膀胱がん培養細胞株と siRNA 導入
ヒト膀胱がん細胞株 T24、EJ および J82 は 10%FCS を加えた RPMI 培地を用いて 37°C にて常法により
培養した。Netrin1 siRNA (Santa Cruz)をマニュアルに従って細胞に導入した。48 時間後にオリドニン
(Sigma)を添加し処理を行った。
RNA抽出と定量および半定量RT-PCR
RNeasy Kit(Qiagen)またはRNAiso Plus kit(TAKARA)を用いて培養細胞および臨床検体よりそれぞれRNA
を抽出し、マニュアルに従ってcDNAを合成した。標的遺伝子の発現は定量RT-PCR法(培養細胞由来サンプ
ル:Applied Biosystems 7500; 臨床検体由来サンプル:Roche LightCycler)または半定量RT-PCR法に
て測った。Glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase (GAPDH) を内因性コントロールとした。
細胞増殖・細胞死解析
細胞増殖は細胞増殖アッセイキットのWST-8(Dojinndo)を用いて解析した。細胞死はTrypan Blue染色
およびフローサイトメトリー法(FACS)で検討した。Trypan Blue染色ではオリドニンで処理した細胞を
Trypan Blue(sigma)で染めて(0.2%(W/V))、血球計算盤を用いて総細胞数と青色に染められた死細胞数を
算定した。FACS解析では細胞をエタノールで一晩固定して、PI(Propidium Iodide)で染色した上で、細胞
解析用装置FACS Caliber (BD)にて解析を行った 。
ウェスタンブロッティング
オリドニンで処理した細胞から調製した細胞ライセットを電気泳動によって分離して、
PVDF 膜に転写し、
特異的な抗体を用いて標的タンパク質の発現や活性化を ECL 検出法で検出した。
オリドニンによる抗腫瘍活性の in vivo 評価実験
1X106の膀胱がん EJ 細胞をヌードマウス(BALB/cAJcl-nu/nu、6週齢、♀、日本クリア)の皮下に
移植した。移植五日後に腫瘍体積を指標にマウスを2群に群分け、オリドニン処理群にオリドニンを加え
た PBS 溶液(15 mg/kg/day)を、対照群に同量の DMSO を加えた PBS を腹腔内注射により20日間に投与し
た。腫瘍径を測定し、腫瘍体積の推移を観察した。実験が終わった際に、腫瘍を摘出し、腫瘍重量を測定
した。
結 果:
-11-
膀胱がんに対するオリドニンの抑制効果
オリドニンの膀胱がんに対する抑制効果を in vitro において検討した。ヒト膀胱がん細胞株 T24、EJ お
よび J82 を用いてオリドニンで24時間に処理したところ、オリドニン投与量の用量依存的に細胞死が起
こることが観察した(Fig.1)
。また、細胞増殖アッセイキットの WST-8 を用いた細胞増殖解析、Trypan Blue
染色および FACS 解析を行って、同様な結果を得た。さらに、ヌードマウスを用いた EJ 細胞移植モデルで
のオリドニンの抗腫瘍活性を検討した。コントロール群に比べて、オリドニンを投与した実験群は腫瘍体
積および腫瘍重量が有意的に減っていた。これらの結果から、オリドニンが膀胱がんに対して確実な抑制
効果をもつことが明らかになった。
Fig.1 オリドニンが膀胱がん細胞の細胞死を誘導する。
オリドニンによる膀胱がん細胞死誘導の機序
オリドニンによる膀胱がん細胞死誘導の機序を検討した。オリトニン処理を受けた細胞から調製した細
胞ライセートを用いてウェスタンブロッティング法で解析をしたところ、アポトーシスを起こさせるシグ
ナル伝達経路に重要な因子である PARP および caspase3 のオリドニン用量依存的活性化を検出した。さら
に、オートファジーの特徴的なマーカーである LC3-II の増加が見られた(Fig.2)。したがって、オリドニ
ンによる膀胱がん細胞死の誘導過程において、アポトーシスとオートファジーの両方が活性化しているこ
とが判明した。
Fig.2 オリドニンが膀胱がん細胞にアポトーシスとオートファジーを誘導する。
膀胱がんにおける netrin1/UNC5 ファミリーの発現
最近、UNC5D 遺伝子座を含む染色体8番のロッスが浸潤性膀胱がん患者に多くみられることが報告され
ている[11]。
我々は膀胱がんにおける netrin1/UNC5 ファミリーmRNA の発現は定量 RT-PCR 法で測定した。
その結果、netrin1およびその受容体 UNC5A と UNC5D の発現は T24 および EJ 細胞に高く、 J82 にほとん
ど検出できなかった。一方、臨床検体を用いた解析では netrin1およびその受容体 UNC5A と UNC5D の発現
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が筋層浸潤性膀胱がんに有意的に高いことが見出された。
オリトニン処理に応じて、
netrin1およびUNC5A、
UNC5D の発現は T24 細胞において、時間依存的に減少していた一方、EJ 細胞において、netrin1が下がっ
ていたが、UNC5A と UNC5D が誘導された。J82 細胞には UNC5A と UNC5D が誘導された。さらに、netrin1 特
異的 siRNA を用いて内在性の netrin1 をノックダウンした条件下において、オリドニンによる細胞死誘導
が促進されることが観察された。
考 察:
本研究において、我々はオリドニンが膀胱がんに対して明らかな腫瘍抑制効果をもつことを in vivo と
in vitro で検証した。その作用機構については、アポトーシスとオートファジーを誘導することによって
細胞死を引き起こすことが判明した。さらに、我々は腫瘍形成および転移において重要な役割を果たして
いると思われる netrin1 が膀胱がん細胞および筋層浸潤性膀胱がん組織に高く発現していることを見出し
た。そして、netrin1 の依存性受容体 UNC5 ファミリーメンバーUNC5A と UNC5D の発現が netrin1 の高発現
細胞においても高いことから、netrin1/UNC5 経路は膀胱がん細胞の成長および浸潤・転移能につながる可
能性が示唆される。興味深いことに、netrin1 の高発現細胞においてはオリドニン処理に応じて、netrin1
の発現が減少した一方、netrin1 の発現が検出できない細胞においてはその依存性受容体の UNC5A と UNC5D
が誘導された。さらに、siRNA による netrin1 の発現抑制がオリドニンによる細胞死の誘導を促進した。
これらの結果は netrin1/UNC5 がオリドンによる細胞死誘導に重要な役割を担うことを示す。したがって、
netrin1/UNC5 経路は膀胱がん治療の新たな標的分子になる可能性が示唆される。
参考文献:
1.
Gallagher DJ, Milowsky MI.
Bladder cancer. Curr Treat Options Oncol. 10(3-4):205-15 (2009).
2.
Goldschneider D, Mehlen P. Dependence receptors: a new paradigm in cell signaling and cancer
3.
Arakawa H. Netrin-1 and its receptors in tumorigenesis. Nat Rev Cancer. 4(12):978-87 (2004).
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Wang H, et al. A newly identified dependence receptor UNC5H4 is induced during DNA
therapy. Oncogene 29(13):1865–1882 (2010).
damage-mediated apoptosis and transcriptional target of tumor suppressor p53. Biochem Biophys
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5.
Thiebault K, et al. The netrin-1 receptors UNC5H are putative tumor suppressors controlling cell death
commitment. Proc Natl Acad Sci U S A. 100(7):4173-8 (2003).
6.
Delloye-Bourgeois C, et al. Netrin-1 acts as a survival factor for aggressive neuroblastoma. J Exp Med.
206(4):833-47 (2009).
7.
Mazelin L, et al. Netrin-1 controls colorectal tumorigenesis by regulating apoptosis. Nature.
8.
Zhou GB, et al. Oridonin, a diterpenoid extracted from medicinal herbs, targets AML1-ETO fusion
431(7004):80-4 (2004).
protein and shows potent antitumor activity with low adverse effects on t(8;21) leukemia in vitro and in
vivo. Blood. 109(8):3441-50 (2007).
9.
Gao FH, et al. Oridonin induces apoptosis and senescence in colorectal cancer cells by increasing
histone hyperacetylation and regulation of p16, p21, p27 and c-myc. BMC Cancer. 10:610 (2010).
10. Wang H, et al. Oridonin induces G2/M cell cycle arrest and apoptosis through MAPK and p53
signaling pathways in HepG2 cells. Oncol Rep. 24(3):647-51 (2010).
11. Koed K et al. High-density single nucleotide polymorphism array defines novel stage and
location-dependent allelic imbalances in human bladder tumors. Cancer Res.65(1):34-45 (2005).
作成日:2012 年 3 月 8 日
-13-
-14-
5.成果の概要
中国の河北省石家荘と天津市にて、米 21 検体および、魚 27 検体を採集した。
米中のカドミウム濃度、総ヒ素濃度、鉛濃度、クロム濃度を測定した。魚中の
ダイオキシン類および有機塩素系農薬の濃度を測定した。米中カドミウム濃度、
ヒ素濃度は数検体が、中国の最大許容濃度を越えていた。
ダイオキシン類濃度は、低い傾向を示したが、石家荘で購入した淡水魚中の
ダイオキシン濃度が海産魚のそれらより高い傾向を示し、湖沼の汚染があるこ
とが示唆された。
6.本研究における中国人共同研究者の役割及び業績
河北省石家荘と天津市米検体および魚検体の収集と、来日時に日本国内の
(株)日吉にて、米中重金属濃度を測定した。データの整理を行った。今回の
データはまだ、論文となっていないが、業績は、一連の関連のある
論文は、
Sun SJ, Kayama F, Zhao JH, Ge J, Yang YX, Fukatsu H, Iida T, Terada M,
Liu DW. Longitudinal increases in PCDD/F and dl-PCB concentrations in human
milk in northern China. Chemosphere. 2011 Oct;85(3):448-53.
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—日中医学協会助成事業—
食品中有機塩素農薬、ダイオキシン類、重金属曝露の疫学調査 日本側研究者氏名:香山不二雄
所属機関:自治医科大学
中国側研究者名:孫 素菊
所属機関:河北医科大学
【要旨】
中国の河北省石家荘と天津市にて、米 21 検体、魚 27 検体を採集し、米中カドミ
ウム濃度、総ヒ素濃度、鉛濃度、クロム濃度を ICP-MS にて測定し、魚中有機塩素
系農薬を GC/MS/MS にて、ダイオキシン濃度をケイラックス(CALUX)法にて測定
した。 米 21 検体のカドミウム、総ヒ素、鉛、クロム濃度を測定した。コーデック
スのカドミウム濃度の最大値を 2 検体が、中国の食品中汚染物質許容濃度を3検体
が超えていた。総ヒ素濃度は6検体が超えていた。鉛濃度は1検体が許容濃度と同
じ濃度であった。中国の米中重金属濃度は、カドミウム、総ヒ素に関して、地域に
よってはかなり深刻な汚染状況にある可能性がある。
有機塩素系農薬濃度は、検出される魚は少なかった。しかし、DDT 代謝物/DDT
が4以下の検体があり、最近の DDT 使用の可能性が示唆された。
魚中ダイオキシン濃度は日本の海産魚の値に比べれば、低いレベルであるが、石
家荘産の淡水魚のダイオキシン濃度が高く、内陸部の湖沼での養魚場のダイオキシ
ン汚染または養殖用餌のダイオキシン濃度が高い可能性があり、今後とも調査を続
ける必要がある。これまでの母乳調査で石家荘での経時的なダイオキシン濃度の上
昇があることから、さらに、詳細な調査が必要である。
【緒言】
難分解性有機汚染物質(persistent organic pollutants; POPs)である有機塩素系農
薬およびダイオキシンは、環境中に放出されるとなかなか分解されず、食物連鎖を
通じて魚介類に蓄積され、食品から徐々に体内に蓄積される。ダイオキシンは脂肪
性が高く、脂肪分の多い魚、肉、乳製品、卵などに蓄積されやすい。人の脂肪組織
に溜まった POPs が母乳中に多く排出されるので、母乳中 POPs が高濃度となる。
授乳期間中(1年間)に,母体に蓄積されたダイオキシンの約 60%が児の方に移行
してしまうとも推定されている。
-16-
これまで、中国の母乳中ダイオキシン濃度および有機塩素系農薬(参考文献1,
2,3)、臭素系難燃物質等(参考文献4)の調査を行ってきた。その結果、他の先
進国はダイオキシン濃度が低下しているにもかかわらず、河北省石家荘にて経時的
に採取した母乳中ダイオキシン濃度は上昇していることが明らかにしてきた(参考
文献5)。
ダイオキシン類や有機塩素系農薬は蓄積性が高く、重金属汚染物質の母親から
胎盤を介して胎児に移行し、胎児の発育に影響を与え、次世代に亘って影響する可
能性が考えられている。
ダイオキシン類の発生源は、日本ではほとんど対策済であるが、中国は大気汚染、
廃棄物焼却、化学工場、製鉄などからまだ発生しており、大気中粒子に付着し最終
的に土壌や水を汚染する。さらにプランクトンや魚に食物連鎖も通して取り込まれ
ていくことで、生物にも蓄積されていくと考えられている。日本では負荷量の 60%
が近海魚介類の摂取によるが、中国での曝露に関しては判っていない。それは、中
国食品中の POPs 濃度および重金属濃度の知見が不足しているためである。そのた
め、中国にて採取した米、魚、肉類の重金属濃度、有機塩素系農薬濃度、ダイオキ
シン類濃度を測定して、中国食品の汚染レベルを調べると共に、摂取量から求めら
れる曝露量から健康リスクを考察する必要がある。
【 目的 】 中国における重金属および難分解性有機汚染物質(POPs)の環境汚染に関してこ
れまで、河北医科大学と自治医科大学とは「日中母乳にダイオキシン、有機塩素農
薬に係るリスク評価」について研究してきた。今回、中国の南部地域の米中重金属
汚染と河北省石家荘および天津市にて魚を、石家荘で肉類を購入し、POPs として有
機塩素系農薬およびダイオキシン濃度を測定し、健康リスクに関して調査する。 【 方法 】 1. 食品収集(米、魚、肉類) 白米サンプルは、南部中国各地から 21 サンプルを収集した。河北省にて魚サンプル
23 品目(河北省石家荘市13品目、天津市10品目)それぞれ3検体を購入し、同
重量を採取しプールサンプルとして混和して1検体とした。養殖場所は、鮒、紅焼
魚(魚即)、鯉、鯰が石家荘近郊、草魚は黄河流域、ローチ(天津市)、鯉(天津市)、
草魚(天津市)、ナマズ(天津市)、ハス(天津市)海水魚の採取場所は、鱈、鯛、
平目、アイナメ、太刀魚、(浙江省舟山市)ボラ(山東省青島市)、鯖(江蘇省常州
市、天津市)、太刀魚(天津市)、平目(天津市)、ハス(鯉科の肉食魚、天津市)、
マナガツオ(江蘇省常州市)である。
-17-
肉類は石家荘市で購入し、魚と同様に3検体をプールして1検体とした。羊肉(内
モンゴル自治区産)、鳥肉、豚肉、牛肉は石家荘周辺産であった。
2.米中重金属測定
米サンプルは、
(株)日吉にて粉砕の後に、約 1 グラムを正確に測り、硝酸にてマ
クロウェイブ抽出した後に、ろ紙で濾過した後に、ICP/MS により、カドミウム、
総ヒ素、鉛、クロム濃度を測定した。
3.魚および肉中の有機塩素系農薬測定
それぞれの魚および肉はそれぞれの地域で3個体を1検体にプール試料とした。
試料はホモジネートし、アセトン処理およびヘキサン抽出し、フロリジルミニカラ
ムクロマトグラフィーにて抽出し、濃縮してヘキサン1ml に溶解して、GC/MS/MS
により測定した。て、サンプルを当教室に運び、食品中汚染物質を測定する必要が
ある。α-ヘキサクロルヘキサン(α-HCH)、β-HCH、γ-HCH、δ-HCH、HCB、
ヘプタクロール(Heptachlor)、ヘプタコロール・エポキサイド(Heptachlor-epoxide)、
オキシ・クロルデン(Oxy-Chlorden)、アルドリン(Aldrin)、ディルドリン(Dieldrin)、
エンドリン(Endrin)、トランス・クロルデン(trans-Chlorden)、cis-Chlorden、
trans-Nonachlor、cis-Nonachlor、2,4'-DDE、4,4'-DDE、2,4'-DDD、2,4'-DDT、
4,4'-DDD、4,4'-DDT を測定した。
-18-
4.魚および肉中ダイオキシン類測定
-19-
試料を前処理として、硫酸シリカゲルカラム及び活性炭カラムを使用し、測定に、
ダイオキシン類応答性組換え細胞 H1L6.1c2 を用いたレポータージーンアッセイを
利用してダイオキシン類の毒性等量を測定する方法(ダイオキシン類応答性組換え
細胞 H1L6.1c2 は、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流域に 4 個のダイオキシン応
答配列 DRE を含むシトクロム P450(CYP1A1)プロモーターを持つプラスミド
pGudLuc6.1 を、マウス肝ガン細胞 Hepa1c1c7 に導入した細胞)用いて、細胞の蛍
光を測り、2,4,7,8-TCDD に対する検量線から検体中の濃度を計算した。(生物検定
法として、環境省の公定法および U.S. EPA の公定法)
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�[ケイラックス®アッセイ]�環境省平成17年告示第92号第1の1
[�ケイラックスH1L6.1c2細胞�原理図�]
��前処理に、硫酸シリカゲルカラム及び活性炭カラムを使用し、測定に、ダイオキシン類応答性組換え細胞H1L6.1c2
を用いたレポータージーンアッセイを利用してダイオキシン類の毒性等量を測定する方法(ダイオキシン類応答性組換
え細胞H1L6.1c2は、ホタルルシフェラーゼ遺伝子の上流域に4個のダイオキシン応答配列DREを含むシトクロム
P450(CYP1A1)プロモーターを持つプラスミドpGudLuc6.1を、マウス肝ガン細胞Hepa1c1c7に導入した細胞)
①AhRに結合、②核内への移行、③Arntとの結合、④、⑤DNA上のダイオキシン特異的応答領域への結合
⑥転写によるmRNAの誘導、⑦翻訳による各種蛋白質の生合成
⑧7-ethoxyresorufin (CYP1A1) ⇒ resorufin
⑨ルシフェラーゼ+ATP+ルシフェリン+O2 ⇒ 「発光」+AMP+CO2+オキシルシフェリン CALUX [発光光度
計]
[�ケイラックスアッセイフロー�]
細胞の継代培養�����������������������[125cm2 culture
flask,37℃,5%CO2]
細胞の播種������������������������������[96穴プレー
ト,750,000cell/well,37℃,5%CO2]
測定試料
24hr.培養
曝露
[同時に希釈段階TCDDを入れる]
24hr.培養
ルミノメーター
ルシフェラーゼ+ATP+ルシフェリン+O2
⇒�「発光」+AMP+CO2+オキシルシフェリン
[�ケイラックスにおけるTCDDの濃度-反応曲線�]
CALUX TCDD 濃度-応答曲線
Rusiferase Light Units
25000
20000
発光量
RLU
15000
2,3,7,8-TCDD標準液検量
線から未知試料の発光量と
測定し、濃度決定を行う。
10000
毒性等量
TEQ濃度
5000
0
0.1
1
10
100
1000
[TCDD]=pg-TEQ/ml
-21-
【 結果 】
1.米中重金属(カドミウム、ヒ素、鉛、クロム)を 21 検体について測定した。カ
ドミウムの中央値 0.06mg/kg、幾何平均 0.06mg/kg、であった。しかし、検体 No. 4
は、0.55mg/kg、検体 No. 5 は 1.59mg/kg であり、コーデックスの最大値 0.4mg/kg、
中国の食品中汚染物質基準値を定めた文書 GB2762-2005 の米中カドミウム濃度の基
準値 0.2mg/kg を超えていた。21 検体中、0.2mg/kg を超えていた米サンプルは3検
体であった。
米中ヒ素濃度は、中央値 0.13mg/kg、幾何平均 0.13mg/kg であった。
21
検体中、6検体が中国の基準値 0.15mg/kg を超えていた。
米中鉛濃度は、中央値 0.09mg/kg、幾何平均 0.09mg/kg であった。検体 No. 20
のみが、中国の基準値、0.2mg/kg と同じであり、それ以外は低かった。
米中クロム濃度は、中央値 0.10mg/kg、幾何平均 0.14mg/kg であり、すべての検
体が中国の基準値 1.0mg/kg より大幅に低かった。
2. 魚中有機塩素系農薬
魚中有機塩素系農薬は HCH, HCB, Heptachlor, Aldrin, Dieldrin, Endrin,
chlorden,DDT およびそれらの代謝物質が検出された。4,4’-DDE のみが 59.3%の検
体で検出されたが、検体の 70%以上が検出下限以下であった。最も高い総 DDT 濃
度は、石家荘で購入した浙江省舟山市産のアイナメが高かった。2番目に DDT 濃
度が高かったのは、太刀魚 Opsariichthys bidens であった。石家荘および天津市で
購入した海産魚の総 DDT 濃度が高かった。
図3に示す DDT 代謝物/DDT の比率(DDE+DDD/DDT)が低い検体が存在し、
最近の DDT の使用を疑わせる結果である。DDT 代謝物/DDT が4以下の検体は、
浙江省舟山市産のアイナメ、太刀魚、河北省滄州市産の鯖、天津産の鯖およびアイ
ナメ、太刀魚であった。
海産魚でヘキサクロルヘキサン HCH が検出されたのはボラのみであった。淡水
魚で HCH が、鮒、鯉、ローチ、草魚、ナマズなどえ検出された。
食品中ダイオキシン濃度
魚中ダイオキシン濃度は、石家荘では淡水魚の方が、海産魚より高い傾向がある
ことが明らかとなった。しかし、天津市で購入した淡水魚および海産魚はダイオキ
シン濃度が低い傾向があった。
肉中のダイオキシン濃度は低く、牛肉のみに検出下限を少し超える値が検出され
た。
-22-
【結論】
米 21 検体のカドミウム、総ヒ素、鉛、クロム濃度を測定した。コーデックスのカ
ドミウム濃度の最大値を 2 検体が、中国の食品中汚染物質許容濃度を3検体が超え
ていた。総ヒ素濃度は6検体が超えていた。鉛濃度は1検体が許容濃度と同じ濃度
であった。中国の米中重金属濃度は、カドミウム、総ヒ素に関して、地域によって
はかなり深刻な汚染状況にある可能性がある。
有機塩素系農薬濃度は、検出される魚は少なかった。しかし、DDT 代謝物/DDT
が4以下の検体があり、最近の DDT 使用の可能性が示唆された。
魚中ダイオキシン濃度は日本の海産魚の値に比べれば、低いレベルであるが、石
家荘産の淡水魚のダイオキシン濃度が高く、内陸部の湖沼での養魚場のダイオキシ
ン汚染または養殖用餌のダイオキシン濃度が高い可能性があり、今後とも調査を続
ける必要がある。これまでの母乳調査で石家荘での経時的なダイオキシン濃度の上
昇があることから、さらに、詳細な調査が必要である。
-23-
Table 1. The concentration of metal heavy in rice by ICP/MS(mg/kg)
Sample No.
Cd
As
Pb
Cr
1
0.06
0.15
0.05
0.10
2
0.01
0.10
0.05
0.10
3
0.04
0.09
0.05
0.64
4
0.55
0.07
0.06
0.08
5
1.59
0.10
0.16
0.09
6
0.09
0.15
0.06
0.19
7
0.17
0.18
0.07
0.10
8
0.01
0.10
0.09
0.04
9
0.15
0.35
0.09
0.08
10
0.05
0.27
0.07
0.30
11
0.07
0.12
0.06
0.20
12
0.02
0.10
0.10
0.10
13
0.05
0.13
0.07
0.12
14
0.08
0.12
0.09
0.04
15
0.09
0.13
0.08
0.13
16
0.02
0.18
0.10
0.10
17
0.11
0.16
0.15
0.33
18
0.01
0.07
0.15
0.74
19
0.05
0.13
0.16
0.06
20
0.29
0.15
0.18
0.04
21
0.03
0.18
0.20
0.96
0.2(0.4*)
0.15
0.2
1.0
ML
ML: maximum levels of contaminants in foods of China
* : 0.4 mg/kg is maximum levels of cadmium in rice of CODEX
-24-
-25-
Shijiazhuang
Shijiazhuang
Shijiazhuang
Shijiazhuang
Yellow river
carp
big head carp
tilapia
catfish
grass carp
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Qingdao,Shandong
Changzhou,Hebei Province
sea bream
slivery pomfret
yellow croaker
hairtail
mullet
mackerel
Tianjin
Tianjin
Tianjin
Tianjin
Tianjin
loach
carp
Grass Carp
Catfish
crucian
Freshwater fish
Zhoushan ,Zhejiang Province
Cod
Sea fish
Shijiazhuang
Production place
crucian
Freshwater fish
Fish
ND
2.63
1.18
ND
13.61
ND
1.24
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
1.07
2.19
β-HCH
ND
ND
ND
ND
1.60
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
δ-HCH
ND
1.15
ND
ND
3.84
1.99
ND
ND
1.00
ND
ND
ND
ND
2.12
ND
ND
ND
ND
HCB
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
1.37
ND
1.58
ND
ND
ND
26.52
13.60
3.28
3.23
19.22
ND
ND
ND
ND
1.12
ND
3.04
6.85
1.49
2,4'-DDE 4,4'-DDE
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
4.50
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
2,4'-DDD
ND
ND
ND
ND
2.71
6.95
1.20
ND
38.78
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
4.14
ND
4,4'-DDD
Table 2. The concentration of Organic Chlorinated Pesticides in fish in Shijiazhuang and Tianjin (ng/g) (pool sample)
ND
ND
ND
ND
ND
2.35
ND
ND
6.78
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
2,4'-DDT
ND
ND
ND
ND
1.72
19.68
ND
5.25
34.29
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
4,4'-DDT
1.58
ND
ND
ND
30.95
42.58
4.48
8.48
ND
ND
ND
ND
1.12
ND
3.04
12.36
1.49
ΣDDT
-26-
Shijaizhuang
Shijaizhuang
Shijaizhuang
chicken
pork
beef
22.2
ND
ND
ND
ND
3.7
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
29.6
3.54
1.10
ND
1.04
ND
ND
ND
ND
ND
7.4
ND
ND
ND
ND
ND
1.67
ND
ND
ND
ND: Not detected, pooled samples of 3 individual fish were measured by GC/MS/MS.
Detectable rate( %)
Neimeng Province
mutton
Meat
Tianjin
ND
ND
ND
Flatfish
Tianjin
Yellow croaker
ND
Tianjin
Hairtail
ND
Opsariichthys bidens Tianjin
Tianjin
Mackerel Fish
Sea fish
Table 2 b
59.3
2.05
ND
ND
ND
1.61
30.07
8.28
1.50
2.65
7.4
ND
ND
ND
ND
ND
2.60
ND
ND
ND
22.2
ND
ND
ND
ND
ND
11.31
3.15
ND
2.24
29.6
ND
ND
ND
ND
ND
5.44
1.47
ND
ND
25.9
ND
ND
ND
ND
ND
20.53
7.03
ND
1.40
2.05
ND
ND
ND
1.61
71.62
19.93
1.50
6.29
-27-
Shijiazhuang
Shijiazhuang
Shijiazhuang
Shijiazhuang
Yellow River
carp
big head carp
tilapia
catfish
grass carp
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Zhoushan ,Zhejiang Province
Qingdao,Shandong
Changzhou,Hebei Province
Cod
sea bream
slivery pomfret
yellow croaker
hairtail
mullet
mackerel
Sea fish
Shijiazhuang
crucian
Production place
The ratios of DDE+DDD/DDT
Freshwater fish
Fish
Table 3-a
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
1.37
ND
2,4'-DDE
13.60
3.28
3.23
19.22
ND
ND
ND
ND
1.12
ND
3.04
6.85
1.49
4,4'-DDE
ND
ND
ND
4.50
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
2,4'-DDD
6.95
1.20
ND
38.78
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
4.14
ND
4,4'-DDD
2.35
ND
ND
6.78
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
2,4'-DDT
19.68
ND
5.25
34.29
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
4,4'-DDT
0.93
0.61
1.51
DDE+DDD/DDT
-28-
Tianjin
Tianjin
Tianjin
Tianjin
carp
Grass Carp
Catfish
crucian
Shijaizhuang
Shijaizhuang
Shijaizhuang
chicken
pork
beef
ND: Not Detect
Detectable rate( %)
Neimeng Province
mutton
Meat
Tianjin
7.4
ND
ND
ND
ND
ND
ND
flatfish
Tianjin
yellow croaker
ND
1.67
Tianjin
hairtail
ND
ND
ND
ND
ND
ND
Opsariichthys bidens Tianjin
Tianjin
Mackerel
Sea fish
Tianjin
loach
Freshwater fish
Table 3-b
59.3
2.05
ND
ND
ND
1.61
30.07
8.28
1.50
2.65
1.58
ND
ND
ND
26.52
7.4
ND
ND
ND
ND
ND
2.60
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
22.2
ND
ND
ND
ND
ND
11.31
3.15
ND
2.24
ND
ND
ND
ND
2.71
29.6
ND
ND
ND
ND
ND
5.44
1.47
ND
ND
ND
ND
ND
ND
ND
25.9
ND
ND
ND
ND
ND
20.53
7.03
ND
1.40
ND
ND
ND
ND
1.72
1.63
1.34
3.49
17.00
【関連文献】
1.Sun SJ, Zhao JH, Koga M, Ma YX, Liu DW, Nakamura M, Liu HJ, Horiguchi
H, Clark GC,
Kayama F. Persistent Organic Pollutants in Human Milk in
Women from Urban and Rural Areas in Northern China. Environ Res. 2005
Nov;99(3):285-93.
2.Sun SJ, Zhao JH, Liu HJ, Liu DW, Ma YX, Li L, Horiguchi H, Uno H, Iida T,
Koga, Yasuhiro M,
Kiyonari, Nakamura M, Sasaki S, Fukatu H, Clark GC,
Kayama F
Dioxin concentration in human milk in Hebei Province in China and Tokyo,
Japan: potential dietary risk factors and determination of possible sources
Chemosphere 62: 1879-1888, 2006
3.Leng JH, Kayama F, Wang PY, Nakamura M, Nakata T, Wang Y.
Levels of persistent organic pollutants in human milk in two Chinese coastal
cities, Tianjin and Yantai: Influence of fish consumption. Chemosphere. 2009
May;75(5):634-9.
4. Sun SJ, Zhao J, Leng JH, Wang P, Wang Y, Fukatsu H, Liu D, Liu X,
Kayama F.
Levels of dioxins and polybrominated diphenyl ethers in human milk from three
regions of northern China and potential dietary risk factors. Chemosphere. 2010
Aug;80(10):1151-9.
5.Sun SJ, Kayama F, Zhao JH, Ge J, Yang YX, Fukatsu H, Iida T, Terada M,
Liu DW.
Longitudinal increases in PCDD/F and dl-PCB concentrations in human milk in
northern China. Chemosphere. 2011 Oct;85(3):448-53. Epub 2011 Sep 3.
-29-
-30-
-31-
-32-
―日中医学協会助成事業―
天然薬物成分エボジアミンの鎮痛効果とそのメカニズムの解析
戴
毅1、岩岡恵実子1、張文生2
1
兵庫医療大学薬学部、2北京師範大学資源学部
【要旨】: 痛みは日常臨床上最も多い訴えである。我が国では、人口の 13.4%(1700 万人)が
何らかの慢性的な痛みを抱えている。一方、慢性疼痛疾患に対する漢方薬治療がその優れた効果
により注目され、漢方薬の成分から疼痛治療の新薬開発が期待されてきた。感覚神経終末に発現
している TRP(transient receptor potential)ファミリータンパクの TRPV1 や TRPA1 などのチャ
ネル受容体は、慢性・難治性疼痛疾患においてその発現変化、機能調節がダイナミック的に変動
し、痛みの発生・維持に重要な役割が示唆されてきた。われわれのこれまでの研究によって、漢
方薬を含むある種の天然薬物の鎮痛メカニズムに TRP チャネルの脱感作が関与していることが
明らかとなった 1~3。本研究は TRPA1 および TRPV1 タンパクを標的とする新たな天然薬物成分を
スクリーニングしたうえ、天然薬物成分エボジアミンの鎮痛効果とそのメカニズムを解析した。
Key Words: TRPA1, TRPV1, 疼痛,ゴシュユ,一次感覚ニューロン
【緒言】ゴシュユ(呉茱萸)は Evodia rutaecarpa (ミカン科)の果実で、有効成分としてエ
ボジアミンおよびルテカルピンが知られている。漢方臨床においては、ゴシュユはその鎮痛効果
が期待され、呉茱萸湯、温経湯、当帰四逆加呉茱萸生姜湯など疼痛性疾患を治療する処方に配剤
されている。今回、ゴシュユの鎮痛薬理作用を調べるため、一次知覚ニューロンに対するゴシュ
ユエキス、エボジアミンおよびルテカルピンの作用を Ca2+ imaging 法および whole-cell patch
clamp 法を用いて測定した。
(ゴシュユとその主成分:)
-33-
【方法】SD ラット(4 週齢)の脊髄後根神経節(DRG)を採取した後、DRG ニューロンをガラス
プレートに播種し 37℃の CO2 インキュベータにて培養した。16-24 時間後、ゴシュユおよびその
有効成分、カプサイシン、アリルイソチオシアネート、カプサゼピンなどの試料を投与し、細胞
内 Ca2+の変化を観察した。またゴシュユの主成分によるカプサイシン惹起電流への影響を調べた。
【結果】ゴシュユエキスの投与により、DRG ニューロンにおける Ca2+ の上昇が認められた。ま
た、エボジアミンはゴシュユエキスと同じ効果が観察されたが、ルテカルピンは DRG ニューロン
に対する効果が認められなかった。総 DRG ニューロン数の中で、カプサイシン(TRPV1 アゴニス
ト)、アリルイソチオシアネート(TRPA1 アゴニスト)、エボジアミンに反応した細胞はそれぞれ
52%、23%、38%であった。カプサイシンに反応した細胞のうちエボジアミンに反応したのは 71%、
エボジアミンに反応したニューロンのうちカプサイシン陽性は 95%であった。一方アリルイソ
チオシアネートに反応を示す細胞とエボジアミンに反応を示す細胞は全く別のポピュレーショ
ンであることが明らかになった。また、エボジアミンの効果は細胞外 Ca をフリーにすることや、
カプサイシン受容体選択的アンタゴニストであるカプサゼピンを投与することによって完全に
抑制された。一方、エボジアミンの惹起電流はカプサゼピンによって完全にブロックされたが、
エボジアミン存在下ではカプサイシンの惹起電流は増大した。
-34-
-35-
【考察】以上のことから、DRG ニューロンに対するゴシュユの刺激作用はルテカルピンではなく、
エボジアミンであることが示唆された。またカプサゼピンによってエボジアミンの効果が完全に
ブロックされたことから、エボジアミンはカプサイシンと同じバインディングサイトをシェアし、
TRPV1 を活性化させる可能性が示唆された。TRPV1 は、熱およびプロトンにより活性化される一
次知覚ニューロンの nociceptor に特異的に発現する受容体で、痛み受容に重要な役割を担って
いる。カプサイシンは発痛物質である一方、TRPV1 受容体を脱感作させることで鎮痛効果を有す
ることが知られており、ゴシュユの鎮痛薬理作用はその主成分のエボジアミンによる TRPV1 の脱
感作が関与するものと考えられる。
【結語】呉茱萸の成分エボジアミンは TRP チャネルに介してその鎮痛効果を示すことが明らかに
なった。エボジアミンあるいは類似化合物を候補とした新薬開発が期待される。
【参考文献】
1.
2.
3.
Dai Y, Tomoko Moriyama, Tomohiro Higashi, Kazuya Togashi, Kimiko Kobayashi, Hiroki
Yamanaka, Makoto Tominaga, Koichi Noguchi, PAR2–mediated potentiation of TRPV1 activity
reveals a mechanism for proteinase-induced inflammatory pain, J. Neurosci., 24, 4293-4299, 2004
Dai Y, Wang S, Tominaga M, Yamamoto S, Fukuoka T, Higashi T, Kobayashi K, Obata K,
Yamanaka H, Noguchi K. Sensitization of TRPA1 by PAR2 contributes to the sensation of
inflammatory pain. J Clin Invest. 117(7):1979-87. 2007
Wang S, Dai Y, Fukuoka T, Yamanaka H, Kobayashi K, Obata K, Cui X, Tominaga M, Noguchi K.
Phospholipase C and protein kinase A mediate bradykinin sensitization of TRPA1: a molecular
mechanism of inflammatory pain. Brain. 131:1241-51. 2008
注:本研究は、2011 年 8 月 27 日第 28 回和漢医薬学会学術大会にてポスター発表した。
作成日:2012 年 3 月 13 日
-36-
-37-
-38-
―日中医学協会助成事業―
癌幹細胞を標的とした肝癌の重粒子線治療の基礎的研究
研究者氏名
崔 星
日本所属機関
独立行政法人放射線医学総合研究所
共同研究者名
邵
中国所属機関
復旦大学 放射線医学研究所
春林
要旨
肝 癌 は 世 界 で 最 も 罹 患 数 が 多 い 悪 性 腫 瘍 の 一 つ で 、毎年 60 万人以上が肝癌で死亡しているが、
中国がその半数以上を占め、日本でも年 間 死 亡 数 は 3.4 万 人 と 癌死 亡 で は 3位である。放医研で
は今まで 300 例近い重粒子線による肝 癌 治 療 を 行 っ て お り 、 良 好 な 治 療 成 績 が 得 ら れ て い る 。
本研究は、肝癌細胞株 Huh7、HepG2 を用い、放射線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細
胞を分離・同定し、これら癌幹細胞に対して、炭素線或いは X 線照射前後のコロニー形成能、spheroid
形成能、DNA 損傷の違いを調べ、また SCID マウスに移植し、腫瘍形成能の違いについて比較検討した。
Huh7、HepG2 細胞において CD133+/CD90+はそれぞれ 6.4%と 0.6%、CD44+/ESA+細胞は 1.5%と 0.2%
であった。CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は CD133-/CD90-、CD44-/ESA-細胞に比べ有意にコロニー形
成 数 が 多 く 、 spheroid 形 成 や 腫 瘍 形 成 は CD133+/CD90+ 、 CD44+/ESA+ 細 胞 の み に 認 め ら れ た 。
CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は、X 線、炭素線照射に対しともに抵抗性を示すが、炭素線はより強い
細胞殺傷能力が認められた。また、DNA 損傷解析では、X 線、炭素線照射後 1 時間では大きな違いを認
めなかったが、X 線照射に比べて 24 時間後には炭素線照射後に明らかに多くのγH2AX foci の残存が
認められた。以上より、肝癌細胞において、CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞は明らかに自己複製や放
射線抵抗性を示しており、炭素線は X 線照射に比べより強く肝癌幹細胞を殺傷し、その機序として炭
素線が修復しにくい DNA 損傷を与えることを見出した。
Key Words:肝癌幹細胞、重粒子、生存率、DNA 修復
緒言
肝 癌は 、 肝 臓 原 発 の 原 発 性 肝 癌と 、 他 臓 器 悪 性 腫 瘍 が 肝 臓 に 転 移 し た 転 移 性 肝 癌に 大 き
く 分 け ら れ る 。 原 発 性 肝 癌は さ ら に 、 肝細胞癌(HCC) (95% を 占 め る ) と 胆 管 細 胞 癌(3%) に
大 別 さ れ る 。肝細胞癌は 世 界 で 最 も 罹 患 数 が 多 い 悪 性 腫 瘍 の 一 つ で 、日本や中国はともに増加
傾向であり、年 間 死 亡 数 で 中 国 は 35 万 人 、日 本 は 3.4 万 人 と が ん 死 亡 で は そ れ ぞ れ 2 、3
位である。肝癌の主な原因は、ウイルス性肝炎、それも B 型肝炎と C 型肝炎とされ、日本の肝癌の原
因を見ても、ウイルス性肝炎が 90%(75%が C 型肝炎、15%が B 型肝炎)を占めている。肝細胞癌治
療の考え方としては、
「肝機能」と「進行度」のバランスを考えて治療戦略を決定するが、初回治療で
肝切除が 31%、局所壊死療法が 27%、肝動脈塞栓療法 が 36%、化学療法が 5%と 90%が局所療法である。
放医研では今まで 300 例近い重粒子線による肝癌治療を行っており、良好な治療成績が得られている。
例えば、52.8GyE/4 回/1 週の照射法では、3 年局所制御率 96%と 3 年生存率 57%と優れた成績を得てお
り、さらに現在少分割短期照射 2 回/2 日照射法の第 I/II 相試験が行われている。肝 切 除 療 法 の 累
積 生 存 率 は 、1 年 93%、2 年 83%、3 年 61%(第 15 回 全 国 原 発 性 肝 癌 追 跡 調 査 報 告 書 、2002
年 、日 本 肝 癌 研 究 会 編 )で あ る こ と か ら 、重 粒 子 線 治 療 は 肝 切 除 に 匹 敵 す る 治 療 効 果 を
-39-
有 す る と 言 え る ( 1 ) 。本研究は、重粒子線の肝癌に対する高い治癒率の分子機構について、放射
線抵抗性や薬剤耐性と強く関与するとされる癌幹細胞に焦点を合わせ、これら癌幹細胞に対して、炭
素線或いは X 線照射前後のコロニー形成能、spheroid 形成能、DNA 損傷の違いを調べ、また SCID マウ
スに移植し、腫瘍形成能の違いについて比較検討した。
対象と方法
細胞株はHepG2、Huh7の2種類の肝癌細胞株を使用し、肝癌幹細胞マーカーとされるCD133-PE、 CD44-PE、
ESA-FITC、 CD90-FITCを用いた。まず、HepG2、Huh7細胞からFACSAriaを用い、癌幹細胞様細胞
(CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞)、非癌幹細胞(CD133-/CD90-、CD44-/ESA-細胞) を分離収集し、癌幹
細胞様性質の有無をcolony 形成能、spheroid 形成能及び免疫不全SCIDマウス移植腫瘍形成能につい
て評価した。そして、HepG2、Huh7それぞれ細胞に対し、X線或いは炭素線照射後の癌幹細胞様細胞
(CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞)の割合の変化をFACSAriaにて解析した。さらに、HepG2、Huh7細胞か
ら分離した癌幹細胞様細胞(CD133+/CD90+)のX線或いは炭素線照射後のcolony形成数を求めた。炭素線
照射はHIMAC(290 MeV/n, 50 keV/mm, 6-cm SOBP中心)、X線照射は200kVp(Pantac HF-320S, Shimadzu Co.,
Tokyo)を使用した。FASC解析にはFACSAria, BD Bioscience (Becton Dickinson, San Jose, CA, USA)
を使用した。
結果
まず、HepG2、Huh7細胞をFACSAriaを用いてCD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞の割合を測定したところ、
CD133+/CD90+はそれぞれ6.4%と0.6%、CD44+/ESA+細胞は1.5%と0.2%であった。HepG2細胞から
CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞とCD133-/CD90-、CD44-/ESA-細胞に分離収集し、各々の細胞集団の
colony formation assayと sphere formation assayを 施 行 し た。 Fig.1A,Bに 示 さ れてい る よ うに
CD133+/CD90+細胞集団はCD133-/CD90-細胞集団に比べ、colony形成能、sphere形成能がともに高いこ
とが認められた。また、HepG2、Huh7より分離したCD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞5000個を免疫不全SCID
マ ウ ス 右 下 腿 皮 下 に 、 CD133-/CD90- 、 CD44-/ESA- 細 胞 5000 個 を 左 下 腿 皮 下 に 移 植 し た と こ ろ
CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞を移植した足にのみ腫瘍形成を認めた (Fig.1C) 。
次に、癌幹細胞様細胞 CD133+/CD90+細胞集団と非癌幹細胞様 CD133-/CD90-細胞集団に対し、炭素線と
X 線照射の殺傷能力の違いについて、X 線或いは炭素線照射後の colony 数を求めた。その結果、 X 線
或いは炭素線照射後 CD133-/CD90-細胞集団のコロニー形成数が CD133+/CD90+細胞集団のものより有意
に少なく、X 線や炭素線に対しともに感受性を示した。一方、CD133+/CD90+細胞集団に関しては、Fig.2
に示されているように炭素線 1 Gy 照射はX線 2 Gy 照射に比べ、有意にコロニー形成数が少なく、炭
素線が CD133+/CD90+細胞をより強く殺傷することが示唆された。さらに、Huh7 細胞から分離した
CD133+/CD90+細胞に対し、DNA 損傷マーカーであるγH2AX foci 数を測定したところ、X 線、炭素線照
射後 1 時間では大きな違いを認めなかったが、X 線照射に比べて 24 時間後には炭素線照射後の方が明
らかに多くのγH2AX foci の残存が認められた(Fig.3)。
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Fig.1A
Fig.1B
Fig.1C
Fig.2
Fig.3
考察
今回我々が使用した肝癌細胞株 HepG2、Huh7 においては CD133、 CD90、CD44、ESA の 4 種類のマーカ
ー全てが認められた。それで、我々は、HepG2、Huh7 細胞から CD133+/CD90+、CD44+/ESA+と CD133-/CD90-、
CD44-/ESA-細胞を分離収集し、癌幹細胞様性質の有無を in vitro における colony formation assay
と sphere formation assay、in vivo における免疫不全 SCID マウス移植腫瘍形成能を調べたところ、
CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞集団の癌幹細胞様性質が確認された。今まで、肝癌幹細胞を同定する
マーカーとして、Ma らの CD133,CD44(2), Terris らの ESA(3)と Yang らの CD90+(4)が報告され
ている。我々は、最近、術後再発性大腸癌に対し、炭素線照射により高い治癒率が得られているメカ
ニズムについて、大腸癌幹細胞の観点から解析してきた(5)。今回、我々は重粒子線の肝癌幹細胞に
対する影響について調べたが、HepG2 や Huh7 等肝癌細胞株から分離した CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細
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胞集団が癌幹細胞様性質を有していることが確認された。HepG2、Huh7 細胞から分離収集した癌幹細胞
様細胞 CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞集団と非癌幹細胞様 CD133-/CD90-、CD44-/ESA-細胞集団に対し、
炭素線と X 線照射の殺傷能力をコロニー形成数で求めた結果、 X 線或いは炭素線照射後 CD133-/CD90細胞集団のコロニー形成数は CD133+/CD90+、CD44+/ESA+細胞集団に比べ有意に少なく、X 線や炭素線
に対しともに感受性を示すことが分かった。CD133+/CD90+細胞集団に対し、同じ生物効果線量炭素線 1
Gy 照射後のコロニー形成数が X 線 2 Gy 照射後のものに比べ有意に少ないことが認められた。また、X
線照射に比べ、炭素線照射 24 時間後肝癌幹細胞様細胞に対して明らかにより多くのγH2AX foci の残
存が認められ、炭素線は修復困難な DNA 損傷を与えていること示唆された。
以上より、炭素線は術後の局所再発、転移、化学療法や一般放射線抵抗性と深く関わっているとされ
る肝癌幹細胞に修復しにくい DNA 損傷を与えることでより効果的に殺傷することが考えられ、これが
炭素線の肝癌に対する高い治癒率をもたらす分子的メカニズムの一つであることを示唆した。
参考文献(下線は代表研究者と共同研究者):
1. Kato H, Tsujii H, et al., Results of the first prospective study of carbon ion radiotherapy
for hepatocellular carcinoma with liver cirrhosis. Int J Radiat Oncol Biol Phys. 2004 Aug
1;59(5):1468-76.
2. Ma S, Chan KW, Hu L, Lee TK, Wo JY, Ng IO, Zheng BJ, Guan XY. Identification and
characterization of tumorigenic liver cancer stem/progenitor cells. Gastroenterology. 2007
Jun;132(7):2542-56.
3. Terris B, Cavard C, Perret C. EpCAM, a new marker for cancer stem cells in hepatocellular
carcinoma. J Hepatol.2010 Feb;52(2):280-1. Epub 2009 Nov 10
4. Yang ZF, Ho DW, Ng MN, Lau CK, Yu WC, Ngai P, Chu PW, Lam CT, Poon RT, Fan ST. Significance
of CD90+ cancer stem cells in human liver cancer. Cancer Cell. 2008 Feb;13(2):153-66.
5. Cui X, Oonishi K, Tsujii H, Yasuda T, Matsumoto Y, Furusawa Y, Akashi M, Kamada T, Okayasu
R. Effects of carbon ion beam on putative colon cancer stem cells and its comparison with
X-rays. Cancer Res. 2011 May 15;71(10):3676-87.
注:本研究は以下の学会で発表。
1. 崔星、大西和彦、山田滋、鎌田正
ヒト肝細胞癌における癌幹細胞の同定及び X 線や重粒子線照射による影響
第 54 回日本放射線影響学会 2011 年 11 月 16~19 日 神戸(口頭発表済み)
2. Sai S, Oonishi K, Kamijo T, Yamada S, Shao CL, Kamada T. Effects of Carbon Ion Beams on Liver
Cancer Stem-Like Cells and Its Comparison with X-ray. International Society for Stem Cell
Research (ISSCR) 10th Annual Meeting, June 13–16 in Yokohama, Japan (予定)
作成日:2012 年 3 月 14 日
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—日中医学協会助成事業—
筋萎縮性側索硬化症の発症分子メカニズムに関する研究
日本研究者氏名
秦野 伸二
日本所属機関
東海大学医学部 教授
共同研究者名
大塚正人, 潘雷, 大友麻子
中国研究者氏名
商 慧芳
中国所属機関
四川大学华西医院
教授
要 旨
筋萎縮性側索硬化症(ALS)をはじめとする多くの神経変性疾患の病因は未だ不明であり、その有効な治療法
及び治療薬はない。疾患の発症機構の解明と治療法・治療薬の開発には、優れた疾患動物モデルの利用が必須で
ある。これまで、家族性 ALS 原因遺伝子 SOD1 の変異型遺伝子(SOD1G93A)を導入したトランスジェニック(TG)
マウスが世界的に広く利用されてきた。しかし、SOD1G93A-TG マウスで治療効果のある薬がヒト患者では全く効果
が見られていないという問題が明らかとなっている。本研究では、ゲノム特定部位に目的とする遺伝子を単一コ
ピーで効率良く導入する独自のトランスジェニックマウス作製法を用いて、新規の ALS マウスモデルを作出する
ことを目的とした。具体的には、特定ゲノム部位に単一コピーの変異或いは野生型 TARDBP 並びに FUS 遺伝子を
挿入した TG マウス系統の樹立を試みた。さらに、中国人患者を対象とした ALS 発症原因の解析を行うとともに、
これまでに開発されている ALS 疾患モデル動物(変異 SOD1-TG マウス)を用いて、遺伝学的背景の違いが疾患発
症に及ぼす影響について併せて解析した。その結果、新規の ALS マウスモデル(TARDBPA382T)マウスの作出に成
功した。また、遺伝的背景の違いが変異 SOD1-TG マウス ALS モデルの疾患発症に影響することを明らかにすると
ともに、中国人 ALS 患者における ALS 原因遺伝子の新たな変異及び遺伝子多型の存在を明らかにした。
Key Words
筋萎縮性側索硬化症, 動物モデル, 遺伝的背景, TARDBP 遺伝子, SOD1 遺伝子
緒 言:
筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis; ALS)をはじめとする多くの神経変性疾患の病因は未
だ不明であり、その有効な治療法及び治療薬はない。ALS 患者の中には前頭側頭葉型認知症(FTLD)を併発する
患者群が存在し、現在 ALS/FTLD として位置づけられている。近年、
ALS 及び ALS/FTLD の共通の原因として TARDBP、
FUS、UBQLN2、C9ORF72 等の遺伝子が同定され、ALS と FTLD は同一あるいは類似の分子機構により発症する疾患
群であると考えられるようになった。特に、TARDBP と FUS の遺伝子産物である TDP-43 及び FUS は、孤発性 ALS
患者のみならず、FTLD、アルツハイマー病患者脳においてもその凝集体蓄積が見られることから、疾患発症との
関連が注目されている。
疾患の発症機構の解明と治療法・治療薬の開発には、優れた疾患動物モデルの利用が必須である。これまで、
家族性 ALS 原因遺伝子 SOD1 の変異型遺伝子(SOD1G93A)を導入したトランスジェニック(TG)マウスが世界的に
広く利用されてきた。しかし、SOD1G93A-TG マウスで治療効果のある薬がヒト患者では全く効果が見られていない
という問題が明らかとなっている。さらに、最近、ALS 原因遺伝子(TARDBP)過剰発現 TG マウスあるいはラッ
トが作出されているが、野生型遺伝子の TG マウスでも神経症状を発症するなど多くの問題が未解決である。こ
れらは、薬の開発が特定の限局した動物モデルに依存していることに加え、従来の TG マウス作製法では、導入
遺伝子が挿入されるゲノム部位並びに挿入コピー数がランダムとなり、場合によっては遺伝子挿入による他の遺
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伝子破壊が起こるためであると推定される。本研究では、ゲノム特定部位に目的とする遺伝子を単一コピーで効
率 良 く 導 入 す る 独 自 の ト ラ ン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス 作 製 法 ( Pronuclear Injection-based Targeted
Transgenesis;PITT)[1]を用いて、新規の ALS マウスモデルを作出することを目指す。具体的には、特定ゲノ
ム部位に単一コピーの変異或いは野生型 TARDBP 並びに FUS 遺伝子を挿入した TG マウス系統を樹立することを第
一の目標とする。
一方、ALS の発症頻度については、人種差は無いとされるが、実際にはこれまでの ALS に関する研究は欧米主
導であり、従ってその解析も Caucasian(白人)を対象としたものが主流であった。本研究は、日中共同研究に
より、アジア人、特に中国人を対象とした ALS 発症原因の解析を行うとともに、これまでに開発されている ALS
疾患モデル動物(変異 SOD1-TG マウス)を用いて、遺伝学的背景の違いが疾患発症に及ぼす影響について併せて
解析する。
対象と方法:
(1)新規 ALS マウスモデルの作出
本研究では、共同研究者の大塚らが独自に
開発した TG マウス作製法[1]を用いて、新規
の ALS マウスモデルを作出する。目的とする
遺伝子を着実に全身で発現させるため、プロ
モーターとして CAG プロモーターを使用する。
PITT 法は、Cre-loxP システムに基づいた RMCE
法を TG 作製に応用したものである(図1参
照)。本実験では、マウス Rosa26 遺伝子座に
loxP カセットを有するノックインマウス(作
製済)を用いる。PITT 法を用いることにより、
同一遺伝子座に単一コピーの異なった遺伝子
(変異)の挿入が可能となり、これまで不可能であった遺伝子型-疾患表現型相関の個体レベルでの検証が可能
となる。本実験で導入する遺伝子は、TARDBP 及び FUS の2種類であり、変異体としては TARDBPA382T 及び FUSR495X
を作製し、正常型のクローンも含め合計で4種類のターゲティングコンストラクトを作製する。具体的には、各
遺伝子の翻訳領域全長 cDNA 配列を PITT 法用のターゲティングベクターに組込み、正常型の各遺伝子コンスト
ラクトを構築する。そして、PCR を用いた点突然変異導入法により、目的とする遺伝子内に疾患遺伝子変異を導
入したベクターを構築する。完成した各ターゲティングコンストラクトを、Cre 発現ベクターと同時に変異型
loxP を持つノックインマウスの交配で得られた受精卵に顕微注入し、マウスを産出する。得られた仔マウスの
遺伝子タイピングを行ない、正確に目的とする位置に遺伝子が挿入されたマウスを選抜する。
(2)遺伝的背景、性差、及び遺伝子変異の違いが SOD1-TG マウスの疾患表現型に及ぼす影響の解析
近年、遺伝的背景等の違いがマウスにおける症候表現型に大きく影響し、そのことが実験結果の解釈を誤った
方向へと導いていると指摘されている。本研究ではそのことを踏まえ、既存の ALS マウスモデルにおける疾患表
現型が系統等により影響されるか否かについて精緻に検証した。神経病理学的症候の異なる2種類の ALS マウス
モデル(SOD1H46R、SOD1G93A-TG マウス)を、夫々2種類の系統(C57BL/6N 及び FVB/N)へとコンジェニック化(10
世代以上の戻し交配による遺伝的背景の均一化)し、さらにそれらの変異 SOD1-TG マウスにおける体重の変動及
び疾患進行による死亡日齢(寿命)を解析した。
(3)中国人 ALS 患者における疾患関連遺伝子配列の解析
中国国内、特に四川省を中心とした地域における家族性並びに孤発性 ALS 患者の DNA サンプル並びに臨床情報
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を収集し、研究リソースバンクの構築を継続的に行った。患者から採取した血液からゲノム DNA を抽出した。そ
して、遺伝子増幅(polymerase chain reaction; PCR)法により、TARDBP 遺伝子の各エクソンを増幅し、それら
の塩基配列を決定した。さらに、ATXN2 遺伝子内の CAG 反復配列の増幅を行い、リピート数を解析した。決定し
た遺伝子配列を、データベース上の正常者のものと比較し、患者特異的変異の有無、並びにアジア人に特異的遺
伝子変異の同定を試みた。
結 果:
(1)新規 ALS マウスモデルの作出
始めに、変異遺伝子コンストラクトの作製を行った。具体的には、ヒトの TARDBP 及び FUS 遺伝子について、
各遺伝子の翻訳領域全長(ORF)の cDNA 配列をヒト RNA より RT-PCR により増幅し、クローン化することにより
正常型の各遺伝子コンストラクトを構築した。次に、PCR を用いた点突然変異導入法により目的とする遺伝子内
に疾患遺伝子変異を導入し、最終的に 4 種類の正常及び変異型 cDNA クローンを得た(TARDBPWT、TARDBPA382T、FUSWT、
FUSR495X)。さらに、それらの cDNA を PITT 用ターゲティングベクターに組込み、各 PITT コンストラクトを完成さ
せた。作製したコンストラクトが正しく目的とする遺伝子並びにタンパク質を発現することを確認するため、作
製したコンストラクトを COS-7 細胞にトランスフェクションし、発現タンパク質をウェスタンブロット法にて解
析した。その結果、作製した全てのコンストラクトが目的とする遺伝子産物を発現することが確認された。次に、
完成した 4 種類のコンストラクト(TARDBPWT、TARDBPA382T、FUSWT、FUSR495X)を、各々300〜500 個の受精卵に Cre
発現ベクターと同時に顕微注入することにより TG マウスの作出を試みた。現在、TARDBPA382T 遺伝子を導入した
TG マウス(ファウンダー;F0)の作出に成功している。今後、得られた仔マウスの遺伝子タイピングを行ない、
4 種類の新規トランスジェニックマウス(TARDBPWT、TARDBPA382T、FUSWT、FUSR495X)の系統樹立を目指す計画である。
(2)遺伝的背景、性差、及び遺伝子変異の違いが SOD1-TG マウスの疾患表現型に及ぼす影響の解析
本研究では、遺伝的背景の違いが ALS マウスモデルの表現型にどのように影響について解析するため、2種類
の遺伝的背景(C57BL/6N 及び FVB/N)を有する2種類の変異 SOD1 発現マウス(SOD1H46R、SOD1G93A-TG マウス)を
作出し、体重及び寿命の解析を行った。その結果、SOD1G93A-TG マウスは SOD1H46R-TG マウスよりも重症化すること、
さらにその重症度は C57BL/6N より FVB/V 系統で顕著であること、さらに FVB/V 系統の SOD1G93A-TG マウスでは性
差が見られ、雄が雌より早期に発症し、死に至ることが判明した。従って、変異 SOD1 に起因した運動ニューロ
ン変性は、複数の他の遺伝的要因により調節されていると考えられた [2]。
(3)中国人 ALS 患者における疾患関連遺伝子配列の解析
中国人における ALS 原因遺伝子(TARDBP)の変異及び遺伝子配列多型について解析した。合計 165 名の ALS 患
者のゲノム DNA を用いて TARDBP 遺伝子配列を解析した結果、新たなミスセンス変異(N378S 変異)を見出すとと
もに、数種類の多型配列の検出に成功した[3]。しかし、TARDBP 遺伝子変異の頻度は 0.61%であり、既に報告さ
れている欧米人 ALS 患者における変異の頻度より有意に低いものであった[3] 。本研究ではさらに、近年見出さ
れた新たな ALS 関連遺伝子である ATXN2(Ataxin-2)遺伝子について、345 名の中国人 ALS 患者における遺伝子
内ポリグルタミン反復配列長について解析した。欧米人における先行研究では 22-33 リピートの反復配列が ALS
発症リスクをあげることが報告されているが、本研究では 27 リピート以上の反復配列が ALS 発症に若干関連し
ている可能性が示された[4]。
考 察:
多くの神経変性疾患は、欧米のみならず日本、中国を含めたアジア地域においても、各国国民の高齢化に伴っ
てその罹患率は上昇の一途を辿っている。特に神経変性疾患の中でも最も過酷とされている神経難病 ALS 及び認
知症の治療法・治療薬の開発は喫緊の課題である。しかし、そのような状況にも関わらず、現在、国内外での治
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療研究や臨床試験の結果に希望の持てるものは極めて少ない。一方、近年の遺伝子組換え技術の著しい進歩によ
り数多くの神経変性疾患モデル動物が作出されつつあるが、未だ有用なモデル動物の開発は十分ではない。実際、
前臨床動物試験で使用されている疾患モデル系は極めて限られているのが現状である。本研究は、これまでにな
い独自の手法により、新規の ALS 及び ALS/FTLD マウスモデルを作出しようとする独創的・挑戦的研究である。
本研究の遂行により、これまでの疾患モデル系統からは得ることができないような新たな知見を得ることが強く
期待される。さらに、本研究で用いる新規 TG マウス作製法、ならびにその手法により作出される新規 ALS/FTLD
マウスモデルは、共通の研究技術・リソースとして当該研究関連領域において広く利用され、その結果 ALS 及び
FTLD の発症機構の解明と治療研究の飛躍的な発展に貢献できる。さらに、神経変性疾患の治療法の開発は、高齢
化が進む日本及び中国国民の医療および福祉の向上と医療費削減に直接結びつくものであり、期待される社会的
貢献度は極めて大きいと考えられる。
参考文献:
[1] Ohtsuka M, Ogiwara S, Miura H, Mizutani A, Warita T, Sato M, Imai K, Hozumi K, Sato T, Tanaka M, Kimura M,
Inoko H: Pronuclear injection-based mouse targeted transgenesis for reproducible and highly efficient transgene
expression. Nucleic Acids Res 38: e198, 2010.
[2] Pan L, Yoshii Y, Otomo A, Ogawa H, Iwasaki Y, Shang HF, Hadano S: Different human copper-zinc superoxide
dismutase mutants, SOD1G93A and SOD1H46R, exert distinct harmful effects on gross phenotype in mice. PLoS ONE, in
press, 2012.
[3] Huang R, Fang DF, Ma MY, Guo XY, Zhao B, Zeng Y, Zhou D, Yang Y, Shang HF: TARDBP gene mutations among
Chinese patients with sporadic amyotrophic lateral sclerosis. Neurobiol Aging 2010.
[4] Chen Y, Huang R, Yang Y, Chen K, Song W, Pan P, Li J, Shang HF: Ataxin-2 intermediate-length polyglutamine: a
possible risk factor for Chinese patients with amyotrophic lateral sclerosis. Neurobiol Aging 32: e1921-1925, 2011.
注:本共同研究の成果の一部は、2012 年3月に下記の論文に掲載された。
Pan L, Yoshii Y, Otomo A, Ogawa H, Iwasaki Y, Shang HF, Hadano S: Different human copper-zinc superoxide dismutase
mutants, SOD1G93A and SOD1H46R, exert distinct harmful effects on gross phenotype in mice. PLoS ONE, in press, 2012.
作成日:2012 年 3 月 9 日
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- 日中医学協会助成事業 -
ジスルフィド異性化酵素
ERp57 の血小板活性化、血栓形成における役割
研究者氏名
尾崎由基男
日本研究機関
山梨大学医学部臨床検査医学
研究者氏名
武 芸
中国所属機関
蘇州大学医学部血液研究所
要旨
ジスルフィド異性化酵素 ERp57 の機能を調べるために、ノックアウトマウスの作成を行っ
た。ノックアウトマウスは正常に生まれ、軽度血小板数が低下していたが、他の血球数には異常
がなかった。トロンビン、GPVI 刺激剤のコンバルキシンによる血小板凝集はやや低下していた
が、リコンビナントの ERp57 を加えることにより、血小板凝集は回復した。また血小板顆粒内容
の放出も軽度低下していた。GPVI 刺激による GPIIb/IIIa の活性化状態を判定する JON/A 結合を
みると、ERp57 欠損血小板では明らかに低下しており、いわゆる inside-out GPIIb/IIIa 活性
化の信号伝達経路にも異常があることが示唆された。また、血栓を安定化させることに重要とさ
れる clot retraction も低下していた。動物を用いた生体実験系では、出血時間の延長、及び
塩化第二鉄を用いた頸動脈血栓形成も ERp57 ノックアウトマウスでは低下していた。以上のこと
より、ERp57 は血小板の種々の機能を正常に保つことが示唆され、また生体内でも血小板機能保
持に重要なことが示された。
Key Word ジスルフィド異性化酵素、 ERp57、血小板活性化、血栓
緒言
細胞膜上、また細胞内には 複数のシステイン残基が存在する蛋白が多く認められる。
特に分子量の大きい蛋白には多数の S-S 結合があり、この S-S 結合を中心にして、蛋白分子が回
転することにより、分子にねじれが生じる可能性がある。ねじれにより立体構造が変化し、蛋白
の機能が影響を受けることは容易に想像でき、S-S 結合を外してねじれを無くし、蛋白の立体構
造を元の状態に戻すジスルフィド異性化酵素が知られている。
血小板にもいくつかのジスルフィド異性化酵素が発見されているが、それらの血小板における
役割はあまり明らかにされていない。本研究は ジスルフィド異性化酵素のなかでも、まだほと
んど研究されていない ERp57 の血小板活性化、血栓形成における役割を解明しようとするもの
である。
-51-
結果
及び 考察
察
1.ERp57
E
のノッ
ックアウトマウ
ウス
当
当該研究者等
等は PF4Cre 法を使い、ERp57 のノッ
ックアウトマ
マウスの作成を試みた。そ
その結
果とし
して、ERp57 を完全に無く
くしたマウス
スの作成に成功
功した。ノッ
ックアウトマウスは正常に
に生ま
れ、ま
また繁殖力も
も低下していなかった。
ノ
ノックアウト
トマウスの血算を調べると
と、赤血球、白血球数はほ
白
ほぼワイルドタイプと同じ
じであ
ったが
が、血小板数
数は 20%程度
度の低下を認め
めた。血小板
板上の GPIIb//IIIa、GPIb、
、GPVI 等の主
主要な
膜糖タ
タンパクは同
同様に発現していた。
2. ERp57
E
欠損マ
マウスの凝集
集能を調べると、GPVI に作
作用する connvulxin 刺激
激、トロンビン
ン刺激
ともに
に血小板凝集
集能は軽度低下していた。しかし、強い濃度の刺激
激剤を用いる
ると、ワイルド
ドタイ
プの血
血小板凝集と
との差はなくなった。また
た、低下してい
いる血小板凝集
集に対して、 recombina
ant の
ERp577 を加えることにより、凝
凝集能は回復
復した。これに
により、正常
常な ERp57 の存在は血小板
板凝集
の維持
持に必要なこ
ことが示唆された。
図
図1.
ワイ
イルドタイプ(青色)に対
対して、ERp5
57 ノックアウ
ウトマウスか
からの血小板(黒色
のトレ
レース)は
血小板凝集が低下してい
いる。
-52-
3. ERp57 欠損血小板は、血小板凝集能のみでなく、血小板α顆粒内容の放出も低下してい
た。
さらに、GPVI 刺激による GPIIb/IIIa の活性化状態を判定する JON/A 結合をみると、ERp57
欠損血小板では明らかに低下しており、いわゆる inside-out GPIIb/IIIa 活性化の信号伝達経
路にも異常があることが示唆された。
Clot retraction は 血小板を含むフィブリン塊が収縮する現象であり、血小板活性化が関与す
る血栓の安定性に重要な反応とされている。特に血小板 GPIIb/IIIa と凝固第 XIII 因子が重要で
あることが知られている。血小板多血漿にトロンビンを加え、凝集塊を形成させたのち経過を観
察すると、血小板凝集塊が 40~60 分位で収縮するのが認められる。ERp57 欠損血小板を用いた
場合、clot retraction の開始が遅れ、また最終的な収縮の度合いも明らかに低下していた。
これらのことから、ERp57 は生理的、病的な血栓の安定化に大きな役割を果たすことが示唆され
た。
4.以上のことより、ERp57 は血小板機能のいくつかの重要な経路に大きな役割を果たすこ
とが示唆された。生体内での止血、血栓形成に対する影響を評価するため、ノックアウトマウス
を用いて、尻尾からの出血時間、また 塩化鉄を用いた頸動脈血栓形成の実験を行った。結果と
して、ERp57 欠損動物では、出血時間の延長、また頸動脈血栓形成の遅延を認め、ERp57 が生体
における止血、病的血栓形成に関与することが証明できた。
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-日中医学協会助成事業-
尿路結石の一塩基多型を用いた遺伝子診断方法の開発と人種差の検討
研究者氏名
安井 孝周
所属機関
名古屋市立大学大学院医学研究科
腎・泌尿器科学分野 講師
共同研究者名 高兵
要旨
尿路結石は遺伝因子に食生活などの生活習慣である環境因子が重なり、発症すると考えられる。遺
伝子の一塩基多型(SNPs)は個体差を形成し、多因子疾患の原因となることが報告されている。疾患
に相関する特定遺伝子のSNPs が判別出来れば、
個体レベルでの発症リスクを推測し、
疾患の早期診断、
予防に有用である。本研究では、osteopontin(OPN)と matrix Gla protein の SNPs 解析により結石
発生のリスクとの関係を検討し、機能解析を中国人共同研究者とともに行った。さらに、ゲノムワイ
ドな網羅的探索によって、新規の関連遺伝子領域を同定した。
OPN、MGP で、結石患者に特徴的な SNPs を同定したが、人種差を同定できなかった。OPN のプロモー
ター解析によって結石と健常者に特徴的な SNPs によって発現変化が生じることを確認し、機能に変化
が生じることが推察された。2011 年 6 月に訪中のうえ、共同研究の方法、結果についてディスカッシ
ョンした。今後も共同研究を継続していく予定である。大規模なゲノムワイドに網羅的解析を行い、日
本人において尿路結石症と強い関連を示す 2 領域を同定した。今後、遺伝子領域の中で、特定遺伝子を
同定し、機能解析を行うことと、各遺伝子型における再発率を検討することで、遺伝子診断への応用が
期待できる。
Key Words
尿路結石,オステオポンチン,遺伝子多型,ゲノムワイド
緒 言:
尿路結石は遺伝因子に食生活などの生活習慣である環境因子が重なり、発症すると考えられる。尿
路結石症の生涯罹患率は急増し、我が国では 100 人中 6 人、欧米では 20 人にも達する国もみられ、生
産年齢の男性に多く、その成因の究明と再発予防法の確立は急務であるが、遺伝子レベルに研究が進
んでからも画期的な再発予防法は開発されていない。
オステオポンチン(OPN)はカルシウム結石のマトリクスとして同定され、結石モデルラットでは
結石形成に先行して発現し、尿細管細胞と蓚酸カルシウム結晶の接着、結晶の成長に関与し、結石形
成に重要な役割を果たすと考えられている。
遺伝子の一塩基多型(SNPs)は個体差を形成し、多因子疾患の原因となることが報告されている。
疾患に相関する特定遺伝子の SNPs が判別出来れば、個体レベルでの発症リスクを推測し、疾患の早期
診断、予防に有用である。本研究では、OPN の SNPs 解析により結石発生のリスクとの関係を検討した。
さらに、同定されていない遺伝子を含めたゲノムワイドに遺伝子解析を行うため、タグ SNP を用いた
網羅的探索法にて検討した。
対象と方法:
SNP の同定と解析
カルシウム結石患者 126 名(平均 57.6±13.5 歳、男性 93 名、女性 33 名)と結石既往のない健常者
214 名(平均 68.6±11.8 歳, 男性 165 名、女性 49 名)を対象とした。まず、99 例で血液よりゲノム
DNA を抽出し、
OPN 遺伝子の全配列を決定した。
連鎖不均衡解析を行い、
結石患者に特徴的な haplotype
-62-
tagging SNPs (htSNPs)について全例で SNPs を検討、解析した。ANKH では全ゲノムの遺伝子配列を同
定し、同様に解析を行った。
OPN プロモーター活性の検討
特徴的な htSNPs について、蓚酸(1mM)および蓚酸カルシウム一水和物(COM)結晶(500μg/ml)
添加時のプロモーター活性を検討した。それぞれの htSNPs について、-1807bp から 1056bp 領域をプ
ラスミド pGL3 basic vector に組み込み、HK-2 細胞(ヒト腎尿細管細胞由来)にコントロールプラス
ミド(pRL-TK)とともに co-transfection した。蓚酸(1mM)または蓚酸カルシウム一水和物(COM)
結晶(500・g/ml)を添加し、OPN プロモーター活性を 1,3,6,12,24 時間後に Luciferase assay にて
経時的に検討した。
pGL3-Basic vector
OPN 遺伝子
< 5’flanking ~ intron1 >
+1056b
-1807b
約 2.8kbp
Nhe1 site
Kpn1 site
non risk haplotype TG
risk haplotype GT
T G
T G
pGL3それぞれのhaplotypeのオステオポンチンプロモーター部位を挿入
腎尿細管細胞(NRK52E)にコントロールベクターとともに遺伝子導入
蓚酸(1mg/L)および蓚酸カルシウム結晶(0.5mg/L)負荷時のプロモーター活性を
Luciferase assayにて検討
結石関連遺伝子のゲノムワイドな網羅的探索
カルシウムを主成分とする尿路結石の形成機序は、食事などの環境因子に加えて、遺伝因子が重要
であると考える。遺伝因子としては、
「個人差程度の違い」である遺伝子多型(SNP)が、いくつも複
雑に関連して疾患が発症していると考えられている。ハプロタイプブロックの領域には、
「タグ SNP」
と呼ばれる、その領域を代表する SNP が存在しており、約 20 万ヶ所のタグ SNP をタイピングするこ
とで、尿路結石関連遺伝子の一次スクリーニングを行い、インフォームドコンセントのうえ、収集し
た結石患者のゲノム遺伝子を、4000 名で三次スクリーニングまで行った。
さらに、別の結石患者群、健常者群で再スクリーニングを行っている。
結 果:
SNP の同定と解析
61 ヶ所の SNPs を確認し、連鎖不均衡解析にて 4 つの block を同定した(図 1)
。Block 2 で結石患
者および健常者に特異的なハプロタイプを同定した。結石患者と健常者の遺伝子型を比較すると、ハ
プロタイプ G-T-T-G は結石患者に多く(p=0.0227 odds 比 1.676)、ハプロタイプ T-G-T-G は健常者に
多く(p=0.016 odds 比0.351)みられた。
日本人と中国人での差異については明らかにできなかった。
99名のOPN SNPについて連鎖不均衡解析を行った。太枠の内部がhaplotype blockを示し、
太字の SNP 番号がブロック内のhaplotype tagging SNP (htSNP)を示す。
尿路結石患者(126名)と健常者(214名)でBlock2にあるhaplotypesについて解析を
行った。 GTTGは結石患者に多く*、TGTGは健常者(非結石患者)に多い** 。
Block 2 Haplotypes
(SNP Frequency Cases
10-11-19-20)
(n=126)
Controls
(n=214)
OR
95% CI Chi square P value
TGCA
0.756
192.0 / 60.0 321.9 / 106.1 1.054 0.659-1.364
0.080
0.7777
GTTG
0.132
43.0 / 209.0 46.8 / 381.2 1.676 1.072-2.621
5.189
0.0227*
TGTG
0.088
11.0 / 241.0 49.2 / 378.8 0.351 0.179-0.689
9.978
0.0016**
TGCG
0.012
4.0 / 248.0
0.667
0.414
3.8 / 424.2
1.801 0.438-7.395
* P<0.05. ** P<0.01.
ANKH 遺伝子で、SNPs を同定したが、結石患者と健常者に特徴的な SNPs は同定できなかった。
OPN プロモーター活性の検討
-63-
Luciferase assay では蓚酸および COM 結晶の刺激により、
OPN プロモーター活性は経時的に上昇し、
24 時間後にピークを認めた。ハプロタイプ T-G-T-G はハプロタイプ G-T-T-G と比較して、蓚酸または
COM 結晶刺激による、OPN プロモーター活性が有意に上昇していた。
蓚酸負荷
蓚酸カルシウム結晶負荷
Haplotype
TGTG
結石リスク減少
haplotype
Haplotype
GTTG
結石リスク増加
haplotype
(P<0.001)
Haplotype
TGTG
結石リスク減少
haplotype
Haplotype
GTTG
結石リスク増加
haplotype
(P<0.001)
結石関連遺伝子のゲノムワイドな網羅的探索
多因子疾患として OPN 以外の遺伝因子を探索するため、ゲノムワイド解析を行った。同定されてい
ない関連遺伝子も含めた全ゲノムの網羅的探索として、尿路結石患者と健常者の大規模ゲノムワイド
関連解析を行い、日本人において尿路結石症と強い関連を示す、4番染色体長腕および 17 番染色体
短腕の 2 領域を同定した。
尿路結石症と強い関連を示す、4番染色体長腕および17番染色体短腕の2領域を同定した。
考 察:
カルシウム結石は単一の遺伝子異常で説明ができていないが、
近年、
遺伝子多型
(一塩基多型、
single
nucleotide polymorphism: SNP)を中心とした解析が行われ、カルシウム代謝に関係する Vitamin D 受
容体、カルシウム感受性受容体、ウロキナーゼ等について報告されてきている。
カルシウム結石患者と健常者を比較し、結石マトリクスである OPN について有意に、ハプロタイプ
G-T-T-G では結石発症のリスクが高く、ハプロタイプ T-G-T-G では健常者(非結石患者)である可能性
が高いことを示した。さらに、それぞれのハプロタイプでプロモーター活性が変化することを確認した。
採血による遺伝子解析によって、特定のハプロタイプで尿路結石の発症リスクが診断できる可能性があ
り、再発予防に有用であることが示唆された。日本人と中国人の尿路結石患者における人種差による
SNPs の違いは、確認できなかった。
ゲノムワイドな網羅的探索で得られた関連遺伝子領域については、特定遺伝子を同定し、今後機能
解析と、尿路結石患者と健常者における再発について検討することで、新規関連遺伝子の同定、再発リ
スク診断が可能となる将来性が期待される。
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学会発表:
Takahiro Yasui, Atsushi Okada, Jun Ichikawa, Kazumi Taguchi, Yasuhiko Hirose, Yasuhiro
Fujii, Kauhiro Niimi, Masayuki Usami, Ryosuke Ando, Shuzo Hamamoto, Takahiro Kobayashi,
Masahito Hirose, Yasunori Itoh, Keiichi Tozawa, Bing Gao, Kenjiro Kohri. Bisphosphonate
prevents urolithiasis in men with osteoporosis. 1st Meeting of the EAU Section of
Urolithiasis (EULIS) (London, United Kingdom) Sep. 7-10, 2011 (Sep 9)
作成日:2012 年 3 月 14 日
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-日中医学協会事業-
日中間における小型肺癌に対する縮小手術の実態調査
研 究 者 氏 名
淺村尚生
日本研究機関
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科
共同研究代表者
方 文涛
中国所属機関
上海胸科医院胸外科
要 旨
近年、小型肺癌に遭遇する機会が増加するとともに、小型肺癌に対する根治的な縮小手術(区域切除/
楔状切除)への取り組みにも関心が高まっている。日中両国間で縮小手術の妥当性を検証するために、両
国間における小型肺癌に対する縮小手術の現状につき調査した。
2000 年 1 月から 2009 年 12 月までの間に、
原発性肺癌に対して縮小手術がなされた症例を対象とした。国立がん研究センター中央病院呼吸器外科は
415 例(同期間中の肺癌に対する全切除例の 9.8%)
、上海胸科医院胸外科は 68 例(同期間中の肺癌全切除
例の 2.3%)
、および清华大学第一附属医院胸外科は 26 例であった。本症例につき予後を臨床病理学的事
項につき検討した。縮小手術は適応面から根治的適応と妥協的適応とに分類した。
国立がん研究センター中央病院症例 415 例に関して、平均年齢は 64.7 歳。発見動機は検診発見が 369
例(88.9%)と最も多かった。根治的適応として縮小手術がなされた症例は 206 例(49.6%)であった。
平均腫瘍径は 1.7 cm。病理組織型は腺癌が 350 例(84.3%)と最も多かった。再発は 41 例(9.9%)に認
められ、そのうち肺切離断端部の局所再発は 7 例(1.7%)に認められた。全体の 5 年生存率は 68.2%。
適応別での生存率は、縮小手術の根治的適応 206 例の 5 年生存率が 98.9%、妥協的適応 209 例の 5 年生存
率が 73.8%であった(p = 0.000)
。腫瘍径 2cm 以下の 332 症例(80%)の 5 年生存率は 84.9%であった。
上海胸科医院胸外科症例 68 例に関して、平均年齢は 69.5 歳。発見動機は検診発見が 41 例(60.3%)で
あった。縮小手術の根治的適応症例が 14 例(20.6%)であった。平均腫瘍径は 2.5 cm であった。病理組
織型は腺癌が 43 例(63.2%)で最も多かった。再発例は 23 例(33.8%)で、そのうち局所肺切離断端部
の再発は 6 例(8.8%)であった。全体の 5 年生存率は 54.6%。適応別での生存率は、根治的適応の 14 例
の 5 年生存率が 74.1%、妥協的適応の 54 例の 5 年生存率が 51.1%であった(p = 0.565)
。
清华大学第一附属医院胸外科症例 26 例に関して、平均年齢は 63.1 歳。縮小手術はすべて妥協的適応で
なされていた。平均腫瘍径は 3.3 cm であった。病理組織型は腺癌が 21 例(80.8%)で最も多かった。
小型肺癌に対する縮小手術の割合は当院に比べ、中国 2 施設では低かった。また、当院での症例の約 9
割は無症状で発見される検診発見症例であったが、上海胸科医院胸外科症例において検診発見症例は約 6
割にすぎなかった。今後も小型肺癌に対する根治的縮小手術への期待は高まるものと予測され、両国間で
共同して検討していく意義は大きいと考えら、小型肺癌に対する縮小手術の標準化に向けた探索的な検証
を継続していきたい。
Key Words
肺癌,縮小手術,
緒 言
近年の画像診断の進歩と CT 検診の普及等により、小型肺癌が発見される機会が増加しており、これらの病変
に対する縮小手術(区域切除・楔状切除)への期待が高まっている。肺癌に対する外科治療の標準術式は肺葉
以上の肺実質の切除であるが、これらの小型病変に対して、より低侵襲な術式、すなわち、区域切除術や楔状
-68-
切除術といった縮小手術を選択することへの妥当性が検討されるようになってきた。本研究では、日中間にお
ける小型肺癌に対する縮小手術への取り組みの現状を把握し、今後、両国間において小型肺癌に対する縮小手
術の妥当性を検討するための前向きな探索的検証が可能かどうか考察する。
対象と方法
2000 年 1 月 1 日から 2009 年 12 月 31 日までの間に、国立がん研究センター中央病院呼吸器外科にて原発性肺
癌に対して縮小手術が施行された 415 例を対象とした。これは同期間中に行われた原発性肺癌に対する手術 4255
例の 9.8%に相当した。同時に、共同研究施設である中国の上海胸科医院胸外科(共同研究者:方 文涛医師)
および清华大学第一附属医院胸外科(共同研究者:魏慎海医師)において、同期間中になされた、原発性肺癌
に対する縮小手術症例、68 例(同期間中の肺癌全切除例の 2.3%)26 例(同期間中に切除された原発性肺癌 1356
例中の 1.9%)を対象とした。対象となるこれらの症例に対して診療録より、以下の項目について臨床病理学的
に調査した。性別、年齢、喫煙歴、発見動機、縮小手術を行った理由、腫瘍マーカー、最大腫瘍径、TNM 分類ステージ、手術術式(区域切除か楔状切除か)
、術後合併症、病理組織型、再発、および予後であった。腫瘍径、
T 因子、リンパ節転移に関しては、UICC-TNM Ver.7(209 年)に基づいて病期分類した。縮小手術は適応面から根
治的適応と妥協的適応とに分類した。根治的適応は肺葉切除が可能な症例にあえて縮小手術を行うものである.
術前もしくは術中に早期肺癌が予測される症例(高分解能 CT にてすりガラス濃度;GGO 成分が多い症例)に良
い適応となる.妥協的縮小手術は肺葉切除が身体機能的に困難と予測される症例(心肺機能障害などを伴う症
例)にやむを得ず行うものである.病理組織診断は WHO 分類第 3 版(1999 年)に基づいた。生存期間は、手術年
月日より最終フォローアップ日までと定義した。生存曲線は Kaplan-Meier 法にて推定し、生存の差は log-rank
法によって検定した。統計学的な差はp値 0.05 未満をもって有意とした。
結 果
国立がん研究センター中央病院症例 415 例に関して、性別は女性 205 例(49.4%)、男性 201 例(50.6%)、年
齢は平均 64.7 歳(33~89 歳)であった。発見動機は無症状にて検診等で発見された症例が 369 例(88.9%)と
最も多かった。根治的適応として縮小手術がなされた症例は 206 例(49.6%)であった。手術術式は区域切除
207 例(49.9%)
、楔状切除 208 例(50.1%)であった。術後合併症は 41 例(9.9%)に認められ、肺瘻の遷延
(術後 7 日以上)が 18 例と最も多かった。腫瘍径は平均 1.7 cm(0.4~5.5cm)であった。病理組織型は腺癌が
350 例(84.3%)と最も多く、次いで、扁平上皮癌 50 例(12.1%)
、大細胞癌(大細胞神経内分泌癌を含む)10
例(2.4%)
、その他 5 例(1.2%)であった。病理病期は 0 期/IA 期/IB 期/IIA 期/IIB 期/IIIA 期/IIIB
期の順に、1 例(0.2%)/375 例(90.4%)/26 例(6.3%)/4 例(1.0%)/5 例(1.2%)/3 例(0.7%)
/1 例(0.2%)であった。再発は 41 例(9.9%)に認められ、そのうち肺切離断端部の局所再発は 7 例(1.7%)
に認められた。全体の 5 年生存率は 68.2%であった。適応別での生存率は、根治的適応で手術がなされた 206
例の 5 年生存率が 98.9%、妥協的適応で手術がなされた 209 例の 5 年生存率が 73.8%であった(p = 0.000)。
腫瘍径 2cm 以下の 332 症例(80%)の 5 年生存率は 84.9%であった。
上海胸科医院胸外科症例 68 例に関しては、性別は女性 20 例(29.4%)
、男性 48 例(70.6%)
、年齢は平均 69.5
歳(46~81 歳)であった。発見動機は検診発見が 41 例(60.3%)であった。根治的適応として縮小手術がなさ
れた症例が 14 例(20.6%)であった。手術術式は区域切除 26 例(38.2%)
、楔状切除 42 例(62.8%)であっ
た。術後合併症は 4 例(5.9%)に認められた。腫瘍径は平均 2.5 cm(0.8~4.5cm)であった。病理組織型は腺
癌が 43 例(63.2%)で最も多く、次いで、扁平上皮癌 15 例(22.0%)
、腺扁平上皮癌 6 例(8.8%)
、大細胞癌
1 例(1.5%)
、その他 3 例(4.5%)であった。病理病期は IA 期/IB 期/IIA 期/IIB 期/IIIA 期の順に、19
例(27.9%)/43 例(63.2%)/0 例(0%)/4 例(5.9%)/2 例(3.0%)であった。再発例は 23 例(33.8%)
で、そのうち局所肺切離断端部の再発は 6 例(8.8%)であった。全体の 5 年生存率は 54.6%であった。適応別
での生存率は、根治的適応で手術がなされた 14 例の 5 年生存率が 74.1%、妥協的適応で手術がなされた 54 例
-69-
の 5 年生存率が 51.1%であった(p = 0.565)
。
清华大学第一附属医院胸外科症例 26 例に関しては、性別は女性 10 例(38.5%)、男性 16 例(61.5%)で、
年齢は平均 63.1 歳(33~82 歳)であった。根治的適応として縮小手術がなされた症例はなかった。手術術式は
全例楔状切除であった。腫瘍径は平均 3.3 cm(1.2~4.5 cm)であった。病理組織型は腺癌が 21 例(80.8%)
で最も多く、次いで、扁平上皮癌 3 例(11.5%)、大細胞癌 2 例(7.7%)であった。病理病期は IA 期/IB 期/
IV 期の順に、4 例(15.4%)/10 例(38.5%)/12 例(46.1%)であった。
考 察
CT 画像診断の発展及び検診の普及などにより、小型の肺癌が発見される機会が増え、また、高分解能 CT の出
現により、病変の質的診断能も向上し、より早期な肺癌が指摘可能になってきた。それに伴い、肺癌に対する
外科治療として積極的(根治的)に縮小手術を適応する試みがなされた。1990 年代には根治的な適応での縮小
手術に関する第 II 相臨床試験が開始され、術後肺機能の温存および肺葉切除と同等な予後成績が報告された。
今回、日中両国間で小型肺癌に対する縮小手術の現状を把握するために、本研究を行った。中国においては
当院に比し、肺癌に対する縮小手術の占める割合は小さく、縮小手術は妥協的適応としてなされている傾向が
あった。根治的適応として縮小手術を行った症例は、当院では 206 例(49.6%)であったのに対し、上海胸科
医院胸外科においては 14 例(20.6%)
、清华大学第一附属医院胸外科においては、全症例で妥協的適応として
縮小手術が行われていた。腫瘍径に関して、当院での手術症例では中国 2 施設の症例に比して、有意に小さか
った。発見動機においても当院の症例では約 9 割が無症状検診発見であったのに対し、上海胸科医院胸外科の
症例では検診発見例は約 6 割にすぎなかった。両国間における検診システムの相違が関与している可能性があ
る。今後、さらに両国間における縮小手術への取り組みにつき討議し、小型肺癌に対する縮小手術の妥当性を
検証するための前向きな探索的検証の可能性につき継続的に検討していく。
肺癌に対する縮小手術の適応においては、腫瘍径に関する条件付けや病変部の画像所見の質的診断に関する
条件付けによりその適応が検討されてきた。瘍径に関しては、腫瘍径 2 ㎝以下の肺癌と 2~3 ㎝の肺癌との間で
は、生存率において統計学的有意差があることがこれまでに報告されてきた。肺癌切除後の予後は腫瘍径と相
関関係にあり、腫瘍径 2 ㎝以下の小型肺癌に対する根治的縮小手術(区域切除)の試みがなされるようになっ
た。これまでに肺野末梢の腫瘍径 2 ㎝以下の肺癌に対する縮小手術(区域切除術)の第 II 相試験の結果が報告
され、縮小手術と肺葉切除術との間で同等の予後が期待されることが示されてきた(5 年生存率 82~92%)
。現
在、あらためて縮小手術の意義に関して再評価するための臨床試験が世界的に始まっている。CALGB では径 2 cm
以下の臨床病期I期肺癌に対する第 III 相試験(肺葉切除 vs 区域切除)が、日本でも JCOG(日本臨床腫瘍研究
グループ)で同様の臨床試験(JCOG0802)が行われている。
肺癌画像所見の質的診断に関しては、高分解能 CT 所見における、いわゆる“すりガラス濃度(GGO)”所見が、
肺癌の肺胞上皮置換性の発育(非浸潤癌)に相当する病理所見と関連があることがわかり、腫瘍に占める GGO
成分の比率が、リンパ節転移など生物学的腫瘍悪性度と相関することがこれまでに報告されてきた。すなわち、
癌の浸潤に伴う線維化を反映した充実性部分と GGO 部分との比率から病理学的な浸潤度を予測する試みである。
腫瘍径に占める GGO 成分の比率が 5 割以上あるものではその切除後の良好な予後が報告されてきた。これらの
報告は後方視的に行われているものであり、その普遍性・再現性を確認するため、JCOG では術前の高分解能 CT
所見に基づく肺腺癌の質的診断を行い、縮小手術の適応となる病理学的非浸潤性肺腺癌を術前に同定できるか
どうか検討する妥当性研究が多施設で行われた。病理学的非浸潤癌の予測に,腫瘍径に占める充実性部分を 25%
以下という画像診断基準を設けたところ極めて高い特異度(病理学的非浸潤癌のうち術前高分解能 CT により正
しく非浸潤癌と診断される患者の割合)が得られることが判明した。
小型肺癌に対する縮小手術を適応する試みは、手術の低侵襲化を図る上でも重要な課題であり、これは日本
のみならず中国においても同様で、両国間で共同して研究する意義は大きいと考えられ、引き続き検証をして
いきたい。
-70-
参考文献
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-72-
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-日中医学協会助成事業-
科学的根拠に基づく肝癌診療ガイドラインの中国での構築に向けた先行的基盤研究
Japan-China Joint Research for Improvement of Medical Treatment for HCC in China
by Construction of Evidence-based Guideline
研究代表者:宋 培培
日本研究機関:東京大学医学部附属病院・肝胆膵外科学
中国側共同研究代表者:董 家鴻
中国所属機関: 中国人民解放軍総医院(301医院)・肝胆膵外科
中国側共同研究者:蓋 若琰(山大・公衛)
,徐 凌忠(山大・公衛)
日本側共同研究者:稲垣 善則(東大・医),高 建軍(東大・医)
唐子 尭(東大・医) ,國土 典宏(東大・医)
要旨:肝細胞癌(HCC)は、世界において罹患者数として5番目、死亡者数として3番目に多い癌である。
さらに、毎年発生する600,000人のHCC患者のうち78%がアジア地域で発生し、特に中国は55%を占めて
いる。過去10年間に世界中で多くのHCCに関するガイドラインが発行された。日本では2005年にHCCに
関する科学的根拠に基づくガイドラインが発行され、HCC診療の躍進に大きく貢献した。一方、中国で
は2009年にHCCに関するガイドラインが発行されたが、専門家集団のコンセンサスに基づくものであり
科学的根拠に基づく裏付けに乏しい。本研究では、17本の世界的なHCCに関するガイドラインを体系的
に評価し、日本と中国におけるHCC診療の比較解析を試みた。その結果、臨床研究論文の系統的調査に
よる科学的根拠と共にHCC診療に従事する専門家のコンセンサスに基づいたガイドライン構築が中国に
おいて早急に必要であることが示された。
キーワード:肝細胞癌、診断、治療、評価
1.
導入
肝細胞癌(HCC)は、世界において罹患者数として5番目、死亡者数として3番目に多い癌疾患である。
さらに、毎年発生する600,000人のHCC患者のうち78%がアジア地域で発生し、特に中国は55%を占めて
いる。このような深刻な状況を背景として、肝癌医療の標準化が近年注目されてきた(1-3)。 標準医療を
示すものとして、ガイドラインは「''systematically developed statements to assist practitioner and patient decisions
about appropriate health care for specific clinical circumstances ''(特定の医療環境における適切な健康管理につ
いて医療従事者や患者を補助するための体系的提言)」と定義される(4)。過去10年間において、HCCに
関する多くのガイドラインが世界各国で発行された。アジア諸国では、日本、韓国、中国においてHCC
に関するガイドラインが発行されたが、日本と韓国で発行されたガイドラインは膨大な臨床研究論文の
系統的総括に基づいて発行されたものである一方、中国では専門家集団のコンセンサスに基づいて発行
されたものに留まっている。 本研究では、中国における科学的知見に基づくHCC診療ガイドラインの構
築の重要性を明らかにすることを目的として、世界各国のHCCに関する現在のガイドラインを系統的に
評価すると共に、特に日本と中国のHCC診療の比較を実施した。
2.
方法
本研究は2つのステップで研究を遂行することとし、まず系統的な文献調査と総括を実施した。2001年か
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-日中医学協会助成事業-
ら2011年までの期間でPubMedデータベースに発表されたHCCに関するガイドラインや意見総括を主題
とした英語論文を探索し、以下の3つの条件を全て満たす文献を抽出した。
1) 信頼性(原著のガイドライン発行後、HCC診療に関する後続のガイドラインや他の論文においてそ
のガイドラインが広く引用されているかどうかを調査。)
2) 影響力(そのガイドラインが国家や学術及び医療団体の協力の下で構築されており、その実現やHCC
診療の標準化に関して全国的な注目を受けているかどうかを調査。)
3) 多角的視点(HCCの診断や治療を中心とした診療に関する多くの領域を包括するガイドラインとな
っているかを調査。)
上記の条件でスクリーニングした結果、3,008本の論文から46本を採用した。それらの科学的知見から、
現在HCCに関する17のガイドライン(米国5、アジア7、欧州5)が構築されている。
2つ目のステップとして、専門家による総括的評価を実施した。「Japan-China Joint Workshop on the
Management of HCC」と題して2回の会合を実施し、特に日本と中国におけるHCC診療に着目して、現在
のHCCに関するガイドラインの有用性や課題について評価した。当該会合の専門家集団は、日中両国の
臨床診療医及び公衆衛生学者などにより構成された。
3.
結果及び考察
3.1 世界各国の HCC に対する現在のガイドラインの評価
現在世界で 17 あるガイドラインは、アプローチの方法、応用性、内容、最近の改訂といった点において
ガイドライン間で類似する部分と相違する部分が存在し、この状況はガイドライン内で規定されている
診断や治療に関するアルゴリズムでも同様にみられた。この相違は、様々な病因的因子、高リスク患者、
保健制度、医療資源、医療技術やその選択法、所得水準が各国で異なることに起因すると考えられる。
さらに、HCC の診療に関する推奨される方法を示した科学的根拠に基づくガイドラインが構築され、複
数の先進国で採用されている。しかし、低所得及び中所得国では、HCC 克服のために現在採用されてい
る多くの手法に関して遂行することが難しい。これは、資金配分に一貫性のないことやインフラ及びそ
の他の資源の不足が原因として挙げられる。低所得及び中所得国で推奨される医療を展開するためには、
実施コストの検討や次善のシステムを最適化する方法の指導を実施するべきであると考えられる。従っ
て、各々の国や地域においてガイドラインを構築するには、その地域の保健制度、医療技術、所得水準
などを十分に検討する必要がある(5)。
3.2 日本と中国における HCC 診療の比較解析
3.2.1 日本における HCC 診療
日本厚生労働省の協力の下で、肝癌診療ガイドライン(J-HCC Guideline)が2005年に発表された。HCC
に関する7,192本の研究論文(1966-2002年に発表)を主にMEDLINEから探索し、うち334本が二次選択で
抽出された(6)。2009年には、新たな知見の組み込みを目的とした改訂を実施し、MEDLINEより探索した
2,950本の研究論文(2002-2007年に発表)から根拠の信頼性や内容に基づく二次選択により532本の論文
を抽出してガイドラインが再編された(7)。この肝癌診療ガイドラインには、予防、診断とサーベイラン
ス、外科的治療、化学療法、TACE、焼灼療法といったようにHCC診療に関する様々な領域が包括されて
いるほか、HCCの管理や治療に関するアルゴリズムも明示されている。また、当該ガイドラインでは、
-75-
-日中医学協会助成事業-
系統的な文献調査だけでなく内部及び外部の評議委員や専門家らによる評価も実施された。従って、当
該ガイドラインは、系統的文献調査に基づく科学的根拠と専門家による評価を融合させたシステムによ
り構築されたものである。
肝癌診療ガイドラインの発表後から約1年となった2006年3月には、当該ガイドラインの認知度や診
療への影響などを明らかにすることを目的としたアンケート調査が実施され、71.9%の肝臓専門医、75.6%
の肝臓外科医、61.0%の一次診療医(回答者は1,175人)がガイドラインを認知していると回答した(8)。
従って、当該ガイドラインは専門医や一次診療医に広く受け入れられているといえる。系統的文献調査
という定量的評価と専門家による質的評価の融合が当該ガイドラインの構築において達成されたことが、
日本におけるHCC診療が優れた業績を挙げている要因の一つと考えられる(9)。また、日本には専門家集
団のコンセンサスに基づいて構築されたもう一つのガイドラインがある。このガイドラインは、日本肝
臓学会が専門家集団のコンセンサスに基づいて2007年に発行されたものであり、前述の科学的根拠に基
づく肝癌診療ガイドラインに最新の情報を追加導入する役割をもつ。
Oxford Center for Evidence-Based Medicine (CEBM)により定められたエビデンスレベル(level 1(high)か
ら level 5(low))によると、文献調査に基づいて構築されたガイドライン(level 1 to level 3)と専門家集団
のコンセンサスに基づくガイドライン(level 5)では、エビデンスレベルは異なるものの双方とも
evidence-based medicine (科学的根拠に基づく医療)に準じているといえる。その上、それぞれについて
メリットとデメリットが存在する。故に、ガイドライン構築においては、系統的文献調査と専門家集団
の評価を融合させることが必要であると考えられる。
3.2.2 中国における HCC 診療
中国においても、国家や研究機関によってHCC診療に関する研究が実施されてきた。1989年にはthe
Medical Administration Department of the Ministry of Health がHCCに対する診療方針を記述した「Treatment
Standards for Common Malignant Tumors in China (Vol. 2, Hepatocellular Carcinoma)」を発行した。その後は
HCCの治療に関するものが中心となり、1990年にはthe Drug Administration Department of the Ministry of
Health が「Guiding Principles for Clinical Research on Treatment of Hepatocellular Carcinoma Involving New
Drugs/Traditional Chinese Medicines」を、1999年には the Chinese Anti-Cancer Association (CACA) が「New
Treatment Standards for Common Malignant Tumors in China (Hepatocellular Carcinoma Section)」をそれぞれ発
行し、2000年には 学術会議であるthe 6th China Hepatic Surgery Academic Conference の成果として「Choices
for Hepatocellular Carcinoma Treatment Therapies」が発行された。そして、2007年と2008年においては、the
CACA Society of Liver Cancer (CSLC)、Chinese Society of Clinical Oncology (CSCO)、Chinese Society of
Hepatology (CMA) Liver Cancer Study Groupの3団体が協同的に学術会議を上海で開催し、60名を超える専
門家らによってHCC診療の諸領域(診断、外科的治療、放射線治療、分子標的治療を含む化学療法など
が中心)について議論がなされた。その成果として、「'The Experts' Consensus on the Treatment Standards for
Hepatocellular Carcinoma''」が、中国の診療ガイドラインとして2009年に発行された(10)。しかしながら、
このガイドラインは専門家らのコンセンサスに基づいて構築されており、研究論文などの科学的根拠に
基づく裏付けが不足している。さらに、このコンセンサスはHCCの診断と治療に関するものに限定され
ており、中国における疫学的現状、予防、サーベイランス、予後追跡といった領域は当該ガイドライン
では明らかにされていない。昨今の高度な医療行為や方法論を鑑みて、信頼性の高いHCC医療を展開す
るためには科学的根拠に基づいた診療ガイドラインの構築が中国にとって早急の課題といえる。
Conclusion
過去 10 年間において、
HCC 診療の標準化に関して多くの国が注目し、
種々のガイドラインが構築された。
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-日中医学協会助成事業-
HCC に関する現在の 17 のガイドラインを系統的に評価した本研究の成果から、
特定地域におけるガイド
ライン構築には、保健制度、医療技術、所得水準などにおいてその地域の資源や現況を十分に組み込む
ことが必須であると示唆された。日本では、系統的文献調査による定量的評価と専門家による質的評価
の融合に基づいて肝癌診療ガイドラインが構築されたことが、HCC 診療における優れた業績に繋がって
いると考えられる。2009 年に中国で発行されたガイドラインは、専門家集団のコンセンサスに基づいて
おり科学的根拠による裏付けが不足している。昨今の高度な医療行為や方法論を導入した信頼性の高い
HCC 医療を展開するためには、系統的文献調査と専門家による評価を融合させた科学的根拠に基づく診
療ガイドラインの構築が早急に必要である。
参考文献
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Society of Hepatology Liver Cancer Study Group. The expert consensus on the treatment standards for
hepatocellular carcinoma. Digestive Disease and Endoscopy. 2009; 3:40-51. (in Chinese).
注:一部の研究は、『Drug Discov Ther. 2011; 5(6):261-265』、『Drug Discov Ther. 2012; 6(1):1-8』、『Liver
Int (in press)』に掲載。また、2012年4月16日東京大学に開催する『Japan-China Joint Medical Workshop 2012
-- Standardization of perioperative management on Hepato-Biliary-Pancreatic Surgery』にて口演発表予定。
作成日:2012 年 3 月 6 日
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-日中医学協会助成事業-
Supplemental Data:
Table 1. Current characteristic guidelines for the management of HCC worldwide
Areas
Guidelines
Publishing
America
NCCN Guideline
National Comprehensive Cancer Network
AASLD Guideline
American Association for the Study of Liver Disease
ACS Guideline
American College of Surgeons
WGO Guideline
World Gastroenterology Organization
NCI (US) Guideline
United States National Cancer Institute
Asia
Korean Guideline
Korean Liver Cancer Study Group and National Cancer Center
J-HCC Guideline
Japanese Ministry of Health, Labor, and Welfare
SGA Guideline
Saudi Gastroenterology Association
JSH Guideline
Japan Society of Hepatology
APASL Guideline
Asian-Pacific Association for the Study of the Liver
Chinese Guideline
Chinese Society of Liver Cancer
Chinese Society of Clinical Oncology
Chinese Society of Hepatology Liver Cancer Study Group
Europe
AOS Guideline
Asian Oncology Summit 2009
EASL Guideline
European Association for the Study of the Liver
BSG Guideline
British Society of Gastroenterology
BASL Guideline
Belgian Association for the Study of the Liver
ESMO Guideline
European Society for Medical Oncology
GOIM Guideline
Italian Southern Oncological Group
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チャ (Camellia sinensis) 花部の生体機能成分の解明と定量分析
研 究 者 氏 名
教授 吉川 雅之
日 本 所 属 機 関
京都薬科大学
中国側共同研究代表者
教授 王 涛
中 国 所 属 機 関
天津中医薬大学
要 旨
中国には、それぞれの地域の環境に適したチャが栽培されており、それらの花の成分組成は大きく異なることが予想
される。そこで、安徽、福建省などの東南部、四川、湖北省などの中部、雲南、広西省などの南部から種々の茶花を入手
し、茶花の品質評価を目的に、HPLC を用い茶花に含有されるサポニン成分などの定量分析法を開発し、主要産地におけ
る成分変動を検討した。また、福建省産茶花エキスにマウスにおける体重増加抑制や血中の中性脂質上昇抑制および摂食
抑制作用があることを見出したことから、活性成分の探索を行った。その結果、オレアナン型トリテルペン配糖体
chakasaponin 類に摂食抑制作用があることを見出した。次に、chakasaponin 類の摂食抑制の作用機序について検討を行っ
た結果、chakasaponin は視床下部において食欲亢進に関与する neuropeptide Y (NPY) mRNA の発現を有意に抑制させること
が明らかとなった。また、chakasaponin の摂餌量の抑制作用は消化管管腔内刺激の迷走神経求心路を介した刺激伝達経路
が関与することが示唆された。これらの作用には 5-HT、GLP-1 および CCK といった摂食抑制作用を持つ刺激伝達物質が
関与していることが推察された。また、chakasaponin 類はマウスにおける血中の中性脂質上昇抑制および血糖値吸収抑制
作用があることを見出した。
Key Words
茶花、サポニン、chakasaponin、中性脂質上昇抑制作用、摂食抑制作用
緒 言
チャはツバキ科 (Camelliaceae) に属する常緑樹で、中国の雲南省や四川省からミャンマーの北部にかけての地域が原産
地とされており、樹高 3 m 程度のかん木で耐寒性のある中国種 (Camellia sinensis L. var. sinensis) と、葉が大きく高木のア
ッサム種 (Camellia sinensis L. var. assamica) に大別される。中国種は、江蘇、浙江省などの中国東部から安徽、福建省など
の東南部および日本の暖地などで栽培されており、北インドへも移植されている。一方、アッサム種は、四川、雲南省な
どの中国西南部、インドやスリランカ、インドネシアなどの熱帯、亜熱帯地域で栽培されている。また、インドシナ半島
には両種の交雑種と考えられる種が存在すると言われている。
チャの葉部 (茶葉) を用いた喫茶の歴史は、少なくとも 2000 年以前にさかのぼり、当初は薬用が中心であったと考え
られている。茶葉は薬物として多数の本草書に収載されており、中国明時代の「本草綱目」や江戸時代の「本草食鑑」な
どにその薬効が記載されている。例えば、
『頭と目を清める、煩渇を除く、痰を化す、食を消す、利尿する、解毒する』
などの効能があり、頭痛や目くらみ、多眠、激しい口渇を治し、去痰、消化、利尿効果があり、解毒作用があって下痢や
二日酔いを治療するなどと記載されている。また、種子(茶子)には、鎮咳、去痰作用、頭痛や呼吸器不全の治療効果が
伝承されている。チャの葉部や種子にサポニンが含有されていることは古くから知られており、 また、アルコール吸収抑
制作用、 抗菌作用および抗炎症作用、 降圧作用 などの生物活性が報告されている。
このような背景のもと、我々は種々の中国産茶花を入手しサポニン成分の産地における成分変動を検討した。さらに、
福建省産茶花エキスがマウスにおける体重増加抑制や血中の中性脂質上昇抑制および摂食抑制作用があることを見出し
たことから活性成分の探索を行うとともに摂食抑制の作用機序について検討を行った。
-81-
結果と考察
1) 茶花サポニン成分の産地における成分比較
中国には、それぞれの地域の環境に適したチャが栽培されており、それらの花の成分組成は大きく異なることが予想さ
れる。そこで、安徽、福建省などの東南部、四川、湖北省などの中部、雲南、広西省などの南部から種々の茶花を入手し、
茶花の品質評価を目的に、HPLC を用い茶花に含有されるサポニン成分などの定量分析法を開発し、主要産地における成
分変動を検討した。その結果、特に安徽省産には主サポニンとして floratheasaponin 類が含まれており、福建省には主サ
ポニンとして chakasaponin 類が含まれていた。また、四川省には floratheasaponin 類、chakasaponin 類が含有されている
ことが明らかとなった。茶花には茶の原産地と言われるメコン川上流地域から中国四川省地域、福建省等の中国南部地域、
安徽省から日本の地域、台湾の各地域において特徴あるサポニン組成パターンが存在することが明らかとなった。これら
の知見は、チャのケモタキソノミーの観点から興味深いものであり、また、チャの伝播を考える上でも重要な知見と思わ
れる。
2) 茶花エキスおよびサポニン成分の抗肥満作用
茶花の抗肥満作用を検討する目的で、高脂肪食飼育マウスに福建省産茶花 MeOH 抽出エキスを 14 日間経口投与した
ところ、体重増加抑制作用、肝重量、肝中性脂質および血中総コレステロール濃度の減少および内臓脂肪量の減少が観察
された。以上の結果から、茶花 MeOH 抽出エキスには、反復投与における体重および内臓脂肪増加抑制作用を有するこ
とが明らかとなった。次に、メタボリックシンドロームのモデルマウスである TSOD マウスを用い、抗肥満作用のさら
なる検討を行った。福建省産茶花 MeOH 抽出エキスを 4 週間経口投与したところ、有意な体重増加抑制作用、肝重量、
血中中性脂質、総コレステロールの有意な減少および内臓脂肪量の有意な減少が認められた。また、MeOH 抽出エキス
の投与開始からそれぞれ 21 日目に行った glucose tolerance test (GTT) の結果、有意な血糖値上昇抑制作用が観察され耐糖
能の回復が認められた。以上の結果から、茶花 MeOH 抽出エキスはメタボリックシンドロームの進行を抑制することが
明らかとなった。次に、茶花 MeOH 抽出エキスによって認められた体重増加抑制作用は、投与開始後、短期間であらわ
れたことから摂取カロリーの変化による影響が大きいのではないかと推察した。そこで各実験における摂餌量の変化を比
較検討した。その結果、高脂肪食飼育マウスおよび TSOD マウスのいずれの場合においても体重増加抑制作用と同様の
用量依存的な摂餌量の減少が観察された。以上の結果から, 茶花の抗肥満作用は摂餌量の抑制により引き起こされている
と推察された。
Ac =
R2
21
22
O
CH2OH
HO
O
COOH
O
O
O
HO
H
HO
O
H HO
O
O
OH
O
OH
H
OH
H
HO
H3C
OH
HO
CH3
Tig =
C
O
H
O
OH
HO
O
H
R1
R2
R3
H
OH
OH
OH
O-Tig
O-Tig
O-Tig
H
Ac
Tig
Ac
Tig
O
O
O
Ac: acetyl; Tig: tigloyl
chakasaponin I (1):
chakasaponin II (2):
chakasaponin III (3):
chakasaponin IV (4):
O
C C
R1
OH
OH
OH
C CH3
OR3
O
HO
O
HO OH
HO
OH
HO
H
OH
H
OH
5
図 1 福建省産茶花の含有成分
摂餌量の減少を引き起こす物質を明らかとする目的で、福建省産茶花 MeOH 抽出エキスを用い活性成分の探索を行
った。福建省産チャ (Camellia sinensis) の乾燥花部を MeOH で熱時抽出後、溶媒を減圧留去し、MeOH 抽出エキス (収率
31.1%) を得た。その MeOH 抽出エキスを酢酸エチルと水で分配抽出、次いで水移行部を 1-ブタノールで分配抽出し、
-82-
酢酸エチル移行部 (3.2%)、1-ブタノール移行部 (16.4%)、水移行部 (12.1%) を得た。酢酸エチル移行部、1-ブタノール移
行部、水移行部について正常食飼育マウスでの摂餌量の検討を行った。その結果、1-ブタノール移行部に強い摂餌量の減
少作用が認められた。活性が認められた 1-ブタノール移行部について含有成分の探索を行った。すなわち、1-ブタノール
移行部を順相シリカゲル、逆相 ODS カラムクロマトグラフィーおよび順相、逆相 HPLC で繰り返し分離精製し、3 種
の既知オレアナン型トリテルペン配糖体 chakasaponin I (1, 0.49%)、II (2, 0.67%)、 III (3, 0.013%) および 1 種の新規オレア
ナン型トリテルペン配糖体 chakasaponin IV (4, 0.0017%) を単離、構造決定するとともに、1 種の既知フラボノイド配糖体
kaempferol 3-O-β-D-glucopyranosyl(1→3)-α-L-rhamnopyranosyl(1→6)-β-D-glucopyranoside (5, 0.36%) 、 3 種 の カ テ キ ン
(–)-epicatechin (0.000077%)、(–)-epicatechin 3-O-gallate (0.067%)、(–)-epigallocatechin 3-O-gallate (0.21%)、2 種の既知芳香族化
合物 benzyl β–D–glucopyranoside (0.00012%)、(S)-1-phenylethyl β-D-glucopyranoside (0.094%) および caffeine (0.067%) を単離
した (図 1)。そこで、1-ブタノール移行部の主要成分である chakasaponin I–III (1−3) および 5 について正常食飼育マウス
での摂餌量の検討を行ったところ、chakasaponin I–III (1−3) に強い摂餌量の減少が観察された。これらの結果より, 摂餌量
の減少は chakasaponin I–III (1−3) によって引き起こされたことが明らかとなった。
3) 茶花サポニン成分の抗肥満作用における作用機序の検討
Chakasaponin I–III (1−3) に強い摂餌量の減少が観察されたことから、1-ブタノール移行部および主成分である
chakasaponin II (2) を中心にその作用メカニズムの検討を行った。まず、chakasaponin 投与マウスにおいて、摂食に関与す
る視床下部 mRNA 量について検討を行った。その結果、1-ブタノール移行部および 2 は、投与マウスの視床下部におい
て食欲亢進を支配するペプチドである neuropeptide Y の mRNA 発現量を有意に減少させた。以上のことから、これらの
作用が、neuropeptide Y の発現抑制つまり食欲亢進シグナルの抑制による、摂食抑制作用であることが明らかとなった。
次に、大量のカプサイシン前処置により、化学的に迷走神経を脱感作させたマウスを用いて、摂食抑制作用を検討した。
その結果、
1-ブタノール移行部および 2 による摂食抑制作用は、
カプサイシン前処置マウスで明らかな減弱が認められた。
このことから 2 の摂食抑制作用は、迷走神経を介した末梢性の作用機序が関与していることが推察された。Chakasaponin
II (2) について、消化管内に高濃度で存在するか確認するため, 投与一時間後の血中濃度および小腸内残存量について
LC-MS/MS 法により測定したところ、2 は投与 1 時間後においては, 血中からは低濃度でしか検出されなかった。しかし
小腸においては, 投与後1時間後においても投与量の約1/3に相当する量が回収でき, 小腸内に比較的高濃度で存在するこ
とが明らかとなった。以上の結果から、chakasaponin II (2) の作用は、消化管管腔内刺激の迷走神経求心路を介した刺激伝
達経路が関与することが示唆された。
一方、chakasaponin 類の摂食抑制作用について、胃排出能の影響を確認するため、chakasaponin I (1)、II (2) を用いてフェ
ノールレッド法による胃排出能の抑制作用の検討を行った。その結果、1 および 2 に強い抑制作用が認められた。この
作用は、カプサイシンの前処置により減弱傾向が認められ、chakasaponin 類の作用機序の一部は迷走神経を介した作用で
あることが示唆された。この結果が摂食抑制作用と一部相関したため、chakasaponin 類の摂食抑制作用には、胃排出能を
抑制する摂食抑制物質が関与していると推察された。
表 1. Chakasaponin II (2) のマウス摘出回腸におけるセロトニン分泌亢進作用
Treatment
Dose
n
(µM)
5-HT release into
the medium
(ng/g tissue)
5-HT remained in the tissue
(ng/mg protein)
(ng/g tissue)
Control
-
8
11.2±1.3
0.861±0.164
68.8±12.4
Chakasaponin II (2)
100
8
15.6±1.9
0.659±0.115
50.8± 7.6
1000
8
28.3±2.8**
0.396±0.084*
31.6±6.9*
Each value represents the mean±S.E.M. Significantly different from the control group, *p<0.05 **p < 0.01.
近年, 消化管からの迷走神経求心路を介した食欲シグナルが解明されている。食欲を抑制させる代表的なシグナルとし
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ては、セロトニン (5-HT)、グルカゴン様ペプチド-1 (GLP-1)、コレシストキニン (CCK)、およびレプチンといったものが
挙げられる。chakasaponin 類による食欲抑制にはこのようなシグナルが関与しているのではないかと考え、食欲を抑制す
るとされるシグナル伝達物質の中でも胃排出能抑制作用を併せ持つ 5-HT、GLP-1 および CCK について、 chakasaponin
II (2) が分泌に与える影響について確認した。その結果、2 はマウス摘出回腸において、5-HT の分泌を有意に亢進した
(表 1)。また、GLP-1 および CCK 分泌作用についても検討したところ、2 は有意に摂食を抑制し、摂食抑制に伴う有意
な血中 GLP-1 および血中 CCK 濃度の上昇が認められた。以上の結果から、chakasaponin II (2) は小腸から 5-HT、GLP-1
および CCK といった摂食抑制物質を分泌させ、それらが迷走神経を介した経路を経て摂食抑制を引き起こすと考えられ
た。
また、抗肥満作用に関連する作用について、得られた主要成分である chakasaponin I–III (1–3), および 5 について, 単回
投与時における血中中性脂質上昇抑制作用の検討を行った。すなわち、オリーブオイル負荷マウスにおける血中中性脂質
上昇抑制作用について検討を行った結果、1–3 は血中中性脂質の上昇抑制作用が認められた。この作用は、フラボノイド
配糖体である 5 については認められなかった (表 2)。一方, 単回投与における血糖値の吸収抑制作用が認められたため
糖質の吸収抑制も、抗肥満作用の発現に関与すると推察された。
表 2. オリーブオイル負荷マウスにおける chakasaponins I—III (1—3) および 5 の血中中性脂質上昇抑制作用
Treatment
Dose
n
Plasma TG (mg / 100 ml)
(mg / kg, p.o.)
2.0 h
4.0 h
6.0 h
Normal
6
115.5 ± 12.4**
126.7 ± 9.0**
122.9 ± 10.4**
Control
8
440.5 ± 45.2
359.4 ± 43.2
267.8 ± 37.8
Chakasaponin I (1)
25
6
435.7 ± 67.4
296.8 ± 45.2
197.7 ± 26.6
50
6
284.2 ± 9.6**
347.5 ± 27.2
257.7 ± 34.4
Normal
Control
Chakasaponin II (2)
25
50
6
8
6
6
152.4 ± 13.5**
553.8 ± 49.8
431.8 ± 49.8**
249.5 ± 31.1**
149.8 ± 15.0**
522.7 ± 44.0
436.9 ± 63.3
416.7 ± 71.2
118.5 ± 14.7*
259.8 ± 50.3
240.2 ± 24.1
390.0 ± 73.9
Normal
Control
Chakasaponin III (3)
25
50
6
8
6
6
124.0 ± 8.4**
407.2 ± 73.0
394.1 ± 81.4
214.4 ± 62.7*
_94.7 ± 8.3**
385.1 ± 71.4
300.5 ± 67.2
314.3 ± 88.2
_87.0 ± 11.3**
207.8 ± 36.1
184.8 ± 36.8
255.5 ± 60.0
Normal
Control
5
25
50
6
8
6
6
164.8 ± 20.1**
418.1 ± 54.5
469.5 ± 86.6
383.9 ± 41.8
128.0 ± 13.5**
398.6 ± 42.1
395.5 ± 114.9
444.6 ± 46.7
103.2 ± 12.0*
231.6 ± 44.0
213.6 ± 64.1
191.4 ± 33.3
Normal
Control
Orlistat (positive control)
7
91.9±9.4**
97.3±7.4**
9
440.3 ± 60.2
393.2 ± 60.1
5
7
371.3 ± 41.5
297.0 ± 67.4
10
7
203.8 ± 52.1**
160.4 ± 47.7**
Values represent the mean ± S.E.M. Significantly different from the control group, *p<0.05, **p<0.01.
90.6±9.4**
263.3 ± 45.0
171.9 ± 24.9
129.1 ± 16.6**
注:本研究は、2012 年 2 月 18 日『私立大学戦略的研究基盤形成支援事業生物分子システムに基づく創薬科学
フロンティア研究成果発表会』にてポスター発表、『Chemical Pharmaceutical Bulltin』誌 (2012 年, in press) に掲
載予定
作成日 2012 年 3 月 1 日
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-85-
-86-
-日中医学協会助成事業-
OPG 遺伝子導入へのセメント芽細胞の反応様式と歯根吸収抑制の関係
<研究者氏名・所属~共同研究者名・所属>
研究者氏名:
所属:
菅崎弘幸
東北大学病院・矯正歯科、助教
中国側共同研究代表者名:
所属:
林久祥 (Jiuxiang Lin)
Peking University School and Hospital of
Stomatology, Department of Orthodontics 、
Professor
<要旨>
Osteoprogeterin (OPG)は、破骨細胞分化因子 RANKL のデコイレセプターとして働き、破骨細胞分化
を抑制することがよく知られている。申請者らは共同研究で、OPG 遺伝子導入が歯根吸収を阻害する
ことを見いだしているが、その考えられるメカニズムである OPG 遺伝子導入による歯根表面セメント
芽細胞の活性化とセメント質再生の制御機構は不明であった。そこで本研究では、OPG 遺伝子導入し
たセメント芽細胞の分化促進制御機構を解明すべく培養細胞実験を行った。
セメント芽細胞への OPG 遺伝子導入でセメント芽細胞分化マーカー遺伝子発現が上昇することをリ
アルタイム PCR で確認した。つぎにその制御機構を解明すべくマイクロアレイ発現解析を行ったとこ
ろ、細胞内カルシウムシグナル系、細胞膜イオンチャネル系、骨芽細胞分化に関連すると報告されて
いるシグナル系 XXX の変動などが観察された。さらにセメント芽細胞をリコンビナント XXX 刺激する
ことで分化が促進された。よって OPG 強制発現により XXX シグナル上昇を介してセメント芽細胞分化
が促進される可能性が示唆された。
また、強制発現した OPG がどのような機構で上記の XXX シグナルを介したセメント芽細胞分化促進
を惹起するかを解明すべく、OPG を Bait とした免疫沈降を行い、OPG が結合する分子の同定を試みた。
RANKL 以外に分子量が 10~260 kDa の 6 バンドが観察され、それぞれを Nano LC-MS/MS によるタンパ
ク質同定を行った。現在、その情報を元にどれがキー分子であるかを検索中である。
<Key Words>
セメント芽細胞、OPG、分化促進、細胞内シグナル伝達
<本文>
緒言
Osteoprogeterin (OPG)は、破骨細胞分化因子 RANKL のデコイレセプターとして働き、破骨細胞分化
を抑制することがよく知られている(文献 1)。我々は 2009 年7月より、Department of Orthodontics,
Peking university School and Hospital of Stomatology と、矯正学的歯の移動後の後戻りに対する
OPG 遺伝子導入の抑制効果について共同研究を行っている。その共同研究の中で、OPG 遺伝子導入が歯
根吸収を阻害することを見いだしている(文献 2)が、そのメカニズムは大きく 2 つ考えられる。一つ
は OPG による破歯細胞への RANKL シグナル伝達阻害による分化・活性阻害、もう一つは OPG 遺伝子導
入による歯根表面セメント芽細胞の活性化とセメント質再生である。後者の想定しうる制御機構に関
して最近、OPG 遺伝子導入は骨芽細胞の分化を惹起するという報告(文献 3)があることから、OPG 遺伝
子導入がセメント芽細胞にも何らかの影響を与えることが強く推察される。しかしながら OPG 遺伝子
導入による歯根表面セメント芽細胞の活性化やセメント質再生の制御機構は不明である。そこで本研
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究では、OPG 遺伝子導入したセメント芽細胞の分化促進制御機構を解明することを目的として、培養
セメント芽細胞を用いた実験を行うこととした。
研究対象と方法
細胞
ヒト不死化セメント芽細胞セルライン HCEM を広島大学大学院医歯薬総合研究科口腔顎顔面病理病態
学講座、高田隆教授より供与を受けて実験に用いた。培養は、10% FBS 添加α-MEM を用いて、37°C、
5% CO 2 環境下で行った。
OPG 遺伝子導入
マウス OPG 発現プラスミド(文献 4)をヒト不死化セメント芽細胞セルラインへ X-tremeGENE HP DNA ト
ランスフェクション試薬 (ロシュアプライドサイエンス)を用いて遺伝子導入した。
RNA 抽出
OPG 発現 プ ラスミド を 遺伝子導 入 後 3 日の 時 点で細胞 か ら total RNA を抽出 し た。RNA 抽 出には
GenElute Mammalian Total RNA mini prep Kit (シグマ)を用いた。得られた RNA の一部はマイクロア
レイ発現解析に、残りは cDNA 合成とその後のリアルタイム PCR へ用いた。
cDNA 合成
抽出した RNA の濃度を測定後、1μg の RNA を iScript RT Supermix(バイオラッド)を用いて逆転写
反応を行い、cDNA を合成し以下のリアルタイム PCR へ用いた。
リアルタイム PCR
セメント芽細胞分化マーカー遺伝子発現(Dentin matrix acidic phosphoprotein 1 (DMP1), Phosphate
regulating endopeptidase homolog, X-linked (PHEX))を解析すべく、SsoFast EvaGreen Supermix (バ
イオラッド)ならびに CFX96(バイオラッド)を用いて検出を行った。各遺伝子の発現はハウスキーピン
グジーン Ribosomal protein S18 (RPS18)で補正するΔΔCt 法で相対発現比を計算した。
マイクロアレイ発現解析
セメント芽細胞 RNA を、CodeLink Human Whole genome Bioarray (フィルジェン)を用いて網羅的遺伝
子発現プロファイル解析を行った。OPG 遺伝子導入を行わないサンプルを対象群、導入サンプルを実
験群とし、対象群・実験群どちらかのシグナル強度が有為であり、かつ発現量の差が 2 倍以上のもの
を有為な変動を示した遺伝子とした。これらの変動を再確認すべく、マイクロアレイ発現解析に用い
た RNA から cDNA を合成し、それを用いてリアルタイム PCR による遺伝子発現変化を解析した。
免疫沈降
セメント芽細胞内において、OPG が結合する分子の同定を試みるべく、OPG を Bait とした免疫沈降を
行った。OPG 遺伝子導入したセメント芽細胞 whole cell lysate に、抗マウス OPG 抗体(イミュノダ
イアグノースティクス)を添加し、Protein G agarose (サーモサイエンティフィック)で OPG と結
合したタンパク質との複合体を回収した。SDS-PAGE ジェルで還元下電気泳動し、バンドの確認ならび
にジェルの切り出しと Nano LC-MS/MS によるタンパク質同定を行った。
動物実験
6 週齢 Wistar ラットの上顎第一臼歯と上顎切歯間にニッケルチタン製クローズコイルスプリング(ト
ミー)を装着し、第一臼歯へ約 60gf の近心移動力を負荷した。3週間後に装置を撤去し、歯の後戻り
を観察するとともに一部のラットへ局所的 OPG 遺伝子導入を行った。スプリング撤去から 1 週間ごと
にカルセイン溶液を腹腔内注射し、新規石灰化硬組織の生体染色を行った。また、マイクロ CT(スカ
イスキャン)をボクセルサイズ 9.5μm で 1 週間ごとに撮影し、歯根吸収の程度を解析した。装置撤去
2 週後に実験動物を屠殺し、通法に従い組織切片の作製を行った。なお、すべての動物実験手順は
Peking University Health Science Center の倫理委員会の承認を得た。
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結果
1) OPG 遺伝子導入は、セメント芽細胞分化を促進する
OPG 遺伝子導入がセメント芽細胞の分化へ与える影響を検索すべく、OPG 遺伝子導入有無でのセメン
ト芽細胞分化マーカー遺伝子発現をリアルタイム PCR で解析した。OPG 遺伝子導入でセメント芽細胞
分化マーカー遺伝子発現が有為に上昇した。現在、タンパク質レベルで分化程度の確認を行っている。
2) OPG 遺伝子導入によるセメント芽細胞遺伝子発現変化の網羅的解析
マイクロアレイ 54359 プローブ中、発現量の差が2倍以上でかつシグナル強度がある程度以上観察
された遺伝子を検索したところ、887 プローブあった。これら遺伝子を観察したところ、細胞内カル
シウムシグナル系、細胞膜イオンチャネル系などのシグナルの変動が観察された。さらに骨芽細胞の
分化に関連すると報告されている XXX シグナル系の変動も観察された。以上のことは、OPG 強制発現
により XXX シグナル上昇を介してセメント芽細胞分化が促進される可能性を示唆する。
3) XXX シグナル系はセメント芽細胞の分化に関与する
マイクロアレイ発現解析で、OPG 遺伝子導入によるセメント芽細胞分化に関わる可能性が示唆され
た XXX シグナル系のセメント芽細胞分化能を確認すべく、リコンビナント XXX をセメント芽細胞培養
系に添加し、その影響を検索した。リアルタイム PCR によるセメント芽細胞分化マーカー遺伝子発現
解析で、有為な上昇を確認した。現在、タンパク質レベルで分化程度の確認を行っている。また次年
度以降、XXX シグナル系の RNAi によるノックダウンを行い、XXX シグナル系が OPG 遺伝子導入による
セメント芽細胞分化に関わっているかどうかを検索予定である。
4) セメント芽細胞内において OPG が結合する分子同定
強制発現した OPG がどのような機構で上記の XXX シグナルを介したセメント芽細胞分化促進を惹起
するかを解明すべく、OPG を Bait とした免疫沈降を行い OPG が結合する分子の同定を試みた。還元下
状態で SDS-PAGE 電気泳動を行ったところ、RANKL(約 40kDa)以外に分子量が 10~260 kDa の範囲に 6
つのバンドが観察され、OPG と特異的に結合しうる分子が少なくとも6つあることが示唆された。次
にこれらバンドを切り出し、Nano LC-MS/MS による質量分析にてタンパク質同定を行った。Mascot デ
ータベースから推察された分子量 12,18,72kDa のタンパク質3種について、現在その発現の細胞内局
在、発現量変化、ならびにその機能阻害による影響を現在検索中である。
5) 歯周組織への局所的 OPG 遺伝子導入は、セメント質添加による歯質再生を促進する
我々はすでに共同研究の成果として、歯周組織への局所的 OPG 遺伝子導入が歯根吸収を阻害するこ
とを論文報告している(文献 2)が、そのメカニズムはまだ不明な点が残存していた。すなわち OPG 遺
伝子導入による歯根表面セメント芽細胞の活性化とセメント質再生が行われるか否かである。それを
解明すべく OPG 遺伝子導入後の吸収歯根歯質が修復される過程を、1) マイクロ CT による歯根表面吸
収窩の程度、ならびに 2) カルセイン生体染色による新規セメント質添加量の解析を行った。その結
果、OPG 遺伝子導入は歯質吸収を抑制するのみならず、新規セメント質添加を促進することが観察さ
れた。よって、in vitro の結果のみならず、in vivo でも OPG がセメント芽細胞分化ならびにセメン
ト質再生を促進する効果があることが示唆された。
考察
セメント芽細胞で OPG 強制発現を行うと、OPG が特定の分子と結合し、そのことが XXX シグナル系
の発現上昇を惹起し、それによりセメント芽細胞の分化促進とセメント質の新規添加促進が行われる
ことが示唆された。今後、1) タンパク質レベルでのセメント芽細胞分化程度の確認、2) XXX シグナ
ルノックダウンによる Loss of function 実験、3) セメント芽細胞内において OPG が結合する分子同
定とその分子の Gain of function 実験・Loss of function 実験、を行う予定であり、これらの結果
-89-
が得られ次第論文投稿を考えている。
参考文献
1. Simonet WS, Lacey DL, Dunstan CR, Kelley M, Chang MS, Luthy R, et al. Osteoprotegerin: a
novel secreted protein involved in the regulation of bone density. Cell 1997;89:309-319.
2. N Zhao, Y Liu, H Kanzaki, W Liang, J Ni, J Lin. Effects of local osteoprotegerin gene
transfection on orthodontic root resorption during retention: an in vivo Micro-CT analysis.
Orthod Craniofac Res 2012;15:10-20.
3. Yu H, de Vos P, Ren Y. Overexpression of osteoprotegerin promotes preosteoblast
differentiation to mature osteoblasts. Angle Orthod. 2011;81:100-106.
4. Kanzaki H, Chiba M, Takahashi I, Haruyama N, Nishimura M, Mitani H. Local OPG gene transfer
to periodontal tissue inhibits orthodontic tooth movement. J Dent Res 2004;83:920–925.
作成年月日
-90-
2012 年 3 月 6 日
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―日中医学協会助成事業―
「日本と中国を精通する医療ソーシャルワーカー(MSW)の人材育成に
関する研究」
研究者氏名・職名:
沈潔
教授
所属機関名: 日本女子大学人間社会学部
共同研究者名・職名:
張秀蘭
教授・学部長
所属機関名:(中国)北京師範大学社会発展と社会政策学部
要旨:
日本政府は、長期入院を伴う医療目的で日本に入国・滞在する外国人患者と、その付添人のた
めの「医療滞在ビザ」を創設することを決めた。今後、日本の高度先進医療を受けたいという中
国の富裕層の患者の来日は増加すると予想される。その人々の医療ニーズを応えるためには、医
師や看護師の役割が重要であるが、日本と中国の事情に精通する医療ソーシャルワーカーの存在
も求められる。本研究はこうした国際的通用性を有する医療ソーシャルワーカーの人材育成に当
たって、実践的な課題は何かを解明することが目的である。
研究経過:
① 上海国際会議の参加、発表及び現地調査
5 月 27 日~5 月 30 日 上海復旦大学主催の『上海論壇』に招聘され、「医療・介護専門職の
国際移動とアジア経済発展に対する影響」をテーマに研究発表し
ました。国際会議のあいまに復旦大学社会発展と社会政策学院院長の彭 希哲、
人口研究所所長の王桂新所長、ミーティングを持ちまして上海医療機関の医療
ソーシャルワークの現状などについて、意見交換しておきました。また、5 月
31 日から 6 月 1 日の間に中国社会福祉会を訪ね、上海民間福祉団体の医療福祉
人材の育成の状況について、意見交換しました。(旅費は復旦大学が負担した)
② 中国ソーシャルワーク教育の第 1 線に立つ朱眉華を迎え、講演会を開催
7 月 15 日に上海華東理工大学 ソーシャルワーク学科の教授朱眉華を迎え、
日本女子大学で中国の四川大震災とソーシャルワーク支援及び大学における医療ソーシャルワ
ーカー育成について、講演会・懇談会を行いました。福祉現場の職員、大学院や学部生の約 20
人が参加しました。
③ 9月2日~5日釜山大学国際社会保障・福祉国際会議に参加、発表(沈潔)
発表テーマ「異文化ソーシャルワーカートレーニング」を題に発表した。
④ 9 月 6 日~11 日研究調査、共同研究者との打ち合わせなど (沈潔)
北京師範大学共同研究者の張秀蘭・王振耀 教授との意見交換
北京大学医学部劉継同教授との意見交換
北京中華女子学院ソーシャルワーク学部矯楊副教授との意見交換
⑤ 2 月 24 日 神奈川県での合宿の実施 (予定7人、実施参加6人)
タイトル:東アジア少子高齢化における介護人材について
⑥ 2 月 25 日 東京ミニシンポジウムを開催
タイトル「医療・介護領域における福祉・介護人材の育成―日本の経験と中国の発信― 」
参加者:海外招聘3名(うち 1 人は家族の事情によりキャンセル)
国内招聘3名、 日本女子大学より3名(うち1人は副学長)
他大の研究者や大学院生、学部生、福祉現場の職員など約 50 名余りが参加しました。リラッ
クスした雰囲気の中、積極的な意見交換が行われ、今後の協力体制や共同の取り組みのため
の良い土台を作ることができました。
期待できる結果:
上述した実践的な課題を明らかにする研究は、今後の日中医療ビジネスの展開に当たって、教
育プログラムの提供や政策提言が可能になる。また、研究成果が、今後のアジア地域全体の医療
ソーシャルワーカーの質の向上に貢献することも期待できる。
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。
― 日中医学協会助成事業 ―
中国吉林省にて分離された Candida guilliermondii の薬剤感受性試験と播種性マウ
スモデルにおける micafungin の有用性
研究者氏名
Dongmei Jia
中国所属機関 北華大学附属病院、吉林市、吉林省、中国
日本研究期間 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 感染免疫学講座
指導責任者
教授 河野 茂
共同研究者
泉川公一、宮崎泰可
要旨
中国吉林省の医療施設で分離されたカンジダ属(Candida albicans 17 株、C. guilliermondii 8 株、C.
parapsilosis 9 株)について抗真菌薬の感受性試験を行った。微量希釈法により得られた micafungin(MCFG)
の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)は、C. albicans で最も低く、C. guilliermondii
は最も高かった。fluconazole に関して、C. guilliermondii は、C. albicans や C. parapsilosis に比較して
高い MIC 値を示した。amphotericin B に対する感受性は 3 菌種とも感受性を示し差は認められなかった。播種
MCFGを2.5mg/kg/日(低用量群)、
性 C. guilliermondii マウスモデルにおけるMCFGの治療効果を検討したところ、
25mg/kg/日(高用量群)の用量にて腹腔内投与したところ、高用量群では、腎臓、脾臓、肝臓での菌数が有意に減
少し MCFG の有効性を示した。
Key words
Candida guilliermondii, micafungin, 播種性, マウスモデル, 薬剤感受性
緒言:
カンジダ属は院内発症血流感染症の原因菌として第 4 位を占める(1)。C. albicans が重症真菌感染症の原因菌
として最も検出頻度が高い、他のカンジダ属も日和見感染症の原因微生物として重要である(1)。C.
guilliermondii は、カンジダ属の中でも稀な種であり、ヒトの粘膜表面や皮膚の細菌叢として検出され、爪白
癬の原因真菌として重要である(2,3)。C. guilliermondii は C. albicans に比較して病原性は低く、易感染性
宿主において播種性カンジダ症および深在性真菌症を引き起こす(1,2)。カンジダ血流感染症の 1-3%と低い頻度
ではあるが、地域により異なる疫学データを示す(4)。本菌感染症の臨床的な問題点は、本菌が fluconazole
(FLCZ)やキャンディン系抗真菌薬に対して低感受性であることである(4-6)。FLCZ 耐性 C. guilliermondii に
よる骨髄炎の症例では、
FLCZ の400mg/day 治療は無効で、
罹患部位の切断が必要になったと報告されている(7)。
キャンディン系抗真菌薬は、カンジダ症およびアスペルギルス症に使用される抗真菌薬であり、高いタンパク結
合率を有する(8)。C. guilliermondii 感染症における MCFG の感受性や活性については報告が少ない。そこで、
C. guilliermondii に対して MCFG、
FLCZ、
AMPH-B の薬剤感受性試験を行い、
MCFG の C. guilliermondii
本研究では、
に対する臨床的効果を in vivo で検討した。
材料と方法:
①カンジダ臨床分離株
中国吉林省の医療施設で分離されたカンジダ属(C. albicans 17 株、C. guilliermondii 8 株、C. parapsilosis
1
-97-
9 株)
、ならびに標準株として C. parapsilosis(ATCC90018)
、C. krusei(ATCC6258)を用いた。すべての臨床
分離カンジダ株は、口腔内、爪、大腿から分離された。すべてのカンジダ株は、CHROMagar(関東化学)と
RapIDTmYeast プラグシステム(REMEL Inc)によって菌種を同定した。
②薬剤感受性試験
薬剤感受性試験は、Clinical and Laboratory Standards Institute の M27-A2 標準法による微量液体希釈法に
て行った(9)。MCFG、FLCZ、AMPH-B の最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration: MIC)を測定し
た。
③感染実験
5 週齢の雌 BALB/c マウス(日本クレア株式会社)を用いた。マウスの取り扱いについて、American Association
for Accreditation of Laboratory Animal Care criteria に基づいて行った(10)。また、本研究は、長崎大学
の動物実験倫理委員会の承認を得て行われた。マウスは、200 mg/kg の cyclophosphamide(Sigma-Aldrich)と
250 mg/kg の酢酸コルチゾン(Sigma-Aldrich)を、カンジダ感染の 2 日間前に腹腔内投与し、さらに感染当日
にも等量の免疫抑制剤を投与し免疫抑制状態にした。臨床分離 C. guilliermondii は、感染前日まで YPD 液体培
地(Becton Dickinson)で 30℃、一晩、振とう培養した。感染当日に、対数期の細胞を滅菌生理食塩水にて再
懸濁、洗浄し、吸光度計にて 2×108/ml に調整した。マウスの尾静脈より本菌液の 0.2ml を経静脈的に接種した
。MCFG による治療は、MCFG を 2.5 mg/kg ならびに 25 mg/kg を感染当日の感
(最終接種菌量: 4×107/ マウス)
染後 4 時間後、その後、1 回/1 日、連日 7 日間、腹腔内投与した。対象として生理食塩水を腹腔内投与した。マ
ウスは、7 日間観察され 7 日目に屠殺した。屠殺後に、脾臓、腎臓、肝臓を無菌的に除去し、脾臓と腎臓は滅菌
生理食塩水 1ml 中でホモジナイズした。肝臓は、滅菌生理食塩水 0.2 ml 中でホモジナイズした。ホモジネート
液の段階希釈液を作成し YPD 寒天培地(Becton Dickinson)上に塗布し、35℃でインキュベート、各臓器におけ
るカンジダの菌数を計算した。感染実験は各治療群 10 匹ずつ使用し 1 回のみ行った。
④統計分析
動物実験における各臓器の菌数について、GraphPad Prism、バージョン 5.0(グラフパッドソフトウェア社)を
用いて行った。P<0.05 を統計学的に有意差があるとした。
結果:
①カンジダ属の薬剤感受性試験結果
表 1 に結果を示す。MCFG の MIC は C. albicans で最も低く、C. guilliermondii は最も高かった。FLCZ につい
て C. guilliermondii は、C. albicans や C. parapsilosis に比較して高い MIC 値を示した。AMPH-B に対する感
受性は 3 菌種で差は認められず感受性を示した。
②感染実験と MCFG の有効性
、図2(腎臓)
、図3(肝臓)に示す。
臨床分離 C. guilliermondii の各臓器からの検出菌数を、図1(脾臓)
高用量 MCFG 治療群では、脾臓を除いて腎臓、肝臓において菌数を有意に減少させた。
考察:
本研究では、中国吉林省の臨床分離カンジダ 34 株について、FLCZ、AMPH-B、MCFG に対する薬剤感受性を検討し、
特に C. guilliermondii についてマウスにおける MCFG の有用性を検討した。薬剤感受性の結果は、欧米から報
告されている種々の報告と比較して大きな差は認められなかった(11,12)。今回の検討では、カンジダの分離株
としては比較的少ない C. guilliermondii が多く認められたが、いずれも、FLCZ の MIC 値は高値であり、この
点についても既存の報告と大差はなかった(2,13)。MCFG について、今回検討した 3 菌種では、C. guilliermondii
が最も高い MIC 値を示した。一方、Canton らは 10%不活化ウシ胎児血清の存在下で、C. guilliermondii19 株
に対する MCFG とカスポファンギン(CAS)の感受性を報告しており、MCFG はウシ胎児血清存在下で感受性が非
存在下よりも 3 倍程度向上したと報告している。一方、CAS にはそのような効果は認められず、同じキャンディ
2
-98-
ン系抗真菌薬でも差があることを示している(14)。また、他の報告でも、同様に、血清存在下における MCFG の
感受性向上が報告されている(8)。一方、C. guilliermondii 感染症に対する MCFG の効果を in vivo で検討した
報告は少ない。今回の我々の検討では、MCFG は 2.5mg/kg の低用量では、肝臓、脾臓、腎臓における菌数の減少
が認められなかったが、25mg/kg の高用量群では、脾臓を除いて、有意に菌数の減少を認め C. guilliermondii
感染症における MCFG の有効性を示すことができた。なお、MCFG の高用量群にて、脾臓における菌数の減少傾向
は認められたが有意差は認められなかった。この点については、理由は不明であり今後の検討が待たれる。
参考文献:
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geographic and temporal trends from the ARTEMIS DISK antifungal surveillance program. J Clin Microbiol.
2006 Oct;44(10):3551-6.
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3
-99-
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and amphotericin B against Candida guilliermondii. Antimicrob Agents Chemother. 2006 Aug;50(8):2829-3
表1.中国吉林省にて分離されたカンジダ属の薬剤感受性試験結果
Candida
Species
Geometric mean MIC (range) (μg/ml)obtained by:
No
MCFG
FLCZ
AMPH-B
17
0.07(0.03-0.5)
1.21(0.125-16)
0.63(0.25-1)
C. guilliermondii
8
0.44(0.25-0.5)
13.5(4-32)
0.56(0.5-1)
C. parapsilosis
9
0.37(0.06-1)
1.39(0.5-2)
0.67(0.25-1)
C. albicans
図の説明
図1.播種性 C. guilliermondii 感染マウスモデルにおける MCFG の効果(脾臓における菌数)
各ドットは各マウス.から分離された C. guilliermondii の菌数を示している。MFG 2.5 は、MCFG 2.5mg/kg/日
投与群、MFG25 は MCFG 25mg/kg/日投与群を示す。脾臓から分離された C. guilliermondii の菌数は、生理食塩
水投与群、MCFG 投与群において有意差を認めなかった。
図2.播種性 C. guilliermondii 感染マウスモデルにおける MCFG の効果(腎臓における菌数)
各ドットは各マウスから分離された C. guilliermondii の菌数を示している。MFG 2.5 は、MCFG 2.5mg/kg/日投
与群、MFG25 は MCFG 25mg/kg/日投与群を示す。腎臓から分離された C. guilliermondii の菌数は、生理食塩水
投与群、MCFG 低容量群では有意差を認めなかったが、MCFG 高用量群では有意に減少した。
図3.播種性 C. guilliermondii 感染マウスモデルにおける MCFG の効果(肝臓における菌数)
各ドットは各マウスから分離された C. guilliermondii の菌数を示している。MFG 2.5 は、MCFG 2.5mg/kg/日投
与群、MFG25 は MCFG 25mg/kg/日投与群を示す。肝臓から分離された C. guilliermondii の菌数は、生理食塩水
投与群、MCFG 低容量群では有意差を認めなかったが、MCFG 高用量群では有意に減少した。
4
-100-
図1.播種性 C. guilliermondii 感染マウスモデルにおける MCFG の効果(脾臓における菌数)
図2.播種性 C. guilliermondii 感染マウスモデルにおける MCFG の効果(腎臓における菌数)
図3.播種性 C. guilliermondii 感染マウスモデルにおける MCFG の効果(肝臓における菌数)
作成日:2012 年 2 月 25 日
5
-101-
-102-
-103-
-日中医学協会助成事業-
抗ヒスタミン薬含有点眼剤使用後における脳内ヒスタミンH1受容体占拠
率の評価:健常者における陽電子断層撮影法(PET)測定
研究者氏名
張冬穎
中国所属機関
中国医科大学付属病院麻酔科
日本研究機関
東北大学医学系研究科機能薬理学分野
指導責任者
共同研究者名
教授谷内一彦
渋谷勝彦,田代学
要旨:
Topical antihistamines are probably the best treatment option for various ocular allergies, thanks to their
rapid action, safety and convenience of use. As the oral antihistamines are known to produce drowsiness,
the present study was conducted to assess the possible influence of two antihistamine eye-drops, 0.05%
ketotifen (Zaditen®) and 0.1% olopatadine (Patanol®), on the central nervous system (CNS) by
measuring brain histamine H1 receptor occupancy (H1RO) using positron emission tomography. Eight
healthy adult subjects are recruited and a PET scan was performed 1.5 hr after 4 repeated local instillation
of eye-drops (2 drops per eye, 30 min-interval) in a single-blind, placebo-controlled, crossover manner.
H1RO were calculated in several H1R-rich cortical regions. We found that the H1RO following ketotifen
treatment is more than 20% and that following olopatadine was nearly zero. Our results provides the
evidence for the first time that the first-generation antihistamine eye-drop, ketotifen, may potentially
induce central sedation with higher doses, while olopatadine has no CNS influence, though the central
side-effects have been rarely documented in the case of topical medications.
Key Words
olopatadine; Ketotifen; histamine H1 receptor occupancy; positron emission tomography (PET); crossover
study.
緒言:
Allergic conjunctivitis is a frequent condition as it is estimated to affect 20% of the population on an
annual basis, with individuals in Italy, Japan, and other warm climates being more likely to have these
conditions. Topical ophthalmic anti-allergy agent, antihistamine is now the first-line treatment option
thanks to their rapid action, safety and convenience of use. However, recently years, with the
improvement of the safety conscience regarding the drugs, sedation side-effect of Topical administration
of antihistamine eye- or nasal- drops began to raise our attention. Topical administration of antihistamine
induces subjective drowsiness in some users though objective evidence is still not available.
Oral or intravenous antihistamines were known to induce sedation, by blocking brain histaminergic
system trough H1 receptors or other non-specific bindings. The sedative degree depends on the ability of
-104-
antihistamine in the circulation to penetrate blood-brain-barrier (BBB) and entered into the brain. In
recent decade, researchers began to evaluate the sedative property of antihistamines using a more
objective method, positron emission tomography (PET), by measuring brain H1RO. The more drug enters
brain, the more H1 receptors should be occupied and thus induce sedation. H1RO has been approved to as
an index to reflect the sedation with the advantages of objectivity and quantify over the traditional method
such as questionnaires or performance tasks. We therefore speculate that whether the sedation side effect
of eye-drop also related with their occupying H1RO in the brain. However, up to date, no study has been
conducted regarding the central receptor occupying degree following topical administration of histamine
eye-drops.
We designed a randomized, single-blind, placebo-controlled, crossover study and measured the brain
histamine H1RO following the local instillation of two commercially marked antihistamine eye-drops,
ketotifen and olopatadine using PET and
11
C-doxepin. We aimed to compare and assess the possible
sedative outcome of topical eye-drops in a point of view of molecular imaging, and to provide the doctors
and patients information that might be useful in their guiding using or receiving such medications.
対象と方法:
Seven healthy Japanese volunteers (male, mean age ± SD: 23.1 ± 1.6 years) without history of allergy
or any psychiatric diseases or of long-term taking H1 antagonists, participated in this study. They showed
no abnormality in brain magnetic resonance images (MRI). Drugs that might affect histamine response
(such as sleep-aids, antidepressants or mast-cell stabilizers) were not allowed at least for 1 week prior to
the study. Caffeine, tea, alcohol or grape juice was not allowed on the experiment day. This study was
approved by the Ethics Committee on Clinical Investigation at Tohoku University School of Medicine
and was performed in accordance with the policy of the Declaration of Helsinki. Informed consent was
obtained from all the participants.
Each subject was randomly assigned to the treatment of 0.05% ketotifen (Zaditen® eye-drop, Novartis
Pharma Corporation, Tokyo, Japan), 0.1% olopatadine (Patanol® eye-drop, Alcon, Inc, Tokyo, Japan) or a
placebo (0.5% tranilast, Rizaben®, a mast-cell stabilizer, Kisei Pharma, Matsumoto, Japan) in a
single-blind, crossover manner. The minimum washout period is 7 days. On the experiment day, the
antihistamine-containing eye-drops or placebo, were instilled into both eyes of the subject (2 drops each
eye with 5 min-intervals between each drop). Then the subject was asked to keep quiet in a supine
position until the drug was adequately absorbed. Such instillation process would be repeated for 4 times
with a 30 min break inserted (eg, around 0`, 30`, 60`. 90` after the first ocular instillation). During the
break time, light music or walking in the room was permitted but reading or strenuous exercise was not.
The label of the eye-drop was removed during the experiment to keep the subject blind to it. All the
eye-drops were obtained commercially. After the fourth ocular instillation, subject was showed into the
PET room and 11C-doxepin-containing saline was injected intravenously. PET scan commenced about 70
-105-
min later with a SET2400W PET scanner (Shimadzu Co., Kyoto, Japan) according to our previous
established static PET protocol. This protocol included a 15-min-long three-dimensional mode emission
scan (70-85 min post 11C-doxepin-injection) and a 6-min-long transmission scan thereafter.
In this study, one subject missed ketotifen-PET examination for irresistible personal reasons; two PET
data (following ketotifen and placebo treatment, respectively) of another two subjects was eluted because
of the low specific radioactivities of 11C-doxepin below 20 GBq/μmol at the time of injection. Thus the
sample sizes reduced to 5 for ketotifen and 6 for placebo, respectively, in our PET analysis.
Just prior to each time of ocular instillation (at 0`, 30`, 60`. 90` after instillation), subjective sedation
was assessed by Line Analogue Rating Scale (LARS) and Stanford Sleepiness Scale (SSS). The LARS
measurement assesses the sedation using a line scaled from 0, no sedation to 100, most marked sedation;
SSS is composed of a 7 level self-report measure from feeling fully alert, level 1 to sleep onset soon, level
7. Subjects were asked to mark their present feelings on the line, and also select a statement to reflect
their current level of alertness and sleepiness.
結果:
1. Brain distribution of 11C-doxepin
After 11C-doxepin injection, the
radioligand was found apparently
accumulated in H1R-rich cortical
regions, such as ACG and PCG, PFC,
IC, LTC and MTC, PC, and OC. In
the subjects treated with olopatadine
or placebo, the 11C-doxepin
distribution patterns and intensity
were similar. However, in the subject
treated with ketotifen, radioactivity
distribution appeared much lower than that in olopatadine or placebo (Figure). 11C-doxepin, an
H1-antagonist, is known to compete with antihistamines for H1R binding cites in the brain, which reflects
inverse-proportionally the amount of antihistamines in the brain. Ketotifen-treated subjects appeared
much lower specific binding of 11C-doxepin compared with placebo- or olopatadine-treated subjects,
suggesting that more ketotifen have entered into the brain instead.
2. Comparison of parametric of BPR images (Ketotifen vs. Olopatadine)
The parametric brain BPR images following treatment with ketotifen or olopatadine, were compared
statistically on a voxel-by-voxel basis with those following treatment with the placebo using SPM5. In the
ketotifen-treated subjects, ACG, PFC, PC, TC demonstrated significantly lower BPRs than those of the
-106-
placebo-treated subjects. Table 1 shows the detail coordinate information of these regions. In contrast,
SPM5 analysis could not detect any area with significant lower BPR in the olopatadine-treated subjects
than in the placebo-treated subjects.
3. ROI-based comparison of BPR and H1RO
BPR in the different ROIs revealed significantly lower values in the case of ketotifen than in the case
of olopatadine or the placebo in almost all the cortical regions studied except IFC and MTC (P < 0.01).
No significant difference between olopatadine and the placebo was detected. H1RO following ketotifen or
olopatadine treatment was calculated considering the H1RO after placebo treatment as baseline (0%).
H1ROs following ketotifen treatment were significantly higher than those following olopatadine treatment
in all cortical regions studied. The mean H1RO across all the cortical regions following ketotifen
treatment was approximately 45.7% and that following olopatadine treatment was approximately -1.83%.
The difference between mean cortical H1RO following treatment with ketotifen and olopatadine was
statistically significant.
3. Subjective sleepiness and their correlation with H1RO
Individual subjective sleepiness is represented by the average scores of LARS and SSS data measured
at approximately 0`, 30`, 60` and 90` min post-ocular illustration. Non-parametric analysis of
Kruskal-Wallis test followed by Dunn`s multiple comparison failed to demonstrate statistical difference in
sleepiness among the subjects treated with ketotifen, olopatadine or the placebo. Correlation analysis
demonstrated that subjective sleepiness, as represented by area under the curve (AUC) of LARS
measurement, showed moderate positive correlation (r = 0.48) with mean cortical H1RO in the ketotifen
treated subjects, but this correlation was not significant (P = 0.16). On the other hand, sleepiness did not
correlate with H1RO in the case of olopatadine.
考察:
The primary aim of this study was to provide quantitative evidence via molecular imaging using
11
C-doxepin-PET on whether and to what extent the sedative effect happen in healthy subjects after
anthistamine eyedrop instillation. We also compared this sedative effect of ketotifen with that of a
second-generation antihistamine, olopatadine, which has been demonstrated to be a non-sedative. To the
best of our knowledge, the present study is the first to verify the sedative effect using a direct measure of
central occupancy with PET in human subjects. We found that the radioactivity distribution of the PET
tracer, 11C-doxepin, in subjects treated with ketotifen after instillation was much lower than that in
olopatadine- or placebo-treated subjects. From this we know that ketotifen blocked a greater proportion of
H1Rs than olopatadine or placebo did at the time point examined. We confirmed these differences in terms
of BPRs using both voxel-by-voxel and ROI-based comparison. As a result, most H1R-rich brain regions
demonstrated significantly lower BPRs in the ketotifen -treated subjects. On the other hand, there was no
difference in BPRs between subjects treated with olopatadine and those treated with placebo. H1RO of
-107-
ketotifen and olopatadine using H1RO of each subject after placebo treatment as a baseline. Ketotifen and
olopatadine H1ROs at 12 h after dosing were 45% and 17%, respectively. In conclusion, topical
instillation of ketotifen results in a predominant residual sedative effect, due to which high alertness
demanding activities, such as driving, should be avoided, whereas the non-sedative olopatadine may have
advantages over the first-generation antihistamines in the treatment of allergic conjunctivitis.
注:本研究は、2011年8月7~9日『第5回日中薬理ジョントミーティーング』にて口演発表。
作成日:2012 年 3 月 15 日
-108-
-109-
-110-
-日中医学協会助成事業 ̶
心房筋特異的遺伝子欠損法の開発と応用
研究者氏名: 焦 其彬
日本研究機関: 早稲田大学 先端生命医科学 研究員
指導責任者: 教授南沢 享 共同研究者: 岩崎 清隆, 中井 岳
要 旨:
時空間条件付き遺伝子欠損法、いわゆるコンディショナルノックアウトは、非常に強力な分
子生物学的研究手法であり、心臓研究においても、心筋特異的遺伝子欠損法により多くの新し
い知見が得られている。しかしながら、心房筋特有の分化過程・機能・病態を調べる上で、心
房筋特異的な遺伝子欠損法の開発は重要であるにも拘わらず、現在までその開発は進んでいな
い。我々の研究室では、筋小胞体膜蛋白のひとつで、筋小胞体カルシウム ATPaseの活性を制御
する sarcolipin が、心臓では心房筋に特異的に発現していることを利用し、sarcolipin 遺伝子
座に Cre リコンビナーゼ遺伝子を挿入し、Cre リコンビナーゼ knockin̶sarcolipinknockout マ
ウスを作成することによって、心房筋特異的遺伝子欠損法を開発した。本研究では、本マウス
を使って心房筋特異的遺伝子欠損を行うことの有用性を検証することを目的とする。
現在まで心房は心臓のポンプ機能の側面からは補助的な役割しかなく、そのために心房筋自
体の発生・分化の過程や心室筋との機能的相違をもたらす分子機序に関しては十分に調べられ
てきたとはいえない。こうした基礎的検討が未熟なために心房に特有の病態解明に関しても不
明な点が多く残されている。本研究によって、Cre リコンビナーゼ knockin̶sarcolipinknockout
マウスが、心房筋特異的な遺伝子欠除を生じさせるための分子道具として、利用されてゆけば、
心房筋特有の分化過程・機能・病態の分子機序の解明に大きく貢献できると考えている。特に
将来的には心房細動の分子機序の解明につなげてゆくことを目標としている。心房細動は臨床
上、最も一般的に見られる不整脈であり、人口の約1%が罹患しているとされ、心房筋特有の
病態である。このマウスを利用することで、心房筋特異的に各種のイオンチャネル欠損マウス
の作成が可能となり、病態を詳細に解明し、新しい治療法の開発につなげてゆくことが出来る
のではないかと考えている。
KeyWords マウス, 心房筋, 遺伝子欠損法, 心機能,westernblot
緒 言:
1背景
組織特異的遺伝子発現を利用して、ある組織・器官に限局して目的の遺伝子を欠損させる技
-111-
術(時空間条件付き遺伝子欠損法)は、非常に強力な研究手法である。心臓研究においても、
心筋特異的遺伝子欠損法により多くの新しい知見が得られている。しかし現在まで心房筋特異
的な遺伝子欠損法の開発は進んでいない。心房筋と心室筋とは各々異なる構造及び機能特性を
有し、心房細動など心房筋に特有な病態が存在する。心房筋特有の分化過程・機能・病態を調
べる上で、心房筋特異的な遺伝子欠損法の開発は必須である。我々は先行研究において、筋小
胞体膜蛋白のひとつで、筋小胞体カルシウム ATPaseの活性を制御する sarcolipin が、心臓で
は心房筋に特異的に発現していることを見出した(Minamisawaetal.JBiolChem,2003)。
DNA マイクロアレイを用いた他の研究などによっても、sarcolipin の心房筋特異的な発現は確
認されている (CircRes93:1193-201,2003;PhysiolGenomics12:53-60,2002)。心房、
心室での収縮機能の相違をきたす大きな原因のひとつに筋小胞体でのカルシウム調節が重要
であり、sarcolipin による筋小胞体カルシウム ATPase 制御が心房筋の収縮特性を特徴づける
のに重要な役割を果たしていることが示唆されている。そこで我々はハーバード大学 Chien 博
士との共同研究のもと、sarcolipin 遺伝子座に Cre リコンビナーゼ遺伝子を挿入し、Cre リコ
ンビナーゼ遺伝子が sarcolipin 発現部位に特異的に発現するような、Cre リコンビナーゼ
knockin̶sarcolipinknockout マウスを作成した。
2.当該分野における本研究の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義 現在まで心房筋特異的な遺伝子欠損・導入法の開発は進んでいないため、本研究において、
Cre リコンビナーゼ knockin̶sarcolipinknockout マウスの利用が心房筋特異的な遺伝子発現
を行う方法として確立出来れば、世界で初めて利用可能なものを示すことになる。sarcolipin
以外にも心房筋特異的発現を示すと考えられている分子はあるが、その殆どが心肥大や心不全
などの疾患時に、心室筋への発現が増加する問題点を有している。例えば、心房性ナトリウム
利尿ホルモン(ANF)は心房筋特異的に発現することが知られており、実際そのプロモーター
はクローニングされ、発現実験に利用されている。しかし ANF は心肥大などストレスによって、
心室筋に発現が誘導され、心負荷の分子マーカーとして利用されている。この点、sarcolipin
はこうした病態時にも心室筋への発現は殆ど認められないため、心房筋特異性が極めて高く、
心房筋特有の分化過程・機能・病態を調べるための分子道具として、利用価値が極めて大きい
と考えられる。
さらに本研究において、Cre リコンビナーゼ knockin̶sarcolipinknockout マウスの表現型
を詳細に検討することによって、sarcolipin 分子自体の心房での役割を明らかにすることが可
能となる。sarcolipin は筋小胞体カルシウム ATPase の活性を制御し、心房筋の収縮特性を特
徴づけるのに重要な役割を果たしていることが想定されているが、sarcolipin が個体において、
心房機能をいかに制御しているかに関しては、不明のままである。sarcolipinknockout マウ
スによる解析はその最も直截的な証明となると考えられる。
対象と方法:
Cre リコンビナーゼ knockin̶sarcolipinhetと knockout マウスを使って心房筋特異的遺
-112-
伝子欠損を行うことの有用性を検証するため、以下の詳細な解析を行う。
1)Cre リコンビナーゼ knockin 効果の確認
我々の研究室では、既に Cre リコンビナーゼによる組換えによって、蛍光色素 YFP を
発現するマウスを米国 Jackson 研究所から購入をしており、このマウスと Cre リコンビナーゼ
knockin̶sarcolipinknockout マウスとを掛け合わせて、心臓発生段階における心房筋での YFP
発現時期とその様式を詳細に観察する。これによって、心房発生のどの時期から、sarcolipin
が発現し、心房特異的な遺伝子欠損が可能となるのかを検証する。
2)sarcolipin ヘテロ欠損による心機能への影響の有無 野生型マウスと比較して、sarcolipin ヘテロマウスでの心機能や心房筋機能・心房形態
に異常がないかを調べる。すなわち、本マウスを心房筋特異的遺伝子欠損を生じさせるために
使用する場合、一方の遺伝子座は少なくとも sarcolipin ヘテロ欠損となる。従って、sarcolipin
ヘテロ欠損によって、既に心房筋に異常を生じてしまうと、本マウスを心房筋特異的遺伝子欠
損法を行うための分子道具として使用するには大きな制約が生まれてしまう。そこで平成 22 年
度においては、生物学研究法によって、sarcolipin ヘテロマウスでの心機能や心房筋機能・心
房形態に異常がないかを調べる。
結 果:
1.心室と心房筋の重量
普通マウスと sarcolipin 遺伝子欠損マウスの左心室、右心室、左心房、右心房の重量ー体重比
が変化していない。
2.心機能
普通マウスと sarcolipin 遺伝子欠損マウスの心機能指標(FS)は変化がしていない。心室壁の
厚さも変化がない。
3.心肥大
sarcolipin 遺伝子欠損マウスの心肥大の指標(ANP,BNP,MHC)の発現が増加していない。
4.Ca2+ハンドリング蛋白の変化
sarcolipin 遺伝子欠損マウスでは SERCA2,PLN,RyR2、CSQ、NCX1 等の Ca2+ハンドリング蛋白の
変化を認められない。
5.テレメトリー解析
sarcolipin 遺伝子欠損マウスでは交感神経と副交感神経の指標(LF、HF、SDNN 等)が変わって
いない。
-113-
考 察:
本研究の結果から見ると、若時時期には sarcolipin 遺伝子欠損マウスでは心機能が変わって
いないことが分かりましたが、高齢になったら、心機能が変わるかどうか、まだ分からない状
態になっている。将来は18月の高齢マウスを用いて、sarcolipin 遺伝子欠損マウスの心房筋
特有の機能・病態を調べることを考えている。
参考文献:
1. Minamisawa S, Wang Y, Chen J, Ishikawa Y, Chien KR, Matsuoka R. Atrial Chamber-specific
Expression of Sarcolipin Is Regulated during Development and Hypertrophic Remodeling. J Biol
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cardiac dysfunction due to decreases in SERCA2a expression and activity. Cell Calcium. 2012
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5. Jiao Q, Bai Y, Akaike T, Takeshima H, Ishikawa Y, Minamisawa S. Sarcalumenin is essential for
maintaining cardiac function during endurance exercise training. Am J Physiol Heart Circ Physiol.
2009 Aug;297(2):H576-82. Epub 2009 Jun 5.
作成日:2012 年 3 月 12 日
-114-
-115-
-116-
-日中医学協会助成事業-
頭頚部癌における HPV の役割及び SCCA と予後に関する研究
研 究 者氏名 鄧
澤義
中国所属機関 中国広西医科大学耳鼻咽喉科
日本所属機関 琉球大学大学院医学研究科耳鼻咽喉頭頚部外科
指 導 責任者 教授
鈴木 幹男
共同研究者名 長谷川昌宏, 又吉 宣,山下
懐,上原貴行
喜友名朝則,安慶名信也,真栄田裕行
要旨
To clarify the synergistic influence of HPV status and SCCA mRNA expression on HNSCC
prognosis, HPV DNA presence and SCCA1 and SCCA2 mRNA expression were determined by
polymerase chain reaction (PCR) and quantitative real-time reverse transcription-PCR,
respectively, in 121 patients with primary HNSCC who were receiving curative treatment.
Positive HPV status showed a significantly better prognosis than negative HPV status (P
= 0.022). An elevated SCCA2/SCCA1 mRNA ratio was an independent predictor of disease
recurrence (P = 0.007). Although no significant correlation between HPV status and the
SCCA2/SCCA1 mRNA ratio was observed, HPV-negative patients with a high SCCA2/SCCA1 mRNA
ratio (>0.27) had a significantly lower survival rate compared with HPV-positive patients
and those with a low SCCA2/SCCA1 mRNA ratio (P = 0.001). Our findings revealed that both
HPV status and the SCCA2/SCCA1 mRNA ratio are independently associated with prognosis in
HNSCC. Patients with both a HPV-negative status and a high SCCA2/SCCA1 ratio may need more
aggressive treatment and rigorous follow-up after treatment because of the high risk of
recurrence.
Key words human papillomavirus; squamous cell carcinoma antigen; disease prognosis; head
and neck squamous cell carcinoma
緒言
During the last decade, the strongest correlation between human papillomavirus (HPV)
and head and neck squamous cell carcinoma (HNSCC) has been found in oropharyngeal squamous
cell carcinoma, particularly tonsillar carcinoma, with HPV DNA present in up to 70% of
studied patients.1-3 Furthermore, many studies have demonstrated that patients with
HPV-positive oropharyngeal carcinoma have a better prognosis than HPV-negative
oropharyngeal carcinoma.1 Nevertheless, there are few reports regarding the relationship
-117-
between HPV presence and other prognostic factors in patients with HNSCC. Squamous cell
carcinoma antigen (SCCA) is a member of the family of serine protease inhibitors that map
to the serine protease inhibitor (serpin) cluster at chromosome 18q21.3.4 Molecular
studies have demonstrated that SCCA is transcribed by two almost identical genes (SCCA1
and SCCA2). In previous studies, the correlation between prognosis and SCCA mRNA expression
in the uterine cervix and head and neck has also been investigated.5-7 To clarify the
synergistic influence of HPV status and SCCA on HNSCC prognosis, the present prospective
study employed polymerase chain reaction (PCR) for HPV DNA detection and quantitative
real-time PCR for SCCA1 and SCCA2 mRNA expression in patients receiving radical treatment.
対象と方法
One hundred and seventy-two patients with HNSCC provided written informed consent before
being enrolled into this prospective study. Demographic and clinicopathologic parameters
for each patient were collected at scheduled intervals during the follow-up period. After
isolating DNA from the clinical fresh-frozen samples, the presence of HPV DNA was analyzed
by PCR using the general consensus primer sets GP5+/GP6+ and MY09/11. Positive PCR products
were purified and directly sequenced. Obtained sequences were aligned and compared with
those of known HPV types in the GenBank database using the BLAST program.
cDNA was synthesized from DNA-free total RNA after total RNA was isolated from frozen
samples of HNSCCs. To estimate SCCA1 and SCCA2 genes expression, quantitative real time-PCR
was performed with the ABI Prism 7300 Sequence Detection System and TaqMan PCR Master Mix
II. Primers and TaqMan probes were used as previously described.7 Two standard curves for
the SCCA1 and SCCA2 genes were generated by amplification of serial 10-fold dilutions of
a plasmid pDNR-LIB carrying SCCA1 and SCCA2 cDNA, respectively. A linear relationship was
found between the threshold cycle values plotted against the log of the copy number over
the entire range of dilutions. For precise quantification, the SCCA1 and SCCA2 mRNA
expression level of each sample was normalized using the expression of the β-actin gene.
The quantitative value of SCCA1 or SCCA2 mRNA was described as each value relative to β
-actin mRNA (relative signal intensity, e.g. RSI: value of 100,000 × SCCA/β-actin).
A Mann-Whitney U-test or Kruskal-Wallis test for continuous variables and Pearson’s
Chi-square test or Fisher’s exact test for dichotomous variables were used to compare
patients with and without mutations at baseline. Survival curves were estimated according
to the Kaplan-Meier method, and survival distributions were compared using the log-rank
test. Multivariate analysis for recurrence-free survival and disease- specific survival
were performed using the Cox proportional hazards model. Analyses were performed using
the SPSS statistical package.
-118-
結果
Prevalence of HPV in HNSCC
Of the 172 registered patients, 38 were excluded from the study, since they did not meet
eligibility criteria. The remaining 121 patients were eligible for investigation. The
prevalence of HPV DNA in HNSCC was 28.1% (34/121). HPV DNA was most frequently observed
in the oropharynx (18 of 38 cases, 47.4%). The palatine tonsil was the most common site
in the oropharynx infected by HPV (15 of 22 cases, 68.2%). Among HPV-positive HNSCC samples,
29 (85.3 %) were infected with HPV-16 and the others were infected with non-16 high-risk
types, in particular, 2 with HPV-33, 1 with HPV-35, and 2 with HPV-58. There were no cases
of HPV-18, and no multiple HPV infections were detected.
Quantitative analysis of SCCA1 and SCCA2 mRNA expression in HNSCC
Each expression of SCCA1 and SCCA2 mRNA in HNSCC was significantly higher than that in
non-malignant tissue (P < 0.001 and P < 0.001, respectively), shown in Figure 1-A. HNSCC
had a significantly higher value than non-malignant tissue for the SCCA2/SCCA1 mRNA ratio
(P < 0.001, Figure 1-B). SCCA2 expression in samples with a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio
was significantly increased and 3-fold higher than samples with a low SCCA2/SCCA1 mRNA
ratio (median 2.10 × 102 vs 6.59 × 10, P = 0.001).
(Figure 1)
Prognosis in relation to HPV DNA presence and the SCCA2/SCCA1 mRNA ratio
1) Impact of HPV DNA presence and SCCA2/SCCA1 mRNA expression ratio, respectively, on
prognosis
Kaplan-Meier analysis revealed that patients with HPV-positive HNSCC had better
recurrence-free survival than patients with HPV-negative HNSCC (P = 0.022, Figure 2-A).
-119-
Of the various primary lesions, HPV-positive patients with oropharyngeal carcinoma had
better recurrence-free survival than HPV-negative patients with oropharyngeal cancer (P
= 0.037, Figure 3-A). Patients with a low SCCA2/SCCA1 mRNA ratio (≤0.27, n = 47) had better
recurrence-free survival than patients with a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio (>0.27, n = 74)
(P = 0.027, Figure 2-B).
(Figure 2)
2) Synergistic relationship between HPV presence and SCCA2/SCCA1 mRNA ratio in
recurrence-free survival
HPV-negative patients with a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio had significantly lower
recurrence-free survival compared with both HPV-positive patients and HPV-negative/low
SCC2/SCCA1 ratio patients (P < 0.001, Figure 2-C). In oropharyngeal carcinoma,
HPV-negative patients with a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio also had a significantly decreased
recurrence-free survival compared with HPV-positive patients or with those with a low
SCCA2/SCCA1 mRNA ratio (P = 0.024, Figure 3-B) The final model of multivariate analysis
using a Cox proportional hazards model for identification of independent risk factors of
recurrence-free survival of HNSCC showed that female gender (P = 0.044; adjusted HR = 2.83;
95% CI = 1.03-7.78), advanced T stage (P = 0.020; adjusted HR = 2.56; 95% CI = 1.16-5.66),
-120-
HPV-negative status (P = 0.005; adjusted HR = 5.97; 95% CI = 1.71-20.87), and a high
SCCA2/SCCA1 ratio (P = 0.007; adjusted HR = 3.64; 95% CI = 1.42-9.30) were associated with
a high risk of HNSCC recurrence.
(Figure 3)
考察
In the present study, HPV DNA, mainly HPV-16, was detected in 28.1% of HNSCC cases. The
recurrent-free survival in HPV-positive patients with HNSCC, including the oropharynx,
was significantly better than in HPV-negative patients with HNSCC, which was consistent
with previous study.1 SCCA1 and SCCA2 mRNA expression in HNSCC was 17-fold and 80-fold
higher than in non-malignant tissues, respectively, suggesting that the high SCCA2/SCCA1
mRNA ratio in HNSCC is due to elevation of SCCA2 mRNA expression. It seems that elevated
SCCA2 expression might play a more important role in the progression of cancer and in
protecting malignant cells from various therapies for HNSCC than previously envisaged.
The present study indicated that patients with a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio had a poor
prognosis and that a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio is associated with disease recurrence.
These results suggest that the SCCA2/SCCA1 mRNA ratio has potential for predicting disease
severity and response to treatment. To the best of our knowledge, this is the first study
to perform absolute quantification of SCCA1 and SCCA2 from malignant and non-malignant
tissue of the head and neck.
Multivariate analysis on recurrence-free survival in the present study clearly indicated
that in addition to tumor stage and gender, both HPV status and the SCCA2/SCCA1 mRNA ratio
are independent prognostic factors for recurrence in HNSCCs. In addition, a HPV-negative
status and/or a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio indicated a markedly increased risk of
recurrence after initial radical therapy in patients with HNSCC, and a similar tendency
was observed in patients with oropharyngeal carcinoma.
-121-
In conclusion, our findings provide evidence that both HPV status and the SCCA2/SCCA1
mRNA ratio are independently associated with HNSCC prognosis. Positive HPV status and a
low SCCA2/SCCA ratio are two independent factors for predicting good prognosis. On the
other hand, patients with both high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio and negative HPV status had
HNSCC recurrence after radical treatment. The present results suggest that HPV-negative
patients with a high SCCA2/SCCA1 mRNA ratio need more aggressive therapy and rigorous
follow-up after treatment.
参考文献
1.
Fakhry C, Westra WH, Li S, Cmelak A, Ridge JA, Pinto H, Forastiere A, Gillison ML.
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Hsu KF, Huang SC, Shiau AL, Cheng YM, Shen MR, Chen YF, Lin CY, Lee BH, Chou CY.
Increased expression level of squamous cell carcinoma antigen 2 and 1 ratio is associated
with poor prognosis in early-stage uterine cervical cancer. Int J Gynecol Cancer
2007;17:174-81.
注:本研究は、2011 年 9 月『第 27 回国際乳頭腫ウイルス学会』にてポスター発表、2011 年 12
月『第 11 回日台耳鼻咽喉科学学会』にて口演発表。
作成日:2012 年 3 月 9 日
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-124-
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-131-
―日中医学協会助成事業―
ビスフォスフォネート局所投与による、骨粗鬆モデルラット脛骨内に埋入した
薄膜ハイドロキシアパタイト(HA)コーティングインプラント骨性結合への効果
研究者氏名
郝 佳
中国所属機関
北京朗瑞口腔门诊部
日本研究機関
東京医科歯科大学
指導責任者
教授
春日井 昇平
共同研究者名
黒田
真司
要 旨(Abstract)
Bisphosphonates are well known drugs that can inhibit bone resorption and normalize the high rate of bone turnover that
characterizes osteoporosis. Recently, hydroxyapatite (HA) has been used as bisphosphonates local delivery system to
enhance peri-implant bone formation, and the results are generally encouraging. In the present study, a thin film HA
coating with strong adhesion and bioactive microstructure prepared by radio frequency (RF) magnetron sputtering
technique was used as bisphosphonate carrier. Microbial adhesion and the accumulation of pathogenic biofilms are
considered to play major roles in the pathogenesis of peri-implantitis and implant loss. In addition, bisphosphonaterelated osteonecrosis of the jaw (BRONJ) has become a big concern lately. A recent study reported that zoledronic acid
(ZOL) promoted the adherence of streptococcus mutans to hydroxyapatite and the proliferation of oral bacteria. The
purpose of the present study is to find out a coating concentration which can improve peri-implant bone formation but
minimize bacterial adhesion. Custom made sputtered HA coated titanium cylinders were used as the substrate materials
for ZOL application. There are four groups: (1) control group (without ZOL treatment); (2) Low dose group (0.5
µg/implant); (3) medium dose group (2µg/implant); (4) high dose group (10µg/implant). Each implant was inserted in the
medullary cavity of a femur from the intercondylar notch. After 2 weeks healing, animals were sacrificed and femora
were harvested for micro-CT and histology analysis. Bacteria were cultured on the samples with different amount of ZOL,
and analyzed with the Live/Dead BacLight bacterial viability kit. We found out that the low dose and medium dose
groups showed significantly higher bone implant contact than the control and high dose groups. There was also a
significantly larger peri-implant bone volume in the low dose group than in the control and high dose groups, which was
consistent with the result of mineral apposition rate. In addition, no significant difference in bacterial adhesion was
observed among groups. The results indicated that the ZOL released from the sputtered HA coating stimulated
peri-implant bone formation at relatively low dose (0.5 µg and 2µg). Furthermore, the bacterial adhesion to the HA
implant was not affected by the application of ZOL.
Key words
Implant, hydroxyapatite, bisphosphonates, bone formation, bacteria.
緒
言( Introduction)
-132-
Bisphosphonates (BP) are well known drugs that can inhibit bone resorption and normalize the high rate of bone turnover
that characterizes osteoporosis. BP, such as zoledronic acid (ZOL), have a high affinity for both natural and synthetic
hydroxyapatite (HA), and their powerful anti-resorptive effects in osteoporosis were recognized through directly
blocking osteoclastic proliferation and activity, or indirectly acting on osteoclasts via osteoblasts. Considering the
undesirable effects such as gastrointestinal ulceration and osteonecrosis of the jaw, local application of BPs, a direct
targeting at osteoclasts to be controlled, seems more effective. Recently, HA has been used as a local delivery system for
bisphosphonates to enhance peri-implant bone formation, and the results are generally encouraging [1, 2]. However the
HA coating in the previous studies was produced by a plasma spray technique which has been reported to result in a
non-uniformity in coating density and poor adhesion between the coating and substrates [3]. The inflammatory response
which in turn induces implant loosening is a biological consequence of the coating debris. In the present study, a thin
film HA coating with strong adhesion and bioactive microstructure prepared by a radio frequency (RF) magnetron
sputtering technique [4] was used as an alternative bisphosphonate carrier. Microbial adhesion and the accumulation of
pathogenic biofilms are considered to play major roles in the pathogenesis of peri-implantitis and implant loss. In
addition, bisphosphonate- related osteonecrosis of the jaw (BRONJ) has become a big concern lately. A recent study
reported that ZOL promoted the adherence of streptococcus mutans to hydroxyapatite and the proliferation of oral
bacteria. The purpose of the present study is to find out a coating concentration which can improve peri-implant bone
formation but minimize bacterial adhesion.
対象と方法 (Materials and Methods):
Preparation of implants
Custom made Radio frequency (RF) sputtered HA coated titanium cylinders, measuring 1 mm in diameter and 15 mm in
length, were used as the substrate materials for ZOL. Briefly, all the titanium cylinders were sandblasted by fluorapatite
crystal and then subjected to an acid etching treatment. Sputtering was carried out to produce an average thickness of
1.1μm. Subsequently, a hydrothermal treatment was performed at a temperature of 120
in an electrolyte solution
containing calcium and phosphate ions for 20h. The surface roughness (Ra) was determined using a surface measurement
tester (SURFCOM 130A). The average roughness of the sputtered HA coating was 1.5µm. These implants were sterilized
and subjected to different amount of ZOL, including (1) control group (without ZOL treatment); (2) Low dose group (0.5
µg/implant); (3) medium dose group (2 µg/implant); (4) high dose group (10 µg/implant)
Animal and surgical procedures
Twelve 24-week-old female Wistar rats were randomly assigned into four groups explained above. Each implant was
inserted in the medullary cavity of a femur from the intercondylar notch. After 2 weeks healing, animals were
sacrificed and femora were harvested for micro-CT and histology analysis.
Micro CT analysis
X-ray imaging was performed by a micro-CT scanner (InspeXio; Shimadzu Science East Corporation, Tokyo,Japan) with
a voxel size of 20 mm/pixel. Tri/3D-Bon software (RATOC System Engineering Co. Ltd, Tokyo, Japan) was used to
make a 3D reconstruction from the obtained set of scans. Out of the entire 3D data set, the region of interest (ROI) was
defined as the 100 slices from 3 mm below the growth plate and limited to a semi-ring of 2.0 mm diameter from the
implant axis. Bone volume within the region of interest was calculated.
-133-
Histological evaluation
To obtain non-decalcified sections, samples were dehydrated in ascending gradient of ethanol, and then embedded in
polyester resin (Rigolac-70F, Rigolac-2004, Nisshin EM Co.,Tokyo, Japan). The sections at approximate 3 mm below
the growth plate were cut (Exakt, Mesmer, Ost Einbeck, Germany) in the horizontal direction and ground to a thickness
of about 200 µm. The sections were finally stained with 0.1% toluidine blue, and observed under a light microscope.
Bone implant contact (BIC) was quantified by a computer image analyzer (Image J, National Institute of Health, U.S.A).
Measurement of mineral apposition rate (MAR)
Inter label distance was measured (Image J, National Institute of Health, U.S.A) and the value was divided by the time
interval (7 days) between administrations of two vital markers.
Bacteria growth
Bacteria were cultured on the samples with different amount of ZOL, and analyzed with the Live/Dead
BacLight bacterial viability kit.
結果(Results):
Micro-CT analysis revealed considerable difference among different groups (Fig. 1). Low dosage (0.5 µg/implant) and
medium dosage (2 µg/implant) groups had striking effects on increasing the peri-implant bone volume when compared
with the control group (p<0.05). By contrast, the high dosage group (10 µg/implant) could not induce a greater
restoration in the bone volume.
In all the histological sections, no delamination of the HA coating was noted. The low dosage (0.5 µg/implant) and
medium dosage (2 µg/implant) groups showed significantly higher BIC than the control and high dosage (10 µg/implant)
groups (Fig 2). Furthermore, the MAR in The low dosage (0.5 µg/implant) was also significantly higher than those of
other groups (Fig 3.)
考察(Discussion and conclusions): The results indicated that the ZOL released from the sputtered HA coating
stimulated peri-implant bone formation at relatively low dose (0.5 µg and 2µg), which is even less than the previous
study by using plasma spray HA coating. This might be due to the small crystallite size (around 100nm) of the sputtered
thin film HA, which was supposed to increase the effectiveness of ZOL absorption. Furthermore, the bacterial adhesion
to the HA implant was not affected by the application of ZOL. A long-term in vivo study should be performed to test
coating degradation.
参考文献(References):
1.
Wermelin K et al., Acta Orthopaedica 2007; 78:385-392.
2.
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Kangasniemi I et al., J Biomed Mater Res 1994;28:563.
4.
Ozeki K et al., Biomed Mater Eng 2003;13:451.
-134-
Fig 1. Bone volume (108 μm3)
10
*
5
* #
0
Control
1
0.5
0
0.6
0.4
Low
Medium
High
Fig 2.Bone implant contact (%)
* #
* #
Control
Low
Medium
High
Fig 3.Mineral apposition rate (μm/day)
*
*
0.2
Data was expressed as mean ±SD (n=3).
*
* p<0.05 vs. low dosage group;
#p<0.05 vs. medium dosage group (One way
0
ANOVA-LSD test).
Control
注:
Low
Medium
High
This study was preseted in the バイオインテグレーション学会・第2回学術大会 and ISTA 2011 Anual
Congress. The preliminary data of the present study was published in J Mater Sci Mater Med. 2011 Jun;22(6):1489-99.
Epub 2011 May 13.
作成日:2012 年 2 月 28 日
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-136-
-137-
−日中医学協会助成事業−
中国吉林省都市部の朝鮮族と漢族の
老老介護世帯における生活の質に影響する要因に関する研究
研究者氏名:裴 麗瑩
所属機関:日本筑波大学大学院
指導責任者:講師 奥野 純子
共同研究者名:柳 久子,権 海善
要 旨
目的:朝鮮民族と漢民族の要介護高齢者の生活状況と健康関連 QOL および介護負担感に影響
する要因を明らかにし、少数民族の老老介護世帯への支援のあり方を検討すること。 方法:
対象は中国吉林省の長春・延吉2市在住の 60 歳以上の老老介護世帯 112 組。朝鮮民族 51 組
(45.5%)と漢民族 61 組(54.5%)である。調査方法は横断研究であり、要介護者には面接聞
き取り調査、介護者には自記式質問紙を用いて実施した。調査項目:要介護者は一般属性、
障害高齢者の日常生活自立度、認知機能、周辺症状(7 項目)、 ADL、ソーシャルサポート等
を調査し、主介護者には一般属性、障害高齢者の日常生活自立度、認知機能、生活満足度、
生活の質、介護負担感、ADL、ソーシャルサポート等 を調査した。分析は SPSS17.0 を用い、
連続変数の平均値の比較には t 検定、正規分布していない順位尺度の場合は Mann-Whitney の
U 検定を行い、相関関係には Spearman の順位相関関係を用いた。有意水準は p<.05 とした。
結果:両民族の生活の質に影響する共通要因として経済要因が一番著しかった。また朝鮮民
族は生活の質は主に睡眠状況と関連があり、漢民族は経済要因、教育レベル、施設入所の考
え方等との関連が見られた。討論:朝鮮民族と漢民族は同じ国籍、同じ地方に住んでいるに
も関わらず、民族間の伝統・習慣・文化等の考え方によって生活の質と介護負担感に影響す
る要因は多少違うことが明らかになった。
Key words:高齢者、生活の質、介護負担感、中国、吉林省
緒
言:
近年、中華人民共和国(以下、中国)は急激な高齢化、少子化、核家族化 が進んでおり、
「中国人口普査」によると 2010 年まで 65 歳以上の人口が 8%を超えてあり、高齢者か社会
となっている 1)。一人っ子政策で親になった世帯が高齢者となる 2026 年には、高齢者人口が
14%を高齢社会になると推測されている 2)。中国の伝統的な思想として儒教思想が挙げられ
るが、高齢者扶養についても「孝行」と言う道徳観・家族観によって支えられていた。さら
に一人っ子政策を国策として推進して以来、一人っ子が老祖母四人という老親を扶養しなけ
ればならない「四二一総合症」が発症し、事態を複雑・深刻にしている 3)。しかし、中国で
都市部民族間の違いによる生活質に関する研究は少ない。本研究は、中国東北地方の吉林
省で主に老老介護世帯の高齢介護者の生活の質に着目し、家族介護を維持することにどんな
困難を感じているのか、また生活の質に関連要因を明らかにすることを目的とした。
対象と方法:
1.対象
調査期間は 2009 年7月から 2012 年1月まで、対象者は中国吉林省の長春・延吉2市在住
の 60 歳以上の老老介護世帯 112 組、朝鮮民族 51 組(45.5%)と漢民族 61 組(54.5%)とした。
質問紙は無記名とし、コミュニティーの老人会などの場で対象者情報を集め、実施分担者
裴麗瑩(PEI LIYING)が家庭訪問をし、インタビュー調査を行った。回答の拒否や中断は随
時可能であることを書面で説明し、質問紙の回答を持って同意とみなした。筑波大学人間総
合科学研究科・研究倫理審査委員会の承認を得て実施した。
選択基準は地域の高齢者担当者に紹介された後、基準を満たし、本人同意を得た者
除外基準は 1)コミュニケーションが取れない者、2)認知機能が低い者 、3)60 歳未満者と
した。
-138-
2.調査方法
調査方法は横断研究であり、要介護者には面接聞き取り調査、介護者には自記式質問紙を
用いて実施した。
障害高齢者の日常生活自立度判定基準を用い、ランク A1~ランク C2 まで属する何らかの障
害を有する者を要介護者として定義し、一般属性、障害高齢者の日常生活自立度、認知機能
(認知症高齢者日常生活自立度判定基準)、周辺症状(7 項目)、 ADL、ソーシャルサポート等
を調査した。主介護者は一般属性、施設入所の考え方、障害高齢者の日常生活自立度、認知
機能、生活満足度(VAS)、生活の質(健康関連 QOL<SF-8>スタンダード版)、介護負担感
(Zarit 介護負担尺度 22 項目版)、ADL(Barthel Index);、ソーシャルサポート等 を調査し
た。
健康関連 QOL を測定する SF−8スタンダード版は8つの項目からなり、健康の8次元(身体
機能、日常役割機能(身体)、体の痛み、全体的健康感、活力、社会生活機能、日常役割機能
(精神)、心の健康)にそれぞれ 1 項目ずつ振られている。健康の8次元と身体的・精神的サマ
リースコアの得点を算出できる 4)。
3.分析方法
分析は SPSS17.0 を用い、連続変数の平均値の比較には t 検定、正規分布していない順位尺
度の場合は Mann-Whitney の U 検定を行い、相関関係には Spearman の順位相関関係を用いた。
有意水準は p<.05 にした。
結 果
1.対象者特性(表 1、表 2)
表1
要介護者特性
全体
朝鮮民族
漢民族
(n=112)
(n=51)
(n=61)
71.1±6.5
74.9±7.8
73.3±7.8
60~69 歳
39(34.8%)
16(31.4%)
23(37.7%)
70~79 歳
43(38.4%)
20(39.2%)
23(37.7%)
80 歳以上
30(26.8%)
15(29.4%)
15(24.6%)
72(64.3%)
37(72.5%)
35(57.4%)
✻
70(62.5%)
38(74.5%)
32(52.5%)
✻
高血圧
51(45.5%)
21(41.2%)
30(49.2%)
Ns
心臓疾患
36(32.1%)
11(22.0%)
25(41.0%)
✻
糖尿病
29(25.9%)
10(19.6%)
19(31.1%)
Ns
骨粗鬆症
12(10.7%)
0(0%)
12(19.7%)
✻✻
72(66.1%)
31(62.0%)
41(69.5%)
Ns
70(97.2%)
30(96.8%)
40(97.6%)
Ns
周辺症状(有)
64(57.1%)
33(64.7%)
31(50.8%)
教育レベル(年)
7.9±5.3
9.0±4.6
7.0±5.6
22(21.6%)
10(20.8%)
12(22.2%)
仕方ない
25(24.5%)
7(14.6%)
18(33.3%)
良くない
55(53.9%)
31(64.6%)
24(44.4%)
29(25.9%)
16(31.4%)
13(21.3%)
項目
年齢(歳)
性別(男)
疾患
脳血管疾患
高齢者のみ二人家族
夫婦
施設入所の考え方
障害自立
J1~J2
良い
-139-
P値
Ns
✻
Ns
A1~A2
41(36.6%)
15(29.4%)
26(42.6%)
B1~C2
2000 元
42(37.5%)
20(39.2%)
22(36.1%)
40(35.7%)
23(45.1%)
17(27.9%)
2000 元~4000 元
4000 元以上
50(44.6%)
22(19.6%)
22(43.1%)
6(11.8%)
28(45.9%)
16(26.2%)
配偶者
80(76.9%)
45(91.8%)
35(63.6%)
✻✻
介助が必要
28(50.9%)
32(62.8%)
25(40.1%)
✻
99(96.1%)
47(97.9%)
52(94.5%)
Ns
親族と距離 近くに住んでいる
73(65.2%)
30(58.8%)
43(70.5%)
Ns
ADL(BI)
59.2±31.7
55.2±31.3
62.6±31.9
Ns
経済状況
以下
介護最適者
着替え
在宅生活継続意思
あり
✻
数値は平均値±SD,n(%),✻p<0.05
表 2 介護者特性
全体
(n=112)
朝鮮民族
(n=51)
漢民族
(n=61)
71.3±6.5
71.0±5.6
71.5±7.1
60~69 歳
44(39.3%)
19(37.3%)
25(41.0%)
70~79 歳
57(50.9%)
29(56.9%)
28(45.9%)
80 歳以上
11(9.8%)
3(5.9%)
8(13.1%)
項目
年齢(歳)
性別(女)
疾患
P値
Ns
75(67.0%)
38(74.5%)
37(60.7%)
心臓疾患
高血圧
46(41.1%)
23(45.1%)
23(37.7%)
Ns
37(33.0%)
16(31.4%)
21(34.4%)
Ns
脳血管疾患
19(17.0%)
13(25.5%)
6(9.8%)
✻
糖尿病
骨粗鬆症
11(9.8%)
3(5.9%)
8(13.1%)
Ns
7(6.3%)
0(0%)
7(11.5%)
✻
教育レベル(年)
7.6±5.2
8.4±4.7
6.9±5.5
介護時間
3 時間未満
3 時間以上
介護最適者
配偶者
健康状態
健康~普通
やや不健康~不健康
33(29.5%)
8(15.7%)
25(41.0%)
79(70.5%)
43(84.3%)
36(59%)
80(69.6%)
46(90.2%)
32(54.1%)
64(57.1%)
21(41.1%)
43(70.5%)
48(42.9%)
30(58.9%)
18(29.5%)
夜間睡眠 不十分+殆ど眠れない
9(36.6%)
22(43.1%)
19(31.1%)
✻
ソーシャルサポート資源
冠婚葬祭時介護代替者(無)
38(33.9%)
30(58.8%)
8(13.3%)
✻✻
病気時介護代替者(無)
22(19.6%)
18(35.3%)
4(6.8%)
✻✻
33(29.5%)
16(31.4)
17(27.9%)
79(70.5%)
35(68.6%)
44(72.1%)
43.8±10.4
43.9±8.2
43.8±11.9
49.9±8.8
51.0±7.8
49.0±9.5
32.2±17.7
33.9±16.5
30.7±18.6
社会活動 積極的~時々参加
殆ど~全く参加しない
PCS-8
MCS-8
ZBI 総得点
✻
✻✻
✻
✻
-140-
数値は平均値±SD, n(%),✻p < 0.05,✻✻p < 0.01
2.民族における生活の質と生活満足との関連要因(表3)
表 3 民族における生活の質(SF-8) と生活満足度(VAS) との相関
SF-8 身体的
SF-8 精神的
VASh)生活満足度
サマリースコア
サマリースコア
朝鮮
項目
漢民族
朝鮮族
漢民族
朝鮮族
漢民族
族
(n=51)
(n=61)
(n=51)
(n=61)
(n=5 (n=61)
1)
要介護者状況
**
**
**
-.381
.364
.020
.421
.025
年齢 -.111
周 辺 症 状 ( 総 -.229
.058
-.176
.248
-.178
-.295*
数)f)
-.107
-.244
.172
.056
-.344*
障害自立度 .264
g)
-.051
.094
-.259
-.253*
-.280*
-.138
認知度
.117
-.149
.288*
-.179
.136
教育歴 a) -.239
*
.049
.319
.292*
.413**
.338**
経済状況 .181
.058
-.189
.248
-.385**
.203
疾患数 -.115
主介護者状況
年齢
教育歴 a)
疾患数
-.304*
.197
.364**
-.209
.227
.112
.435**
.079
.273*
.053
-.196
-.150
.119
-.150
.021
.181
-.108
.182
.171
.319*
-.525**
-.031
-.514**
―
―
―
―
―
―
-.194
-.073
.282*
-.439**
.133
.379**
-.125
.007
-.249
.037
.475**
-.027
-.111
.493*
*
.402*
*
d)
睡眠状況
ZBIg)
PCSi)
MCSi)
ADL(BI)
―
.406
―
*
.298
*
*
数値は Spearman の順位相関係数。*P<0.05, **P<0.01
a)周辺症状:昼夜区別、妄想、徘徊、大声出す、暴力的、失禁、同じことをしつこく
言う等一つでもあったら 1 点 b)障害自立度:障害高齢者の日常生活自立度判定基準
を用い、ランク J1~ランク C2 まで属する何らかの障害を有する者 c)認知度:認知症
老人の日常生活自立度(認知度)の判定基準を用いⅠ~M の中、完全自立を 0 点、Ⅰ
を 1 点、Ⅱ-a~b2 点、Ⅲ-a~b3 点、Ⅳを 4 点、M を 5 点とした。d)教育歴:教育され
た年数 d)睡眠状況:5.十分取れている 4.取れている 3.まあまあ 2.不十
分である 1.殆ど眠れない e)経済状況:1.〈1000 元 2.1000~2000 元 3.
2000~3000 元 3.3000~4000 元 4.≥5000 元 f)SF-8 尺度は、得点が高いほど良
い健康状態を表す g)介護負担感は Zarit 介護負担尺度(ZBI22 項目版)を用い「思わな
い:0 点~いつも思う:4 点」の 5 段階で評価し、点数が高いほど介護負担感が高い
h) Visual Analogue Scale(VAS)で測定し、0 から 100 までの目盛りのものさしを見な
がら、点数をつける。 i) SF-8: 身体的サマリースコア(PCS: Physical component
-141-
summary):身体的健康を表す項目(身体機能、日常役割機能(身体)、体の痛み)であ
り、精神的サマリースコア(MCS: Mental component summary):精神的健康を表す項目
(心の健康、日常役割機能(精神)、社会生活機能)である
考
察
両民族の場合経済状況は生活の質に影響する主な影響と見られたことから高齢者の老後生
活の質を確保出来る社会からの援助が必要と考えられる。また介護負担感の上昇により生活
の質の低下を齎すため介護のためのレスパイトが必要と考えられる。
朝鮮民族の場合、睡眠状況が生活の質に関連していた。このことは最適介護者を配偶者
(90.2%)とする文化で、近隣に介護代替者もいなく、一人で夜間介護していたためではと
推測される。
漢民族の場合は経済要因、教育レベル、施設入所の考え方、介護負担感等の要因が生活の
質に影響していたことから経済発展に伴い、子供は仕事と介護の両立が難しく、子供が親の
面倒を見る伝統的な考え方があり、葛藤を感じているのではないかと考えられる。
結
論
朝鮮民族と漢民族は同じ国籍、同じ地方に住んでいるにも関わらず、民族間の伝統・習
慣・文化等の考え方によって生活の質と介護負担感に影響する要因は多少違うことが明らか
になった。ということから、民族による適切な社会支援が必要だと考えられる。また、現在
の中国の高齢者はまだ 1979 年からの一人っ子政策の影響は見られてないけど、これから、も
っと家族介護力が低下して行くと推測される。
参考文献
1) 中国国家統計局編.2010 年第六回全国人口普査主要数居公報(第 1 号)、2011;4 月
2) 陳 衛. 2005 年から 2050 年までの中国の将来人口推計及び人口動態. 人口研究
2006;30(4):93-95
3) 「中国における高齢者ターミナルケア」周チン 著、2002;11 月 50p
注:本研究は、2011 年 10 月 28 日「第 70 回日本公衆衛生学会」にてポスター発表を行った。
作成日:2012 年 3 月 13 日
-142-
-143-
-144-
―日中医学協会助成事業―
新規分子 PRIP の開口分泌における役割の解明
研究者氏名
日本研究機関
指導責任者
共同研究者名
高 靖
九州大学大学院歯学研究院
教授 平田 雅人
竹内 弘
要旨:
Exocytosis is one of the most fundamental cellular events. The basic mechanism of the final step,
membrane fusion, is mediated by the formation of the SNARE complex, which is modulated by the
phosphorylation of proteins controlled by the concerted actions of protein kinases and phosphatases. We
have previously shown that a protein phosphatase-1 (PP1) anchoring protein, PRIP (phospholipase
C-related, but catalytically inactive protein), has an inhibitory role in regulated exocytosis. The current
study investigated the involvement of PRIP in the phospho-dependent modulation of exocytosis.
Dephosphorylation of SNAP-25 (synaptosome-associated protein of 25kDa) was mainly catalyzed by PP1
and the process was modulated by wild-type PRIP, but not by the mutant (F97A) lacking PP1-binding
ability in in vitro studies. We then examined the role of PRIP in phospho-dependent regulation of
exocytosis in cell-based studies using a pheochromocytoma cell line, PC12 cells, that secrete noradrenalin.
Exogenous expression of PRIP accelerated the dephosphorylation process of phosphorylated SNAP-25
after forskolin or phorbol ester treatment of the cells. The phospho-states of SNAP-25 were correlated
with noradrenalin secretion, which was enhanced by forskolin or phorbol ester treatment and modulated
by PRIP expression in PC12 cells. Both SNAP-25 and PP1 were co-precipitated in anti-PRIP
immunocomplex isolated from PC12 cells expressing PRIP. Collectively, together with our previous
observation regarding the roles of PRIP in PP1 regulation, these results suggest that PRIP is involved in
the regulation of the phospho-states of SNAP-25 by modulating the activity of PP1, thus regulating
exocytosis.
Key words:
cAMP-dependent protein kinase, exocytosis, phospholipase C, protein phosphatase, SNARE
緒言:
Protein phosphorylation and dephosphorylation through activation of protein kinases and phosphatases
play an important role in the regulation of exocytosis. Fewer studies regarding the phosphatases
responsible for the phospho-regulation of exocytosis have been performed than those regarding kinases.
Furthermore, the combination of specific substrate proteins implicated in exocytosis, specific kinase and
phosphatase, and their regulation to modulate exocytosis are still unknown.
Phospholipase C-related, but catalytically inactive protein (PRIP) was originally identified in this
laboratory as a novel D-myo-inositol 1, 4, 5-trisphosphate [Ins(1,4,5)P3] binding protein, whose name was
derived from the lack of catalytic activity in spite of the similarity to phospholipase C-1 (1-6). Further
studies revealed that PRIP has a number of binding partners, including the catalytic subunit of protein
phosphatase 1 (PP1) and PP2A (7, 8), phosphorylated (active) form of Akt (9). Thus, PRIP is an
unique molecule which associates with both multiple phosphatases and a kinase, suggesting that PRIP
participates in the phosphoregulation of cellular events, by recruiting these enzymes to where the event
occurs if PRIP can approach. We have recently reported that exocytosis of various peptide hormones such
as gonadotropins and insulin was up-regulated in PRIP knock-out mice (10, 11), indicating that PRIP is
likely to be involved in dense-core vesicle exocytosis in a negative manner. The molecular mechanisms
underlying the inhibition of exocytosis by PRIP are currently being studied in the laboratory. In the
present study, we investigated the possible involvement of PRIP in the phospho-regulation of exocytosis
through modulation of the dynamics of protein phosphorylation.
研究方法:
Noradrenalin Secretion Assay: PC12 cells were labeled with [3H]noradrenalin (NA). The secretion of
-1-145-
[3H]NA was triggered with high-K+/PSS (81 mM NaCl, 70 mM KCl). The radioactivity of [ 3H]NA
remaining in cells and secreted into the medium was measured by a liquid scintillation counter.
In vitro Phosphorylation and Dephosphorylation of SNAP-25: GST-tagged SNAP-25 was phosphorylated
with [-32P]ATP using the catalytic subunit of PKA. The mixture was separated by SDS-PAGE, followed
by CBB staining and autoradiography. For the dephosphorylation assay, GST-tagged SNAP-25
immobilized on glutathione beads was phosphorylated as described above, followed by
de-phosphorylation by PP1, PP2A, or PP2B in an appropriate buffer solution. The radioactivity of
released 32P was counted using a liquid scintillation counter, and beads were analyzed by SDS-PAGE for
CBB staining and autoradiography.
Labeling of PC12 Cells and Immunoprecipitation for Phosphorylation Assay: PC12 cells were labeled
with [32P]orthophosphate. After treating the cells with the substance of interest, cells were lysed and the
cell extract were subjected to immuonoprecipitation by anti-SNAP-25 antibody and the precipitates were
examined by SDS-PAGE for autoradiography.
結果:
Regulation of exocytosis by protein phosphorylation: We previously found that the absence of ATP
after permeabilization of PC12 cells diminished Ca2+-triggered exocytosis (12), and this diminishment is
assumed to be caused by the conversion of membrane PtdIns(4,5)P 2 to phosphatidylinositol phosphate
and then phosphatidylinositol in the absence of ATP. We assumed that protein phosphorylation involved
in exocytosis is also implicated in its regulation and it was confirmed using a protein phosphatase
inhibitor, calyculin A, which partially rescued the diminishment by about 25 % (Data not shown).
PtdIns(4,5)P2 was not increased by calyculin A, although permeabilization decreased PtdIns(4,5)P2 and
incubation in the presence of ATP increased PtdIns(4,5)P2 (Data not shown). The results clearly indicate
that protein phosphorylation is involved in the regulation of exocytosis in a positive manner.
Dephosphorylation of SNAP-25: Many proteins important for exocytosis can be phosphorylated by
various protein kinases. One of the most investigated SNARE proteins is SNAP-25, the phosphorylation
of which has been previously reported to be catalyzed by both PKA and PKC to enhance exocytosis
(13-16). Thus, we focused on the phospho-modulation of exocytosis via SNAP-25.
GST-fused SNAP-25 was phosphorylated by the catalytic subunit of PKA using [-32P]ATP (Fig. 1A),
which was subjected to measuring phosphatase activity of the catalytic subunit of PP1, PP2A or PP2B.
PP1 caused the release of 32P from GST-SNAP-25 in a dose-dependent manner, and PP2A also catalyzed
the release but to a lesser extent, whereas PP2B showed no activity (Fig. 1B), indicating that SNAP-25
phosphorylated by PKA was mainly dephosphorylated by PP1 and to a lesser extent by PP2A in vitro.
We have previously shown that PRIP is a negative modulator of PP1 (7). PRIP binds to PP1 to inhibit the
phosphatase activity. When PRIP-1 itself is phosphorylated by PKA at residue T94, PP1 could no longer
associate with PRIP to be an active form. Thus, we examined the effect of PRIP on dephosphorylation of
SNAP-25 by PP1. The release of 32P from phosphorylated SNAP-25 was inhibited by the wild-type
PRIP-1, but not by the mutant PRIP-1, whose residue Phe97 was replaced with Ala, lacking PP1 binding
ability (7) (Fig. 1C). Dephosphorylation of SNAP-25
catalyzed by PP1 was not inhibited by previously
phosphorylated PRIP-1 (Fig. 1D). The results indicate that
PRIP could be involved in the modulation of the
phospho-state of SNAP-25 through regulating the activity
of PP1.
FIGURE 1. Dephosphorylation of SNAP-25 was mainly
catalyzed by PP1 and modulated by PRIP-1 in vitro. (A)
GST-tagged SNAP-25 was phosphorylated with [-32P]ATP
using the catalytic subunit of PKA. (B) Phosphorylated
GST-tagged SNAP-25 was de-phosphorylated by PP1, PP2A, or
PP2B. (C) Recombinant PRIP-1 (WT) or the mutant F97A was
included in the phosphatase reaction mixture. (D) PRIP-1 was
phosphorylated in advance by non-radioactive ATP plus the
catalytic subunit of PKA (pPRIP), followed by a
dephosphorylation assay of SNAP-25.
-146-
Regulation of dephosphorylation of SNAP-25 by PRIP-1: We then examined the roles of PRIP in
regulating the phospho-state of SNAP-25 in PC12 cells labeled with [32P]orthophosphate. Forskolin
treatment caused robust 32P incorporation into SNAP-25, slowly decreasing for up to 30 min after the
removal of forskolin (Fig. 2A). However, expression of wild type PRIP-1(Fig. 2B), but not the mutant
PRIP-1 (F97A; Fig. 2C), which lacks PP1 binding ability, or PRIP-1 (T94A; Fig. 2D), which is not
phosphorylated and therefore keeps PP1 sequestered and inactivated, promoted the dephosphorylation
process of SNAP-25. These results indicate that the dephosphorylation process of SNAP-25 catalyzed
mainly by PP1 was accelerated by the presence of PRIP-1 in PC12 cells, and PP1 binding ability is
required for PRIP to execute the role in regulating the dephosphorylation of SNAP-25.
FIGURE 2. Dephosphorylation of SNAP-25 was modulated
in PC12 cells expressing PRIP-1. PC12 cells expressing GFP
(A), GFP-PRIP-1 (WT) (B), GFP-RPIP-1 (F97A) (C) or
GFP-PRIP-1
(T94A)
(D)
were
labeled
with
[32P]orthophosphate, followed by stimulation with 50 M
FSK for 5 min. After removing the stimulus, cells were left
for the time period indicated. Phosphorylation of SNAP-25
was analyzed by immuonoprecipitation followed by
autoradiography and Western blotting.
Noradrenalin secretion induced by high-K+ from PC12
cells, which were treated similarly to the description in
Figure 2, was also examined. As shown in Figure 3, the
results indicate that PRIP-1 is involved in the regulation
of
NA
secretion
through
modulating
the
dephosphorylation of some proteins important for
exocytosis. This correlated with the regulation of the
phospho-state of SNAP-25 by PRIP-1 through PP1
binding.
FIGURE 3. [3H]NA secretion was modulated by PRIP-1.
PC12 cells expressing GFP (A), GFP-PRIP-1 (WT) (B),
GFP-RPIP-1 (F97A) (C) or GFP-PRIP-1 (T94A) (D) were
labeled with [3H]NA, followed by stimulation with 50 M
FSK for 5 min. After removing the stimulus, cells were left at
room temperature for 5, 10, 20 or 30 min, followed by
[3H]NA secretion assay with high-K+ solution for 5 min.
Complex formation of PRIP-1 with PP1 and
SNAP-25 in PC12 cells: SNAP-25 is mainly localized
at the plasma membrane, while PP1 exists throughout
the cytosol in the cells, therefore PP1 needs to be
recruited to the site where SNAP-25 is localized in
order to function in exocytosis. To examine if PRIP
helps PP1 to be recruited to the site where SNAP-25 is
localized and exocytosis takes place, we performed a
co-immunoprecipitation assay using PC12 cells
expressing PRIP-1. As shown in the figure, SNAP-25
formed complex with PRIP-1, PP1 and syntaxin (Fig. 4A); however, PP1 was only co-precipitated with
WT of PRIP-1, not with F97A (Fig. 4B). PC12 cells expressing either WT or T94A mutant of PRIP-1
were first treated with forskolin for 5 min to induce the phosphorylation of PRIP-1 probably along with
SNAP-25, followed by immunoprecipitation by anti-PRIP-1 antibody. As shown in Figure 4C, forskolin
treatment reduced the amount of PP1 immunoprecipitated with PRIP-1 from PC12 cells expressing WT,
but not cells expressing T94A of PRIP-1, despite a similar amount of SNAP-25. These results support our
-147-
assumption that PRIP-1 recruits PP1 to SNAP-25 by the complex formation, probably along with
syntaxin.
FIGURE 4. Interaction of PRIP-1, SNAP-25
and PP1 in PC12 cells. (A) PC12 cells expressing
GFP alone (none) or GFP-PRIP-1 (WT) were
subjected to co-immunoprecipitation assay using
anti-SNAP25 antibody. (B) PC12 cells expressing
GFP (none), GFP-PRIP-1 (WT) or GFP-PRIP-1
(F97A)
were
subjected
to
co-immunoprecipitation assay with anti-GFP
antibody using an Seize X protein A
Immunoprecipitation Kit. (C) PC12 cells
expressing GFP-PRIP-1 (WT) or GFP-PRIP-1
(T94A) were first stimulated to phosphorylate
PRIP-1 itself with FSK (50 M) for 5 min,
followed by immunoprecipitation by anti-PRIP-1
antibody (PRIP). The immunoprecipitates were
analyzed by Western blotting.
考察:
Collecting the data presented in this study, a model explaining that PRIP modulates the phospho-states of
SNAP-25 and exocytosis is shown in Figure 5. PRIP recruits PP1 and PP2A to the site where t-SNARE
proteins exist, but inhibits PP1 activity, probably with the aid of the PH and C2 domains (Fig. 5A). When
the intracellular cAMP level is elevated or PKC is activated by cellular stimulation, PKA and PKC
phosphorylate both SNAP-25 and PRIP. Following the phosphorylation of PRIP, PP1 is released to be
active near SNAP-25; thus, PP1 can dephosphorylate SNAP-25 effectively to abolish the effect (Fig. 5B).
FIGURE 5. Schematic representation of the role of PRIP in
phospho-dependent regulation of SNAP-25. (A) Basal
condition, and (B) PKA or PKC activated condition (see
DISCUSSION).
The current study showed the possible involvement of
PRIP in PKA and PKC-dependent phospho-modulation
of regulatory exocytosis by regulating the location and
activities of protein phosphatases, PP1 and PP2A, using
PC12 cells expressing PRIP-1. To our knowledge, there
have been few studies regarding the de-phosphorylation
(OFF) process of SNARE proteins for exocytosis
compared to those regarding the phosphorylation (ON)
process. For the first time, we here elucidated that PP1
is a major phosphatase responsible for the OFF process,
which is regulated by PRIP. Further studies are clearly
required using cells intrinsically expressing PRIP for a more physiological point of view. Other issues to
be addressed are the role of PP2A binding of PRIP and the regulation of catalytic activity in
phospho-dependent modulation of exocytosis, although the participation of PP2A appears to be reduced.
Furthermore, other proteins of exocytosis, including syntaxin as a substrate, have been reported to
participate in the phospho-dependent regulation of exocytosis (17,18). Whether PRIP modulates the
phospho-states of these proteins should also be investigated to better understand the mechanism of the
OFF process in the phospho-modulation of exocytosis.
-148-
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注:本研究は、2011 年 9 月京都での「第84回日本生化学会大会」にて口演
発表、2011 年 11 月 15 日福岡での「The 10th JBS Biofrontier Symposium on New
Aspects of Phospholipid Biology and Medicine」にてポスター発表、2012 年 2 月
17 日韓国で「The 7th Korea-Japan Conference on Cellular Signaling for Young
Scientists」にて招待講演、
「Journal of Biological Chemistry」(2012 年 3 月 VOL287
巻)に掲載。
作成日
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2012年3月13日
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2011年度共同研究等助成事業報告集
財団法人
〒101-0032
日中医学協会
東京都千代田区岩本町1-4-3
TEL:03-5829-9123
FAX:03-3866-9080
発行日
2012年4月
発行人
安達
勇