分生研ニュース 第16号(2001年10月発行)

10 月号(第 16 号)2001.10
東京大学 分子細胞生物学研究所 広報誌
IMCB
University of Tokyo
IMCB
Institute of Molecular and Cellular Biosciences
University
Tokyo
The of
University
of Tokyo
目 次
研究分野紹介(分子情報研究分野)……………………………………… 1
分生研各賞受賞者紹介 ……………………………………………………14
着任のご挨拶(田中 稔)………………………………………………… 3
平成 13 年度受託研究・共同研究一覧/研究助成等公募 ……………15
転出のご挨拶(関根靖彦、木下大成)…………………………………… 3
耐震補強工事の完了報告(田村吉弘) …………………………………16
分生研所内研究発表会・新人歓迎会開催される ……………………… 4
留学生と教職員の懇談会開催 ……………………………………………16
分生研所内研究発表会入賞者の発表要旨 ……………………………… 6
研究室名物行事(細胞増殖研究分野) …………………………………17
ドクターへの道(佐藤直人)……………………………………………… 8
お店探訪(小池綾子) ……………………………………………………17
OB の手記(遠藤 稔)…………………………………………………… 9
知ってネット ………………………………………………………………18
海外ウォッチング(野間健一) …………………………………………10
Tea Time-編集後記 ………………………………………………………18
留学生手記(金 池) …………………………………………………13
共通機器紹介−染色体・細胞情報解析システム ………………………19
第 6 回 分生研シンポジウム開催のお知らせ ……………………………14
研究紹介(西山健一、常泉和秀) ………………………………………20
研究分野紹介 分子情報研究分野
研究テーマ
1.
大腸癌の癌抑制遺伝子 APC の機能解析
2.
Wnt, TGF-β作用の分子機構の解析
3. 癌抑制遺伝子による細胞増殖、細胞死、生存の制
御機構の解析
β-catenin、Wnt/Wingless シグナル伝達経路、TGF-βシグ
ナル伝達経路、hDLG、Peutz-Jeghers 症候群の原因遺伝子
LKB1/STK11、老化遺伝子などについて多岐にわたる研究
を展開している。これらの分子に関する研究を通して例え
ば、APC が Axin と協同してβ-catenin を分解すること、βcatenin は分解だけでなく ICAT による活性制御を受けてい
4.
癌抑制遺伝子の形態形成における役割の解析
ること(図2)、APC は Asef を介して細胞運動の制御に関
5.
癌抑制遺伝子の神経系における機能の解析
与すること(図3)等新たな知見を得ている。現在さらに
6.
老化の分子機構の解析
細胞が癌化する仕組みは長い間謎であったが、分子生物
学が進歩した結果、癌は遺伝子の病気で癌遺伝子、癌抑制
遺伝子および修復遺伝子に異常が生じることによって発症
することが明らかになった。癌抑制遺伝子は、失活すると
細胞の癌化を引き起こすように働く遺伝子で、通常は正常
細胞の細胞周期、分化、アポトーシスなどの制御に重要な
働きをしている。本研究分野では、癌抑制遺伝子の産物の
機能の解析を中心に、細胞の増殖、分化、発癌の機構を分
子レベルで明らかにすることをメインテーマとして研究を
進めている。具体的には大腸癌の癌抑制遺伝子 APC(図1)、
図1.APC 遺伝子産物の構造と機能: APC は様々なモチーフをもち様々な細
胞蛋白質と複合体を形成している。
2
Journal Club 一名と Research Report 二名の発表が行なわ
れ、秋山徹教授による真理の情念に裏打ちされたアリガタ
イ話(?)を聞くことができる。また、毎年の歓送迎会、
夏休み前後の納涼会および新人歓迎会(院試合格発表を受け
て 9 月にも行なわれる)、忘年会などは欠かさず行なわれて
いる。研究活動以外の活動は、人数が多いため研究室の人
全員が参加することはなかなか難しいが、教授と女性全員
による誕生日会、某助手が無理矢理月に一回行なう美食倶
楽部、九州の屋台でスープ作りまで経験した H 君主催によ
る関東一円ラーメンツアーなど、忙しい研究生活の中にも
潤いをもとめた活動が行なわれている。
図2.APC は、Axin、GSK-3 βと共にβ-catenin と複合体を形成してその分
解を誘導し、Wnt シグナルを抑制する。ICAT はβ-catenin と TCF の結
合を阻害することにより Wnt シグナルを抑制する。
ホームページ
多数の新規分子を見いだし機能解析を進めているが、これ
構 成 員
http://www.iam.u-tokyo.ac.jp/5ken/index.html
らの分子の中には発生、形態形成に重要な役割を果たすも
教 授
秋山 徹
のや神経細胞で発現し、記憶、学習の基礎メカニズムと考
助 手
中村 勉
えられているシナプス可塑性に重要な役割を果たすと考え
助 手
森口 徹生
られるものもある。意欲にあふれた大学院生、postdoc に
助 手
公文 晶夫
より強力に研究が進められておりその勢いは止まるところ
博士研究員
を知らない(?)。悩みの種は慢性の金欠と動物舎である。
博士課程大学院生
13名
分子系統の加藤茂明教授の力で動物舎ができたのは分生研
修士課程大学院生
6名
にとって画期的な出来事であったが既にパンク寸前である
事務補佐員
1名
(この動物舎ができてなかったらと考えるとぞっとする)。
本郷に本格的な共同動物実験施設がないのはおかしい…
研究室の日常
研究は基本的に一人一テーマで進めているが、修士から
博士一年ぐらいまでの学生は助手・ポスドクなどのシニア
な人に教わりながら実験を進めている。研究者の習性なの
か、夜型の人も何人かおり、一日 24 時間研究室内の電気が
消えることはない。研究室のセミナーとしては、週に一回、
図3.APC は Rac をターゲットとする GEF 活性をもつ Asef を活性化するこ
とによりアクチン細胞骨格の再編をひきおこすことを見出した。
8名
3
着任のご挨拶
機能形成研究分野 助手 田中 稔
私はこの8月より機能形成研究分野の助手に着任致しました。私の経歴について簡単に紹介致しますと、東
京大学農学部農芸化学科において鈴木昭憲教授に師事し、生化学の基礎を学ばせて頂きました。私の所属した
生物有機化学研究室はいわゆる「モノ取り」の部屋であり、生理活性物質の精製・単離をメインテーマとする
ラボでした。100 万頭にも及ぶカイコガ頭部からゲル濾過、イオン交換・逆相クロマトグラフィーなど複数の
精製過程を経て、わずか数十マイクログラムの生理活性物質を単離する、といった研究内容を通して、ペプチ
ド・タンパク質の物性を捉える感覚が養われたと思います。また、膨大な量の試料から出発して極微量の目的
分子に辿り着くという過程に、研究に対する面白み(例えるなら砂金から金鉱脈を探し当てるガリンペイロのような感覚)を見い出せ
たことが、私の研究者としてのルーツになっていると思います。その後、ポスドクとして細胞合成研究室(機能形成研の前身)に所属
し、ペプチド分子から遺伝子へと研究の場を移して、オンコスタチンMの受容体遺伝子のクローニングを行ないました。数多くの遺伝
子の中から目的の遺伝子を探すというテーマに「モノ取り」的な感覚が役立ったと思っています。オンコスタチンMは、血管内皮細胞
と造血幹細胞の共通前駆細胞にあたるヘマンジオブラストや胎生肝細胞の分化にユニークな作用を示すことから、現在では個体の発生
や細胞の増殖・分化機構、stem cell biology 等に興味を持っています。近年、造血幹細胞が他の臓器細胞へ分化したり、筋肉由来の SP
細胞が血液細胞に分化するといった、これまでの常識を覆すような報告が続々となされ、stem cell の再生医療への可能性がクローズア
ップされてきています。また、ヒト ES 細胞が樹立されるなど再生医学を取り巻く環境がホットになりつつあります。今後、機能形成
研究室で培われてきた研究内容を基に、幹細胞研究の見地から再生医療に貢献できるよう頑張って行きたいと考えております。
転出の御挨拶
前染色体動態研究分野 助手 関根靖彦
長年過ごした分生研を離れてはや5ヶ月が経とうとしています。立教大学理学部に移ってからは、何もない
部屋に実験台を搬入することから始めて、試薬や機器を少しずつそろえて、最近やっと実験室らしくなってき
ました。東大にいた頃とは違って、学生実習や講義の担当があり、さらには(退屈な)会議にもたびたび出席
しなくてはならず、忙しい日々を送っています。今年2月には待望の子供(女児)が生まれました。多忙のた
め、日々成長を遂げるわが子と過ごす時間が少なくなってしまうのが残念です。
分生研を離れて思い出されるのは、分生研をはじめ東大でお世話になったたくさんの人たちのことです。染
色体動態(旧・生物物理)の皆さんはもちろんのこと、他の研究室の方々にも有形、無形の恩恵を頂きました。困った時に助けてくれ
た方、つまらない質問に誠実に答えてくれた方、貴重なアドバイスをくれた方、世間話の相手をしてくれた方…。その時その時の皆さ
んの言葉や笑顔がなつかしく思い出され、そういう人たちに支えられて私の東大時代があったのだとしみじみ思います。皆さんどうも
ありがとうございました。勤務地は池袋ですので、これからも分生研に顔を出す機会があると思います。今後ともどうぞよろしくお願
いします。
前機能形成研究分野 助手 木下大成
私は、平成 13 年度 6 月末をもちまして東京大学での助手の職を辞し、研究活動の拠点を海外へと移しました。
在任中にお世話になった皆様方や仲良くして下さった方々には、この場を借りて厚く御礼申し上げます。移籍
先は米国サンフランシスコ(SF)にある Rigel(ライジェル)という製薬系ベンチャー企業で、数年前に Stanford 大
学の Gary Nolan 助教授らによって設立された会社です。昨年末の UT-Forum の見学先の一つとしても紹介され、
日本での認知度も徐々に上がっているようです。この会社はレトロウイルスを用いたヒト細胞への遺伝子導入
技術を得意とし、ヒト遺伝子やランダムペプチドの機能的スクリーニングを出発点とした新しいスタイルの創
薬を目指しています。私は入社後は当面、癌やアレルギー治療に関する仕事に従事する予定ですが、会社の規模が年々拡張されている
ので、まったく新しいプロジェクトに取り組むことになるかもしれません。Rigel は SF 国際空港と SF 市街地の中間、SF 湾を間近に臨
む South San Francisco に位置し、周辺には Tularik や Sugen などバイオ系ベンチャー企業が集落をなしています。私はかつて同じ SF に
ある DNAX 研究所に在籍していたことがあり知人も数多く残っているので、環境に慣れるのはさほど難しいことではないと考えてい
ます。ただ今回は即戦力性を強く望まれているため、前回渡米した時とは違った緊張感があります。私には突出した資質や実力はあり
ませんが、このところ失いかけていたプロ意識やモーティベーションをもう一度自分の中に見いだすことができれば、おのずと結果は
ついてくるものだと考えています。我ながら何とも行き当たりばったりな生き様だなとあきれてしまうことがありますが、皆様方には
これに懲りずに引き続きあたたかいご声援をお願いしたいと思います。ありがとうございました。
4
分生研所内研究発表会・新人歓迎会開催される
発生分化構造研究分野 作野 剛士
去る 6 月 26 日(火曜日)に分生研所内研究発表会並びに
新人歓迎会が開催されました。
研究発表会におきましては、開会に先立ち応用微生物奨
励会理事長の木下先生から「日本人は概してプレゼンテー
徐必守(博士 2 年・バイオリソーシス研究分野)
The phylogenic analysis of cyanobacteria using 16S
rDNA, gyrB, rpoC1 and rpoD1 gene sequences
中野貴之(博士 2 年・分子遺伝研究分野)
ション能力に欠ける。皆様の発表に期待します」とのお言
シアノバクテリアにおける RNA ポリメラーゼシ
葉をいただきまして、緊張感漂う中での始まりとなりまし
グマ因子の多型性による転写調節機構の解析
佐藤沙織(博士 1 年・細胞増殖研究分野)
た。
研究発表会は今年で 3 回目の開催でしたが、後述いたし
ますように今回から発表形式などにいくつか新たな試みが
加えられました。そのため会が円滑に進行できるか危惧し
ておりましたが、特に問題もなく終えることができました。
各発表者は緊張と闘いながら日頃の研究成果を十分に発表
し、またそれらの内容について活発な議論・討論が終始展
開されました。
◆発表者・演題(発表順)
大竹史明(修士 2 年・核内情報研究分野)
Hsp90 による生存シグナルの活性制御機構
石岡利康(修士 2 年・生体有機化学研究分野)
新規アンドロゲンアンタゴニストの創製
清水知宏(博士 2 年・活性分子創生研究分野)
非メバロン酸経路の阻害物質に関する研究
浦崎明宏(博士 1 年・染色体動態研究分野)
藍藻の転移性遺伝因子 ISY100 の転移の解析
今回からパソコン画面を直接映写できるプロジェクター
を用いた発表形式を新たに導入いたしました。プロジェク
ダイオキシン類による女性ホルモン撹乱作用の
ター本体は分生研事務から、パソコンとプロジェクターを
分子メカニズムの解析
結ぶ延長コードを活性分子創生講座から、別々にお借りす
関谷高史(博士 1 年・分子情報研究分野)
るという準備不足な状況でしたが、懸念されていた接続等
Wnt シグナル制御因子 ICAT の機能解析
Roberto A. Barrero(博士 3 年・細胞機能研究分野)
のトラブルは殆どなくスライドや OHP を用いた旧来の形式
よりも表現方法において幅の広いプレゼンテーションが可
Arabidopsis CAP regulates actin cytoskeleton nec-
能になったのではないかとの印象を受けました。また、発
essary for the plant cell elongation and division
表会終了後のアンケートでもプロジェクターの導入に賛成
樋口麻衣子(博士 2 年・情報伝達研究分野)
細胞運動における Akt の役割
牛田奈緒子(博士 2 年・形態形成研究分野)
意見が大半であり、所長の鶴尾先生からも「来年からは全
てプロジェクターでやりましょう」との御提案をいただき
ました。また、改善点として、発表用のパソコンを共有し
ショウジョウバエ翅パターン形成に関わる新規
てはどうか?プロジェクターを映写用と準備用の二台用意
遺伝子の強制発現スクリーニング
してはどうか?などの御意見もいただいておりますので、
宮本厚樹(博士 3 年・細胞形成研究分野)
大腸菌外膜リポタンパク質の局在化に関与する
シャペロンタンパク質 LolA の解析
作野剛士(博士 2 年・発生分化構造研究分野)
今後の方針は来年の幹事さん(情報伝達研究分野)に検討
をお願いしたいと思います。
また、発表会には(財)応用微生物学研究奨励会理事長
の木下祝郎様、(株)協和発酵工業研究本部理事の川本勲
ヒストンアセチル化酵素ファミリーのクロマチ
様、元分生研所長で奨励会顧問の丸尾文治先生、元分生研
ン転写反応における独立的・協調的作用の発見
所長で現北里研究所生物機能研究所部長の岩崎成夫先生、
峯畑健一(博士 4 年・機能形成研究分野)
造血環境におけるオンコスタチン M の役割
佐藤直人(博士 3 年・生体超高分子研究分野)
元三菱生命研の坂口健二様に御参加いただき、特別審査員
賞として 2 名を選定していただきました。これまでは学生
による採点結果の上位 3 位のみが表彰され奨学金が授与さ
出芽酵母のレスポンスレギュレーター Ssk1p の活
れる形式でしたが、今回からは採点結果の上位者 3 名と特
性制御機構の解析
別審査員賞を含めて 5 名を表彰し、賞金ではなく楯を授与
5
する方式となりました。この変更には、例年採点結果が僅
差であることからより多くの発表を評価したいという思い
と共に、発表の成果を「楯」という形ある物として残した
いという思いも含まれております。実際、今年も例年同様
接戦でありました。ご来賓の皆様にも印象深い発表を推薦
していただきましたところ、学生の審査結果の上位とほぼ
一致いたしました。そこで各賞については、より多くの学
生を表彰するという主旨を踏まえて協議された結果、以下
の様に決定されました。学生の審査とプロの判断とが重な
ったことは、会の目的の一つである「学生の判断能力向上」
に関してその成果の現れともとれるのではないかと思いま
す。また奨励会で立派な楯をご用意いただき、各受賞者に
しく分生研の一員となられた皆様を一同に把握できるほぼ
は良い記念になることと思います。
唯一の場でありますし、記憶に残るような個性的な自己紹
2001 年度所内研究発表会入賞者は以下の 6 名です。おめで
介をされた方が何名もおられ、貴重で楽しい時間を共有で
とうございました。
きたのではないかと思います。
優秀賞1位
作野剛士(発生分化構造・ D2)学生審査 1 位
料理や飲みのもについては生協の皆様のお心遣いで、適
優秀賞2位
牛田奈緒子(形態形成・ D3) 学生審査 4 位
量行き渡りあらかたご満足頂いた様でした。また、余った
優秀賞3位
大竹史明(核内情報・ M2)
学生審査 5 位
飲食物について皆様でほぼ全てお持ち帰りいただき、会費
優秀賞3位
峯畑健一(機能形成・ D4)
学生審査 5 位
が無駄なく使われたことに安堵しております。ただし、会
審査員特別賞
清水知宏(活性分子創生・ D2)学生審査 2 位
場が縦に長く、表彰や新人紹介を会場の前部で行われスピ
審査員特別賞
佐藤沙織(細胞増殖・ D1)
ーカーが前に一台しか設置してなかったことから、後ろの
学生審査 3 位
皆様には見えない聞こえないといった苦情をいただきまし
た。飲食物の手配や段取りにばかり気をとられてしまい、
新人歓迎会は研究発表会終了後、農学部食堂にて行われ
ました。
発表会終了が 18 時過ぎ、続いて会場撤収、歓迎会開始が
18 時 30 分という強行日程でしたが、皆様のご協力と迅速な
会場の設営について配慮が足りませんでした。来年度以降
は生協さんと打ち合わせの上、ステージを設定する等、会
場設営にもご配慮いただき今年の失敗を活かしていただけ
れば幸いです。
行動によりほぼ定時に会を始めることができました。歓迎
今回の発表会・歓迎会の幹事という仕事を通じて、始め
会は総数約 240 名(うち新人は約 70 名)という多くの皆様
に各研究室の代表者で集まり方針の決定について意見交換
に御参加いただき、鶴尾先生のご挨拶と乾杯の音頭を皮切
の場をもつべきであったと感じました。そうすることによ
りに研究発表の表彰、各研究室の新人紹介と終始和やかな
り、方針の決定もスムーズに行えたと思いますし、何より
雰囲気で執り行われました。この歓迎会は各年度ごとに新
「学生主導」で「作り上げる」という会の主旨に適うと思
います。また、普段あまり機会の無い研究室間の交流にも
つながりより良い発表会・歓迎会が実施できるのではない
かと感じましたので、来年度以降の課題の一つとしてご検
討いただければと思います。
最後になりましたが、今回の発表会・歓迎会を行うにあ
たりご協力いただきました奨励会、及び分生研の諸先生方、
各講座連絡係りの皆様、お世話になった全ての皆様に深く
感謝いたします。特に、裏方で陰ながら会の運営を支えて
いただき、多くの有用な御助言をいただきました奨励会、
及び分生研事務の皆様に重ねて御礼申し上げます。本当に
ありがとうございました。
6
分生研所内研究発表会入賞者の発表要旨
ヒストンアセチル化酵素ファミリーのクロマチン転写反応
における独立的・協調的作用の発見
MYST 因子が共通プロモーターからの転写制御に各々のリ
発生分化構造研究分野 D2
なりその制御モデルを提唱した(図2)。以上の結果は、
作野剛士
ジン残基特異性を発揮し協調的に関与することが明らかに
ヒストンのアセチル化パターンや HAT の使い分けがクロマ
ヒストンアセチル化反応はクロマチン
チン転写反応系に及ぼす効果についてだけでなく、遺伝子
の主要な構成タンパク質であるヒストン
発現を制御する各ヒストンのアセチル化を介したクロマチ
を直接修飾し、クロマチン機能を制御す
ン構造変換機構を明らかにする上で世界に先駆けた知見と
る重要な反応である。アセチル化されるヒストンのリジン残
なっている。
基は 15 種存在し、かつ各々のヒストンアセチル化酵素
(HAT)は異なる特異性を持つことが知られてきた。このこと
からそのアセチル化パターンが異なることが予想されるもの
の、パターン形成における複数 HAT の使い分け、その違い
が及ぼす遺伝子発現への効果については全く明らかにされず
今日に至っており、クロマチン機能の制御において HAT の
果たす役割を理解する上で最重要課題であると考えられる。
図1 SPT 表現型解析系
我々は、これまでにヒストンアセチル化部位に関するル
ールを提唱し証明しつつある一方、HAT ドメインが HAT
活性だけでなく、プロモーターアクセスに関する機能を有
していることを示してきた。また、クロマチン因子を同定
するための独自の戦略を用いることによって、世界的な
HAT 単離隆盛期に唯一日本から HAT として単離したヒト
Tip60 は、真核生物を通じて高度に保存された MYST ドメ
表1 MYST 解析結果のまとめ
インを有し、その一次構造の類似性からファミリーを形成
していること、BAF53(yArp4)等、複数のサブユニットを含
む複合体を形成していることを明らかにしてきた。そこで、
MYST-HAT ファミリーを用いて上述の問題を明らかにする
ことを試みた。ゲノム配列が明らかにされており、かつ遺
伝学・生化学両面から解析することが可能な出芽酵母の全
MYST-HAT ファミリーを用いて共通遺伝子の発現制御にお
図2 MYST 機能モデル
ける協調的機能を解析することを通じて解析を行った。
我々は、出芽酵母各 MYST 因子 (Esa1, Sas2, Sas3)複合体
を調製し、幾つかのクロマチン転写制御因子の変異体と同
様に、その変異で SPT 表現型を示す(図 1)actin-related
ショウジョウバエ翅パターン形成に関わる新規遺伝子の強
制発現スクリーニング
形態形成研究分野 D3
牛田奈緒子
protein 4 (Arp4)サブユニットの Esa1 複合体内での同定を足
がかりとして MYST-HAT の解析を進めた結果、i)MYST フ
ァミリー 3 種が Arp4 と共に SPT 表現型を示すこと、
(背景)
生物が 1 つの細胞に始まり複雑な構造
ii)MYST ファミリーと Arp4 との関わり方(生化学的・遺伝
を作り上げるまでには 1 つ 1 つの細胞が
学的相互作用)の違いから、その共通プロモーター(SPT プ
自分自身の位置を知り、それに的確に反応することが不可
ロモーター)からの遺伝子発現制御の場で 3 者が異なる役
欠である。この位置情報の分子メカニズムは発生生物学の
割を果たすこと、を明らかにした(表1)。また、iii)これ
古くからの命題であり多くの知見が得られつつあるが今な
まで標的ヒストンが全く不明であった Sas2 に関して、ヒス
お謎が多い。ショウジョウバエは古くからの遺伝学の蓄積
ト ン H 4 を 標 的 と す る 知 見 を 得 る こ と に よ り ( 表 1 )、
により形態形成の格好のモデルであり、得られたモデルは
7
脊椎動物でも保存されていることが分かっている。また近
用(「環境ホルモン作用」)が注目されている。女性ホルモ
年のゲノムプロジェクトの成果によりゲノムに関する情報
ン・エストロゲン(E2)の生理作用は、核内レセプターである
が豊富に蓄積されている。そこで本研究では未知の形態形
Estrogen Receptor (ER)α、ER βが E2 依存的に標的遺伝子の
成の分子メカニズムを解明する目的でショウジョウバエの
転写を制御することによって発揮される。いわゆる「女性
翅をモデルとしてこれに関与する新規遺伝子のスクリーニ
ホルモン様物質」はこの ER に結合して、あたかもエストロ
ングを行った。
ゲンのように働いてしまう化学物質のことである。一方ダ
(方法)
イオキシン類は「ダイオキシン受容体(AhR)」に結合して同
スクリーニングは酵母の転写因子 GAL4 とその認識結合
様に特定の遺伝子の転写を制御する作用を持ち、ER 自体に
DNA 配列である UAS(Upstream Activating Sequence)を利用
は結合しないので、どのようにして女性ホルモン作用を撹
し強制発現系による機能獲得型変異を指標とした。具体的
乱しているのか、そのメカニズムは不明であった。そこで
には以下のようである。UAS を含むトランスポゾン P 因子
我々は AhR と ER との機能的相互作用について検討した。
を 1 コピーもつ系統である EP55 をトランスポゼースをもつ
AhR ligand として 3-Methylcholanthrene(3MC)を用いた。
系統と交配し P 因子を転移させゲノム中にランダムに UAS
レポーターアッセイで ER の転写促進能を解析したところ、
を組み込んだ系統を作製する。この系統に GAL4 を翅での
3MC 結合 AhR/Arnt が ER α、βを介し、E2 非存在下でも
み強く発現する系統である sdGAL4 と交配する。UAS があ
転写を促進することを見い出した。次に免疫沈降法により、
る遺伝子の上流に組み込まれていればその遺伝子は
AhR/Arnt が 3MC 依存的に ER αと複合体を形成することを
sdGAL4 により翅でのみ強制発現される。そしてその遺伝
見い出した。この時転写共役因子 p300 が複合体に加わるこ
子が形態形成に何らかの機能をもつものであれば、この強
とから、AhR/Arnt が転写共役因子複合体をリクルートする
制発現により翅においてその機能に応じた形態異常を示す
と考えられた。
ことが予測される。このようにして強制発現時の翅の表現
卵巣摘出マウスに 3MC を投与し、子宮重量増減及び標的
型を指標に 12000 系統をスクリーンし、得られた変異体の
遺伝子の発現量を検討したところ、E2 非存在下で3 MC が
うち一部については chromosome in situ hybridization、P 因
エストロゲン作用を示すことを見い出した。AhR ,ER αノ
子挿入点近傍のゲノム塩基配列決定等により原因遺伝子座
ックアウトマウスを用い、標的遺伝子の誘導は AhR, ER α
を同定した。
を介していることが示された。
(結果)
以上、3MC の結合した AhR/Arnt は DNA に結合した ER
12000 系統のスクリーニングの結果翅の大きさ、翅脈の
αと複合体を形成することで、エストロゲン非存在下でも
パターンに異常を示すもの、翅全体で強制発現しているに
標的遺伝子を誘導すると考えられた。この結果はダイオキ
も関わらず異常が限られた部位でしか観察されないもの等
シン類の複雑なエストロゲン撹乱作用の一端を説明するも
約 100 種の変異体を単離した。このうち TN40 については今
のと考えられる。
後さらに詳細な解析を行おうと考えている。
ダイオキシン類による女性ホルモン撹乱作用の分子メカニ
ズムの解析
核内情報研究分野 M2
大竹史明
ダイオキシン類は発がん作用をはじめ
とした様々な毒性作用を持つ環境汚染物
質であり、近年特に女性ホルモン撹乱作
8
造血環境におけるオンコスタチン M の役割
非メバロン酸経路の阻害物質に関する研究
機能形成研究分野 D4
活性分子創生研究分野 D2
峯畑健一
清水知宏
血液中には様々な種類の血液細胞が存
ステロイドやテルペノイドなどのいわ
在している。これらの細胞は、骨髄中に
ゆるイソプレノイドは、イソペンテニル
存在する造血幹細胞に由来する。造血幹
二リン酸(IPP)を基本単位とした縮合
細胞は、自己複製能と多分化能を持ち合わせており、その
反応によって生成され、生体内で多様な役割を担っている。
性質の維持には骨髄中に存在する造血支持細胞との相互作
IPP は、メバロン酸経路でのみ生合成されると長い間考え
用が重要な役割を果たしている。
られてきたが、最近になって、メバロン酸経路とは全く異
我々の研究室では、IL-6 サイトカインファミリーの一つ
なる経路、すなわち非メバロン酸経路の存在が提唱され、
であるオンコスタチン M(OSM)の造血発生に関する研究を
高等植物のクロロプラスト、緑藻、熱帯熱マラリア原虫、
行ってきた。そこで、OSM の in vivo での機能解析を行うた
そして多くの真正細菌など、広範な生物種に分布している
めに OSM KO マウスを作成し、造血系に関する解析を行っ
ことが明らかにされてきた(下図に非メバロン酸経路の初
た。OSM のホモ遺伝子欠損マウスは生存可能であったが、
期段階を示す)。本経路の全貌は未解明であるが、ヒトを
その末梢血を調べると、血小板および赤血球の軽度の減少
含む哺乳類はメバロン酸経路のみを利用していることや、
が認められた。また、軟寒天中に骨髄に由来する血液細胞
非メバロン酸経路を利用する微生物の生育には本経路が必
を播種し、造血細胞のコロニー形成能を検討した結果、骨
須であること、植物のクロロフィル合成にも非メバロン酸
髄中の CFU-E および CFU-C が低下していることが認められ
経路が必須であることより、非メバロン酸経路の阻害剤は
た。これに対して、脾臓におけるコロニー形成能を検討す
安全な抗菌剤や除草剤になり得ると考えられる。そこで、
ると、CFU-C および CFU-E のコロニーが増加していた。脾
非メバロン酸経路をターゲットとする阻害剤の取得を目的
臓におけるコロニー形成能の増加は、骨髄におけるコロニ
として研究を行った。
ー形成能の低下の代償的作用によると考えられる。骨髄で
の造血低下が造血支持細胞の支持能の低下によるかを検討
するために、野生型および OSM KO マウスの骨髄から造血
支持細胞を採取し、GFP マウス由来の 造血幹細胞である
lin-c-kit+Sca-1+ 細胞と共培養した。OSM KO マウス由来の造
血支持細胞との共培養では、野生型と比較して GFP 陽性細
胞の増幅が約 1/3 であり、OSM KO マウスの造血支持環境
図 非 メ バ ロ ン 酸 経 路 ( 初 期 段 階 の み ) 及 び DXR 特 異 的 阻 害 剤 fosmidomycin
に異常があることが明らかになった。
造血支持環境は様々な細胞によって形成されている。
まず、非メバロン酸経路の阻害剤の取得を目的として、
OSM KO マウスの造血支持細胞の質的な変化を検討するた
初期段階の酵素 DXR の活性評価系を確立し、約 20000 サン
め、脂肪細胞への分化を促進する薬剤であるトログリタゾ
プルについて DXR 阻害剤のスクリーニングを実施した。そ
ンを野生型および OSM KO マウスの造血支持細胞に作用さ
の結果、nM オーダーの IC50 値を示す 5 種の阻害剤を単離し
せた。野生型の造血支持細胞は、デキサメタゾンおよびト
た。また、メバロン酸経路と非メバロン酸経路の分布とに
ログリタゾンの両方を作用させたときのみ、オイルレッド
着目して抗生物質のデータベースより検索した結果、抗菌
O 陽性細胞が認められたのに対し、OSM KO の造血支持細
剤として報告されていた fosmidomycin(FMM)を阻害剤
胞は、トログリタゾンのみでオイルレッド O 陽性細胞が認
の候補として得た為、その DXR 阻害能について検討したと
められ、その質的な変化が示唆された。
ころ、FMM は IC50 = 24 nM の強い阻害活性(拮抗型)を示
このように、OSM は成体の骨髄中における造血支持細胞
した。続く種々の実験の結果から、FMM は DXR を特異的
の支持能を保つ上で重要な役割を持っていると考えられ
に阻害していることが結論づけられた(後になって FMM
る。
は、報告を受けたドイツのグループによってマラリア治療
に有効であることが示され、現在、国際保健機構(WHO)
からも注目されている)。更に現在は、我々の研究室で放
線菌 Streptomyces sp. CL190 株から発見したメバロン酸経
9
路の生合成遺伝子クラスターを利用して、非メバロン酸経
路を特異的に阻害する抗菌剤の探索系を構築し、引き続き
スクリーニングを展開している。
Hsp90 による生存シグナルの活性制御機構
細胞増殖研究分野 D1
佐藤沙織
これまで癌遺伝子・癌抑制遺伝子の遺
伝子産物として知られていた多くの分子
が、アポトーシスのシグナル伝達に関与
すること、癌細胞はこのアポトーシスのシグナル伝達に何
らかの異常をきたしていることが、近年証明されつつある。
癌の化学療法で用いられる抗癌剤の多くは、癌細胞にアポ
トーシスを引き起こすことで抗癌活性を発揮することか
ら、化学療法において抗癌剤が効果を発揮するか否かは抗
癌剤が標的癌細胞にアポトーシスを誘導できるかどうかに
かかっているといえる。しかしながらアポトーシスは、発
生や形態形成、生体防御などの過程においても起こるよう
に、正常な細胞でも起こりうる現象のため、化学療法では
腫瘍特異的にアポトーシスを誘導することが課題となる。
最近では癌細胞特異的にアポトーシスを誘導するメカニズ
ムとして、正常細胞と比較して癌細胞でより活性化してい
る生存シグナル経路を遮断するという方法が提唱されてい
る。そのような生存シグナル伝達経路の1つにセリン・ス
レオニンキナ−ゼ Akt を介した経路がある。
Akt は細胞の生存に重要な役割を果たすことが知られて
いるが、最近 Akt の活性化を抑制する PTEN の欠失や変異、
Akt の遺伝子増幅が多くの癌で見い出され、Akt は細胞の癌
化に関わる分子としても注目を集めている。また正常細胞
ではあまり活性化していないことから、Akt は抗癌剤の標
的として適している。しかし、Akt を標的とした抗癌剤は
未だない。そこで本研究では Akt を標的にした癌治療法の
開発を目的とし、まず Akt と結合しその活性を制御する分
子を探索した。その結果、Akt が細胞内で Hsp90 と結合し
ていることを初めて見い出し、その結合部位を同定した。
また、Akt と Hsp90 が結合する生理的意義は、Hsp90 が Akt
に結合することでホスファターゼによる Akt の脱リン酸化
を抑制し、活性を維持することであることを明らかにした。
さらに Hsp90 と Akt との結合を阻害することで Akt の活性
を抑制し、細胞にアポトーシスを誘導できることを見い出
した。この結果から、Akt と Hsp90 との結合は、新たな抗
癌剤開発に際しての良い標的となり得ることが明かとなっ
た。
図 Hsp90 による Akt 脱リン酸化抑制のモデル
Hsp90 は Akt と結合すると PP2A による Akt の脱リン酸化を抑制し、Akt
の活性を保つ。
10
ドクターへの道
生体超高分子研究分野
理学系研究科 生物科学専攻
博士課程 3 年 佐藤 直人
ついこの間分生研に来たばかりだと思っていたら早くも
D3 となり,最近では論文の期限を心配しながら実験する毎
日です。さてこの「ドクターへの道」は,進学を考えてい
る修士課程の方に向けたコラムだと思いますが,実のとこ
ろ私は学部,修士,博士とすべて別々の研究室に籍をおい
ており,一貫した研究をする場合の多い分生研の方に対し
て偉そうなことを言えた義理ではないと感じています。し
かし実際進学してみて,博士課程では研究に対してより主
体性が要求されることを感じており,そのことから自分が
研究を行う上で大切にしていることがいくつかあります。
写真:中央が筆者
今回はそれらを箇条書きでご紹介することにより,多少な
りとも(博士課程での研究についてイメージを持っていただ
実験を進めているとついつい没頭してしまい,うまくい
くという意味で)修士課程に在籍する方々の参考になれば幸
っている場合にはいいのですが,つまずいた場合に自分で
いです。
必要以上に抱え込んで苦しむことがあります。そんな時に
1)自分自身で調べて仮説を構築し,検証すること
は先輩後輩の別なく,他人のコメントを求めると(例えば試
振り返ると,私自身は修士課程では既存の仮説に従って,
薬を 1 種類加えよとかいう簡単なアドバイスにより),意外
既知の方法で実験するという研究しかしていなかったよう
なほどすぐに問題が解決することがあります。理想的には
に思います。が,博士課程にもなれば自分の研究に関する
全部自力で解決できればいいのですが,現実にはそのよう
理解,見通しが深まってくるので,主体的に過去の論文や
なスーパーマンは存在しないし,与えられた時間も限られ
未発表データを調べ,オリジナルな仮説を構築し,検証 =
ているので,他人のアドバイスは重要です。また,同じラ
実験するという姿勢が必要だと思います。もちろん,その
ボにいるとどうしても発想法が似てくる場合もあるので,
過程では自分の殻に閉じこもるのではなく,他人と議論す
時には別のラボの人に聞くのも良い方法です。
ることが有益です。
2)自分の結果に確信を持つこと
以上,書き出しとは裏腹に,結局偉そうなことばかり書
いてしまった気もしますが,大目に見て下さい。もちろん
仮説を立てたら実際に実験をするわけですが,予想と異
上に挙げた事柄は,私が進学する際に決意して目標として
なる結果が出る場合も結構多いと思います。時には過去の
設定したものではなく,ここ 3 年間で(随分時間がかかりま
論文と矛盾,対立する結果を生むことも稀ではありません。
したが)少しずつ認識したものです。今回の内容は抽象的な
そのような場合,自分がいい加減な実験をしていたなら論
訓示のようなものに終始した感が否めませんが,実際の研
外ですし,微妙な実験条件の違いで結果が異なっている可
究においては結局のところ,各人がモチベーションを維持
能性もありますが,きちんと人を説得できるだけの実験を
しつつ試行錯誤を行うことが重要であると感じています。
したという自信があるならば,先入観に固執せずに自分の
最後になりましたが,いつもマイペースな私を支援して
出した結果を信じた方がよいと思います。この場合,フィ
下さっている前田達哉先生をはじめ生体超高分子研究分野
ードバックして仮説を修正するという作業も必要になりま
の関係者の皆様,貴重なアドバイスをいただいている川原
す。
裕之先生(北大),指導教官の東江昭夫先生(理学系研究科)
3)ラボ内外の人にアドバイスを求めること
に感謝したいと思います。
11
OB の手記
雪印乳業 医薬品事業部 栄養開発グループ 遠藤 稔
会社に入って 3 年目ですが、自分の中では激動の 3 年間
という感じで、本当にいろいろなことを経験しました。私
はなにを隠そう雪印乳業という会社に勤めております。そ
う、あの雪印乳業です。昨年は皆様に大変なご迷惑をおか
けしました。この場を借りて心よりお詫び申し上げます。
新入社員研修で 3 ヶ月間、北海道の工場でバターと脱脂
粉乳を作ったり、去年の夏、大阪のお客様のところへお詫
びにいったり、売り上げ回復のために街頭でサンプルを配
ったり、住宅街を一軒一軒宅配牛乳のセールスで回ったり
…。どの経験もとても勉強になったのですが、それを一つ
一つ書いていったらとても紙面が足りないので、今自分が
主にやっている仕事を紹介したいと思います。
写真:北海道の研修時、寮の前にて(一番左が筆者)
今、医薬品事業部というところで、臨床開発ということ
をやっております。雪印乳業では経腸栄養剤という医薬品
に参加するので、北は北海道、南は沖縄までといろんなと
を製造しています。脳疾患による意識障害があったり、顎
ころへ出張できるのが醍醐味です。逆に、一週間のうち、
を骨折したりして口から栄養摂取が困難になった患者へ一
自分の布団で眠れるのは土日だけという週が結構あるのも
日に必要な栄養を鼻などから胃へチューブを通し、そのチ
つらいのですが。
ューブを通して補給するというやり方があるのですが、そ
次々と更新される世界中の研究の成果を受けて、どうす
の時に使うのが経腸栄養剤です。カロリーメイトの液状の
れば製品が売れるのか、製品の問題点を改善するにはどう
製品を思い浮かべてください。
したらいいのか、そもそも改善する価値が有るのか、臨床
医薬品が厚生労働省から認可されるにはいわゆる臨床試
の現場の問題点はどういったことなのか、どういったプロ
験というものを経て、安全性、有効性が確認されたものし
トコールでデータを出せば先生は製品を使ってくれるのか
か製造、販売することはできません。しかし、臨床試験は
等々を検討し、その対策を講ずることによって製品の売り
サンプル数が少ないこと、試験を行う医師が高度な専門医
上げが上昇していくのを見るのはやりがいがあります。
であることなど実際に薬が使用される状況とは少し異なる
なんだかうまくまとまりませんでしたが、白衣を着て実
ので、発売後も安全性や有効性の臨床データを集めること
験するような仕事以外にも面白い仕事はいっぱいあると思
が義務づけられています。この市販後の医薬品のデータを
います。だから、就職を考えている方は研究職だけではな
集める部署が臨床開発部門なのです。
くいろいろな職種に興味を持って就職活動してみてはどう
では、実際にはどんなことをやっているのかというと、
でしょうか?
製品を使っている先生にプロコールを提示して臨床データ
を集めて下さいとお願いし、論文を書いてもらう他、製品
の問題点、先生方が臨床の現場で困っていることなどの情
報を収集し、次の製品の開発にフィードバックしたり、製
品の販売戦略に反映したりするということやっています。
栄養剤を使う診療科は内科、外科、脳神経外科、口腔外科、
小児科など非常に広範囲にわたるので、いろいろな先生方
にお会いして最新の知見についてディスカッションできる
し、先生方から患者の状態が良くなったよなんていう話が
聞けるので、臨床現場で研究の成果が患者さんに役に立っ
ているのだなあというのを実感できるという面白さがあり
ます。それに、全国の病院を訪問するほかに学会にも頻繁
平成 11 年3月、修士課程修了(旧微生物微細藻類研究分野)
12
海外ウォッチング
コールドスプリングハーバー研究所 PD
野間 健一
Cold Spring Harbor Laboratory (CSHL) に留学できたことは、非
常にラッキーなことであった。大坪研で修士と博士課程を終え、
学振のポスドクだった私は、ボチボチと留学先を探し始めた。
国内のポスドクも選択肢としてはあったが、攻撃的性格の私は
海外留学に挑戦してみることにした。Nature や Science といっ
た雑誌の後ろの方に掲載してある求人情報を時々見たり、思い
つく研究所のホームページにも探りを入れていた。そんな折り、
久子さん(大坪研講師)が、CSHL の Shiv Grewal の研究室でポ
スドクを募集していることを発見した。研究内容は、fission
yeast の mating-type region の epigenetics である。当時、私は植
化されている。DNA sequencing、Protein sequencing、mono-
物のレトロトランスポゾンの研究をやっていたので、あまりに
clonal antibody の精製などは専用の施設があるし、実験に必要
かけ離れた分野の様な気がしたが、久子さんに上手く言いくる
な試薬の多くは Reagent maker さんが作ってくれる。それらの
められた感もあるが、研究自体に興味を覚えたこと、genetics
実験のサポートと共に非常に感銘を受けたのは、毎日のように
と protein work を同時に学べることが気に入った。採用しても
多くの研究者の興味深い話をセミナーで聞けることである。そ
らえない可能性が高いので、とりあえず e-mail で異なる分野の
のような環境の中で、多くの PI (Principal Investigator) と
自分がポスドクに応募して良いかどうか尋ねてみた。CV(履歴
Postdoc が研究しているわけであるが、大学と大きく異なるこ
書)、これまでの研究歴、Publication list を送れと言ってきたの
とは、殆ど学生がいないことである。世界中から選りすぐりの
で e-mail で送信した。送信したときには、少しぶるった。その
研究者が集まっており、研究に集中している。例えば、24 時間
後、e-mail でやり取りし、最終面接が電話での面接と聞いたと
研究棟の電気が消えることもなければ、使用したい顕微鏡の関
きには、「あかん、絶対駄目や」と思った。私は、英語が全然話
係で夜中3時から朝7時までとか予定を取っている人がいるの
せなかったのである。ともかく、面接の準備に取り掛かった。
も当然のことである。CSHL にいる日本人の PI と Postdoc は非
質問されそうな事とその答えを英語で書き留めたノートをなる
常に優秀な人たちで、例外なく研究熱心である。そのような環
べく色々な状況に対応するように準備した。相手は、私がノー
境は自分にとって良い刺激であり、負けず嫌いの自分を常々頑
トを見て話しているとは思うまい。幸いボスの聞いてきた質問
張る気にさせてくれている。また、気の合う Postdoc と酒を飲
は予想通りの内容で、ノートをめくっては、あたかも英語が話
むのが私の楽しみの一つである。
せるように対応した。隣で電話面接を聞いていた学生さんが私
現在の研究に関しても少し述べたいと思う。私は、fission yeast
が英語を話せると勘違いしたことから、この作戦は成功したと
の主に mating-type region における epigenetic events に関する研
思った。
究を行っている。mating-type region は、mat1、mat2P、mat3M
上手く一流の研究所に潜入することに成功した。CSHL は、NY
からなり、mat1 は転写されるが、mat1 と同じ配列を有する
州の東部、Long Island の中央に位置しており、研究室からは海
mat2 及び mat3 は転写されない。我々の研究から、1) mat1 領域
が一望できる。CSHL 所長は、DNA の2重らせん構造を解明し
は euchromatin であるが、わずか 10 kb 離れたところ (mat2-
た James D. Watson 氏である。時々見かける老紳士が Watson
mat3 領域) は、heterochromatin であること、2) 異なる chro-
氏だと知ったときは感動した。当たり前だが、周りは外国人ば
matin domain 形成には histone H3 のリジン残基のメチル化が関
かりである。違う、自分が外国人なのだ。日本で偉そうにして
与していること、3) mating-type region の異なる chromatin
いた私は縮み上がり、小さい声でハローなどと言っては無視さ
domain は boundary elements (2kb の inverted repeat ) によって
れた。英語は聞き取れなかったが、ボスが親切丁寧に色々説明
区切られていることを明らかにした。興味のある方は、下記に
してくれるので、研究自体は、少しずつながら進んだ。研究を
示した、この夏に Science に発表したアメリカでの第一報をご
始めて 1 ヶ月も経たないうちに、研究棟セミナーで doctoral the-
覧頂きたい。以上が、私が留学前後に経験したこと及びその感
sis について話してくれと言われた。同じ研究棟に植物のトラン
想である。
スポゾンを研究しているグループがあったので、研究内容を聞
最後に、分子生物学を全く知らなかった私に熱心に研究指導し
かせてくれとのことであった。なるべく分かりやすく面白いと
て頂き留学に送りだしてくれた大坪先生と留学生活を献身的に
ころをかいつまんで話した結果、それなりに反響があったので
支えてくれている妻の優子に感謝したい。
研究内容を伝えられたと思う。最近でも、セミナーの準備には、
練習だと思って時間をかけるようにしている。それと、研究所
Noma K, Allis CD, Grewal SIS (2001) Transitions in distinct his-
付属の ESL (English Second Language) で英語を少しずつ勉強し
tone H3 methylation patterns at the heterochromatin domain
ている。未だに英語には問題があるが、急激に上手くなること
boundaries. Science 293, 1150-1155
もないだろうから気長に考えている。
研究環境について少し述べたいと思う。研究所によって異なる
平成12年3月、旧生物物理研究分野博士課程修了、同年4月
かもしれないが、CSHL は、研究者が研究するのに非常に最適
より10月末まで、同研究室において学振 PD。
13
留学生手記
分子情報研究分野 博士課程2年 金 池
日本の大学等で学ぶ留学生は平成11年5月1日の時点
の間に相互理解を増進
で55755人で、出身地域別に見ると日本の地理的、文
し、相互信頼に基づい
化的状況もあり、アジア地域からの留学生が全体の9割を
た友好関係を築いてい
占めているそうです。その中でも東京大学は留学生受け入
くことが極めて重要で
れ第1位の大学であり1864人の留学生が勉強している
ある。また、国家、社
のであります。分子細胞生物学研究所にも約30人の留学
会の発展にとって人的
生がいますので、留学生の存在は決して珍しいものではあ
能力の開発はその基盤
りません。
となるものであり、開
発途上国における人材
みなさんは留学生の存在についてどう思いますか?自分
養成への協力は今日ま
の lab に留学生がいたらその国の文化に触れられたり、挨
すます重要性を帯びて
拶言葉を学べたり、本場のカレーやキムチが味わえたりメ
きている。留学生を通じた国際交流は日本と諸外国相互の
リットもあると思いますが、決してメリットばかりではな
教育、研究国際化、活性化を促す国際理解の推進と国際協
いでしょう。留学生と言葉が通じなかったり(仮に言葉は
調の精神の醸成に寄与し、開発途上国の場合にはその人材
通じるとしてもその言葉に含まれるニュアンスや意味を分
養成に協力するところにその重要な意義を持つ。また、帰
かち合うのはなかなか難しかったり)、文化(慣習)の違
国留学生が日本とそれぞれの母国との友好信頼関係の発
いから戸惑った経験も多いと思います。
展、強化のための重要な架け橋となることも期待される>
そこで留学生交流が持つ意義について調べたいと思いま
これを読んでなるほど∼と思いました。個人的に留学異
した。文部省のホームページを見てみるとこういうふうに
文化に触れられ、自分の国ではできない研究ができ、多く
書いてありました。<21世紀を迎えて日本に対する国際
の研究者と知り合え、そして業績をあげられたら良いと思
的期待は一層強まり、日本の国際的に果たすべき役割もま
っていましたが、留学とていうのは国を始め周りのみんな
すます重要度を加えてきている。特にその存立と繁栄を諸
に助けてもらってこそできるものであるので個人的な自己
外国との円滑な関係の維持、発展に依存している日本とし
満足に留まってばいけないと改めて悟りました。
ては各分野における国際交流や広報活動を通じて諸外国と
14
〈第 6 回分生研シンポジウム開催のお知らせ〉
来る 11 月 15 日に第 6 回分生研シンポジウムが開催されます。ご参加をお待ちしております。
シンポジウムタイトル
「ポストゲノム研究 2001 :情報・機能解析・相互作用」
問 合 先
主 催:東京大学分子細胞生物学研究所
〒 113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1
後 援:
(財)応用微生物学研究奨励会・坂口基金
東京大学分子細胞生物学研究所
日 時:平成 13 年 11 月 15 日(木)午後 1 時より
会 場:東京大学弥生講堂・一条ホール(東大農学部構内)
高橋秀夫(Tel:03-5841-7825)
(E-mail:[email protected])
(東京都文京区弥生 1-1-1 TEL:03-5841-8205)
交 通:営団地下鉄南北線東大前下車 1 分。千代田線根津駅徒歩 7 分
参加費:無 料
プログラム
13:00 開会の辞
鶴尾 隆 (東京大学分生研所長)
13:05「ゲノムから個体へ−線虫発生の体系的遺伝子発現・機能・ネットワ−ク解析」小原 雄治 (国立遺伝学研究所)
13:45「ヒト完全長 c DNA 解析と機能予測システム」
西川 哲夫 (日立製作所中央研究所)
14:25「光合成生物のゲノム機能解析」
田畑 哲之 (かずさ DNA 研究所)
15:05 コーヒーブレイク
15:25「自立ゲノムから共生ゲノムへ−プラスチド転写装置のダイナミズム」 田中 寛 (東京大学分生研)
16:05「酵母ゲノムの機能解析:分子間相互作用からのアプローチ」
伊藤 隆司 (金沢大学がん研究所)
16:45「ゲノム情報を活用した大腸菌リポ蛋白質に関する細胞生物学的研究」 松山 伸一 (東京大学分生研)
17:25 閉会の辞
高橋 秀夫 (世話人代表)
(懇親会 18 : 00 ∼ 20 : 00
申し込みは当日会場にて)
分生研各賞受賞者紹介
分子細胞生物学研究所では、下記の先生方が各賞を受賞されて
おりますのでご紹介いたします。
((1)受賞された賞名、(2)受賞年月日、(3)受賞題目名、(4)研究内容)
有し、癌細胞に対して細胞老化を誘導した。
☆葛山智久 助手 (活性分子創生研究分野)
(1)天然有機化合物討論会奨励賞 (2)平成 12 年 11 月 7 日
☆加藤茂明 教授 (核内情報研究分野)
(3)非メバロン酸経路に関する研究:突然変異株の利用による反
(1)日本ビタミン学会学会賞 (2)平成 12 年 5 月
(3)ビタミンDの分子作用メカニズム
応機構の解明
(4)未解明な一次代謝経路、非メバロン酸経路の突然変異株を単
(4)ビタミンDの分子作用メカニズムについての最近の成果(ビ
タミンD研究は分生研移籍後集中的に進めた)について評価
された。特にビタミンDレセプター(VDR)の転写制御機能に
ついて、その転写共役因子群との機能的関連を明らかにした。
離し、その相補遺伝子の機能解析を行うことにより、非メバ
ロン酸経路の第3段階から第5段階の反応機構を解明するこ
とに成功した。
☆葛山智久 助手 (活性分子創生研究分野)
☆加藤茂明 教授 (核内情報研究分野)
(1)オーストリア骨代謝学会国際賞 2000
(2)平成 12 年 12 月
(1)農芸化学奨励賞 (2)平成 13 年 3 月 27 日
(3)新規イソペンテニル2リン酸生合成経路、「非メバロン酸経
(3)A study of molecular mechanism of vitamin D actions
(4)ビタミンDレセプター(VDR)KO マウスの作出(Yoshizwa et
路」に関する研究
(4)非メバロン酸経路の前半部分の反応経路の解明とそれらの反
al., Nature Genetics16:391, 1997)、このマウスからのビタミン
応を触媒する酵素を取得するとともに、標的未知であった抗
D鍵酵素の cDNA クローニングの成功及びその遺伝病の同定
(Kitanaka et al., New England Journal of Medicine 338:
菌剤 fosmidomycin が本経路の特異的阻害剤であることを証明
した。
653,1998)、更に VDR と TGF βとのクロストークの分子メカ
ニズムを解明した。
☆山口雅利 学振特別研究員 (細胞機能研究分野)
(1)日本植物細胞分子生物学会学生奨励賞
☆新家一男 助手 (活性分子創生研究分野)
(1)がん分子標的治療研究会奨励賞 (2)平成 13 年 6 月 21 日
(2)平成 13 年 7 月 30 日
(3)イネの細胞分裂の活性化機構に関する研究
(3)新規テロメラーゼ阻害物質 telomestatin に関する研究
(4)癌細胞に特異的に発現しているテロメラーゼに対する阻害剤
(4)植物の細胞分裂の活性化制御機構を解明する目的で、イネの
CDK 活性化キナーゼ(CAK)について生化学的な解析を行い、
を微生物代謝産物より探索し、新規物質 telomestatin を見出
した。本物質はテロメラーゼに対し強い活性と高い選択性を
その機能について明らかにし、またその相互作用因子を同定
した。
15
平成 13 年度科受託研究・共同研究一覧(2001.6.1 以降追加分・ 8 月末現在)
〈受託研究〉
◆大坪 久子講師 染色体動態研究分野
◆宮島 篤教授 機能形成研究分野
独立行政法人農業生物資源研究所
科学技術振興事業団
サイトカインによる造血細胞の増殖分化の制御
1,000 千円
◆秋山 徹教授 分子情報研究分野
独立行政法人農業生物資源研究所
1,300 千円
細胞分裂の活性化に伴い発現の変化する遺伝子
4,791 千円
◆後藤由季子助教授 情報伝達研究分野
◆豊島 近教授 生体超高分子研究分野
科学技術振興事業団
科学技術振興事業団
G 蛋白質共役受容体の結晶構造解析
4,845 千円
◆梅田 正明助教授 細胞機能研究分野
第一製薬株式会社
癌細胞における APC シグナル系の役割
各種ストレスにより転移が誘導される遺伝因子
660 千円
生のシグナル伝達機構の解析
600 千円
〈共同研究〉
◆新家 一男助手 活性分子創生研究分野
◆宮島 篤教授 機能形成研究分野
第一製薬株式会社
第一製薬株式会社
マウス由来細胞株の樹立に関する研究
2,600 千円
天然生理活性物質に関する研究
1,050 千円 ◆後藤由季子助教授 情報伝達研究分野
〈奨学寄附金受入状況〉(平成 13 年 8 月末現在)
第一製薬株式会社
神経細胞死の機構の解析
1,000 千円
総件数 23 件 総額 36,400,000 円(内 500 万円を超えるものはなし)
◆秋山 徹教授 分子情報研究分野
科学技術振興事業団
内分泌かく乱物質が減数分裂、相同組み換えに与える影響
440 千円
16
耐震補強工事の完了報告
用度掛長 田村 吉弘
用度掛長の田村です。今回、分子細胞生物学研究所(以
養生を行い埃などが入らないようにしていたにもかかわら
降「分生研」)耐震補強工事について、分生研ニュースに
ず、研究室内に埃などが入ったり、作業中に窓ガラスが割
原稿を書くよう依頼を受けましたが、何分にも、私が分生
れたりとアクシデントが期間中度々あり、関係各研究分野
研に異動してくる以前の平成12年度実施ということもあ
には大変ご迷惑をおかけしました。また、当掛としても年
り、残っている資料等をもとに書こうと思います。
度末という事もあり、あわただしい中、対応に追われる毎
平成12年9月中頃に、施設部、分生研、農学部の三者
日でした。アクシデントは、耐震補強工事終了後も復旧し
において、耐震補強工事についての打ち合わせがありまし
たはずの空調の調子が悪かったり、漏水が発生したりと、
た。そこで、農学部2号館別館とともに分生研の建物につ
しばらくの間続いていました。
いても屋外から柱を強化し、耐震性能をアップするピタコ
このような状況でしたが、研究所の皆様方のご協力と施
ラム工法による耐震補強工事を検討している旨の説明が施
設部をはじめとする各担当者の方々のご苦労により、無事
設部からありました。これを受けて、用度掛は先生方と打
耐震補強工事は12年度に終了しました。
ち合わせを行いながら工事対象となる場所の状況調査、関
また、年度末の工事ということもあり、当時の研究所、
係設備の調整連絡先の確保、工事実施に伴う問題点の洗い
施設部をはじめ、この工事の関係担当者の苦労は相当なも
出し等を行いました。
のであったと思います。ここに感謝の意を表します。
特に実験研究用の動物に影響があることや、大学院生の
論文作成時期にあたること等から、工事に伴う振動、騒音、
塵、埃などの発生が問題となったため、実験用動物の飼育
用無菌室や各分野の研究室の環境維持、作業する時期や順
番などについての所内意見を取り纏め等を行い、12月に
施設部へ要望書を提出しました。そして同月初旬に施設部
にて入札が行われ、業者が決定しました。
スケジュールは、1月に空調機・ダクト等耐震補強工事
を行うにあたっての障害設備の撤去及び同工事期間中実験
用動物の飼育用無菌室等必要最低限の空調仮設工事を行
い、2∼3月に耐震補強及び空調機・ダクトの復旧工事を
実施することが決定しました。実際、工事が進むに連れ、
留学生と教職員の懇談会開催
留学生及び教職員が、相互に理解を深め、分生研の研究
活動のますますの活性化を図るため、さる7月 19 日(木)
午後6時より東京大学農学部生協食堂において、平成 13 年
度分生研留学生と教職員の懇談会が行われました。
この会には、分生研で勉学・研究する留学生のほか、丸
尾、池田、瀬戸各名誉教授、木下応用微生物学奨励会理事
長及び関係者、鶴尾所長はじめ本研究所教職員等 70 名以上
の方が参加しました。内藤助教授、梅田助教授の司会進行
のもと、鶴尾所長のあいさつ、木下奨励会理事長の乾杯の
後、歓談にはいり、多くの交流がもたれました。
17
研究室名物行事 「研究室旅行」
細胞増殖研究分野 片山 量平
解放され、皆、遅くまで様々な話に花を咲かせていました。
翌日は朝の温泉でリフレッシュし、美しい庭園のツツジ
の前で写真を撮って宿を出発。湯本を散策しつつ鶴尾教授
のお宅へと向かいました。お腹をすかせハイエナの様にな
りながら山の中腹にある教授のお宅を目指しました。日頃
慣れないため、炭に火がつくまでにやや手間取りましたが、
火がつくと、一斉に大量のおいしい肉、肉、肉、野菜!に
群がりました。陶芸をなさる鶴尾教授の作品に盛られた料
理は、美味しく、あっという間にハイエナ達のお腹へと消
えていきました。美味しいシャンパン、ワインに舌鼓を打
ちながら、めいめ
毎年恒例の研究室旅行が今年も5月に開催されました。
毎回修士1年生が担当しそれぞれが工夫をこらした旅行が
いがこれからの研
行われます。今年は鶴尾教授のお宅でのバーベキュー大会
究室生活へのエネ
と併せた企画で、箱根1泊2日旅行となりました。初日は
ルギーを貯えたの
強羅、大涌谷、芦ノ湖というオーソドックスなコースをま
ではないかと思い
わりました。天候にもまずまず恵まれ、新緑の中を散策し、
ます。
しばし都会の雑踏、喧騒から離れたひとときを過ごすこと
毎年恒例の研究
が出来ました。その日の宿は、中曽根康弘氏御用達という
室旅行は、来年は
由緒ある旅館(しかも温泉はほんものの硫黄泉!)でした。
どんな企画がされ
温泉で1日の疲れをいやした後は宴会室、カラオケセット
るのか、楽しみで
を貸し切り、盛大な宴会となりました。その夜は日常から
す。
お店探訪
奴寿司
細胞機能研究分野 小池 綾子
夏バテ気味で食欲がないけれど、さっぱりした物ならノ
と書かれた黄色の旗が 20m ほど先にはためいているのが目
ドを通りそう・・・という方に、ランチタイムサービスの
に入ります。そこが今回ご紹介する『奴(やっこ)寿司』
あるお寿司屋さんをご紹介します。本郷通りを駒込方面に
です。ランチメニューは、にぎり寿司、ちらし寿司、いく
向かい、文京短大
ら丼、鮪丼の四種類。全て 1000 円でお吸物が付きます。な
を越え、初めの信
んと、うれしいことに、ご飯を多めにしてもらっても同じ
号を右に折れると
お値段だそうです。愛想のいいご夫婦が迎えてくれます。
“ランチタイム”
是非一度いらしてみて下さい。
日本医大
水野
ストアー
一炉庵
住 所
文京区向丘2-10-20
T E L
03-3812-3835
(☆出前は一人前から 0K です!)
駐
車
場
至王子
本
郷
通
営業時間 11:30 ∼ 14:00
本郷追分
り
(ランチタイム)
至赤門
17:00 ∼ 22:00
文京短大
定休日
毎週水曜日、第3木曜日
18
掲示板
〈知ってネット〉
職員の異動について
下記のとおり職員の異動がありましたのでお知らせします。
○【辞職】平成 13 年 6 月 30 日付
木下大成 助手 (機能形成研究分野)
○【新規採用】平成 13 年 8 月 1 日付
田中 稔 助手 (機能形成研究分野)
平成13年度分生研レクリェーション行事予定
本年度の所内レクリェーション行事を下記のとおり予定して
います。皆さん奮ってご参加ください。詳細についてはその都
度、掲示等でお知らせします。
なお、開催時期は前後する場合があります。
(行事)
(開催予定時期)
映画鑑賞 13年10月
テニス 13年10月
ソフトボール 13年11月
卓球 13年11月
バドミントン 13年12月
ボウリング 14年 2月
研究助成等公募(2001.8.25 現在)
詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。
℡ 03-5841-7803 / E-mail:[email protected]
最新の情報は、ホームページで公開しております。
http://imcbns.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html
平成 13 年度研究助成費の募集
(財団法人中山隼雄科学技術文化財団)募集先
2001.10.15 締切
13RITE 優秀研究企画募集
(財団法人地球環境産業技術研究機構)募集先
2001.10.31 締切
平成 14 年度笹川科学研究助成募集要領
(財団法人日本科学協会)募集先
2001.10.31 締切
教官公募(2001.8.25 現在)
詳細は分生研研究助成掛へお問い合わせ下さい。
℡ 03-5841-7803 / E-mail:[email protected]
最新の情報は、ホームページで公開しております。
http://imcbns.iam.u-tokyo.ac.jp/office/keijiban.html
名古屋大学助教授1名(大学院生命農学研究科)
2001.10.19 締切
Tea Time−編集後記
皆様に支えられて、ここに「分生研ニュース」編集委員長の
任期を無事終えることができます。2 年間のご協力に心よりお
礼申し上げます。次号からは長澤和夫先生を新委員長に新しい
編集委員会が担当しますので、これまでと同様、ご支援をお願
いいたします。(細胞形成研究分野・松山伸一)
とうとう最後の編集後記を書くことになりました。編集委員
を仰せつかった時には長く長く思えた2年間8号分でしたが、
あれ?もう?というのが実感です。(いや、もう一期やる元気は
ありません。)おかげでこれまで何の気なしに手に取っていたい
くつかの広報誌についても、きっと似たようなプロセスで発行
されているのだろうなあ、などとちょっと共感(同情?)でき
るようにもなりました。
内輪向けになりますが、編集委員の皆さん、特に委員長の松
山先生にはお世話になりました。本務だけではほとんど接点な
い皆さんと、こうして知り合うことができたのは役得というも
のでしょう。2年間、ごくろうさまでした。最後になりました
が、お忙しい中をご執筆、ならびにご協力いただいた皆様に感
謝いたします。(生体超高分子研究分野・前田達哉)
今年初めて分子生物学会の年会に保育室が設置されることに
なった。勿論、年会長はじめ年会本部の多大な協力があってこ
その実現であるが、中心になってがんばった30代前後のヤン
ママ研究者(!?)の皆さんのこわいもの知らずのエネルギー
は、傍で見ていてなかなか気持ちがよかった。子供をもつ女性
研究者は、いつもきわどいバランスをとりながら出しうる限り
の最高の力を出そうと努力している。あと、20年もたって、
彼女たちが私の年代に達したとき、「研究も子育ても楽しかっ
た!!」と笑顔で言える時代だといいなと切に願う。分生研ニ
ュース編集部在籍中は、国内外で活躍している OB、OG に原稿
を依頼することが多かった。彼らの10年後、20年後も楽し
みにして編集後記としたい。
(染色体動態研究分野・大坪久子)
分生研ニュースの編集に携わって2年が経ち、自分が担当す
るのはこれが最後になりました。2年前は自分の普段の仕事以
外に編集の仕事もするなんて大丈夫だろうかと不安に思ったの
ですが、みなさんの協力もあり無事に務め上げることが出来ま
した。ありがとうございました。自分が担当した記事は少なか
ったのですが、それでも多くの人と接する機会を得る事が出来
て、良い経験になったと思います。次の号から新しいメンバー
でスタートしますが、今のメンバーで作り上げていった物がど
のように変わっていくか楽しみです。(生体超高分子研究分野・
野村博美)
分生研への在籍は長く(なんと今年で10年目)、自他共に認
める「お局技官」の私でしたが、実は所内のことには疎く、所
全体のことについて考えるチャンスは殆どありませんでした。
しかし、この二年間の編集委員の仕事を通じて、少しは分生研
への理解が深まったように思います。原稿集めをしたり、校正
をしたりと、その一つ一つは心ときめく作業ではありませんが、
普段は縁遠い仕事なので良い経験になりました。(お役にたてた
かどうかは疑問ですが・・・)次号からは新しいメンバーでの
新しい分生研ニュースを楽しみにしています。(細胞機能研究分
野・梅田千景)
分生研ニュース第16号
2001年10月1日号
発行 東京大学分子細胞生物学研究所
編集 分生研ニュース編集委員会(松山伸一、松尾美鶴、前田達哉、大坪
久子、野村博美、梅田千景、小野口幸雄)
お問い合わせ先 編集委員長 松山伸一
電話 03-5841-7831
電子メール [email protected]
分生研 URL http//www.iam.u-tokyo.ac.jp
19
共通機器紹介 染色体・細胞情報解析システム
「染色体・細胞情報解析システム」は、平成 6 年度に施設
整備費として申請が認められたもので。その後、維持費も
認められ、分生研の共通機器の中でも最重要な機器システ
ムの一つとなっている。特記すべきは、本システムが共通
機器室の整備の一環として入れられたことであろう。現在
の地下 5 号室は、当初は洗びん室などとして使われていた
が、それを共通機器室として改装整備したものである。本
システムを構成する機器としては、FluorImager
(Molecular Dynamics)、DNA シークエンサー(LIC)、共焦
点レーザー走査顕微鏡(ライカ TCS4D)等が含まれる。前
の 2 つは、蛍光イメージアナライザーとシークエンサーで
あり、良く知られているので、最後の共焦点レーザー顕微
鏡についてその特徴、利用状況等について述べる。
共焦点レーザー顕微鏡の大きな特徴は、通常の光学顕微
写真1.共焦点レーザー走査顕微鏡(ライカ TCS4D)
鏡では得られない無限遠焦点深度の立体画像が得られるこ
尚、本システムの申請、並びに地下 5 号室の改装に分子
とにある。本装置では、試料全体に照明光をあてず、光ビ
遺伝(育種)の高橋が関わった関係で、管理は分子遺伝で
ームを試料のある深度の一点に焦点を絞り照射し、その位
担当している。また、特に共焦点レーザー顕微鏡の導入に
置から発する光のみをディテクターで検知し、さらに、そ
当たっては、当時の染色体分子構造解析(現、形態形成)
の光ビームを空間的に走査することにより、透過光(微分
研究分野に赴任直前の多羽田先生はじめ何人かの先生方に
干渉像)、及び蛍光等の三次元画像を構築するものである。
ご助言を頂いた。細胞工学(現情報伝達)研究分野の矢部
本装置は、蛋白質を蛍光標識した抗体を使って、細胞内の
先生には、本機器の保守・運用について尽力を頂いている。
蛋白質の局在化を確認する上で、必須な道具である。細胞
(分子遺伝研究分野 高橋秀夫)
から多数の情報が得られるように、空冷アルゴン/クリプ
トンレーザー、水冷アルゴン UV レーザーを光源とており、
多重染色画像(四画像同時取り込み、三画像同時表示可能)
がリアルタイムで得られる。
分生研での利用状況は、以下のとおりである。
1)アルツハイマー病の原因プロテアーゼの解析
2)抗癌剤処理による癌細胞内のオルガネラおよびアポ
トーシス関連タンパク質の局在変化
3)シロイヌナズナで葉の横幅方向への極性伸長を制御
する遺伝子、AN の機能を知る目的で、an 変異体に
ついて、葉の細胞における microtubule の配向解析
への影響を解析
4)脳卒中やアルツハイマー病の原因となる因子による
神経細胞死から、神経細胞を保護する物質の作用解
析
5)転写因子によるプロモータ制御の解析
6)ショウジョウバエ翅の形態形成解析
7)巨大化微生物細胞の形態、染色体観察
写真2.タバコ緑葉の気孔孔辺細胞で発現した核移行シグナルを融合した緑
色蛋白質(NLS-GFP)の蛍光像。GFP 蛍光(左上)、葉緑体自家蛍光
(右上)、微分干渉像(左下)、および重ね合わせ像(右下)。(藤原
誠博士提供(現理化学研究所)
20
研究紹介
タンパク質膜透過を駆動する SecA-SecG の
構造変化
ショウジョウバエ翅パターン形成におけるモルフォ
ゲン勾配を調節するネガティブフィードバック機構
細胞形成研究分野 西山 賢一
形態形成研究分野 常泉和秀
細胞質以外に局在するタンパク質は、細胞
ショウジョウバエ翅形成過程において TGF
質で合成された後、最終局在地に輸送され
β super family に属する DPP (decapenta-
る際、一度は必ず生体膜を透過する必要が
plegic)は、モルフォゲンとして前後軸にそ
ある。この過程は遺伝子発現の最終段階の
ったパターンを決定している。
一つと位置付けられる。我々は大腸菌を用
我々は DPP により誘導される標的遺伝子
いて、分泌タンパク質が細胞質膜(内膜)
として dad (daughters against dpp)を同定
を透過する分子機構について研究している。大腸菌の細胞質膜に
し、その作用が DPP シグナルの細胞内情報伝達因子である
は SecY、SecE、SecG からなる膜透過チャンネルが存在し、タン
Mothers against dpp (Mad)に抑制的に働くことを示し、DPP モ
パク質膜透過はこのチャンネルを介して進行する。SecGは、膜透
ルフォゲンによる翅形成機構に negative feedback loop が内包さ
過反応を著しく促進する膜内在性因子として、我々が発見した因
れていることを明らかにした。
子である(1,2)。SecG は膜を 2 回貫通し、N 末端と C 末端領域を細
dad 変異株における翅成虫原基および成虫翅での DPP シグナル
胞の外側に露出する配向性を取るが、膜透過反応中は配向性が反
の指標を観察した結果より、dad が DPP モルフォゲンの活性勾
転、回復するサイクルを繰り返していることが明らかとなった(3,
配を調節することを示した。一方、dad 変異株の翅成虫原基で
図参照)。膜タンパク質で、膜横断的にダイナミックに構造が変
は wing pouch において過剰の細胞死が観察されており、dad が
化することが明らかとなったのは SecG がはじめての例である。
細胞死に関与することが示唆されている。dad 変異状況下で dpp
SecA は ATPase 活性をもち、ATP の結合、加水分解に応じて膜挿
および Mad を過剰発現させた場合に細胞死が亢進することか
入-脱離サイクルを繰り返し、この構造変化が膜透過の直接的な駆
ら、この細胞死は DPP シグナル依存的であることが示されてい
動力であると考えられている(図参照)
。SecA の膜挿入-脱離サイ
る。この細胞死に関与すると考えられる新規遺伝子の探索を行
クルは SecG の反転-回復サイクルと連動する(4,5)。膜内で SecG は
い、dad と強い相互作用を示す致死変異系統を樹立した。現在
グリースのように働き、SecA サイクルが円滑化されるため膜透過
この原因遺伝子 Enhancer of dad(E(dad))を同定し、その機能解
活性が促進される。実際、不飽和脂肪酸組成が上昇し膜の流動性
析を行っている。これまでに E(dad)の変異クローンにおいて著
が高まると、SecG 要求性は低下する(6)。タンパク質膜透過には
しい分裂・増殖能の低下が観察されている。TGF βの多くの作
ATP だけでなくプロトン駆動力も必要である。プロトン駆動力の
用の一端として増殖停止・細胞死があげられており、E(dad)が
作用機作については長い間不明な点が多かったが、プロトン駆動
そのメカニズムの解明の手がかりになることを期待している。
力も SecA サイクルに影響を与えていることが判明した。すなわ
E(dad)および dad の解析を通して DPP シグナルと細胞増殖およ
ち、プロトン駆動力により ATP の加水分解を必要とせずに膜挿入
び細胞死との接点がどのようになっているのかを明らかにした
SecA が脱離し、その結果 SecA サイクルが加速される(7,図参照)。
いと考えている。
現在、SecGが反転したとき、あるいはプロトン駆動力が形成され
たとき、膜透過装置内での因子間相互作用変化について研究を進
めている。
1. Nishiyama et al. (1993) EMBO J., 12, 3409-3415.
2. Nishiyama et al. (1994) EMBO J., 13, 3272-3277.
dad
3. Nishiyama et al. (1996) Cell, 85, 71-81.
negative feedback model
a
DPP
4. Suzuki et al. (1998) Mol. Microbiol., 29, 331-342.
5. Suzuki et al. (1999) J. Biol. Chem., 274, 31020-31024.
c
b
PUT TKV
SAX
6. Sugai et al. (2001) J. Bacteriol., 183, in press.
P
MAD
7. Nishiyama et al. (1999) EMBO J.,18, 1049-1058.
ペリプラズム
(SecG)
dpp
dad
Phosphorylated MAD
ATP
SecYE
SecYE
プロトン駆動力
細胞質膜
P
ADP+Pi
(SecG)
細胞質
(SecA)
(SecA)
膜透過装置における SecA と SecG の構造変化。左から右への構造変化により
分泌タンパク質の膜透過が 20 ∼ 30 アミノ酸分進行する。
sal
omb
Target gene expression
dad
dad/E(dad)
Cell death