歌の翼に Sop.佐伯春奈 - 中央大学音楽研究会混声合唱団

Auf Flügeln des Gesanges
歌の翼に
F. Mendelssohn
F.メンデルスゾーン
Sop.佐伯春奈
Auf Flügeln des Gesanges は、ドイツ初期ロマン派の作曲家フェリックス・メンデ
ルスゾーンによる 1836 年発表の歌曲集 Sechs Lieder op.34 の第 2 曲である。この曲
自体は 1834 年、デュッセルドルフでの指揮者時代に作られた。メンデルスゾーン
の歌曲のなかでも特に人気を誇り、声楽だけではなく、ヴァイオリンなどの独奏用
に編曲されるなど、様々な形で演奏が行われている。
詩はハイネによるもので、当時はおとぎの国と考えられていたインドなど、オリ
エンタルなものへのロマンティックなあこがれが反映されているといわれている。
ハイネの詩の中では珍しくストレートな幸福感溢れるものであるが、実際には、存
在しない理想郷をガンジス川の情景を借りて歌ったもので、メンデルスゾーンの
美しい旋律の中にもどこか陰りが見えるようである。
Auf Flügeln des Gesanges,
Herzliebchen, trag ich dich fort,
fort nach den Fluren des Ganges,
dort weiß ich den schönsten Ort.
歌の翼に
愛しき君を乗せて飛び立とう
ガンジス川の沃野へと
そこにどこよりも美しい場所を知っ
ている
Dort liegt ein rotblühender Garten
im stillen Mondenschein;
die Lotosblumen erwarten
ihr trautes Schwesterlein.
そこには赤い花の咲く庭があって
静かな月の光に照らされている
スイレンの花が
親愛なる少女であるあなたを待って
いる
Die Veilchen kichern und kosen,
und schau’n nach den Sternen empor;
heimlich erzählen die Rosen
sich duftende Märchen ins Ohr.
スミレは微笑み、戯れて
そして空の星を見上げる
バラは耳元でひそかに
芳しいおとぎ話を語り合う
Es hüpfen herbei und lauschen
die frommen, klugen Gazell’n;
und in der Ferne rauschen
des heilgen Stromes Well'n.
そこへ跳ね寄って耳を澄ませるのは
従順で賢いガゼルたち
そして遠くでさざめくのは
聖なるあの大河のさざ波
Dort wollen wir niedersinken
unter dem Palmenbaum,
und Lieb’ und Ruhe trinken,
そこで二人で
シュロの木の下で横になり
愛と安らぎを酌み交わして
E Amore un ladroncello
恋は小さな泥棒
W.A.Morzart
W.A.モーツァルト
Alt.赤崎澪里
皇帝ヨーゼフ 2 世の依頼により作曲されたオペラ『コジ・ファン・トゥッテ』はモーツァルト
晩年の作品である。
18 世紀末のナポリで、2 人の軍人が彼らの恋人である姉妹の貞節をかけて老哲学者と
賭けをする。彼らは戦争に行くふりをして、恋人に別れを告げた後、裕福なアルバニア人
に変装。自殺のふりまでしてお互いの恋人を口説き、さらに、姉妹の小間使いが浮気を勧
める。その甲斐あって心変わりしてしまった妹が、姉に恋の喜びを語るのがこの曲である。
自分の気持ちに正直で、天真爛漫な女性の心が、美しい旋律によって奏でられている。
E amore un ladroncello,
un serpentello e amor.
Ei toglie e da la pace,
come gli piace ai cor.
恋は小さな泥棒、
恋は誘惑の蛇。
心に安らぎを与えたり、奪ったり、
思いのまま。
Per gli occhi al seno appena
un varco aprir si fa,
che l'anima incatena
e toglie liberta.
恋は私たちの目を通して
心に道をあけ
あっという間に心を金縛りにし
自由を奪ってしまう。
Porta dolcezza egusto
se tu lo lasci far,
ma t'empie di disgusto,
se tenti di pugnar.
恋の為すがままにさせれば、
甘い楽しい思いができる
でも、さからえば、
みじめな思いがやってくる。
Se nel tuo petto ei siede,
s'egli ti becca qui,
fa’ tutto quel ch’ei chiede,
che anch'io faro così.
もし恋が胸に忍び込んだら、
あとは任せましょう、
私もそうするつもりよ。
Warnung
いましめ
W.A.Mozart
W.A.モーツァルト
Bas.福田光一
この曲はもともと歌曲として作られたものではなく、バスのための演奏会用ア
リアとしてかかれた。娘を持つ父親への警告の歌で、詩人は不明。バスのための曲
であるが、ソプラノによってよく歌われる。
weiß man sie zu überraschen.
男たちを放っておくと、
つまみ食いをしようと
いつも虎視眈々、
娘たちの不意をつく手を
知っていれば、
彼女たちを籠絡するのはいとも簡単。
Soll das zu verwundern sein?
Mädchen haben frisches Blut,
und das Naschen schmeckt so gut.
それは不思議なことだろうか?
娘たちは新しいものが好きだし、
つまみ食いの美味しさはまた格別。
Doch das Naschen vor dem Essen
Nimmt den Appetit.
Manche kam, die das vergessen,
um den Schatz, den sie besessen,
und um ihren Liebsten mit.
でも食事の前につまみ食いをすると
食欲を失うのは当たり前。
それを忘れた娘たちは、
それまで持っていた大切なものや、
最愛の人まで失った。
Väter laßt euchs Warnung sein,
世の父親たちよ、お前たちの
いましめとするがいい、
甘いものが置いてある場所に
鍵をかけなさい!
娘たちを家に
とじこめておきなさい!
Männer suchen stets zu naschen,
läßt man sie allein,
leicht sind Mädchen zu erhaschen,
sperrt die Zuckerplätzchen ein!
Sperrt die jungen Mädchen ein!
In diesen heil’gen Hallen
この神聖な殿堂には
W.A.Mozart
W. A.モーツァルト
Bas.小野裕志
この曲はモーツァルト作曲のオペラ、
『魔笛』に登場する大司祭ザラストロのア
リアである。
第 2 幕の中盤、夜の女王の有名なアリア、
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃
え」の後に歌われる。夜の女王はアリアにて娘のパミーナにザラストロを刺し、自
らの復讐を成し遂げよと熱烈な思いを語る。その後ザラストロに母のこと、復讐の
ことを打ち明けたパミーナに向けて歌われるのがこのアリアだ。夜の女王のアリ
アとは対照的に、全体を通して愛についての教えと理想が歌われる。
In diesen heil’gen Hallen,
Kennt man die Rache nicht!
Und ist ein Mench gefallen,
Führt Liebe ihn zur Pflicht.
Dann wandelt er an Freundes Hand
Vergnügt und froh ins beß’re Land.
この神聖な殿堂には
復讐を知る者はない。
そしてその人がつまずけば
愛により義務へ導かれる。
そして友の手に導かれ
満たされより良い国へと至る。
In diesen hel’gen Mauern,
wo Mensch den Menschen liebt,
kann kein Verräter lauern,
weil man dem Feind vergibt.
Wen solche Lehren nicht erfreu’n,
verdienet nicht ein Mench zu sein.
この聖なる城内は
人と人とが愛し合う。
裏切り者は現れない
ここでは敵も赦すのだ。
このような教えを喜ばないものは
人の名に値しない。
Erlkönig
魔王
F.P.Schubert
F.P.シューベルト
Bas.山下達也
魔王は、シューベルトが 1815 年頃に完成させた歌曲である。この曲の特徴は
なんといっても自由な転調とピアノ伴奏である。特に、子供の声、魔王の部分は
出てくるたびに調が変化し、緊張感を高めている。また、ピアノ伴奏では 3 連符
の和音が曲の終始にわたって鳴り続け嵐の中を駆ける馬を表現し、左手の音階音
型で忍び寄る魔王の恐ろしさが表現されている。歌の最後はレチタティーヴォ
で、ピアノの主和音で締めくくるのも印象的である。
Wer reitet so spät
durch Nacht und Wind?
Es ist der Vater mit seinem Kind;
Er hat den Knaben wohl in dem Arm,
Er faßt ihn sicher, er hält ihn warm.
夜風の中この遅くに
馬を走らせるのは誰か?
それは子供を抱えた父親だ
子供を腕の中に抱えこみ、
しっかりと暖かく抱いている。
Mein Sohn, was birgst du
so bang dein Gesicht?
Siehst, Vater, du den Erlkönig nicht?
の?
Den Erlenkönig mit Kron’ und Schweif?
「坊や、なぜそんな怖そうに
顔を隠すのだ?」
「お父さん、魔王が見えない
Mein Vater, mein Vater,
und hörest du nicht,
Was Erlenkönig mir leise verspricht?
Sei ruhig, bleibe ruhig, mein kind;
In dürren Blättern säuselt der Wind.
「お父さん、お父さん、
聞こえないの?
魔王が囁きかけるのが?」
「落ち着きなさい、坊や。
枯れ葉が風に
冠をかぶって尾を垂らす
魔王の姿が?」
Mein Sohn, es ist ein Nebelstreif.
「坊や、あれは
霧がたなびいているのだ。
」
Du liebes Kind, komm, geh mit mir!
「かわいい子、おいで、
一緒に行こう!
Gar schöne Spiele spiel’ ich mit dir;
とても面白い遊びをしよう。
Manch bunte Blumen sind
岸には綺麗な花が
an dem Strand;
たくさん咲いているし、
Meine Mutter hat manch gülden Gewand.
わしの母さんは黄金の服を
たくさん持っているよ。」
ざわめいているのだよ。」
Willst, feiner Knabe, du mit mir gehn?
「かわいい子だ、
一緒についてこないかい?
Meine Töchter sollen dich warten schön;
わしの娘たちが
お前をお守してくれるよ。
Meine Töchter führen
娘たちは夜通し
den nächtlichen Reihn,
輪舞の音頭を取り
Und wiegen und tanzen und singen dich ein. 揺すり歌い踊り、
お前を寝かせてくれるよ。」
Ich liebe dich,
mich reizt deine schöne Gestalt;
Und bist du nicht willig,
so brauch ich Gewalt.
「お父さん、お父さん、
あそこに見えないの、
暗いところにいる魔王の娘が
見えないの?」
「坊やよ、坊や、
私にはちゃんと見えるよ。
あれは古い柳の木が
灰色に見えるのだ。
」
「わしはお前が好きだ、
美しい姿にぞくぞくする。
おまえが来ようとしないなら
力ずくでも連れていくぞ。
」
Mein Vater, mein Vater,
jetzt faßt er mich an!
Erlkönig hat mir ein Leids getan!
「お父さん、お父さん、
魔王が僕を離さない!
僕にひどいことをする!」
em Vater grauset’s, er reitet geschwind,
父親はぞっとして、
馬を全速力で走らせる。
うめく子供を両腕にかかえ、
やっとの思いで家に辿り着くと
その腕の中で子供は死んでい
Mein Vater, mein Vater,
und siehst du nicht dort
Erlkönigs Töchter am düstern Ort?
Mein Sohn, mein Sohn,
ich seh‘es genau:
Es scheinen die alten Weiden so grau.
Er hält in Armen das ächzende Kind,
Erreicht den Hof mit Müh‘ und Not;
In seinen Armen das kind war tot.
た。
Der Tod und das Mädchen
死と乙女
F.P.Schubert
F. P.シューベルト
Bas.金山拓土
作詞者はドイツの詩人マティアス・クラウディウス(1740-1815)。シューベルト
はクラウディウスの詩からなどいくつかの歌曲を作っており、一説には有名な「子
守唄(Wiegenlied, D498)」もクラウディウスの作詞といわれている。クラウディウス
はしばしば「死」を題材とする詩を作っており、その多くはキリスト教の死生観に
基づいて、
「死」は恐れるものではなく、最後の審判の時に、キリストが全ての魂
を復活させるまでの一時的な安息の時間として描いている。
(Das Mädchen):
"Vorüber! ach, vorüber!
geh, wilder Knochenmann!
Ich bin noch jung, geh, Lieber!
und rühre mich nicht an."
(乙女):
「見逃して!ああ、見逃して!
来ないで、暴虐な骸骨よ!
私はまだ若いの、行ってください
心ある方!
どうか、私に触らないで」
(Der Tod):
(死):
"Gib deine Hand,
「その手をお出し、
du schön und zart Gebild’,
美しく繊細な創造物よ、
bin Freund und komme nicht zu strafen. 私はおまえの友、
罰しに来たわけではない。
Sei gutes Muts!
落ち着きなさい!
ich bin nicht wild,
私は暴虐ではない、
sollst sanft in meinen Armen schlafen." 私の腕の中で
穏やかに眠りなさい」
Star vicino
君がそばに
S . Rosa
S.ローザ
Sop.羽山莉菜
サルヴァトール・ローザ(1645-1673)は、イタリア出身の作曲家であり、画家
や詩人としても有名であった。幼少期から芸術にも興味を示しており、画家として
は 18 世紀から 19 世紀にかけてイギリスで高評価を得ているほどである。
この曲は、純朴な旋律と、愛の歓び・苦しみを歌った小さな美しい歌である。
1 番と 2 番は同じメロディが繰り返されるが、それにつけられた詩の意味は正反対
だ。喜びも苦しみも「愛」の両面であるということを示すかのようである。
Star vicino al bell'idol che s'ama,
è il più vago diletto d'amor!
愛する美しい偶像のそばにいること
それは一番すばらしい愛の歓びである
Star lontan da coleì che si brama, 恋い焦がれる女から遠く離れること
è d'amor il più mesto dolor!
それは最もつらい愛の苦しみである
Le violette
菫
A. Scarlatti
A.スカルラッティ
Sop.太田裕美
イタリアの作曲家であるアレッサンドロ・スカルラッティ(1660-1725)の作品
である。スカルラッティはオペラとカンタータにおいて著名であり、その数々は流
麗さと豊かな表現力を兼ね備えていた。
この歌は歌劇「ピッロとデメートリオ」の中でマーリオという男性が歌うアリア
である。現在では女性によって歌われることが多い。軽快で可愛らしい伴奏と歌に
よって、この歌の題名である菫の可憐で優美な様が描かれている。
Rugiadose, odorose
violette graziose,
voi vi state vergognose,
mezzo ascose ―fra le foglie
e sgridate le mie voglie
che son tropp’ambiziose.
露に濡れて香る
優美なすみれたち
お前たちは恥じらいながら
半ば葉の陰に隠れ、
あまりにも野心的な
私の欲求を咎めている。
Sento nel core
私は心に感じる Ten.横田昂大
A.Scarlatti
A.スカルラッティ
バロック期の作曲家、スカルラッティは、ナポリ楽派の始祖と呼ばれる人物であ
り、古典派への橋渡しの役割も務めた人物である。
この曲は、スカルラッティによって作曲されたダ・カーポ・アリアであり、多く
の声楽家たちに親しまれている。静かな伴奏にのせて、芽生え始めた愛を美しく表
現している作品である。
Sento nel core certo dolore,
che la mia pace turbando va.
私は平安をかき乱す
苦しみのようなものを感じる。
Splende una face che l’alma accende, 魂を燃え立たせる
ひとつの松明が輝く。
se non è amore, amor sarà.
もしこれが愛でないとしても、
やがて愛になるだろう。
Lasciar d’amarti
F.Gasparini
貴女への愛を捨てること
F.ガスパリーニ
C.T.押目圭太郎
フランチェスコ・ガスパリーニ(1668-1727)はトスカーナ大公国のマイオーレ
で生まれた。ヴェネツィアのピエタ慈善院の合唱長やローマのサン・ジョヴァンニ
教会の楽長を務め、没年の 1725 年までには、教会音楽が中心であるが、オペラや
カンタータなどを含めると作曲数は 65 曲以上に及ぶ。
作詞者は未詳。曲は A-B-A のダ・カーポ形式で、短い前奏の低音が歌の旋律
を先取りし、愁いを帯びた歌を引き出す。
Lasciar d’amarti per non penar,
caro mio bene,non si puó far.
苦しみから逃れようとして
貴女への愛を捨てることは、
愛しい女よ、とてもできない。
A forza di pene,
di strali e catene
non voglio lasciarti;
ti voglio adorar.
たとえ苦しみに襲われ、
矢を受け鎖に繋がれようとも
私は貴女から離れたくない、
私は貴女を讃美したいのだ。
Sebben, crudele
たとえつれない人よ
A.Caldara
A. カルダーラ
Ten.馬場健太
この曲はアントニオ・カルダーラ(1670-1736)の作曲した牧歌劇「愛の誠は偽
りに打ち勝つ〈La costanza in amorvince l'inganno〉
」中のカンツォネッタである。ど
んなに辛くても、いつかは振り向いてくれるだろうと胸の内を歌った曲である。曲
調は単調だが、曲の各所にある強弱記号と詩のつながりもこの曲を楽しむ上で欠
かせないものであろう。
Sebben crudele,
mi fai languir
sempre fedele
ti voglio amar.
たとえ、つれない人よ
どんなに私を悩ませても
いつも変わらず誠実に
あなたを愛していたい。
Con la lunghezza
del mio servir
la tua fierezza
saprò stancar.
私が長く
あなたに仕えていれば
あなたのつれなさも
和らげることができるだろう。
Lascia ch’io pianga
G.F.Händel
私を泣かせてください
G.F.ヘンデル
Sop.金森遥
ゲオリク・フリードリヒ・ヘンデルが英国で初めて発表したイタリア語のオペ
ラ『リナルド』。その中でエルサレムのイスラーム側の魔法使いの囚われの身に
なったアルミレーナが、敵軍の王アルガンテに求愛されても愛するリナルドへの
貞節を守るため「苛酷な運命に涙を流しましょう」と歌うアリア。
「オンブラ・
マイ・フ」と並ぶ、ヘンデルの代表作。
Armida, dispietata colla forza d’abisso,
rapimmi al caro Ciel di miei contenti,
e qui con duolo eterno
viva mi tiene in torment d’inferno.
奈落の力を持った
情け知らずのアルミーダは
懐かしい歓びの天上から
私を奪い去り、
ここで、永遠の苦しみを持った
地獄の責め苦の中に
私を生きたまま閉じ込めている。
Signor! Ah! per pietà lasciami piangere. 主よ、ああ、
どうか私を泣かせてください。
Lascia ch’io pianga la dura sorte
e che sospiri la libertà.
Il duol infranga queste ritorte
de’ miei martiri sol per pietà.
過酷な運命に涙し、
自由に憧れることを
お許しください。
私の苦しみに対する
憐れみだけによって
苦悩がこの鎖を
打ち毀してくれますように。
Piacer d’amor
G. Martini
愛のよろこびは
G. マルティーニ
Sop.石川 美雪
ジョヴァンニ・マルティーニ(1706-1784)はボローニャの音楽評論家、作曲家である。彼
はヨハン・セバスチャン・バッハの 11 男、ヨハン・クリスティアン・バッハやヴォルフガング・
アマデウス・モーツァルトなどの後世の音楽家に、厳格対位法を指導したことで歴史に名
を残している。
この曲は、元々の原語はフランス語であるが、イタリア語の歌詞で歌われる場合が多い。
甘いメロディとは裏腹に、愛の喜びはたった 1 日、愛の苦しみは一生という苦い歌となって
いる。後にベルリオーズが小編成のオーケストラのための管弦楽曲として編曲した他、ラリ
エは「マルティーニ『愛の喜びは』による幻想曲」を作曲している。
Piacer d’amor più che un dì sol non dura;
martir d’amor tutta la vita dura.
Tutto scordai per lei, per Silvia infida;
に
ella or mi scorda e ad altro amor s’affida.
“Finché tranquillo scorrerà il ruscel
là verso il mar che cinge la pianura
io t’amerò.” mi disse l’infedel.
Scorre il rio ancor
― ma cangiò in lei l’amor.
愛のよろこびは一日しか
続かないのに
愛の苦しみは一生涯続く。
私はあの不実なシルヴィアの為
全てを忘れたのに、
彼女は今私を忘れ、
ほかの愛に身を委ねている。
「平野を取り巻く海に向かって
小川が静かに流れているうちは、
私は貴方を愛しています」
と不実な女は言った。
小川は今も流れているが、
彼女の愛は変わってしまった。
A sera
夕べに
F.P. Tosti
F.P.トスティ
Ten.町田隼人
イタリアの作曲家フランチェスコ・パオロ・トスティ(1846-1916)の 37 歳の時
の作品である。この曲は波にゆられるような3拍子が印象的で、作曲した当時トス
ティが過ごしていたコーモ湖畔を思いながら書かれたのではないだろうか。
また作詞者は、今では思い出されることの少ない詩人レオナルド・M・コニェッ
ティで、飾り気がない詩形や言葉が特徴的である。
Bianca splende la luna,
Voghiamo, o mio batle.
Se il remo m’è fedel, voghiam!
Io rivedrò la mia diletta bruna,
voghiam!
月が白く輝く、
漕ごう、ああ、わが小舟よ。
檜が私に忠実なら、漕ごう。
愛しい栗色髪の女にまた会えるだろう
漕ごう。
Della sua finestretta
Veggo lontan sul mar
Il lume tremolar, voghiam!
Ella t’attende, o gondolier,
t’affretta,
彼女の窓辺の
灯のゆらめくのが
海の彼方に見える、漕ごう。
彼女はお前を待っている、
ゴンドラの船人よ、急げ。
Voghiam, voghiam, voghiam!
漕ごう、漕ごう、漕ごう。
O notte, quest’incanto
Parla soave al cor
La canzone d’amor, voghiam!
Ripeti, o gondolier,
disciogli il canto,
voghiam!
ああ夜よ、その誘惑は
心に甘く恋の歌を
語りかける、漕ごう。
再び歌を繰り広げよ、
ああゴンドラの船人よ、
漕ごう。
Finché vedrai brillare
Le stelle, io t’amerò,
te fedel sarò, voghiam!
貴女に星の輝きが見える限り
私は彼女を愛し、
貴女に愛を捧げよう、漕ごう
Finché la notte scenderà sul mare, 夜が海に降りる限り
Voghiam, voghiam, voghiam!
漕ごう、漕ごう、漕ごう。
Aprile
四月
F.P.Tosti
F.P.トスティ
Ten.日暮秀平
この曲は、イタリアの作曲家トスティ(1846-1916)の爽やかな春の歌である。
前半では心躍る気持ちで恋人に語りかけ、「四月だ、恋の季節だ」のところから
熱く盛り上がってくる。色とりどりの春の色彩と恋人を描写している後半、その後
また盛り上がりを見せる構成になっており実にイタリアらしい恋の歌である。
ちなみに四月はトスティの誕生月である。
Non senti tu ne l’aria
Il profumo che spande Primavera?
Non senti tu ne l’anima
Il suon di nuova voce lusinghiera?
春が撒き散らす香りを
大気の中に感じないか。
新たな誘いの声が
魂の中に聞こえないか。
È l’April! è l’April!
È la stagion d’amore!
Deh! Vieni, o mia gentil,
su’prati’n fiore!
四月だ、四月だ、
恋の季節だ。
さあ、おいで、花咲く野に、
ああ私の優しい女よ。
Il piè trarrai fra mammole
Avrai su’l petto rose e cliestrine,
e le farfalle candide,
t’aleggeranno intorno al nero crine.
貴女が菫のあいだに足を運び、
薔薇とアヤメの花を胸に飾れば、
真白い蝶は黒髪の回りを
飛び回るだろう。
È l’April! è l’April!
È la stagion d’amore!
Deh! Vieni, o mia gentil,
su’prati’n fiore!
四月だ、四月だ、
恋の季節だ。
さあ、おいで、花咲く野に、
ああ私の優しい女よ。
Marechiare
マレキアーレ
F.P.Tosti
F.P.トスティ
Ten.西野凌
この曲を書いたトスティは 12 歳でナポリ音楽院に入学し、青年期をナポリで過
ごしていた。
歌詞の中に出てくる Marechiare というのはナポリから南に位置する海岸沿いの
地名で Carulî というのは人の名前でありまた歌詞自体も標準的なイタリア語では
なくナポリ語で書かれており、これは 40 歳になったトスティが自身の過去を想起
して書き起こした詩であるとも考えられる。
Quanno spontala luna a Marechiare
pure li pisce nce fann’a l’ammore...
Se revoltano l’onne de lu mare,
pê la priêzza câgneno culore...
Quanno spontala luna a Marechiare...
月が昇るとき このマレキアーレに
魚たちでさえも恋におちる
海の波もざわめいて
喜びの色に染まる
月が昇るとき このマレキアーレに
A Marechiare nce sta na fenesta,
このマレキアーレで
とあるバルコニーに向けて
私の情熱は羽ばたく
カーネーションが窓辺には香り
水がその下を流れ ささやいている
このマレキアーレで
とあるバルコニーに向けて
la passione mia nce tuzzulea...
Nu carofano addora ‘int’a na testa,
passa l’acqua pe sotto e murmulêa...
A Marechiare nce sta na fenesta,
Chi dice ca li stelle so lucente,
nun sape st’uocchie
ca tu tiene ‘nfronte
Sti doje stelle li saccio io solamente,
dint’a lu core ne tengo li pônte...
Chi dice ca li stelle so lucente?
Scêtate, Carulî, cal’aria ê doce...
Quanno maie tanto tiempo
aggio aspettato?
星が輝かしいなんて言う人は
あなたの瞳の輝きを
見たことがないだろう
その二つの星のことは
俺だけが知っていて
俺たちの心には橋が架かるんだ
星が輝かしいなんて言う人は
見たことあるだろうか
目を覚まして、
麗しい宵の浜辺に来てくれ
これほど長い時を
待ったことがあっただろうか?
P’accompagnâ li suone cu la voce,
stasera na chitarra aggio portato...
Scêtate, Carulî, cal’aria ê doce!
焦がれる思い届けと
今宵はギターを携えてきた
目を覚まして、
麗しい宵の浜辺に来てくれ
Ancora!
今ひとたび
F.P.Tosti
F.P.トスティ
Bas.則竹厚輝
イタリアの作曲家トスティ(1846-1916)の 51 歳の時の作品。この時期のトステ
ィはイギリスの大学で声楽教授として活躍しており、作品としても多くの優れた
ものを生み出している。
作詞者はロッコ・エマヌエーレ・パリアーラ(1855-1914)であり、他にトステ
ィの「四月」などの作詞も手掛けている。
この曲の特徴としては前半部から後半部にかけての転調である。短調から長調
へ移り変わっていく曲調は淡々と語るような口調からはじまり、次第に情熱的な
思いを吐き出していくこの曲の歌詞を見事に表現しているといえるだろう。
Il mio pensier, vagando, ti ritrova
in mezzo ai fiori, in un’ombrosa landa
del mite aprile a la carezza nova,
ti fanno i rami una gentil ghirlanda.
Ma la tua guancia è mesta e scolorita,
han le tue labbra un languido sospir.
Forse tu pure a la trascorsa vita
rivolgi, stanca, il triste sovvenir!
O dolce tempo, o rapida stagione,
con i tuoi raggi a noi più non ritorni!
Si breve tacque l’ideal canzone,
fuggir veloci i nostiri cari giorni!
私の想いは、さ迷って、
穏やかな四月の
新たな愛撫を受けた花々の間や
繁った野にふたたび
貴女を見出し、
枝々は貴女のために
愛らしい花輪を作る。
だが貴女の頬は悲しげに色褪せ、
貴女の唇は
やるせない溜め息をつく。
おそらく貴女も、疲れ果て、
過ぎ去った生活に
悲しみを向けているのだろう。
ああ甘美な時間、はかない季節、
お前はもう
あの輝きをもって
私達の許に帰っては来ない!
理想の歌はあまりにも
すぐ黙してしまい、
私たちの大切な日々は
瞬く間に消え失せた。
Panis angelicus
天使の糧
C.Franck
C.フランク
Alt.林恭子
C.フランク(1822-1890)はベルギー生まれで、パリでオルガニスト・作曲者と
して活躍。この作品は『Solemn Mass in A Major(荘厳ミサ曲 イ長調)』が改訂され
た際に、テノールの独唱曲とオルガン・ハープ・チェロ・コントラバスの編成で追
加された聖体祭賛歌。
歌詞は 1262 年にローマ法王ウルバン 4 世の要請により聖体祭のために聖トマ
ス・アクィナス(1225-1274)によって作られた賛歌『Sacris Solemniis』の一節から
とられている。
パン
Panis angelicus fit panis hominum;
Dat panis coelicus figuris terminum:
O res mirabilis!
天使の糧は人々の糧となり
天上のパンは形あるものとなった
何と驚くべきことだ!
しもべ
Manducat Dominum
Pauper, servus et humilis.
憐れな者、 僕 、卑しき者たちに
天は自らを糧として与えられた
Musica proibita
禁じられた歌 Ten.山戸崇央
S.Gastaldon
S.ガスタルドン
この曲は、トリノ出身のオペラ作曲家ガスタルドン(1861-1939)の情熱的な恋の
歌である。オペラアリアのような美しく雄弁なメロディで、男に恋する女性の愛情
の吐露ともいえる激しい詞を見事に表現している。
曲中で、女性が耳にし歌うことを母に禁じられた「男(un bel garzone)の歌う曲」
の歌詞が使われているのが大きな特徴である。ちなみに、この曲はイタリアではか
なり有名で、数多くのテノール歌手が録音している。
Ogni sera di sotto al mio balcone,
Sento cantar una canzon d’amore!
Piu volte la ripete un bel garzone,
E battere mi sento forte il cor!
Oh! Quanto è dolce quella melodia!
Oh! Com' è bella, quanto m' è gradita!
Ch'io la canti non vuol la mamma mia.
Vorrei saper perché me l'ha proibita!
Ella non c'è, ed io la vo' cantare,
La frase che m'ha fatto palpitare!
“Vorrei baciare i toui capelli neri,
Le labbra tue e gli occhi tuoi severi!
Vorrei morir con te, angel di Dio,
O bella inamorata, tesor mio!”
Qui sotto il vidi ieri a passeggiare,
E lo sentiva al solito cantar!
“Vorrei baciare i tuoi capelli neri,
夜毎私のバルコニーの下で、
愛の歌を歌うのが聞こえる。
美しい青年が
それを何度も繰り返すと、
私は心が高鳴るのを感じる。
おお、あの旋律は、
なんと甘美なことか!
おおなんと美しく、
私を魅了することか!
しかし私の母は
私があの歌を歌うのを望まない。
なぜ禁じたのか私は知りたい。
母はもういない、そして私は
私の心を震わせた
あの歌を歌いたい!
「君の黒い髪と、唇と、
厳しい瞳に口づけしたい。
私の天使よ、君と一緒に死にたい
僕の宝よ。
」
私は昨日彼が
この下を散歩するのを見た。
そしていつものように
歌うのを聞いた。
「君の黒い髪と、唇と、
'O sole mio
私の太陽
E.di Capua
E.di カプア
Ten.前川恵
この曲はカプア(1865-1917)によって 1898 年に書かれた作品である。ナポリで
毎年 9 月に開催される「ピエディ・グロッタ歌謡祭」において、1898 年の第 2 位に
輝いた。
作詞はカプッロによるものである。1 番、2 番、3 番でそれぞれ朝、昼、夜の情
景を歌っているが、それより愛しい人のほうが美しいと歌う恋の歌である。
Che bella cosa 'na iurnata'e sole,
n'aria serena doppo 'na tempesta!
Pe’ ll’aria fresca pare già 'na festa
Che bella cosa 'na iurnata 'e sole.
晴れた日は何て素晴らしい
嵐のあとの澄んだ空のよう
まるで祭日のようなさわやかな空
晴れた日は何て素晴らしい
Ma n'atu sole,
cchiù bello, ohi ne'
'O sole mio
sta 'nfronte a te!
'O sole, 'o sole mio
sta 'nfronte a te!
sta 'nfronte a te!
だけどもうひと方の太陽
尚一層輝かしい
私の太陽
君の顔に輝く
太陽、私の太陽
君の顔に輝く
君の顔に輝く
Lùcene 'e llastre d''a fenesta toia;
'na lavannara canta e se ne vanta,
e pe'tramente torce,spanne e canta,
lùcene 'e llastre d''a fenesta toia.
輝かしい日光が君の窓に差し込む
洗濯女は歌い、自慢する
洗濯物を絞り、伸ばし、そして歌う
輝かしい日光が君の窓に差し込む
Ma n'atu sole,
cchiù bello, ohi ne'
'O sole mio
sta 'nfronte a te!
'O sole, 'o sole mio
sta 'nfronte a te!
sta 'nfronte a te!
だけどもうひと方の太陽
尚一層輝かしい
私の太陽
君の顔に輝く
太陽、私の太陽
君の顔に輝く
君の顔に輝く
Vaghissima sembianza
麗しき絵姿
S. Donaudy
S.ドナウディ
Ten.丹治大河
ステーファノ・ドナウディ(1879-1925)は、近代イタリア歌曲の作曲者である。
彼はオペラをはじめ、歌曲、行進曲、ピアノ曲など数多くの作品を残していた。そ
んな彼の代表作のなかに 『36 Ariè di stile antico(古典様式による 36 のアリア)
』
があり、そのアリア集の中の一作品である。彼が 13 歳の時に作曲されたものだ。
この曲はある男が、愛した女性によく似た絵を見て、熱い想いを歌ったもの。そん
な彼の情熱を歌いあげたい。
Vaghissima sembianza
d’antica donna amata
chi, dunque, v’ha ritratta
con tanta simiglianza
ch’io guardo e parlo, e credo
d’avervi a me davanti
come ai bei dì d’amor?
昔愛した女の
かぎりなく優美な絵姿、
今でも私が見て話し掛け、
すばらしい愛の日々のように
目の前にいると信じている姿に
こんなにも似せて、
いったい誰がそれを描いたのだろう。
La cara rimembranza
che in cor mi s’è destata
sì ardente v’ha già fatta
rinascer la speranza,
che un bacio, un voto, un grido
d’amore più non chiedo
che a lei che muta è ognor.
私の中に目覚めた
懐かしい思い出が
燃えるような希望を
よみがえらせたので、
私はもはや
いつも黙している彼女にしか
口づけや誓いや愛の叫びを求めない。
La mia Dorabella
僕のドラベッラは…
W.A.Mozart
“Così fan tutte” 第 1 幕第 1 景
舞台は 18 世紀ナポリ。青年士官のフェルランドとグリエルモは大親友。そんな
わけか彼らの恋人は姉妹同士です。フェルランドは妹のドラベッラ、グリエルモは
姉のフィオルディリージと永遠の愛を誓い合いました。彼らは彼女たちのことを
心から愛し、そして彼女たちの節操を強く信じています。2 人の様子を見て、共通
の友人であるドン・アルフォンゾは「女の節操なんて存在しない」と持論を語りま
す。カフェで楽しくお茶をしていた 3 人でしたが、高齢のドン・アルフォンゾの言
葉を受けて、若者 2 人の心は一気に燃え上がるのでした・・・
No. 1 Terzetto
第 1 曲 三重唱
〈FERRANDO〉
〈フェルランド〉
僕のドラベッラは
ありっこない、
美しくもまた貞淑に
天は彼女をつくりたもうたのだ。
La mia Dorabella
Capace non è:
Fedel quanto bella
Il cielo la fe’.
〈GUGLIELMO〉
La mia Fiordiligi
Tradirimi non sa:
Uguale in lei credo
Costanza e beltà.
〈DON ALFONSO〉
Ho i crini già grigi;
Ex cathedra parlo,
Ma tali litigi
Finiscano qua!
〈FERRANDO E GUGLIELMO〉
No, detto ci avete
Che infide esser ponno,
Provar cel dovete
Se avete onestà.
〈グリエルモ〉
僕のフィオルディリージは
僕を裏切るなんてできっこない、
彼女のことはどちらも信じる、
貞節さと美しさと。
〈ドン・アルフォンソ〉
すでにわたしは髪に白いものがある、
で、教えを垂れようとモノ申すのだが
しかしこんな口論、
ここらで終わりとしよう!
〈フェルランドとグリエルモ〉
いや、あなたは僕らにいわれた、
二人が操に欠けうると、
ならそれを僕らに証明すべきだ、
あなたが正直そう思われるなら。
〈DON ALFONSO〉
Tai prove lasciamo...
〈FERRANDO E GUGLIELMO〉
No, no le vogliamo:
O fuori la spada,
Rompiam l’amistà.
〈DON ALFONSO〉
O pazzo disire!
Cercar di scoprire
Quel mal che trovato
Meschini ci fa.
〈FERRANDO E GUGLIELM〉
〈ドン・アルフォンソ〉
そうした証明はやめとこう…
〈フェルランドとグリエルモ〉
いや、いや、僕らはそれを望んでいる
さもないと剣を抜く、
そして友情を断ちますよ。
〈ドン・アルフォンソ〉
馬鹿げた望みよ!
見つけ出そうとするなどと、
そんな不幸のもとを、それを知ったら
自分を惨めにするんだのに。
Chi lascia di bocca
Sortire un accento
Che torto le fa.
〈フェルランドとグリエルモ〉
僕の大事なとこを
踏みにじるってものだ、
口から出まかせ
彼女にとって不当な
言葉を吐くやからは。
Recitativo
レチタティーヴォ
〈GUGLIELMO〉
〈グリエルモ〉
剣を抜け、選んでいただこう、
我われのどちらかがお相手しよう。
Sul vivo mi tocca
Fuor la spada: scegliete
Qual di noi più vi piace
〈DON ALFONSO〉
Io son uomo di pace,
E duelli non fo se non a mensa.
〈FERRANDO〉
O battervi, o dir subito
Perché d’infedeltà le nostre amanti
Sospettate capaci.
〈ドン・アルフォンソ〉
わたしは平和主義者さ、
だから刃物は使わない、
食卓のほかは。
〈フェルランド〉
決闘するか、言うかだ!
我々の恋人の操を
疑うわけを。
〈DON ALFONSO〉
Cara semplicità, quanto mi piaci!
〈FERRANDO〉
Cessate di scherzar,
o giuro al cielo!...
〈DON ALFONSO〉
Ed io, giuro alla terra,
Solo saper vorrei
Che razza d’animali
Son queste vostre belle,
Se han come tutti noi carne,
ossa, e pelle
Se mangian come noi,
se veston gonne,
Alfin se dee, se donne son...
〈FERRANDO E GUGLIELMO〉
Son donne:
Ma... son tali son tali...
〈DON ALFONSO〉
E in donne pretendete
Di trovar fedeltà?
Quanto mi piaci mai, semplicità!
No.2 Terzetto
〈DON ALFONSO〉
È la fede delle femmine
Come l’araba fenice:
Che vi sia ciascun lo dice
Dove sia nessun lo sa.
〈ドン・アルフォンソ〉
おめでたいのも、実にいい!
〈フェルランド〉
ふざけているのならば、
天に誓って!…
〈ドン・アルフォンソ〉
ならばわたしは、地に誓おう、
ただよければ知りたい、
どんな生き物なんだか、
そのきみたちの美しいご婦人がたが
我われみなと同様、
肉と骨と皮がおありなんだか、
我われ同様、物を食されるんだか、
スカートをおはきなんだか、
要するに、女神か、女か…
〈フェルランドとグリエルモ〉
女ですよ、
だけど…彼女たちはあんなに…
〈ドン・アルフォンソ〉
で、女に、信じ込んでいるのかな、
貞節が見つかると?
まったくなんとも気に入った、
お人好しなことよ!
No.2 三重唱
〈ドン・アルフォンソ〉
女どもの貞淑は
アラビアの不死鳥のようなもの、
いると誰もがそう言うが
どこにいるのか、誰もそれを知らぬ。
〈FERRANDO〉
La fenice è Dorabella!
〈GUGLIELMO〉
La fenice è Fiordiligi!
〈DON ALFONSO〉
Non è questa, non è quella,
Non fu mai, non vi sarà.
È la fede delle femmine
Come l’araba fenice:
Che vi sia ciascun lo dice
Dove sia nessun lo sa.
〈FERRANDO〉
La fenice è Dorabella.
〈GUGLIELMO〉
〈フェルランド〉
不死鳥はドラベッラだ!
〈グリエルモ〉
不死鳥はフィオリディリージだ!
〈ドン・アルフォンソ〉
こっちでもない、そっちでもない、
かつていたこともなく、
今後もいやしない。
女どもの貞淑は
アラビアの不死鳥のようなもの、
いると誰もがそう言うが
どこにいるのか、誰もそれを知らぬ。
〈フェルランド〉
不死鳥はドラベッラなんだ。
La fenice è Fiordiligi.
〈ドン・アルフォンソ〉
不死鳥はフィオルディリージなんだ。
Recitativo
レチタティーヴォ
〈FERRANDO〉
〈フェルランド〉
詩人がいいそうな戯言さ!
Scioccherie di poeti!
〈GUGLIELMO〉
Scempiaggini di vecchi!
〈Don Alfonso〉
Orbene, udite:
Ma senza andar in collera.
Qual prova avete voi,
che ognor costanti
Vi sien le vostre amanti;
Chi vi fe’ sicurtà, che invariabili
〈グリエルモ〉
老人がいいそうな繰言さ
〈ドン・アルフォンソ〉
ならば、聞きたまえ、
だが、むきにならずにだぞ。
きみたちはどんな証拠があるかね、
いつも何時も
恋人がきみたちに節操固いと、
誰もがきみたちに保証したね、
Sono ilor cori?
不変だと、彼女たちの心が?
〈FERRANDO〉
〈フェルランド〉
長く付き合っていれば…
Lunga esperienza...
〈GUGLIELMO〉
Nobil educazion...
〈FERRANDO〉
Pensar sublime...
〈GUGLIELMO〉
Analogia d’umor...
〈FERRANDO〉
Disinteresse...
〈GUGLIELMO〉
Immutabil carattere...
〈FERRANDO〉
Promesse...
〈GUGLIELMO〉
Proteste...
〈FERRANDO〉
Giuramenti...
〈DON ALFONSO〉
Pianti, sospir, carezze, svenimenti.
Lasciatemi un po’ ridere...
〈FERRANDO〉
Cospetto!
Finite di deriderci?
〈グリエルモ〉
優れた躾が…
〈フェルランド〉
立派な考えが…
〈グリエルモ〉
相性の良さが…
〈フェルランド〉
公正さが…
〈グリエルモ〉
揺るぎない性格が…
〈フェルランド〉
約束して…
〈グリエルモ〉
断言して…
〈フェルランド〉
誓った…
〈ドン・アルフォンソ〉
涙し、溜め息し、愛撫し、気絶した。
まさに、お笑いだ…
〈フェルランド〉
よくも!
我われを愚弄するのは
やめてくれませんか?
〈DON ALFONSO〉
Pian piano:
E se toccar con mano
Oggi vi fo che come l’altre sono?
〈GUGLIELMO〉
Non si può dar.
〈FERRANDO〉
Non è.
〈DON ALFONSO〉
Giochiam.
〈FERRANDO〉
Giochiamo.
〈DON ALFONSO〉
Cento zecchini.
〈GUGLIELMO〉
E mille se volete.
〈DON ALFONSO〉
Parola.
〈FERRANDO〉
Parolissima.
〈DON ALFONSO〉
E un cenno, un motto, un gesto
Giurate di non far di tutto questo
Alle vostre Penelopi.
〈ドン・アルフォンソ〉
まあ、落ち着いて、
で、もし実際に見せて進ぜたら、
今日にも君たちに彼女たちが
他の女どもと同じだと?
〈グリエルモ〉
できるわけがない。
〈フェルランド〉
ありっこない。
〈ドン・アルフォンソ〉
賭けようか。
〈フェルランド〉
賭けましょう。
〈ドン・アルフォンソ〉
100 ヅェッキーノを。
〈グリエルモ〉
1000 でも、お望みなら。
〈ドン・アルフォンソ〉
決まりだ。
〈フェルランド〉
約束だ。
〈ドン・アルフォンソ〉
では合図、お喋り、素振りでも、
誓っていただこう、このこと
すべてについて知らせないと、
きみたちのペネロペイアに。
〈FERRANDO〉
Giuriamo.
〈DON ALFONSO〉
Da soldati d’onore.
〈GUGLIELMO〉
Da soldati d’onore.
〈DON ALFONSO〉
E tutto quel farete
Ch’io vi dirò di far.
〈FERRANDO〉
Tutto!
〈GUGLIELMO〉
Tuttissimo!
〈DON ALFONSO〉
Bravissimi!
〈FERRANDO E GUGLIELMO〉
Bravissimo,
Signor Don Alfonsetto
〈FERRANDO〉
A spese vostre or ci divertiremo.
〈GUGLIELMO〉
E de‘ cento zecchini che faremo?
〈フェルランド〉
誓いましょう。
〈ドン・アルフォンソ〉
軍人の名誉にかけて?
〈グリエルモ〉
軍人の名誉にかけて。
〈ドン・アルフォンソ〉
ではなんでもやってもらう、
わたしがきみたちにやれと
命ずることは。
〈フェルランド〉
なんなりと!
〈グリエルモ〉
なんなりかんなり!
〈ドン・アルフォンソ〉
よろしい!
〈フェルランドとグリエルモ〉
よろしいですね、
ドン・アルフォンソ先生。
〈フェルランド〉
これで僕らは勝ったも同然だ。
〈フェルランド〉
で、100 ヅェッキーノで
何をしようかな?
No.3 Terzetto
No.3 三重唱
〈FERRANDO〉
Una bella serenata
Far io voglio alla mia dea.
〈フェルランド〉
すごいセレナーデを
僕の女神に捧げたいな。
〈GULGIELMO〉
In onor di Citerea
Un convito io voglio far.
〈グリエルモ〉
キュテレイアに敬意を表して
僕は晩餐会を催したいな。
〈DON ALFONSO〉
〈ドン・アルフォンソ〉
わたしも会食の仲間になれようか?
Sarò anch’io de’convitati?
〈FERRANDO E GUGLIELMO〉
Ci sarete, sì signor.
〈FERRANDO,GUGLIELMO
E DON ALFONSO〉
E che brindis replicati
Far vogliamo al dio d’amor!
フェルランド
グリエルモ
ドン・アルフォンソ
〈フェルランドとグリエルモ〉
もちろんおいでになれますよ、先生。
〈フェルランド、グリエルモと
ドン・アルフォンソ〉
そうなれば、いくとどなく乾杯を
愛の神のために捧げたいものだ!
鈴木雅人
宮野郁
小山大輝
Un’aura amorosa
恋のそよ風
W.A.Mozart
“Così fan tutte” 第 1 幕第 12 景
ドン・アルフォンゾは賭けのため、フェランドとグリエルモにご存じ「別人に成
りすまし求愛作戦」を実行させます。愛する恋人との別れに悲しんでいるフィオル
ディリージとドラベッラの前に突如、変装した二人が求愛を迫りますが姉妹二人
はこれを固く拒みます。その様子をみたフェランドとグリエルモはアルフォンゾ
との賭けは楽勝、と上機嫌。アルフォンゾの次なる作戦のためランチは抜きになり
ますが「愛する人さえいれば、それだけでいい」と、フェランドはこのアリアを歌
います。
〈FERRANDO〉
〈フェルランド〉
Un’aura amorosa del nostro tesoro,
愛する人の、優しい息吹は
Un dolce ristoro al cor porgera.
僕に甘美な安らぎを与えてくれる
Al cor che nudrito da speme, d’amore, 心は愛の希望で満ち足りて
di un’esca migliore bisogno non ha.
もうなにもいらない
フェルランド
末冨修平
Oh che bella giornata!
まあ、なんてよいお日和り!
W.A.Mozart
“Così fan tutte” 第 2 幕第 5 景
ドン・アルフォンゾは女には貞操がないことを証明しようと、フェルランドとグ
リエルモをアルバニア人に変装させ、姉妹を口説かせようと目論んだ。
2 人からの求愛に、はじめは嫌がる姉妹であったが、次第に心を動かされていき、
ついにはどっちの男と関係をもつかという話まで始めてしまう。さらに、そこで姉
妹が選んだのは本来の恋人とは逆の相手であった。
さて、2 人の男は姉妹と庭に居合わせている模様。これまでの態度とうって変わ
って、姉フィオルディリージはフェルランドを散歩に連れ出し、また妹のドラベッ
ラもグリエルモを散歩に誘い出してしまうのである。
Recitativo
レチタティーヴォ
〈FIORDILIGI〉
〈フィオルディリージ〉
まあ、なんてよいお日和り!
Oh che bella giornata!
〈FERRANDO〉
Caldetta anzi che no.
〈DORABELLA〉
Che vezzosi arboscelli!
〈GUGLIELMO〉
Certo certo,son belli:
Han più foglie che frutti.
〈FIORDILIGI〉
Quei viali
Come sono leggiadri.
Volete passeggiar?
〈FERRANDO〉
Son pronto, o cara,
Ad ogni vostro cenno.
〈FIORDILIGI〉
Troppa grazia!
〈フェルランド〉
暑めで、いくらか
〈ドラベッラ〉
なんて愛嬌のある若木!
〈グリエルモ〉
確かに確かに、美しい、
果実より葉が多くて
〈フィオルディリージ〉
あの道は
なんと淑やかなこと
散歩あそばしませんこと?
〈フェルランド〉
すぐにも、愛しいお方、
なんなりあなたのご指示に
〈フィオルディリージ〉
過ぎますご好意!
〈FERRANDO〉
(Eccoci alla gran crisi.)
〈FIORDILIGI〉
Cosa gli avete detto?
〈FERRANDO〉
Eh gli raccomandai
Di divertirla bene.
〈DORABELLA〉
Passeggiamo anche noi.
〈GUGLIELMO〉
Come vi piace.
Ahimè.
〈DORABELLA〉
Che cosa avete?
〈GUGLIELMO〉
Io mi sento sì male,
Sì male,anima mia,
Che mi par di morire.
〈DORABELLA〉
(Non otterrà nientissimo.)
Saranno rimasugli
Del velen che beveste.
〈GUGLIELMO〉
Ah che un veleno assai
più forte io bevo
In questi crudi,e focosi
Mongibelli amorosi!
〈フェルランド〉
(いよいよ正念場だ)
〈フィオルディリージ〉
あのお方に何をおっしゃいまして?
〈フェルランド〉
はあ、彼に勧めたのです、
相手をよくお楽しませするように
〈ドラベッラ〉
私どもも散歩いたしましょう
〈グリエルモ〉
お気に召すように
ああ、つらい
〈ドラベッラ〉
どうかあそばしまして?
〈グリエルモ〉
私は気分が悪く、
とても悪く、私の大事なお方、
死にそうなほどでして
〈ドラベッラ〉
(ぜんぜんなんの効果もなくてよ)
余韻でございましょう、
お飲みになられた毒の
〈グリエルモ〉
ああ、どれほどか私はもっと
ずっと強い毒を飲んでいます
この酷い、燃えさかる
恋の火山で!
〈DORABELLA〉
Sarà veleno calido:
Fatevi un poco fresco.
〈GUGLIELMO〉
Ingrata, voi burlate
Ed intanto io mi moro!
(Son spariti:
Dove diamin son iti?)
〈DORABELLA〉
Eh via non fate...
〈GUGLIELMO〉
Io mi moro, crudele, e voi burlate?
〈DORABELLA〉
Io burlo! Io burlo!
〈GUGLIELMO〉
Dunque
Datemi qualche segno,
anima bella,
Della vostra pietà.
〈DORABELLA〉
Due se volete:
dite quel che far deggio,
e lo vedrete.
〈GUGLIELMO〉
(Scherza, o dice davvero?)
Questa picciola offerta
D’accettare degnatevi.
〈ドラベッラ〉
熱い毒なのでしょうね、
少しお涼みあそばせ
〈グリエルモ〉
無慈悲な、あなたは茶化される、
その間にも私は死ぬというのに!
(あいつたちが消えた、
一体どこへ行ったんだ?)
〈ドラベッラ〉
あら、そんな、おやめに……
〈グリエルモ〉
私が死ぬのに、冷たいお方だ、
あなたは茶化すのですね?
〈ドラベッラ〉
茶化す、私が茶化す!
〈グリエルモ〉
それでは
何か証をください、
美しい大事なお方、
あなたの憐みの
〈ドラベッラ〉
お望みでしたらふたつでも、
私がすべきことをおっしゃいませ、
そしたらこれをご覧になられますわ
〈グリエルモ〉
(冗談か、それとも本気で
いってるのか?)
このささやかな贈り物を
お受けになられてください
〈DORABELLA〉
Un core?
〈GUGLIELMO〉
Un core: è simbolo di quello
Ch’arde languisce,
e spasima per voi.
〈DORABELLA〉
(Che dono prezioso!)
〈GUGLIELMO〉
L’accettate?
〈DORABELLA〉
Crudele!
Di sedur non tentate un cor fedele.
〈GUGLIELMO〉
(La montagna vacilla:
Mi spiace, ma impegnato
È l’onor di soldato.)
V’adoro!
〈DORABELLA〉
Per pietà...
〈GUGLIELMO〉
〈ドラベッラ〉
ハート型?
〈グリエルモ〉
ハートです、これはシンボルです、
あなたゆえ燃え、やつれ、
そして悶える心の
〈ドラベッラ〉
(なんて高価な贈り物!)
〈グリエルモ〉
受けてくださいますか?
〈ドラベッラ〉
ひどいお方!
貞淑な心を誘惑しようと
なさらないでください
〈グリエルモ〉
(山が揺らいでいる、
残念だが、かかっているからな、
軍人の名誉が)
あなたを熱愛しています!
〈ドラベッラ〉
お願いですから……
Son tutto vostro!
〈グリエルモ〉
私はすべてあなたのものです!
〈DORABELLA〉
Oh dei!
〈ドラベッラ〉
ああ、そんな!
〈GUGLIELMO〉
〈グリエルモ〉
その気になられてください、
愛しいお方よ……
Crudete, o cara...
〈DORABELLA〉
Mi farete morir...
〈GUGLIELMO〉
Morremo insieme,
Amorosa mia speme.
L’accettate?
〈DORABELLA〉
L’accetto.
〈GUGLIELMO〉
〈ドラベッラ〉
私を死なせますのね……
〈グリエルモ〉
ともに死にましょう、
私の愛の希望たるお方
受けてくださいますか?
〈ドラベッラ〉
お受けしますわ
(Infelice Ferrando!)
Oh che diletto!
〈グリエルモ〉
(可哀想なフェルランド!)
ああ、なんという喜び!
No.23 Duettino
No.23 二重唱
〈GUGLIELMO〉
〈グリエルモ〉
ハートをあなたに差し上げます、
私の愛してやまぬお方、
でも私もあなたがほしいのです、
さあ、私にあなたのをください
Il core vi dono,
Bell’idolo mio;
Ma il vostro vo’anch’io,
Via datelo a me.
〈DORABELLA〉
Mel date lo prendo,
Ma il mio non vi rendo,
Invan mel chiedete,
Più meco ei non è.
〈GUGLIELMO〉
Se teco non l’hai
Perchè batte qui?
〈ドラベッラ〉
私にそれをくださいませ、
頂戴しますから、
でも私のは差し上げられません、
それをお求めになられても
無駄ですわ、
もう私のところにございませんもの
〈グリエルモ〉
もしきみのところに持ってないなら
なぜここで鼓動しているの?
〈DORABELLA〉
Se a me tu lo dai
Che mai balza lì?
〈DORABELLA,GUGLIELMO〉
È il mio coricino
Che più non è meco,
Ei venne a star teco,
Ei batte così.
〈GUGLIELMO〉
Qui lascia che il matta.
〈DORABELLA〉
Ei qui non può star.
〈GUGLIELMO〉
T’intendo, furbetta.
〈DORABELLA〉
Che fai?
〈GUGLIELMO〉
Non guardar.
〈DORABELLA〉
(Nel petto un Vesuvio
D’avere mi par.)
〈GUGLIELMO〉
(Ferrando meschino!
Possibil non par.)
L’occhietto a me par.
〈DORABELLA〉
Che brami?
〈ドラベッラ〉
あなたがわたくしにくださるのなら
何が一体そこで踊ってますの?
〈ドラベッラ、グリエルモ〉
わたしの小さな心とはいえ
それがもうわたしのところには
ありません、
あなたのところへ行ってしまって
そのようにドキドキしています
〈グリエルモ〉
これをここにつけさせてほしい
〈ドラベッラ〉
それはここには駄目でしてよ
〈グリエルモ〉
分かった、お利口さん
〈ドラベッラ〉
何をなさるの?
〈グリエルモ〉
見ないで
〈ドラベッラ〉
(胸のうちにヴェスヴィウスのような
火山があるみたいだわ)
〈グリエルモ〉
(哀れなフェルランド!
本当とは思われない)
可愛い目を僕のほうへ向けてごらん
〈ドラベッラ〉
何をお望みに?
〈GUGLIELMO〉
〈グリエルモ〉
よく見て、
このほうがよく似合うかどうか
Rimira,
Se meglio può andar.
〈DORABELLA,GUGLIELMO〉
Oh cambio felice
Di cori e d’affetti!
Che nuovi diletti,
Che dolce penar
フィオルディリージ
フェルランド
ドラベッラ
グリエルモ
〈ドラベッラ、グリエルモ〉
ああ、変えてよかった、
心も心の中味も!
なんという新しい喜び、
なんという甘い痛み!
岡田祥子
鈴木雅人
高野薫
宮野郁
Tutto ancor non ho perso
まだ負けと決まったわけではない
W.A.Mozart
“Le Nozze di Figaro” 第 1 幕第 4 景
マルチェリーナとスザンナ。彼女たちはフィガロを巡る恋敵だ。スザンナとフィ
ガロは結婚式を控えているにも関わらず、マルチェリーナもフィガロに惚れ込ん
でおり、なんとフィガロにお金を貸す際に「返せない場合は結婚する」と約束を取
り付けているのだ。バルトロと手を組むことによりフィガロとの結婚に自信を持
ち始めたマルチェリーナのもとに、スザンナがやってくる場面。マルチェリーナは
スザンナをいびってやろうと考えるが…。
2 人の勝敗はいかに?「喧嘩の二重唱」をどうぞお楽しみください。
Recitativo
レチタティーヴォ
〈MARCELLINA〉
〈マルチェリーナ〉
まだ負けと決まったわけではない、
望みはあるわ、
あ、スザンナが来るわ
やってみよう……
見えないふりをして……
あの真珠のような女と
結婚したがっているなんて
Tutto ancor non ho perso:
Mi resta la speranza:
Ma Susanna si avanza
Io vo’provarmi
Fingiam di non vederla.
E quella bouna perla
La vorrebbe sposar!
〈SUSANNA〉
(Di me favella.)
〈MARCELLINA〉
Ma da Figaro alfine
Non può meglio sperarsi:
argent fait tout.
〈SUSANNA〉
(Che lingua! Manco male
Ch’ogunun sa quanto vale.)
〈MARCELLINA〉
Brava! questo è giudizio!
〈スザンナ〉
(私のことを話してるわ)
〈マルチェリーナ〉
だけど、フィガロときたら、
結局はお金以外に
当てはないんだから。
〈先たつものは金〉というわけよ
〈スザンナ〉
(ひどい言い方。でもさいわい誰でも
自分の値打ちを知っているわ)
〈マルチェリーナ〉
ご立派ね! 思っていた通りだわ
Con quegli occhi modesti,
Con quell’aria pietosa,
E poi...
あのつつまやしかな眼と、
あの痛々しい様子で、
それに……
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
(言った方がいいわ)
(Meglio è partir.)
〈MARCELLINA〉
(Che cara sposa!)
〈スザンナ〉
(なんとかわいい花嫁さん!)
No.5 Duettino
No.5 二重唱
〈MARCELLINA〉
〈マルチェリーナ〉
どうぞお通りになってください、
すばらしいお嬢様
Via resti servita,
Madama brillante:
〈SUSANNA〉
Non sono sì ardita,
Madama piccante:
〈MARCELLINA〉
No, prima a lei tocca:
〈SUSANNA〉
No no,tocca a lei:
〈SUSANNA,MARCELLINA〉
Io so i dover miei,
Non fo inciviltà.
〈MARCELLINA〉
La sposa novella!
〈SUSANNA〉
La dama d’onore!
〈スザンナ〉
私はそんなに厚かましくは
ございません、粋な奥様
〈マルチェリーナ〉
いいえ、お先にどうぞ
〈スザンナ〉
いいえ、どうぞお先に
〈スザンナ、マルチェリーナ〉
私は礼儀をわきまえております、
無作法はいたしません
〈マルチェリーナ〉
新しい花嫁様!
〈スザンナ〉
名誉ある奥様!
〈MARCELLINA〉
〈マルチェリーナ〉
伯爵のお気に入り!
Del Conte la bella!
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
スペインの憧れ!
Di Spagna l’amore!
〈MARCELLINA〉
〈マルチェリーナ〉
御徳!
I meriti!
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
お衣裳!
l’abito!
〈MARCELLINA〉
〈マルチェリーナ〉
地位!
Il posto!
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
お歳!
l’età!
〈MARCELLINA〉
〈マルチェリーナ〉
まあ! これ以上ここにいたら、
跳びかかることになるわ
Per Bacco precipito,
Se ancor resto qua.
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
老いぼれの巫女様、
笑わせますわ
Sibilla decrepito,
Da rider mi fa.
スザンナ
マルチェリーナ
渡邉碧
高野薫
Susanna, il ciel vi salvi
W.A.Mozart
スザンナ、天があなたを...
“Le Nozze di Figaro” 第 1 幕第 6~7 景
舞台はスザンナの部屋。小間使いスザンナの従姉妹であるバルバリーナに密会
していたところを見つかり伯爵に解雇された小姓のケルビーノ。スザンナに取り
なしてとお願いしているところに、スザンナとの逢い引きを取り付けようと伯爵
がやってきます。ケルビーノは慌てて椅子の後ろに隠れますが、そこに音楽教師の
バジリオがやってきます。ばつの悪い伯爵はケルビーノのいる椅子の裏に隠れよ
うとし、困ったケルビーノは椅子の上に滑り込みます。スザンナはとっさに部屋着
をかぶせ、この幕が始まります。
次第と、三者三様に大慌てしていく様子をお楽しみください。
Recitativo
レチタティーヴォ
〈BASILIO〉
〈バジリオ〉
スザンナ、天があなたを
救いたまわんことを、して、もしや
伯爵を見かけませんでしたかな?
Susanna, il ciel vi salvi:
avreste a caso
Veduto il Conte?
〈SUSANNA〉
E cosa deve far meco il Conte?
Animo, uscite.
〈BASILIO〉
Aspettate, sentite,
Figaro di lui cerca.
〈SUSANNA〉
(Oh cieli!)
Ei cerca
Chi dopo voi più l’odia.
〈CONTE〉
(Vediam come mi serve.)
〈スザンナ〉
伯爵様があたくしと
何かされねばなりませんの?
さあ早く、出てってください。
〈バジリオ〉
待ちなさい、聞きなさい、
フィガロがあの方を捜してるんです。
〈スザンナ〉
(まあ、なんですって!)
あの人が捜してる、
あなたの次にあの人を
憎んでいるお方を。
〈伯爵〉
(あれが私にどう務めておるか
見てやろう。)
〈BASILIO〉
Io non ho mai nella moral sentito
Ch’uno Ch’ama la moglie
odi il marito.
Per dir che il Conte v’ama...
〈SUSANNA〉
Sortite, vil ministro
Della‘altrui sfrenatezza:
io non ho d’uopo
Della vostra morale,
Del Conte, del suo amor...
〈BASILIO〉
Non c’è alcun male.
Ha ciascun i suoi gusti:
io mi credea
Che preferir doveste per amante,
Come fan tutte quante,
Un signor liberal,
prudente, e saggio,
A un giovinastro, a un paggio...
〈SUSANNA〉
A Cherubino!
〈BASILIO〉
A Cherubino! a Cherubin d’amore
Ch’oggi sul far del giorno
Passeggiava qui intorno,
Per entrar...
〈SUSANNA〉
Uom maligno,
〈バジリオ〉
あたしは人の道として
聞いた例がありませんよ、
誰かの妻を好いた男が
その夫を憎むなんぞ。
伯爵はあなたを好いてるからして…
〈スザンナ〉
出てってください、
卑しい取り持ち役は、
人の不品行を取り持つだなんて、
あたくしは必要としません、
あなたの人の道も、
伯爵様も、その愛も...
〈バジリオ〉
少しも悪いことはない。
誰もそれぞれ好みがあることだし、
けど、あたしは信じてましたよ、
情人にはあなたも選ぶはずだと、
女がみんなするように
気前よく、慎重で、
賢明な殿方を、
チンピラよりも、小姓よりも…
〈スザンナ〉
ケルビーノよりも!
〈バジリオ〉
ケルビーノより!
恋のケルビーノよりもです、
あれは今日、夜明けごろ
このあたりをうろついてましたが、
ここへ入ろうと…
〈スザンナ〉
腹黒い人ね、
Un’impostura è questa
そんなの作り話です。
〈BASILIO〉
〈バジリオ〉
あなたにとっては、
頭に目のある者は腹黒いのですか。
じゃ、あの唄は?
内密にあたしに言ってみなさい、
あたしは味方、
それゆえ人には何も言いませんよ、
あれはあなたにかな、奥方にかな…
È un maligno con voi
chi ha gli occhi in testa.
E quella canzonetta?
Ditemi in confidenza;
io sono amico,
E ad altrui nulla dico;
È per voi, per madama...
〈SUSANNA〉
(Chi diavol gliel’ha detto?)
〈BASILIO〉
A proposito, figlia,
Instruitelo meglio;
Egli la guarda a tavola sì spesso,
E con tale immodestia,
Che se il Conte s’accorge...
che su tal punto,
Sapete,egli è una bestia.
〈SUSANNA〉
Scellerato!
E perchè andate voi
Tai menzogne spargendo?
〈BASILIO〉
Io! che ingiustizia!
quel che compro io vendo.
A quel che tutti dicono
Io non ci aggiungo un pelo,
〈スザンナ〉
(どんな悪魔が彼に
このことを喋ったの?)
〈バジリオ〉
それはそうと、あなた、
あれをもっと躾なさい、
あれは食卓であんなにしばしば
あんな無遠慮さで見て、
もし伯爵が気づかれたら…
そういうことになれば
分かってますよね、
あの人はまるで獣だから。
〈スザンナ〉
ひどい人!
でも、なぜあなたはいつも
そんな嘘を吹聴して歩くんです?
〈バジリオ〉
あたしが! なんたる誤解!
あたしは買ったものを売るんです。
皆が言っていることに
あたしは毛一本つけ加えて
いませんよ。
〈CONTE〉
Come, che dicon tutti!
〈伯爵〉
なんと、皆が何を言っておる!
〈BASILIO〉
Oh bella!
〈バジリオ〉
あれ、大変だ!
〈SUSANNA〉
Oh cielo!
〈スザンナ〉
ああ、もう!
No.7 Terzetto
第 7 曲 三重唱
〈CONTE〉
〈伯爵〉
なんたること!直ちに行って
追い出してしまえ、女たらしめを
Cosa sento! Tosto andante,
E scacciate il seduttor
〈BASILIO〉
In mal punto son qui giunto,
Perdonate, oh mio signor.
〈SUSANNA〉
Che ruina, me meschina!
Son oppressa dal dolor.
〈CONTE〉
Ah già svien la poverina!
Come oddio! Le batte il cor!
〈BASILIO〉
Pian pianin su questo seggio.
〈SUSANNA〉
Dove sono! Cosa veggio!
Che insolenza, andate fuor.
〈バジリオ〉
悪い時に来てしまった
お許しを、ああ、わが殿様。
〈スザンナ〉
なんてひどいことに、惨めなあたし!
苦しくて胸がつまるわ
〈伯爵〉
ああ、可哀想な娘は
すでに気絶してる!
なんと、困った!
心臓がドキドキしてる!
〈バジリオ〉
静かにそっと、この椅子の上へ
〈スザンナ〉
あたし、どこに?どうしたこと?
なんて失礼な、出て行ってください
〈CONTE〉
Siamo qui per aiutarti,
Non turbarti, oh mio tesor.
〈BASILIO〉
Siamo qui per aiutarvi,
È sicuro il vostro onor.
Ah del paggio quel che ho detto
Era solo un mio sospetto.
〈SUSANNA〉
E un’insidia, una perfidia,
Non credete all’inpostor.
〈CONTE〉
Parta parta il damerino!
〈SUSANNA E BASILIO〉
Poverino!
〈CONTE〉
〈伯爵〉
我々、そなたを助けるためにおる
心配いたすな、ああ、私の宝よ
〈バジリオ〉
我々、あなたを助けるためにいるんで
あなたの操は大丈夫
ああ、小姓について申しましたことは
ただほんの私の疑念でした
〈スザンナ〉
罠です、悪意です
ペテン師は信用なさいますな
〈伯爵〉
出て行ってもらう、
あの浮かれ者には!
〈スザンナとバジリオ〉
可哀想に!
Poverino!
Ma da me sorpreso ancor.
〈伯爵〉
可哀想にな!
私にも現場を捕まっておるとは
〈SUSANNA〉
Come! Che!
〈スザンナ〉
なんですって!
〈BASILIO〉
Che! Come!
〈バジリオ〉
まさか! なんですと!
〈CONTE〉
〈伯爵〉
そなたの従妹のところで
昨日、ドアが閉まっておるのを見て、
ノックすると
バルバリーナが戸を開けた
いつになくおどおどして
Da tua cugina
L’uscio ier trovai rinchiuso;
Piccio, m’apre Barbarina
Paurosa fuor dell’uso.
まさか!
Io dal muso insospettito,
Guardo, cerco in ogni sito,
Ed alzando pian pianino
Il tappeto al tavolino
Vedo il paggio...
Ah, cosa veggio!
私はその顔つきに不審を持ち
そこら中を見て、探した
そして静かにそっと持ち上げると、
小机に掛かる布を
あの小姓が見えた...
やっ、どうしたこと!
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
ああ! ひどい不運!
Ah! Crude stelle!
〈BASILIO〉
Ah! Meglio anvora!
〈CONTE〉
Onestissima signor!
Or capisco come va.
〈バジリオ〉
ああ! これはまた、いよいよ良い!
〈伯爵〉
ご立派にもご立派なご婦人よ!
これで事がどんな次第か分かったぞ
〈SUSANNA〉
Accader non può di peggio,
Giusti Dei! Che mai sarà!
〈スザンナ〉
これより悪いなんてありえないわ
正義の神様!
いったいどうなるのでしょう!
〈BASILIO〉
〈バジリオ〉
美しいご婦人はみんなこうするもの
少しも珍しいことはない
ああ、小姓について申しましたことは
ただほんの私の疑念でした
Così fan tutte le belle;
Non c’è alcuna novità.
Ah del paggio quel che ho detto
Era solo un mio sospetto.
スザンナ
バジリオ
伯爵
ケルビーノ
渡邉碧
清野裕太
小山大輝
岡田祥子
Che novità!
なんと珍しいことだ!
W.A.Mozart
“Le Nozze di Figaro” 第 2 幕第 3 景
場面は移り伯爵夫人が登場します。伯爵の浮気現場を抑えるために、伯爵から軍
隊行きを告げられたばかりの小姓ケルビーノを女装させ、スザンナに仕立てて密
会させる計画を画策します。しかしスザンナが化粧道具を取りに行っている間に
伯爵が登場。急いでケルビーノを化粧室に隠す夫人。伯爵は夫人の落ち着きのない
態度を不審に思い、夫人が浮気をしているのでないかと詮索します。
ちなみにここで出てくる手紙は、フィガロが伯爵に渡した匿名の手紙です。内容
は「伯爵夫人が今宵男と会う」というもの。伯爵を嫉妬させ、スザンナとの浮気か
ら気をそらさせようというフィガロの策略でしたが、これが裏目に出ることに…
Recitativo
レチタティーヴォ
〈CONTE〉
Che novità!
non fu mai vostra usanza
Di rinchiudervi in stanza!
〈伯爵〉
なんと珍しいことだ!
これまでそなたの習慣になかった、
部屋で鍵をかけるなど!
〈CONTESSA〉
É ver; ma io…
Io stave qui mettendo…
〈伯爵夫人〉
まことに、でも、私…
私はここで着替えておりまして…
〈CONTE〉
〈伯爵〉
ほう、着替えて…
Via mettendo…
〈CONTESSA〉
Certe robe…
Era meco la Susannna…
Che in sua camera è andata.
〈CONTE〉
〈伯爵夫人〉
あれこれの服を…
スザンナが一緒におりましたが…
あれは自分の部屋へまいりました。
Ad ogni mado
Voi non siete tranquilla:
Guardate questo foglio?
〈伯爵〉
いずれにしても
そなたは落ち着きがない、
この手紙を見てもらおうか?
〈CONTESSA〉
〈伯爵夫人〉
Numi! è il foglio
Che Figaro gli scrisse…
大変!手紙って
フィガロが描いたあれだわ…
〈CONTE〉
〈伯爵〉
この騒ぎはなんだ?
化粧室で何かが倒れたぞ。
Cos’è quest strepito?
in gabinetto Qualche cosa è caduta.
〈CONTESSA〉
Io non intesi niente.
〈CONTE〉
Convien che abbiate
i gran pensieri in mente.
〈CONTESSA〉
Di che?
〈CONTE〉
Là v’è qualcuno.
〈CONTESSA〉
Chi volete che sia?
〈CONTE〉
Lo chiedo a voi.
Io vengo in questo punto.
〈CONTESSA〉
Ah sì, Susanna… appunto…
〈伯爵夫人〉
私は何も聞きませんでした。
〈伯爵〉
何か重大な考えに
気を取られているってことだ。
〈伯爵夫人〉
何に?
〈伯爵〉
あそこに誰かおるな。
〈伯爵夫人〉
どなたであってほしいと?
〈伯爵〉
それをそなたに尋ねておる。
私は今、来たばかりだ。
〈伯爵夫人〉
ええ、そう、スザンナ…
間違いなく…
〈CONTE〉
〈伯爵〉
Che passò mi diceste alla sua stanza! そなた申したが、
あれは自分の部屋へ行ったと!
〈CONTESSA〉
〈伯爵夫人〉
Alla sua stanza ,
o qui non vidi bene…
自分の部屋かここか、
よく見えませんでしたので…
〈CONTE〉
〈伯爵〉
スザンナ! ならばどうしたことだ
そなたがそうも慌てておるのは?
Susanna! e donde viene
Che siete sì turbata?
〈CONTESSA〉
Per la mia cameriera?
〈CONTE〉
Io non so nulla:
Ma turbata senz’altro.
〈伯爵夫人〉
私が小間使いのために?
〈伯爵〉
私にはなんとも分からぬが、
しかし確かにそなたは慌てておる。
〈CONTESSA〉
〈伯爵夫人〉
Ah questa serva
まあ、あの小間使いは
Più che non turba me turba voi stesso. 私を慌てさすより貴方様の方を
慌てさせましょうに。
〈CONTE〉
È vero , è vero: e lo vedrete adesso.
〈伯爵〉
そうだ、そうだな、
だが今すぐに分かる。
No. 14 Terzetto
No. 14 三重唱
〈CONTE〉
〈伯爵〉
スザンナ、いいから、出てきなさい。
出てきなさい、私が、
そう望んでおる。
Susanna, or via, sortite,
sortite, io così vo'.
〈CONTESSA〉
Fermatevi... sentite...
Sortire ella non può.
〈伯爵夫人〉
おやめください…お聞きください…
あれは出てまいれません。
〈SUSANNA〉
〈スザンナ〉
Cos'è codesta lite!
Il paggio dove andò!
この口論はどうしたこと!
お小姓はどこへ行ったの!
〈CONTE〉
〈伯爵〉
さても、誰にそう禁じることなど?
E chi vietarlo or osa?
〈CONTESSA〉
Lo vieta l'onestà.
Un abito da sposa
provando ella si sta.
〈CONTE〉
Chiarissima è la cosa:
l'amante qui sarà.
〈CONTESSA〉
Bruttissima è la cosa,
chi sa cosa sarà.
〈SUSANNA〉
Capisco qualche cosa,
veggiamo come va.
〈CONTE〉
Dunque parlate almeno.
Susanna, se qui siete...
〈CONTESSA〉
Nemmen, nemmen, nemmeno,
io v'ordino: tacete.
〈SUSANNA〉
〈伯爵夫人〉
礼節というものが禁じております
花嫁衣装をあの娘は試している
ところです
〈伯爵〉
事は明白にも明白
愛人がここにおるのであろう
〈伯爵夫人〉
事は陰険にも陰険
一体どうなることかしら
〈スザンナ〉
いくらか分かってきたわ
どうなるか見ていましょう
〈伯爵〉
それでは、少なくとも何か申せ
スザンナ、そこにおるなら…
〈伯爵夫人〉
それも、それも、いけません
私が命じます、黙っていなさい
Oh cielo, un precipizio,
un scandalo, un disordine,
qui certo nascerà.
〈スザンナ〉
さあ、大変、惨事が
醜聞が、騒動が
これから間違いなく生じるわ
〈CONTE〉
〈伯爵〉
Consorte mio, giudizio,
un scandalo, un disordine,
schiviam per carità!
私の妻よ、分別を
醜聞やら騒動は
避けなければ、なんとかして
〈CONTESSA〉
Consorte mia, giudizio,
un scandalo, un disordine,
schiviam per carità!
〈伯爵夫人〉
私のご主人様、分別を
醜聞やら騒動は
避けなければ、なんとかして
Recitativo
レチタティーヴォ
〈CONTE〉
〈伯爵〉
では、そなたは開かぬのか?
Dunque voi non aprite?
〈CONTESSA〉
E perché degg'io
le mie camere aprir?
〈CONTE〉
Ebben, lasciate,
l'aprirem senza chiavi.
Ehi, gente!
〈CONTESSA〉
Come?
Porreste a repentaglio
d'una dama l'onore?
〈CONTE〉
〈伯爵夫人〉
でも、なぜ私は自分の部屋を
開けねばなりませんの?
〈伯爵〉
よかろう、そうしておれ
こちらは鍵なしで開けてやる、
おい、誰か…
〈伯爵夫人〉
なんですの?
もしや危険にさらそうと、
婦人の名誉を?
〈伯爵〉
È vero, io sbaglio.
たしかにそうだ、私の誤りだ
Posso senza rumore,
私が、家人たちの噂にならず
senza scandalo alcun di nostra gente どんな醜聞にもならぬよう
andar io stesso a prender l'occorrente. 自分で必要な道具を取りに
いくのがよい
Attendete pur qui
では、ここで待っていなさい…
ma perché in tutto
いや、すっかり
sia il mio dubbio distrutto
anco le porte io prima chiuderò.
私の疑いが打ち消されるよう
まずここのドアにも
鍵を掛けるとしよう
〈CONTESSA〉
〈伯爵夫人〉
(なんて軽はずみなことを!)
(Che imprudenza!)
〈CONTE〉
Voi la condiscendenza
di venir meco avrete.
Madama, eccovi il braccio,
andiamo.
〈CONTESSA〉
〈伯爵夫人〉
参りましょう
Andiamo.
〈CONTE〉
Susanna starà qui finché torniamo.
スザンナ
伯爵夫人
伯爵
〈伯爵〉
そなた、悪いが
私とともに来てもらう。
奥方、さあ、そなたに腕を、
参るとしよう
渡邉碧
富樫美衣
小山大輝
〈伯爵〉
スザンナは我々の戻るまで
ここにいるのだ
E Susanna non vien!
スザンナは来ないわね!
W.A.Mozart
“Le Nozze di Figaro” 第 3 幕第 8 景
伯爵夫人ロジーナは浮気なアルマヴィーヴァ伯爵を懲らしめようと考え、伯爵
の誘いを受けている小間使いのスザンナに伯爵と 2 人で会う約束をさせる。スザ
ンナが伯爵の部屋から戻るのを待ちながら、結婚した頃の幸せな日々を思い出し
て現在の身の上を嘆くのがこのレチタティーヴォとアリアである。
Recitativo
レチタティーヴォ
〈CONTESSA〉
〈伯爵夫人〉
スザンナは来ないわね!
知るのが待ち遠しいわ、
どのように伯爵があの申し出を
受け入れられたか。
この企みはいくらか大胆に
思われるけれど、あのように
血気にはやる嫉妬深い夫には!
でも何の悪いことがあって?
私の服を変えて、スザンナのと、
あの子のと私のと……
そして夜を幸い……
ああ、なんて忌まわしい惨状に
私は追い込まれたのでしょう、
あの人は聞いたこともないほど
不実、嫉妬、侮辱をおりまぜて
最初は私を愛し、そして傷つけ、
ついには裏切り、
今では召使に助けを
求めさせるのだわ!
E Susanna non vien!
Sono ansiosa di saper
come il Conte accolse la proposta.
Alquanto ardito il progetto mi par,
e ad uno sposo sì vivace, e geloso!
Ma che mal c'è?
Cangiando i miei vestiti
con quelli di Susanna, e i suoi co'miei...
al favor della notte...
oh cielo, a qual umil stato fatale
io son ridotta da un consorte crudel,
che dopo avermi con un misto inaudito
d'infedeltà, di gelosia, di sdegni,
prima amata, indi offesa,
e alfin tradita,
fammi or cercar da una mia serva aita!
No.20 Aria
第 20 曲 アリア
Dove sono i bei momenti
di dolcezza e di piacer,
dove andaro i giuramenti
どこなのでしょう、あの幸福な時
甘さと喜びのあの時は、
どこへ行ったのでしょう、
di quel labbro menzogner?
Perché mai se in pianti e in pene
per me tutto si cangiò,
la memoria di quel bene
dal mio sen non trapassò?
偽りの唇がなしたあの誓いは?
一体なぜ、涙と苦しみのうちに
すべてが変わってしまったのに、
あの幸せな思い出は、私から
消えゆかなかったのでしょう?
Ah! Se almen la mia costanza
nel languire amando ognor,
mi portasse una speranza
di cangiar l'ingrato cor.
ああ! せめてこの真心が
愛し続けながら苦悩する私に
希望をもたらしてくれるなら、
あの無情な心を変えられる
という希望を。
伯爵夫人
高橋真梨萌
Armer Mann,
かわいそうに…
W.A.Mozart
“Die Zauberflöte” 第 1 幕第 14 景
1971 年、モーツァルトが最後に完成させたと言われる「魔笛」は、大衆劇場の
興行師であるシカネーダーから自分の劇団のためにと依頼された作品である。漠
然とではあるがラムセス時代のエジプトを舞台背景としており、その物語はおと
ぎ話の世界である。
あるとき王子タミーノは蛇に襲われ気を失い倒れてしまう。そこに夜の女王の
侍女3人が現れ、蛇を退治し王子を助けたが、女王への報告に3人が去ったあと、
鳥刺しパパゲーノが来て、気がついたタミーノに蛇を退治したのは自分だと嘘を
つく。その嘘は報告から戻った侍女たちによってばれ、パパゲーノは罰をうける。
一方タミーノは女王の娘パミーナの絵姿を見せられ、彼女の虜となる。そこへ夜の
女王が現れ、娘をザラストロに奪われた母の怒りと悲しみを訴え、タミーノに助け
出したならば娘を嫁がせようと言う。救出に向かうことになったタミーノには魔
法の笛が、タミーノのお供をするパパゲーノには銀の鈴が渡され、3人の童子が道
案内を務めることとなる。その後ザラストロの屋敷では、パミーナが黒人のモノス
タトスに言い寄られ、手込めになりそうなところへパパゲーノが来て事なきをえ
る。場面はここから。パパゲーノは王子タミーノがパミーナのことを愛しているこ
とを彼女に伝えるも、自身にはそういう人がいないことを嘆く。するとパミーナが
彼を慰め、二人で愛について歌う。
〈PAMINA〉
Armer Mann,
du hast also noch kein Weib?
〈PAPAGENO〉
Noch nicht einmal ein Mädchen,
viel weniger ein Weib!
Ja, das ist betrübt!
Und unsereiner hat doch auch
bisweilen seine lustigen Stunden,
wo man gern gesellschaftliche
Unterhaltung haben möchte.
〈PAMINA〉
Geduld, Freund!
Der Himmel wird auch für
dich sorgen;
〈パミーナ〉
かわいそうに、
じゃあまだひとりなの?
〈パパゲーノ〉
ガールフレンドすらいないんだから
奥さんどころじゃないでしょう!
そうだよ、それが悲しいんだよ!
みんなはそうやって
喜んで付き合いながら
楽しんでいるのに。
〈パミーナ〉
辛抱なさいな、お友達さん!
そのうちに神様が
心配して下さって、
er wird dir eine Freundin
schicken, ehe du di's vermuthest.
思ったより早くあなたに
女の人を授けて下さるわ。
〈PAPAGENO〉
Wenn er sie nur bald schickte!
〈パパゲーノ〉
早く授けて下さるといいなあ!
Nr. 7 Duetto
第 7 曲 二重唱
〈PAMINA〉
〈パミーナ〉
愛を感じる男のひとたちには
正しい心も欠けてはいない。
Bey Männern, welche Liebe fühlen,
Fehlt auch ein gutes Herze nicht.
〈PAPAGENO〉
Die süssen Triebe mitzufühlen,
Ist dann der Weiber erste Pflicht.
〈BEYDE〉
Wir wollen uns der Liebe freun,
Wir leben durch die Lieb' allein.
〈PAMINA〉
Die Lieb' versüsset jede Plage,
Ihr opfert jede Kreatur.
〈PAPAGENO〉
Sie würzet unsre Lebenstage,
Sie wirkt im Kreise der Natur.
〈BEYDE〉
〈パパゲーノ〉
甘い愛の本能を感じるのは
それは女の第一の務め。
〈二人〉
私たちは愛に喜びを感じようとし、
私たちは愛によってだけ生きる。
〈パミーナ〉
愛は全てのものを甘美にし、
あらゆる生き物は愛に身を委ねる。
〈パパゲーノ〉
愛は私たちの毎日の生活に趣を添え
愛は自然の中にも働いている。
〈二人〉
Ihr hoher Zweck zeigt deutlich an,
気高い愛が明らかに示しているのは
Nichts edlers sei als Weib und Mann. 女と男より高貴なものはないこと。
Mann und Weib, und Weib und Mann, 男と女、女と男は手を携え、
Reichen an die Gottheit an.
崇高な神の世界へと歩むのだ。
パミーナ
パパゲーノ
二宮知子
湊和貴
Der, welcher wandert
さすらう者は
W.A.Mozart
“Die Zauberflöte” 第 2 幕第 28 景
神官ザラストロの神殿で試練を受けることになったタミーノとパパゲーノ。最
初の「空気の試練」では誰に対しても決して口をきいてはならないという試練が与
えられました。それを知らないパミーナは沈黙を貫くタミーノに対し「この恋愛は
終わってしまった」と一度は嘆き、自殺まで図りますが、3 人の童子の説得で思い
直し、童子に導かれ彼の元へと向かいます。一方「空気の試練」を乗り越えたタミ
ーノは、次の試練を受けるべく、2 人の武士に連れられて、恐怖の扉に到着します。
そこで 2 人の武士は、その門の前で碑文に刻まれた言葉を読み上げるのでした…
No.21
第 21 曲
〈DIE GEHARNISCHTEN〉
〈門番〉
苦難を背負い
この道をさすらう者は、
火と水と空気と大地によって
清められる。
彼が死の恐怖を克服した
あかつきには、
俗世をはなれ、
天国へと舞い上がる。
そのとき彼は悟りを得て、
イジスの秘儀に
参ずることができるだろう。
Der, welcher wandert
diese Strasse voll Beschwerden,
Wird rein durch Feuer, Wasser,
Luft und Erden;
Wenn er des Todes Schrecken
überwinden kann,
Schwingt er sich aus der Erde
Himmel an.
Erleuchtet wird er dann im Stande sein,
Sich den Mysterien
der Isis ganz zu weih'n.
〈TAMINO〉
〈タミーノ〉
Mich schreckt kein Tod,
男子としてふるまい、
als Mann zu handeln,
徳の道を歩む私は、
Den Weg der Tugend fort zu wandeln.
死を恐れはいたしません。
Schliesst mir des Schreckens Pforten auf! 恐怖の扉を開けてください、
Ich wage froh den kühlen Lauf.
私は喜んで大胆に歩みます。
〈PAMINA〉
Tamino, halt, ich muss dich seh'n.
〈TAMINO〉
〈パミーナ〉
タミーノ、待って。
あなたにお会いしたいのです。
〈タミーノ〉
Was höre ich, Paminens Stimme?
あれはパミーナの声ですか。
〈DIE GEHARNISCHTEN〉
〈門番〉
そうだ、パミーナの声だ。
Ja, ja, das ist Paminens Stimme!
〈TAMINO〉
Wohl mir nun kann sie mit mir geh’n,
Nun trennet uns kein Schicksal mehr,
Wenn auch der Tod beschieden wär’!
〈DIE GEHARNISCHTEN〉
Wohl dir nun kann sie mit dir geh’n.
Nun trennet euch kein Schicksal mehr,
Wenn auch der Tod beschieden wär’!
〈TAMINO〉
Ist mir erlaubt, mit ihr zu sprechen?
〈DIE GEHARNISCHTEN〉
Es ist erlaubt, mit ihr zu sprechen.
〈タミーノ〉
彼女といっしょにこの道を
歩めるとは幸せだ。
もうどんな運命も私たちを
引き離すことはできない。
たとえ死が訪れようとも。
〈門番〉
彼女といっしょにこの道を
歩めることは幸せだ。
もうどんな運命もあなた方を
引き離すことはできない。
たとえ死が訪れようとも。
〈タミーノ〉
彼女と話をしてもいいですか。
〈門番〉
もうよい、彼女と話してもよい。
〈TAMINO〉
〈タミーノ〉
Welch Glück, wenn wir uns wiederseh'n, また会えるとは何という幸せ。
〈DIE GEHARNISCHTEN〉
〈門番〉
Welch Glück, wenn wir uns wiederseh'n, また会えるとは何という幸せ。
〈TAMINO UND DIE GEHARNISCHTEN〉〈タミーノと門番〉
Froh Hand in Hand in Tempel geh'n.
手をとり、喜んで神殿へ行こう。
Ein Weib, das Nacht und Tod nicht scheut, 夜も死も恐れぬ女性こそ、
Ist würdig, und wird eingeweiht.
われらの同志にふさわしく、
喜んで迎え入れられよう。
〈PAMINA〉
〈パミーナ〉
Tamino mein! O welch ein Glück!
私のタミーノ、何という幸せ。
〈TAMINO〉
〈タミーノ〉
私のパミーナ、何という幸せ。
ここが恐怖の門、
苦しみと死とが迫るところだ。
Pamina mein! O welch ein Glück!
Hier sind die Schreckenspforten,
Die Not und Tod mir dräu’n.
〈PAMINA〉
Ich werde aller Orten
An deiner Seite sein.
Ich selbsten führe dich;
Die Liebe leite mich!
Sie mag den Weg mit Rosen streu'n,
Weil Rosen stets bey Dornen sein.
Spiel du die Zauberflöte an;
Sie schütze uns auf unsrer Bahn;
Es schnitt in einer Zauberstunde
Mein Vater sie aus tiefstem Grunde
Der tausendjähr'gen Eiche aus
Bei Blitz und Donner, Sturm und Braus.
Nun komm und spiel' die Flöte an,
Sie leite uns auf grauser Bahn.
〈TAMINO UND PAMINA〉
Wir wandeln durch des Tones Macht.
Froh durch des Todes düstre Nacht!
〈DIE GEHARNISCHTEN〉
Ihr wandelt durch des Tones Macht
Froh durch des Todes düstre Nacht!
〈パミーナ〉
どんなところでも
あなたのおそばにおります。
私があなたの先にまいります。
愛が私を導いてくれますから。
愛は私たちの行く道に
バラをまいてくれるでしょう。
いばらのあるところには
いつもバラが咲いているのです。
あなたは魔法の笛を
吹いてください。
笛よ、きびしい道を行く二人を
守ってください。
この笛は、父が魔法の時刻に
稲妻と雷鳴と吹きすさぶ
嵐のなかで、樹齢千年の樫の木の
奥深くから彫ったものです。
さあ行きましょう、
笛を吹いてください、
笛よ、けわしい道を行く
私たちを導いてください。
〈タミーノとパミーナ〉
私たちは笛の力に導かれ、
死の暗い夜を明るく
歩んで行きます。
〈門番〉
あなた方は笛の力に導かれ、
死の暗い夜を明るく
歩んで行きます。
パミーナ
タミーノ
門番 1
門番 2
岡田祥子
鈴木雅人
清野裕太
宮野郁
Batti, batti, o bel Masetto
ぶってよ、ねえ、愛しいマゼット
W.A.Mozart
“Don Giovanni” 第 1 幕第 16 景
ツェルリーナの浮気性についに怒ったマゼット。ツェルリーナは、ぶってよマゼ
ット、私はここで子羊のようにじっとしているわと下手に出つつ、でもわかってる
わ、ほんとはそんな気無いでしょう、昼も夜も仲良くしましょうよと、マゼットを
うまくなだめ、マゼットはまんまとその気になってしまう。
No.12
第 12 曲
〈ZERLINA〉
Batti, batti, o bel Masetto,
La tua povera Zerlina:
Staro’ qui come agnellina
Le tue botte ad aspettar.
〈ツェルリーナ〉
ぶってよ、ねえ、愛しいマゼット
あんたの哀れなツェルリーナを
あたしはここで子羊のように
あんたにぶたれるのを待ってるわ
Lascerò straziarmi il crine,
Lascerò cavarmi gli occhi,
E le care tue manine
Lieta poi saprò baciar.
髪をむしられてもいいの
目をくり抜かれてもいいの
それでも大好きなあんたの手なら
そのあと喜んでキスだってできるわ
Ah lo vedo, non hai core:
Pace, pace, o vita mia;
In contenti ed allegria
Notte e dì vogliam passar.
Si,notte e dì vogliam passar.
ああ、でもそんな気ないのわかってる
仲直り、仲直りよ、あたしの命の人
幸せに、そして楽しく
一日中過ごしましょう
そう、昼も夜も過ごしましょう
ツェルリーナ
岡部優似
Risposate, vezzoze
休憩なさい、愛らしい人
W.A.Mozart
“Don Giovanni” 第 1 幕第 20 景
ドン・ジョヴァンニとその従者レポレッロは、村人全員を自分の邸宅に招待して
豪華な宴会を催します。
しかしそこにはドンジョバンニの悪行を暴こうとドンナアンナ、ドンオッターヴ
ィオ、ドンナエルヴィーラの 3 人が仮面で正体を隠して忍びこんでいました。宴
会に紛れて農夫マゼットの妻であるツェルリーナを手に入れようとしますが、あ
と一歩というところで悪行を暴露され、アンナ達 3 人と村人に追い詰められてし
まいます。絶体絶命のピンチに追い込まれたドンジョヴァンニの結末は...
キャラクターの個性豊かな動きとそれぞれの思惑。そして七重唱の響きをお楽
しみください。
No.13
第 13 曲
〈DON GIOVANNI〉
〈ドン・ジョヴァンニ〉
休憩なさい、愛らしい娘さんたち
Riposate, vezzose ragazze,
〈LEOPORELLO〉
Rinfrescatevi, bei giovinotti,
〈レポレッロ〉
一息入れてください、
美男の若衆たち
〈DON GIOVANNI E LEPORELLO〉〈ドン・ジョヴァンニとレポレッロ〉
Tornerete a far presto le pazze,
Tornerete a scherzar e ballar.
〈DON GIOVANNI〉
Ehi! caffè!
〈LEPORELLO〉
Cioccolata!
〈MASETTO〉
Ah, Zerlina, giudizio!
〈DON GIOVANNI〉
Sorbetti!
そしてすぐまた遊びに
興じてくださいよ
また戯れ、踊ってくださいよ
〈ドン・ジョヴァンニ〉
おい、コーヒーを!
〈レポレッロ〉
ココアを!
〈マゼット〉
ああ、ツェルリーナ、弁えろ!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
氷菓子を!
〈LEPORELLO〉
Confetti!
〈ZERLINA E MASETTO〉
(Troppo dolce comincia la scena;
In amaro potrìa terminar.)
〈DON GIOVANNI〉
Sei pur vaga, brillante Zerlina.
〈ZERLINA〉
Sua bontà!
〈MASETTO〉
La briccona fa festa.
〈LEPORELLO〉
Sei pur cara, Gionnotta, Sandrina.
〈MASETTO〉
Tocca pur, che ti cada la testa.
〈ZERLINA〉
Quel Masetto mi par stralunato,
Brutto, brutto si fa quest'affar.
〈レポレッロ〉
砂糖菓子を!
〈ツェルリーナとマゼット〉
(事があんまり調子よく
始まるんで、かえって
後味悪く終わるかもしれない)
〈ドン・ジョヴァンニ〉
実に綺麗だ、溌剌として、
ツェルリーナ!
〈ツェルリーナ〉
お優しいこと!
〈マゼット〉
あばずれめ、はしゃいでやがる。
〈レポレッロ〉
じつに可愛い、ジャンノッタ、
サンドリーナ!
〈マゼット〉
触りでもしてみろ、
あんたの首は落ちるぞ
〈ツェルリーナ〉
マゼットったら逆上したみたい
これじゃ事は悪くなっていくわ
〈DON GIOVANNI E LEPORELLO〉〈ドン・ジョヴァンニとレポレッロ〉
Quel Masetto mi par stralunato,
Qui bisogna cervello adoprar.
あのマゼットは逆上したようだ
こちらで脳みそをつかう
必要がある
〈MASETTO〉
〈マゼット〉
触れ、触ってみろ!
Tocca, tocca!
Ah briccona!
Mi vuoi diperar.
ああ、あばずれめ!
堪忍袋の緒を切らせたいのか!
〈LEPORELLO〉
〈レポレッロ〉
ずんとこちらへおいでください
優美な仮面の方がた!
Venite pur avanti,
Vezzose mascherette!
〈DON GIOVANNI〉
È aperto a tutti quanti,
Viva la libertà!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
ここはみなさんどなたにも
開かれています
存分に、ご自由に!
〈DONNA ANNA, DONNA ELVIRA
〈ドンナ・アンナ、ドンナ・
E DON OTTAVIO〉
エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオ〉
Siam grati a tanti segni
Di generosità.
有難く存じます、これほどの
寛大なお言葉に
〈TUTTI〉
〈全員〉
存分に、自由に!
Viva la libertà!
〈DON GIOVANNI〉
Ricominciate il suono!
Tu accoppia i ballerini.
〈LEPORELLO〉
Da bravi, via ballate!
〈DONNA ELVIRA〉
Quella è la contadina.
〈DONNA ANNA〉
Io moro!
〈DON OTTAVIO〉
Simulate!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
あらためて音楽を!
そなた、踊り手の
組み合わせを頼む!
〈レポレッロ〉
しっかりと、さあ、
踊ってください!
〈ドンナ・エルヴィーラ〉
あれが例の村娘ですの
〈ドンナ・アンナ〉
わたくし、死にそう!
〈ドン・オッターヴィオ〉
気持ちを隠してください!
〈DON GIOVANNI E LEPORELLO〉〈ドン・ジョヴァンニとレポレッロ〉
Va bene in verità!
じつに、うまく運んでいる!
〈MASETTO〉
〈マゼット〉
じつに、うまく運んでいますよ!
Va bene in verità!
〈DON GIOVANNI〉
A bada tien Masetto.
〈LEPORELLO〉
Non balli, poveretto!
Vien quà, Masetto caro,
Facciam quel ch'altri fa.
〈DON GIOVANNI〉
Il tuo compagno io sono,
Zerlina, vien pur qua.
〈MASETTO〉
No, no, ballar non voglio.
〈LEPORELLO〉
Eh, balla, amico mio!
〈MASETTO〉
No!
〈LEPORELLO〉
Sì, caro Masetto, balla!
〈DONNA ANNA〉
Resister non poss'io!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
マゼットを引き付けておけ
〈レポレッロ〉
踊らないとは、気の毒に!
こっちへどうぞ、マゼットさん
ほかの者がやってること、
やりましょうぜ
〈ドン・ジョヴァンニ〉
わたしがそなたのお相手だ
ツェルリーナ、さあ、おいで
〈マゼット〉
いいや、嫌だ、踊りたくない
〈レポレッロ〉
ほう、踊れよ、相棒!
〈マゼット〉
嫌だ!
〈レポレッロ〉
ほら、マゼットさんよ、踊れ!
〈ドンナ・アンナ〉
わたくし、耐えられません!
〈DONNA ELVIRA E DON OTTAVIO〉 〈ドンナ・エルヴィーラと
Fingete per pietà!
ドン・オッターヴィオ〉
うわべを装って、お願いです!
〈LEPORELLO〉
Eh balla, amico mio,
Facciam quell ch’altri fa.
〈DON GIOVANNI〉
Vieni con me, mia vita,
Vieni, vieni…
〈MASETTO〉
Lasciami… ah no… Zerlina!...
〈ZERLINA〉
Oh Numi! son tradita!
〈LEPORELLO〉
Qui nasce una ruina.
〈レポレッロ〉
いいから、踊れよ、我が相棒
ほかの者がやってることを
やりましょうぜ
〈ドン・ジョヴァンニ〉
わたしとおいで、我が命よ、
さあ、おいで…
〈マゼット〉
放してくれ… ああ、
やめろ… ツェルリーナ…
〈ツェルリーナ〉
ああ、まさか! 騙されたわ!
〈レポレッロ〉
いよいよ大騒動が起こるぞ
〈DONNA ANNA, DONNA ELVIRA
〈ドンナ・アンナ、ドンナ・
E DON OTTAVIO〉
エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオ〉
L'iniquo da se stesso
Nel laccio se ne va.
邪悪な者は自分みずから
罠へと落ちていく
〈ZERLINA〉
〈ツェルリーナ〉
みんな助けて、助けてみんな!
Gente aiuto, aiuto gente!
〈DONNA ANNA, DONNA ELVIRA
〈ドンナ・アンナ、ドンナ・
E DON OTTAVIO〉
エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオ〉
Soccorriamo l'innocente!
罪ない娘を救いましょう!
〈MASETTO〉
Ah, Zerlina!
〈マゼット〉
ああ、ツェルリーナ!
〈ZERLINA〉
Scellerato!
〈ツェルリーナ〉
極悪人!
〈DONNA ANNA, DONNA ELVIRA
〈ドンナ・アンナ、ドンナ・
E DON OTTAVIO〉
エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオ〉
Ora grida da quel lato!
Ah gettiamo giù la porta!
今度はあっちで叫んでいる!
さあ、扉を打ち破りましょう!
〈ZERLINA〉
〈ツェルリーナ〉
あたしを助けて、
さもないと死にそう!
Soccorretemi! o son morta!
〈DONNA ANNA, DONNA ELVIRA
DON OTTAVIO E MASETTO〉
Siam qui noi per tua difesa.
〈DON GIOVANNI〉
Ecco il birbo che t'ha offesa:
Ma da me la pena avrà!
Mori, iniquo!
〈LEPORELLO〉
Ah cosa fate!
〈DON GIOVANNI〉
Mori, dico!
〈DON OTTAVIO〉
Nol sperate!
〈ドンナ・アンナ、
ドンナ・エルヴィーラ、
ドン・オッターヴィオ、マゼット〉
わたしたちはここに、
あなたを守ろうと
〈ドン・ジョヴァンニ〉
そうれ、そなたに手を
出そうとしたならず者だ
だが私から仕置きを受けよう!
死ね、悪党!
〈レポレッロ〉
ああ、何をなさるんで!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
死ね、と言っている!
〈オッタ―ヴィオ>
そうはゆかぬぞ!
〈DONNA ANNA, DONNA ELVIRA
〈ドンナ・アンナ、ドンナ・
E DON OTTAVIO〉
エルヴィーラ、ドン・オッターヴィオ〉
L'empio crede con tal frode
Di nasconder l'empietà.
この非道の者は考えている、
このような誤魔化しで
非道の行いを隠しおおせると
〈DON GIOVANNI〉
Donna Elvira!
〈DONNA ELVIRA〉
Sì, malvagio!
〈DON GIOVANNI〉
Don Ottavio!
〈DON OTTAVIO〉
Sì, signore!
〈DON GIOVANNI〉
Ah, credete!...
〈TUTTI〉
Traditore!
Tutto già si sa.
Trema, trema, o scellerato!
Saprà tosto il mondo intero
Il misfatto orrendo e nero
La tua fiera crudeltà.
Odi il tuon della vendetta,
Che ti fischia intorno intorno;
Sul tuo capo in questo giorno
Il suo fulmine cadrà.
〈DON GIOVANNI〉
È confusa la mia testa,
Non so più quel ch’io mi faccia,
E un’orribile tempest
Minacciando, o Dio, mi va
Ma non manca in me coraggio,
〈ドン・ジョヴァンニ〉
ドンナ・エルヴィーラ!
〈ドンナ・エルヴィーラ〉
そのとおり、悪党!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
ドン・オッターヴィオ!
〈ドン・オッターヴィオ〉
そのとおり、騎士殿!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
ああ、信じていただきたい!…
〈全員〉
裏切り者!
すべて、すべて、もう知れている
慄け、恐れよ、極悪人め!
すぐさま世間中の人が
知ることになろう
恐ろしくも忌まわしいその悪行
おまえの傲慢不遜なその残虐さ
聞くがいい、復讐の雷鳴を
おまえのぐるり周りで
轟いている
おまえの頭上に今日この日にも
その雷光がおちることになろう
〈ドン・ジョヴァンニ〉
おれの頭は混乱している、
もはやおれのなすべきことが
分からない
そして凄まじい嵐が
おれを次第に、くそっ、脅かす
だがおれに勇気の
くじけることはない
Non mi perde o mi confondo,
Se cadesse ancor il mondo
Nulla mai temer mi fa.
迷ったり、惑ったりはしない
たとえ世界が崩れ落ちようと
何事もまったくおれを
恐れさせはしない
〈LEPORELLO〉
〈レポレッロ〉
旦那の頭は混乱してる
もう自分で自分の
やってることが分かってない
そして凄まじい嵐が
旦那を次第に、なんてことよ、
追い詰めてる
けどあのひとに
勇気がくじけることはない
迷ったり、惑ったりはしない
もしこの世がひっくり返っても
何事もけっして
あの人を恐れさせはしない
È confusa la sua testa,
Non sa più quel ch'ei si faccia
E un’orribile tempest
Minacciando, o Dio, lo va
Ma non manca in lui coraggio,
Non si perde o si confonde
Se cadesse ancor il mondo
Nulla mai temer lo fa.
ドン・ジョヴァンニ
ドンナ・アンナ
ツェルリーナ
ドンナ・エルヴィーラ
ドン・オッターヴィオ
マゼット
レポレッロ
桐山直樹
岡田祥子
二宮知子
富樫美衣
清野裕太
宮野郁
寺本翔
Vedrai, carino, se sei buonino みて、かわいい人
W.A.Mozart
“Don Giovanni” 第 2 幕第 6 景
ドン・ジョヴァンニのあまりの行動に、遂に立ち上がったマゼットと百姓達はド
ン・ジョヴァンニをレポレッロと間違えて、彼の指示通りに散開してしまう。この
後、ドン・ジョヴァンニはマゼットをしたたかに痛めつける。助けを求めるマゼッ
トの声を聞いて駆けつけたツェルリーナが「嫉妬するから、こんなことになるの
よ」と諭し、慰める。
No.18
第 18 曲
〈ZERLINA〉
〈ツェルリーナ〉
みて、かわいい人、
いいこにしてたらね、
いいおくすりをあなたにあげましょう
自然のものなの
苦くなんかないのよ
しかも、薬屋さんも作れないの、
ほんとよ作りかたを知らないの
鎮静剤の様なもの、
私が持っているものは
あなたにあげてもいいのよ
あなたが試してみたいなら
私のどこにあるか知りたい?
どきどきしてるの感じるでしょ、
ここに触って!
Vedrai, carino, se sei buonino,
che bel rimedio ti voglio dar.
E’ naturale,
non da disgusto
e lo speziale non lo sa far, no,
non lo sa far.
E’ un certo balsamo
che porto addosso,
dare tel posso,
se il vuoi provar.
Saper vorresti dove mi sta?
Sentilo battere,
toccami qua!
ツェルリーナ
町田仁奈
Don Giovanni,
W.A.Mozart
ドン・ジョヴァンニ
“Don Giovanni”第 2 幕第 15 景
ある夜、ドン・ジョヴァンニと従者レポレッロが豪勢な食事を楽しんでいまし
た。するとそこに騎士長の石像が現れます。
レポレッロが恐れ震える傍で、騎士長は手を差出しドン・ジョヴァンニを夕食へ
と誘います。ドン・ジョヴァンニが騎士長の手を取ると、騎士長はその手を決して
離さずに、
「今までの行いを悔い改めよ」と迫ります。しかしドン・ジョヴァンニ
が「死んでも悔い改めるものか」と言うので、ついに騎士長はドン・ジョヴァンニ
の手を引いて地獄に引きずり下ろしてしまいます。
騎士長とドン・ジョヴァンニの互いに一歩も引かぬ堂々たる演技はもちろん、恐
れ戦くレポレッロの演技にも注目です。
No.24
第 24 曲
〈IL COMMENDATORE〉
〈騎士長〉
ドン・ジョヴァンニ、そなたと
夕食するよう、そなたはわしを招いた
それゆえまいった。
Don Giovanni, a cenar teco
M’invitasti, e son venuto
〈DON GIOVANNI〉
Non l’avrei giammmai creduto,
Ma farò quel che portò!
Leporello, un’altra cena
Fa’che subito si porti!
〈LEPORELLO〉
Ah padron! Siam tutti morti!
〈DON GIOVANNI〉
Vanne dico…
〈IL COMMENDATORE〉
Ferma un po’.
Non si pasce di cibo mortale
Chi si pasce de cibo celeste.
〈ドン・ジョヴァンニ〉
そうとはまったく思いもよらなかった
だができるだけのことを
いたすとしよう!
レポレッロ、もうひとり分の夕食、
すぐにお持ちするようにしろ!
〈レポレッロ〉
ああ、ご主人! 手前ども
みんな死んだも同然でして!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
行け、命令だ…
〈騎士長〉
しばし待て。
人の食をもって糧とはせぬ、
天の食をもって糧とする者は。
Altre cure più gravi di queste,
Altra brama quaggiù mi guidò!
それより重大なる別の慮りが
別の切望がわしを
この下界へ導いたのだ!
〈LEPORELLO〉
〈レポレッロ〉
三日熱にかかったみたいで
もう手足の震えをとめられない。
La teterzana d’avere mi sembra,
E le membra fermar più non so.
〈DON GIOVANNI〉
Parla dunque:
che chiedi, che vuoi?
〈IL COMMENDATORE〉
Parlo, ascolta, più tempo non ho.
〈DON GIOVANNI〉
Parla, parla, ascoltando ti sto.
〈IL COMMENDATORE〉
Tu m’invitasti a cena,
Il tuo dover or sai;
Rispondimi: verrai
Tu a cenar meco?
〈LEPORELLO〉
Oibò!
Tempo non ha, scusate.
〈DON GIOVANNI〉
A torto di viltat
Tacciato mai sarò!
〈IL COMMENDATORE〉
Risolvi.
〈ドン・ジョヴァンニ〉
それならば話されよ、
何を求め、何をお望みか?
〈騎士長〉
話そう。聞くがよい、
わしはもう時間がない。
〈ドン・ジョヴァンニ〉
話すがいい、私は聞いている。
〈騎士長〉
そなたはわしを夕食に招いた、
とあれば今そなたのなすべきことは
わかっておろう
わしに答えよ、来ようか、
そなた、わしと夕食をしに?
〈レポレッロ〉
とんでもない!
あの方にゃ時間がないんで、ご勘弁を。
〈ドン・ジョヴァンニ〉
臆病の咎でわたしは
けして非難されることはなかろう!
〈騎士長〉
決めよ。
〈DON GIOVANNI〉
Ho già risolto.
〈IL COMMENDATORE〉
Verrai?
〈LEPORELLO〉
Dite di no!
〈DON GIOVANNI〉
Ho fermo il core in petto:
Non ho timor, verrò!
〈IL COMMENDATORE〉
Dammi la mano in pegno!
〈DON GIOVANNI〉
Eccola! Oime!
〈IL COMMENDATORE〉
Cos’hai?
〈DON GIOVANNI〉
Che gelo è questo mai?
〈IL COMMENDATORE〉
Pentiti, cangia vita:
È l’utimo momento!
〈DON GIOVANNI〉
Non, ch’io non mi pento
Vanne lontan da me!
〈IL COMMENDATORE〉
Pentiti, scellerato!
〈DON GIOVANNI〉
No, vecchio infatuato!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
もう決めている。
〈騎士長〉
来るかな?
〈レポレッロ〉
否とおっしゃいまし。
〈ドン・ジョヴァンニ〉
胸中は定まっている、
わたしに恐れはない、まいろう!
〈騎士長〉
証に手を差し出せ!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
さあ、手を! ややっ!
〈騎士長〉
なんとした?
〈ドン・ジョヴァンニ〉
これはまたどうした冷たさ?
〈騎士長〉
悔い改めよ、生き方を変えよ、
最後の機会である!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
いいや、わたしは悔い改めぬゆえ
わたしから離れろ!
〈騎士長〉
悔い改めよ、極悪人!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
いいや、逆上せあがった老人め!
〈IL COMMENDATORE〉
Pentiti!
〈DON GIOVANNI〉
No!
〈IL COMMENDATORE〉
Si!
〈LEPORELLO〉
Si!
〈DON GIOVANNI〉
No!
〈IL COMMENDATORE〉
Ah tempo più non v’è.
〈DON GIOVANNI〉
Da qual tremore insolito…
Sento assalir gli spiriti…
Dond’ escono quei vortici
Di foco pien d’orror!
〈CORO〉
Tutto a tue colpe è poco.
Vieni:c’è unmal peggior!
〈DON GIOVANNI〉
Chi l’anima mi lacera!
Chi m’agita le viscere!
Che strazio, oimè, che smania!
Che inferno! Che terror!
〈LEPORELLO〉
Che ceffo disperato!
〈騎士長〉
悔い改めよ!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
いいや!
〈騎士長〉
そうせよ!
〈レポレッロ〉
そうですよ!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
いいや!
〈騎士長〉
ああ、もはや時間がない。
〈ドン・ジョヴァンニ〉
なんとも尋常ならぬ動揺に…
亡霊が襲ってくる感じを受ける…
どこからあの渦は生じるのだ、
恐怖に満ちた炎の渦は!
〈合唱〉
お前の罪にはこのすべてでは少ない。
来るのだ、よりおぞましい苦難がある。
〈ドン・ジョヴァンニ〉
誰がわたしの魂を引き裂くのだ!
誰がわたしの腸を掻きむしるのだ!
なんたる責め苦、ああもう、
なんたる狂おしさ!
なんたる地獄! なんたる恐怖!
〈レポレッロ〉
死に物狂いのなんたる形相!
Che gesti da dannato!
Che gridi, che lamenti!
Come mi fa terror!
〈DON GIOVANNI〉
Ah!
〈LEPORELLO〉
Ah!
ドン・ジョヴァンニ
レポレッロ
騎士長
地獄落ちの人間のような
なんという身悶え!
なんという叫び、なんという呻き!
なんとこっちまで怖くなることか!
〈ドン・ジョヴァンニ〉
ああ!
〈レポレッロ〉
ああ!
桐山直樹
寺本翔
湊和貴
Michael
漕げよマイケル
Negro Spirituals
黒人霊歌
男声合唱
「漕げよマイケル」は、有名な黒人霊歌の一つです。南北戦争中にサウスカロラ
イナ州のセントヘレナ島にて記され、北軍の海軍が封鎖する前に島を去った元奴
隷たちによって歌われました。西アフリカから強制連行され、奴隷として扱われて
いた彼らは、自らの故郷に戻るためにボートを漕ぎヨルダン川を渡ったそうです。
つらく苦しい奴隷生活、そんな生活の中でも従順さを身に付けさせるためか、彼
らはキリスト教の教えを施されていました。ヨルダン川の先には約束の地カナン
があり、旧約聖書におけるユダヤの民と自分たちを重ね合わせているとも言われ
ています。今回は男声 4 部でお届けします。
Michael, row the boat ashore,
Halleluja.
Michael, row the boat ashore,
Halleluja.
マイケル
ハレルヤ
マイケル
ハレルヤ
Sister help to trim the sail,
Halleluja.
Sister help to trim the sail,
Halleluja.
舵取り手伝う姉さん
ハレルヤ
舵取り手伝う姉さん
ハレルヤ
Jordan's river is deep and wide,
Halleluja.
Meet my mother on the other side,
Halleluja.
ヨルダン川は広くて深い
ハレルヤ
母さん待ってる向こう岸
ハレルヤ
Jordan's river is chilly and cold,
Halleluja.
Chills the body but not the soul,
Halleluja.
ヨルダン川はとっても冷たい
ハレルヤ
体は冷えても心は熱い
ハレルヤ
Michael, row the boat ashore,
Halleluja.
Michael, row the boat ashore,
Halleluja.
マイケル
ハレルヤ
マイケル
ハレルヤ
Raindrops keep fallin’ on my head
ボートを漕ぐんだ
ボートを漕ぐんだ
ボートを漕ぐんだ
ボートを漕ぐんだ
雨に濡れても
女声合唱
B.J.Thomas
B.J.トーマス
実話に基づく名作西部劇映画、
『明日に向かって撃て!』
(1969)。この挿入歌で
ある「雨に濡れても」はとても有名な曲で、日本でも長いこと親しまれています。
銀行強盗のブッチ・キャシディとエッタ・プレースが、二人乗りの自転車で野を駆
ける場面でこの曲は流れます。アウトローの世界に生きる悪党二人組を描く物語
に訪れる、束の間の平穏を印象的に彩っています。構成は女声 3 部からなります。
Raindrops keep falling on my head,
and just like the guy
whose feet are too big for his bed,
Nothin’ seems to fit.
Those raindrops are fallin’ on my head.
they keep fallin’
so I just did me some talking to the sun,
And I said I didn't like
the way he got things done
Sleeping on the job.
Those raindrops are fallin’ on my head.
They keep fallin’!
But there’s one thing I know,
The blues they send to meet me
won’t defeat me.
It won't be long till happiness
step up to greet me.
Raindrops keep fallin’ on my head
but that doesn’t mean
my eyes will soon be turnin’ red.
雨が頭の上に落ちてくる
ちょうどベッドに収まるには
足が長すぎる男みたいに
すべてしっくり行かない
みたいだ
雨が頭の上に落ちてくる
落ちつづける
だから太陽に向かって
ちょっと一言
どうもお前のやりかたは
気に入らないって
照りもしないで
寝てるんじゃないよって
雨が頭の上に落ちてくる
落ちつづける
でも一つだけ
わかっていることがある
向き合ってみろとばかりに
雨がよこした鬱な気分に
俺は負けない
そのうち幸せの方が
俺に挨拶しに来るだろう
雨が降りつづける
でもだからといって
俺の目が赤くなって
しまうわけでもないし
’cause I'm never gonna stop
the rain by complainin’
Because I’m free
Nothin’s worryin’ me.
泣くなんて自分の
好みじゃない
文句を言ったところで俺は
雨を止めることはできないし
俺は自由なんだから
何も心配ごとなんてない
It won’t be long till happiness
step up to greet me.
そのうち幸せの方が
俺に挨拶しに来るだろう
Cryin’s not for me
Angels’ Carol
天使のキャロル
J.Rutter
J.ラター
混声合唱
「Angels’ Carol」は 1980 年に J.ラターが作曲したクリスマス・キャロルの一つ
です。ラターは大学時代から数多くのクリスマス・キャロルを作曲・編曲しており、
この作品は彼によるオリジナル作品です。イエスの生誕を知らせる天使たちの賛
美を歌っているため、女声 3 部の児童合唱で演奏される形が最もポピュラーです
が、今回は混声 4 部で演奏したいと思います。
Have you heard the sound
Of the angel voice
Ringing out so sweetly,
Ringing out so clear?
Have you seen the star
Shining out so brightly
As a sign from God
That Christ the Lord is here?
Have you heard the news
That they bring from heaven,
To the humble shepherds
Who have waited long?
Gloria in excelsis Deo!
Gloria in excelsis Deo!
Hear the angels sing
Their joyful song.
聞こえましたか?
天使の声が、
優しく、はっきりと響き渡る声が。
He is come in peace
In the winter's stillness,
Like a gentle snowfall
In the gentle night:
He is come in joy
Like the sun at morning
Filling all the world
With radiance and with light.
He is come in love
As the child of Mary,
In a simple stable
彼は平和のうちに来られた、
静かな静かな冬の
おだやかな夜に
やさしく降る雪のように。
朝の太陽が
光りと輝きで
世界中を満たすように。
あなたたちには見えましたか?
キラキラ輝く星が。
主キリストがおられることを示す
神からのしるしのような星が。
聞こえましたか?
天からの知らせが、
謙虚な羊飼いたちが
待ちに待った天からの知らせが
いと高きところには神に栄光!
いと高きところには神に栄光!
天使たちの歌を聞きなさい、
彼らの喜びの歌を。
彼は愛のうちに来られた、
マリアの子として
素朴な馬小屋の中で
We have seen his birth.
Gloria in excelsis Deo!
Gloria in excelsis Deo!
Hear the angels singing
‘Peace on earth.’
私達は彼の誕生を見た。
いと高きところには神に栄光!
いと高きところには神に栄光!
天使たちの歌を聞きなさい、
「地には平和」
He will bring new light
To a world in darkness,
Like a bright star shining
In the skies above;
He will bring new hope
To the waiting nations
When the come to reign
In purity and love.
Let the earth rejoice
At the Saviour's coming,
Let the heavens answer
With the joyful morn.
Gloria in excelsis Deo!
Gloria in excelsis Deo!
Hear the angels singing
‘Christ is born.’
Heart the angels……
暗闇の世に新しい光を運んでこられた
空に輝く星のように。
待ち望んでいる国々に
新しい希望をもたらした、
清い愛のうちに
治められるときに。
地は喜べ、
救い主が来られることを。
天はこたえよ、
喜びに満ちた朝が来た。
いと高きところには神に栄光!
いと高きところには神に栄光!
天使たちの歌を聞きなさい、
「キリストはお生まれになった」