医療現場における 感染性微生物の伝播の予防 2007年

隔離予防策のためのCDCガイドライン
医療現場における
感染性微生物の伝播の予防 2007年
2007 Guideline for Isolation Precautions:
Preventing Transmission of Infectious Agents in Healthcare Settings
監訳 県西部浜松医療センター 矢野邦夫
隔離予防策のためのCDCガイドライン:医療現場における感染性微生物の伝播の予防
(CDC 2007年6月27日公開)
<原文>
http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/Isolation2007.pdf
1996 年、米国疾病管理予防センター(CDC)が「病院における隔離予防策のためのガ
イドライン」において「標準予防策を基本にした新しい感染対策」を公開して以降、
日本の感染対策はその影響を強く受けてきました。これは CDC の感染対策が「理解
しやすい実践的な感染対策」であるとともに根拠に基づいたものであるからと思いま
す。しかし、MRSA やVRE などの多剤耐性菌が米国においても増加していることや、
SARS のような新興感染症も発生しており、ガイドラインの見直しが必要となってき
ました。このようなことから、CDC はガイドラインを 2 部に分けて改訂したのです。
それは既に公開されている「医療環境における多剤耐性菌の管理」(2006 年 10 月 20
日公開)と、今回公開された「隔離予防策のための CDC ガイドライン:医療現場にお
ける感染性微生物の伝播の予防」(2007 年 6 月 27 日公開)です。
この「隔離予防策のための CDC ガイドライン」は日本の感染対策チームがずっと待
ち続けていたガイドラインであり、今後の感染対策に大きな影響を与えるものと思わ
れます。感染制御に携わる多くの方々にいち早く、この新しいガイドラインの内容を
ご覧いただきたいと思い、翻訳が終了したものから丸石製薬株式会社ホームページに
アップさせていただくことにしました。皆様の感染制御の一助になれば幸いです。
県西部浜松医療センター感染症科
※丸石製薬株式会社ホームページ 医療関係者情報ページ 掲載
http://www.maruishi-pharm.co.jp/med/cdc/index_002.php
矢野邦夫
CONTENTS
要旨・略語
Ⅰ. 医療現場における感染性微生物の伝播に関する科学的データのレビュー
Ⅰ.A. 2007 年ガイドラインの進化
Ⅰ.B.医療現場における標準予防策と感染経路別予防策の理論的根拠.
Ⅰ.C.医療現場の感染制御に特別な重要性を持つ感染性微生物
Ⅰ.D.特別な医療現場に関連した伝播のリスク
Ⅰ.E.特別な患者集団に関連した伝播のリスク
Ⅰ.F.伝播の可能性のある感染性微生物を用いた新しい治療
Ⅱ.
医療現場の感染性微生物の伝播予防のための基本要素
Ⅱ.A.伝播を予防するためにおこなわれる予防策の効果に影響する医療システムの構成要素
Ⅱ.B.医療関連感染(healthcare-associated infection: HAI)のサーベイランス
Ⅱ.C.医療従事者、患者、家族の教育
Ⅱ.D.手指衛生
Ⅱ.E.医療従事者のための個人防護具
Ⅱ.F.医療従事者が血液媒介病原体に曝露するのを防止するための安全な診療業務
Ⅱ.G.患者配置
Ⅱ.H.患者の移動
Ⅱ.I.環境措置
Ⅱ.J.患者ケア器具および機器
Ⅱ.K.リネンと洗濯
Ⅱ.L.固形廃棄物
Ⅱ.M.食器類および食事用品
Ⅱ.N.付加的処置
Ⅲ.
感染性微生物の伝播予防のための HICPAC 予防策
Ⅲ.A.標準予防策
Ⅲ.B.感染経路別予防策
Ⅲ.C.感染経路別予防策の症候性またはエンピリックな適用
Ⅲ.D.予防策の中止
Ⅲ.E.外来および在宅医療における感染経路別予防策の適応
Ⅲ.F.防護環境(PE: protective environment)
Ⅳ.
勧告
付録 A. 特定の感染症および症状に必要な予防策の種類と期間
表 1. 医療関連感染の予防のためのガイドラインの最近の歴史
表 2. 診断確定を待っている間に感染経路別予防策をエンピリックに追加することについて正当
な根拠を与える臨床症候群または症状
表 3. バイオテロテロリストの攻撃に由来するかバイオテロリストの脅威と考えられる最優先感
染症(CDC カテゴリーA)の感染対策に考慮されるべきこと
表 4. すべての医療現場における全ての患者のケアのための標準予防策の適応の推奨
表 5. 防護環境の構成要素
図. 個人防護具の着脱の流れ
用語辞典
要旨
「隔離予防策のためのガイドライン:医療現場における感染性微生物の伝播の予防,2007年」は
「病院における隔離予防策のためのガイドライン, 1996年」を改訂かつ拡大したものである。
下記の推移が1996年ガイドラインの改訂を導いた:
1.初期急性期病院から他の医療現場(在宅医療、外来医療、独立した専門医療現場、長期ケアな
ど)への医療提供の場の移り変わりが、感染制御の一般的原則を用いて全ての医療現場に適用
できる勧告、かつ現場固有の必要性に応じて修正できる勧告の必要性をもたらした。それ故、
改訂ガイドラインは医療提供の場の範囲について言及している。更に、医療提供が変化する様
や感染性微生物に曝露したり感染が成立した地理学的場所を確定することの困難さを反映し
て、「院内感染」という用語は「医療関連感染(HAI: healthcare associated infection)に取
って代わられることになった。
2.新しい病原体(重症急性呼吸器症候群[SARS: severe acute respiratory syndrome]に関連
したSARS-CoV、ヒトのトリインフルエンザなど)の発生、進化する既知の病原体(クロスト
リ ジ ウ ム ・ デ ィ フ ィ シ レ 、 ノ ロ ウ イ ル ス 、 市 中 獲 得 MRSA[CA-MRSA: community
associated MRSA])への継続する懸念、新しい治療法の発達(遺伝子治療など)、生物兵器に
よる攻撃の脅威への増大する憂慮は従来の隔離ガイドラインよりも更に広い範囲の問題に言
及しなければならない必要性をもたらした。
3.1996年のガイドラインで初めて推奨された標準予防策の成功経験は、全ての医療現場におけ
る感染性微生物の伝播を予防するための基本として、このアプローチを再度肯定することとな
った。標準予防策の勧告に新しく追加されたのは、呼吸器衛生/咳エチケットおよび安全な注
射手技(脊柱管穿刺(例.脊髄造影、硬膜外麻酔)などの特定のハイリスクな時間のかかる手技を
実施するときにはマスクを使用するなど)である。呼吸器衛生/咳エチケットの勧告の必要性は、
SARSコロナウイルス(SARS-CoV)の伝播に関与したと考えられる呼吸器症状のある患者、
面会者、医療従事者に単純な感染源コントロールを実施しなかったSARSの集団感染の期間で
の観察から生まれた。推奨される手技は強い根拠を持っている。外来でB型肝炎やC型肝炎ウ
イルスの集団感染が継続的に発生していることは、標準予防策の一部として安全な注射手技の
勧告を再度繰り返すことの必要性を示した。特定の脊髄注射にマスクを加えることは呼吸器細
菌叢によって髄膜炎が発生する危険性があるという最近のエビデンスから生まれた。
4.最も厳しい免疫不全患者(同種造血幹細胞移植患者)における生命を脅かすような真菌感染症
の危険性は環境制御によって減少するというエビデンスの蓄積が防護環境(PE: Protective
Environment)の構成要素についての最新情報をもたらした。
5.医療機関の特徴(看護スタッフの水準や構成、安全文化の確立など)は医療従事者が感染制御手
技の推奨を遵守することに影響している。それ故、医療機関の特徴は感染性微生物の伝播予防
1
における重要な要因であり、管理部門を感染制御プログラムの発展とサポートに巻き込むこと
が新しい強調点および勧告になった。
6.すべての医療現場における多剤耐性微生物(MDRO: multidrug-resistant organism)による
HAIの継続的な増加およびMDROの伝播予防に関する知識量の増大は、様々なタイプの医療
現場におけるこれら病原体の実践的かつ有効なサーベイランスや制御のためのもっと的確な
勧告の必要性をもたらした。
このガイドラインは感染制御スタッフ、医療疫学者、医療管理部、看護師、他の医療従事者、医
療全体を通じた医療現場のための感染制御プログラムを発展・実行・評価する責任者が使用する
ことを目的としている。専門の感染制御問題に関連するもっと詳細な情報や勧告を求めるならば、
他のガイドラインやウエブサイトを参照することになる。
第Ⅰ部∼第Ⅲ部:医療現場における感染性微生物の伝播に関する科学的データのレビュー
第Ⅰ部は予防や制御の手技の推奨をサポートする適切な科学的文献をレビューしている。1996
年のガイドラインと同様に、伝播のリスクに影響する方式や要因が詳細に記述されている。伝播
のセクションでの新たな追加事項はバイオエアロゾル(bioaerosol)についての論議および飛沫
感染や空気感染がどのようにして感染伝播に関与するのかの討論である。これは2003年の
SARS集団感染の時期の懸念であり、エアロゾルを産生する手技に関連した伝播が観察されてい
る。もう一つの新たな追加事項は「疫学的に重要な微生物」の定義であるが、これは調査を必要
とする感染症(すなわち、多剤耐性病原体、クロストリジウム・ディフィシレ)のクラスターの同
定を助けるために開発された。特別な感染制御を必要とする他の病原体(すなわち、ノロウイル
ス、SARS、カテゴリーAのバイオテロリスト微生物、プリオン、猿痘、出血熱ウイルス)もま
た、これらの微生物の経験から学んだ新しい情報や感染制御の教訓を提供するために議論される。
ガイドラインのこのセクションはまた、特別な医療現場や患者集団に関連した感染リスクについ
ての情報も提供している。
第Ⅱ部は従来のガイドラインに含まれている手指衛生、バリア予防策、安全業務、隔離業務の基
本原則の情報を更新している。しかし、このガイドラインの新たな追加事項は伝播のリスクに影
響を与える医療システム構成要素における重要情報であり、それを医療管理部門の影響下に包括
することも含まれている。管理的に優先される重要事項は最新かつ複雑な医療システムでの感染
制御専門家の拡大し続ける役割に合った適切な感染制御のスタッフ配置の必要性である。提示さ
れたエビデンスは別の管理的懸念である看護職員の水準(HAIを予防するためのICUでの適切に
訓練された看護師の数など)の重要性も明らかにしている。感染制御をサポートする臨床微生物
2
検査室の役割が医療施設におけるこのサービスの必要性を強調するために記述されている。伝播
のリスクに影響する他の要因(すなわち、感染制御手技の推奨の医療従事者の遵守、医療機関の
安全文化や風土、教育と訓練)が議論されている。
隔離ガイドラインにおいて最初に議論されているのは医療関連感染のサーベイランスである。提
示されている情報はHAI率の公開報告のための州プログラムを立案または対応している人々の
みならず、新しい感染制御専門家も利用できるであろう。
第 Ⅲ 部 で は 医 療 感 染 制 御 業 務 諮 問 委 員 会 (HICPAC: Healthcare
Infection Control
Practices Advisory Committee)およびCDCによって開発された予防策のカテゴリーが記述
されており、様々な医療現場での適用について案内している。感染経路別予防策のカテゴリー(接
触、飛沫、空気)については1996年のガイドラインから変更はない。1つの重要な変更点は接
触予防策や飛沫予防策の患者の病室への入室時に個人防護具(ガウン、手袋、マスク)を装着する
という勧告であるが、これは患者との相互関係の性質が確証を持って予測できるものではないし、
汚染した環境表面が病原体伝播の重要な感染源であるためである。更に、従来のガイドラインに
記述されている造血幹細胞移植患者のための防護環境についても更新された。
表、付録、その他の情報
重要な状況を要約している表がいくつかある:1)本ガイドラインの進化の要約; 2)臨床症候群に
従ったエンピリックな隔離予防策の使用のためのガイダンス; 3)バイオテロリズムのカテゴリ
ーA微生物のための感染制御勧告の要約; 4)標準予防策の構成要素とその適用のための勧告; 5)
防護環境の構成要素; 6)ガイドラインで用いられた定義の用語解説。このガイドラインで新たに
追加されたことは隔離予防策に用いられる個人防護具の着脱の推奨の順番を示した図であるが、
これは安全性を最大限にし、脱ぐときの自己汚染を防ぐためである。
付録A:特定の感染症や状態に推奨される予防策の種類と期間
付録Aは隔離予防策が推奨される殆どの感染性微生物および臨床状態のアルファベット順(注:本
書では50音順)の更新されたリストから構成されている。付録の前置きには標準予防策に加えて
1つ以上の感染経路別予防策を用いることを推奨するための理論的根拠が述べられているが、こ
れは医療現場におけるヒト-ヒト間の伝播の真のリスクまたは可能性のあるリスクを明記してい
る文献やエビデンスのレビューに基づいている。推奨される予防策の種類と期間には、特別な微
生物の伝播を防ぐために追加される方法または他の適切な考慮すべきことについての追加コメ
ントも提示されている。適切な引用文献も含まれている。
3
MDROの伝播を予防するためのガイドラインの前公開
このガイドラインの新たな追加項目はMDROの伝播の予防のための包括的なレビューおよび詳
細な勧告である。ガイドラインのこの部分は2006年10月に電子公開され、2006年11月に更
新 さ れ て お り (Siegel JD, Rhinehart E, Jackson M, Chiarello L and HICPAC.
Management of Multidrug-Resistant Organisms in Healthcare Settings 2006
www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdf)、隔離予防策のためのガイ
ドラインの一部と考えられている。このセクションは医療現場におけるMDROの複雑な論題の
詳細なレビューを提供しており、各々の医療現場でのMDROの評価のための背景を提供するこ
とを目的としている。MDROの効果的な制御プログラムを発展させるための理論的根拠および
医療機関に必要なものを総括している。このガイドラインの焦点は医療現場でのMDROの伝播
の予防のための方策にあるが、抗菌薬の適正使用に関する情報も提供されている。というのは、
その実践はMDROの保存庫のサイズに複雑に関連し、翻って伝播に影響するからである(保菌圧
など)。MDROを制御するための7つのカテゴリー(管理方法、医療従事者の教育、抗菌薬の賢明
な使用、サーベイランス、感染制御予防策、環境の処置、除菌)の介入を用いた予防および制御
の実践の推奨を要約している表が2つある。各々のカテゴリーの推奨は様々な医療現場に適用さ
れ、医療現場に順応している。MDROの罹患率や有病率の増加に伴って、すべての医療施設は
MDRO伝播の効果的な制御を最優先しなければならない。施設内で流行しているMDROを同定
し、制御策を実施し、制御プログラムの効果を評価し、MDRO率の減少を提示すべきである。
下記の場合には、強化された一連のMDRO予防的介入を追加することが提案される:1)基本的
なMDROの感染制御策の実行にも拘わらず、ターゲットにしたMDROの伝播の発生率が減少し
ない場合、および2)疫学的に重要なMDROの最初の症例が医療施設内で同定された場合。
要約
この最新ガイドラインは医療提供の変化に反応し、米国の患者および医療従事者への感染性病原
体の伝播についての新しい関心事や感染制御について述べている。ガイドラインの主な目的は
HAI 率を減らすことによって米国の医療提供システムの安全性を向上することである。
ガイドラインで用いられている略語
AIIR(Airborne infection isolation room):空気感染隔離室
CDC(Centers for Disease Control and Prevention):米国疾病管理予防センター
CF(Cystic fibrosis): 嚢胞性線維症
CJD(Creutzfeld-Jakob Disease): クロイツフェルト‐ヤーコプ病
CLSI(Clinical Laboratory Standards Institute): 米国臨床検査標準化協会
4
ESBL(Extended spectrum beta-lactamases): 基質拡張型β-ラクタマーゼ
FDA(Food and Drug Administration): 米国食品医薬品局
HAI(Healthcare-associated infections):医療関連感染
HBV(Hepatitis B virus):B型肝炎ウイルス
HCV(Hepatitis C virus):C型肝炎ウイルス
HEPA(High efficiency particulate air [filtration] ): 超高性能濾過空気[濾過]
HICPAC(Healthcare Infection Control Practices Advisory Committee): 医療感染制御業
務諮問委員会
HIV(Human immunodeficiency virus):ヒト免疫不全ウイルス
HCW(Healthcare worker):医療従事者
HSCT(Hematopoetic stem-cell transplant):造血幹細胞移植
ICU(Intensive care unit):集中治療室
LTCF(Long-term care facility):長期医療施設
MDRO(Multidrug-resistant organism):多剤耐性微生物
MDR-GNB(Multidrug-resistant gram-negative bacilli):多剤耐性グラム陰性桿菌
MRSA(Methicillin-resistant Staphylococcus aureus):メチシリン耐性黄色ぶどう球菌
NCCLS(National Committee for Clinical Laboratory Standards): 米国臨床検査標準委員
会
NICU(Neonatal intensive care unit):新生児集中治療室
NIOSH(National Institute for Occupational Safety and Health, CDC): 国立労働安全衛生
研究所
NNIS(National Nosocomial Infection Surveillance): 全米病院感染サーベイランスシステム
NSSP(Nonsusceptible Streptococcus pneumoniae):非感受性肺炎球菌
OSHA(Occupational Safety and Health Administration): 米国厚生労働省
PICU(Pediatric intensive care unit):小児集中治療室
PPE(Personal protective equipment):個人防護具
RSV(Respiratory syncytial virus): RSウイルス
SARS(Severe acute respiratory syndrome):重症急性呼吸器症候群
vCJD(variant Creutzfeld-Jakob Disease):変異型クロイツフェルト‐ヤーコプ病
VRE(Vancomycin-resistant enterococci):バンコマイシン耐性腸球菌
WHO(World Health Organization): 世界保健機関
5
第Ⅰ部:医療現場における感染性微生物の伝播に関する科学的データのレビュー
I.A. 2007 年ガイドラインの進化
「隔離予防策のためのガイドライン:医療現場における感染性微生物の伝播の予防, 2007年」は
1970年以降に公開された一連の隔離および感染予防のガイドラインの上に成り立っている。こ
れらの従来のガイドラインは表1および「病院における隔離予防策のためのガイドライン,1996
年」の第Ⅰ部に要約され参考文献も記載されている(1)。
目標と方法
このガイドラインの目標は、1)病院、長期ケア施設、外来ケア、在宅ケア、ホスピスなどの医
療ケア提供システムのすべての構成部門に感染制御の勧告を提供すること; 2)すべての医療ケ
ア現場において患者ケア時の伝播を防ぐための基本として標準予防策を再度主張すること;3)感
染の原因が確定するまで、臨床症状または症候群および推定病原体に基づいた感染経路別予防策
を実施することの重要性を再度強調すること(表 2)、4)疫学的に有効であり、可能な限りエビデ
ンスに基づいた勧告を提供すること、である。
このガイドラインは病院およびその他の医療現場における感染制御プログラムを管理する責任
者が利用できるようにデザインされている。この情報は感染性微生物の伝播を防ぐために、他の
医療従事者、医療管理者、感染制御に関する情報を必要としている人々にも有用である。一般的
に用いられている略語は「ガイドラインで用いられている略語」のセクションに記載されており、
ガイドラインで使用される用語は巻末の「用語解説」のセクションで定義されている。
1996 年以降に公開された研究に焦点をおいて、英語で発表された適切な研究を検索するため
に Med-line および Pub Med が用いられた。医療現場の感染性微生物を防ぐために引用された
エビデンスの多くは「準実験疫学デザイン」を用いた研究からのものであるが、非無作為割付介
入前後研究デザインとしても参照されている(2)。このタイプの研究は様々な介入の有効性に関
する貴重な情報を提供するが、改善した成果が特定の介入によるものであるということの確実性
をいくつかの要因が低下させている。それには次のものが含まれる:重要かつ頭を混乱させるよ
うな変数の制御が困難である;集団感染の期間は複数の介入が行われる;平均値への回帰(訳者
註:ある測定値が「極端である」という理由で選ばれ、その対象を再度測定したとする。この場
合、2回目の結果は1回目よりも平均値により近くなる傾向があること)の統計学的原則によっ
て結果が説明されてしまう (介入がないにもかかわらず、時間と共に改善するなど)(3)。
観察的研究は感染制御の介入を評価するためには適切であり、利用されてきた(4,5)。研究の質、
結果の一貫性、無作為化試験の結果(入手できれば)との関連性が、文献をレビューするとき、お
よびガイドラインの勧告にエビデンスに基づいたカテゴリーを割り当てるときに考慮されてい
る(第Ⅳ部:勧告を参照)。研究結果によって手技を変更すべきか否かを決断することを目的とし
て、または新しい研究をデザインすることを目的として、研究を評価するときに考慮すべき特質
を要約した著者もいる(2, 6, 7)。
6
専門用語の変更または明確化
このガイドラインには 1996 年のガイドラインからの専門用語について 4 つの変更がある:
・
「院内感染」という用語は病院内で伝播した感染のみに言及するために保持される。
「医療関連
感染(HAI: healthcare-associated infection)という用語はすべての現場(病院、長期ケア施
設、外来ケア、在宅ケアなど)での医療提供に関連した感染に言及するために用いられる。患
者が医療を受ける前に、既に病原体を保菌していたのか医療現場の外で曝露したのか、どこで
病原体を獲得したかを確実に決定することはできないこと、また医療ケア提供の状況にあると
きに、これらの病原体による感染症が発症したかもしれないことを、この用語は反映している。
更に、患者は医療システム内の様々な現場の間を頻回に移動している(8)。
・標準予防策の実践的な勧告に新しく追加されたのが、呼吸器衛生/咳エチケットである。標準
予防策は患者ケアをしている間の医療従事者の診療行為に一般適用されるが、呼吸器衛生/咳
エチケットは医療従事者、患者、面会者などの医療現場に入るすべての人に広く適用される。
この推奨は SARS コロナウイルス(SARS-CoV)の伝播に関連した可能性のある気道感染の
症状や症候群を呈した患者、面会者、医療従事者への基本的な感染源制御策の実践に失敗した
SARS 流行期での観察から生まれたものである。この概念は SARS およびインフルエンザの
パンデミックのための CDC のプランの一部として取り入れられている。
・
「空気予防策」という用語には「空気感染隔離室(AIIR: Airborne Infection Isolation Room)」
という用語が補足されたが、これは「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン(11)」
「医
療現場の結核菌の伝播予防のためのガイドライン,2005 年(12)」「病院のデザインおよび建
築のための米国建築協会(AIA: American Institute of Architects)ガイドライン,2006 年
(13)」と一貫性のあるものである。
・
「防護環境」と呼ばれる一連の予防策が HAI 防止のための予防策に追加された。これらの対策
は他のガイドラインでも明らかにされているが、重症免疫不全の同種造血幹細胞移植
(HSCT:hematiopoietic stem cell transplant)の患者が最も危険な時期(普通は移植後の最
初の 100 日間であるが、移植片対宿主反応が存在すればもっと長期になる)に環境の真菌に曝
露してしまう危険性を減らすための介入の設計およびデザインから成り立っている(11,
13-15)。防護環境の勧告は HSCT 患者にケアを提供する急性期ケア病院のみに適用される。
範囲
このガイドラインは従来のガイドラインと同様に、主に患者と医療従事者の間の相互関係に焦点
をおいている。MDRO 感染の予防のためのガイドラインは 2006 年 11 月に別に公開され、オ
ンラインでは www.cdc.gov/ncidod/dhqp/index.html にて入手できる。医療提供に関連し
た感染性微生物の伝播の予防のためのその他のいくつかの HICPAC ガイドライン(手指衛生ガ
イドライン、環境制御のガイドライン、医療関連肺炎予防のためのガイドライン、医療従事者の
感染制御のためのガイドラインなど)も引用されている(11, 14, 16, 17)。これらを組み合わせ
7
ることによって、患者および医療従事者の安全な環境を確保にするための初期感染制御策の包括
的なガイダンスが提供される。
このガイドラインは他のガイドラインで言及されている限定された集団における特別な感染制
御問題については詳細には議論していない (慢性透析患者の感染伝播の予防のための勧告、医療
施設における結核菌の伝播予防のためのガイドライン, 2005 年、歯科医療現場における感染制
御のためのガイドライン、嚢胞性線維症の患者のための感染制御勧告(12,18-20)など)。例外
は、同種 HSCT のレシピエントに用いられる防護環境のための簡潔なガイダンスを含んでいる
ことであるが、これは 2000 年の HSCT レシピエントにおける日和見感染予防のためのガイド
ラインおよび医療施設における環境感染制御のためのガイドライン(11,15)の公開以降に、防護
環境の要素がもっと完全に定義されたからである。
I.B.医療現場における標準予防策および感染経路別予防策の原則
医療現場内の感染性微生物の伝播には3つの要素(感染性微生物の感染源(または保存庫)、微生物
を受け入れやすい侵入口のある感受性宿主、微生物の伝播様式)が必要である。このセクション
はHAIの疫学におけるこれらの要因の相互関係を記述する。
I.B.1.感染性微生物の源
医療を提供している間に伝播する感染性微生物の感染源は主にヒトであるが、生命体ではない環
境の感染源もまた伝播に関連する。ヒト保存庫には患者(20-28)、医療従事者(29-35, 17,
36-39)、家族および面会者(40-45)が含まれる。そのような感染源の人々は活動性感染症を持
っているかもしれないし、感染症の無症状期や潜伏期にあるかのもしれないし、特に気道や消化
管に病原性微生物を一時的または慢性的に保菌しているかもしれない。患者の内因性細菌叢(気
道または消化管に生息している細菌など)もまたHAIの感染源となりうる(46-54)。
I.B.2.感受性宿主
感染は宿主候補と感染性微生物のあいだの複雑な関係の結果である。感染に影響する殆どの要因
および疾患の発症と重症化は宿主に関連する。しかし、宿主-病原体の関連の特徴は病原性、ビ
ルレンス、抗原性に関連しており、感染性微生物の量、疾患発生のメカニズム、曝露経路ととも
に重要である(55)。感染性微生物に曝露してからの結末には幅がある。病原性微生物に曝露し
ても症状を呈さない人もいれば、重症になったり、死亡する人もいる。一時的または永久的に保
菌してしまうものの、無症状のままの人もいる。曝露直後に発症する人もいれば、無症状の保菌
期のあとに発症する人もいる。曝露した時点での感染性微生物に対する免疫状態、病原体間の相
互作用、微生物固有のビルレンス因子は個々の結末の重要な予測因子である。超高齢や基礎疾患
(糖尿病(56,57)、ヒト免疫不全ウイルス/後天性免疫不全症候群[HIV/AIDS](58,59)、悪性疾
患、移植(18, 60, 61)など)といった宿主要因は感染への感受性を増大するが、正常細菌叢を変
8
化させる様々な薬(抗菌薬、制酸剤、コルチコステロイド、抗拒絶薬、抗ガン剤、免疫抑制剤な
ど)も同様である。外科的処置や照射治療は皮膚や他の関連臓器システムの抵抗力を障害する。
尿道カテーテル、気管内チューブ、中心静脈および動脈カテーテルのような留置器具(62-64)
や人工物インプラントは、本来ならば侵入を防ぐであろう局所防御を病原体が通過してしまった
り、バイオフィルム(微生物の接着を許して微生物を抗菌薬から守ってしまう)の発育の場として
表面を提供してしまうことによって、HAIの発生を促進する(65)。侵襲的処置に関連した感染
は医療施設内での伝播に由来することもあるし、患者の内因性細菌叢に由来することもある
(46-50)。著しい危険因子のあるハイリスク患者集団については、セクションI.D, I.E., I.F.でさ
らに議論される。
I.B.3.伝播の様式
いくつかのクラスの病原体が感染を引き起こしており、これには細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、
プリオンが含まれる。伝播の様式は微生物の種類によって異なっており、感染性微生物は1つ以
上の経路によって伝播することがある:直接または間接接触によって主に伝播するものもあれば
(単純ヘルペスウイルス[HSV: Herpes simplex virus]、RSウイルス、黄色ブドウ球菌など)、
飛沫感染(インフルエンザウイルス、百日咳など)や空気感染(結核菌など)によって感染するもの
もある。血液媒介ウイルス(B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルス[HBV, HCV]およびHIVなど)
のようなその他の感染性微生物は経皮的曝露または粘膜曝露を介して、医療現場において稀に伝
播する。重要なことは、すべての感染性微生物がヒトからヒトに伝播するのではないということ
である。これらは付録Aにて識別されている。伝播の主な3経路が下記に要約される。
I.B.3.a.接触感染
最も多い伝播様式である接触感染は2つのサブグループ(直接接触感染と間接接触感染)に分けら
れる。
I.B.3.a.i. 直接接触感染
直接接触感染は感染者から他の人に微生物が汚染物や汚染した人を介せず、直接伝播するときに
発生するものである。患者と医療従事者の間の直接接触感染の機会は「医療従事者における感染
制御のためのガイドライン,1998年(17)」で要約されており、下記が含まれる。
・患者の血液または血液を含んだ体液が粘膜(66)や皮膚の傷(切創、擦過傷) (67)を通過して介護
者の体内に入り込む。
・手袋を装着していない介護者が疥癬患者の皮膚に直接接触している間にダニが介護者の皮膚に
伝播する(68, 69)。
・医療従事者が手袋を装着せずに患者の口腔ケアをおこなっているときにHSVに接触し、その後
に指にヘルペスひょう疽が発症したり、手袋をしていない医療従事者(HCW:healthcare
worker )の手のヘルペスひょう疽から患者にHSVが伝播する(70,71)。
9
I.B.3.a.ii.間接接触感染
間接接触感染には汚染した物や人を介した感染性微生物の移動が含まれる。単一の感染源による
集団感染でなければ、間接伝播がどのように発生したのかを確定することは難しい。しかし、医
療現場における手指衛生のガイドラインで引用されている広範囲に渡るエビデンスは医療従事
者の汚染した手が間接接触感染の重要な原因であることを示唆している(16)。間接接触感染の
機会の例には下記のものがある。
・他の患者に触れる前に手指衛生が実施されなければ、患者の感染部分や保菌部分もしくは汚染
している非生体物質に触れたあとの医療従事者の手は病原体を移動させるかもしれない(72,
73)。
・患者ケア器具(電子体温計、ブドウ糖測定器具など)については、血液や体液に汚染された器具
が洗浄および消毒せずに患者間で共有されると、病原体を伝播させることがある(74,75-77)。
・小児患者については、共有される玩具が呼吸器ウイルス(RSウイルス(24, 78, 79)など)や病原
性細菌(緑膿菌(80)など)の伝播媒介物になることがある。
・消毒や滅菌の前の洗浄が不十分であった医療器具(内視鏡や外科器具など)(81-85)や再生の効
力を妨げる製造的欠陥のある医療器具(86,87)は細菌性およびウイルス性病原体を伝播させ
ることがある。
個人防護具(PPE: personal protective equipment)として使用された衣類、ユニホーム、検査
着、隔離ガウンは感染性微生物(MRSA(88), VRE(89)、クロストリジウム・ディフィシレ(90)
など)を保菌もしくは発症している患者をケアしたあとは汚染しているかもしれない。汚染した
衣類が伝播に直接関与することはないが、感染性微生物を次の患者に移動させてしまう可能性は
ある。
I.B.3.b.飛沫感染
飛沫感染は厳密に言えば接触感染の1つの型であり、飛沫感染によって伝播する感染性微生物は
直接および間接接触感染によっても伝播する可能性がある。しかし、接触感染とは異なり、感染
性微生物を運ぶ呼吸器飛沫が感染者の気道から顔面防護が必要なくらいの短距離にいるレシピ
エントの感受性のある粘膜面に直接移動したときに感染症を伝播させる。呼吸器飛沫は感染者が
咳・くしゃみ・会話しているとき(92)、吸引・気管内挿管(93-96)、胸部理学療法による咳の
誘導(97)、心肺蘇生(98,99)といった処置をしているときに生み出される。飛沫感染のエビデ
ンスは集団感染の疫学的研究(100-103)、実験的研究(104)、エアロゾルの力学(91,105)に
由来している。鼻腔粘膜、結膜、口腔(頻度は少ない)が呼吸器ウイルスを受け入れやすい侵入口
であることが研究によって示された(106)。飛沫感染によって伝播する病原体は下記で議論され
る空気感染性病原体とは異なり、長距離の空気を通過して伝播しないものの、飛沫感染の最大距
離は現在も解決されていない。歴史的に、確定された危険範囲は患者周囲3フィート(約1m)
以下の距離であり、これは特定の感染症の疫学的研究およびシミュレート研究に基づいている
10
(103, 104)。この距離でマスクを装着すれば、飛沫感染する感染性微生物の伝播の予防には有
効である。しかし、天然痘の実験的研究(107, 108)および2003年の世界的なSARSアウトブ
レイクの調査(101)によると、これらの2つの感染症の患者からの飛沫は感染源から6フィート
(2m)以上にいた人々に到達できることが示唆された。呼吸器飛沫が到達できる距離は飛沫が感
染源から飛び出す速度やメカニズム、呼吸器分泌物の濃度、温度や湿度などの環境因子、その距
離の間に感染性を維持することができる病原体の能力に依存しているようである(105)。それ故、
患者周囲3フィート(約1m)以下の距離は、
「患者から短距離」を意味する実例として最もよい表
現であるが、飛沫曝露を防御するためのマスクをいつ装着するかの決定の単一の基準として用い
られるべきではない。これらの考察に基づくと、特に、新興病原体や強毒性病原体の曝露の可能
性がある場合、患者から6∼10フィート(2∼3m)以内または病室への入室時にマスクを装着す
ることは慎重な対応となる。様々な環境下での飛沫感染の理解を向上するためには更なる研究が
必要である。
議論されている別の変数に飛沫のサイズがある。飛沫は伝統的に5μmを越えるサイズとして定
義されてきた。飛沫核(浮遊している飛沫の乾燥によってできる粒子)は空気感染に関連しており、
5μm以下のサイズとして定義されている。これは肺結核の病因に影響しているのであって、他
の病原体には一般化できない。粒子力学の観察はある程度のサイズの飛沫 (直径が30μm以上
の飛沫を含む)でも空気中に浮遊できることを示した(109)。飛沫および飛沫核の動作は感染予
防の勧告に影響する。感染性を維持できる病原体を含んだ小さな空気感染微粒子が長距離を経て
感染症を伝播するので、施設内での拡散を防ぐためにAIIRを必要とするが、飛沫感染によって伝
播する微生物は長距離に渡って感染性を維持できないので、特別な空気の取り扱いや換気の必要
はない。飛沫感染を介して伝播する感染性微生物の例として、百日咳(110)、インフルエンザウ
イルス(23)、アデノウイルス(111)、ライノウイルス(104)、肺炎マイコプラズマ(112)、SARS
関連コロナウイルス(SARS-CoV)(21,96,113)、A群連鎖球菌(114)、髄膜炎菌(95, 103,
115)が挙げられる。RSウイルスは飛沫感染によって伝播するけれども、感染した呼吸器分泌
物への直接接触が伝播の最も重要な決定因子であり、標準予防策+接触予防策の遵守を維持する
ことが医療現場での伝播を防ぐことになる(24, 116, 117)。
稀に、日常的には飛沫感染しない病原体が短距離の空気中に拡散されることがある。例えば、黄
色ぶどう球菌は接触感染によって伝播することが殆どであるが、集団感染や実験的な条件下では、
ウイルス性上気道感染が黄色ブドウ球菌を鼻から空気中に4フィートの距離を拡散させること
がある。これは「cloud baby」や「cloud adult」現象として知られている(118-120)(訳者
註:黄色ぶどう球菌を保菌しているものの周囲に拡散しない乳児がウイルス性上気道炎を罹患し
た場合に周囲に菌を拡散してしまうことがある。これを「cloud baby」という。成人の場合は
「cloud adult」という。「cloud baby」も「cloud adult」も集団感染をひきおこすことがあ
り、注意を要する。この現象はEichenwaldらが1960年の論文で初めて指摘したものであり、
11
以後もいくつか報告されている) 。
I.B.3.c.空気感染
空気感染は長時間かつ長距離でも感染性を保つことができる感染性微生物(アスペルギルス属の
胞子、結核菌など)を含んだ吸入可能なサイズの空気感染性飛沫核や小粒子の拡散によって引き
起こされる。この様式で運搬される微生物は空気流に乗って遠距離まで拡散され、感染者と顔面
-顔面の接触のない(または同室していない)感受性のある人によって吸い込まれることがある
(121-124)。空気感染する病原体の拡散を防ぐためには、感染性微生物を封じ込めて安全に除
去するための特別な空気処置や換気(AIIRなど)が必要である(11,12)。これが適用される感染性
微生物には結核菌(124-127)、麻疹ウイルス(122)、水痘ウイルス(123)がある。さらに、天
然痘はまれな状況下では空気を通過して長距離を伝播することを示唆するデータが公開されて
いるので、この病原体にもAIIRが推奨される。しかし、天然痘のもっとよくみられる感染経路は
飛沫および接触感染である(108, 128, 129)。結核のような空気感染性病原体の感染を防ぐた
めには、AIIRに加えて、NIOSH認可のN95マスクまたはもっと上級のレスピレータによる呼吸
器防御がAIIRに入室する医療従事者に必要となる(12)。
インフルエンザ(130,131)やライノウイルス(104) のような特定の呼吸器感染性微生物や腸
管ウイルス(ノロウイルス (132)やロタウイルス(133)など)については、自然環境および実験
的環境下で小粒子エアロゾルを介して病原体が伝播するというエビデンスがある。そのような伝
播は3フィート(約1m)以上の距離で発生するが、限定した空間(病室など)でなければならないこ
とから、これらの微生物は長距離を移動する空気流に乗って生き続けることはありそうもない。
このような微生物の移動を防ぐために日常的にAIIRが必要ということはない。飛沫感染にて殆ど
伝播する病原体の小粒子エアロゾル伝播の例についての追加問題は下記で論じられる。
I.B.3.d.感染性微生物の空気感染に関する新しい問題
I.B.3.d.i.患者からの感染
2002年のSARSの出現、2003年の米国へのサル痘の輸入、トリインフルエンザの出現は感染
経路の可能性についての情報の不一致や不確かさゆえに、隔離カテゴリーの指定に難題を呈して
いる。SARS-CoVは主に接触感染や飛沫感染によって伝播するが、まだ証明はされていないも
のの限定された距離(室内など)では空気感染することが示唆されている(134-141)。これはイ
ンフルエンザウイルス(130)やノロウイルス(132, 142, 143)のような感染性微生物では事実
である。インフルエンザウイルスは主に呼吸器飛沫による濃厚接触にて伝播し(23,102)、某セ
ンターでは陽圧室が用いられているときでさえも医療従事者への感染が飛沫予防策によって予
防された(144)。しかし、吸入による伝播は同じ旅客機の乗客および乗務員でのインフルエンザ
の集団感染では除外できなかった(130)。1957-58年のインフルエンザパンデミック期の結核
患者間でのインフルエンザ予防に用いた紫外線の予防効果に関する観察では空気感染が示唆さ
12
れた(145, 146)。
空気感染(病室環境を越えた長距離)の厳密な解釈とは対照的に、特別な環境(気管内挿管など)で
作り出された小粒子エアロゾルによる患者の至近距離にいる人々への短距離伝播が示された。ま
た、100 μm未満のエアロゾル粒子は室内空気流速度が粒子の最終沈着速度を上回ると空気中
に浮遊し続けることができる(109)。SARS-CoVの伝播は気管内挿管、非侵襲的陽圧換気、心
肺蘇生に関連していた(93, 94, 96, 98, 141)。ノロウイルスの最も多い感染経路は接触と食
物と水を介した経路であるが、ノロウイルスが嘔吐物や糞便からの感染性粒子のエアロゾルを介
して伝播することを幾つかの報告は示唆している(142, 143, 147, 148)。エアロゾル粒子が
吸い込まれ、引き続いて飲み込まれるとの仮説が立てられている。
Roy と MiltonはSARSの伝播経路を評価するとき、エアロゾル感染の新しい分類を提案した:
1)絶対的:自然環境において、小粒子エアロゾルの吸入によってのみ微生物が伝播して生じる疾
患(例:結核);2)優先的:自然環境では複数の経路によって伝播するが、小粒子エアロゾルが主な
経路である疾患(例:麻疹、水痘);3)日和見的:特別な環境下では小粒子エアロゾルを介して伝播
するが、普通は他の経路によって疾患を引き起こす微生物(149)。この概念的な枠組みは他の感
染経路によって最も頻回に伝播する微生物が稀に空気感染することを説明できる(天然痘、
SARS、インフルエンザ、ノロウイルスなど)。重症疾患を呈する微生物や治療法のない微生物
の伝播経路が不明または可能性程度であったりすると、それについての憂慮は必要以上に厳しい
予防戦略をもたらしてしまうことが多い。それゆえ、新興感染症の疫学が明確になり、論争のあ
った問題が解決すれば、推奨されている予防策は変更可能である。
I.B.3.d.ii.環境からの伝播
環境由来で、普通はヒトーヒト感染しない空気感染性微生物がある。例えば、臼でひかれたよう
な微細な粉状態の炭疽芽胞が、汚染環境の表面からエアロゾル化されて、気道に吸い込まれるこ
とがある(150, 151)。環境真菌(アスペルギルス属など)の胞子は環境のいたるところに存在し
ており、エアロゾル化した芽胞(例.工事の埃を介して)を免疫不全の患者が吸い込めば、病気にな
りうる(152, 153)。一般に、これらの微生物のいづれもが感染患者から他の人に引き続いて伝
播することはない。しかし、ICUにおいて、アスペルギルス属のヒトーヒト間の伝播が見事に証
明された報告が1件ある。これは創部のデブリドマンのときの芽胞のエアロゾル化によるものと
思われる(154)。防護環境は同種HSCTが環境真菌に曝露する危険性を減らすためにデザインさ
れた隔離手段を参考にしたものである(11, 14, 15, 155-158)。
通常のエアロゾル発生源からヒトに伝播する呼吸器病原体(レジオネラなど)の環境感染源はヒ
トーヒトの直接伝播とは異なっている。
I.B.3.e.その他の感染源
感染者以外の感染源からの感染症の伝播には一般的な環境感染源や媒介物(例.汚染した食物、水、
13
薬物(注射溶液など))に関連したものが含まれる。アスペルギルス属は病院の水系システムから
培養されるが(159)、免疫不全患者への保存庫としての水の役割については明らかではない。蚊、
蠅、ネズミ、その他の有害小動物から感染性微生物が伝播するベクター媒介感染 (訳者註:無脊
椎性ベクターにより伝達される感染)も医療現場で発生しうる。ベクター媒介感染の予防はこの
ガイドラインでは言及されない。
I.C.医療現場の感染制御において特別な重要性のある感染性微生物
従来の隔離ガイドラインでは詳しく議論されなかったか、もしくは最近発生した感染性微生物で、
感染制御において重要な影響を与えるいくつかの感染性微生物が下記に議論される。これらは疫
学的に重要な微生物(クロストリジウム・ディフィシレなど)、バイオテロリズムの微生物、プリ
オン、SARS-CoV、サル痘、ノロウイルス、出血熱ウイルスである。これらの微生物の経験は
伝播様式や効果的な予防法の理解を広げた。これらの微生物が含まれているのは情報を目的とし
たものであるが、一部は(SARS-CoV、サル痘など)、新しい感染性微生物に対する準備プラン
や対応について学んだ教訓からのものである。
I.C.1.疫学的に重要な微生物
医療現場で伝播する感染性微生物の一部は、限定した状況において制御のターゲットとなるが、
それは疫学的に重要であるか重要であったからである。クロストリジウム・ディフィシレは米国
の医療施設において現時点では重要であるということが広く知れ渡っているため、下記において
特に議論される。何が「疫学的に重要な微生物」であるかを決定するときは、下記の特徴が適用
される:
・発表されている報告および2人を越える患者の一時的または地理的なクラスターの発生に基づ
く医療施設内における伝播の傾向(クロストリジウム・ディフィシレ、ノロウイルス、RSウイ
ルス(RSV)、インフルエンザ、ロタウイルス、エンテロバクター属;セラチア属;A群連鎖球菌
など)。特定の病原体(術後(160)、熱傷病棟(161)、LTCF(162)でのA群連鎖球菌;レジオネ
ラ属(14,163)、アスペルギルス属(164)など)によって引き起こされる医療関連の侵襲的疾患
は1症例であっても調査および制御策の強化の引き金になると考えるのが一般的である。それ
はこれらの感染が関連した疾患の追加症例および重症度の危険性ゆえである。
・第一選択治療に耐性である(MRSA, VISA, VRSA, VRE, ESBL産生微生物など)
・施設内で異常なパターンの耐性を示す通常および珍しい微生物である(嚢胞性線維症のない患
者でのブルクホルデリア・セパチア菌群やラルストニア属、もしくはキノロン耐性緑膿菌の医
療施設内での最初の分離など)
・複数のクラスの抗菌薬に本来耐性または獲得耐性ゆえに治療が困難である(ステノトロホモナ
ス・マルトフィリア、アシネトバクター属など)
・罹患率および死亡率が高く、臨床的に重症である(MRSAおよびMSSA、A群連鎖球菌など)
・新興または再興病原体である
14
I.C.1.a.クロストリジウム・ディフィシレ
クロストリジウム・ディフィシレは芽胞形成性グラム陽性嫌気性菌であり、1935年に新生児の
便から最初に分離され (165)、1977年に抗菌薬関連下痢症や偽膜性大腸炎で最も頻回にみら
れる原因微生物として同定された(166)。この微生物は医療関連下痢症の主な原因であり、制御
が極めて困難な数多くの大規模集団感染を医療現場において引き起こしてきた。医療関連下痢症
に関与する重要な要因には、環境汚染、長期にわたる芽胞の存続、芽胞が日常的に用いられる消
毒薬や防腐薬に耐性、医療従事者の手による他の患者への移動、患者への抗菌薬の頻回投与が含
まれる(167)。クロストリジウム・ディフィシレの危険性の増加に最も頻回に関連する抗菌薬に
は第三世代セファロスポリン、クリンダマイシン、バンコマイシン、フルオロキノロンが含まれ
る。
2001年以降、罹患率や死亡率が高いクロストリジウム・ディフィシレの集団感染および散発症
例が米国の幾つかの州、カナダ、英国、オランダにて観察された(168-172)。クロストリジウ
ム・ディフィシレの同一株がこれらの集団感染に関連していた(173)。これらの株(毒素タイプIII、
北アメリカPFGEタイプ1、PCRリボタイプ027(NAP1/027))は12の異なるパルスフィール
ドゲル電気泳動PFGEタイプの分離菌と比較すると毒素A(16倍)および毒素B(23倍)を過剰産
生していることが判明した。米国の感染症医師による最近の調査によると、40%の医師がクロ
ストリジウム・ディフィシレの頻度および重症化が最近増大していることに気がついていた。検
査法およびサーベイランスの定義の標準化が病院間での比率の傾向の正確な比較に必要である
(175)。新しい株による発症の頻度や明らかに高い感染力は少なくとも一部分はトキシンAおよ
びBの大量産生によるものであり、それが下痢の程度を増大させ、さらなる環境汚染を引き起こ
していると推定されている。急性期および慢性期医療機関の両者において、クロストリジウム・
ディフィシレ疾患に関連した罹患率、死亡率、入院期間、費用の増大を考えると、この病原体は
以前よりも今の方がさらに重要である。伝播の予防は、下痢患者への接触予防策の症候性の適用、
患者の正確な同定、環境の処置(病室の厳重な洗浄など)、一貫した手指衛生に焦点がおかれてい
る。医療施設で伝播がみられる場合には、芽胞を手から機械的に除去するために、擦式アルコー
ル手指消毒剤よりも石鹸と水を用い、環境消毒には漂白剤を含んだ消毒薬(5000ppm)を用いる
ことが重要である。特別な勧告には付録Aを参照する。
I.C.1.b.多剤耐性微生物(MDRO: Multidrug-Resistant Organism)
一般に、MDROは1クラス以上の抗菌薬に耐性の微生物(大部分は細菌)として定義される(176)。
特定のMDROの名前は1つの抗菌薬のみへの耐性を示唆しているが(メチシリン耐性黄色ぶどう
球菌(MRSA: methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、バンコマイシン耐性腸球菌
(VRE: vancomycin resistant enterococcus)など)、これらの病原体は販売されている抗菌薬
の一部を除いてすべてに耐性であることが普通である。この後者の特徴は医療施設において疫学
15
的に重要であり、特別な注意を払うに値すると考えられるMDROを定義している(177)。現在
憂慮されるその他のMDROにはペニシリンやマクロライドおよびフルオロキノロンのようなそ
の 他 の 広 域 ス ペ ク ト ラ ム 薬 剤 に 耐 性 の 多 剤 耐 性 肺 炎 球 菌 (MDRSP: multidrug-resistant
Streptococcus pneumoniae)、多剤耐性グラム陰性桿菌(MDR-GNB: multidrug-resistant
gram-negative bacillus)(特に、基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL:Extended spectrum
beta-lactamases)を産生しているもの)、バンコマイシンに中等度または高度耐性の黄色ぶど
う球菌株(VISAおよびVRSA)が含まれる(178-197,198)。
MDROは抗菌薬感受性病原体と同じ経路によって伝播する。医療現場での患者―患者の伝播(医
療従事者の手を介して伝播するのが通常である)は、MDROの発症率や保菌率の増加(特に、急性
期ケア施設におけるMRSAやVRE)を説明している主な要因である(199-201)。 これらの病原
体の発生と伝播を予防するためには、管理部の積極的な参加と行動(看護人員配置、伝達システ
ム、感染制御策の推奨を確実に遵守するための遂行改善過程など)、内科や他の医療従事者の教
育や訓練、抗菌薬の適正使用、ターゲットとしたMDROの包括的サーベイランス、患者ケア時
の感染制御策の適用、環境の処置(患者ケア環境および器具の洗浄と消毒、特定の目的に用いら
れる単一患者用のノンクリティカル器具など)、除菌治療(適切ならば)などの広範囲なアプロー
チが必要である。
MDROの予防と制御は国家的な最優先事項(すべての医療施設や機関は地域規模の制御プログ
ラムに責任があり、参加することが必要であるというもの)である(176, 177)。この話題の詳
細 な 議 論 と 予 防 の た め の 勧 告 は 2006 年 に 公 開 さ れ て お り 、
http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdfにて探し出すこと
ができる。
I.C.2. バイオテロリズムの微生物
CDCは炭疽、天然痘、ペスト、野兎病、ウイルス性出血熱、ボツリヌス中毒を引き起こす微生
物をカテゴリーA(高優先度)として指定しているが、これらは環境に容易に拡散してヒトからヒ
トに伝播し;高い死亡率を呈して公共の健康に大きな影響を与える可能性があり;公共のパニッ
クや社会的崩壊を引き起こすかもしれず;公共の健康の備えに特別な活動を必要とするからであ
る(202)。カテゴリーAのバイオテロリズムに対する医療現場の感染制御に関連する一般的情報
は表3に要約されている。カテゴリーAの微生物の最新追加情報のみならず、カテゴリーBおよ
びCのバイオテロリズム微生物に関する情報および最新版を得るにはwww.bt.cdc.govを参照
する。カテゴリBとCの微生物は重要ではあるが、カテゴリーAの微生物ほどは容易に拡散せず、
罹患率や死亡率も低い。
バイオテロリズムが疑われる事件に対処するときは、他の伝染性疾患と比較すると、医療施設は
16
異なる問題に直面することになる。各々の疾患の疫学、伝播様式、臨床経過を理解することは、
医療従事者、管理者、サポート職員を疾患にターゲットを合わせて指導するための「アプローチ」
「適切なウエブサイト」「その他の情報源」を提供する入念に起草されたプランと同様に、バイ
オテロリズム事件に対応して処理するために重要である。言及されるべき感染制御問題に含まれ
るのは下記のものである:1)曝露または感染した人を同定すること;2)患者、医療従事者、面会
者の間での伝播を防ぐこと;3)多数の人々に治療、化学予防、ワクチンを提供すること;4)環
境を守ること(これには十分な数のAIIRを確保するか、使用可能なAIIRの数が不十分なときには
患者のコホートするための区域を指定する兵站学的な側面も含んでいる);5)適切な個人防護具
の十分量を供給すること;6)感染しているかもしれない患者をケアするのに適切なスタッフを
確認すること(天然痘の患者をケアするためにワクチン接種された医療従事者など)。多数の人々
が同時に曝露するかもしれないし、病原性が異なっている可能性があるので、自然界で発生する
疾患と比べると意図的に放出された曝露では対応は異なるかもしれない。
いろいろな情報源がバイオテロリズムで最もありうる微生物に曝露した人々の対処のためのガ
イダンスを提供している。最新の情報を得るためには、連邦のウエブサイト
(http://www.usamriid.army.mil/publicationspage.html, www.bt.cdc.govなど)および州
と地域の保健所のウエブサイトを参照すべきである。特別な微生物に関する情報源には下記が含
まれる:炭疽(203)、天然痘(204-206)、ペスト(207,208))、ボツリヌス毒素(209)、野兎
病(210)、出血熱ウイルス(211, 212)。
I.C.2.a.医療従事者への天然痘(ワクシニア)ワクチンの事前投与
天然痘曝露の可能性のための準備として職員にワクチン接種することには重要な感染制御の意
味がある(213-215)。これには、ワクシニア関連副作用の危険性が高い人におけるワクチン禁
忌のための細心のスクリーニングの必要性;医療現場および家庭での伝播を防ぐための接種部位
の封じ込めとモニタリング;ワクシニア関連副作用の患者の処置が含まれる(216,217)。2003
年の米国天然痘ワクチン事前接種プログラムは「禁忌についての接種候補者スクリーニング」お
よび「接種部位のケアとモニタリング」のために注意深く開発された勧告の有効性の実例である。
2002年12月から2005年2月の間に、国防省では約760,000人、市民または保健所では
40,000人が接種されているが、これには医療現場で働く約70,000人が含まれている。医療現
場または軍関連職場では、種痘性湿疹、進行性種痘疹、致死的な種痘疹、種痘疹の接触伝播の症
例はなかった(218, 219)。医療現場外では、軍の接種者から個人的な濃厚接触者(ベッドパー
トナーやレスリングのようなスポーツに参加したときの接触など(220))への接触伝播が53例
にみられた。ワクシニアウイルスが30例において培養またはPCRによって確認され、確認され
た症例のうち2例が3次伝播によるものであった。1人の授乳幼児を含む全員が合併症もみられ
ず快復した。ウイルス培養およびPCR手技を用いた引き続く研究によって、種痘疹を封じ込め
るための半透性ドレッシングの有効性が確認された(221-224)。このような経験は新しく接種
17
された医療従事者が、ハイリスクの患者をケアするならば、接種部位のケアの推奨を確実に遵守
することの重要性を強調している。医療従事者の事前天然痘ワクチン接種およびワクシニア関連
の感染制御の勧告はMMWRにて公開されており(216,225)、CDCのバイオテロリズムのウエ
ブサイトで更新されている(205)。
I.C.3.プリオン
クロイツフェルト‐ヤーコプ病(CJD: Creutzfeldt-Jakob disease)はヒトにおける急速進行
性の変性神経疾患であり、米国では年間に100万人あたり約1人の頻度で発生している(226,
227)(http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/cjd/)。CJDはプリオンと呼ばれる伝染性の蛋白性
感染性物質によって引き起こされると信じられている。感染性プリオンはプリオン蛋白として知
られている宿主-暗号化糖蛋白のアイソフォームである。潜伏期(すなわち、曝露から症状発現ま
での期間)は2年から数十年と様々である。しかし、症状発現してから1年以内に死亡するのが普
通である。CJD症例の約85%が環境感染源が不明で散発的に発生し、10%が家族性である。
医原性の伝播がヒトの死体の下垂体由来の成長ホルモンまたは性腺刺激ホルモンによる治療
(228, 229)、汚染したヒト硬膜移植片の埋め込み(230)、角膜移植(231)の結果として発生し
ているのが殆どである。伝播は汚染した脳神経外科器具や定位の脳波電極(232,233 , 234 ,
235)の使用に関連している。
動物のプリオン疾患には羊とヤギのスクラピー、牛の海綿状脳症(BSE: bovine spongiform
encephalopathy)、シカやヘラジカの慢性消耗病が含まれる(236)。BSEは最初に英国にて
1986年に認識され、汚染した肉や骨の食事を消費した牛の間で大流行した。
BSEがヒトに伝播して変異型CJD (vCJD)を引き起こすことが1996年に初めて記載され、引
き続いて主に英国において、BSEに汚染した牛製品の消費に関連していることが判明した。BSE
の原因物質とvCJDの間には因果関係の強い疫学的および実験的エビデンスがある(237)。
vCJDの殆どの症例は英国からのものであるが、ヨーロッパ、日本、カナダ、米国からも少数例
が報告されている。世界の殆どのvCJDの症例はBSEの大規模アウトブレイクの期間(1980∼
96年)に英国に住んでいたか訪問しており、その期間に汚染した牛製品を消費していた可能性が
ある(http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/bse/index.htm)。米国土着の後天性vCJDはない
けれども、北アメリカの牛でのBSEの散発的発生によって、そのような感染は発生しうるとい
う認識が高まり、サーベイランス活動が活発になった。最新情報は下記のウエブサイトで見つけ
出すことが出来る:http://www.cdc.gov/ncidod/dvrd/vcjd/index.htm。プリオン疾患の公
衆衛生的影響がレビューされている(238)。
ヒトでのvCJDは散発的CJDや古典的CJDとは臨床的および病理学特徴が異なり(239)、下記
のことが含まれる:1)死亡時の年齢中央値が若年である(28歳[範囲16∼48歳] vs. 68歳);2)
18
罹患期間が長期である(中央値14ヶ月 vs. 4∼6ヶ月);3)感覚症状と早期の神経症状が多くみら
れるものの、明確な神経症状の出現は遅い;4)vCJDの患者では扁桃およびその他のリンパ組織
でプリオンが検出される(散発的CJDの患者では検出されない)(240)。散発的CJDと同様に、
日常接触や環境接触、飛沫感染や空気感染によるvCJDのヒトーヒト間の直接伝播の報告はない。
米国で進行している血液安全性サーベイランスによって、輸血を介した散発的なCJDの伝播が
検出されたことはない(241-243)。しかし、血液を介したvCJDの伝播が英国の2人の患者で
発生したと信じられている(244,245)。下記のFDAのウエブサイトは、CJDおよびvCJDから
の血液供給を防ぐために米国で実施されている手段に関する情報を提供している:
http://www.fda.gov/cber/gdlns/cjdvcjd.htm;
http://www.fda.gov/cber/gdlns/cjdvcjdq&a.htm
CJDまたはvCJDが疑われるか確定している患者をケアするときには、標準予防策が用いられ
る。しかし、組織検査室で取り扱われる組織、剖検や死体の防腐処置の実施、剖検された遺体へ
の接触には特別な予防策が推奨される(246)。医療施設におけるCJDの伝播を防ぐための外科
用器具の再生についての勧告は世界保健機関(WHO: World Health Organization)によって公
開されているし、現在CDCでもレビュー中である。CJDまたはvCJDの患者からの汚染器具や
血液製剤を介してCJDまたはvCJDに曝露した可能性のある患者への通知についての疑問が発
生するかもしれない。そのような曝露に関連した伝播の危険性は極めて低いと信じられているけ
れども、特別な状況によって様々かもしれない。それ故、適切な選択について相談することが推
奨される。英国ではいくつかの文献情報を出しているが、米国の医師や患者にも有用かもしれな
い (http://www.hpa.org.uk/infections/topics_az/cjd/information_documents.htm).。
I.C.4.重症急性呼吸器症候群(SARS: Severe Acute Respiratory Syndrome)
SARSは2002年末に中国で発生した新しく発見された呼吸器疾患であり、幾つかの国々に拡散
し(135,140)、中国本土、香港、ハノイ、シンガポール、トロントでは大きな影響があった。
SARSはコロナウイルス科の今まで知られていなかったSARS CoVによって引き起こされる
(247, 248)。曝露から症状発現までの潜伏期は2∼7日であるが、10日のこともあり、もっと
長期のことも稀にある(249)。最初は他の一般的な呼吸器感染と区別することが困難である。徴
候や症状は38℃を越える発熱と悪寒と硬直がよくみられ、ときどき頭痛、筋肉痛、軽度から重
症の呼吸器症状を伴う。非典型的な肺炎のレントゲン所見はSARSの可能性の重要な臨床的指標
である。成人に比較して、小児は影響をうける頻度が少なく、症状も軽く、SARS-CoVを伝播
させにくい(135, 249-251)。全体的な致死率は約6.0%であり、基礎疾患および高齢は死亡
率を増加させる(www.who.int/csr/sarsarchive/2003_05_07a/en/)。
多数の医療従事者や患者への伝播がみられた医療現場での集団感染はSARSの顕著な特徴であ
った。そして、未診断の感染性のある患者や面会者がこれらの集団感染の重要な発端者であった
19
(21, 252-254)。潜在的な感染経路の相対的な寄与は正確には知られていない(訳者註:SARS
には飛沫感染、空気感染、接触感染などの感染経路があると推定されるが、どのような感染経路
がもっとも多く、次のどの経路が多いかということについては正確には判っていない)。飛沫感
染および接触感染の十分なエビデンスはある(96, 101, 113)。しかし、日和見的な空気感染も
除外できない(101, 135-139, 149, 255)。例えば、エアロゾル産生処置(気管挿管や吸引な
ど)への曝露は米国外では多数の医療従事者への感染伝播を引き起こした(93, 94, 96, 98,
253)。それ故、これらの処置および他の同様の処置によって作り出される感染性小粒子のエア
ロゾルは多床病室や共有空間内では他の人への伝播の要因となりうる。2003年のSARSの集団
感染から生み出された感染制御の文献のレビューによると、伝播の最大のリスクは、濃厚接触し、
感染防御策を適切に訓練されず、PPEを終始一貫使用していない人であると結論した。そして、
N95マスクもしくはそれ以上のレスピレータはエアロゾル産生処置およびハイリスク活動に曝
露する人への追加防御を提供するかもしれないと結論した(256, 257)。SARSの感染制御策の
遵守に影響する機関および個人の要因もまた同定された(257)。
SARSの制御には医療現場における複数の訓練による調和したダイナミックな対応が必要であ
る(9)。症例の早期検出は呼吸器感染症状を呈している人々を対象に、市中でSARSが伝播して
いる地域への旅行の既往やSARS患者への接触の既往についてスクリーニングすることによっ
て成し遂げられる。その後は呼吸器衛生/咳エチケット(患者の鼻および口にマスクをする)を実
施し、一般待合室には他の患者から物理的な距離をとることになる。医療従事者を守るための予
防策の明確な組み合わせについては確定していない。今回のガイドライン刊行の時点では、CDC
は手指衛生を強調した標準予防策、環境クリーニングを強調した接触予防策(SARS患者が滞在
した部屋の環境からPCRにてSARS CoV RNAが検出されたことによる(138, 254, 258))、
フィットテストされたNIOSH認可のN95マスクもしくはそれ以上のレベルのレスピレータの
使用および眼の防御を含んだ空気予防策、を推奨した(259)。香港では、飛沫予防策および接触
予防策(レスピレータではなくマスクが使用されていた)が医療従事者の防御に有用であった
(113)。しかし、トロントでは、N95レスピレータの継続的な使用の方がマスクよりもやや防
御的であった(93)。PPEなどの感染制御策を一貫性なく使用したにもかかわらず、ベトナムに
おいて一般病院の職員へのSARS-CoVの伝播がなかったことは注目に値するが、これは他の要
因(疾患の重症度、ハイリスクの処置や出来事の頻度、環境の特徴など)を示唆している(260)。
SARS-CoVはまた、検査室手順の推奨の不履行によって検査室現場にて伝播している。
SARS-CoVを研究している研究検査室は、2003年の冬と春に連続発生した最初の集団感染以
降に報告された殆どの症例の感染源であった(261, 262)。2003年のSARS集団感染および検
査室で発生した伝播の研究によって、感染制御予防策の推奨の有効性が再確認され、これらの方
法を一貫して遵守することの重要性が強調された。
20
SARS集団感染からの教訓はインフルエンザのパンデミックやバイオテロリズム事件のような
将来の公共の健康危機に対応するための計画の作成に有用である。患者および医療従事者での症
例のサーベイランス、十分に利用できる必要品と人員の確保、医療施設へのアクセスの制限は既
に総括されているSARSへの対応の重要な要素である(9)。様々な現場での感染制御予防策のガ
イダンスはwww.cdc.gov/ncidod/sarsにて入手できる。
I.C.5.サル痘
サル痘は中央アフリカおよび西アフリカの熱帯雨林の国々でその殆どがみられる稀なウイルス
性疾患である。この疾患は見かけは天然痘に似ているが軽症であり、オルソポックスウイルスに
よって引き起こされる。米国におけるヒトのサル痘の唯一の認知されている集団感染が、2003
年6月に発見されたが、ここでは病気のペットのプレーリードッグに接触してから数人が病気に
なっていた。プレーリードッグでの感染は、遡ってアフリカからの動物(ガンビアネズミなど)
の輸送との接触まで追跡された(263)。この集団感染は、病因を迅速に同定できる医師が異常な
症状を認識して迅速に報告することが重要であることと、動物間の流行性疾患が個人的および職
業的な曝露によって動物保存庫からヒトに拡散する可能性があることを証明した(264)。
サル痘の伝播についての入手可能なデータは不足している。感染した動物およびヒトからの伝播
は主に病変や呼吸器分泌物への直接接触を介して発生すると信じられている。動物からヒトへの
空気感染はありそうもないが、除外はできないし、獣医診療(病気のプレイリードッグへの噴霧
薬剤の投与時など)では発生しているかもしれない(265)。ヒトでは、病院内でサル痘が伝播し
たという4例がアフリカの小児で報告されており、それは同じ病棟やベッドを常に共有していた
ことに関連していた(266,267)。最近追加された文献では、コンゴ盆地のサル痘の伝播が病院
にて、長期世代に渡って伝播していたことが記述されている(訳者註:ヒトからヒトへの感染連鎖
が6人に渡って発生した事件のことである)(268)。
米国ではサル痘の空気感染やヒトーヒト間伝播のエビデンスはなく、2003年6月の集団感染以
降、サル痘の新しい症例は同定されていない(269)。集団感染の株はコンゴ盆地のサル痘のクレ
ード(著者註:共通の祖先から進化した群)とは異なるクレードであり、コンゴ盆地のサル痘株とは
異なった疫学的特性(ヒトーヒト感染の可能性を含む)を持っているかもしれない(270)。これに
は一層の研究を待望するものである。天然痘ワクチンはコンゴ盆地サル痘に対して85%の防御
能を持っている(271)。死亡率は10%以下であるため、サル痘の患者または動物に直接曝露し
た人に4日以内に天然痘ワクチンを接種することは理にかなっている(272)。サル痘についての
もっと最新の情報を得るためには、www.cdc.gov/ncidod/monkeypox/clinicians.htmを参
照する。
21
I.C.6.ノロウイルス
ノロウイルスは過去にはノーウオーク様ウイルスと呼ばれていたが、カルシウイルス科の一員で
ある。この微生物は汚染した食物や水を介して、ヒトからヒトに伝播し、胃腸疾患の爆発的な集
団発生を引き起こす(273)。環境汚染もまた、集団感染では伝播継続に関与する要因として証明
されている(274,275)。ノロウイルスは細胞培養では増殖できないが、分子診断技術による
DNA検出によって胃腸疾患の集団発生でのその役割をもっと正確に知ることができるようにな
った (276)。病院(132, 142, 277)、ナーシングホーム(275, 278-283)、クルーズ船(284,
285)、ホテル(143, 147)、学校(148)、ハリケーン避難者のために作られた大規模で混雑し
た保護施設(286)で報告された集団感染は、強力な伝染性、医療施設および市中での破壊的な影
響、人々が施設や空間を共有する状況での集団感染の制御の困難さ、を明らかにした。注目すべ
きことは、スタッフが発端症例である集団感染よりも患者が発端症例である集団感染の方が、患
者への曝露の危険性は約5倍高い(287)。
ノロウイルスによって引き起こされる胃腸炎の平均潜伏期間は12∼48時間であり、臨床経過は
12∼60時間継続する(273)。疾患は急に発症する吐き気、嘔吐、胃痙攣、下痢という特徴があ
る。殆ど自然治癒するが、衰弱した高齢者は稀に重症脱水によって死亡することがある。
ノロウイルスの集団感染の疫学によると、最初の症例が糞便に汚染された食べ物や水に曝露した
結果であっても、二番目や三番目の症例は媒介物の汚染や嘔吐過程での感染性粒子の拡散(132,
142, 143, 147, 148, 273, 279, 280)によって増強されたヒトーヒト間の伝播の結果であ
ることが多い(273,288)。広範囲の継続する不明瞭な環境および媒介物の汚染は集団感染を極
めて制御困難なものにしている(147, 275, 284)。このような臨床的な観察や通常触れている
高さよりも5フィート(約1.5m)高い垂直表面でノロウイルスDNAが検出されたことは、特定の
環境では、エアロゾル粒子は3フィート以上の距離を移動できることを示唆している(147)。感
染性粒子が嘔吐物からエアロゾル化され、吸い込まれるか飲み込まれるとの仮説が立てられてい
る。加えて、環境の洗浄の担当者への感染の危険性が高いかもしれない。病原体の数が少なくて
も感染性があること(100ウイルス粒子未満)(289)、および一般的な洗浄や消毒薬にウイルスが
耐性であること(10ppm以下の塩素でも生存できる)(290-292)は、疾患の発生と伝播を容易
にする。ネコのカリチウイルスに有効であることが知られている代替フェノール薬が1件の集団
感染において環境洗浄に用いられた(275, 293)。手指が肉眼的に汚れていないときの擦式アル
コール手指消毒薬のノロウイルスに対する効果を決定するデータは不十分である(294)。集団感
染の間、特定の人々において疾患がみられないことは、B型の組織-血液型抗原によって授けら
れた感染からの防御によって説明されるかもしれない(295)。胃腸炎の集団感染についての相談
はCDCのウイルスチケッチア疾患部を介して利用できる(296)。
22
I.C.7.出血熱ウイルス(HFV: hemorrhagic fever virus)
出血熱ウイルスは高熱、発疹、出血傾向、一部の症例では高い死亡率の重症疾患を引き起こす混
成ウイルス集団であり、これによって引き起こされる疾患はウイルス性出血熱(VHF: viral
hemorrhagic fever)と呼ばれる。一般的に知られているHFVにはエボラおよびマールブルグウ
イルス(フィロウイルス科)、ラッサウイルス(アレナウイルス科)、クリミアーコンゴ出血熱とリ
フトバレー熱ウイルス(ブンヤウイルス科)、デングおよび黄熱ウイルス(フラビウイルス科)があ
る(212.297)。これらのウイルスは感染した動物との接触や節足動物を介してヒトに伝播する。
これらのウイルスのどれもが米国では流行していないが、流行している国々での集団感染から感
染者や感染動物が持ち込まれる可能性はある。さらに、これらの微生物の一部は生物兵器として
使用される心配がある(212)。エボラ、マールブルグ、ラッサ、クリミアーコンゴ出血熱ウイル
スのヒトーヒト伝播が確認されている。
資材が不足している医療現場において、これらの微生物の医療従事者、患者および面会者への伝
播が報告されており、いくつかの集団感染では症例の大部分を説明している (298-300)。家
族内感染も病人やその体液に直接触れた人々で発生しているが、そのような接触のない人々では
発生していない(301)。HFVの伝播に関するエビデンスが要約されている(212,302)。ヒトー
ヒト伝播は主に血液や体液に直接触れることに関連している。汚染した血液への経皮的曝露では
特に高い伝播の危険性と死亡率増加がみられる(303, 304)。皮膚および汗腺の管腔においてエ
ボラウイルス粒子が多数検出されたことによって、無傷の皮膚への直接接触からも伝播するとい
う心配が持ち上がったが、これを支持する疫学的なエビデンスは不十分である(305)。感染した
遺体の死後の取り扱いは伝播の重要なリスクである(301, 306, 307)。稀な状況ではあるが、
明らかな直接接触のない人々における伝播様式が説明できない症例は、空気感染が発生しうると
いう推測を導いた(298)。しかし、空気感染によってヒトにHFVが自然に発生したということ
は観察されていない。旅客機内でラッサ熱の発端患者に曝露した乗客に関する1件の研究による
と、乗客への伝播はみられなかった(308)。
研究室では、鼻、口、結膜への直接接種(309,310)および機械的に作り出されたウイルスを含
んだエアロゾルによって(311, 312)、動物がマールブルグやエボラウイルスに実験的に感染し
た。動物施設の研究用霊長類でのエボラウイルスの伝播が報告された(313)。二次感染した動物
は駕籠に入れられており、約3メートル離されていた。空気感染の可能性が示唆されているもの
の、著者はこの偶然の観察において、飛沫感染や間接接触感染を除外できなかった。
ヒトーヒト伝播するHVFに対する感染制御策のガイダンスが市民の生物防御戦略のために、
CDC(1,211)およびジョンホプキンスセンターから公開された(212)。この文書が公開された
時点での最新の勧告は2005年5月19日にCDCウエブサイトで公示されたものである(314)。
さまざまな勧告の間に一貫性のないことが、米国の病院で用いられる適切な予防策について疑問
23
をもたらした。開発途上国では、HFVの集団感染は基本的な衛生、バリアプリコーション、安
全な注射手技、安全な埋葬の実施によって制御されてきた(299, 306)。HFVの伝播についての
豊富なエビデンスによって、標準予防策、接触予防策、飛沫予防策を眼の防御とともに実施する
ことは感染者を看護する医療従事者や面会者を守るために有効であることが示唆された。日常的
な患者ケアでは手袋のみで十分であり、血液曝露の危険性が高い侵襲的処置(手術など)のときに
は二重手袋が奨められる。日常的な眼防御(ゴーグルやフェースシールド)は特に重要である。す
べての患者接触において防水性ガウンを着用すべきである。日常的な患者ケアでは空気予防策は
必要ない。しかし、感染性エアロゾルを作り出してしまうような処置(気管内挿管、気管支鏡、
吸引、振動ノコギリを使用する剖検など)を行うならば、AIIRを用いることは慎重なことである。
N95もしくはそれ以上のレベルのレスピレータは、エアロゾル産生処置がおこなわれている病
室内の人々への追加防御を提供する(表3、付録A)。出血熱に一致した症状のある患者に流行地
域への旅行歴があれば、最初から予防策を開始して、情報がさらに得られるに従って変更してゆ
く(表2)。生物兵器攻撃が疑われる状況においては、出血熱の症状のある患者をAIIRを含む空気
予防策下で処置する。兵器化されている出血熱ウイルスの流行疫学は予想できないからである。
I.D.特別なタイプの医療現場に関連する伝播のリスク
数多くの要因が様々な医療現場における伝播の危険性の違いに影響を与えている。これらには集
団の特徴(感染への感受性の増大、留置器具のタイプと利用率など)、ケアの濃度、環境感染源へ
の曝露、入院期間、患者/居住者間および医療従事者との間の相互関係の頻度が含まれる。これ
らの要因は施設の優先項目、目的、財源と同様に、伝播予防のガイドラインを医療現場がその特
有の必要性に合うようにどのように適応させてゆくのかに影響する(315,316)。感染制御措置
の決定は施設の経験/疫学、市中および施設のHAIの傾向、局所・地域・国家での疫学、新興感
染症の脅威に関するデータによって特徴のあるものになる。
I.D.1.病院
感染伝播の危険性はすべての病院現場に存在する。しかし、特定の病院現場や患者集団では患者
が感染しやすく、特別な注意が必要な独特の環境である。これらはその現場特有の新しい伝播の
リスク発生の見張り場所になったり、病院内の他の現場への伝播の機会を提供したりしている。
I.D.1.a.集中治療室(ICU: Intensive Care Unit)
集中治療室(ICU)は重症外傷、呼吸不全、生命の危険のあるその他の状況(心筋梗塞、鬱血性心不
全、過剰薬剤、脳卒中、消化管出血、腎不全、肝不全、多臓器システム不全、極端な年齢など)
の患者と同様に、疾患の状態や治療によって免疫不全状態になった患者の治療もおこなっている。
ICUは入院患者の比較的少ない割合を占めているが、この区域で生じる感染は全HAIの>20%を
占 め て い る (317) 。 2002 年 の 全 米 病 院 感 染 サ ー ベ イ ラ ン ス シ ス テ ム (NNIS:National
Nosocomial Infection Surveillance)においては、HAIの26.6%がICUおよびハイリスク新生
24
児室(NICU)患者から報告された(NNIS、未公開データ)。この患者集団は基礎疾患や状態、ケア
に用いられる侵襲的医療器具およびテクノロジー(中心静脈カテーテルおよびその他の血管内器
具、人工呼吸器、膜型肺を用いた体外式酸素化装置、血液透析/血液濾過、ペースメーカー、移
植用左室補助器具など)、医療従事者の接触の頻度、長期入院、抗菌薬の長期曝露(320-331)
ゆえに、特に、MDROやカンジダ属の保菌および発症への感受性が高い(318,319)。更に、こ
の状況での患者の不運な結末は厳しく、高い死亡率に関連している(332)。共通感染源およびヒ
トーヒト伝播による様々な細菌性、真菌性、ウイルス性病原体が関連する集団感染が成人および
小児ICUにおいて頻回にみられる(31, 333-336, 337 , 338)。
I.D.1.b.熱傷病棟
熱傷は保菌、感染、病原体の伝播に最適な状況を提供している。そして、熱傷患者での感染は疾
患や死亡の頻回にみられる原因である(320, 339, 340)。全体表面積(TBSA: total body
surface area)の30%以上の熱傷患者では、侵襲的熱傷創部感染の危険性が特に高い(341,
342)。30%未満のTBSAの熱傷患者で発生した感染は侵襲的器具の使用に関連していること
が多い。メチシリン感受性黄色ぶどう球菌、MRSA、腸球菌(VREを含む)、グラム陰性菌、カ
ンジダは熱傷感染症で広くみられる病原体であり(53, 340, 343-350)、これらの微生物の集
団感染が報告されている(351-354)。熱傷患者において感染を引き起こす主な病原体が時間を
経て変化することによって熱傷ケア行為も変化することが多い(343,355-358)。アスペルギ
ルス属やその他の環境のカビによって引き起こされる熱傷創部感染は工事期間に汚染した供給
物(359)または工事やほかの環境の破壊の期間に作り出される埃への曝露の結果かもしれない
(360)。
水療法器具はグラム陰性病原体の重要な環境保存庫である。熱傷ケアでの使用は汚染した水治療
器具の使用と感染の間の明確な関連性ゆえに、避けるのが望ましい。多剤耐性緑膿菌(361)、ア
シネトバクター・バウマニ(362)、MRSA(352)によって引き起こされる熱傷感染および保菌
は、血流感染と同様に水治療に関連している。それ故、手術室での熱傷創部の除去が好まれる。
熱傷ケアの進化(特に、熱傷創部の早期除去と移植、局所抗菌薬の使用、早期の経腸栄養)は感
染性合併症の減少をもたらした。その他の進化には予防的抗菌薬の使用、選択的腸管除菌(SDD:
selective digestive decontamination)、抗菌薬でコーティングされたカテーテル(ACC:
antimicrobial-coated catheter)の使用が含まれているが、これらの方法の相対的な利益を示
すために実施された疫学的研究は殆どなく、効果研究はまったくない(357)。重症熱傷患者への
感染や患者からの感染の伝播予防のための最も効果的な感染制御策(個室(368)、層流(363)、
超高性能濾過空気(HEPA: high efficiency particulate air) (360)または他の病棟からの患者
や器材への曝露がない独立した病棟での熱傷患者の収容(364)など)についてのコンセンサスは
ない。熱傷患者の日常的ケアでのバリア予防策の必要性や種類に関する議論もある。1件のレト
25
ロスペクティブな研究は、創部の保菌への簡素化したバリア隔離プロトコル、患者への直接接触
時の手洗いの強化、手袋、帽子、マスク、不浸透性プラスチックエプロン(隔離ガウンではない)
の使用の有効性と費用効果を明らかにした(365)。しかし、熱傷の現場で用いられる感染制御予
防策の最も有効な組み合わせを決定した研究はない。この領域のプロスペクティブな研究が必要
である。
I.D.1.c. 小児科
小児におけるHAIの疫学の研究はこの集団における特殊な感染制御の問題を見つけた(63, 64,
366-370)。NNISシステムでモニターされている小児集中治療室(PICU: pediatric intensive
care unit )およびハイリスク新生児室(HRN: high risk nursery)の患者では中心静脈カテーテ
ル関連血流感染が高率にみられた(64, 320, 369-372)。更に、ワクチンまたは自然感染のど
ちらによってでも、免疫をまだ獲得していない入院中の乳児や幼児では市中獲得感染の有病率が
高かった。その結果、特に季節的な流行期(百日咳(36, 40, 41);RSV(24)、インフルエンザ
ウイルス(373)、パラインフルエンザウイルス(374)、ヒトメタニューモウイルス(375)、アデ
ノウイルス(376)、麻疹(34)、水痘(377)、ロタウイルス(38,378)などの呼吸器ウイルス感染
症など)には、小児医療現場に伝染性感染症を持った患者や同胞面会者が存在することになる。
医療従事者と乳児および幼児の間の濃厚な身体的接触(抱擁、授乳、遊技、汚れたおむつの交換、
制御できない多量の呼吸器分泌物の除去など)は感染性物質の移動に豊富な機会を提供している。
玩具や体分泌物が容易に共有される遊戯場に子供たちが集まったり、家族が小児患者と同室する
といった行為や行動は感染のリスクをさらに増加させる。入院患者が使用した玩具から病原性細
菌が検出されたり(379)、風呂の汚染した玩具が小児腫瘍病棟での多剤耐性緑膿菌の集団感染に
関与していたりしている(80)。さらに、いくつかの患者因子は、医療現場での病原体の曝露に
よって、感染が成立してしまう可能性を増大させている(新生児の免疫システムの未熟性、自然
感染の既往も免疫もない、先天的または後天的免疫不全の患者の割合、先天的な解剖学的異常、
新生児および小児集中治療室における救命のための侵襲性器具の使用など)(63)。発育成果を向
上させる目的でNICUにて用いられた革新的な行為に関連して感染のリスクが増えてしまうと
いう理論的な憂慮がある。そのような要因には皮膚と皮膚の接触の機会を多胎妊娠の乳児間、ま
たは母親との間で増大させるかもしれないコ・ベッティング(co-bedding)(380)(訳者註:双子
は同じ子宮に長期間滞在していたため、お互いをサポートするような特殊な能力を持っているという理
論がある。これを利用するために、同じベッドに入れることをco-beddingという)(380)およびカンガル
ーケア(訳者註:母親が新生児を裸の胸に抱擁する方法をいう。新生児の知覚・認識および運動発
達に良好な影響を与えるとの理論である)(381)が含まれている。しかし、実際にはカンガルーケ
アをうけている新生児では感染の機会は減少している (382)。小児ケアセンター(383, 384)
や小児リハビリテーション病棟(385)に参加している小児では抗菌薬耐性が全体的に増加して
いるかもしれない(例.市中関連MRSA(CA-MRSA: community-associated MRSA)の保存庫
26
として関与したりしている)( 386-391)。長期ケア施設の患者は耐性GNBの保菌率が高い可能
性があり、急性期ケア現場に耐性微生物を持ち込む感染源になるかもしれない(50)。
I.D.2.非急性期医療現場
長期ケア施設(LTCF: long-term care facility)(ナーシングホームなど)、発達障害者の施設、行
動保健サービスが提供されている現場、リハビリテーションセンター、ホスピスなど病院外の
様々な現場でも医療は提供されている(392)。更に、医療は職業健康クリニック、成人デイケア
センター、補助生活施設、ホームレスシェルター、留置所や拘置所、学校クリニック、養護室の
ような非医療ケア現場でも提供されるかもしれない。これらの現場それぞれに感染制御プログラ
ムを企画および実施するときには、考慮すべき特別な環境や集団のリスクがある。最も一般的な
現場やその特殊な努力目標の一部は下記に議論される。ガイドラインは各々の現場について言及
していないが、提供されている原則や戦略を適宜変更して適用してもよい。
I.D.2.a.長期ケア
LTCFの名称は発達障害者のための施設から高齢者のためのナーシングホームや小児の慢性ケ
ア施設まで様々なグループの居住場所に適用される(393-395)。高齢者用ナーシングホームは
数の上で圧倒しており、1グループの施設として長期ケアを代表することが多い。約180万人
のアメリカ人が国のナーシングホームに住んでいる(396)。1000居住介護・日(resident-care
day)当たり1.8から13.5のHAI率の見積もりが、もっと厳格な研究では1000居住介護・日当
たり3から7の範囲で報告されている(397-401)。米国復員軍人省のナーシングホームケア設
備が述べている基盤設備はLTCFのための国家規模のHAIサーベイランスシステムの発展のた
めに期待される先例である(402)。
LCTFは感染リスクの高い高齢患者が1つの場所に集まり、その施設に長期間滞在するような他
の医療現場とは異なる。そして、殆どの居住者にとって、それは彼らの家である。居住者は一般
社会の雰囲気に育まれ、食事したり生活したりする共通区域を共有し、施設がスポンサーになっ
ている様々な活動に参加している(404)。自分で自分の身の回りのことができる居住者はお互い
に自由に交流するので、この現場での感染の伝播を制御することは難しい(405)。特定の微生物
を保菌または発症している居住者は、一部の症例では部屋に制限される。しかし、心理社会的な
リスクがそのような制限に関連するので、LTCFの現場では、心理社会的な必要性と感染制御の
必要性のバランスが推奨されてきた(406-409)。様々なウイルス(インフルエンザウイルス(35,
410-412)、ライノウイルス(413)、アデノウイルス(結膜炎)(414)、ノロウイルス(278, 279
275, 281)など)および細菌(A群連鎖球菌(162)、百日咳(415)、非感受性肺炎球菌(197,198)、
その他のMDRO、およびクロストリジウム・ディフィシレ(416)など)によって、LTCFでは集
団感染が引き起こされている。これらの病原体はかなりの罹患率と死亡率を示し、医療費用を増
大させる。それ故、迅速な検出と効果的な制御策の実践が必要である。
27
LTCFの居住者には、感染の危険因子が多い(418)。年齢に関連した免疫低下はインフルエンザ
や他の感染性微生物に対するワクチン接種への反応に影響するし、結核の感受性を増加させる。
寝たきり、失禁、嚥下困難、慢性の基礎疾患、機能低下状態、年齢に関連した皮膚の変化は尿路
感染、呼吸器感染、皮膚感染、軟部組織感染への感受性を増加させ、栄養失調は創部治癒を障害
する(419-423)。薬物(意識レベル、免疫機能、胃酸分泌、正常細菌叢に影響を与える抗菌薬
を含む薬剤など)および侵襲的器具(尿道カテーテル、経腸チューブなど)はLTCF居住者において
も感染や保菌への感受性を高める(424-426)。結局、制限された機能状態や医療従事者への日
常生活の全面依存は、MRSA (428, 429)およびESBL産生肺炎球菌(430)の発症(401, 417,
427)および保菌の独立した危険因子として同定されている。いくかのポジションペーパー(訳者
註:与えられた資料や課題に関して、自分の考え方や立場を述べること)およびレビューが公開され
ており、LTCFにおける感染制御および抗菌薬耐性の様々な側面のガイダンスを提供している
(406-408, 431-436)。メディケア・メディケイド サービスセンター(CMS: Centers for
Medicare and Medicaid Services)はLTCFにおける感染予防のための規定を確立した(437)。
LTCFの居住者は頻回に入院するので、かれらはLTCFと医療施設の間で病原体を移動させるこ
とができる(8, 438-441)。これは小児長期ケア集団でも同様である。小児慢性ケア施設は広域
セファロスポリン耐性グラム陰性桿菌の1つのPICUへの持ち込みに関与していた(50)。小児リ
ハビリ室の小児が市中獲得MRSAの保存庫に関連していたかもしれない(385, 389-391)。
I.D.2.b.外来ケア
過去10年間で米国の医療提供の場は、急性期病院入院から外来や社会をベースとした様々な現
場(在宅を含む)に移行してきた。外来医療は病院ベースの外来クリニック、病院をベースとしな
いクリニックや開業医、公衆衛生クリニック、独立透析センター、外来外科センター、緊急医療
センター、その他の数多くで提供されている。2000年、8300万人が病院外来クリニックを受
診し、8億2300万人が開業医を受診している(442)。現在、外来ケアは医療ケアシステムの受
診患者の殆どを占めている(443)。これらの現場では、伝播予防のガイドラインの適用は困難で
ある。というのは、患者は医療提供者にみてもらうために、または病院に入院するために、一般
区域に長期間待っており、検査や治療のための病室は不十分な洗浄にて素早く回転使用され、感
染患者は迅速には認識されていないからである。さらに、免疫不全患者が他のタイプの患者とと
もに、点滴室に長時間滞在して化学療法をうけることも多い。外来現場におけるHAIの危険性に
関するデータは血液透析センターを除いて殆どない(18 , 444, 445)。外来での感染伝播が3件
の刊行物でレビューされている(446-448)。GoodmanとSolomonは1961年から1990年
までの外来に関連した53件の集団感染を要約した(446)。全体で、29件の集団感染が汚染溶液
または汚染器具からの共通感染源による伝播に関連しており、14件が医療従事者からまたは医
療従事者を巻き込んだヒトーヒト間の伝播であり、10件で患者と医療従事者の間の空気感染ま
28
たは飛沫感染が関連していた。集団感染(数百人の患者を巻き込むこともある)において、血液媒
介病原体(HBVおよびHCV、まれにHIV)の伝播が、外来現場で発生し続けている。これらの
集団感染には共通の感染源曝露が関連していることが多く、汚染医療器具、複数回量バイアル、
静注用溶液であるのが普通である(82, 449-453)。全症例において、伝播は安全な注射手技や
無菌テクニックなどの基本的な感染制御の原則を遵守していないことに関連していた。この原因
はレビューされており、推奨される感染制御および安全な注射手技が要約されている(454)。
外来での結核菌と麻疹の空気感染が報告されており、救急外来で発生することが最も多い(34,
127, 446, 448, 455-457)。ワクチン接種率が低く、市中での麻疹の集団感染が定期的に発
生していた時代は、開業医や他の外来現場でも麻疹ウイルスが伝播していた(34, 122, 458)。
風疹が産科外来で伝播したことはあるが(33)、外来での水痘の伝播の報告はない。眼科外来に
て、アデノウイルスのタイプ8による流行性角結膜炎が、不十分に消毒された眼科器具を介して
伝播したり、汚染した手指によって医療従事者から患者に伝播している(17, 446, 448,
459-462)。
外来での伝播を予防するならば、感染性があるかもしれない有症状および無症状の人々(特に、
空気感染性微生物[結核菌、水痘-帯状疱疹ウイルス、麻疹など]を伝播させる危険性のある人々)
のスクリーニングが、患者との初めての遭遇の最初から必要である。感染性があるかもしれない
患者を同定した上で、予防策 (感染性があるかもしれない患者の迅速な分離、適切な制御策の実
施[呼吸器衛生/咳エチケットおよび感染経路別予防策など]) を実施すれば、伝播の危険性を減
少できる(9, 12)。外来でのMRSAやVREの伝播は報告されていないが、HIVの外来クリニック
に勤務している医療従事者にCA-MRSAによるクリニックの環境汚染が関与したことは、外来
での伝播の可能性を示唆するものである(463)。嚢胞性線維症の成人および小児のための外来ク
リニックにおいて、バークホルデリア属および緑膿菌の患者・患者間の伝播が確認されている
(464, 465)。
I.D.2.c.在宅ケア
米国では在宅ケアは20,000以上の機関によって提供されており、それには在宅医療機関、ホス
ピス、耐久性医療器具提供者、在宅注射治療サービス、個人ケア提供者およびサポートサービス
提供者が含まれる。在宅ケアは急性期状態および慢性期状態のすべての年齢の患者に提供される。
サービスの範囲は日常生活の補助や身体的および職業的治療から創部のケア、注射治療、慢性外
来腹膜透析(CAPD: chronic ambulatory peritoneal dialysis)まである。
点滴治療関連感染を除く在宅ケア患者での感染の頻度は十分には研究されていない
(466-471)。しかし、在宅点滴治療を受けている患者での中心静脈カテーテル関連血流感染や
経皮的または粘膜曝露を通じた血液接触のリスクのためのデータ収集および感染率の計算は完
29
了しており、この現場でサーベイランスが実施しうることを示している(475)。在宅ケア関連感
染の定義の案は既に開発されている(476)。
在宅ケアの間の伝播の危険性は極めて少ないと推測されている。在宅ケア患者への主な伝播は感
染している医療提供者や汚染器具からのものである。そして、医療提供者はまた、家庭訪問のと
きに、感染患者に曝露しうる。在宅ケアには限定した数の職員による患者ケアも含まれているが、
そこには複数の患者はいないし、器具が共有されることもないため、病原体の保存庫になりうる
ものが少ない。在宅ケア提供者の感染症(在宅ケア患者への感染の危険性を有している)には、空
気感染または飛沫感染によって伝播する感染症(水痘、結核、インフルエンザなど )、皮膚の外
寄生(疥癬(69)およびシラミなど)、直接または間接接触によって伝播する感染症(膿痂疹など)が
含まれる。在宅ケア患者から他の在宅ケア患者へのMDROの間接的伝播についての発表データ
はないが、これは感染患者または保菌患者から持ち運ばれた汚染器具が別の患者に用いられるな
らば、理論的には発生しうる。注目すべきことは、在宅でのVISAの最初の症例 (186)および最
初に報告されたVRSAの2症例(178, 180, 181, 183) の調査によると、VISAやVRSAが他
の在宅ケアレシピエントに伝播したというエビデンスがないことである。在宅健康ケアはまた、
抗菌薬耐性に関連しているかもしれない。外来患者のバンコマイシンの使用のレビューによると、
レシピエントの39%はガイドライン推奨に従って抗菌薬を投与されていなかった(477)。
殆どの在宅ケア機関は微生物の伝播を防ぐための方針や処置を実施しているが、現在のアプロー
チは他の専門的ガイダンスと同様に1996年の「病院における隔離予防策のためのガイドライ
ン」(1)の適応が基本となっている(478,479)。この問題は在宅ケア界において大変苦労するこ
とであり、その実践には一貫性がなく、根拠に基づかないものがあった。例えば、多くの在宅健
康機関は「看護バッグテクニック」
(家庭において看護バックと環境の間にバリアを用いること
を規定する習慣)を守り続けている(480)。家庭の環境は常には清潔ではないかもしれないが、
2つのノンクリティカルな表面の間のバリアの使用には疑問がある(481, 482)。感染伝播のリ
スクに関連した在宅ケアの調査を実施する機会はある(483)。
I.D.2.d.健康ケアを提供するその他の場所
基本的には健康ケア現場ではないものの、健康ケアが提供される施設には、更正施設やシェルタ
ー内のクリニックが含まれる。どちらの現場も混雑かつ換気不十分といった最善とは言えない状
態である。慢性疾患および健康ケア問題(アルコール中毒、薬物常習、低栄養、不十分な住み家
が関連している)を持つ経済的に恵まれない人々は主な健康ケアをこのような場所で受けている
ことが多い(484)。伝播について特に心配すべき感染性疾患には結核、疥癬、呼吸器感染症(髄
膜炎菌、肺炎球菌など)、性感染症や血液媒介疾患(HIV、HBV、HCV、梅毒、淋菌など)、A型
肝炎ウイルス(HAV: hepatitis A virus)、ノロウイルスのような下痢性微生物や食事を介した疾
患が含まれる(286, 485-488)。これらの集団では結核やCA-MRSAを常に疑うよう念頭にお
30
くことが大切であるが、それはこのような現場や集団での集団感染が報告されているからである
(489-497)。
このようなタイプの施設に患者が遭遇することは急性疾患の診断や治療に加えて、ワクチン接種
や結核菌感染のスクリーニングの推奨を実施する機会を提供している(498)。健康ケアを提供す
るために指定されたこれらの非伝統的な区域における感染制御策の推奨は他の外来現場と同様
である。それ故、これらの現場では標準予防策および必要時の感染経路別予防策を遵守するため
の装備が必要である。
I.E.特別な患者集団に関連した伝播のリスク
新しい治療が複雑な疾患のために生まれると、特別な患者集団に関連した独特の感染制御の難問
に取り組む必要がでてくる。
I.E.1.免疫不全患者
先天的な原発性免疫不全や後天性疾患(治療に引き起こされた免疫欠損など)を持っている患者
は医療ケアを受けている間の様々なタイプの感染に関してハイリスクであり、医療ケア施設の至
る所にいる。免疫システムの特別な欠損は最も獲得しやすい感染の種類を決定する(ウイルス感
染はT細胞欠損に関連し、真菌および細菌感染は好中球減少の患者に発生するなど)。1つの全体
的なグループとして、免疫不全の患者は他の患者と同じ環境でケアされることがある。しかし、
インフルエンザや他の呼吸器ウイルスのような伝播しうる感染症を持つ他の患者への曝露を最
小にすることが常に推奨される(499, 500)。小児白血病の治療のための一層強力な化学療法レ
ジメは長期の好中球減少および他の免疫システムの成分の抑制に関連し、感染リスクの期間を延
長し、追加の予防策が特定のグループに必要かもしれないという心配事を発生させる(501,
502)。様々な医学状態(リウマチ性疾患(503, 504)、炎症性腸管疾患(505)など)に対する
新しく強力な免疫抑制治療の適用によって、免疫抑制患者は1つの患者区域(血液癌病棟など)に
局在しているというよりも医療ケア施設の至る所に広く滞在することとなった。特定のグループ
の免疫不全患者における感染予防のためのガイドラインは既に公開されている(15, 506,
507)。
公開されたデータは同種HSCT患者を防護環境に入室させることを支持するエビデンスを提供
している(15, 157, 158)。同様に、このような免疫不全患者に特別に必要なこと(抗菌薬予防
の使用、アスペルギルス属および他の環境真菌による感染を防ぐための防護環境を作るための工
学技術制御など)について言及した3つのガイドラインが制作されている(11, 14, 15)。長期の
好中球減少や移植片対宿主疾患に関連した更に強力な化学療法レジメが実施されるにつれて、感
染の危険性や環境防御の期間は伝統的な100日を越えて延長する必要があるかもしれない
(508)。
32
I.E.2.嚢胞性線維症の患者
嚢胞性線維症(CF: cystic fibrosis)の患者のための感染制御ガイドラインを作成するときには特
別な考慮が必要である。他の患者に比較すると、CFの患者は汚染した呼吸器治療器具からの伝
播を防ぐための追加防御を必要とする(509-513)。バークホルデリア・セパチア群や緑膿菌の
様な感染性微生物(464, 465, 514, 515)は特徴的な臨床的および予後的な重要性を持ってい
る。CFの患者では、バークホルデリア・セパチア感染は高い罹患率と死亡率に関連している
(516-518)。一方、慢性的な緑膿菌感染の獲得を遅らせることは長期の臨床的結末の改善に関
連する(519, 520)。
バークホルデリア・セパチア群のヒトーヒト間の伝播が医療ケア施設、様々な社会的接触(523)
(最も顕著なのはCFの患者のためのキャンプへの参加(524))、CFの兄弟間(525)において、CF
の小児(517)および成人(521)で証明されている。呼吸器分泌物の伝播を防ぐことに成功した感
染制御策には、外来および病院でCF患者を他の患者から隔絶すること(独立したシャワーのある
個室使用など)、呼吸器分泌物に汚染された表面や器具の環境除染をすること、グループでの胸
部物理療法を中止すること、CFキャンプを解体することなどがある(97, 526)。嚢胞性線維症
基金はCF患者のためのエビデンスに基づいた感染制御策の勧告のコンセンサス文書を作成した
(20)。
I.F.伝播の可能性がある感染性微生物に関連した新しい治療
I.F.1.遺伝子治療
遺伝子治療は複製しないレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、制限増殖型ポ
ックスウイルスなどの多くの異なるウイルスベクターを用いてきた。予測できない副反応が遺伝
子治療プロトコールの普及を制限してきた。
遺伝子治療の感染性の危険要因は現時点では理論的なものであるが、in vivoでの組換えの可能
性およびそれに引き続いて伝播する可能性のある遺伝子的に変化した病原体の発生の可能性ゆ
えに綿密なサーベイランスが必要となる。最大の心配事は制限増殖型ウイルス(特にワクシニア
ウイルス)の使用に伴ったものである。本ガイドライン作成の時点では、遺伝子治療レシピエン
トから他の人へのベクターウイルスの伝播を記述した報告はないが、サーベイランスは継続して
いる。遺伝子治療の研究の過程を通して感染制御問題をモニタリングする勧告が作成された
(527-529)。
I.F.2.血液、臓器、その他の組織を介して伝播する感染症
生物学的製剤を介しての感染性微生物の伝播の危険性は小さいが、ドナーのスクリーニングにも
拘わらず、危険性は存在する。輸血と移植によって伝播した感染症の報告にはウエストナイルウ
33
イルス感染(530)、サイトメガロウイルス感染(531)、クロイツフェルト‐ヤーコプ病(230)、
C型肝炎(532)、クロストリジウム属(533)およびA型連鎖球菌(534) の感染、マラリア(535)、
バベシア症(536)、シャーガス病(537)、リンパ球性脈絡髄膜炎(538)、狂犬病(539,540)が
ある。それ故、感染源について患者を評価するときには、生物学的製剤の投与について考慮する
ことが大切である。
I.F.3.異種移植
非ヒト細胞、組織、臓器のヒトへの移植は患者を人獣共通感染症の病原体に曝露させるかもしれ
ない。既知の人獣共通感染症の伝播(ブタ組織からの旋毛虫症など)は1つの心配事であるが、非
ヒトの細胞、組織、臓器の移植では未知の人獣共通感染症を免疫抑制状態のヒトレシピエントに
伝播させる可能性も心配される(541)。米国公衆衛生局のガイドラインは異種移植の発展分野を
取り巻く多くの感染性疾患と感染制御について言及している(542)。この分野の研究は進行中で
ある。
34
第Ⅱ部: 医療現場の感染性微生物の伝播予防のために必要な基本要素
II.A. 伝播を防ぐための予防策の有効性に影響する医療システムの構成要素
II.A.1. 管理法
医療機関は感染制御を患者および職業安全プログラムの対象に組み入れることによって、感染性
微生物の伝播を防ぐ責務を果たすことが出来る(543-547)。標準予防策および感染経路別予防
策を指導し、維持し、監視するための基盤設備(434, 548, 549)は、医療機関の使命の実現と
HAIを減らすという医療施設認定合同審査会の患者安全の目標達成を促進するであろう(550)。
標準予防策および感染経路別予防策がどのように適用されるのかを説明している方針や手順(伝
染性のある感染性微生物に感染している患者を同定し患者情報を伝達するために用いられるシ
ステムが含まれている)はこれらの方法が確実に成功するために極めて重要であり、そして医療
機関の特徴によって異なっている。
重要な管理法は、新しく現れる必要性に対応した感染制御および職業健康プログラムを維持する
ための経済的および人的財源を準備することである。特別な要素には、ベッドサイドの看護師
(551)および感染予防と制御の専門家(ICP: infection prevention and control professional)
のスタッフの水準(552)、施設の建築やデザインの決定にICPを含めること(11)、臨床微生物検
査室のサポート(553, 554)、施設の換気システムを含む十分な補給品と器材(11)、遵守のモニ
タリング(555)、伝播を来すシステム不全の評価と修正(556, 557)、医療従事者および上級管
理者へのフィードバッグ (434, 548, 549, 558)が含まれる。施設の指導部の明確な影響力は、
HCWによる手指衛生の推奨手技の遵守に関する研究で繰り返し示されてきた(176, 177, 434,
548, 549, 559-564)。感染制御のプロセスに医療管理者を巻き込むことは、感染制御の推奨
手技に従うためには論理的根拠や財源が必要であることについての管理者の認識を高めること
ができる。
いくつかの管理的要素(施設の文化、個々の職員の振る舞い、労働環境)は医療現場における感染
性微生物の伝播に影響するかもしれない。これらの領域の各々は成果改善のモニタリングや施設
における患者安全のゴールに組み入れることに適している(543, 544,546, 565)。
II.A.1.a.業務の範囲および感染制御専門家に必要な人員配置
米国の病院での院内感染を防ぐための感染サーベイランスや制御プログラムの有効性は、1970
∼76年に実施された「院内感染制御の有効性についての研究(SENIC[Study on the Efficacy
of Nosocomial Infection Control]プロジェクト)」を通じて、CDCによって評価された(566)。
米国の一般病院の代表サンプルにおいて、訓練した感染制御医師や微生物学者を感染制御プログ
ラムに含めることと、250ベッド当たり少なくとも1人の感染制御看護師を持つことは4つの感
染症(CVC関連血流感染、人工呼吸器関連肺炎、カテーテル関連尿路感染、手術部位感染)の割
合を32%減少させることに関連した。
その画期的な研究が公開されてから、ICPの責任は医療システムの増大する複雑性、担当する患
者集団、すべてのタイプの医療現場において使用される医学的処置や器具の数の増加に比例して
拡大した。ICPの業務範囲は1982年に感染制御認定委員会(CBIC: Certification Board of
Infection Control)によって初めて評価され(567-569)、それから5年ごとに再評価されてい
る(570-572)。これらの業務解析の結果は1983年に初めて提供された感染制御認定試験の作
成と更新に用いられた。おのおのの調査にて、ICPの役割は急性期病院での伝統的な感染制御活
動を越え、複雑性と範囲において増大していることが明らかとなった。新しい問題に対応して
ICPに現在割り当てられている活動には、1)急性期ケア病院以外の施設(外来クリニック、日帰
り外科センター、長期ケア施設、リハビリテーションセンター、在宅ケア)におけるサーベイラ
ンスと感染予防、2)感染予防に関連する雇用者健康サービスの監督(感染性微生物の曝露に引き
続く危険性の評価と推奨治療の施行、結核スクリーニング、インフルエンザワクチン、呼吸器防
35
御のフィットテスト、必要に応じた他のワクチン接種(2003年の天然痘ワクチンなど))、3)毎
年のインフルエンザ流行、パンデミックインフルエンザ、SARS、生物兵器攻撃のための準備プ
ラン、4)特定の感染制御策の遵守モニタリング、5)建築および修理に関連した危険性評価と予
防策の実施の監視、6)MDROの伝播の予防、7)感染の危険性を増大させるかもしれない新しい
医療製剤の評価(血管内注射剤など)、8)感染制御に関連した問題についての社会・施設スタッ
フ・州および地域の健康部との連絡、9)地域プロジェクトおよび多施設研究プロジェクトへの
参加、が含まれる(434, 549, 552, 558, 573, 574)。
調査には業務時間についての情報が含まれていたが、同定されている業務のための特別な人員配
置の必要性については、CBICの業務解析のどれもが言及していなかった(2001年の調査には、
回答した施設に割り当てられているICPの数が含まれていた(558))。250床の急性ケアベッド
当たり1ICPは現在の感染制御の必要性に見合うにはもはや十分ではないという文献での意見の
一致がある。21世紀の感染制御プログラムのスタッフの必要性を評価したDelphiプロジェクト
は急性期ケアベッド100床あたり0.8∼1.0人のICPの割合がスタッフの適切な水準であると結
論した(552)。全米病院感染サーベイランスシステム(NNIS: National Nosocomial Infection
Surveillance)の参加者の調査ではICP当たりの平均の日割り調査は115であることを見いだし
た(316)。他の研究結果も似ていた(大規模急性期ケア病院では500床当たり3人、長期ケア施
設では150∼250床当たり1人、小規模の田舎の病院では250床当たり1.56)( 573, 575)。
既に述べたことは、感染制御スタッフはもはや患者集計のみに基づくものではなく、むしろプロ
グラムの範囲、患者集団の特徴、医療システムの複雑性、本質的な職務を遂行するための職員を
援助するための道具(サーベイランスのための電子追跡および検査サポートなど)、施設および社
会の固有または切迫した必要性、によって決定されるべきことを明らかにしている(552)。さら
に、遂行する業務の質を最適にするためには適切な訓練が必要である(558, 572, 576)。
II.A.1.a.i. 感染制御連絡員
患者ケア病棟のベッドサイド看護師を感染制御連絡員(infection control nurse liaison)または
「リンクナース」として指定することは、病棟レベルでの感染制御を強化するための効果的な補
助手段であることが報告された(577-582)。そのような人々は基本的な感染制御の訓練を受け、
ICPと頻繁に連絡するが、病棟でのベッドサイドのケア提供者としての本来の役割も維持する。
感染制御連絡員は病棟レベルでの感染制御の意識を高める。病棟での人々との関係、病棟に特異
的な問題点の理解、病棟でもっとも成功する可能性のある戦略の促進能力ゆえに、新しい方針や
制御介入の実施において、彼らは特に有効である。
そのポジションは十分に訓練されたICPの補助であり、代替ではない。さらに、ICPの人員配置
を考慮するときには、感染制御連絡員の看護師をカウントすべきではない。
II.A.1.b.ベッドサイドナースの人員配置
ベッドサイドナースの人員配置のレベルは患者ケアの質に影響するというエビデンスは増えて
いる(583, 584)。十分な看護スタッフがいれば、手指衛生および標準予防策と感染経路予防策
などの感染制御策に適切な注意が向けられ、それらは正しく継続的に適用されるであろう(552)。
全米の多施設研究は、看護人員配置と内科患者の5つの有害な結果(それらの2つはHAI[尿路感
染および肺炎]であった)の間に強力かつ継続的な逆相関があることを報告した。看護スタッフ不
足とHAIの割合の増加との関係が病院および長期ケア環境におけるいくつかの集団感染で示さ
れ、透析病棟でのC型肝炎ウイルスの伝播の増加でも示された(22, 418, 551, 585-597)。殆
どの症例において、包括的な制御介入の一部として人員配置が改善すると、集団感染は終息し、
HAI率は下降した。2件の研究では(590, 596)、看護スタッフの構成(「移動」または「予備」
vs. 正職員看護師)は一次性血流感染の割合に影響を与えていた。そして、正職員看護師の割合
が減り、予備看護師が増えると、感染率は増加した。
II.A.1.c. 臨床微生物検査室のサポート
感染制御および医療疫学における臨床微生物検査室の重大な役割が十分に記述されており
36
(553, 554, 598-600)、それは2001年に公開された臨床微生物検査室の強化についての米
国感染症学会の指針表明によってサポートされている(553)。臨床微生物検査室は疫学的に重要
な微生物を迅速に検出して報告すること、抗菌薬耐性の新しいパターンを同定すること、集団感
染での伝播を制限するための推奨予防策の効果の評価を援助すること、によって医療ケア環境で
の感染性疾患の伝播の防止に貢献している(598)。感染の集団発生は検査助手によって最初に認
識されるかもしれない(162)。医療ケア施設は、検査室サービスの推奨範囲と質、適切に訓練さ
れた検査室スタッフの十分な人数、疫学的に重要な結果を実行者(臨床ケアの提供者、感染制御
スタッフ、医療疫学者、感染症コンサルタントなど)に迅速に連絡するシステム、が利用できる
ことを確認しなければならない(601)。新興病原体やバイオテロについての憂慮が増大するにつ
れて、臨床微生物検査室の役割はかなり重要となってきた。微生物検査室サービスを外部委託し
ている医療機関(外来ケア、在宅ケア、LTCF、小規模急性期病院など)では、感染制御をサポー
トするために必要なサービスの種類(定期的な施設特異的な総合感受性報告書など)を契約によ
って明記することが大切である。
臨床微生物検査室の幾つかの重要な機能がこのガイドラインに密接に関係している:
・ 新しい耐性パターンの検出のために(603, 604)、および定期的な累積抗菌薬感受性サマリー
レ ポ ー ト の 準 備 ・ 解 析 ・ 配 布 の た め に (605-607) 、 米 国 臨 床 検 査 標 準 化 委 員 会
(NCCLS:National Committee for Clinical Laboratory Standards)(2005年以降は臨床
検査標準化協会[CLSI: Clinical and Laboratory Standards Institute]として知られている
(602))によって作成された現在のガイドラインに準拠した検査と解釈による抗菌薬感受性検
査をおこなう。要望がないときは、理想的には臨床検査室は細菌の迅速遺伝子型同定および抗
菌薬耐性遺伝子へのアクセスを持つべきである(608)。
・ 施設や医療機関において、サーベイランス培養が感染伝播のパターンや感染制御介入の有効性
を評価するために必要であれば、それを実施する(解析のための分離菌を保有することも含む)。
微生物学者は積極的サーベイランスプログラムを開始および中止する指標についての決断を
援助し、検査室の財源を最大限に利用する。
・ 医療関連集団感染の調査および制御のための遺伝子型別(現場または外部委託)をおこなう
(609)
・ 患者治療、病室選択、制御策の実施(バリアプリコーションおよびワクチンや化学予防薬の使
用[インフルエンザ(610-612)、百日咳(613)、RSV(614, 615)、エンテロウイルス(616)])
などの臨床的判断を支援するために迅速診断検査を適用する。微生物学者は、迅速結果が患者
措置の決定に影響を与える臨床的状況に、迅速検査の実施を制限するための手引きを提供する
ともに、検査室以外の医療従事者によって実施されるポイントオブケア検査(訳者註:
point-of-care testingは診療や介護の現場で行う臨床検査のこと)の監督も行う(617)。
・ 疫学的に重要な微生物の検出と迅速報告をおこなう(保健所機関に報告する微生物を含む)。
・ 検査サービスが対象集団に適切であること、感度・特異度・適用性・実行可能性のために厳重
に評価されることを確保する精度管理プログラムを実施する。
・ 抗菌薬の適正使用のための効果的な施設プログラムを作り上げて維持する総合チーム参加す
る(618, 619)。
II.A.2. 施設の安全文化と医療機関の特徴
安全文化(安全風土)は管理や労働の安全への共有される義務が理解され実践される労働環境を
指して言う(557, 620, 621)。
「the Institute of Medicine Report, To Err is Human」(543)
の執筆者らは、医学エラーの原因は多岐にわたるものであることを認識しつつも、システム不全
の重要な役割と安全文化の恩恵を繰り返して強調している。安全文化は、1)患者および職員の
安全を向上するための行動管理の取り組み、2)安全計画への労働者の参加、3)適切な防護器具
が利用できること、4)受け入れられる安全策についての集団の労働基準量の影響、5)新しい職
員のための医療社会順応プロセス、によって作られる。安全と患者結果は外科的ICUの研究によ
って示されるように、患者ケア病棟内での医療機関の特徴を向上または作り出すことによって、
促進することができる(622, 623)。これらの要因の各々は伝播予防の勧告の遵守に直接的な関
37
係を持っている(257)。安全の施設文化の測定は医療ケアにおける改善を企画するために有用で
ある(624, 625)。いくつかの病院をベースにした研究は安全文化の測定を従業員の安全策の遵
守と血液と体液への曝露の減少の両者にリンクさせた(626-632)。手指衛生の1件の研究は、
遵守改善には医療機関の安全文化に感染制御を癒合させることが必要であると結論した(561)。
在郷軍人管理医療システムの一部であるいくつかの病院は安全文化の向上に向けて特別なステ
ップを取っており、これにはエラーの報告機構、同定された問題についての根本原因分析の実施、
安全報奨の提供、職員教育が含まれている(633-635)。
II.A.3. 医療従事者の推奨ガイドラインの遵守
推奨されている感染制御策の遵守は医療現場における感染性微生物の伝播を減らす(116, 562,
636-640)。しかし、いくつかの観察的研究は医療従事者の推奨手技への遵守に限定したもの
であった(559, 640-657)。普遍的予防策への観察された遵守は43%から89%の範囲であっ
た(641, 642, 649, 651, 652)。しかし、遵守の程度は評価される診療と、(手袋の使用では)
それらが使用される環境に高頻度に依存している。適切な手袋使用の範囲は最低15% (645)
から最高 82%(650)であった。しかし、動脈血ガス採取および蘇生は相当の血液接触が発生す
るかもしれない処置であるが、それぞれの手袋使用は82%と98%の遵守率で報告されている
(643, 656)。観察された遵守の相違は同じ医療施設での専門グループ間(641)や経験のある専
門家と経験のない専門家の間(645)で報告されている。医療従事者の調査では、自己報告された
遵守は観察的研究で報告された遵守より高いのが一般的である。さらに、観察要素が自己報告調
査に含まれている場合は、自己認識される遵守は観察された遵守よりも大きいことが多い(657)。
看護師および医師では、経験年数の増加は遵守の負の指標である(645, 651)。遵守を向上させ
るための教育は既に研究されている重要な介入である。知識や心構えの正の変化が示されたが
(640, 658)、振る舞いについては伴う変化は限定されているか変化がないことが多い(642,
644)。自己報告される遵守は教育的介入を受けた集団で高い(630, 659)。ビデオテープや動
作フィードバックを組み入れた教育的介入は研究期間での遵守を向上させるのには成功した。こ
れらの介入の長期的効果は不明である(654)。ビデオテープの使用はシステムの問題(コミュニ
ケーションや個人防護具へのアクセスなど)を同定するのに役立つが、さもなければこのような
問題は認識されなかったかもしれない。遵守を向上させるための工学的制御の使用や施設デザイ
ンの概念は興味を得つつある。自動手洗い場の導入は手洗いの継続的な遵守について負に影響し
たが(660)、1件の研究では電子モニタリングや電子音声の使用は医療従事者に手指衛生の実施
を思い出すのを促し、手指衛生製品へのアクセスの改善は遵守を増加させてHAIを減少させるの
に貢献した(661)。どのような技術が遵守を改善させるのかについてはさらなる情報が必要であ
る。感染制御策の遵守の向上には個人および職場環境の両者を継続的に評価することを組み入れ
た総合的なアプローチを必要とする(559, 561)。いくつかの振る舞い理論を用いて、Kretzer
と Larsonは単一の介入(手洗いキャンペーンや感染経路別予防策についての新しいポスターの
掲示など)は医療従事者の遵守を改善させるには無効であろうと結論した(662)。改善には、施
設の指導者が予防を施設の優先項目にして、感染制御策を医療機関の安全文化に組み入れること
を必要としている(561)。文献の最近の評価によって、医療機関の要素(安全風土、方針と実行、
教育と訓練など)および個人の要素(知識、危険の認知、過去の経験など)における変動がSARS
や他の呼吸器病原体に対する防御のための感染制御ガイドラインの遵守の決定因子であること
が結論された(257)。
II.B. 医療関連感染(HAI: healthcare-associated infection)のサーベイランス
サーベイランスは、感染経路別予防策が必要かもしれない疫学的に重要な微生物(黄色ブドウ球
菌、化膿連鎖球菌[A群連鎖球菌]、エンテロバクター-クレブシェラ属のような感受性菌;MRSA、
VRE、その他のMDRO;クロストリジウム・ディフィシレ;RSV;インフルエンザウイルス)
を発症または保菌している単一症例またはクラスター症例をみつけるための重要な道具である。
サーベイランスは罹患率と死亡率を減らして健康を向上するための公衆衛生活動に使用するた
めに、健康に関連する出来事についてのデータの継続的かつ組織的な収集・解析・介入・配布と
して定義されている(663)。産褥性敗血症におけるヒトーヒト間の伝播の役割を記述したIgnaz
38
Semmelweisの仕事が感染性微生物の伝播を減らすためのサーベイランスデータの使用の早期
の例である(664)。プロセス処置とそれらが関連している感染率の両者のサーベイランスは感染
制御の努力の効果の評価および変更のための指標の同定に重要である(555, 665-668)。
「院内感染制御の有効性についての研究(SENIC[Study on the Efficacy of Nosocomial
Infection Control]プロジェクト)」は感染制御策の異なる組み合わせによって、急性期ケア病
院の院内感染の手術部位感染、肺炎、尿路感染、菌血症の割合が減少することを見いだした(566)。
しかし、サーベイランスは4つのタイプすべてのHAIを減らすために必要な要素に過ぎなかった。
他の医療ケア現場では、同様の研究は実施されていないが、サーベイランスの役割と新しい戦略
の必要性がLTCF(398, 434, 669, 670)および在宅ケア(470-473)で述べられている。サー
ベイランスシステムの重要な要素は、1)標準化された定義、2)感染の危険性のある患者集団の
同定、3)統計学的解析(リスク調整、適切な分母を用いた割合の計算、統計プロセス制御表のよ
う な 方 法 を 用 い た ト レ ン ド 解 析 な ど ) 、 4) 主 な ケ ア 提 供 者 へ の 結 果 の フ ィ ー ド バ ッ ク
(671-676)、である。ハイリスク集団のサーベイランスを介して収集されたデータ、機器の使
用、処置、施設の位置(ICUなど)は伝播の傾向を検出するのに有用である(671-673)。感染症
のクラスターの同定は人、場所、時での共通性を決定するための系統的な疫学調査によって追跡
され、介入の実施やそれらの介入の有効性の評価を導く。
ハイリスク区域や患者に基づくターゲットサーベイランスは財源の最も効果的な使用ゆえに、施
設全体のサーベイランスよりも好まれてきた(673, 676)。しかし、特定の疫学的に重要な微生
物のサーベイランスは病院全体でなければならないかもしれない。サーベイランスの方法は医療
ケア提供システムの変化と共に進化し続けるであろう(392, 677)。そして、使用者に優しい電
子機器が電子追跡やトレンド解析にもっと広く利用できるようになるであろう(674, 678,
679)。効果的かつ正確なHAIサーベイランスの必要性に確実に適合するデータ集積や解析のた
めのソフトウエアパッケージの選択には医療疫学および感染制御の経験のある人々が含まれる
べきである。HAI率の公開報告を必要とする法律が通過し、そのような法律を支援する効果的な
システムを発展させる業務が公表されているので、効果的なサーベイランスの重要性は増大して
いる(680)。
II.C. HCW、患者、家族の教育
医療従事者の教育と訓練は標準予防策と感染経路別予防策の方針と処置が理解されて実施され
ることを確保するために不可欠なものである。予防策の科学的な原則の理解によって、HCWが
正しい手順を適用するとともに、必要条件、財源、医療環境の変化に基づいて予防策に安全に変
更を加えることができるようになるであろう(14, 655, 681-688)。1件の研究では、HCWが
SARSに罹患する可能性は2時間未満の感染制御訓練と感染制御手順の理解の欠損に強く関連
していた(689)。医療従事者、患者、家族を守るためのワクチン(インフルエンザ、麻疹、水痘、
百日咳、肺炎球菌など)の重要な役割についての教育はワクチン接種率の向上に役立つ
(690-693)。
感染性微生物の伝播の予防の原則と実践についての教育は医療専門職の訓練のときに開始すべ
きであり、患者や医療器具に接触する機会のある人(看護および医学スタッフ;療法士および技
術者[呼吸器、理学、職業、放射線、心臓学の職員;瀉血士;ハウスキーピングとメインテナン
スのスタッフ;学生])に提供されるべきである。医療施設では、標準予防策および感染経路別予
防策の教育と訓練がオリエンテーションのときに提供されるのが通常であり、能力を維持するた
めに必要に応じて繰り返される。方針や手順が改訂されるときや、現在の医療の修正を必要とす
る集団感染や新しい勧告の適用のような特別な環境のときは、最新の教育と訓練が必要である。
HCWの責任のレベル、個々の学習習慣、言語の必要性に合った教育や訓練の材料および方法は
学習経験を向上させることができる(658, 694-702)。
医療従事者の教育プログラムはベストプラクティスの遵守における継続的な改善と教育環境と
39
非教育環境(639, 703)、および内科と外科ICU({Coopersmith, 2002 #2149; Babcock,
2004 #2126; Berenholtz, 2004 #2289; www.ihi.org/IHI/Programs/Campaign,
#2563})における器具に関連したHAIの減少に関連した。いくつかの研究は、特定の行為を改
善するためのターゲット教育に加えて、HCWの知識の定期的評価とフィードバックおよび推奨
手技の遵守が、望まれる変化を獲得し、継続教育の必要性を特定するために必要であることを示
した(562, 704-708)。隔離の実践のためのこのアプローチの有効性がRSVの制御で示された
(116, 684)。
患 者 、 家 族 、 面 会 者 は 医 療 現 場 で の 感 染 症 の 伝 播 予 防 の パ ー ト ナ ー と な り う る (9, 42,
709-711)。標準予防策(特に手指衛生、呼吸器衛生/咳エチケット、ワクチン接種[特にインフ
ルエンザ]、他の日常的な感染予防)についての情報は医療施設への入院時に提供される患者情報
資料に組み込んでも良い。感染経路別予防策についての追加情報は、それが始まるときに提供さ
れるのが最も良い。概況報告書、パンフレット、その他の印刷物は追加予防策のための原則、家
族への危険性、感染経路別予防策の目的のための病室の指定、HCWによる個人防護具の使用に
ついての説明、家族や面会者によるそのような器具の使用の指針についての情報を含んでもよい。
そのような情報は家族が感染制御の推奨手技の遵守の主要責任を持つことが多い在宅環境で特
に有用である。医療従事者は、この資料を説明し、必要に応じて質問に答えることが可能であり、
準備されていなければならない。
II.D. 手指衛生
手指衛生は医療ケア現場において感染性微生物の伝播を減らすための最も重要な単一の行為と
して頻繁に言及されており(559, 712, 713)、標準予防策の重要な要素でもある。「手指衛生」
の用語には通常石鹸または抗菌性石鹸と水による手洗いと水の使用を必要としないアルコール
をベースにした製剤(ジェル、リンス、泡)の使用が含まれている。手が肉眼的に汚れていなけれ
ば、手指消毒には認可されたアルコールベースの製剤が抗菌石鹸や通常石鹸よりも好まれるが、
それは殺菌作用が優れ、皮膚の乾燥を減らし、使用しやすいからである(559)。手指衛生の向上
は主にICUでのMRSAとVREの感染の発生を継続的に減らすことに関連してきた(561, 562,
714-717)。手指衛生の科学的原則、適用、方法、製剤は他の刊行物に総括されている(559,
717)。
手指衛生の有効性は指爪のタイプや長さによって低下する(559, 718, 719)。人工爪の人々は
自然爪の人よりも爪の上および下に多くの病原性微生物(特にグラム陰性桿菌と真菌)を持って
いることが示された(720, 721)。2002年、CDC/HICPACはハイリスク患者(ICUや手術室の
患者など)に接触する医療従事者は人工爪や伸張器をつけないように勧告(カテゴリーⅠA)した
が、これはグラム陰性桿菌および真菌の感染の集団発生が分離菌の遺伝子型別で確認されたから
である(30, 31, 559, 722-725)。患者ケアを直接提供しているすべての医療従事者やハイリ
スク患者(癌、嚢胞性線維症など)に接触する医療従事者が人工爪を装着することを制限する必要
性については研究されていないが、専門家は制限することを推奨してきた(20)。現時点では、
そのような決断は個々の施設の感染制御プログラムの自由裁量となる。宝石類が手指衛生の質に
影響するエビデンスは少ない。病原体による手の汚染は指輪装着によって増加するが
(559,726)、医療従事者から患者への病原体の伝播に指輪装着を関連づけた研究はない。
II.E.医療従事者のための個人防護具(PPE: personal protective equipment)
PPEは粘膜、気道、皮膚、衣類を感染性微生物の接触から守るために、単独または組み合わせ
で用いられる様々なバリアおよびレスピレータを指して言う。PPEの選択は患者との相互作用
の性質や予想される伝播様式に基づく。PPEの使用についての指針は第Ⅲ部にて議論されてい
る。皮膚や衣類の汚染を防ぐPPEの着脱の提案手順は図に示されている。汚染した材料の廃棄
と封じ込めを促進するために、使用済みの使い捨てPPEまたは再使用PPEの指定容器は脱いだ
場所に便利なところに設置すべきである。手指衛生は常に、PPEを取り外したあとおよび廃棄
のあとの最終ステップとなる。下記のセクションはこの器具の重要な使用方法と選択方法を強調
40
している。
II.E.1. 手袋
手袋は医療従事者の手の汚染を防ぐために下記の場合に用いられる:1)血液や体液、粘膜、傷
のある皮膚やその他の潜在的な感染性物質に直接触れることが予想されるとき、2)接触感染に
よって伝播する病原体を保菌または発症している患者に直接接触するとき(VRE, MRSA,
RSV)(559, 727, 728)、3)肉眼的に汚染しているか汚染しているかもしれない患者ケア器具
および環境を取り扱ったり触れるとき(72, 73, 559)。手袋は手によって運ばれるかもしれない
感染性物質への曝露から患者および医療従事者を防ぐことができる(73)。手袋が、針刺しやそ
の他の穿刺が手袋バリアを突き抜けた後に、医療従事者を血液媒介病原体(HIV, HBV, HCVな
ど)の伝播からどの程度守るかは確定されていない。手袋は鋭利物の外部表面にある血液量を46
∼86%減少させるかもしれないが(729)、中空針の内腔にある残存血液には影響しない。それ
故、伝播の危険性における効果は不明である。
医療を目的として製造された手袋はFDAの評価と認可を受けることになっている(730)。非滅
菌の使い捨て医学用手袋は様々な物質(ラテックス、ビニール、ニトリルなど)で作られていて、
日常的な患者ケアに利用されている(731)。非外科使用の手袋の種類の選択は多くの要素に基づ
いており、それらには遂行すべき業務、化学薬品および化学治療薬への予想される接触、ラテッ
クス過敏症、サイズ、ラテックスフリーの環境を作り出す施設の方針、が含まれる(17,
732-734)。手術以外の患者ケアのときの血液および体液への接触には、一般的に1組の手袋
が十分なバリア防御を提供している (734)。しかし、手袋にはかなりの多様性があり、製造過
程の質および材料の種類の両者がバリア効果に影響している(735)。未使用の無傷の手袋のバリ
ア機能には殆ど差はないが(736)、シミュレートした状況や実際の臨床状況で検査されると、ビ
ニール手袋はラテックスやニトリルの手袋よりも失敗率が高いことが繰り返し示された(731,
735-738)。このような理由から、手先の器用さを必要としたり、短時間を越える患者接触な
どの臨床処置にはラテックスまたはニトリルのどちらかの手袋が好まれる。いくつかのサイズの
手袋を仕入れておくことも必要である。もっと重くて再利用できる多用途手袋は汚染した器具ま
たは表面の取り扱いや洗浄などの非患者ケア活動に必要である(11, 14, 739)。
患者ケアのとき、「清潔」から「不潔」に向けて仕事をし、患者ケアに直接必要な表面に汚染を
限定や限局させるという原則を遵守すれば感染性微生物の伝播を減らすことができる。身体部位
の交差感染を防ぐために、1人の患者のケアのときでも手袋を交換する必要があるかもしれない
(559, 740)。また、患者との相互作用が病室から病室に移動する携帯コンピュータのキーボー
ドや他の移動式器具への接触も含んでいるならば、手袋を交換する必要がある。患者と患者の間
で手袋を廃棄することは感染性物質の運搬を防ぐために必要である。手袋を引き続いて再使用す
るために洗ってはならないが、これは微生物が手袋の表面から確実に除去されないことと、手袋
の完全性の継続が保証できないからである。さらに、手袋の再使用はMRSAおよびグラム陰性
桿菌の伝播に関係していた(741-743)。手袋が他のPPEと組み合わせて着用されるときは、手
袋を最後に着用する。隔離用ガウンと一緒に用いるときには手首周囲にピッタリと合う手袋が好
まれるが、それは手袋がガウンの袖口をカバーし、腕、手首、手にさらに信頼できる継続的バリ
アを提供するからである。適切に外された手袋は手の汚染を防ぐであろう(図)。手袋を外したあ
との手指衛生は、認識されていなかった裂け目から感染性物質が通り抜けてきたり、手袋を脱ぐ
ときに手を汚染したかもしれない感染性物質を手が運ばないことを確保する(559, 728, 741)。
II.E.2.隔離用ガウン
隔離用ガウンはHCWの腕や露出した身体部位を守り、衣類が血液、体液、その他の感染性物質
で汚染することを防ぐために、標準予防策および感染経路別予防策によって指定されて用いられ
る(24, 88, 262, 744-746)。選択される隔離用ガウンの必要性と種類は、患者との相互作用
(感染性物質への接触の予想される程度や血液や体液がバリアを通過する可能性など)の性質に
基づいている。隔離用ガウンや他の防護着の装着はOSHAの血液媒介病原体の基準によって要
求されている(739)。臨床着および検査着または快適さや個性目的のために個人着の上から着る
41
ジャケットはPPEとしては考慮されない。標準予防策を適用するとき、隔離用ガウンは血液や
体液への接触が予想される場合のみに着用する。しかし、接触予防策が用いられるときは(標準
予防策のみでは遮断できない感染性微生物や環境汚染に関連する感染性微生物の伝播を防ぐた
め)、病室の入室時にガウンと手袋の両方を着用することが汚染した環境表面に意図せずに接触
してしまうことへの取り組みとして必要である(54, 72, 73, 88)。集中治療室や他のハイリス
ク区域への入室時に隔離用ガウンを日常的に装着しても、それらの区域の患者の保菌や発症を防
ぐこともなく、影響を与えることもない(365, 747-750)。
隔離用ガウンは常に手袋と組み合わせて着用され、必要に応じて他のPPEと組み合わせて着用
される。通常、ガウンは最初に着用するPPEである。腕および体の全部、首から太腿中部かそ
れ以下を完全に覆うことによって、衣類および露出した上体部を確実に防御することができる。
スタッフが適切に覆うことを確保するために、医療施設ではいくつかのガウンサイズが利用でき
るようにしなければならない。隔離用ガウンは病室の外部環境を汚染しないように、患者ケア区
域から去る前に脱がなければならない。隔離用ガウンは衣類や皮膚の汚染を防ぐ方法で脱ぐべき
である(図)。汚染を封じ込めるために、ガウンの外部の「汚染した」側を内側にして、包み込ん
で、そして廃棄物またはリネン用の指定容器に捨てる。
II.E.3.顔面防御:マスク、ゴーグル、フェースシールド
II.E.3.a.マスク
マスクは医療ケア現場では主に3つの目的に使用される:1)医療従事者を患者の感染性物質(呼
吸器分泌物および血液や体液のしぶきなど)への接触から守るために、医療従事者が装着する(標
準予防策と飛沫予防策に矛盾しない)、2)医療従事者の口や鼻に保菌されている感染性微生物の
曝露から患者を守るために、滅菌テクニックを必要とする処置をするときに医療従事者が装着す
る、3)患者から他の人々に感染性呼吸器分泌物が拡散するのを制限するために咳をしている患
者が装着する(呼吸器衛生/咳エチケット)。マスクは口、鼻、目を守るためにゴーグルと組み合
わせて使用してもよく、フェースシールドを下記に議論されるように、顔面に完全な防御を提供
するためにマスクとゴーグルの替わりに用いてもよい。マスクを下記に述べられるような空気
感染にて伝播する感染性微生物を含んでいる小粒子の吸入を防ぐために用いられる微粒子物レ
スピレータを混同してはならない。
口、鼻、目の粘膜は感染性微生物の侵入口として感受性が高く、(ニキビや皮膚炎によって)皮膚
の完全性が障害されると他の皮膚表面も同様である(66, 751-754)。それ故、これらの身体部
分を守るためのPPEの使用は標準予防策の重要な構成要素である。曝露する医療従事者のため
のマスクの防護効果が示されている(93, 113, 755, 756)。血液、体液、分泌物、排泄物の飛
散やしぶきを作り出す処置(気管吸引、気管支鏡、侵襲的な血管措置など)はフェースシールド(使
い捨てまたは再利用可能)またはマスクとゴーグルのどちらかを必要とする(93-95, 96 , 113,
115, 262, 739, 757)。血液や体液曝露が発生しそうな特定の環境においてマスク、眼防御、
フェースシールドをすることはOSHAの血液媒介病原体標準にて要求されている(739)。適切
なPPEは予想される曝露のレベルにもとづいて選択される。医療現場での使用では2種類のマス
クが利用できる:FDAに認可されていて防水性であることが求められている外科用マスクおよ
び処置または隔離用マスク(758 #2688)。マスクの1つの種類がもう1つの種類よりも防御を
よりよく提供するか否かを決定するためのマスクの種類を比較した研究は発表されていない。処
置/隔離用マスクはFDAに規制されていないので、外科用マスクよりも質および性能においても
っと多様である。マスクには様々な形(鋳型および非鋳型)、サイズ、濾過効率、取り付け方法(ヒ
モ、ゴム、耳輪など)が揃っている。医療施設は個々の医療従事者の必要性を満たすために異な
る種類のマスクが必要である。
II.E.3.b.ゴーグル、フェースシールド
感染制御のための眼防御の指針が公開された(759)。特定の業務状況で選択される眼防御(ゴー
グルまたはフェースシールド)は曝露の環境、使用している他のPPE、個人が予見する必要性、
に依存する。個人の眼鏡やコンタクトレンズは十分な眼防御としては考慮されない
42
(www.cdc.gov/niosh/topics/eye/eye-infectious.html)。
眼防御は快適で、十分に周辺が見え、しっかりとフィットできるように調節可能でなければなら
ないとNIOSHは述べている。いくつかの異なる種類、スタイル、サイズの防護器具を提供する
ことが必要かもしれない。製造元の曇り止めコーティング付きの間接的換気のゴーグルは複数の
角度からの飛散、しぶき、呼吸飛沫からの最も信頼できる実用的な眼防御を提供するかもしれな
い。新しいスタイルのゴーグルは曇りを減らすための間接的空気流の特性をさらに良好にするの
みならず、周辺視野を広くし、異なる職員にゴーグルをフィットさせるためにもっと多くのサイ
ズのオプションを提供するであろう。多くのスタイルのゴーグルは隙間が少なく、処方眼鏡より
も良好にフィットする。ゴーグルは眼防御としては効果的であるものの、顔面の他の部分への飛
散やしぶきを防御しない。
呼吸器飛沫を介して伝播する感染性微生物への曝露を予防するために、マスクに加えてゴーグル
を使用することの役割はRSVにおいてのみ研究されている。1980年代中頃に発表された報告
では眼防御はRSVの職業上伝播を減らすことを明らかにした(760, 761)。これが手と眼の接触
によるものか、呼吸器飛沫と眼の接触を防ぐことによるものかについては確定していない。しか
し、引き続く研究によって、RSV伝播は標準予防策+接触予防策を遵守することによって効果
的に予防され、このウイルスにはゴーグルの日常的な使用は不要であることが明らかとなった
(24, 116, 117, 684, 762)。特定の呼吸器病原体において飛沫予防策がたとえ推奨されなく
ても、標準予防策に示されているように、気道分泌物や他の体液の飛散やしぶきが発生しうる場
合には、眼、鼻、口をマスクとゴーグル、またはフェースシールド単独で防御する必要があるこ
とを医療従事者に思い出させることは大切である。使い捨てや使い捨てしないフェースシールド
をゴーグルの代替として使用してもよい(759)。ゴーグルと比較して、フェースシールドは眼に
加えて、他の顔面部分の防御も提供できる。顎から頭頂部まで広がっているフェースシールドは
飛散やしぶきから顔面と眼をよりよく防御し、両側周辺を包み込むフェースシールドはシールド
の縁周囲のしぶきを減らすことができる。
フェースシールド、ゴーグル、マスクは手袋を外して手指消毒をしたあとに安全に外すことがで
きる。器具を頭に固定するために用いられたヒモ、つる、ヘッドバンドは「清潔」と考えられる
ので、素手で触れても安全である。マスク、ゴーグル、フェースシールドの前面は汚染している
と考える(図)。
II.E.4. 呼吸器防御
呼吸器防御は空気感染性微生物の伝播を防ぐために用いられるが、フィットテストの必要性およ
び頻度も含んだ課題が科学的に再評価されているところであり、2004年のCDCのワークショ
ップの課題でもあった(763)。現在、呼吸器防御は感染性粒子の吸入を防ぐためのN95または
それ以上の濾過のレスピレータの使用を必要としている。レスピレータおよび呼吸器防御プログ
ラムの情報は「医療現場における結核菌の伝播の予防のためのガイドライン、2005年」で総括
されている(CDC.MMWR 2005; 54: RR-17 12)。呼吸器防御は、すべての労働環境において
米国の雇用者は毒性物質の吸入から従業員を守るプログラムを実施することを求めている呼吸
器防御のための産業標準(29CFR1910.134)(764)のもとでOSHAによって広く規定されて
いる。OSHAのプログラム構成要素にはレスピレータを装着するための医学的許可;フィット
テストされたNIOSH保証のN95およびそれ以上の微粒子濾過レスピレータなどの適切なレス
ピレータの準備と使用;レスピレータ使用の教育および呼吸器防御プログラムの定期的な再評価、
が含まれる。微粒子レスピレータを選択するとき、本来的にフィットが良好な特性を持つモデル
(95%の使用者に10以上の防御ファクターを提供するもの)が好まれ、理論的にはフィットテス
トの必要性を軽減できる(765, 766)。呼吸器防御に付随している問題は継続する論争の議題と
な っ て い る 。 様 々 な タ イ プ の レ ス ピ レ ー タ に つ い て の 情 報 は
www.cdc.gov/niosh/npptl/respirators/respsars.htmlおよび公開されている研究で見つけ
ることができる(765, 767, 768)。使用者シールチェック(以前は「フィットチェック」と呼ば
れていた)はフェースピース周囲の空気の漏れを最小限にするために、レスピレータを装着する
たびにレスピレータの使用者によって実施されなければならない(769)。フィットテストの最も
望ましい頻度は確定されていない。使用者の顔面の様相の変化、使用者の呼吸機能に影響する医
43
学的状況の発生、最初に指定されたレスピレータのモデルやサイズの変化、があれば再テストは
必要である(12)。
呼吸器防御は1989年に米国の医療従事者を結核菌の曝露から守るために初めて推奨された。そ
の勧告は「病院およびその他の医療現場における結核の伝播予防のためのガイドライン」の2回
の連続した改訂でも保持された(12, 126)。空気感染性微生物(結核菌など)の伝播を防ぐために、
管理および工学的制御(AIIR、結核に罹患している可能性のある患者を早期に認識してAIIRに迅
速に入室させる、結核疑いの患者を感染性がなくなるまでAIIRに保持する、など)に加えて、レ
スピレータを使用することによって恩恵が増大するかは未確定である。幾つかの研究では、他の
管理的および工学的制御と共に、レスピレータの替わりに外科用マスクを用いた病院において、
結核菌の伝播の効果的な予防が示されたが(637, 770, 771)、CDCは現時点では結核疑いまた
は確定の患者に曝露する職員にはN95またはそれ以上のレスピレータを推奨している。吸入伝
播がもっと明確になるまで、または感染予防のためにもっと適した医療ケア固有の防御器具が制
作されるまで、このことはSARS(262)や天然痘(108,129,772)などの空気感染で伝播する他
の疾患にも当てはまる。現在、レスピレータはSARS Co-V感染、トリインフルエンザ、パン
デミックインフルエンザの患者にエアロゾル産生処置(挿管、気管支鏡、吸引など)を実施すると
きに装着することが推奨されている(付録Aを参照)。
空気予防策は麻疹および水痘-帯状疱疹ウイルスの空気感染を防ぐために推奨されているが、こ
れら2つの感染症に対して感受性のある職員を守るための呼吸器防御のための推奨の基となる
データはない。水痘-帯状疱疹ウイルスの伝播が陰圧隔離室のみを用いて、小児患者で予防され
ている(773)。呼吸器防御(微粒子レスピレータを装着すること)がこれらのウイルスの防御を強
化するか否かについては研究されていない。医療従事者の殆どが、これらのウイルスに対して自
然免疫または獲得免疫をもっているので、免疫のある職員のみがこれらの感染症の患者をケアす
るのが一般的である(774-777)。このような環境において医療従事者を守るためにはマスクは
十分ではないと示唆するエビデンスはないが、一貫性および簡素性を目的として、または免疫を
確かめることの難しさゆえに、特定の感染性微生物に拘わらず、すべてのAIIRに入室するときに
レスピレータの使用を要求する施設もあるかもしれない。
レスピレータの安全な脱ぎ方の手順が提供されている(図)。医療現場によっては、結核菌感染の
患者にケアを提供するために用いられた微粒子レスピレータを同じHCWが再使用している。レ
スピレータに損傷がなく、汚れておらず、フィットが形状変化によって弱まっておらず、そして
レスピレータが血液や体液に汚染されていなければ、これは受け入れることが出来る行為である。
レスピレータが再使用できる期間についての推奨の基になるデータはない。
II.F. 血液媒介病原体への HCW の曝露を防ぐための安全業務
II.F.1. 針刺しおよび他の鋭利物関連創傷の予防
針やその他の鋭利物による損傷は医療従事者へのHBV,HCV,HIVの伝播に関連してきた(778,
779)。鋭利物損傷の予防は常に普遍的予防策および現在の標準予防策の重要な要素であった(1,
780)。これには処置の間または処置のあとに器具に遭遇する可能性のある使用者や他の人々の
損傷を防ぐ方法での針や他の鋭利器具の取り扱い方が含まれている。これらの方法は日常的な患
者ケアに適用されるが、他で言及される手術や侵襲的処置での鋭利物損傷や血液曝露の予防につ
いては関連しない(781-785)。
1991年にOSHAが医療従事者を血液曝露から守るために血液媒介病原体標準を初めて発行し
てから、規制活動や立法活動の焦点が制御方法の階層の実施に向けられた。これには工学的制御
の発展と使用を通じて、鋭利物の危険性を除くことに注意を集中することが含まれている。
2000年11月に署名されて法律になった「連邦の針刺し安全および予防の法律」は安全工学鋭
利器具の使用をもっと明らかに求めた血液媒介病原体標準のOSHAの改訂に権限を与えること
となった(786)。CDCは包括的な鋭利物損傷予防プログラム(789)の企画、実施、評価などの
鋭利物損傷の予防についての指針を提供した(787, 788)。
44
II.F.2. 粘膜接触の防止
眼、鼻、口の粘膜が血液や体液に曝露することが血液媒介ウイルスおよび他の感染性微生物の医
療従事者への伝播に関連してきた(66, 752, 754, 779)。粘膜曝露の予防は常に日常的な患者
ケアのための普遍的予防策および現在の標準予防策の重要な要素であり(1, 753)、OSHAの血
液媒介病原体の条例に従うものである。PPEの装着に加えての安全な業務行為は、粘膜や傷の
ある皮膚を感染性物質の接触から守るためにおこなわれる。これには、汚染した手袋の手や素手
が口、鼻、眼、顔面に触らないようにすることと、ケア提供者の顔面に飛散やしぶきが直接かか
らないように患者の位置を定めることも含まれている。患者に接触する前にPPEを注意して着
用することは、使用中のPPEの調整の必要性や顔面や粘膜が汚染するのを避けることに役立つ。
蘇生の必要性が予測できない区域では、マウスピース、一方向弁のあるポケット蘇生マスク、他
の換気器具が、マウスツーマウス蘇生の代替を提供し、処置しているときに口腔および呼吸器体
液がケア提供者の鼻および口に曝露するのを防いでいる。
II.F.2.a. エアロゾル産生処置をするときの予防策
気管支鏡、気管内挿管、気道の開放吸引のような小粒子エアロゾルを産生する処置(エアロゾル
産生処置)の実施は結核(790)、SARSCoV(93, 94, 98)、髄膜炎菌(95)などの感染性微生物の
医療従事者への伝播に関連してきた。標準予防策に従うと、これらの処置をおこなっているとき
はガウンおよび手袋に加えて、眼、鼻、口を防御することが推奨される。エアロゾルが結核菌、
SARS-CoV、トリまたはパンデミックインフルエンザウイルスを含んでいる可能性があるとき
は、エアロゾル産生処置をおこなっている間は小粒子レスピレータを使用することが推奨される。
II.G. 患者配置
II.G.1. 病院および長期ケア環境
患者配置のための選択肢には個室、二人病室、多床病室が含まれる。このなかで、感染性微生物
の伝播についての心配がある場合には、個室病室が好まれる。いくつかの研究がHAIを防ぐため
の個室病室の有効性を示すことに失敗したが(791)、米国建築協会/施設ガイドライン協会によ
って委託された研究を含む他の公開されている研究によると、
「個室」と「感染性および非感染
性の有害な患者結果の減少」との間には有益な関係があることが示された(792, 793)。米国建
築協会は個室病室は病院の構想と設計の趨勢であると述べている。しかし、殆どの病院および長
期ケア施設は多床病室を持っており、患者に適切な病室配置を決定するときには、多くの競合す
る優先事項を考慮しなければならない(入院の理由;患者の特徴[年齢、性別、精神状態など];
スタッフの必要性;家族の希望;心理・社会的要因;返済の心配など)。特別な空気感染隔離室
を必要とする明らかな感染性疾患(結核、SARS、水痘など)がなければ、感染性微生物の伝播の
危険性は患者配置の決定をするときには常には考慮されない。個室病室が限られていれば、他の
患者への感染性物質の伝播に拍車をかけるような状態(排膿創、便失禁、封じ込まれていない分
泌物など)の患者、およびHAIになりやすくて有害な結果になってしまう危険性の高い患者(免疫
抑制、開放創、留置カテーテル、長期入院が予想されること、日常生活活動についてHCWに完
全に依存していること)を優先することが慎重な対応である(15, 24, 43, 430, 794, 795)。個
室病室は空気予防策や防護環境下にいる患者に常に必要であり、接触予防策と飛沫予防策を必要
とする患者に好まれる(23, 24, 410, 435, 796, 797)。消化管が貯蔵庫となっている病原体
によって引き起こされた集団感染(疑い)のときは、特に保菌または発症している患者が個人的な
衛生習慣に乏しく、便失禁があり、微生物の伝播を防ぐ処置の継続に協力してもらうことが期待
できない場合は(幼児、小児、精神状態の変化や発達遅延のある患者など)、バスルーム付きの個
室を使用すれば伝播の機会を制限できる。伝播が継続していなければ、個人的な衛生行為と標準
予防策(特に手指衛生と適切な環境清掃)が維持される限り、腸管病原体を保菌または発症してい
る患者に個室用バスルームを提供する必要はない。患者に専用の室内用便器を指定すること、糞
便汚染しているかもしれない取り付け装備や道具 (バスルーム、室内用便器(798)、オムツの重
さを計るのに使用したはかりなど)および近傍の表面を適切な薬剤で洗浄・消毒することは、腸
管病原体による環境汚染が失禁のない患者および失禁している患者の両方に発生するため、個室
病室が使用できない場合には特に重要かもしれない(54, 799)。クロストリジウム・ディフィシ
45
レの伝播を予防するための個室病室の有用性を決定するためのいくつかの研究の結果は確定的
なものではなかった(167, 800-802)。いくつかの研究は保菌または発症している患者と同室
することは必ずしも伝播の危険要因にはならないことを示した(791, 803-805)。しかし、小
児では、医療関連下痢症の危険性は病室内にいる患者の数が増えると増加する(806)。このよう
に、患者因子は感染伝播の危険性の重要な決定要素であり、患者の個室病室や個室用バスルーム
の必要性は症例ごとに決定されるのが最も良い。
コホーティングは同じ微生物を保菌または発症している患者を寄せ集める行為であり、かれらの
ケアを1区域に限定して他の患者との接触を予防するためのものである。コホートは臨床診断、
(できれば)微生物学的確定、疫学、感染性微生物の伝播様式に基づいて作られる。一般的に、重
症免疫抑制患者を他の患者と同室させることは好まれない。コホーティングは
MDRO(MRSA[22, 807] 、 VRE[638, 808, 809] 、 MDR-ESBL[810]); 緑 膿 菌 (29);
MSSA(811); RSV(812, 813); ア デ ノ ウ イ ル ス 角 結 膜 炎 (814); ロ タ ウ イ ル ス (815);
SARS(816)の集団感染の管理に広く使用されてきた。模範的な研究は集団感染の制御のための
患者コホートの追加サポートを提供している(817-819)。しかし、日常的な感染制御策が集団
感染を制御するのに失敗のあとにコホーティングされることがしばしばである。
単一の標的病原体を発症または保菌している患者のみをケアするために医療従事者を指定また
はコホートすることは未感染患者に標的病原体がさらに伝播することを限定するが(740,
819)、現時点では病院(583)や住居型医療ケア現場(820-822)は人手不足に面しているので、
実施することは困難である。しかし、日常的な感染制御策が実施され、患者コホートがつくられ
たあとも伝播が継続していれば、医療従事者のコホーティングは有用かもしれない。
RSV、ヒトメタニューモウイルス(823)、パラインフルエンザ、インフルエンザ、他の呼吸器
ウイルス(824)、ロタウイルスが市中を流行している季節は、発現している臨床症候群に基づい
てコホーティングすることが幼児および年少小児をケアする施設において優先されることが多
い(825)。例えば、呼吸器ウイルスの季節では、幼児は気管支炎の臨床診断のみでコホートされ
るかもしれない。これは病室指定の前に微生物学的に確定することの兵站学的な困難さと費用ゆ
えであり、また季節のほとんどでRSVが優性であることによる。しかし、同じ臨床所見(気管支
炎)が複数の感染性微生物によって引き起こされうるので、可能であれば個室房室が常に好まれ
る(823, 824, 826)。さらに、幼児や小児は体液を封じ込めることができないことと、かれら
をケアするときの濃厚な身体的接触はこの環境における患者および医療従事者の感染伝播の危
険性を増大させる(24, 795)。
II.G.2. 外来環境
伝播しやすい感染性疾患を活動性に発症している患者や潜伏期にある患者が外来(外来クリニッ
ク、開業医、救急外来など)で頻繁に診察されており、医療従事者、他の患者、家族、面会者が
曝露している(21, 34, 127, 135, 142, 827)。2003年のSARSの世界的な集団感染に対応
して、そしてパンデミックインフルエンザに備えるために、外来の医療従事者は呼吸器感染の伝
播を防ぐために、患者受診の最初の時点から下記のセクションIII.A.1.a.に記載されているような
感染源封じ込め策(咳している患者に外科用マスクを装着するか咳をティッシュで覆うように依
頼するなど)を実施することを強力に押し進めなければならない(9, 262, 828)。呼吸器感染の
症状(咳、インフルエンザ様症状、呼吸器分泌物の産生の増加など)があるならば受付に迅速に知
らせるように患者や付き添い者に要望するポスターを施設の入り口や受付や登録机に掲示して
もよい。下痢、発疹、伝播する疾患(麻疹、百日咳、水痘、結核など)への曝露(確認されている
か疑われている)の有無も追加してもよい。感染性の患者を遅滞なく検査用室に入室させること
は(一般待合い区域などで)曝露する人の数を限定する。待合い区域では、感染源制御策に加えて
症状のある患者と無症状の患者の間の距離を維持すれば(>3フィート[約1m])、曝露を限定でき
るかもしれない。しかし、空気感染にて伝播する感染症(結核菌、麻疹、水痘など)は追加予防策
を必要とする(12, 125, 829)。そのような感染症に罹患しているかもしれない患者は耐えられ
るならば、感染源封じ込めのために外科用マスクを装着し、迅速に検査用室(AIIRが望ましい)に
入室させるべきである。これができなければ、待合い区域では患者にマスクを装着させ、他の患
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者から隔離すれば、他の人への曝露の機会を減らすであろう。患者の同伴者もまた感染性がある
かもしれないので、かれらに症状がみられれば、これらの人々にも同じ感染制御策の適用を拡大
する必要があるかもしれない(21, 252, 830)。例えば、結核疑いにて入院した小児に付き添っ
ていた家族は無症状であったが、疑われもしなかった空洞のある肺結核に罹患していた (42,
831)。感染への感受性を高めてしまう基礎疾患のある患者(免疫不全の患者(43, 44)や嚢胞性
線維症(20)の患者など)は一般待合い区域において感染患者に曝露しないような特別な努力が
必要である。到着の時点で感染の危険性について受付係に知らせれば、かれらを感染から守るた
めの適切なステップがとれるかもしれない。嚢胞性線維症のクリニックの一部では、バークホル
デリア・セパチアを保菌している他の患者への曝露を避けるために、患者は登録時にポケットベ
ルが与えられ、その区域を立ち去って、検査用室が利用できるときに戻るように連絡を受けられ
るようになっている(832)。
II.G.3.在宅ケア
在宅ケアにおける患者配置についての心配事は、感染性のある家族に他の人々が自宅で曝露しな
いようにすることであり、そこに焦点が当てられている。特定の感染症が関連する有害な結末に
特に脆弱な人々では、彼らを家庭から引き離すか、家庭内で隔離することが有益かもしれない。
感染性のある期間は、家族以外の人々には訪問を禁止しなければならないかもしれない。例えば、
肺結核の患者に感染性があり在宅ケアを受けるならば、未感染の年少小児(4歳未満)(833)およ
び免疫不全患者は転居するか家族から離されるべきである。2003年のSARS集団感染のとき、
伝染性のある時期は感染者を隔離することが家庭内伝播の予防に有用であった(249, 834)。
II.H. 患者の移送
感染経路別予防策を必要とする患者の移送を指導するために、幾つかの原則が用いられる。入院
や在宅環境で、これに含まれるのは、1) そのような患者の移送を病室で実施できない診断処置
や治療処置のような重要な目的のみに制限すること、2)移送が必要なときは、患者に適切なバ
リアを用いること(マスク、ガウン、感染した皮膚病変または排膿があってその部位を覆うため
にシーツや不浸透性ドレッシングにて包むこと)、3) 到着を待っている受け入れ区域の医療従事
者に患者のことと伝播予防に必要な予防策について通知すること、4)施設外に搬送される患者
については、受け入れ施設、医療用車両、救急車の職員に、実施すべき感染経路別予防策につい
て前もって連絡しておくこと、である。結核については、救急車のような狭い空間の共有では追
加予防策が必要かもしれない(12)。
II.I. 環境処置
患者ケア区域のノンクリティカル表面の洗浄と消毒は標準予防策の一部である。一般に、この処
置は感染経路別予防策の患者でも変更する必要はない。すべての患者ケア区域の洗浄と消毒は高
頻度接触表面(特に、患者に最も近くて最も汚染している可能性がある区域[ベッドレール、ベッ
ドサイドの机、室内用便器、ドアノブ、シンク、患者近傍の表面の器具など])では重要である(11,
72, 73, 835)。洗浄の頻度と程度は患者の衛生レベルや環境の汚染レベルに基づいて変更する
必要があり、腸管が保存庫となっている感染性微生物では確実に実施する(54)。これは便失禁
や尿失禁の患者が多いLTCFや小児施設では特に当てはまる。また、防護環境では埃の蓄積を最
小にするために洗浄回数を増やす必要がある(11)。透析センターの環境表面の洗浄と消毒のた
めの特別な勧告が公開されている(18)。すべての医療環境において、管理、人員配置、計画で
は伝播に関与しうる表面の適切な洗浄と消毒を優先すべきである。環境が保存庫であることが疑
われている集団感染(疑いまたは確定)では、日常的な洗浄処置が再評価されるべきであり、訓練
された清掃スタッフの追加の必要性について評価しなければならない。継続的かつ正しい洗浄が
実施されることを促進するために、遵守されていることが監視され再強化される必要がある。
EPA登録した消毒薬または洗浄/消毒薬(日常的な洗浄と消毒のために医療施設の全体的な必要
性に最も合ったもの)が選択されるべきである(11, 836)。一般に、使用量、稀釈、接触時間に
ついての製造元の勧告に従って、既存の施設洗浄/消毒薬を使用することは、保菌者または発症
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者が滞在していた部屋の表面から病原体を除去するのに十分である。これには複数のクラスの抗
菌薬に耐性の病原体(クロストリジウム・ディフィシレ、VRE, MRSA, MDR-GNB[11, 24, 88,
435, 746, 796, 837]など)が含まれる。頻繁にみられることであるが、集団感染における病
原体の環境保存庫が、特定の洗浄薬および消毒薬を使用しなかったことよりも、洗浄と消毒の推
奨処置に従わなかったことに関連することがある(838-841)。
特定の病原体(ロタウイルス、ノロウイルス、クロストリジウム・ディフィシレなど)は日常的に
用いられる病院消毒薬の一部に耐性である(275, 292, 842-847)。ロタウイルスの伝播を制
限するための特別な消毒薬の役割が実験的に示された(842)。また、クロストリジウム・ディフ
ィシレは塩素をベースにしていない洗浄剤に曝露すると芽胞産生のレベルが増加し、芽胞は一般
的に使用される表面消毒薬に対して増殖型細菌より耐性なので、伝播が継続しているときはクロ
ストリジウム・ディフィシレの患者の部屋の日常的な環境消毒に5.25%の次亜塩素酸ナトリウ
ム(家庭用漂白剤)と水の1:10稀釈の使用を推奨している研究者もいる(844, 848)。1件の研究
によると、次亜塩素酸塩溶液の使用はクロストリジウム・ディフィシレの割合の減少に関連して
いた(847)。これらの微生物の存在に基づいて消毒薬を変更する必要性は感染制御委員会に相談
して決定することができる(11, 847, 848)。プリオンを含んでいる組織またはハイリスク体液
に接触した表面や医療器具の消毒と滅菌、および血液と体物質のこぼれの洗浄のための詳細な勧
告は「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン」(11)および「滅菌と洗浄のガイドライ
ン」(848)にて入手できる。
II.J. 患者ケアの器具および器材/機器
医学器具および器材/機器は感染性微生物が患者と患者の間を伝播するのを防ぐために、製造元
の説明書に従って、洗浄されて管理されなければならない(86, 87, 325, 849)。有機物を除く
ための洗浄はクリティカル器具およびセミクリティカル器具や器材の高水準消毒と滅菌に常に
先行しなければならない。というのは残存した蛋白性物質は消毒および滅菌のプロセスの効果を
減弱させるからである(836, 848)。室内便器、静脈内ポンプ、呼吸器のようなノンクリティカ
ル器具は他の患者に使用する前に徹底的に洗浄と消毒をおこなう。そのような器材や機器は感染
性物質がHCWと環境に接触するのを防ぐ方法で取り扱われるべきである。ノンクリティカル物
品の洗浄と消毒の指針のなかに、患者ケアで用いられるコンピュータおよび個人用の携帯情報機
器(PDA: personal digital assistant)も含むことが大切である。病原体によるコンピュータの
汚染についての文献が総括されており(850)、2件の報告がコンピュータと患者の保菌および発
症と関連づけている(851, 852)。容易に除菌できるキーボードのカバーおよび洗濯できるキー
ボードが使用されているが、これらの物品の感染制御での有益性と最善の処置は確定していない。
すべての医療施設において感染経路別予防策下の患者に、指定されたノンクリティカル医療器具
(聴診器、血圧計のカフ、電子体温計など)を提供することは伝播予防に有用である(74, 89, 740,
853, 854)。このようなことができなければ、使用後の消毒が推奨される。日常環境および特
別な環境における医療器具や患者ケア物品の洗浄と再生のための特別なプロトコルの制作にお
ける詳細な指針については他のガイドラインを参照する(11, 14, 18, 20, 740, 836, 848)。
在宅ケアでは、耐久性医療器具を家から持ち出す前に、肉眼的にみえる血液や体液を除くことが
望ましい。器具は洗浄剤/消毒薬を用いて、現場で洗浄できる。そして、可能であれば再生場所
に移送するためにプラスチックバッグにいれるべきである(20, 739)。
II.K. 織物と洗濯
寝具類、タオル、患者や居住者の衣類などの汚れた織物は病原性微生物に汚染しているかもしれ
ない。しかし、それらが安全な方法で取り扱われ、移送され、洗濯されれば、疾患伝播の危険性
は無視できるほどである(11, 855, 856)。汚れた洗濯物を取り扱うための重要な原則は、1) 物
品を振ったり、感染性微生物をエアロゾルするかもしれない方法でそれらを取り扱わないこと、
2)取り扱われる汚れた物品で身体や衣類を接触するのを避けること、3)汚れた物品を洗濯バッ
グまたは指定された容器に入れること、である。洗濯シュートを使用するならば、それらは汚染
した物品からエアロゾルが拡散するのを最小にするように維持されなければならない(11)。汚
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れた織物の取り扱い、移送、洗濯のための方法は医療機関の方針や当該規則によって決定される
(739)。手引きは「環境感染制御のためのガイドライン」に提供されている(11)。柔軟性のな
い規則や法律よりも、清潔な織物の衛生的および常識的な保存と処理が推奨される(11, 857)。
医療施設外で洗濯する場合は、清潔な物品が免疫不全患者のリスクとなる感染性真菌胞子を含ん
でいるかもしれない外気や工事埃によって汚染するのを防ぐために、移送している間は包装する
か、完全に覆って閉鎖空間に置く必要がある(11)。
施設は個人防護具として使用された衣類や血液・感染性物質にて肉眼的に汚れたユニフォームを
洗濯することが求められている(739)。HCWのユニホームを自宅で洗濯することの安全性を決
定するデータは殆どないが、1件の公開された研究では感染率の増加はないことが観察された
(858)。他の研究では自宅または病院でゴシゴシ洗濯された物からは病原体は検出されなかった
(859)。自宅では、伝播しやすい感染性微生物を持っている患者の織物や洗濯物を特別に洗濯し
たり別に洗濯したりする必要はない。そして、暖かい水と洗剤にて洗っても良い(11, 858,
859)。
II.L. 固形廃棄物
医療現場から発生する固形廃棄物の取り扱いは連邦および州の医療廃棄物および非医療廃棄物
についての法律に従う(860, 861)。感染経路別予防策の患者の部屋からの非医療固形廃棄物
には追加予防策は必要ない。固形廃棄物は十分な強度の一重のバッグに入れても良い(862)。
II.M. 食器類と食事用具
食器洗濯機に用いられる熱湯と洗剤の組み合わせは食器類や食事用品の除染に十分である。それ
故、食器類(皿、グラス、コップなど)や食事用品には特別な予防策は必要ない。再利用される食
器類や食事用品を感染経路別予防策が必要な患者に用いても良い。自宅や他の共同社会の環境で
は、使用された食事用品や飲用容器を共有してはならないが、これは良好な個人衛生の原則に一
致したものであり、呼吸器ウイルス、単純ヘルペスウイルス、消化管に感染していたり糞口感染
によって伝播する感染性微生物(A型肝炎ウイルス、ノロウイルスなど)を防ぐためである。用具
や皿を洗浄するための適切な手段がなければ、使い捨て製品を使用してもよい。
II.N. 追加処置
感染性微生物の伝播を防ぐためのプログラムの主な要素とは考えられないが、そのようなプログ
ラムの有効性を改善する重要な補助策には、下記のものが含まれる:1)抗菌薬の管理プログラ
ム、2)抗ウイルス薬および抗菌薬による曝露後化学予防、3)曝露予防の前後に用いるワクチン、
4)伝播しやすい感染症の症状のある面会者のスクリーニングによる制限。抗菌薬の適正使用の
詳細な議論はこのガイドラインの範囲を越えている。しかし、一般法則はMDROのセクション
で 言 及 さ れ て い る ( 医 療 現 場 に お け る 多 剤 耐 性 菌 の 管 理 、 2006 年 .
www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdf)。
II.N.1. 化学予防
抗菌薬や局所消毒薬が特定の微生物の感染や集団感染を防ぐために用いられることがある。限定
された状況下で、曝露後の化学予防が推奨される感染症には、百日咳(17, 863)、髄膜炎菌(864)、
エアロゾル化した物質に環境曝露したあとの炭疽菌(865)、インフルエンザウイルス(611)、
HIV(866)、A群連鎖球菌(160)がある。患者や医療従事者のMRSA保菌に対して、限定した環
境下で抗菌薬の経口投与を行うことがある(867)。
化学予防の別の様式は抗菌薬の局所投与である。例えば、三重色素(triple dye)は黄色ブドウ球
菌(MRSAを含む)やA群連鎖球菌によって引き起こされる保菌、皮膚感染症、臍炎の危険性を減
らすために新生児期の臍帯に日常的に用いられている(868, 869)。三重色素をNICUの低体重
児の使用に拡大することは1件の長期にわたるMRSA集団感染を制御したプログラムの1要素
であった(22)。局所消毒薬が医療従事者や特定の患者の除菌に用いられている。これにはMDRO
ガ イ ド ラ イ ン で も 議 論 さ れ て い る よ う に 、 ム ピ ロ シ ン が 用 い ら れ て い る (870 867,
49
871-873)。
II.N.2.免疫予防
感受性のある医療従事者に推奨される特定のワクチン接種は医療施設における感染の危険性と
伝播の可能性を減らした(17, 874)。雇い主がHCWにB型肝炎ワクチン接種を提供することを
求めたOSHAの命令は職業上HBV感染の発生を急激に減少させる重要な役割を果たした(778,
875)。医療従事者での水痘ワクチンの接種は水痘患者に曝露したあとの感受性のあるHCWの
管理上休務の必要性を減らした(775)。また、産科クリニックでの風疹 (33, 876)および急性
期環境での麻疹(34)の医療関連感染の報告は小児疾患に対して感受性のある医療従事者へのワ
クチン接種の重要性を示した。多くの州は免疫を持っているエビデンスがなければ、HCWへの
麻疹と風疹のワクチン接種を求めている。LTCFと急性期ケア環境の患者および医療従事者を標
的とした毎年のインフルエンザワクチンのキャンペーンは施設の集団感染を予防し限定するの
に役立ち、医療従事者のワクチン接種率の改善に向けて注意を促した(35 , 611, 690, 877,
878 , 879)。
医療施設での百日咳の伝播は医療従事者および患者の両者を巻き込んだ大規模かつ大損害の集
団感染に関連した(17, 36, 41, 100, 683, 827, 880, 881)。免疫が減弱しているので、百
日咳の幼児に濃厚接触したHCWは特にハイリスクであり、そして、2005年まで成人に使用で
きるワクチンがなかった。しかし、2005年に2つの無細胞百日咳ワクチンが米国で認可され、
1つは11∼18歳の人に用いられ、1つは10∼64歳の人に用いられる(882)。このガイドライ
ンが公開された時点のACIPの暫定的勧告には、青年および成人(特に、生後12ヶ月未満の幼児
に接触する人および患者に直接接触する医療従事者)が含まれている(883 884)。
小児と成人へのワクチン接種はワクチンで予防可能な疾患の医療環境への侵入を防ぐのを助け
るであろう。小児に勧告されたワクチン接種スケジュールは、Morbidity Mortality Weekly
Reportの1月号に毎年公開されており、必要に応じて暫定的に改訂される(885, 886)。成人の
ワクチン接種スケジュールはまた、健康成人およびハイリスクな医学状況ゆえに特別なワクチン
接種が必要な成人にも利用できる(887)。
いくつかのワクチンが感受性のある人々の曝露後予防にも用いられており、それには水痘(888)、
インフルエンザ(611)、B型肝炎(778)、天然痘(225)、ワクチンが含まれる(17, 874)。将来、
新しく開発された黄色ブドウ球菌の結合ワクチン(まだ研究中である)の特定の患者への接種が
ハイリスク群(血液透析患者および特定の外科手術の候補など)でのMRSAを含む医療関連黄色
ブドウ球菌を予防する新しい方法を提供するかもしれない(889, 890)。
免疫グロブリン製剤はまた、特別な環境下での特定の感染性微生物の曝露後予防に用いられる
(水痘-帯状疱疹ウイルス[VZIG]、B型肝炎ウイルス[HBIG]、狂犬病[RIG]、麻疹およびA型肝炎
ウイルス[IG]( 17, 833, 874))。RSVモノクロナール抗体製剤(パリビズマブ)は1つのNICUで
RSVの院内集団感染を制御するのに寄与したかもしれないが、この状況においてその使用を日
常的に推奨することを支持するエビデンスは不十分である(891)。
II.N.3. 面会者の取り扱い
II.N.3.a. 感染源としての面会者
面会者は幾つかの種類のHAIの感染源として同定されている(百日咳(40, 41)、結核(42, 892)、
インフルエンザおよび他の呼吸器ウイルス(24, 43, 44, 373)、SARS(21, 252-254)など)。
しかし、医療施設での面会者スクリーニングの効果的な方法は研究されていない。面会者スクリ
ーニングは感染性疾患が市中で集団感染している時期およびハイリスク患者の病棟では特に重
要である。兄弟の訪問は、出産センターの産後室、小児入院病棟のICU、小児のための居住環境
にてしばしば奨励されている。病院環境では、小児の面会者は自分の兄弟のみを訪問すべきであ
る。小児疾患および一般呼吸器感染の入り込みを防ぐために、面会する兄弟や他の小児のスクリ
ーニングは、かれらが臨床区域に入ることが許可される前に必要である。伝播する疾患の徴候や
症状のある家族および面会者が臨床区域に入らないように警告するために、スクリーニングは症
状を用いた受動的なものになるかもしれない。もっと積極的なスクリーニングには、最近の曝露
または現在の症状に関連した情報を誘い出すスクリーニング手段または質問を完了させること
50
が含まれるかもしれない。その情報は施設のスタッフによって検閲され、面会者は面会が許可さ
れるか排除される(833)。
百日咳および結核の小児患者に面会する家族は現在の感染症の徴候と症状ばかりでなく曝露歴
についてもスクリーニングされなければならない。感染している可能性のある面会者は、適切な
医学スクリーニング、診断、治療を受けるまでは除外される。除外することが患者または家族の
最大の利益であると考えられないならば(重症患者または末期患者の重要な家族など)、症状のあ
る面会者は医療施設にいる間はマスクを装着して、病室に留まり、他の人々への曝露を避ける(特
に、公共待合い区域やカフェテリア)。
面会者スクリーニングはHSCT病棟にて継続的に用いられている(15, 43)。しかし、2003年
のSARS集団感染のときの経験やパンデミックインフルエンザの可能性を考えると、効果的な面
会者スクリーニングシステムの開発は有益である(9)。呼吸器衛生/咳エチケットに関する教育は
面会者スクリーニングに加えて有用である。
II.N.3.b. 面会者によるバリア予防策の使用
医療現場での面会者によるガウン、手袋、マスクの使用は科学的文献にて特別に言及されたこと
がない。幾つかの研究では、MRDOの制御に面会者のガウンと手袋の使用を含んでいたが、面
会者による使用が測定可能な効果を持っているかを決定するための独立した解析はなされなか
った(893-895)。ケアを提供するか極めて濃厚な接触をしている家族や面会者(授乳や抱擁な
ど)は他の患者に接触するかもしれないので、バリア予防策が正しく使用されないと伝播に寄与
しうる。特別な勧告は施設や病棟によって異なり、相互作用のレベルによって決定される。
51
第Ⅲ部:感染性微生物の伝播防止のための予防策
感染性微生物の伝播防止のためには2段階のHICPAC/CDC予防策(標準予防策と感染経路別予
防策)がある。標準予防策はすべての医療現場におけるすべての患者のケアに適用することを目
的としており、感染性微生物の存在が疑われているか確定しているかには関係しない。標準予防
策の実施は患者と医療従事者の間の感染性微生物の医療関連感染の予防のための主な戦略を構
成している。
感染経路別予防策は感染性微生物(伝播を効果的に防ぐために追加の制御策を必要とする疫学的
に重要な特定の病原体を含む)を発症または保菌していることが知られているか疑われている患
者のためのものである。感染性微生物は医療施設への入院時には知られていないことが多いので、
感染経路別予防策は臨床症状やその時点でありうる病因微生物に従ってエンピリックに用いら
れる。そして、病原体が同定されたり、伝染性の感染性病因が除外されると修正される。この症
候性のアプローチは表に提示されている。HICPAC/CDCガイドラインは同種HSCT患者のため
の防護環境を作成するための勧告も含んでいる。
標準予防策および感染経路別予防策の特別な要素はこのガイドラインの第Ⅱ部に議論されてい
る。第Ⅲ部では、標準予防策、感染経路別予防策、防護環境が適用される環境が論じられている。
これら1組の予防策の主な要素の要旨については表4と表5を参照する。
III.A.標準予防策
標準予防策は普遍的予防策(UP: Universal Precautions)(780, 896)と生体物質隔離(BSI:
Body Substance Isolation)(640)の主要な特徴を組み合わせたものであり、汗を除くすべて
の血液、体液、分泌液、排泄物、傷のある皮膚、粘膜は伝播しうる感染性微生物を含んでいるか
もしれないという原則に基づいている。標準予防策は、感染が疑われているか確定しているかに
拘わらず、医療ケアが提供されるいかなる現場においても、すべての患者に適用される一群の感
染予防策を含んでいる(表4)。これらには下記が含まれる(手指衛生;予想される曝露に基づいて
使用される手袋、ガウン、マスク、眼防御、フェースシールド;安全な注射手技)。また、感染
性体液に汚染されているかもしれない患者環境にある器具や器材は感染性微生物の伝播を防ぐ
方法(例:直接接触するなら手袋を着用する;激しく汚れた器具は包み込んで封じ込める;再利
用する器具は他の患者に使用する前に適切に洗浄して消毒や滅菌を行う)で取り扱われなければ
ならない。
患者ケア時の標準予防策の適用は医療従事者と患者の相互関係や予想される血液、体液、病原体
の曝露の性質によって決定される。いくつかの相互関係(血管穿刺など)では、手袋のみが必要で
あり、他の相互関係(挿管など)では、手袋、ガウン、フェースシールドまたはマスクとゴーグル
が必要となる。推奨される手技のための原則や論理的根拠の教育および訓練は標準予防策の重要
な要因であるが、それはHCWが新しい状況に直面したときに、適切な決断と遵守を促進するか
らである(655, 681-686)。標準予防策の使用が重要である例は挿管(特に、感染性微生物
52
(SARS-CoVや髄膜炎菌など)が疑われていないけれども、後に同定されるかもしれないような
緊急状況下での挿管)である。標準予防策の適用は下記に記述され、表4に要約されている。手
袋、ガウン、その他のPPEの着脱のガイダンスは図に示されている。標準予防策は医療従事者
が手によって感染性微生物を患者に持ち運んだり、患者ケアに用いた器具を介して感染性微生物
を移動させないようにして、患者を守ることを意図したものである。
III.A.1. 標準予防策の新しい要素
集団感染の調査の過程で見つけ出された感染制御の問題点は、患者を守るために既に存在してい
る感染制御の推奨の新しい勧告や再強化の必要性を指摘していることが多い。そのような勧告は
ケアの標準と考えられ、他のガイドラインには含まれていないので、それらは標準予防策に加え
られることになった。追加されたそれらの3つの手技は、呼吸器衛生/咳エチケット、安全な注
射手技、腰椎穿刺による髄腔内または硬膜外へのカテーテル挿入や薬剤注入(ミエログラム、脊
椎麻酔、硬膜外麻酔など)時のマスク装着、である。普遍的予防策(ユニバーサル・プリコーショ
ン:Universal Precaution)から発生した標準予防策の殆どの要素が医療従事者の防御のために
開発されたが、標準予防策の新しい要素は患者の防御に焦点を合わせたものである。
III.A.1.a. 呼吸器衛生/咳エチケット
2003年の世界に拡大したSARSアウトブレイクのときの救急外来における患者や患者家族に
よるSARSCoVの伝播によって、医療現場(救急外来、外来クリニック、開業医での受付および
トリアージ区域など)での最初の受診時に感染制御策を迅速に実施する必要性が強調されること
となった(21, 254, 897)
。提案された戦略は呼吸器衛生/咳エチケットと名付けられ (9, 828)、
標準予防策の新しい要素として感染制御の実践に取り込まれるように意図されている。この戦略
は未診断の感染力のある呼吸器感染症の患者、同伴家族、友人をターゲットとしており、咳、充
血、鼻水、呼吸器分泌物の増加といった症状のあるすべての人が医療施設に入るときに適用され
る(40, 41, 43)。咳エチケットの用語は結核の感染源への感染対策の推奨に由来している(12,
126)。
呼吸器衛生/咳エチケットの要素には、1)医療施設のスタッフ、患者、面会者を教育する; 2)対
応する集団への適切な言語を用いた患者・同伴家族・友人の教育のためのポスターを使用する;
3)感染源制御対策(咳のあるときにはテイッシュペーパーにて口と鼻を覆い、使用したテイッシ
ュペーパーは迅速に廃棄し、耐えられかつ適切であれば咳をしている人には外科用マスクを装着
させるなど)をおこなう;4)呼吸器分泌物に触れたあとには手指衛生をおこなう;5)可能であれば、
一般待合い室では呼吸器感染のある人から空間的距離(理想的には3フィート(約1m)以上)を
空ける、が含まれる。くしゃみと咳を覆い、咳をしている患者にマスクをさせることは、感染者
が呼吸器分泌物を空気中に拡散させないようにするための感染源封じ込めの証明済みの方法で
ある(107, 145, 898, 899)。マスクをすることは状況によっては困難かもしれない(小児など、
そのような症例では咳エチケットを強調する必要に迫られる)(900)。3フィート(約1m)未満の
53
物理的な接近は飛沫伝播を介した感染症((髄膜炎菌(103)、A群連鎖球菌(114)など)の伝播の危
険性を増大するかもしれない。それ故、感染していない他の人と感染者の距離を確保することが
望ましい。良好な衛生行為(特に手指衛生)の効果については、ウイルスの伝播の低減や医療現場
の内外での呼吸器感染症の発生を減らすことが、いくつかのレビューで総括されている(559,
717, 904)。
これらの方法は大きな呼吸器飛沫に含まれている病原体(インフルエンザウイルス(23)、アデノ
ウイルス(111)、百日咳(827)、肺炎マイコプラズマ(112)など)の伝播の危険性を減らすこと
に有効である。発熱は多くの呼吸器感染でみられるけれども、百日咳や軽度の上気道感染では無
熱であることがしばしばである。それ故、発熱がないことは気道感染をかならずしも除外しない。
喘息、アレルギー性鼻炎、慢性閉塞性肺疾患の患者も咳やくしゃみをするかもしれない。これら
の患者には感染性はないけれども、咳エチケットをおこなうことは慎重なことである。
医療従事者が呼吸器感染の症状のある患者を検査したりケアする場合には、飛沫予防策(マスク
装着など)と手指衛生をすることが推奨される。呼吸器感染のある医療従事者は患者(特にハイリ
スク患者)への直接接触を避けることが推奨される。これができなければ、患者ケアの間はマス
クを装着すべきである。
III.A.1.b. 安全な注射手技
米国の外来医療施設の患者でのHBVおよびHCVの4件の大きな集団感染の調査によって、安全
な注射手技を定義して強化する必要性が確認された(453)。4件の集団感染は開業医、ペインク
リニック、内視鏡外来、血液/腫瘍外来で発生した。これらの集団感染に関与した感染制御策の
主な不履行は、1)数回量バイアルや溶液容器(生食バッグなど)に使用済み針を再挿入した、2)
複数の患者に静注用薬剤を投与するときに同じ針/注射器を使用した、というものであった。こ
れらの集団感染の1つでは、使用済みの針/注射器が取り外された場所と同じ場所で薬剤の準備
が行われていたことも関連要因であった。ウイルス性肝炎のこれらおよび他の集団感染は非経口
薬剤の準備や投与のための無菌的テクニックの基本原則の遵守によって防ぐことができた
(453,454)。これらには、各々の注射には滅菌の単回使用の使い捨て注射針および注射器を用
いること、注射器材および薬剤の汚染を防ぐことが含まれる。単回量バイアルの使用が複数回バ
イアルよりも好まれる(特に、薬剤が複数の患者に投与されるときに好まれる)。
安全ではない注射手技に関連した集団感染は医療従事者の一部が感染制御および無菌テクニッ
クの基本原則を知らない、理解していない、遵守しないことを示唆している。注射にて薬剤を提
供している米国の医療従事者についての調査によると、1%から3%が複数の患者に同じ針や注
射器を再使用したことが判明した(905)。最近の集団感染で見つけ出された欠陥には、外来現場
で職員を監督しなかったことや報告された感染制御の不履行をフォローアップしなかったこと
が挙げられる。それ故、すべての医療従事者が推奨されている手技を理解して遵守することを確
実にするために、感染制御および無菌テクニックの原則を訓練プログラムにて再強化すべきであ
り、遵守を監視する機関の方針に組み入れる必要がある(454)。
54
III.A.1.c. 特別な腰椎穿刺処置での感染制御手技
2004年、CDCはCDCに報告されたか米国感染症学会の新興感染症ネットワークの調査で同定
された8件のミエログラフィー後の髄膜炎を調査した。8件の全症例の血液や髄液から口腔咽頭
細菌叢に一致した連鎖球菌属が検出され、細菌性髄膜炎を示唆する髄液データの変化と臨床症状
がみられた。これらの処置で用いられた器具や器材(造影剤など)には汚染源の可能性はなかった。
7症例で得られた処置の詳細によると、皮膚消毒薬および滅菌手袋が確実に用いられていた。し
かし、医師のだれもが、フェースマスクをしていなかったため、口腔咽頭の細菌叢の飛沫感染が
これらの感染のもっとも可能性のある説明となった。ミエログラムやその他の脊椎処置(腰椎穿
刺、脊椎麻酔および硬膜外麻酔、髄腔内化学療法など)に引き続く細菌性髄膜炎は以前も報告さ
れている(906-915)。その結果、脊椎処置(ミエログラム、腰椎穿刺、脊椎麻酔など)時の口腔
細菌叢の飛沫拡散を防ぐために、フェースマスクを装着すべきかどうかの疑問が議論されてきた
(916, 917)。フェースマスクは口腔咽頭飛沫の散布を限局させることに有効であり(918)、中
心静脈カテーテルの留置時にも推奨されている(919)。2005年10月、医療感染制御業務諮問
委員会(HICPAC)は、脊髄内または硬膜外にカテーテルを挿入するか薬剤を注入する人はフェー
スマスクを装着するという防御策を追加することを正当化するのに十分な経験があるとの結論
に達した。
III.B.感染経路別予防策
感染経路別予防策には3つのカテゴリー(接触予防策、飛沫予防策、空気予防策)がある。感染経
路別予防策は標準予防策のみを実施しても感染経路を完全には遮断できない場合に用いる。複数
の感染経路のあるいくつかの疾患(SARSなど)では、1つ以上の感染経路別予防策を用いても良
い。単独で用いても、組み合わせて用いても、それらは常に標準予防策に加えて用いられる。特
別な感染症のために推奨される予防策については付録Aを参照する。感染経路別予防策が必要な
ときは、患者の受け入れおよびHCWの遵守を向上させるために、患者に発生する可能性のある
副反応(不安、抑鬱およびその他の気分の動揺(920-922)、恥辱感(923)、臨床スタッフの接触
の減少(924-926))、回避できる副反応の増加(565))を中和する努力が必要である。
III.B.1. 接触予防策
接触予防策はI.B.3.a.に記述されるように、患者または患者環境に直接もしくは間接的に接触す
ることによって拡散する感染性微生物(疫学的に重要な微生物を含む)の伝播を防ぐことを目的
としている。接触予防策が必要な特別な微生物および環境は付録Aに記載されている。MDRO
を発症または保菌している患者への接触予防策の適用は2006年の HICPAC/CDC のMDRO
ガイドラインに記載されている(927)。接触予防策はまた、創部からの過剰な排膿、便失禁、他
の体分泌物による環境の広範囲汚染および感染リスクの可能性の増加が示唆される場合に適用
される。接触予防策が必要な患者には個室病室が好まれる。個室が利用できないときは、患者配
55
置の他のオプション(コホーティング、患者を現在の同室者と一緒にしておくなど)に関する様々
なリスクを評価するために、感染制御職員に相談することが推奨される。多床室では、発症/保
菌患者と他の患者の間での不注意な器具の共有の機会を減らすために、ベッドとベッドの間に3
フィート(約1m)以上の空間的距離をおくことが推奨される。接触予防策の患者をケアする医療
従事者は患者に接触したり、患者環境の汚染の可能性のある区域に接触したりするときには常に
ガウンと手袋を装着する。入室時にはPPEを装着し、病室から出る前には廃棄することが病原
体、特に環境汚染を通じての伝播に関連する病原体(VRE、クロストリジウム・ディフィシレ、
ノロウイルス、その他の腸管病原体;RSV)を封じ込めるために実施される(54, 72, 73, 78,
274,275, 740)。
III.B.2.飛沫予防策
飛沫予防策はI.B.3.b.に記載されているように、呼吸器分泌物が呼吸器または粘膜に密接に接触
することを介して拡散する病原体の伝播を防ぐことを目的としている。これらの病原体は、医療
ケア施設では長距離に渡って感染性を維持しないので、飛沫感染を防ぐための特別な空気処置や
換気は必要ない。飛沫予防策が必要な感染性微生物については付録Aに記載してあるが、百日咳、
インフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、髄膜炎菌、A群連鎖球菌(抗菌治
療の最初の24時間)などが挙げられる。飛沫予防策が必要な患者には個室が好まれる。個室が利
用できないときは、患者配置の他のオプション(コホーティング、患者を現在の同室者と一緒に
しておくなど)に関する様々なリスクを評価するために、感染制御職員に相談することが推奨さ
れる。患者のベッド間に3フィート(約1m)以上の空間的距離をおくことやカーテンを引くこと
は多床室にいる飛沫感染する感染症の患者にとっては特に重要である。医療従事者は感染性患者
に濃厚接触するときにはマスク(レスピレータは必要ない)を装着するが、マスクは入室時に装着
するのが一般的である。病室外に搬送しなければならない飛沫予防策の患者は、耐えられるなら
ばマスクを使用し、呼吸器衛生/咳エチケットに従う。
III.B.3. 空気予防策
空気予防策はI.B.3.cおよび付録Aに記載されているように、空気中に浮遊して長距離でも感染性
を維持している感染性微生物(麻疹ウイルス、水痘ウイルス、結核菌などであり、SARS-CoV
も可能性がある)の伝播を防ぐ。空気予防策が必要な患者に好まれる病室は空気感染隔離室(AIIR:
airborne infection isolation room)である。AIIRは米国建築協会/施設ガイドライン協会
(AIA/FGI: American Institute
of Architects/Facility Guidelines Institute)のAIIRの基準
(周辺区域よりも陰圧であることが監視されている;新築や改築施設では1時間に12回換気され、
既存施設では6回換気される;空気は外部に直接排気されるか、病室に戻る前にHEPAフィルタ
で濾過して再循環させる)に合った特別な空気処理や換気能力が装備された個室である(12, 13)。
いくつかの州では、病院、救急部、結核患者をケアするナーシングホームにおいて、そのような
部屋を利用できることを要求している。AIIRを装備している施設では、レスピレーターの使用に
56
ついての教育、フィットテスト、使用者シールチェックなどの呼吸器防御プログラムが必要であ
る。構造的資源が限られているため空気予防策が実施できない現場(開業医など)では、患者にマ
スクを装着させ、個室(診療所の検査室など)に入れて扉を閉め、医療従事者にはN95もしくはそ
れ以上のレベルのレスピレーターまたは(レスピレーターがなければ)マスクを提供すれば、AIIR
のある施設に患者を移送するか、(医学的に適切ならば)自宅環境に戻すまでの間の空気感染の可
能性を減らすであろう。空気予防策下の患者をケアする医療従事者はマスクまたはレスピレータ
ー(疾患固有の勧告(呼吸器防御 II.E.4、表2、付録A)による)を入室前に装着する。できることな
らば、免疫を持っていないHCWはワクチンで予防できる空気感染性疾患(麻疹、水痘、天然痘な
ど)の患者をケアしないのが望ましい。
III.C. 感染経路別予防策の症候性適用およびエンピリック適用
多くの感染症の診断には検査確認が必要である。検査(特に培養技術に依存した検査)は完了する
まで2日以上を要することが多いので、感染経路別予防策は臨床症状または予想病原体に基づい
て、検査結果を待っている間にも実施されなければならない。患者が伝染性感染症の症状や徴候
を呈した時点、またはケアのために医療施設に到着した時点で適切な感染経路別予防策を実施す
れば、伝播の機会を減らすことができる。感染経路別予防策が必要な患者すべてを予想して同定
することはできないけれども、特定の臨床症状や状態には確定検査を待つ間に感染経路別予防策
をエンピリックに実施することを正当化するのに十分な危険性がある(表2)。感染制御専門家は
地域の状況に従って、この表を部分修正もしくは変更することが勧められる。
III.D. 感染経路別予防策の中止
感染経路別予防策は限定的な期間 (感染性微生物の伝播の危険性が継続している間、または罹患
期間(付録A)) は効果がある。殆どの感染性疾患では、この期間は感染の自然経過および治療に
関連した感染性微生物の持続性および排出の既知のパターンを反映している。いくつかの疾患
(咽頭または皮膚ジフテリア、RSVなど)では、培養または抗原検出検査結果が病原体の駆逐を実
証するまで、RSVでは症状が消失するまで感染経路別予防策を継続する。他の疾患(結核など)
では、州の法律や条例および医療施設の方針が予防策の期間を決定している(12)。免疫不全の
患者では、ウイルス排出が長期間(数週間から数ヶ月間)続くことがあり、その期間は他の人に伝
播するかもしれない。それ故、接触予防策や飛沫予防策の期間を数週間延長してもよい(500,
928-933)。
MDROを保菌または発症している患者への接触予防策の期間は未確定のままである。MRSAは
有効な除菌レジメが利用できる唯一のMDROである(867)。しかし、1コースの全身治療または
局所治療のあとで鼻腔培養が陰性となったMRSA保菌者が治療数週間後にはMRSAを再度排出
することがある(934, 935)。VREの早期のガイドラインは毎週間隔で得られた3回の便培養が
陰性を立証してから、接触予防策を中止することを提案していたが(740)、その後の経験による
とそのようなスクリーニングは1年を越えて続く保菌を検出できないことが示された
57
(936-938)。同様に、利用可能なデータによると、VRE、MRSA(939)やMDR-GNBの保菌
は、特に、重症基礎疾患、侵襲的器具、繰り返す抗菌薬治療が実施されれば、数ヶ月継続しうる
ことが示されている。
MDRO保菌者は永久に保菌していると考え、それに従って処置することが慎重かもしれない。
代替として、保菌の排除を確証することを目的として患者を再培養する前に、入院・抗菌治療・
侵襲的器具のない期間(6または12ヶ月など)をおいてもよい。最善の戦略の決定には追加研究の
結果が待望される。MDROを保菌または発症した患者への接触予防策の中止にふさわしい基準
の議論には2006年のHICPAC/CDCのMDROガイドライン(927)を参照する。
III.E.外来および在宅ケア現場における感染経路別予防策の適用
感染経路別予防策は一般的にすべての医療現場に適用されるが、例外もある。例えば、在宅ケア
ではAIIRは利用できない。さらに、水痘や結核のような疾患に既に曝露している家族はマスクや
呼吸器防御を使用しないであろう。しかし、訪問するHCWはそのような防御を用いる必要があ
る。同様に、急性期病院およびLTCFの一部では、伝播が継続しているときは、MDROを保菌
または発症している患者の処置に接触予防策が必要かもしれない。しかし、外来ケアおよび在宅
ケアでの伝播の危険性は確定していない。標準予防策の一貫した使用はこのような現場では十分
であるが、さらなる情報が必要である。
III.F.防護環境
防護環境は同種HSCT患者のために設計されているが、空気中の真菌芽胞数を最小限にするこ
と、および侵襲性の環境真菌感染症の危険性を減らすことを目的としている (詳しくは表5を参
照する)( 11, 13-15)。そのような制御の必要性は建築に関連したアスペルギルス集団感染の研
究にて明らかにされた(11, 14, 15, 157, 158)。米国建築協会(13)によって明確にされている
ように、また、2003年の環境感染制御のためのガイドライン(11,861)にて詳しく提示されて
いるように、HSCT患者のための空気の質は下記を含んだ環境制御の組み合わせによって改善
される:1)流入する空気をHEPA濾過する;2)室内空気流を一方向性にする;3)室内空気圧を廊下
に比較して陽圧にする;4)外部からの空気流を防ぐために病室を十分シールする(壁、床、天井、
窓、コンセントなどをシールする);5)1時間に12回以上の換気をおこなう;6)埃を最小にする努
力をする(詰め物(940)やカーペット(941)よりも洗い落とせる表面が好まれる、裂け目やスプ
リンクラー装置の頭部を日常的に洗浄するなど);7)HSCT患者の病室にドライフラワーおよび
新鮮な花や鉢植えを持ち込まない。後者は血液悪性疾患患者のAspergillus terreusと患者付近
の鉢植え植物のAspergillus terreusの株が同一であることを示した分子学的タイプ研究に基づ
くものである(942-944)。望まれる空気の質は層流の不便さと出費を招くことなく達成できる
かもしれない(15, 157)。建築、改築、埃を作り出すようなその他の活動が医療施設の中もしく
は周囲で行われているときは真菌胞子を吸入するのを防ぐために、重症免疫不全の患者が防護環
境をでるときは超高性能呼吸器防御器具(N95レスピレーターなど)を着用することが勧告され
58
ている(11, 14, 945)。HSCT患者が建築工事のないときに防御環境の外に出る場合、環境真
菌感染を防ぐためにマスクまたはレスピレーターを使用することについては評価されていない。
防護環境は標準予防策や感染経路別予防策に必要なもの以上のバリアプリコーションは含んで
いない。固形臓器移植患者やその他の免疫不全患者を防護環境に入院させる有益性を支持する報
告は発表されていない。
59
第IV部:勧告
これらの勧告は医療ケアが提供されるすべての現場において、患者および医療従事者の間の感染
性微生物の伝播を防ぐために立案されたものである。他の CDC/HICPAC ガイドラインと同様
に、各々の勧告は現存する科学的なデータ、理論的な根本原理、適応性、(可能であれば)経済的
影響、に基づいて分類されている。勧告を分類するための CDC/HICPAC システムは下記の如
くである:
カテゴリー ⅠA:実行することが強く勧告されており、よく計画された実験的、臨床的、疫学的
研究によって強く支持されている。
カテゴリー ⅠB:実行することが強く勧告されており、実験的(一部)、臨床的または疫学的研究
および強力な理論的根拠によって支持されている。
カテゴリー ⅠC: 実施することが、連邦や州の条令や標準によって強制されている。
カテゴリーⅡ:実行することが提案されており、示唆に富んだ臨床的、疫学的研究または理論的
根拠によって支持されている。
勧告なし; 未解決問題: 効果の存在に関して、根拠が不十分または合意がみられない診療である。
I.
管理責任
医療機関の管理者はこのセクションの勧告を確実に実施しなければならない。
I.A.
医療機関の患者安全および職業安全のプログラムの目標に感染性微生物の伝播の予防
を取り入れる(543-546, 561, 620, 626, 946)。カテゴリー IB/IC
I.B.
感染性微生物の伝播の予防を医療機関の優先事項にする。感染制御プログラムを維持
するために、財政的および人的財源を含んだ管理的サポートを提供する(549,559,
561, 566, 662 552, 562-564, 946)。カテゴリー IB/IC
I.B.1.
感染制御プログラムが1人またはもっと多くの資格者によって管理されるように、感
染制御の訓練を受けた人々が、契約によってすべての医療ケア施設で雇用されるか、
活用されるようにする(552, 566 316, 575, 947 573, 576, 946)。カテゴリー
IB/IC
I.B.1.a.感染制御プログラムの限界、医療ケア施設やシステムの複雑性、患者集団の特徴、
施設および社会の独特または切迫した要求、評価の結果に基づくスタッフの水準と専
門機関からの勧告に従って、特定の感染制御のフルタイム等価(FTE: full-time
equivalent)を決定する(434, 549 552, 566 316, 569, 573, 575 948 949)。
カテゴリー IB
60
I.B.2.
ハイリスク病棟では、ベッドサイドの看護スタッフの水準と構成の決定要素の1つと
して、医療ケア関連感染(HAI: healthcare-associated infections)の予防も含める
(585-589 590 592 593 551, 594, 595 418, 596, 597 583) カテゴリー
IB
I.B.3.
患者の入室先や感染経路別予防策の指定に関する感染管理上の決定の権限を感染管理
職員またはその被指名人(患者ケア病棟の責任看護師など)に委任する
(549 434,
857, 946)。カテゴリー IC
I.B.4.
施設の建設やデザインの決定、AIIRおよび防護環境の収容能力や環境評価の決定に感
染制御職員を含める(11, 13,950,951,12)。カテゴリー IB/IC
I.B.4.a. AIIRや防護環境が必要な患者をケアする医療施設では、十分数のAIIR(リスク評価に
よって決定される)や防護環境に必要な換気システムを、公表されている勧告に従って
提供する(11-13, 15)。カテゴリー IB/IC
I.B.5.
HAIの危険性に影響する可能性のある医学器具および補給品および手技変更の「選択
と施行後評価」に感染制御職員を参加させる(952, 953)。カテゴリーIC
I.B.6.
臨床微生物検査室をサポートする人的および財政的財源が利用できるようにする。こ
れには、
「微生物の伝播のモニタリング」
「疫学調査の計画と実施」
「新興病原体の検出」
のために、医療ケア現場に妥当な十分な数の微生物学に熟達した医学技術者が含まれ
る。監視培養、ウイルスや他の特定の病原体の迅速診断検査、抗菌薬感受性の要約レ
ポート、トレンド解析、クラスターの分離菌の分子学的タイピング(現場で実施するか、
標準検査室で実施するか)を実施するための資源を確認し、臨床微生物学者に相談しな
がら、施設特有の疫学的な必要性に従って、これらの資源を使う(553, 609, 610,
612, 617,954 614 603, 615, 616 605 599 554 598, 606, 607)。カテゴ
リー IB
I.B.7.
感染制御に関連した労働衛生に必要な人的および財政上の資源を提供する(医療従事
者のワクチン接種、曝露後の評価とケア、伝染性感染症に罹患している医療従事者の
評価と処置など)(739, 12, 17, 879-881, 955, 134, 690)。 カテゴリー IB/IC
I.B.8.
医療が提供される全ての区域において、標準予防策を一貫して遵守するのに必要な供
給品および器具(手指衛生製品や個人防護具[手袋、ガウン、顔面および眼の防御など]
を含む)を提供する( 739,559,946)。 カテゴリー IB/IC
I.B.9.
再利用の患者ケア器具が他の患者に使用される前に、それらが適切に洗浄されて再生
されることを確認するための方針や手順を作成して実施する(11, 956 957, 958
959 836 87 11,960 961)。 カテゴリー IA/IC
I.C.
医療現場に合った感染制御活動を監督するための手順を作成して実施し、感染制御に
61
ついて精通している医療施設内の個人またはグループに感染制御活動の監督責任者を
任命する(434,549, 566)。 カテゴリー II
I.D.
外来(トリアージ区域、救急部門、外来クリニック、開業医など)では患者が受診した
最初の時点で、病院および長期ケア施設(LTCF: long-term care facility)では入院の
時点で、潜在的感染性患者の早期検出と処置(隔離予防策、PPEを含む適切な感染制御
策など)のためのシステムを作成して実施する(9, 122, 134, 253, 827)。カテゴリ
ー IB
I.E.
伝播する可能性のある感染症の徴候または症状のある人々が患者に面会してしまうの
を制限するための方針や手順を作成して実施する。ハイリスク患者のケア区域(癌病棟、
造血幹細胞移植(HSCT: hematopoietic stem call transplant)病棟、集中治療室、
その他の重症免疫不全の患者など)への面会者には潜在性感染症についての調査をお
こなう(43 24, 41, 962,963)。カテゴリー IB
I.F.
感染性微生物の伝播を防ぐために施設特異的な対策(標準予防策および感染経路別予
防策)の有効性の作業指標を同定し、これらの作業手段の遵守を監視するプロセスを確
立し、スタッフにフィードバックする(704, 739, 705, 708, 666, 964, 667, 668,
555)。 カテゴリー IB
II.
教育と訓練
II.A.
医療施設のオリエンテーションの間に、医療に関連した感染性微生物の伝播を防ぐこ
とについて仕事や課業に特異的な教育と訓練を提供する。そして、教育プログラムを
継続している間は、情報を定期的に更新する。すべての医療従事者を教育と訓練の標
的にする。これには下記が含まれるものの、これらに限定されるものではない(医師、
看護師、臨床技術者、検査スタッフ;施設サービス[ハウスキーピング]、洗濯、メイ
ンテナンスおよび食事療法のスタッフ;学生、契約職員、ボランティア)。妥当ならば、
特定のポジションには最初および繰り返して適性を文書で証明する。外部機関によっ
て雇用された医療従事者がこれらの教育やトレーニングの要求に適合しているかの確
認を、外部機関によって提供されたプログラムを通じて、または常勤職員のために立
案された医療施設のプログラムへの参加によって実施するためのシステムを作成する
(126, 559, 561, 562, 655, 681-684, 686, 688, 689, 702, 893, 919, 965)。
カテゴリー IB
II.A.1. 付加的な感染制御策としてのワクチン接種に関連する情報を教育および訓練プログラ
ムに組み入れる(17, 611,690, 874)。カテゴリー IB
II.A.2. 成人学習の原則を用いて、教育および訓練を強化するが、これには対象となる聴衆の
62
読書レベルと言語に合った材料を用い、そして施設で利用できるオンラインの教育ツ
ールを用いる(658, 694, 695, 697, 698, 700, 966)。 カテゴリー IB
II.B.
推奨されている手指衛生および呼吸器衛生/咳エチケットの実践および感染経路別予
防策の適応について、患者および面会者に教育材料を提供する(9, 709, 710, 963)。
カテゴリー II
III.
サーベイランス
III.A.
疫学的に重要な微生物の発生数および目標HAI(これらは結末にかなり影響し、効果的
な予防的介入が役立つ)を監視する。医療施設での感染性微生物の伝播を検出するため
に、ハイリスク集団、処置、器具、高度伝染性の感染性微生物、のサーベイランスを
通して入手された情報を用いる(566, 671, 672, 675, 687, 919, 967, 968 673
969 970)。カテゴリー IA
III.B.
下記の感染症サーベイランスの疫学的原則を適用する(671, 967,673, 969, 663,
664)。 カテゴリー IB
・標準化された感染症の定義を用いる
・検査に基づくデータを用いる(利用できるとき)
・疫学的に重要な変数 (病院や他の大規模の複数ユニット施設での患者の入室先や臨
床業務、集団に特異的なリスク因子[低体重新生児など]、重篤な不幸な結果になりや
すい基礎疾患など) を収集する。
・伝播率の増加を示唆する傾向の確認のためのデータを解析する。
・
「HAIの発生数と有病率の傾向についての情報」
「推測される危険因子」
「防戦略とそ
の効果」を医療提供者や施設管理者にフィードバックする。また、地域および州の健
康当局の要求に従ってフィードバックする。
III.C.
伝播の危険性を減らし、有効性を評価するための戦略を作成して実行する(566, 673,
684, 970 963 971)。 カテゴリー IB
III.D.
感染予防および制御戦略を実施し遵守したにも拘わらず、疫学的に重要な微生物の伝
播が継続している場合は、その状況および推奨された追加の制御策を再評価するため
に感染制御と医療疫学に精通している人に相談する(566 247 687)。カテゴリー IB
III.E.
施設内の微生物の伝播に影響する可能性のある疫学的に重要な微生物(インフルエン
ザ、RSウイルス、百日咳、侵襲性A群連鎖球菌感染症、MRSA、VREなど)(他の医療
施設も巻き込まれている)の発生数および有病率に関する市中および地域の傾向につ
いての情報を定期的に再評価する(398, 687, 972, 973 974)。 カテゴリー II
63
IV.
標準予防策
すべての人は医療ケア現場で伝播しうる微生物を発症または保菌している可能性があ
ると仮定し、医療ケアを提供している間は下記の感染制御手技を適用する。
IV.A.
手指衛生
IV.A.1. 医療ケアを提供している間は、清潔な手が環境表面によって汚染することと、汚染し
た手から環境表面に病原体が伝播することを防ぐために、患者の近傍の表面に手を不
必要に触れないようにする(72,73,739, 800, 975{CDC, 2001 #970})。 カテゴ
リー IB/IC
IV.A.2. 手が肉眼的に汚れているとき、蛋白性物質で汚染しているとき、血液または血性体液
にて肉眼的に汚れているときには、非抗菌性石鹸と水、または抗菌性石鹸と水のどち
らかにて手洗いする(559)。カテゴリー IA
IV.A.3. 手が肉眼的に汚れていなければ、または、肉眼的にみえる物質を非抗菌性石鹸と水で
取り除いたあとであれば、IV.A.3.a-fに記述されている臨床的な状況において手を除
染する。手の除染に好まれる方法は擦式アルコール手指消毒薬によるものである
(562, 978)。代替として、抗菌性石鹸と水による手洗いでもよい。非抗菌性石鹸に
よる手洗い直後に擦式アルコール手指消毒薬を頻回に用いると、皮膚炎の頻度が増加
する可能性がある(559)。カテゴリー IB
下記の場合には手指衛生をおこなう:
IV.A.3.a. 患者に直接接触する前(664, 979) カテゴリー IB
IV.A.3.b. 血液、血性体液、排泄物、粘膜、創のある皮膚、創部ドレッシングに触れたあと
(664) カテゴリー IA
IV.A.3.c. 患者の正常皮膚に触れたあと(脈を取る、血圧を測る、患者を持ち上げるな
ど)(167, 976, 979, 980) カテゴリー IB
IV.A.3.d. 患者ケアの間に汚染した体部分から清潔な体部分に手が移動するとき
カテゴ
リー II
IV.A.3.e. 患者 の 直 近の無 生 物物 質 (医 療 器具 など ) に 触れ たあ と (72, 73, 88, 800,
981,982) カテゴリー II
IV.A.3.f. 手袋を外したあと(728, 741, 742) カテゴリー IB
IV.A.4. 芽胞(クロストリジウム・ディフィシレや炭疽菌など)に接触した可能性があるならば、
非抗菌性石鹸と水、または抗菌性石鹸と水にて手洗いする。アルコール、クロルヘキ
シジン、ヨードホール、他の殺菌薬は芽胞への活性が乏しいため、そのような環境下
では、手を洗ってすすぎ落とす物理的作用が推奨される(559, 956, 983)。 カテゴ
リー II
64
IV.A.5. 感染についてハイリスクな患者や不幸な結果になるような患者(ICUや手術室の患者
など)に直接接触する業務では人工爪や伸張器をつけない(30, 31, 559,722-724)。
カテゴリー IA
IV.A.5.a. 上記の特定グループ以外の患者に直接接触する医療従事者が人工爪を装着する
ことについての施設の方針を作成する(984)。カテゴリー II
IV.B.
個人防護具(PPE: personal protective equipment) (図を参照)
IV.B.1. 下記の使用原則を遵守する:
IV.B.1.a.予想される患者との相互関係が血液または血性体液への接触が発生する可能性を
示唆しているときには、IV.B.2-4に記述されているようにPPEを装着する(739,
780, 896)。カテゴリー IB/IC
IV.B.1.b.PPEを脱ぐ過程で衣類や皮膚を汚染しないようにする(図を参照)。カテゴリー II
IV.B.1.c.病室または小個室から退室する前には、PPEを脱いで廃棄する(18, 739)。カテゴ
リー IB/IC
IV.B.2. 手袋
IV.B.2.a. 血液、他の感染性物質、粘膜、創のある皮膚、汚染している可能性のある正常皮
膚(便失禁や尿失禁している患者など)への接触が予想されるときには、手袋を装着す
る(18, 728, 739, 741, 780, 985)。カテゴリー IB/IC
IV.B.2.b. 業務に合った密着性や耐久性のある手袋を装着する(559, 731,732, 739,
986, 987)。カテゴリー IB
IV.B.2.b.i. 患者に直接ケアを提供するためには使い捨ての医学検査用手袋を着用する。
IV.B.2.b.ii.環境または医学器具の洗浄には、使い捨ての医学検査用手袋または再使用手袋
を着用する。
IV.B.2.c. 患者や周囲環境(医学器具を含む)に触れたあとは、手の汚染を避けるために、適
切なテクニックを用いて手袋を脱ぐ(表を参照)。複数の患者のケアに同じ手袋を用い
ない。手袋を再利用するために洗ってはならない。これは病原体の伝播に関連するか
らである(559, 728, 741-743, 988)。 カテゴリー IB
IV.B.2.d.汚染した体部分(会陰部分など)から清潔な体部分(顔面など)に手が移動するならば、
患者ケアの途中でも手袋を交換する。カテゴリー II
IV.B.3. ガウン
IV.B.3.a. 血液、血性体液、分泌物、排泄物への接触が予測される場合、処置や患者ケアの
間は皮膚を守るために、また衣類が汚れたり汚染したりするのを避けるために、業務
に適したガウンを着る(739, 780, 896)。 カテゴリー
IB/IC
IV.B.3.a.i. 患者の分泌物や排泄物が包み込まれていなければ、患者に直接接触するときは
65
ガウンを装着する(24, 88, 89, 739, 744)。カテゴリー IB/IC
IV.B.3.a.ii. 患者環境から出る前には、ガウンを脱いで、手指衛生を行う(24, 88, 89, 739,
744)。 カテゴリー IB/IC
IV.B.3.b. 同じ患者に繰り返して接触する場合でもガウンは再使用しない。カテゴリー II
IV.B.3.c. ハイリスク病棟 (ICU, NICU, HSCT病棟など)に入るときの日常的なガウンの装
着は必要ない(365, 747-750)。 カテゴリー IB
IV.B.4. 口、鼻、眼の防御
.. ...
IV.B.4.a. 血液、血性体液、分泌物、排泄物のはねやしぶきを作りだす可能性のある処置や
患者ケアをしている間は、眼、鼻、口の粘膜を守るためにPPEを使用する。実施する
業務から予想される必要性に応じて、マスク、ゴーグル、フェースシールド、それら
の組み合わせを選択する(113, 739, 780, 896)。 カテゴリー IB/IC
IV.B.5. 呼吸器防御が推奨されるような微生物(結核菌、SARS、出血熱ウイルスなど)の感染
が疑われない患者にエアロゾルを産生する処置(気管支鏡、気道の吸引[インライン吸
引カテーテルを使用しない場合]、気管内挿管)をしている間は、下記のうちの1つを装
着する([手袋とガウンの着用に加えて]顔面の前面および側面の全体を覆うフェース
シールド、シールド付きマスク、マスクとゴーグル)。(95, 96, 113, 126 93 94,
134) カテゴリー IB
IV.C.
呼吸器衛生/咳エチケット
IV.C.1. 市中でウイルス性気道感染(インフルエンザ、RSウイルス、アデノウイルス、パライ
ンフルエンザウイルスなど)が季節性に流行している時期は、呼吸器病原体の飛沫感染
および媒介物感染を防ぐために、気道分泌物を封じ込める感染源制御法の重要性につ
いて、医療従事者を教育する(14,24, 684 10, 262)。 カテゴリー IB
IV.C.2. 呼吸器感染の徴候や症状のある患者や同伴者の呼吸器分泌物を封じ込めるために下
記の方法を実施するが、これらは医療現場への最初の受診の時点(トリアージ、救急
部門での受付や待合室、外来クリニックおよび開業医など)で開始する(20, 24, 145,
902, 989)。
IV.C.2.a. 入り口および外来や病院内の効果的な場所(エレベータ、カフェテリアなど)にポ
スターを貼り、呼吸器症状のある患者やその他の人々に、咳やくしゃみのときには口
と鼻を覆い、ティシュを用いて捨て、手が呼吸器分泌物に接触したら手指衛生を実施
するように啓発する。カテゴリー II
IV.C.2.b. ティシュを提供するとともに、ティシュを捨てるための手を触れずに済む容器
(足ペダル式の開け閉めできるプラスチックで被覆された廃棄バスケットなど)も提
供する(20)。 カテゴリー II
66
IV.C.2.c. 外来および病棟の待合い室の中または近くに手指衛生を実施するための器材や案
内を用意する。そして、利用しやすい場所に擦式アルコール手指消毒薬のディスペン
サーを設置し、シンクがあれば、手洗い用品を準備する(559, 903)。 カテゴリー IB
IV.C.2.d. 市中の呼吸器感染症の罹患率が増加している時期は(学校の欠席の増加、呼吸器感
染のためにケアを求める患者の数の増加によって示唆される)、咳をしている患者やそ
の他の症状のある人(病気の患者の付き添いの人など)には、施設や開業医の入り口で
マスクを提供し(126, 899 898)、共通の待合区域では他の人々から空間的距離 (理
想的には少なくとも3フィート(約1m)) をおくことを積極的に勧める(23, 103,
111, 114 20, 134)。 カテゴリー IB
IV.C.2.d.i. 業務の標準として、この推奨を1年中実施することが、兵站的に容易な施設も
あるかもしれない。カテゴリー II
IV.D.
患者の入室先
IV.D.1. 患者の入室先の決定には、感染性微生物の伝播の可能性が考慮される。他の人への伝
播の危険性を有する患者(分泌物、排泄物、創部からの排膿、が封じ込められていない;
ウイルス性呼吸器感染症や消化管感染症が疑われる幼児など)は可能であれば個室に
入れる(24, 430, 435, 796, 797, 806, 990,410, 793)。 カテゴリー IB
IV.D.2. 下記の原則に基づいて、患者の入室先を決定する:
・既知または未知の感染性微生物の伝播経路
・感染患者における伝播の危険因子
・患者を入室させようとしている区域内または病室内の他の患者が、HAIによって不
幸な結果になる危険因子
・個室病室が利用できるかどうか
・病室を共有してもよい患者の選択(同じ感染の患者とのコホーティングなど) カテゴ
リー II
IV.E.
患者ケア器材および器具/機器(956)
IV.E.1. 血液または血性体液に汚染している可能性のある患者ケア器材および器具/機器の収
容、輸送、取り扱いのための方針や手順を確立する(18, 739, 975)。 カテゴリー
IB/IC
IV.E.2. 効果的な消毒や滅菌処置を可能にするために、高レベル消毒および滅菌の前に、推奨
される洗浄剤を用いて、クリティカルおよびセミクリティカルの器具/機器から有機物
質を除去する(836, 991, 992)。 カテゴリー IA
IV.E.3. 肉眼的に汚れているか、血液や血性体液に接触した患者ケア器材および器具/機器を
取り扱うときには、推測される汚染レベルに従って、PPE(手袋、ガウンなど)を装着
67
する(18, 739, 975)。 カテゴリー IB/IC
IV.F.
環境の維持管理(11)
IV.F.1. 患者接触の程度や汚れ具合によって、環境表面の日常的洗浄や標的洗浄の方針や手順
を確立する(11)。 カテゴリー II
IV.F.2. 病原体に汚染している可能性のある表面を洗浄および消毒するが、このような表面に
は患者の至近距離にある表面(ベッドレール、オーバーベッドテーブルなど)や患者ケ
アのなかで頻回に接触する表面(ドアノブ、病室のトイレの中および周囲の環境など)
が含まれており、他の表面(待合室の垂直表面など)より高頻度のスケジュールで洗浄
および消毒する(11,73, 740, 746, 993, 994 72, 800, 835 995)。 カテゴリー
IB
IV.F.3. 患者ケア環境を最も汚染している可能性のある病原体に対して殺菌効果を持った
EPA登録消毒薬を用いる。製造元の取り扱い説明書に従って用いる(842-844, 956,
996)。 カテゴリー IB/IC
IV.F.3.a. 感染性微生物の伝播が継続しているというエビデンスが、使用中の製剤に対する
耐性を示唆しているならば、使用している消毒薬の有効性を再評価し、必要に応じて、
もっと有効な消毒薬に変更する(275, 842,847 )。 カテゴリー II
IV.F.4.小児患者に医療を提供している施設や小児用玩具が置いてある待合室を設備している
施設(産婦人科医院やクリニックなど)では、玩具を定期的に洗浄および消毒する方針
や手順を確立する(379-80) . カテゴリー IB
このような方針や手順を作り上げるときには下記の原則を用いる: カテゴリー II
・容易に洗浄および消毒できる玩具を選択する。
・縫いぐるみの毛皮玩具は共有するならば、使用させない。
・大きな固定玩具(よじ登り設備など)は少なくとも毎週、および肉眼的に汚れた場合
に、洗浄や消毒をおこなう。
・口に入れる可能性のある玩具は、消毒のあとに水でリンスする。代替として、自動
食器洗い機で洗浄してもよい。
・玩具に洗浄や消毒が必要な場合は迅速に実施する。または、使用の準備ができた清
潔な玩具とは別の指定ラベルが貼られた容器に保存する。
IV.F.5. 汚染防止および洗浄と消毒のための方針や手順には複数回使用の電気器具を含める
(特に、患者が用いる器具、患者ケアをする時に用いる器具、病室内外を頻回[毎日な
ど]に移動する器具)(850, 851, 852, 997)。 カテゴリー IB
IV.F.5.a. 取り外しできる保護カバーや洗濯できるキーボードについての勧告はない。未解
決問題
68
IV.G.
織物および洗濯物
IV.G.1. 空気、表面、人、の汚染を避けるために、使用した織物や編み物は、できるだけ振り
動かさないように取り扱う(739, 998, 999)。カテゴリー IB/IC
IV.G.2. 洗濯物シュートを用いるならば、それらが適切にデザインされて維持されていること
を確認し、汚染した洗濯物からのエアロゾルができるだけ拡散しない方法で用いる
(11, 13, 1000, 1001)。 カテゴリー IB/IC
IV.H.
安全な注射手技
下記の勧告が、注射針、注射針の替わりのカニューレ、(適用できるならば)血管内デ
リバリーシステム、の使用に用いられる(454)
IV.H.1. 無菌テクニックを用いて、滅菌注射器具の汚染を防ぐ(1002, 1003)。 カテゴリー
IA
IV.H.2. 注射器の針やカニューレが交換されたとしても、1つの注射器から複数の患者への薬
剤投与はしない。注射針、カニューレ、注射器は滅菌の単回使用であり、他の患者に
再使用してはならないし、次の患者に使用する可能性のある薬剤や溶液のアクセスの
ために再使用してはならない(453, 919, 1004, 1005)。カテゴリー IA
IV.H.3. 注射溶液および投与セット(静脈注射用バッグ、チューブおよびコネクターなど)は1
人の患者のみに用い、使用後は適切に廃棄する。注射器や注射針/カニューレは、患者
の静脈注射用バッグや投与セットへの挿入や連結に用いられたら、汚染していると考
える(453)。カテゴリー IB
IV.H.4. 可能ならば常に、非経口薬剤には単回量バイアルを用いる(453)。カテゴリー IA
IV.H.5. 単回量バイアルやアンプルから複数の患者に薬剤を投与しない。あとで用いるという
ことで、残った内容物を統合しない(369 453,1005)。カテゴリー IA
IV.H.6. 複数回量バイアルを用いるならば、複数回量バイアルにアクセスする針またはカニュ
ーレおよび注射器はすべて滅菌でなければならない(453, 1002)カテゴリー IA
IV.H.7. 患者治療の周辺区域に複数回量バイアルを置かず、製造元の推奨に従って保存する:
滅菌性が確保されないか疑問があれば廃棄する(453, 1003)。 カテゴリー IA
IV.H.8. 注射用溶液のバッグやボトルを複数の患者への共通の供給源として用いてはならな
い(453, 1006)。 カテゴリー IB
IV.I.
特別な腰椎穿刺手技のための感染制御策
脊柱管や硬膜下腔にカテーテルを留置したり薬剤を注射するときには外科用マスクを
装着する(ミエログラム、腰椎穿刺、脊髄麻酔または硬膜外麻酔など)(906,907-909
910, 911 912-914, 918 1007)。 カテゴリー
IV.J.
労働者の安全
69
IB
血液媒介病原体への曝露から医療従事者を守るための連邦および州の要求を遵守する
(739)。 カテゴリー IC
V.
感染経路別予防策
V.A.
一般原則
V.A.1. 伝播予防に追加予防策が必要な高度感染性病原体または疫学的に重要な病原体によ
る発症または保菌が判明しているか疑われている患者には、標準予防策に加えて、感
染経路別予防策を用いる (付録Aを参照) (24, 93, 126, 141, 306, 806, 1008)。
カテゴリー IA
V.A.2. ウイルス感染している免疫抑制患者は他の人々に伝播する可能性のあるウイルス性
微生物の排出が遷延しているので、感染経路別予防策(飛沫、接触など)の期間を延長
する(928, 931-933, 1009-1011)。カテゴリー IA
V.B.
接触予防策
V.B.1. 接触感染する危険性の高い感染症が判明しているか疑われている患者、または接触感
染する危険性が増大していることを示す症状のエビデンスがある患者には、付録Aで
推奨されるように接触予防策を用いる。MDROの保菌者または発症者への接触予防策
の 使 用 に 関 す る 特 別 な 勧 告 に つ い て は 、 MDRO ガ イ ド ラ イ ン
(www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/ar/mdroGuideline2006.pdf)(870) を 参 照
する。
V.B.2. 患者の入室先
V.B.2.a.急性期病院では、接触予防策を必要とする患者は、(利用できるならば)個室に入室
させる(24, 687, 793, 796,797, 806, 837, 893, 1012, 1013)。 カテゴリー
IB
個室が足りなければ、患者の入室先の決定には下記の原則を適用する:
・伝播を促進するような状況(封じ込められていない排膿、便失禁など)の患者に個室
入室を優先する。カテゴリー II
・同じ病原体を発症または保菌していて条件の合う患者と同じ病室に一緒に入室させ
る(コホート)(29, 638, 808, 811-813, 815, 818, 819)。 カテゴリー IB
・同じ感染性病原体を発症または保菌していない患者の病室に接触予防策が必要な患
者を入室させる必要があるならば:
○感染すると不幸な結末になってしまう危険性が高い状態の患者、または伝播に拍車
をかけるような状態の患者と同じ病室に、接触予防策下の患者を入室させないように
する(免疫不全の患者、創部が開いている患者、長期滞在が予想される患者など)。カ
70
テゴリー II
○患者がお互いに物理的に隔離されていることを確認する (>3フィート(約1m)の距
離など)。直接接触の機会を最小限にするためにベッドとベッドの間にあるプライバシ
ーカーテンを引いておく。カテゴリー II
○患者が接触予防策下にあるか否かに拘わらず、同室の患者接触と患者接触の間には
防護着を交換して、手指衛生を実施する(728, 741, 742, 988, 1014, 1015)。カ
テゴリー IB
V.B.2.b.長期ケアおよび他の居住環境では、患者の入室先の決定に関して、個々の事例を個
別に扱うようにする。この場合、病室内の他の患者への感染の危険性、伝播の可能性
を増大させる危険因子の存在、発症または保菌している患者への有害な精神的影響の
可能性のバランスを取るようにする(920, 921)。 カテゴリー II
V.B.2.c.外来では、接触予防策が必要な患者は可能な限り迅速に検査室や小個室に入れる
(20)。 カテゴリー II
V.B.3. 個人防護具の使用
V.B.3.a. 手袋
患者の健常皮膚 (24, 89, 134, 559, 746, 837)または患者の直近の表面や物(医療
器具、ベッドレールなど) (72, 73, 88, 837) に触れるときには常に手袋を装着する。
手袋は病室または小個室に入室するときに装着する。カテゴリー IB
V.B.3.b. ガウン
V.B.3.b.i. 患者または患者直近の汚染している可能性がある環境表面や器具に、衣類が直
接触れることが予想されるときは常に、ガウンを着る。ガウンは病室または小個室に
入室するときに装着する。患者ケア環境を去る前には、ガウンを脱いで、手指衛生を
遵守する(24, 88,134, 745, 837)。 カテゴリー IB
V.B.3.b.ii. ガウンを脱いだあとは、汚染している可能性のある環境表面(微生物を他の
患者や環境表面に伝播させうる)に、衣類や皮膚が接触しないようにする(72, 73)。カ
テゴリー II
V.B.4. 患者の移送
V.B.4.a.急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療では、病室外への患者の移送や移動
は医学的に必要な目的に限定する。カテゴリー II
V.B.4.b. 医療現場において移送や移動が必要な場合は、患者の体の感染部位や保菌部位が
包まれて覆われていることを確認する。カテゴリー II
V.B.4.c. 接触予防策下の患者を移送する前には、汚染したPPEは脱いで廃棄し、手指衛生
を行う。カテゴリー II
71
V.B.4.d. 移送先で患者を取り扱うには清潔なPPEを装着する。カテゴリー II
V.B.5. 患者ケア用の器材および器具/機器
V.B.5.a. 患者ケア用の器材および器具/機器は標準予防策に従って取り扱う(739, 836)。
カテゴリー IB/IC
V.B.5.b. 急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療では、使い捨てのノンクリティカ
ルの患者ケア器具(血圧計のカフなど)を使用するか、それらの器具を患者専用にする。
器具を複数の患者に共通使用することが避けられなければ、他の患者が使用する前に、
それらの器具を洗浄および消毒する(24, 88, 796, 836, 837, 854, 1016)。 カテ
ゴリー IB
V.B.5.c. 在宅ケア
V.B.5.c.i. 接触予防策下の患者の家に持ち込む使い捨てしない患者ケア器具の数を制
限する。可能であれば、在宅ケアサービスが終了するまで患者ケア器具は家の中に置
いておく。カテゴリー II
V.B.5.c.ii.
ノンクリティカルの患者ケア器具(聴診器など)を家に置いておくことがで
きなければ、家から持ち出す前に低水準∼中水準の消毒薬を用いて、器具を洗浄およ
び消毒する。代替として、汚染した再使用器具をプラスチックバッグに入れて、移送
してから洗浄と消毒をおこなう。カテゴリー II
V.B.5.d. 外来では、汚染した再利用できるノンクリティカルの患者ケア器具をプラスチッ
クバッグに入れて、汚染器具の再生区域に移送する。カテゴリー II
V.B.6. 環境制御策
接触予防策の患者の部屋は高頻度接触表面(ベッドレール、オーバーベッドテーブル、
ベッドサイドの整理だんす、患者のバスルームの洗面所表面、ドアノブなど)および
患者の直近にある器具に焦点を合わせて、頻回の洗浄と消毒(少なくとも毎日など)を
優先的に実施することを確認する(11, 24, 88, 746, 837)。 カテゴリー IB
V.B.7. 感染の徴候や症状が改善したら、または付録Aの病原体特異的な勧告に従って、接触
予防策を解除する。カテゴリー IB
V.C.
飛沫予防策
V.C.1. 咳、くしゃみ、会話している患者からの気道飛沫(>5μmの大きな粒子飛沫など)によ
って伝播するような病原体に感染していることが知られているか疑われている患者に
は、付録Aに推奨されているような飛沫予防策を用いる(14, 23, Steinberg, 1969
#1708, 41, 95, 103, 111, 112, 755, 756, 989, 1017)。カテゴリー IB
V.C.2. 患者の入室先
V.C.2.a. 急性期病院では可能ならば、飛沫予防策が必要な患者は個室に入室させる。カテ
72
ゴリー II 個室が足りなければ、患者の入室先を決定するために、下記の原則を採用
する:
・咳や喀痰の多い患者には個室入室を優先する。カテゴリー II
・同じ病原体に感染していて条件の合う患者と同じ病室に一緒に入室させる(コホー
ト)(814, 816)。 カテゴリー IB
・同じ感染症を持っていない患者の病室に飛沫予防策が必要な患者を入室させる必要
があるならば:
○感染によって不幸な結果になる危険性が高い状態の患者、または伝播に拍車をかけ
るような状態の患者と同じ病室に、飛沫予防策下の患者を入室させることを避ける(免
疫不全の患者、長期滞在が予想される患者など)。カテゴリー II
○患者がお互いに物理的に隔離されていることを確認する (>3フィート(約1m)の距
離など)。濃厚接触の機会を最小限にするためにベッドとベッドの間にあるプライバシ
ーカーテンを引いておく(103, 104 410)。カテゴリー IB
○患者が飛沫予防策下にあるか否かに拘わらず、同室の患者接触と患者接触の間には
防護着を交換して、手指衛生を実施する(741-743, 988, 1014, 1015)。 カテゴ
リー IB
V.C.2.b. 長期ケアや他の居住環境では、病室内の他の患者への感染の危険性および利用可
能な代替について考慮したあとに、患者の入室先が決定されるが、この場合、個々の
事例を個別に扱うようにする(410)。 カテゴリー II
V.C.2.c. 外来では、飛沫予防策が必要な患者を可能な限り迅速に検査室や小個室に入れる。
呼吸器衛生/咳エチケットの勧告に従うように患者を教育する(447, 448 9, 828)。
カテゴリー II
V.C.3. 個人防護具の使用
V.C.3.a. 病室または小個室に入室するときにはマスクを装着する(14, 23, 41,103, 111,
113, 115, 827)。 カテゴリー IB
V.C.3.b. 飛沫予防策を必要とする患者への濃厚接触に、マスクに加えて眼防御(ゴーグルや
フェースシールドなど)を日常的に装着する勧告はない。未解決問題
V.C.3.c. SARS、トリインフルエンザ、パンデミックインフルエンザが疑われているか確
定している患者については、最新の勧告について下記のウエブサイトを参照する
( www.cdc.gov/ncidod/sars/ ;www.cdc.gov/flu/avian/ ;www.pandemicflu.
gov/)(134, 1018, 1019)。
V.C.4. 患者の移送
V.C.4.a. 急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療環境では、病室外への患者の移送
73
や移動は医学的に必要な目的に限定する。カテゴリー II
V.C.4.b. 医療現場において移送や移動が必要な場合は、マスクを装着して呼吸器衛生/咳エ
チケットに従うよう患者を教育する
( www.cdc.gov/flu/professionals/infectioncontrol/resphygiene.htm)。カテゴ
リー IB
V.C.4.c. 飛沫予防策の患者を移送する人にはマスクは必要ない。カテゴリー II
V.C.4.d.徴候および症状が改善したら、または付録Aの病原体特異的な勧告に従って、飛沫
予防策を解除する。カテゴリー IB
V.D.
空気予防策
V.D.1. 空気感染経路によってヒトーヒト間を伝播する感染性微生物(結核菌(12)、麻疹(34,
122, 1020)、水痘(123, 773, 1021)、播種性帯状疱疹(1022)など)に感染してい
ることが判明しているか疑われている患者には、付録Aに推奨されているような空気
予防策を用いる。カテゴリー IA/IC
V.D.2. 患者の入室先
V.D.2.a. 急性期病院および長期ケアでは、空気予防策が必要な患者を、現在のガイドライ
ンに従って建築されたAIIRに入室させる(11-13)。カテゴリー IA/IC
V.D.2.a.i. 1時間に少なくとも6回(既存施設)または12回(新築/改築施設)の換気をおこな
う。
V.D.2.a.ii. 空気は外部に直接排気する。AIIRから外部に空気を直接排気できなければ、す
べての空気がHEPAフィルターを通過するならば、空調システムまたは近傍空間に空
気を戻してもよい。
V.D.2.a.iii. AIIRが空気予防策下の患者に用いられるときには、差圧感知器(圧力計など)の
有無に拘わらず、空気圧を肉眼的指標(スモークチューブ、パタパタする細長い切れな
ど)で毎日測定する(11, 12, 1023, 1024)。
V.D.2.a.iv. 入退室しなければAIIRの扉は閉めておく。.
V.D.2.b. AIIRが利用できないときは、AIIRが利用できる施設に患者を移送する(12)。カテ
ゴリー II
V.D.2.c.空気予防策が必要な患者が多数含まれるような集団感染や曝露の場合には:
・AIIRについての工学的な要求を満たしていない代替病室の安全性を決定するために、
患者を入室させる前に感染制御専門家に相談する。
・他の患者、特に感染の危険性が高い患者(免疫不全患者など)から離れた施設区域に、
同じ感染症(臨床症状および診断[判明していれば]に基づく)に罹患していると推定さ
れる患者を一緒に入室(コホート)させる。
74
・施設の改造区域で陰圧環境を作り出すためには、一時的な移動式解説策(排気扇など)
を実施する。空気は外部に直接排気するか(人々や空気取り入れ口から離れたところに
排気する)、もしくは、他の空間に取り込む前に、すべての空気をHEPAフィルタで濾
過する(12)。カテゴリー II
V.D.2.d.外来:
V.D.2.d.i. 外来の入り口にて、空気予防策が必要な感染症が判明しているか疑われている
患者を同定するためのシステム(トリアージ、サインなど)を構築する(9, 12, 34, 127,
134)。 カテゴリー IA
V.D.2.d.ii.可能な限り迅速に、患者をAIIRに入室させる。AIIRが利用できなければ、患者
に外科用マスクを装着させ、検査用の部屋に入室させる。患者が退室したあとは、空
気が完全に入れ替わるために必要な時間(一般的に1時間)、部屋を空室にしておく(11,
12, 122)。カテゴリー IB/IC
V.D.2.d.iii.空気感染が判明しているか疑われている患者には外科用マスクを装着させ、呼
吸器衛生/咳エチケットを遵守するように教育する。AIIRに入れば、マスクを取り外し
ても良い。そして、患者がAIIRの外に出るならば、マスクは装着しておく(12, 107,
145, 899)。 カテゴリー IB/IC
V.D.3. 職員の制限
免疫のある医療従事者が他にいるならば、麻疹、水痘、播種性帯状疱疹、天然痘に罹
患していることが判明しているか疑われている患者の病室に、感受性のある医療従事
者が入ることを制限する(17, 775)。カテゴリー IB
V.D.4. PPEの使用
V.D.4.a. 下記の疾患が疑われているか確定している場合、患者の病室や家に入るときには、
呼吸器防御のために、フィットテストされたNIOSH認可のN95マスクまたはそれ以
上の高レベルのレスピレータを装着する:
・感染性肺結核や喉頭結核、または感染性結核皮膚病変があり、生きている病原体を
エアロゾル化するような措置が実施される場合(洗浄、切開と排膿、渦流浴治療な
ど)(12, 1025, 1026)。 カテゴリー IB
・天然痘(種痘および未種痘)。すべての医療従事者には呼吸器防御が推奨されるが、
これには天然痘ワクチンを接種したあとに「獲得」の確認がなされた人々も含まれる。
ワクチンが防御を提供できないかもしれない遺伝子組み換えウイルスの危険性、また
は極めて大量のウイルス量に曝露する危険性(ハイリスクのエアロゾル産生処置、免疫
不全の患者、出血型または扁平型天然痘)があるためである(108, 129)。 カテゴリ
ー II
75
V.D.4.b.既往歴、ワクチン、血清学的検査に基づいて、麻疹または帯状疱疹に免疫があると
推定される医療従事者が、麻疹、水痘、播種性帯状疱疹が確認されているか疑われて
いる人をケアするときに、PPEを使用することに関する推奨はない。正確な免疫を確
認することは困難だからである( 1027, 1028)。 未解決問題
V.D.4.c. 麻疹、水痘、播種性帯状疱疹が確定されているか疑われている患者に接触しなけ
ればならない感受性のある医療従事者が装着すべき個人防護具のタイプ(外科用マス
ク、N95またはそれ以上のレスピレータによる呼吸器防御)に関する勧告はない。未
解決問題
V.D.5. 患者の移送
V.D.5.a. 急性期ケア病院、長期ケア、その他の在宅医療環境では、病室外への患者の移送
や移動は医学的に必要な目的に限定する。カテゴリー II
V.D.5.b. AIIRの外での移送や移動が必要ならば、できれば外科用マスクを装着して呼吸器
衛生/咳エチケットを遵守するように患者を教育する(12)カテゴリー II
V.D.5.c. 水痘や天然痘による皮膚病変、または排膿している結核皮膚病変のある患者につ
いては、皮膚病変の感染性微生物のエアロゾル化または接触を防ぐために、感染部位
を覆う(108, 1025, 1026, 1029-1031)。カテゴリー IB
V.D.5.d. 空気予防策下の患者を搬送している医療従事者は、患者がマスクしていて、感染
性皮膚病変が覆われていれば、搬送のときにはマスクやレスピレータを装着する必要
はない。カテゴリー II
V.D.6. 曝露処置
麻疹、水痘、天然痘の患者に無防備接触(曝露)したら、可能な限り迅速に感受性のあ
る人々にワクチン接種するか適切な免疫グロブリンを提供する:カテゴリー IA
・麻疹ワクチンを曝露後72時間以内に、曝露した感受性のある人々に接種する。ワク
チンが禁忌のハイリスクの人々には曝露から6日以内に免疫グロブリンを投与する
(17, 1032-1035)。
・曝露から120時間以内の感受性のある人々に水痘ワクチンを投与する。ワクチンが
禁忌のハイリスクの人々(免疫不全の患者、妊婦、母親の水痘発症が出産前の5日未満
または出産後48時間以内の新生児)には96時間以内に水痘免疫グロブリン(VZIGま
たは代替の製剤)を投与する(888, 1035-1037)。
・天然痘ワクチンを曝露後4日以内に曝露した感受性のある人々に接種する(108,
1038-1040)。
V.D.7. 付録Aの病原体特異的な勧告に従って、空気予防策を解除する。カテゴリー IB
V.D.8. 医療現場での結核の伝播を予防するための環境戦略に関する追加のガイダンスについ
76
ては、CDCの「医療現場における結核菌伝播の予防のためのガイドライン,2005年
(12)」
「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン(11)」を参考にする。これら
のガイドラインに記載されている環境の勧告は空気予防策を必要とする他の感染症の
患者にも適用してよい。
VI.
防護環境 (表4)
VI.A.
同種造血幹細胞移植(HSCT: hematopoietic stem cell transplant)の患者は環境真
菌(アスペルギルス属など)の曝露を減らすために、
「HSCT患者における日和見感染予
防のためのガイドライン(15)」
「医療施設の環境感染制御のためのガイドライン(15)」
「医療ケア関連肺炎の予防のためのガイドライン,2003年(14)」に記載されているよ
うな防護環境に入室させる(157, 158)。カテゴリー IB
VI.B.
環境真菌感染症(アスペルギルス症など)の危険性が高い他の医学状態の患者を防護環
境に入室させることについての勧告はない(11)。未解決問題
VI.C.
防護環境が必要な患者には下記を実施する(表5を参照)(11,15)。
VI.C.1. 環境制御
VI.C.1.a. 直 径 0.3 μ m 以 上 の 粒 子 の 99.97% を 除 去 で き る HEPA(high efficiency
particulate)フィルタのセントラル使用またはポイント使用によって流入空気を濾過
する(13)。カテゴリー IB
VI.C.1.b.病室の一側から空気が供給され、患者ベッドを越えて空気が移動し、病室の反対
側の排気口から流出する一方向性空気流を用いる(13)。 カテゴリー IB
VI.C.1.c. 室内空気圧を廊下よりも陽圧(12.5 Pa [水位系にて0.01]以上の差圧)にする
(13)。カテゴリー IB
VI.C.1.c.i. 空気圧を肉眼的指標(スモークチューブ、パタパタする細長い切れなど)で毎日
測定する( 11, 1024)。 カテゴリー IA
VI.C.1.d. 外部空気の侵入を防ぐために病室を十分にシールする(13)。カテゴリー IB
VI.C.1.e. 1時間に少なくとも12回換気する(13)。カテゴリー IB
VI.C.2. 粗い素材のもの(詰め物など)よりも、表面が平滑で小穴のないものやゴシゴシ洗い落
せる表面のものを用いて、埃レベルを低くする。埃をみつける度に水平表面を湿式集
塵し、埃が蓄積しているかもしれない割れ目やスプリンクラーの頭部分を日常的に洗
浄する(940, 941)。カテゴリー II
VI.C.3. 区域では廊下や病室のカーペットを避ける(941)。カテゴリー IB
VI.C.4. ドライフラワー、新鮮な花、鉢植え植物を禁止する(942-944)。 カテゴリー II
VI.D.
防護環境を必要とする患者が、診断的措置や他の活動のために病室外にいる時間を最
77
小にする(11, 158, 945)。 カテゴリー IB
VI.E.
工事期間中は、感染性芽胞を含んでいるかもしれない粒子の吸い込みを防ぐために、
レスピレータに耐えることが医学的に問題ない患者が防護環境を出る必要があるとき
には、呼吸防御(N95レスピレータなど)を提供する(945,158)。カテゴリー II
VI.E.1.a.レスピレータを用いる患者のフィットテストについての勧告はない。未解決問題
VI.E.1.b.工事がない場合、防護環境を出るときの微粒子物レスピレータの使用についての勧
告はない。未解決問題
VI.F.
防護環境では標準予防策および感染経路別予防策を用いる
VI.F.1. すべての患者との相互関係において、推奨されている標準予防策を使用する。カテゴ
リー IA
VI.F.2. 付録Aにリストされている疾患に推奨される飛沫予防策および接触予防策を実施す
る。患者は免疫不全状態でウイルス排出が遷延することがあるので、ウイルス感染に
対 す る 感 染 経 路 別 予 防 策 に は 延 長 が 必 要 な こ と が あ る (930,1010,928,
932,1011)。カテゴリー IB
VI.F.3. 患者に感染症が疑われたり確定したりしていなければ、または標準予防策によって必
要とされなければ、医療従事者にバリア予防策(マスク、ガウン、手袋など)は必要な
い(15)。カテゴリー II
VI.F.4. 防護環境が必要で、空気感染性疾患(肺結核または喉頭結核、急性水痘‐帯状疱疹など)
にも罹患している患者には空気予防策を実施する。カテゴリー IA
VI.F.4.a. 防護環境が陽圧を維持するようにデザインされていることを確認する(13)。カテ
ゴリー IB
VI.F.4.b. 廊下と防護環境に比較して適切な空気バランスをさらに維持する前室を用いる。
汚染した空気を外部に独立排気するか、戻ってきた空気を再循環させなければならな
いならば排気ダクトにHEPAフィルタを設置する(13, 1041)カテゴリー IB
VI.F.4.c. 前室が使用できないならば、患者をAIIRに入室させる。そして、胞子の濾過を強
化するために移動式の工業用基準のHEPAフィルタを室内で使用する(1042)。 カテ
ゴリー II
78
付録 A:
前文
付録Aに含まれている特定の疾患のそれぞれの病原体の伝播の様式と危険性が再検討された。付録Aの疾患特異的な勧告を制作するために参考にした原理の
情報源には、感染症マニュアルや教科書が含まれる(833, 1043, 1044)。既に報告されている集団感染に焦点を合わせて、医療および医療外の状況でのヒ
ト-ヒト伝播のエビデンスを求めて、既に公開されている文献が検索されたが、これは医療が提供されるすべての環境における勧告の制作を援助するであろ
う。感染経路別予防策カテゴリーの指定に用いられた基準を下記に示す:
・ 医療または医療外の状況で飛沫、接触、空気感染を介するヒトーヒト間の伝播の強力なエビデンスがある場合や患者要因(オムツの幼児、下痢、排膿創など)
が伝播の危険性を増大させている場合に、感染経路別予防策カテゴリーが指定された。
・ 感染経路別予防策カテゴリーの指定は優勢な伝播様式を反映したものとなっている。
・ 飛沫、接触、空気感染によるヒトーヒト間伝播のエビデンスがなければ、標準予防策が指定された。
・ ヒトーヒト間伝播の危険性が低く、医療関連感染のエビデンスがなければ、標準予防策が指定された。
・ 1988年に公開された普遍的予防策のCDC勧告のように、血液媒介病原体(B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、HIVなど)には標準予防策が指定された
(780)。引き続く経験は感染した血液や体液への曝露を予防するために、標準予防策が効果的であったことを確認した(778, 779, 866)。
ケア提供者の判断を援助するために、予防策の使用について妥当な追加情報がコメント欄に追加された。付録Aに追加された特定の疾患や新しい感染性微生
物(SARS-CoVやトリインフルエンザなど)についての勧告の変更をサポートしたり、追加のエビデンスを提供するために、必要に応じて引用が追加された。
読者は伝播の様式や新しい微生物に関するさらに詳細な議論を背景原文やMDRO制御から参照できる。
1
付録A
特定の感染症と状態に推奨される予防策の種類と期間
感染症/状態
予防策
種類
*
期間
†
コメント
あ
アクチノミセス症
S
アスペルギルス症
S
ヒト-ヒト伝播はない
大きな軟部組織感染があり、大量の排膿や洗浄の繰り返しが必要な
らば、接触予防策と空気予防策をおこなう
圧迫潰瘍(褥瘡性潰瘍、圧迫痛)、感染性
大きい病変
C
小さい病変または限局病変
S
DI
排膿がドレッシングされていないか封じ込められていないならば、
排膿が止まりドレッシングにて封じ込められるまで接触予防策を実
施する
ドレッシングカバーがされていて、排膿が封じ込められいる場合
アデノウイルス感染症(⇒胃腸炎、結膜炎、肺炎下の病原体特異的
ガイダンスを参照)
アデノウイルス
アメーバ症
RSウイルス感染, 幼児、年少小児、免疫不全成人
D,C
DI
小児および施設環境での集団感染が報告されている(376,10841086)。免疫不全の宿主では、ウイルス排出が遷延しているの
で、飛沫および接触予防策の期間を延長する(931)
S
ヒト-ヒト伝播は稀である。精神障害者のための環境や家族での伝
播が報告されている(1045)。おむつの幼児や精神障害の人々の取
り扱い時には注意する(1046)
C
標準予防策に従ってマスクを装着する(24,116,117)。免疫不全患
者では、排出が遷延するので接触予防策の期間を延長する(928)。
長期入院の患者の接触予防策をいつ解除するかを決定するための抗
原検査の信頼度は不確かである
DI
い
胃腸炎
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
下記の微生物によって引き起こされる胃腸炎の施設での集団感染の
制御にも接触予防策を実施する
アデノウイルス
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
ウイルス性 (他の箇所でカバーされていなければ)
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
エルシニア・エンテロコリティカ
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
キャンピロバクター属 S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
クリプトスポリジウム属
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
クロストリジウム・ディフィシレ
C
コレラ(Vibrio cholerae )
S
サルモネラ属 (チフス菌を含む)
S
シゲラ属(細菌性赤痢) S
ジアルジア・ランブリア
S
DI
適切ならば、抗菌薬を中止する。電子体温計を共有しない
(853,854)。一貫した環境の洗浄と消毒を確実に実施する。伝播
が継続するならば、次亜塩素酸塩溶液が掃除に必要となるかもしれ
ない(847)。水を用いない擦式手指消毒でのアルコールには殺芽胞
活性がないので、石鹸と水による手洗いが好まれる(983)
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
大腸菌
腸管出血性 O157:H7および志賀毒素産生株
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
その他の菌種
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
S
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する
腸炎ビブリオ
ノロウイルス
S
ロタウイルス
C
DI
オムツまたは便失禁の人々では罹患期間は接触予防策を実施する。
施設での集団感染の制御にも接触予防策を実施する。糞便や吐物に
激しく汚染した区域を掃除する人々は、ウイルスがこれらの体物質
からエアロゾル化する可能性があるので、マスクを装着するのが有
益である(142,147,148)。例え、明らかな汚れがなくても、トイ
レに焦点を当てて一貫した環境洗浄や消毒を確実におこなう
(273,1064)。伝播が継続していれば次亜塩素酸塩溶液が必要とな
るかもしれない(290-292)。アルコールの活性は低いが、擦式ア
ルコール手指消毒薬が手指の除染に効果がないというエビデンスは
ない(294)。感染した患者を別の空間やトイレの施設にコホートす
ることは集団感染の期間は伝播を止めるのに役立つかもしれない
環境の洗浄と消毒、および汚れたオムツを頻繁に取り除くことを確
実に実施する。小児(免疫が正常および免疫不全のどちらも)および
高齢者ではウイルス排出が遷延しているかもしれない
(932,933)。
インフルエンザ
ヒトインフルエンザ(季節性インフルエンザ)
D
現 在 の ト リ イ ン フ ル エ ン ザ の 手 引 き は
www.cdc.gov/flu/avian/professional/infect-control.htm を
参考にする
トリインフルエンザ(H5N1, H7, H9株など)
パンデミックインフルエンザ(ヒトインフルエンザウイルスも)
D
インフルエンザ菌(⇒疾患特異的な勧告を参照)
う
ウイルス性呼吸器疾患(他の箇所でカバーされない場合)
成人
幼児または年少小児(⇒「呼吸器感染症,急性」を参照)
患者を個室入室(可能ならば)またはコホートし、ハイリスク患者と
の同室は避け、病室外に移動するときには患者はマスクを装着し
5日間(免疫
て、集団感染を制御/防御するために化学予防/ワクチン接種をおこ
不全者での罹
なう(611)。標準予防策に従ってガウンと手袋を使用することは、
患期間を除
小児科現場では特に重要である。免疫不全患者での予防策の期間は
く)
確定しておらず、長期のウイルス排出(数週間)が観察されている
が、伝播への関連は不明である(930)
S
症状発現から 現 在 の パ ン デ ミ ッ ク イ ン フ ル エ ン ザ の 手 引 き は
5日間
http://www.pandemicflu.govを参考にする
ウイルス性出血熱(ラッサ、エボラ、マールブルグ、クリミアーコ
ンゴ熱ウイルスによる)
S,D,C
DI
個室病室が好まれる。下記を強調する:①鋭利物の安全器具の使用
と安全な業務行為、②手指衛生、③病室への入室時での血液および
血性体液に対するバリア予防策(手袋および耐水性または不浸透性
のガウン、マスク、ゴーグル、フェースシールドによる顔面/眼防
御)、④廃棄物の適切な取り扱い。エアロゾル産生処置をするとき
は、N95もしくはそれ以上のレスピレータを用いる。出血がみら
れたとき、疾患の末期ではウイルス量が最大となる。特に、掃除や
洗濯のオプションが限られていて財源が限定されている状況では
PPEの追加(二重手袋、脚と脚のカバー)が用いられるかもしれな
い。エボラが疑われたら迅速に保健所に届ける
(212,314,740,772)。バイオテロ微生物としてのエボラについ
ては表3も参照する
え
HIV感染
エキノコックス症
エコーウイルス (⇒「腸管ウイルス感染」を参照)
S
S
壊死性腸炎 S
壊 疸 (ガス壊疸)
エプスタイン・バーウイルス感染(伝染性単核症を含む)
エボラウイルス出血熱(⇒「ウイルス性出血熱」を参照)
エルシニア胃腸炎(⇒「胃腸炎」を参照)
S
S
血液曝露の一部では曝露後の化学療法をおこなう(866)
ヒトからヒトへの伝播はみられない
症例が集団でみられれば一時的に接触予防策をおこなう(10801083)
ヒトからヒトへの伝播はみられない
お
オウム病(鳥類病)(オウム病クラミジア)
S
ヒトからヒトへの伝播はみられない
か
回帰熱
疥癬
回虫症
川崎病
肝炎、ウイルス性
A型
S
C
S
S
S
ヒトからヒトへの伝播はみられない
U24時間
ヒトからヒトへの伝播はみられない
感染状態ではない
勧告されているように、曝露後のA型肝炎ワクチンを提供する
おむつあるいは便失禁状態
C
B型(HBs抗原陽性);急性および慢性
C型と他の特定されていない非A非B型
D型(B型肝炎ウイルスの合併感染のみにみられる)
S
S
S
E型
S
幼児および3歳未満の小児では、入院中は接触予防策を継続する。
3・14歳の小児では症状発現後2週間、14歳を越えると症状発現後
1週間、接触予防策を実施する(833,1066,1067)
透析センターの患者のケアには特別な勧告がある(778)
透析センターの患者のケアには特別な勧告がある(778)
オムツまたは便失禁の人々には罹患期間は接触予防策をおこなう
(1068)
G型
S
カンジダ症(皮膚粘膜型を含むすべての型)
S
感染性海綿状脳症(⇒「クロイツフェルト-ヤコブ病,CJD, vCJD」を参照)
き
Q熱
キャンピロバクター胃腸炎 (⇒「胃腸炎」を参照)
S
狂犬病
S
蟯虫症
ギランバレー症候群
S
S
ヒトからヒトへの感染は稀である。角膜、組織、臓器移植を介して
の伝播が報告されている(539,1088)。患者が他の人を咬んだなら
ば、または唾液が開放創や粘膜を汚染したならば、曝露部分を徹底
的に洗浄して、曝露後予防を実施する(1089)
感染状態ではない
く
クラミジア・トラコマティス
結膜
性器(性病性リンパ肉芽腫)
呼吸器(生後3ヶ月未満の乳児)
S
S
S
クラミジア肺炎
S
収容されている人々における集団感染が稀に報告されている
(1051,1052)
クリプトコッカス症
S
組織や角膜移植にて稀に感染する以外は、ヒトからヒトへの伝播は
みられない(1062,1063)
クリプトスポリジオーシス(⇒「胃腸炎」を参照)
クリミア-コンゴ熱(⇒「ウイルス性出血熱」を参照)
クループ(⇒乳幼児では「呼吸器感染症」を参照)
S
クロイツフェルトヤコブ病 CJD, vCJD
S
CJDやvCJDが疑われているか除外されていなければ、使い捨ての
器具を用いるか、神経組織で汚染された表面や物には特別な滅菌/
消毒を行う。特別な埋葬法はない(1061)
S
ヒトからヒトへの伝播は稀であり、外科現場での集団感染が1件報
告されている(1053)。創部排膿が大量ならば接触予防策を用いる
S
ヒトからヒトへの伝播はみられない
クロストリジウム属
ウェルシュ菌
ガス壊疸
食中毒
クロストリジウム・ディフィシレ
(⇒「胃腸炎、クロストリジウム・ディフィシレ」を参照)
ボツリヌス菌
C
S
DI
ヒトからヒトへの伝播はみられない
け
結核
肺または喉頭疾患、確定
A
肺または喉頭疾患、疑い
A
肺外, 排膿病変はない、髄膜炎
S
肺外, 排膿病変
現在肺病変はないが皮膚テスト陽性
結膜炎
クラミジア
A,C
S
S
効果的な治療がおこなわれている患者が臨床的に改善し、異なる日
に採取された抗酸菌の喀痰検査が3回連続で陰性になった場合に
限 っ て 、 予 防 策 を 中 止 で き る (MMWR 2005; 54: RR-17
http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5417a1.
htm?_cid=rr5417a1_e)(12)
感染性結核症の可能性が無視できるほどであり、かつ1)臨床症候群
を説明する他の疾患がある、2) 抗酸菌の3回の喀痰塗沫の結果が
陰性である、のどちらかの場合に限って、予防策を中止できる。3
回の喀痰検査のおのおのは8∼24時間空けて採取され、少なくと
も1回は早朝の採取でなければならない
肺結核のエビデンスの検査をおこなう。幼児および小児では面会家
族での活動性肺結核が除外されるまで空気予防策をおこなう(42)
患者が臨床的に改善し、排膿がなくなるか、継続する排膿が3回の
連続培養で陰性になった場合に限って、予防策を中止できる
(1025,1026)。活動性肺結核のエビデンスの検査をおこなう
急性ウイルス性(急性出血性)
急性細菌性
淋菌性
下痢,急性感染性病因が疑われる (⇒「胃腸炎」を参照)
DI
アデノウイルスが最も多い。エンテロウイルス70(1056)、コク
サッキーウイルスA24(1054)もまた市中の集団感染に関連してい
る。感染力が強く、眼科クリニック、小児科および新生児の施設環
境での集団感染が報告されている。眼科クリニックでは結膜炎の患
者を取り扱う場合には標準予防策に従う。器具や機器の取り扱いに
おいて感染制御策を日常的に用いれば、このような状況などでの集
団 感 染 の 発 生 を 防 ぐ で あ ろ う
(460,814,1058,1059,461,1060)
S
C
DI
表2にリストされた症候群や状態も参照する
S
D
U24時間
C
S
S
こ
呼吸器感染症, 急性(もし、他の箇所でカバーされていない場合)
成人
幼児および年少小児 抗菌薬関連大腸炎
(⇒「クロストリジウム・ディフィシレ」を参照)
鉤虫症
喉頭蓋炎, インフルエンザ菌による
コクシジオイデス症(渓谷熱)
他の病因による喉頭蓋炎のそれぞれの微生物を参考にする
Coccidioides immitis の感染性の分節分生子はヒトの中で作り出さ
肺炎
れないので、特別な環境(感染肺の剖検や移植のときのエアロゾル
化した組織相の内生胞子の吸い込みなど)を除いてヒトからヒトに
伝播することはない(1054,1055)
S
排膿病変
S
コックサッキーウイルス (⇒「腸管ウイルス感染」を参照)
コレラ(⇒「胃腸炎」を参照)
コロラドダニ熱
S
SARSに関連したコロナウイルス(SARS-CoV)(⇒「重症呼吸器症候群」を参照)
ヒト-ヒト伝播はみられない
さ
細気管支炎 (⇒乳幼児では「呼吸器感染症」参照)
C
DI
標準予防策に従ってマスクを使用する
細菌性赤痢(⇒「胃腸炎」を参照)
サイトメガロウイルス感(新生児または免疫不全者を含む)
サル痘
サルモネラ症(⇒「胃腸炎」を参照)
塹壕性口腔炎 (ワンサン・アンギーナ)
S
妊娠しているHCWへの追加予防策はない
A(サル痘が確
定されて、天
然痘が除外さ 最も最新の勧告にはwww.cdc.gov/ncidod/monkeypoxを参照す
A,C
れるまで) る。病院環境での伝播はなさそうである(269)。曝露したHCWに
C(病変が痂 は曝露後の天然痘ワクチンが推奨される
皮化するま
で)
S
し
ジアルジア鞭毛虫症(⇒「胃腸炎」を参照)
子宮内膜炎
ジフテリア
喉頭
皮膚
重症急性呼吸器症候群(SARS)
S
D
C
CN
CN
罹患期間に加
えて、吸器症
状がみられな
いか改善して
A,D,C
いれば発熱が
改善してから
10 日 を プ ラ
スする
空気予防策が好まれる。AIIRが利用できなければ、飛沫予防策をお
こなう。N95またはそれ以上の呼吸器防御(N95が利用できなけれ
ば外科用マスク)を用いる。眼防御(ゴーグル、フェースシールド)を
おこなう。エアロゾル産生処置および「超排出者」は飛沫核および
大きな飛沫を介する伝播について最もハイリスクである
(93,94,96)。注意深い環境消毒をおこなう
(www.cdc.gov/ncidod/sars)
ワクチンが接種されたHCWのみが活動性接種部位に接触したり種
痘疹副反応の人をケアをしてもよい。未接種であれば、ワクチンが
禁忌でないHCWのみがケアを提供してもよい
種痘疹(接種部位、ワクチン接種に引き続く副反応)*
接種部位のケア(自家接種部位を含む)
24時間空けて採取された2回の培養が陰性になるまで
24時間空けて採取された2回の培養が陰性になるまで
S
ワクチン接種担当者には接種が推奨される。新しく接種された
HCWには、痂皮が剥がれ落ちるまでガーゼの上に半透過性のド
レッシングをおこない、体液が溜まればドレッシングを交換し(3∼
5日)、ドレッシングの交換には手袋装着と手指衛生を行う。接種し
たHCWまたはワクチンが禁忌ではないHCWがドレッシング交換を
おこなう(205,221,225)
種痘性湿疹
C
致死的種痘疹
C
全身性種痘疹
C
進行性種痘疹
C
接種後脳炎
S
眼瞼炎または結膜炎
S/C
虹彩炎または角膜炎
S
種痘疹関連多形性紅斑(スティーヴンズ‐ジョンソン症候群)
住血吸虫病 (ビルハルツ吸虫病)
条虫病
有鉤条虫(豚肉)
小型条虫
その他
褥創性潰瘍(⇒「圧迫潰瘍」を参照)
小児バラ疹(HHV-6によってひきおこされる)
食中毒
ウェルシュ菌
ブドウ球菌性
ボツリヌス中毒
虱症
頭部
病変が乾燥す ウイルスを含んでいる病変や滲出性物質に接触するときには接触予
るまで
防策を実施する
大量排膿があれば接触予防策をおこなう
S
S
感染状態ではない
S
S
S
ヒト-ヒト伝播はみられない
S
S
S
S
C
ヒト-ヒト伝播はみられない
ヒト-ヒト伝播はみられない
ヒト-ヒト伝播はみられない
U24時間
体部
S
外寄生した衣類を介して、ヒトからヒトに伝播する。衣類を脱がせ
るときには、ガウンと手袋を装着する。CDCの手引きに従って、
衣類をバッグにいれて洗う
陰部
S
性的接触にてヒトからヒトに伝播する
す
水痘
A,C
免疫のあるケア提供者がいれば、感受性のあるHCWは病室に入る
べきではない。免疫のあるHCWの顔面防御についての勧告はな
い。感受性のあるHCWへの防御の種類(外科用マスクまたはレスピ
レータ)についての勧告はない。水痘肺炎のある免疫不全の宿主で
は罹患期間中の予防策の期間は延長する。曝露後予防:曝露後ワク
病変が乾燥し
チンは迅速または120時間以内に接種する。ワクチンが禁忌の感
て痂皮化する
受性のある曝露者(免疫抑制者、妊婦、出産前5日以内または出産後
まで
48時間以内に母親が水痘を発症した新生児)にはVZIGを96時間以
内に提供する。VZIGが入手できなければ、IVIGを使用する。曝露
した感受性のある人には空気予防策をおこない、曝露した感受性の
あるHCWは最初の曝露後8日から最後の曝露後21日(VZIGが接種
されたら28日)は曝露後ワクチンの有無に拘わらず、休務させる
髄膜炎
インフルエンザ菌タイプB, 確定または疑い
D
結核菌
S
細菌性, グラム陰性, 新生児
S
真菌性
S
髄膜炎菌,確定または疑い
D
U24時間
活動性肺疾患または排膿皮膚病変が合併していれば、接触予防策や
空気予防策を追加する必要がある。小児では、面会家族で活動性結
核が除外されるまで空気予防策をおこなう(⇒「結核」を参照)
(42)
U24時間
⇒「髄膜炎菌疾患」を参照
肺炎球菌
無菌性(非細菌性またはウイルス性)(⇒「腸管ウイルス感
染」も参照)
S
リステリア菌(⇒「リステリア症」を参照)
S
他の同定された細菌
S
髄膜炎菌疾患:敗血症、肺炎、髄膜炎
D
スポロトリクス症
S
幼児および年少小児では接触予防策
U24時間
呼吸器分泌物に曝露した家族接触者やHCWには曝露後化学予防を
実施する。曝露後ワクチンは集団感染の制御のみに限定する
(15,17)
せ
性病性リンパ肉芽腫
S
せつ、黄色ブドウ球菌性
S
幼児および年少小児
C
排膿が制御されないならば、接触予防策を実施する。MRSAなら
ば施設の指針に従う
DI
節足動物媒介ウイルス性脳炎(東,西,ベネズエラ馬脳脊髄炎,セント
ルイス・カルフォルニア脳炎、ウエストナイルウイルス)およびウ
イルス熱(デング熱, 黄熱,コロラドダニ熱)
S
ヒトからヒトへの伝播はみられないが、例外としては輸血によって
稀に感染することがある(ウエストナイルウイルスでは、臓器移
植、母乳、経胎盤にて稀に感染することがある)(530,1047)。流
行地域では窓や扉にスクリーンを設置する
接合真菌症
S
ヒトからヒトには伝播しない
先天性風疹
C
旋毛虫症
S
1歳になるま 生後3ヶ月以降に鼻咽頭および尿の培養が繰り返し陰性になれば標
で
準予防策を実施する
そ
創部感染
大きい
局所、限定
鼡径部肉芽腫(ドノヴァン症、性病性肉芽腫)
鼡咬熱
C
DI
S
S
S
ドレッシングされていないか、ドレッシングが排膿を適切に包んで
いない
ドレッシングが排膿を適切に覆って包み込んでいる
ヒト-ヒト伝播はみられない
た
帯状疱疹
すべての患者において、播種性病変がみられる場合
免疫不全患者において、限局性病変がみられる場合(播種性病
変が除外されるまで)
A,C
DI
免疫のあるケア提供者がいれば、感受性のあるHCWは病室に入る
べきではない。免疫のあるHCWの防御についての勧告はない。感
受性のあるHCWへの防御の種類(外科用マスクまたはレスピレー
タ)についての勧告はない
免疫システムが正常な患者において、限局性病変(病変が覆わ
れている)がある場合
S
DU
免疫のあるケア提供者が他にいれば、感受性のあるHCWは患者の
直接ケアをおこなうべきではない
大腸菌胃腸炎(⇒「胃腸炎」を参照)
多剤耐性菌(MDRO)、発症または保菌
(MRSA、VRE、VISA/VRSA、ESBL、耐性肺炎球菌など)
MDROは地区、州、地域、全米の勧告に基づいた感染制御プログ
ラムにて判断され、臨床的および疫学的に重要である。伝播が進行
しているエビデンスのある環境、伝播の危険性が高い急性期現場、
ドレッシングで覆うことができない創には接触予防策が推奨され
る。2006年の医療ケア環境における多剤耐性菌の管理ガイドライ
ンの管理オプションのための勧告を参照する(870)。新しいまたは
新興MDROに関する手引きについては州の保健所に連絡する
S/C
単純ヘルペス
新生児
C
脳炎
皮膚粘膜, 再発性(皮膚,口,性器)
S
S
皮膚粘膜, 播種または原発性,重症
C
炭疸病
肺
皮膚
経膣または帝王切開で出産した新生児に曝露があれば、無症状でも
病変が乾いて 接触予防策を実施する。母親に活動性感染症であり、粘膜に4・6時
痂皮化するま 間以上の亀裂があれば、生後24・36時間で施行した乳児の表面培
で
養が48時間培養したあとで陰性と判明するまで接触予防策を実施
する(1096,1070)
病変が乾いて
痂皮化するま
で
S
S
一般的に、感染者は伝播のリスクを有していない
ヒト-ヒト伝播はみられない
S
排膿のある病変に創のある皮膚が接触して伝播する可能性はある。
それ故、大量の封じ込められていない排膿があるならば、接触予防
策を用いる。アルコールは芽胞への活性を有していないので、水の
ないアルコールベースの消毒薬の使用よりも石鹸と水による手洗い
の方が好まれる
環境の除染が完了するまで(203)、レスピレータ(N95マスクまた
はPAPR)、防御着を装着する;粉末がついている人々を除染する
(http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mwrhtml/mm5135a
3.htm)
環境:エアロゾル化する芽胞を含んだ粉末やその他の物質
手指衛生:芽胞に接触したあとは石鹸と水、または2%グルコン酸
クロルヘキシジンにて30-60秒間、手洗いする(擦式アルコール製
剤は芽胞に活性がない)
環境曝露に引き続く曝露後予防:60日の抗菌薬(ドキシサイクリ
ン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン)およびIND下の曝露
後ワクチン接種
ち
腸炎、クロストリジウム・ディフィシレ(⇒「クロストリジウム・ディフィシレ、胃腸炎」を参照)
腸炎ビブリオ(⇒「胃腸炎」を参照)
腸管ウイルス感染(A群およびB群コクサッキーウイルスおよびエ
コーウイルス)(ポリオウイルス以外)
オムツまたは便失禁の小児では罹患期間、接触予防策を用いる。施
設での集団感染の制御でも接触予防策を用いる
S
腸球菌属(⇒疫学的に重大またはバンコマイシン耐性ならば「多剤耐性菌」を参照)
腸チフス(チフス菌) (⇒「胃腸炎」を参照)
て
手足口病 (⇒「腸管ウイルス感染」を参照)
デング熱
伝染性紅斑 (⇒「パルボウイルスB19」を参照)
伝染性単核症
伝染性軟属腫
伝染性膿痂疹(オルフウイルス)
天然痘(⇒ワクチン接種された人々の管理には「種痘疹」を参照)
S
ヒトからヒトへの感染はみられない
S
S
S
A,C
DI
すべての瘡蓋が痂皮化して剥がれ落ちるまで(3∼4週間)。免疫の
あるHCWがいるなら、ワクチン未接種のHCWはケアを提供すべき
ではない。感受性がある人およびワクチン接種が成功している人は
N95またはそれ以上の呼吸器防御をおこなう。曝露4日以内の曝露
後ワクチンには防御能がある(108,129,1038-1040)
と
トキシックショック症候群(ブドウ球菌疾患、連鎖球菌疾患)
S
A群連鎖球菌が病因である可能性があれば、抗菌薬治療の開始後の
最初の24時間は飛沫予防策を実施する
トキソプラズマ症
S
ヒトからヒトへの伝播は稀である。母親から子供への垂直伝播、臓
器および輸血による伝播は稀である
トラコーマ、急性
トリコモナス症
S
S
トリインフルエンザ(⇒「インフルエンザ、トリ」を参照)
な
軟性下疳(H.ducreyi )
S
ヒトからヒトへ性的に伝播する
に
尿路感染
(腎盂腎炎を含む),尿カテーテルあり, またはなし
S
二次性細菌感染(黄色ブドウ球菌、A群β溶血連鎖球菌)
S/C
病原体特異的な勧告(連鎖球菌とブドウ球菌が最も多い)に従い、排
膿の程度を考慮する
ね
猫ひっかき病(良性接種性リンパ細網症)
熱傷皮膚症候群, ブドウ球菌性
S
C
DU
C
U24時間
C
DI
ヒトからヒトへの感染はみられない
⇒「ブドウ球菌疾患」を参照
の
膿痂疹
脳炎もしくは脳脊髄膜炎 (⇒それぞれの起因菌を参照)
膿瘍
排膿,大量
排膿,少量または限局
ノカルジア症, 排膿病変もしくは他の症状
ノロウイルス胃腸炎(⇒「胃腸炎」を参照)
S
S
ドレッシングも封じ込めもしていない排膿; 排膿が止まるかド
レッシングで封じ込めるまで
ドレッシングカバーして排膿を封じ込める
ヒトからヒトへの感染はみられない
は
肺炎
アデノウイルス
D,C
DI
小児および施設環境での集団感染が報告されている(376,10841086)。免疫不全の宿主では、ウイルス排出が遷延しているの
で、飛沫および接触予防策の期間を延長する(931)
インフルエンザ菌、タイプb
成人
幼児と小児(どの年齢も)
ウイルス
S
D
U24時間
成人
幼児と年少小児(⇒「呼吸器感染症,急性,特定のウイルス」を参照)
クラミジア
S
水痘‐帯状疱疹ウイルス(⇒「水痘」を参照)
ブルクホルデリア・セパチア
嚢疱性線維症の患者.気道への定着を含む
嚢胞性線維症のない患者(⇒「多剤耐性菌」を参照)
ニューモシスティス・イロベジー(ニューモシスティス・カリ
ニ)
C
不明
S
嚢胞性線維症の他の患者に接触することを避ける。個室が好まれ
る。D/C予防策の基準は確定していない。CF基金ガイドラインを
参照する(20)
免疫不全の患者との同室は避ける
A型連鎖球菌
成人
D
U24時間
幼児と年少小児
黄色ブドウ球菌 真菌
髄膜炎菌性
D
S
S
D
U24時間
肺炎球菌
S
多剤耐性 (⇒「多剤耐性菌」を参照)
マイコプラズマ(原発性非定型肺炎)
レジオネラ属
D
S
U24時間
DI
連鎖球菌疾患(A群連鎖球菌)を参照する。皮膚病変があれば接触予
防策を実施する
皮膚病変があれば接触予防策を実施する
⇒MRSAについては、「多剤耐性菌」を参照
⇒「髄膜炎菌疾患」を参照
患者ケア病棟や施設で伝播のエビデンスがあれば飛沫予防策を使用
する(196-198,1087)
他に列挙されていない細菌 (グラム陰性菌を含む)
S
潜在性, 梅毒反応陽性で無症状
皮膚と粘膜, 先天性, 原発性, 二次性
S
S
白癬(皮膚糸状菌症、皮膚真菌症、白癬)
S
破傷風
S
バベジア症
S
パラインフルエンザ感染症, 幼児と年少小児の呼吸器
C
梅毒
稀に、医療ケア現場(NICU(1093)、リハビリテーション病院
(1094)で集団感染が発生する。集団感染には接触予防策を実施
する
輸血にて稀に感染する以外はヒトからヒトへの感染はみられない
DI
免疫抑制患者ではウイルス排出が遷延するかもしれない
(1009,1010)。長期入院患者をいつ接触予防策から解放するかを
決定するための抗原検査の信頼度は不確かである
パルボウイルスB19(伝染性紅斑)
D
免疫不全患者で慢性疾患が発生したときは、入院期間中は予防策を
継続する。一時的な無形成発作や赤血球発作の患者では、7日間予
防策を継続する。PCRが持続的に陽性の免疫不全患者での予防策
の期間は確定していないが、伝播が発生したことはある(929)
ハンタウイルス肺症候群
ハンセン病(⇒「らい病」を参照)
S
ヒトからヒトへの感染はみられない
ひ
非結核性抗酸菌
肺
創部
ヒストプラズマ症
S
S
S
ヒト-ヒト伝播はみられない
ヒトメタニューモウイルス
C
DI
D
U5日
ヒトからヒトへの感染はみられない
HAIは報告されているが(1071)、伝播経路は確定していない
(823)。このウイルスはRSVに密接に関連しており、臨床所見や
疫学が類似しているため、RSVと同様に接触予防策がよいと思わ
れる。標準予防策に従って、マスクを装着する
ビブリオ・パラヘモリティクス(⇒「胃腸炎」を参照)
百日咳
個室病室が好まれる。コホートはオプションである。呼吸器分泌物
に長期曝露している家族およびHCWには曝露後化学予防をおこな
う(863)。成人でのTdapワクチンの勧告は制作中である
ふ
風疹 (⇒「先天性風疹」も参照)
D
免疫のあるケア提供者がいれば、感受性のあるHCWは病室に入る
べきではない。免疫のあるHCWの顔面防御 (外科用マスク)につい
ての勧告はない。免疫のない妊婦はこれらの患者をケアしてはなら
発疹が始まっ ない(17,33)。非妊婦の感受性のある人が曝露したら3日以内にワ
たあとU7日 クチンを接種する。曝露した感受性のある患者は飛沫予防策下にお
き、感受性のある医療従事者は曝露後ワクチンの接種の有無に拘わ
らず、「最初の曝露から5日目」より「最後の曝露から21日目」
までは休務する
ブドウ球菌疾患(黄色ブドウ球菌)
皮膚、創部、熱傷
大きい
C
小さい、または限局している
腸炎
多剤耐性(⇒「多剤耐性菌」を参照)
肺炎
S
S
熱傷様皮膚症候群
C
DI
ドレッシングされていない、またはドレッシングが排膿を適切に封
じ込めていない
ドレッシングが排膿を覆って、適切に封じ込めている
オムツまたは便失禁の小児には罹患期間中は接触予防策を実施する
S
トキシックショック症候群
ブラストミセス症(北アメリカ、皮膚、肺)
プリオン病(⇒「クロイツフェルトーヤコブ病」を参照)
S
S
ブルセラ病 (波状熱,マルタ熱,地中海熱)
S
糞線虫症
S
DI
託児所やNICUの集団感染の感染源として医療従事者が考慮されて
いる(1095)
ヒトからヒトへの感染はみられない
精子銀行や性的接触にて稀に感染する以外は、ヒトからヒトへの感
染はみられない(1048,1049)。検査室での曝露後は予防抗菌薬を
提供する(1050)
へ
閉鎖腔感染症
開放ドレーンが留置され、排膿が限局性または少量である
排膿がないか、閉鎖式ドレーンシステムが留置されている
ペスト
腺ペスト
S
S
S
封じ込められていない大量排膿があれば、接触予防策を行う
肺ペスト
ヘモフィルス・インフルエンザ(⇒疾患特異的な勧告を参照)
ヘルパンギーナ(⇒「腸管ウイルス感染」を参照)
鞭毛虫病
D
U48時間
曝露したHCWには抗菌薬予防をおこなう(207)
S
ほ
蜂巣炎
胞虫症
ボツリヌス中毒
発疹チフス
発疹チフスリケッチア(流行性またはシラミ発疹チフス)
発疹熱リケッチア
ポリオ(灰白髄炎)
S
S
S
ヒトからヒトへの感染はみられない
ヒトからヒトへの感染はみられない
S
S
C
濃厚なヒトまたは衣類の接触を通じて、ヒトからヒトに伝播する
ヒトからヒトへの感染はみられない
DI
D
DI
ま
マイコプラズマ肺炎
麻疹
A
マラリア
マールブルグ病(⇒「ウイルス性出血熱」を参照)
S
免疫のあるケア提供者がいれば、感受性のあるHCWは病室に入る
べきではない。免疫のあるHCWの顔面防御についての勧告はな
い。感受性のあるHCWへの顔面防御の種類(外科用マスクまたはレ
発疹が出てか
スピレータ)についての勧告はない(1027,1028)。感受性のある
ら4日間、免
ヒトが曝露したら、72時間以内に曝露後ワクチンを接種するか、
疫不全患者で
6日以内に免疫グロブリンを投与する(17,1032,1034)。曝露し
は罹患期間
た感受性のある患者は空気予防策下におき、感受性のある医療従事
者は曝露後ワクチンの接種の有無に拘わらず、最初の曝露から5日
目より最後の曝露から21日目までは休務する(17)
む
ムコール症
S
ムンプス(感染性耳下腺炎)
D
U9日
腫脹が始まったあとに予防策を実施する。免疫のあるケア提供者が
いるならば、感受性のあるHCWはケアを提供すべきではない。
注意: (健康な18・24歳での集団感染の最近の評価では唾液腺のウ
イルス排出は疾患経過の早期に起こっていて、耳下腺炎の発症後の
5日の隔離が市中では適切であることが示された。しかし、医療従
事者およびハイリスク患者集団への影響はまだ明確ではない)
や
野兎病
肺
排膿病変
S
S
ヒトからヒトへの感染はみられない
ヒトからヒトへの感染はみられない
S
S
感染状態ではない
ら
ライ症候群
らい病
ライノウイルス
D
ライム病
ラッサ熱(⇒「ウイルス出血熱」を参照)
ランブル鞭毛虫症(⇒「胃腸炎」を参照)
S
飛沫が最も重要な伝播経路である(104,1090)。NICUおよび
LTCFでは集団感染が発生した(413,1091,1092)。湿性分泌物が
大量であったり、濃厚な接触(幼児など)が発生しそうならば接触予
防策を追加する(111,833)
ヒトからヒトへの感染はみられない
リウマチ熱
リケッチア痘瘡(小胞性リケッチア症)
リケッチア熱, ダニ伝播(ロッキー山紅斑熱, 発疹チフス)
S
S
S
感染性状態ではない
ヒトからヒトへの感染はみられない
輸血を介して稀に感染する以外はヒトからヒトへの伝播はない
リステリア症(リステリア菌)
S
ヒトからヒトへの伝播は稀である。新生児環境での交差感染の報告
はある(1072,1073,1074,1075)
リッター病(ブドウ球菌性熱傷皮膚症候群)
淋菌性新生児眼炎(淋菌性眼炎, 新生児の急性結膜炎)
リンパ球性脈絡髄膜炎
淋病
C
S
S
S
DI
り
DI
⇒「ブドウ球菌疾患、熱傷様皮膚症候群」を参照
ヒトからヒトへの感染はみられない
る
類鼻疸, すべての型
S
ヒトからヒトへの感染はみられない
S
S
ヒトからヒトへの感染はみられない
ヒトからヒトへの感染はみられない
れ
レジオネラ症
レプトスピラ症
連鎖球菌疾患(A群連鎖球菌)
皮膚、創部、熱傷
大きい
C,D
U24時間
小さい、または限局している
S
子宮内膜炎(産褥性敗血症)
幼児および年少小児での咽頭炎
S
D
U24時間
幼児および年少小児での猩紅熱
D
U24時間
D
U24時間
肺炎
重症侵襲性疾患
連鎖球菌疾患(B群連鎖球菌)、新生児
連鎖球菌疾患(A群でもB群でもない)、他にリストされていない
多剤耐性(⇒「多剤耐性菌」を参照)
D
ドレッシングされていない、またはドレッシングが排膿を適切に封
じ込めていない
ドレッシングが排膿を覆って、適切に封じ込めている
U24時間
重症侵襲性疾患の集団感染が患者と医療従事者の間の伝播に引き続
いて発生した(162,972,1096-1098)。排膿している創部には接
触予防策を実施する。特定の状態では抗菌薬予防についての推奨に
従う(160)
S
S
ろ
ロタウイルス感染(⇒「胃腸炎」を参照)
ロッキー山紅斑熱
S
わ
ワンサン・アンギーナ(⇒「塹壕性口内炎」を参照)
S
稀に、輸血を介して伝播する以外は、ヒトからヒトへの伝播はない
1. 予防策の種類:A, 空気予防策;C, 接触予防策;D, 飛沫予防策;S, 標準予防策;A,C,Dが指定されているときには、Sも使用す
る。
†. 予防策の期間:CN, 抗菌薬治療が終了して培養が陰性となるまで;DI, 罹患期間(創病変では、DIは「創部が排膿しなくなるま
で」を意味する);DE, 環境が完全に除染されるまで;U, 効果的な治療の開始後に指定された時間が経過するまで;不明,病原体の駆
逐を確認する基準が決定していない
表1. 病院における隔離予防策のためのガイドラインの歴史*
年 (文献)
発刊された文書
1970年
(1099)
病院で使用する隔離手技,
第1版
1975年
(1100)
病院で使用する隔離手技,
第2版
1983年
(1101)
1985∼88年
(780,896)
1987年
(1102)
コメント
・色で塗り分けられたカードを用いて、7つの隔離予防策(厳重、呼吸器、防護、腸管、創部および皮膚、排膿、
血液)が導入された
・使用者による決断は求められない
・単純さが長所ではあるが、一部の感染症では過剰な隔離が指示されてしまう
・概念的な枠組みは第1版と同じ
・2つの隔離システム(カテゴリー別および疾患別)が提供された
・防護隔離は削除され、血液予防策は体液を含んで拡大された
病院における隔離予防策のた ・厳重、接触、呼吸器、AFB、腸管、排膿/分泌物、血液、血性体液がカテゴリーに含まれた
めのCDCガイドライン
・使用者による決断が強調された
普遍的予防策
・HIV/AIDSの流行に対応して発展した
・感染の状態に拘わらず、すべての患者に血液および血性体液予防策を適用することが指示された
・肉眼でみえる血液によって汚染されていなければ、便、鼻汁、喀痰、汗、涙、尿、吐物には適用されない
・粘膜曝露から医療従事者を守るために個人防護具が追加された
・手袋を外したらすぐに、手洗いすることが推奨された
・針およびその他の鋭利器具の取り扱いについて特別な勧告を追加した。その概念は医療現場における血液媒介
病原体の職業曝露についての1991年のOSHAの規定に必要なものとなった
生体物質隔離
・血液が存在していなくても、汗以外のすべての湿性および潜在的感染性生体物質への接触を避けることが強調
された
・普遍的予防策とは幾つかの特徴が共有された
・大きな飛沫または乾燥表面への接触によって伝播する感染症には弱点があった
・空気媒介感染症を封じ込めるための特殊換気の必要性については強調されなかった
・肉眼的な汚れがなければ、手袋を外したあとの手洗いについては明確には記されなかった
・医療感染制御業務諮問委員会(HICPAC)によって作成された
・普遍的予防策および生体物質隔離の主な特徴が合併し、全ての患者に常に用いられる標準予防策に取り込まれ
病院における隔離予防策のた た
1996年(1)
めのガイドライン
・3つの感染経路別予防策カテゴリー(空気、飛沫、接触)が含まれた
・病因診断が確定するまでのエンピリックな隔離を指示する臨床症状が一覧表となった
* Garner ICHE 1996から
表2. 診断確定を待っている間に感染経路別予防策をエンピリックに追加することについて正当な根拠を与える臨床症候群または症状*
臨床症状と状態**
予想される病原体***
下痢
便失禁している患者またはオムツの患 腸管病原体****
者において感染性の原因がありそうな
急性下痢症
髄膜炎
髄膜炎菌
発疹や皮疹、全身性、病因不明
発熱をともなった点状出血/斑状出血
(全身性)
・発熱が始まる10日以内にVHFの集
団感染が継続している地域への旅行歴
があるならば
小水疱性
咳、鼻感冒や発熱を伴う点状丘疹
エンピリックな予防策(常に、標準予防策に加えて実施する)
接触予防策(小児および成人 )
抗菌薬治療の最初の24時間は飛沫予防策;挿管時にはマスクと顔面防御
エンテロウイルス属
幼児と小児では接触予防策
結核菌
肺への浸潤があれば、空気予防策。感染性体液が流れ出る可能性があれば、空気予防策+
接触予防策
髄膜炎
抗菌薬治療の最初の24時間は飛沫予防策
エボラ、ラッサ、マールブル 飛沫予防策+接触予防策(顔面/眼防御を加える)、血液曝露がありそうな場合には鋭利物
グウイルス
の安全な取り扱いやバリア予防策を強調する。エアロゾル産生処置をおこなう場合には
N95またはそれ以上の呼吸器防御を用いる
帯状疱疹、単純ヘルペス、天 空気予防策+接触予防策;単純ヘルペス、免疫正常宿主での局所帯状疱疹、ワクシニアウ
然痘、ワクシニアウイルス イルスの可能性が最も高い場合に限って、接触予防策
麻疹ウイルス
空気予防策
HIV非感染患者、またはHIV感染の危
険性が低い患者における咳/発熱/ 肺
上葉浸潤影
HIV感染患者またはHIV感染の危険性
が高い患者における咳/発熱/ 肺浸潤
影(浸潤部位は問わない)
結核菌、呼吸器ウイルス、肺
炎球菌、黄色ブドウ球菌
(MSSA または MRSA)
結核菌、呼吸器ウイルス、肺
炎球菌、黄色ブドウ球菌
(MSSA または MRSA)
空気予防策+接触予防策
SARSやトリインフルエンザが集団感
染を活発に引き起こしている国々への
最近の旅行歴 (10∼21日)のある患者
における咳/発熱/ 肺浸潤影(浸潤部位
は問わない)
幼児や年少小児における呼吸器感染症
(特に、細気管支炎や肺炎)
結核、重症呼吸器症候群ウイ 空気予防策+接触予防策+眼防御;SARSや結核の可能性がなければ、空気予防策の替わ
ルス (SARS-CoV)、トリイ りに飛沫予防策を用いる
ンフルエンザ
呼吸器感染症
空気予防策+接触予防策。エアロゾル産生処置がされるか、呼吸器分泌物への接触が予想
されるならば、眼/顔面防御を用いる。結核の可能性が低く、AIIRやレスピレータが利用
できなければ、空気予防策の替わりに飛沫予防策を用いる。結核はHIV陰性者よりも陽
性者の方が発症しやすい
RSウイルス、パラインフル 接触予防策+飛沫予防策;アデノウイルスおよびインフルエンザウイルスが除外された
エンザウイルス、アデノウイ ら、飛沫予防策は中止してもよい
ルス、インフルエンザウイル
ス、ヒトメタニューモウイル
ス
皮膚および創部感染
覆いきれない膿瘍や排膿創
黄色ぶどう球菌 (MSSA ま 接触予防策。侵襲性A群連鎖球菌感染が疑われるならば、適切な抗菌薬治療の最初の24
たは MRSA)、A群連鎖球菌 時間は飛沫予防策を加える
*感染制御専門家は地域の状況に応じて、この表を修正または変更してもよい。適切なエンピリック予防策が常に実施されていることを確認するために、病院
は入院前および入院後ケアの一環として、これらの基準に従って患者を日常的に評価するのに適したシステムを備えていなければならない
**下記にリストされた症候群や状況がみられる患者は非典型的な徴候や症状を呈するかもしれない(例.百日咳の新生児や成人には発作性または厳しい咳はみら
れないことがある)。臨床的な判断と同じように、市中で特別な状況が拡大していれば、医師が疑う指標となる
***「推測される病原体」の欄の下にリストされた病原体は完全な診断または最も可能性のありそうな診断を表したものではなく、それらが除外されるまで標
準予防策に加えて追加予防策を必要とする推定病因微生物を表している
****これらの病原体には腸出血性大腸菌O157:H7、赤痢菌属、A型肝炎ウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、クロストリジウム・ディフィシレが含ま
れる
表3.
バイオテロテロリストの攻撃に由来するかバイオテロリストの脅威と考えられる最優先感染症(CDCカテゴリーA)の感染対策に考慮されるべきこと
(www.bt.cdc.gov)[a]
[a]この表で用いられる略語:RT(respiratory tract)=気道;GIT(gastrointestinal tract)=消化管; CXR(chest x-ray)=胸部レントゲン; CT(computerized
axial tomography)= コンピュータ連動断層撮影; CSF(cerebrospinal fluid)=脳脊髄液; LD50(lethal dose for 50% of experimental animals)=50%の実
験動物を死に至らしめる用量; HCW( healthcare worker)=医療従事者; BSL( biosafety level)= バイオセーフテイレベル; PAPR(powered air purifying
respirator)= 電動ファン付き呼吸用保護具; PCR(polymerase chain reaction)= ポリメラーゼ連鎖反応; IHC (immunohistochemistry)=免疫組織化学
疾患
感染部位;
炭疽
皮膚(芽胞への接触);RT(芽胞の吸入);GIT(芽胞の経口摂取―稀である)
伝播様式
コメント:芽胞は下気道に吸い込まれることがある。ヒトでの炭疽菌の感染性菌量はいかなる感染経路でも正確には知られていな
過去のバイオテロ事件で皮 い。霊長類では、炭疽菌のエアロゾル負荷のLD50(50%の動物を殺すのに必要な量)は芽胞8,000∼50,000個であると推定され
膚炭疽および吸入による炭 ている;感染性菌量については僅か1∼3個かもしれない
疽が発生した
潜伏期
皮膚:1∼12日;RT:通常1∼7日であるが、43日という報告もある;GIT:15∼72時間
臨床症状
皮膚:無痛の赤い丘疹であり、1∼2日以内に中心に小疱や水疱を形成する;次の3∼7日で、病変は膿疱となり、そして黒い焼痂
を伴う壊死となる;周囲に広範な浮腫がみられる
RT:最初の1∼3日はインフルエンザ様症状を呈し、頭痛、発熱、倦怠感、咳を伴う;4日目までに、重篤な呼吸困難およびショッ
ク状態となり、致死的になるのが通常である(無治療ならば85-90%が致死的となる);RTの症例の50%が髄膜炎となる
GIT: 消化管型ならば、壊死性の潰瘍性浮腫病変が腸管内に発生し、発熱、吐き気、嘔吐を伴う。そして、吐血および血性下痢に進
展する;25-60%が致死的となる
診断
皮膚:IHC、PCR、培養のための病変(焼痂の下)のスワブ;IHC、PCR、培養のためのパンチ生検;グラム染色および培養のため
の水疱液の吸引;全身症状があれば血液培養;ELISA血清学検査のための急性期および回復期の血清
RT:縦隔の拡大や胸水貯留、肺門部の異常を示すCXTやCT;培養およびPCRのための血液;培養、PCR、IHCのための胸水;
(髄膜症状があれば)IHC、PCR、培養のためのCSF;ELISA血清学検査のための急性期および回復期の血清;IHCのための胸膜や
気管支の生検
GIT:血液と腹水、便検体、直腸スワブ、(所見があれば)PCRとIHCのための口腔咽頭病変のスワブ
感染性
皮膚:未治療の患者の病変への接触によりヒトーヒト感染はありうるが、極めて稀である
RT およびGIT: ヒトーヒト感染は発生しない
エアロゾル化された粉末、環境曝露:エアロゾル化されれば感染性は強い
推奨される予防策
皮膚:標準予防策;多量排膿が封じ込められなければ接触予防策
RT およびGIT: 標準予防策
エアロゾル化された粉末、環境曝露:レスピレータ(N95マスクまたはPAPR)、防護着、粉末が付着した人々の除染
(http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm5135a3.htm)
手指衛生:芽胞に接触したあとは、石鹸と水による30∼60秒の手洗いか、2%グルコン酸クロロヘキシジン(擦式アルコール手指消
毒薬は芽胞には無効[Weber DJ JAMA 2003; 289:1274])
環境曝露後の曝露後予防:60日間の抗菌薬(ドキシサイクリン、シプロフロキサシン、レボフロキサシンのいづれか)および
IND(investigational new drug:研究用新薬)申請中の曝露後ワクチン
感染部位;
伝播様式
疾患
ボツリヌス中毒
GIT:毒素を含んだ食物の摂取、RT:毒素を含んだエアロゾルの吸入
コメント:経口摂取された毒素、またはバイオテロ事件においてエアロゾルで運ばれた可能性のある毒素。タイプAのLD50は
0.001 μg/ml/kgである
潜伏期
1∼5日
臨床症状
下垂、全身衰弱、めまい、口腔乾燥および咽頭乾燥、目がぼやける、複視、構語障害、発声障害、嚥下困難。これに引き続く左右
対称的な下行性麻痺と呼吸不全
診断
臨床診断;便中の毒素の同定、毒素を含んだ検体が毒素中和バイオアッセイのために入手できなければ血清学的検査
感染性
推奨される予防策
ヒトからヒトへは伝播しない。発症するには毒素への曝露が必要である。
標準予防策
疾患
感染部位;
伝播様式
エボラ出血熱
基本には、粘膜またはRTに曝露したあとに、傷のある皮膚や経皮的損傷を通じて感染が発生する
潜伏期
2∼19日(通常、5∼10日)
臨床症状
倦怠感、筋肉痛、頭痛、嘔吐と下痢を伴う発熱性疾患に、血圧低下、ショック、出血症状が急速に合併する。50%未満の患者で大
量出血がある
RT-PCR、抗体と抗原の血清学的検出、免疫組織化学およびウイルス培養(電子顕微鏡にて形態学的に確認される)によって病因
診断が可能である
ヒトーヒト感染は主に、血液や体液への無防備接触によって発生する;経皮的創傷(針刺しなど)は高い感染率を示す;医療現場で
の伝播が報告されているが、バリア予防策を用いれば防御できる
診断
感染性
推奨される予防策
疾患
出血熱に特異的なバリア予防策:疾患が生物兵器の意図的な投下によるものであれば、伝播の疫学は予想できないため、疾患の伝
播の観察を待つことになる。病原体の性質が理解され、その伝播様式が確定されるまで、標準、接触、空気予防策を実施しなけれ
ばならない。病原体が判明すれば、また伝播の疫学が自然の疾患と同じであれば、飛沫予防策を空気予防策の替わりに用いてもよ
い。下記を強調する:①鋭利物の安全器具の使用と安全な業務行為、②手指衛生、③病室への入室時での血液および血性体液に対
するバリア予防策(手袋および耐水性または不浸透性のガウン、マスク、ゴーグル、フェースシールドによる顔面/眼防御)、④廃棄
物の適切な取り扱い。エアロゾル産生処置をするときは、N95もしくはそれ以上のレスピレータを用いる。AIIRが利用できなかっ
たり、多数の患者を現存するAIIRに収容できない状況では、飛沫予防策(+標準予防策と接触予防策)を遵守し、患者をVHF感染が疑
われていない患者から隔離する。血液採血をケアに必須な場合に制限する。自然に発生したVHFに関する勧告のためのディスカッ
ションおよび付録Aについてはテキストを参照する。
感染部位;
伝播様式
ペスト*2
RT:呼吸器飛沫の吸入
コメント:生物兵器として使用されると、肺ペストが最も発生しやすいが、腺ペストや一次性敗血症も一部の症例で発生するかも
しれない。感染性菌量は100∼500個である。
潜伏期
臨床症状
1∼6日(通常は2∼3日)
肺ペスト:発熱、悪寒、頭痛、咳、呼吸苦、急速に進行する衰弱。後期では、血痰、循環虚脱、出血傾向
診断
グラム染色による推定診断、または喀痰、血液、リンパ節吸引のWayson染色;同じ検体の培養または急性期/回復期のペアー血清
よる確定診断
呼吸器飛沫によって発生するヒトーヒト伝播の危険性は発症の最初の20∼24時間は低く、感染には濃厚接触が必要である。呼吸器
分泌物は適切な治療を開始してから数時間以内に感染性を失う。
感染性
推奨される予防策
患者が適切な治療を48時間受けるまでは、標準予防策、飛沫予防策を実施する。化学予防:濃厚接触した医療従事者には抗菌薬に
よる予防を考慮する
*2)肺ペストには思われているほどの感染力はない。歴史的な事実および現在のエビデンスによると、ペストに罹患した人々は通常は末期になった場合のみ感
染を伝播させることが示唆されている。これらの患者は多数のペスト菌を含んだ大量の血性喀痰を咳して喀出している。早期の一次性肺ペストの患者(最初の
約20∼24時間)には感染性が少ないことは明らかである[1,2]。抗菌薬治療は喀痰からペスト菌を速やかに消失させるので、効果的な抗菌薬治療を開始して数
時間以内に患者は感染性を失うのが一般的である[3]。このことは、現在は多くの患者は他の人々への重大な危険性を有するようなステージに決して到達しな
いことを意味している。例え、末期であっても、伝播は濃厚接触のあとのみに発生する。単純な防御法(マスク装着、手指衛生、濃厚接触の回避など)は肺ペス
トの数多くの集団感染であっても伝播を止めるのに有効であった[2]。米国では、肺ペストの最後のヒトーヒト伝播の症例は1925年に発生した[2]。
1. Wu L-T. A treatise on pneumonic plague. Geneva: League of Nations, 1926. III. Health.
2. Kool JL. Risk of person to person transmission of pneumonic plague. Clinical Infectious Diseases, 2005; 40 (8): 1166-1172
3. Butler TC. Plague and other Yersinia infections. In: Greenough WB, ed. Current topics in infectious disease. New York: Plenum Medical
Book Company, 1983.
疾患
感染部位;
伝播様式
潜伏期
臨床症状
診断
感染性
推奨される予防策
天然痘
RT:飛沫の吸引(稀にエアロゾル);および皮膚病変(ウイルスへの接触)
コメント:生物兵器として使用されると、1977年以降は発生していない自然の天然痘のような結果になるであろう
7∼19日(平均12日)
発熱、倦怠感、背部痛、頭痛、しばしば2∼3日の嘔吐;そして全身性の丘疹状または斑丘疹状の発疹(顔面と四肢に多い)となり、
水疱となる(4∼5日目)。その後、膿疱性となる;すべての病変は同じステージである
WHOが認可した検査室(CDC)による水疱液の電子顕微鏡、または水疱液の培養;CDC と USAMRIDの特定のLRN研究室のみで
可能なPCRによる検出
ワクチン未接種者での二次発病率は50%もある;発疹が始まってから、すべての病変が痂皮化するまで(約3週間)、感染者には感
染性がある;感染性が最も強いのは発疹の最初の10日間である
すべての痂皮がとれるまで(3∼4週間)、標準、接触、空気予防策[b]を組み合わせて用いる。患者ケアは免疫のある医療従事者のみ
がおこなう;曝露4日以内は曝露後ワクチンを接種する
ワクシニア:医療従事者は痂皮がとれるまで (21日以上)、接種部位をガーゼおよび半透過性ドレッシングで覆う。手指衛生を遵守
する
ウイルスを含んでいる病変の有害反応:すべての病変が痂皮化するまで、標準予防策および接触予防策をおこなう
[b]空気経路による伝播は稀な出来事である;可能であれば、空気予防策が推奨されるが、大勢の人々の曝露では、バリアプリコーションと指定地域内での封
じ込めが最も重要である(204,212)。
[c]感染性ウイルスを含んでいる病変でのワクシニアの有害反応には不注意な自家接種、眼病変(眼瞼炎、結膜炎)、全身性種痘疹、進行性種痘疹、種痘性湿疹が
含まれる;浸出液が封じ込められなければ、細菌の重複感染も接触予防策の追加を必要とする(216,217)。
疾患
感染部位;
野兎病
RT:エアロゾル化された細菌の吸入。GIT:エアロゾル化した細菌によって汚染された食べ物や飲み物の経口接種
伝播様式
コメント:エアロゾル拡散によるバイオテロ事件のあとには肺炎型やチフス型が発生しやすい。感染性菌量は10∼50個である。
潜伏期
2∼10日(通常は3∼5日)
臨床所見
肺炎型:倦怠感、咳、喀痰産生、呼吸苦
チフス型:発熱、虚脱、体重減少、頻回の肺炎
通常、診断は急性期および回復期の血清検体を用いた血清検査にておこなう;細菌はPCR(LRN)にて検出されるか、システイン添
加培地またはマウス接種を用いて血液および体液から分離される
診断
感染性
ヒトーヒト間の拡散は稀である。この微生物の培養に直面/取り扱う研究者は曝露すると発病するハイリスクである。
推奨される予防策
標準予防策
表4. すべての医療現場におけるすべての患者のケアのための標準予防策の適用のための勧告
(セクションII.D.-II.J.およびIII.A.1を参照する)
構成成分
手指衛生
勧告
血液、体液、分泌物、排泄物、汚染物に触れたあと;手袋を外した直後;患者と患者のケアの間
個人防護具(PPE)
手袋
血液、体液、分泌物、排泄物、汚染物に触れる場合;粘膜や創のある皮膚に触れる場合
ガウン
衣類/露出した皮膚が血液/血性体液、分泌物、排泄物に接触することが予想される処置および患者ケアの間
マスク、眼防御(ゴーグル)、
フェースシールド*
血液、体液、分泌物のはねやしぶきを作りやすい処置や患者ケアの間(特に吸引、気管内挿管)
汚れた患者ケア器具
微生物が他の人や環境に移動することを避ける方法で取り扱う;肉眼的に汚染していれば手袋を装着する;手指衛生を実施す
る
環境制御
環境表面(特に患者ケア区域の高頻度接触表面)の日常ケア、洗浄、消毒のための手順を作成する
織物と洗濯物
微生物が他の人や環境に移動することを避ける方法で取り扱う
針およびその他の鋭利物
リキャップしない、曲げない、折らない、使用した針を手で取り扱わない;リキャップが必要ならば、片手ですくう手技のみ
を用いる;(利用できれば)安全器材を用いる;使用した鋭利物は耐貫通性容器に入れる
患者の蘇生
口および口腔分泌物との接触を避けるために、マウスピース、蘇生バッグ、その他の換気器具を用いる
患者配置
次のような状況では個室を優先する;伝播の危険性が高い、環境を汚染させやすい、適切な衛生を保持しない、感染後に発症
したり不運な結末になる危険性が高い
呼吸器衛生/咳エチケット(症状 症状のある人々にはくしゃみ/咳するときには口/鼻を覆うように指導する;ティッシュを用い、手を触れなくて済む容器に廃
のある患者の感染性呼吸器分泌 棄する;気道分泌物で手が汚れたあとには手指衛生を遵守する;(患者が耐えられれば)外科用マスクをするか、空間的分離(で
物の発生源の封じ込め、受診の きれば>3フィート(約1m))を維持する
最初の時点(救急部や開業医の振
り分け区域および受付区域)で開
始する)
**気道エアロゾルによって伝播する感染症が疑われているか確定している患者にエアロゾルを産生する処置をしている間は、手袋、ガウン、顔面/眼防御に加
えて、フィットテストされたN95もしくはそれ以上のレスピレータを装着する
表5.
防護環境の構成要素
(MMWR 2003; 52 [RR-10]より改変)
I.患者: 同種造血幹細胞移植患者(HSCT:hematopoeitic stem cell transplant)のみ
・病室で実施できない診断処置または治療処置(放射線や手術室など)を除いて、患者はPEに
滞在する
・工事期間中にPEから出るときは、患者は呼吸器防御(N95レスピレータなど)を使用する
II.標準予防策および拡大予防策
・患者への接触の前後の手指衛生を遵守する
・病室への日常的な入室では、HCWや面会者はガウン、手袋、マスクを装着する必要はない
・HCWおよび面会者は標準予防策に従って、そして感染経路別予防策が推奨される感染症が
疑われるか確定していれば必要に応じて、ガウン、手袋、マスクを使用する
III.設備
・空気の供給(流入)には直径0.3μmの粒子を除去できるHEPA(99.97% の効果)フィルター
をセントラルまたはポイント使用する
・十分にシールした病室
○窓、扉、空気の流入口と排気口が適切に設備されている
○天井:平滑で、裂け目・オープンジョイント(訳者註: シーリング材に頼らない外壁のジョ
イント方法)・割れ目がない
○天井の上下をシールした壁
○漏れが見つかったら、源を探して必要な修理をおこなう
・12 ACH以上の換気を維持する
・一方向性空気流:フィルターされた清潔な空気が病室の一側から入り、患者ベッドを越えて
流れ、病室の反対側で排気されるように位置設定した空気供給口と排気口
・病室内空気圧を廊下よりも陽圧にする
○2.5 Pa [0.01
水位計]よりも大きな差圧
・肉眼的に確認できる方法(スモークチューブ、パタパタする細長い切れなど)または携帯用気
圧計を用いて、空気流の様子を毎日監視し、その結果を記録する。
・病室の全ての出入り口の扉を自動閉鎖にする
・PE区域の換気に必要な緊急用の予備換気機器(ファンやフィルターの移動式装置など)を維
1
持し、固定換気システムの復帰のための処置を迅速にとる
・PEおよび空気感染隔離の両方が必要な患者には、適切な空気バランスが保証され、汚染空
気を外部に独立排気し、排気口にフィルターを設置した前室を用いる。前室が使用できない
ならば、患者をAIIRに入室させ、胞子の濾過を強化するための移動式換気機器、工業用基準
のHEPAフィルタを用いる
IV.表面
・EPA登録の病院消毒薬/洗浄薬で湿らした布を用いて、水平表面を毎日湿式集塵する
・埃を拡散する集塵法は避ける
・病室や廊下にはカーペットを敷かない
・詰め物をして布を張ったような家具や服飾品を置かない
V. その他
・PE室や区域には花(新鮮またはドライ)や鉢植え植物を置かない
・吸引清掃が必要ならば、HEPAフィルタを装着した吸引掃除機を用いる
2
図. 個人防護具(PPE: personal protective equipment)の安全な着脱法の例
PPEの着方
ガウン
・胴体を首から膝まで覆い、腕は手首の
端まで覆う。そして、背部も取り囲む
ように包み込む
・首とウエストの高さで後ろを結ぶ
マスクまたはレスピレータ
・頭と首の中央で、ヒモまたは伸縮性バ
ンドをしっかり結ぶ
・弾性バンドを鼻橋にフィットさせる
・顔および顎の下にピタッとフィットさ
せる
・レスピレータをフィットチェックする
ゴーグル/フェースシールド
・顔面に置いて、フィットするように調
整する
手袋
・隔離では非滅菌手袋を使用する
・手のサイズに合わせて選ぶ
・隔離ガウンの手首を覆うように引き延
ばす
安全業務の実践
・手を顔から離すようにしておく
・清潔部分から汚染部分に仕事を進める
・触れる表面を限定する
・裂けたり、激しく汚染したら交換する
・手指衛生を実施する
PPEの脱ぎ方
病室から退室する前に出入り口で、または前室内でPPEを脱ぐ
手袋
・手袋外部は汚染している!
・対側の手袋した手で手袋の外側を掴ん
で脱ぎ取る
・手袋した手で脱いだ手袋をしっかり持
つ
・手袋していない手の指を残りの手袋の
下へ手首の部分から滑り込ませる
ゴーグル/フェースシールド
・ゴーグルやフェースシールドの外側は
汚染している!
・取り外すためには、「清潔な」ヘッド
バンドまたは耳づるを持って取り扱う
・再生用に指定された容器または廃棄容
器に入れる
ガウン
・ガウンの前面および袖は汚染している!
・首のヒモをほどいてから、ウエストの
ヒモをほどく
・皮むきの要領でガウンを脱ぐ;ガウン
を各々の肩から同側の手に向かって引
き下ろす
・ガウンは裏返しになる
・脱いだガウンは体から離して持ち、丸
めて包み込み、廃棄容器またはリネン
容器に捨てる
マスクまたはレスピレータ
・マスク/レスピレータの前面は汚染し
ている:触ってはならない!
・ヒモ/ゴムヒモの根元そして端のみを
掴んで脱ぐ
・廃棄容器に捨てる
手指衛生
すべてのPPEを脱いだ後にはすぐに手指
衛生を実施する!
用語辞典
空気感染隔離室(AIIR:airborne infection isolation room)
AIIR(以前は陰圧隔離室と呼ばれていた)は、空気感染性疾患が疑われているか確定している人々を隔
離するために用いられる個室病室である。咳による飛沫核やエアロゾル化した汚染体液によって、
ヒトからヒトに感染する感染性微生物の伝播を最小限にするために、AIIR では環境因子が制御され
る。AIIR では、病室内が陰圧となり(空気流はドアの隙間の下から病室に流れ込む)、1 時間に 6∼
12 回の換気がなされ (既存施設では 1 時間に 6 回換気され、新築または改築施設では 12 回換気
される)、空気は病室から建物の外部に直接排気されるか、病室に戻る前に HEPA フィルタで濾過
されてから再循環される(MMWR 2005; 54 [RR-17])。
米国建築協会 (AIA: American Institute of Architects)
建築換気の標準を制作している専門機関のこと。
「病院および医療ケア施設のデザインおよび建築の
ための 2001 年ガイドライン」は米国保健福祉省および国立保健研究所の援助をうけ、AIA、健康
のための建築学会、施設ガイドライン協会、によって制作がサポートされている。このガイドライ
ン は 、 空 気 感 染 隔 離 室 (AIIR) や 防 護 環 境 を 作 る た め の 手 引 き の 主 な 情 報 源 と な っ て い る
(www.aia.org/aah)。
外来ケア環境(ambulatory care setting)
一晩滞在しない患者の医療ケアを提供する施設のこと(病院をベースとした外来クリニック、病院を
ベースとしないクリニックおよび開業医、救急ケアセンター、サージセンター、独立透析センター、
保健所クリニック、イメージングセンター、行動保健および物質乱用外来クリニック、理学療法お
よびリハビリテーションセンター、歯科診療など)
バイオエアロゾル(bioaerosol)
生物体(細菌、ウイルス、埃ダニ、真菌菌糸、真菌胞子など)の全部または一部を含んでいる粒子の
空気拡散のこと。そのようなエアロゾルは通常は、単分散および凝集した細胞、胞子、ウイルスの
混合物から構成されており、呼吸器分泌物や不活化微粒子のような他の物質によって運ばれる。感
染性エアロゾル(感染性疾患を引き起こすことが出来る生物学的因子を含んでいるエアロゾル)はヒ
ト発生源(例. 咳、くしゃみ、会話、歌唱のとき、または吸引や創部洗浄のときに、気道から排出さ
れる)、湿性環境発生源(例. 冷暖房空調機およびクーリングタワーからのレジオネラ)、乾燥した発
生源(例. 建築埃のアスペルギルス胞子)から作り出される。バイオエアロゾルには大きな呼吸器飛沫
も小さな飛沫核も含まれる (Cole EC. AJIC 1998;26: 453-64)。
ケア提供者(caregiver)
機関の雇用者ではなく、給与も支払われていないが、患者に医療ケアを提供しているか提供を援助
している人々(家族や友人など)であり、実施しなければならない仕事に基づいて、必要に応じた技
術訓練を受けている人々のこと。
コホーティング(cohorting)
このガイドラインの文脈では、この用語は同じ感染性微生物を発症または保菌している患者を一緒
に集める行為に用いられるが、彼らのケアを一区域に制限し、感受性のある患者への接触を防ぐの
が目的である(患者のコホート)。集団感染のときは、伝播の機会をさらに制限するために、医療従
事者を患者のコホートに割り当てることもある(スタッフのコホート)。
保菌(colonization)
身体の表面または内部での微生物の増殖であるが、検出できるような宿主免疫反応、細胞障害、臨
床症状はみられない。宿主内に微生物が存在する期間は様々であるが、潜在的な感染源になるかも
しれない。多くの場合、保菌とキャリアは同意語である。
飛沫核(droplet nuclei)
5μm 未満のサイズの微粒子であり、蒸発した飛沫の残余物で、ヒトが咳、くしゃみ、叫ぶ、歌う
ときに生み出される。これらの粒子は空気中に長時間浮遊でき、通常の空気流に乗って室内または
それを越えて、隣接空間や排気流入区域に運ばれる。
工学的制御(engineering control)
工学技術を用いて、作業室の危険物を除去または隔離すること。AIIR、防護環境、鋭利物による損
傷を予防するために設計された器具や鋭利物容器が工学的制御の例である。
疫学的に重要な病原体(epidemiologically important pathogen)
下記の 1 つ以上の特徴のある感染性微生物のこと(①容易に伝播する、②集団感染を引き起こす傾向
がある、③重篤な結末になる、④治療が困難である)。例としては、アシネトバクター属、アスペル
ギルス属、バークホルデリア・セパシア、クロストリジウム・ディフィシレ、クレブシェラ属およ
びエンテロバクター属、基質拡張型β-ラクタマーゼを産生しているグラム陰性桿菌[ESBL]、メチ
シリン耐性黄色ぶどう球菌[MRSA]、緑膿菌、バンコマイシン耐性腸球菌[VRE]、バンコマイシン
耐性黄色ブドウ球菌[VRSA]、インフルエンザウイルス、RS ウイルス(RSV)、ロタウイルス、
SARSCoV、ノロウイルス、出血熱ウイルスが含まれる。
手指衛生(hand hygiene)
下記のいづれかに適用される一般的用語である(①通常石鹸(非抗菌性石鹸)と水による手洗い、②手
洗い消毒(消毒薬を含んだ石鹸と水)、③擦式手指消毒(水を用いない消毒製剤[殆どがアルコールベー
ス]で手のすべての表面を擦る)、④手術時手指消毒(手術者が手の一過性菌を除去し、手の常在菌を
減らすために術前に実施する手洗い消毒または擦式手指消毒(559))。
医療関連感染(HAI: healthcare-associated infection)
医療が提供されている環境(急性期ケア病院、慢性ケア施設、外来クリニック、透析センター、サー
ジセンター、在宅など)において、ケアされている患者に発生し、かつ医療を受けていることに関連
している感染のこと(医療が提供された時点では潜伏期でなく、感染もしていない)。外来および在
宅では、HAI は内科的または外科的介入に関係した感染に適用される。感染した地理的な場所は不
確かなことが多いので、「医療獲得」よりも「医療関連」のほうが用語として好まれる。
医療疫学者(healthcare epidemiologist)
初期段階の訓練は医学(M.D., D.O.)、修士、博士号レベルの疫学であり、さらに医療疫学の高等訓練
を受けた人のこと。通常、これらの専門家は病院、長期ケア施設(LTCF: long term care facility)、
医療ケア提供システムにおいて感染制御プログラムを指導または助言している(感染制御専門家も
参照)。
医療従事者(healthcare personnel, healthcare worker (HCW))
医療現場で働くすべての有給および無給の人々のこと(医療分野において専門的または技術的な訓
練を受けていて医療現場で患者ケアを提供する人、または食事、ハウスキーピング、工学、メイン
テナンスの職員のように医療の提供を援助するサービスをしている人など)
造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation (HSCT))
血液または骨髄に由来する造血幹細胞の移植であり、ドナーのタイプ(同種または自家など)や細胞
の由来元(骨髄、末梢血、胎盤/臍帯血など)には関係しない。重症免疫抑制の期間は細胞の由来元、
化学療法の強さ、移植片対宿主疾患の有無によって異なる(MMWR 2000; 49: RR-10)。
超高性能フィルタ(high-efficiency particulate air (HEPA) filter)
特定の空気流量で、0.3μm(最も容易に浸透する粒子サイズ(most penetrating particle size)[訳
者註: HEPA フィルタの効率は粒子の大きさによって変化する。ある大きさで効率が最低となり、
貫く透過率が最大となる。これが最も容易に浸透する粒子サイズである])以上の大きさの粒子の
>99.97%を除去する空気フィルタのこと。HEPA フィルタは中央空気処理システムに統合させて
もよく、また病室の天井の上にポイント使用で設備してもよく、移動式ユニットとして用いてもよ
い(MMWR 2003; 52: RR-10)。
在宅ケア(home care)
住居(個人住居、高齢者生活センター、補助生活施設など)に住んでいる患者に提供される広範囲の
医学、看護、リハビリテーション、ホスピスおよび社会的サービスのこと。在宅医療ケアサービス
には「在宅医療助手や熟練看護師、呼吸療法士、栄養士、理学療法士、牧師、ボランティアによっ
て提供されるケア」
「耐久性医療器具の供給」
「在宅輸液療法」
「理学療法、言語療法、作業療法」が
含まれる。
免疫不全患者(immunocompromised patient)
先天的または後天的な免疫不全(HIV 感染、先天的免疫不全症候群など)、慢性疾患(糖尿病、癌、肺
気腫、心不全、ICU ケア、栄養失調、他の疾患の経過中の免疫抑制治療[照射、細胞傷害性化学療法、
移植片抗拒絶薬、コルチコステロイド、免疫システムの特定の成分に対するモノクロナール抗体])
によって免疫機構に欠陥のある患者のこと。免疫不全患者の感受性が増加している感染症のタイプ
は免疫抑制の程度および影響を受けている免疫システムの特定の成分によって決定される。同種
HSCT の患者や慢性 GVHD の患者は HAI に最も脆弱であると考えられる。免疫不全状態はまた、
特定の感染症(結核など)の診断をさらに困難なものにし、同じ感染症に罹患している正常免疫シス
テムの人々よりも重症な臨床状態になる。
感染(infection)
微生物が防御機能を回避または乗り越えて宿主組織内で増殖および侵入し、宿主に伝播した状態の
こと。感染に対する宿主の反応には臨床症状が含まれるが、不顕性のこともある。宿主組織を傷害
する微生物の直接的な病原性や細胞性反応または抗体反応の働きによって疾患の症状発現は修飾さ
れる。
感染制御および予防の専門家(Infection control and prevention professional (ICP))
初期段階の訓練は看護、医療工学技術、微生物、疫学のいづれかであり、さらに感染制御について
特別な訓練を受けた人のこと。責務には「感染症データと傾向の収集、分析、医療提供者へのフィ
ードバック」
「感染リスク評価、予防と制御の戦略のコンサルテーション」「教育および訓練活動の
実施」
「根拠に基づいた感染制御業務または規制認可局によって規定された感染制御業務の実行」
「患
者の結末を改善するための疫学的原則の適用」「改築および建築プロジェクトの企画への参加(建築
埃の適切な封じ込めを確認するなど)」
「新しい製品や処置の成果の評価」
「感染予防に関連する雇用
者の健康サービスの監督」
「防御態勢計画の実施」
「大規模な感染制御問題が発生したときの医療現
場内の連絡、地域および州の健康局との連絡、地域内での連絡」
「研究への参加」が含まれる。感染
制御の認定(CIC: certification in infection control)は感染制御および疫学の認可委員会を通じて
可能である。
感染制御および予防プログラム(infection control and prevention program)
医療現場を患者および医療従事者にとって安全なところにするために、医療関連感染の予防のため
の推奨手技を HCW が実施・遵守しているかを確認するための一連の活動を含む総合プログラムの
こと。医療施設認定合同審査会(JCAHO: Joint Commission on Accreditation of Healthcare
Organizations)は認定のために下記の 5 つの感染制御プログラムの要素を求めている(①サーベイ
ランス:感染や保菌についての患者および医療従事者のモニタリング、②調査:感染の問題や好ま
しくない傾向の同定と解析、③予防:感染性微生物の伝播を予防するため、および器具や処置が関
連した感染のリスクを減らすための処置の実施、④制御:集団感染の調査と処置、⑤報告:州およ
び連邦の法律や規則(www.jcaho.org)によって求められている外部機関への情報の提供)。感染制
御プログラムのスタッフは施設管理母体の許可を得て、医療施設の感染制御の方針を決定する最終
的な権限を持つ。
長期ケア施設(long-term care facility (LTCF))
セルフケアが継続的にできない人々の生物精神社会的必要性に合うようにデザインされた一群の住
居および外来施設のこと。これらには、熟練看護施設、慢性疾患病院、ナーシングホーム、孤児お
よびグループホーム、成長障害施設、住居的ケア施設、補助生活施設、退職者ホーム、成人デイケ
アー施設、リハビリテーションセンター、長期精神病院が含まれる。
マスク(mask)
鼻と口を覆うために使用されるものに総合して用いる言葉であり、処置用マスクおよび外科用マス
クの両者が含まれる (www.fda.gov/cdrh/ode/guidance/094.html#4)。
多剤耐性微生物(multidrug-resistant organism (MDRO))
一般的に、1 つ以上のクラスの抗菌薬に耐性であるが、通常は 1 つまたは 2 つの抗菌薬製品を除き、
全ての抗菌薬に耐性な細菌のこと(MRSA、VRE、基質拡張型β-ラクタマーゼを産生しているグラ
ム陰性桿菌[ESBL]または本来的に耐性のグラム陰性桿菌)。
院内感染(nosocomial infection)
2 つのギリシャ語「nosos」(病気)および「komeion」(世話をする)に由来する言葉であり、急性
期ケア施設(病院)に入院中または入院した結果として発生し、かつ入院時は潜伏期間ではなかった
感染のことを言う。
個人防護具(personal protective equipment (PPE))
粘膜、皮膚、衣類が感染性微生物に接触するのを防ぐために、単独または組み合わせて用いる様々
なバリアのこと。PPE には手袋、マスク、レスピレータ、ゴーグル、フェースシールド、ガウンが
含まれる。
処置用マスク(procedure mask)
一般的な患者ケアで用いることを目的とした、鼻と口を覆うもの。これらのマスクは、ヒモやゴム
ヒモよりむしろ、耳輪を用いて顔につけられるのが一般的である。外科マスクとは異なり、処置用
マスクは米国食品医薬品局(FDA)によって規制されていない。
防護環境(protective environment)
廊下に比較して陽圧の空気流(空気が病室から隣接の外部空間に流れ出る)が設定されている特別な
患者ケア区域であり、通常は病院内に設置されている。超高性能濾過空気(HEPA)、1 時間当たり
の頻回の換気回数(12 回以上)、室内への空気の漏れを最小にすること、の組み合わせによって、重
症免疫不全の患者(同種造血幹細胞移植[HSCT]を受けた患者など)を安全に収容できる環境を作り
出し、環境からの胞子の曝露の危険性を減らすことができる。その他の要素には、室内装飾品やカ
ーペットなどの替わりにゴシゴシ磨ける表面のものを使用すること、埃の蓄積を避けるために掃除
すること、新鮮な花や鉢植え植物を禁止することがある。
準実験的研究(quasi-experimental study)
介入を評価するものの、研究デザインとして無作為化を用いない研究のこと。これらの研究はまた、
非無作為化介入前後研究デザインとも言われる。これらは介入と結果の間の因果関係を明らかにす
ることを目的としているが、無作為化比較試験によって得られる寄与有益性に関する信頼レベルに
は到達できない。病院や公衆衛生の現場では、無作為化比較試験は倫理上、実用上、緊急上の問題
ゆえに、実施できないことが多い。それ故、通常は準実験的研究が用いられている。しかし、介入
が統計学上、有効のようにみえたとしても、その結果については代替の説明が可能かもしれないと
いう疑問が持ち上がることはある。無作為化比較試験を実施することが兵站学的に不可能であった
り、倫理的に出来ない場合には、このような研究デザインが用いられる(集団感染のときなど)。準
実験的研究のデザインの分類には、結果の妥当性に寄与するかもしれない特徴的デザインの階層が
ある(Harris et al. CID 2004:38: 1586)。
在宅ケア環境(residential care setting)
人々が住んでいて、最小限の医療ケアが提供され、居住者の心理・社会的に必要なものが提供され
ている施設のこと。
レスピレータ(respirator)
医療従事者が 5μm 未満の大きさの空気感染性微生物に吸入曝露することを防ぐために装着する個
人防護具のこと。これらには結核菌、天然痘ウイルス、SARS-CoV の患者の感染性飛沫核や環境
真菌(アスペルギルス属など)の胞子のような感染性微粒子を含んでいる埃粒子が含まれる。CDC の
米国労働安全衛生研究所(NIOSH: National Institute for Occupational Safety and Health)は医
療現場で使用されるレスピレータを認定している(www.cdc.gov/niosh/topics/respirators/)。
使い捨ての N95 微粒子(空気清浄用)レスピレータは医療従事者によって最も頻繁に用いられてい
るタイプである。他のレスピレータには N-99 および N-100 微粒子レスピレータ、高性能フィル
ター装備の電動ファン付き空気清浄レスピレータ(PAPR: powered air-purifying respirator)、
電動ファンのないフルフェース弾力性陰圧レスピレータが含まれる。NIOSH 認可のレスピレータの
リストは www.cdc.gov/niosh/npptl/respirators/disp_part/particlist.html で見つけることが
出来る。レスピレータは完全な呼吸防御プログラムとともに用いられなければならないが、これは
米国労働省の労働安全衛生局(OSHA: Occupational Safety and Health Administration)が求め
ていることであり、フィットテスト、訓練、レスピレータの適切な選択、検診、レスピレータの維
持が含まれている。
呼吸器衛生/咳エチケット(respiratory hygiene/cough etiquette)
医療ケアにおいて飛沫または空気感染による呼吸器病原体の伝播を最小限にするためにデザインさ
れた方法の組み合わせのこと。呼吸器衛生/咳エチケットの構成成分には、①咳やくしゃみするとき
には口や鼻を覆う、②呼吸器分泌物を含んだ使用済みのティッシュを手が触れずに済む容器に迅速
に捨てる、③周辺環境の汚染を減らすために咳をしている人々に外科用マスクを提供する、④咳を
するときには、顔を他の人からそらし、空間的間隔(>3 フィート[約 1m])を維持する、が含まれる。
これらの処置は呼吸器感染の症状のあるすべての患者および同伴する家族や友人をターゲットとし
ており、医療ケア環境に最初に訪れた時点で開始する(救急部の受付/振り分け、外来クリニック、
医 療 提 供 オ フ ィ ス な ど ) 。
(Srinivasin A ICHE 2004; 25: 1020;
www.cdc.gov/flu/professionals/infectioncontrol/resphygiene.htm).
安全文化/風土(safety culture/climate)
仕事環境において期待される安全に関する労働者の認識の共有と管理のこと。病院の安全風土には
下記の 6 つの機関的な要素が含まれる(①安全プログラムのための上級管理サポート、②安全な業務
に対する職場バリアがないこと、③職場の清潔と整頓、④スタッフ間での摩擦が少ない良好なコミ
ュニケーション、⑤監督者が安全に関して頻回のフィードバック/訓練を行うこと、⑥PPE および
工学的制御が利用できること(620))。
感染源制御(source control)
身体の排出口または限られた空間で感染性微生物を封じ込める過程のこと。この用語は呼吸器感染
によって伝播する感染性微生物の封じ込めに最も頻繁に用いられるが、他の伝播経路にも適用でき
る(排膿創、小水疱性または水疱性の皮膚病変など)。
「咳を覆うこと」とマスクを装着することを個
人に奨励している呼吸器衛生/咳エチケットは感染源制御である。局所排気のための囲み設備(喀痰
誘導やエアロゾル薬の投与のためのブースなど)は感染源制御の他の例である。
標準予防策(Standard Precaution)
診断が疑われるとか確定しているとかに関係なく、また推定感染状態に関係なく、すべての患者に
適用される一群の感染予防行為のこと。標準予防策は普遍的予防策(780)と生体物質隔離(1102)
を組み合わせて拡張したものである。標準予防策は、汗を除くすべての血液、体液、分泌物、排泄
物、創のある皮膚、粘膜には伝播しうる感染性微生物が含まれているかもしれないという原則に基
づいている。標準予防策には手指衛生が含まれるが、予想される曝露に基づいて、手袋、ガウン、
マスク、眼防御、フェースシールドを使用することも含まれる。また、感染性体液に汚染されてい
るかもしれない患者環境にある器具や物は感染性微生物の伝播を防ぐ方法で取り扱われなければな
らない(取り扱いには手袋を装着する、厳しく汚染された器具は封じ込める、再使用される器具は他
の患者に使用される前に消毒や滅菌するなど)。
外科用マスク(surgical mask)
外科患者および手術室の職員を微生物伝播や体液から守るために外科処置の間、手術室の職員が口
と鼻を覆う器材のこと。外科マスクは医療従事者が大きな感染性飛沫(>5μm)に接触するのを防ぐ
ためにも用いられる。2003 年 5 月 15 日、米国食品医薬品局によって発行された手引きの草案に
よると、外科用マスクの使用に関連する健康への危険性を軽減するために、外科用マスクは耐水性、
細菌濾過効果、差圧(換気)、可燃性についての標準化された検査手順を用いて評価される。これら
の仕様書は外科処置、レーザー処置、隔離処置、歯科処置、内科処置の商標のあるマスクに用いら
れる (www.fda.gov/cdrh/ode/guidance/094.html#4)。外科用マスクは小粒子や飛沫核の吸
い込みを防がないので、特定の空気感染性微生物(結核菌など)に対する防御に推奨されている微粒
子レスピレータと混乱してはならない。