援助国中国の対アフリカ政策 - FASID 財団法人国際開発機構

最新開発援助動向レポート No.24
援助国中国の対アフリカ政策
2007 年 5 月 18 日
FASID 国際開発研究センター
所長代行
研究助手
湊
直信
村田あす香
1.背景
近年、途上国への開発援助は、主に OECD/DAC1のメンバー先進国(以下、DAC メンバ
ー)や世界銀行などの国際機関を中心に行われてきた。しかし、経済が発展し無償援助を
卒業する途上国の数が増加するのに伴って、新興ドナー(Emerging Donor)と呼ばれる DAC
メンバー以外の国が積極的に途上国支援を行い、そのプレゼンスを高めている。中でも中
国は、その経済成長を支えるための巨大なエネルギーと天然資源の需要の追い風を受け、
エネルギーや鉱物資源の獲得2を視野に入れたアフリカにおける援助を活発化させている3。
中国のアフリカ支援は最近になって始まったものではない。そもそも中国とアフリカ諸
国との関係には長い歴史4があり、中国の援助は 1950 年代から対ソ対米政策の一環として
行われてきた5。90 年代後半からは、世界経済のグローバル化、さらに WTO への加盟を背
景に、中国企業の「走出去(海外進出)」戦略6が進められ、特に貿易と投資分野に関連する
援助が増加している(後述)。また、2000 年には、
「中国アフリカ協力フォーラム(Forum
on China-Africa Cooperation: FOCAC)」が創設され、閣僚級会議が北京(2000 年)、アジ
Organisation for Economic Co-operation and Development, Development Assistance
Committee(経済協力開発機構 開発援助委員会)。
2 アフリカの最大の石油産出国であるナイジェリアは大きな注目を集めている。中国国営企業の
中国海洋石油総公司(China National Offshore Oil Corp.: CNOOC)は、2006 年 1 月にナイジ
ェリアの油田における株主持分を獲得するために 27 億ドルを投じており、その他 4 箇所でも採
掘権を得ている。アンゴラはサウジアラビアを抜いて、中国にとって最大の石油供給国となり、
中国はスーダン、ガボン、コンゴ共和国でも同じように事業の拡大に関心を示している(“Never
too late to scramble” The Economist Oct 28th –Nov 3rd 2006)。
3 道路、鉄道、スタジアム、住宅の建設の他、技術移転も行っており、例えば、ナイジェリアで
は、2つ目の衛星の打ち上げを支援した(同上)。
4 15 世紀、明の鄭和は船団を率いて 7 回に渡りジャワ、スマトラ、シャム、更にアラビア東南
岸、アフリカ東岸に達する大航海を行っている(山本、1934)。
5 1975 年に完成したタンザニア-ザンビア間を走るタンザン(Tan-Zam)鉄道はその代表的な例
である。その建設には、1 億 8,900 万ドルを供与し、約 5 万人の技術者を送り込んだ(The World
Compass, June 2005)。
6 2000 年 3 月に北京で開催された第 9 期全国人民代表大会(全人代)第 3 回会議で正式に提起
された(季刊 国際貿易と投資 Autumn 2005)。
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1
スアベバ(2003 年)、北京(2006 年)で開催されている。アフリカから 48 カ国が参加し
た 2006 年会合では、行動計画(2007-2009)が発表され7、平等と相互利益・互恵、政治
的対話と経済協力・貿易の促進、共同の繁栄が謳われている。2007 年 5 月には、アフリカ
開発銀行の年次会合が上海で開催されており、政府高官レベルの交流とインフラ整備や民
間セクター開発などの支援を通してアフリカ諸国との関係を強化している。
世界銀行、OECD/DAC、各種メディアも中国の動向を注目しており、対アフリカ政策に
関連する報告書や報道が多く出ている。しかし中国の対アフリカ支援は、DAC の規定する
ODA よりも広域な分野に及んでいること、また援助の「透明性」が必ずしも重要視されて
いないこと等の理由から、全体像が明らかではない。
本稿では、開発援助を中心に、援助機関の報告書やメディア報道から垣間見られる中国
とアフリカと関係を概観し、アフリカ援助に関する日本の取るべき方向性について議論し
たい。
2.援助機関からみた中国・アフリカ関係-貿易、投資、開発援助
2-1. 世界銀行
国際貿易は長年の間、先進国間や先進国と途上国の間の貿易が中心であったが、特に 2000
年以降、アジアとアフリカの間の貿易が拡大している8。2006 年に発行された世界銀行の報
告書“Africa’s Silk Road: China and India’s New Economic Frontier”では、南アフリカ、タ
ンザニア、ガーナ、セネガルで活動している中国とインドの 450 企業を対象に行った定量
調査とビジネス・ケース・スタディをもとに貿易・投資に関する動向を分析している。中
国とインドからの FDI は、2006 年に約 11.8 億ドルに達しているが、特に最近の変化とし
ては、石油・鉱業分野から食品加工業、漁業、養殖業、観光業分野など、より広範囲の産
業への多様化が始まっている。このような傾向は、アフリカがより品質の高い製品を製造
し、世界市場に参加する機会をもたらす可能性があるため、アフリカの成長と貧困削減に
貢献すると予想される。その一方で、両地域間の貿易と投資における問題点や課題にも言
及されている。アジアはアフリカの国際輸出うちの 4 分の1を占めているが、これはアジ
アの全輸入の 1.6%に過ぎない。また、アジアにおけるアフリカ企業の FDI も非常に小規模
に留まっている。また、中国とインドの企業の輸出がアフリカの国内向けの産業に打撃を
与えることで、失業者を増加させるなど社会的費用が増大する可能性がある9。このような
FOCAC ウェブサイト(http://www.focac.org/eng/zxxx/t280369.htm)。
このうち、サハラ以南アフリカ諸国の対中貿易シェアは 10%に過ぎないが、2010 年までに中
国-アフリカ貿易は 2 倍なると予想されている。ヨーロッパは引き続き最大の貿易相手である
が、1995 年に 44%だったのが 2005 年には 32%に減少している一方で、アメリカと中国のシェ
アは上昇傾向にある(The Economist Oct 28th –Nov 3rd 2006)。
9 消費者は安い中国製品を歓迎しているが、南アフリカなどでは、繊維産業の労働組合が団結し
て政府に働きかけ、中国からの安い繊維に対する輸入割当を行うよう交渉させることに成功して
いる。しかし、このような政府の保護以上に、中国の生産性と経済規模のパワーは強力であるた
め、南アフリカやナイジェリアなどにおける繊維産業は既に大きな打撃を受けている(同上)
。
7
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2
状況を改善し、貿易・投資における顕著な非対称性を是正するために、以下4つの柱を中
心とした改革が必要であると指摘している。
1)関税(At the border)改革:アフリカの主要な輸出品に対する中国とインドの関税・
非関税障壁の撤廃や、アフリカの中間輸入財に対する関税の撤廃によって輸出品の競
争力を増加させる。
2)国内(Behind the border)改革:市場における競争と基本的な制度の強化、インフ
ラや人的・物的資本などの供給制約の緩和に取り組む。
3)貿易(Between the border)改革:貿易に関する手続き等を改善し、海外市場に関す
る情報の量と質を向上させ、取引費用を削減する。
4)中国とインドからの投資によって生み出される国際的生産ネットワークへの参加を促
すような「投資と貿易の連携」を改善する。
これらの課題を克服するには何十年もかかると予想されるが、世界銀行グループが発行
した”Doing Business 2007”によると、特にサハラ以南アフリカ諸国におけるビジネス環境
の改善は進んでおり、製造業、観光業の発展も期待される。また、報告書の中で、世界銀
行は農業プロジェクトにおける中国とインドの専門知識を活用したいと述べられており、
特に、農業分野でのドナー間協調に向けた前向きな姿勢が見られる。
2-2.OECD
OECD の開発センターは、報告書“The Rise of China and India: What’s in it for
Africa?”10において、中国の経済発展に伴って、中国―アフリカ貿易が急成長している現状
を踏まえた上で、アフリカ諸国が恩恵を最大化すると同時にリスクを最小限に抑えるため
の政策と戦略について情報を提供している。
アフリカ諸国は、石油・鉱物・木材などの採取産業に比較優位があるが、このパターン
に固執することは、「オランダ病11」によって他の製造部門を衰退させる恐れがあるため、
産業の多様化を促進していく必要がある。また、雇用を創出する他のセクターに資源採取
からの収入を再配分することが重要である。アパレルなどの労働集約的なセクターでは、
中国が進出し勢力を拡大している(脚注 9 参照)が、産業の多様化や生産性の高いセクタ
ーとの水平的かつ垂直的つながりを構築することによって、アフリカにも成功する余地が
ある12。
報告書では、中国との貿易がもたらすアフリカの経済発展の機会を歓迎する一方で、社
会経済的に脆弱な国における不適切な利益配分を回避し、持続的な開発を実現するための
10 OECD “The rise of China and India: What’s in it for Africa?” 2006 年 5 月。
(http://www.oecd.org/document/58/0,2340,en_2649_33731_36759098_1_1_1_1,00.html)
11 主要な輸出資源の価格高騰によって、外貨収入が急増、実質為替レートが上昇し、製造業の
成長が妨げられる現象を指す。
12 例えば、西アフリカから中国への綿の輸出は、中国の繊維産業によって成長している。
3
総合的な政策をとる必要があることを強調している。また、援助国・援助機関は、アフリ
カ諸国が競争の激化に対応しやすくなるよう、
「援助としての貿易」に対する支援を強化す
るべきであると指摘する。
2-3.DFID
英国国際開発省(DFID)は、アフリカの貧困削減を重点課題としてあげており、中国の
活発な活動を貧困削減と開発にとってのチャンスだと捉えている。前述した「中国の対ア
フリカ政策文書」を基本とする援助枠組みを注視しつつ、英国はより効率的な援助を目的
とした中国とのパートナーシップの構築を模索している。実務レベルでの中国との援助経
験の共有を行っている他、中国がドナー会合などを通じた多国間協力の枠組みの中での開
発に参加し、役割を拡大するよう協力している。さらに、
「採取産業透明性イニシアティブ
(Extractive Industries Transparency Initiative: EITI)13」などの国際的な枠組みに中国
が参加するよう働きかけている。
DFID は、外からは見えにくいアフリカにおける中国企業の活動を把握するため、南アフ
リカ共和国のステレンボシュ大学中国研究センターに委託して、アンゴラ、シエラレオネ、
タンザニア、ザンビアにおける中国企業のインフラ整備事業を中心に調査を行った14。報告
書によると、中国-アフリカ貿易は中国のエネルギー・資源に対する需要と中国製品の市
場の拡大を背景として、90 年代において約 7 倍に増加した。アンゴラやザンビアなど一部
を除くほとんどのアフリカ諸国は対中貿易赤字を抱えているが、中国はインフラ整備など
の援助を供与したり、アフリカの輸出商品に対する貿易条件を改善したりすることによっ
て貿易赤字を和らげている。
中国企業はほとんどの労働者を本国から連れてきて、現地人には安い給与しか支払わな
いと見られている15が、調査した企業(アンゴラを除く)では、85~95%の従業員が現地人
であり、OJT(On the Job Training)なども活発に行われていた。また、中国企業によっても
たらされる技術は欧米企業と比べて高度ではないため、現地企業が模倣しやすく技術移転
が進んでいるとの指摘もある。貿易・投資以外の分野においても、中国とアフリカの距離
は急速に縮小しており、例えば、定期便の増便や入国ビザの申請手続きの簡素化が行われ
政府、民間、市民社会のステークホルダーが参加するイニシアティブで、2002 年に英国の提
唱により成立した。石油、ガス、鉱物資源からの政府歳入に関する会計監査とその情報開示を通
じて、政府の透明性と説明責任の向上を目指している。搾取産業は、ガバナンスの弱い国におい
て、貧困、腐敗、紛争を助長する恐れがあり、それを未然に防ぐ意味でも重要な役割を担ってい
る(EITI ウェブページより:http://www.eitransparency.org/)。
14 “China’s Interest and Activity in Africa’s Construction and Infrastructure”(DFID ウェブ
サイトより:http://www.dfid.gov.uk/pubs/files/chinese-investment-africa-full.pdf)。
15 エコノミストでは、
「多くの中国企業は現地人を雇用するのではなく、本国から中国人労働者
を連れてきている。中国からの技術移転はアフリカが期待するほど進んでおらず、単純に楽観視
はできない。
」と述べられている。また、労働環境の問題もある。ザンビアにある中国が所有す
る鉱山では、2006 年 7 月に労働条件の改善を求めた争議があり、何人かの労働者が射殺される
事件が起こっている(The Economist Oct 28th –Nov 3rd 2006)。
13
4
た。一方、アフリカからヨーロッパや北米へのアクセスはますます制限され、移民政策も
厳しくなっているため、中国とアフリカとの関係はより一層強化される傾向にある。
3.中国の対アフリカ政策の重点と問題点16
3-1.中国の対アフリカ政策の目的
2006 年 1 月に発表された「中国の対アフリカ政策文書17」では、その前文で、アフリカ
は発展途上国が最も集中した大陸であり、中国は世界最大の途上国として、アフリカとの
対等な関係に基づく友好関係を発展させ、世界の平和と各国の共同の繁栄を目指すことが
方針として示されている。内容を簡潔に紹介すると、第三部では、対アフリカ政策の原則
と目標が記され、アフリカ諸国との誠実・友好、平等な関係を強調し、アフリカ諸国が発
展の道を自主的に選ぶのを尊重するとされている。また、一つの中国政策(One-China
Policy)を掲げており、「中国政府は大多数のアフリカ諸国が一つの中国の原則を順守し、
台湾と公式の関係を持たず、公式の往来をせず、中国の統一の大業を支持していることを
評価している。中国は一つの中国の原則を基礎に、未国交国と国家関係を樹立し発展させ
ることを願っている。」と明記されている。第四部では政治、経済、教育・社会、平和・安
全保障等の分野における、より具体的な目標が示されている。貿易に関しては、アフリカ
からの資源輸入の増加に伴って、中国の貿易赤字が拡大しており、アフリカの輸出商品に
関する関税免除措置などを通じた二国間貿易の構造改善が課題としてあげられている。投
資については、中国企業のアフリカ投資を促進するための優遇借款と優遇輸出バイヤーズ
クレジットを引き続き供与し、また、アフリカ諸国と協力して投資環境整備を実施する。
経済援助については、「政治的条件のつかない援助を提供するとともに、徐々に増やしてい
く」と記されており、援助を通して途上国のガバナンス問題に取り組む先進国ドナーとは
異なるアプローチを採用している18。
3-2.同政策展開の特徴
ケネス・キング教授19は「中国のアフリカ支援は西欧諸国による援助とまったく対照的で、
日本の初期の東南アジア等に対する支援と比較可能である。日本の東南アジアに対して行
ってきた貿易、投資、援助が一体となった統合的なアプローチ、自助努力とオーナーシッ
プをもとにしたインフラ、経済成長の支援は、現在の中国の援助にも多く見られる。実際、
中国のアフリカ支援はインフラが 79%、36 カ国で 260 のプロジェクトを実施してきた。西
菅野悠紀雄政策研究大学院リサーチ・フェローより構成、中国の対アフリカ政策に関し示唆
に富むコメントを得た。
17 在日中国大使館ホームページより入手可能。
(http://www.fmprc.gov.cn/ce/cejp/jpn/zgbk/t230934.htm)
18 世界銀行の CDF(包括的援助枠組み)に基づく援助や英国 DFID 等が奨励する一般財政支援
は、ドナー間協調を前提とした上で、援助供与のための条件を与えることで途上国政府のキャパ
シティ・ディベロップメントおよび Pro-poor 政策(貧困層のための政策)の促進を図っている。
19 英国エジンバラ大学名誉教授(2007 年 1 月 29 日 JICA 国総研セミナーにて)
。
16
5
欧の援助政策は構造調整融資を行った後に、MDGsを設定するなど、常にアジェンダが変
化しており、財政支援やセクターワイド・アプローチは必ずしも上手く進んでいない。」と
述べている。
欧米の援助国と比較すると、中国の援助原則は、条件なし、相互平等、依存しない、専
門家の特権待遇を求めない等であり、先進国にとっては資源以外に、貿易、投資面ではあ
まり魅力のないアフリカであっても、可能性の満ちている「機会の大陸」と捉えている。
条件をつけないため、人権、ガバナンス、民主主義等の西欧の基準が満たされない国でも
援助対象となり得る。透明性が低いため、外部から援助の実態も把握しにくい。更に、中
国はアフリカ諸国との関係強化の手段を戦略的、弾力的、機動的に行使してきた。特に、
政府と民間の区別が明確ではないため、政府、現地大使館が経済関係促進の役割を果たし
てきた。
3-3.中国のアフリカ開発への貢献
新華社通信等のメディアでは中国のアフリカ向け援助の情報は断片的に報道されている
が、その全体像は把握しにくい。2006 年 11 月には第 3 回「中国・アフリカ協力フォーラ
ム(通称「北京サミット」
)」を開催し、41 カ国首脳を含む 48 カ国とアフリカ連合が参加し
た。北京サミット宣言では、中国は 2009 年までのアフリカ支援額の倍増、今後 3 年間で借
款 30 億ドル、バイヤーズクレジット 20 億ドルの供与、中国・アフリカ開発基金(50 億ド
ル)の創設、無利子債務(2005 年返済期限分)の帳消し、中国への輸入無関税品の増加、
アフリカ人研修(15,000 人)、アフリカ留学生奨学金枠の倍増(4,000 人)、2010 年までに
貿易額を 1,000 億ドルレベルへの増加を表明している。これらが実現されれば大きな貢献
となるであろう。
3-4.同政策と国際協調
中国は世界最大の途上国でありながら、国連の常任理事国でもあるため、その外交的な
インパクトも大きいと考えられる。しかし、DAC メンバーではないため、開発援助のモダ
リティーや目標が他の先進国とは共有されにくく、その意味で DAC メンバーが唱える「援
助協調」は新たな試練を迎えていると言える。
アフリカにおける中国の外交的プレゼンスは、二国間および FOCAC などを通じた多国
間レベルで拡大している。中国は、貿易、投資、軍事分野での支援を通じて天然資源への
アクセス(さらには安い商品の市場)を獲得しており、このことは欧米企業が行っている
内容と大差はないが、特にナイジェリア、アンゴラ、ザンビア、スーダンなどの天然資源
が豊富な国との関係強化を求める傾向が強い20。「中国の対アフリカ政策文書」でも述べら
れているように、中国はアフリカ諸国との対等な関係を強調し、支援に伴う内政干渉を行
わないという姿勢を示している。長年、先進国ドナーから「指導」あるいは制裁を受けて
20
DFID ウェブサイトより。
6
きたアフリカ諸国にとっては、中国は魅力的なドナーであると言える。しかし、このよう
な中国の経済的・政治的影響力の拡大に伴って、貿易赤字や石油採掘に関連する問題21も表
面化している。また、中国とスーダンとの「協力関係」に対しては、ダルフールの紛争に
関連する国際的な反対圧力も増している22。DFID では、ドナー会合や EITI などの国際的
な枠組みに中国を巻き込むことによって、ドナーとしての中国との関係構築を模索してい
るが、特に脆弱国家における貧困、腐敗、紛争、債務問題を解決するためにも、中国を含
めたドナー協調がますます重要となっている。
4.おわりに
中国の援助を巡るポジティブ面とネガティブ面からの議論を要約すれば、前者は中国か
らの投資がアフリカの輸出や民間セクターを活性化させ23、アフリカの貧困削減に貢献する
というもの、後者はガバナンスに問題のある政府にも支援を行うことによって民主化の促
進に悪影響を与える上、透明性がないため援助の実体がわかり難く、貸付が多いため債務
が増える、更に安い中国製品の流入によって現地産業の発展が妨げられるというものであ
ろう。
最後に、援助国中国の台頭を踏まえ、日本の援助戦略・アプローチのあり方を考えたい24。
従来、OECD の DAC 会合での議論は、ヨーロッパの援助国主導で行われて来た。国により
多少の意見の違いはあるものの、欧州援助国が同じ舞台の上で議論を先導してきたのに対
し、日本と米国は舞台の外から議論をしているように思われる。日本の TICAD は、1993
年から 5 年ごとに開催され、2008 年で第 4 回目を迎える。TICAD を始めた90年代前半
は、欧米の援助国が援助疲れや冷戦後の旧ソ連邦と東欧への援助増加のため、アフリカ向
け援助を削減し始めた時期であり、日本のアフリカ開発への積極的姿勢は大きな意味があ
った。歴史的な背景により形作られていた先進国とアフリカの国際関係のルールをオーナ
エチオピアにある中国が所有する石油採掘場が、エチオピアからの分離を求める反乱軍の攻
撃を受け、中国人 9 人、エチオピア人労働者 65 人が殺害されるという事件が起こった。中国は
安定的なエネルギー供給を求めて、アフリカにおける投資を拡大し影響を強めている(2007 年
4 月 25 日、BBC ニュースウェブサイトより:http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/6590519.stm)。
22 アムネスティー・インターナショナルは、国連の武器禁輸の取り決めを破って、中国とロシ
アがダルフールにおける紛争に使用するための武器をスーダンに供給していると主張した。両国
とも、合法の輸出を行っており、武器禁輸の取り決めを破っていないと否定している。スーダン
の豊富な石油資源を背景に(中国はスーダンの石油輸出先シェアの 64%を占める)、中国はスー
ダンとの軍事協力を進めている。2005 年の貿易統計によると、中国は 2,400 万ドル、ロシアは
2,100 万ドルの軍事物資をスーダンに輸出した(2007 年 5 月 8 日、BBC ニュースウェブサイト
より:http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/6632959.stm、
http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/6634639.stm)。
23 サハラ以南アフリカの実質 GDP は 2001 年から 2004 年までに平均で 4.4%上昇している
(同
上)。
24 高瀬国雄国際開発センター顧問、TICAD 市民社会フォーラム理事より示唆に富むコメントを
得た。
21
7
ーシップとパートナーシップという概念の導入による、変革の役割25もあったかも知れない。
しかし、全ての会合を日本で開催し、会議中心で開発援助や民間の活動の活発化といった
具体的成果は見えにくいとの意見もある。これに対して、中国が 2000 年から始めた FOCAC
は 3 年ごとに 2009 年で第 4 回目を迎え、開催場所も中国とアフリカを交代にしており、内
容も開発、投資、貿易の組み合わせによって、既にきわめて大きな政治、経済、社会的イ
ンパクトを与えている。中国の迫力に比べておとなしすぎる日本は 2008 年に開催する
TICAD4を「アフリカ開発戦略の具体化」の出発点とする機会と捉えるべきであろう。
将来の開発援助の世界では、世銀、欧州諸国、米国の欧米アプローチと、中国、インド、
韓国、ASEAN のアジア的アプローチが二大潮流となっているかもしれない。援助コミュニ
ティーでの議論やアプローチにおいて、周辺部分にいた日本が、長年の欧州諸国との対話
経験、アジアの援助国中国との共通点を生かして、全体の議論をまとめる役割を果たす可
能性もあると思われる。日本は欧州か、中国か、といった二者択一ではなく、日本が最も
開発に有効と信じる戦略・アプローチを提示し、全体をまとめる努力をすべきであろう。
Shinsuke Horiuchi, TICAD after 10 Years: A Preliminary Assessment and Proposals
for the Future, African and Asian Studies, volume 4, no.4, 2005.
25
8
参考文献リスト
山本達郎「鄭和の西征」東洋学報、1934
井上和子「中国が構築する戦略的対アフリカ関係」The World Compass, June 2005
(http://www.mgssi.com/compass/0506/05.pdf)
小島末夫「中国の“走出去”戦略と対外投資奨励」
『季刊
国際貿易と投資
No.61 Autumn 2005』
国際貿易投資研究所
OECD “The Rise of China and India: What’s in it for Africa?” 2006
Center for Chinese Studies, Stellenbosch University “China’s Interest and Activity in
Africa’s Construction and Infrastructure” 2006
The Economist “Never too late to scramble” Oct 28th –Nov 3rd 2006
The World Bank “Africa’s Silk Road: China and India’s New Economic Frontier” 2006
Shinsuke Horiuchi, TICAD 10 Years: A Preliminary Assessment and Proposals for the
Future, African and Asian Studies, volume 4, no.4, 2005
BBC ニュース:http://news.bbc.co.uk/2/hi/africa/6590519.stm
新華通信ネットジャパン http://www.xinhua.jp/
9