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実践性の高い砂漠化対処技術や普及法の開発と実証-地域の特徴や

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実践性の高い砂漠化対処技術や普及法の開発と実証
-地域の特徴や人々の暮らしとの親和性を与える技術設計を意識して-
田中樹,佐々木夕子,清水貴夫(以上地球研),伊ヶ崎健大(首都大),真常仁志(京大農)
1.はじめに
アフリカ半乾燥地は,砂漠化の最前線の一つである。砂漠化問題は,資源・生態環境の劣化にとどまらず,貧
困問題と不可分に結びついている。わが国を含む『国連砂漠化対処条約(UNCCD,1994)
』の批准国には,問題解
決のための学術研究と社会実践の両面での貢献が長らく求められてきた。砂漠化問題の深刻さと解決への進捗の
遅れは,人々の暮らしを支える農耕や牧畜,薪炭採集など日常的な生業活動に原因している点にある。一方で,
砂漠化対処をめぐる知識や技術には,先人のたゆまぬ努力による在来技術や新規技術を含めた膨大な蓄積がすで
にある。これらの技術群を実効ある砂漠化対処や地域開発支援に活かすには,対象地域の社会・生態環境の特徴
や人々の暮らしの実態と対処技術との親和性を高めることが必要である。また,定番化した既存技術や住民参加
型アプローチにもこの視点を加えた丁寧な検証と改良が求められる。
2.サヘル地域の社会・生態環境の特徴
本研究の対象地は,サヘル地域と呼ばれる西アフリカのセネガル,モーリタニア,マリ,ブルキナファソ,ニ
ジェール,チャドなどにまたがる地域である。年降雨量が 150mm~500mmのサヘル・サバンナ帯に位置し,
ここには夏雨地帯の農耕限界線(年降水量 250mm~300mm)が含まれる(門村ら,1991)
。それ故,サヘル地
域は,複数の民族(農耕民と牧畜民)が居住する農牧混交地域であり,それぞれの生業が植生や土地資源をめぐ
って季節的に交錯するという特徴を持つ。この地域には,東西に延びる古砂丘帯と周辺部に砂質土壌が広く分布
し,トウジンビエやササゲなどの天水耕作に利用されている。この砂質土壌は,風や水による土壌侵食に対して
脆弱であるものの,一般に認識されているのとは逆に,その土層の深さに由来する養水分の保持能力など高い潜
在性を有する。不規則な降雨分布による頻発する干ばつは,人々の暮らしを脅かし貧困の連鎖を生む背景となっ
ている。一方で,これらの「危機」に対して,世帯や地域レベルでの生業複合や出稼ぎなど様々な対処行動が見
られ,これらの知見は,この地域における農耕民や牧畜民の生存適応のあり方を理解し砂漠化対処に活かす助け
となる。砂漠化や貧困問題が顕在化しているだけに,サヘル地域には国際社会からの地域開発支援の手が差し延
べられ,住民参加型アプローチが広く採用されるようになった。反面,支援手法の形骸化(Gueye,1995)や磨
かれた修辞の裏に外部者に都合のよい解釈や意図が紛れ込む懸念(Reij et al.,1996)が指摘されている。地
域開発支援の取り組みが地域の人々の外部依存を引き起こしている実態や人々の離合集散の歴史から地域社会
の情報伝達や相互扶助の意識が希薄であるケースも報告されている。これらも地域を特徴付ける所与の事実と認
識し,外部者関与のあり方を再検証する必要があろう。
3.砂漠化認識と技術論
(1) 砂漠化認識や地域理解と対処技術をめぐる誤謬
砂漠化対処や地域開発支援の大前提は,砂漠化問題や対象地域の状況や社会・生態環境を的確に理解すること
である。1980 年代中盤からのいわゆる「砂漠化キャンペーン」により定着した砂漠化認識は,
「過耕作,過放牧,
過剰伐採,乾燥化」など実態不明瞭な原因と「移動砂丘,裸地の拡大,侵食された大地」という末期的景観を用
いる図式である。同様に,乾燥化に伴う気候生態区分としての砂漠の拡大と人間活動に起因する資源・生態環境
の劣化や土地荒廃の広がりが,しばしば区別されることなく「砂漠化」という言葉で括られる。前者の認識を起
点に提案される典型的な対処法の例が,
「砂漠の緑化」であり「砂漠の拡大を防ぐための長大なグリーンベルト
の設置」である。これは,西アフリカ内陸部半乾燥地では様々な理由により成立しえない。個々の技術に目を向
けると,例えば,対処技術の定番の一つでもある風食防止のための「樹木の植栽(防風林・防風垣)
」がある。
しかし,サヘル地域の砂質土壌帯では,風下側の土壌が抉れ,その土面の凹凸がさらに風食を加速するという状
況が観察される。ブルキナファソを中心に実践されている在来技術であり有望な対処技術と見なされている石列
(ディゲット)は,その技術内では水食抑制や土壌水の涵養に合理性はあるが,材料となる石(岩石やラテライ
ト塊)
の運搬は援助団体に委ねられるなど外部依存性が高く,
それなしで実践できる地域や住民は限られている。
(2) 人々の暮らしの実態やニーズからみた対処技術の親和性
砂漠化問題の深刻さは,地域の人々の暮らしを支える農耕や牧畜,薪炭採集などごく日常的な生業活動により
引き起こされる点にある。原因を維持しながらの対処となるため,暮らしのスケールでの丁寧なフィールド研究
の積み重ねとそれに裏打ちされた技術論が必要とされる。一方で,砂漠化対処をめぐる知識や技術には,先人の
たゆまぬ努力による在来技術や新規技術を含めた膨大な蓄積がすでにある。これらの技術群を砂漠化対処や地域
開発支援に活かすには,対象地域の社会・生態環境の特徴や人々の暮らしの実態と対処技術との親和性を高める
ことである。そのためには,人々の暮らしを優先させる認識が不可欠である。暮らしの安定や生計向上に資する
生業活動を通して,結果として資源・生態環境の保全や砂漠化抑制が図られるような技術設計が必要である。ま
た,定番化した対処技術や住民参加型アプローチにもこの視点を加えた丁寧な検証が求められよう。
4.実践性の高い対処技術や普及法の提案
既に述べたような背景や認識に立ち,発表では,砂漠化対処へのプロトタイプ技術として,
「耕地内休閑シス
テム」
・
「多年生草本アンドロポゴンの草列」および社会ネットワーク手法を活用する技術普及法」を紹介する。
「耕地内休閑システム」は,労力や資材を投入することなく,乾季の風による侵食(風食)を抑制し,同時に作
物収量を増やす技術である。1 年目の雨季に農耕地のなかに播種も除草もせずに幅 5mの休閑植生帯を作り,乾
季には風により運ばれる肥沃な土壌や有機物を留め,翌年以降,休閑植生帯をずらしながら耕作することで農耕
地全体の作物の収量を向上させることがでる
(作物の増収効果は 30~50%程度,
風食抑制効果は 65~75%程度)
。
2012 年 5 月の時点で,ニジェール国 3 州 9 県 44 村落 372 世帯がこの技術を導入している。
「多年生草本アンド
ロポゴンの草列」は,試験圃場と村落での実証を行なっている。自生するアンドロポゴンと他地域の在来技術で
あるザイを組み合わせ農耕地に等高線状に配することで水食を抑制し,一方で穀物倉の材料や生活資材(あるい
はこれらの域内市場での販売による現金収入)を得る技術である。
「社会ネットワーク手法を活用する技術普及
法」は,住民参加型アプローチにおいて「ブラックボックス」であった対象村落の人間関係や情報ネットワーク
を把握する手法を組み込んだものである。対象地域や人々と導入技術との間のインターフェースをとる技術設計
の一例として紹介したい。
参考文献
Gueye, B., 1995. “Development of PRA in Francophone Africa: lessons from the Sahel”, PLA Notes, 24, 70 - 73
門村浩,竹内和彦,大森博雄,田村俊和,1991.『環境変動と地球砂漠化』,朝倉書店,276 pp.
Reij, C., Scoones, I., and Toulmin, C. (ed), 1996. “Sustaining the soil: indigenous soil and water conservation in Africa”,
Earthscan, London, 260 pp.
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