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「新世代ネットワーク技術戦略の実現に向けた萌芽的研究」の成果について
1.施策の目標
・本研究では、アシュアランスネットワーク技術の基本概念を確立し、その統一的な設計法を提案するとともに、トラスタブルな端末・インフラ・
サービスアプリケーション(見守りサービスアプリケーション、プロトコル選択可能なネットワークアーキテクチャ、コミュニティネットワークアー
キテクチャが提供するサービスアプリケーション)へ適用し、シミュレーション等によりアシュアランス性を評価し、その有用性を実証する。
2.研究開発の背景
・ユーザからの異種でかつ変化する要求に対するディペンダビリティ、セキュリティ、適時性、適応性を満たす性質はアシュアランスと定義され
る。アシュアランスネットワークの実現には、耐故障、実時間、自律、移動、知識などの統合技術が必要とされるが、その具体的実現は挑戦
的課題である。
3.研究開発の概要と期待される効果
・アシュアランスネットワーク技術を用いることでシステムの大規模化、ネットワーク環境の変動、セキュリティに対する攻撃や故障を引き起こす
フォールトの存在などネットワークサービスに対する複雑化要因が存在した場合でもネットワークサービスのリアルタイムな提供が期待できる。また、
トラスタブルな端末・インフラ・サービスアプリケーションそれぞれへの適用事例を示すことにより、その概念の有用性を実証している。また、アシュア
ランス性の数学的定義を設定し定量的な評価を可能とすることで、アシュアランス性の議論の活性化が期待できる。
アシュアランスネットワーク技術
複雑化要因
システムの大規模化
ネットワーク環境の変動
セキュリティに対する攻撃
フォールトの存在
バージョンの異なる
サブシステム
ユーザ
複雑要因が存在しても
リアルタイムなサービス提供
4.研究開発の期間及び体制
アシュアランスネットワーク技術に基づいた手法の提案
・ 自律分散クラスタリング : アシュアランスシステムの設計に基づいた、
大規模ネットワークを自律分散システムが互いに結合したものとして制御
する方式
・ ATR : ルーティングポリシの異なる複数のサブネットワークにおい
て、ネットワーク全体の管理者が他のサブネットへの経路情報再配布の
設定を行うことなく複数サブネットをまたがって通信する技術
・ 見守りサービスアプリケーション (課題イ)
フォールトをもつ
サブシステム
・ アシュアランス性を示す指標を定義
・ アシュアランスネットワーク技術の議論を
行う枠組みを作成した
平成22年度 (1年間)
NICT委託研究(広島市立大学、東京工業大学)
1
課題ア:アシュアランスネットワーク技術の基本概念と統一的な設計法の主な成果
アシュアランスネットワーク技術
バージョンの異なる
サブシステム
複雑化要因
システムの大規模化
ネットワーク環境の変動
セキュリティに対する攻撃
フォールトの存在
ユーザ
複雑要因が存在しても
リアルタイムなサービス提供
フォールトをもつ
サブシステム
アシュアランスネットワークの基本概念の検討
オーバヘッド
パフォーマンス
・ネットワークの複雑要因による時間的及び空間的な変化に対する耐性
をアシュアランスと考え、その尺度としてこれらの要因に基づくネットワー
ク環境の変化に対するパフォーマンスの安定度をアシュアランス性と定
義する。
・アシュアランス性が高いネットワークは環境の時間的及び空間的変化
が起こった場合においてもパフォーマンスを高く維持できるものと定義で
きる。そのため、パフォーマンスを多様な環境、環境の変化、空間に対し
て積分を取ることでアシュアランス性を導出できることを示した。
低い
高い
ネットワークの複雑性
アシュアランスネットワークの統一的設計法の検討
1.ネットワークの規模を上限と下限の間に制限した重ならないサブネットワーク
に分割する
2.右図で示したネットワークの複雑要因に対する状態変化への適応のため、各
サブネットワークにリアルタイム自己組織化制御機能を組み込む
(1) 動的変化への対応
サブネットワークにおいて得られる局所情報に基づいて自律的に認識し、
動的変化に適応するようにリアルタイムに自己組織化制御を実行する。
(2)セキュリティに対する攻撃からの回復
ネットワーク外部からのイベントに起因する、正常状態から異常状態への
遷移でモデル化する。攻撃はサブネットワークにおいて得られる局所情報に
基づいて自律的に認識し、攻撃からの回復のためにリアルタイムに自己組
織化制御を実行する。
(3)故障からの回復
ネットワーク内部からのイベントに起因する、正常状態から異常状態への
遷移でモデル化する。フォールトはサブネットワークにおいて得られる局所
情報に基づいて自律的に認識し、フォールトからの回復のためにリアルタイ
ムに自己組織化制御を実行する。
3.上述したアシュアランスネットワークの統一的設計法はモバイルアドホックネッ
トワークの設計に適用可能であることを具体的に示している。統一的設計法は、
サブネットワークを構成するノードの隣接性の捉え方により、モバイルアドホック
ネットワークだけでなく、センサネットワーク、センサネットワーク、オーバーレイ
ネットワーク、コミュニティネットワークなどにも適用可能であり、汎用性は高い。
(2) 外部からの攻撃
(1) 動的変化
低い
高い
ネットワークの複雑性
アシュアランス性 高
アシュアランス性 低
アシュアランス性評価のための概念図
(3) 故障
Normal state space
Abnormal state space
ネットワークの複雑要因に対する3種類の状態変化
2
課題イ:見守りサービスアプリケーションの主な成果
見守りサービスアプリケーション
自律分散クラスタリング手法
1.自律分散クラスタリングのアシュアランス化技術
・アシュアランスネットワークの基本概念に基づき自律分散クラスタリングの
アシュアランス化を行う手法について検討した。
・各クラスタ内のノードの密度や移動に対して、クラスタ内のノードの隣接情
報からクラスタの状態変化を検知し、ノードの送受信電力を適応的に変化さ
せることで所望の特性を持つことをシミュレーション実験によって確認し、同
時にノード密度、移動等の変化に対して追従性を向上できる手法を開発した
・端末数で制御されたクラスタに分割して管理する技術
・ネットワーク中の端末数が増加してもクラスタ内の端末数
を一定に保つことができるため、情報収集の遅延や未検出
を防ぐことができる
2.見守りサービスアプリケーションへの応用評価
・見守りシステムにモバイルアドホックネットワークならびに自律分散クラスタ
リング手法を用いつつ、転送データの傍受等に対抗できる見守りシステムと
見守りサービスアプリケーションの構成を目指している。
・本研究において、実際の登下校データを用いたシミュレーション実験を行っ
た結果、見守りサービスアプリケーションが有用に働くことを確認できた。また、
登校、下校の際にはそれぞれクラスタメンバ数が増加していく方向、減少して
いく方向に変化する。この変化の違いにより我々の手法が異なった特性を示
すことが確認できた。
学校
Cluster B
電柱タグ
子供の安否を確認
サーバ
管理端末
端末
クラスタ
ツリー
無線リンク
B
A
C
D
Cluster C
Cluster D
自律分散クラスタリングによるネットワークの分割
秘密分散法
インターネット
子供の安否を確認
メッシュネットワーク
Cluster A
・情報を分割してマルチパスを用いて送信する技術
・分散された情報の一部だけでは復号できないため、第三
者からの傍受に強くなる
N-1
N-6
N-3
家庭
メッシュネットワークを介した
見守り情報の収集
Sink
N-4
Node
自立分散クラスタリングを
用いてグループを形成
見守りサービスアプリケーションの実用例
N-2
N-5
N-7
秘密分散法による情報分散
3
課題ウ:動的にプロトコル選択可能なアーキテクチャに関する主な成果
トランスポートプロトコルの動的変更技術の検討
有線環境および無線環境におけるトランスポートプロトコルの特性
利点
TCP
UDP
欠点
有線回線における輻輳の回
避、および信頼性の保証
無線回線のようなパケットロ
ス率が高い環境で、高い帯
域利用率が得られる
無線回線のようなパケットロ
ス率が高い環境で十分な性
能が得られない
送信レートを端末の状況によ
り動的に調節できないため、
有線回線で輻輳を発生させる
可能性あり
クロスレイヤ制御技術の検討
無線LAN環境におけるQoS保証技術
• QoS保証TCP:トランスポート層の制御のみ利用した技術
• QoS保証MAC:MAC(データリンク)層の制御のみ利用した技術
 従来のQoS保証技術は各層で独立に検討され、組み合わせた
場合の効果や振る舞いは不明
提案
QoS保証TCPとQoS保証MACを共用した
フローQoS制御技術
提案
通信中にTCPとUDPを動的に切り替える方式
クロスレイヤ制御
TCP
利用
パケットロス率と
輻輳状況に応じ
て動的に切り替え
UDP
利用
シミュレーション評価の結果、TCPやUDPの単独利用と比較し
て、パケットロスが発生しやすい環境において、背景トラヒック
との公平性が改善され、かつ、スループットが向上することを確
認
<組み合わせた制御>
QoS保証TCP:TCP-AV
QoS保証MAC:ROC(Receiving Opportunity Control),
IEEE802.11e
シミュレーション評価を行った結果、QoS保証TCPを単独で
利用した時よりも高い帯域制御能力があることを確認
4
課題エ:コミュニティネットワークアーキテクチャと技術の主な成果
コミュニティネットワークアーキテクチャと技術
ワイヤレスセンサ
ネットワークシステム
自律マルチレイヤー災害支援システム
・大規模災害時、従来の集中管理により膨大な情報を早く共有するための即応性、
的確にエリア把握する精度が課題
・本研究では、3レイヤー型の災害支援システムを構築し、救助ノードは被災ノードの存在を
自律的に把握し協調して包括的にコミュニティを構築する技術を提案した。
コミュニティ
・無駄の効用
-平時に非合理・非
効率の施行 に
より、有事の予測
不能な状況変化
に対応
・共鳴による共生
-個の主観に基づ
いた情報の共通
部分が発現し、相
互に協調
自律マルチレイヤー災害支援システム
アーキテクチャ
自律映像配信システム
自律分散コミュニティワイヤレスセンサネットワークシステム
1.原子力発電所の設備モニタリングシステム
・異常発生時の情報爆発によるリアルタイム性の悪化が課題
・本研究では、コミュニティを構築し、ルータ間で自律的に協調して重要でない情報を抑制する
ことにより、リアルタイム性が求められる異常情報を優先して伝達する技術を提案した。
自律包括型コミュニティ構築技術
・従来の映像配信システムではネットワークと配信ノードの障害による映像配信継続性の保証と
サービス信頼度の低下が課題
・本研究では、差分割圧縮技術を用いて、大多数のユーザが要求する低品質データほど広く多く
のノードに分散配置されるにより、各ノードのデータ処理負荷が分散されると同時に継続性を
保証することができる。
2.食品生産管理システム
・製造ラインの頻繁な変更や検査項目の増加による拡張性の低下が課題
・本研究では、ルータコミュニティ内での情報共有により、迅速かつ柔軟にセンサを付け替える
ためのコミュニティ内協調技術とコミュニティ間協調技術を提案した
自律データ抑制技術
自律協調技術
自律映像配信システム
実験プロトタイプ
5
1.
これまでに得られた成果
新世代ネットワーク技術戦略の
実現に向けた萌芽的研究
2.
論文
外国発表予稿等
収録論文
一般口頭発表
展示会
10
32
21
19
5
研究成果発表会などの開催について
(1) 国際会議ISADSの主催と論文発表
国際会議ISADSを主催するとともに、アシュアランスネットワークに関する
2011年3月23日~3月27日
論文発表を16件行う予定である。
(2) 国際ワークショップADSNでのアシュアランスネットワークに関する議論
国際ワークショップADSNにおいて新世代ネットワークに関する基調講演を
招待するとともに、アシュアランスネットワークに関するパネル討論および
特別セッションを実施する予定である。
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