STR-C0006 再生医療製品におけるLC/MS/MSによる 残留抗生物質の濃度測定法の確立 ヒトから採取した細胞を培養して、細胞・組織等の再生医療製品を製造する際には、抗生物質を使用することが多い。抗生 物質はアレルギー等を引き起こす場合があるため、製品中に残留する抗生物質が安全上問題のないレベルであることを評 価する必要がある。そこで、ES/iPS細胞培養で使用されるマイトマイシンC及びペニシリンGをモデルに、高速液体クロマト グラフタンデム型質量分析法(LC/MS/MS)による細胞培養液及び洗浄液中の抗生物質同時定量法を確立した。測定の実 例として、mouse embryonic fibroblast(MEF)培養中の培地及び培養細胞洗浄液中の抗生物質の測定を行った。 再生医療製品の不純物測定の必要性と測定のポイント 再生医療製品中の抗生物質測定のポイント 厚生労働省通知 ・製品中の残留レベル:可能な限り低濃度まで測定する必要がある。 薬食発第0208003号平成20年2月8日及び 薬食発第0912006号平成20年9月12日 ・測定の妨害となる多くの夾雑物(アミノ酸類、ビタミン類、血清由 再 生 医 療 製 品 の 品 質 管 理として、製 造 工 程由来 の 不純物(抗生物質など)の把握が必要である。 来タンパク、無機塩)の影響を排除する必要がある。 測定対象 マイトマイシンC (MMC) [M+H]+ m/z=335 抗腫瘍性抗生物質 フィーダー細胞の 増殖を抑制 ペニシリンG (PCG) Product ion m/z=160 β-ラクタム系抗生物質 細菌の細胞壁合成阻害 Product ion m/z=242 MW=334.3 [M+H]+ m/z=335 MW=334.3 PCGプロダクトイオンマススペクトル MMCプロダクトイオンマススペクトル アミノ基(-NH2)あるいは、イミノ基(-NH-)を持ち、ポジティブイオンとして検出可能。同一m/zのプロトン付加 イオンを生成するが、Selected Reaction Monitoring(SRM)により異なるm/zのプロダクトイオンを検出。 抗生物質の定量法 微生物学的力価試験法 (日本薬局方) 高速液体クロマトグラフ法 (HPLC-UV) 高速液体クロマトグラフ タンデム型質量分析法(LC/MS/MS) 測定方法 抗菌活性に基づく測定 クロマトグラフィーによる分離と UV検出器による検出 クロマトグラフィーによる分離と 質量分析計による検出 選択性 × ○ UV吸収を持つ化合物のみ検出 ◎ 高い選択性 感度 △ mgオーダー以上 ○ µgオーダーまで可能 ◎ pgオーダーまで可能 測定時間 △ 数日 ◎ 数十分以内 ◎ 約10分以内 用途 抗生物質原薬・製剤等の 力価測定 抗生物質原薬・製剤等定量法、 洗浄バリデーション試験 生体試料中微量分析 洗浄バリデーション試験 細胞、培養液等の 測定の可否 × 選択性が無く、感度も不足 ○ △ 微量測定は困難、共存する夾雑物の影響大 複雑なマトリックス中でも高感度測定が可能 標準溶液測定のクロマトグラムおよび検量線 MMC PCG MMC検量線 0.1∼100ng/mL PCG検量線 0.1∼100ng/mL 約10分の測定時間で同時測定可能 直線性良好(r=0.9999) 装置導入絶対量0.5pgで検出可能 PCG、MMC同時測定クロマトグラム マウスES細胞培養のためのFeeder細胞の培養および増殖停止処理 Feeder 細胞播種 ゼラチンコート したdish MMC (終濃度:10 µg/mL) Feeder細胞播種 PBS 3時間培養しMMCを 細胞に浸透させる PBS洗浄を3回繰り返し MMCを除去する マウスES細胞の 培養開始 Feeder細胞 測定試料として使用 mouse embryonic fibroblast(MEF)細胞 細胞洗浄によるPCGの除去 培養液中PCGはPBSによる3回洗浄により、99.8%除去。 洗浄液(3回洗浄)測定試料溶液中 絶対量 3.4 pg Intensity, cps Intensity, cps 培養液測定試料溶液中 絶対量 433.5 pg Time (min) Time (min) MRMクロマトグラム PCGの洗浄除去率 細胞洗浄によるMMCの除去 培養液中MMCはPBSによる3回洗浄により、99.7%除去。 洗浄液(3回洗浄)測定試料溶液中 絶対量 0.6 pg Intensity, cps Intensity, cps 培養液測定試料溶液中 絶対量 57.0 pg Time (min) MMCの洗浄除去率 Time (min) MRMクロマトグラム 高速液体クロマトグラフタンデム型質量分析法(LC/MS/MS)による細胞培養液及び洗浄液中のペニシリンG及びマイトマ イシンCの同時定量法を確立した。PCG、MMCいずれも0.1∼100ng/mLの濃度範囲で濃度とレスポンスが良好な直線性を 示し、夾雑物の多い培地及び細胞洗浄液中の微量のPCG及びMMCの同時定量が可能であった。本法は、培地や洗浄液だ けでなく、細胞や組織中の微量抗生物質濃度測定に応用可能であった。再生医療製品中の残留抗生物質の定量法として用 いることができ、再生医療製品の品質管理に役立つと考えられる。
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