植物への遺伝子導入効率を劇的に向上させる方法で「21 世紀発明奨励賞」受賞 植物への遺伝子導入はシロイヌナズナやイネなどのモデル植物ではうまくいっても、他の 植物では難しいことが多く、植物の基礎研究を行う上で大きな問題となっています。また 遺伝子組換え作物の実用化と言った点からも、多様な植物に遺伝子を導入する方法の必要 性は高くなっています。 筑波大学遺伝子実験センターの江面教授らは、「スーパーアグロバクテリウム」を開発し、 遺伝子導入の効率を劇的に向上させることに成功しました。 ************** ■アグロバクテリウム法とは? 植物に遺伝子を導入する方法には大きく分けて二つある。一つは細胞内に DNA を撃ち込 むパーティクル・ガン法。もう一つは、アグロバクテリウム法である。 アグロバクテリウムというのは、土の中にいる細菌であり、バラなどの植物に「根こぶ 病」を引き起こす。アグロバクテリウムは、植物の細胞に遺伝子を送り込み、細胞分裂を 促し、こぶ状の塊を形成させる。同時にアグロバクテリウムの生育に必要な栄養(アミノ 酸)を植物に生成させる。これにより住みかと食事を同時に確保することができるのだ。 「植物の細胞に遺伝子を送り込む」という性質を利用して、「発現させたい遺伝子をアグ ロバクテリウムの DNA に組み込み、植物に送り込む」のがアグロバクテリウム法である。 パーティクル・ガン法に比べて、導入効率が高いため、現在行われている植物の遺伝子組 み換えの 95%はアグロバクテリウム法による。 ■アグロバクテリウム法の限界 アグロバクテリウム法にも限界がある。シロイヌナズナやイネなどのモデル植物にはア グロバクテリウム法が有効で、遺伝子導入効率も高いのだが、実用植物では遺伝子導入が 非常に難しいという欠点があった。 アグロバクテリウムは、植物にとっては病原菌である。そのため、植物はアグロバクテ リウムを防御する仕組みを持っている。アグロバクテリウムに感染すると、植物はエチレ ンを生成する。エチレンそのものでは防御できないのだが、「病原菌に感染した」という合 図となり、酵素を生成するなどの様々な防御機構が動き始める。結果として、アグロバク テリウムによる遺伝子導入が阻害されるのだ。 江面先生たちは「植物にエチレンを作らせなければ、遺伝子導入効率が高くなるのでは ないか?」と考え、研究をスタートさせた。 ■スーパーアグロテリウム法の開発 植物はエチレンがあると「病原菌に感染した」ということで生育を止め、エチレンがな いと生育をする。従来から、植物の生長を促進する微生物(プラントグロースプロモーテ ィングバクテリア・植物成長促進バクテリア)がいることが知られていた。調べてみると、 植物成長促進バクテリアに感染した植物はエチレンを作らなくなっていた。 では、植物成長促進バクテリア はどのようにしてエチレンの生成 をストップさせているだろうか? 研究の結果、植物成長促進バクテ リアは ACC デアミナーゼをつく るということがわかった。ACC は エチレンの前駆物質であり、ACC を壊すとエチレンは作られない。 アグロバクテリウムは本来、ACC デアミナーゼを持っていなかった。 そこで ACC デアミナーゼを作る 遺伝子をアグロバクテリウムに導 入した。この結果できた「スーパ ーアグロバクテリウム」は遺伝子 導入効率が 5-10 倍になり、従来難 しかった植物への遺伝子導入ができるようになった。遺伝子組換えを利用できる植物の範 囲がぐんと広がったのだ。 スーパーアグロバクテリウム法は植物の基礎研究および遺伝子組換え植物の実用化に大 きく貢献すると期待され、社団法人全国発明協会より「21 世紀発明奨励賞」を授与された。 ■今後の展開 化石燃料の枯渇等の問題から、現在、植物からエネルギーを作る「バイオマスエネルギ ー」が注目されている。バイオマスエネルギーの実用化を考えた場合には、コストが重要 になってくる。 タイ原産のエリアンサスは、大きなススキのような植物で、非常に生育がよく、収量が 多い。イネだと 10 アール当たりの収量は 40 トンであるが、エリアンサスは 80-85 トンに 及ぶ。このエリアンサスにリグニン分解酵素遺伝子等を組み込ませることができれば、エ ネルギー化するコストが下がり、非常によいバイオマスエネルギー源となる。江面先生た ちは現在、筑波大学遺伝子実験センターにおいて、エリアンサスへの遺伝子導入の研究を 進めている。 社団法人全国発明協会「21 世紀発明奨励賞」 遺伝子導入用スーパーアグロバクテリウムの発明(特許第4534034号) 江面 野中 南澤 菅原 浩 聡子 究 雅之 筑波大学 生命環境科学研究科・遺伝子実験センター・教授 筑波大学 生命環境科学研究科・遺伝子実験センター・助教 東北大学 大学院生命科学研究科・教授 ミネソタ州立大学 バイオテクノロジー研究科・博士研究員
© Copyright 2024 Paperzz