2003/11/14 ミニライゾトロン CI-600 による根の観察 九州大学農学研究院 久米 篤 ミニライゾトロン法はアクリル製またはガラス製の中空な透明パイプを地中に埋設し, チューブ内から小型カメラによって根の発達状況を観察する方法である.この方法を野 外で実行するためには,パイプの中から土壌を記録するためのカメラシステムが必要で あるが,精密な根を定量可能なレベルで記録できる製品の選択肢は少ない. 世 界 的 に 最 も 広 く 普 及 し て い る 製 品 と し て は , CCD カ メ ラ を 用 い た Bartz Technology 社(USA)の Minirhizotron シリーズ(盟和商事,東京)があげられる.こ の製品によって得られる画像はかなり高品質であり,またシステムとして野外での作業 についてよく考慮されている.しかし,非常に高価であり,またビデオ出力であるため, 画像解析を行うには若干の手間が必要である.Bartz 社のシステムによるアカマツ林で の適用事例は里村ら(2001,根の研究 10:3-12)に詳しく紹介されており,ミニライゾ トロンの野外での使用法や注意点,画像データの解析方法の概要が解説されている. 最近,CID 社(USA)からイメージスキャナーモジュールを利用した簡易型の製品, CI-600 Soil Profile Scan System が開発され,日本でも販売されている(アースサイエ ンス,東京).この製品は,透明パイプ内に差し込めるような円筒形のスキャナーユニ ットを高精度に加工し,キャノンのカラースキャナモジュールを組み込み,パイプ内で 自走して回転し,パイプ中からパイプに面した土壌表面をスキャンするというシステム である.スキャナーユニットは市販品(CanoScan1240)からの流用であり,USB に よって直接ノートパソコンと接続できる.また,スキャナーユニットへの電源はパソコ ンから供給され,パソコンと小さな円筒形のスキャナを野外に持ち出せば,パイプを埋 め込んである研究サイトでそのまま作業を行うことができる.得られた画像は TWAIN または WIA を通じてスキャナから直接,画像処理ソフトに取り込まれる.このように CI-600 はノートパソコンでそのまま使え,データを取り込めるという魅力的な仕様を 持ち,価格も Bartz 社の製品よりも大幅に安い. 九州大学農学研究院 森林生態圏管理学講座の薛(せつ) 孝夫助教授らのグループは この CI-600 を半年間にわたって使用し,いくつかの問題はあるものの,良好な結果を 得ることができた.ここではその利用事例を紹介する. 事例紹介 薛助教授は緑地環境学が専門であり,九州大学新キャンパスの環境保全計画などにも 深くかかわっている.また,新しい緑化技術の開発においても数多くの実績がある.今 回は,緑化樹木苗の生育状況等の評価手法の1つとして根系の発育状況が利用できるか を検証するために CI-600 を利用している. 緑化樹木苗 15 種,合計 450 本のポット苗を植栽した.その内 72 個のアクリル管を 2003/11/14 埋設した(図‐1).スキャンする地点によっては深部と上部に分けて 1 地点あたり 2 枚の画像をスキャンする場合もあり,1 回の調査で 120 枚の画像を連続的にスキャンし た.CI-600 によって取り込まれる面積は約 20×20cm である.説明書(200dpi)にした がうと約 260 万画素(1699×1540 ピクセル)の画像として取り込まれる.この画像の ファイルの大きさは JPEG 形式で 700Kbyte 程度である. シ ハ ウ マサ エ ム ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト ハ ウ マサ エ ム ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ウ マサ エ ム ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ マサ エ ム ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ エ ム ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ マサ ム ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ マサ エ ク クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ マサ エ ム クス ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ マサ エ ム ク ピ ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ マサ エ ム ク クス ス タ ホ マ ア ト シ ハ ウ マサ エ ム ク クス ピ 植栽は土壌1と同様 土壌1のマウンド 植栽は土壌1と同様 土壌4のマウンド 土壌6のマウンド ス タ ホ マ タ ホ マ ア ホ マ ア ト 断面A-A' 詳細B シ シャリンバイ ハ ハマヒサカキ ウ ウバメガシ ム ムクノキ ク クロガネモチ クス タ タブノキ ホ ホルトノキ アクリル管を埋設した地点 マサ マサキ エ エノキ クズノキ ピ ピラカンサ ス スダジイ マ マテバシイ ア アラカシ ト トベラ 飛来種子の定着状況を調べる調査区 図‐1.植栽マウンドと植栽苗の位置関係 スキャナを接続した機器 ・ノートパソコン:INSPIRON 4150(DELL 社),CPU(Pentium 4 384 MB,WINDOWS XP ・ バッテリ:Rechargeable Li-ion Battery Rating : 14.8V (4460 mAh) Capacity : 66Whr 1.80GHz),Memory 2003/11/14 結果 本製品の野外での利用は基本的に容易であった.また,得られた画像がその場で確認で きるため,苗の状況に関してすばやい判断が可能であった.得られた画像をみると,本 装置によって,植栽された樹木苗の根の発達の季節変化がはっきりと捉えられているこ とがわかる.また,途中で枯死した個体の根の変化の様子も確認できる. その一方で,画像の解像度は精密な解析を行うには若干不鮮明でコントラストが低い 場合があり,使用条件によっては画像にノイズが入り不安定になる場合も散見された. このような不安定な画像は後の画像処理によってもその悪影響を取り除くことができ ないので,現場で注意深く確認する必要がある.また,CI-600 に付属する画像処理ソ フトの関係で,使用説明書では 200dpi という比較的低解像度でスキャンするように指 示されている.しかし,この画像処理ソフトの使用は必須ではなく,スキャンする解像 度自体はさらに高めることができる.ただし,最高解像度である 1200dpi ではスキャ ニングに非常に時間がかかり,画像サイズも大きくなる(20,400 × 9,240 ピクセル).さ らに,スキャナーモジュールが Contact Image Sensor であるため被写界深度が浅く, パイプの周囲から少し離れるとピントが合わないため,解像度を上げた割には鮮明な画 像は得られない.目的によって適切な解像度を選択する必要があるだろう. CI-600 の Bartz 社の製品に対する大きなアドバンテージは,パイプの広い範囲の面 積をほぼ全周にわたって一度にスキャンできることである.Bartz 社の製品では CCD カメラを利用しているためパイプの 1 方向の狭い範囲の画像しか得られない.一方,パ イプへのカメラ固定装置が Bartz 社の製品のように工夫されていないため,あまり深い 土壌中で長期間にわたって複数回安定して観察することは難しいと思われる.また, Bartz 社ではパイプを埋設するための専用のボーリング装置が用意されているため野 外で高精度にパイプ埋設用の穴をあけることが可能であるが,CID 社では用意されて いない(CID 社のパイプ径が大きいため Bartz 社のボーリング装置を流用することは できない).そのため,オプションとして販売されている長さ 1.8mある透明パイプを野 外で埋設することは非常に難しいと考えられる.なお,野外で安定した良い画像を得る ためにはパイプの精密な埋設は非常に重要である. CI-600 は小型で携帯が容易で扱いやすい. しかし, 基本的に接続したパソコンの USB 経由で電源が供給されて動作するため,使用するパソコンにかなり大きな負荷がかかる. ミニライゾトロンによる研究では 1 度に多くの画像を取り込むことが多いため,電源の 確保は問題点の一つとして挙げられる.また,最近の省エネ型の小型ノートパソコンで は USB から供給する電力がスキャナの動作には不十分であることがあり,その場合は CI-600 の動作が不安定になったり,あるいは動かなかったりする. 結論として,CI-600 は製品として未完成な部分は散見されるものの,それを上回る 数多くの魅力を備えたミニライゾトロンスキャナーである.耕地や苗畑などで観察パイ プの埋設が容易である条件では,非常に強力な根の観察ツールになるであろう. 2003/11/14 使用中に生じたトラブル 1. 現場で大量の根系写真をスキャンする場合、ノートパソコンの電源だけでは継続ス キャンが困難である。 ・ノートパソコンのバッテリーの容量が少なくなると、スキャンした写真の中に帯状の 濃い色の線が発生することがある(写真‐1) 。 容量:100%の時 写真‐1 容量:50%の時 容量:25%の時 継続スキャン時のバッテリ容量の減少に伴う画像の変化 ・バッテリー容量が減少すると、原因不明のトラブルが起こりやすい。たとえば、使用 中に TWAIN ソースの認識が出来ないなどのエラーメッセージが出ると、以降しばら く作動できない。現地では解決できず、研究室に戻ってノートパソコンの電源を直結 すると、作動可能となる現象が何回もあった。原因としては次のようなことが考えら れる。 ① ノートパソコンから電気を供給するため電源の不安定なこと。 ② スキャナにつながる USB ケーブルが外圧によって外されやすいので、現地で 移動の際、接続不良となりやすいこと。 (USB ケーブルが抜けると、パソコン がスキャナを再度認識しなくなる場合がある) ③ 夏の暑い日に野外で連続して撮影した場合、ノートパソコン本体に過負荷がか かりオーバーヒートする場合がある.これは画像取り込みには CPU の稼働率 が高まることにも原因があると思われる. ④ 一回のスキャンが終わり、回転が終わる前にスキャンを開始する原点に戻る動 作があるが,これの終了時点がわからない.スキャナが原点に戻る前に本体を アクリル管から引き出すとエラーが発生する場合があった。スキャン動作を確 認できるランプを付けるか、次のスキャンを始めても良いという合図の音を鳴 らす等の改良がなされると使用上便利であろう。 2.自動車のバッテリー(直流 12V)を家庭用電源(交流 100V)に変換するインバー ターを用いて安定した電流をスキャナないしはパソコンに供給しながらスキャン した場合には,画像が乱れたり欠損することがあった.
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