ストリートチルドレンの実態とその解決法 〜ボランティア活動を考える〜

ストリートチルドレンの実態とその解決法
〜ボランティア活動を考える〜
NGO-TDO
長田
新一
これは、4月23日(木)2時よりの標記セミナー資料です。
1 カンボジア復興にストリートチルドレンの撲滅が、なぜ重要
なのか。
彼らが撲滅されたとき、カンボジアの経済レヴェルの最底辺の層が解消され、庶民
の生活平均レヴェルはあがり、復興への礎になるからである。
2
ストリートチルドレンの状況
プノンペン市内を歩くと、彼らをみかける。これまでの半年の間に35人の口腔内
観察と生活状況を調査した。大半は裸足で、
汚れた衣服を身に着けるか、上半身裸であ
る。彼らは、生後4か月くらいでも、通行車
や通行人からお金を恵んでもらう労働者と化
する。この赤ちゃんを7から11歳くらいの
チルドレンが抱いて、赤信号で停止した通行
車や通行人からお金を恵んでもらい歩いてい
る。
このかわいい赤ちゃんは、人々の同情を誘う
ので、お金は集まりやすい。特に欧米系の人
は3$程度は気軽に与えてしまう人もいる。
しかし、この3$はカンボジアでは大金なの
である。平均の労働者は1日中、働いても5
〜7$である。この大金の3$を赤ちゃんと
9歳の子が一瞬の内に獲得してしまうのであ
る。この「稼ぐ赤ちゃん」は、彼らの親の間
では、大人気で赤ちゃんの貸し借りが時とし
て横行する。
しかし、大半の子供は、赤ちゃんなしで、停止車輛の窓拭きや、通行人に直接お金
をせがむのである。
10歳でタバコを吸い始め、13歳で1日20本も吸う子もいる。歯肉はニコチン
で紫色を呈し、お金をせがむ激しさも13歳と体も大きく恐怖感さへ感ずる。心配
なのは、お金欲しさに犯罪者集団に飲み込まれ、その予備軍となることである。
彼らの親たちは3〜4人くらいの母親が集まって集団行動をとるか、一人母親の場
合、単独行動も見かける。父親は無職か人を運ぶバイクタクシーが多い。
3
ストリートチルドレンらの故郷は首都プノンペンではない。
彼らの故郷は首都プノンペンからはるか遠い田舎である。田舎の暮らしは想像を超
える厳しさで、毎日3食を頂けるのは一部の裕福層で、1日1〜2食の家庭も珍し
くない。
このような環境の中なので、貧困層は自ずから経済活動の活発なプノンペンに向か
う。最新の資料によれば、10 年前のプノンペンの人口90万人が現在は140万人
である。毎年5万人が職を求め、首都プノンペンに怒涛のように押し寄せる。
ストリートチルドレンらの親たちも上京しプノンペンで、当初は就職活動をした
が、教育を受けていないため、職を得ることができず、良くてもバイクタクシーし
か職にありつけなかったのである。バイクタクシーは数があまりに多く、過当競争
で大半は生活苦に喘いでいる人が多い。チルドレンらの親たちも好き好んで路上生
活をしているわけではない。
教育を受けていないため職を得ることができず、苦し紛れに路上生活者に身を落と
した人々なのである。
4
ストリートチルドレンの毎日の暮らしはどうなのか。
私は歯科医であり、心理相談員でもある。口腔内をみるとその人の生活振りがわか
り、心理相談員は心の相談員でもある。
私の最も知りたかったのは、ストリートチルドレンの毎日の暮らしと何を考えて暮
らしているのかということであった。これを知ることによりストリートチルドレン
撲滅の手がかりが得られるからである。
まず口腔内をみると、彼らは、予想以上に虫歯が多い。かわいいさから通行人は、
甘いお菓子や、サトウキビの絞りジュース等を買い与えるのが虫歯の要因の一つで
ある。
歯磨きはしないので、歯が悪くなるのは当然である。子供達は意外に食べ物には困
っていない。余ったパンやお菓子は平気で路上に捨てられる。悪い意味でストリー
トチルドレンの食生活は豊なのである。
口腔観察の後、歯ブラシを持参し、磨き方を教
えると、お口の中がさっぱりし、気持ちよくな
るので大喜びで夢中で磨いてくれた。
親達が欲しいのは、食べ物よりもお金である。
赤ちゃんさえも、お金を稼ぐ労働者と考えてい
るので、そのための子供への指導は厳しい。9
歳の子でもお金の上りが少ないと、容赦無く叱
咤激励する。
5
チルドレン達は、毎日何を考えているのだろうか
このような厳しい環境下の子供達の心
の状態を知るために、9歳の子に絵を
描いてもらった。そこには、故郷の田
園や星、雲、母親のハートの形が見事
に描かれている。今のお金だけのため
に自分たちを働かせるお母さんは嫌
だ。故郷に帰りたい。そして、昔のや
さしいお母さんに戻って欲しいという
表現がされている。
また、別の子の10歳の絵は、田舎の草や花に囲まれた高床式の我が家と空には太
陽と星と雲と池が描かれている。田舎は良かった帰りたい。我が家に帰りたい。
そしてこの子は BANKA MSOT という「苦労した池」という意味の文字を書き込んでい
る。この意味は、田舎は生活水がないので、池の水を袋や缶に詰めて我が家に運ん
だ当時のこの子の苦労が表現されている。これだけの絵と文字が書けるのは、以前
学校に通学していたことを示している。
田舎に帰り、学校に戻りたいということが
伝わって来る。
因みに私の所属する NGO-TDO では、このよ
うな地域に住民の生活水問題解決のため井
戸の寄贈のお手伝いをしており、子供の苦
労が良くわかる。
驚いたのは、この子の母親が、絵を覗き込みながら、描き方の応援を始めたことで
ある。やはり、わが子には、物もらいの裸足路上生活者から足を洗って欲しい、で
きれば学校にという願いが感じ取れた一瞬である。
6
未来の希望を失ったストリートチルドレンに、何が必要か。
こんなに力をいれた力作の絵なのに、戻すともういらないとの返事が返った。
もう帰ることのない楽しい田舎の絵を見るのは苦しいからという。彼の言葉に胸の
詰まりを禁じ得なかった。今、最も彼らに必要なのは、金銭や食物以上に未来への
光と希望である。
7ストリートチルドレンの隠れた二面性
チルドレンの多くは、物を乞う時の表面的な人懐こさと、そうでない時は他人に非
常な警戒心を持つ二面性が目立つ。後者が本質的な姿である。特に女子に顕著であ
る。人身売買もあると言われる中で、何度も危ない面を経験したのだろう。その眼
は人を信ずるそれではなく、動物的な常に疑いと人間不信の眼である。
プノンペン市内は、若い世代が多く、一般家庭の子供達の遊び声の歓声が溢れてい
る。しかし彼らはストリートチルドレンと殆ど交わることはない。彼らの間には、
深い、広い溝がある。同じ子供同志でもストリートチルドレンの人間不信の眼は、
簡単には消えないのである。彼らはスーパーにさえも入るのは許されてはいない。
しかし、このような悲しい宿命の子供達の中にも将来のカンボジアを背負いそうな
人材の優秀な子もいる。このまま放置すれば、地に埋もれてしまう。国としても大
きな損失である。何とかして救いの手を差し伸べたい。
8
ストリートチルドレンの撲滅の鍵は、何か。
広い意味では、カンボジア人は、南方系のインド、ポリネシア、マレー系と北方系
の中華系、韓国系の人種との混在した人種と言われている。
注目すべきは、ストリートチルドレンには、中華系、韓国系の子が不思議なことに
殆ど見られないことである。その原因は両者の経済格差と教育である。カンボジア
の日常の生活流通基盤の80%は中華系、韓国系が握っている。この点は、中国の
国慶節の正月は市場が殆ど休みになることからもわかる。中華系、韓国系のカンボ
ジア人は、ストリートチルドレンを生むほどには、その経済環境は悪化していな
い。教育に於いても南方系のカンボジア人は、ポルポトの影響で大幅な遅れをとっ
ているので、ストリートチルドレンの根絶は容易ではない。
これらからわかることは、ストリートチルドレン撲滅の鍵は、経済力と教育の回復
に尽きると考えられる。
9
ボランティア活動のありかたは、どのように考えたら良いのだろうか。
東南アジア最貧国のカンボジアには、各種ボランティアがそれぞれ貢献している。
ボランティアの核心は自立への援助である。お金や物を与えるのみのボランティア
は、良くない。たとえば既述の欧米人が3$を赤ちゃんを抱いた9歳のストリート
チルドレンに与えたことは、9歳の子供の彼には大変良くないことである。一瞬の
中でもらった3$は、貰う依存心は育っても自立への目は決して育たない。
教育にはお金と教育のシステム化が必要である。私の所属する NGO-TDO でも校舎難
で苦しむ地域に、日本からの善意の寄付金等で、毎年何校かの学校を建設し、住民
の方々には、喜ばれている。
このように、良い意味でのボランティアの援助金や寄付金の役割は重要で欠かせな
い。しかし、人材が育ちカンボジアの国の経済の復興に役立つには多大の10年単
位の時間がかかる。
10 ストリートチルドレン撲滅のためには、従来のよい意味でのボランテ
ィア活動と共に、その撲滅のための NGO 設立と別会社の起業化の発想が必要
である。
そこで、提案したいのは、ストリートチルドレン根絶のための NGO 設立と業種を問
わない会社の設立である。この両者は、互いに補完し合いながらカンボジア経済に
寄与が可能である。
会社構成はカンボジア人を主力として、給与支払いを着実に行い、カンボジア国内
で貯蓄なり消費してもらうことが、直ちに直接、カンボジア国内経済復興に寄与す
る。会社のある程度の決算利益は NGO のストリートチルドレン根絶のために使用す
るのである。
これらの循環は、すべてカンボジア経済の復興に直結することは、疑いない。
ボランティアは大切で必要であるが、そこには限界もあるのも事実である。
日本人でカンボジアにボランティアで関与する人達は、それぞれ特技を持つ人が多
い。その特技を生かし、起業して欲しい。起業の前には十分な市場調査と決算書と
損益分析の能力を養って置きたい。日本人で起業化で成功している人達も多いが、
必ず地元を熟知した優秀なカンボジア人の参謀がいる。日本人だけでの成功の確率
は低い。片言でも良いので、クメール語の習得も欠かせない。現地語を知ること
は、カンボジア人の心を知ることにつながる。企業を起こし、十分な利益を上げな
がら、カンボジアの経済発展の一翼を担い、NGO を通し、ストリートチルドレンの撲
滅に寄与したい。
カンボジアでは、法人も個人も会社設立にはある程度の費用もかかるが、そんなに
驚くような金額ではない。今後のボランティアをお考えの方は、本論のような考え
を一考して頂けると幸いである。