両山寺護法祭

おらが村のゴーサマ
両山寺護法祭
岡山県久米郡美咲町両山寺
古代より二上山はその高さと美しい山容から地域の信仰の対象としてあが
められ、その山頂近くに鎮座まします両山寺は開創西暦714年といわれる
古刹である。かつては修験の山として栄え、一山二十八坊 そしてかなりの
大伽藍が存在しその威容を誇っていたといわれる。
この寺に村人からゴーサマと呼ばれ親しまれている護法祭が伝承されて
いる。寺院の歴史上幾多の受難にも途絶えることなく七百年余りの伝統をも
ち、毎年盆の14日の夜、護法善神が人に乗り移り夜の山岳寺院を疾駆・跳
躍するという特異な祭事である。
今宵はゴーサマ
境内の広場では盆踊りが始まっている。二上のシンボル千年の大杉はライ
トアップに金色に浮かび上がり、幽玄にして荘厳。それを見上げる位置に櫓
が組まれ、お囃子方の賑やかな調子に合わせて善男善女の輪がゆれる。
にぎやかしいろいろ
盆踊り
ライとアップの境内で和太鼓演奏
H. 14. 9.
中央町 境
横山 睦子
1
銭太鼓
2
我が家の孫5人も色とりど
りのゆかたに蝶の帯、袂の袖も
軽やかに手踊り傘踊りにのり
のりである。
若手の踊り手の少ない中、華や
かな一団となって雰囲気を盛
り上げている。
ここ数年、いとこ同士連絡し
合って練習日にどっとやって
きて盆踊りに参加している。
村のみなさんの優しさに触れながら心から楽しんでおり、この素晴らしい
体験は孫たちに頂いたご加護と感謝している。
にぎやかしが終わってまもない十時半、三番法螺が立てられ「ボォ~~
ッ・・・・」と低い法螺貝の音が全山に響き渡る。
照明が一斉に消され今までの賑わいは一瞬にして消え失せ、辺りは黒一色
の闇となる。梢を渡る高原の涼風ははたと止まり、緑は黒い塊となって押し
迫り闇をより濃厚にする。ボーッと灯された裸電球の明かりに黒い人影がう
ごめくのみ。
いよいよゴーサマの舞台である。
人々は期待と不安のわが身を何処におくか、はやくも場所捜しにかかる。
祭事は「二上山鎮守護法祭式行事記」に則って進められていくという。
3
本堂に入ると各祭事が行われ、白装束
からゴーサマの装束に着替え頭上に紙手
をいただいたゴー実に祈り憑けが始まる。
太鼓が打ち鳴らされ、法螺が吹かれ「ギ
ャーテーギャーテー」の呪文が唱えられ、
だんだん激しくなりやがてゆるくなる。
この「ひと祈り」が何回か繰り返され、
最高潮に達した時神が憑くのである。
(護法善神社への参道)
中一の孫娘と二人で
大杉の下に場を占めて
いた私は、もうそろそろ
かなと前へ出ようとす
ると繋いでいた手を無
言で引く。固く握る手に
孫の胸の高鳴りが伝わ
ってくるようで動けず、
その場で身を寄せ合っ
ていた。
本堂と大杉
「御迎神」 数日前から山にこもり精進潔
斎・勤行で心身清浄化を得たゴー実を、護
法善神社へお迎えに行くための行列が組ま
れる。
寺院・修験集団・檀家内の役付き(世襲
制)
・少年たちのケイゴで隊伍が組まれ出発
となる。
大小の太鼓、法螺の音、少年たちの「バ
ラオン・サラオン」の呪文を唱える声が次
第に遠くなりやがて弥山の闇に消えていった。
ふたたび法螺の音「神体降堂」である。その音はだんだんと大きくなり
木立の間にちらちらと提灯のあかりが見えはじめ上下に揺らぎながら参道
を降りてくる。見物の衆、一点集中。
行列の中程にゴー実が両脇を支えられ
てふらふらと左右に蛇行しながらのお帰
り、手には護法善神の金幣。
すぐ前をいく紙手(ゴーサマの頭につ
けるもの)持ちがゴー実と間違われやす
い。
境内の上と下にはすでに2本の手火が焚かれ、安全地帯に身を硬くする
人々や仁王門が赤々と照らし出され、ゴーサマの出現を待つばかりとなって
いる。
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祈り憑けが一段と激しくなったその瞬間、大きなどよめきが起こりタッタ
ッと階段を蹴る音とともに白い紙手が人垣の間をちらっと通り過ぎた。
化身となつた護法善神の「御法楽」のはじまりである。
ゴーサマが駆ける方向は悲鳴を上げて逃げ惑う人々で場内騒然となる。
ゴーサマは暗闇の中、恐ろしい速さで突っ走り石段を飛ぶように駆け降り
(烏護のゆえん)、燃え盛る手火の炎を軽々と飛び越え仁王門へ。また引き
返し縦横無尽に走り回る。
ケイゴの少年たちは卍印の鉢巻も勇ましく「ギャーテーギャーテー」と叫
びながら後を追う。
休み石で休んだ後再び駆けだし、やがて本
堂に駆け込む。
これが「ひと遊び」と呼ばれる「御法楽」
の単位であり、これを何度か繰り返し、最後
のお遊びとなる。
最後のお遊びが終り本堂に駆け込むと、
人々は一斉に感謝とねぎらいの拍手を送る。
祭事はまだまだ続くが、参詣の人々はさ
めやらぬ興奮を胸に三々五々と夜更の山道
を家路に急ぐのである。
ある年のゴーサマ
本堂前で異常な動きがあり慌しい人だかり。
「つかまったぞーー」
山伏の錫杖を振る音、経文を唱える声が凛とひびく。
怖ろしさに金縛りに合ったようなあの体験は忘れられるも
のではない。
心やましい者はつかまる・・・・・・
つかまると3年以内に不幸が・・・・・と言い伝えられ、
それらしい事実もあり、不気味さに誰もがわが身を振りかえ
らざるをえないのである。
山伏(修験者)
の装束
畏敬の偶像として村人の心に宿り、何百年もの長い間大切に守られ、語
り継がれてきたゴーサマは、おらが村の誇れる伝統行事である。
いっぺん来てみんさらんかな
そりゃーええとこでな
境
横山 睦子
(仁王門と休み石)
参考文献
山上に降りそそぐ満天の星は眼下にまで広がり、
まさに地球規模の
プラネタリュームである。
孫たちは得意な星座を見つけては歓声を上げ、
気分は宇宙の真っ只中。
二上伝説のあまのじゃくでなくても、
つい手を伸ばしたくなる・・・・
そんな錯覚に陥るほど星は近くで輝いていた。
「美作の護法祭」
(五智如来像)
津山市院庄方面を望む
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