延伸フィルムの位相差の幅方向プロファイル測定

2009.01
王子計測機器株式会社
延伸フィルムの位相差の幅方向プロファイル測定
次の 2 種の延伸フィルムの幅方向サンプルについて、位相差および配向角のプロファイルを測定した
結果を報告いたします。
・試料
PET フィルム・・・逐次 2 軸延伸品、t15µm、幅 5200mm
偏光板・・・・・・幅 400mm(エドモンド・オプティクス・ジャパン、商品コード 45204)
1)PET フィルム測定結果
・測定装置・・・・位相差測定装置
KOBRA-WR
・使用ソフト・・・位相差測定 RE ソフト(入射角依存性)
R(0)、R(40)、配向角測定、3 次元屈折率計算、面配向係数算出
・試料・・・・・全幅から 200mm ごとに□40mm のカットサンプルを 27 点切出し
MD 方向を角度基準にして表した配向角の幅方向プロファイルは図 1 のようになります。
この結果より、面内における屈折率最大(Nx)方向は中央部では 90°すなわち TD 方向になり、
フィルムの両端では TD 方向から約 35°ずれた方向になり、かつずれ量はフィルム中心位置
に対して対称になっていることが分かります。
130
120
配向角 (°)
110
100
90
80
70
60
50
5200
4800
4400
4000
3600
3200
2800
2400
2000
1600
1200
800
400
0
40
幅方向位置 (mm)
図1 PET フィルムの配向角の幅方向プロファイル
図 2 は、試料の Nx を傾斜中心軸にして入射角を 0°および 40°にして測定したときの位
相差 R(0)、R(40)の幅方向プロファイルを表したものです。いずれの値もフィルム中央部で
最小になり、両端で大きくなる弓形をしており、典型的なボーイング現象を示しています。
1200
位相差 R(0)、R(40) (nm)
1000
800
600
400
200
R(0)
R(40)
5200
4800
4400
4000
3600
3200
2800
2400
2000
1600
1200
800
400
0
0
幅方向位置 (mm)
図2 PET フィルムの位相差の幅方向プロファイル
図 2 の R(0)、R(40)の各測定値とフィルム厚さ d および平均屈折率(PET;1.66)から幅方
向位置ごとに 3 次元屈折率を計算し、さらに面内複屈折 ∆Nxy と面配向係数 ∆P を算出し
て、グラフにすると図 3 のようになります。
∆Nxy=Nx-Ny=R(0)/d
45
195
40
190
35
185
30
180
25
175
20
170
15
165
10
ΔP (×10 -3)
-3
ΔNxy (×10 )
∆P =(Nx+Ny)/2−Nz
160
ΔNxy
ΔP
5
155
5200
4800
4400
4000
3600
3200
2800
2400
2000
1600
1200
800
400
150
0
0
幅方向位置 (mm)
図3 PET フィルムの面内複屈折、面配向係数の幅方向プロファイル
図 1 の配向角および図 3 の ∆Nxy の幅方向分布を基に、フィルム面内の屈折率楕円を模式
的に描くと図 4 のようになります。
図 4 幅方向のフィルム面内の屈折率楕円模式図
この結果は、次の論文に記載されている内容と合致します。
1) 坂本:「ポリエチレンテレフタレート2軸延伸フィルムの光学的異方性とその
発生の解明」高分子論文集、Vol.48,No.11,671(1991)
2) 坂本:「新しい尺度によるフィルムの配向と機械的性質との関係」高分子論文
集、Vol.48,No.3,181(1991)
2)の論文では、機械的性質である強度や伸度と複屈折との関係が記述されています。この
とき、例えば Nx 方向の機械的性質との関係付けをする場合は、次の式で得られる複屈折
を尺度とすべきとしています。
∆N// = Nx−(Ny+Nz)/2
また、Ny 方向の機械的性質との関係付けをする場合は、次の式で得られる複屈折を尺度と
すべきとしています。
∆N⊥ = Ny−(Nx+Nz)/2
これらは、いずれも Nx あるいは Ny の方向すなわち配向角の方向を調べた上で機械的性質
を調べる必要があるということを意味しています。
しかし、実際に機械的あるいはその他の性質を調べるとき、試験片はMD方向あるいはTD
方向を基準にして切り出されることが多く、上述の∆N//、∆N⊥との関系付けは当てはまら
なくなります。この場合は、Nx、Nyの代わりにMD方向、TD方向の屈折率Nmd、Ntdを
使用することになります。
今回の測定は、図 5(左)のように試料をサンプルホルダーにセットして測定しましたので、
Nx、Ny、Nmd、Ntd および配向角の関係は図 5(中)のようになります。
図 5 試料セット方法と各屈折率の説明
位相差測定値より計算で得た 3 次元屈折率を基にして ∆Nxy の代わりに次式の ∆N’、
また ∆P
の代わりに次式の ∆P’を計算して、図 3 の ∆Nxy および ∆P との差をグラフにすると図 6 の
ようになり、フィルムの両端部では ∆N’は ∆Nxy に対して約 0.025、∆P’は ∆P に対して約
0.0003 小さくなることが分かります。これは、フィルム端部の配向角が TD 方向に対して
約 35°ずれていることに起因します。
∆N’ =Nmd−Ntd
∆P ’ =(Nmd+Ntd)/2−Nz
30
0.35
ΔNxy-ΔN'
ΔP-ΔP'
0.25
0.20
15
0.15
10
0.10
5200
4800
4400
4000
3600
3200
2800
2400
2000
1600
0.00
1200
0
800
0.05
400
5
ΔP-ΔP' (10 -3)
0.30
20
0
ΔNxy-¦ΔN' ¦ (10 -3)
25
幅方向位置 (mm)
図 6 (ΔP−ΔP )、(ΔNxy-ΔN ) の幅方向プロファイル
仮に、屈折率楕円体を Nx=1.73、Ny=1.69、Nz=1.56 と固定したとき、∆P=0.15 に対して
上式のΔP’が配向角によってどの程度ずれるかを計算すると図 7 のようになり、配向角が
45°のときに約 0.00035 小さくなることが分かります。この値は 0.15 に対して 0.23%です
から無視できる差異とも言えます。
ΔP= 0.15
0.15005
0.15000
0.14995
ΔP'
0.14990
0.14985
0.14980
0.14975
0.14970
0.14965
0.14960
0
10
20
30
40
50
配向角 (°)
60
70
80
90
図 7 屈折率楕円体を固定したとき ΔP の配向角による変化の一例
2)偏光板測定結果
・測定装置・・・・偏光板用位相差測定装置
KOBRA-WX100/IR
(近赤外)
・試料・・・・・・全幅 400mm、5mm ピッチで測定
MD 方向を角度基準にして表した配向角の幅方向プロファイルは図 8 のようになります。
この結果より、1 軸延伸品であってもフィルムの両端では 0.6°程度の変化があることが分
かります。
0.5
0.4
0.3
0.1
400
380
360
340
320
300
280
260
240
220
200
180
160
140
120
100
80
60
-0.1
40
0
0
20
配向角 (°)
0.2
-0.2
-0.3
-0.4
-0.5
幅方向位置 (mm)
図 8 偏光板の配向角のプロファイル
近赤外域での複数波長に対する位相差を測定し、波長分散特性を次式で表して偏光板を構
成する PVA フィルムの位相差 Rpva とヨウ素の位相差 RI とを分離し(ただし、波長 1000nm
での値)、それぞれの値の幅方向プロファイルをグラフにすると図 9 のようになり、両端部
で Rpva の値が大きくなっているのがよく分かります。
Rtotal=Rpva+RI=a+b/(λ2−6002)
750
170
幅方向位置 (mm)
図 9 偏光板の位相差の幅方向プロファイル
400
360
380
340
110
300
320
450
280
120
260
500
220
240
130
200
550
160
180
140
140
600
120
150
80
100
650
60
160
20
40
700
0
位相差 Rtotal、Rpva (nm)
180
Rtotal
Rpva
RI
位相差 RI (nm)
800
図 9 の Rpva を横軸に、RI を縦軸にして測定値をプロットすると図 10 のようになります。
殆どの偏光板では、Rpva は 500∼1300nm の範囲に、また RI は 400nm 以下になっており、
図 10 のグラフにおいてどの位置に点が集まるかで、PVA フィルムの延伸の程度やヨウ素の
吸着量の違いが分かります。また、横軸の Rpva の値の広がりは PVA フィルムの延伸ムラ
を表しており、1箇所にすべての測定値の点が集まっているほど均一性に優れていると言え
ます。
400
350
RI (nm)
300
250
200
150
100
50
0
500
600
700
800
900
1000
1100
1200
1300
Rpva (nm)
図 10 偏光板の Rpva と RI のプロット
図 11 は単体透過率が約 32%から 44%の 7 種の偏光板について測定した Rpva と RI をプロッ
トしたもので、単体透過率が高いものほど RI が小さくなっていることが分かります。
400
D_32
350
RI (nm)
300
A_36
250
C_38
B_38
200
150
A_43
100
B_43
50
A_44
0
500
600
700
800
900
1000
1100
1200
1300
R pva (nm)
図 11 各種偏光板の Rpva と RI のプロット
以上