ディーゼルPM,NOx同時低減 触媒システム

◆第2回新機械振興賞受賞者業績概要
ディーゼルPM,NOx同時低減
触媒システム
トヨタ自動車株式会社
取締役社長
トヨタ自動車㈱
トヨタ自動車㈱
トヨタ自動車㈱
トヨタ自動車㈱
トヨタ自動車㈱
張
第2パワートレーン開発部 主担当員
第2パワートレーン開発部 担当員
第2パワートレーン開発部 担当員
第2エンジン技術部 グループ長
第1材料技術部 担当員
富士夫
松
石
鴨
杉
鈴
岡
山
下
山
木
広 樹
忍
伸 治
辰 優
重 治
加えて、1993年に酸化触媒、2000年には、コモ
はじめに
ンレールシステムを導入する等、他社に先がけ
て低エミッション化を推進してきた。
トヨタは、環境問題への対応を最重要課題と
特に排出特性がトレードオフの関係にあるPM
位置付けガソリン、ディーゼル等の既存のエン
とNOX を同時に低減する技術を最重要課題とし
ジン、車両の改良だけでなく、燃料電池車、電
て開発を進めた。
気自動車、代替燃料車、などあらゆる可能性を
その結果セラミック製基材、触媒、担持方法
検討してきた。しかしながら当面はガソリン、
の改良とその触媒を有効に作用させる緻密なエ
ディーゼルが主力エンジンとして展開される見
ンジン制御で、PMとNOXを同時に低減できる触
通しである。
媒システム(DPNR;Diesel PM-NOX Reduc-
その中で、昨今の地球温暖化問題に対する解
tion system)を開発した。
決策の一つとしてCO2 排出量の少ないディーゼ
システムの概要
ル乗用車が特に欧州において注目され、急速に
シェアを伸ばしてきた。また、国内において物
流の主役を担う商用車は、燃費経済性、航続距離
図1に商用車にDPNRを適用した例を示す。
などの点で優れたディーゼル車が、今後とも主
コモンレールシステムは140MPaの高圧噴射
でポスト噴射等の燃料噴射を自在に制御する事
流であると考えられる。
しかしながら都市を中心とした環境改善の面
から、特にディーゼルエンジンは、粒子状物質
が可能であり、排出ガスの浄化に大きな役割を
果たした。
(以下、PM)や窒素酸化物(以下、NOX)の抑
また、EGR(Exhaust Gas Recirculation)シ
制が最大の課題であり、早急な排出ガスの低減
ステムに高効率クーラを採用しEGRバルブ、吸
が望まれている。
気絞り弁はモータ駆動により高応答化/高精度
化をはかった。
開発のねらい
更に、新たに燃料添加弁を排気管に装着する
事により、DPNR触媒内の空燃比を自在に制御
このような状況に対応するため、ディーゼル
できるようにした。DPNR触媒はマフラーと一
エンジンの燃焼改善によるエミッション低減に
体化することにより消音器の機能を兼ねたコン
− 25 −
ディーゼルPM,NOx同時低減触媒システム
コモンレールシステム
する活性酸素種と気相中の酸素によってPMを低
EGRバルブ
吸気絞り弁
温から連続酸化することが可能となった。
EGRクーラー
EGRクーラー
前触媒
次に、NOX浄化手段について述べる。
NSR触媒
DPNR触媒
インタークーラー
吸入空気
排出ガス中のNOX を触媒により浄化するため
酸化触媒
には、化学的な還元反応、すなわちNOX に含ま
排出ガス
れ る 酸 素を奪 い 取 る反応 が 必 要とな る。し か
し、ディーゼルエンジンの排出ガス中には多量
の酸素が含まれているため、従来の技術では、
吸入空気量センサー
VGターボチャージャー
排気温センサー
排気温センサー
空燃比センサー
空燃比センサー
差圧センサー
燃料添加弁
図1
DPNRの構成(商用車の例)
NOX を 還 元 す る こ と は 困 難 で あ っ た。そ こ で
図3に示す様に、リーン雰囲気ではNOX は白金
上で酸化され、主に硝酸塩の形でセラミック基
材に担持した吸蔵材に溜め込まれる。次に瞬間
的なリッチ雰囲気ではNOX吸蔵材からNOが放出
パクトな形状になっている。
また触媒システムを制御するために、空燃比
センサー、排気温度センサー、差圧センサー等
され、排気ガス中のHC、COによって還元され
る。
の新技術を採用した。
NOx
技術上の特徴
NO x吸蔵材
O2
NOx
O2
O2
O2
N2
O2
NO 2
Pt
吸蔵
セラミック基材
Pt
1.DPNR触媒の開発
排出ガス中のPM浄化原理は図2のように、セ
セラミック基材
NOx
貴金属(白金)
ラミック製多孔質基材の出入り口を交互に栓詰
還元
放出
N2
Pt
セラミック基材
することで、排出ガスは基材の壁を通って隣り
合わせた通路から出て行くように構成され、PM
図3
NOX触媒の原理
は基材に捕集される。通常、PMを燃焼させるに
は600℃以上の雰囲気温度が必要であったが酸化
雰 囲 気(以 下、リ ー ン 雰 囲 気)と 還 元 雰 囲 気
この吸蔵還元型NOX 触媒を前述のセラミック
(以下、リッチ雰囲気)の繰り返しの中で発生
基材に担持することにより、PMとNOXが同時に
低減できると考えた。(図4)
CO 2
エンジンからの
排出ガス
PM
NOx
CO
HC
吸蔵還元型NOx触媒
H2O
DPF
PMを低 減
NOxを低 減
N2
吸蔵還元型 NOx触媒を
吸蔵還元型NOx
触媒を
DPFに塗布して一体化
DPF
に塗布して一体化
多孔質基材
吸蔵還元型
NOx触媒
排出ガスの
流れ
DPNR触媒
PM
PM
細孔
排出ガス
排出ガス
PMとNOxを同時に低減
HC、 COも低 減
フィルター基材
図2
DPNR触媒の原理
図4
− 26 −
PM、NOX同時低減触媒の構成
◆第2回新機械振興賞受賞者業績概要
表1
基材、細孔径の多変量解析結果
PM 捕集率向上
効果の
ある
要因
内部
細孔
多
20∼ 40μ m 気孔率 小
表面
細孔
50μm 以上 少
排出ガス
排気管
圧損低減
20∼ 40 μ m 多
気孔率 大
100 μ m以上 多
50μ m 以下 多
重相関係数
0.83 ∼ 0.95
0.98 ∼ 0.99
燃料添加弁
DPNR触媒
しかし、単純に組み合わせた技術では触媒は
図6 排気系燃料添加システム
(商用車の床下に搭載した例)
均一には担持できず、PMが基材表面にのみ堆積
し、基材が目詰まりして圧力損出が上昇してし
まうことが判った。
た。燃料添加弁はDPNR触媒の上流に搭載され
このため、表1に示すようにDPNRの多孔質
ており、燃料はコモンレール用サプライポンプ
基材と触媒について約20種のセラミック製の多
から燃料添加弁へ供給され、約1MPaでDPNR触
孔質基材を試作し、PM捕集率と圧力損失に寄与
媒に添加している。商用車の燃料添加弁搭載例
する要因を多変量解析により定量化し、多孔質
を図6に示す。
基材の細孔径とその分布の最適化、および吸蔵
さらに、DPNR触媒のPMの酸化、NOXの還元
還元型NOX 触媒を細孔内部に高分散化させる技
性能を最大限に引きだすための新しい燃焼方法
術を確立した。
を確立した。その詳細について以下に示す。
細孔
細孔
一般的に、EGR量が増加すると酸素量が減少
するため、PMは増加する。
しかし、空燃比をさらに濃くすることで燃焼
温度は低下しNOXの増加を伴うことなくPMが急
激に減少する新しい燃焼方法を見出した。その
新しい燃焼を制御するために、新たに高精度、
基材
NOx触媒
改良前
図5
基材
NOx触媒
高応答のEGRシステムと吸気絞り弁を開発し
改良後
た。
NOX触媒担持状態
改良前後のNOX 触媒を担持した基材の 燃料添加弁でリッチ
写真を図5に示す。改良後は、基材に比較 雰囲気を作る
的均一に触媒が担持されていることが判
これにより、非常に効果的に PM と NOX
を同時に低減できる DPNR 触媒が開発で
きた。
2.空燃比制御手段
従来の燃焼法
PM(微粒子)
PM / NOx⇒多い
る。
新しい燃焼方法
NOx
還元可能
還元不可能
前述したようにリッチ雰囲気を作る手段
濃い ← 空燃比 → 薄い
として、新しく開発された燃料添加弁によ
(少ない ← 酸素 → 多い)
り空燃比を自在に制御することができ
図7
− 27 −
リッチ雰囲気を作り出す手段
ディーゼルPM,NOx同時低減触媒システム
このように排気管に装着した燃料添加弁とこ
れる。
の新しい燃焼方法を組み合わせることで不可能
工業所有権の状況
とされていたリッチ雰囲気を作り出すことが可
能となった。(図7)
特許件数は国内外を含めて触媒、ディーゼル
燃料添加弁や新しい燃焼方法を成立させるた
めの噴射量、噴射時期等の緻密な制御と前述の
DPNR触媒を組み合わせることで、PMとNOXを
エンジンの制御システムを中心に合計436件を出
願した。
同時に低減できるDPNRが完成した。
むすび
DPNRはHC、COだけでなくPMとNOXを同時
3.PM、NOx浄化の例(新品触媒を使用)
DPNR触媒を車に搭載して排出ガスを測定し
に低減できる後処理システムである。高圧なコ
モンレール噴射系、燃料添加弁等の緻密な制御
低減効果を確認した結果を図8に示す。
PMとNOXが同時に低減され良好な浄化性能が
およびDPNR触媒のポテンシャルを最大限に引
き出す新しい燃焼方法の組み合わせにより、新
得られていることが確認できた。
しい後処理技術を提唱することができた。
PM(mg/m 3 )
10
80
車速→
8
40
6
の低排出ガス技術の在り方を示すことができ
た。
今後はDPNRの一層の性能向上、改良を図り
0
DPNR触媒前
DPNR触媒後
4
車速(km/h)
また産業界に対しては、ディーゼルエンジン
大気環境の改善に貢献してゆく所存である。
NOx(ppm)
2
0
60
40
20
0
0
100
200
300
400
500
走行時間(秒)
図8
PM、NOX浄化の例
実用上の効果
国内および欧州市場にDPNRを搭載した車両
を、早期に導入した。
国内では10ppm軽油を使用し2003年10月にダ
イナに、また2003年11月には欧州で新型アベン
シスに搭載して、発売した。
開 発 し た DPNRの よ う な 後 処 理 シ ス テ ム に
は、軽油の低硫黄化が必要であり、国内では石
油メーカーの努力により2003年に50ppmとな
り、2005年1月から10ppm軽油の導入開始が決
定され、一層のディーゼルクリーン化が期待さ
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