第 10 回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト 論文試験 優秀論文 論文テーマ『これからのブライダルについて、私の考察 』 かっこいいお婿さんになりたい (株)レック 小さな結婚式事業部主任 櫛谷 育男 冒頭からテーマにそぐわないようだが「ブライダル」という言葉は好きではない。初めて会った人 に「何系の仕事してるの?」と尋ねられたら「ウェディング系」と答えるようにしている。 わたしが「ブライダル」を避ける理由、それはこの言葉が「花嫁の」を意味するからだ。そしてこ の言葉を用いることで、結婚の一方の主役である「花婿」を置き去りにしてしまう気がするからだ。 婚礼実施率が低下していると言われる。わたしは、結婚式を挙げる人が減っている要因の一つが「結 婚式が女性のためのもの、という思想、風潮」にあると考える。 たとえば「かわいいお嫁さんになりたい」という女の子はどこにでもいる。しかし「かっこいいお 婿さんになりたい」という男の子に、わたしは会ったことがない。 一般的に、男性は女性に比べ、結婚式に遠慮や気恥ずかしさ、人によっては面倒さを感じる。これ は先天的、性差的な特質によるとは思えない。世のありとあらゆるウェディング関連の WEB サイト、 パンフレットは、優雅にドレスを纏った女性のイメージで溢れている。Google で「花嫁」と検索して みると、約 1000 万もの WEB ページがヒットする。対して「花婿」は 135 万ページほどだ。情報量が 圧倒的に違う。 このような環境下、人々の頭には「結婚式=女性のもの」という思想が醸成され、結果、男性が消 極的になっていくのではあるまいか。そして、結婚式の大事な一方の主役が消極的になることが、非 婚率の上昇を招いているのではあるまいか。90 年代、婚礼実施率の顕著な低下と、いまに見るスタイ ルの結婚情報誌の隆盛が期を一に起こったのは、偶然ではなかろう。 2012 年の夏、当時勤めていた都内の式場で、ある若いカップルが挙式を行なった。新郎様はいわ ゆるヤンチャタイプで、初回の来店時から威勢がよく、いつもスタッフたちを笑わせていた。ただ打 ち合わせはほぼ新婦様に任せきり。自分は「何でもいい」という風情だった。 迎えた挙式当日。外出していたわたしはこのカップルが気になり、夕方、担当の女性プランナーに 電話した。 「○○様、お式どうだった?」と尋ねると開口一番「すごかったです」という答えが返って きた。 「何がすごかったの?」 「新郎様、入場で、扉が開いた時からずっと号泣しっぱなしで…新婦様より泣いてました」 そう言う担当プランナーも、涙声になっていた。 わたしは、こういう結婚式こそを理想とする。 結婚式は男性のためのものである、などと言うつもりはない。ただ、結婚式とは、どちらのための ものでもある、と思うのだ。新郎新婦が、どちらも等しく、喜んで、笑って、感動してほしいのだ。 業界を挙げて将来の「ブライダル」でなく「ウェディング」を考えていきたい。 わたしが 50 代、60 代になる頃には「かっこいいお婿さん」になりたい子どもたちに会えることを願 う。 第 10 回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト 論文試験 優秀論文 論文テーマ『これからのブライダルについて、私の考察 』 『オリジナリティ』の考え方 (株)オー・ド・ヴィー ラポール ウェディングマネージャー 長谷川 峻 今、新規接客やお打合せのお客様を通じて出てくる言葉の多くの中のひとつに「オリジナリティ を出したい」というニーズをよく聞く。 実は、私はこの『オリジナリティ』という言葉に疑問を感じてしまう。オリジナリティを出そう とするが為に、「あんな演出いれなくては」「これをやったら人と被るからやめよう」と大切なこと を置き去りにしてしまっているように感じる。つまり、ここで言う『オリジナリティ』とは「人と 違うこと」と皆解釈しまっているのではないか。 私は『オリジナリティ=ありのままであること』だと考える。 私達結婚式場を営む者としての使命は、婚礼率のアップであることは明白である。今の婚礼率低 下という現状があるのは、おそらく列席者のほぼ大半の方に「こんな結婚式やりたくない」 「自分達 にこんな人と変わったことができるのだろうか」 「余興もやってくれないような結婚式などつまらな いのでは」と思わせてしまっているのが原因だと思う。つまり、我々の責任である。 先日、担当をさせて頂いたご新郎新婦様で、全てのものに対して「筆で表現すること」を重視し たお客様がいらっしゃいました。ウェルカムボードも、席次表も、ウェディングケーキにのせるチ ョコ文字も。きっと人と変わったことがしたいから筆で書いたりしているのだろう、と思っていた が全く違った。披露宴終盤、新郎謝辞の場面で新郎はこう言っていたのをしっかり覚えている。 「亡くなったお母さんに唯一教えてもらえたのが習字でした。今日ここで披露してあげること が、僕にとってお母さんへの親孝行だと思っています。お母さん僕の字はうまくかけていますか? お母さん僕を支えてくれていてありがとう。僕の今があるのはお母さんのおかげです。」胸を張っ て、目に涙を浮かべながら天を見るように話をしていた。 私はこう思う。 『オリジナリティ』とは「人と違うこと」ではなく、『ありのままを表現するこ と』であると。この事例も素直な自分を出せたことで、周りの方へ共感を生み、感動を誘ったのだ と思う。 あくまで“Origin=起源”という意味であることから、決して人と違うことがオリジナルなので はない。もともと人はすべて違うのである。だからこそその違いをしっかりと受け止め、自分を否 定せず素直に出すこと。私は、これが本当の意味での“オリジナイティ”だと考える。 作られた演出よりも、ありのままを見ることができたとき、人は感動する。プランナーとして気 を付けなければならないのは、婚礼単価を上げるために、色々な要素を足して作られた結婚式を創 ることではなく、自分を表現させてあげること。このように考え方をかえてあげることが、結果的 に感動的なウェディングを生み、婚礼率の増加に繋がっていくのではないだろうか。そして、ゆく ゆくは同性愛者などマイノリティの方々も、素直に自分を表現できるような環境ができていくこと を願う。 第 10 回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト 論文試験 優秀論文 論文テーマ『これからのブライダルについて、私の考察 』 6 秒の奇跡 (株)アディック アディックウディング大宮店マネージャー 山本 優貴 「裕二、結婚…お め で と う」 披露宴終盤の祝電披露。1 通のビデオレターが届いていますと司会者からのアナウンスが流れると、 暗転した会場内に映像が映し出された。新郎の大好きなおじい様の映像だった。 病院のベッドに横になりながら、本当に小さな弱々しい声ではあったが、ゆっくりゆっくりと言葉を 紡いでいらした。その映像を見た途端、新郎は頭を垂れ、その背中は、細かく震えていた。その隣で 新婦も泣いていた。 ご新郎様はお忙しい方で、そのためご新婦様とのお打合せが多かった。仕事が忙しいということも あり、結婚式の準備はほぼご新婦様任せ。当日の進行内容もあまり良く把握していないのではないか というご新郎様へ、ご新婦様からのサプライズをしてみたらどうかとご提案させていただいた。結婚 式に来てほしかったけれど、それが叶わなかったご新郎おじい様から何らかの形でメッセージを頂け ないかということ。 ご新婦様は、遠方の県の病院までわざわざ足を運び、映像を撮ってきて下さった。それは、たった 6 秒の映像だったが、新郎にとっては何にも代えられない大事な大事な記録となる。 「なぜ、結婚式をしようと思ったのですか」 私は初めてご見学に来られるお二人に必ずその理由を伺っている。自分たちのけじめとして、元々自 分たちがやりたかった、親に言われたから、周りが皆結婚式をしているから、友達が楽しみにしてい るから。その答えは、本当に様々だ。どのような理由であれ、結婚式をしようと思われたことを心か ら嬉しく思う。それは、結婚式をするかしないかは、その後の二人の価値観の形成に少なからず関わ ってくるからだ。 結婚式は、何のためにするのか。それは、結婚式をしないと実際には感じることができない。だから こそ、1 組でも多くの方々に結婚式を挙げてほしいと私は思う。 現在、「結婚式を挙げない」理由として挙げられることは、「結婚費用を今後の生活費に充てたい」 「準備が面倒臭そう」というものだそうだ。結婚式は、自分たちの身の丈に合った、 「らしい」結婚式 をしてほしい。ここにあるような、マイナスイメージをどう覆していくかが、この業界に携わる私た ちの課題である。列席した結婚式のイメージが個人の経験値として、その人の記憶に残ることを忘れ てはならない。 私たちは、1 人で生きてきた訳ではない。周囲の助けや支えがあって、今こうしてここにいる。そ れを心から感じられたこのご新郎様は、披露宴お披楽喜後に、大事そうにおじい様の映る DVD=ご新婦 様からの気持ちを胸に抱いた。 結婚式は、心の奥底に眠っている気持ちを表現できる場だと思う。お二人の気持ち、親御様の気持ち、 ご列席の皆様の温かな気持ちがパーティ全体の雰囲気を作る。私は、プロのウェディングプランナー として、価値を感じて頂ける結婚式を作る。そして、1 組でも多くの方にこういう結婚式ならやりた いと思って頂ける機会を作る。それが今の私の使命である。 第 10 回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト 論文試験 優秀論文 論文テーマ『これからのブライダルについて、私の考察 』 「熱い想い」 アメイジンググレイス前橋 営業部ウエディングプランナー 石山 智美 「この結婚式は一生忘れない結婚式になるね~。 」 と、そう言いながら晴れ渡った青空の中を、満面の笑みでお帰りになられるお客様を見送った。 その瞬間、私はこの結婚式は成功したと実感した。 それは、忘れもしない 2014 年 2 月 16 日日曜日の結婚式での事だった。 2 月 14 日の夕方から降り続いた雪は、翌日 15 日朝には日本列島を真っ白に包み、 「100 年に一度の 大雪」と言われる程の記録的大雪となった。私の働く県内では交通機関がストップし、雪による災害 や、自宅待機を促すニュースが流れていた。一晩で当たり前の生活が当たり前ではなくなった。それ を見た時、 「結婚式はどうなるんだろうか」と翌日の事が頭をよぎった。 車で 5 分の通勤路を 40 分かけて歩いて出勤し、会社に辿り着き駐車場を見た瞬間、唖然とした。 100 台以上の広い駐車スペースが一面雪で埋もれ、車を停めるスペースなど全く無かったのだ。案の 定、敷地内も雪に埋もれ、人が通れる通路さえ何処にもなかった。 事務所に着くと同時に、明日に挙式を控えているお二人から電話が鳴った。 「もし出来るのならば、結婚式をこのままやりたいと思っています。」というお二人の言葉。 いつもならば、嬉しいこの一言も正直この時ばかりは不安に感じた。果たして 24 時間後ゲストを無 事に迎えられるだろうかと内心戸惑った。 「結婚式をやりたい。 」お二人の想いを形にする為、私たちは、わずか 6 名のスタッフで早速準備に とりかかった。 司会、音響、お花、写真、ビデオ、メイク、衣裳、料理、サービス、バスの運転手など一つひとつ、 担当のスタッフに電話をしながら明日の確認を行う。 結婚式は本当に多くのスタッフが関わって作り上げているものだという事をこの時改めて実感した。 夜中の 12 時を回っても、明日の結婚式に向けての準備が続く。最低限の駐車場の確保や館内の通 路が雪で滑らないようにと人工芝を敷き、送迎バスにもチェーンを巻き、渋滞を考慮し午前 4 時には 式場を出発した。そんな中、自宅から隣の市から6時間7時間かけて歩いて出勤してくるスタッフも いた。私たちは 12 時間後に結婚式を行う為、できる限りの事に全力を尽くした。 当日、結婚式は 2 時間 30 分遅れでスタートし、無事にお開きとなった。お開きの時には、昨日の 天気が嘘の様な見事な青空が広がっていた。また、共に夜通し準備をした仲間の表情もスッキリと晴 れ渡っていた。 この 1 件の結婚式を通して、改めて気付かされた事がある。 私たち施設のスタッフはお二人の想いを実現する為に努力を惜しまないのだ。 いつも最高の状態で結婚式を迎えられるわけではない。しかし、その時がどんな状況でもお二人にと って、ゲストにとって「一生忘れられない結婚式を作る為の努力をする」それが私の使命だ。そんな 結婚式に対するスタッフの熱い想いが、減少する結婚式に歯止めをかけると信じている。 第 10 回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト 論文試験 優秀論文 論文テーマ『これからのブライダルについて、私の考察 』 ブライダルコーディネーターの役割 湯本富士屋ホテル 宴会課 剱持亜沙美 「結婚式をやめようと思います・・・」 電話口で新婦が泣きながら言った。 台風で流れてしまった 2 回目の打ち合わせ。次回日程を何時にするか投げかけた質問の答えは、あま りにも予想外だった。 「ブライダルコーディネーターになりたい!」と憧れを抱き、スタートして約半年。 私にとって心の衝撃は、あまりにも大きく「どうかされましたか?」と伺うのが精一杯だった。沈黙 の後、金銭的な不安や自宅東京と箱根の距離は遠いと言った話しがあったが、もう一度新郎と相談す る事で一旦話しを終わらした。震える手で何とか電話を置いた後、初めて来館され、出会った日から 今日までの過ごした時間が私の頭を駆け巡った。「なかなか会えない家族と大切な時間を大好きな箱 根で過ごしたい」嬉しそうに話していた新婦を思い出した。 新婦に手紙を書きたい。今、私が感じていること、思ったことを書き綴った。 それから半年が過ぎ、結婚式の前日を迎えた。宿泊の為、来館された新婦を私は客室へ案内した。 「いよいよ明日だから緊張してしまって・・。あの時はスミマセンでした。」あの時とは、半年前の電 話の事を言っているのだと分かった。その後、キャンセルすることを留まった二人と打ち合わせを重 ねても、何となく聞けずにいた新郎・新婦の本音。踏み込めなかったのは、向き合えていない自分が いるからなのか?心の中でずっと引っかかっていた。 「半年前、新しい命を授かりました。でも、流産 をしてしまって。悲しくて、何もかもが嫌になって、 『結婚式なんか』ってあの時は思っていました。 でも、いただいた手紙を読んで分かりました。結婚式は私たち二人のためだけに行うべきではないっ て事。」 優しく微笑む新婦の目には涙がこぼれていた。気づいたら私も新婦と同じだった。 あの時、手紙に書いたお二人とご家族に対する想いがちゃんと伝わっていた事を確信した瞬間だった。 間違っていなかった・・・。 人は置かれている状況や環境の違い、不安や迷いはその人によって違う。だからこそ、目の前にい る新郎・新婦と向き合い、想いを感じ、受け止め、一緒に考えながら最善な方向へと導いていく。 それがコーディネーターの役割だと確信した。 厚生労働省 2012 年の人口動態統計によると婚約件数が 67 万組に対して結婚式を挙げた組数は 35 万組。約半分のカップルは結婚式を挙げていない。 『ナシ婚』といっても一括りには、出来ないほど複 雑だと思う。 「結婚式をしたくても出来ない人」 「結婚式に興味がない人」。それぞれの想いがある。私 たちに出来ることは、その声を受け止め、その人にとっての『結婚式をする意味』を考えるきっかけ を作る。こちらから向かっていく、歩み寄っていく姿勢が今後のブライダル業界に必要だと考える。 結婚式当日。新郎・新婦が希望していた温かで優しい祝福の時間が目の前に広がっていた。 「おめで とうございます。 」私は、心から思った。 第 10 回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト 論文試験 優秀論文 論文テーマ『これからのブライダルについて、私の考察 』 完璧を超えるウエディング ホテル日航東京 婚礼営業部ウェディングプランナー 髙鹿 亜純 新郎新婦の希望や想いを汲んで、最高な一日のために、全てを把握し準備を整えること――それがウ エディングプランナーの仕事だと私は思っていた。 ある土曜日 15 時 20 分、私はチャペルの扉の前に立っていた。ご新婦様の到着を待っていると白いコ ックコートを着たシェフたちが何人もこちらに向かってくるのが見えた。式の入場を見守りに来てく れたのだと瞬時に分かり、予定外の光景に私は思わず涙した。 これから入場するのは、ご新婦様おひとり。その手には 2 年前に亡くされたお父様の遺影があった。 お打合せの際「バージンロードはどなたと歩かれますか」という私の問いに、ご新婦様は「父と入場 します」と胸を張って答えて下さっていた。お父様は生前パティシエをされていて、ウエディングケ ーキを作る仕事をされていたとのこと。そんなお父様が自慢であり誇りだ、と笑顔で話してくれた。 当日、そんな事情を知っていたシェフたちが「お父様の分も祝福して差し上げたい」とチャペルに集 まったのだ。 そしてさらに私が知らないところでもうひとつのサプライズ計画も進められていた。私が調理場に行 くと、ひとつのチョコレートケーキ。ケーキに添えられたプレートには≪~天国からの贈り物~この チョコレートケーキはお父さんのレシピでつくりました。たくさんの人を笑顔にしたお父さんのケー キです。≫と。 私からお願いしたわけではなく、ご新婦様のためにとシェフたちが準備を進めてくれたことに、私の 胸には込み上げてくるものがあった。 実は、お父様を亡くされる数年前にお母様も亡くされていたご新婦様。それでもいつも明るく前向き だった。私はウエディングプランナーとして、おふたりのために何が出来るのかを考え、寄り添い、 お打合せを重ねて当日に向けて完璧に準備をしてきた。 しかし当日のシェフたちの行動はご新婦様も私も予想していなかったことだった。全てが整い、完璧 だと思い当日を迎えたが、関わる人々の温かい気持ちでその価値は何倍にもなるのだと改めて感じた のだった。 情報が溢れ、強いこだわりをお持ちのお客様も増えている昨今、ウエディングのクオリティを高める ことはとても重要である。クオリティを高めるために必要な物――提案力、そしてそれを実行する力、 サービス技術――考えられる物はいくつもある。 しかし私はこう考える。ウエディングプランナーひとりではなく、そのウエディングに関わる全ての 人、ひとりひとりから湧き出るおもてなしの心、何か出来ることはないかと考える心、そこに込める 真心、この温かい気持ちこそが何より大切なのだ。そうして完璧を超えるウエディングは創られる。
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