第9回The Master of Bridal Coordinatorコンテスト優秀論文

第9回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト
優秀論文
結婚式の
結婚式の価値
アメイジンググレイス前橋
営業部 副支配人 金田 貴子
2010 年 10 月、一本の電話があった。2008 年の 10 月にご結婚式を担当させていただ
いた新郎様からだった。結婚記念日にお子様と新婦様と 3 人で遊びにお越しいただける
とのことだった。
記念日当日、新しく増えた家族を連れて 3 人でご来館。少しお話をしてから、「折角
ですので、チャペルと会場に行ってみませんか」と私から切り出した。チャペルで当日
の事を思い出し、次に会場へと。扉を開けてメインテーブル前に進むとそこには両手の
掌にのってしまうくらいの小さなケーキ。よく見ると結婚式当日と同じデザイン。だが
2 年前と違うのは『りえ、いつもありがとう』と書かれたプレートの文字。新郎様から
のサプライズで用意しておいたものだった。それを見た新婦様は目に涙をいっぱい浮か
べていた。
「じゃあ、入刀しましょう」とキャプテン。照明が暗くなり入刀と同時に新
婦様の大好きな曲。嬉しそうな新婦様と恥ずかしそうな新郎様は生まれたばかりの新し
い家族と一緒にお帰りになった。それから数日後、私宛てに一通の手紙が届いた。新婦
様からだった。手紙に綴られていた内容は私が予想もしないものだった。結婚して2年、
思い描いていた生活とは程遠く間違った結婚だったのではと思っていた。でも考え直そ
うと思う・・・という内容だった。
翌年の記念日に家族3人で遊びに来てくれた時には、お腹の中に新しい命があった。
そして、その翌年 2012 年 10 月の記念日には家族 4 人でご来館だった。楽しい会話が弾
み、ご家族はお帰りになった。その数日後、また一通の手紙が。今だから言える 2 年前
の新婦様の本当の想いが綴られていた。本気で結婚生活をやめようと思っていたこと。
そんな時のサプライズがとても嬉しかったこと・・・。心から誓ったあの日を思い出し
たこと・・・。最後に綴られていたのは『私達にとってアメイジンググレイスはとって
も大切な思い出の場所です。再スタートをさせてくれた、そして私達家族をつくってく
れた大切な場所です』という言葉だった。一通目の手紙をもらったその時の衝撃は今で
も覚えている。挙式後に遊びに来てくれるお客様は幸せな方ばかりではないという現実
を知ったからだ。あれから 2 年間、私の心は迷っていた。だが、ニ通目の手紙を読んだ
時、私の心は落ち着いた。
私達にできることは、いつでも二人が一緒に帰って来られる場所や思い出をつくるこ
とだ。自然に家族になるものではない。家族はたくさんのことを乗り越えながらつくっ
ていくものだ。でもその途中、お二人が何かに迷った時にもう一度帰れる『時』として、
結婚式は必要なのだと確信した。
今、増え続けている結婚式をしないカップルに結婚式の本当の価値を伝えたい。結婚
式はこれから先の人生においてきっとかけがえのないものになることを。そして、その
価値を感じていただける結婚式をたくさん創ることが私達の使命である。
第9回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト
優秀論文
人が創るウエディング
ホテル日航東京
宴会部 髙鹿
亜純
沢山の会場が続々とオープンしている今日、世の中のカップルは何をポイントに結婚式
をする会場を選んでいるのか。会場を選ぶにあたって、ハード面だけで決めるのであれ
ば、パンフレットを並べて比較すれば会場は決められるはずだ。しかし、実際に会場ま
で足を運び自分の目で見て吟味する。施設だけではなく「人」も検討材料のひとつとな
るのだ。施設はそう簡単に変えることはできないが、「人」から発信する提案は限りが
ない。言われた事を実現するのは誰でも出来る事。言われた事以上の何かをしようと考
えるのはその人にしか出来ない事。まさに「人」が商品となる。
先日、80 歳と 78 歳のご夫妻がご来館され、とても素敵なお話を聞いた。なんと結婚 56
周年を迎えるご夫妻だ。ある日、旦那様はふと「妻に言い残したことはないか」「今ま
で何をしてあげられたのか」と考えた。今まで仕事で忙しく、家に帰って一緒に食事を
したことは数える程。ずっと寂しい思いをさせてきてしまったと、奥様に申し訳なさそ
うにおっしゃった。そんな奥様に何かをしてあげたいと思った時、以前奥様が何気なく
言った「ウエディングドレスを着たい」という言葉を思い出し、ホテルに足を運んで下
さったのだった。
「今までの感謝と寂しい思いをさせてしまった事への償いだからね」
と少し照れくさそうに、でも素敵な笑顔でお話しして下さり、奥様の夢を叶えようとい
う旦那様の優しさに感動し、私も何かお役に立ちたいという気持ちが込み上げてきた。
心の底から湧き出た「私に任せてください」という言葉におふたりは笑顔で「もちろん」
と応えて下さった。
お打合せが始まると「派手な事はしなくていいんだ。ドレスとタキシードを着て、家族
と楽しく会食出来たらそれで満足。
」と控えめなおふたり。その気持ちを考慮しながら
も自分に何ができるだろうと私は日々考えた。
そして迎えた当日、奥様の夢だったウエディングドレスを着ての会食が終わった後、私
はおふたりをチャペルへご案内した。扉を開けるとそこにはご家族の笑顔・・・驚いた
表情のおふたりは皆様の歓声の中、今までの感謝とこれからも愛し続けるよという想い
を胸にゆっくりとバージンロードを歩いたのだった。温かい笑顔が溢れるチャペルの中、
私はおふたりへプレゼントを渡した。当日のおふたりとご家族の写真、携わったスタッ
フの写真、ご家族からのメッセージを集め、一冊にまとめたアルバムだ。
おふたりは最後には目に涙を浮かべ喜んで下さり、当日まで内緒で計画した私の手を握
り、何度も何度も「本当にありがとう」と。
目の前のカップルの心の奥底にある希望、夢を引き出し、形にする-それこそウエディ
ングプランナーの仕事である。ウエディングプランナーの提案が沢山の会場の中から選
んで頂く事、後悔のない当日を迎えて頂く事の大きな要となる。私はカップルにとって、
何でも話せる、話したくなる、そんな存在で有り続けたい。
第9回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト
優秀論文
フローリストの役割
フローリストの役割~
役割~フラワーコーディネーターから一歩先
フラワーコーディネーターから一歩先へ
一歩先へ~
(株)ユー花園
ホテル日航東京店 小川真由美
「フラワーコーディネーター」
私の肩書きである。ウェディングの仕事につきたいとこの世界に飛び込んで早 8 年。ご
披露宴を華やかに、思い出深いものとなるよう装花のご提案、製作を行ってきた。
数多くの打合せをしてきた中で、近頃は打合せに出始めた頃と違う不安を感じ始めてい
る。
先日、会社の研修で海外のウェディングに触れる機会があった。
日本の様に時間や決まった流れにとらわれず、自由な発想でウェディングを作り上げる。
その為のアイテムも充実しており、招待状ひとつとってもお二人ならではの世界観を表
現する為オリジナルでデザインする事が多いという。
そして日本でもこうした世界観を表現できる会場が求められていると強く感じる研修
だった。それと同時に私がしているご提案は世界観を形にするにはお花の事に偏りすぎ
ているのではないかとその時から感じるようになったのである。
フラワーコーディネーターだからお花を提案、製作することが一番大きな仕事である。
これまでの打合せでもお花にお二人の思いをのせる、その部分に力を注いできた。それ
はもちろんだが、これからの時代、列席者の心に残る特別なウェディングにするには装
花という枠から飛び出し、空間全てをコーディネートする程の力を身につけていかねば
ならない。
スキューバーダイビングが趣味のお二人なら、招待状は太陽が降り注ぐ海面のキラキラ
を感じる色合いや質感で、ワンポイントに魚を泳がせる。会場に入るとほのかに海のに
おい。クロスは海中の深い青、天井にいくに従って明るさを増す照明。列席者を大好き
な海の世界へ誘いたいのだ。そのような空間作りはお花の力だけでは非常に困難である。
これからのフラワーコーディネーターは今まで提案しきれていなかったペーパーアイ
テム、クロス、レイアウト、照明等会場の雰囲気を作り上げるアイテムについてもっと
知識を深め、世の中の新しい情報にも敏感により素敵な空間作りを探求していく必要が
ある。花屋が花を(花だけを)売る時代は終わったのだ。
打合せでご新郎様から「披露宴に参列したけどお花のことなんて覚えてないよ」と言
われたことがある。とても悲しい言葉であるが、それが現状なのかもしれない。しかし、
お花の種類やデザインは覚えていなくても、そこがお二人の心配りやおもてなしの心が
見て取れる空間だったならば、きっとご列席の方一人一人の心に何か暖かい物を残せる
のではないだろうか。
同じご披露宴会場でも、ひとつとして同じ空間にはならない。
列席者全員に来てくれてありがとう、楽しんでもらいたいというお二人の気持ち、感謝
の思いが言葉だけではなく五感から感じ取れるような、オンリーワンの空間を作り上げ
たい。
そのような空間を作り上げることこそ今後の私達ウェディングに携わるフローリスト
の役割であり、私の目指す姿である。
第9回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト
優秀論文
バリアフリーウエディングを考
バリアフリーウエディングを考える
マナーハウス島津重富荘
ウエディングプランナー 加治木絵麻
披露宴の入場前、少し照れながら、キャプテンが親指と小指を近づけて、「ご結婚お
めでとうございます」と手話で新郎新婦に話しかけている様子を見て、私は、「きっと
うまくいく」と確信しました。
理想のウエディングを夢見て、キラキラした目をしている新郎新婦でした。新郎は耳
が不自由でしたが、ご成約頂いたときに、不思議と不安はありませんでした。新婦が私
の質問を手話通訳され、3 人で何の不自由もなく、話を進めることが出来ました。また、
新婦がドレス試着をされている間など、新郎と私だけの時は、彼が私の口の動きを読み
取り、かすかに出る声で返事をされるなど、楽しく会話をすることも出来ました。
しかし、月日は流れ、本格的に打ち合わせを進める段階になり、自分の考えの甘さに
気付きました。当たり前の事なのでしょうが、当初、気付かなかったこと、それは、耳
が不自由なのは、新郎だけではないということです。彼が学んできた学校は、聾学校で
す。つまり、彼の学生時代の友人たちは、皆、耳が不自由です。そして、流ちょうに手
話が出来る新婦、彼女の両親もまた、耳が不自由でした。約 70 名の披露宴出席者の半
分以上が、聴覚障害者だったのです。そのことが分かってから、結婚式の日のことをお
客様の来館から順を追ってイメージしてみると、
「この時はどうしたらいいのか」と考
えさせられることばかりでした。マニュアルはありません。新郎新婦に確認をしながら、
スタッフの動きや備えをシミュレーションする日々でした。このふたりに出会わなけれ
ば学べなかったこと、気付かなかったことが多数ありました。テーブルでの手話のおし
ゃべりや食事に夢中になっている友人たちに、「司会者に注目してください」と伝える
には照明を点滅させるという方法があるということ、新婦の手紙の時、新婦の手話を見
ている聴覚障がいの方はそれを末席で聞く(見る)両親の表情を同時には見ることがで
きないということ、書き出せばきりがありません。
結婚をするのは、結婚式をするのは、健常者ばかりではありません。耳の不自由な方、
目の不自由な方、手足が不自由な方、他の障害がある方も、自分達らしい素敵な結婚式
を夢見ていらっしゃいます。ウエディング業界として、プロのウエディングプランナー
として、障害のあるお客様がいらっしゃってから、様々な対応の方法を考えたりシミュ
レーションをしたりするのでは、遅すぎると思います。障害のある方でも、安心して「結
婚式をしよう」と思っていただくためには、各会場まかせではなくウエディング業界全
体で、取り組むべきではないかと考えます。
後日、新郎新婦から聞いた話によると、聴覚障害のある方たちが一番喜んでいたこと
は、お料理を出す際、お飲物を伺う際に、スタッフが積極的に、お客様の肩をポンポン
と触って合図をしてくれたことだそうです。
第9回 The Master of Bridal Coordinator コンテスト
優秀論文
本物のウエディングプランナー
本物のウエディングプランナー
ホテル日航東京
宴会部婚礼予約グループ マネージャー 里吉 雅克
「笑顔を作るお手伝いがしたい。」そう思い、憧れのウエディングプランナーになり早
7 年が過ぎた。きっかけは、12 年前に参列した従妹の結婚式。パイプオルガンの音色に
包まれた感動的な挙式、新郎新婦の入場の際に美しい景色をバックにテラスから入場す
る演出、どれもが素晴らしかったが、何と言っても光り輝いている従妹の笑顔が特別だ
った。
後日、従妹と話しをする機会が有り、その時に初めて「ウェディングプランナー」の存
在を知った。
生まれた場所も育った環境も違う二人が、はじめて「結婚式」というひとつの物を創り
上げて行く。
時には意見が合わなかったり、面倒だったり、壁を感じることもあったそうだ。
そんな時、常に笑顔で二人に寄り添ってくれ、結婚に対して前向きになれるようにアド
バイスしてくれたのがウエディングプランナーだったのだそうだ。
結婚式を創る二人の過程を上手にサポートし、素晴らしい結婚式を迎えていた頂くお手
伝いだけではなく、その後の人生まで豊かにしてあげられるような、心からのアドバイ
スが出来る人。
それが「ウエディングプランナー」なのだと感じた。
そして自分も、お二人の心の成長までをお手伝いが出来るようなウェディングプランナ
ーになりたいと思った。
私は今、素敵な結婚式を作ることだけでなく、結婚準備を通して、より絆の強い家族に
なっていただけるよう心がけている。
打ち合わせで“何でもいいよ。”という新郎に“私ばっかり頑張ってる。”と怒ってい
る新婦がいたら、新郎が席を外した時にこっそり、“新郎さんの何でもいいよ、は興味
がないのではないんです。大切な新婦さんが最高に満足できる結婚式にして欲しいと思
っているから、好きなものを選んで欲しいんです。”と伝える。
それから、ぜひ親御様にもたくさんご相談をしていただけるようにアドバイスする。今
まで大切に育ててきた息子、娘の結婚式。心配ではない親はいない。でも、口を挟んじ
ゃ悪いかな・・・と遠慮して、お二人にいろいろな事が聞けずにいたりする。
お二人から親御様に沢山相談して、結婚式作りに参加してもらえたら、一緒に準備した
こと、それも親御様とお二人との大切な想い出になるはずだ。
新婦にはこんなアドバイスもする。“当日のスケジュールなど、新郎の親御様に新婦さ
んからお伝えして頂けたら、きっとしっかりした優しいお嫁さんが来てくれて幸せだな
って思っていただけると思いますよ。”と。
結婚式は、お二人にとって一生の宝物。
それを創る過程の時間も、お互いをよく知り、今後の人生の中で尊重し合い、手に手を
取って歩んでいただく準備期間だと思うのだ。
これまで培って来た知識と経験をもとに、もっと「ありがとう」と「よろしくお願いし
ます」を伝えられるようお手伝いがしたい。自分が感じたウエディングの感動と素晴ら
しさを伝え続けられる本物のウエディングプランナーでありたい。