平成17年度小学校教育課程福井県研究集会研究資料 1 2 研究主題 「自然から学び,自然を愛し,共に科学する楽しさを実感する理科教育」 - 受け取ろう 伝えよう 自然からのメッセージ 高め合おう 科学する力 - ~ 天文教育の取り組み その2~ 研究概要 小学校での星の勉強というと「星座」や星座にまつわる神話が話題になり、そこから星座 の動きを観察するのが現在の学習内容である。ここでは一歩踏み込んで、「星」自体を科学 する、いいかえれば測定する教材ができないかを探ってみた。「天文教育とは何か、小学校 で何ができるか。」この課題に対する一つの取り組みとして今回の教材を開発した。 教材内容は、「星の測光(等級をもとめよう)」、「小惑星の検出(小惑星をみつけよう)」 である。 ①使用データ、ソフトウエアについて 国立天文台などの研究機関や公共天文台が、研究用に撮像したデータを公開し始めた。ソ フトに関しても国立天文台ですばる望遠鏡画像解析ソフト「マカリ」が無料公開されている。 小学校においては、すばる望遠鏡等による画像は専門的すぎて利用しづらいので、今回は次 のような画像データを用意した。 a 28mmカメラレンズによる広角画像 ・・・・・・・・・・・こと座 b 30cmF6反射望遠鏡(焦点距離1800mm)直焦点画像・・・小惑星「松本」 *注:小惑星「松本」とは 福井県武生市在中のアマチュア天文家、松本敏一氏の名前が付けられた小惑星 また、オフィスソフトとしてフリーソフトウエアのOpenOfficeを利用した。 ②実践内容 ○学年について 学習指導要領では、天文分野の学習は4年生のみである。本教材は4年生で発展学習と して扱うのが自然である。しかし、ある程度パソコン操作に習熟しており、表計算ソフト も使いこなせる必要がある。残念ながら4年生にはまだ無理であると判断した。本校では 情報教育を計画的に行っており、6年生になると表計算ソフトも使いこなせる。そこで理 科教育・情報教育の集大成の授業と位置づけ、6年生でこの学習を行うこととした。 ○授業内容 第1時 「星の明るさをはかろう」 画像解析ソフト「マカリ」を立ち上げ、冷却CCDカメラで撮像した「こと座」 付近の画像をパソコンで読み込んだ。一番明るく写っている星を見つけさせ、その 星が「ベガ」という1等星であることを告げた。次に、星図と見比べ、こと座の形 を見つけさせた。そして測光作業に入る。一番明るく写っている星「ベガ」の明る さを、測光機能を使って調べさせた。ベガにカーソルを持っていき、クリックする だけで測光した値が表示される。操作自体はいたって簡単である。そのあと画像に 写っている星を思い思いに測光させ、数値を記録させた。最後に測光値を発表させ て、ベガが見かけだけでなく、数値の上でも一番明るいことを確認した。 第2時 「何等星かを調べよう」 この時間の目的は、星の明るさから何等星かを求めようというものである。星の 等級は次式で求められる。 星の等級=-2.5log(知りたい星の明るさ/基準星の明るさ)+基準星の等級 理科-1 児童には式の意味は理解できないが、表計算ソフトを使うことで、とにかく計算 することはできる。こと座のベガとジータ(ζ)星を星図と画像で確認させ、明るさ を測光させた。ベガを基準星として、表計算ソフトに数値を入力すると計算結果と して「4.01」等星と表示されるが、子どもたちにはよく分からないようであった。 そこで再度星図でジータ星の等級を確認させると、円の大きさから4等星である。 ここで、初めて「あっ、同じだ。」という声が上がり、やっていることが少し理解 できたようである。他のいろいろな星についても測光して等級を計算させた。 そのうちに、「一番暗い星は何等星だろうか。」という発言があると、クラス中 が暗い星探し競争となった。子どもにとって、「等星」という言葉にはなじみがあ り、具体的でおもしろかったようである。 第3時 「小惑星を見つけよう」 最後の時間として、小惑星の見つけ方の一例を紹介することにした。小惑星は見 かけの動きが速く、星の間を動いていくように見えることを伝え、10分後に撮影し た画像を読み込ませた。続いて20分後、30分後・・・最後に50分後の画像を開き、計 6つの画像を開いて動いている星がないか見比べさせた。当然、子どもからは「わ からない。」という声が上がる。そこで、ブリンク機能を説明し、6つの画像を順 にブリンクで表示させた。6枚の画像が順にパラパラ漫画のように変わっていくよ うすを見ていると、一人の児童が、「あっ、動いている。」と小惑星を発見、まわり に集まってきてパソコン画面をのぞき込んでいた。どのように動いて見えるか、見 方がわかったようである。画像の中には小惑星は3つ写っている。あちこちから、 「動いている。」という声が上がり、全員が小惑星を無事「発見」することができた。 3 成果や今後の課題 ○成果について 発展的学習として、天文教育、特に今回は研究手法の紹介・実習という、教科書から全く 離れた内容に取り組んだ。子どもたちに、少しでも生のデータや手法に触れて欲しいという 思いからである。結果からいうと、子どもたちは授業をすんなり受け入れてくれた。こちら が思っている以上に子どもの頭は柔軟である。理科的研究は、パソコンの知識、理科の知識、 数学の知識、それぞれが重なり合って進められていくことは感じ取ってくれたようである。 理科は自然を自分の目で観察し、記録して考察を加えていくことが基本である。しかし、機 器が目になり、パソコンでデータを操作し、分析する分野があることを意識させる点では、 効果があったと思われる。 ○今後の課題 教材となる画像の入手方法が一番の課題である。この点に関しては国立天文台や公共天文 台が画像を提供していくよう体制を整えつつある。また、公共天文台では逆に教育現場でど のような画像を必要としているのか情報を求めている。このような施設にリクエストしてい くことも大変重要な課題である。県内では唯一、福井県自然保護センターの天文台施設に撮 像機器がある。画像のリクエストをしたり、機器を使用させてもらうなど県内の施設を有効 に活用していくことも必要である。 また、小中高と連携して系統的に学習を進めることによって、天文学のみならず、物理学 としての教材化も可能である。 参考 すばる望遠鏡画像解析ソフトについて PAOFITSワーキンググループ http://www.nao.ac.jp/J/OutReach/Makalii/index.html http://paofits.dc.nao.ac.jp/ 理科-2
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