石黒正樹さん

第10回「ハンガリー旅の思い出」2013年コンテスト作品
石黒正樹さんの作品
ハンガリーが世界に誇るフォアグラとマンガリッツアを訪ねて
ハンガリーの在来種で希少価値の高い豚「マンガリッツア(Mangalica)」。その名を耳にしたのは、ハン
ガリー政府観光局を訪れた時のことであった。観光局を訪れた目的は、フォアグラに関する情報収集で
あったが、ふとしたことから、マンガリッツアの特集記事を見せていただき、俄然、マンガリッツアに興味
がわいた。これは是非、行かなくては・・・。さっそく、フォアグラ工場と鴨の肥育農場のほかに、マンガ
リッツアの肥育現場を見学すべく、旅行会社にアレンジをお願いした。
空港に到着し、出迎えてくれたガイドさんは、とてもきれいな方で、実に丁寧な日本語を話されるガイド
さんであった。ガイドさんは、ハンガリーは今、日本のお客さんにとても人気があって、ほぼ毎日ガイドの
仕事があるとおっしゃっていた。
ハンガリーの首都。ブタペストでの宿泊は、インターコンチネンタルブタペスト。くさり橋のたもとにある
このホテルの客室からの眺望は、まるで一枚の絵のように素晴らしい。特に王宮がそびえるブタの丘
と、ドナウ川にかかるくさり橋を含めた一連の夜景は、息をのむ美しさであった。
この夜景を見るためだけに再び訪れたいと強く思うほど美しい。
夕食後、ホテルの前の広場では、いくつものグラスに水を注ぎ、注射器で水面を調整しながら音を調
律し、素晴らしい音楽を奏でるストリートミュージック(写真1)に多くの観客が魅了されていた。ほかにも
バイオリンの独奏など・・・。普段着で、音楽を楽しむことができる街だ。
(写真1)夜の広場は音楽がいっぱい
翌日(9月8日)、この日は、市内でマラソン大会があるとのことで、朝8:30にはホテルを出発。高速道
路M5を南下。 KECSKEMETから国道44号で東に向かいSZARVASにあるフォアグラ工場 LUDLAND
KFTに到着したのは、10:20であった。
フォアグラ工場ではManabing DirectorのCsaba Kiszelyさんからフォアグラに関する貴重なお話をお伺
いすることが出来た。
フォアグラと言うと生産量はフランスが世界一だと思っていたが、実はハンガリーが年間18,000トンで
ダントツの生産量世界一を誇り、次いでフランスの4,500トン、ブルガリア2,500トンとのこと。しかも面白い
ことに、ハンガリーで生産される鴨やガチョウの肝臓の90%がフランスに輸出され、フォアグラに加工さ
れ、メイドインフランスとして世界中に輸出されているとのだった。ちなみにこのお会社は、鴨やガチョウ
の肥育を専門に行っていたが、5年前から、加工も手掛けるようになったという。自社農場で肥育された
鴨やガチョウから得られた生の肝臓のうちA+とAカテゴリー(*1)の肝臓だけを自社工場でフォアグラに
加工し、Bカテゴリー以下の肝臓は、冷蔵や冷凍でフランスなどに輸出しているとのことだった。
(*1)生の肝臓は、その品質によって最高級のA+からA、B、C、Dといくつもの等級に分けられているそ
うです。
HACCPに基づき管理されたすばらしい工場を見学させていただいた後、この工場で製造されたフォア
グラやハム、燻製などをご馳走になった。
正直のところ、私は、口の中に残るフォアグラ特有の生臭さが気になり、いままで、好んで食べたいと
感じたことはなかったが、瓶から豪快に取り分けてくれたフォアグラを馳走になってからフォアグラのイ
メージが一変した。これはおいしい!!!
「フォアグラは果物といっしょに食べるとおいしいよ」とフルーツポンチを添えてくれた。さっぱりとした甘
さのフルーツポンチと濃厚なフォアグラがお口に中であいまって、取り皿に山のようにもられたフォアグ
ラはあっという間になくなってしまった。
「こんなにおいしいフォアグラを食べられて幸せ!」
(写真2)缶や瓶詰めのフォアグラ製品
美味だったこの瓶入りの製品はA+カテゴリーの肝臓のみを使用。屠殺して、まだ肝臓が温かいうち
に、肝臓に付着する血管や脂肪などを丁寧に取り除き、トカイワインに漬け込みして、スパイスと塩で味
を調え、ひとつひとつ手作業で瓶に詰め、60℃、30分間殺菌して製造している。
プレミアムカテゴリーの素材を、まだ温かい新鮮なうちに、手作業で、丁寧に加工するからこそ、臭み
のない、舌触りがなめらかで、きめの細かい、芳醇なフォアグラができるのだと感心した。缶詰めのフォ
アグラとは全くの別物だ。
あまりにもおいしいので、日本へのお土産にしたいと考え、購入して帰ろうとしたが、高温殺菌の缶詰
めの製品と異なり、瓶詰めのフォアグラは、とてもデリケートな商品。冷蔵保存が条件とのこと。私の旅
行は、まだなかば、手荷物はあきらめ、1箱購入し、日本に着払いで送ってくれるようにお願いした。
しかしあれから1カ月。いまだに、フォアグラは私のもとに届いていない。おそらく、小口の冷蔵輸送で、
戸惑っているのだろう。私のヨーロッパの旅行のお土産は、この瓶詰めのフォアグラだけだったので、ご
近所へのお土産は、いまだに、おあずけとなっている。
みなさんもハンガリーを訪れたら、ぜひLUDLAND KFTの瓶詰フォアグラ(冷蔵で賞味期限は6カ月、
開封後は冷蔵で2~3日保存可能)をどうぞ。
手荷物で持ち帰るのは難儀ですが、お土産にもらったら必ず喜ばれる商品だと思います。
次に向かったのは、KECSKEMET郊外のBALLOSZOG村、フォアグラ工場からは、車で1時間ほど。雑
木林の中の未舗装の道路を進むとGEREDY BIO FARMのオーナーPETER GEREDYさんが出迎えてくれ
た。
農場に入りまず目に飛び込んできたのが、かわいらしい仔豚たち、PETERさんは、そこを豚の幼稚園
だと説明してくれた。20m×50mの電気柵でおおわれた放牧地には約50頭の仔豚がおもいおもいに、
ゆったりとした時間を過ごしていた。(写真3)
(写真3)仔豚の幼稚園
マンガリッツアには、毛の色により、黒毛、背が黒毛/腹が白毛、赤毛、金毛の4種類分類されている
が、今日では、黒毛が途絶え、マンガリッツアを統括する組合が、復活に向け努力しているそうだ。
マンガリッツアの特徴はなんと言ってもその風貌。全身が天然パーマの毛でおおわれ、羊毛の豚とも
言われている。遺伝的には、イノブタに近いが、牛肉のような色合と肉質をもっている。
親豚は、組合で厳しく管理され、遺伝的形質を判定し、基準を満たした豚のみが親豚として登録され、
はじめて、各農場に分配され、繁殖に供しされる。各農場主が勝手に母豚にしたり、オス豚にすること
は、出来ないそうだ。ハンガリーの国宝と言われるマンガリッツア。その継承の為に多くの努力がはらわ
れている。
マンガリッツアは、その独特の風貌もさることながら、肥育方法が実にユニークで、目からうろこが落ち
る思いがした。
まず、私が一番びっくりしたことは、常時、母豚30頭とオス豚1頭がひとつの放牧地(写真4)の中で自
由に暮らしている点だ。 日本のような計画的な管理されたな仔豚生産は行われていない。
妊娠して出産まじかの母豚がいると、1頭づつ、間仕切りされた小さな放牧場に母豚を誘導し、安心し
て産み、授乳出来るように配慮してあげる。小さな放牧場には、質素な雨風をしのぐ小屋があり、仔豚
が生まれてしばらくすると、母豚といっしょに、もとの放牧地に戻され多くの親豚に囲まれてそだち、生後
2カ月で「親ばなれ」。仔豚だけがいる幼稚園(写真3)にうつされる。生後半年くらになると、幼稚園を卒
業して、肥育用の放牧地にうつされ、生後1年半、約140kgで出荷される。
生れてから屠場出発するまで、豚の行動は、一切制限されることなく、自由である。そして、その一生
は、粗末な小屋があるだけの放牧場で完結する。マイナス15度以下になる真冬でも、豚たちは放牧場
で暮らす。なんと自然なことなのだろうか?
(写真4)親豚の放牧場
つぎにすごいのが、餌である。トウモロコシ、ジャガイモ、小麦、てんさい、牧草、すべてを自家栽培で
賄っている。時には、リンゴやスイカも与えているという。ビタミン剤やお薬を餌に添加することもない。な
んと健康的なのだろう。 農場の倉庫には、150馬力はあるような大きなトラクターと多種多様な、付属機
器があった。広大な畑が、マンガリッツアを支えている。輸入飼料に頼っている日本の養豚とは大違い
だ。
聞けば、この農場は有機認証を取得しているとのこと。有機栽培された穀類や牧草を食べて育ち、有
機認証された豚肉になる。なんと幸せな豚だろう。
そして、この農場で特筆すべきことは、農場が全く臭くないこと。約100頭の豚が目の前にいるにも関わ
らず、まったく臭くない。もちろんハエもいない。 PETERさん曰く、「魚粉などの高タンパクの飼料を与え
ると糞が臭くなる。でも牧草やトウモロコシなどの自家栽培の餌をあたえていたら、臭くならないよ・・・。」
わたしはとても新鮮に感じた。
ハンガリーの国宝マンガリッツア、これにくらべ日本で肥育されている豚はなんと対象的なのだろう。マ
ンガリッツアは自然の環境下で、ゆっくり時間をかけて肥育される。高度に設備化された豚舎の中で、完
全配合の飼料を与えられ、生後約6カ月、体重105kgで出荷されていく日本とは大違いである。
養豚技術はめまぐるしく発展し、おかげで私たち日本人も、おいしい、新鮮な豚肉を、いつでも、安価
に食べられるようになった。でも、たまには、高価なお代を払ってもマンガリッツアのような動物福祉を大
切にした、にこだわりの食材を食べてみたい気がする。
帰りの車窓からはひまわり畑が広がり、収穫を待っていた。すでに収穫がされた畑も見える。これは小
麦だろうか? 「農は国のもとなり」広大な畑にハンガリーの豊かさを感じた。
夕食は、ガストロREZKAKASで伝統音楽(写真5)を聴きながらマンガリッツアをいただいた。不覚にも
お料理の写真を撮ることを忘れてしまうほど、マンガリッザは豚肉のイメージを覆すおいしさだった。
(写真5)伝統音楽が食卓に華をそえる。
翌日(9月9日)は、あいにくの雨模様。9:00にホテルを出発し、ハンガリーの雰囲気に溢れた中央市
場。そしてドナウ川が大きく流れを変えるドナウベントの素晴らしい眺めを楽しんだあと、かわいらしい
町、センテンドレでカフェオレを楽しんだ。さいごにブタペストの街並みが一望できるレストランBUSULO
JUHASZでハンガリーの郷土料理「グヤーシュ」をいただき、身体をあたため、ハンガリーをあとにした。
今回、アレンジをお願いした旅行会社との意思疎通が悪く、鴨やガチョウの肥育場は見学することは
できませんでしたが、すばらしいフォアグラとマンガリッツアに出会うことができ、感謝しています。鴨とガ
チョウの肥育場は、次回、ハンガリーを訪問する際の楽しみに取っておくことにしましょう。
そして、次回は、もっとゆとりのある日程を組んで、トカイ地方と温泉も満喫したいと思っています。
ハンガリーありがとう。
以上
2013年10月