現代建築作品のダイアグラム表現にみる建築の生成イメージ A Study on

現代建築作品のダイアグラム表現にみる建築の生成イメージ
A Study on the Spatial Formation in the Description of Diagram Drawings
by Contemporary Architects
奥山研究室 09M30196 佐藤 剛 (SATO, Takeshi)
Keywords:ダイアグラム、生成イメージ、図面表現、現代建築家
diagram, spatial formation, description of drawing, contemporary architect
1.序
2.ダイアグラムの配列形式
建築家は、自身が設計した作品を発表する際に、複数の図によ
ダイアグラムは、図 1 にみられるように複数の図形によって
り構成されたダイアグラムを用いて、コンセプトを明快に表現
表現されており、それらのまとまり方からひとつの図として独
することがある。それらは、建築のかたちを単純な外形線のみ
立したものを単位図 2) として定義する。ここでは、ダイアグ
で描くものや、様々な機能に対応可能である様子を色の変化に
ラムを単位図の配列形式とそれらの序列を示す記号の有無から
よって示すものなど様々であるが、一つのダイアグラムを構成
検討する(図 2)。まず単位図の配列形式をその規則性から整
する図相互の関係によってそれぞれ独自のコンセプトが表現さ
理し、全ての単位図が一つの軸に沿って並べられたものを【一
れているといえる。したがって、このようなダイアグラム表現
軸】、二つの軸に沿って並べられたものを【二軸】、共通した軸
には、建築を生成する仕組みに関する建築家のイメージが示さ
がみられないものを【軸なし】の3つに大別した。次に単位図
れていると考えられる。そこで本研究では、建築作品のダイア
間を英数字や文字によって序列を示す文字記号、単位図同士の
1)
グラムを資料 とし、それを構成する複数の図の配列形式と
関係を示す対応線、矢印を序列記号として捉えた。そして図 2
図相互の表現内容からみた生成に関わる操作との関係を検討す
では単位図の配列形式と序列記号の有無が示されている。その
ることで、設計論理を示す建築の生成イメージの一端を明らか
結果【一軸】が多くみられ、このとき序列記号をもたないダイ
にすることを目的とする。
アグラムが比較的多くみられた。
No.044 「サイ・トゥオンブリ・ギャラリー」
- レンゾ・ピアノ・ビルディング・ワークショップ
分析
②
単位図5
立 体図形⑦
立 体図形⑧
単位図6
立 体図形⑨
序列記号
・立体図形
-単数図形
・分節線あり
・文字記号
単位図同士の序
列を示すもの
67
⑤
⑥
・立体図形
-複数図形
・分節線あり
40
No.9 コーニングの消防署
・対応線
単位図同士の対
応を示すもの
ふたつの軸に沿って
全ての単位図を並べたもの
全ての単位図の並べ方に
共通した軸がみられないもの
No.113 オフィスビルディングK47
No.36 タウエル図書館
7
8
9
4
5
6
1
2
3 13
14
No.92 House 1
No.29 ポートランド舞台芸術センター
・矢印
⑦
⑧
・立体図形
-複数図形
・分節線なし
⑨
・立体図形
-単数図形
・分節線あり
78
16
58
4
図 2 単位図の配列形式と序列記号の関係
立体図形
平面図形
・線
・面
・線的
・面的
記号図形
・空間的 ・ロゴ
LIVING
TERRACE
立 体図形⑤
立 体図形⑥
ひとつの軸に沿って
全ての単位図を並べたもの
軸なし ( 1 8 )
序列記号なし
1軸
単位図4
序列記号
④
立 体図形④
・立体図形
-単数図形
・分節線あり
二軸 ( 2 9 )
No.11 カルヴァリー・バプティスト教会
③
立 体図形③
単位図3
・立体図形
-複数図形
・分節線あり
一軸 ( 9 8 )
序列記号あり
単位図2
①
分節線
立 体図形①
立 体図形②
図 1 分析例
序列記号
の有無
模式化
単位図1
※単位図と図形
ダイアグラムを構成する
要素を図形とする。
図形の集合で、一つの図
として独立したものを単
位図とする
単位図の
配列形式
KITCHEN
図 3 単位図を構成する図形の種類
DINING
・矢印
・添景
イラストレーション
3. 単位図の描画形式にみるダイアグラムの性格
図形の種類
単数図形
された立体図形、ロゴや矢印などの記号図形で捉えた 3)
(図 3)。
588 438
単数図形で分節線をもつものが最も多くみられた。
3.2 単位図の組合せからみたダイアグラムの性格 単位図
の組合せからダイアグラムの性格を捉え、2 章で分類した配列
形式との関係を検討した(表)。その結果、平面図形同士の組
平
面
図
形
ダ
イ
ア
グ
ラ
ム
022
をもつものが多くみられるのに対し、立体図形ダイアグラムに
038
021
003
54 100
4. ダイアグラムにみる建築の生成モデル
4.1 単位図間の操作の種類 3 章で明らかにした単位図の
描画形式をもとに、単位図同士を比較し、変化の内容を読み
単位図間において、図形が増えるものを付加、異なる図形同士
を分割、異なる図形に置き換わるものを置換とし、5つで捉え
た(図 6)。
立
体
図
形
ダ
イ
ア
グ
ラ
ム
生成モデルとする(図 7)。生成モデルは、付加、統合の操作
のみによって、複数の単位図が集合してひとつの建築の成り立
ル、置換の操作のみによって、ひとつの建築の複数の現れ方が
○5
◆*2
◇*2
◇*2
◇*2
◇*4
◇ ◇*3
◇* ○*
○*2 ◇ 3
○3 ◎
○2 ◎ 2
○* ◎5
○2 ◎* ❖ 3
○2 ❖*2
◇ ◎2
○ ◎2 ❖*
○2 ◇2 ◎
○* ◎2 ◎*2 ❖* 18
089 ホテル・チュリン
098 サレルノ裁判所
013 国立テクニカル大学実験棟
035 キャナル・プラス本社ビル
043 サンライズ・プレイス
046 アリカンテ大学図書館プロジェクト
061 ヴィラVPRO
020 ペ-パ-・ミル劇場
109 ブリュッセルの文化センタ-の改築
057 フィリップモリスU S A工場計画
142 ショッピング・モ-ル屋上の集住
076 リッチ/ゾ-イ・スタジオ 1997
125 ミュ-ジアム・プラザ
111 黒いアマガエル
074 液晶ガラスの家
062 ユトレヒトの二連戸住宅
023 ロワラ・オフィス
092 House 1
◇8
○ ◎8
028 ヴィラ・メイヤ- 1986
○* ◎8
060 ジャン・マリ- ・チバウ文化センタ○*2 ❖*3
036 コ-ルベルク・タウン・センタ-の改築
◇*2 ❖*4
018 ラ・スペツィアのアパ-ト
○*2 ◎2 ◎*2
124 マックス・マイヤ-邸
○* ◎4 ❖ ❖*
138 ポルシェ博物館
○* ❖2 ❖*
8 027 グアルディオ邸
026 ブリスベイン・リヴァ-サイド・センタ○*18
◇*6
2
○* ● ◎
◇4 ◆
2
○*6●*12
◇ ◇* ● ●*
2
1
006
029
103
055
072
031
101
054
7 044
096
◉3
◉3 
◉4
◉5
◉8
◉5 
◉3 ◉* 
◉ 2
◉3 3 9
*2
● 4 ●*
● ◆2
◆ ◆*
● ◉
● ◉2
● ◉3
● ◉5
●5 ◉
●* ◉*
●*2 ◉*
●*2 ◉*3
◆* ◉*
●* ◆* *
●2 ◉2 ◉*
●4 ◉ ●*6
●2 ◉2 ◆
● ◉3 
◆ 
◉3 2
◆ ◉3 
◉4 
◆ 
● 2 ◆ ◉2 
◆ ◉2
◆ 3
086
004
042
019
088
116
090
056
039
030
002
075
037
034
2002年スイス万国博覧会スイス館
住宅 I
グラマシ-・パ-ク・アパ-トメント
カサ・フェルダスラウスハウス
海辺のユ-ス・ハウス
クゥエ-ト国家警察訓練施設
プライス/オライリ-邸
ハ-グの住宅
ポ-トランド舞台芸術センタスプリング・ポンド・アパ-トメント
タ-ミナル・ラインの住宅
タウエル図書館
モ-トン・ビルディング
●16
● ◉5
◆ 2 ◉2
◆ 6 ◉ 4
● ◆ ◉24
●2 ●* ◆3 ◉*
◉2
●5 ◆5 ◉6
7
● ◉6
●2 ◉11
●5 ◉5
●*3 ◉*10
●2 ◉2 ◉*2
● ◉5 2
●3 ◉6
*2
17
◎4
◎9
◎*6
❖6
◎ ◎*3
◎5 ◎*4
◎ ❖11
◎14 ❖2 8
◎4 ◎*4
◉2
◉2
◉2
◉2
◉3
◉3
◉3
◉3
◉3
◉3
◉3
◉4
◉4
◉4
◉6
◉6
◉7
◉9
◉10
◉* 2
◉ ◉*
4
4
*2
◉ *
◉2 3
◉2 
◉2 
◉2 
◉3 
◉6 
◉2 
◉2 2
◉4 
◉2 ◉* 
◉5 3 36
タ-ンオン
ゼ−ダス社の技術開発センタハウス・オブ・カ-ド住宅協会
ポンピド-センタ- 屋上のレストラン
ヨハネ・パウロ2世記念堂
掩蔽壕に建つティ-ハウス
ウィ-ンの住宅Ray-1
イリノイ工科大学キャンパスセンタ30セント・メリ-・アクス
ミルブルックの住宅
ベルラレ・ミュ-ジアム
イリノイ工科大学学生センタヴァイレビル
木造の小屋
クウェ-ト・ス-パ-・ブロック
ガリシア地方歴史博物館
コンピュ-タ・ラボラトリサイ・トゥオンブリ・ギャラリ王室図書館
スファブルグ広場 1995
パラサイト
ミレニアム・ハット
ヴァ-ティカル・パ-ク
85
◎2
◎3
◎4
◎4
◎4
◎4
◎7
◎*2
◎*2
◎*3
◎*3
◎*4
❖*4
◎*5
❖2
◎4 ◎*5
◎* 4
053 ビストロ・アンド・バ085 ピノ-現代美術館
102 ア-バン・テトリス
136 ボストン現代美術協会
010 消防署
012 カルヴァリ-・バプティスト教会
041 題名のない家
052 コロンビア大学学生センタ071 ヘイツベリ・レ-ンのミュ-ズハウス
105 ヘッジ・ビルディング
128 ヒンツァルト資料館
135 ペニスコラ・コングレス・センタ059 ソルトウォ-タ-・パヴィリオン
066 ヴェネツィア建築大学新棟
080 モアレ・ステア・タワ032 シンシナティ大学建築デザイン学部棟
122 ポリ・ハウス
069 グラ-ツのミュ-ジック・シアタ137 メルセデス・ベンツ博物館
144 ハウスSB
040 ア-バン・ア-ムズ
016 共同墓地霊安所
120 芸術の館
073 V2-ラボ
001 ロイヤル ホロウェイ カレッジ化学実験棟
099 イクタス・ビジネス・センタ009 グリニッジのプ-ルハウス
064 サモラ古代芸術・美術館
017 セメントとガラスのパビリオン計画案
015 ヘクスタ-彫刻ギャラリ130 新エストニア国立博物館
014 多目的スポ-ツ施設
070 ダレサンドロ邸 1998
106 BAK
011 ヴィジタ-・レセプション・センタ23 051 ロサンゼルス車両整備/保管ビル
049 リッソン・ギャラリ- 1 1986
127 ガリシア文化都市
005 ブラックバ-ン
112
094
084
077
143
132
114
058
108
068
093
065
118
104
121
134
033
045
081
047
083
078
048
記 082 デンタル・フォス
単位図の組合せ 配列
分節線を持つ単位図のみ
パ-ルズ・レストラン
ジョ-ジア・パシフィック・センタボディ・ハウス
サ-ラム・ホ-ル・スク-ル
メリフォント修道院博物館 1996
クリック・アンド・フリック・オフィス
フォ-ルデイング・ウォ-ル
ロザリンド・フランクリン館
国立通信制大学図書館
ハ-グの複合施設
◉5
◉9
◉5
1
軸
2
軸
3
軸なし
ちが示されるものを集成モデル、変形、分割の操作のみによっ
作品名
2.複数図形にお
いて少なくとも
一つの図形が分
節 線 をもつ 場
合、
分節線ありと
する。
2軸
えた操作の種類をもとに、ダイアグラム全体の操作の組合せを
4
52
17
4.2 単位図間の操作の組合せにみる生成モデル 前節で捉
て図形が変化し、建築の生成の段階が示されるものを変成モデ
*
1軸
取ることで生成に関する操作を捉える(図 5)。操作の種類は、
形、図形の分節線が増加するものや複数の図形に分かれるもの
WTC・マスタ-・プラン
オフィス・ビルディングK47
リンゴット工場の改築
まつだい文化村センタFlexiVilla
サン・アントワ-ヌ 病院中央厨房1985
ゴ-マン邸
フランクフルト工芸博物館
資源再生ファウンデ-ション・センタレイツェンヴェ-ンの高齢者住宅
平 087 シルベル・タワ+ 024 フランクフルト大学生物学センタ立
107 フリ-ダム・タワ4 097 カンタブリア美術館
は【軸なし】の配列形式が多くみられた。
が結びつくものを統合、図形の輪郭の変化がみられるものを変

27
3
28
26
❖*
4
註)
1.図形の数につ
いては記号図形
を除いて考える。
◆
なし
きには記号を用い、図式的に表現するのに対し、立体的に捉え
いえる。また、平面図形ダイアグラムには【二軸】の配列形式
*
◆
2軸
せが多くみられた。これは、ダイアグラムを平面的に捉えると
るときには分節線を用い、実体に近い表現をする傾向にあると
❖
067 スカイスクレ-パ-・スタディ 1996
095 ロサンゼルス・カウンティ美術館
123 ディ- &チャ-ルズ・ワイリ- シアタ139 オ-トモ-ション博物館
140 ア-キテクチュア・ファ-ム
119 集合住宅VM
117 RVBオフィス
115 シアトル中央図書館
145 ベル・ヴュ-・レジデンシィズ
110 旧市街の住宅
131 IKBインタ-ナショナル
050 2000年の教会
129 テ・パパ博物館増築計画
126 ソウル国立大学美術館
079 ハムリンのチャペルと図書館
063 RVUオフィス 1997
008 S.U.C.N.Y.体育施設
007 ノ-スレイク・コミュニティ・カレッジ
091
113
025
133
141
DINING
LACMA
19
KITCHEN
25
254
50
◇*
LIVING
29
◉*
◉
1軸
合せが少なく(18/85 作品)、分節線をもつ単位図のみの組合
66
37
◎*
分節線を持たない単位図を含む
とができた。両者を比較すると、平面図形ダイアグラムにおい
れた。一方で、立体図形ダイアグラムでは記号図形をもった組
109
◇
176 100
(以下、立体図形ダイアグラム)で資料のほとんどが捉えるこ
をもつ単位図のみの組合せとそれ以外の組合せが同数程度みら
18
◎
図 4 単位図の描画形式
表 単位図の組合せにみるダイアグラムの性格
No.
作品名
単位図の組合せ No.
合せ(以下、平面図形ダイアグラム)と立体図形同士の組合せ
ては、記号図形をもった組合せが多く(36/54 作品)、分節線
76
分節線あり
複数図形
4)。その結果、平面図形、立体図形ともに記号図形をもたず、
分節線なし
分節線の有無の組み合わせから単位図の描画形式を捉えた(図
分節線あり
時に検討した。こうした、単位図に描かれる図形の種類、数、
図形の数
それとあわせて図形を分節する線(以下、分節線)の有無も同
150
TERRACE
の内容から、二次元的に表現された平面図形、三次元的に表現
分節線なし
3.1 単位図の描画形式 単位図を構成する図形の種類をそ
平面図形
立体図形
303
461
記号図形
記号なし 173 記号あり 130 記号なし 400 記号あり 61
*
*
○
*
○
●
●
1軸
示されるものを範列モデルとし、それらが複合するモデル(複
アグラムが多くみられた。これは、それぞれの平面図形が異な
合モデル)で捉えることができた。
る建築の現れ方を示し、序列とは無関係な意味合いをもつため、
5. ダイアグラムにみる建築の生成イメージ
ひとつの軸に並べることで多面性を強調し、図式性の強い表現
5.1 ダイアグラムの配列形式と生成モデルの関係 2 章で
を意図するものであると考えられる。最後に複合モデルにおい
捉えた配列形式、及び序列記号の有無と 4 章で捉えた生成モ
ては、序列記号の有無に関わらず【一軸】と【二軸】に一定の
デルの関係を検討した(図 8)。まず、最も資料数の多い集成
資料がみられた。これは要素に複雑な操作を与える際には、ひ
モデルにおいては、序列記号の有無に関係なく【一軸】の配列
とつの軸の中で段階的に捉えるだけでなく、無性格な二軸の配
形式に資料が偏り、その大半が立体図形ダイアグラムであった。
列の中に単位を並べることでそれぞれの操作を整理する傾向に
これは、建築を要素の集合として捉える際には、ひとつの軸に
あると考えられる。
沿って配列することで、建築の実体に近い要素の立体的な位置
5.2 通時的傾向 さらに、全ての生成モデルと配列形式の
関係を明示することを意図したものであると考えられる。また
関係を通時的に検討した(図 9)。その結果、複合モデルにお
他の生成モデルと比較して、序列記号ありの【軸なし】に資料
いて、序列記号があるときには、70~80 年代の作品の割合が
が多くみられた。これは本来ひとつの軸では捉えきれない建築
高くなるのに対して(6/11 作品)、序列記号がないときには、
がもつ複雑な部分同士の位置関係を序列記号を用いることで明
【二軸】の配列形式の中に 00 年代の作品の割合が高かった(6/8
確にするものであると考えられる。次に、変成モデルにおいて
作品)。これは、複雑な操作の組合せで建築の生成を捉える際
は、集成モデルと同様に【一軸】に資料が集中した。これは、
に、70~80 年代ではその操作の段階を序列記号によって明示
要素を変化させていくことで建築の生成を捉える際には、単位
する傾向にあったが、近年においては、序列記号がなく、操作
をひとつの軸に沿って配列することで変化の段階を捉えやすく
の段階を明示しないといったそれまでの生成イメージとは異
することを意図したものであると考えられる。また平面図形ダ
なった傾向を示すものであると考えられる。さらに、集成モデ
イアグラムと立体図形ダイアグラムの資料の割合を検討する
ルにおいては、序列記号ありの【軸なし】に 90 年代以外の作
と、序列記号をもつ場合には平面図形ダイアグラムであるもの
品が少なかった(3/12 作品)。これは、序列記号を用いること
に資料の偏りがみられた。これは、変化させる要素を図式的に
で不規則な配列をもった要素同士の関係を明示し、その集合と
捉えた場合に、配列に加え、序列記号を用いることにより操作
して建築を捉えることが 90 年代の集成モデルの捉え方のひと
の順序を強調する傾向にあると考えられる。範列モデルにおい
つの特徴であると考えられる。また変成モデルは、資料の 2/3
ては、序列記号がない【一軸】に資料が集中し、平面図形ダイ
が(20/30 作品)00 年代の作品であった。これは、建築を変
付加
単位図間において
図形が増えるもの
○…単位図を構成する図形の数
統合
●*
図形の分割
分割
単位図 2
①
◆
④
③
*
⑤
⑦
①
④
③
⑤
単位図間の図形
において分節線が
増加するもの、複
数の図形に分か
れるもの
● ◆
分割
図 5 3 章の分析例
⑥
⑦
単位図間の図形
において輪郭の変
化がみられるもの
分割
置換
変成モデル
*
単位図間において
異なる図形同士の
対応関係がみられ
るもの
変形
*
記号化
⑥
図形の変形
変形
単位図 3
67
集成モデル
付加、統合のみによ
って関係づけられた
モデル
②
①
単位図 1
◆ ◆
*
変形
*
単位図間において
図形の数が同数
で、部分的に異な
る図形に置き換わ
るもの
◆ ◆
No.143 「ロ-マ教皇ヨハネ・パウロ2世記念堂」
複数操作
単一操作
58
9
付加のみ17 統合のみ 41
8
1
◆ ◆
30
変成モデル
変形、分割のみによって関係づけられたモデル
複合化
AU0504
No.118 「ヴァイレビル」 PLOT
複合モデル
27
集成×変成モデル17
集成と変成が複合す
るモデル
5
1
4
1
5
1
7
集成と範列が複合す
るモデル
2
2
1
2
2
変成と範列が複合す
るモデル
◆
No.119 「集合住宅VM」
複数操作
単一操作
11
19
変形のみ 10 分割のみ 9
1
10
◆ ◆
図 6 単位図間にみる操作の種類
2
1
21
範列モデル
置換のみによって関係づけられたモデル
No.007 「S.U.C.N.Y.体育施設」
図 7 操作の組合せにみる生成モデル
集成と変成と範列が複
合するモデル
1
化の中で捉えることが近年における建築の生成イメージのひと
した場合、序列記号を用いず、図の対応関係や生成の段階を明
つの特徴であることを示すと考えられる。
示しないといった従来の捉え方とは異なる新たな表現が明らか
6. 結
になった。このことは、建築を複雑な操作が展開するプロセス
以上、ダイアグラム表現にみる建築の生成イメージを単位図の
の中で捉えようとする場合に、ひとつの流れの中で捉えるので
配列形式と生成モデルとの関係をもとに、描画形式とあわせて
はなく、いくつかの操作を並走させることによって捉えようと
検討した。単位図の描画形式の比較から、ダイアグラムにみる
する思考の現れであると考えられる。またそれと同時に、変成
生成モデルを集成モデル、変成モデル、範列モデルおよびそれ
によって建築の生成を捉える割合が増えており、建築が生成す
らの組合せによる複合モデルで捉えることができた。また配列
るそのプロセスを重要視するといった近年に特徴的な2つの傾
形式は図をひとつの軸にそって並べるものが最も多くみられ、
向が明らかになった。
それが図形の立体的な位置関係や変化の過程を明示するダイア
註:
グラムの基本的な表現形式であることがわかった。それに対
+ u」1972 年から 2009 年を資料対象とし、その中で、複数の図によって
1)資料は、建築ジャーナリズムにおいて国際的な事例を取り扱っている「a
し、図がグリッド上に配列されるものやランダムに配列される
構成されたダイアグラム表現が見られる作品 145 作品を資料対象とする。
場合、序列記号を用いることで図の対応関係を明解に示すもの
3)同一の図形が反復するものに関しては群とし、単一の図形として捉える。
2)単位図は 145 作品の中から、768 の単位図を抽出した。 が多いが、近年においては複雑な操作で建築の生成をイメージ
集成モデル
平面8
立体58
70 s 011
014
80 s 016
1軸
2軸
序 40
列
記
号
あ
り
90 s
❖ ❖3
67
012
◉ ◉2
041 ◉ ◉2
047
053
051 ❖3 ◉5
064
❖ ◉2
080 ◉ ◉5
087 ● ○* ◎
122 ◉ ◉6
00 s
132 ◉3 ●
136 ◉ ◉
143 ◉2 ●
70 s 005
00 s 113
90 s
029 ❖ ◉3
045 ◆ ◉3 ❖ 2
❖ ◆ ◉4
◉◉
00 s
071 ◉ ◉2
085 ◉ ◉
106 ❖ ◉3 ◉
130 ❖ ◉6
135 ◉ ◉3
137 ◉ ◉9
立 14
範列モデル
30
軸なし
1軸
* *
095
096 * *
098 ◎ ◎3
109 ◎* ◎*
軸なし
78 4
21
❖ ◉3
00 年代
に多くみられる
110 ○2 ○ ◎
112 ●* ●4
80 s
2
002
◉*3 ●*3 ◉*4 ◉*3
031 ❖ ◉5
037 ❖2 ◉5 ●
90 s 044 ❖3 ◉3
056 ◉6 ●
072 ◉ ◉7
00 s 101 ❖ ◉3 ◉*
034
039
054
055
◉6 ●3
70 s 009
010
◉ ◉2
◉ ◉4
12
020 ◎* ◎*
046 ◎ ◎3
059 ◉ ◉3
066 ◉ ◉3
069 ◉ ◉8
070
❖2 ◉2
078
◆❖◉◉
082
**
00 s 099 ◉ ❖3 ◉
90 s
027 ❖2 ◎2 ◎2 ◎2 ◎8
028 ◎ ◎8
1
80 s
022 ◎2 ◎* 2 ○* 2
025 ◎8 ○*
00 s
◉ ◉2
114
◉5 ●
115 ◇* ○*
128
◉2 ◉
142
075 ● ● ◉* ◉ ◉* ◉
2
◎*2 ◎*
032
058
065
077
80 s 024
◇
083
00 s 094
121
◆ ◉ ❖ ●2 ◉
2 ◆
◆2 ●
●* ● ●* ●*3 ● ●* ●◉ ●
70 s 004 ● ◉ ◉ ◉ ◉ ◉
80 s 019
021
141
00 s 090
097
80 s
5
No.108
30セント・メリ-・アクス
No.034
モ-トンビルディング
◎ ◎* ◎* ◎*
◆2 ◆2 ◆2 ❖4 ◉
○* ❖ ❖ ❖*
◇ * ❖ * ◇ * ❖ * ❖ *❖ *
◉ ◉ 5 ◆5 ●5
●* ● ◇* ◇
026
7
◎* ◎* ◎* ◎* ◎ ◎ ◎ ◎
1
◉ ◉5
●5 ◉
1
70 s
◆* ◉*
●◉
093
104
108
119
123
126
131
139
●* ●* ◉* ◉* ◉*
● ◉ ● ◉* ◉
00 s
90 s
●* ◉*
◇* 2 ◇* ◇*
◇* ◇*
○ ❖* ○ ❖*
00 s
○2 ◎2
◇* ◇*
118 ●* ◆* ❖*
140 ◇* ◇*
23
042 ◉ ◉ ◆ ◆
90 s
049 ◉ ◉4
70 s 006 ◉ ◉2
90 s 030 ◉5 ●5
00 s 100 ◇* ◇* 5
◎◎ ◎ ◎
018
2
079 ◎ ◎ ◇
081 ❖ ◆ ◉2 ◉
084 ◆* ◆
105
27
70 s 013
90 年代
に多くみられる
2 ◉
❖
033 ❖ ● ◉3
052 ◉ ◉2
90 s 061 ◎ ◎6
068 ●* ●* ◉*
00 s
◉11 ●2
80 s 017 ❖ ◉2
立9
10
24
◎8 ○
❖ ◉2
平 13
134 ◉ ◉ ● ● ◆
144 ◉* ◉*
◉ ◉4
○* ○* 17
No.052 コロンビア大学ラーナ-学生センタ-
複合モデル
○ ◎ ◎ ❖*
035
057
067
074
048
073
089
111
117
102
2
043
◉ ❖*
90 s 050
❖* ◎* 2 ◎2 ○*
○2 ◇2 ◎
◎* ◎* 3
◎ ◎3
○* ◎ ◎2 ◎ ◎
076
◎*2 ◎*2
145
◇ ◇ ◇ ○* ○*
00 s 120
◎* ◎* 2
◎ ◎3
❖ ❖ ❖2
125 ❖* ❖* ❖* 2
○ ○4
❖❖
◆ ❖3
❖* ❖*
◎◎
◎* ◎* 4
060
092
124
133
単位図の構成と数
操作の種類
◇* ◇* 3
凡例
◉◉
資料No. ○2 - ○ - ◎
14
90 s
00 s
2
001
007
008
023
15
138 ◎ ❖10 ❖
086 ● ●15
2軸
16
立4
70 s 015
062 ◎2 ◎*5 ◎2
063
平 16
70 80年代
に多くみられる
70 s 003
序
列
記
号 58
な
し
❖ ◉2
040 ◉* ◉
13
67 14
❖ ◉* ◉2
変成モデル
平 17
◎* ◎* 5
90 s
◎ ◎3
◎* 4 ◎5
○* 2 ❖* 3
00 年代
に多くみられる
4
生成モデルの通時的傾向
6
036
❖ ❖ ❖ ❖3
038
○* ❖* ◎ ❖ ◎3
088
● ◆ ◉ ❖4 ◉
091
◇2 ◇ ◇5 ◇
全体
145
作品
◉3 ◉3 ◉3
○2 ◎* ❖ 3
変成 範列 複合
67
30
2
3
70
00 s 107 ○* 6 ●* 6 ●* 6
116 ●* ● ◆ ◆2 ● ◉2 ◉*
127
129
集成
80
21
9
4
90
29
8
27
4 2
5
5
7 4
00
103
◉ ◉3
図 8 単位図の配列と生成モデルの関係
4
25
図註) 資料No. は右の図の典型例をあらわす
図 9 通時的傾向
23 7
16