中古品を販売するオンラインショップの知覚リスク低減方法の考察

2010年度 第26回 ACAP消費者問題に関する「わたしの提言」
入選
中古品を販売するオンラインショップの知覚リスク低減方法の考察
愛知淑徳大学ビジネス学部3年生(愛知県半田市在住)
竹内 宏樹
第1章 研究の背景
1993 年からインターネットの商利用が許可され、オンラインショップは時間や空間の制約とコストを削減
できるとして注目が集まり、今日まで大きな発展を遂げた。その一方で、オンラインショップは取引相手と
対面しないため、通常の取引と比較するとリスクが一層高くなることが問題視されてきた。さらにこのリスク
の要因は複雑化しており、年々新たな問題が発生し、新たなリスク低減方法が必要となっている。
最近では中古市場が大きくなりオンラインショップで中古品を販売するケースをよく見かける。新品をオ
ンラインショップで販売することでも様々なリスクが存在する中、中古品のオンライン取引ではさらに多くの
リスクが追加されると予測される。これまで、オンラインショップのリスク低減方法を考察する研究は多くな
されてきた(野島ら,2002(1))が、中古品を販売するオンラインショップのリスク低減方法はこれまでのとこ
ろあまり議論がなされていない。中古品は新品とは明らかに違い、誰かが使用したという顕在的な負の情
報が存在する。さらに、汚れ、傷などの様々な負の情報が付加されている可能性が高い。そのため、新品
と中古品ではリスク低減方法が異なると考えられる。そこで本稿では、中古品を販売するオンラインショッ
プに焦点をあて、リスク低減方法を提案することとする。
第2章 先行研究のレビューと応用
これまで、オンラインショップのリスク低減方法を考察する研究で「知覚リスク(perceived risk)」の概念
が多く適用されてきた。本研究も知覚リスクの概念を取り入れ、リスク低減方法を提案する。
知覚リスクを最初に提唱したのは Bauer(1960)である。消費者行動研究の分野では、Bauer 以来消費
者の情報探索を規定する要因として知覚リスクが注目されてきた。知覚リスクとは、一言で述べると「消費
者が購買行動をする際に消費前後に発生する不安」のことを示している。また、知覚リスクは、その内容
によって様々なタイプ分けがなされてきた。
例えば最も代表的な研究のひとつである Robertson(1970)は、知覚リスクを「機能的リスク」、「社会的・
心理的リスク」の2つのタイプに分けている。これらはそれぞれ品質や性能の不備・不良に関するリスク、
自己イメージ・自分らしさを損なうことに関するリスクという位置付けをしている。例えば、一般的に食品、
本、タイヤなどには機能的リスクがいっそう強く、流行に敏感に影響される衣服やお洒落用品などには社
会的・心理的リスクがいっそう強くなる。また、両者を持ち合わせる商品として、自動車や家具などの耐久
財が上げられる。これらの先行研究の内容を元に本稿では中古品の商品種類ごとに知覚リスク低減方法
を考察する。
中古品をオンラインショップで販売することは、新品をオンラインショップで販売することより知覚リスク
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がよりいっそう高くなるため、消費者の知覚リスクを低減することは消費者の中古品の購買行動を促進す
るための重要な条件となる。このことに対し本研究では、中古品に必ず存在する負の情報に注目し、負の
情報提示方法を操作して消費者の知覚リスクに対する影響を実験によって測定することとした。
このとき、以下の 2 つの要因を検討した。一つ目は、オンラインショップ上に表示される中古品の持つ負
の情報自体が、具体性を持つことで消費者の知覚リスクが低減され、購買行動を促すかどうかである。も
うひとつが、知覚リスク自体を細分化し、機能的リスク、社会的・心理的リスクでは負の情報の表示方法と
知覚リスクの関係性が異なるかどうかである。これら2つの視点から、いくつかの仮説を立て、仮説を検証
するための実験を行った。
第3章 本論(仮説・実験)
3-1仮説
本研究では 3 つの仮説を立てた。
・仮説1「機能的リスクが強い商品は、負の情報を具体的に表示することにより消費者の知覚リスクが低
減する」
・仮説2「社会的・心理的リスクが強い商品は、負の情報を具体的に表示しても知覚リスクは低減しない、
むしろ負の情報を抽象的に表示したほうが消費者の知覚リスクは低減する」
・仮説3「機能的リスクと社会的・心理的リスクを持ち合わせる商品は、負の情報を具体的に表示すること
により知覚リスクが低減する」
3-2実験(実験用オンラインショップの作成)
実験用オンラインショップとして仮想 HP(ホームページ)を作成した。
最初に実験で使用する商品を決めた。異なるリスクの低減方法を実証するために、3 つのリスクタイプ
の商品を使用した(①機能的リスクが強い商品,②社会的・心理的リスクが強い商品,③両リスクを持ち
合わせる商品)。
3つのリスクタイプに対して、それぞれが持つ同じリスクの中古品を決め、実験を行う。まず機能的リス
クの代表として中古タイヤを使用し、社会的・心理的リスクの代表として古着を使用し、二つを持ち合わせ
る商品の代表として中古車を使用した。次にそれぞれのリスクを持つ商品の負の情報を決めた。負の情
報を決める際は、実際にネット上に存在するオンラインショップを調査し、実例が多くある負の情報を取り
上げ、具体的な情報を使用した。実験では以下のような負の情報を使用した。
中古タイヤでは「パンク修理跡がある(内面修理(2)が施されている)」、古着では「首の後ろについてい
るタグが取れている」、中古車では「ボディーにうっすらと傷が付いている」をそれぞれ使用した。そしてこ
れら3つの商品に対し、負の情報の具体性を操作した 2 つの条件(具体的・抽象的)を設定し、合計6種類
の HP を作成した。
例えば機能的リスク(中古タイヤ)の HP については、一つは中古タイヤの負の情報であるパンク修理跡
の画像を載せコメントを加えた HP を作成し、もう一方は、負の情報のみを掲載した HP を作成した。同様に、
社会的・心理的リスクを持つ商品(古着)と、両方のリスクを持ち合わせる商品(中古車)の HP もそれぞれ
2種類ずつ作成した。負の情報量が多い HP を、中古タイヤ(グループ1)、古着(グループ3)、中古車(グ
ループ5)とし、負の情報量が少ない HP を中古タイヤ(グループ2)、古着(グループ4)、中古車(グループ
6)とした。
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HP 作成時の注意として、商品掲載の際、基本的な商品情報は必ず表示した。まず、中古タイヤの情報
として、「タイヤの種類、タイヤのサイズ“幅・扁平率・インチ”、値段、年式、タイヤの残りの溝、パンク修理
の説明」、古着の情報として「商品名、サイズ、値段、素材、未使用品(未使用品と設定しため)、首の後ろ
のタグが取れている」、中古車の情報として「車種の説明、値段、走行距離、年式、車検日、禁煙車、傷の
説明」とそれぞれ基本となる情報を表示した。
表1 実験計画
機能的リスク
社会的・心理的
両方のリスク
(中古タイヤ)
リスク(古着)
(中古車)
負の情報を具体的に表示したHP
グループ1
グループ3
グループ5
負の情報を抽象的に表示したHP
グループ2
グループ4
グループ6
3-3被験者と実験手順
年齢、性別は問わず被験者を集め実験に参加してもらった。表1のように6グループに分け、それぞれ
のグループの被験者に対し、該当する実験 HP のアンケートに答えてもらいその回答を測定した。まず大
学に設置してある PC(パソコン)の前にリラックスした状態で座ってもらった。情報を表示する前に、前提条
件として「あなたは(タイヤ、服、車)を探しています。インターネットで(中古タイヤ、古着、中古車)を検索し
たところ、今あなたが見ているホームページにたどりつきました。」と口頭で説明し、被験者にアンケートを
受けてもらった。集計結果として 186 人の有効な回答が得られた。
アンケート項目として、Robertson(1970)が提唱した 2 つのタイプの知覚リスク(機能的リスク、社会的・
心理的リスク)と Jacoby&Kaplan(1972)が提唱した 5 のタイプのリスクのうち1つ(肉体的リスク)について、
Peter&Tarpey(1975)の尺度をもとに日本語の尺度を作成した鈴木(1993)のアンケート項目を使用し、測
定した。
各タイプの知覚リスクに関する質問項目は以下のとおりである。「今あなたの見ているホームページ上
の(中古タイヤ、古着、中古車)に関し、故障したり、期待通りの性能や結果が得られない可能性はどの程
度あると思いますか」(機能的リスク1)。「ホームページ上の(中古タイヤ、古着、中古車)を実際に買った
ら、故障したり、期待通りの性能や効果が得られなかったとしたら、あなたにとってどの程度重大なことで
すか」(機能リスク2)。機能的リスク1・2の違いは、前者は購買前の消費者の機能的リスクを調査する項
目で、それに対し後者は購買後の機能的リスクを調査する項目である。
「ホームページ上の(中古タイヤ、古着、中古車)を買ったりもったりすることによって他の人々が私に抱く
印象を悪くする可能性はどの程度あると思いますか」(社会的・心理的リスク1)。「ホームページ上の古着
を買ったり持ったりすることによって(他の人の意見に関係なく)あなた自身のイメージやライフスタイルに
どの程度重大な影響を与えると思いますか」(社会的・心理的リスク2)。社会的・心理的リスク1・2の違い
は、前者は他人による自分への社会的・心理的リスクを調査する項目であるのに対し、後者は自分自身
の社会的・心理的リスクを調査する項目である。
これらの質問項目に対してそれぞれ「全く可能性はないと思う」(1点)から「大変可能性が高い」(5点)、
「全く問題はない」(1 点)「大変重大な問題である」(5 点)、「全く影響がない」(1点)「大変重大な影響があ
る」(5点)の5件法によってそれぞれ回答を求めた。その他の項目として、肉体的リスク(肉体的リスク)、
商品の関与(関与)、HP・製品の印象(HP印象・製品印象)を作成し、全てで18項目になった。実験は PC
3
上に作成した仮想 HP を表示した状態で行い、被験者に自由に操作させながらアンケート用紙に回答させ
た。
第4章 結果
4-1中古タイヤ解析結果(表2・3)
仮説1と関係するグループ1の解析結果をみていく(中古タイヤの負の情報を具体的に表示したHP)。
「購買前の性能や効果に関する消費者の不安(機能的リスク1)」の項目と、「消費者の中古タイヤへの
関与(関与)」の相関を見ると、有意な負の相関が見られた(N=30,p<.05)(r=-0.386)。つまりグループ1
の条件下の場合、中古タイヤに高関与な消費者であるほど、購買前の中古タイヤの性能や効果に関する
消費者の不安(機能的リスク1)が低減すると言える。
中古タイヤの負の情報であるパンク修理跡が存在することを画像とそれに対するコメントを加え、表示
すると、中古タイヤに高関与な消費者は機能的リスクが低減すると言える。この解析結果は仮説1が支持
されると言える。
4-2古着解析結果(表4・5)
次に仮説2と関係し、相関が多く存在したグループ4の解析結果をみていく(古着の負の情報を抽象的
に表示したHP)。
「他人からの評価の不安(社会的・心理的リスク1)」の項目と、「消費者の古着の関与(関与)」の相関を
見ると、有意な負の相関が見られた(N=30,p<.05)(r=-0.328)。つまりグループ4の条件下の場合、古着
に高関与な消費者であるほど、古着を購入することによる他人からの評価に対する不安(社会的・心理的
リスク1)が低減すると言える。
この結果から言えることは、高関与な消費者には負の情報であるタグが取れていることを、画像を入れ
ずに表示したほうが、消費者が古着を着たり、持ったりすることによって他人からの評価に対する不安が
低減すると言える。
この解析結果については仮説2が支持されると言える。この結果が出た理由として、高関与な消費者は
負の情報をもとに商品を選ぶのではなく、ブランド名やサイズなど自分が探している商品を求める傾向に
あり、負の情報をあまり気にせず買うのではないかと考えられる。
4-3中古車解析結果(表6・7)
次に仮説3と関係するグループ5の解析結果をみていく(中古車の負の情報を具体的に表示したHP)。
「購買前の性能や効果に関する消費者の不安(機能的リスク1)」の項目と、「消費者の中古車の関与
(関与)」の相関を見ると、負の相関の有意傾向が見られた(N=30,p<.1)(r=-0.324)。つまりグループ5
の条件下の場合、中古車に高関与な消費者であるほど中古車の購買前の性能や効果に関する消費者
の不安(機能的リスク1)が低減する傾向にあると言える。
この結果から高関与な消費者には、負の情報であるボディーに傷がついていることを画像とそれに対
するコメントを加え表示すると、中古車に高関与な消費者は機能的リスクが低減する傾向にあると言える。
この解析結果は仮説3について支持される傾向があると言える。
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表2.グループ1(中古タイヤ)アンケート解析結果
表3.グループ2(中古タイヤ)アンケート解析結果
表4.グループ3(古着)アンケート解析結果
表5.グループ4(古着)アンケート解析結果
表6.グループ5(中古車)アンケート解析結果
表7.グループ6(中古車)のアンケート解析結果
第5章 考察
実験の結果から、オンラインショップでは商品の負の情報をリスクの種類別に表示方法を変えることに
よって、消費者の知覚リスクは効率よく低減することが可能であることが分かった。そして、オンラインショ
ップに本研究の実験内容を用いれば、消費者の知覚リスクが低減し、中古品の販売促進につながると予
測がされる。
また、オンラインショップで商品を検索する消費者は、商品に高関与な事が予測されるため、実験結果
は今後実務的にも応用可能であると考えられる。もちろん、本研究で使用した 3 種類の商品、中古タイヤ、
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古着、中古車以外の商品についても今回の実験は応用できると考えられる。
仮説1について中古タイヤにおいては有意な結果が出た。しかし、他の機能的リスクが高い商品、例え
ば中古アパート・マンションの一室を購入する際は、最低限の機能が整っていなければ消費者は物件を
購入しないと予測できる。そのため、より機能的リスクが重視される商品だと予測がされる。それに関し、
負の情報を具体的に表示すると、消費者の知覚リスクは低減されると予測される。さらに、身につける商
品も仮説2同様のことがと予測される。例えば時計やアクセサリーなどの個人のキャパシティーを誇示す
る商品は仮説2が当てはまると予測される。このように今回実験で使用した商品と類似する性質の商品に
ついては、今後さらに検証していく必要がある。
最後に本研究の結果を概観する。グループ1(表2)とグループ2(表3)またはグループ3(表4)とグル
ープ4(表5)を比較すると消費者の HP の印象または製品の印象がグループ1・3の条件下の場合のほう
が良くなっていることが分かる。つまり負の情報を隠すことなく具体的にオンラインショップ上で表示すれば、
消費者の HP の印象または製品の印象が良くなると解析結果が出ている。
この結果から分かるように、オンラインショップを利用する消費者は企業に対し、正確かつ嘘偽りのない
情報を求めていることが分かる。オンラインショップにおいて負の情報を画像にコメントを加え表示すること
により、HP の印象や製品の印象が良くなるだけではなく、企業の印象もよくなることに繋がると考えられる。
さらに言うと、消費者の企業への信頼感も上がり消費者の購買行動の促進に繋がると考えられる。
本研究は近年様々な社会問題で耳にする「説明責任」や「情報開示」の重要性が、オンラインを通した
取引でも重要となる事を明らかにしたと言えよう。
以上
【注】
(1)野島ら(2002)は「インターネットショッピングのリスク削減制度~日本の消費者調査をもとに~」という論文で知覚リスクとオン
ラインショップのリスク低減制度を調査している。
(2)内面修理とは、タイヤがパンクしたときに施される修理方法の 1 つである。修理方法として、最初にホイールからタイヤを取り
外し内面からゴム製のパッチを当て熱でタイヤとパッチを接着する方法である。この方法を施されたタイヤはまず直した個所から
は空気が漏れることはない。その他の修理方法として、外からパンク修理専用の紐を通して、パンク個所の穴をふさぐという方法
もある。この方法は、内面修理よりも空気が漏れやすい。
参考文献
伊田勝憲(2001)”課題価値評定尺度作成の試み”名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要,(心理発達科学),Vol.48,83
-95 ページ。
神山進著(1997)『消費者の心理と行動 ~リスク知覚とマーケティング対応~』,中央経済社,199‐202 ページ。
鈴木万希枝(1993)『消費者の情報探索に及ぼす知覚されたリスクの影響』,社会心理研究,第 9 巻第 3 号,195‐205 ページ。
野島美保(2002)『インターネット・ショップのリスク削減制度~日本の消費者調査をもとに~』http://www.e.u-tokyo.ac.jp/itme/dp
/dp21.pdf#search='野島 リスク'(所得日 2010 年 10 月 20 日)。
馬場房子(1989)『消費者心理学〔第二版〕』白桃書房,87~97 ページ。
諸上茂光(2005)『現代広告における外国人モデル起用についての考察 : コケージアン・モデル使用広告の認知的・心理的効果
の検証』国際ビジネス研究学会年報 2005 年。
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