S21 - 明海大学 歯学部 坂戸キャンパス

明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
S21
明海歯科医学会
%以内の誤差であり,コーン先端空気カーマは,公称管
第 20 回学術大会抄録
電流 7 mA での設定 mAs 値当たり平均 0.863 mGy であ
り,どの装置でも変動は 4.2% 以内であった.18 歳以上
日時:2013 年 6 月 6 日(木)9 : 00∼
の成人患者に対する男女平均の PED 値は,上下顎の切
会場:明海大学歯学部第 1・第 2 会議室
歯部,小臼歯部,大臼歯部に対してそれぞれ, 1.56,
1.09, 1.92, 1.27, 2.42, 1.59 mGy(標準偏差は約 20%)で
あった.英国では成人患者の下顎大臼歯部撮影に対する
口内法 X 線撮影の最適化に関する研究
井澤 真希
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯科器材研究群歯科放射線学)
診断参考レベルとして,E グループ感度以上のフィルム
と 60−70 kV を使用したときには 2.1 mGy と勧告されて
いる.同部位の当施設平均 PED は標準偏差を考慮して
も 1.59±0.20 mGy となり,その勧告値を下回っていた.
また,各画像評価項目に対する平均評点は,線量ととも
【目的】2007 年の医療法改正に伴い,どの施設でも医療
に評価点が増大する,特定の線量範囲で評価点が極大に
機器の保守点検と安全使用が義務付けられ X 線撮影装
達する,線量とともに評価点が減少する,という 3 群の
置の品質管理(QC)が必要となった.国際放射線防護
傾向に分かれた.1 枚の写真から全評価項目を最高点で
委員会(ICRP)は QC の一部として定期的に患者線量
満たすフィルムはなかったが,全評価項目で評点が上位
を測定し,その線量を診断参考レベルと比較して最適化
となるフィルムでは,一般的な臨床上の診断治療目的を
を行うよう勧告している.そして,患者線量が常に診断
達成するのに十分な写真であると判断された.この写真
参考レベルを超えていたときには,その線量が正当化さ
範囲の PED は 1.51−3.02 mGy であった.
れない限り,検査手法を見直すべきである.本研究で
【結論】ICRP の勧告に従って患者防護の最適化を推進
は,口内法 X 線撮影の QC プログラムを確立するため,
するため口内法 X 線撮影における QC の一環として英
明海大学歯学部付属明海大学病院(以下当施設)におけ
国の診断参考レベルと比較した限りでは,当施設では撮
る患者の撮影条件と線量を調査することおよび線量と写
影条件・線量・画質ともに適正に維持されていることが
真画質の関係を視覚評価することから口内法 X 線撮影
わかった.
の最適化を図ることを目的とする.
【材料と方法】実験は,以下の項目に沿って進めた.
1 )3 台の口内法 X 線撮影装置 Heliodent 60 DS(Sirona)の管電圧,照射時間,焦点から 20 cm のコーン
先端で の 空 気 カ ー マ を ThinX RAD ( Unfors Instruments)を用いて測定し,撮影装置の特性を調査した.
2 )照射録から撮影条件が特定できた患者約 1,000 名を
抽出し,その撮影条件からコーン先端での空気カーマ
即ち患者入射線量(PED)を算定した.
3 )軟組織を模した 3 cm 厚さの水槽と 1 mm 間隔で 10
抗菌光線力学療法を用いたインプラント
周囲炎の治療法に関する in vitro 研究
寺西 麻里奈
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系病態機能研究群歯周病学)
【背景】インプラント周囲炎の有病率は 12∼43% と報告
されているが,その治療法は未だに確立されていない.
mm 厚さまでのアルミニウム階段を含んだ成人下顎骨
近年,歯周炎患者に対する抗菌光線力学療法(antimicro-
臼歯部ファントムを作成し,管電圧 60 kV,管電流 7
bial Photodynamic Therapy : a-PDT)の有効性が示唆さ
mA の条件で当施設にて使用されている InSight フイ
れている.a-PDT とは,細菌を光感受性薬剤で染色し,
ルム(Kodak)を用い,同一の幾何学的配置で,照射
レーザーを照射することにより殺菌を行う方法で,人体
時間を 0.16∼0.80 s の間で 8 段階変化させて撮影を行
に対する為害作用が少なく,非侵襲性であり,耐性菌を
った.現像した写真を 12 名の歯科放射線科医によっ
生じないことから,インプラント周囲炎の治療法として
て観察し,11 評価項目を 5 段階で画像評価し,回答
の臨床応用が検討されている.しかしながら,汚染され
結果を統計的に分析した.
たインプラント体の殺菌法としての a-PDT の有効性に
【結果と考察】撮影装置の管電圧は 60±2 kV,タイマー
関する in vitro における研究は極めて少ない.そこで,
の設定時間は 0.1∼0.64 s の使用範囲で全ての装置が 1.7
本研究は in vitro において,汚染されたインプラント体
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表面に対する a-PDT による殺菌効果について検討を行
うことを目的とした.
明海歯学 42
2013
プラント体表面と比較して有意な高い値が認められた.
【考察】本研究結果から,a-PDT は,インプラント周囲
【材料および方法】インプラント体(Zimmer Dental 社
炎の治療法におけるインプラント体表面の殺菌において
製)は,表面にハイドロキシアパタイトブラスト酸処理
有効である可能性が示唆された.しかし,a-PDT の処置
を施してあるものを使用した.また歯周病原細菌として
を行った後も,LPS は残存することが確認されたため,
Porphyromonas gingivalis ATCC 33277 株と Aggregatibac-
機械的清掃法と併用することが必要であると考えられ
ter actinomycetemcomitans ATCC 43718 株を使用し,培
る.
養液中にインプラント体を浸漬させ,付着処理を行っ
た.a-PDT には,光感受性薬剤に 0.01% メチレンブル
ー溶液(MB)(オンダインバイオファーマ社製),低出
力赤色半導体レーザー(ぺリオウェイブⓇ,ぺリオウェ
イブデンタルテクノロジー社製)を使用した.まず照射
部位数による影響を検討した.照射を行わなかったもの
を Control とし,さらに 1, 2, 4, 6 部位から照射を行い比
較した.照射時間は 1 部位につき 1 分と設定した.次に
口腔扁平上皮癌におけるコクサッキー・
アデノウィルス受容体(CAR/CXADR)
の役割について
柳下 治男
明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野
殺菌処置を行わなかったものを Control 群とし,メチレ
膜貫通型糖タンパク質であるコクサッキー/アデノウ
ンブルーのみ塗布を行った MB 群,レーザー照射のみ
ィルス・レセプター(CAR/CXADR)は最初,上皮細胞
を行った laser 群,MB 塗布後レーザー照射を行った a-
表層のウィルス接着部位と見なされた.その後,タイト
PDT 群の 4 群を設定し比較した.評価法として,イン
ジャンクション複合体の構成要素であり,タイトジャン
プラント体表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察
クション形成の調節因子として認識されるようになっ
した.殺菌効果の評価として,インプラント体から細菌
た.さらに CAR は接合部複合体の一部として生理学的
を剥離させ,寒天培地にて培養し Colony forming unit
に細胞間接着に関与している.機能的に CAR の欠失は
を算定した.また,イン プ ラ ン ト 体 表 面 に 残 存した
細胞間接着が弱まり,細胞増殖を増大させ,癌細胞の浸
Lipopolysaccharide(LPS)残量は,エンドトキシン計測
潤および転移が促進する.これらの所見に基づいて,ヒ
キット(GenScript USA 社製)を使用し計測を行った.
トの癌における CAR の腫瘍抑制的な働きが想定されて
全ての統計分析には,Kruskal-Wallis 検定および Mann-
いる.近年,多様な臓器における CAR の発現が観察さ
Whitney U-test With Bonferroni 検定を用いた.
れているが,口腔癌においては明らかではない.
【結果】SEM によるインプラント体表面の観察結果か
本研究では,口腔扁平上皮癌における CAR の役割に
ら,汚染処理後にインプラント体表面構造内に各菌が付
ついて in vitro および in vivo の検索を行ったのでその
着していること,また,各処置後ではインプラント体表
概要を報告する.CAR は口腔扁平上皮癌由来株化細胞
面に変化が見られなかったことが確認された.照射部位
において自発的に発現していた.とりわけ,CAR は p53
数による残存生菌数の比較において,P.g が付着したイ
遺伝子変異株において顕著に発現していたため,p53 遺
ンプラント体および A.a が付着したインプラント体は,
伝子野生型である SAS 細胞を用い,p53 遺伝子をノッ
照射部位数の増加に伴い殺菌効果が高まり,6 部位は全
クダウンした時の CAR の発現について検索した.その
ての群に対して残存生菌数が有意に減少したことが認め
結果,p53 の減少に伴って CAR の発現レベルは減少し
られた.各処置後の残存生菌数の比較において,P.g が
たが,nuclear factor-kappaB(NF-κB)は増大したため,CAR
付着したインプラント体および A.a が付着したインプ
の機能は p53 と連動して腫瘍成長を抑制する可能性が
ラント体は,a-PDT 群は全ての群と比較し,有意な生菌
考えられた.次に CAR 遺伝子をノックダウンしたとこ
数の減少が認められた.MB 群は Control 群および Laser
ろ,SAS 細胞数および NF-κB タンパク質の発現量にお
群と比較して,有意な生菌数の減少が認められたが,a-
いて大きな変化は認められなかった.さらに CAR 遺伝
PDT 群より有意に生菌数が多かった.また,Laser 群は
子を過剰発現させた際,SAS 細胞数は顕著に減少し,
Control 群と比較して有意な差は認められなかった.LPS
最終的に caspase 9, 3 および 7 の活性化を介して SAS
残量の計測では,a-PDT 処置後のインプラント体表面か
細胞にアポトーシスを誘導することがわかった.これま
らも LPS 残量が計測され,細菌を付着させてないイン
での結果から,SAS 細胞において CAR 遺伝子は変異し
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
ており,増殖活性をコントロールしていないことが示唆
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MC3T3-E1 を用いた実験では増殖,分化や石灰化および
された.加えて,口腔扁平上皮癌の生検組織を用いた免
骨形成関連遺伝子の発現量に対する PO, OG の影響を調
疫組織化学的検索を行った結果,p53 陽性口腔扁平上皮
べた.また細胞分化は ALP 染色で評価した.さらに石
癌 22 例のうち 17 例(77.3%)の,腫瘍細胞の細胞膜に
灰化は VonKossa 染色で評価した.また遺伝子発現量に
CAR 陽性所見を認めた.特に p53 の強陽性所見を示す
ついては骨芽細胞分化関連遺伝子の mRNA 発現量を
症例において CAR 陽性所見が多く認められた.また
RT-PCR 法で評価した.
NF-κB 陽性全例において CAR の発現も陽性を示した
【結果】血清の骨代謝マーカーは PO あるいは OG 投与
(100%).これらの所見は,CAR が口腔癌増殖の抑制に
によっても有意な差は認められなかった.骨密度を測定
おいて重要な役割を担っている事を示唆している.
した結果,PO は海綿骨(関節軟骨下骨,一次)を増加
させ,OG はすべての骨密度を増加させていた.また高
リン食摂取で低下していた骨強度も PO, OG 摂取により
コラーゲンジペプチド(Pro-Hyp, Hyp-Gly)
による骨代謝制御
関 勇哉
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系病態機能研究群口腔診断学)
増加していた.さらに下顎骨軟 X 線写真では根分岐部
域において PO, OG 摂取により歯槽骨石灰化度が増加し
ていた.また μ CT においても骨梁が増加していた.さ
らに脛骨および下顎骨組織像においても PO, OG 摂取に
より骨梁幅が増加していた.DNA マイクロアレイ解析
では PO 群で発現上昇した遺伝子に Htr2b, Htr3a, Fgf2,
【目的】コラーゲンの熱変性タンパク質がゼラチンであ
Msx1, Has3, Itga1 があり,PO 群で発現減少した遺伝子
り,これを酵素などで加水分解したゼラチン加水分解物
に Rarg, Vdr, Rankl, Phex があった.OG 群で発現上昇
がコラーゲンペプチドとして機能性食品素材として用い
した遺伝子に Fgf2, Msx1, Has3, Gata4, Cdh10 があり,
られている.ヒトやラットにおいてコラーゲンを摂食す
OG 群で発現減少した遺伝子に Vdr, Rankl, Phex, Erα ,
ると,血中に複数のコラーゲン由来のジペプチドが検出
Rank, Bmp2, Ctsk があった.またマウス骨髄細胞由来破
される.これらのジペプチドのうち骨組織に多く含まれ
骨細胞の TRAP 陽性多核細胞が,PO 添加では細胞数が
るⅠ型コラーゲンには Pro-Hyp(PO)と Hyp-Gly(OG)
増加し,OG 添加では細胞数が減少した.さらに PO, OG
配列ともに多く存在する.ヒトⅠ型コラーゲン 1 本鎖の
は MC3T3-E1 の増殖には影響を及ぼさなかった.しか
中に PO 配列は 49 ヵ所,OG 配列は 127 ヵ所存在し,
し PO, OG を添加した MC3T3-E1 は石灰化に関与する
この 2 つのジペプチドが機能性成分として注目されてい
分化マーカーの ALP の活性,リン酸カルシウムの沈着
る.そこで本研究ではマウスを用いた実験系で PO, OG
が促進されていた.また遺伝子発現量の検討では MC3T
の骨代謝および骨組織に与える影響について検討した.
3-E1 に PEPT1, PEPT2 が発現していた.さらに PO, OG
さらにマウス骨髄細胞由来破骨細胞,培養骨芽細胞株
を添加した MC3T3-E1 において Runx2 の mRNA 発現量
MC3T3-E1 を用いた実験系で骨吸収,骨形成に対する
が増加していた.
PO, OG の効果について検討した.
【結論】以上の結果から PO, OG などのコラーゲンジペ
【材料及び方法】C57 BL/6J 雄性マウス 10 週齢に高リン
プチドは骨代謝を制御する新しい生理活性物質である可
食を摂食させたリン誘導性硬組織障害モデルマウスを用
能性を明らかにした.これまで全く歯科領域では利用さ
いた.飼育終了後,血清の骨代謝マーカーを測定した.
れることのなかったコラーゲンジペプチドを骨疾患の予
また大腿骨を用い,pQCT による骨密度の測定および三
防あるいは治療法の開発へ繋がることが期待される.
点折り曲げ法による骨強度を測定した.さらに下顎骨を
用い軟 X 線撮影および μ CT により歯槽骨の石灰化度
や形態学的な解析を行った.また脛骨および下顎骨のパ
ラフィン切片を作製し,HE 染色により骨構造の比較検
討を行った.さらに大腿骨の DNA マイクロアレイ法に
より骨代謝関連遺伝子の発現量を比較した.マウス骨髄
由来破骨細胞を用いた実験では TRAP 染色により PO,
OG の TRAP 陽性多核細胞形成および数を測定した.
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明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
明海歯学 42
マウス骨端板軟骨の septoclast における
表皮型脂肪酸結合タンパク(E-FABP)の発現
坂東 康彦
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(形態系正常形態研究群口腔解剖学Ⅱ)
2013
も陽性を示した.しかし,破骨細胞マーカーの MAC-2,
骨芽細胞マーカーのアルカリ性ホスファターゼ,血管内
皮細胞マーカーの BSA レクチンには陰性であった.従
って,E-FABP は非石灰化軟骨を吸収すると考えられて
いる septoclast に局在することが分かった.E-FABP 陽
性の septoclast は胎生期では軟骨骨境界から少し離れた
【背景】疫学的および細胞生物学的研究により,DHA や
部位にも散在していたが,生後は次第に密度の高い細胞
EPA などの n-3 系長鎖不飽和脂肪酸(PUFA)やビタミ
層を軟骨骨境界部に形成した.②免疫電顕:E-FABP 陽
ン A およびその誘導体であるレチノイン酸が,骨成長
性細胞は細胞質突起が非石灰化軟骨基質である骨端板横
やリモデリングに影響を与えることが知られている.ま
隔に伸び,さらに微絨毛が横隔の基質まで達していた.
た,脂肪酸結合タンパク(FABP)は,水に不溶の PUFA
また,E-FABP は細胞質基質,ミトコンドリアおよび核
に結合し,細胞内への取り込みと細胞内輸送を担い,脂
に局在していた.③RT-PCR:骨端板の骨軟骨境界部に
質代謝やエネルギー代謝に関与すると考えられている.
おいて,軟骨部および骨梁部と比較して E-FABP mRNA
しかし,骨組織における FABP の局在や役割は不明で
が有意に高く発現していることが確認された.
ある.本研究では,n-3 系 PUFA と親和性が高く,レチ
実験 2:①レチノイン酸受容体の局在:E-FABP 陽性
ノイン酸の細胞質内輸送にも関与すると考えられている
の septoclast にレチノイン酸核内受容体である PPAR β / δ
表皮型 FABP(E-FABP, FABP5)の,骨端板軟骨を含む
の発現が認められた.②過剰投与・欠乏食実験:レチノ
骨組織における局在とその役割について調べた.
イン酸過剰摂取マウス,ビタミン A 欠乏食摂食マウス
【方法】実験 1:正常発育マウス骨端板における E-FABP
ともに,骨端板直下の E-FABP 陽性細胞の密度の減少
の発現:①免疫組織化学:胎生 16 日(E16),生後 0 週
と横隔に伸びる細胞質突起の欠失または形態不全が認め
齢(P0w),P1w, P2w, P3w, P4w の ddy マウスを用い
られた.
た.4% paraformaldehyde 溶液で灌流・浸漬固定し,EDTA
【考察・結論】軟骨内骨化の過程において,septoclast が
溶液中で脱灰後,脛骨頭の矢状断連続凍結組織切片を作
E-FABP を特異的に発現して有効なマーカーとなり得る
成した.抗 E-FABP 抗体による免疫組織化学と骨端板
こと,E-FABP を介する n-3 PUFA やレチノイン酸の代
領域に存在する細胞マーカーの組織化学的染色および
謝経路が存在することが示唆された.また,septoclast
E-FABP 免疫組織化学との二重染色を行った.②免疫電
は,胎生期の一次骨化中心の発生直後から骨端板に存在
顕:Pre-embedding 法により抗 E-FABP 抗体を用いた免
することから,septoclast が軟骨内骨化の非石灰化軟骨
疫電子顕微鏡的観察を行った.③RT-PCR : Methacarn
基質の吸収過程に,重要な役割を担っていることが強く
固定後,レーザーマイクロダイセクションにより軟骨
示唆された.さらに,ビタミン A は,レチノイン酸を
部,骨軟骨境界部,骨梁部の各領域の組織片を採取し
介して septoclast による軟骨内骨化の軟骨基質吸収にも
て,RNA 抽出を行った.RT-PCR により,領域間での
影響を与えることが分かった.
E-FABP 発現量の比較を行った.
実験 2:ビタミン A・レチノイン酸の影響:①レチノ
イン酸受容体の局在:抗 E-FABP 抗体と抗レチノイン
酸受容体(PPAR)抗体の二重免疫組織化学的染色を行
った.②過剰投与・欠乏食実験:レチノイン酸を大豆油
に希釈したものを過剰摂取させた P4w マウス,ビタミ
立効散の鎮痛作用と薬物動態の検討
長尾 隆英
明海大学歯学部病態診断治療学講座薬理学分野
ン A 欠乏食を離乳期より摂食させた P9w マウスおよび
【目的】立効散は歯痛などに対して保険適用が認められ
正常に飼育させた同週齢のマウスに対し,抗 E-FABP
ている漢方薬である.甘草,細辛,竜胆,防風,升麻か
抗体を用いた免疫組織化学的染色を行った.
らななり,抜歯後疼痛,歯髄炎,歯周炎,舌痛症などの
【結果】実験 1:①免疫組織化学:生後マウスの骨端板
口腔内疼痛に幅広く利用されている.特に,歯科領域で
肥大層の直下に,E-FABP 免疫陽性の単核で小型の細胞
頻用されるジクロフェナクナトリウムをはじめとした酸
が緊密に単層をなして配列していた.蛍光二重染色で,
性 非 ス テ ロ イ ド 性 抗 炎 症 薬 ( non-steroidal anti-
E-FABP 陽性細胞は cathepsin B および DBA レクチンに
inflammatory drugs : NSAIDs)が奏効しづらい抗悪性腫
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
瘍薬の副作用で発現した重度の口内炎あるいはヘルペス
性口内炎口腔内に対しても鎮痛効果が認められることか
ら,立効散は患者の苦痛軽減に重要な役割を果たしてい
る.しかしながら立効散は,マクロファージ系細胞に対
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マウス咽頭喉頭筋における
心筋型脂肪酸結合タンパクの局在
−特に食餌のテクスチャーが内喉頭筋に及ぼす
影響について−
し 炎 症 時 に 産 生 が 増 加 す る と さ れ る cyclooxygenase
横塚 裕二
(COX)-2 タンパク質の発現を誘導する一方で,COX-2
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(形態系病態形態研究群口腔外科学Ⅱ)
活性抑制による prostaglandin E2 産生抑制という複雑な
働きを持つことが明らかになっているが,鎮痛効果発現
機序の詳細は不明であり,鎮痛効果の定量評価もなされ
【背景】誤嚥の防御機構は,喉頭蓋,喉頭前庭,および
ていない.また,立効散は作用発現が早いとされる漢方
声帯閉鎖の 3 重構造による食塊の気道への侵入を防いで
薬であるが,鎮痛効果の発現と薬物動態の関連性も明ら
いる.ヒトとマウスでは嚥下に関する咽頭・喉頭の解剖
かとされていない.そこで本研究では,立効散の鎮痛効
学的配置は異なるが,成獣マウスではヒトの新生児期と
果と体内動態の関連性を,マウスの仮性疼痛反応(Writh-
の位置関係の類似性が高く,喉頭蓋が高く,軟口蓋と喉
ing syndrome 法)観察と HPLC 法にて行った.
頭蓋が触れ合う位置にある.また,乳児期の特徴も一致
【方法】立効散(200, 400, 600 mg/kg)を蒸留水に溶解し
する.咽頭・喉頭を構成する骨格筋はエネルギー代謝が
マウスに投与(0.1 ml /10 g, p.o.)し,20−90 分後に 0.6
大きい組織であり,糖代謝と脂肪酸代謝により賄われて
%酢酸を投与(0.1 ml /10 g, i.p.)し stretch movements の
いる.脂肪酸代謝では,水に不溶の長鎖不飽和脂肪酸は
発現を他の行動指標(locomotion, rearing, grooming な
可溶性の脂肪酸結合タンパクと結合する.心筋型脂肪酸
ど)と併せて 45 分間測定し,アセトアミノフェン,ア
結合タンパク(H-FABP)は骨格筋のエネルギー代謝に
スピリン(いずれも 300 mg/kg, p.o.)と比較した.同様
重要な役割を担う.
に立効散の成分生薬(立効散 400 mg/kg 相当量)の鎮痛
マウスでは,離乳期から液状飼料で飼育を行うと咀嚼
効果も検討した.薬物動態の測定のために,立効散を投
および顎口腔諸器官の形態変化が生じると報告されてい
与(400 mg/kg, p.o.)されたマウスに全身麻酔(ペント
る.しかし,嚥下運動における内喉頭筋の変化について
バルビタール 50 mg/kg, i.p.)を施し 10−90 分後に採血
は,加齢に関する研究報告はあるが,離乳後の食餌形態
(1 ml , 3.8% クエン酸 0.1 ml 添加)を行った.血液は除
(テクスチャー)が内喉頭筋に及ぼす影響と誤嚥防御に
タンパク後に HPLC にて解析した(254,280 nm)
.
関する報告は少ない.本研究では,食餌のテクスチャー
【結果・考察】立効散の各生薬成分は投与 10 分後から速
の違いにより,誤嚥防御に関するマウス内喉頭筋および
やかな血中濃度の上昇を認め,20−30 分をピークに 90
咽頭収縮筋の H-FABP の局在,および誤嚥防御機構に
分後にはほぼ検出限界を下回ることが明らかとされた.
関与する筋における差異を明らかにすることを目的とし
鎮 痛 作 用 も 投 与 20 分 後 か ら 用 量 依 存 的 に 有 意 ( P
て実験を行った.
<0.05)に認められ,アセトアミノフェンならびにアス
【方法】通常飼育した 20 週齢オス ddY マウスと,対照
ピリンと同程度の鎮痛強度を有することが明らかになっ
群の固形食飼育群と,実験群の液体食飼育群に分けて飼
た . 更 に , 前 処 置 時 間 の 延 長 ( 90 分 ) は 有 意 ( P
育した離乳後の 3 週齢オス ddY マウスを使用した.後
<0.05)な鎮痛効果の増強を示し,立効散の鎮痛効果発
者の飼育は 8 週齢までの 6 週間とした.麻酔後,生理食
現への代謝産物の重要な関与が示された.また,成分生
塩水,次いで 4% パラホルムアルデヒド溶液を左心室よ
薬のみの投与では有意な stretch movements の発現抑制
り注入して脱血・灌流固定し,頭頸部を摘出して同液に
は得られず,有効な鎮痛効果発現のためには各生薬の協
4℃ で一晩浸漬した.EDTA 液で 4 週間脱灰後,30% シ
力作用が不可欠である事が示された.
ュクロース含リン酸緩衝液(pH7.4)に浸漬し,クライ
オスタットを用いて,厚さ 20 μ m の前頭断および矢状
断の連続凍結切片を作成した.その後,ウサギ抗マウス
H-FABP 抗体を一次抗体に使用して免疫組織化学を行っ
た.また,筋線維の構成比較はウサギ抗マウス速筋型ミ
オシン重鎖(F-MHC)抗体を使用した.それぞれ LSAB
法と DAB を用いて検出・発色した.なお,比較する各
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明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
明海歯学 42
群の染色は同時に同条件で行った.
2013
ほど精度は低下すると考えられる.そこで,本研究では
【結果・考察】通常飼育の成獣マウスおよび固形食飼育
ICP Algorithm 法を用いて DICOM データと STL データ
群マウスでは,咽頭収縮筋,軟口蓋筋および内喉頭筋の
の 2 種類の画像の統合を行い,その統合精度と作製され
多くが H-FABP に対する免疫活性が認められた.しか
たモデルの再現性を検討した.
し,内喉頭筋である披裂間筋では H-FABP 免疫陽性の
【予備実験】顎矯正手術シミュレーションソフト(Sim-
筋線維はほとんど認められなかった.一方,液体食飼育
Plant OMS,マテリアライズデンタルジャパン)を用い
群では H-FABP の強い免疫活性が認められた.H-FABP
て,三次元レーザ計測器(R 700, 3 Shape)により採得
免疫活性はすべての筋線維の細胞質に均一に局在してい
した上顎歯列石膏模型の STL データと顎顔面頭蓋の
た.また,F-MHC 免疫染色では,固形飼育群に比し液
DICOM データを統合した.この時,設定したリファレ
体飼育群にやや強い免疫活性が認められた.さらに免疫
ンスポイント(RP)の部位や数を変えて統合精度を検
陰性と陽性の筋線維の混在が認められた.喉頭における
討した.
誤嚥防止機構では,液状飼料が声門を侵入することがな
その結果,前歯部では RP の設定範囲と数の増加によ
いように,披裂間筋によって強力に声門が閉鎖され,そ
り統合精度の向上がみられたが,前歯と比較して大臼歯
の結果として披裂間筋の脂肪酸代謝が活発になったもの
部での統合精度は劣っていた.このように RP を広範囲
と考えられた.また,喉頭蓋の反転閉鎖は行われないこ
に設定し,RP 数を増加させることが統合精度向上につ
とと,披裂間筋が主として誤嚥の防御に関与しているこ
ながった.しかしながら,上記のような試みにもかかわ
とが示唆された.
らず一定以上の精度は得られず,今後は散乱線の減少
固形食飼育群の甲状披裂筋では,筋線維の細胞質に均
一な H-FABP の強い免疫活性が認められた.また,F-
や,歯列石膏模型の作製に伴うエラーを改善していくこ
とが重要と考えられた.
MHC 免疫活性はやや弱かった.一方,液体食飼育群で
【本実験】
は,H-FABP の弱い免疫活性が認められ,陰性と陽性の
(方法)①乾燥下顎骨の歯列から得られた DICOM デー
筋線維の混在が認められた.固形食飼育群の甲状披裂筋
タを基に,CT 値が異なる歯や骨に合わせて画像構築を
の H-FABP の強い免疫活性は,脂肪酸代謝が活発にな
行った.②乾燥下顎骨歯列を対象として直接レーザスキ
ったためと考えられた.
ャンにより得られた STL データ(direct データ)また
【結論】誤嚥の防御機構において,食餌のテクスチャー
は歯列の印象採得後に作製した石膏模型をレーザスキャ
によって,咽頭・喉頭の各筋の担う役割とエネルギー代
ンして得られた STL データ(imp データ)と,同部の
謝に違いがあることがわかった.
DICOM データを各々統合した.歯列表面上に予備実験
と同様に個別に RP 設定を行い,RP の範囲と数を変え
てその影響を検討した.③上記②にあたり,三次元画像
精度の高い歯列画像を有す
三次元顎顔面頭蓋画像の作製
解析ソフト(Qualify, Geomagic)を用いて面状に設定し
た RP によるサーフェス画像重ね合わせ法と,個別に設
三條 恵介
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯材応用研究群歯科矯正学)
定した RP による統合の精度を比較した.④上記②の direct データと imp データを比較し,歯列模型作製に伴
うエラーを検証した.
(結果)①適切な CT 値により三次元画像構築を行うこ
【諸言】顎顔面頭蓋の三次元シミュレーションモデルの
とで,DICOM モデルの形態精度が著しく向上した.②
作製にあたり,CT の DICOM データとレーザにより採
RP が広範囲で数が多いほど,direct データや imp デー
得した STL データを統合することが多い.このような
タと,DICOM データとの統合精度が向上した.③サー
ファイル形式の異なる 2 種のデータの統合には,主とし
フェス画像重ね合わせ法により,統合精度はさらに向上
て ICP(Iterative closest point)Algorithm 法が利用され
したものの,imp データを用いた大臼歯部の精度は高く
ているが,統合精度の評価法や統合化に際しての至適条
なかった.④imp データと direct データ間には大臼歯部
件が確立されていない.統合精度に影響を与える因子と
に形態差があった.
して,画像の抽出法や煩雑なステップに起因した様々な
【考察】歯と骨の双方を含む三次元顎顔面頭蓋モデルの
エラーがあり,2 種の画像の形態差が大きければ大きい
作製にあたり,CT 値の至適化は不可欠であった.予備
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
S27
実験のように個別に RP を設定するよりも,サーフェス
れ行った.MB は 1 歯あたり 200 μ l 使用した.レーザ
画像重ね合わせ法の統合精度は高かった.STL データ
ー照射は,照射部位を頬舌(口蓋)側の近遠心中央 6 部
の採得にあたり,印象採得や模型作製といったプロセス
位に対し各 10 秒ずつ,計 60 秒照射した.評価は,SRP
は,統合精度を低下させる要因であった.
処置前,処置後 4 週,8 週,12 週に歯周組織検査と歯肉
今後は矯正装置や散乱線の影響を受けにくい硬口蓋の
溝滲出液を用いた検査を実施した.また,処置前及び処
特徴的な形態を利用し,サーフェス画像重ね合わせ法に
置後 4 週において細菌検査を実施した.歯周病検査は,
より精度向上を図る計画である.また,より直接的な
plaque index(PlI),gingival index(GI),probing pocket
STL データの採得法として,三次元的に口腔内を直接
depth(PPD),bleeding on probing(BOP),vertical gingival
スキャンできるレーザ計測器の導入を検討している.
recession(VGR),clinical attachment level(CAL),およ
び デ ン タ ル エ ッ ク ス 線 写 真 か ら marginal bone loss
(MBL)を測定した.歯肉溝滲出液検査は,Periotron 8000
慢性歯周炎患者に対する抗菌光線力学療法の
有効性に関する臨床的研究
林 鋼兵
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系病態機能研究群歯周病学)
を用い歯肉溝滲出液量の測定,および滲出液中のアスパ
ラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)の酵素活性
を測定した.細菌検査は,滅菌ペーパーポイントを対象
歯のポケット内に 10 秒挿入し得られた試料を RTPCR
法にて測定し,総菌数,歯周病原菌である P. gingivalis
(P. g ),A. a ctinomycetemcomitance(A. a ),T. denticola
【背景】歯周治療における薬物療法は,ブラッシングや
(T. d ),T. forsythia(T. f ),P. intermedia(P. i)の菌数
スケーリング・ルートプレーニング(SRP)を中心とし
および対総菌数比率を求めた.尚,本研究は本学倫理委
た機械的プラークコントロールによりバイオフィルムを
員会の承認(A 1012)を得て実施した.
破壊した後に行う治療法である.この薬物療法には抗菌
【結果】歯周病検査;PlI, GI, PPD, BOP, GR, CAL の各
薬の経口投与や局所応用があるが,薬物アレルギーや連
値は,術前と比較し術後 4 週(4 w)で改善傾向を認め
用による耐性菌の出現などの問題がある.一方,近年薬
たが,群間の顕著な差異は認めなかった.総菌数・歯周
物療法の一つとして,抗菌光線力学療法(Antimicrobial
病菌の対総菌数比率;術前と 4 w を比較すると 4 群と
Photodynamic Therapy : a-PDT)が検討されつつある .
も減少傾向を認めた.歯肉溝滲出液量・AST 量;術前
この a-PDT はトルイジンブルー O やメチレンブルー
と比較し,4 w で 4 群共に減少傾向を認めた.各群間の
(MB)などの光感受性物質に低出力半導体レーザーを
照射し一重項酸素を発生させることにより,殺菌する方
法である.本法は薬物耐性菌が出現しないことや副作用
差は現在検討中である.
【考察】今後は,さらに検体数を増やし,統計学的解析
を行い,a-PDT の有効性について検討したい.
が少ないことがすでに報告されていることから,a-PDT
の歯周治療への応用について検討されつつあるが,その
結果は未だ不明である.そこで,本研究の目的は慢性歯
周炎患者の疾患活動性に対する a-PDT の有効性を,歯
周病検査,歯肉溝滲出液,および細菌検査によって比較
検討することである.
【材料および方法】明海大学病院歯周病科に来院し,口
頭および書面にて本研究に同意が得られた慢性歯周炎患
者 15 名を目標に,現在までに 6 名(男性:1 名,女
歯肉溝滲出液中の Tannerella forsythia
forsythia detaching factor に対する
分解酵素活性の治療効果判定への応用
小野 裕貴
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(機能系病態機能研究群歯周病学)
性:5 名)を対象に処置および検査を行った.特記すべ
【背景】Forsythia detaching factor(FDF)は Tannerella for-
き全身疾患がなく,過去 3 か月間抗菌薬を使用していな
sythia が保有する主要な病原因子の一つである.Naka-
い慢性歯周炎患者の同一口腔内の任意の上下顎前歯・小
jima ら は , FDF を 分 離 ・ 精 製 し , 60 kDa-FDF と 28
臼歯に対して,SRP のみ処置(cont 群),SRP 後 MB の
kDa-FDFc の 2 つのフラグメントが存在することを報告
み投与(MB 群),SRP 後レーザー照射(laser 群),SRP
した.また Onishi らは,FDF が慢性歯周炎患者の歯肉
後 MB を投与し,レーザー照射(a-PDT 群)をそれぞ
溝滲出液(GCF)により Lys268 残基 C 末端側で切断さ
S28
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
れ,FDFc が生じることを示唆している.また呂らは,
明海歯学 42
2013
ある.
GCF 中の FDF に対する分解酵素活性が健常者と比較し
て慢性歯周炎患者で有意に高く,プロービングポケット
深さ(PPD)と当該酵素活性との間に正の相関関係が認
められることを報告している.本研究では,呂らが合成
進行性骨化性線維異形成症から同定された
変異 BMP 受容体(ALK2)の活性化機構の解析
した Ac-RAK-pNA を使用して,初診時および歯周治療
藤本 舞
後のメインテナンス期あ る い は サ ポ ー テ ィ ブ 治 療期
明海大学大学院歯学研究科歯学専攻
(理工系歯材応用研究群歯科矯正学)
(SPT 期)に入った慢性歯周炎患者における GCF 中の
FDF に対する分解酵素活性の測定を行い,歯周治療に
よる当該酵素活性の変化を検討することで,簡易な歯周
【目的】硬組織の形成は,さまざまなホルモンや成長因
治療効果の判定指標としての有用性を評価することとし
子などにより制御される.このうち Bone Morphogenetic
た.
Protein(BMP)は,脱灰骨より単離された骨誘導活性を
【材料および方法】
1 )被験者および歯肉溝滲出液(GCF)サンプル採取
持つ因子として発見された.BMP は,I 型と II 型に分
類される 2 種類の細胞膜貫通型セリン・スレオニンキナ
被験者は明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科に
ーゼ型受容体に結合し,細胞内に情報が伝達される.最
来院し,初診時(Baseline : BL)に本研究への協力に同
近,骨格筋組織で異所性骨化が起こる進行性骨化性線維
意の得られた慢性歯周炎患者 20 名とした.そのうち歯
異形成症(FOP)の責任遺伝子が,I 型 BMP 受容体の
周 治 療 が 終 了 し , メ イ ン テ ナ ン ス 期 お よ び SPT 期
ALK2 と同定され,その遺伝子変異(Arg206His ; R206
(Post-Treatment : PT)に移行したのは 7 名であった.BL
H)も報告された.さらに,このような典型的 FOP と
および PT に測定する臨床パラメーターとして,PPD,
異なる遅発性症例から,新規 ALK2 変異(Gly325 Ala ;
クリニカルアタッチメントレベル(CAL)を選択した.
G325A)も同定された.本研究では,このような異なっ
BL において PPD
た臨床症状をきたす 2 種の変異 ALK2 の活性化機構を
!3 mm の健常部位(CH),PPD "6 mm
"6 mm かつ BOP 陰性
かつ BOP 陽性部位(DB),PPD
部位(DNB)から GCF 採取を行い,DB, DNB に対し
て歯周治療を行った後,治療終了後 6 か月以内に BL と
解析し,FOP における異所性骨化の発症機序を解明す
ることを目的とした.
【方法・結果】マウス筋芽細胞株 C2C12 に,ALK2 の野
同一部位から PT における GCF 採取を行った.
生型または上記変異体を一過性に過剰発現させた.その
2 )FDF に対する分解酵素活性の定量
結果,野生型と異なり R206H と G325A 変異は,BMP
GCF を採取後,タンパク濃度を 0.5 mg/ml に標準化
非存在下であっても BMP 活性を誘導した.R206H 変異
した.GCF と Ac-RAK-pNA 合成基質とを 37℃ で 60 分
体は,II 型 BMP 受容体の BMPR-II との共発現で活性
間反応させ,405 nm の吸収波長で測定し,FDF に対す
化されたのに対し,G325A 変異体は活性化されなかっ
る分解酵素活性とした.本研究は本学倫理審査委員会の
た.またマウス筋再生モデルにおいて,筋損傷によって
承認を得ている(承認番号 A 1002).
BMPR-II の発現が一過性に亢進した.一方,G325A 変
【結果および考察】現在までに,被験者 20 名のうち 7 名
異体は,別の II 型 BMP 受容体である ActR-IIB との共
が歯周治療を終了し,メインテナンス期および SPT 期
発現により活性が亢進した.キナーゼ活性を欠失させた
に移行している.各群の BL と PT における PPD の変
ActR-IIB 変異体は,G325A 変異体を活性化しなかった.
化 は DB 群 ( BL : 7.00 ± 1.63 mm, PT : 3.25 ± 0.50
II 型 BMP 受容体によってリン酸化され得る ALK2 内の
mm),DNB 群(BL : 6.32±0.75 mm, PT : 2.67±1.21
9 つの Ser/Thr 残基のうち Thr203 を Val に 置 換 す る
mm), CH 群 ( BL : 2.05 ± 0.89 mm, PT : 1.83 ± 0.41
と,II 型 BMP 受容体存在下であっても R206H と G325
mm)であった.また CAL は DB 群(BL : 8.84±2.50
A 変異体のいずれも BMP 活性がみられなかった.一
mm, PT : 5.00±1.63 mm),DNB 群(BL : 7.53±1.61
方,Thr203 以外の 8 つの Ser/Thr 残基を置換しても,BMP
mm, PT : 3.67±1.51 mm),CH 群(BL : 2.90±1.17 mm,
PT : 2.83±0.75 mm)であった.今後はメインテナンス
活性は保持された.
【考察】FOP で同定された R206H と G325A の ALK2 変
期および SPT 期に移行した被験者数を増やすとともに,
異は,いずれも BMP 非依存性に細胞内情報伝達系を活
FDF に対する分解酵素活性の定量を行っていく予定で
性化する機能獲得型であった.R206H 変異体は,筋損
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
S29
傷後に一過性に BMPR-II の発現を亢進し,急激な異所
えた.覚醒ならびに睡眠の判定は行動観察,心拍数,筋
性骨化を誘導すると考えられる.一方,筋損傷後に異所
活動性,脳波,眼運動から判定した.QS の判定は 4 秒
性骨化を認めない遅発性患者から同定された G325A 変
のエポックにて睡眠時の生理学的データを解析(Spike
異体は,BMPR-II による活性化を受けなかった.また
2 ver.6, Cambridge Electronic Design, Cambridge, UK)し,
いずれの ALK2 変異体も,Thr203 残基が II 型 BMP 受
δ 波の発現頻度,眼運動の欠如,心拍数の低下,筋活
動性の低下を指標として評価した.
QWB において開口反射誘発閾値は安定していたが,
QS では有意に上昇(P <0.05, 118.7±3.3% vs QWB)
し,QWA では QWB のレベルまで戻った(104.5±1.9
% vs QWB).また,QS では QWB と比較して開口反射
潜時の延長と顎二腹筋 RMS(root mean square)の減少
が各刺激強度で有意(P <0.05)に認められた.グリシ
ン投与は QWB の開口反射誘発閾値を上昇(P >0.05,
105.1±3.5% vs グリシン非投与)させたが,QS の開口
反射誘発閾値を有意に上昇させることはなかった.
これらの結果より,ラットの開口反射発現に関わる機
構は睡眠時においてサルと同様の抑制を受けていること
が明かとなった.また,ラットの睡眠時顎運動抑制はグ
リシン神経機構を介して行われていることが示唆され
た.
容体によりリン酸化されることが不可欠と考えられる.
以上の結果から,I 型 BMP 受容体である ALK2 の 2
種の遺伝子変異は,II 型 BMP 受容体のキナーゼに対す
る感受性が異なるため,異所性骨化の発症時期や症状に
多様性を生じると考えられる.
学外共同研究者:片桐岳信(埼玉医科大学ゲノム医学研
究センター)
睡眠時ブラキシズム発現に関わる
神経機構の解析
安達 一典
明海大学歯学部病態診断治療学講座薬理学分野
近年,我々はサルの舌刺激誘発開口反射と脳内微少刺
激誘発顎運動の活動性のいずれもが,安静覚醒(quiet
awake : QW)時に比較して安静睡眠(quiet sleep : QS)
性変調に関わる神経機構は未だ解明されていない.加え
遊離端欠損症例における部分床義歯の
設計の相違が咀嚼能率に及ぼす影響
て,睡眠時の運動活動性変化に関しては動物種や手法に
−リンガルバーとリンガルエプロンの比較−
時に低下することを報告した.しかしながら,その活動
よって様々な結果が報告されているのが現状である.そ
こで本研究では,齧歯類において睡眠時の顎運動機能が
サルと同様の抑制を受けるのかをラットにて検討した.
栗原 美詠
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野
また,本研究で用いたラットモデルは薬物投与が容易に
【目的】下顎義歯における維持・安定を獲得するための
行えるため,睡眠時の運動活動性変調に関わる受容体機
義歯構成成分として,欠損部と支台装置を結ぶ大連結子
構の検討を併せて行った.
の選択が重要であり,下顎義歯の設計・製作時において
イソフルラン(5%:導入,1.5−2.0%:維持,1.0 l /
形態的要素である大連結子について十分に配慮される必
min)全身麻酔下の Splague-Dawley 系雄性ラット(5 週
要があると考えられる.すなわち,口腔内へ装着された
齢)に心電図,筋電図(顎二腹筋前腹),脳波,眼電図
義歯の安定度合いが咀嚼能率を向上させると仮定するな
記録用電極と舌刺激用電極(オトガイ舌筋)を留置し,
らば,下顎義歯における大連結子の選択は,咀嚼能率に
1 週間の回復期間の後に実験に用いた.QW 時にオトガ
影響を及ぼすと考えられる.
イ舌筋に電気刺激(200 μ s, 0.2 Hz, 5 回)を加え,一過
しかしながら,機能的要因である咀嚼能率と大連結子
性の顎二腹筋活動を安定した潜時で 3/5 以上発現させる
に関する報告は少なく,咀嚼能率を考慮した下顎義歯の
刺激強度を開口反射誘発閾値とし 5 分間隔で 3 回計測し
設計・製作について解明することは,より生体に調和し
た(QWB).続いて,ラットの自発的睡眠(QS)時と
たに義歯製作に役立つと思われる.
その後の覚醒(QWA)時にも開口反射誘発閾値を求め
そこで,本研究は,下顎遊離端部の欠損症例に対して,
た後,グリシン(150 mg/kg, i.p.)投与後に同様の検討
下顎義歯の大連結子として用いられるリンガルエプロン
を行った.また,刺激強度と開口反射応答性の相関を検
(A-PD)とリンガルバー(B-PD)が咀嚼能率に及ぼす
討するために,開口反射誘発閾値の 1.5−2 倍の刺激を与
影響について,当分野で開発した篩分法に画像解析を応
S30
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
用した咀嚼能率評価システムを応用することによって検
討し,咀嚼能率に対して最適な大連結子の選択について
解明することを目的とする.
【材料及び方法】
1 .被験者
対照群−顎口腔系に異常を認めない天然歯列者 10 名
(男性 8 名,女性 2 名)
明海歯学 42
2013
測定に有用であることが示唆された.
患者群では B-PD と A-PD 咀嚼値においてに A-PD は
B-PD より有意に高い値を示した.咬合力および咀嚼ス
コアでは B-PD と A-PD の間に有意な差は認められなか
った.これは咬合力では,オクルーザルフォースメータ
ーは咬合させた時に歯列の 1 部しかに圧力が掛らない.
そのため,義歯が転覆し計測器に咬合圧が十分に伝達さ
患者群−上顎天然歯列,下顎 KennedyⅠ級およびⅡ級の
れなかったためと考える.咀嚼スコアにおいては,計測
欠損形態を有する患者 4 名(男性 3 名,女性 1 名)
する時期を装着後 1 か月に設定したため,スコア表にあ
2 .実験方法
る食物を摂取する機会が乏しかったため咀嚼能力が点数
1 )咀嚼値の測定(客観的評価法・直接的検査法)
に反映されなかったものと推察される.
試料(ピーナッツ約 3 g)を 20 回咀嚼後,咀嚼粉砕し
以上より,本研究で得た咀嚼値の値から下顎遊離端欠
た試料片を 10 mesh の篩でふるい分けた.そして,当分
損症例に対して咀嚼能率を向上させる上では B-PD より
野で開発した咀嚼試料評価システムを用いて残留試料の
も A-PD の方が有効となる可能性が示唆された.
重量を算出し,咀嚼値を算出した.
2 )咬合力値の測定(客観的評価法・間接的検査法)
咬合力計(オクルーザルフォースメーター GM10,長
野計器)を対照群では習慣性咀嚼側,患者群では義歯装
着側で咬合させ,3 回計測し平均値を算出した.
CdTe(カドミウムテルライド)検出器
を利用したインプラント周囲の経時的骨評価の
定量的解析
3 )咀嚼スコアの測定(主観的評価法・直接的検査法)
平井敏博ら(2005)が開発した摂食可能食品アンケー
ト表を用いて,咀嚼スコアを算出した.
4 )計測スケジュール
対照群は咀嚼値・咬合力・咀嚼値の計測を 1 度行っ
た.
患者群は,1 人の被験者に B-PD と A-PD の部分床義
井上 信行
明海大学歯学部病態診断治療学講座歯科放射線学分野
【目的】現在パノラマエックス線撮影法は QR(クァン
タム・ラジオグラフィー)が開発されエックス線のフォ
トン数による画像形成が可能となってきた.この QR
は微弱なフォトン数を電子データに直接変換できる高感
歯を作製した.2 種類の義歯の装着順序はランダムと
度かつ高分解の可能な CdTe(カドミウムテルライド)
し,計測時期は,装着直後および 1 か月後とした.
を検出素子に備えたフォトンカウンティング型センサー
【結果】
対象群:天然歯列者の平均値は咀嚼値 71.45±9.40%,
を搭載したトモシンセシス技術の応用により,多層断層
フォーカス撮影をすることで,低線量でありながらより
咬合力 46.67±248.39 N,咀嚼スコア 81.46±9.71 点であ
鮮明で精密なレントゲン画像の取得が可能になった.
った.咀嚼値,咬合力,咀嚼スコア,どの間においても
我々はこの新型検出器を利用して新しい診断方法の一助
相関が認められた.
として歯科用金属および骨梁・骨質の定量解析ができな
患者群:欠損形態を有する症例の咀嚼値の平均は B-
いかと考えた.今回は手始めにインプラント体で使用す
PD で装着時 46.89±11.05%,1 か月後で 51.83±11.05
るチタン合金を含めた歯科用金属を用いて,特定が可能
%,A-PD で装着時 56.46±10.15%,1 か月後で 65.57±
な定量的スペクトル解析が行えるかどうかを目的とし実
8.49%.咬合力の平均は B-PD で装着時 113.92±59.90
N, 1 か月後 123.50±13.27 N, A-PD で 装 着 時 129.00±
71.81 N, 1 か月後 93.08±18.14 N.咀嚼スコアは B-PD
験を行った.
【材料と方法】デジタル式歯科用パノラマ X 線診断装
置:QRmaster-P(テレシステムズ/大阪)
装着後 1 か月で 60.53±9.57 点,A-PD 装着後 1 か月で
撮影条件:80 kV, 4 mA
60.02±12.15 点であった.
解析ソフト:QRMC(テレシステムズ/大阪)
【考察】対照群において,咀嚼値と咬合力,咬合力と咀
嚼スコア,咀嚼値と咀嚼スコアの間に有意な相関が認め
られたため,咀嚼値,咬合力,咀嚼スコアは咀嚼能力の
使用金属:10 mm×10 mm×1 mm 歯科用金属(坂巻
デンタルラボ/埼玉)
コバルトクロム合金,歯科鋳造用銀合金,歯科鋳造用
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
S31
金合金(Type 3),歯科鋳造用金銀パラジウム合金,チ
検査を行った.特記すべき全身疾患がなく,過去 3 か月
タン合金,歯科鋳造用 14 カラット金合金,歯科鋳造用
間抗菌薬を使用していない慢性歯周炎患者の同一口腔内
18 カラット金合金,歯科鋳造用 20 カラット金合金,歯
の任意の上下顎前歯・小臼歯に対して,SRP のみ処置
科メタルセラミック修復用貴金属(Type 1),歯科メタ
(cont 群),SRP 後,光感受性物質であるメチレンブル
ルセラミック修復用貴金属(Type 2)
ー(MB)のみ投与(MB 群),SRP 後レーザー照射(la-
上記の金属 10 種を縦に正中部に 1 列に配列し断層厚
ser 群),SRP 後 MB を投与し,レーザー照射(a-PDT
の中央及び前後 10 mm にそれぞれ位置づけ,人体の負
群)をそれぞれ行った.MB は 1 歯あたり 200 μ l 使用
荷を想定した銅板(2 mm 厚)を照射面に設置した条件
した.レーザー照射は,照射部位を頬舌(口蓋)側の近
および負荷のない条件で撮影を行い,その後 QRMC を
遠心中央 6 部位に対し各 10 秒ずつ,計 60 秒照射した.
用いて解析を行った.
評価は,SRP 処置前,処置後 4 週に歯周病検査を行っ
【結果】コバルトクロム合金及びチタン合金に関しては
た.歯周病検査は,plaque index(PlI),gingival index
分布が他と比べ軽い傾向を示す結果となり歯科メタルセ
(GI),probing pocket depth(PPD),bleeding on probing
ラミック修復用金属(Type 1)に関しては重い傾向の分
(BOP),vertical gingival recession(VGR),および clinical
布図になった.また銅を付加した場合は付加なしと同じ
attachment level(CAL),を測定した.また,歯肉溝滲
ような傾向になったが分布の広がりが全体的に各金属の
出液量を Periotron 8000 を用い測定した.なお,本研究
断層間に変化が見られなかった.
は歯学部倫理委員会の承認(A1012)のもとに実施され
【結論】1 mm 厚の歯科用金属の定量的解析は一部の金
た.
属では有効なことが示唆された.しかし実際に生体を想
【結果】歯周病検査;術前の PlI, GI, PPD, BOP, VGR,
定した際はビームハードニングによってその解析はより
および CAL の平均値は 4 群間で有意差を認めなかっ
難易度が高く,より複雑になってくると思われる.今後
た.術前,術後 4 週における比較では,各群共に GI.
インプラント体周囲の骨に関しても今後条件等を変化さ
PPD, BOP,および CAL で改善傾向を認めたが,各群
せ,より詳細・精密な解析を行っていく予定である.
間では差を認めなかった.PlI および VGR は処置前後
で差を認めなかった.歯肉溝滲出液量;歯肉溝滲出液量
については術前と術後 4 週を比較し,a-PDT 群のみ減少
光線力学療法を用いた慢性歯周炎の
炎症症状緩和効果に関する臨床的検討
辰巳 順一
明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座歯周病学分野
傾向を認めた.
【考察および結論】慢性歯周炎患者に対し,SRP 処置後
に a-PDT を付加的に行うことによって,歯肉溝滲出液
量に改善傾向を認めたが,その他の測定項目では有意な
差はなかった.一般的に,歯周疾患の炎症程度が改善す
【諸言】光線力学療法は,光感受性物質に特定の波長の
るとともに歯肉溝滲出液量は減少することから,本研究
光線を照射することにより,周囲細胞に作用する治療法
結果から a-PDT は SRP と併用することにより,炎症症
の総称である.近年,光感受性物質の励起により産生さ
状を緩和させる可能性が示唆された.今後さらに被験者
れる一重項酸素の殺菌作用に着目し,抗菌光線力学療法
数,観察期間や観察項目を増やし慢性歯周炎に対する
(Antimicrobial Photodynamic Therapy : a-PDT)として歯
a-PDT の有効性を詳細に検討する必要がある.
科領域で検討されつつある.その中で,a-PDT は歯周治
療における新たな薬物療法として,スケーリングやルー
トプレーニングとの併用効果が報告されているが,その
有効性については一様ではない.そこで,慢性歯周炎に
対し a-PDT を用いた場合の炎症症状緩和効果を,臨床
パラメータと歯肉溝滲出液量から評価すること本研究の
目的とした.
デジタルテクノロジーを用いた
顔面エピテーゼの新しい製作方法
遠藤 聡
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯科補綴学分野
【材料および方法】明海大学病院歯周病科に来院し,口
【緒言】エピテーゼを製作する際の顔面の形状取得法と
頭および書面にて本研究に同意が得られた慢性歯周炎患
して,従来の顔面印象法に加え,様々な空間計測機器を
者 5 名(男性:1 名,女性:4 名)を対象に処置および
応用した方法が提唱されている.近年,汎用デジタルカ
S32
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
明海歯学 42
2013
メラを用いた空間計測システムが実用化された.このシ
れる.また,撮影方向が点群の構築部位だけでなく,表
ステムでは左右に 2 つのレンズを有する汎用デジタルカ
面の粗れにも影響を及ぼしたことは,被写体の色調や画
メラおよび空間計測ソフトウェアを用いて,通常の写真
像間の視差だけでなく,顔面特有の立体構造も影響する
と同様に撮影された画像をもとに 3 次元データの構築を
ことが示唆された.
行うことができる.このシステムは主に工業界で遠隔対
【結語】実験結果より,本システムを用いて顔面を想定
象物の測量に利用されているが,生体計測への応用例は
した被写体の撮影を行う場合,カメラを固定する必要が
少ない.また,2 枚のステレオ画像から 3 角測量の原理
あること,撮影環境は明るい状態であることが望ましい
により対象物の奥行きを獲得するため,空間計測能は被
と考えられた.また,点群表面の粗れとして観察された
写体や撮影環境の影響を受けやすいことが知られてい
奥行の誤差を補正するための最適な撮影条件は,撮影距
る.本発表では,このシステムを顔面形状計測に応用す
離を 30 cm 程度とすること,撮影方向はカメラの長軸
るにあたり,顔面計測に適した撮影条件の検討を行った
と顔面の正中軸とを一致させること,および被写体に対
ので報告する.
してパターン画像を投影することであった.今後は,撮
【材料と方法】顔面石膏模型およびエピテーゼのワック
影条件のさらなる最適化をはかることに加え,点群デー
スパターンを被写体とし,汎用デジタルカメラ(FinePix
タの精度検証および表面データへの変換に関する検討を
REAL3D w3m, Fujifilm 社製)を用い,撮影条件を変え
行い,顔面形状計測へ応用していく予定である.
て撮影したステレオ画像から空間計測ソフトウェア(撮
測 3D, Armonicos 社製)で 3 次元点群データを構築し,
比較を行った.
撮影条件
遺伝子編集酵素 AID を介した
cadherin switching メカニズムの解析
・カメラ設定:シャッタースピード,絞り(F 値),露
出(背景色)
撮影は時間帯や天候などの影響を受けない室内で行
宮崎 裕司
明海大学歯学部病態診断治療学講座病理学分野
い,感度はカメラ設定下限値である ISO100 に固定し
癌化あるいは癌進展は遺伝子異常の蓄積によって起こ
た.カメラ設定のパラメーターは画像の明るさ,露出は
るとされているが,遺伝子変異の発生メカニズムに関し
撮影時の背景色を変えることでカメラの自動補正機能の
ては未知な点が多い.近年,遺伝子変異を誘発する遺伝
影響を検討した.
子編集酵素 AID(activation-induced cytidine deaminase)
・撮影環境:撮影方向,被写体へのパターン画像投影
の存在が報告され,注目されている.この酵素は正常組
被写体の傾きおよびプロジェクターを用いたパターン
織において活性化 B 細胞でのみ発現し,免疫グロブリ
光投影の有無および種類(白黒あるいはカラー,ランダ
ンの可変領域に遺伝子変異を誘導して多様な抗原特異的
ムあるいはグリッド)の違いによる影響を検討した.
抗体産生に寄与する他,クラススイッチにも関与するこ
結果と考察:暗すぎる画像からは点群を構築できなかっ
とが知られている.また,炎症性病変を背景とした癌に
たことから,点群構築能は画像の明るさに大きく影響さ
おいての発現もみられることが報告されるとともに,癌
れると考えられた.背景色の違いでは点群表面の粗れに
抑制遺伝子の変異にも関与していることが報告され,こ
差を生じなかった.3 次元点群データの構築は,左右の
の酵素が炎症状態からの発癌に関わっている可能性が高
ステレオ画像内で画素の輝度を基準として対応点を決定
いことが示唆されている.
し,画像間での位置のずれをもとに奥行を獲得する.こ
口腔の上皮性異形成は癌化の前駆状態であるとされ,
の操作を画像内の全画素に対して行うことで被写体の立
遺伝子変異が生じている可能性が考えられる.本研究で
体情報を得ることができ,その際の対応点の探索方向
は様々な程度の上皮性異形成を伴う組織片を 2005 年の
は,左右の画像に対して水平となっている.また,対応
WHO 分類を参考に SIN1 から SIN3 に分類し,また口
点の識別精度を高めるためには,被写体表面の色調を補
腔癌組織を用いて AID の発現を免疫組織学的に検索し
助的に不均一にすることや視差の少ない画像をもとにす
た.その結果,SIN1 では半数近くの症例の有棘細胞お
ることが有効であるとされる.そのため,被写体にパタ
よび基底細胞に AID の陽性反応がみられ,SIN2 では約
ーン画像投影を行った場合,画像投影を行わなかったも
4 分の 1 の症例の有棘細胞に陽性反応がみられた.これ
のと比べ,点群表面の粗れが著しく減少したものと思わ
らに対し,SIN3 では検索したすべての症例で陰性であ
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
S33
った.口腔癌組織では癌細胞の一部にその陽性反応が認
結果,胚発生の 7 日目,10 日目,12 日目ではカルデク
められた.
リンの mRNA 発現はほとんど見られなかったが,胚発
癌細胞での AID 発現の意義を調べるために,口腔癌
生の 14 日目で高い発現が見られた.この結果から,カ
由来細胞株(HSC-2)を用いて AID の発現・機能解析
ルデクリンが胚発生の時期から重要な役割を果たしてい
を行った結果,本酵素は HSC-2 細胞において TNF-α
ると考えられる.また,胃,平滑筋,脾臓,胸腺,肝臓
刺激による NF-κB 活性化を介してその発現量を大幅に
で多くのカルデクリン mRNA が発現していることが判
上昇させること,Snail の発現調節を介して N-cadherin
明した.
発現に関与していることが示唆された.以上の結果よ
カルデクンのモノクローナル抗体による免疫発色でカ
り,AID は口腔の上皮性異形成の発生並びに癌進展へ
ルデクリン
タンパク質の発現分布の調査の結果,胚発
関与する可能性が示唆された.
生におけるカルデクリン
タンパク質の発現は,胚発生
の 14 日で顕著な免疫陽性反応が見られた.特に脊椎部
位に多く発現していることが観察された.また,膵臓の
血清カルシウム濃度降下因子カルデクリン
遺伝子の発現解析
藤本 健吾
明海大学歯学部口腔生物再生医工学講座生化学分野
ランゲルハンス島には発現が認められず,小葉では発現
量は少なく小葉間導管に集められたカルデクリン
タン
パク質が染色された.さらに胃では粘膜固有層に多く発
現していた.腎臓では尿細管で発現していたが腎小体で
は発現していなかった.これらの結果は,カルデクリン
【目的】近年,骨粗鬆症やリウマチなどに関する多くの
が多くの組織で発現しており,酵素としての役目だけで
治療薬の開発が進められている.カルデクリンは内因性
はなく骨吸収抑制など多目的な機能をもつことを裏付け
の酵素タンパク質であり,破骨細胞の分化の抑制,それ
る.
に伴う骨破壊の抑制によって血清カルシウム濃度を降下
させる因子であり治療薬として期待される.我々は,カ
ルデクリンが女性に多く見られる関節リウマチの進行を
抑える効果があること,および骨粗鬆症モデルマウスを
用いた実験でカルデクリンが閉経後に多く見られる骨粗
鬆症の治療薬として有効であることを報告した.この様
なカルデクリンの作用機構を十分に理解するためには,
カルデクリンの詳細な発現分布の調査が必要である.本
Porphyromonas gingivalis 菌体成分刺激による
転写因子活性化に及ぼす抗酸化性
フェノール関連化合物の制御機構を探る
村上 幸生
明海大学歯学部病態診断治療学講座総合口腔診断学分野
研究ではカルデクリン遺伝子や発現タンパク質が,発生
【目的】優れた抗酸化剤であり香料,食品,化粧品,医
や分化のどの時期に,どの組織で発現しているのか調べ
薬品として広く応用されている天然の抗酸化性フェノー
ることを目的とした.
ル関連化合物は抗炎症作用や,口腔前癌病変の発癌予防
【材料および方法】4∼12 週齢のマウスの各組織から
効果を示すことが知られているが,これらの化合物は自
polyA+RNA を調整し,逆転写酵素により合成した cDNA
動酸化しアレルギーや炎症反応などの生体為害反応を引
TM
を用いカルデクリン mRNA
き起こす.自動酸化しにくい構造のフェノール二量体化
の定量を行った.定量にはカルデクリン特異的プライマ
を鋳型にして LightCycler
合物は炎症性サイトカイン発現の抑制作用を有すること
ーを使用し G 3 PDH を標準に定量化した.また,カル
から,これらのフェノール関連化合物は酸化還元感受性
デクリンに対するモノクローナル抗体を用いて,マウス
の転写因子の活性化を negative に調節できる可能性を
の発生 8 日目,10 日目,12 日目,14 日目,16 日目の胚
示唆した.一方,Porphyromonas gingivales は慢性歯周
切片を用い,マウスの胚発生時期におけるカルデクリン
炎の主要な病原性細菌として知られている.とりわけ内
の発現分布を調査した.さらにマウス 8 週齢の各組織に
毒素(LPS)や本菌の線毛は転写因子の直接的な活性化
おけるカルデクリンの発現も,カルデクリンに対するモ
を介して炎症性サイトカインなどの産生に携わってい
ノクローナル抗体を用いて調べた.
る.近年,慢性歯周炎に関連した炎症性サイトカインや
【結果および考察】定量リアルタイム PCR 法でマウス
生理活性物質が 2 型糖尿病や動脈硬化症,腎臓疾患,早
各組織のカルデクリン mRNA の発現量の測定を行った
産にも関与することが報告されている.これらのこと
S34
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
は,本菌による宿主の転写因子活性化が炎症性サイトカ
インなどを介して顎口腔領域感染症だけでなく様々な全
明海歯学 42
前癌病変における腫瘍関連 M2 マクロファージ
の局在とその分化誘導機構の解析
身疾患の発症に機能的役割を果たす可能性を示唆した.
森 一将
それゆえ今回の研究では抗酸化性フェノール化合物が,
明海大学歯学部病態診断治療学講座口腔顎顔面外科学分野
本菌の線毛による細胞の酸化還元感受性転写因子活性化
と炎症メディエーターの発現を制御できるか否かについ
2013
【緒言】近年,マクロファージはその機能的役割の違い
て検討した.
から免疫系を活性化し,抗腫瘍活性を有する M1 マクロ
【材料と方法】
ファージおよび免疫系を抑制し,癌の浸潤・増殖に関与
1 .試薬:Eugenol
(東京化成工業社),magnolol, honokiol
する M2 マクロファージに大別されている.特に,M2
(各キシダ化学社)を使用した.Eugenol 二量体(bis-
マクロファージは,腫瘍組織に浸潤している腫瘍関連マ
eugenol)は酸化的二量化反応で合成した.
クロファージと類似した性質を持ち,癌細胞などに栄養
2 .細胞傷害性試験:マウスマクロファージ様 RAW
を供給するための血管新生への関与や,増殖因子の産生
264.7 細胞を培養し試薬を添加後,cell counting kit-8(同
を介して癌細胞の増殖を促進する働きがあると考えられ
仁化学社製)で測定した.
ている.これらの M1, M2 マクロファージの誘導には T
3 .刺激物:Porphyromonas gingivalis ATCC33277 株線
細胞由来のサイトカインの関与が示唆されているが腫瘍
毛(Yoshimura らの方法に準じ て 精 製 ) を 使 用 した.
組織におけるその分化誘導機構に関しては不明な点が多
TNF-α は Miltenyi Biotec 製の組み換えタンパク質を使
い.これまでに,口腔癌における腫瘍関連マクロファー
用した.
ジの局在を検討した結果,口腔癌局所では CD163 陽性
4 .COX-2 遺伝子発現:Real-time PCR 法で検討した.
M2 マクロファージが存在するという知見を得た.そこ
COX-2 タ ン パ ク 質 発 現 : 抗 COX-2 抗 体 を 使 用 し た
で今回前癌病変におけるマクロファージの局在ならびに
Western blot 法で検討した.
その分化に関わる CD4 陽性ヘルパー T 細胞の関与につ
5 .NF-κB 活性化:ELISA 様転写因子活性化 kit(Active
いて検討を行なった.
motif 社)を使用した NF-κB サブユニットの κB 配列へ
【方法】明海大学歯学部付属明海大学病院口腔外科にて
の結合試験で検討した.IκB-α のリン酸化依存性タン
診療した口腔扁平上皮癌,口腔白板症,病理組織学的な
パク質分解は抗 IκB-α 抗体,抗リン酸化 IκB-α 抗体
正常粘膜について,初診時および治療前に病理組織診断
(Ser 32)を用いた Western blot 法で検討した.
を目的に採取した生検材料および切除病変を検体とし
【結果と考察】Eugenol 二量体と類似構造を持つ mag-
た.これら試料について各種抗 CD 抗体[M2 マクロフ
nolol, honokiol は低濃度で線毛誘導性 NF-κB の活性化を
ァージ:CD163, M1 マクロファージ:CD80,マクロフ
抑制した.しかし,eugenol と bis-eugenol は同じ濃度で
ァージ:CD 68,ヘルパー T 細胞:CD4,細胞傷害性 T
は活性化を抑制できなかった.線毛誘導性 COX-2 発現
細胞:CD8,ヘルパー 1 型 T 細胞(Th1):CXCR3 およ
は magnolol, honokiol で抑制された.一方,TNF-α 誘
びヘルパー 2 型 T 細胞(Th2):CCR4]を用いた免疫組
導性の COX-2 発現も magnolol, honokiol で抑制された.
織学的解析を行った(明海大学歯学部倫理委員会承認番
今回の研 究 で は magnolol と honokiol が RAW 細胞の
号
A 0920 号).なお,病理組織学的分化度や上皮性異
NF-κB 活性化を抑制し,COX-2 発現を制御した.この
形成の程度については WHO の診断基準に従い分類し,
ことは抗酸化性フェノール関連化合物が自身の持つ酸化
陽性細胞の評価法は 100 倍の光顕下で,それぞれの典型
還元力を介して酸化還元感受性転写因子活性化の調節
的な組織像を示す 5 視野について陽性細胞数をカウント
し,慢性歯周炎に起因する全身疾患に対する primary な
予防剤として機能しうる可能性を示唆した.
し陽性細胞の比率(陽性率)を算定し評価した.
【結果】
1 )白板症において CD163+マクロファージの浸潤が認
められた.特に moderate dysplasia において有意な増
加が認められた.
2 )CD4+ T 細胞の上皮内浸潤が認められた.
3 )CD163+マクロファージと上皮内 CD4+ T 細胞の陽
性率との間に正の相関関係が認められた.
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
S35
4 )白板症において CCR4 陽性細胞(Th2)は認められ
養することで高純度で多数の骨細胞を生体内に近い条件
なかったが,CXCR3 陽性細胞の浸潤は多くの症例で
で解析するという,新たな視点に基づく方法の開発を行
認められた.
った.
【結論】これらの結果から,白板症局所で CD163 陽性マ
実際には,2∼3 mm 四方に細切した大腿骨をコラゲ
クロファージが増加し,CXCR3 陽性 Th1 細胞が多く認
ナーゼ・EDTA 処理し培養する方法について以下の検討
められていることから,白板症局所における CD163 陽
を行った.コラゲナーゼ・EDTA 処理し得られた骨片を
性マクロファージの浸潤/分化に Th1 細胞が関与して
HE 染色または骨芽細胞マーカー alkaline phosphatase で
いる可能性が示唆された.現在,CD163 陽性マクロフ
染色,実体顕微鏡下で観察し骨細胞以外の細胞の有無を
ァージの phenotype について詳細な検討行なっている.
評価した結果,3 回のコラゲナーゼ・EDTA 処理によっ
てほぼ骨片表面の細胞を除去できることが確認された.
この骨片の培養開始時及び培養後の骨片から RNA を
新たな初代骨細胞培養法を開発し,骨細胞が
interferon-β によって破骨細胞形成を
抑制することを示す
佐藤 卓也
明海大学歯学部形態機能生育学講座口腔解剖学分野
回収,keratocan 等の骨芽細胞マーカー,dentin matrix
protein-1 等の骨細胞マーカーの mRNA 発現を real-time
RT-PCR 法にて定量した結果,骨細胞を高純度で含む骨
片であることが確認された.また得られた骨片に含まれ
る骨細胞の生細胞活性を評価する WST-1 アッセイを行
った結果,骨細胞のみを含む骨片は少なくとも 5 日間は
骨形成と骨吸収からなる骨改造は,骨への加重によっ
培養可能であることが示された.そこで次に,この骨片
て調節される.この調節は歯列矯正での歯の移動,外傷
と骨髄細胞を共存培養し,破骨細胞形成に対する骨細胞
性咬合による歯槽骨吸収等と密接に関係し,その調節機
の影響を検討した.その結果,骨片を破骨前駆細胞誘導
構の解明は歯科医学にとって重要である.骨組織は,骨
期のみに共存培養するだけで,破骨細胞形成が抑制され
基質表面に存在する骨芽細胞と破骨細胞,骨基質内部に
ることが示された.この作用は OPG 非依存的であると
存在する骨細胞の 3 種の細胞系から構成され,その相互
考えられる.この点をさらに確認するため Opg 欠損マ
作用により骨改造は調節される.近年の遺伝子除去マウ
ウスからの骨細胞のみを含む骨片を用いた結果,OPG
スを用いた研究から,骨細胞は荷重を感知し破骨細胞形
非依存的破骨細胞形成抑制が示された.
成を調節するが,この調節には骨細胞が産生する破骨細
次に,この抑制作用に IFN-β が関与しているか否か
胞形成促進因子 RANKL とそのデコイレセプターであ
検討した.その結果,骨細胞による Ifn-β mRNA 発現が
る OPG が重要であることが示唆されている.
確認され,また骨細胞のみを含む骨片と骨髄細胞との共
一方,骨細胞除去マウスを用いた実験から荷重による
存培養系に IFN-β 中和抗体を添加すると,骨細胞のみ
破骨細胞形成調節機構には,骨細胞が産生する RANKL
を含む骨片による破骨細胞形成抑制は一部解除されるこ
/OPG 以外の破骨細胞形成調節因子の関与も示唆されて
とが示された.
いる.
これまでに研究代表者らは,株化骨細胞 MLO-Y 4,
以上の結果から,骨細胞は IFN-β を産生し破骨細胞
形成を抑制する可能性が考えられた.
骨芽細胞,破骨前駆細胞及びコラーゲンゲルからなる 3
次元骨組織モデル培養系を開発,骨細胞が有する破骨細
MLO-Y 4 が破骨細胞形成を抑制する因子として inter-
歯髄創傷治癒に及ぼす Enamel matrix derivative
の影響
feron( IFN)-β を産生している可能性を見出した.今後
−免疫化学的検討と修復象牙質の形態学的特徴−
胞形成調節作用を検討してきた.その結果,株化骨細胞
さらに骨細胞が産生する IFN-β について検討するため
には,高純度の初代骨細胞を解析することが必要であ
る.しかし現在,高純度の初代骨細胞の培養法は確立さ
れていない.
そこで本研究ではまず,骨基質表面の細胞を除去し,
骨基質中の骨細胞のみを含む骨片を調製,その骨片を培
中村 裕子
明海大学歯学部機能保存回復学講座歯内療法学分野
【諸言】Enamel matrix protein を含有する EMDOGAINⓇ
Gel(EMD)は,歯周組織再生療法などに広く臨床応用
されており,垂直性骨欠損部の骨組織の回復において良
S36
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
明海歯学 42
2013
好な治療成績をあげている.歯内領域でも EMD を露出
ファージ様細胞の浸潤と血管新生を誘導することが認め
した歯髄創面に貼付することにより早期に修復象牙質の
られた.これらのことから歯髄治癒に促進的に働く可能
形成が認められており,生物学的直接覆髄剤としての有
性が示唆された.しかし,今回の実験方法では,露髄処
用性が示唆されている.さらに形成された象牙質様硬組
置を行うための作業において,根管内歯髄組織を強く損
織は,象牙芽細胞に連続した形態をとっていることが認
傷したものも多く認められ,規格化された露髄面を得る
められている.しかしながら,EMD による歯髄創傷面
ことができなかった.そのため歯髄創傷部における硬組
への硬組織形成メカニズムや創傷組織の再生に必要とさ
織再生に対する EMD の効果を詳細に観察することはで
れる血管形成のメカニズム等については,いまだ不明な
きなかった.このことから規格化した露髄面を形成し,
点が多い.
さらなる検討する余地があると考えられた.
そこで本研究は,EMD の歯髄細胞に対する細胞増殖
能,石灰化物形成能と血管新生能さらに EMD 塗布後の
ラット歯髄創傷治癒の様相を免疫科学的および形態学的
に観察することとした.
特別支援学校の歯周疾患・歯周疾患要観察者
への個別指導が障害児の自立支援に及ぼす影響
【材料および方法】実験にはヒト歯髄細胞(4∼5 継代)
を用いた.歯髄細胞に対する EMD の細胞増殖能は,Cell
counting Kit-8 を用いて行った.石灰化物誘導能の検討
深井 智子
明海大学歯学部社会健康科学講座口腔衛生学分野
は , 骨 芽 細 胞 分 化 試 薬 ( Takara osteoblast-inducer re-
【目的】近年,日本の障害者に対する考え方は,国際生
agent)を予め添加した培養液中の歯髄細胞に対し,EMD
活機能分類(ICF)の障害観・健康観が大きく取り入れ
を添加後さらに培養し,培養液中の生成物に対してアリ
られ,障害者に金銭給付のみを充実させるのではなく,
ザリン染色を行うことで検討した.EMD の血管形成促
自立支援を目指す方針に変わってきている.従って,障
進能は,ヒト血管内皮細胞(HMVECs)(KURABO)を
害者自立支援法をはじめ障害者の自立支援を促す施策
用い,マトリゲルを含んだプレート上で評価した.さら
が,次々と打ち出されている.現在,特別支援学校や特
に創傷部における形態学的な検討のため,Wistar 系ラッ
別支援学級は,自立に向けた教育機関として重要な役割
ト雌の上顎第一臼歯咬合面に直径 1 mm 程度の露髄面を
を果たしている.そこで,この学校や学級の児童・生徒
形成し,EMD を静置してグラスアイオノマーセメント
が,歯科保健活動を通して,歯や口の健康状態に関心を
にて仮封した.その後 2 週経過後の第一臼歯を周囲組織
持ち,一人できちんと歯をみがき,口腔内を清潔に保つ
を含め摘出した.摘出した組織は,EDTA 脱灰後,パラ
ということは,自立支援の観点から見ても極めて重要で
フィン切片を作成し,H&A 染色を行い,電子顕微鏡に
ある.この歯と口の健康つくりは,自分の目で確かめな
て観察した.
がら進めることができるので,知的障害があっても指導
【結果】ヒト歯髄細胞に対する EMD の細胞増殖能を検
することが可能であると考えられる.そこで,定期健康
討した結果,50∼100 μ g/ml の添加したものが最も高い
診断で歯周疾患要観察者(GO)と診断された知的障害
細胞増殖能を示した.石灰化物誘導能の検討では,EMD
の児童・生徒に対して,個別指導の効果を検討した.
の添加により,石灰化物の生成は上昇することが認めら
尚,通常の指導方法では,その効果を期待することは困
れた.血管形成促進能を検討した結果,血管様管腔の形
難であることが推察されるので,養護教諭のサポートを
成とその分岐の形成率が高まることが認められた.ラッ
受けながら研究を行うこととした.
トを用いた形態学的な観察から,4 週経過後の EMD を
【方法】本人が理解できるように口腔内の状況の指導を,
静置した歯髄には,周囲組織の溶解とマクロファージ様
本人だけでなく養護教諭とともに行った.生活習慣全般
細胞の浸潤が観察された.しかし,正常な象牙質様組織
については,質問紙(日本学校保健学会「歯肉と生活習
の形成は認められなかった.
慣調査」)に保護者が記入することで,実際の状況を把
【考察および結論】歯髄創傷治癒に及ぼす Enamel matrix
derivative の影響
握することができる.質問紙の内容は,歯肉の状態,清
潔・健康行動,歯みがき行動,食行動となっている.こ
EMD の組織再生のメカニズムは,失われた歯周組織
の質問紙には,質問項目ごとに点数付き例示回答があ
を復元させるための足場の形成が挙げられている.さら
り,点数が高くなるほど理想的な状態になっている.対
に,今回の研究結果から創傷部での初期におけるマクロ
象者は,歯科健康診断時に GO と判定された生徒とし
明海歯科医学会第 20 回学術大会抄録
た.
S37
【考察】特別支援学校の GO と評価された児童に対して
【結果】GO と判定され,新版 S-M 社会生活能力検査に
養護教諭が個別指導を行うことで,自立に向けた行動変
おける社会生活年齢が 6.0 歳∼7.1 歳の 6 名に,養護教
容が期待できると考えられた.この結果は,障害児だけ
諭による個別指導を実施した.個別指導後において全員
ではなく健常児においても担任や保護者が子どもと共に
の歯肉の状態と生活行動等の改善傾向が示された.PMA
健康づくりに取り組むことによって,児童・生徒に「生
指数は,対象者全員の数値が有意に低くなった.歯みが
きる力(自分で課題を見つけ,自ら学び,自ら考え,主
きに対する行動評価においては行動可能項目が増加し
体的に判断し,行動し,よりよく問題を解決する資質や
た.保護者からの感想によると,家族も子どもの自立に
能力.自らを律しつつ,他人とともに協調し,他人を思
向けて歯みがきを意識するようになった.GO と判定さ
いやる心や感動する心など,豊かな人間性.たくましく
れた知的障害がある児童・生徒に対しても,社会生活年
生きるための健康や体力.中央教育審議会答申)」を確
齢 6.0 歳以上であれば養護教諭の個別指導は有効である
かな力として身につけることが可能であることを示唆し
ことが示唆された.
ていると考えられる.