第 7 章 オーストラリア 消費生活アナリスト 板倉ゆか子 0.食品政策の全体像 (1)法令等 食品表示及び食品安全を規定している主要な法律は、オーストラリア・ニュージーラ ンド食品基準規約(Australia New Zealand Food Standards Code。以下、 「基準」)で ある。この法律の主な目的は食品の供給において公衆の健康と安全の確保をすることで あり、消費者に情報を与えること、誤解を招く表示をなくすことである1。 基準 1.1.1 では、序章として、基準が適用される範囲及び解釈条項が示されている。個々 の食品に特有の適用範囲と解釈条項は、それら特定の基準において示される。 この基準 1.1.1 は基準全体の一般機能を規定しているので、基準利用の際の出発点とし て、常に考慮されなければならない。基準の一般適用に関する定義の多くはこの基準に 含まれる。 基準は 1991 年の連邦政府、州・準州政府間の合意に基づき、州及び準州政府の他、ニ ュージーランドで最低基準として採用されている。具体的には、この基準を採用する形 で、各州や準州では、以下のように個々に食品関連の法律を作り執行している。 食品法 1981(ニュージーランド):Food Act1981(New Zealand) 健康法 1911(西オーストラリア州):Health Act 1911 (Western Australia) 食品法 2001(オーストラリア首都特別地域 ):Food Act 2001 (Australian Capital Territory) 食品法 2006(クイーンズランド州):Food Act 2006 (Queensland) 食品法 2003(ニューサウスウェールズ州):Food Act 2003 (New South Wales) 食品法 2003(タスマニア州):Food Act 2003 (Tasmania) 食品法(北部準州):Food Act (Northern Territory) 食品法 1984(ビクトリア州):Food Act 1984 (Victoria) 食品法 2001(南オーストラリア州):Food Act 2001 (South Australia) オーストラリアに輸入される食品では、この基準に加えて輸入食品管理法 1992(連 邦):Imported Food Control Act 1992 (Commonwealth)に適していなければならず、検 疫に合格しなければならない。 1 FSANZ 等へのヒアリングによる 319 (2)オーストラリアの食品関連の法令と関係機関 オーストラリアは連邦政府であり、イギリス女王を元首とした立憲君主制をとる国で ある。連邦政府に加えて、6つの州政府、2 つの特別区(準州)があり、それぞれに首相 と内閣や議会がある。州および準州政府は連邦政府から自立しており、連邦政府で作成 された基準を採用しているのは、各州、準州政府の判断によるものである。食品に関す る政策の方向性を策定し基準の作成や改正をする場合には、それぞれの立場を尊重し、 情報交換を活発に行い、各州や準州の意見も反映されるようなシステムになっている。 連邦で決められた法律は、各州、準州政府とも採用しているが、それをどのように執行 するかは、各州、準州政府に委ねられているので、州や準州による不統一性が問題にな るものがあり、是正がはかられてきている。 基準の作成や修正に当たってはコストと効果が常に計算され、食品についての公衆の 健康や安全性にとってより効果的でしかも行政や企業の費用負担の少ない政策をとろう とする姿勢が強い。費用は受益者負担という考え方がベースにあり、企業が問題のない 行動を取っていれば、費用が少なくて済むような工夫がされている。我が国に比べ、省 庁間のコミュニケーションは非常に盛んに行われている模様である2。 利害関係者(消費者、製造業者、小売業者、輸入業者、学識経験者など) 2 図1 オーストラリアにおける食品政策の仕組み オーストラリア・ニュージーラン 基本方針の策定 ド食品規制閣僚会議(ANZFRMC) 食品規制常任委員会(FRSC) オーストラリア・ニュージーランド 執行小委員会 食品基準局(FSANZ) 食品基準規約の 制定・改正 農漁林産省(DAFF) オーストラリア検疫検査局 保健・高齢化省(DHA) 制度の具体化 (AQIS) 州・準州政府 地方自治体 FSANZ 等へのヒアリングによる 320 制度の施行 食品政策については、オーストラリア・ニュージーランド食品規制閣僚会議 (ANZFRMC: Australia New Zealand Food Regulation Ministerial Council)、オース トラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ: Food Standards Australia New Zealand )、保健・高齢化省(DHA: Department of Health and Aging)、農漁林産省 (DAFF:Department of Agriculture ,Fisheries and Forestry) 、オーストラリア政府検 疫検査局(AQIS:Australian Quarantine and Inspection Service) 、州(States)及び 準州(Territories)、地方自治体の食品当局が関与している。 オーストラリア・ニュージーランド食品規制閣僚会議(ANZFRMC: Australia New Zealand Food Regulation Ministerial Council)は、食品の政策の方針を打ち出す。それ に沿ってオーストラリア・ニュージーランド食品基準局(FSANZ: Food Standards Australia New Zealand )はオーストラリア・ニュージーランド食品当局法(Australia New Zealand Food Authority Act 1991)に基づき、基準の管理と改正をおこなっている。 なお、基準は、コーデックスに合致し、国際的にも調和が図られている、という回答で あった。この規約を輸入食品が満たすべく、農漁林産省( DAFF:Department of Agriculture ,Fisheries and Forestry)の一部門であるオ ーストラリア検疫検査 局 (AQIS:Australian Quarantine and Inspection Service)が、検疫法(Quarantine Act 1908)と輸入食品管理法(Imported Food Control Act 1992)に基づき監視を行ってお り、国産品および検疫を通った輸入食品は州及び準州、地方自治体の食品監視当局によ って監視される。 農漁林業省(DAFF)は、食品産業界に関与し、生産から食卓まで、全国的に一貫し た産業政策を行うとともに、国際的な調整を行い、公衆の健康・安全性を基本に業界の 質を向上させ、国際的競争力を高め、維持させる役割を果たす。全国的に一貫性を持た せることにより規制を受ける側のコスト削減に寄与でき、食品の安全性の高さによって 国際的な競争力も高めているという。 (3)関係機関 ①オーストラリア・ニュージーランド食品規制閣僚会議 (Australia NewZealand Food Regulation Ministerial Council: ANZFRMC) ANZFRMC は,以前はオーストラリア・ニュージーランド食品規格委員会として知られ ていたが、2000 年 11 月に再編成され、2002 年7月にニュージーランドが同盟を結びこ れに加わった。同会議は、オーストラリア全州及び準州の保健大臣あるいは第一次産業の 大臣及びニュージーランド政府大臣,農林水産大臣等関連大臣 10 名で構成され,オース トラリア連邦の保健・高齢化省大臣が議長を務める。なお、ANZFRMC の上部には、オー ストラリアにおけるあらゆる連邦、州、準州政府の代表で構成されるオーストラリア政府 閣僚会議(COAG:Council of Australian Governments)という組織があり、違反があっ た場合の執行等については力を入れており、食品基準や食品の表示についても取り上げて 321 いる。 ANZFRMC は,食品の安全規制へのフードチェーン全体への取組みを確かなものにしよ うとする組織で、食品規制に関する基本的方針についての指針の作成を行う。また、食品 基準規約の改正を採用するか否かを決定でき、草案について検討を求めることができる。 顔を合わせての会議は年 1 回以上開催されている。 また,JETRO 調査によると、ANZFRMC には、各省の次官級で構成される食品規制常 任委員会(FRSC:Food Regulation Standing Committee)が設置されており、年に 2 回 以上開催されている。FRSC は、ANZFRMC に対し、助言を行うこととなっている3。食 品規制常任委員会の下には、規制を担当する部署の上級官僚で構成される執行小委員会 (ISC:Implementation Sub-Committee )があり、全国的に同じ規準で一貫した執行が されるよう監督している。 ②オーストラリア・ニュージーランド食品基準局 (Food Standards Australia New Zealand: FSANZ) FSANZ は、 1991 年オーストラリア・ニュージーランド食品基準局法によって設立さ れ、ANZFC が決定した食品規制に関する基本的方針を受け,具体的な食品安全に関する 基準を作成する独立機関である4。保健・高齢化省の1関係機関であるが、同時に2つの国 にわたる政府機関であり、オーストラリア政府とニュージーランド政府、8 つのオースト ラリアの各州及び準州政府による協力機関である。 FSANZ の理事会は、1 名の委員長、ニュージーランドからの委員 3 名、消費者団体、 国立保健医療研究協議会(National Health & Medical Research Council)からの委員各 1 名、科学、公衆衛生の専門家 3 名、食品産業側の委員 2 名に FSANZ 長官が加わった計 12 名である。 安全な食品供給と消費者への情報提供を最大目標とし、オーストラリアの各州および準 州の食品基準の調和を図るために 2002 年に現行の組織となった。オーストラリアとニュ ージーランドで売られる食品の内容と表示に関する食品基準と産業界との協働による行動 規範を策定するとともに、農薬や動物用医薬品の残留基準等食品安全問題に対処するため にオーストラリアだけに適用される食品基準を策定している。また、食品検査や食品リコ ールシステムといった国内調整の役割を引き受け、消費者に対する食品の取扱い方につい ての助言、研究活動の実施とともに、輸入食品管理についてはオーストラリア政府検疫検 査局(AQIS)の支援をする。 3 JETRO「オーストラリアにおける食の安全性確保の取組み(2005年度 食品規制実態調査)2005年12月」 〈http://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/reports/05001086〉1頁。 JETRO「オーストラリアにおける食の安全性確保の取組み(2005 年度 食品規制実態調査)2005 年 12 月」〈http://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/reports/05001086〉1頁。 4 322 図2 FSANZ の組織図 理事会 長官 FSANZ役員補佐 主席科学研究役員 役員補佐 戦略的科学・監督担当 公衆衛生・栄養主席顧問 リスク評価担当執行役員 役員補佐 化学安全 微生物 公衆衛生・栄養 食品成分評価・モニタリング 長官秘書 キャンベラ担当執行役員 役員補佐 食品安全担当 公衆衛生・栄養基準担当 消費者・社会科学担当 規制分析担当 最高財務責任者(CFO) 運営担当 最高情報責任者(CIO) ウェリントン担当執行役員 役員補佐 食品表示・情報基準担当 製品安全基準担当 コミュニケーション担当 法律・執行担当役員 役員補佐 法律顧問室 基準管理担当 企画・能力担当 戦略プロジェクト担当 ③保健・高齢化省(DHA: Department of Health and Ageing) DHA は,主に食品衛生に関するリスク管理という観点から,関連する連邦政府機関, 州及び準州政府等と連携を図りつつ、政策立案・実施を行う役割を担っている5。州保健当 局との共同プロジェクトとして設立された食中毒監視ネットワークであるオージーフード ネット(Oz Food Net)を管理している。オージーフードネットは、オーストラリアにお ける食中毒に関する重要データを分析し、食品の安全性にかかわる問題の発見に当たって いる6。 ④オースト ラリア政府検疫検査局 ( AQIS:Australian Quarantine and Inspection Service) AQIS は、農漁林産省(DAFF)の一部門であり、農漁林業省の職員の 75%が所属して いる。厚労省調査によると、検疫法(Quarantine Act 1908)と輸入食品管理法(Imported Food Control Act 1992) 、輸出管理法(Export Control Act 1982)に基づき、動物、植物 の検疫、輸入食品の検査、輸出食品の検査及び認証等を行っている7。 罰則については、検疫法に定められており、AQIS が違反事項の調査を必要に応じて専 門家と協力して行い、違法性が重大と認められた場合、違反者に対して巨額の罰金もしく は懲役が課される。検査は有償であり、発生したコストは全て回収される8。組織は、2009 年2月時点では局長(Executive Director)の下に検疫検査部門、生産規範・動植物衛生 部門、バイオセキュリティ部門の 3 つの管理部門に分かれ、その下に 9 つの課及び 8 地 JETRO「オーストラリアにおける食の安全性確保の取組み(2005 年度 食品規制実態調査)2005 年 12 月」 〈http://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/reports/05001086〉1頁。 6 JETRO「オーストラリアにおける食の安全性確保の取組み(2005 年度 食品規制実態調査)2005 年 12 月」〈http://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/reports/05001086〉4頁。 5 7 厚生労働省 「諸外国における輸入食品の監視体制に関する調査報告書」Ⅱ-23頁。 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/kaigai/dl/01_0004.pdf 8厚生労働省 「諸外国における輸入食品の監視体制に関する調査報告書」Ⅱ-23頁。 http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/kaigai/dl/01_0004.pdf 323 域支部がある。輸入検査は AQIS が認定するラボですることもある。ラボは、オーストラ リ ア の 国 家 認 定 機 関 で あ る NATA (National Association of Testing Authorities, Australia)認証を有する必要があるなどの厳しい条件がある。 ⑤オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC:Australian Competition and Consumer Commission) ACCC は、主に取引慣行法(Trade Practices Act 1974)の下、オーストラリアの経済社 会が公正で自由競争に基づき稼動することを確実にするための役割を担う組織である。消 費者保護の観点からは、種々の誤認を与える欺瞞的表示等の禁止行為を定めている。法執 行のため、全国各地、州及び準州に多くの地方事務所を構えている。消費者保護の業務の 出発点は、消費者や他者からの苦情である。苦情はコールセンターで受けており、年間約 8 万件ある。苦情は録音され、内容を判断され、調査をする場合もある。苦情処理自体は 消費者個々人での対応である。食品など特定の部門において一定の傾向の問題がある場合 には、事業者向けに教育啓発資料をまとめ、業界団体や大手小売業者に指導を行う。 取引慣行法については、企業で主張していることは企業側の立証責任があるという形で あるが、立証責任を果たさなくても、取引慣行法に違反には問われないので、新しい権限、 新しい救済方法を導入した形の体制を 2011 年初頭に確立する予定で作業が進められてい る。 ⑥州及び準州政府 クイーンズランド州の場合、一次産業から製造、小売の食品の流れに沿って、第一次産 業水産省(DPI :Department of Primary Industries and Fisheries)からクイーンズラン ド食品生産安全部 (SFPQ:Safe Food Production Queensland)、クイーンズランド健康局 (Queensland Health)と基礎自治体が食品法(Food Act 2006)に基づき、食品衛生や 製造、小売、食品サービス、表示について規制を行っている。 SFPQ は、分室も含め 40 人の要員で約 7,800 にのぼる企業の認証を行い、企業のコン プライアンス等の監視、法の執行を行っている。肉や畜産物、卵といった高リスク食品を 対象に食品安全計画を制定し、企業はそれを遵守することによって食品の安全を確保する ことが出来る。 1.食品表示制度 (1)制度の全体像9 ①食品表示の法制度 食品表示を規定している主要な法律は、オーストラリア・ニュージーランド食品基準規約 9 ヒアリングおよびオーストラリア政府各機関のインターネット情報による 324 である。上述の通り、 それを踏まえて州政府が規制手段を盛り込んで州法を制定している。 誤認を与える表示を防ぐという点では、オーストラリア競争・消費者委員会(ACCC: Australian Competition and Consumer Commission)が所管している取引慣行法(Trade Practices Act 1974)もかかわってくる。まもなく基準に盛り込まれると思われる有機栽培 等の表示は農漁林業省のサイトで原案が掲載されている。 ②食品表示の監視、違反の際の措置 食品表示と表示内容の監視は法執行に当たるので、州や準州政府の食品担当局の担当官 あるいは、州等の代理で地方自治体の担当官が関与している。輸出入に関しては AQIS が 関与する。FSANZ には食品表示に対する苦情等を受ける相談窓口があるので、調査を行 い、安全面に関する場合は、リスクアナリシスを行った上で、状況により、市場からの撤 去、リコール等を行う。表示違反等で事業者から反論がある場合は、事業者が説明する義 務がある。反証の情報は事業者側が提出する。また、消費期限切れの商品の販売について は、小売業者が訴追を受ける。 また、食品の表示のうち、誤解させたり騙したりする表示の防止については、オースト ラリア競争・消費者委員会(ACCC)および州及び準州政府の公正取引部局が監視し執行 している。ACCC によれば、虚偽等の不正表示があった場合、企業に対する罰金は 110 万 ドルに及ぶ可能性があり、個人に対する罰金は 22 万ドルに及ぶ。刑罰もある。表示違反、 意図的な表示偽装などその問題性の程度によって金額は変わり、特に意図的な場合はより 厳しい罰になる。事業者が法違反をしたとみられ、裁判や罰金といった手段を取る前の段 階で当該事業者が応じた場合、違反行為を行ったとみなされる事業者の名前が公共性の高 い登録簿に記載される。このような対策によって企業側が法遵守プログラムを実施し、法 の枠内で行動が取れるようその企業を更生し、企業内において法令遵守の社風を根付くよ うに仕向ける。その後 3 年間、ACCC は企業の実績を調査して法に抵触するような問題を 起こさず、合法的な行動をとっていることを確認する。企業が応じない場合は、裁判に持 ち込み、マスコミ公表する。 なお、クイーンズランド州政府の食品法では、誤解をあたえる表示についての罰金は最 大 500 ペナルティユニット=55,000 ドル(1ペナルティユニット=110 ドル)、または 2 年間の懲役がある。また、ビクトリア州政府の食品法では、個人に対して最大 40,000 ド ル、企業に対して 200,000 ドルの罰金と規定されている。 規則の執行に当たっては、行政の担当官やその代理として検査機関が事前通告なしで事 業所、 工場などに検査に入ることは出来るようになっている。 クイーンズランド州の場合、 州政府の担当官は調査のために事業所や製造所に立ち入ることができる権限は以下の場合 に付与されている(Queensland Food safety Regulation§89)。すなわち、占有者が同意 した場合、一般に公開されている場所である場合、令状による場合、緊急な場合である。 「緊急な場合」とは、主要な製品の生産が行われていて、それらの製品により死亡や重大 325 な病気を引き起こすといった差し迫った危険を避ける必要のある場合である。 ③食品表示制度における利害関係者との関係 A)利害関係者と食品表示制度の改正とのかかわり 利害関係者は、食品表示制度の改正から審議、施行のどの段階でも、意見を提出する機 会がある。 消費者は、食品に問題があった際には、苦情を州や準州政府の食品局や健康局の窓口に 通報する。その場合には、苦情者の名前と住所、電話番号、食品の商品名やブランド、食 品業者名、サイズや容器の種類、識別番号、期限、食品を購入した日と場所などを告げる。 問題の程度に応じて調査し、対応を行う。 また、食品表示基準の改正等についての申請も可能である(FSANZ 法第 22 条) 。一般 市民と協議する条項が FSANZ 法第 28 条に組み込まれており、 FSANZ は消費者、 事業者、 従業員など、誰からでも食品制度について法律の改正を求める提案や申請を受け付ける窓 口を設けている。提案や申請については、根拠が必要であり、提案や申請をする場合に必 要な資料等が求められている。この条件については、消費者からは苦情があるが、企業に 求められるものと消費者に求められるものの内容は同じである。提出された内容について は、担当窓口等で誰でもみることができる。 企業が FSANZ に申請するとすべて公表されなければならないので、競争相手である会 社にもわかってしまう。申請時に必要な情報をすべて揃えていれば、短時間で審議が進め られるが、この制度は企業にとっては、厳しい側面もある。 B)食品基準規約改正手続きの流れと関係者との関係 基準の改正の手続きが FSANZ 法改正により 2007 年 10 月から変わり、以下の表の流れ になっている。 FSANZ の理事会は、会議を対面式で年に 3~4 回行うほか、テレビを通じて意見を交換 する。基本法の中に「1つの課題については、9 ヶ月以内に必ず消化しなければならない」 と定めている法律がある。基準の改正過程において個人情報等は情報開示法で守られてい るが、それ以外は科学的な分析情報もすべて公表されている。 改正の申請には3つの手順がある。申請が如何に複雑かによって、違う手順を使う。ほ とんどの作業は 9 ヶ月かかる。この作業ではあまりリスクをともなわないものの変更を行 う。この 9 ヶ月の間には毒性のテスト、消費者からの情報の収集、栄養的価値成分を調査・ 分析する。この間に必ず公から意見聴取する必要がある。申請があった最初の 15 日間で は、申請の内容に必要な情報が揃っているかをみる。揃っていない場合は、申請を却下す る。 こういった変更を行うにあたって、政府および消費者、産業界にどれだけのコストがか かるかについての分析も行う。申請書にある提案が最善かどうかも確かめる。評価したも 326 のは必ず FSANZ の理事会に提出して承認を得る必要がある。FSANZ で決定したすべて の報告書は食品規制閣僚会議にかける必要がある。この食品規制閣僚会議では 60 日間と いう期間が与えられる。そこで FSANZ の評価報告書を検討し、採択か却下かを判断し、 却下の場合には何が足りないか伝える必要がある。閣僚会議からは、FSANZ に 2 回レビ ューを依頼することができる。こういう過程を経ない限り法律にはならない。 それとは別にやや小規模なもの、科学的なものや信憑性に関係のない、単純な修正(た とえば、落丁のようなもの)は、関係省庁に伝えるだけなので 3 ヶ月で終わる。こういっ た単純なものは一般市民に公表する必要はない。ただ、関係している官公庁に伝えるだけ である。 また、最低 12 ヶ月かかるものがある。これには科学的な調査が多く必要であったり、 内容が複雑だったりして、一般市民への意見聴取会を何度も行い、必ず見直しも行うもの である。公からの意見聴取は、最低 2 回はしなければならない。並行して専門家からの意 見を得たりもする。 閣僚会議では現在、新生児や乳幼児に与える食品を検討している。報告書が閣僚会議に 提出された後、閣僚会議は 60 日以内にレビュー(見直し)をするように要求する権利が ある。FSANZ は見直しの要求があった時は、最低でも 90 日かけて最初の見直しの報告書 を提出する。その後、60 日の間に閣僚会議は、2 回目の見直しを指示することもできる。 その際は、1州の大臣だけでなく、過半数が見直しに賛成する必要がある。最初の報告書 をおこしてから 12 ヶ月間以上の長期間になっていくものである。 以上の手続きを踏んで、 成果物を発表する。申請者は FSANZ の評価報告が終わった時点で法律になると思いがち だが、この手続きが終わるまで規則は法律にはならないとのことである。 FSANZ の担当者は各州及び準州の担当者とは会議やメール、公文書などにより、ほと んど毎日、連絡を取り合い、意見交換を行っているという。並行して評価報告書は、各州 および準州の担当部署に送り、正式に意見ももらう。特定の手続きの際は、専門家グルー プからなる部会を作るので、その部会には、州や準州からも参加がある。基準第四章の魚、 牛乳、チーズ、鶏卵といったものについては、州や準州のほうが直接的に関係しているの で専門部会にも参加している。 327 図3 食品基準規約を改めるために申請を承認する新しい手続きの流れ 申請受付 行政の評価 申請受理 主要手続き 申請者に通知 評価 一般的な手続き 非常に早い人 例外手続き のための通知 一般への通知 評価 評価 規制案の結果 規制案の結果 の評定 の評定 (提示案の収集) 規制案の結果 の評定 12 ヶ月 3 ヶ月 9ヶ月 申請者へ通知 申請者へ通知 一般への通告 一般への通告 申請者および 関係官庁機関 承認 の通知 承認 承認 閣僚会議に 閣僚会議に 閣僚会議に 通知 通知 通知 C)食品の表示に関する消費者の期待度等 食品の表示について改善の必要性を知るために、消費者に対してさまざまな調査を行い、 問題点を探っている。 食品の表示に関する 2007 年のアンケート調査10(オーストラリア n=1129、ニュージ ーランド n=732)からみると消費者の情報収集先は、オーストラリアでは食品について いる表示から情報を得るという回答が 83.5%と最も多く、食品表示は有益かについて「そ う思う」、 「大いにそう思う」の数は合わせて 68%であった。食品の表示に興味のある人は 62%だが、読みやすさについては 40%であり、買物の最中に食品の表示を読む時間がない というのもある。購入する場合は、期限表示(73%)、脂肪(62%)、原産国(59%)、糖 (57%)をみて選ぶ人が多い。栄養成分でもミネラル類等については、ほとんど関心がな い。 10 FSANZ, Consumer Attitudes Survey 2007 A benchmark survey of consumers attitudes to food issuesによる。 328 ④食品表示の範囲・方法 A)食品表示の範囲(基準 1.2.1 第 2 条) 表示のルールは包装されているかどうかで規制が変わる。包装食品には表示の義務があ る。包装(packaged)は広い意味で食品がプラスチックやホイル、しっかりした容器など で覆われているものを指し、包装後は消費する際にはじめて開封されるものである(基準 1.1.1 第 2 条) 。 表示義務の例外には、非包装の食品、外側に包装があり、中が個包装(ただし、個包装 の表面積 30cm2 以上であれば、特定物質についての表示が必要)で外の包装をはずさずに 販売することのない食品で、基準 1.2.3 第 4 条によって書面での記載が必須になっている 特定の物質を含まないもの、販売している敷地でそれが作られ包装される食品、 購入者の 面前でパックされる食品、果物または野菜の性質または品質をおおい隠さない容器包装の そのままか切られた新鮮な果物と野菜(種からの発芽野菜スプラウトやそれに似た製品は 除く)、購入する人の急ぎの注文により準備のために包装しておき配達する食品、基金調達 バザーで売られる食品がある。 レストラン、食堂、学食、病院食堂などのケータリング(仕出し)で販売される包装済 み食品についても原材料や栄養表示などを除き、表示を行う必要がある(基準 1.2.1 第 5 条)。 なお、100cm2以下の表面積の包装食品(=小包装)については、省略できる表示が多 く、表示しなければならないのは、食品名と供給者名と住所、警告表示、原産国表示のみ である。 B)表示方法11(基準 1.2.9) a.文字サイズや文字の形 表示は読みやすくなければならず、英語で書かれ、背景の色とはっきり区別できるよう に見やすく記載されていなければならない。警告表示は特にわかりやすくなければならな い。通常の保管方法で読みにくくなるような印刷をしてはいけない。ロゴのような目立つ 飾りが表示の読みやすさを損なうようになっていてはいけない。また、文字も大文字ばか りや大文字と小文字が混じったようなものは読むのが難しいので、頭文字だけ大きくなっ ているものや小文字で書かれたほうが読むのが楽である。表示が読みやすいなら、文字サ イズがどのくらいを選ぶかは事業者次第であるが、高齢者にとっては大きなサイズが良い とされている。 製造者や小売業者はどんな文字の形やサイズでもを選ぶことができるが、容器包装のほ とんどは、 警告表示では、ベースから文字または数字のトップまで 3mm 以上でなければ ならない。100cm2 未満の容器包装については、1.5mm が最低の大きさである。 FSANZ, Legibility Requirements for Food Labels: User guide to Standard 1.2.9 – Legibility Requirements(July 2001)による。 11 329 b.表示位置等 どこに表示するかについては、新しい基準規約でも定められていない。しかし、 「アルコ ール飲料」 という表示のそばにアルコール度の表示をするなど、警告など必須の情報には、 同じ視野に入るように表示されることが望ましい。オーストラリアでも州や準州によって は、食品表示のいくつかについてその位置を規則で決めている。 c.その他 誤認されるような紛らわしい表示にならなければ、アレルギー物質を目立たせるために 原材料欄で太字にしたり、強調したりすることも考えられる。なお、背景と区別しやすい 色を使う場合には、赤と緑、緑と青の色彩を区別できない人もいることは配慮した方が良 いとされる。 C)情報提供の手段の活用状況 情報提供の手段としては食品包装への記載をしている他、付加的にホームページへの掲 載がよく行われている。電話・FAXによる個別対応、商品棚への掲示等は、費用がかか るので、事業者の自主的な対応にまかされる。ポスターやプラカードといったものは小売 事業者の抵抗もあるという。 330 D)食品の区分別にみた表示の概要 図4 食品表示項目の概要 生鮮食品 (非包装) 包装済食品 中食 テイクアウト 外食 健康食品 (サプリメント) その他 (業務用) 名称 義務 Australian Approved Names 容器包装品は義務 の使用 内容量 義務 義務 原材料名 義務。主要な食品原 料は量(%)も必要 活性成分、賦形 剤 使用方法 容器包装品は義務 義務 調理方法 保存方法 義務 栄養表示 義務:熱量(ジュー ル)、たん白質、脂 肪、飽和脂肪、炭水 化物、糖、ナトリウム について1回平均摂取 量及び100g当たりの 各成分の量 容器包装品は義務 賞味期限が2年以上 のもの、アイスクリー ム、個別の氷菓類、小 包装は省略可 消費期限 賞味期限 満了の日付 製造年月日 製造者・生産国 野菜、果物、 供給者名及び所在地 要望があれ 要望があれ 供給者名、住所 ナッツ、鮮魚、 は義務 ば説明 ば説明 豚肉原産地 誤認を与える場合は 義務。原産国は魚加 工品、豚肉加工品で も義務あり 原料原産地 要望があれ ば説明 誤認を与える場合 は義務 開封後の取扱い リサイクル アレルゲン 義務 意図せざる 遺伝子組換え食品 混入1%以下 民間認証機関 有機食品 による 意図せざる 混入1%以下 民間認証機関 による 放射線照射 義務 義務 義務 意図せざる 混入1%以下 義務免除 義務 カーボンフットプリン ト その他 ロット番号 パッチ番号 E)表示違反の状況等 ACCC によると、以前に特定の分類の食品を調査し、実際に表示されていることと取引 慣行法で定められていることとマッチしているかどうかを調査したところ、調査の結果、 表示内容については 75%には問題がなかったが、10%には問題があり、残りがグレーゾー ンであった、と言う。しかし、2008 年に再調査したところでは、問題のあるものは 2%に 減少していた。最近、特定の食品の主要成分について表示に問題があった例としては、ク 331 ランベリージュースという名称であるにもかかわらず 99%のリンゴジュースに香料でク ランベリー風味がつけてあった商品の例がある。このような表示では、消費者がリンゴジ ュースなら払わないような価格を高級なジュースと見なして払うことになる。また、新鮮 な果肉が入っていると表示しているけれども、実際のところ、セモリナや濃縮果実、甘味 料が入っているヨーグルトがあった。 また、エキストラバージンの表示と事実が違っていたり、オリーブ油以外の混入があっ たりという苦情がある。パルメザンチーズがロマノフチーズだった例、ビタミンCが加え られているのでヘルシーと表示しているが、全体的にみてヘルシーといった機能は入って いないもの、原産地が他国なのにオーストラリア産の表示がつけられているもの、なども みられる。 (2)食品表示の個別規定 ①期限表示12(基準 1.2.5) A)期限表示の定義と範囲 期限表示には消費期限と賞味期限がある。2000 年 10 月の改訂において、消費者が理解 しやすいとの観点から、健康及び安全上、問題なければ賞味期限と付す、との変更を行っ た。また、国際基準にも同調する観点から、賞味期限を主な日付とした。つまり、健康及 び安全上の理由から、当該食品をこの日までに消費しなければならない場合は、消費期限 を、消費期限が適用されない場合は、賞味期限を表示する。但し、賞味期限が 2 年以上の 場合、または、この食品が一人分タイプのアイスクリームまたは氷菓あるいは、小さな包 装(100 cm2 未満)に入っている食品(健康及び安全上の理由から、当該食品をこの日ま でに消費しなければならない場合を除く)は、期限を表示しなくてもかまわない。 消費期限は、未開封の包装食品に関して、定められた保存方法で保存された場合に健康 や安全性が確保される期限であり、その後は消費してはいけない期日である。賞味期限は 包装食品が未開封の場合に定められた保存方法で保存された場合にその商品の特性(色、 味、食感、香り、鮮度、ビタミンの量)が保持される最終日を意味する。このように定義 は違うが、基準では、消費期限と賞味期限のいずれを表示するかを決定する方法を定めて おらず、行政の検査でどのように日付をつけているかについて説明ができれば、どちらを 採用するかは供給する企業にまかされる(ただし、後述の通り、具体的な判断基準となる 指針が FSANZ より示されている)。従って表示でどちらが主となっているかは行政の与り 知らぬところである。最近は賞味期限が表示された加工食品は増えてきている。なお、開 封後の保存方法と期限については義務ではないが、消費者に情報提供することが望ましい とされる。生鮮品など包装されずに販売されているものには表示の必要はない。 12 FSANZ, User guide to Standard 1.2.5 – Date Marking of Packaged Food による。 332 B)表示の方法 表示の方法は 賞味期限が 3 ヶ月以下であれば 3 Dec or 3 12 3 12 99 or 3 Dec 99 賞味期限が 3 ヶ月を超えていれば Dec 99 or 12 99 3 12 99 or 3 Dec 99 となっている。 C)期限の設定方法等 期限の設定は、現実に即したものである必要があり、期限について研究等をしている機 関等で通常、データを出しており、こうした専門家の助言を求めることが望ましいとされ る。設定は事業者にまかせられるが、検査の際に科学的な根拠が出せるようになっている 必要がある。原材料についての成分基準を守るというルールにより科学的根拠に基づき安 全に使用されていなければならない。 冷凍品を解凍して販売しても、適切に処理していれば、健康や安全性で問題にならない ので、解凍した旨の表示の義務はない。品質面では問題があるかもしれないが、そこまで 規則では定められていない。任意の表示も店頭では見かけなかった。 賞味・消費期限の分類方法については、FSANZ がユーザーガイドに具体的に示されて いる(図5、6参照) 。それによると、食生活の特別な期間に唯一の栄養源であることを目 的にしている食品であって、その食品に期待される栄養成分がひとつでも期間内に急激に 落ちて必要なレベルを下回るもの、冷蔵の調理済み食品で食中毒菌が付着し保存中に増殖 したとしても腐っていると識別できない食品は消費期限を付けることになっている。また、 缶詰、シリアル、ビスケット、清涼飲料、お菓子のような常温で保存できる食品は、賞味 期限表示という点は日本と同様である。しかし、日本では、消費期限をつけて販売されて いる生の肉や魚であっても、食中毒菌を死滅させる調理がされるものは、賞味期限表示で きる一方、ハム、ソーセージ、低温殺菌牛乳、フルーツジュースなどでは消費期限が表示 されているなどの点で大きな違いがある。 つまり食品が常温で保存可能な食品や冷凍食品の場合や常温で保存できず、冷蔵であっ ても、調理の過程で食中毒菌を減らして安全な食品になるもの、そのまま食べることので きる冷蔵食品でリステリア菌やセレウス菌、ボツリヌス菌、エルシニア菌が付着している 可能性がないもの、これらの細菌が何かの方法で増えないようにしてあるもの、細菌の増 殖があっても、危険な状況に到る前に食品が損なわれてしまうものは、すべて、賞味期限 をつけることになる。2 年以上賞味期限があるものには、表示は必要ない。 333 図5 健康上、消費期限が適用されるかを決める意思決定表 その食品はメーカーによって、個人の規定食として一定期間、特定の栄養源となる よう作られているものですか? はい いいえ その食品は一定の期間内に必要な レベルを下回ってしまう 1 つ以上の 賞味期限が適用されます。 基本的栄養素を含んでいますか? 安全上問題がありません。 いいえ 次の表を参照してください。 はい 消費期限が適用されます。 図6 安全上、消費期限が適用されるかを決める意思決定表 その食品は長期保存用ですか? いいえ はい 保存期限が 2 年より その食品は冷凍食品ですか? 短ければ、賞味期限が はい いいえ その食品は安全に食べるために 適用されます。 保存期限が 2 年より 調理などで殺菌する必要のある 短ければ、賞味期限 生鮮食品ですか? はい いいえ が適用されます。 保存期限が 2 年より その食品はすぐ食べられる 短ければ、賞味期限が 状態の冷蔵食品ですか? いいえ 適用されます。 はい その食品に以下の食中毒バクテリアがひ 保存期限が 2 年より とつでも含まれる可能性はありますか? ・ ・ ・ ・ 短ければ、賞味期限が リステリア菌 低温性セレウス菌 低温性ボツリヌス菌 エルシニア菌 いいえ 適用されます。 いいえ 保存期限が 2 年より はい その食品は上記の食中毒バクテ リアの繁殖を持続させますか? 短ければ、賞味期限が 適用されます。 はい はい その食品はバクテリアが危険なレ 保存期限が 2 年より短 ベルに達する前に、見分けがつく ければ、賞味期限が適 程に悪くなりますか? 用されます。 いいえ 消費期限が適用されます。 334 D)期限表示と保存条件 期限表示の設定には保存条件が関わってくるので、保存方法の違いで期限が変わる場合 に保存方法とのセットで期限を 2 種類以上表示しているものがあるかどうかを尋ねたとこ ろでは、開封後についての注意を書いたものくらいしかヒアリング先の担当官も知らなか った。ただし、ガイドでは、7℃より下か、5℃より下による細菌の繁殖のスピードの違い による保存期間の変化についての説明もあり、基準 3.2.2 には、事業者が食品を冷ます場 合には、微生物の繁殖を考えて、60℃から 21℃の間は 2 時間以内、21℃から 5℃までは更 に 4 時間以内にと定められており、厳密な温度管理により期限管理をする必要性について 情報が示されている。安全係数についてはみつけられなかった。なお、冷凍は-18℃と一 般に理解されている。 賞味期限や消費期限の日付は、食品が通常の状況でどれくらい保たれるかを見定めてつ けることが求められている。食品が市場で売れないような好ましくない変化としては、匂 い、色、食感または味といったものがあり、それらは細菌数や細菌の種類や湿度などによ って影響を受ける。消費期限の場合は、食中毒菌を特定してそれがどの程度に増加するか を予測する必要がある。温度などの保管方法を考慮して、保存期間中の変化を調べて考慮 する。また、期待される栄養成分の量から消費期限をつける場合は、栄養成分の量を調査 して考慮する。これらは未開封の場合である。事業者が開封後の保存方法について情報提 供をしてもかまわない。卵の保存は 15℃以下と鶏卵業界団体から小売店に勧告を出してい る例もある。 E)製造年月日への考え方 製造年月日や加工年月日の表示は義務ではないが、貯蔵期間が 7 日未満のパンについて は製造年月日表示についてのオプションが与えられている。焼いた日の場合、baked on を 使い、販売をする日、例えば、水曜日に売るために火曜日に焼いた場合でも、baked for wendsday という表示をすることができる。それ以外に包装された期日を表示することは できるが、その場合には期限表示もする必要がある。これについては、消費者の中に混乱 もあるようだ。 食品の表示には、食品の供給者名と住所、ロット番号の記載が義務化されている(基準 1.2.2)ので、製造年月日の表示がなくても、リコール等、食品の安全確保の必要性があっ た場合の対応についての問題はないという。例えば、クイーンズランド州では、個々の卵 に識別番号をつけなければならないと聞いた。 なお、製造年月日や包装日を任意で表示する事業者があるが、どの程度の割合で表示が されているかについては、不明、とのことであった。 卵の場合には、産卵日(julian date)がつけてある場合もある。 F)期限表示違反への対応 期限表示違反があり、その食品が公衆の健康や安全に影響を与えると判断された場合は、 回収命令、自主回収等が行われなければならない。また、偽装であるか否かについては、 335 ACCC で判断される。 基準 1.2.5(3 条)によって消費期限切れの食品の販売は禁止されている。消費期限切れ を販売しないようにするのは、小売業者の責任である。消費期限の切れた食品は安全であ るか適切でない状態の可能性があるので、廃棄するか、供給業者に返品するか、処理して 安全で適切な状態にするかしなければならない。賞味期限の場合は、日付以後であっても 食品の販売を禁止していない。もちろんその場合でもその食品がまだ安全で適切でなけれ ばならない。 回収・廃棄の基準(表示の法令違反の他、健康への影響の有無など)は、リスク分析を 行っている。 1990 年から 2007 年までのリコール 786 件のうち、表示の違反は 162 件で 20.6%であ り、微生物 265 件(33.7%)、異物 172 件(21.9%)に次ぎ 3 番目に多い違反原因である。 これは、2003 年にアレルギー等の警告表示の変更によってリコール数が 40 件と急増した ことも影響している。その後、表示のリコールは減少し 2006 年は 23 件、2007 年は 54 件中 13 件(24.1%)である。表示で問題になるのは、詳細に欠けている、食品の製造業者、 ロット番号が欠けているのが一番大きな理由である。 F)市場調査等による商品の状況 オーストラリアで調査したところでは、鶏肉では、消費期限(USE BY)と賞味期限 (BEST BEFORE)を表示したもの両方が、オーストラリア最大規模のスーパー(コール ス)でも販売されていた。また、消費期限表示が多い牛挽肉でも賞味期限になっているも のがあった。 牛乳の場合には、低温殺菌をしてある牛乳(CANBERRA milk)には、日本と同じく消 費期限の表示があり、4℃以下でいつも保存するように表示があったが、常温保存のロン グライフミルク(Derondate)では賞味期限表示であった。保存方法としては、涼しく乾 いた場所が記載され、また、「開封後は、冷蔵するように」との表示と「開封後は 7 日以 内に使用するように」という表示もみられた。 チーズ類も、バックヤードで包装しているものは、消費期限表示であったが、スライス チーズ(KRAFT の SINGLES light 25% less fat)は賞味期限もあった。 ミックスジュース(AUSTRALIAN-FRESH-BREAKFAST JUICE)では、3 月 23 日販 売の食品に消費期限 13/APR/09 の表示があり、2 週間以上保存性があるにもかかわらず、 消費期限表示になっていた。保存温度が 4℃以下となっていた。 プラスチック箱入りミニトマト(The Original Grape Tomato (Product of Australia)) の容器の裏には、「冷蔵庫に保存する必要がない。室温保存」の表示があった。 生ハム(PANCETTA LOIN MILD)では、5℃以下の保存で賞味期限として 02/06/09 の表示がある一方で、牛肉で作った食肉製品(Simply the Best)では、保存方法は冷蔵 (KEEP REFRIGERATED)で、消費期限として 27.04.09 の表示があるという状況であ った。 336 無塩バター(HOME BRAND Unsalted Butter)では、保存方法が0-4℃で、3 月 26 日店頭で 19/11/09 という賞味期限表示がつけられていた。 シーザーサラダ(coles Caesar salad)の場合には、1-4℃の保存で開封後 24 時間以 内という表示がみられた。 ②原材料表示13(基準 1.2.4) A)原材料の定義と範囲 包装済み食品に関して、食品を作る際に使われる原材料等は、原則としてすべて表示す ることになっている。特徴のある原材料については、加えてその含有率を表示しなければ ならない。原材料表示の必要のないものには、食品名が原材料を示す食品(食品名以外の 原材料を含む場合は除く) 、基準 2.7.2 及び 2.7.5 に記されているアルコール飲料(ただし、 アルコール 0.5%以上の飲料は後述するように、別途、個別の表示規制がある)、小包装の 食品、ラベルのない瓶詰めの牛乳、クリームまたは乳・クリーム製品がある。 B)表示の方法 原材料には、食品を調製、製造、加工時に使われるすべての食素材や食品添加物が含ま れる。見やすく読みやすく正確であり、紛らわしくないように記載しなければならない。 ‘Ingredients’, ‘Made from’, ‘Consists of ’ or ‘Contains’といった見出しをつけて表示するこ とができる。 a.表示の順番 材料は重さの順に記載する。乾燥えんどう豆を水戻しして使った場合に、水戻ししたえ んどう豆の重さで順番に並べることもできれば、乾燥えんどう豆、水と記載することも出 来る14。 b.原材料の名称のつけ方 原材料の通称名、材料の性質を表す名称のどちらかを書く。ただし、いくつかについて は一般名の使用も認められており、穀類、チーズ、カカオバター、果物の砂糖漬け、脂肪 または油、魚、果物、ガムベース、ハーブ、肉、乳たんぱく、乳固形分、ナッツ、鳥肉、 スパイス、澱粉、砂糖、野菜が該当する。具体的な記載にあたっては、例えば、果物につ いては、りんご、西洋梨、桃を含む食品の場合に、小麦粉、大豆油、果物、砂糖、塩と書 いてもかまわないし、小麦粉、大豆油、果物(りんご、西洋梨、桃) 、砂糖、塩という表示 でもかまわないが、ナッツについては通称名も記載しなければならない、 など違いがある。 また、乳固形分は、粉ミルク、脱脂粉乳、乾燥乳製品、または乳漿(ホエイ)、ホエイパ ウダー、ホエイたんぱく、乳糖、カゼイン、乳たんぱくと乳脂肪などを二つ以上含む場合 に使用されうる。なお、 「糖類」は、乳糖や果糖といった個々の識別が必要なので、成分名 FSANZ, Ingredient Labelling: User guide to Standard 1.2.4 – Labelling of Ingredients (July 2001) による。 14後述のように乾燥または濃縮された材料を元に戻すために使われる水は添加した水の表示規定の例外 とされているため。 13 337 として使ってはいけない。 季節によって原材料 X を Y に変える時期がある場合には、’X or Y’と表示する。 C)原材料として使われる水等の表示(基準 1.2.4 第 3 条(c)) 添加した水も原材料の 1 つとして、蒸発分等、表示のルールに従ってその量を計算し、 原材料の多い順に書かなければならない。例外としては、乾燥したり濃縮された材料を元 に戻すために使われる水、原材料のリストとして記載されたブロスや塩水、シロップの一 部に含まれる水、最終製品の 5%未満しか残っていない水である。 濃縮還元ジュースを使っている場合は、 「オレンジジュース」と書かず、濃縮還元ジュー スと書くか、水、濃縮オレンジジュースと表示しなければならない。材料が遺伝子組換え かどうかも記載する。 D)原材料の%表示15(基準 1.2.10) 食品の名前に含まれる原材料、消費者が食品の名前と結び付ける原材料、食品表示のラ ベルに絵や画像などで強調されている原材料は、食品の特徴となる原材料に含まれ、その パーセントを表示する必要がある。原材料欄にその材料名を記載する場合は、パーセンテ ージは、その直後に記載しなければならない。 香味料のうち少量しか使われない成分や単一の食素材、食品全体がその材料で構成され ている成分、または名前にあっても食品の特徴を示すほど重要でないので、その量の多少 が食品の選択に関係しない材料、似たような食品と区別がつかない原材料などは、%表示 をしなくてかまわない。 例えば、チョコレートの中のカカオやアイスクリームの中の乳脂肪の割合は表示をする 必要がある。また、苺ヨーグルトの苺、キドニーパイの腎臓肉、野菜のパイの原材料の野 菜、ミートパイの肉、チリコンカーンの場合はミンチ牛肉といんげん豆のトウガラシ風味 ということで、いんげん豆やミンチ牛肉の割合は書かなければならないが、トウガラシは 必要ない。 E)個別ルールのある原材料 a.アルコールの場合(基準 2.7.1) 20℃で濃度を測ったときに 10 グラム以上のアルコールを含む食品は以下のアルコール の表示をつけなければならない。 1.15%(容量%)以上のア 100g あるいは 100ml 当たりのアルコー ルコールを含む食品(ア ル ml、アルコールの容量%か、同じよ ルコール飲料) うな意味の表示 アルコールが 0.5%以上 ○%を超えないアルコールを含むとの ~1.15%未満の食品 表示か、同じ意味を持つ表示 FSANZ, Percentage Labelling: User guide to Standard 1.2.10 – Characterising Ingredients and Components of Food (July 2001)による。 15 338 アルコールの濃度が 1.15%を超えるアルコール飲料は低アルコール飲料とは表示できな い。また、0.5%を超えるアルコール飲料は、酔わないというような意味の表示をすること ができない。アルコールを含む食品は、アルコールが入っていない菓子や飲料と思われな いようにしなければならない。この規定に含まれないワインやアルコール飲料は、食品基 準 2.7 ではカバーされないので、成分表示をつけなければならない。 F)市場調査等による商品の状況 ミックスジュース(AUSTRALIAN-FRESH-BREAKFAST JUICE)は、さまざまな果 物が混合されていたので、 その原材料には、 原材料の果物の割合がすべて記載されていた。 チョコレートチップクッキー(Chips Ahoy! NABISCO Chocolate Chip'Cookies)の原 材料の表示には、チョコレートコンパウンドドロップの割合 20.6%とドロップの原材料の 表示がされていた。 かぼちゃクリーム缶(heinz very Special CREAMY PUMPKIN) は、原材料表示には、 カボチャ 61%、水、クリーム(4.0%), 食品添加物は用途名と番号の表示があった。 生ハム(PANCETTA LOIN MILD)では、原材料としては、豚肉,香辛料、ぶどう糖、 食塩等が表示されていたが、食肉製品(Simply the Best)には、牛肉、食塩などの他に水 (WATER ADDED) という文字があった。 ソーセージ(ECONOMY SELECTION)では、肉(73%),水と表示され、肉の量や水が 加えてあることがわかる表示になっていた。たんぱく加水分解物(Edible Vegetable Protein の表示には、原材料の由来として(とうもろこし(maize))の表示があり、加水分 解コラーゲンケース(Collagen Casing Hydrolysed)まできちんと書かれている。 ノーファット苺ヨーグルト(BexLight)では、原材料表示に苺が最少量 6.5%と表示さ れていた。無脂固形乳が使われていたが、水の表示はなかった。培養生菌(アシドフィリ スとビフィズス、サーモフィラス)の表示がみられた。一方、ネッスル(diet no fat) の ヨーグルトでは、果物5%(苺)と表示されており、酵素としてラクターゼ、ヨーグルト 培養生菌の表示があった。 無塩バター(HOME BRAND Unsalted Butter)では、原材料にクリーム(Cream) 、 水(Water)の表示がみられた。 サンドウィッチ(deli-ciously )では、ハムとチーズとトマトのサンドウィッチと記載 され、ハム(39%)[豚肉(75%)塩、湿潤剤(Humectant) (325) 水・・・]とハムの内容 が詳細に表示されていた。また、パン(33%)やチーズ(11%)トマト(11%)といった 割合も表示されていた。 ③原産国表示16(基準 1.2.11) A)原産国の定義と範囲 基準の原産国表示に関する規則により、2005 年から包装された食品については、生産、 16 FSANZ, Country of Origin – Advice for Consumers (June 2006)による。 339 加工又は包装された国名を明示することが必要となっている。また、未包装の食品であっ ても、生鮮の野菜・果実、ナッツ、調製野菜・果実や魚介類およびその加工品、豚肉およ びその調製品も、原産国を明示しなければならない。輸入量が増加している豚肉への適用 は、豚肉産業界や消費者からの要望で加えられた。 原産国は食品が栽培、収穫された国を指す。ただし、海産物については、オーストラリ アの水域なら、オーストラリア産、公海で獲られた場合はその船籍になる。 一方、外食等では義務ではなく、材料の原産国等について表示しているところはほとん どない。現行、非包装の加工食品では魚介類、豚肉の一部を除き原産国表示は任意である。 オーストラリアは自給率が高く、一部をのぞいて、原材料は国内で供給されるので、消 費者は、国産を好むが、意識しなくても価格的に購入できる環境である。 B)表示の方法17 取 引 慣 行 法 によ っ て 加工 コ ス ト 50% 以 上 が国内 で 行 わ れ た食 品 に は「 Made in Australia」 「AUSTRALIAN MADE」、主原材料が オーストラリア産でかつ製造過程も全 てオーストラリアで行われる食品には「Product of Australia」という表示が認められてい る。100%輸入品から成る食品は「Product of ○○国」と表示する。しかし、例えば、オ ーストラリアの地図と「AUSTRALIAN OWNED」の文字がラベルに大きく表示される一 方で小さな文字で「Product of ○○国」と別の国の名前が書かれている場合は取引慣行法 上の誤認表示に当たりうる。 原材料については、”Made in Australia from Imported and Local Ingredients”などの 表示をするよう定められている。 非包装食品の原産国表示は、果物など個々の商品へのラベル貼付などラベル自体に原産 国を記載する方法や、売り場の食品の近くに原産国を明らかにするような表示を行うこと により実施する。表示は 9mm 以上の文字(冷蔵展示ケースに入れてある場合は 5mm 以 上)で、読みやすく、背景と対照的な色を使うなど目立つものにしなければならない。 その他、連邦政府が創設当初、産業界と資金を折半して提供した 100%オーストラリア で生産・加工された食品であることを示す、 「Australian HomeGrown」 (AHG)のロゴ がある。 C)市場調査等による商品の状況 ミックスジュース(AUSTRALIAN-FRESH-BREAKFAST JUICE)では、オーストラ リアの果物で作ったとの記載がある。もちろん Product of Australia の表示もある。 ミニトマト(The Original Grape Tomato)では、容器に Product of Australia の表示 がみられた。 チョコレートチップクッキー(Chips Ahoy! NABISCO Chocolate Chip'Cookies)で は、中国のナビスコ工場で作られている旨の表示があり、輸入者は、オーストラリアの ACCC, Food and beverage industry: country of origin guidelines to the Trade Practices Act (June 2005)による。 17 340 KRAFT FOODS LIMITED となっていた。 かぼちゃクリーム缶(heinz very Special CREAMY PUMPKIN) は、made in New zealand の表示があった。 カレーパウダー(mild Curry Powder)の原材料には、海外生産素材も使われるせいか、 Australian owned.Packed in Australia using local or imported ingredients の表示がみ られた。 オイルサージン缶(KING OSCAR SARDINES in Olive Oil)では、PACKED IN POLAND AND CONSISTING OF INGREDIENTS IMPORTED INTO POLAND.の表 示がみられた。 生ハム(PANCETTA LOIN MILD)では、100% Aussie Pork(オーストラリア育ちの 豚)の表示を使っていた。また、食肉製品(Simply the Best)は、PRODUCT OF AUSTRALIA の表示であった。 ソーセージ(ECONOMY SELECTION)では、Made in Australia from Local and Imported Ingredients の表示があった。 ライスクラッカー(SAKATA wholegrain)には、うたい文句のひとつに AUSTRALAN MADE という表示があった。 無塩バター(HOME BRAND Unsalted Butter)では、Product of New Zealand の表 示があった。 ④食品添加物18(基準 1.2.4 8 項) A)食品添加物表示の範囲 原材料や複合素材が食品の 5%以上の場合は、その素材の中のすべての食品添加物を表 示しなければならない。5%未満であっても、最終的な食品にその食品添加物が機能を果た しているものについては表示しなければならない。遺伝子組換えの食品添加物から由来し たたんぱく質や DNA が最終の食品に存在していた場合には、その食品添加物は表示され なければならない。食品添加物でアレルギー物質を含む場合にも表示の義務が出てくる。 B)表示の方法 食品添加物の表示の方法は、その用途で 20 ほどに分けられた規定の分類名を選び、そ の後に規定の名称か、食品添加物リストにある番号を表示しなければならない。同じ添加 物にアスコルビン酸、ビタミン C,V.C といった簡易名称、類別名、別名等いくつもの名 前が使われることはできず、酸化防止剤(アスコルビン酸)か酸化防止剤(300)という 表示になる。 食品添加物にひとつ以上の機能があった場合、その食品中での機能を示すもっとも適切 な分類名だけを記載する。ペクチンやグアーガムはゲル化剤として使われるが、増粘剤や 安定剤としても使われる。炭酸マグネシウムは凝結防止剤でもありミネラル塩としても使 18 FSANZ, Food Additives: User guide to Standard 1.2.4 – Labelling of Ingredients (July 2001)による。 341 われる。キシリトールは保湿剤でもあり、安定剤でもある。これらの機能のうち、一つを 選ぶことになる。 規定の分類名に格付けができない食品添加物は、規格名称のみ、または規格名称とリス ト番号を表示しなければならない。 調味料には、L-グルタミン酸、グルタミン酸ソーダ、 グルタミン酸カリウム、グルタミ ン酸ジカルシウム、グルタミン酸アンモニウム、グルタミン酸マグネシウム、グアニル酸 ナトリウム、イノシン酸ナトリウム、 5'-リボヌクレオチドがあるが、調味料が添加され た場合は、 使われた調味料の名称あるいは番号がすべて表示されなければならない。なお、 グルタミン酸ナトリウム(Monosodium L-glutamate)は、 MSG と書くことが可能で 621 という番号名でもかまわない。 カフェインが添加された場合も原材料欄に『カフェイン』を含むといった表示がされな ければならない。一方、食品にもともと入っていた成分は食品の原材料ではないので、コ ーヒーやお茶に自然に存在するカフェインは特徴のある成分とはみなされないので表示の 必要はない。 C)市場調査等による商品の状況 かぼちゃクリーム缶(heinz very Special CREAMY PUMPKIN)には、用途名と番号 として増粘剤(1422)、香料(Contains Soy, Flavour Enhancers(627,631),Glucose From Wheat)の表示が印象的である。 生ハム(PANCETTA LOIN MILD)の食品添加物の表示には、抗酸化剤には OXIDANT のみで番号がなく、亜硝酸ナトリウム(250)が、食肉製品(Simply the Best)には、 MINERAL SALT(451-452):三リン酸塩、ポリリン酸塩が使われ、OXIDANT(316):エ リソルビン酸ナトリウムの表示の他、FLAVOUR と亜硝酸ナトリウムの表示があった。な お、ソーセージ(ECONOMY SELECTION)では、Mineral Salt(451)保存料(223) :亜 硫酸塩、香味料の他、Spice Extracts[Including(160c)] :パプリカオレオレジンの表示は あったが、亜硝酸塩の表示はなかった。 342 ⑤アレルギー表示19(基準 1.2.3) A)表示の範囲 アレルギー表示は 2000 年に導入され、現在、グルテンを含む穀類(小麦、ライ麦、大 麦、オート麦) 、甲殻類、卵、魚、牛乳、ピーナツ、大豆、10mg/kg 以上の亜硫酸塩、ナ ッツ類、ゴマとそれを含む製品を原材料などとして使用している場合はその物質が含まれ ていることを表示が必要である。また、蜂花粉、プロポリス、多糖アルコールで甘味料と して使用されるポリオールなどが含まれる食品については忠告文を、ローヤルゼリーが含 まれる食品については警告文を付記しなければならない。その際は、非包装や自動販売機 での販売でも表示の必要がある。 なお、 亜硫酸については、 ペットフードにも使うべきでないという考えも聞かれている。 ルテインのアレルギー表示が議論されている。 B)表示の方法 乳製品のチーズが含まれている場合は原材料にチーズと表示する。蜂蜜に花粉が含まれ ていても、基準では忠告文をつけることを求めており、原材料にわざわざ花粉と表示する 必要はない。アレルギーを発症する人が増えており、ピーナツ製品を持って行ってはいけ ない学校もある。なお、ココナツはナッツ類には分類されていない。ピーナッツがブラジ ルナッツの代わりに使われる可能性があるのであれば、nuts (brazil or peanuts)と表示 する。 たとえば、グルテンに関しては「gluten free」 「low in gluten」 「high in gluten」 「contains gluten」という表示ができる。 「gluten free」であっても、小麦でんぷんを使っている場合 は、原材料に小麦と表示しなければならない。ビール蒸留酒は小麦を使ってもグルテンの 表示をしなくて良い。 外側が容器包装されていて小分けにして販売することがない個別の包装にもアレルギー についての表示をする必要がある。 アレルギー物質が表示されていないのに検出される場合は、法律違反として回収の対象 になる。法律的には、微生物であろうとアレルギー源であろうと法律で表示しなければな らないことになっていて、それが検出されれば、法的に処分される20。 C)アレルギー物質混入に関する注意喚起 食品産業業界団体において、アレルギー物質の管理と表示についてのガイドを開発して いる21。原材料として使っていなくても同じ製造ラインで作っている食品が特定のアレル ギー物質を含む可能性がある場合は、『ナッツを含むかもしれません(may contain)』とい った表示はアレルギーを持つ消費者を混乱させるとして、アレルギー反応がある程度、危 Warning & Advisory Declarations: User guide to Standard 1.2.3 – Mandatory Warning and Advisory Statements and Declarations (July 2001) 20 SFPQ 担当者へのヒアリングによる。 21 Australia Food and Grocery Council, Food Industry Guide to allergen management and labeling, 2007 revised version 19 343 険である場合は”may be present: nuts”と表示することが推奨されている。 D)市場調査等による商品の状況 かぼちゃクリーム缶(heinz very Special CREAMY PUMPKIN) には、食品添加物と して香料に Glucose From Wheat)の表示があった。 ソーセージ(ECONOMY SELECTION)では、アレルギー物質として、食品添加物で もある亜硫酸の表示と小麦粉の表示もある。 インスタントゼリーの素(Aeroplane Original Mango flavour) には、義務表示対象で はないが、GELATIN(BEEF ORIGIN)の表示があった。 ライスクラッカー(SAKATA wholegrain)には、うたい文句の中に GLUTEN FREE という表示があった。GLUTEN FREE は、別に円形のマークの外側を囲む小さい文字と しても書かれていた。また、CONTAINS SESAME SEED, CONTAINS MILK OR MILK PRODUCTS, CONTAINS SOYBEAN PRODUCTS という表示が原材料表示以外にもみ られた。 サンドウィッチ(deli-ciously)には、MAY CONTAIN TRACES OF ORUSTACEA, FISH, EGGS, SULPHTES, PEANUTS, SESAME AND TREE NUTS という注意喚起表 示があった。 チョコレートチップクッキー(Chips Ahoy! NABISCO Chocolate Chip'Cookies)で は、アレルギー情報として小麦、牛乳、大豆の表示があり、そのそばにピーナツ、ごま、 卵を含むビスケットを作る工程で使われる機器を使って製造している旨の表示がみられた。 ⑥有機農産物表示 A)有機農産物の基準と表示制度 有機農産物表示については、2009 年 3 月の時点では政府が定めた国内で販売される食 品の基準はなく、AQIS が輸出用の食品に関する基準である「有機およびバイオダイナミ ック製造に関する国家基準」に基づいた審査を担当している。ここでは、あわせて輸出国 の基準に合っているかどうかが確認される。これは 1982 年輸出管理法の下、1992 年輸出 管理令で有機食品に関する証明書についての規制がされていることに基づく。 有機農産物の表示を付した食品は AQIS の承認している認証機関によって承認されなけ れば輸出することができない。オーストラリア国内には民間認証機関が7つあり、そこが 国家基準および輸出先の国の基準に従っているかを評価し、認証を行っている。認証機関 は AQIS から承認を受けた後も 1 年に 1 度は検査を受けなければならない。有機栽培(オ ーガニック) 、バイオダイナミック、エコロジカルなどと表示される。バイオダイナミック は有機制度にルドルフ・シュタイナーの農業理念に基づく条件を上乗せしたものである22。 有機栽培は人間向けの食品に限らず、飼料やペットフードなどもある。 AQIS の担当者によるとオーストラリアの基準は日本の有機農産物の基準と類似してい 22 AQIS, National Standard for Organic and Biodynamic Produce (3.3 版)6 頁による。 344 る、という。オーガニックはすべての流れを AQIS の承認している認証機関によって承認 される必要がある。そのためには、もともと農場から加工業者、製造業者、卸、輸出業者 のすべてがある一定の規則にあったものでないといけない。この一連の流れにある人や場 所は認証を受けなければならない。1 年に 1 度は検査を受けなければならない。AQIS の 酪農製品のプログラムと同様、農場の検査は各州が代理として基本的なことを行う。その 上に AQIS は認定機関を認証するというだけではなく、それぞれの認証を受けた農場、加 工業者、製造業者、卸を検査する力もある23。有機食品を輸出する際には輸出関連法規に 沿っていろいろな認証を受ける必要があるとともに、農場、加工業者、製造業者、卸はオ ーガニック、バイオダイナミックの基準として、オーストラリア国内の基準に見合うかま たは輸入国の基準に合う必要がある。なお、オーガニックは世界中でさまざまな条件があ るので、AQIS の条件よりも輸入国の条件が優先される。 B)有機食品の条件 オーストラリア国内基準がオーストラリア規格協会(Standards Australia)において作 成中であり、まもなく統一基準として公表される予定である。2008 年に公開された基準草 案では、有機製品とバイオダイナミック製品の製造、準備、輸送、マーケティングと表示 のそれぞれでの必要条件を定めている。基準草案は特に農業と管理実務に重点が置かれて いる。 生鮮野菜・果物、肉製品、加工食品、化粧品・スキンケア商品などで「オーガニック」 とラベルが付すものは全て、この規格の対象となる。 また、草案では食品添加物には使用できるもののリストが示され、これにないものの使 用は禁じられている。つまり、安全を確実にするために不可欠なものやそれがなければで きない食品添加物や加工助剤は使うことができる。例えば、有機ワインへの亜硝酸の使用 なども制限されており、ソーセージの硝酸、アスコルビン酸は禁止され、乳酸、クエン酸 ナトリウムは使用できる。ワインの亜硫酸は通常、安全基準より少ない量が使用されてい るとのことであった。 C)表示の方法 AQIS の国家基準によると、製品の表示ラベルは認証機関に保証されるものであり、1) 認証を受けた者の氏名と住所、または認証番号、2)認証機関名(住所も含む) 、及び(ま たは)ロゴ/商標、などが必要である。また、条件としては、1)有機やバイオダイナミッ クの原材料由来の成分と基準を満たさない原材料由来の成分が同じでないこと、が使われ なければならないこと、2)基準の必要条件を満たしていない成分は原材料表で表示しな ければならないこと、3)記載の際には基準に対応する原材料を他の原材料と同一の色お よび同様の形とサイズで記載されなければならない。 たとえば、エコプログラムまたはグリーン表示という形で農薬を削減したものがあるが、 AQIS は認証していない。 「オーガニック」というには、必ずオーガニックの条件にあった 23 AQIS の担当者からのヒアリングによる。 345 ものでないと認証できない。農産物の加工品で遺伝子組換えや照射はすべて禁止である (国 家基準 3.3 および 4.3.8) 。 なお、輸出に関しては AQIS が認証した第三者機関である有機認証機関が Export Control(有機生産物証明)を現時点では出すことができる。将来的には、AQIS のみがその 責務を負うことになると思われる、という。 D)市場調査等による商品の状況 カ レー パウ ダー mild Curry Powder に は、 cerified organic の 表示 がみ られ た。 AUSTRALIAN CERTIFIED ORGANIC のマークがついていた。 ラムのロール肉には、ORGANIC LAMB という表示と AUSTRALIAN CERTFIED ORGANIC といったマークの表示がみられた。 ⑦栄養成分表示 A)栄養成分表示の範囲24(基準 1.2.8) 包装済み食品については、栄養成分表示は表形式にて、熱量(J:ジュール)、タンパク質、 脂肪、飽和脂肪、炭水化物、糖類、ナトリウムについて、1 食分(1回平均摂取量)及び 100g 当たりの各成分の量を表示しなければならない。また、当該食品は何食分に相当し、 1食分は重量でいくらに相当するかについても記す必要がある。 B)ビタミン、ミネラルの強調表示 食品にビタミンまたはミネラルが含まれていることを強調するには、例えば、少なくとも 90 重量%の生鮮食品から成る食品など、基準 1.3.2.で定められた”強調表示ができる食品” でなければならない。そして、ビタミンまたはミネラルの強調表示として『供給源』とい う表示をする場合には、その食品は表示される成分の推奨栄養摂取量(RDI)の最低 10% を含まなければならないか、安全で十分な1日の栄養摂取量(ESADDI)でなければなら ない。 『良い供給源』と表示する場合は、食品は一食当たり RDI2 または ESADDI2 の最 低 25%を含む必要がある。1 食および 100g(または 100mL)あたりの μg/mg に加えて、 1 食あたりの食品が供給するビタミンまたはミネラルの RDI の%の表示がされていなけれ ばならない。 C)栄養内容に関する強調表示 栄養内容の強調表示は健康に関する強調表示とともに現在、基準 1.2.7 として策定中で あり、2008 年 3 月に FSANZ の理事会で承認後、同年5月に閣僚会議に付された。2010 年 3 月まで閣僚レベルでの検討を行い、最終案を決定する予定である。草案では、「低ナ トリウム」という表示が出来るのは、100g 当たり 120mg 未満である場合である。塩やナ トリウムの含有量についての栄養強調表示であれば、カリウムの含有量が義務表示の栄養 成分表に追加されて明らかになっている必要がある。塩についての栄養強調表示としては、 FSANZ, Nutrition Information Requirements: User Guide to Standard 1.2.8 – Nutrition Information Requirements (July 2002) 24 346 「塩を加えていない」「塩気がない」というものも含まれる。 飽和脂肪とトランス脂肪の合計が総脂肪の 28%未満である場合や食品の中の不飽和脂 肪が総脂肪の 40%より多い場合を除いて、ポリ不飽和脂肪やモノ不飽和脂肪についての栄 養強調表示をしてはいけない。また、小包装食品においてトランス、ポリ不飽和、モノ不 飽和脂肪、コレステロールあるいは、オメガ 3、オメガ 6、オメガ 9 脂肪の強調表示をす る場合には、飽和脂肪、トランス、ポリ不飽和脂肪、モノ不飽和脂肪の1食当たりの含有 量を表示しなければならない。 また、魚や魚製品のような天然資源に含まれているオメガ 3 脂肪について強調表示をす る場合には、オメガ 3 脂肪の含有量を栄養成分表に表示するとともに α リノレイン酸が一 食当たり最低 200mg か、イコサペンタエン酸(EPA)とドコサエキサエン酸(DHA)が 合計で最低 30mg 含まれていなければならない。オメガ 3 を「良い供給源」と表示するに は、EPA と DHA の合計が一食分当たり 60mg 以上で、かつ α リノレイン酸が一食当たり 200mg 以上でなければならない。 D)市場調査等による商品の状況 ミックスジュース(AUSTRALIAN-FRESH-BREAKFAST JUICE)では、ビタミン C が添加されていたが、RDI(recommended dietary intake)の割合として 200%の表示が あった。 オイルサージン缶(KING OSCAR SARDINES in Olive Oil)では、 NATURALLY RICH IN OMEGA 3 のマークがあった。これには、栄養成分表示に飽和脂肪、トランス 脂肪、EPA、DHA の量が表示され、飽和脂肪とトランス脂肪の合計が総脂肪の 28.3%程 度あり、飽和脂肪が 100g 当たり 5g 以下、一食分当たりの EPA、DHA 合計で 0.8g と 60mg 以上と供給源の条件に近いものであった。 ソーセージ(ECONOMY SELECTION)では、栄養成分の表示が一食分として 180g の量が示されており、「量は平均だけである」の表示が下部にある。100g 当たりでは、総 脂肪が 27.4g、そのうち飽和脂肪が 12.8g と非常に脂が多いことがわかる。 インスタントゼリーの素(Aeroplane Original Mango flavour) には、JELLY IS A FAT FREE FOOD の表示があり、栄養成分表の下部には、When made up according to pack instructors の表示がみられた。 ライスクラッカー(SAKATA wholegrain)には、 LESS THAN 8%FAT SOUCE OF FIBRE という表示があった。栄養成分表示には、1食分あたりの RDI に占めるエネル ギーやたんぱく質、脂質、飽和脂肪の%の表示もみられ、下部には季節による変動と平均 値の表示である旨が記載されていた。 チョコレートチップクッキー(Chips Ahoy! NABISCO Chocolate Chip'Cookies)で も同様に 2 枚当たり一食分として、栄養成分の RDI 当たりの%の表示があり、摂取量は必 要なエネルギーに応じて、高くも低くもできる旨の説明があった。 スライスチーズ風のチーズスプレッド(KRAFT Singles)には、25% LESS FAT とい 347 う説明が自社のチーズとの対比で書かれていた。また、1 食当たり 1 枚の栄養成分の量と RDI 当たりの%の表示があり、カルシウムが 20%以上取れることがわかるようになってい た。 ⑧健康食品表示 A)健康食品の範囲と定義25 日本では、定義はないが「健康食品」とは、広く健康の保持増進に資する食品として販 売・利用されるもの全般を指し、保健機能食品も含むものであり、 「いわゆる健康食品」と は、 「健康食品」から保健機能食品を除いたものである26。この中には、サプリメントとし て錠剤やカプセルの形で販売されるビタミンやミネラル、ハーブなどがある。 しかし、オーストラリアでは、日本の保健機能食品に当たるような制度はまだない。ビ タミン、ミネラル、ハーブなどサプリメントは医薬品の一部として規制されており、リス ト医薬品(Listed medicines)に分類されている。オーストラリア治療製品局(TGA: Australia's Therapeutic Goods Administration)が規制する。 オーストラリアでは、医薬品は以下の 2 つに大きく分類される。 1 グループは、Registered medicines (登録医薬品)、Prescription medicines (医療用 処方医薬品)、Non-prescription (OTC)、medicines (OTC 医薬品)、2 つ目は、listed medicines (リスト医薬品)である。 補完医薬品(complementary medicines)はその成分や効能の標榜により registered ま たは listed medicine となるが、大半は listed medicine である。補完医薬品は、健康の維 持・増進、軽度の症状の緩和に使用することを目的とするもので、その中には、ハーバル メディスン、伝統薬(アーユルヴェーダ、中薬、オーストラリアの伝統薬などを含むその 他の伝統薬)、ビタミン・ミネラル、栄養サプリメント(Nutritional supplements)、ホメ オパシー、アロマテラピーが含まれる。なお、補完医薬品は、代替医薬品、ナチュラルメ ディスン、ホリスティックメディスンなどと呼ばれることもある。ビタミン、ミネラル、 ハーブ等、日本で言う健康食品の成分を含む製品が上記に相当すると考えられる。長期利 用される可能性があるので、有効性と安全性、品質の 3 要素について、求められる要件が 示されている。成分については、ポジティブリストがある。また、医薬品なので、医薬品 GMP 認可の工場で製造された製品でなければならない。これは輸入品に対しても求めら れる要件であり、TGA の GMP 基準は世界で最も厳しい基準の一つと言われている。製品 には、エビデンスや十分な伝統的使用経験に基づく効能が表示できる。市販前の承認と市 販後調査、副作用報告制度がある。 B)栄養または健康になんらかの影響があると期待させる食品の表示方法等 25 http://www.tga.gov.au/docs/html/meddef.htm および http://www.tga.health.gov.au/docs/pdf/listsubs.pdf 26 厚生労働省「健康食品」に係る制度のあり方に関する検討会「健康食品」に係る今後の制度のあり方 について(提言) 」 (2004 年 6 月)による。 348 食品規制閣僚会議において食品の健康に関する表示と広告の基本原則についての統一が 2002 年 5 月に合意され、2003 年 12 月に共通ガイドラインが公表されていた。それに呼 応して FSANZ は前述の通り、 「栄養、健康および関連する表示原案」を策定し、2008 年 5 月に閣僚会議へ提出した27。 当該原案では Nutrition claims、General level health claims、high level health claims の 3 種類が示されている。Nutrition claims は食品の成分があるとか、ないとかを示すも ので、例えば、 「この食品はカルシウムを多く含んでいます」といったものが該当する。一 方、食品に栄養素や物質が含まれ、健康機能にをを及ぼすことを示すのが general health claims である。この場合、事前の許可は必要ではないが、上市前に製造企業が表示に関す る根拠を評価しておく必要があり、法執行機関にも求めに応じて開示が求められる。これ には、 「カルシウムは強い骨や歯のために役立つ」、 「X と Y が多く含まれたヨーグルトは 胃腸の調子が悪いリスクを軽減しえます」といったものがある。 そして High level health claims は食品と医師による治療が必要な重篤な疾病や診断指 標との関係を示す表示で、市場に流通させる前に FSANZ による事前許可が必要なもので ある。その際、科学的証明が必要とされる。例えば、①ナトリウムと高血圧、②果物・野 菜と冠状動脈疾患、③飽和脂肪酸またはトランス脂肪酸と血清コレステロール、④カルシ ウムと骨粗鬆症、の関係を示す表示が候補となる。 閣僚会議側は、この案に対して、一般的健康強調表示に対する科学物質調査の枠組み、 また栄養内容表示に対する栄養プロファイリング点数基準について再考することを求めて いる。それに対する回答を FSANZ は 2010 年 3 月までに行うことが求められており、基 準として制定され、施行されるまでは時間を要することが予想される。 C)市場調査等による商品の状況 イースト菌抽出濃縮物(VEGEMITE)は日本ではいわゆる健康食品に含まれる可能性 が高い。これには、葉酸に関して、基準 1.1.A.2 では、 「女性の少なくとも妊娠前 1 ヶ月か ら妊娠後 3 ヵ月までの間、1 日 400ug の葉酸の摂取が胎児性神経管欠損症の危険性を減ら します」という健康強調表示を認めているが、実際の表示では RDI が大人で 200μg であ ることと出産年齢の女性では 400μg、さまざまなダイエットの維持に重要であるという表 示だけがあった。日本では、特定保健用食品に当たるシリアル(Kellogg’s All Bran)は、 葉酸の良い供給源という表示がある。表示では、 「細胞の正常な成長と発育に必要で出産年 齢の女性にとって重要です」という表示であった。また、B1、B2、ナイアシンや鉄は良 い供給源であり、繊維が非常に多いということで栄養強調表示がされていた。 スーパーマーケットで購入したハーブサプリメント(Herron St John’s Wort)はヒペリ シンを含むとの表示がみられ、30℃以下の保存と服用方法、有効成分の含有量等の表示等 の記載があった。 子ども用ビタミン剤(Herron Vita-Minis For Kids Sports Multi Vitamin & Mineral 27 FSANZ, Proposal P293 - Nutrition, Health and Related Claims(2008 年 4 月)による。 349 (Strawberry) Tab X 50 ) は サ プ リ メ ン ト と 表 示 さ れ 、 イ ン タ ー ネ ッ ト で は Pharmaceuticals の中の Vitamins and Nutrit のサイトにあり、みたところ医薬品として 扱われているようだった。ビタミン、ミネラルの含有量、年齢と体重と服用量の表示がみ られた。 ⑨優良誤認に関する判断 ACCC の食品記 述ガイドライン( Food and beverage industry: food descriptors guideline to the Trade Practices Act)では、 「オーガニック」や「フリーレンジ(放し飼 い)」「ナチュラル」 「ピュア」「フレッシュ」などの用語の使い方について、例えば「ビュ ア」と書いた場合は「100%」と同義であり、余計な原材料を全く含まない製品を意味する。 「ピュア」と表示した場合、消費者の期待は特定の成分や添加物を加えていないものであ り、したがって、ジュースに保存料や砂糖、ビタミンCなどを加えるときには「ピュア」 と表示すべきではないとしている。 A)市場調査等による商品の状況 市場調査で気づくのは、no preservatives, no added sugar, no colours, no flavours とい った言葉の表示である。 AUSTRALIAN-FRESH-BREAKFAST JUICE ジュースの場合は、これらに加えて no concentrates, no added water の表示があった。水が添加されている清涼飲料水が多いか どうかが不明であるが、清涼飲料とジュースの見分けがつかなければ、この表示は優良誤 認にはならない可能性もある。 ロングライフミルク Derondate では、 100%NATURAL の表示がみられ、 FULL CREAM MILK の表示がつけられていた。脱脂乳にくらべれば、自然ではあるが、NO ADDITIVES OR PRESERVATIVES のうたい文句も気になった。 ⑩その他(製造者名等の表示、生産プロセス表示など) A)遺伝子技術についての表示28(基準 1.5.2) 遺伝子組換え食品の許可は安全性を確認して認められる。許可されている遺伝子組換え 技術由来の食品(大豆、コーンなど)に対しては表示の義務がある。レストランやケータ リング施設で提供されるための包装済みの業務用食品の場合にも遺伝子組換えを使ってい ることを表示しなければならない。 義務表示の対象には、① 加工過程で新しい D N A やたんぱく質が最終製品に存在する 食品や食品原料、② 食品の特性が変化した食品や食品原料がある。これらは genetically modified と表示する。また、義務表示の適用除外は、① 加工過程で新しい D N A やたん ぱく質が除去された高度精製食品(食用油、砂糖など) 、② 新しい D N A やたんぱく質が FSANZ, Labelling Genetically Modified Food: User Guide to Standard A18/1.5.2 – Food Produced Using Gene Technology より。 28 350 存在しない食品添加物や加工助剤、③ 最終製品に含まれる 0 . 1 %濃度以下の香味料、④ 店頭で販売される食品(レストランやテイクアウトなどのメニュー) 、⑤ 流通・貯蔵段階 などで遺伝子組換え食品が1%以下混入した場合は、意図しない混入として扱われ、表示 の必要はない。しかし、遺伝子組換えでないと表示するには立証をし、表示が虚偽でなく、 消費者の誤解を招いたり欺瞞するものでないことを保障する必要がある(DNA やたんぱ く質が 0.1%を超えないなら検出限度以下と考えられている29。 表示例:原材料(大豆タンパク質(遺伝子組換え)、麦芽デキストリン、植物油、乳化剤、植 物性ガム、水分) B)照射食品の表示(基準 1.5.3) 食品、食品原材料への照射は特定の許可がなければ原則禁止され、ハーブや香辛料、マ ンゴやパパイヤなどの一部の果物に照射が認められている。わずかでも使われていれば照 射されたことの表示が必要となる。 また、食品安全という目的から必要性を満たす場合にのみであり、照射のために適用す る吸収線量は技術的な目的と公衆の健康を維持する目的に見合う合理的に最小限な値にと どめるべきということから、食品毎に最大・最小線量が決められており、一定の目的の場 合にのみ許可される。2000 年に食品照射を許可する方針が決定され、2001 年 9 月に香辛 料・ハーブ類、2003 年に熱帯果実の許可がなされた。 照射食品、原材料や構成要素が照射されている食品は、基準 1.2.1 第 2 条で他の事項に 関して表示義務がなくても、小売り以外のところで販売された場合にも、照射されている 旨の表示(照射をしていること、照射の最小量と最大量、照射施設、照射日付)はしなけ ればならない。 照射食品の表示方法 ‘TREATED WITH IONISING RADIATION’ ‘TREATED WITH IONISING ELECTRONS’ ‘IRRADIATED (name of food)’ C)製造者等の表示(基準 1.2.2) 供給者名のみ義務があり、包装者、製造者、販売者、輸入者のいずれかを書けばよい。 固有記号による表示方法は採用されていないが、識別番号(ロット番号)は表示する義務 が課せられている。 D)新原材料名等 新食品として、海外では伝統食品でもオーストラリアまたはニュージーランドで伝統的 でない食品も含めて、安全性や表示等について審議されリスト化される。novel food と 判断されたものは名称が確定され、その名称を使用する。 29 食品産業センター『諸外国の遺伝子組換え食品等に対する表示制度調査』 (平成 15 年 3 月)による。 351 E)市場調査等による商品の状況 無塩バター(HOME BRAND Unsalted Butter)については、Paced for Woolworths と 表示があり、オーストラリアとニュージーランドの住所の表示がされていた。 (3)最近の事案と今後の課題30 前述の通り、有機やバイオダイナミックに関する基準がまもなく確定される見通しであ る。アレルギーについての改正案が審議されている。 また、ナノマテリアルについては、新しい内容ということで国民の中で非常に関心が高 く、FSANZ が出している情報については、日本でも関心がもたれている、という。 最近、窒息を起こしうる容器のリコールが起きている。2008 年 8 月 8 日に FSANZ か ら出されたもので、Yoplait Go-Gurt Spiders pack of 8x70g の一連の商品群である。これ は、プラスチックの容器が窒息を起こす可能性があるという理由である31。 形状に関する安全規制は、食品基準 3.1.1 に安全で適切な食品の定義の中で physical harm が生じるものは安全でないと規定されているが、窒息についての物理的性質等につ いては具体的に定められていない。喉に詰まらせる食品についての一般的な禁止の枠組み となるようなシステムはないと考えられる。なお、食品基準 2.9.2 には、生後 6 ヶ月以下 を対象とする乳幼児用食品は、窒息の危険を最小にするように表示され、製造されなけれ ばならないとされているので、ラスク以外は、やわらかくてかたまりを含まない食感にす る旨の記載がある。. こんにゃくゼリーについては、2 才半の女の子が半分のゼリーカップで窒息し即時の応 急手当を必要としたという事件をもとに、4 才未満で子供に対して親は、ゼリーカップの 危険性に気を配り、食べさせないようにした方が良いとの助言を 2000 年 9 月 27 日付でク イーンズランドからしていた。特定の問題があるとみなされたことで、リコール等で対応 した。最初は 2001 年 11 月にあり、4回のリコール情報がウェブで掲載されている。 法律のもとでは、まず 18 ヶ月の禁止期間を経て、永続的な禁止ができるようになった。 永続的な禁止は 2004 年 3 月 24 日をもって行われた。その後、市場にミニカップゼリーが ないかどうかは調査し、確認している。この商品による詳細はミニゼリーカップの菓子で こんにゃくが入っているもの、こんにゃくというのはグルコマンナン、タロ粉などの名前 がある。その高さもしくは直径が 45mm 以下のもので、実際に喉に詰まってしまう大きさ であるものである。こんにゃくが入っているとゼリーが溶けないので、一度喉に詰まらせ てしまうと取るのが難しくなる商品と考えられる。なお、こんにゃくは承認食品添加物で ないので菓子類に使用するのは違法である。オーストラリアで市販前に安全性の評価と承 30 ヒアリングおよび http://www.foodstandards.gov.au/thecode/foodstandardscode/等のインターネット 情報による 31 http://www.foodstandards.gov.au/foodmatters/foodrecalls/archiveconsumerlevelrecalls/packagingpo ssiblecho3974.cfm 352 認を受けることが必要となっている新規の食品(Novel Food)にするかどうかの評価対象 になり、こんにゃくは、伝統食品でもなく、新規食品でもないようだとのことだった。 Food or food ingredient Outcome View Konjac (100% konjac in • Non-traditional History of safe use in Japan elastic, thermo-irreversible food and other Asian countries gel rather than as an • Not novel food with no known adverse additive) Justification/Comment effects. 2.食品防御(フードディフェンス、バイオテロ等)に対する取組みについて (1)食品安全の制度体系(関係機関の概要も含む)32 ①食品安全のための法制度 食品安全は、食品表示と同じく食品基準規約で定められている。 食中毒事故に関する情報収集と公表に関わる体制としては、オージーフードネット(Oz Food Net)が稼動している。 Oz Food Net は 2000 年にはじまったオーストラリアの食中毒監視ネットワークである。 目的は全国レベルで食中毒を調査し、疫学を効果的に利用してオーストラリアの食中毒を 最小にする方法を見つけることである。オーストラリア保健・高齢化省(DHA)から資金 が提供され、Oz Food Net 本部チームは、DHA の Health Protection 部局のオフィスに籍 をおいている。 オーストラリアで食中毒が発生した際には、発病率と原価からコストを予測し、食中毒 を疫学的にみて監視を強化し、特別研究を進めて病原体の疫学調査を行う。オーストラリ ア中の食中毒調査を調整し共同で働き、食品によって人間に危害を起こす原因を特定し、 食品の安全を扱う関係機関にリスクの評価のための情報を提供する。食中毒を検査、調査 する担当者に対する訓練を提供する。 食中毒が起こった際の事件に共通となる食べ物や病原体についてのデータに加え胃腸器 系の疾病のデータも収集し報告をまとめている。年 3~4 回の対面式会議の他、電子メー ル等の手段で連絡を密に取り合い、収集されたデータは年間でまとめ、過去のデータと比 較し、感化されやすい年齢層や性別等の特徴を判断する。2007 年度は、約 1,800 件発生し ており、その約 90%が人から人への伝染である。食中毒は 149 件あり、罹病者は 2,290 人、そのうち入院者は 226 人、死亡が 5 人、これは前年度と似た数値である。 FSANZ、DAFF、研究所もこのネットワークに入っているので、テレビ会議で食中毒の 問題がとりあげられると同時に FSANZ の研究所でも検査するので対応が早い。輸入食品 32 Oz Food Net 担当者へのヒアリングによる 353 は輸入されてからどこの州にいっているのかがわかるので、その食品の流通している州で 調べるわけである。 ②トレーサビリティ制度33 オーストラリアでは、牛、羊、ヤギについての識別制度とトレーサビリティ制度、全国 家畜識別制度(NLIS)が義務化されている。この制度は 1960 年代から使われている。そ の目的は、家畜の疫病がどこで発生したかを調査し、発生したところを検疫するためであ った。 この制度では、生産者ごとに固有の認識コードが与えられ、牛は、生まれてすぐに 1 頭 ごとに固体を識別できる番号の電子情報のついたチップを耳につけ、羊は名札が手でつけ られると同時に全国業者申請書に情報を記入され、誕生から堵殺までの経過はデータベー スに記録され、その情報は情報開示法に基づき公開されている。制度は資金面、運用面と も政府(連邦及び州)と業界の共同により進められ、食肉畜産動物オーストラリアという 組織で政府から派遣された職員がデータベース管理をしている。 現在、農場の数は 19 万 2,000 か所ある。生まれた牛を農場主がセリに出せばセリ会場 から情報が送られて、セリの結果、新しい肥育農場に売られるとその農場から情報がデー タベースに送られる。堵殺施設に買い取られるとそこから情報が送られるので、タグの番 号を調べることで個体の履歴を調べることができる。 DAFF の担当者によるとオーストラリアは BSE の点では世界で一番安全な国であると のことだが、モニタリングをしており、スクレイピー、BSE に似た症状のある動物は調査 がされ、その結果については、アニマルヘルスオーストラリアの Web サイトでみることが できる。また、成長ホルモン剤等の使用については、きびしい基準のもとに運用されてい るが、その国やバイヤーの条件に合わせて、飼育も分別管理されるので、希望に沿った食 肉が提供される、という。 トレーサビリティによって輸出国側でもオーストラリアに問合せれば、輸入品に関して の追跡が可能である。 トレーサビリティ制度によって、表示内容が信頼できるかどうかをチェックでき、 また、 リコール等では、ロット番号等をもとに対象を特定して回収をすることができる。トレー サビリティには、資金が必要であるので、オーストラリアでは、政府からも資金が出てお り、業界団体と共同で制度を進めている。 食品防御については、対策をやれば良いのは、わかっていても、どこまでのリスクを認 め、どこまでコストをかけるかを考えると非常に導入の難しい事柄である、という意見が きかれた。食品の安全性を守るには、予防が大切で、HACCP や ISO のシステムを取り入 れ、遵守することにつきると考えられている。 33 DAFF 担当者へのヒアリングによる 354 (2)食品防御のための具体的体制(食品安全体制との違いを含め) ①食品防御のための全体的枠組み34 食品事故対応プロトコル(National Food Incident Response Protocol)により監視をす る以外には、意図的な混入については、犯罪として警察で扱うことになる。それ以外はテ ロ防止法によるものと思われる。 クイーンズランド州は、オーストラリアでは唯一、食品法(FoodAct)に意図的な混入 についての規定 (Part 3A Suspected intentional contamination of food) がある州である。 2 年前にケーキミックスの中に剃刀の刃が入っていたことがあったが、こういったことが 意図的であると警察によって証明された場合には、刑事事件の扱いを受ける。その他、肉 の中に針などが混入することがある。金属探知機で検知されなかった意図的な混入である が、食品法にある意図的混入規定に違反したということになる。規定には意図的な混入が 疑われる場合として商品に有害な物質を混入添加した場合にはどういう処分を受けるかと いうことが書かれている。この法律のもとで捜査をはじめる権限が与えられる。オースト ラリアでは、ベビーフード、ケーキ、ベイクドビーンズの缶詰、タナドールという鎮痛剤 に有害な物質を混入したという脅しがあった。中には「入れた」といって金銭をとろうと するようなものや会社に対して恨みがあって、仕返しに行うものがある。こういったもの は証拠がないと訴追できないが、自供して罪を認めるということもある。消費者にいたず らに恐怖心を煽ってしまうので、こういった犯罪は時にはそれを公表しない方が良いとい う場合もある、という。また、意図的な混入が食品法にあるとはいえ、必ずしもこれが絶 対という意見ばかりでなく、刑事事件として扱うべきであるとの意見もあり、意見が分か れているようである。 ②予防 A)製造現場での予防 食品基準規約は HACCP システムにより食品の安全が生産、製造、販売において危険の 識別と制御を行うことで確実にされるという原則に基づいている。これは、WHO/FAO の コーデックス基準にも合致していると考えられている。食品関連企業(一次産品生産者は 除く)は基準 3.2.1 により自らの食品安全計画(Food Safety Program)の書面での作成と 遵守、検証を義務化されており、定期的な監査も受けることになっている。なお、それぞ れの食品安全計画は、食品産業が食品を扱う全工程で合理的に発生すると想定される危険 性を体系的に把握するとともにそのような危険性を制御するものでなければならず、また 検査・監視業務を体系的に監督するものでなければならない、などとされる。 B)食中毒の調査による予防 前述の Oz Food Net により食中毒の監視を行うことにより拡大の予防が可能になるとし ている。 34 SFPQ 担当者へのヒアリングによる 355 C)輸入時の検疫、検査による予防35 オーストラリアへ輸入の食品および飲料水は 2006、2007 年度で 82 億ドル、食品の中 では飲料水、魚介類、加工食品が主で、次に果物および野菜となっている。これらは生鮮 も加工も含まれる。オーストラリアに食品が到着すると税関を通り、検疫を通る。AQIS は輸入されたすべての食品を検査する権限がある。各国との相互認証がリスク管理のもと に出されている。実際に輸入食品の検査は AQIS が行い、FSANZ はリスク分析によるリ スク評価を行い、リスク度を AQIS に助言する。AQIS が水際で検査を行い、すべてが安 全とわかった時点で各州および準州にいく。州政府の検疫局が役割を果たす。FSANZ も 各州および準州に対して食品の安全については助言を行う責任を持っている。 すべての食品はリスク度によって分けられ監視されるほか、無作為に監視される。リス クの中から高レベルの食品はリスク食品等に入り、リスク度の低い、人間への危害が低い とみられる食品は無作為食品に分類される。例外はリスク分類された食品以外のニュージ ーランドからの食品である。また、トレードフェアのサンプル品や個人が消費するものは 除外される。 リスク食品に分類される食品は 100%検査の対象となる食品だが、輸出している企業が コンプライアンスを批准しているという経歴を表す必要がある。過去 5 回合格した時には 検査が減るシステムである。しかし、一度でもその企業からのものが不合格になった場合 は、100%に戻る。 無作為に検査する食品は人間への健全性からみてリスクが低いとみられる食品なので、 5%を検査する。実際に行われる検査には、微生物、農薬、または動物用医薬品の残留物、 重金属、自然毒、食品添加物、同時に目視検査(外観検査)と表示の検査がある。不合格 の食品は適応されるべき条件に合っていないもの、人間の健康に危害を与えるリスクの高 い物である。輸入食品の検査では合格率 97%で、分析テストで不合格は 1%、表示に合っ ていないということで 2%の不合格があった。輸入業者が表示については責任を持つこと になるので、2 番目のチャンスがオーストラリアの業者に与えられる。この数値は 2007 年度の検査行為であるが、一番大きいのは表示となっている。検査にかかる費用は 100% 回収となっていて産業界が費用を支払う。その費用の回収は文献の検査にかかる費用を徴 収するほか、検査の項目にかかる費用は有料である。無作為検査は 1 年間に約 5 万件であ る。たとえば、化学テストを 1 度やると 1 件、農薬に関するものはたくさんあるので、1 食品で 49 種類のテストをした場合、49 件となる。 輸入食品管理法により、AQIS は Imported Food Inspection Scheme(IFIS)として知 られている食品の安全検査プログラムを実行することが可能である。食品は、国際的に同 意された関税規約に基づき IFIS の下で AQIS が実行できる。 ③情報収集・提供 前述したように、食品事故、食中毒事故に関する情報収集は、オージーネットにより利 35 AQIS 担当者へのヒアリングによる 356 害関係者からいつでも受け取ることができるような仕組みがある。リコール等の情報は、 公表を行い、ウェブ上で誰もがいつでもみることができるようになっている。 ④対応 JETRO の調査書によると、リコールは次のようになっている36。食品の回収の可能性が ある場合は、企業はまず、州や準州政府の健康保健課に電話で連絡をして、次に FSANZ のリコール調整者に電話で連絡をとり、企業が大手小売店に食品を供給している場合は、 オーストラリア食品雑貨協会(AFGC:Australian Food and Grocery Council)のウェブサ イトから入手可能なリコール用紙に記載して AFGC に直接提出する。 なお、基準 3.2.2 により,食品企業(輸入業者も含む)は,迅速なリコールを可能にす るための文書化された食品リコール計画を持つよう義務付けられている。食品企業は、リ コールに伴う費用を負担するほか、リコールの必要が生じた際、 FSANZ の食品リコール 調整者に連絡しなければならない。リコール対応は週末も備えられており、連絡を受けた 場合、コーディネーターは,当該州のリコール・コーディネーターら(輸入品、輸出品で あれば AQIS へも)に連絡を行い,それを受けて、調整者が,リコールの進捗状況を監視 し評価を行い,その情報を FSANZ に提供する。リコールは、食品企業が定期的なテスト で微生物等を発見した場合や規制局が調査で問題を発見した場合、食品事故が起きた場合 などに公衆衛生と安全等のリスクを回避するために実施される。リコールでは、影響のあ る食品の販売と流通を止めて、関係局に情報を提供し、問題のある食品を効果的効率的に 除去することである。リコールには、度合いがあり、まず、貿易、取引、たとえば、外食 産業などや病院、スーパーマーケット、輸入者、物流センター(卸)から製品を撤去させ る。そして、実際に流通して出回っているところからすべて撤去させ、消費者から回収す ることであり、新聞等での公示も行う。 JETRO の調査書によると、リコール後の対応方法には、①食品に処理を施す,②食品 を再輸出する、③食品を廃棄する、④食品を飼料や肥料用に格下げする(動物飼料や肥料 としてなど)をする必要がある37。 ⑤国際連携 Oz Food Net の調査によると国際的に出回る輸入食品での食中毒が数は少ないものの増 える傾向にある。2001 年~2007 年の間に オーストラリアで起こった食中毒の件数は 820 件、そのうちの 14 件、2%に満たないが輸入食品は国際的に出回っているので影響は大き い。トルコ、エジプト、レバノンから輸入されたごまから起きた中毒の場合は、3 件とも 違った形のサルモネラ菌で、 オーストラリアだけではなく、ニュージーランド、英国、カ ナダ、ヨーロッパで発見された。中国の乾燥ピーナッツの場合は、通知があった時点で英 JETRO「オーストラリアにおける食の安全性確保の取組み(2005 年度 食品規制実態調査)2005 年 12 月」〈http://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/reports/05001086〉15 頁。 37 JETRO「オーストラリアにおける食の安全性確保の取組み(2005 年度 食品規制実態調査)2005 年 12 月」〈http://www.jetro.go.jp/world/oceania/au/reports/05001086〉20 頁。 36 357 国でもカナダでも中毒があった。こういった事件は国際的な連絡がいかに大切かを表して いる。 国際保健規則(IHR)の 4 つの参照事項と比較することによって国際的に重要な事項か どうかを決定することができる。これにより国際的にみて深刻か重要かを見極め、保健高 齢化省の事故室から事故を WHO に報告するかどうかを決定する。参照事項は、①公衆の 保健に深刻なものかどうか ②まったく尋常でないか、予期できなかった例なのか ③国 際的に感染が拡大するリスクが大きいか ④国際貿易を制限しなければならないような非 常に大きなリスクがあるかである。輸入食品の事故 14 件をこの参照事項と照らし合わせ ると 14 件のうち 6 件は、もし大きな発生であれば、WHO に届けられるべきと判断した。 その 6 件のうち、3 件はかきでの感染で、かきのシーズンに起きている。 バイオテロがどういう形で行われるかによって、このネットワークでひっかかるかどう かが変わる。食品を媒体としてなされ、人体に影響が合ったときには通知がくる。IHR の ほうでそういったことを決定するフレームワークを作っている。これは国際的な働きが出 来るが国内でも使える。 ⑥最近の事案と今後の課題 中国製の乳幼児用粉乳と酪農製品のメラミン問題が最近の事例としては注目される。こ の際、食品事故対応プロトコルが発動され、全国メラミン調査プログラムが作られた。そ れに沿って各州でテストが実施され、会議を重ねて計画案を作成し、諸外国とも共同作業 を実施し、報告をまとめ、リコールも実施し、消費者への情報提供を行い収束した。この 流れを見直し、プロトコルについての改善案を作成し、National Food Incident Response Protocol Version: October2008 として承認されたので、参考になると思われる。 2007 年のアンケート結果から見ると、消費者の中で懸念の一番高いものは干ばつと水不 足で 61%、ついで財産、33%、環境汚染、24%が続き、健康的な食生活は 4 番目、食品の 安全性は 9%(ニュージーランドでは、7%)で低かったところからみて、オーストラリア の消費者の食品安全に対する信頼は高いと考えられるという。また、食品の供給に対する 信頼性は、数値が高いほど評価が高いが、7 段階評価で平均 4.77 であり、一般的に信頼さ れているという数字であるとのことであった。 ただ、メラミンでわかったように海外からの食品による問題が増加している状況を考え ると国際的に情報共有を進めることがさらに必要と考えられている。 参考資料 ・JETRO『平成 17 年度 食品規制実態調査:オーストラリアにおける食の安全性確保 の取組み』 (2005 年 12 月) ・厚生労働省『諸外国における輸入食品の監視体制に関する調査報告書』 以 上 358
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