Medical aroma News (月刊第 20 号) 2015 年 8 月号 Medical Aroma News ■発行/鳥居医療総研 統合医療研究所 T-LAB.〒231-0003 神奈川県横浜市中区北仲通 3-34-2 キクシマ関内ビル3階 TEL 045-305-6853 「Medical Aroma News」は、統合医療研究所「T-LAB」より、皆様の健康の維持・増進、また「未病」に有効な情報 をお伝えしております。T-LAB は、アロマセラピーや音楽療法をはじめとした統合医療(holistic medicine)全般における心 とからだへ、その効果の客観的測定をおこなう施設です。人の無意識における気分の偏りやゆらぎ、それに伴う自律神 経系内分泌系の変調を把握し、より効果的な治療法を考案し、統合医療で未病やさまざまな症状や疾患への新しい治 「動的平衡」 療法の可能性の確立を模索する研究機関です。 高齢者に対するアロマセラピー 総人口に占める 65 歳以上の人口の割合(高齢化率)が 26%と 4 人に 1 人以上が高齢者という超高齢化が進 展している現在、医療や介護への対策が課題となっています。 健康に関しては、政府の調査によると高齢者の半数近くが何らかの自覚症状を訴え、4 分の 1 程度が日常生活 に支障があると報告されています。健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間のことを「健 康寿命」と言います。年々、健康寿命は伸びているものの、平均寿命の伸びと比べると小さく(図 1)、高齢者の 生活の質(QOL:Quality Of Life)の向上や医療費の抑制にもつながるため、健康寿命の延伸が重要視されてい ます。 図1 健康寿命延伸のための方法の一つとして、未病を治す取組みがあります。未病とは、 「健康状態の範囲であるが病 気に著しく近い身体又は心の状態」であり、例えば、"自覚がないが検査の値が少しずつ悪化している"、"なんと なく具合が悪いが検査しても異常がない"といった状態です。特定の病気になってから治療するのではなく、未病 のうちに対処することによって、普段の生活において「心身の状態を整えて、より健康な状態に近づける」こと ができます。アロマセラピーは体と心、両方に作用する全身的な療法であり、高齢者に限らず、未病に対して大 きな効果が期待できます。 認知症に対するアロマセラピーがテレビ等で紹介され有名になりましたが、アロマセラピーは、精油の脳への はたらきや皮膚への作用等を利用することで、健康維持や未病の改善による健康寿命の延伸、疾患に対する非薬 物療法として高齢者医療に活用していくことが可能です。 また、他にも、緩和ケアや介護老人保健施設でのアロマトリートメントの実施、デイサービスでのアロマセラピー講座 など、様々なアプローチでアロマセラピーが高齢者医療や介護の現場に取り入れられています。 参照:内閣府ホームページ 平成 27 年版高齢社会白書、神奈川県ホームページ 健康寿命日本一への取組みについて、 日本未病研究学会ホームページ 高齢者に対するアロマセラピーを研究した文献や精油・香りを利用した高齢者向け商品をご紹介します。 ◆嚥下機能改善 - ブラックペッパー精油 日本人の高齢化に伴い肺炎死が増加していますが、高齢者肺炎の多くは食物や口腔内の分泌物、雑菌など をうまく嚥下できず誤って気管に入ってしまうことによっておきる誤嚥性肺炎です。ブラックペッパー精 油に浸した濾紙による嗅覚刺激後、嚥下反射が改善し、嚥下反射における重要な神経伝達物質であるサブ スタンス P の血清中濃度が有意に上昇することが報告されました。 身につけることのできるブラックペッパー精油を使用したアロマチップが商品となっています。 アロマによる高齢者医療への挑戦―誤嚥・転倒予防, 海老原覚, AROMA RESEARCH 14(2): 168 -171 2013 (※1) ◆転倒予防 - ラベンダー精油 高齢者の転倒やその危険因子となるバランス機能低下も重要な問題です。神経筋疾患のない高齢者を対象 とした研究で、ラベンダー精油、ブラックペッパー精油の匂い刺激が安静立位時の重心動揺を改善するこ とが見出されました。また、虚弱高齢者の歩行速度検査において、ラベンダー精油、グレープフルーツ精 油の匂い刺激によって、歩行速度が有意に改善したことがわかりました。その結果を踏まえ、介護老人保 健施設入所者を対象とした臨床研究では、ラベンダーの匂い刺激によって転倒発生が有意に抑制されるこ とが示されました。 参考文献は※1 と同じ。 ◆胃瘻患者の口腔ケア - スギ葉精油 高齢者の増加と共に胃瘻造設患者も急増していて、胃瘻造設に伴い唾液分泌量低下、口腔内乾燥が顕著化 し、口腔疾患発症が指摘されています。口腔内乾燥症や口唇痂皮、更には、唾液による抗菌性の低下、口 腔内細菌叢の乱れから、誤嚥性肺炎のリスクも高まっています。また、舌苔の増殖により、口臭も指摘さ れています。要介護施設利用者を対象とした研究では、スギ葉精油を主成分とするジェル状の口腔ケア剤 が、胃瘻患者の唾液分泌量促進および口腔粘膜乾燥症に有用であることが示されました。また、スギ葉精 油の抗菌作用により口腔内の日和見感染菌が減少し、口腔内環境も大幅に改善されました。高齢者の QOL 向上の他、高齢者の口腔ケアに携わる看護師や介護士のモチベーション上昇にもつながることが示唆され ました。 胃瘻増設患者の口腔ケアに対するスギ葉精油の有用性,千葉良子, 高橋尚子, 遠藤慶一, 福森隆次, AROMA RESEARCH 14(2):160 -166 2013 ◆認知症リスク判断 香りの力によって認知症のリスクを判断するキットが販売されています。 認知症と嗅覚との関係はよく知られていて、嗅覚障害は脳神経疾患の重要なキーワードであると考えられ ています。嗅覚能力が低いからといって必ずしも認知症になるわけではありませんが、特別な嗅覚に関す る病気でもないのに急激に嗅覚が低下した場合は、その後数年で認知症を発症するリスクが高まると言わ れています。定期的にチェックすることで、嗅覚能力の低下から認知症を早期発見することが期待できま す。 精油、アロマセラピーのお問い合わせは T-LAB 有限会社 鳥居医療総研 (月刊第 20 号) [email protected] まで、お気軽にどうぞ。 Medical aroma News 2015年 8 月号
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