O-023 当院高齢心不全患者の再入院に関する調査 ー介護保険

O-023
当院高齢心不全患者の再入院に関する調査
ー介護保険サービス利用の有無による検討ー
*大崎 泰信 1), 沼田 秀人 1), 塚本 彰 1), 糸川 秀人 2), 池田 達則 3), 桶家 一恭 3), 山本 正和 3)
1)厚生連高岡病院リハビリテーション部
2)厚生連高岡病院リハビリテーション科
3)厚生連高岡病院内科
キーワード:高齢心不全, 再入院, 介護保険
【目的】
近年,高齢心不全患者は増加傾向にあり,再入院を繰返すこ
とが問題となっている.再入院の要因として,医学的要因より
も塩分や水分制限および内服の不徹底,過負荷での運動など自
己管理不足によるものが多いとの報告が散見される.高齢者は
身体機能や認知機能の低下により,心臓リハビリテーション
(以下,心リハ)の指導や教育内容を退院後も継続していくこ
とが難しいものと予測される.患者の自己管理を補うためには,
介護保険等の社会資源の積極的活用や在宅訪問スタッフによる
患者教育・指導などの支援体制が重要視されている.
当院心リハでは,退院後に介護保険サービスを利用している
高齢心不全患者の中にも再入院する患者が多くみられる.そこ
で,心不全再入院患者の介護保険サービス利用の有無に視点を
当てて現状を調査し,今後の課題について検討したので報告す
る.
【方法】
平成 21 年 1 月から平成 22 年 5 月までに心リハ依頼のあった
65 歳以上の高齢心不全患者のうち,自宅退院後1年以内に心不
全増悪で再入院した 55 例(男性:30 例,女性 25 例,平均年
齢 82.6±5.8 歳)を対象とした.介護度の内訳は,要支援 12 例,
要介護 1 が 10 例,要介護 2 が 12 例,要介護 3 が 4 例,要介護
4 が 3 例,要介護 5 が 0 例であった.サービス利用内容として
は,訪問介護やデイサービスの利用が大部分を占めていた.
対象を,介護保険サービス利用群(以下,利用群)36 例と介
護保険サービス非利用群(以下,非利用群)19 例の 2 群に分け,
年齢,左室駆出率(EF)
,退院時 BNP,退院時歩行レベル,再
入院までの期間(退院後 3 ヶ月以内,退院後 6 ヶ月以内)
,同
居者の有無を診療録より後方視的に調査した.退院時歩行レベ
ルは,病棟トイレ歩行が自立していた症例を歩行自立として調
査した.統計処理は,年齢,EF,退院時 BNP には MannWhitney の U 検定を用いた.また,各群で歩行自立症例,3 ヶ
月以内に再入院した症例,6 ヶ月以内に再入院した症例,独居
者の比率についてχ2 検定を用いて比較した.いずれも,危険
率 5%未満を有意水準とした.
【結果】
年齢は利用群が 84.0±5.3 歳,非利用群が 79.8±5.9 歳であ
り,EF は利用群で 54.7±14.3%,非利用群で 50.2±21.4%で
あった.退院時 BNP 値は利用群で 415.0±442.3pg/ml,非利
用群は 296.6±210.3pg/ml で両群ともに高値であった.年齢は,
利用群で有意に高齢であったが,EF,退院時 BNP では有意差
を認めなかった.また,歩行自立症例は利用群 47.2%,非利用
群 89.4%であり,非利用群で有意に高率であった.退院後 3 ヶ
月以内に再入院した症例は利用群 69.4%,非利用群 42.1%,退
院後 6 ヶ月以内に再入院した症例は利用群 86.1%,非利用群
57.8%であり,いずれも利用群で有意に高率であった.独居者
につては利用群 8.3%,非利用群 15.8%あり,有意差を認めな
かった.
【考察】
退院後 1 年以内に心不全増悪で再入院した症例は 55 例
(41.0%)で,そのうち介護保険サービスを利用している症例
は,36 例(65.4%)と高率であった.介護保険サービス利用群
は高齢であり,歩行自立度が低ことから ADL そのものが低下
していることが考えられた.また,退院時の BNP が高値の傾
向にあり,退院後早期に再入院する症例が多いことから,心不
全の管理がより困難な症例が多いものと考えられた.家族構成
については,独居者に有意差はなかったが,嶋田らの報告では,
独居者の再入院率が高かったと報告していることより,今後症
例数を増やして再検討する必要があるものと思われた.
高齢心不全患者の自己管理を支援するにあたり,介護保険サ
ービスを利用している心不全患者は,より厳重な疾病管理が求
められる状態にあると思われる.よって,退院後に心不全増悪
を予防するには,患者と密に関わる機会がある地域介護スタッ
フの果たす役割は大きなものと考えられるが,心リハでの教育
や指導内容について病院側から地域介護スタッフへの詳細な情
報提供が必要不可欠と思われる.当院においては,退院時に経
過報告書などにより情報提供を行っているが,心不全管理に対
して統一的な形式にはなっていない.松崎らの報告では,
「心不
全地域連携シート」を作成し,患者の病態や注意してほしいポ
イントを具体的に提供することで,再入院が減少したと報告し
ている.今後当院においても明確な情報ツールを作成し,退院
後も心リハの指導内容を継続してもらえるような地域連携に対
する取り組みを検討することが課題として考えられた.
【まとめ】
高齢心不全患者の介護保険サービス利用患者は,より厳重な
心不全管理が必要と思われた.そのためには,病院側からの明
確な情報提供が必要不可欠と考えられ,当院においても,より
密な地域連携に取り組むことが必要と思われた.