薬物乱用防止啓発事業 指導者用資料集

薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
子どもたちを薬物乱用から守るために
一般社団法人 岩手県薬剤師会
2016 年 6 月
1
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
もくじ
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
Ⅳ
Ⅴ
Ⅵ
Ⅶ
Ⅷ
Ⅸ
Ⅹ
はじめに
薬物乱用、最近の情勢
「第四次薬物乱用防止五か年戦略」及び
「危険ドラッグの蘭乱用の根絶のための緊急対策」フォローアップの概要
薬剤師の薬物乱用防止啓発活動
参考 講演を行うに当たって
講師を依頼された人のために~講師となる場合の注意点~
岩手県薬剤師会の薬物乱用防止啓発事業とは
喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導の観点
「薬物乱用防止教室」 と 薬物乱用防止啓発事業システム・
薬物乱用防止啓発事業の実績・
参考 小学校・中学校学習指導要領「保健」の喫煙・飲酒・薬物乱用防止の内容
高等学校学習指導要領「保健」の喫煙・飲酒・薬物乱用防止の内容
中学校・高等学校学習指導要領「保健」の医薬品の正しい使い方の内容
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラムの概要
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラム(高校生用)
乱用者の手記「白い粉の恐怖」
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラム(簡易型①)
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラム(中学生用簡易型②)
「薬物乱用防止教室」講演型プログラムの内容(例)
保護者向け「薬物乱用防止講演会」講演の内容(例)
各論
1.薬物乱用と薬物
Q1.「薬物」とは
Q2.薬物乱用とは
Q3.乱用される薬物とは
Q4.乱用薬物の密売とその手口とは
Q5.乱用薬物のいろいろな名前とは
Q6.薬物乱用するとどうなるのですか
Q7.薬物乱用は 1 回だけでもダメですか
Q8.薬物乱用による身体の障害にはどんなものがありますか
Q9.薬物乱用により障害を受けた脳は治らないのですか
Q10.薬物乱用による精神病症状はどのようにして固定するのですか
Q11.薬物乱用の現状は
参考 中学生における薬物乱用の生涯経験率(1996-2014 年)
Q12.薬物乱用の歴史は
Q13.ドーピングも薬物乱用ですか
2.薬物依存
Q14.薬物依存とは
Q15.薬物依存はどうして起こるのですか
Q16.精神依存、身体依存とは
Q17.乱用薬物の分類と特徴とは
Q18.薬物中毒とは
3.薬物乱用に関連する法律の規制
Q19.薬物乱用に関する罰則とは
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薬物乱用防止啓発事業
Ⅺ
指導者用資料集
Q20.外国では、薬物乱用に関する罰則はどのようになっていますか
参考 海外で死刑判決を受けた日本人の多くが薬物事犯
4.覚せい剤
Q21.覚せい剤とは
Q22.覚せい剤を乱用すると、どうなるのですか
Q23.覚せい剤を治療薬として使用することはありますか
参考 ダイエットと薬物乱用
Q24.覚せい剤の密売価格や、1回使用量はどのくらいですか
5.大麻
Q25.大麻とは
Q26.大麻を使用すると、どうなるのですか
Q27.大麻と繊維をとる麻は同じなのですか
参考 日本人と麻
Q28.大麻を治療薬として使用することはありますのか
Q29.生薬として大麻を使用することはありますか
Q30.大麻はたばこより害が少ないといわれますが本当ですか
参考 「ソフトドラッグ」大麻の規制強化
6.コカイン
Q31.コカインとは
Q32.コカインを乱用する、どうなるのですか
Q33.コカインを治療薬として使用することはありますか
7.ヘロイン・あへん
Q34.ヘロインとは
Q35.ヘロインを乱用すると、どうなるのですか
Q36.あへんとは
Q37.あへんを乱用すると、どうなるのですか
8.MDMA・MDA
Q38.MDMA・MDA とは
Q39.MDMA・MDA を乱用すると、どうなるのですか
9.向精神薬
Q40.向精神薬とは
Q41.向精神薬はどのようにして乱用されるのですか
10.その他の麻薬
Q42.LSD とは
Q43.マジックマッシュルームとは
Q44.ペヨーテとは
Q45.ケタミンとは
Q46.メチロンとは
参考 鎮咳薬「ブロン」の乱用
11.シンナー等有機溶剤
Q47.シンナーとは
Q48.シンナー等有機溶剤を乱用すると、どうなるのですか
12.危険ドラッグ
Q49.危険ドラッグとは
Q50.危険ドラッグにはどんなものがありますか
資料の申込みについて
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指導者用資料集
Ⅰ. はじめに
岩手県薬剤師会が薬物乱用防止啓発事業をスタ
ートさせたのは、昭和 58 年のことです。
その頃は、薬物乱用と言えば成人の覚せい剤乱
用、青少年のシンナー乱用が社会問題となってい
ました。
そこで、当会は岩手県保健福祉部や岩手県教育
委員会と連携し薬物乱用防止啓発・教育を目的と
した当該事業を実施することとしました。
現在、岩手県における薬物乱用の状況は、国全
体の社会情勢や薬物乱用状況の変化に影響され
る傾向はあるものの、薬物乱用に関わる検挙数は
低水準で推移しており、当該事業の継続が一定の
効果を示しているものと思われます。
しかし、我が国の薬物情勢は依然として第三次
覚せい剤乱用期にあるほか、大麻や MDMA、ケ
タミンなど多様な薬物が流入し、さらには危険ド
ラッグによる事件・事故が急増するなど、警戒を
要する状況にあります。
平成 25 年 8 月、新たな薬物乱用防止五か年戦
略「第四次薬物乱用防止五か年戦略」が策定され、
引き続き薬物乱用の根絶を図るべく国を挙げた
総合的な対策が講じられています。
特に、危険ドラッグについては規制が強化され
たことで、街頭店舗がすべて閉鎖され、危険ドラ
ッグが原因とみられる死亡事案が大幅に減少す
るなど一定の効果があがっています。しかし、危
険ドラッグがインターネットを利用した密輸・密
売されるなど流通ルートの潜在化がみられるこ
とから、その動向には引き続き警戒が必要と思わ
れます。
このような情勢を踏まえ、平成 28 年 6 月「第
四次薬物乱用防止五か年戦略」及び「危険ドラッ
グの乱用の根絶のための緊急対策」フォローアッ
プが発表されています。
Ⅱ. 薬物乱用、最近の情勢
【平成 27 年の情勢】(薬物乱用対策推進会議資料から)
 薬 物 事 犯 の 検 挙 人 員 は 13,887(+450 人
/+3.3%) 。 う ち 覚 醒 剤 事 犯 の 検 挙 人 員 は 、
11,200 人(+52 人/+0.5%)とほぼ横ばいだが、
大 麻 事 犯 の 検 挙 人 員 は 2,167 人 (+354 人
/+19.5%)と大きく増加し、5 年ぶりに 2,000
人を超えた。
 覚醒剤押収量は 431.8kg(-138.4kg/-24.3%)、
乾燥大麻押収量は 104.6kg(-62.0kg/-37.2%)
とともに過去 5 年の平均押収量を下回った。
 少年及び 20 歳代の検挙人員は、覚醒剤事犯
が 1,556 人(+67 人/+4.5%)と微増であった
のに対し、大麻事犯は 1,049 人(+304 人
/40.8%)と大きく増加し、5 年ぶりに 1,000
人を超えた。
 覚醒剤事犯の再犯者率は、64.6%(+0.1%)と再
犯者の構成比率の上昇は継続している。
 覚醒剤密輸事犯の検挙人員は、291人(-8 人
/-2.6%)と引き続き高水準で推移している。
 危険ドラッグに係る検挙人員は 1,276 人(+379
人/+42.3%)。うち指定薬物に係る医薬品医療機
器法違反の検挙人員は、1,040 人(+491 人
/+89.4%)と大幅に増加した。
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薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Ⅲ.「第四次薬物乱用防止五か年戦略」及び
「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」フォローアップの概要
平成 28 年 6 月 13 日、薬物乱用対策推進会議が策定しました。
◎は「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」に関するもの
目標1 青少年、家庭及び地域社会に対する啓発強化と規範意識向上による薬物乱用未然防止の推進
○ 関係機関に対し、薬物乱用防止教育の開催の促進について周知し、使用学校、中学校、高等学校等に
おいて薬物乱用防止教室の開催率が向上した。(実施率 81.0%/+2.6%)[文科]
◎ 青少年に対する危険ドラッグの危険性等の周知徹底を図るため、「政府広報オンライン」及び「政府
インターネットテレビ」等において、短編マンガや動画を用いた広報啓発活動を実施した。[内閣官房・
内閣府・警察]
◎ 都道府県・指定都市及び関係機関等に対し、薬物乱用防止に係る広報啓発活動の充実強化について依
頼し、危険ドラッグに関する正しい知識の周知徹底、青少年に対する広報啓発活動の強化、薬物再乱
用防止対策の充実強化及び相談窓口の周知徹底等を図った。[内閣府・警察・消費者・法務・文科・更
労]
目標2 薬物乱用者に対する治療・社会復帰支援及びその家族への支援の充実強化による再乱用防止
の徹底
○ 「依存症者に対する治療・回復プログラムの普及支援事業」により、薬物依存症に対して有効とされ
る認知行動療法を用いた治療・回復プログラムの普及を図った。[厚労]
〇 改善更生のための環境が整っていない薬物事犯の刑務所出所者等の社会復帰支援のため、全国 15 ヵ
所の校正保護施設において、専門的資格をもったスタッフによる薬物依存からの回復に重点を置いた
専門的な処遇を実施した。[法務]
〇 医療機関等に通院等する保護観察体使用者に対して、通院先の医療機関等から医療・支援状況に係る
情報提供を受け、当該保護観察対象者の心身の状況を踏まえた適切な指導等を実施するとともに、関
係機関等との一層の連携を図るため、
「薬物依存のある刑務所出所者等の支援に関する地域連携ガイ
ドライン」を策定・発出した。[法務・厚労]
〇 地域における薬物依存の治療の充実を推進するため、厚生労働科学研究において、家族支援プログラ
ムの開発に関する研究を実施した。[厚労]
目標3 薬物密売組織の壊滅、末端乱用者に対する取締りの徹底及び多様化する乱用薬物に関する監
視指導等の強化
〇 徹底した突き上げ捜査等から、組織の中枢に位置する者に焦点を当てた取締りを実施し、平成 27 年
中、首領・幹部を含む暴力団構成員等 6,445 人を薬物事犯により検挙した。[警察・厚労]
○ 平成 27 年中、麻薬特例法第 11 条等に基づく薬物犯罪収益等の欲修規定を 56 人、同法第 13 条に
基づく薬物犯罪収益等の津一様規定を 199 人にそれぞれ適用した。(没収・追徴額の合計は約 2 億
527 万円)[法務]
◎ 危険ドラッグの販売業者や末端乱用者等に対して、指定薬物に係る医薬品医療機器法違反のほか、麻
薬及び向精神薬取締法違反など様々な法令を駆使して取締りを強化し、平成 27 年中、危険ドラッグ
関連事件を 1,100 事件、1,196 人検挙した。[警察]
◎ 平成 27 年中、危険ドラッグ販売業者等に対する捜査を推進し、医薬品医療機器法違反で 88 事件、
80人を検挙した。[厚労]
◎ 危険ドラッグ販売業者への対策を推進したことにより、平成 26 年 3 月に全国に 215 店舗存在した
危険ドラッグ街頭店舗について、平成 27 年 7 月までに全て閉鎖を確認した。[厚労・警察]
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薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
◎ インターネットを利用した危険ドラッグ販売サイトについて、平成 26 年 11 月の医薬品医療機器法
改正から平成 27 年 12 月までの間、国内外の計 299 サイトに対して削除要請を実施し、234 サイ
トを閉鎖又は販売停止にした。[厚労]
目標4 水際対策の徹底による薬物の国内流入の阻止
○ 密輸出入取締対策会議等を通じ、サイシンの密輸情勢や犯罪情勢等について情報の共有化を行なうととも
に、密輸入情報の入手段階から合同で捜査・調査を進め、商業貨物等を利用した覚醒剤密輸事件を摘
発した。[警察・総務・法務・財務・厚労・海保]
◎ 医薬品医療機器法の改正に伴い、危険ドラッグ輸入者への検査命令手続を整備し、平成 27 年 12 月
時点で 46 物品を差し止め、うち 13 物品に検査命令等を実施したほか、同法上輸入が認められてい
ない指定薬物が、関税法上の「輸入してはならない貨物」に追加されたことに伴い、過去最高の 1,896
件の薬物密輸入摘発件数を記録した。[財務・厚労]
〇 各種操作手法を活用した取締りにより、関係取締機関の連携を促進し、多くの密輸事犯を摘発すると
ともに密輸密売組織を解明した。[警察・財務・厚労・海保]
目標5 薬物密輸阻止に向けた国際的な連携・貴揚力の推進
◎ 59 会期国連麻薬委員会において、危険ドラッグ(NPS)及びアンフェタミン型興奮剤(覚醒剤等)に関
する決議案を豪と共同提案し、合成薬物対策の重要性を喚起するなど、国際議論に貢献した。[外務・
血札・海保・厚労・財務]
〇 国連薬物・犯罪事務所への拠出を通じて、危険ドラッグ(NPS)対策を含むグローバル SMART プロ
グラム(合成薬物対策)等を実施するとともに、アフガニスタン及び中央アジア等の周辺国に対する国
境管理支援や麻薬取締当局への能力構築支援、代替作物開発等を幅広く実施した。[外務]
◎ アジア・太平洋薬物取締会議(ADEC)を東京都内で開催し、29 か国、2 地域、3 国際機関の参加を
得て、覚醒剤や危険ドラッグ(NPS)等の薬物取締りに関する討議を行うことにより、アジア太平洋地
域等における協力体制の構築を促進するとともに、関係各国の取締能力の向上を支援した。[警察]
【当面の主な課題】
平成 27 年中のわが国の薬物情勢は、危険ドラッグに対する規制が強化され、街頭店舗を全て閉鎖さ
せるなど一定の成果が見られたものの、覚醒剤事犯の検挙人員は約1万 1 千人と高止まりであるほか、
大麻事犯の検挙人員が 5 年ぶりに 2,000 人を超えるなど、国内における根強い薬物需要と供給元の
存在がうかがわれる。
このため、特に蔓延が懸念される青少年への大麻の乱用防止に対して重点的な対策をこうじつつ、
「第
四次薬物乱用防止五か年戦略」及び「危険ドラッグの乱用の根絶のための緊急対策」に基づく総合的
な取組を引き続き推進する必要がある。
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薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Ⅳ. 薬剤師の薬物乱用防止啓発活動

薬物乱用防止教育の充実に協力
90.0
薬物乱用防止教育に関する文部科学省の取組は下記のとおりです。
80.0
70.0
薬物乱用防止教育に関する文部科学省の取組
60.0
1. 学校における児童生徒への薬物乱用防止教育の充実強化
50.0
・小学校、中学校及び高等学校等においては、児童生徒への薬物乱用防止教育の充実のため、
小学校 「体
40.0
育」、「保健体育」、「道徳」、「特別活動」における指導に加え、「総合的な学習の時間」の例示として
中学校
示されている「健康」に関する横断的・総合的な課題についての学習活動等も活用しながら、学
30.0
校の教育活動全体を通じて指導するよう周知に努めた。
高校
20.0
・平成
10.0 21 年 3 月に改訂された高等学校学習指導要領「保健体育」ニおいて、新たに大麻を扱うこ
ととされ、平成
21 年 12 月に作成された高等学校学習指導要領解説「保健体育・体育編」にお
0.0
いて、新たにMDMAが加えられたことを踏まえ、大麻およびMDMAの有害性・危険性に関す
る指導の充実を図るよう周知に努めた。
2. 薬物乱用防止教室の充実強化
・すべての中学校及び高等学校において、年に 1 回は薬物乱用防止教室を開催するとともに、小
学校においても積極的に薬物乱用防止教室の開催に努め、警察職員、麻薬取締官OB、学校薬剤
師、税関職員等の協力も得つつ、その指導の一層の充実を図るよう周知に努めた。
・薬物乱用防止教室の実施率の高い都道府県における効果的な取組事例を収集し、「薬物乱用防
止教室推進マニュアル~黄養育委員会による取組事例~」として冊子にまとめ、各都道府県・市
町村等の教育委員会等へ配布するなど、薬物乱用防止教室の実施率の向上に努めた。
3. 小学校、中学校及び高等学校等においては、児童生徒への薬物乱用防止教育の充実のため、
「保健
体育」
、
「道徳」
「特別活動」における指導に加え、
「総合的な学習の時間」の例示として示されて
いる「健康」に関する横断的・総合的な課題についての学習活動等も活用しながら、学校の教育
活動全体を通じて指導すること。
4. 薬物乱用防止に関する児童生徒用教材、教師用指導資料等の作成・配布、活用促進
5. 教員や薬物乱用防止教室の指導者に対する研修機会の充実
6. 学校警察連絡協議会等の活用促進など学校と警察の連携強化
7. 大学生等の学生に対する薬物乱用防止のための啓発強化
(平成 24 年 9 月 21 日 文部科学省スポーツ・青少年局長 学校健康教育課 報告資料)
7
薬物乱用防止啓発事業

指導者用資料集
「薬物乱用防止教室」は、学校が進める薬物乱用防止教育の一環として、警察職員、麻薬取締
官OB、学校薬剤師等の専門家を主な講師に招いて行う教育活動です。
薬剤師を講師とする場合の教育目標:薬物そのものや薬物乱用の健康に対する有害性に関す
る科学的な知識を得ること。
(参考)警察職員、麻薬取締官・同OB等を講師とする場合の教育目標:薬物乱用の社会背
景や薬物乱用にかかる社会の実態を知ること。
薬剤師に求められる「薬物乱用防止教室」の主な内容:薬物乱用の精神および身体への有害
性、危険性について
1. 麻薬、覚せい剤等の薬物乱用の健康に対する有害性
2. 薬物乱用と依存、耐性
3. その他
進め方のポイント
(1)講師(薬剤師)の専門性が十分に生かされるように工夫すること。
(2)学校における薬物乱用防止教育の一環として行うこと。
学校側の企画意図を理解し、充分に打ち合わせること。
<講師の留意点>
収集すべき情報
①児童生徒の実態と意識
②関連授業の内容(教科「保健」、ホームルーム活動)
③地域の薬物乱用事犯の状況等
打合せすべき内容
①地域の一員として日ごろの学校や児童生徒への印象を伝え、情報交換をする。
②「薬物乱用防止教室」について、課題の確認をする。
③「薬物乱用防止教室」の実施スタイル(講演型、DARP 型、TT 型等)、取扱う内容、
使用する機材や配布資料等を確認する。
④評価をどのように行うか等の検討をする。
(3)薬物乱用を始めさせないことを主な狙いとする。
【参考】講演を行うにあたって
 予め時間配分を決めておくこと。⇒演壇上に時計を置く。
TV 番組は CM と CM の間隔が 15 分。
TV 世代の集中力は 15 分といわれる。話の構成に工夫を!
 テキストの内容全部を話すのでは時間が足りない。⇒予めポイントを決めておく。
 早く終わってもよいが、時間オーバーは絶対ダメ!
 DVD、ビデオ等の実施のタイミングを十分考慮すること。(講演の中で有効に活用する。)
 テキストの活用も効率よく。
 講演内容についての注意点(「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」P.8 参照。)
 演壇にくぎ付けになるな。ボディランゲージ大切。マイクはできるだけ手に。
 言葉ははっきり、歯切れよく、話す声は強弱をつける。⇒ 単調になれば子守唄。
 自分の持ち味を活かせ!
 「薬物乱用はダメ。ゼッタイ。」「愛する自分を大切に」の強いメッセージを送る。
⇒子どもたちへの愛情を照れずに表現すること。
 終わりに「自己体験に基づく若人を励ますことば(メッセージ)」を送る。
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薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Ⅴ. 講師を依頼された人のために~講師となる場合の注意点~
薬物乱用防止教育に必要な内容
1. 薬物乱用は限られた人や特別な場合の問
題ではなく、誰の身近にも起こりうる問
題であることが明快に述べられているこ
と。
 児童生徒は、様々な手口で薬物乱用が広
められようとしている社会で生きてい
かなくてはならない。
2. 「乱用される薬物は、使用することはも
ちろん、所持することも禁止されてい
る。」という曖昧さのないメッセージが必
ず含まれること。
 乱用される薬物は法律によって使用の
みならず所持も禁止されており、良いか
悪いか個人で判断する問題ではない。
3. 講師が伝えたい内容で一方的に構成する
のではなく、対象となる児童生徒の興
味・関心や理解力など、発育・発達段階
を十分考慮した内容や指導方法であるこ
と。
 わかりやすい例や楽しい雰囲気が学習
効果を上げる。
 青少年期にある児童生徒特有の反抗心
や好奇心、自己顕示欲などに基づく行動
の特性を十分理解することが必要であ
る。
4. 害や怖さのみを強調するのではなく、
「薬
物等の誘惑に負けない気持ちをもつこと
が充実した人生につながる。
」という積極
的なメッセージが含まれること。
 児童生徒への信頼や期待を基本に、より
よく生きて欲しいという願いを表現す
ることが、児童生徒の共感を呼ぶ。
5. 児童生徒がおかれている地域や家庭環境
を非難したり、酒やたばこを販売する職
業を悪と決めつけたりするようなことは
しないなど、児童生徒や家族を傷つける
可能性のある内容は避けること。
 問題を児童生徒に押し付けるのではな
く、一緒に考える姿勢が大切である。
薬物乱用防止教育における
不適切な情報
1. 薬物乱用に関する行動について「いい
わけ」の口実を教えるような情報。
 薬物乱用の「いいわけ」の口実を教え
るような情報は不適切である。
2. 乱用される薬物の入手方法や使用方法
を教えるような情報。
 学校における薬物乱用防止教育では、
乱用される薬物の入手方法、使用方法
に触れる必要はない。
3. 薬物乱用や薬物依存の患者の治療、更
生、社会復帰のための情報。
 薬物乱用を経験したスポーツ選手や
タレントが、更生を自ら語る内容のビ
デオ教材等(第二次、第三次予防のた
めの教材)は、児童生徒に簡単に薬物
依存から抜け出すことができるとい
うようなイメージを与えることがあ
るので、第一次予防を主とする学校の
薬物乱用防止教育では注意が必要で
ある。
4. 「ソフトドラッグ」、あるいは「薬物乱
用とは何回も繰り返し薬物を使用する
ことである」などの誤解を与える可能
性のある情報。
 法律で厳しく規制されている依存薬
物には、“ソフト”なものはない。危
険性、有害性が高く、1回の使用でも
乱用である。
5. 「薬物を使用するか否かは本人(子ど
も)自身が決めることである。」などと
いう表現が使われている情報。
 児童生徒だけでなく、大人にとって
も、薬物乱用は自分で責任をもてば許
されるという行為ではない。児童生徒
が、依存薬物を乱用するか否かを決め
ることはできないことを明確に伝え
ることが必要である。
(㈶日本学校保健会発行「薬物乱用防止教室」マニュアル<改訂>から)
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薬物乱用防止啓発事業

指導者用資料集
地域保健活動として協力
地域の健康イベントでの啓発活動や薬物乱用防止指導員としての活動などがあります。

薬学生実務実習カリキュラム
薬学生実務実習の地域保健には以下のカリキュラムが設定してあり、薬剤師の地域活動のひとつと
して認知されています。
LS
到達目標
P508
学校薬剤師の職務を見聞し、その役割を説明で
きる。
P509
地域住民に対する医薬品の適正使用の啓発活動
における薬剤師の役割を説明できる。
P510
麻薬・覚せい剤等薬物乱用防止運動における薬
剤師の役割について説明できる。
学習
方法
説明
時間
備考
90 分
・
×
可能な限り
学校を見学
見学
2
説明
90 分
・
×
見学
説明
2
90 分
Ⅵ. 岩手県薬剤師会の薬物乱用防止啓発事業とは
【目的】
① 県民に対し、薬物乱用の害に関する正しい知識と薬の正しい使い方を啓発することにより、薬物乱
用防止と健康増進を図ることを目的とします。
② 「顔の見える薬剤師」の活動として、学校薬剤師や薬物乱用防止指導員等の活動を支援します。
【対象】青少年(小・中・高校生・専修学校生等)
、PTA、地域住民および講師として活動する会員
【事業の概要】
①
学校等で実施される「薬物乱用防止教室」等に協力します。
②
薬物乱用防止教育に関する県市融解の開催に協力します。
③
地域の健康イベント等で薬物乱用防止を啓発します。
④
青少年薬物乱用防止啓発連携(DARP)プログラムを普及します。
⑤
薬物乱用防止教育支援体制整備・支援推進事業に協力します。
【実施経過】
昭和 58 年 薬物乱用防止啓発モデル事業の実施。
昭和 59 年 県の委託事業として高校生等対象の「青少年薬物乱用防止啓発事業」開始。(~平成 13 年)
平成 4 年 麻薬・覚せい剤禍の撲滅に功績のあった者に対する厚生省薬務局長感謝状受賞。
平成 5 年 中学生を対象としたモデル事業を開始。(~平成 7 年)
(財)麻薬・覚せい剤乱用防止センターのキャラバンカーで啓発講座実施。
平成 6 年 麻薬・覚せい剤禍の撲滅に功績のあった者に対する厚生大臣感謝状受賞。
平成 8 年 中学生を対象とした啓発講座を開始。(~平成 13 年)
平成 9 年 「薬物乱用防止のための五か年戦略」策定(薬物乱用対策推進本部)。
平成 10 年 学習指導要領の改訂。小・中・高等学校の「保健」で喫煙・飲酒・薬物乱用防止の
内容が取り扱われることになりました。
『薬物乱用問題に関するアンケート調査』の実施。当該事業を検証。
第 31 回日本薬剤師会学術大会(札幌)で「青少年薬物乱用防止啓発活動について」15
年間の活動を発表。
10
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
平成 11 年 青少年薬物乱用防止啓発連携プロジェクト準備会に参加。(薬剤師会と警察、県教委
のメンバーで連携強化プログラムの作成のためのプロジェクト)
くすりの情報センターに「薬物乱用防止啓発資料編集小委員会」設置。
「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」作成。
薬乱(薬物乱用)防止啓発フォーラム(水沢)に協力。
平成 12 年 青少年薬物乱用防止啓発連携(DARP)プロジェクト発足。
「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」改訂版作成。
(一社)岩手県薬剤師会の特別委員会「薬物乱用防止啓発事業推進委員会」設置。
第 33 回日本薬剤師会学術大会(大阪)で「岩手県における”薬物乱用防止教室”の
連携プログラム作成について~第 1 報~」を発表。
第 33 回日本薬剤師会学術大会(大阪)で「薬物乱用防止対策における薬剤師の役割」
を佐藤明水沢支部長が発表。
平成 13 年 第 36 回東北学校保健大会(盛岡)で「”薬物乱用防止教室”連携プログラムの開発に
ついて」を発表。
第 34 回日本薬剤師会学術大会(横浜)で「岩手県における”薬物乱用防止教室”の連
携プログラム作成について~第 2 報~」を発表。
岩手県の委託事業終了。
平成 14 年 (一社)岩手県薬剤師会の独自事業として「薬物乱用防止啓発事業」再スタート。(~現在)
岩手県保健衛生課、教育委員会、警察等との連携強化。
平成 14 年度薬物乱用防止研修会(盛岡)共催。
平成 15 年 「薬物乱用防止教室」の手引き」作成。
DARP プロジェクトで作成した連携型プログラムの普及活動。
平成 15 年度薬物乱用防止教育シンポジウム「効果的な薬物乱用防止教育」(東京)
で DARP プロジェクトを紹介。
国は「薬物乱用防止新五か年戦略」を策定。
第 53 回全国学校保健研究大会(青森)第 10 課題で「効果的な薬物乱用防止教室を
求めて」を発表。
平成 16 年 DARP プロジェクトで作成した連携型プログラムの短縮型プログラムの作成、検証。
薬物乱用防止教育支援体制整備・活用モデル推進事業への協力。(~平成 18 年)
平成 20 年 学習指導要領の改訂。中学校の「保健」で「医薬品の正しい使い方」の内容が取り扱
われることになりました。高等学校で取り扱われる内容が改訂となりました。
国は「第三次薬物乱用防止五か年戦略」が策定される(薬物乱用対策推進本部)。
薬物乱用対策推進本部が薬物乱用対策推進会議(議長:内閣府特命担当大臣)に改名。
「犯罪に強い社会の実現のための行動計画 2008」を策定(犯罪対策閣僚会議)。治安
の観点から総合的な犯罪対策を推進する中で、薬物対策も取り上げられています。
平成 21 年 改正学校保健法施行。
平成 22 年 「第三次薬物乱用防止五か年戦略」フォローアップ、「薬物乱用防止戦略加速化プラ
ン」が策定される(薬物乱用対策推進会議)。向精神薬の横流し防止・インターネット対
策等の徹底とともに、予防啓発等について充実強化されました。
「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」の改訂。
平成 23 年 東日本大震災発生。向精神薬の使い方や管理上の注意等啓発を推進します。
平成 24 年 「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」の一部改訂。
平成 25 年 「薬物乱用防止啓発事業」見直し。薬物乱用防止教室実施率向上に対策強化。
「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」の一部改訂。
「第四次薬物乱用防止五か年戦略」が策定される(薬物乱用対策推進本部)。
平成 26 年 「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」の一部改訂。
平成 27 年 「薬物乱用防止啓発事業指導者用資料集」の一部改訂。
11
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Ⅶ. 喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導の観点
学校における喫煙、飲酒、薬物乱用防止に関する指導の内容を設定するに当たっては、青少年の喫
煙、飲酒、薬物乱用などの危険行動にかかわる要因について考慮する必要があります。これらの要因は
三つのカテゴリーに分類され、健康教育による働きかけの対象となります。
図
青少年の危険行動(喫煙、飲酒、薬物乱用など)にかかわる要因
動機付けにかかわる要因(先行因子)
・知識 ・態度 ・信念 ・価値観など
動機を行動へと結び付ける要因(促進因子)
・友人からのすすめなどに対する具体
的な対処スキル
・たばこや酒類の広告分析スキル
(イメージを利用した巧妙な「危険かくし」
のテクニックを分析するスキル)
・セルフエスティーム維持、意志決定、
健康教育
喫煙、飲酒、
薬物乱用な
どの危険行
動を避ける
健康問題の
予防・解決
ストレス対処、コミュニケーション
などのライフスキル
行動の継続にかかわる要因(強化因子)
・友人の行動や態度
・家族(保護者)の行動や態度
・教師の行動や態度
・地域社会全体の雰囲気
第一のカテゴリー(先行因子)は、健康的な行動をとろうという動機付けにかかわりの深い要因で
あり、本人の知識、態度、信念、価値観などが含まれます。
第二のカテゴリー(促進因子)は、動機を実際の健康的な行動へと結び付ける要因であり、様々な
スキルが含まれます。
第三のカテゴリー(強化因子)は、健康的な行動を継続することにかかわる要因であり、周囲の人々
の行動や態度、児童生徒の場合は友人、家族、教師などの行動や態
度がこれに当たります。
青少年の喫煙、飲酒、薬物乱用を効果的に防止するためには、単に喫煙、飲酒、薬物乱用が引き起こ
す健康影響に関する情報を提供するだけでは不十分であり、三つの要因すべてに対して適切な働きかけ
をする必要があります。
「薬物乱用防止教室」で薬剤師が講師を務める場合、学校における健康教育全体の流れを理解し、関
連授業の内容などとの整合性を図りながら、かつ専門家講師として期待されている指導内容を盛り込む
よう配慮して、薬剤師の専門性を十分に発揮するよう取り組む必要があります。
【用語解説】
青少年の危険行動:現代社会の健康課題を総合的にとらえるために、米国の疾病予防
管理センター(CDC)が提唱した概念です。
① 故意または不慮の事故に関する行動
② 喫煙
③ 飲酒および薬物乱用
④ 望まない妊娠、HIV/AIDS を含む性感染症に関係する性行動
⑤ 不健康な食生活
⑥ 運動不足
上記の 6 つの危険行動は相互に強い関連があり、6 つの危険行動は青少年期にそのきっ
かけが起こり、大人になるにつれて進行し、固定化するという特徴があります。
12
薬物乱用防止啓発事業
 セルフエスティーム:
セルフエスティームは、自尊心および自尊感情
と訳され、自分の能力や価値に対する自信の程度
を意味しています。両親、教師、友人などの重要
な他者からの評価、成功や失敗の経験などを通し
て形成され、人の取る行動に大きな影響を与えま
す。
青少年期の様々な危険行動の根底には、共通し
て低いセルフエスティームの問題が存在している
ことが報告されています。
子どもたちの健全なセルフエスティームを形成
するためには、
① 独自性の感覚(自分には自分らしい特質があ
るという個性の感覚)
② 有能性の感覚(自分にはなんべきことをなす
能力があるという感覚)
③ 結び付きの感覚(自分にとって重要な人、場
所、物との関係に満足しているという感覚)
以上3点を育てることが重要です。その中で最
も重要な役割を果たすのが親であり、親からの心
理的・社会的自立が顕著になる思春期においては、
学校の果すべき役割大きくなります。
 意志決定スキル:
意志決定スキルは、問題のある状況下において
幾つかの選択肢の中から最善と思われるものを選
択する能力です。
人は日常生活の中で様々な意志決定をしていま
す。その多くは無意識に行われていますが、通常
は大きな問題を生じることはほとんどありません。
しかし、喫煙、飲酒、薬物乱用などの健康上重
大な問題を生じる恐れがあることに関しては、合
理的な意志決定スキルを習得することが必要です。
それにより、周囲に惑わされることなく、自分の
意志と責任による、より良い選択をすることがで
きるようになるからです。
 コミュニケーションスキル:
コミュニケーションスキルは、自分の気持ちや
考えを上手に伝え、相手の気持ちや考えを理解す
る能力です。より良い人間関係を形成し、維持す
るために重要な能力であるといえます。
コミュニケーションには、言語的要素と非言語
的要素(視覚、聴覚、嗅覚などに訴えるもの)が
あることや自分と相手の双方向に行われるもので
あることを理解し、実践できる能力です。
喫煙、飲酒、薬物乱用などの危険行動をとるよ
うに友人などから圧力を受けた時に必要となる能
力は、自己主張的コミュニケーションスキルです。
うした状況において人がとる行動としては受動的
行動や攻撃的行動があり、いずれも自分や相手に
指導者用資料集
好ましくない結果を引き起こす恐れが高いもので
す。自己主張的コミュニケーションスキルをもつ
ことによって、人間関係を損なうことなく、自分
の権利を主張したり、自分の気持ちや考えを明確
に伝えたりすることを可能とするものです。
 ストレス対処スキル:
ストレス対処スキルは、ストレスの原因と影響
を認識し、ストレスの原因を少なくしたり、避け
られないストレスの影響を小さくしたりする能力
です。人は生きている限りストレスを避けること
はできません。さらに思春期には、様々な身体的、
心理的、社会的変化が短期間に起こり、個人差も
大きいために、強いストレス状況に置かれ、喫煙、
飲酒、薬物乱用などの危険行動を招く恐れが高く
なります。そのため、ストレスへの対処スキルを
学ぶことは極めて重要であると考えられています。
ストレス対処スキルの要素
① どんなことが自分にとってストレスの原因
になりやすいか気付く
② ストレスによって自分に生じる身体、精神、
行動面の反応に気付く
③ 実行可能なストレスへの対処法を考える
④ ストレスへの対処法を練習し、日常生活に適
用する
 ライフスキル:
ライフスキルとは「日常生活の中で生じる様々
な問題や要求に対して、建設的かつ効果的に対処
するために必要な心理社会的能力」
(WHO 精神保
健部局ライフスキルプロジェクト)と定義され、
セルフエスティーム形成、意志決定スキル、スト
レス対処スキル、コミュニケーションスキルなど
が含まれます。
ライフスキルの低い子どもたちが特に社会的要
因の影響を受けやすく、喫煙、飲酒、薬物乱用を
はじめとする様々な危険行動をとりやすい傾向に
あります。
ライフスキルの本質を理解するうえで重要なポイ
ント
① 誰でもが学習し、経験し、練習することによ
って獲得することが可能な能力であること。
② 幅広い問題に適用可能な一般的・基礎的能力
であること。
③ 心理社会的能力であること。
ライフスキルの形成は、ただ単に危険行動の防
止にとって有効なだけでなく、これからの学校教
育の基本的目標である「生きる力」の形成にも大
きく寄与するものと考えられています。
13
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Ⅷ. 「薬物乱用防止教室」と薬物乱用防止啓発事業システム
1.事業システム
① 「薬物乱用防止教室」実施計画立案
②薬物に関する知識と意識およびこの問題に係る行動についての実態把握
(調査が薬物乱用問題について学び、考えることへの動機付けとなるように配慮する)
④関連授業の実施
1. 教科「保健」
2. ホームルーム活動
薬物問題についての特別授業
⑦事前のホームルーム活動
資料配布、
「教室」受講への動機付け
⑧「薬物乱用防止教室」講演型
薬物乱用の精神および身体への有害
性、危険性について講演する
1) 麻薬、覚せい剤等の薬物乱用の
健康に対する有害性
2) 薬物乱用と依存、耐性
3) その他(意思決定・行動選択に関
わる内容等)
⑨事後のホームルーム活動
事後指導
感想文を書く、アンケートの実施
2.高校生対象の啓発講座
昭和 58 年 10 月、当会は「くすりの情報センタ
ー」を開設しました。
「くすりの情報センター」は、医薬品の効用、安
全性、その他社会的関心と需要に応じ、医薬品等
の情報を提供し、県民の保健向上に資することを
目的として活動しています。
「薬事相談」及び「薬
の適正使用」
「健康づくり支援」の推進や薬事情報
誌等の発行事業を実施することなどを通して、薬
物乱用防止啓発事業をスタートさせ推進してきま
した。
当時、岩手県では覚せい剤の乱用こそ少ないもの
の、青少年によるシンナー乱用の増加が問題にな
っていました。そこで、
「くすりの情報セ
③学校薬剤師または岩手県薬剤師会へ依頼
担当学校薬剤師の都合がつかない場合には
岩手県薬剤師会に講師派遣を依頼すること
⑤講師との打ち合わせ
打合せすべき内容(P.4 参照)
⑥配布資料・視聴覚資料等の申込み
⑧「薬物乱用防止教室」DARP 連携型
1) 薬物の害について理解させる
2) 薬物乱用の社会的影響について理
解させる
3) 危険な誘いをうまく断る方法につ
いて理解させる
4) 自分自身を大切にし、責任ある意
志決定と行動選択が重要であるこ
とを理解させる
⑩「薬物乱用防止教室」終了報告
薬剤師は、岩手県薬剤師会に報告する
ンター」の三田畔吾初代所長が、県内の高等
学校 10 校をモデル校として取り上げ、薬物乱用
防止啓発講座モデル事業を実施しました。その結果
をアンケート調査等により総括したところ、『私は
シンナーを吸っていました。啓発講座を聞いてシン
ナーがどんなに恐ろしいものかを知りました。私は
もう絶対に吸いません。』
『彼氏がシンナーを吸って
います。好きで吸っているのだからと見て見ぬふり
をしていました。啓発講座を聞いてシンナーがとて
も恐ろしい作用のあるものだと知り、ゼッタイ吸わ
ないように彼氏に言おうと思います。』との感想が
寄せられるなど効果が大きいことが明らかになり、
翌昭和 59 年度から岩手県の委託事業として実施す
ることになりました。
14
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
委託事業は、昭和 59 年から平成 13 年まで実施 4.小学生対象の啓発講座
されました。3 年を 1 クールとして 6 クール、県
平成 10 年 3 月に盛岡市で試験的に小学 6 年
内の全高校生が高校在学中にこの啓発講座を 1 回
生を対象とした啓発講座を実施しました。
は受講できるようにスケジュールが組まれ、希望
受講した小学生の感想文から、講座の内容を素直
を募って実施しました。
に受け止め、
「薬物乱用は絶対ダメなこと」として
平成 11 年からは、国の薬物乱用防止五か年戦略
心に残ったことが感じられました。
により、
「薬物乱用防止教室」を毎年開催するよう
教科保健の中でも酒・たばこ・薬物の害について
奨励されたこともあり、
「薬物乱用防止教室」を実
の学習があり、学齢に応じた取組みや学校薬剤師
施する学校が増加していきました。
との連携が進んでいます。
学校では、薬剤師や警察官等の校外講師を招聘し
5.PTA 対象の啓発講座
て「薬物乱用防止教室」を企画・実施しました。
平成 10 年に国の薬物乱用防止五か年戦略がス
岩手県では、「薬物乱用防止教室」の約 70%が
タートすると PTA の講演会等で取り上げられる
薬剤師を講師として実施されていました。
ようになり、児童・生徒の学習している内容を周知
しかし、同一校で薬剤師が講師をする「薬物乱用
するとともに、この学習が健康教育の中で重要な
防止教室」と警察職員が講師をする「薬物乱用防
意味をもつことを啓発してきました。特に、ゲー
止教室」が実施される等の混乱もあり、関係機関
トウェードラッグとされる酒・たばこへの対応に
の連携を強化し連携型の「薬物乱用防止教室」を実
ついては、学校だけではなく家庭・地域全体で取
施しようとの機運が高まっていきました。
り組む必要があることを訴えてきました。
平成 12 年、
「薬物乱用防止教室」のための連携
学校保健委員会等の話題になることも多く、薬物
プログラム(DARP 連携型プログラム) を作成し、
乱用防止の意識啓発の場となっいます。
モデル校 10 校で実施、アンケート調査をして効
果を検証しました。その結果、一定の効果が認め 6.学校薬剤師の日常業務と薬物乱用防止啓発活動
本事業が全国に先駆けて全県下で実施されてき
られたことから、
「薬物乱用防止教室」のプログラ
た背景には、各学校の学校薬剤師が学校保健委員
ムの一つとして普及することとしました。
会等の日常活動の中で、教職員や保護者に薬物乱
平成 13 年から連携型プログラムでの薬物乱用
用防止啓発の必要性を訴え続けてきたことがあげ
防止教室の普及が始まり、実施と検証を重ねてプ
られます。
ログラムの完成度を高めていきました。
当初は、小・中学校ではもちろん、高等学校でさ
平成 16 年に 50 分授業の中で実施可能な同短縮
えも酒・たばこ以外の乱用薬物の話は敬遠されて
型プログラムを作成すると急速に普及していきま
いましたが、国をあげて薬物乱用防止対策が進め
した。現在では、実施校の約 60%が連携型プログ
られている現状では、
「薬物乱用防止教室」はもち
ラムを活用しています。
ろん健康教育の中での学校薬剤師の存在が大きく
しかし、薬物乱用の現状が大きく変化してきたこ
なっています。
とから、平成 24 年、プログラムの見直しが始ま
また、薬剤師はスポーツの健全な発展のために、
りました。
スポーツ界の薬物乱用であるドーピングを防止す
3.中学生対象の啓発講座
るため、アンチドーピング活動に参加しています。
岩手県の委託事業の枠内でモデル事業として、平
2009 年には、スポーツファーマシストの認定制
成 5 年度から平成 7 年度までの 3 年間は(財)麻
度がスタートし、アンチドーピング活動の中で薬
薬・覚せい剤乱用防止センターのキャラバンカー
剤師の活躍が期待されてきています。
を利用した啓発講座を実施しました。
平成 8 年度から平成 10 年度の 3 年間は、高校 7.関係機関との連携の在り方
① 情報交換:学校、家庭、地域社会、関係機関等
生対象の講演型講座をパネルを利用した視覚的講
が活動の内容について相互に情報を交換し、学
座として実施しました。
校で実施される「薬物乱用防止教室」の必要性
平成 10 年に実施したアンケート調査の結果報
について共通理解する必要があります。
告書を県内の小・中・高校に送付したところ、未
学校環境衛生検査実施時や学校保健委員会、公
成年の飲酒や喫煙が薬物乱用の入り口になってい
開されている学校行事の時などの機会を捉え
ること、薬物乱用防止啓発が必要なことなどの認
て情報交換をすることが重要です。
識が新たになり、当該事業は平成 11 年度から平
② 地域社会での活動:関係機関の地域社会での活
成 13 年度の 3 年間についても継続することにな
動を知り、相互に協力することが重要です。
りました。
③ 専門性の確立:専門家(薬剤師)講師としての研
学校独自企画で「薬物乱用防止教室」を実施する
鑽を積むこと、講師のための研修会に参加する
ムードが高まり、学校薬剤師が講師を務めるよう
ことなどにより専門性を高めておくことが重
になりました。
要です。
15
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Ⅸ. 薬物乱用防止啓発事業の実績
高等学校
年度
専修学校
中学校
小学校
PTA他
学校数 受講者数 学校数 受講者数 学校数 受講者数 学校数 受講者数 学校数 受講者数
S 58
10
4,220
S 59
40
16,150
2
410
S 60
35
18,929
1
50
S 61
31
18,084
0
0
S 62
36
14,857
1
120
S 63
36
16,648
0
0
H 01
35
18,650
1
110
H 02
29
13,786
5
314
H 03
37
15,868
2
119
H 04
38
17,456
0
0
H 05
30
14,978
5
259
9
1,702
H 06
34
15,152
1
25
7
1,324
H 07
35
17,154
0
0
10
1,891
H 08
26
12,471
0
0
12
2,590
H 09
33
12,402
0
0
10
3,055
1
80
H 10
38
18,697
0
0
13
5,867
5
551
7
428
H 11
34
14,175
0
0
18
4,621
9
684
17
929
H 12
48
12,146
0
0
25
4,047
5
198
8
516
H 13
45
11,488
0
0
35
5,761
24
2,335
13
804
H 14
25
5,764
0
0
51
9,991
34
2,472
27
2,353
H 15
28
5,056
0
0
26
3,550
38
2,963
17
619
H 16
39
8,441
0
0
32
4,347
54
3,726
32
3,022
H 17
44
9,436
0
0
33
3,746
74
5,084
52
5,486
H 18
42
9,571
0
0
37
5,261
61
3,911
43
2,098
H 19
35
7,015
0
0
38
5,121
64
4,317
58
4,031
H 20
46
10,449
0
0
50
5,544
89
5,602
85
5,066
H 21
53
11,087
1
70
57
6,673
103
5,310
24
1,153
H 22
51
9,453
1
90
62
6,458
115
6,729
26
920
H 23
45
7,400
2
114
72
6,738
113
5,505
36
1,721
H 24
57
10,043
2
110
96
8,835
114
7,153
26
457
H 25
47
8,432
2
107
89
7,218
149
6,892
22
596
H 26
60
9,198
5
220
92
7,896
153
6,683
18
568
H 27
58
8,003
3
193
106
9,211
171
7,761
9
349
合計
1,280
402,659
34
2,311
980
121,447
1,376
77,956
520
31,116
註)平成 14 年度からは、
「薬物乱用防止教室」に講師として協力した数となる。
16
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
【参考】小学校・中学校学習指導要領「保健」の喫煙・飲酒・薬物乱用防止の内容
教科
小学校
中学校
体育(保健領域)
保健体育(保健分野)
(3) 病気の予防について理解できるよう (4) 健康な生活と疾病の予防について理解を深めることが
にする。
できるようにする。
エ 喫煙、飲酒、薬物乱用などの行為は、 ウ 喫煙、飲酒、薬物乱用などの行為は、心身に様々な影
健康を損なう原因となること。
響を与え、健康を損なう原因となること。また、これら
内容
の行為には、個人の心理状態や人間関係、社会環境が影
響することから、それぞれの要因に適切に対処する必要
があること。
 第6学年で指導する。
 第3学年で指導する。
 薬物乱用については、シンナーなどの  心身への急性影響及び依存性について取り扱う。
有機溶剤等の心身への影響を中心に取  薬物は、覚せい剤や大麻等を取り扱う。
内容の
り扱う。
取扱い  覚せい剤等についても触れる。
(「解説」:覚せい剤については、乱用される
薬物にはいろいろなものがあることに触
れる例として示したもの。)
(ア)喫煙については、せきが出たり心拍数 (ア) 喫煙と健康
が増えたりするなどして呼吸や心臓のは
喫煙については、たばこの煙の中にはニコチン、タール
たらきに対する負担などの影響がすぐに 及び一酸化炭素などの有害物質が含まれていること、それ
現れること、受動喫煙により周囲の人々の らの作用により毛細血管の収縮、心臓への負担、運動能力
健康にも影響を及ぼすことを理解できる の低下など様々な急性影響が現れること、また、常習的な
ようにする。なお、喫煙を長い間続けると 喫煙により肺がんや心臓病など様々な病気を起こしやすく
肺がんや心臓病などの病気にかかりやす なることを理解できるようにする。特に、未成年者の喫煙
くなるなどの影響があることについても については、身体に大きな影響を及ぼし、ニコチンの作用
触れるようにする。
などにより依存症になりやすいことを理解できるようにす
飲酒については、判断力が鈍る、呼吸や る。
心臓が苦しくなるなどの影響がすぐに現
(イ) 飲酒と健康
れることを理解できるようにする。なお、
飲酒については、酒の主成分のエチルアルコールが中枢
飲酒を長い間続けると肝臓などの病気の
神経の働きを低下させ、思考力や自制力を低下させたり運
原因になるなどの影響があることについ
動障害を起こしたりすること、急激に大量の飲酒をすると
ても触れるようにする。
急性中毒を起こし意識障害や死に至ることもあることを理
その際、低年齢からの喫煙や飲酒は特に
解できるようにする。また、常習的な飲酒により、肝臓病
害が大きいことについても取り扱うよう
や脳の病気など様々な病気を起こしやすくなることを理解
にし、未成年の喫煙や飲酒は法律によって
できるようにする。特に、未成年者の飲酒については、身
「解説」 禁止されていること、好奇心や周りの人か
体に大きな影響を及ぼし、エチルアルコールの作用などに
らの誘いなどがきっかけで喫煙や飲酒を
の
より依存症になりやすいことを理解できるようにする。
開始する場合があることについて触れる
記述
ようにする。
(ウ) 薬物乱用と健康
薬物乱用については、覚せい剤と大麻を取り上げ、摂取に
(イ)薬物乱用については、シンナーなど よって幻覚を伴った激しい急性の錯乱状態や急死などを引
の有機溶剤を取り上げ、一回の乱用でも死 き起こすこと、薬物の連用により依存症状が現れ、中断す
に至ることがあり、乱用を続けると止めら ると精神や身体に苦痛を感じるようになるなど様々な障害
れなくなり、心身の健康に深刻な影響を及 起きることを理解できるようにする。また、薬物乱用は、
ぼすことを理解できるようにする。なお、 個人の心身の健全な発育や人格の形成を阻害するだけでな
薬物の乱用は法律で厳しく規制されてい く、社会への適応能力や責任感の発達を妨げるため、暴力、
ることにも触れるようにする。
性的非行、犯罪など家庭・学校・地域社会にも深刻な影響
を及ぼすこともあることを理解できるようにする。
喫煙、飲酒、薬物乱用などの行為は、好奇心、なげやり
な気持ち、過度のストレスなどの心理状態、周囲の人々の
影響や人間関係の中で生じる断りにくい心理、宣伝・広告
や入手のし易さなどの社会環境などによって助長されるこ
と、また、それらに適切に対処する必要があることを理解
できるようにする。
(平成 20 年改訂学習指導要領及び解説から一部抜粋)
17
薬物乱用防止啓発事業
【参考】
指導者用資料集
高等学校学習指導要領「保健」の喫煙・飲酒・薬物乱用防止の内容
高等学校
教科
平成20年改訂の新学習指導要領
平成11年告示の現行学習指導要領
保健体育(教科保健)
保健体育(科目保健)
内容
(1)現代社会と健康
イ 健康の保持増進と疾病の予防
健康の保持増進と生活習慣病の予防には、食事、運動、休養
及び睡眠の調和のとれた生活を実践する必要があること。
喫煙と飲酒は、生活習慣病の要因になること。また、心身の
健康や社会に深刻な影響を与えることから行ってはならな
いこと。
それらの対策には、個人や社会環境への対策が必要であるこ
と。
 喫煙、飲酒に関する適切な意志決
定や行動選択が必要であること。
 薬物乱用は心身の健康などに深刻
な影響を与えることから行っては
ならないこと。医薬品は正しく使
用する必要があること。
内容の
取扱い
 入学年次及びその次の年次の2か年の間に指導する。
 疾病との関連、社会への影響などについて総合的に取り扱
う。
 薬物は麻薬、覚せい剤、大麻等を扱う。
 疾病との関連、社会への影響など
について総合的に取り扱う。
 薬物は麻薬、覚せい剤等を扱う。
(イ)喫煙、飲酒と健康
喫煙、飲酒は、生活習慣病の要因となり健康に影響があるこ
とを理解できるようにする。その際、周囲の人々や胎児への
影響などにも触れるようにする。また、喫煙や飲酒による健
康課題を防止するには、正しい知識の普及、健全な価値観の
育成などの個人への働きかけ、及び法的な整備も含めた社会
環境への適切な対策が必要であることを理解できるように
する。その際、好奇心、自分自身を大切にする気持ちの低下
周囲の人々の行動、マスメディアの影響、ニコチンやエチル
アルコールの薬理作用などが、喫煙や飲酒に関する監視や継
続の要因となることにも適宜触れるようにする。
(ウ)薬物乱用と健康
「解説」
コカイン、MDMA などの麻薬、覚せい剤、大麻など、薬物
の
の乱用は、心身の健康、社会の安全などに対して様々な影響
記述
を及ぼすので、決して行ってはならないことを理解できるよ
うにする。また、薬物乱用を防止するには、正しい知識の普
及、健全な価値観や規範意識の育成などの個人への働きか
け、及び法的な規制や行政的な対応など社会環境への対策が
必要であることを理解できるようにする。その際、薬物乱用
の開始の背景には、自分の体を大切にする気持ちや社会の規
範を守る意識の低下、周囲の人々からの誘い、断りにくい人
間関係、薬物を手に入れやすい環境などがあることにも適宜
触れるようにする。
 疾病との関連、周囲の人々や胎児
への影響、社会に及ぼす影響があ
ること。
 好奇心、自分自身を大切にする気
持ちの低下、周囲の人々の行動、
マルチメディアの影響、ニコチン
やエチルアルコールの薬理作用な
どが、喫煙や飲酒に関する開始や
継続の要因になること。
 適切な意志決定と行動選択が必要
であること。
 医薬品の有効性や副作用及びその
正しい使用法。
 コカインなどの麻薬、覚せい剤な
ど、薬物の乱用が心身の健康や社
会に及ぼす影響。
 薬物乱用の背景には、自分の体を
大切にする気持ちや社会の規範を
守る意識の低下、周囲の人々から
の誘い、断りにくい人間関係とい
った不適切な社会環境などがある
こと。
 薬物乱用を決して行わないこと。
(平成 21 年改訂学習指導要領及び解説から一部抜粋)
18
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
【参考】中学校・高等学校学習指導要領「保健」医薬品の正しい使い方の内容
中学校
教科
内容
内容の
取扱い
「解説」
実施
高等学校
保健体育(保健分野)
保健体育(教科保健)
(4)健康な生活と疾病の予防について理解を深
めることができるようにする。
オ 健康の保持増進や疾病の予防には、保健・医
療機関を有効に利用することがあること。
また、医薬品は、正しく使用すること。
(2)生涯を通じる健康
イ 保健・医療制度及び地域の保健・医療機関
医薬品は、有効性や安全性が審査されており、
販売には制限があること。疾病からの回復や
悪化の防止には、医薬品を正しく使用するこ
とが有効であること。



健康の保持増進や疾病の予防に関する内容
と関連付けて取り扱う。
医薬品は疾病の診断、
治療または予防のため
に使用されるものであることを明確化され
た。
オ 保健・医療機関や医薬品の有効利用
医薬品には、主作用と副作用があることを理
解できるようにする。
医薬品には、使用回数、使用時間、使用量な
どの使用方法があり、正しく使用する必要が
あることについて理解できるようにする。
平成24年4月1日から全面実施
入学年次及びその次の年次の2か年の間に
指導する。
イ 保健・医療制度及び地域の保健・医療機関
(イ)地域の保健・医療機関の活用
医薬品には、医療用医薬品と一般用医薬品が
あること、承認制度により有効性や安全性が
審査されていること、及び販売に規制がある
ことを理解できるようにする。疾病からの回
復や悪化の防止には、個々の医薬品の特性を
理解した上で使用法に関する注意を守り、正
しく使うことが必要であることを理解でき
るようにする。その際、副作用については、
予期できるものと、予期することが困難なも
のがあることにも触れるようにする。
平成25年4月1日の入学生から年次進行によ
り段階的に適用
(平成20年改訂
学習指導要領及び解説から)
【学校における医薬品に関する教育~学校薬剤師として協力するうえでの留意点~】
学校薬剤師:子どもに、生涯にわたり自己の健康管理を適切に行う能力を身に付けさせることが求めら
れる中、医薬品は、医師や薬剤師の指導の下、自ら服用するものであることから、医薬品
に関する適切な知識を持つことは重要な課題であり、学校薬剤師がこのような点について
更なる貢献をすることが期待されている。
学校薬剤師等の活動:学校医、学校歯科医、学校薬剤師が保健指導を行うに当たっては、子どもの発
達段階に配慮し、教科等の教育内容と関連を図る必要があることから、学級担任や養護
諭のサポートが不可欠であり、学校全体の共通理解の上で、より充実を図ることが求め
られる。
教科保健(保健体育保健分野)における指導者の中心は、保健体育教諭または兼職発令を受
けた養護教諭であること。
学校薬剤師等は、専門家として「くすり教育」のサポーターに徹すること。
【医薬品と喫煙・飲酒・薬物乱用に関する指導について】
医薬品に関する指導と喫煙・飲酒・薬物乱用に関する指導は、明確に区別して実施すべきである。
医薬品は健康を取り戻すために必要とされ、正しい使い方を知ることは健康の維持・増進につながる。
一方、喫煙・飲酒・薬物乱用は健康の維持・増進にとっては問題とされる行動のひとつである。用語の
使い方による混乱が生じないよう工夫する必要がある。
19
薬物乱用防止啓発事業
【参考】
指導者用資料集
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラムの概要
「薬物乱用防止教室(以下「教室」)」DARP 連携プログラムは、中学校・高等学校等で「教室」が
毎年1回以上開催されるようになり、より効果的な「教室」の進め方が求められる中で作成されたプロ
グラムです。
1.
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラムの特長
① 薬物の専門家である薬剤師、防犯の専門家である警察職員、教育の専門家である教員がそれぞ
れの専門性を生かしながら連携する。
② 薬物乱用を誘う手口や断る方法について、教員と生徒の演技によってロールモデルを示す。
③「薬物乱用防止教室」のメッセージを伝える音楽・ビデオを導入部分で用いる。
学 校
教員
薬剤
師
県薬剤師会
連携
警察職員
警察署
* 薬剤師の講師派遣については、それぞれの学校を担当している学校薬剤師または岩手県薬剤師会
に
問い合わせること。
* 警察署からの講師派遣については、実施学校所在地を管轄している警察署生活安全課に問い合わ
せ
ること。
* 講師となる三者(教員・薬剤師・警察職員)が共通理解を得られるよう事前に打ち合わせを行うこと。
* 「薬物乱用防止教室」の手引き(岩手県教育委員会)を参考に進めること。
2.
「薬物乱用防止教室」連携プログラムの実施にあたっての留意事項
①「薬物乱用防止教室」における不適切な情報は扱わないこと。
例 : 1) 薬物乱用に関する行動について「いいわけ」の口実を教えるような情報。
2) 乱用薬物の入手方法や使用方法を教えるような情報。
3) 薬物乱用者や薬物依存の患者の治療、更正、社会復帰のための情報。
4)「ソフトドラッグ」
、あるいは「薬物乱用とは何回も繰り返し薬物を使用する
ことである」などの誤解を与える可能性のある情報。
5)「薬物を使用するか否かは本人(子ども)自身がきめることである」などという
表現が使われている情報。
② ロールプレイングでは、薬物乱用を勧める役は教員とすること。
* 手引書資料 11(P.87~91)担当欄を確認すること。
20
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
「薬物用防止教室」DARP 連携プログラム(高校生用)
学習内容
事前打ち合わせ
事
事前指導(SHR)
前
導
入
展
開
ま
と
め
事
後
注)
主な講演内容など
備考
・本教室の目的を共通理解する
・役割分担する
・パンフレットの配布
・保健だより等で話題づくり
・パネル・薬物標本等資料展示について紹介する
・
「薬物乱用防止教室」の手
・薬物乱用から更生しようとしている少女の手紙『白い粉』
引きを参照する
の資料を配布
学習内容を知る
1.BGM を流す中、生徒入場
・担当者〔実施校〕
2.ビデオ「薬物乱用防止広報啓発映像」を上映する
進行:教員
3.薬物乱用問題は生徒にとって無関係でないことを説
【
8
分】
明する
1. 薬 物 の 害 に つ い て 1.ロールプレイングⅠ『先輩からの危険な誘い』
・担当者〔実施校〕
理解を深める
① 先輩から「疲れがとれる薬」と言って勧められ
進行:教員
①薬物乱用の意味
る
ロールプレイング:教員,生徒
②薬物乱用と依存性
② 「ちょっと待って!」と叫びながら、白衣を着た
*薬物乱用を勧める役は教員
③脳への影響
薬剤師が登壇し、薬物の害について説明する
*断る役は教員又は生徒
ポイント⇒1 回でも薬物乱用になる
止められなくなる
・担当者〔関係機関〕
犯された脳はもとには戻らない
薬剤師(白衣・名札着用)
たばこ・アルコールはゲートウェイドラッグ
警察職員(制服着用)
【
17 分】
『自分自身の健康は自分で守ろう!』
・ロールプレイングⅠ,Ⅱは、ロールモデルを
2. 薬 物 乱 用 の 社 会 的 2.ロールプレイングⅡ『痩せたくて・・・』
示し専門家の講話の導入とする
影響を理解する
① 女友達から「痩せられる薬」と言って勧められ
・専門家の講話は 15 分以内
①薬物乱用と犯罪
る
②薬物乱用に関した
② 「ピピピー!」と笛を吹きながら、制服の警察職員
事件・事故
が登壇し、薬物乱用の社会的影響について説明 ・薬物乱用で失うもの
成長 (心身の成長)
③社会生活への影響
する
夢
(将来の夢・希望)
【
17 分】
ポイント⇒薬物乱用は犯罪
自由 (あらゆる自由)
家庭・社会生活ができなくなる
薬物乱用は犯罪グループの資金源
『大人は君たちの勇気を応援している』 ・誘惑の危険を回避する
・ハッキリ断る
3. 危 険 な 誘 い を う ま 3.ロールプレイングⅢ『親とケンカして・・・』
く断る方法について
① 夜遊びをしている友達から「気分がすっきりす ・勧めた相手にも止めるように言
う
理解する
る薬」と言って勧められる
①薬物乱用を助長す
② 誘われたときの断り方を生徒にモデリング学習さ ・SOS は身近な大人に!
る心理社会的影響
せる
②誘いに対する断り
ポイント⇒誘惑に NO!と言える勇気をもつこと
方
かけがえのない自分を大切にすること
*薬剤師、警察職員からのアドバイス
【
10 分】
⇒SOSや相談する勇気を持つ
自分自身を大切にし、 1.薬物乱用から更生しようとしている少女の手紙『白い ・担当者〔実施校〕
責任ある意志決定と
粉の恐怖』を女子生徒が朗読する
進行:教員
行 動 選 択 が 重 要 で あ 2.本教室をきっかけにして、薬物乱用問題についてさら
朗読:生徒
ることを理解させる
に考えていくように伝える
・「白い粉の恐怖」の手記を資料
ポイント⇒①薬物について正しい知識をもつ
として配布し、朗読時に黙読さ
②誘惑に NO!と言える勇気をもつ
せる
誘惑の危険を回避する
ハッキリ断る
・本教室のポイントをまとめる
勧めた相手にも止めるように言う
③かけがえのない自分を大切にする
・BGM が始まってから、出演者
【
8 分】 3.BGM を流す中、出演者紹介、生徒退場
の紹介をする
感想文を書く
感想文を書く(「教室」の内容を復習する・評価)
・簡単なものでも必ず実施する
(アンケートをとる)
断り方のロールプレイングを例に自分ならどのように断
るかを書く
学校・警察・薬剤師会が連携して実施する「薬物乱用防止教室」のためのプログラム(60 分の内容)です。 事前・事後の指導や ア
ンケート・感想文を記入する時間、児童生徒が会場に移動する時間等を考慮し、2 時限(100 分)枠での取り組みが必要です。
21
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
【参考:乱用者の手記から】
白い粉の恐怖
無職 17 歳 女性
私は、今まで警察とは全く無関係で「シンナー
他にも、誰もいないのに「殺してやる。」とか、
やガスなんかアホらしい。
」としか思わなかったの
私を馬鹿にした笑い声や赤ちゃんの泣き声などが
で誘われても断っていました。
聞こえたりしたのです。
それが、男友達に「これやってみる?」と言われ、
覚せい剤と知りながら一度ぐらいなら大丈夫と思
って「何それ?やりたい。
」と言い注射を打っても
らいました。注射を打っている途中から、吐く息
が熱く、心臓がバクバクいっていたかと思うとガ
私はこれらのことが全て幻覚だとわかっていて
も、消そうとしても消せないし、もう、怖くて、
死んでしまおうと考えたこともありました。これ
が一つの恐怖でした。
ツン!と脳みそがブッ飛ぶような感じになって急
もう一つは死の恐怖でした。私がいつものよう
に身体が軽くなり、とてもハイな気分になったの
に覚せい剤を打ってもらっていると、
「ガーン」と
でした。
いつもより急激に頭にきたと思った瞬間に倒れ込
そんな気分が忘れられず、次から次と注射を打
ったのですが、それが1日1日と恐怖へと変わっ
ていきました。テーブルの上には虫がうようよ、
空中には蝶がひらひら、そして、カギをかけてい
るはずのドアが勝手に開き、その奥には男の人3
人が私をあざ笑うように立っていて、私がドアの
方を見ると「ヤバッ」という声と共にドアが閉ま
るのです。しかし私が目をそらすと、またドアが
開いて男の人たちが現れて私をあざ笑っているの
です・・・。
私が歌を歌いながらお風呂に入っていると、ベ
ッドの方から「歌っているよ!」という甲高い女
の声がして、急いでその場に行ってみると女の人
はパッとどこかへ消えてしまい、風呂場の方を振
り返ると女の人50人位が風呂場に隠れているの
が見えるのです。私は怖くなって、「もう帰る !」
んでしまい、全てが薄ぼけて見え、物音や声が全
てエコーがかかったように聞こえ、身体が身動き
できなくなり、だんだんと意識が遠のいていった
のです。この時、一緒にいた男友達が必死で私に
呼びかけてくれたから、私はこうして生きていら
れると思うのですが、そのままだったら私は間違
いなく死んでいたんだなあと思い、この恐怖心が
抜けないのです。
今、私は社会から離れたところで反省の毎日を
送っていますが、このまま覚せい剤を止められな
かったら、生まれてくる子供に影響があったか
も・・・、私が死んでも骨さえも残らなかったんだよ
なあ・・・などと覚せい剤が身体に及ぼす害を考え
ていますし、早いうちに捕まってよかったと本心
から思っています。
今、覚せい剤をやっているみんな、覚せい剤を
とわめいて外に出ると、今度は電柱が「ナイフを
やり続けると必ずいつかは私のような思いをする
持った男」に見え、自転車に乗っている人が「や
んだよ。誰にも自分の味わったイヤな思いはさせ
あねぇ、あの子覚せい剤やっている。
」と私の悪口
たくないよ、早く止めなよ、それでも続けるつも
を言っているおばさん達に見えたのです。
りなの?
警察庁「DURG 2000」より
*薬物に無縁の少女が薬物乱用をするきっかけとなったこと、乱用が進んでいく様子、体験した幻覚
や恐怖について具体的に記載してある手記です。
プリントにして配布し、女子生徒の朗読により全員で読むと効果があります。
22
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラム(簡易型①)
学習内容
主な講演内容など
事前打ち合わせ
事
・本教室の目的を共通理解する
・役割分担する
・パンフレットの配布
・保健だより等で話題づくり
・パネル・薬物標本等資料展示について紹介する
・
「薬物乱用防止教室」の手
・薬物乱用から更生しようとしている少女の手紙『白い粉』
引きを参照する
の資料を配布
事前指導(SHR)
前
導
入
直前
・BGMを流す中、生徒入場、開会前に整列を終わる
学習内容を知る
4.ビデオ導入部の音響によるスタート
5.進行役により開会
6.薬物乱用問題は生徒にとって無関係でないことを説明
する
4.ロールプレイングⅠ『先輩からの危険な誘い』
① 先輩から「疲れがとれる薬」と言って勧められる
② 「ちょっと待って!」と叫びながら、白衣を着た薬剤
師が登壇し、薬物の害について説明する
ポイント⇒1 回でも薬物乱用になる
止められなくなる
犯された脳はもとには戻らない
たばこ・アルコールはゲートウェードラッグ
『自分自身の健康は自で守ろう!』
5.ロールプレイングⅡ『痩せたくて・・・』
① 女友達から「痩せられる薬」と言って勧められる
② 「ピピピー!」と笛を吹きながら、制服の警察職員が
登壇し、薬物乱用の社会的影響について説明する
ポイント⇒薬物乱用は犯罪
家庭・社会生活ができなくなる
薬物乱用は犯罪グループの資金源
『大人は君たちの勇気を応援している』
6.ロールプレイングⅢ『親とケンカして・・・』
① 夜遊びをしている友達から「気分がすっきりする薬」
と言って勧められる
② 誘われたときの断り方を生徒にモデリング学習させる
ポイント⇒誘惑に NO!と言える勇気をもつこと
かけがえのない自分を大切にすること
薬剤師、警察職員からのアドバイス
⇒SOSや相談する勇気を持つ
【
3 分】
1.薬物の害について理
解を深める
①薬物乱用の意味
②薬物乱用と依存性
③脳への影響
【
17 分】
2.薬物乱用の社会的影
響を理解する
①薬物乱用と犯罪
②薬物乱用に関した事
件・事故
③社会生活への影響
展
開
【
17 分】
3.危険な誘いをうまく
断る方法について理解
する
①薬物乱用を助長する
心理社会的影響
②誘いに対する断り方
【
10
分】
自分自身を大切にし、
責任ある意思決定と行
動選択が重要であるこ
とを理解させる
ま
と
め
【
3
感想文を書く
(アンケートをとる)
事
後
注)
備考
分】
4.本教室をきっかけにして、薬物乱用問題についてさら
に考えていくように伝える
ポイント⇒①薬物について正しい知識をもつ
②誘惑に NO!と言える勇気をもつ
誘惑の危険を回避する
ハッキリ断る
勧めた相手にも止めるように言う
③かけがえのない自分を大切にする
5.出演者紹介
6.生徒退場
・担当者〔実施校〕
進行:教員
・担当者〔実施校〕
進行:教員
ロールプレイング:教員,生徒
*薬物乱用を勧める役は
教員
*断る役は教員又は生徒
・担当者〔関係機関〕
薬剤師(白衣・名札着用)
警察職員(制服着用)
・ロールプレイングⅠ,Ⅱは、ロールモデ
ルを示し専門家の講話の導
入とする
・専門家の講話は15分以内
・薬物乱用で失うもの
成長 (心身の成長)
夢
(将来の夢・希望)
自由 (あらゆる自由)
・誘惑の危険を回避する
・ハッキリ断る
・勧めた相手にも止めるよう
に言う
・SOS は身近な大人に!
・本教室のポイントをまとめる
・BGMが始まってから、出
演
者の紹介をする
感想文を書く(「教室」の内容を復習する・評価)
・簡単なものでも必ず実施す
断り方のロールプレイングを例に自分ならどのように断る る
かを書く
学校・警察・薬剤師会が連携して実施する「薬物乱用防止教室」のための簡易型プログラム(50 分の内容)です。
BGM、ビデオは適宜選択する。その際、BGMについては、自分を大切にしようというメッセージ性のある曲を選択すること。
23
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
「薬物乱用防止教室」DARP 連携プログラム(中学生用簡易型②)
学習内容
主な講演内容など
・事前打ち合わせ
事
前
備考
・本教室の目的を共通理解する
・役割分担する
・保健だより等で話題づく
・事前指導(SHR)
・パンフレットの配布。
り
・資料の事前配布
・パネル・薬物標本等資料展示について紹介する。
・「薬物乱用防止教室」の
手
引きを参照する
導
学習内容を知る
入
【
3
1. 進行役により開会
分】
1 タバコ・アルコール・薬物の
・担当者〔実施校〕
2. 薬物乱用問題は生徒に無関係でないことを説明
7.
害について理解を深め
薬剤師の講話『タバコ・アルコール・薬物の害』
ポイント⇒タバコ・アルコールはゲートウェードラッグ
る
①薬物乱用の意味
ロールプレイング:教師,生徒
*薬物を勧める役は教師
止められなくなる
犯された脳はもとには戻らない
『自分自身の健康は自分で守ろう!』
用の関わり
展
12
分】
2.薬物乱用の社会的影
8.
警察職員の講話『タバコ・アルコール・薬物乱用の危険』
ポイント⇒ タバコ・アルコールと事件・事故の関わり
薬物乱用は犯罪
②薬物乱用に関した事
家庭・社会生活ができなくなる
件・事故
薬物乱用は犯罪グループの資金源
③社会生活への影響
12
『大人は君たちの勇気を応援している』
断る方法について理解
9.
② 誘われたときの断り方を生徒にモデリング学習させる
心理社会的影響
ポイント⇒誘惑に NO!と言える勇気をもつこと
②誘いに対する断り方
かけがえのない自分を大切にすること
*
分】
本教室をきっかけにして、薬物乱用問題について
さらに考えていくように伝える
動選択が重要であるこ
ま
(将来の夢・希望)
(あらゆる自由)
ポイント⇒①タバコ・アルコール・薬物について正しい知識を
とを理解させる
もつ
②誘惑に NO!と言える勇気をもつ
誘惑の危険を回避する
と
・学習の目的によってタバ
コ・アルコール・薬物のうち一つ
に絞って断り方の学習を
する
薬剤師、警察職員からのアドバイス
⇒SOS や相談する勇気をもつこと
・自分自身を大切にし、 7.
責任ある意思決定と行
夢
(心身の成長)
ロールプレイング『親とケンカして・・・』
よ」と言って(タバコ or シンナー)を勧められる
10
成長
① 夜遊びをしている友達から「気分がすっきりする
する
①薬物乱用を助長する
・薬物乱用で失うもの
自由
分】
3.危険な誘いをうまく
【
・担当者〔関係機関〕
警察職員(制服着用)
響を理解する
【
*断る役は教師又は生徒
薬剤師(白衣・名札着用)
①薬物乱用と犯罪
開
進行:教師
タバコ・アルコールの害(復習)
③脳への影響
【
・担当者〔実施校〕
1 回でも薬物乱用になる
②薬物乱用と依存性
④タバコ・アルコールと薬物乱
進行:教師
・SOS は身近な大人に!
・本教室のポイントをまとめる
・自分を大切にする気持ち
についてメッセージを送る
⇒自分の身は自分で守る
自分の健康
自分の安全
はっきりと断る
勧めた相手にも止めるように言う
め
③かけがえのない自分を大切にする
【
事
後
注)
感想文を書く
(アンケートをとる)
3
分】
8.
BGM を流す中、出演者紹介
9.
生徒退場
感想文を書く(「教室」の内容を復習する・評価)
・BGM が始まってから、出
演者の紹介をする
・簡単なものでも必ず実施
する。
学校・警察・薬剤師会が連携して実施する「薬物乱用防止教室」のための簡易型プログラム(50 分の内容)です。専門家によるミニ講
話(各 12 分)と、誘われた場合の対処法を習得する内容になっている。DARP 連携型プログラムの変形型である。
24
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
「薬物乱用防止教室」講演型プログラムの内容(例)
学習内容
事
前
主な講演内容など
事前指導(SHR)
パンフレットの配布。
パネル・薬物標本等資料展示について紹介する。
・保健だより等で話題づくり
はじめに
自己紹介⇒学校薬剤師の仕事
薬剤師の仕事
身の回りのくすり
くすりのはたらき
くすりの正しい使い方
最近の事件⇒薬物乱用の現状
乱用薬物の名称・特徴
「教室」の目的⇒薬物乱用を拒絶できる力をつける
薬物乱用の意味⇒薬物と身体
薬物と乱用
1 回でも乱用
薬物乱用と依存の悪循環
薬物乱用の現状
薬物乱用は脳に不可逆的な障害を与える
喫煙の自分・他者への影響
アルコールと健康
有機溶剤(シンナー)の害
覚せい剤の害
例 覚せい剤⇒注射もアブリも脳破壊・依存
麻薬やその他の薬物の害
青少年期と薬物乱用
薬物乱用は生活を壊す
薬物乱用者の人生(生活・家庭等)
薬物乱用が犯罪の原因となる
薬物関連の事件・事故
薬物は暴力団の資金源
薬物乱用のきっかけ→薬物は友だちのふりをして近寄
ってくる
薬物乱用は犯罪である
例 覚せい剤⇒誘うも使うも持っているだけでも犯罪
薬物乱用をキッパリ断る方法
薬物乱用は個人の問題ではない
SOS は身近な大人に !
薬物乱用のない社会をつくろう !
・「教室」の目的を示す
学校側での導入:
講師の紹介を兼ねて、
「教室」の目的を示す
場合あり
・講師が何者であるかを紹介
① 1 回でも薬物乱用になる
② 薬物乱用で犯された脳はもとには戻らない
③ 薬物乱用は家庭を壊し、まともな社会生活ができなく
なる
④ 薬物乱用は社会を壊し、暴力団などの犯罪グループをは
びこらせてしまう
⑤ 薬物乱用は犯罪である
①薬物について正しい知識をもつ
②誘惑に NO!と言える勇気をもつ
③かけがえのない自分を大切にすること
『大人は君たちの勇気を応援している』
『大人は君たちを支援したいと願っている』 など
・薬物乱用で失うもの
成長 (心身の成長)
夢
(将来の夢・希望)
自由 (あらゆる自由)
導
入
【
薬物乱用とは
分】
乱用薬物の特徴
薬 物乱 用の 心身 への
影響
展
薬 物乱 用と 社会 的問
題
開
薬物乱用防止の対策
【
分】
薬物乱用の問題点
ま
と
め
事
後
備考
薬物乱用防止のポイント
薬 物乱 用防 止を 誓う
子 ども たち への メッ
セージ
【
分】
感想文を書く
(アンケートをとる)
感想文を書く(「教室」の内容を復習する・評価)
・1 回でも乱用
・1 回だけ・・が依存の始ま
り
・依存 → また乱用したくな
る
止められなくなる
薬物中心の生活
・障害を受けた脳はもとには
戻らない→精神病院
・急性中毒 →墓場
・講演の中で取り上げる薬物
は適宜選択する
・健康な生活を送るための行
動選択
・薬物乱用者は家庭生活を破
壊し社会 生活を営めなくな
る
・薬物乱用は犯罪や社会的悲
劇の原因となる→刑務所
・自分を大切にする気持ちの
育成
⇒自分の身は自分で守る
自分の健康
自分の安全
・仲間のためにできること
⇒断る勇気をもつことから
・ポイントを絞り話すこと
・あなた(講師)のことばでメッセー
ジを送ること
・簡単なものでも必ず実施
25
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
保護者向け「薬物乱用防止講演会」講演内容の例
学習内容
事
前
主な講演内容など
講演会の案内
・保健だより等で話題づくり
はじめに
導
入
【
展
開
乱用薬物の特徴
薬 物乱 用の 心身 への
影響
薬 物乱 用と 社会 的問
題
薬物乱用防止の対策
分】
薬物乱用の問題点
ま
と
め
薬 物乱 用か ら子 ども
たちを守るには
【
事
後
講演会の報告
・学校薬剤師と薬物乱用防止啓発
・学校薬剤師の仕事⇒学校環境衛生に関わること
健康教育に関わること
・社会情勢 ⇒ 薬物乱用の現状など
・本講演のテーマを示す
・講師が何者であるかを紹介
・文科省の示す健康教育の柱
① 感染症予防
② 薬物乱用防止
③ 環境・食
・薬物乱用の意味⇒1 回でも乱用
薬物乱用の 3 要因
ヒト
・薬物乱用と依存の悪循環
・薬物乱用は脳に不可逆的な障害を与える
薬物
環境
シンナー,覚せい剤などの影響
喫煙の自分・他者への影響
アルコールと健康
・青少年期と薬物乱用
<青少年の 6 つの危険行動>(CDC)
① 故意または不慮の事故に関する行動
② 喫煙
③ 飲酒および薬物乱用
④ 望まない妊娠,HIV を含む STD に関する行動
⑤ 不健康な食生活
⑥ 運動不足
・薬物乱用は生活を壊す
・薬物乱用が犯罪の原因となる
薬物関連の事件・事故
薬物は暴力団の資金源
薬物乱用のきっかけ→薬物は友だちのふりをして近寄
ってくる
・薬物乱用は犯罪である
例 覚せい剤⇒誘うも使うも持っているだけでも犯罪
薬物乱用をキッパリ断る方法 ⇒ 大人はお手本
薬物乱用は個人の問題ではない
『SOS は身近な大人に』のメッセージを送ろう !
薬物乱用のない社会をつくろう !
・1 回でも乱用
・1 回だけ・・が依存の始ま
り
・依存→また乱用したくなる
止められなくなる
薬物中心の生活
・障害を受けた脳はもとには
戻らない → 精神病院
・急性中毒 → 墓場
・講演の中で取り上げる薬物
は適宜選択する
分】
薬物乱用の現状
【
備考
分】
① 1 回でも薬物乱用になる
② 薬物乱用で犯された脳はもとには戻らない
③ 薬物乱用は家庭を壊し、まともな社会生活ができなくな
る
④ 薬物乱用は社会を壊し、暴力団などの犯罪グループをはび
こらせてしまう
⑤ 薬物乱用は犯罪である
①身近な大人は大人のモデル
② 大人が、はっきり”NO! DRUGS”を示す
③ 大人が、断り方を示す
④ 大人が、薬物について正しい知識をもつ
⑤ 子どもがドラッグにはまった場合、親の愛情と叱責だけで
は助け出せないことを知る
⑥ 適切な相談先を知る
内容の確認、参加しなかった保護者への啓発
・健康な生活を送るための行
動選択
・薬物乱用者は家庭生活を破
壊し社会 生活を営めなくな
る
・薬物乱用は犯罪や社会的悲
劇の原因となる→ 刑務所
・自分を大切にする気持ちの
育成⇒自分の身(健康・安全)
は自分で守る
・仲間のためにできること
・日常生活で上手な断り方を
見せる
⇒訪問販売の断り方など
・薬物乱用で失うもの
成長 (心身の成長)
夢
(将来の夢・希望)
自由 (あらゆる自由)
・ポイントを絞り話すこと
・大人の本気と愛情を示すこ
との重要性を訴える
・あなた(講師)のことばでメッセー
ジを送ること
・保健だよりなどで周知
26
薬物乱用防止啓発事業
Ⅹ.
指導者用資料集
各論
1.薬物と薬物乱用
Q1.
「薬物」とは・・・?
A:「薬物」とは、生体に対して何らかの身体的、精神的作用を示す化学物質に対する総称です。
このうち病気の治療や予防を目的として使われる薬物が「医薬品」と称されます。
Q2.薬物乱用とは・・・?
A:薬物乱用とは、医薬品を医療目的から逸脱して使用することや用量・用法をまもらずに使用す
ること、医療目的のない薬物を不正に使用することを言います。
つまり、薬物乱用とは社会的許容(法、習慣、宗教、医療などの規範)から逸脱した目的や方法で
自己使用することであり、たとえ 1 回だけの使用であっても乱用にあたります。
Q3.乱用される薬物とは・・・?
A:乱用される薬物の多くは、中枢神経系に作用し精神に著しい影響を与えること、急性中毒を引
き起こし直接死に至らしめる作用をもつこと、依存性があり連用すると薬物依存症を引き起こす
こと、様々な法律で規制されていることから密売されることなどが特徴です。
中枢神経系に対する作用から、興奮作用をもたらす薬物と抑制作用をもたらす薬物とに大別され
ます。(作用と依存の特徴については後述)
表 わが国で乱用されている主な薬物
区分
乱用されている主な薬物名
国内規制
密造品
覚せい剤(アンフェタミン、メタンフェタミン)
コカイン、ヘロイン、MDMA、LSD、AMT、5MeO-DIPT
マジックマッシュルーム
大麻草、大麻樹脂
危険ドラッグ
覚せい剤(覚せい剤取締法)
麻薬(麻薬及び向精神薬取締法)
麻薬原料植物(同、以下麻向法)
大麻(大麻取締法)
指定薬物(薬事法)
医薬品
リタリン、ニトラゼパム、ハルシオン(トリアゾラム)、デパス
ケタミン
セデス、ナロン、ブロン、ウッド
向精神薬(麻向法)
麻薬(麻向法)
一般用医薬品(薬事法)
トルエン、ブタンガス
亜硝酸ブチル、
2C-I、AM2201、MAM-2201
亜硝酸イソブチル、APICA、AM694、AM1220
パキシル、
リタリン、ハルシオン、
メラトニン製剤、ダイエット系健康食品、プロザック
医薬用外劇物(毒劇物取締法)
指定薬物(薬事法)
麻薬(麻向法)
指定薬物(薬事法)
処方せん薬(薬事法)
向精神薬(麻向法)
未承認医薬品(薬事法)
ハーブ、お香、アロマオイル、アロマソリューション、芳
香剤、バスソルト、ビデオクリーナー、植物肥料
指定薬物(薬事法)
工業薬品
インターネットで
販売され
た薬の例
一般雑貨
*近年、一般雑貨を装い販売される乱用薬物が問題となっている。
外見は自然素材(草、葉)のようで、ハーブやお香と称されているが、危険ドラッグ(指定薬物)となる化学
物質がふりかけられていて、まったり系、明るくなる系、H 系などと説明され販売されています。
法律改正による規制強化で、販売していた店舗が摘発されましたが、インターネットでの販売はあとを絶た
ず、動向が注視されています。
*自家製麻薬「クロコダイル」
ロシアの若者の間で爆発的に流行している自家製麻薬で、正式名称は「デソモルヒネ」
。作用は、ヘロイン
に似た快感と多幸感、強い依存性があり、依存症になると 1~2 年で死に至ると言われています。
原料が低価格で簡単に入手できること、化学の知識がなくてもインターネット上のサイトのレシピにより簡
単に密造できることから流行したといわれます。すでに、その乱用はロシア国内にとどまらない状況です。
注射した付近の手足の皮膚が緑に変色し鱗のようになることから「クロコダイル」と呼ばています。
27
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q4.乱用薬物の密売とその手口とは・・・?
A:我が国では、従来から暴力団等の犯罪組織が覚せい剤の不正取引の中核的な存在であり、組織的
に密売を行い、資金源としていました。
不良外国人(特に、イラン人)による薬物密売組織が巧妙な手口で覚せい剤の密売に深く関与して
いまが、近年は減少傾向にあります。
薬物の密売は、携帯電話やインターネット等を利用して末端乱用者からの注文を受け、その引き
渡しにあたっては、接触場所を指定して落ち合い代金と引き換えたり、直接接触せずに指定した
口座に代金を送金させたうえで宅配便等を利用して送付したり、警察の取締りから逃れるため、
その手口はますます巧妙になっています。
また、密輸入の手口も巧妙になってきていて、従来の船舶や国際郵便・国際宅配便を利用した
密輸入のほか、航空機を利用した「運び屋」による密輸入が中心となっています。一般人を運び屋
にした密輸、中には乱用薬物とは知らずにアルバイト感覚で「運び屋」をさせられていたケースや、
恋人に頼まれて「運び屋」をさせられていたケース、さらには、命の危険も顧みず薬物を体内に飲
み込んだり、埋め込んだりして「運び屋」をしたケースもあったといいます。
最近では、水際での摘発を逃れるため、密輸ルートの分散化や手口の一層の巧妙化を進めている
ことがうかがわれています。
Q5.乱用薬物のいろいろな名前とは・・・?
A:薬物乱用は、女性や子どもを含む一般人の間にも拡大してきています。
前述したように乱用薬物の密売手口はますます巧妙になり、売買される薬物も様々な名前で呼ば
れ、薬物の危険性や薬物使用に対する抵抗感を覆い隠し、おしゃれ感覚、ファッション感覚で薬
物乱用を増大させています。
また、最近乱用が問題となっている脱法ハーブや脱法ドラッグと呼ばれる薬物は、一般雑貨とし
て日常生活の中で使用されているものに似せて作られることや、健康イメージ、癒しイメージ、
合法イメージ(実際には違法)をもたせることにより、薬物の危険性や薬物使用に対する抵抗感を
取り除き、乱用へと誘導するゲートウェードラッグとして新たな薬物乱用者を生み出しています。
乱用薬物の主な俗称を下表に示しましたが、これはほんの一部です。
表 乱用薬物のいろいろな俗称
乱
用 薬 物
覚せい剤
主
な
俗
称
エス、スピード、アイス、シャブ、クスリ、クリスタル、
クランク、アッパーズ、ブラック・ビューティーズ、
ダイエット・ピルズ
有機溶剤(シンナー、トルエン) アンパン、ジュントロ、
大麻
ハッパ、マリファナ、グラス、チョコ、クサ、ハシッシュ
ヘロイン
ペー、チャイナホワイト、ジャンク
デソモルヒネ
クロコダイル
コカイン
コーク、スノウ、クラック
LSD
エル、アシッド
MDMA(錠剤型合成麻薬)
MDA
メチルフェニデート(リタリン)
PCP
サイロシビン等を含有するきの
こ類
エクスタシー、バツ、X、罰
ラブドラッグ
合成覚せい剤、Vitamin R、skippy
エンジェルダスト
ケタミン
K、スペシャルK、スーパーK、カット
危険ドラッグ(指定薬物)
合法ドラッグ、合法ハーブ(お香、ハーブ)、合法アロマ(アロマオイル)、芳香
剤、バスソルト、ビデオクリーナー、植物肥料
マジックマッシュルーム
28
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q6.薬物乱用するとどうなるのですか・・・?
A:乱用薬物は、中枢神経を興奮させたり抑制したりして、多幸感、爽快感、酩酊、不安や苦痛の
除去、幻覚等をもたらす作用があります。使用した時の快感を得るため、使用を中止したことに
よる苦痛(退薬症状)から逃れるため、薬物を強く求めるようになる「依存」が形成されます。
さらに、薬物を繰り返し使用しているうちに同じ量では効かなくなる「耐性」が生じ、以前は
効果の得られなかったような少量でも幻覚や妄想等の精神症状が現れる「逆耐性」も生じます。
乱用を止めても、睡眠不足や過労、ストレス、飲酒等をきっかけに幻覚や妄想等の精神症状が突
然現れること(フラッシュバック)があり、一生その恐怖から逃れることはできません。
以上は、薬物を乱用した本人にみられる症状である。
薬物乱用の影響は乱用した本人にだけみられるものではなく、社会的にも大きな影響があります。
例えば、薬物関連の様々な犯罪(薬理作用・入手目的・取引に起因するものなど)が引き起こされ
たり、社会経済的損失(生産性の低下、労働力の減少、犯罪被害の拡大、乱用者の治療費の増大
など)が大きくなったり、個人と社会に極めて重大な影響を与ええます。
このように個人的にも、社会的にも多大なダメージを与えることから、世界中で薬物乱用撲滅に
取り組んでいます。
Q7.薬物乱用は1回だけでもダメですか・・・?
A:薬物乱用は、1回だけでもダメ。薬物乱用は犯罪。
薬物を乱用すると身体的・精神的障害とともに様々な変化が現れます。身体の成熟期であり、人
格の形成期である青少年期(思春期)に薬物を乱用すると性格や人格の変化が大きく現れたり、人
格形成が障害されたりして人生そのものに大きな影響を及ぼします。
 情動面での変化・・・イライラして落ち着きがない、他人の立場を理解しない(わがまま)、無
責任、責任転する、短気で我慢ができない、感情のコントロールがきかない
 意欲面での変化・・・無気力、だらしがない、目標意識がもてない、意欲がわかない、対人関係を
避ける
 社会的不適応・・・・道徳心の低下、平気で嘘をつく、言葉づかいが乱暴になる、金遣いがあら
くなり借金するようになる、物や人に当たる、暴力をふるう
Q8.薬物乱用による身体の障害にはどんなものがありますか・・・?
A:図に主な症状を示す。
(萎縮、幻覚、妄想)
(幻覚、妄想、
フラッシュバック)
(視力低下、失明)
(咳)
(黄疸)
(タンパク尿)
違法ドラッグ
(貧血)
意識消失、幻覚、視覚
過敏、聴覚過敏、精神
運動興奮、見当識障害
など薬物の種類ごと
に様々な症状がある
(嘔吐)
(生理不順、
生殖能力低下)
MDMA
精神障害
 錯乱、憂鬱、幻覚
 睡眠障害、記憶障害
血圧上昇、心機能不全
脳卒中、けいれん
末梢神経
(手足のふるえ、しびれ、麻痺)
29
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q9.薬物乱用により障害を受けた脳は治らないのですか・・・?
A:薬物乱用により障害を受けた脳は、元には戻らない。繰り返し乱用することで、精神病の症状が
現れるようになる。
Q10.薬物乱用による精神病症状はどのようにして固定するのですか・・・?
A:薬物乱用の障害は一生続きます。薬物乱用により幻覚や妄想などの精神病の症状が現れると、
治療により表面上は回復したように見えても、これらの症状が起こりやすい下地が残ってしまい
ます。乱用を止めて普通の生活に戻っても、ささいなストレス(疲労・不眠)や飲酒などにより突
然、
、幻覚や妄想などの精神病の症状が再燃することがあります。
これをフラッシュバック(自然再燃)現象と呼びます。
治療と再燃を繰り返すうちに症状が固定化して、薬物性精神病となってしまいます。
症状
幻覚
被害妄想
症状発現レベル
症状
症状
症状
覚せい剤を
使用する前
*精神科医療施設に通院・入院した薬物関連障害者情報 848 症例の分析
(2011 年「薬物乱用についての調査結果概要から」国立精神・神経医療研究センター)
乱用薬物名
%
覚醒剤
42.0
違法ドラッグ
16.3
抗不安薬・睡眠薬
15.1
有機溶剤
7.7
多剤
7.0
鎮咳薬
2.7
大麻
2.5
鎮痛薬
1.4
その他
7.0
通院・入院などの原因薬物は、覚醒剤、違法ドラッグ、睡眠薬・抗不安薬の順に多くなっています。
最近 1 年間に使用経験のある薬物は、睡眠薬に次いで違法ドラッグが多くなっています。
違法ドラッグによる患者の平均年齢は 27.7 歳。
覚醒剤、睡眠薬・抗不安薬では 40 歳前後。
30
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q11.薬物乱用の現状は・・・?
A:
表
覚取法
覚取法
薬物事犯検挙人員数の推移 (警察庁の統計資料)
シンナー等
有機溶剤
シンナー
うち
等
少年
大麻法
うち
少年
大麻法
うち
少年
あへん法
アヘン法
麻向法うち
MDMA 等
うち
うち
MDMA
少年
麻向法
うち
少年
麻向法
うち
少年
H12 18,942
1,137
1,151
102
5,136
3,417
65
0
224
7
69
4
H13 17,912
946
1,450
176
4,724
3,071
44
1
241
11
102
5
H14 16,771
745
1,748
190
4,423
2,751
43
0
261
18
117
7
H15 14,624
524
2,032
185
4,895
2,835
50
0
465
38
256
29
H16 12,220
388
2,209
221
4,057
2,205
59
0
560
80
417
67
H17 13,346
427
1,941
174
2,783
1,368
12
0
504
64
403
63
H18 11,606
289
2,288
187
2,142
841
27
0
519
36
370
31
H19 12,009
305
2,271
179
1,802
659
41
1
469
30
296
24
H20 11,025
249
2,758
227
1,428
479
14
0
491
31
281
25
H21 11,655
257
2,920
211
1,215
386
28
0
344
14
107
8
H22 11,993
228
2,216
164
871
225
21
0
299
33
61
1
H23 11,852
183
1,648
81
561
102
12
0
256
19
77
H24 11,577
148
1,603
66
451
74
6
0
280
7
81
H25 10,909
124
1,555
59
382
32
9
0
478
8
105
H26 10,958
92
1,761
80
271
14
24
0
378
6
62
H27 11,022
119
2,101
144
7
3
0
398
11
45
表 岩手県の薬物事犯検挙人員数の推移 (岩手県警察資料)
覚取法
覚取法
シンナー等
有機溶剤
シンナー
うち
等
少年
大麻法
うち
少年
大麻法
うち
少年
あへん法
アヘン法
麻向法うち
MDMA 等
うち
うち
MDMA
少年
麻向法
うち
少年
麻向法
うち
少年
H12
61
3
2
1
20
10
30
0
0
0
0
0
H13
47
4
3
0
19
11
2
0
3
0
H14
50
0
3
1
35
16
0
0
0
0
0
0
H15
26
2
12
1
19
14
0
0
2
0
2
0
H16
38
1
2
0
10
2
1
0
2
1
2
1
H17
53
2
4
0
15
5
0
0
1
0
1
0
H18
48
0
7
0
0
0
0
0
1
0
1
0
H19
51
3
6
1
5
0
0
0
0
0
0
0
H20
30
0
8
0
0
0
0
0
0
0
0
0
H21
23
0
14
0
0
0
0
0
0
0
0
0
H22
37
1
10
1
1
0
0
0
1
0
0
0
H23
34
0
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
H24
34
0
10
0
0
0
0
0
0
0
0
0
H25
19
1
3
0
0
0
0
0
0
0
0
0
H26
29
0
4
0
0
0
0
0
2
0
0
0
H27
30
0
6
0
1
0
0
0
2
0
0
0
31
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
【参考】
中学生における薬物乱用の生涯経験率(1996-2014)
大麻
覚せい剤
有機溶剤
危険ドラッグ
年
いずれか
1996
0.6
0.4
1.1
1.5
1998
0.7
0.5
1.3
1.8
2000
0.4
0.4
1.3
1.5
2002
0.5
0.4
1.2
1.6
2004
0.5
0.5
1.1
1.4
2006
0.4
0.4
0.9
1.2
2008
0.3
0.3
0.8
1.0
2010
0.3
0.3
0.7
0.9
2012
0.2
0.2
0.5
0.2
0.8
2014
0.2
0.2
0.7
0.2
1.0
出典:平成26 年厚生労働科学研究 喫煙・飲酒・薬物乱用についての全国中学生意識・実態調査
大麻
覚せい剤
危険ドラッグ
いずれか
厚生労働研究による喫煙・飲
酒・薬絶乱用についての全国中
学生意識・実態調査(19962014 年)から「中学生におけ
る薬物乱用の生涯経験率(%)」
を左図に示します。
2012 年まで減少傾向をしめ
していた薬物乱用ですが、その
後は覚せい剤こそ横ばいを示
しているものの、大麻は増加傾
向を示しています。
2012 年からは危険ドラッグ
の経験率も 0.2%と、薬物の多
様化は中学生にも影響してい
ることがわかります。
社会情勢に合わせた薬物乱用
防止啓発が求められます。
有機溶剤
2.0
1.8
1.6
1.4
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1996 1998 2000 2002 2004 2006 2008 2010 2012 2014
主要な国の薬物別生涯経験率(%)
生涯経験率(%) 覚せい剤
生涯経験率(%) 大麻
生涯経験率(%) MDMA
生涯経験率(%) コカイン
45.0
40.0
35.0
30.0
25.0
20.0
15.0
10.0
5.0
0.0
ドイツ
フランス
イタリア
イギリス
アメリカ
日本
左図は、主な国の薬物別生涯
経験率のグラフです。覚せい
剤、アメリカ・日本はメタンフ
ェタミン。その他の国はアンフ
ェタミンの生涯経験率です。
日本における薬物乱用は、他
の主要国に比べると低い水準
にあるが、検挙人員や生涯経験
率から増加傾向にあります。
薬物乱用防止啓発事業を推
進し、ドラッグフリーの社会を
目指すことが重要です。
EMCDD(欧州薬物・薬物依存
監視センター)資料、HHS(米国
保険社会福祉省)資料、厚生労働
科学研究(薬物使用に関する全
国住民調査)より作成。
32
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q12.薬物乱用の歴史は・・・?
A:薬物使用の歴史は古く、紀元前にまでさかのぼりますが、喫煙、飲酒の害や薬物乱用が社会的問
題として取り上げられるようになったのは 1950 年代以降であり、主な動きを下表に示します。
表
1800 年以前
 1492 年コロンブスがメキシコ
からスペインへたばこを持
ち帰る
 16-17 世紀欧州ではた
ばこは万能薬とされた
 1543 年鉄砲とともに
たばこが日本に伝来
 1570 年代喫煙習慣は
急速に広まり、葉たばこ
た
の栽培が米栽培の妨げ
ば
になったため、キセル狩
こ
り(豊臣秀吉)、禁煙令(徳
川家康)が出されたが効
果はなかった。
 1716 年禁煙令を解除、
開墾による葉たばこ生
産の奨励(徳川吉宗)
 1713 年 貝原益軒「養
生訓」でたばこの害や習
慣性について記述
 紀元前 3000 年頃 メソポ
タミアでワイン、ビール製造
 紀元前 400 年頃 ギリシャ
ヒポクラテスがアルコール精神病
の 1 種を記載
 6-7 世紀マホメット禁酒の掟
を定める
ア  8 世紀アラビアでアルコールが抽
ル
出される
コ

712 年 日本 古事記(酒
ー
の醸造の記載)献上
ル
 811 年日本 百姓禁酒令
 1141 年 日本最古の酒
蔵が酒造りを始めた
 1200 年頃 鎌倉時代
飲み屋出現
 1696 年日本 徳川綱吉
「酒乱取締法」制定
有
機
溶
剤
喫煙、飲酒、有機溶剤(シンナー)問題の歴史
1800 年代
1900 年~2000 年代
 1828 年たばこ葉からニ
コチン単離
 1856 年クリミヤ戦争を契
機に紙巻たばこ(シガレット)
発展
 1888 年日本「煙草税
則」による税の徴収を実
施
 1889 年 ニコチンの自律神
経への作用発見
 1898 年 日本「煙草専
売法」制定
 1900 年 日本で未成年者喫煙禁止法施行
 1962 年 英国王立内科学会報告書「喫煙と健康」
 1966 年 米 すべての紙巻たばこの包装に健
康警告表示
 1969 年 日本厚生省児童局長通知
「児童の喫煙に関する啓発指導の強化」
 1971 年米ラジオ、テレビによる紙巻たばこ広告禁止
 1975 年 WHO 専門委報告「喫煙と健康に及ぼす
影響」
 1985 年 日本 たばこの専売制度廃止
 1987 年 日本公衆衛生審議会報告 (たばこ白
書)煙の有害性やがんへの影響などが明らかにさ
れる。
 2003 年 WHO 総会「たばこ規制枠組条約」採択
日本、健康増進法施行
 2004 年 日本「たばこ規制枠組条約」批准
 2005 年 「たばこ規制枠組条約」発効
 2006 年 日本 健康保険によるニコチン依存症患者
の治療開始
 1849 年 Magnus
Huss が 「 Alcoholism:
慢性アルコール中毒」の概念
提唱
 1881 年 Wernicke がア
ルコール脳症を記載
 1893 年 米で禁酒連盟
設立
 1800 年代から 日本
居酒屋が多くみられる
ようになる
 1875 年日本で酒類税
則制定
 1890 年日本で禁酒同
盟設立
 1902 年 日本 酒税が歳入の 38.6%を占める
 1920 年 米で禁酒法施行。酒の密造、ギャングの
横行、一般市民の遵守精神の退廃を招く
 1922 年 日本で未成年者飲酒禁止法制定
 1933 年米で禁酒法撤廃
 1935 年米でアルコール中毒患者自助グループ AA 設立
 1952 年 Jellinek「アルコール症は疾病である」と提唱。
道徳モデルに変って疾病としてとらえた
 1961 年日本で「酒によって公衆に迷惑をかける
行為の防止等に関する法律」制定
 1968 年日本で酒の自動販売機
 1970 年米で国立アルコール乱用・依存研究所設立
 1976 年 WHO がアルコール依存症の概念を提唱
日本厚生省「アルコール中毒診断基準」をま
とめる。アルコール症が疾病として認知される
 2003 年日本「健康増進法」施行
 1934 年ガソリン吸引による中毒症状事例が報告
 1959 年北米全土で「接着剤嗅ぎ」流行
 1960 年頃日本「シンナー遊び」流行し始める
 1967 年日本 ラッカーシンナー吸引で 5 名死亡の報道
 1983 年有機溶剤乱用で検挙・補導者数6万人近
 1984 年岩手県青少年薬物乱用防止啓発事業開
始
 2006 年有機溶剤事犯者数が減少し、大麻事犯者
数が上回る
33
薬物乱用防止啓発事業
表
モ
ル
ヒ
ネ
・
ヘ
ロ
イ
ン
コ
カ
イ
ン
1800 年代
 紀元前 4000 年頃 中
東スメリア地方 ケシの抽出物
に関する記録
 紀元前ギリシアで薬として
使用
 16 世紀欧州でアヘンチンキと
して広く使用
 1805 年 モルヒネが単離
され、鎮痛薬として利用
 1853 年皮下注射針発
明によりモルヒネの利用拡
大
身体依存症の患者確認
 1875 年 ヘロイン合成、商
品化、依存毒性が発現
 アヘン戦争
 1859 年 伊 神経学
者マンデガッツァはコカ葉の効
用を本にし、使用を推奨
 1860 年 コカインが単離
される
 フロイトがコカインを賛美
 1885 年コカイン入りコーラ
発売
 1887 年アンフェタミン合成
 1893 年 日本でメタンフェ
タミンが合成される
覚
せ
い
剤
大
麻
薬物乱用問題の歴史
1800 年以前
 紀元前インカ帝国で使用
 1533 年 スペインがインカ帝
国を征服、コカ葉を利用し
てインディアンに過酷な労働
を強いた
 紀元前宗教儀式に利用
 古代、鎮痛薬として利用
 17-18 世紀大麻喫煙が
ヨーロッパで流行
指導者用資料集
 1839 年 エジプト リウマ
チ、喘息、片頭痛治療に
利用
 1840 年 北アフリカ 大
麻樹脂チフス疫病に効果
 1889 年 フランス 大麻の
媚薬効果を記述
 1889 年 イギリス 麻薬
中毒患者治療に用いる
1900 年~2000 年代
 欧米でヘロインの乱用拡大
 世界各地でヘロイン密造所が乱立
 第二次世界大戦後ヘロインが最大の麻薬問題となる
ヘロイン中毒者激増
 1960 年代前半日本でヘロイン乱用拡大
 ヘロイン注射乱用とエイズの拡大との関係が指摘
 1900 年 当初コカイン乱用拡大(欧米)
コカインの危険性が認識されはじめる
 1914 年コカインを麻薬取締法で規制(米)
 1970 年コカイン乱用再び増加、鼻吸引乱用が主流
 1985 年クラック登場、吸引乱用流行
 1989 年米-コロンビア ”コカイン戦争”
 1990 年日本でコカンイ押収量急増
 第二次世界大戦中、日本で軍需労働に使用(「戦力
増強剤」「突撃錠」「猫目錠」「ヒロポン」)
 1954 年史上最高の覚せい剤事犯検挙者数記録
 1970 年代スウェーデンでアンフェタミン乱用拡大
 1985 年以降米西海岸でメタンフェタミン大流行
 1989 年ハワイで覚せい剤の新種アイス登場
 覚せい剤注射乱用とエイズの拡大との関係が指摘
 1929 年 アメリカ 16 州で大麻禁止
 1947 年 日本 他合間取締法規則制定
 1940 年-50 年代 米で大麻乱用始まる
 1960 年 ベトナム戦争後ヒッピーらの間でマリファナ流行
 1961 年 国連麻薬委 大麻が国際的規制を受ける
 1980 年マリファナ体験者 3,000 万人超、乱用深刻化
 1986 年インドネシア 世界麻薬追放宣言
 2000 年以降 日本で大麻乱用が増加




そ
の
他















1940 年 LSD 合成
1960 年代 LSD アメリカで大流行
1980 年代欧米で PCP、MDMA 等の乱用
1960 年以降日本で青少年のシンナー乱用が社会問題
となる
2000 年以降向精神薬の乱用が増加
2001 年 GHB、4-MTA 麻薬指定
2002 年マジックマッシュルーム麻薬原料植物指定
2003 年アミネプチン、TFMPP、BZP 麻薬指定
2005 年 5-Meo-DIPT、AMT 麻薬指定
2006 年 2C-T-7、MBDB、3CPP、TMA-2 麻薬指
定
2007 年ケタミン、メチロン麻薬指定
2008 年 2C-T-2、2C-T-4、2C-I 麻薬指定
2009 年 N-OH MDMA 麻薬指定
2009 年薬事法改正、違法ドラッグ「指定薬物」として
規制
2011 年脱法ハーフの乱用が社会問題となる
2012 年違法ドラッグ乱用により、交通事故等の他害
行為が社会問題となる。
2013 年指定薬物の包括指定が開始、規制強化。
2014 年指定薬物の所持・使用の禁止等取締強化
2014 年「違法ドラッグ」⇒「危険ドラッグ」
34
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q13.ドーピングも薬物乱用・・・?
A:ドーピングとは、競技能力を向上させる可能性がある手段(禁止薬物あるいは禁止方法)を不正
に使用することであり、ドーピングを目的とした薬物使用は薬物乱用にあたります。
ドーピングに使用される薬物には、興奮剤(覚せい剤、コカインなど)、麻薬性鎮痛薬、筋肉増強
ホルモン(蛋白同化ホルモン)、利尿剤等があります。これら薬物の不正使用は、依存性をはじめ
とするさまざまな副作用が、競技者やスポーツ愛好者の健康に深刻な影響を及ぼします。
ドーピングが禁止される理由
① 競技者の健康を害する (不正に使用される薬物および方法の副作用等による害の防止)
② フェアープレー精神に反する (競技者の基本的権利の保護、公平性、平等性の促進)
③ 反社会的な行為である (薬物乱用防止、青少年への悪影響の防止)
ドーピングの定義 (WADA 規定)
① 競技者の身体からの検体に禁止物質が、その代謝産物あるいはマーカーが熄風剤すること。
② 禁止物質、禁止方法を使用する、または仕様を企てること。
③ 正式に通告された後で、正当な理由なく、検体採取を拒否すること。
④ 競技会外検査に関連した義務に違反すること。具体的には、居所情報を提出しないことや連
絡された検査に来ないこと。
⑤ ドーピング・コントロールの一部を改ざんすること、改ざんを企てること。
⑥ 禁止物質および禁止方法を所持すること。
⑦ 禁止物質・禁止方法の不正取引を実行すること。
⑧ 競技者に対して禁止物質や禁止方法を投与・使用すること、または投与・使用を企てること、
アンチ・ドーピング規則違反を伴う形で支援、助長、援助、教唆、隠蔽などの共犯関係があ
ること、またはこれらを企てる行為があること。
ドーピングの歴史
1865 年 アムステルダム運河での水泳大会で初めて薬物が使用される。
1886 年 ボルドー~パリ間 600Km 自転車レースにおいて興奮剤(トリメチル)の過剰投与を受けた
選手が死亡。ドーピングによる初の死亡例。
1910 年 最初のドーピング検査実施(対象:競走馬)
1934 年 アンフェタミンが合成され、興奮作用が科学的に確認される。
1956 年 ツール・ド・フランスの自転車選手の 20%が覚せい剤(アンフェタミン)陽性となる。
1960 年 ローマオリンピックでアンフェタミンを投与されたデンマークの自転車選手が競技中に死
亡。
1968 年 グルノーブル冬季オリンピック、メキシコオリンピックで正式にドーピング検査実施される。
対象薬物:麻薬、覚せい剤、興奮剤など 30 種類の習慣性薬物
1979 年 モントリオールオリンピックからは筋肉増強剤(蛋白同化ステロイド)の検査可能になる
1986 年 「抜き打ち」ドーピング検査実施。
1988 年 「ドーピング」の定義拡大(薬物使用だけでなく、不正行為も含まれるようになる)
1998 年 ツール・ド・フランスでエリスロポエチンが多数発見され問題となる
1999 年 世界アンチ・ドーピング機構(WADA)設立
2000 年 シドニーオリンピックからエリスロポエチン使用を検査するため血液検査導入される
2001 年 日本アンチ・ドーピング機構(JADA)設立
2003 年 国民体育大会にドーピング検査が導入される
2004 年 アテネオリンピックで男子ハンマー投げの選手が尿検体のすり替えと検査拒否により金メ
ダルを剥奪される
2006 年 ユネスコ スポーツにおけるドーピングの防止に関する国際規約締結
2007 年 マドリードにてドーピング防止世界会議開催
文部科学省により「スポーツにおけるドーピングの防止に関するガイドライン」策定
日本陸上競技選手権大会において、国内大会として初めて血液ドーピング検査を導入
2008 年 JADA 「公認スポーツファーマシスト制度」創設
2009 年 世界アンチ・ドーピング規定改訂
35
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
2.薬物依存
Q14.薬物依存とは・・・?
A:乱用される薬物の最も恐ろしい特徴は、何度も繰り返し摂取したくなる「依存性」をもってい
ることです。乱用される薬物は、「1回ぐらいなら…」、
「自分は意志が強いから大丈夫・・・」
、
「いつでもやめられる」と思っていても、また使用したくなり乱用を繰り返し、その結果薬物使
用に関わる欲求を自己コントロールできないばかりか、自力では止められない状態になります。
それを「薬物依存」といいます。
乱用が繰り返されるのは、単に「快感を得るため」だけでなく、薬物が消失するために起こる
集中力の低下やイライラ、不安感等から逃れるため、つまり「不快感を回避するため」に薬物
に頼らざるを得なくなり、薬物なしではいられなくなります。
「薬物依存」の定義 (WHO)
1964年の WHO の依存性薬
物に関するテクニカルレポートで
は、薬物の反復自己投与の状態を
「薬物依存」に統一することを勧告
し、1969年のレポートで「薬物
依存とは、薬物と生体の相互作用の
結果生じた生体の精神的あるいは
身体的状態で、その薬物の効果を体
験するため、あるいはその薬効が切
れたときの不快から逃れるために、
その薬物の使用を強迫的に求め、あ
るいは使いたいという欲求を持続
的に有する行動や反応によって特
徴づけられること」と定義していま
す。
薬物依存には、精神依存にとどま
るものと、それに加えて退薬(離脱、
禁断)症状の現れる身体依存に至る
ものとに分けられます。乱用される
薬物のほとんどが精神依存を形成
しますが、身体依存を形成する薬物
は、主に中枢神経系を抑制する作用
をもつものに多くみられます。
Q15.薬物依存はどうして起こるのか・・・?
A:脳の中には大脳辺縁系の部分に快感中枢(報酬系)と不快感中枢(罰系)があり、薬物が快感中枢
を刺激したり、不快感中枢を抑制したりすると、一時的な快感を引き起こします。そのため、快
感を得るためには、薬物が欲しくなるというメカニズムで薬物乱用が形成されます。
中枢神経興奮作用を有する覚せい剤やコカイン等は快感中枢を刺激し、中枢神経抑制作用を有す
るアルコールや麻薬性鎮痛薬(モルヒネ、ヘロイン等)、バルビツール酸誘導体などは不快感中枢
を抑制すると考えられています。前者は、強い多幸感を生じるため精神依存が容易に形成され、
長期間薬物使用を断っていても、再使用により容易に精神症状が再現(再燃現象)するほか、逆耐
性も形成されます。精神依存の基本的メカニズムは、脳内報酬系の一つ復側被蓋野から側坐核へ
投射する中脳辺縁系ドパミン神経路(A10 ドパミンニューロン)が重要な役割を果たすといわれ
ています。
36
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q16.精神依存、身体依存とは・・・?
A:薬物依存には、精神依存と身体依存があります。
薬物の摂取を欲している状態は、必ずしも異常とは限りませんが、欲求が病的に亢進して、医学
的、社会的に問題となるような薬物使用に至れば「依存症候群」と診断されます。
依存症候群についてのWHOによる診断基準 (ICD-10)
①
②
③
④
⑤
⑥
その物質を摂取したいという強い欲求あるいは強迫感がある
その物質摂取行動を統制することが困難である
物質使用を中止もしくは減量したときの生理学的離脱状態
はじめはより少量で得られた効果を得るために、使用量を増やさなければならない(耐性)
物質使用のために、それに代わる楽しみや興味を次第に無視するようになる(物質中心の生活)
明らかに有害な結果が起きているにもかかわらず、依然として物質を使用する(止められない)
過去 1 年間のある期間において、上記項目のうち 3 つ以上がともに存在することで「依存症候群」
と診断される。
精神依存は、薬物の向精神作用、特に快感を得る報酬的効果に対し強い欲求を示し、薬物の入手
に異常なまでの努力を行う状態(薬物探索行動)となります。服薬を中断すると薬物への欲求が増
大して、イライラや不安等の精神的反応が現れますが、外観からは明確な病的身体症状はみられ
ません。精神依存は、いかなる種類の薬物によっても必ず現れます。
身体依存は、薬物を反復摂取した結果、生体は薬物が体内に存在する状態に適応してしまい、薬
物もしくはその結果が体内から消退すると平衡が崩れ病的な症候を現す状態をいいます。
身体依存は、中枢神経抑制作用を有する薬物(モルヒネ、アルコール、バルビツール酸誘導体)で
強く、興奮作用を有する薬物(覚せい剤、コカインなど)にはないとされています。
薬物が常時体内に存在して作用を示すと、身体は脳を中心としたいたるところで薬物の作用とは
逆の機能が高まり平衡を保とうとします。そのため、薬物の存在下でバランスのとれた身体活動
が営まれる状態となります。この作用は耐性の形成に関与しています。
また、常用している薬物の減量や中断が起こると平衡は崩れ、病的な身体症状(退薬症状あるいは
禁断症状、離脱症状)が現れます。退薬症状は激しい苦痛を伴うため、それを回避するために薬物
摂取への欲求が増大していきます。
*薬物乱用、薬物依存、薬物中毒は、その違いを明確化せずに使用されてきました。これらの違
いを理解し、薬物依存の本体は精神依存であり、耐性、身体依存が必須であるとはいえないこ
とを指導する必要があります。
*乱用薬物の依存性の強さ
東
(中枢抑制薬)
[階級]
西
(中枢興奮幻覚薬)
ヘロイン
[横綱]
コカイン
強力な睡眠薬
[大関]
覚せい剤
アルコール
[張出大関]
幻覚薬
有機溶剤
[関脇]
大麻
抗不安薬
[小結]
ニコチン
出典: 柳田知司(KNOW)
37
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q17.乱用薬物の分類と特徴とは・・・?
A:乱用される薬物は、中枢神経に抑制作用を示すものと興奮作用を示すものに大別されます。
詳しい特徴については下表に示します。
中
枢
作
用
抑
制
興
奮
薬物の
タイプ
精
神
依
存
身
体
依
存
乱用時の主な症状
耐
性
催
幻
覚
あへん類
(ヘロイン、
モルヒネ類)
麻薬
+++
+++
+++
-
ケタミン
麻薬
+++
++
++
++
バルビツール類
向精
神薬
++
++
++
-
アルコール
その
他
++
++
++
-
ベンゾジアゼピ
ン類(トリアゾラム)
向精
神薬
+
+
+
-
有機溶剤(シンナ
ー・トルエン等)
毒劇
物
+
±
+
+
大麻(マリファナ・
ハシシュ等)
大麻
+
±
+
++
コカイン
麻薬
+++
-
-
-
覚せい剤
(アンフェタミン、
メタンフェタミン)
覚せ
い剤
+++
-
+
-
メチルフェニデート
(リタリン)
向精
神薬
+++
±
++
+
MDMA
MDA
幻
覚
分類
*1
・
精
神
毒
性
規制
-
あへん法
麻薬及び向精
神薬取締法
+
麻薬及び向精
神薬取締法
+
麻薬及び向精
神薬取締法
+
未成年者飲酒
禁止法
-
麻薬及び向精
神薬取締法
++
毒物及び劇物
取締法
不眠、振戦、焦燥
+
大麻取締法
瞳孔散大、興奮、
血圧上昇、痙攣、
食欲低下、不眠
瞳孔散大、興奮、血
圧上昇、不眠、妄想
幻視、幻聴
*2
脱力、抑うつ、
焦燥、食欲不振
++
麻薬及び向精
神薬取締法
*2
脱力、抑うつ、
焦燥、食欲不振
+++
覚せい剤取締
法
多幸感、興奮、
錯乱、血圧上昇、
妄想
瞳孔散大、興奮、血
圧上昇、不眠、食欲
低下、感覚変容
*2
脱力、抑うつ、不
眠、幻覚、妄想
+++
麻薬及び向精
神薬取締法
*2
脱力、抑うつ、
焦燥、食欲不振
+++
麻薬及び向精
神薬取締法
その他
離脱時の
主な症状
鎮痛、鎮静、麻酔、 アクビ、瞳孔散大、
縮瞳、便秘、呼吸抑 流 涙 、 鼻 汁 、 嘔
制、傾眠、血圧低下 吐 、 腹 痛 、 下 痢 、
焦燥
鎮静、麻酔、呼吸 興奮、幻覚、錯
抑制、妄想
乱
不眠、振戦、痙
攣、
せん妄
酩酊、脱抑制、
不眠、振戦、痙
運動失調
攣、抑うつ、せん
妄
鎮痛、鎮静、催眠、 不 安 、 不 眠 、 振
運動失調
戦、
痙攣、せん妄
酩酊、脱抑制、
不眠、振戦、焦燥
運動失調、妄想
鎮痛、鎮静、催眠、
麻酔、運動失調
鎮痛、鎮静、眼球
充血、感覚変容、
情動の変化、
麻薬
+++
-
+
+
ニコチン
その
他
++
±
++
*3
-
鎮静、発揚、
食欲低下
焦燥、食欲不振
-
未成年者喫煙
禁止法
LSD
麻薬
+
-
+
+++
瞳孔散大、
感覚変容、
不詳
±
麻薬及び向精
神薬取締法
サイロシビン等含
有キノコ類(マジッ
クマッシュルーム)
麻薬
+
-
+
++
攻撃的行動、自殺
不詳
±
麻薬及び向精
神薬取締法
*1:法律上の分類
*2:離脱症状とは言わずに反跳現象と呼ぶ
精神毒性:精神病を引き起こす作用
*3:主として急性耐性
38
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q18.薬物中毒とは・・・?
A:中毒の定義(1997年9月改訂薬物依存関連用語;厚生省医薬安全局)
薬物が体内に入った結果として起こる、生命の危険を伴う状態を中毒といいます。1回の大量摂
取で起こるのが急性中毒、少量が長期に亘って摂取された結果起こるのが慢性中毒です。中毒に
は、薬物摂取の欲求や摂取を止められないという現象は含まれず、また退薬症状も含まれません。
現在、日本の法律で定義されている代表的な中毒は、「麻薬中毒」です。(麻薬及び向精神薬取締
法)
○ 麻薬中毒:麻薬、大麻、又はあへんの慢性中毒をいう。
○ 麻薬中毒者:麻薬中毒の状態にある者。
○ 医師、麻薬取締官、警察官等が麻薬中毒者又はその疑いがある者を発見した場合に、麻薬
及び向精神薬取締法において、その居住地の都道府県知事に届出・通報することが義務づ
けられている。平成元年以降、この届出・通報があった者は 10 人前後で推移していたが、
平成 13 年頃からは増加傾向にある。原因薬物としては大麻とヘロインが多い。
○ 平成 20 年中に麻薬中毒者等として届出・通報のあった者は 17 名であった。
○ 通報を受けた都道府県知事は、指定する精神保健指定医にその者を診察させることができ
る。そして、診察の結果、その者が麻薬中毒者であると診断された場合には、厚生労働省
で定める病院に入院させて必要な医療を行うことができる。[措置入院]
麻薬中毒者等として届出・通報および措置入院者年次別状況(厚生労働省統計から)
薬
物
名
ヘ
ロ
イ
ン
モ
ル
ヒ
ネ
ドアあ
ルへ
ん
カ
ロ
イ
年
コ
デ
イ
ン
合
成
麻
薬
生
あ
へ
ん
コ
カ
イ
ン
大
麻
そ
の
他
計
措
置
入
院
平成9年
3
1
1
1
6
0
10年
4
1
1
6
12
0
11年
2
3
11
1
12年
4
4
10
1
13年
3
10
14
2
14年
3
2
15
0
15年
7
1
11
19
1
16年
2
4
11
0
17年
4
1
14
19
0
18年
8
1
9
19
1
19年
13
3
16
2
20年
2
3
12
17
0
21年
6
1
9
1
18
0
4
1
6
0
3
6
0
2
2
0
1
3
2
1
2
2
1
22年
1
23 年
2
24 年
2
1
1
1
8
1
1
*「中毒」の用語の使い方
日本語の場合、精神作用物質の中毒により引き起こされる症状から転じて、しばしば依存症全般の俗称
として、さらには精神疾患としての依存症とは言えないまでも、趣味に対して異様な執着を見せる人に
対して、用いることもあります。英語でも『junkie』は「麻薬中毒者」だけでなく「病み付きになって
いる人」という意味で使われます。
39
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
3.薬物乱用に関連する法律の規制
Q19.薬物乱用に関する罰則とは・・・?
A.主に乱用される薬物の一般的な乱用に関する罰則は下表のとおりです。
態
法律
覚せい剤
取締法
麻薬及び
向精神薬
取締法
薬
物
輸出・
輸入
製造
覚せい剤
A
A
覚せい剤原料
(エフェドリン等)
B
ヘロイン
その他の麻薬
(モルヒネ、コカイン、MDMA、等)
麻薬原料植物
(マジックマッシュルーム等)
向精神薬
所持
使用
B
B
B
B
E
E
E
A
A
B
B
B
C
C
D
D
D
D
D
D
譲渡のみ
H
譲渡目的
のみ H
D
D
F
D
D
F
G
G
C
G
C
G
けし
あへん法
栽培
様
譲渡・
譲受
C
けしがら
C
あへん
C
大麻取締法
大麻(マリファナ等)
E
医薬品、医療
機器等法
(前薬事法)
危険ドラッグのうち
「指定薬物」
東京都条例
知事指定薬物
毒物及び劇
物取締法
トルエン、シンナー、など
C
E
製造、輸入、販売・授与、販売・授与の目的での貯蔵・陳列:
5 年以下の懲役若しくは 500万円以下の罰金 又はこれを併科
所持、使用、購入、譲受:
3 年以下の懲役若しくは 300万円以下の罰金 又はこれを併科
製造、栽培、販売・授与、販売・授与の目的での所持:
1 年以下の懲役又は 50 万円以下の罰金
摂取、吸入、又はこれらの目的で所持することの情を知って販売、授与
2年以下の懲役若しくは100万円以下の罰金 又はこれを併科
☆ アルファベット記号は、以下の通り罰則を表します。
A:非営利犯 1年以上の有期懲役
E:非営利犯 7 年以下の懲役
営利犯
無期又は3年以上の懲役、情状により
営利犯
10 年以下の有期懲役、情状により
1000万円以下の罰金を併科
300万円以下の罰金を併科
B:非営利犯 10 年以下の懲役
F:非営利犯 7年以下の懲役
営利犯
1 年以上の有期懲役、情状により
500万円以下の罰金を併科
C:非営利犯 1年以上10年以下の懲役
G:非営利犯 5年以下の懲役
営利犯
1年以上の有期懲役、情状により
営利犯
7年以下の懲役、情状により
500万円以下の罰金を併科
200万円以下の罰金を併科
(あへん法は300万円以下)
D:非営利犯 7年以下の懲役
H:非営利犯 3年以下の懲役
営利犯
1 年以上10年以下の懲役、情状によ
営利犯
5年以下の懲役 情状により
り300万円以下の罰金を併科
100万円以下の罰金を併科
(あへん法は 100万円以下)
☆ 態様に関しては、次のように整理しました。
使用については、麻薬及び向精神薬取締法では“施用”
、あへん法では“吸食”と規定しています。
製造については、あへん法では“採取”と規定しています。
40
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q20.外国では、薬物乱用事犯に関する罰則はどのようになっていますか・・・?
A:薬物乱用は、どこの国でも厳しく取り締まられてて、最高刑が死刑という国もあります。
さらに、その国の人ばかりではなく、観光で訪れた外国人であっても犯罪者として逮捕され、処
罰されます。以下に各国の最高刑を示します。
表
国名
世界各国の最高刑
最高刑
国名
最高刑
日本
無期懲役
イラン
死刑
韓国
死刑
サウジアラビア
死刑
中国
死刑
エジプト
死刑
フィリピン
終身刑
フランス
終身刑
マレーシア
死刑
イギリス
終身刑
シンガポール
死刑
アメリカ合衆国
終身刑
タイ
死刑
オーストラリア
終身刑
*イスラム圏では、コーラン(イスラム教の聖典)で麻薬の使用が禁止されているため、麻薬の所持や
売買などは厳罰に処せられます。そのため、最高刑が死刑にしてある国が多くあります。
サウジアセビアはイスラム圏の中でも特に麻薬犯罪に対し厳しく、麻薬使用で終身刑、運び屋な
ど麻薬売買に関与した者は死刑(斬首刑または絞首刑)に処せられます。
シンガポールは、入国審査時に記入提出する書類に 「Mandayory death penalty for Drug
trafficking (麻薬の密輸売買をした者は、必然的に死刑に処す)」の警告文があります。
ヘロイン 15g、モルヒネ 30g、覚せい剤 250g 以上の所持・密売・密輸で死刑(絞首刑)に処せ
られます。恩赦はありませんので必ず処刑されることになります。
中国では、刑法に「麻薬 50g 以上の密輸に対して懲役 15 年以上、無期懲役または死刑に処する」
と規定されています。 50g 以上であれば 死刑(銃殺刑または薬物注射)の可能性がありますが、覚
せい剤では概ね 1kg 以上で死刑が適用されているようです。
近年、インターネットの求人サイトでみつけたバイトが「運び屋」だったという事例や、友人ま
たは恋人からの依頼で知らず知らずに「運び屋」にされていた事例が増えています。
【参考】海外で死刑判決を受けた日本人の多くが薬物事犯
1990 年以降、海外で刑事犯として死刑判決を受けた日本人のほとんどが薬物事犯であり、戦
後から 2009 年末までは、死刑執行された日本人はいないとされていました。
しかし、2010 年 4 月、1972 年の中国との国交正常化以降初めて、中国において麻薬密輸罪
により日本人 4 人が死刑を執行されました。
その後は、2010 年 11 月、12 月、2011 年 5 月に中国(麻薬密輸罪)で、2011 年 12 月に
中国(薬物売買剤)で、日本人男性が、2011 年 10 月にはマレーシア(危険薬物取締法(不正取引))
で日本人女性が、死刑判決を受けています。
また、1994 年 12 月にフィリピンで麻薬取締法違反(所持)により死刑判決を受けた日本人男性
は、冤罪を主張していましたが、2003 年 11 月の二審で無期刑となり服役。2010 年 6 月に
恩赦により釈放され、同 12 月帰国することができました。この事件は、外国で無罪を証明する
ことがいかに難しいかを思い知ることとなった事件でした。
シンガポールやマレーシアの日本大使館では、入出国の注意の中に麻薬犯罪に関する注意喚起を
行っています。知らずに・・・とか、騙されて・・・とかの言い訳はまったく通用しません。
41
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
4.覚せい剤
Q21.覚せい剤とは・・・?
A:覚せい剤とは、覚せい剤取締法(第二条)で指定された薬物の総称で、以下の物質と定められてい
ます。
図 アンフェタミン
① ンフェタミン(フェニルアミノプロパン)、メタンフェタミン
(フェニルメチルアミノプロパン)及びその塩類
H2
②これらの物質と同種の覚せい作用を有する物質であって、政令
で指定するもの
③前記に該当するいずれかを含有する物質
日本で乱用されている覚せい剤は、ほとんどがメタンフェタミン
で、そのほとんどが中国、北朝鮮などの海外から密輸されたもの
です。その背景には、覚せい剤の密売を最大の資金源にする暴力
団などの犯罪組織が関与しています。
覚せい剤は、現在でも漢方薬として使われている麻黄(マオウ・エ
フェドラ)という植物から抽出されるエフェドリンなどを原料とし
て、化学的に合成(密造)されます。そのため、分子構造が安定して
いて長く体内に残り、乱用者に様々な中毒症状を生じさせます。
性状は、白色の粉末または無色透明の結晶で、無臭、やや苦味が
あり、水によく溶けます。
図 メタンフェタミン
図 エフェドリン
* 覚せい剤の原料とされるエフェドリンは、1886 年(明治 19 年)に
長井長義によって麻黄から発見、単離抽出されました。
その後、1887 年にドイツで Edelemo によりアンフェタミンが、
1893 年に日本で長井長義によりメタンフェタミンがエフェドリン
から合成されました。しかし、その薬理作用には関心が寄せられることはありませんでした。
* 1926 年、Chen により交感神経興奮作用が再発見され薬理作用の研究がすすむと、欧米では、
呼吸刺激剤(中枢神経刺激剤)として、医療現場では二日酔い、妊娠悪阻、やせ薬などとして絶賛
を博したといいます。
アンフェタミン硫酸塩は、1935 年 米国でベンゼトリン、1936 年 イギリスでエラストン、
その他の国ではアクテドロン、メコドリン、オルテドリン等の商品名で販売されました。
1938 年 ドイツの製薬会社がベンゼトリンの改良品としてメタンフェタミン塩酸塩をペルビチ
ンの商品名で発売しました。ベンゼトリンに比べてペルビチンの方が薬理作用が強力であったこ
とから広く臨床に使用されるようになりました。
日本では、1941 年(昭和 16 年)ペルビチンに匹敵する製剤としてヒロポン(大日本製薬)、ホス
ピタン(参天堂製薬)、ベンゼドリンに匹敵する製剤としてゼドリン(武田薬工)、サンドルマン(同
仁製薬)、アゴチン(富山化学)等が発売されました。
* 覚せい剤の名の由来は、アンフェタミン、メタンフェタミンが中枢神経興奮作用を有し、覚醒効
果があること、ドイツで Weckamin(覚醒アミン)と名付けられていたことによるとされます。
* 当時日本で市販されていた製剤の中でも、特にヒロポンが有名で、覚せい剤依存者は「ポン中」
と呼ばれました。ヒロポンの名の由来は、ギリシ語の Philoponos(仕事を好むの意)から名付け
たものといわれます。
* 第二次世界大戦時には、日本に限らず、米国、イギリス、ドイツの軍隊で『戦力増強剤』として、
用いられました。
当時、軍需工場の労働者の疲労回復と徹夜作業に、トラック運転兵の夜間運転に、海軍飛行機搭
乗員の夜間飛行や長距離飛行に、
「除倦覚醒剤」「猫目錠」「ヒロポン」等が用いられたとされて
います。また、ヒロポンとお茶の粉末を混合した「突撃錠」と呼ばれる錠剤が、航空隊員の出撃
に際して配給され、神風特攻隊の勇猛心の糧とされました。
42
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
* 第一次覚せい剤乱用期の象徴的事件に、
「鏡子ちゃん事件」があります。これは、1954 年 4 月
東京の小学校校内で女児が覚せい剤乱用少年によって殺害された事件です。
*第二次覚せい剤乱用期の象徴的事件に、
「深川通り魔事件(川俣事件)」があります。これは、1981
年6月の白昼、東京深川の路上で主婦2人、乳児2人が、覚せい剤乱用者により理由もなく殺害
された事件です。
Q22.覚せい剤を乱用すると、どうなるのですか?
A:覚せい剤には中枢神経を興奮させる作用があります。覚醒し、疲れが取れたように感じたり、気
分が高揚し、うまく話せるようになる、頭が冴えたような感じになり、自信が高まって、イニシ
ャティブをもちたがる、集中力が出る、大得意になる、機敏になり、運動能力が高まる、多幸感
をもつ、動き回って、仕事もたくさんこなせるようらなるが、間違いも多くなる、食欲がなくな
る等の症状が現れます。
その作用が消退すると、反動で激しい脱力感、倦怠感、疲労感に襲われ、抑うつ状態となります。
この状態から逃れるために乱用を繰り返し、薬物依存が形成されていくことになるのです。過度
の睡眠不足と食欲減退により、身体が衰弱してくるほか、壁のしみが人の顔に見えたり、虫に見
えたり、いつもみんなが自分の悪口を言っている、警察に追われている、誰かに命を狙われてい
るなどの幻覚や妄想が現れ、覚せい剤精神病となっていきます。時には、錯乱状態になって、発
作的に他人に暴行したり、殺害したりすることがあります。
そして、このような症状は、乱用を止めても長期間にわたって残る危険性があります。
また、一度に多量の覚せい剤を使用すると、急性中毒になり、全身けいれんを起こし、意識を失
い、脳出血により死亡することもあります。
* 乱用方法は、水溶液を注射したり、粉末を火であぶって煙を吸ったり、飲み物に入れて飲んだり
します。通称「ヤーバー」と呼ばれる錠剤型の覚せい剤もあります。
Q23.覚せい剤を治療薬として使用することはありますか?
A:覚せい剤、覚せい剤原料でも医薬品として治療に用いられています。
覚せい剤「メタンフェタミン塩酸塩」は、日本薬局方に収載された医薬品です。
以下は、覚せい剤と類似の中枢刺激作用をもつ物質で、医薬品として用いられているものです。
分類
一般名
覚せい剤
メタンフェタミン塩酸塩*
ヒロポン(大日本住友)
ナルコレプシーほか
エフェドリン塩酸塩
エフェドリン末
末は製剤原料。
製剤(散、錠、注)は覚
メチルエフェドリン塩酸塩
メチエフ(末)
せい剤原料の規制なし。
覚せい剤
原料
商品名
効能・効果
エフピー・エフピーOD(エフピー)
セレギリン塩酸塩
セレギリン塩酸塩(共和、大洋、
パーキンソン病
他)
向精神薬
Ⅰ
向精神薬
Ⅲ
メチルフェニデート塩酸塩
リタリン(ノバルティス)
ナルコレプシー
*
コンサータ(ヤンセン)
注意欠陥/多動性障害(AD/HD)
モダフィニル*
モディオダール(アルフレッサ)
ナルコレプシーに伴う過度の眠気
ペモリン*
ベタナミン(三和化学)
ナルコレプシー、うつ病、神経症
マジンドール*
サノレックス(ノバルティス)
高度肥満症
*印:乱用が懸念されている医薬品。
43
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
【参考】ダイエットと薬物乱用
近年、美容と健康の観点からダイエットに対する関心は高まるばかりです。しかし、その中に思
わぬ落とし穴があるようです。ダイエットに効果があると謳われる商品の中に、違法薬物につな
がるものが含有されている事例が報告され、時に重大な事故につながっているからです。
摘発されたダイエット商品に含有されていた薬物には、中枢性食欲抑制薬として知られるフェン
フルラミン及びその誘導体、シブトラミン、マジンドール、メタンフェタミン、メチルフェニデ
ート(リタリン)、エフェドリン、代謝促進薬としての甲状腺ホルモン製剤や利尿剤、下剤、生薬
のマオウ、センナなどがありました。いずれの場合も成分表示はなく、サプリメントやお茶とし
て販売されていました。インターネット上で販売されているものも少なくないので、注意が必要
です。また、市販されている医薬品の中にも、使用量によっては注意を要するものがあります。
表 「やせ薬」として利用される薬物
メタンフェタミン
1990 年頃に登場した注射によらない摂取方法が「やせ薬」として
(覚せい剤)
の乱用を拡大させた。
メチルフェニデート
医薬品であるが、使用・流通が制限されている。
中
枢
(リタリン)
性
エフェドリン
1990 年代米国でマオウを主成分とする市販ダイエット薬「エフェ
食
欲
マオウ
ドラ」が社会問題となり、FDAは 2003 年に販売禁止とした。
抑
マジンドール
第Ⅲ種向精神薬として規制されている。(麻向法)
制
薬
フェンフルラミン
麻向法による規制対象薬物です。
シブトラミン
日本では未承認医薬品。米国、イギリス、ドイツでは、販売されてい
るが、フランスでは禁止。
米国では、オルリスタット(ゼニカル)、アリが販売されているが、日
阻 消 脂肪吸収阻害剤
害 化
本では未承認医薬品である。
薬 吸
アカルボース(グルコバイ)、ボグリボース(ベイスン)が抗肥満効果を
収 糖質吸収阻害薬
期待して利用されている。
体重減少目的で乱用されてきた。古典的なやせ薬である。
進 代 甲状腺ホルモン
薬 謝 乾燥甲状腺
過量摂取により甲状腺機能亢進、肝機能障害、無月経、精神異常など
促
の副作用が発現し、死亡例も発生している。
利尿剤(フロセミドなど) 深刻な電解質異常や脱水、内分泌異常などの副作用により、死亡例も
発生している。
緩下剤(センノサイド A・B 摂食障害患者に乱用されてきた経緯がある。ダイエット茶や通信販売され
含有製剤など)
る健康食品の中に違法含有される例が多く報告されている。
そ
催吐剤
摂食障害患者に乱用されてきた経緯がある。催吐剤の代用品としてア
の
ルコールが乱用される場合もある。
他
サプリメント
ダイエットを標榜するサプリメントや健康食品には、上記やせ薬の成
健康食品
分が含有されていたり、過度なダイエットで引き起こされた飢餓状態
によりニコチンやカフェイン、アルコールなどの摂取が促進されたり
します。
Q24.覚せい剤の密売価格や、1回使用量はどのくらいですか?
A:日本で密売されている覚せい剤の末端価格は、平成20年夏ころをピークに高騰し、その後わず
かに値下がり傾向ではあるものの、依然として高値状態で推移しているといいます。
平成21年中は 0.1g 強で1万円程度、平成24年からは 1g で 7 万円程度といわれています。
価格は、卸元(暴力団)から間に人が入るほど、マージンが上乗せされて高値となり、大量に仕入
れるほど安くなるともいわれています。
1回分の使用量は、最初は 0.02g~0.03g で、乱用するほど耐性ができて使用量が増えます。
44
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
5.大麻
Q25.大麻とは・・・?
A:大麻とは、大麻取締法(第1条)で、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう
と定められています。但し、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。並びに大麻草の種子
及びその製品を除くとされています。この但し書きにより、七味唐辛しや小鳥のエサに麻の実が
入っていても、大麻取締法の対象にはなりません。
大麻には、以下のように様々な形態があります。
①大麻草の葉を乾燥させた乾燥大麻『マリファナ』(茶色または草色)
②樹脂(ヤニ)や若葉をすりつぶして固めた大麻樹脂『ハシッシュ』(暗緑色の棒状又は板状)
③樹脂(ヤニ)を花穂部ごと採取し固めた『ガンジャ』
④花穂部を棒状とした『ブッダスティック』
図 THC
⑤葉や樹脂(ヤニ)などから成分を抽出しオイル状にした液体大麻
『ハシッシュオイル』(粘着性のある暗緑色又は黒色
のタール状の液体)
大麻には多数の成分が含有されるが、中でもテトラヒドロカ
ンナビノール(THC)が、陶酔感、幻覚、妄想、見当識低下な
どの症状を示す。
THC や大麻中の同類の成分を総称してカンナビノイドと呼ぶ。
THC の含有量は、マリファナで0.5~8%、ハシッシュで2~20%、ハシッシュオイルで
20~65%程度である。
THC そのものは、麻薬及び向精神薬取締法で麻薬に指定されている。
Q26.大麻を乱用すると、どうなるのですか?
A:大麻を使用すると、一般的には気分が快活、
陽気になり、よくしゃべるようになりますが、
その一方で、視覚、聴覚、味覚、触覚などの
感覚が過敏になって変調をきたし、現在、過
去、未来の観念が混乱して、思考が分裂し、
感情が不安定になります。
このため、興奮状態に陥り、暴力や挑発的行
為を行うこともあります。
さらには、幻覚や妄想が現れるようになり、
毎日ゴロゴロして何もやる気のない状態「無
動機症候群」に陥ることもあります。
初めての乱用で大量の大麻を摂取すると、意
識障害を伴った中毒性の精神病状態となり
ます。
身体的な影響としては、吐き気、めまい、筋
力の低下、平衡感覚の異常が現れるほか、大
麻常習者には、生殖機能への障害が認められ、
不妊、流産、胎児の死亡、染色体異常などが
現れると報告されています。
* 乱用方法は、煙を吸う、そのまま食べる、溶液として飲むなどがありますが、通常は乾燥した葉
(乾燥大麻)等をキセル、パイプ、水パイプ等を使用して吸煙します。紙巻たばこ状のものもあり
ます。
* 大麻(マリファナ)乱用の特徴的症状は、心の安らぎを伴う幸福感や急に笑いがこみあげてきてと
まらなくなる(哄笑)があります。乱用者が期待する症状を Good Trip、恐ろしい幻覚や感覚変容
を Bad Trip と呼び区別していますが、どちらも大麻による作用です。
45
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q27.大麻と繊維をとる麻は同じですか?
A:大麻は、アサ科の一年草でカンナビス・サティバ・エル(Cannabis sativa L)をいいます。
麻(アサ)、青麻(アオソ)とも呼ばれます。
大麻は、アサ科アサ属で1属1種ですが、生理学的変種は数種あるといわれ、麻酔性の強い THCA
種(薬物型)と、麻酔性のほとんどない CBDA 種(線維型)に分けられます。
THCA 種にはインド大麻(Cannabis sativa L.indica Lam)があります。日本で栽培されてきた
大麻は、麻(アサ)と呼ばれ CBDA 種であったと考えられています。
* 麻(アサ)と呼ばれている植物には、アマ科の亜麻(あま、リネン)、イラクサ科の苧麻(ちょま、か
らむし、ラミー)、バショウ科の黄麻(こうま、ジュート)、アオイ科の洋麻(ケナフ)、マニラ麻、
シザル麻、ニュージーランド麻などたくさんの種類がありますが、これらは大麻とは別の植物で
す。亜麻、苧麻は衣料用に、黄麻、洋麻は麻袋用、マニラ麻、シザル麻、ニュージーランド麻は
硬質繊維用に栽培されてきました。
【参考】日本人と麻
日本人と麻のつながりは古く、余山貝塚から麻の実が出土したことから縄文時代(約 1 万 2 千年
前)には、縄、釣り糸、弓の弦、海人の命綱、土器の模様付け等に利用されていたと思われます。
また、神事や祭事にも用いられていて現代にもそのなごりが残っています。例えば、神主がお祓
いに用いる道具は大麻(オオヌサ)と呼ばれます。大相撲の横綱の綱にも麻が用いられています。麻の
まっすぐな繊維は「神の宿る神聖な繊維」とされ、神聖な道具の材料とされました。
さらに、赤ちゃんの産着の麻の葉模様は、
「麻のようにまっすぐに育ってほしい」との祈りから付
けられたものと言われています。
麻は、日本人の生活や文化に古くから深い関わりがあります。
Q28.大麻を治療薬として使用することはありますか?
A:現在、日本においては、医療用であっても大麻を用いることは禁止されています。
しかし、現在でも医療目的で大麻の使用を認めている国や地域があります。
日本においても、かつて医薬品として使用していたことがあり、日本薬局方第1局から第5局ま
では、下表のように収載されていました。
医薬品として期待される作用は、鎮痛作用(慢性疼痛の緩和)、鎮静・催眠作用(不眠症や強迫神経
症の治療)、鎮吐作用、抗痙攣作用、眼圧低下作用(緑内障の治療)、コカイン・ヘロイン・覚せい
剤・アルコール等の依存症から脱却するための治療薬としての作用などがあります。
薬局方
局方名
極量(g)
内容
第1局
(1886)
印度大麻
印度大麻越幾斯
-
0.1/回、0.4/日
オランダ、ドイツ局方参考
第2局
(1891)
印度大麻
印度大麻越幾斯
-
0.1/回、0.4/日
日本人による大改正
第3局
(1907)
印度大麻
印度大麻越幾斯(エキス)
-
0.1/回、0.3/日
エキス剤の極量減じる
第4局
(1921)
印度大麻草
印度大麻エキス
印度大麻丁幾(チンキ)
-
0.1/回、0.3/日
-
大麻草と記載変更。
チンキ剤収載
第5局
(1932)
印度大麻草
印度大麻エキス
印度大麻チンキ
-
0.05/回、0.15/日
1.0/回、 3.0/日
極量減。
46
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
* 医療用大麻とは
一部の国や地域では、医療用大麻や医療用マリファナ、抽出大麻成分の医薬品サティベックス
(Sativex)、合成大麻成分の医薬品ドロナビノール(製品名;マリノール Marinol)、調理大麻(クッキ
ーやチョコレートに加工したもの)等が使用されています。
適応は、HIV、アルツハイマー病、うつ病、脅迫性障害、不眠症、多発性硬化症、筋委縮性則索
硬化症、緑内障等の約 250 種類の疾患に及びます。
海外の医療ドラマ等で、末期のがん患者に疼痛緩和のためにマリファナを処方するシーンが出て
くることがあります。
Q29.生薬として大麻を使用することはありますか?
A:古来、大麻は医薬品として使用されてきました。現在は、規制対象外のものだけが使用されてい
ます。
生薬名
用部
主な成分
効果
麻子(麻子仁、
火麻仁)
大麻の種子(種子から種
皮のみ取り除いた中身)
脂肪油
麻花(鳥麻花)
大麻の雄株の花枝
THC、CBD、CBN、
駆風、活血
精油
麻蕡(マフン)
大麻の若い果穂、雄花
THC
鎮痛、鎮痙、鎮
静
麻葉(火麻頭)
大麻の葉
Δ9-THC 酸、CBD
酸、カンナビクロメン酸
鎮痛、マラリア、喘
息、回虫症
麻皮
大麻の茎皮部の繊維
打撲傷、破傷風
麻根(麻青根)
大麻の根茎
駆於血、止血
緩下、慈潤、鎮
静、強壮
Q30.大麻はたばこより害が少ないといわれますが本当ですか?
A:大麻は前述の害が大きく、たばこの害とは異なる作用も多いので、たばこより害が少ないという
ことはありません。
 大麻には運転能力を阻害する作用がある。これは、感覚の変容、運動能力の低下等の作用がも
たらすものと考えられる。大麻喫煙時の交通事故が数多く報告されている。
 大麻を週に5本吸うと、たばこを毎日20本吸ったのに相当する発癌物質が摂取される。
 大麻を摂取すると、思考の障害(分裂的思考)が形成される。
 大麻を摂取すると、精神障害(情緒不安定、激化)が形成される。
 大麻を摂取すると、作業能率が著しく低下する。(作業内容が劣悪で役に立たない)
 大麻を摂取すると、記憶力が著しく低下する。(摂取後のことが記憶にない)
【参考】「ソフトドラッグ」大麻の規制強化
大麻は「ソフトドラッグ」と呼ばれたり、たばこより害が少ないと誤解されたりしたことで、規
制が緩やかな国や地域があります。
中でもオランダは、欧州で最も規制の緩やかな国のひとつですが、2011 年 10 月 7 日、大麻
の規制を強化することを発表しました。通称「スカンク(Skunk)」などと呼ばれる向精神作用の
強い大麻製品を「ハードドラッグ」として禁止する方針を打ち出したのです。そして、向精神作
用がある大麻成分「THC」を 15%以上含む大麻製品の販売は違法行為として禁止されることに
なったのです。
オランダのコーヒーショップで販売されている大麻製品の THC 含有率は平均 16
~18%で規制値を超えているため、規制対象となりました。
47
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
6.コカイン
Q31.コカインとは・・・?
A:コカインは、南米に自生するコカの葉の中に含まれる成分のひとつで、1860 年にドイツのアル
ベルト・ニューマンにより単離され、コカインと命名されました。
無色の結晶または白色の結晶粉末で、無臭、苦味があります。
乾燥したコカの葉の中には、0.6~1.8%のコカインが含まれます。通常、1kgの塩酸コカイン
を作るには 250~500kgのコカ葉が必要であるとされます。コカのほとんどは、南米コロン
ビア、ペルー、ボリビアの3国で栽培されており、その多くがコロンビアにある密造工場に運ば
れてコカインが作られ、密輸されます。
その大半をコロンビアの薬物犯罪組織が支配しているといわれています。
コカイン単離後の 19 世紀末、欧州ではコカ葉入りのワイン(マリアーニワイン)が爆発的に売れ、
20 世紀に入ると米国でコカ・コーラも誕生しました。
日本では、コカイン乱用の大きな流行はありませんでした。しかし、米国では、社交界で経鼻的
に吸入する乱用が始まりだったため、コカイン乱用には上流社会のイメージがありました。
1980 年代に安価なクラックが出回ると大流行しました。
「麻薬及び向精神薬取締法」により麻薬として規制されています。
* コカ葉は、インカでは「神の恵み」と称され、飢えや渇きに苦しむことなく困難な環境、苛酷な
労働に耐えられるように、神が授けてくれた薬用植物であると尊ばれてきた歴史があります。
* クラックは、塩酸コカインと重曹を混合処理して作るコカインの遊離塩基で、1985 年頃からコ
カインの新型として登場しました。乱用時「パチパチ」と音がすることやひび割れをおこすこと
からクラックと名付けられたといわれています。加熱吸入型に適し、安価であること、速効性で
あることから、爆発的に流行しました。
Q32.コカインを乱用すると、どうなるのですか・・・?
A:コカインは、覚せい剤と同様に中枢神経興奮
作用をもち、気分が高揚したり、眠気や疲労感が
なくなったように感じたり、身体が軽く感じたり、
腕力や知力がついたように錯覚したりします。
しかし、コカインの作用持続時間は約30分と短
いため、精神依存が形成されると1日に何度も乱
用するようになります。コカインは精神依存が桁
外れに強く、薬物依存状態になると、けいれん発
作や入手のための薬物探索行動(借金、窃盗事件
など)が頻回に現れるようになり、覚せい剤と同
様の症状(幻覚や虫が皮膚内を動き回っているよ
うな不快な感覚に襲われるなど)が現れます。
一度に大量のコカインを摂取すると、呼吸麻痺や
心停止により死亡することもあります。
表 比率累進法による精神依存性の強さ
乱用される薬物名
レバー押しの回数
ニコチン
800~ 1,600
ジアゼパム
950~ 3,200
アルコール
1,600~ 6,400
モルヒネ
1,600~ 6,400
アンフェタミン
2,690~ 4,530
コカイン
6,400~12,800
モルヒネ(身体依存)
6,400~12,800
注)比率累進試験法とは、レバーを押すことにより快体
験を得られる目的の薬物が血管内に入るようにカニ
* 乱用方法は、経鼻的に吸引する方法が一般的です。 ューレを付けられたサルを用い、1 回の薬物を得るため
に必要なレバー押しの回数を累進的にあげていき、
コカインは、その構造から分解されやすいため、
サルがレバー押しを断念する直前の回数をもって精神
経口摂取では消化管内で分解されていまい、吸煙
依存性惹起作用の強さを策定するもの。
では熱で分解されてしまいます。また、静脈内注
射では、急激な作用(ラッシュ)があるため大変
危険です。経鼻的吸引では、鼻粘膜から速やかに吸収され、作用が現れますが、この方法も鼻に
穴があくなどの危険があります。
Q33.コカインを治療薬として使用することはありますか?
A:コカインは、刺激のない濃度で局所麻酔作用があり、表面麻酔に用いられます。粘膜への適用に
より知覚神経末梢を速やかに麻痺させます。
塩酸コカイン(コカイン塩酸塩)の粘膜、点眼、外用剤が治療薬として用いられています。
しかし、副作用のため、現在ではあまり使われなくなりました。
48
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
7.ヘロイン・あへん
Q34.ヘロインとは・・・?
A:ヘロインは、けしを原料とした薬物で、あへんから抽出したモルヒネに無水酢酸で2個のアセチ
ル基をつけて合成した薬物です。
「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されています。
ヘロイン中の2個のアセチル基は、ヘロインが血液から脳へ移行する血液・脳関門の通過を促進
する働きがあり、モルヒネより協力で早く作用し。3~10倍強い鎮痛や多幸感などの作用を示
します。脳内では、2個のアセチル基がはずれてモルヒネとして作用するため、モルヒネよりさ
らに強い依存性を示します。
純粋なヘロインは、白色粉末ですが、純度の低いものでは灰色や灰褐色のものもあり、粉末のほ
かに棒状、粒状等さまざまな形状のものがあります。一般的に無臭ですが、中には酢酸臭のある
ものもあります。
*「ヘロイン」という名称は、1989年(明治31年)ドイツのバイエル社から発売された鎮痛薬
の商品名に由来すると言われています。
Q35.ヘロインを乱用すると、どうなるのですか・・・?
A:ヘロインには、神経を抑制する作用があり、乱用すると強い陶酔感が得られることから、このよ
うな快感が忘れられずに乱用を繰り返すようになり、その結果強い精神的依存が形成されます。
さらに、強い身体的依存も形成され、2~3時間ごとに使用しなければ、体中の筋肉に激痛が走
り、骨がバラバラになって飛散するかと思うほどの痛み、悪寒、嘔吐、湿疹などの激しい禁断症
状に苦しむことになります。あまりの苦しさから精神に異常をきたすこともあると言います。
また、大量に摂取すると、呼吸困難、昏睡ののち死に至ります。
ヘロインは、心身への影響が非常に強く、危険なことから、一切の使用が禁止されています。
* 乱用方法には、静脈注射のほか、火であぶって吸煙する方法、吸引具により吸引する方法、経口
による方法などがあります。
Q36.あへんとは・・・?
A:あへんは、けしから採取した液汁を凝固させたものです。黒褐色で特有の臭気(アンモニア臭)
と苦味があります。
原料であるけしの栽培やあへんの採取、あへん及びけしがら(けしの麻薬を抽出することができ
る部分)の輸出入、所持等は「あへん法」により規制されています。
Q37.あへんを乱用すると、どうなるのですか・・・?
A:あへんには、神経を抑制する作用があり、乱用すると強い陶酔感が得られます。精神的、身体的
依存を生じやすく、常用すると慢性中毒となって、脱力感、倦怠感を感じるようになり、やがて
精神錯乱を伴う衰弱状態に至ります。
* 乱用方法は、調整したあへん煙膏として特殊なキセルに塗って炎にかざし、出てきた煙を吸引す
る方法や経口による方法があります。
* あへん(Opium)の名の由来は、ギリシャ語のけし汁(Opion)によると言われています。紀元前
4000 年頃から利用されていて、
「けし(poppy)は喜びの草(joy piant)」との記述が残っています。
紀元前 3 世紀の Theophrastust がその著作の中であへんの副作用にふれ、習慣性と禁断症状に
ついても述べています。中世、アラブでは鎮静、鎮痛、赤痢の治療に用いられたといい、アラブ
商人によって東洋に紹介されたと言われています。欧州では、16 世紀ドイツの医師 Paracelsus
があへん製剤を「ラウダヌム」と命名、躁病やさまざまな病気に広く用いられるようになりまし
た。1803 年ドイツの薬剤師 Serturner があへんからアルカロイドを単離し、モルヒネと命名、
名の由来は、ギリシャの夢の神(Morpheus)によると言われています。
その 30 年後、コデインが単離され、1874 年ヘロインが合成されました。
49
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
8.MDMA・MDA
Q38.MDMA・MDAとは・・・?
A:MDMA・MDAは、ともに覚せい剤と似た化学構造を
有する薬物で、けしやコカ等の植物からではなく、他の
化学薬品から合成された麻薬の一種です。
「麻薬及び向精神薬取締法」で麻薬として規制されてい
ます。
MDMA(メチレンジオキシメタンフェタミン:
3,4-Methylene-dioxymethamphetamine)は、別名
エクスタシー、XTC、ADAM 等と呼ばれ、本来は白色
粉末ですが、多くは着色され、文字や絵柄の刻印が入っ
た錠剤の形で密売されています。欧米で広く乱用されて
いる薬物です。
MDA(メチレンジオキシアンフェタミン:
3,4-Methylene-dioxyamphetamine)は、別名ラブド
ラッグ等と呼ばれ、本来は白色粉末であるが、その純度
によって黄色や茶色のものがあります。MDMAと同じ
く錠剤の形で密売されています。
これらの薬物は、デザイナー・ドラッグ(designer
drugs)と呼ばれ、多くの類似物質が世界中の闇市場に出
回っています。
* MDA は、1910 年にドイツで合成され、その 3 年後に MDMA の製造特許が降りています。こ
れらは食欲抑制剤として開発されましたが、その副作用のために市場に出ることはありませんで
した。ところが 1960 年後半、米国西海岸一帯でピッピー族中心に乱用されるようになりまし
た。米国では 1970 年 MDA を法規制しましたが、MDMA は法規制されずに、一部の精神分析
医が患者を多弁にし、感情移入を促進し、抵抗感を和らげるとして使用するようになりました。
特に、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に用いられたと言われています。
1980 年代に入ると、
「レイブ(rave)」と称される特有のダンスパーティーと結びついて、米国、
イギリス、欧州の若者の間で乱用が拡大していきました。
1986 年国際的に規制されるようになりました。
Q39.MDMA・MDAを乱用すると、どうなるのですか・・・?
A:MDMAとMDAの薬理作用は類似しており、視覚、聴覚を変化させる作用があり、幸福な気
分になったり、他人に対する親近感が増したりするといわれている反面、不安や不眠に悩まされ
ることもあります。
また、強い精神的依存性があり、乱用を続けると錯乱状態に陥ることがあるほか、腎臓・肝臓の
機能障害や記憶障害等の症状も現れます。
MDMA は、セロトニン神経終末からのセロトニン放出を増大するとともに、セロトニン受容体
に結合し、シナプス間隙でのセロトニン濃度を増加させます。動物実験によれば、ほんの数日間
MDMA に暴露されただけでも 6~7 年にわたってセロトニン神経終末に障害が残るとの報告が
あり、ヒトの脳内においても長期間にわたり障害が残る可能性が示唆されています。
また、MDMA の依存形成については、MDMA を乱用する若者の半数近くが「依存症」の診断基
準に合致するとの報告があり、高い率で依存をもたらす可能性があると言われています。
* 乱用方法は、経口によります。
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薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
9.向精神薬
Q40.向精神薬とは・・・?
図 入院・通院原因となった主たる乱用薬
A:向精神薬は、中枢神経系に作用して精神機能に
その他,
鎮痛薬,
物
影響を及ぼす物質で、その薬理作用によって鎮
7.0%
1.4%
痛剤系と興奮剤系に大別されています。
大麻,
そのほとんどが医薬品として流通していますが、
2.5%
覚せい剤,
鎮咳薬,
医師の指示によらずに乱用すると、感情が不安
42.0%
2.7%
定になったり、判断力がにぶったり、歩行失調
多剤,
になったりします。そのため不正な取引は「麻
7.0%
薬及び向精神薬取締法」により規制されています。 有機溶剤,
右図は、薬物関連障害の患者が入院・通院する
7.7%
原因となった乱用薬物の比率を示したものです。
違法ド
抗不安薬・
ラッグ,
睡眠薬,
乱用薬物として以前トップを占めているのは、
16.3
15.1%
覚せい剤ですが、第2位は最近急激に乱用が増
薬物乱用についての調査結果概要から
加している違法ドラッグ、次いで第3位が医療
(和田清: 国立精神・神経医療センター,2012)
用薬の抗不安薬や睡眠薬などの向精神薬でした。
しかし、同じ薬物関連障害の患者でも、覚せい剤関連障害患者と抗不安薬・睡眠薬関連障害患者
では、異なる臨床的特徴をもっていることが報告(下表)されています。
抗不安薬・睡眠薬関連障害患者 覚せい剤関連障害患者
不安・不眠・抑うつ気分の軽減、 誘われて、好奇心・興味から、
初回乱用の動機・理由
自暴自棄になって
刺激を求めて
性差
女性の比率が高い
年齢層
比較的若年
入手経路
精神科医師・身体科医師、薬局 密売人、不明
暴力団・非行グルーフと関係ある者
顕著に少ない
多い
逮捕・補導歴のある者
Q41.向精神薬はどのようにして乱用されるのですか・・・?
A:向精神薬の中で最も多く乱用されるのは抗不安薬・睡眠薬で、医療上の使用量より多く服用する
とか、アルコールと一緒に服用するなどの方法により乱用されます。当初は、不安や不眠を軽減
したいために乱用るすようになりますが、次第に中枢神経抑制効果による一時的な快感(もうろ
うとした状態)を得るために乱用するようになり、使用量が増えていきます。過量服用が続くと、
自傷行為や自殺企画など自殺関連行動をを引き起こす可能性が高くなるのも特徴のひとつです。
抗不安薬・睡眠薬のなかでも乱用リスクが高いとされているのがベンゾジアゼピン(BZ)系薬剤で
す。BZ 系薬剤は、1970 年代にはその乱用や依存が問題化し、1980 年代に入ると常用量によ
る依存も指摘されていてます。過量服用による致死性が低い一方で、衝動的な自殺関連行動を引
き起こす可能性があり、ときには攻撃的な行動を引き起こすこともあります。
乱用のために抗不安薬・睡眠薬を入手するためには、複数の医療機関から処方してもらって入手
する(ドラッグショッピング)方法やインターネットを利用した方法(密売)が報告されています。
日本では、BZ 系薬剤は精神科に限らずあらゆる科から処方されており、欧米に比べて 6~20
倍の処方件数があると報告されています。処方された BZ 系薬剤が、乱用や依存を引き起こすこ
となく適切に使用されるように管理・指導が必要です。安全な使用のために、薬剤師による薬剤
管理指導に期待が寄せられています。
また、向精神薬の中でも興奮剤系とされる薬で乱用されているのは、メチルフェニデート(商品
名リタリン)があります。これは覚せい剤の類似品として乱用されています。また、肥満治療薬
マジンドール(商品名サノレックス)をダイエットの特効薬と称して密売されたり、ダイエット
用サプリメントに含有して販売されたりした例が報告されています。
51
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
10.その他の麻薬
Q42.LSDとは・・・?
A:LSD(リゼルギン酸ジエチルアミド:Lysergsaurediethylamide)
は、合成麻薬の一種で「麻薬及び向精神薬取締法」の規制対象とされ
ています。リゼルギン酸はライ麦に寄生する麦角菌に含まれるアルカ
ロイドで、LSDはこのリゼルギン酸から部分合成されます。
水溶液を染み込ませた紙片、錠剤、カプセル、ゼラチン等があり、経
口または飲み物とともに飲用する方法で乱用されます。
欧米の若者を中心に乱用されています。
LSDを乱用すると、幻視、幻聴、時間の感覚の欠如等の強烈な幻覚
作用が現れます。特に幻視作用が強く、ほんのわずかな量でも、物の
形が変形、巨大化して見えたり、色とりどりの光が見えたりする状態
(色彩幻覚)が 8~12 時間続くといわれます。
「音にさわれる」
「色
がきこえる」などの異常な感覚が体感できるとされて乱用されます。
LSDを染み込ませた紙片にはよく音符(♪)印等が印刷されています。
また、乱用を続けると、長期にわたって神経障害をきたすとの報告が
あります。
図 LSD
Q43.マジックマッシュルームとは・・・?
A:マジックマッシュルーム(幻覚キノコ)は、麻薬成分のサイロシン、サ
図 サイロシビン
イロシビンを含有するキノコ類の俗称です。該当するキノコは、多く
(シロシビン)
がモエギタケ科シビレタケ属やヒトヨタケ科ヒカゲタケ属に属し、世
界中に多種多様に自生しています。
日本では 10 種ほど確認されていて、毒キノコと称されています。
平成 14 年 6 月に「麻薬及び向精神薬取締法」の麻薬原料植物として
指定され、その栽培、輸入、譲渡、譲受、所持、施用等が禁止されまし
た。
乱用すると、気分不快、嘔吐、めまい、手足のしびれ、全身のふるえな
どが現れ、呼吸麻痺で死亡したり、幻覚が現れて攻撃的な行動や自
殺を試みたりすることがあります。幻覚作用は、LSD に類似しており、
知覚異常の中で事故死する場合もあると報告されています。
サイロシビンを含む幻覚キノコは、古くからバリ島やメキシコなどで宗教儀式に利用されてきた
といいます。
サイロシビンの構造は、脳内神経伝達物質であるセロトニンに類似しており、中枢神経系のセロ
トニン受容体に作用して幻覚や幻聴を引き起こすものと考えられています。また末梢神経系では、
セロトニン-ノルアドレナリン経路を介して作用するものと考えられています。
Q44.ペヨーテとは・・・?
A:ペヨーテは、麻薬成分のメスカリン(3,4,5-トリメトキシフェネチラミン、3,4,5図 メスカリン
trimethoxyphenethylamine)を含有するサボテンで、サボテン
科エバタマサボテン属に属しています。地上に出ている円盤状の
部分を地下の塊茎から切り離し、乾燥させボタン状にしたものを、
そのまま噛んだり、あるいは煎じて飲んだりすることよって、幻
覚などの精神的効果が得られます。ただし、ペヨーテは非常に苦
く、効果が得られる前に吐き気に襲われることが多いといいます。
メスカリンの幻覚作用は LSD に類似していますが、その効果は
LSD の 1/100~1/1,000 とされています。
メキシコ・インディアンが古来から宗教儀式の一部として使用し、伝えられてきました。
メスカリンは、
「麻薬及び向精神薬取締法」により麻薬として規制されています。
52
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
Q45.ケタミンとは・・・?
A:ケタミン{2-(2-クロロフェニル)-2-(メチルアミノ)シクロヘキサノン}は、日本においては
図 ケタミン
昭和 45 年から医薬品(全身麻酔等の導入薬)として市販されました
が、平成 19 年 1 月に「麻薬及び向精神薬取締法」の麻薬に指定さ
れ輸入、輸出、譲渡、譲受、所持、施用等が規制されてるようにな
りました。
現在は、動物用医薬品(麻酔薬、麻酔銃)として用いられています。
ケタミンは、PCP と同様に脳内の NMDA 受容体(興奮性アミノ酸
神経の受容体)を遮断する働きがあり、大脳皮質の活動を抑制する
反面、脳の辺縁系の活動は保たれることから「解離性麻酔薬」と呼
ばれています。PCP に代わる麻酔薬として注目されていました。麻酔・鎮痛作用や幻覚作用、
血圧降下、頻脈、脳脊髄液圧上昇、脳血流量増加、呼吸抑制等の作用がありますが、乱用すると
悪夢や幻覚のほか、臨死体験様の異常体験がみられるといいます。
国内では、サイケデリック薬物として「K」
、「スペシャル K」、
「スーパーK」、
「カット」等と呼
ばれ、主に粉末が密売されており、国内で押収された MDMA 等錠剤型麻薬にケタミンが混合さ
れている事例も数多く報告されています。また、ケタミンの乱用が原因と考えられる死亡事例も
発生しており、アジア、欧州、北米の多くの国々で乱用が深刻な問題となっています。
Q46.メチロンとは・・・?
図
メチロン
O=
A:メチロン{2-メチルアミノ-1-(3,4-メチレンジオキシフェニル)プロパン-1-オン}は、
MDMA の化学構造の一部が変更されたβ-ケトン誘導体で、
「メチ」等と呼ばれ、粉末、錠剤として密売されています。
メチロンは、2004 年頃オランダで登場したデザイナーズド
ラッグで、
”Explosion”と呼ばれ、室内消臭剤として密売さ
れていました。規制に引っ掛からないようにラベルには「決
して飲み込まないこと」との注意が記載されていたといいます。
メチロンは、MDMA と同様の中枢神経刺激・興奮作用をもち、
精神依存を形成する可能性が高い薬物です。
脳の神経細胞に対しては、メチロン単独ではそれほど顕著な細
胞毒性は示さないのですが、覚せい剤や MDMA との併用によ
り、細胞毒性及びアポトーシスが相乗的に増強されることが確
認されています。
平成 19 年 1 月に「麻薬及び向精神薬取締法」の麻薬に指定さ
れ輸入、輸出、譲渡、譲受、所持、施用等が規制されています。
図(参考)MDMA
【参考】鎮咳薬(ブロン)の乱用
1980 年代に一般に市販されている鎮咳薬、中でも「ブロン」を中心とした乱用みられるよう
になり、幻覚妄想状態を呈した症例や気分(感情)障害を呈した症例が報告されました。
乱用された鎮咳薬は、基本的に、ジヒドロコデイン、メチルエフェドリン、クロルフェニラミ
ン、カフェインの混合薬です。
乱用・依存の症状として幻覚妄想状態を引き起こすのはメチルエフェドリンが、感情障害を引
き起こすのはコデインが疑われました。同時にそれぞれに対するカフェインの相互作用も疑わ
れましたが、その後の研究において、クロルフェニラミンがドーパミン系神経を介してジヒド
ロコデインの報酬効果を著明に増強し、依存性を高めることが分かりました。
混合薬の場合は、個々の薬では認められなかった症状が、相互作用により現れたり、作用が著
しく増強されたりするので、注意が必要となります。
53
薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
11.シンナー等有機溶剤
Q47.シンナーとは・・・?
A:シンナーとは、塗料を薄めるために使用される有機溶剤の総称で、主たる成分はトルエンです。
シンナー等有機溶剤は、
「毒物及び劇物取締法」で不正な目的での摂取・吸入や所持が規制され
ています。
日本では、有機溶剤の乱用を一般に「シンナー遊び」と呼んでいますが、世界的には、接着剤吸
引(glue sniffing)、溶剤乱用(solvent abuse)、揮発性物質乱用(volatile substance abuse)、
吸入剤乱用(inhalant abuse)などと呼ばれています。
表 有機溶剤含有製品と主な成分
製品名
平均構成成分数
主な成分
シンナー
3.7
トルエン、酢酸エチル、キシレン、メタノール、石油系溶剤、
など
洗浄剤
1.4
トリクロルエチレン、メタノール、石油系溶剤、など
塗料
5.8
インキ
2.8
接着剤
3.7
トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、イソ
プロピルアルコール、など
トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール、メタノール、
メチルエチルケトン、など
トルエン、ノルマルヘキサン、メチルエチルケトン、メタノー
ル、アセトン、酢酸エチル、など
Q48.シンナー等有機溶剤を乱用すると、どうなるのですか・・・?
A:シンナー等有機溶剤を乱用すると、神経が抑制されてぼんやりとし、酒に酔ったような感じとな
ります。さらに乱用を続けると、集中力、判断力が低下し、何ごともにも無気力になるほか、幻
覚や妄想などの症状が現れてきます。また、心身に与えるダメージも大きく、心臓、腎臓、肝臓、
呼吸器、生殖器等各種臓器に障害が現れます。
特に恐ろしいのは、乱用によって脳が委縮し、一度破壊された脳の働きは、たとえ乱用を止めて
も決して元には戻らないことです。この脳の委縮は、脳細胞の脂質が有機溶剤で溶かされてしま
うことにより起こると考えられています。
さらに、大量に吸入した場合には、呼吸中枢が麻痺するなどして、窒息死することもあります。
* 乱用方法は、通常ビニール袋にシンナーを少量入れ、ビニール袋を空気で膨らませて気化したも
のを吸入します。
この方法がビニール袋に入ったあんぱんを食べる姿と似ていることから、シンナー遊びの隠語を
「あんぱん」といいます。
また、トルエン単体を俗に「純トロ」と言われます。
* トルエン乱用による害の中で特徴的なのは、急性中毒症状が「快」と感じられることが多いこと
です。例えば、酩酊状態、麻酔状態、知覚異常(幻覚・幻聴・体感異常など)、夢想症など。
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薬物乱用防止啓発事業
指導者用資料集
12.危険ドラッグ
Q49.危険ドラッグとは・・・?
A:危険ドラッグとは、覚醒剤や大麻に似せてつくられた物質を含み、多幸感や快感を高め、幻覚作
用、催眠作用等を得る目的で使用される製品の総称です。「合法ドラッグ」
、
「脱法ドラッグ」等
と称して販売されていたものです。
危険ドラッグに含まれる薬物は、どれも脳に対して強く作用します。吐いたり、暴れたり、痙攣
を起こしたり、意識を失ったり、呼吸困難、幻覚や幻聴、疲労感や倦怠感、集中力の低下等が現
われたりと、さまざまな影響を及ぼします。
平成 19 年 4 月から、
「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(改
正薬事法)」の「指定薬物」として規制対象となり「違法ドラッグ」と呼ばれていましたが、未知
の危険性をもつ新しい薬物が作られたり、複数の薬物を混合して売られるため、どんな危険性を
もっているのかわからない、たいへん危険なものです。そこで、その危険性を啓発する意味から、
平成26年7月に新呼称「危険ドラッグ」となりました。
【指定薬物】
①中枢神経系の興奮、抑制、幻覚の作用(当該作用の維持又は強化の作用を含む)を有する蓋然性
が高い
②人の身体に使用された場合に保健衛生上の危害が発生するおそれがある
③大麻、覚せい剤、麻薬取締法等で規制されていないもの
上記①から③をすべて満たすもので、厚生労働大臣が指定するもの(但し、医療、産業等(医療等
の用途)の用途に使用される場合は除く)。
平成19年4月、指定薬物は、製造、輸入、販売、広告等が禁止されました。
平成25年3月、指定薬物の包括指定が始まり、個別に指定されなくても同様の作用があるもの
は規制の対象になりました。
さらに、平成26年4月、指定薬物は、所持、使用も禁止され、規制が強化されました。
この規制強化により、平成 27 年 7 月には街頭店舗が全て閉鎖となり、危険ドラッグが原因とみ
られる死亡事案が大幅に減少するなどの効果がみられました。他方でインターネットによる密
輸・密売など流通ルートの潜在化がみられ、引き続き警戒が必要です。
平成 28 年 5 月 27 日現在「指定薬物」は、2,339 物質(個別指定 235、包括指定 2,104)。
Q50.危険ドラッグにはどんなものがありますか・・・?
A:危険ドラッグは、規制を逃れるために捕まらない薬物(合法)とみせかるため、用途を偽って売ら
れています。
例えば、乾燥植物片に危険ドラッグを混ぜて「合法ハーブ」と称したり、
「お香」、
「アロマ」、
「バ
スソルト」
、
「試薬」
、
「植物の肥料」、
「ビデオクリーナー」等、見た目には人体に摂取されないも
ののように偽装され、デザインされたパッケージやカラフルな液体・錠剤から、きれいでおしゃ
れ、かっこいいイメージにし、
「合法」とか「安全」をイメージさせる説明が添えられています。
危険ドラッグに含まれる指定薬物は、どれも脳に対して強く作用します。吐いたり、暴れたり、
痙攣を起こしたり、意識を失ったり、呼吸困難、幻覚や幻聴、疲労感や倦怠感、集中力の低下等
が現われたりと様々な影響を及ぼします。さらに、規制を逃れようと新しい薬物が作られたり、
複数の薬物を混合して売られたりするため、どんな危険性をもっているのかが不明です。
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薬物乱用防止啓発事業
Ⅹ
指導者用資料集
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薬物乱用防止啓発活動に利用可能なパンフレットや視聴覚資料のリストを岩手県薬剤師会ホーム
ページ(薬物乱用防止啓発事業のページ)に掲載しています。
資料は、くすりの情報センターで管理しています。閲覧可能です。
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