温暖化影響早期観測ネットワークの構築

平成 18 年度
温暖化影響早期観測ネットワークの構築
報
告
書
平成 19 年 3 月
独立行政法人
国立環境研究所
1
目
次
1.背景 ............................................................... 3
2.研究目的および業務内容.............................................. 3
2.1
温暖化影響観測ネットワークの拡張と高度化 ............................... 4
2.1.1 衛星データを利用したアジア地域環境資源モニタリング ...................... 4
2.1.1.1 MODIS 衛星データ受信システム....................................... 5
2.1.1.2 MODIS 衛星データ解析システム....................................... 6
2.1.2 MODIS データ基礎解析システムの開発・運用 ................................ 12
2.1.3 温暖化影響地上観測ネットワークの拡張 ................................... 21
2.1.3.1 GPR 調査領域およびボーリング孔現場の決定 .......................... 21
2.1.3.2 Davaat 渓谷における永久凍土層探査のための地中探索レーダー調査 ..... 24
2.1.3.3 Davaat 渓谷におけるボーリング孔掘削 ............................... 28
2.1.3.4 永久凍土観測システム ............................................. 32
2.2
温暖化影響気候解明モデルの開発 ........................................ 33
2.2.1 地球温暖化が環境資源に与える影響の予測モデルの開発 ..................... 34
2.2.1.1 モデルの構造..................................................... 36
2.2.1.2 入力データ及び境界条件 ........................................... 43
2.2.1.3 結果及び考察..................................................... 46
2.2.1.4 結論 ............................................................ 48
2.2.2 地球温暖化が食料需給バランスに与える影響予測モデル開発.................. 48
2.2.2.1 地球温暖化による作物生産量(供給量)の変化予測モデルの構築 ........ 48
2.2.2.2 産業連関分析モデルによる食料需要定量化モデルの開発 ................ 54
3.研究成果のとりまとめ・公表 ......................................... 66
3.1
インターネットを通じた研究成果の公表 .................................. 66
3.2
RCC 会議、雑誌及び国際会議による成果発表 ............................... 68
2
1.背景
地球温暖化問題の深刻化、水資源の不足、ミレニアム生態系評価(MA)報告書1で警告された生態
系資源の著しい損失、自然災害による被害など地球規模での危機を回避するためには、地球規模
の諸現象を観測によって的確に把握するとともに、観測から得られたデータを使って将来の予測
を行うことが必要となる。
しかしながら、このような地球観測の取組については、途上国において観測等を行う人材の不
足、観測機器の遅れ、観測プロジェクト間の連携の不足などの多くの問題が存在している。この
ような問題認識の下、2002 年の持続可能な開発に関する世界首脳会議(WSSD)を契機に、複数シ
ステムから構成される全球地球観測システム(GEOSS)構築の検討が開始された。そして、2005
年 2 月の第 3 回地球観測サミットにおいて、GEOSS 設立のための 10 年実施計画が採択されたとこ
ろである。さらに、2005 年 7 月の G8 グレンイーグルスサミットにおいては、気候変動問題が主
要テーマの一つとされ、温暖化の影響に関する途上国への情報提供や能力開発の推進について議
論された。
2.研究目的および業務内容
本業務では、東アジア地域における温暖化影響を早期に観測することと、代表的な地域におけ
る環境資源および食料需給バランスへの影響を予測するモデルを開発することを目的とする。
APEIS(アジア太平洋環境イノベーション戦略プロジェクト;平成 14~16 年)において構築さ
れた衛星・地上統合観測システム(中国 5 地点)の維持管理を行うとともに、新たにモンゴルの
永久凍土地域への地上観測システムの設置によって 6 地点に拡張し、東アジアをリアルタイムで
カバーできる温暖化影響観測ネットワーク網を構築し、環境資源情報(氷雪被覆面積、凍土層変
動等)の高精度・効率的計測手法の開発を行う。
さらに、得られる気候変動観測結果を活用し、温暖化による環境資源への影響を分析し、環境
資源を通じた食料生産および食糧需給バランスへの影響要因の解析を行う。一連の機構解明を行
うための地理情報システム(GIS)、生物的・物理的・化学的な生態系プロセスモデルと統合された
温暖化影響評価モデルの開発を、中国、モンゴル等でのケーススタディを通じて行う。最終的に、
これらの統合モデルによって、温暖化が凍土や氷雪など環境資源及び食糧需給バランスへ及ぼす
影響の評価を行う。
2001 年から 2005 年の間に実施された国連ミレニアム生態系評価(MA)プロジェクトの成果
として、日本を含めた 95 カ国、1300 人以上の科学者がまとめた報告書である。
1
3
2.1
2.1.1
温暖化影響観測ネットワークの拡張と高度化
衛星データを利用したアジア地域環境資源モニタリング
2001 年から 2005 年まで 行 っ た 「 ア ジ ア 太 平 洋 環 境 イ ノ ベ ー シ ョ ン 戦 略 プ ロ ジ ェ ク ト
(APEIS))」には、日本国立環境研究所(NIES)と中国科学院の地理科学与資源研究所(IGSNRR)を
初めとして、国立シンガポール大学(NUS)、中国生態システム研究ネットワーク(CERN)、中国科学
院新彊生態与地理研究所、中国科学院亜熱帯農業研究所、中国科学院西北高原生物研究所が参加
し、アジア・太平洋地域を対象とし、多様な広域環境情報の迅速かつ正確な把握を可能にする統
合環境モニタリングシステムを構築した。2006 年からモンゴル科学院の参加によってモンゴルで
新たに地上観測ステーションを構築し、このシステムを拡張した。
本システムは、中国新疆ウィグル自治区に設置している Terra-MODIS 衛星データ受信ステーシ
ョン、6 つの地上モニタリングステーション(山東省:禹城(Yucheng)、新疆ウイグル自治区:
阜康(Fukang)、湖南省:桃源(Taoyuan)、青海省:海北(Haibei)、江西省:千煙州(Qianyanzhou)、
モンゴル:ダビット(Davaat)
、及び NIES に設置しているデータ解析センターより構成されてい
る。データ解析センターでは、データベースとして MODIS 衛星データ、GIS データ、および地上
生態系ステーションの観測データを蓄積し解析している(図1)。
図 1 温暖化影響観測ネットワーク
4
2.1.1.1
MODIS 衛星データ受信システム
中国新疆ウイグル自治区のウルムチ近辺にある EOS/MODIS 衛星データ受信システムは、平成 14
年 4 月に設置され、阜康でのデータ受信に関わる作業は、国立環境研究所と共同で、中国科学院
新疆生態与地理研究所が行っている。このステーションはデータを 1 日に少なくとも 2 回受信す
ることが可能であり、日本・中国・モンゴルおよび西アジアを含む広大なエリアをカバーしてい
る。阜康ステーションにおいて受信したデータ(1 日当たり約 3GB)は、中国北京にある中国科学院
地理科学与資源研究所のデータ解析センターへ転送され、さらに、国立環境研究所の MODIS デー
タ解析センターへ送られる。このデータを基にして、アジア地域における環境変化のモニタリン
グや温暖化影響評価のための統合モデルの開発が可能となる。
2006年にはMODIS衛星受信ステーションによる現地観測を継続的に行った。このため、衛星受信
システムの機器のメンテナンスやデータ管理、収集と伝送について、現地で迅速に対応できる体
制が必要であり、その適切な実施を期待できる法人として日本スーパーマップ株式会社に外注し
て実施した。また、厳しい気象条件下で老朽化した機器が発生しており、一部の部品を更新した。
これについて、国立環境研究所が現地の中国科学院新疆生態与地理研究所の担当者と検討を行い、
外注先の日本スーパーマップ会社を指導して実施した。具体的に、以下の作業を行った。
①
データ伝送及びメンテナンス体制
共同研究機関である中国科学院新疆地理研究所が衛星受信ステーションで取得したデータを処
理し、レベル 1 の元データを生成し、現地で保存した上、日本スーパーマップ株式会社北京拠点
に伝送し DVD-R に保存して、国際 EMS で国立環境研究所担当者に送付する。国際 EMS の送付に伴
う中国国内の通関などの諸手続は中国科学院の協力を得て日本スーパーマップ株式会社北京拠点
職員が実施した。
データ受信の有無や状況を、毎日電子メールを通じて国立環境研究所担当者に送信する。受信
があった日は、クイックロック画像(JPEG)を作成して同報メールに添付する。日中間や中国国
内のネットワークの伝送速度が遅く、インフラ整備の面では幾分好転したが、大容量データ伝送
のための日常的な使用は困難であるため、最も安定したデータ伝送方法、すなわち DVD-R の送付
とした。
正常な受信を確保するために、機器類の日常保守が重要である。特に、設置地点の中国新疆は、
季節によって-40℃~40℃の大幅な気温変化があり、
屋外に設置した衛星受信システムのアン
テナや屋外に露出しているケーブルの耐熱、越冬処理をシーズンの変わり目に行い、機器の故障
による受信の欠落を解消する必要がある。保守は設置協力業者である中国長城工業公司の協力を
得て実施した。
② MODIS データの収集
新疆の衛星受信ステーションでは、毎日定刻、MODIS 衛星の軌道情報を収集し、クイックロッ
ク画像を確認しながら行っている。人為ミスを回避するために、常に 2 人ペアで作業を行い、週
5
ごとに交替している。また、国立環境研究所担当者らは経常的にインターネットを通じて MODIS
衛星の運行状況を確認し、継続的なデータ収集に努めた。
2.1.1.2 MODIS 衛星データ解析システム
MODIS は Terra (EOS AM-1)衛星に搭載されている装置の中でも特に重要なセンサーである。
MODIS は 1~2 日の間に全地球表面の状態を観測している。また MODIS センサーは、0.4 µm~14.4
µm の波長域において 36 のスペクトルバンドを持ち、非常に受信感度の高い(12bit)放射計を備
えている。またセンサーの空間解像度は、250m(バンド 1~2)、500m(バンド 3~7)そして 1000m
(バンド 8~36)の 3 種類である。
図 2 MODIS クイックルック画像例(2006 年 8 月 4 日)
6
Level 0
MOD01
センサパケットデータ
Level 1
MOD01
レベル 1A
MOD03
MOD02
L1B ラディアンス
Level 2 Gridded 地理的位置情報
グリッドポインター
プロダクト
グリッド角度データ
プロダクト
MOD02 グリッドポインター, グリッド角
MOD10
雪の被覆
day
MOD29
雪と氷の
最大被覆 day
MOD12
前期の
土地利用
MOD35
雲のマスク
MOD09
表面反射
MOD14
温度の偏差
MOD04
L2G土地
エアロゾルプロダクト
MOD05
降雨可能水分
MOD35
雲のマスク
MOD11
土地表面
温度・放射
Level 2G
Level 3
MOD11
土地表面
温度・放射
8day,mn
MOD13
植生8-,16-,mn MOD43
BEDF/アルベド
16-day
MOD33
雪の被覆
10-day,month
MOD12
土地被覆
(96days)
MOD10
雪の被覆
day
MOD29
雪と氷の
最大被覆 day
MOD14
温度の偏差
1-,8-,16-,mn
MOD42
雪と氷の被覆
10-day,mn
MOD15
LAIとFPAR
1-,8-day,mn
MOD15
LAIとFPAR
1-,8-day,mn
Level 4
MOD17
植物生産量
8-day,year
図 5 MODIS の Land プロダクト画像処理フローチャート
(MODISWeb サイト:MODIS データのページ
(http://modis.gsfc.nasa.gov/data/)より引用。)
MODIS データの最大の特徴は,地上受信局で受信された衛星データが,特定の画像処理アルゴ
リズムに従って変換されることにより,Level0~Label4 へと4段階にレベルが高次化されていく
点である。そしてこの過程で MOD1~MOD44 と呼ばれる衛星画像解析結果(プロダクト)が作成さ
れる(図 3)
。MODIS データの処理レベルと個々のプロダクトは以下のとおりである。
Level0 観測機器のパケットデータ。受信された生データ
Level1 データを放射量に変換し,ピクセルに位置座標を付けたデータ。
Level2 大気補正を行った後の,1 日毎に得られるデータ。
MOD09 表面反射率
7
MOD10 雪の被覆
MOD11 土地の表面温度と放射
MOD14 温度の偏差
MOD29 氷の被覆
Level3 幾つかの多時期データを合成し,雲の影響などを除去したデータ。
MOD11 表面温度と放射(8 日間と1月間)
MOD12 土地被覆
(96 日間)
MOD13 植生指数
(8 日間,16 日間,1月間)
MOD33 雪の被覆
(10 日間,1 月間)
MOD43 BRDF とアルベド(16 日間)
Level4 より高度な長期にわたる最終成果プロダクト
MOD15 葉面積指数と FPAR (1日,8日間,1月間)
MOD17 植物生産量
(8 日間,年間)
図 4、5 は MOD02 による作られた画像例として黄砂の様子を示した画像である。
図4
MOD02のMODIS画像で示している黄砂の様子(2006年4月21日)
8
図5
MOD02のMODIS画像で示している黄砂の様子(2006年4月16日)
各地のグランドステーションは MODIS の Level1A 、1B のデータを受信することが可能である。
それより高い Level プロダクトは MODIS の高次処理システム
(MODAPS:MODIS AdaptiveProcessing
System)により作成される。Level1以降のレベルにおける処理計算式とアルゴリズムは EOS アル
ゴリズム理論ベーシックドキュメント(ATBD's:Algorithm Theoretical Basis Documents)で記述
され、EOS/DIS から提供されている。以下に MODIS ランドプロダクトの詳細を紹介する。
① MOD09 Surface Reflectance 表面反射率
MODIS 表面反射率プロダクトは Level1B バンドの 1~7 をもとに計算される。
(中心波長でそれ
ぞれ 470,555,648,858, 1240,1640,2130 nm)このデータは,大気の散乱・吸収が無いと仮定した
場合の,それぞれのバンドに対応した地表面のスペクトル反射率の推定値である。この補正は大
気・エアロゾル・巻雲等の影響を考慮して行われている。またこの補正には MOD05 から巻雲と水
蒸気,MOD04 からエアロゾル,MOD07 からオゾンを除去するためにバンド 26 が使用されている。
② MOD11 Land Surface Temperature & Emissivity 地表面温度と放射率
9
この MOD11 プロダクトには,Lebal2 と 3 の地表面温度および晴天状態の全球地表面の放射率
(空
間解像度は 1km と 5km)が含まれている。ここでは MODIS の放射量ピクセル(バンド 31 と 32)に
対し地表面温度を求めるために一般的なスプリットウィンドウ法が用いられている。物理過程ベ
ースの昼/夜の地表面温度アルゴリズムは,
同時に表面のバンド放射率と温度を計測するためにも
用いられる。このために昼・夜のペアの MODIS 観測データ(バンド 20,22,23,29,と 31~33)が必
要となる。
③ MOD12 Land Cover/Land Cover Change 土地被覆/土地被覆変化
この Level3 のプロダクトには 1km 解像度の土地被覆タイプと土地被覆変化のパラメータが含ま
れている。これらは Terra と Aqua の打ち上げ 18 ヶ月目以降に始まり,一年 4 回のペースで更新
される。この土地被覆パラメータには IGBP グローバル植生データベースに続いて 17 の土地被覆
カテゴリー(自然植生=9,開発地=3,モザイク状の土地=2,非植生地(雪/氷,裸地/岩,水面)
=3)が定義されている。土地被覆変化パラメータは大規模で急激な土地表面の改変と同様に,繊
細で連続的な変化を定量化する物である。
④ MOD13 Gridded Vegetation Indices (NDVI & EVI)
植生指数(NDVI と EVI)
MODIS の植生指数 MOD13 は地球上の植生状態の時空間的な比較のためのデータを一貫して提供
している。それは陸地面の光合成活動状態のモニタリング(またその変化抽出とそのフェノロジ
ー・生物物理現象を考慮した解釈)を行うために用いられる。植物活動の空間的・時系列的変化
が示されているグリッド化された植生指数マップは,年間を通して 8 日・16 日・1 ヶ月間隔で作
成されている。MODIS の植生指数は現在の植生指数を改良することによって,より精度良く地表
面の植生被覆状態をモニタリングし変化を抽出することが可能となる。
⑤ MOD14 Thermal Anomalies, Fires & Biomass Burning 熱状態の異常,山火事とバイオマスの
燃焼
MODIS の熱的な異常に関するプロダクトは,火災の発生(昼/夜),火災の位置,火災の選別の
ための論理的判断,個々の火災のエネルギー計算結果を提供する。またさらにこのプロダクトは
8 日毎,1 月毎(昼と夜)の火災の発生,火災のクラス別に 10km にグリッド化されたデータ,各
火災クラスの数の 0.5°にグリッド化されたデータを提供している。Label2 データには火災に関
する各種パラメータ(熱的異常の発生)が含まれている。これらのパラメータは 1 日毎の 1km 解
像度に整理される。この火災に関するプロダクトには火災用の特別のチャンネル(3.9μm に対応
する 500K で飽和するものと 11μm チャンネルのさらに高い飽和レベルもの)が使用されている。
夜間の火災プロダクトについては 1.65 と 2.15μm のチャンネルが使用されている。
⑥ MOD15 LAI & FPAR
葉面積指数と植物によって吸収される光合成有効放射の部分
MOD15 葉面積指数と FPAR(植物によって吸収される光合成有効放射の部分)は 1 日と 8 日毎に
作成される 1km 解像度のプロダクトである。
LAI は植物キャノピーの重要な構造上の特性を表し,
単位面積辺りに存在する葉の片面の面積と定義される。FPAR は光合成活動に必要な波長域(400
~700nm)における利用可能な(植物が吸収する)放射の比率を計測したデータである。LAI プロ
ダクトは一定期間で合成された MVI(修正された植生指数)と対応しており,全球的なグリッド
10
データベースの中で 0~8 の LAI 値となる。同様に FPAR プロダクトは,その値が 1km グリッドのデ
ータベースの中で 0.0~1.0 の値となる。
⑦ MOD17 Photosynthesis and Net Primary Productivity
純一次光合成生産量
MOD17 は Level4 の 8 日間の光合成データと純一次生産量からなるプロダクトである。
年間の NPP
は1年間に渡る純光合成データを時間的に積分して求められている。このプロダクトは陸域にお
ける植物の生長と生産活動の詳細な測定をもたらす物である。理論的な目標は気候モデルのため
の陸域表面における二酸化炭素の季節的フラックス変動を明らかにすることである。フラックス
は特定の植生タイプ別に詳細に計算される。実際的な応用としては穀物や森林の生産量,また他
の社会的に重要な植物の生産量の測定である。この世界的な NPP プロダクトが定期的に入手可能
になることにより導かれる多様な研究成果は,地域的な特定の穀物生産量の推定を可能にするで
あろうと期待されている。世界規模の政策・経済指針決定のために,バイアスのない穀物と森林
の生産量推定のための定期的なデータは非常に重要となる。
⑧ MOD43 Albedo16-day L3
Nadir BRDF-Adjusted Reflectance
BRDF Ross-Li Model
16 日アルベド,鉛直 BRDF 補正後の反射率 BRDF Ross-Li モデル
BRDF(Bidirectional Reflectance Distribution Function)二方向反射分布関数とアルベドの
パラメータは次の二つを提供する。1)7 つの MODISLand バンド(1~7)の各セルの BRDF を表す数
学的関数の係数。2)3 つの広域バンド(0.4~0.7μm,0.7~3.0μm,0.4~3.0μm)と同様に 1~7
バンドに対応した BRDF から同時に導かれるアルベド観測値。導かれた BRDF とアルベドは個々の
ピクセルに対して結合されたマルチルックを必要とするので,BRDF/アルベドパラメータは 16 日
毎に提供される。その空間解像度は 1km である。32 日分がまとめられたアルベドプロダクト(空
間解像度=0.25°)もまた提供されている。Terra と Aqua の両データは記録された後は結合する
ことが可能である。
⑨ MOD44 Vegetation Cover Conversion 植生被覆の変化
250m 解像度の 2 つのバンドから得られる MODIS データを用いることにより,植生被覆の変化デ
ータをグローバル規模の植生被覆変化の分布として示すことが出来る。重要な痕跡がある場所は
変化のタイプがラベリングされる。
(例えば森林から農地,または草地,裸地など。
)これらの変
化地域の分布は 250m の解像度で表され,10km グリッドにまとめられる。これらは 3 ヵ月間隔で
統合化される。1年間を通しての成果物もまた作成され,前年一年間の植生変化のグローバルな
分布として示される。
国立環境研究所では、上記の MODIS 高級プロダクトを基にした高次処理システムを導入し、北
京、阜康の両受信センターで取得された MODIS データを用いた、大気、陸域、海域についての環
境情報の取得を恒常的に実施している。また、地上生態ステーションでの観測データを用いた各
MODIS プロダクトの検証も行っている。具体的に検証しているデータ項目としては、以下に示す
ものが挙げられる。さらに、この検証作業を通じて、プロダクト作成用のアルゴリズムの改良や
新たな MODIS プロダクト開発も積極的に行っている。これらのプロダクトは、(1) 地表面温度;
(2) 地表面反射率およびアルベド;(3) 植生指数;(4) 葉面積指数;(5) 純一次生産量、と(6) 陸
11
域の炭素蓄積量である。
2.1.2 MODIS データ基礎解析システムの開発・運用
MODIS 受信システムから得られる大量のデータを保管し効率良く運用するとともに、地上観測
データを活用し衛星データの検証・補正を行い、温暖化影響の定量的評価手法への適用を目的と
して、NIES で設置している MODIS データ解析・基礎解析システムの運用を継続して行った。また、
平成 18 年度に MODIS データネットワークの継続に伴うデータ容量の増加に対応して、今まで整備
した MODIS データ解析システムの容量の確保や老朽化した部品の交換等を実施した。
また、衛星データ解析システムには、アメリカの NASA から導入された MODIS データ高次処理プ
ログラムが搭載されている。受信システムによる大量のデータを正確かつ効率良く処理するため
のシステムの高度化を、MODIS データ高次処理プログラムの新たな開発と改良等によって実施し
た。
(1)MODIS データ基礎解析システムの概況:
NIES の画像解析室に設置している MODIS デー
タ基礎解析システムの全体構成図を図 6 に示す。データ保存・管理装置 sun80a サーバのディスク
アレイ装置は全て RAID5 で構成されており利用可能領域の合計は約 16TByte である。
また、sun80a
サーバの各ディスクは共有設定されており MODIS 高次処理 W/S、データ解析用 W/S 及びデータ解
析装置パーソナルコンピュータからのネットワークアクセスが可能である。
sun80a サーバのシステム領域及びデータ領域(/home1 - /home5)に関しては sun80c に接続さ
れた Sun StorEdge L40(DLT Type4 40 巻テープライブラリィ装置)のバックアップスケジュール
に従い自動的に 2 週間周期でフルバックアップが実行される。/home6 - /home20 に関しては sun80c
にローカル接続された Sun StorEdge DLT7000 ×2 台を用いて個別にバックアップを実施する必要
がある。
バックアップコマンドは Solaris 標準の tar コマンドを使用し DLT Type4 のメディアに tar 形
式でファイルの書き込みを行う。tar 形式を用いることでディレクトリィ及びそのディレクトリ
ィ配下にあるファイルのバックアップが可能である。DLT Type4 に記録できる容量は高圧縮モー
ドの指定で概ね 50GB~60GB のデータバックアップが可能である。
バックアップ対象のディレクト
リィの総容量が 60GB を超える場合にはデータを複数に分割してバックアップする。約 60GB をバ
ックアップするのに要する時間は約 6 時間程度であるが、同時に高次処理等が実行中でネットワ
ーク負荷が高い場合には 10 時間以上要する場合もある。
平成 18 年度に於いて画像解析室に導入されているデータ解析用パーソナルコンピュータ 3 台
(ibm80a,ibm80b,ibm80c)及び大型カラーイメージスキャナ装置用パーソナルコンピュータ
(ibm80d)にインストールされている Windows2000 のセキュリティ強化のため以下のセキュリテ
ィ更新プログラムのアップデート及びインストールを実施した。
12
データ保存・管理装置(1式)
図6 システム全体構成図
図1.1 システム全体構成図
Sun Fire4800
Sun StorEdge D240 Media Tray
Sun StorEdge T3 array (3.3TB)
Sun StorEdge 72インチ 拡張キャビネット
IAI PA-16U3R-45000SS Disk array (3.9TB×3)
IAI SNX-R29000-40000XS Disk array (3.2TB)
GSEE BM10K(M10)-10FND II (大型UPS)
SSHサーバー
HTTPサーバー
Sun Blade 150
データ解析装置(3式)
解析用パーソナルコンピュータ
DELLl Precision WS 530
17 モニターTFT カラーモニタ
GSEE POWERWARE
PICO II-1500C(UPS)
データバックアップ装置 (1式)
Sun Enterprise 250
17 インチカラーモニタ
Sun StorEdge L40
Sun StorEdge FlexiPack DLT7000×2
GSEE POWERWARE PICO II-1500C(UPS) ×2
MODIS高次処理(陸域)W/S(2式)
HP WorkStation C3650
18.1 インチ TFTカラーモニタ
ギガビット スイッチングハブ
hp designjet 5000ps
カラープリンター・コピー複合機(1式)
Canon CP2150-H
MODIS高次処理(海域)W/S(1式)
HP WorkStation C3750
20インチTFTカラーモニタ
100Mbps 及び1Gbps
100Mbps
大型カラープリンター装置(1式)
データ解析W/S(2式)
Sun Blade 1000 Model 2750
18.1 インチ TFT カラーモニタ
GSEE POWERWARE
PICO II-1500C(UPS)
13
大型カラーイメージスキャナ装置(1式)
Oce 4780
DELL Dimension 4100
17iインチ TFT カラーモニタ
GSEE POWERWARE
PICO II-1500C(UPS)
(2)高次処理システムの運用:日常的に行う MODIS の高次処理は以下の通りである。
1)阜康局、北京局及び NASA で受信した MODIS データのオーダー及びダウンロード
2)高次処理システムの環境設定
3)Level1 と Level2 の高次処理(nies_prep)
4)Level3 と Level4(MOD15 まで)の高次処理(nies_l3)
5)MOD12M と MOD12Q の高次処理
6)MOD17 の高次処理
(3)阜康局の MODIS データ DVD-ROM の内容確認作業:転送した中国阜康局 MODIS データ
(MOD01,MOD02,MOD03,quicklook)は画像解析室内の解析用パーソナルコンピュータに接続し
た DVD 装置により Sun80a サーバに一度コピーしてデータの読み出し確認を行う。読み取りエ
ラーが発生した場合には日本スーパーマップ株式会社殿に連絡して読み取れなかった MODIS
データを再送付してもらう。DVD-ROM を DVD 装置にセットしてファイル名及びファイルサイ
ズが表示されることを確認しただけでは確実なデータ確認にはならない。表示されたデータ
が本当に容量を持っていることを一度ディスク上にコピーしてデータの読み込み確認を行う。
(4)高次処理結果のバックアップ
a. Levell、Level2 の高次処理結果のバックアップ
nies_prep を実行して得られた Level1、Level2 の出力結果
は sun80c に接続された DLT
装置または sun80e に接続された SDLT 600 装置を用いて tar 形式でバックアップする。
b. Level2G の高次処理結果のバックアップ
neis_l3 を実行して得られた Level2G の出力結果は中間データであるが一時的にペタサ
イトにバックアップする。
c. neis_l3 を実行して得られた Level3、Level4 の出力結果は sun80a サーバの/home18、
/home19、/home20 に保存されるためディスクが一杯にならないように分散して保存する。
新しい出力結果が得られたら DLT のバックアップも行う。
(5)欠側データの補間と整備:阜康局で欠側した日の MODIS/MOD01 データを NASA の MODIS
データサイトにオーダーを行い補完する。データの取得方法は FTP によるダウンロードを使
う。NASA MOD01(Level1A)データのオーダー先のホームページアドレスを以下に示す。
NASA(ES Distributed Active Archive Center(DAAC)のホームページアドレス:
(http://acdisx.gsfc.nasa.gov/data/dataset/MODIS/index.html)
平成 18 年 9 月末(2006 年 9 月)に NASA
MOD01(Level1A)データのオーダー先ホームペー
ジが削除されサービスが停止された。その後新しいサービスのサイトに切り替わり、平成 19
年 3 月 31 日現在に MOD01 の手配可能なホームページアドレスは以下の通りである。尚、新し
いオーダーサイトで入手できるデータは HDF ファイルのみである。これまで HDF と組になっ
て入手して来たメタデータファイル(met)は付属しない。観測日単位に分割整理して DLT(約
60GB)テープに収められる容量ごとに tar ファイル形式(UNIX 標準形式)でバックアップし
た。バックアップした DLT テープには収められた MOD01 データの判別が付くようにラベルを
14
貼り保管した。
(6)Level1 と Level2 の高次処理成果物:
高次処理システム運用方針に従い、平成 19 年
3 月 31 日までの阜康局データ、北京局データ及び NASA データに関しては高次処理(Level1/2)
を実施した。
(7)Level3 と Level4 の高次処理成果物
Level1 と Level2 で処理した出力結果を用いて Level3/4 の高次処理を実施した。ここで入
力として用いるデータは阜康局データ、北京局データ及び NASA データの 16 日間の Level2
データである。これらの入力データ(約 450GB)を一組として、Level3/4 の各 MOD 出力であ
る 1 日、8 日、16 日を計算処理する。高次処理(Level3/4)プロダクツは以下のものである。
・Level3/MOD09A2
8 日間合成の表面反射画像
・Level3/MOD11A2
8 日間合成の地表面温度画像
・Level3/MOD13A2
16 日間合成の植生指数(NDVI)画像
・Level3/MOD13A2
16 日間合成の植生指数(EVI)画像
・Level4/MOD15A2
8 日間合成の葉面積指数(LAI)
・Level4/MOD15A2
8 日間合成の光合成有効放射吸収率(FPAR)
MODIS 高次処理データは全て図 7 に示す ISIN タイル出力であるため、ここで示す参考画像
は ISIN タイル(H24-H29,V04-V06/合計 17 タイル)をモザイクして 1km メッシュ相当の等緯
度経度座標に座標変換したものである。但し、すべでのデータに対して Level3/4 までの高次
処理は現在のシステムの容量に制限されているため、平成 19 年には行った Level3/4 の高次
処理は 2003 年のみであった。図 8-12 は Level3 及び Level4 の高次処理で求めた各プロダク
ト画像例である。これらの高次処理プロダクツを sun80a サーバの/home17~/home20 に保管
した。また、DLT に tar 形式でバックアップした。
図 7 ISIN タイル一覧
MOD09A1 2003/01/01 8 日間合成
15
MOD09A1 2003/04/07 8 日間合成
MOD09A1 2003/07/12 8 日間合成
MOD09A1 2003/10/16 8 日間合成
図8
Level3/MOD09A2
8 日間合成の表面反射画像
16
MOD11A2 2003/01/01 8 日間合成
MOD11A2 2003/04/07 8 日間合成
MOD11A2 2003/07/12 8 日間合成
MOD11A2 2003/10/16 8 日間合成
図9
Level3/MOD11A2
8 日間合成の地表面温度画像
17
MOD13A2 2003/01/01 16 日間合成
MOD13A2 2003/04/07 16 日間合成
MOD13A2 2003/07/12 16 日間合成
MOD13A2 2003/10/16 16 日間合成
図 10
Level3/MOD13A2
16 日間合成の植生指数(NDVI)画像
18
MOD13A2 2003/01/01 16 日間合成
MOD13A2 2003/04/07 16 日間合成
MOD13A2 2003/07/12 16 日間合成
MOD13A2 2003/10/16 16 日間合成
図 11
Level3/MOD13A2
16 日間合成の植生指数(EVI)画像
19
MOD15A2 2003/01/01 8 日間合成
MOD15A2 2003/04/07 8 日間合成
MOD15A2 2003/07/12 8 日間合成
MOD15A2 2003/10/16 8 日間合成
図 12
Level4/MOD15A2
8 日間合成の葉面積指数(LAI)
20
2.1.3
温暖化影響地上観測ネットワークの拡張
平成 13 年度から開始した APEIS 事業を通じて中国大陸を中心とした衛星と地上観測を同時
に行うアジア統合環境モニタリングシステムが構築され、温暖化の影響評価に利用可能な多
くの項目について測定が行われてきた。このシステムは、中国新疆ウィグル自治区に設置し
ている Terra-MODIS 衛星データ受信ステーション、5 つの地上モニタリングステーション(山
東省:禹城(Yucheng)、新疆ウイグル自治区:阜康(Fukang)、湖南省:桃源(Taoyuan)、青
海省:海北(Haibei)、江西省:千煙州(Qianyanzhou)、及び NIES に設置しているデータ解
析センターより構成されている。
しかしながら、アジア地域は地理的、生態的、社会経済的に最も多様性の高い複雑な地域
であるとともに、温暖化による局所的な影響の把握・評価のためには、現状の観測ネットワ
ークの観測範囲だけで地域内の複雑かつ多様な情報を網羅的に取得することができない。本
プロジェクトでは衛星観測をより広い範囲に適応すると共に、地上観測ネットワークを既存
の 5 地点に加えモンゴルの永久凍土地域への地上観測システムの設置によって 6 地点に拡張
し、東アジア全域を展開できる温暖化影響観測ネットワーク網を構築した。さらに、温暖化
に敏感に反応する凍土の深さ、境界線及び地理分布の変化を探査できる優れた地中レーダー
探査装置(GPR)を借用し、モンゴルで凍土観測を実施することによって凍土の分布、深度など
現状を調査した。調査内容は、

モンゴル科学院・地理研究所(IOG、MAS)と協力し、Dechingungaa Dorjgotov 教授(IOG、
MAS)が 3 月に北京で提案した 3 箇所から長期的モニタリング箇所の位置を決定した。

中国科学院・寒区乾燥区環境与工程研究所(CAREERI、CAS)およびモンゴル科学院・
地理研究所(IOG、MAS)と協力し、Davaat 渓谷およびナライハ盆地での GPR 調査を終
了し、この領域における永久凍土層の空間的分布を決定する。主なパラメータには、
活動層層厚の深さおよびピンゴの永久凍土層の厚さが含まれた。

南面および北面の傾斜の 2 箇所に深さ 20m のボーリング孔を掘削し、異なる深さで
の永久凍土層温度をモニターした。

2006 年に、モンゴル内で長期的永久凍土層モニタリング箇所を決定し、選択した永
久凍土層地方および地下が永久凍土層である別の隣接した平原で地中探索レーダー
による永久凍土層調査を終了し、選択した Davaat の現場で、深さ 20m の 2 つのボー
リング孔を掘削した。
2.1.3.1
GPR 調査領域およびボーリング孔現場の決定
2006 年 8 月に、長期的永久凍土層モニタリング現場および GPR 調査現場を決定するために、
モンゴル科学院(MAS)が提案した 3 現場(Davaat、Uvur Zaisan および Shajin Hurah)を訪問し
た(図 13)。また、研究領域の活動層層厚および土壌構造に関する予備データを、テストピッ
ト発掘で収集した。
Davaat 渓谷はウラーンバートル市の 38km 北東に位置し、上流はテレルジ川に達している
21
(図 14)。この現場は、連続永久凍土層と不連続永久凍土層の移行領域に位置している。また
この渓谷は、シベリアタイガ林の南方境界上に位置している。さらに、この現場は他の 2 現
場より人間活動が少なく、測定器にも安心である。また、北面斜面および南面斜面における
永久凍土層条件の違いによる 2 種類の植生が、この現場を有効な長期的モニタリング場所と
している。したがって、我々は Davaat 渓谷を長期的永久凍土層モニタリング場所として選択
した。プロファイルおよびボーリング孔の詳細な位置を、以下の地図に示す(図 15)。
図 13
モンゴルで提案された 3 箇所の永久凍土層観測地点
22
90°E
100°E
110°E
120°E
50°N
45°N
点在的永久凍土
不連続的永久凍土
連続的永久凍土
40°N
図 14
モンゴルにおける永久凍土層分布、および Davaat 現場の位置
図 15
Davaat 渓谷における GPR 調査および表面植物分布の略図
23
2.1.3.2
Davaat 渓谷における永久凍土層探査のための地中探索レーダー調査
地中探索レーダー(GPR)は比較的新規の電磁気物理探鉱法で、表面下の地質構造を探査する
ために広範囲で利用されている。GPR は、地面に設置する送信アンテナにより地面へ広めら
れる電磁エネルギーの短パルスを使用している(図 16)。その間にも、送信パルスが地表下の
中間面と遭遇すると電磁気インピーダンス差が存在し、受信アンテナは地面に反射される電
波を探査する。送信パルスと反射の到着の間の遅延時間は、反射が発生する地表下地勢の深
さに比例する。
土壌温度が 0℃以下に下がる冷凍土壌において、伝搬速度は増加するが、導電率、誘導体誘
電率および損失正接は減少する。特に粗粒土中では、シグナル減衰速度が減少し、GPR の浸
透深さが増加し、GPR 調査条件として望ましい。冷凍土壌と非冷凍土壌間における誘導体誘
電率の大きな差は、さまざまな量の液体および凍結水を含む物質を分離する境界を探査する
ために、GPR を永久凍土層中で広範囲に使用したことが原因と考えられる。GPR を使用して、
巨大な氷の存在、凍結したダムや道路の安定性、凍結土壌汚染、永久凍土層上の活動層深さ
に対する空間的・一時的変化、およびパルサや泥炭層を確認した。
地下凍結層を探査する従来のボーリング孔掘削法、電磁探査と比較すると、地中探索レー
ダー(GPR)は、経済的で、大量の連続的・高解像度地表下データを生成できる。一連の事例研
究は、GPR が、表面付近の熱構造および永久凍土層地層の画像化に適していることを示して
いる。
携帯用パソコン
コントロールパネル
送信アンテナ
送信回路
受信回路
図 16
受信アンテナ
GPR の構造および調査原理
地中探索レーダー調査を実施して、10 月 18 日から 10 月 25 日にかけて Davaat 渓谷の永久
凍土層を探知した。探査機器は『Sensors & Software Inc.(Canada). Pulse-EKKO 100』を使
用した(図 17)。48 の GPR プロファイルを探査した。GPR の詳細なパラメータを表 1 に示す。
24
図 17
探査に使用した Pulse-EKKO 100 GPR
表1
アンテナの中心
周波数
アンテナ間隔
サンプリング間
隔
記録タイムウィ
ンドウ
サンプルレート
記録箇所
スタッキング数
GPR 測定パラメータ
50MHz
100MHz
200MHz
2.0 m
1.0m
0.5m
1.0m
1.0m
1.0m
400ns
400ns
100ns
1600PS
携帯用 GPS
64
800PS
携帯用 GPS
32
800PS
携帯用 GPS
32
自動利得制御(AGC)を使用して、シグナル伝達過程における球状ビーム輸送の幾何学的
減衰を補うために、信号強度に反比例する要素により振幅を増加させた。また、信号選
択を使用して、信号対雑音比および地形補正を改善した。速度 0.070m/ns を含氷率が低
い地域、および 0.014m/ns を含氷率が高い地域の深さ変換に使用した。回折行列による
計算、およびこの地域における古い掘削所からの情報で得られた平均速度を、プロファ
イルの速度として使用した。処理データは、グラフィック画像プロファイルとして示さ
れる。プロファイル画像の解析後に、永久凍土層と非永久凍土層地方の間の境界を、地
形学的、水文学的、および地質学的条件を考慮して図化した。
すべてのプロファイルの縦軸は、メーター単位で表現した深さである。土壌表面から
約 13m の深さに及び、2 方向のパルス移動時間に基づく伝達の平均速度である(含氷率が
低い地域 0.070m/ns、および含氷率が高い地域 0.014m/ns)。14m 未満の深さプロファイ
ルは、地面の下層に関する十分な詳細がないため、ここでは示さない。信号スタッキン
グ、水平方向高域フィルタ、レンジ・ゲイン、および距離正規化を使用してプロファイ
ルを処理した。信号スタッキングにより数回のスキャンを平均し、信号トレースとして
結果を示すことにより、望まれないバックグラウンドノイズを除去した。水平方向高域
25
フィルタを使用して、ノイズの水平バンドをデータから除去した。生データに低い振幅
反射が多く含まれるため、レンジ・ゲインを用いて改良した。レンジ・ゲインを使用し
て、低振幅および高振幅反射の振幅を共に増加させた。距離正規化を実施して、観測点
の間の伸縮およびスキップ・スキャンによる調査速度変化を修正し、一定の水平スケー
ルを得た。2 種類のレーダトランセクトの低い部分における最も顕著な地表下の反射体
は、含氷が豊富な層である。高振幅および容易に同一化可能な双曲線形は、レーダプロ
ファイルの中間およびより低い部分で反射する。双曲線形反射は、アンテナ放射および
信号回折の広い弓形によって引き起こされる。レーダプロファイルの一番上の 2 本の連
続的水平帯は、地面を意味している。これらの帯の真下の不連続高振幅反射は、不凍土
層と凍土層の界面を意味している。
含氷が豊富な地平線への深さから、永久凍土層表面の長期的な位置を推測した。また、
含氷が豊富な層の上部は、
「長期的な」永久凍土層表面と通常一致する。永久凍土層表面
は、両方のレーダトランセクトを介して側面からトレースでき、重なる地平線と比較し
て含氷量が多いので探査できる。両図において、永久凍土層表面からの反射は、2 本の
連続的低振幅水平帯で示されている。いくつかの高振幅反射体は、永久凍土層表面から
の低振幅反射を断続させた。これらの反射体は、界面を介して含氷量に大きな差異を示
すと考えられ、
「長期的な」永久凍土層表面または表面下における局部的な氷濃縮を示唆
している。
E47
E32
E06
48.134
TP1
48.132
S06
TP5
TP2
1630m
BH2
E13
S26
TP6
E23
S1
TP3
S52
E16
1640m
1690m
48.130
E39
E03
BH1
E38
E34
S15
S34
E40
1650m
1660m
S43
E37
48.126
48.128
E48
1700m
E1
E20
E45
凡 例
Legend
1670m
E42
Grass
草地
1680m
48.124
緯Unit:Degree
度
Latitude
TP8
1710m
S23
S04
S42
107.290
107.292
107.294
107.296
107.298
107.300
107.302
River
河川
Bush
潅木
BH
Wetland
湿地
TP
Test
Pit
テストピント
Arbor
森林
S
Start
of GPR Profile
GPR測定起点
Thawed Area
季節凍土
E
End
of GPR Profile
GPR測定終点
107.304
Borehole
ボーリング孔
107.306
Longitude 経
unit: Degree
度
図 18
Davaat 渓谷の永久凍土 GPR 調査の範囲と 50 の調査ルート
26
107.308
図 18 は GPR で観測した 50 のルートである。それぞれのルートでは、テストピットを
設け、凍土の深さを測った。解析した 50 以上のプロファイルもあるが、そのうち、プロ
ファイル 1 と 50 だけを例として示す。画像中の赤色の線は、凍結層と不凍結層の界面を
示している。
深さ (m) v=0.07 m/ns
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
13.0
14.0
プロファイル 1
南東から北西(50MHz)
解析結果:このプロファイルは川に接近している。活動層層厚は 1m から 3m まで変化す
る。南東から北西へ、永久凍土層の含氷率は低下する。
深さ (m) v=0.07 m/ns
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
6.0
7.0
8.0
9.0
10.0
11.0
12.0
13.0
14.0
プロファイル 50
南東から北西(200MHz)
解析結果:このプロファイル沿いの地面植生は、湿地生の繁茂した草木である。解析画
像は、プロファイル全体に沿った含氷量が豊富な永久凍土の存在を示している。活動層
層厚は、約 0.5m から 2.0m である。
27
テストピット評価:テストピット3の深さは1.2mである。この現場には低木と樹木が繁茂
している。腐植層の厚さは約45cmである。氷層は深さ1.0mで探査された。
GPR 解析結果に基づいて、地図中の永久凍土層分布を図化した。一部の下層は含氷が少
ない永久凍土層であることを除けば、ほとんどの渓谷の下層は含氷が豊富な永久凍土層で
緯 度
あることが明らかになった(図 19)。
体積含氷率 30%以下
河川
体積含氷率 30-70%
ボーリング孔
体積含氷率 70%以上
季節凍土地域
テストピント
GPR測定開始地点
GPR測定終点
経 度
図19
2.1.3.3
Davaat渓谷の永久凍土層分布の予備評価
Davaat 渓谷におけるボーリング孔掘削
10 月 27 日から 11 月 3 日にかけて、Davaat 渓谷の北面傾斜および南面傾斜の 2 箇所に
ボーリング孔を掘削した(図 20)。掘削した会社は、ドリルヘッドの回転数が低いドライ
穴加工を使用して 2 箇所にボーリング孔を掘削した。掘削後に、翌年に永久凍土層温度セ
ンサを設置するために、直径 68mm の鉄パイプを設置した。周辺の水の浸透を防ぐために、
鉄パイプを連結した。継ぎ目がない鉄管を翌年春にチェックし、防水性を確認する。土壌
コアを以下に示す。
28
The south-facing borehole
The north-facing borehole
図20
深さ20mで完成した2つのボーリング孔及び掘削コアサンプル
掘削するボーリング孔に関する詳細情報
位置: 中央ケンテイ山地域、テレルジ川流域、Davaat 渓谷
掘削法:低回転およびドライ穴加工
掘削する会社:「Dream Gaya Mongolia」 LLC
深さ:20 m × 2
ボーリング孔直径:(HQ) 89 mm
鋼管直径:76/70 mm
掘削機:Power-6000 (Longyear-44)
ボーリング孔番号 DA-01 (南面傾斜)
座標:N 48o08’04’’, E 107o18’15’’
29
標高:1632 m
レリーフ:南面のふもとの斜面
傾き:10%
植生: 低木を伴う牧草地
土地利用: 牧場
掘削開始日(年.月.日) 2006.10.27
掘削終了日(年.月.日) 2006.10.29
ボーリング孔土壌コアプロファイルの特徴
深さ cm
0-8
8-25
形態学的特性
暗褐色、粘土土壌、有機蓄積、多くの植生根、根による明らかな移行
濃い灰色、壌土、腐植集積層、多くの根、屑粒状構造、色彩および炭酸塩による
明らかな変化
25-57
灰色、小石(体積の 40-50%)、粘土土壌、少数の根、10%HCl からの気泡、色彩によ
る明らかな変化
57-70
茶色、粘土土壌、単独根、小石(体積の 30-40 %)、10%HCl からの中程度の気泡、
色彩による明らかな変化
70-93
灰茶色、小石 (体積の 50-60 %) 粘土土壌、根なし、10%HCl からの中程度の気泡、
色彩および石による明らかな変化
93-105
105-140
茶色、石(体積の 20-30 %)、粘土、硬質、色彩および構造による明らかな変化
灰茶色、小石 (体積の 20-30 %) ローム質粘土、わずかに硬質、10%HCl からの中
程度の気泡、色彩による明らかな変化
140-180
茶色、少数の小石 (体積の 10-20 %) ローム質粘土、 10%HCl からの中程度の気泡、
色彩および粘土による明らかな変化
180-253
茶色、少数の小石(体積の 5-10 %)ローム質粘土、10%HCl からの中程度の気泡、色
彩による明らかな変化
253-284
黄ばんだ茶色、少数の小石(体積の 10-20 %)粘土、硬質、色彩による明らかな変化
284-360
茶色、少数の小石(体積の 5-10 %)粘土土壌、炭酸塩キュータンの石面、 10%HCl
からの中程度の気泡、色彩による明らかな変化
360-560
濃い黄ばんだ茶色、小石(体積の 30-40 %)ローム質粘土、わずかに硬質、10%HCl
からの気泡
560-650
濃い黄ばんだ茶色、多くの石(体積の 40-50 %)沈泥、硬質、10%HCl からの中程度
の気泡
650-720
茶色, 多くの石(体積の 40-50 %)、炭酸塩キュータンを含有する石、粘土土壌、
10%HCl からの強い気泡
30
720-755
茶色、小石(体積の 50-60 %)ローム、10%HCl からの中程度の気泡、小石および構
造による変化
755-785
濃い灰茶色、石の多い沈泥粘土を伴わない、10%HCl からの弱い気泡、色彩による
変化
785-820
灰茶色、細礫(体積の 20-30 %)ローム質粘土、10%HCl からの気泡なし、小石によ
る明らかな変化
820-1200
1200-1350
薄い灰色、青色、粘板岩、丸い大きな石
薄い灰色、青色、粘板岩、角ばった大きな石および中程度の石、赤色酸化鉱の石
表面
1350-1960
1960-2000
薄い灰色、青色、粘板岩、角ばった大きな石および中程度の石、赤色酸化鉱なし
薄い灰色、青色、粘板岩、角ばった大きな石、赤色酸化鉱の石表面
ボーリング孔番号 DA-01 (南面傾斜)
座標: N 48o07’59’’, E 107 o18’23’’
標高:1632 m
レリーフ:北面のふもとの斜面、丘
傾き: 6%
植生: 牧草地、低木を伴う沼沢地
土地利用: 牧場
掘削開始日(年.月.日) 2006.10.30
掘削終了日(年.月.日)
2006.11.03
ボーリング孔土壌コアプロファイルの特徴
深さ cm
0-8
8-24
形態学的特性
非常に濃い灰色、小石なし、壌土、集中した根、緩やかな変化
暗褐色、小石なし、泥炭、ローム、多くの根、10%HCl からの気泡なし、色彩によ
る明らかな変化
24-42
濃い灰茶色、小石(体積の 20-30%)、粘土土壌、中程度の根、色彩による明らかな
変化
42-67
67-120
茶色、小石なし、粘土土壌、わずかに硬質、中程度の根、 石による明らかな変化
茶色、ローム、少数の根、色彩による明らかな変化
120-133
茶色、小石(体積の 5-10%)、ローム、根なし、色彩による明らかな変化
133-190
灰色、小石(体積の 40-50%)、ローム質沈泥、非炭酸、色彩による明らかな変化
190-210
濃い灰茶色、小石(体積の 50–60%)、細かい砂、石および色彩により明らかな変化
31
210-260
暗褐色、小石(体積の 60 – 70%)、砂、色彩による明らかな変化
260-280
非常に濃い灰茶色、埋設した有機質土壌、小石(体積の 40 – 50%)、ローム質沈泥、
色彩による明らかな変化
280-320
茶色、小石(50 – 60%)、ローム、10%HCl からの気泡、色彩による明らかな変化
320-340
黄ばんだ茶色、少数の小石(体積の 30-40%)、壌土、色彩による明らかな変化
340-360
灰茶色、少数の小石(体積の 20-30%)、粘土土壌、色彩による明らかな変化
360-380
灰茶色、小石(体積の 20-30%)、細かい砂、永久凍土層による明らかな変化
380-440
灰色、永久凍土層、小石(体積の 30-40%)、非分類砂、粘土、色彩による明らかな
変化
440-490
茶色、小石(体積の 20-30%)、沈泥、石による変化
490-555
茶色、小石(体積の 50-60%)、非分類砂、粘土、ローム質砂、色彩による変
555-640
茶色、小石(体積の 20-30%)、壌土、色彩による明らかな変化
640-650
灰色、小石(体積の 40-50%)、粘土土壌、少数の根、10%HCl からの弱い気泡、色彩
による明らかな変化
650-670
薄い灰色、粘板岩、10%HCl からの弱い気泡
670-720
薄い灰色、粘板岩、赤色のひびが入った石
720-860
薄い灰色、粘板岩、赤褐色のひびが入った石
860-1960
薄い灰色、中程度および大きな粘板岩、10%HCl からの弱い気泡
1960-2000
2.1.3.4
薄い灰色、大きな粘板岩、10%HCl からの弱い気泡
永久凍土観測システム
高精度な地上観測によるCO2等温暖化ガス発生量・土壌温度と湿度・凍土層温度変動な
ど、及び衛星観測による氷雪被覆面積・植生類型・地表面水分不足指数等を提供できる観
測システムを開発する(図21)。それによって、温暖化最前線のリアルタイム評価を行い、
さらに、モデルや指標を用いて温暖化影響早期診断を行う。具体的な観測項目は表2で示
す。
表2
●観測場所
Davaatステーションでの観測項目
モンゴル科学院地理研究所 Davaat 試験ステーション
N 48 o07′59″, E 107o18′23″
●観測対象生態系
●観測時期・頻度
●観測用施設
●観測データと標
準機器のリスト
種類/森林と草地
群落面積/1000ha フェッチ/1-4km 群落高さ/0-25m 葉面
積指数/0-7 人為撹乱の影響度/少ない
時期/2007 年から試験運転 頻度/連続観測
タワーの有無/有 タワーの高さ/フラックスサイト 3m 測器取り付けのために登る
こと/可能 電源/なし 滞在施設/臨時施設
■フラックスサイト■
放射関係:
全天日射(Rs_CM21)/熱電堆型(CPR-CM21-F)、高さ 2m 純放射(Rn)/(CPR-CNR1)、
高さ 3m
気象関係:
風向(Wd)・風速(Ws)/風向風速計(CPR-034A、CPR-014A)、高さ 2m
気圧(Press)
32
●土壌と植生
/シリコン静電容量圧力センサ(CVS-PTB210) 高さ 2m
気温(T)/測温抵抗体 Pt100
オーム(CVS-HMP45D、強制通風型、ヴァイサラ)、高さ 2m 湿度(H)/高分子静電容
量型(CVS-HMP45D、強制通風型、ヴァイサラ)、高さ 2m
降水量(Rain)/転倒マス
型(ヒータ付き、0.1mm パルス)、(CYG-52202、CLIMATEC)、高さ 2m
土壌関係:
Site 1: 地温(PT)/測温抵抗体 Pt100 オーム(CPt-10、CLIMATEC)、深さ 1、10、50、
100、200、300、400、500、1000、1500、2000cm 地中熱流(SHF)/熱流板(CPR-PHF-01)、
深さ 2cm 土壌特性(SHF)/熱流板(CPR-PHF-01)、深さ 1cm 土壌水分/TDR(CS615、
CSI)、深さ 5、10、20、50、100cm
Site 2: 地温(PT)/測温抵抗体 Pt100 オーム(CPt-10、CLIMATEC)、深さ 1、10、50、
100、200、300、400、500、1000、1500、2000cm 地中熱流(SHF)/熱流板(CPR-PHF-01)、
深さ 2cm 土壌特性(SHF)/熱流板(CPR-PHF-01)、深さ1cm 土壌水分/TDR(CS615、
CSI)、深さ 5、10、20、50、100cm
サンプリング周期/1 秒
平均化時間/30 分
レコーダ/データロガー(CR23X-1M、
CSI)2台、パソコン
記録媒体/RAM および、HD
記録方法/DAT
凍土プロファイル、地中レーダーGPR 観測など
●データの記録、
収緑、保存方法
記録範囲/気象に関する観測データを 30 分ごとに記録、植生と土壌に関するデータは
調査の際の観測と記録 収録方法/パソコンで定期的に回収する。
図21
2.2
モンゴルで設置された観測システム
温暖化影響気候解明モデルの開発
温暖化の影響評価を行うためのモデル開発を行った。これら、影響評価モデルは水循環・
物質循環を基本とする物理的・化学的・生物的プロセス(機構)モデルから構成された。本事
業で開発を行うモデルは、上述のプロセスを統合し、温暖化にともなう環境資源の状態や、
自然劣化を予測できる。さらに、環境資源に依存した社会経済システム(特に食料需給バラン
33
ス)への影響について、定量評価を可能とするモデルである。水田、畑地、草地(凍土)等の代
表的な土地利用について、各ステーションで観測を行ったデータを代表させ、食料生産量を
算出できる。また、産業連関表を用いて食料需要量を推定可能なモデルを開発した。二つの
モデルを統合することで、食料需給バランスの評価を行った。
2.2.1
地球温暖化が環境資源に与える影響の予測モデルの開発
地球温暖化に伴う水循環変動と人間活動の増大が環境資源劣化をもたらす場合が最も多く
見られる。そのため本年度は水資源劣化が経済発展の律則となりつつあるアジア(特に中国)
において、水循環変動による環境資源劣化モデルの構築を行う。
華北平原は 35°00 - 40°30N 及び 113°00 - 119°30E の中国の東部に位置し、黄河や海河に
よって形成された巨大な沖積平野である。気候は半乾燥帯に属しており、河北省・北京・天
津・山東省を含み、西に太行山脈、北に Yanshan Mountains、東に渤海、南に黄河で囲まれ
ている(図 22)。広大な面積(約 1.36  105 km2)と人口密集地(約 1 億 1200 万人)であり、中
国の中で最も重要な穀物生産地帯の一つに挙げられている。農業生産圧力は高く、供給可能
な水資源量を超えて農業が営まれており、水資源が農業生産量の鍵となっている。
必然的
に地下水への依存度が高く、地下水位は毎年約1m/年と急激な速度で低下続けている。 過
去50年間における過剰汲み上げと干ばつに伴う地下水位の急速な低下は地盤沈下と塩分―
アルカリ土壌農地の拡大をもたらした(Brown and Halweil, 1998;
et al., 2003).
Shimada, 2000;
Chen
主な作物は小麦及びトウモロコシであり、これらの作物生産量は地下水資
源に大きく依存しており、地下水を含む水収支の詳細な評価は同地域での持続可能な農業維
持のためにも急務である。
過去の研究事例として、冬小麦とトウモロコシ畑における水・熱バランス測定(Wang et al.,
2001)、
蒸発散(Liu et al., 2002; Shen et al., 2002; Zhang et al., 2002)、エネルギーフラ
ックス(Shen et al., 2004; Zhang et al., 2004)、土壌水分バランス(Kendy et al., 2003)
ある。
等が
こ れ ら の 観 測 と 平 行 し て 多 く の 農 業 生 産 モ デ ル , 例 え ば Crop-Environment
Resources Synthesis(CERES) モデル(Jones and Kiniry, 1986), Erosion Productivity
Impact Calculator(EPIC) モデル(Thomson et al., 2002), World Food Studies (WOFOST)
モデル(Vandiepen et al., 1989)などが提唱された。
34
(a)標高分布
Shijiazhuang
(b)土地利用図
Bohai Sea
Beijing
Tianjin
Legend
9
8 10
1
2
7
11
13
6
3 12
5
4
Jinan
GWL Obs.Point
Yellow River
Luancheng
Zhengzhou
Experimental Station
図 22
対象領域図
(華北平原及び黄河下流域)
Doll and Siebert(2002)は地球温暖化のシナリオにともなう世界の灌漑水使用への影響
を 計 算 し た 。 DSSAT-wheat, DSSAT-maize (DSSAT: Decision Support Systems for
Agro-technology Transfer) を用いて地球温暖化による米国における農業生産への影響が解
析された(Adams et al., 1990)。
ロコシ(Zea mays L.)
あった。
華北平野では冬小麦(Triticum aestivum L.)、夏トウモ
の2つが主要作物となっている。6月の穀物収穫の90%が冬小麦で
また河北省での全耕作面積の76%についての統計値によれば、その内の80%
が冬小麦とトウモロコシを栽培していた。
このように華北平野における地下水を含む水循環変動は、農業生産に伴う灌漑用水によっ
て支配されており、環境資源ストックとしての水資源量には、地下水現存量の正確な把握が
必要不可欠であると考えられる。
従来の水循環変動モデルはこの農業生産に伴う灌漑用水
使用量を全く考慮していないため、特に黄河においては流量観測値とシミュレーション値と
が全く整合性を持たなかった。
本 業 務 に お い て は 統 合 型 流 域 NICE モ デ ル (NIES Integrated Catchment-based
Eco-hydrology) (Nakayama and Watanabe, 2004)を農地に適用可能なように拡張を行うと
ともに(NICE-AGR モデル)、農業生産に伴う灌漑用水の使用に伴う地下水位低下と水循環変
動とを、灌漑量に関する詳細な統計データを必要としない新たな手法により再現できるモデ
ルを構築する。これによって過剰な灌漑に依存した地下水位分布の変化の再現を可能とし
(Nakayama et al., 2005)、広くアジアに適用可能とすることを目的とする。
35
2.2.1.1
モデルの構造
本業務では,NIES Integrated Catchment-based Eco-hydrology (NICE) model を構築し
た。このモデルは土壌水分と熱フラックスを再現する SiB2 (Sellers, et al., 1996),三次元の
地下水のフローを表現する USGS MODFLOW モデル(McDonalds and Harbaugh, 1988),
および分布型の水理モデルを結合したモデルである。植生の季節変化を次空間的に考慮する
ために 1km メッシュでの精度を持つ衛星データ(MODIS)を,NICE モデルに挿入してい
る。各タイムステップにおいて土壌水分モデルと地下水流動モデルを統合するために、浸透
層と地下水層の水のフラックス(入出力)を計算している。さらに,NICE モデルでは河川
流と地下水流の間で移動する有効降雨量と浸出量を考慮している。このことから NICE モデ
ルは短期予測だけでなく,浸透の機構を含む長期的な河川流出現象をも再現することが可能
となっている。
生物物理学的土壌水分モデル: 土壌中の水・熱の移動過程を記述する SiB2 モデル[Sellers,
et al., 1996]は,キャノピー層(キャノピーと地表面)を二つの層に区分しており,さらに土
壌層を鉛直方向一次元の3層(上層,中間層,下層)に区分されている。SiB2 の支配方程式
は,予測変数である温度,中間貯留,土壌水分貯留,水蒸気へのキャノピーコンダクタンス
から構成されている。
キャノピー,地表面,深層土壌温度
Tc
 Rn c  H c  Ec   cs
t
Tg
2C d
Cg
 Rn g  H g  E g 
(Tg  Td )   gs
t
d
(1)
Cc
Cd
(2)
Td
1

( Rn g  H g  E g )
t
2 365
(3)
c はキャノピー,g は地表面,d は土壌層を表現している。Tc,Tg,Td(K)はキャノピー,地表
面,土壌層の温度であり,Rnc,Rng(W/㎡)はキャノピーと地表面の放射線吸収量である。
Hc ,Hg (W/m2) は顕熱フラックスであり,Ec and Eg (kg /m2 /s)は蒸発散比率である。 Cc, Cg,
and Cd (J /m2 /K) は熱容量であり,
(J /kg) is 蒸発熱,
d
(s) は日照時間,
cs
and
gs
(W/m2) は Mc,Mg における相変化のためのエネルギー移動を表現している。
中間貯留
M c
 P  Dd  Dc  Eci /  w
t
M g
t
 Dd  Dc  E gi /  w
36
(4)
(5)
ここで, Mc,Mg(m)はキャノピー,地表面に貯留された水又は積雪量であり,P(m/s)は降水量,
Dd(m/s)はキャノピーの浸透速度(throughfall rate)であり,Dc はキャノピーの排水速度
(drainage rate), Eci と Egi (kg /m2 /s)はキャノピーと地表面の遮断損失(interception loss
of canopy and ground),
w
(kg/m3) は水の密度である。
土壌水分貯留
ここで,Wi が第 i 層(=
i/
W1
1
1

[ Pw1  Q1, 2 
E gs ]
t
 s D1
w
(6)
W2
1
1

[Q1, 2  Q2,3 
Ect ]
t
 s D2
w
(7)
W3
1

[Q2,3  Q3 ]
t
 s D3
(8)
s)の土壌水分率,
i
(m3/m3)は第 i 層の容積土壌水分量,
s
(m3/m3)は飽和土壌水分量, Di (m)は土壌層の厚さ, Qi,j (m/s)i 層と j 層の土壌水分のフロー, Q3
(m/s)は涵養性土壌からの自然排水, Ect (kg /m2 /s)はキャノピーからの蒸発散量, Egs (kg /m2
/s)は,地表面からの蒸発散量, Pw1 (m/s)は土壌層の降雨浸透量である。
水蒸気へのキャノピーコンダクタンス
g c
 k g ( g c  g c ,inf )
t
(9)
ここで,gc (m/s)はキャノピーコンダクタンスで, kg (1/s)は時定数であり, gc,inf (m/s)は, gc
を t→∞にした際の推定値である。上記の方程式に加えて SiB2 モデルは放射伝達過程,空力
抗力,乱流過程,キャノピーの光合成等を含んでいる。
地下水流動モデル: 地下水の挙動を表現する三次元の偏微分方程式は(10)式で表現される。
[McDonalds and Harbaugh, 1988].
h   
h   
h 
h
 
 K xx g    K yy g    K zz g   W  S s g
x 
x  y 
y  z 
z 
t
(10)
こ こ で , Kxx, Kyy, Kzz (m/s) は , 各 座 標 軸 に 沿 っ た 透 水 係 数 で あ る 。 hg (m) は 電 位 差
(potentiometric head)であり, W (1/s)は,水のソース,シンクを表現する単位量あたりのフラ
ックスであり,Ss (1/m)は比貯留係数を代表している。(10)で記述した方程式は二つのセルの
間の変数が線形的に変化する推定方法に基づいて離散化されている。
37
CRi , j  1 ,k him, j 1,k  him, j ,k   CRi , j  1 ,k him, j 1,k  him, j ,k 
2
 CC i , j  1 ,k h
2
m
i , j 1, k
h
m
i , j ,k
 CVi , j  1 ,k him, j 1,k  him, j ,k
2
  CC
  CV
2
i , j  12 , k
i , j  12 , k
h
h
 him, j ,k 
m
i , j 1, k
m
i , j 1, k
 him, j ,k 
(11)
 Pi , j ,k him, j ,k  Qi , j ,k  SS i , j ,k DELR j  DELCi  THICKi , j ,k 
him, j ,k  him, j,1k
t m  t m 1
ここで, him, j ,k はセル i,j,k でタイムステップ m における水頭であり, CV,CR,CC は,水平方
向,側面,鉛直方向におけるノード i,j,k と近傍の ノード間の流体コンダクタンス,と branch
conductance である。Pi,j,k はソースとシンクからの係数の合計値,Qi,j,k はソースからシンク
までの定数の合計であり, Qi,j,k < 0.0 の時は地下水流から流れ出し, Qi,j,k
>0.0 の際は流入
する。DELRj は全ての行の j 列の幅であり,DELCi は j 行の全ての列の幅である。THICKi,j,k
は,セル ijk 鉛直方向の暑さである。 tm は,タイムステップ m における時間を表現してい
る。定常状態において,(11)式の右辺は,蓄積量とも言われ,ゼロになる。コンピューターシミ
ュレーションの際には,(11)式は以下の式に修正される。
CVi , j ,k  1 hi , j ,k 1  CC i  1 , j ,k hi 1, j ,k  CRi , j  1 ,k hi , j 1,k

2
2
2

  CVi , j ,k  1  CC i  1 , j ,k  CRi , j  1 ,k  CRi , j  1 ,k  CC i  1 , j ,k HCOFi , j ,k hi , j ,k
2
2
2
2
2
(12)
 CRi , j  1 ,k hi , j 1,k  CC i  1 , j ,k hi , j 1,k  CVi , j ,k  1 hi , j ,k 1  RHS i , j ,k
2
2
2
(12)式において,時間の添え字(m)は単純に削除される。 HCOFi,j,k は Pi,j,k と蓄積量を表現す
る項のマイナス項を含む。それは,現在のタイムステップ m(左辺への移項から導出される
マイナス項)における水頭を含んでいる。RHS は–Q(右辺への Q の移項によるマイナス項)
とタイムステップ(m‐1)における水頭によって計算される蓄積項を含んでいる。セル i,j,k
and i,j+1,k 間の水平方向のコンダクタンスは当量コンダクタンスを用いて以下のようにあ
らわされる。
1
CRi , j  1 ,k
2

1
1

TRi , j ,k DELCi TRi , j 1,k DELCi
1 DELR
1 DELR
j
j 1
2
2
 
(13)
 
TRi,j,k はセル i,j,k,における行方向の浸透率, DELRj は j 列におけるグリッドの幅, DELCi
は i 行 に お け る グ リ ッ ド の 幅 を 表 現 し て い る 。 準 三 次 元 ア プ ロ ー チ [McDonalds and
Harbaugh, 1988]では,半閉鎖的なユニットは水平方向のコンダクタンス、モデルの各層の
蓄積要領に対して顕著な影響を与えない。半閉鎖ユニットの唯一の影響は,モデルセル間の
38
鉛直方向のフローに制限されている。これらの推定化で,半閉鎖ユニットの影響は異なった
グリッドの離れたレイヤについては除外して計算を行うことができる。上方滞水層の下半分,
半閉鎖的ユニット,下方滞水層の上半分の三つの間隔が、ノード間のコンダクタンスの合計
値として表現されているので、鉛直方向のコンダクタンスは次の式で表現される。
1
CVi , j ,k  1
2

1
1
1


DELR j DELCiVK i , j ,k
DELR j DELCiVKCBi , j ,k
DELR j DELCiVK i , j ,k 1
1 THICK
1 THICK
THICKCB
i , j ,k
i , j , k 1
2
2
 
(14)
 
VKi,j,k はセル i,j,k,の鉛直方向の透水係数,VKCBi,j,k はセル i,j,k と i,j,k+1 間の半閉鎖ユニッ
トの透水係数, THICKCB は半閉鎖ユニットの厚さである。
表面流出モデル:
表面流出モデルはキネマティクウエーブ法とダイナミックウエーブ法に
キネマティックウエーブモデルと分布型モデルに基づく斜面流出モデルから構成されている。
斜面流出モデルは,水・熱収支モデルと表面流出モデルから構成されている。分布型の表面
流出を解析するためのキネマティックウエーブモデルは以下の式 [Takasao and Shiiba,
1988]で表現される。
ha
1 
q b( x)  r ( x, t ) cos  ( x)

t
b( x) x
q
q
k sin  ( x)

(15)
ha , (0  ha  d ) ,
sin  ( x)
k sin  ( x)
(ha  d ) m 
h a , (ha  d )
n

(16)
ここで、 q (m2/s)は単位幅あたりの流出量, r(x,t) (m/s)は,x 地点,t 時における有効降雨
量,b(x) (m)は流束の幅,
(x)は,川床の傾斜,, k (m/s)は地表面近くの深さ D(m)の A 層で
の透水係数, n (m-s)はマニング係数であり,m=5/3 である。H(m)が A 層の降雨の深さとし
て定義されるとき, ha (m)は見かけ上の水深(=
H)であり, は
D となる。真の水深は ha/ として与えられ ha < d, and by d/
る。一次元の非定常流における基本式は
式,
層の空隙率であり,d =
+ ha – d for ha > d.とな
式で示される河道ネットワー
クによって表現される。
ここで、A (m2)
A Q

 ql
t
x
(17)
h
Q
  Q2 

  gA r  gAI f  i   0

t
x  A 
x
(18)
は河道断面積であり,Q (m3/s)は流出量,ql (m2/s)は斜面流モデルによっ
39
て河道沿いに計算される側面からの流入量, hr (m)は河川の深さ, g (m/s 2)は重力加速度, If
は摩擦勾配であり,i は底勾配を表現している。
(18)式における左辺の第一項は局部加速度であり,第二項は移流加速度,第三項は圧力で
あり,大四項は摩擦推力,第五項は重力単位を表現している。局部加速度と移流加速度は流
に対する慣性力の影響を表現している。分布型モデルは(The alternative distributed flow
routing models)は(18)式のいくつかの項を除外した連続方程式で形成される。もっとも単純
な分布型モデルはキネマティックウエーブモデルであり,それは局部加速度、対流加速度、
圧力項を考慮していない。それは、If = i であり摩擦推力と重力が平衡状態にあることを意味
している。拡散波モデルは局部加速度、対流加速度を考慮していないが、圧力項をとりこん
でいる。ダイナミックウエーブモデルは(18)式においてすべての加速度と圧力項を含んでい
る。(17)式と(18)式は以下の(19)式,(20)式で表現される非線形連立方程式に従う Preissmann
の陰解放を用いて離散化されている。




1
1
( Ain11  Ain 1 )  ( Ain1  Ain ) 
 (Qin11  Qin 1 )  1    (Qin1  Qin )
2t
x



1
q n 1  1   q n  0
x
(19)


1
(Qin11  Qin1 )  (Qin1  Qin )
2t
n 1
n 1
n
 Q 2  n
 Q 2  
 Q 2  
1   Q 2 
 
 
   1    
  
 

x   A  i 1  A  i 
A
A

 i 1 
 i 

 

g
 ( Ain11  Ain1 )  1    ( Ain1  Ain )
2




1
1

n 1
n 1
n
n
n 1
n 1
n
n
 x  (hi 1  hi )  1    (hi 1  hi )  2  ( I f ,i 1  I f ,i )  1    ( I f ,i 1  I f ,i )  i   0
(20)
ここで、添え字 n はタイムステップ,i はシミュレーションセクションの数,
け係数(0.5<
<1.0)を表現している。
式と
は重み付
式がシミュレーションセクショ
ン N であり単一の水路に適用される場合、2N‐2 の方程式は非線形連立方程式で構成され、
未知変数は t=(n+1)
単一流における(
t で,2N 回における流出量と水深(i=0,1,…,N-1)となる。
Q0,
h0,
QN-1,
hN-1)未知変数のための二つの方程式は、近似計
算と未知変数の除外を繰り返すテイラー展開によって作られる。それは、各グリッドの水路
のマージと分離により流出量と水深を求めるための継続的な状況を続けるからである、連立
方程式は、各グリッドにおける河川路とグリッドの境界間の交差するポイントでの未知変数
40
だけで構成されている。流域全体での流出量と水深を求める未知変数の連立方程式は、Gauss
法を用いることで最上流と最下流の末端の境界条件と各グリッドの条件で解かれる。上述し
た方法は収束計算と近似計算を行うニュートンラプソン法によって,変数(
Qi,
hi)が十
分小さくなるまで繰り返される。このようにして、各地点における流出量と水深が与えられ
る。
各モデルの統合:
標高による傾斜または浸潤前線が十分に小さな地域では、動水勾配線は
おおむね鉛直方向に対して下向きである。そのため、不飽和層の流れは一次元の鉛直方向で
推定される。(6),(7),(8)式をもとに隣接した土壌層間の移動は以下のように与えられる。
    i 1

Qi ,i 1  K 2 i
 1 ,
 Di  Di 1

K
for
i  1, 2
(21)
Di Ki  Di 1Ki 1
Di  Di 1
(22)
ここで、Qi,i+1 (m/s)は土壌層 j から j+1 への下層方向への流れであり, Ki (m/s)は各層間の
透水係数, K (m/s)は各層間の有効透水係数,
は飽和状態における透水係数,
s
i
はマトリックポテンシャル, Ks (m/s)
(m)は飽和土壌水分量,B は実験定数である。不飽和流と
飽和流を統合するために,水流 qf は最下層のフローと地下水位間の水理ポテンシャルの勾配
で表現され、SiB2 モデル[Sellers, et al., 1996]で(23)式で表現される


g  3


3

q f   K    K
 K
 K
 1
D3
z
 D3  ( D g h g ) 
 ( D g h g )
2
 2

ここで, K (m/s)は飽和層と不法和層間の有効透水係数であり,
g
(= hg)
と
(23)
3
(=
 3 +Dg+D3/2) (m)は地下水流と下方の不飽和層の水流間での水理ポテンシャルであり, Dg
(m)は上方の第2層と低層の第20層の間の距離,hg (m)は地下水モデルで計算される水頭で
ある。地下水位が上昇し土壌水分層に達したときは,分圧は土壌水分を計算するために不飽
和層(
3
= p )の底部に決定される。
水流 qf が各タイムステップで計算された後に,各不飽和層間の水流である Qi,j は,(6)式か
ら(8)式で土壌水分
i を求めるために陰解法を用いて(21)式,(22)式で計算される。さらに、
この水流は上方の境界条件としてセルに涵養量の形で入力され地下水流になる。
(15)式における表面流モデルの有効降雨量 r の扱いのために,有効降水量は降水 P (m/s),土
壌水分への浸透率 Pw1 (m/s),蒸発散量(Ec+Eg) (kg /m2 /s)で計算され,以下の式で与えられ
41
る。
r  P  Pw1 
土壌水分量
i が飽和水分量
1
w
( Ec  E g )
(24)
s よりも大きな値をとるとき,各値の超過分は表面流として
戻され(24)式の右辺に加えられる。河川と地下水の収支は各セルの河川と地下水位間の流速
の深さの関係で決定される。それらの量の決定は Darcy’s Law[McDonalds and Harbaugh,
1988]による。
Qs  k b Ab , (hg  H b ),
Qs  k b
hg  H b
bb
Ab , (hg  H b )
(25)
ここで, Qs (m3/s)は河川と地下水の収支量であり, kb (m/s)は河床の浸透係数, Ab (m2)は
地下水部の断面積, bb (m)は河床の厚さ, hg (m)は地下水の水頭, Hb は河川の水理ポテンシ
ャルを表現している。最流入時(hg < Hb)においても流量は河川流量の合計を超えない。地下
水流の計算において収束法がなされた際に、分布型流出モデルでの河川流の深さが修正され
る。
このようにして,地下から地表面までの様々なモデルが流束を考慮して連結され,地下水
位と土壌水分が,気象データ,植生分類,土壌の物性値を用いて計算される。
NICE モデルでは (24)式にしめされるように各タイムステップごとに浸透フラックスの
変化が計算されるので,以前の流域モデルで見られた有効降水量の不明確が回避される。さ
らに、表面流モデルと分布型表面流出モデル,地下水モデルを統合することで,24 式と 25
式で表現されるように浸出過程と流出過程を含むことから河川流出の短期/長期の両方が正
しく計算される。
統合型流域モデル (NICE モデル)と農業生産モデル( DSSAT)モデルの結合:
( International Consortium for Agricultural System Application )
DSSAT3.5
の中の
DSSAT―wheat, DSSAT―maize モデルを NICE
ICASA
が開発した
モデルに組み込
んだ(NICE-AGR モデル)。
地下水汲み上げ量と作物生産量は互いに密接に関連しているとともに生育次期と作物の種類
によっても大きく異なるため、NICE モデルと DSSAT の結合を行った。不飽和層の最下端
から地下水層への排水量 Q3 (m/s)は下記のように与えられる
(Sellers, et al., 1996)。

 DW 
2 B 3
Q3  fice sin S K SW3
0.001 S 3 3  ,
d 

ここで、
s は局所的な傾斜角、 KS
は不飽和層の最下端での土壌水分量、
(26)
(m/s)は飽和透水係数、 B は経験定数、 W3 (=
3
(m3/m3)は最下端での体積含水率、
42
S
3/
S)
(m3/m3)は
飽和含水量、D3 (m)は飽和層の最下層厚、
d
(s) (= 86 400)は日長さ、fice は土壌凍結時にお
ける透水係数の減衰率、である。式(26)の右辺第1項は重力排水項、第2項は流域の土壌水
分量場の非等方性による基定流量成分である。
NICE モデルでは自然地での不飽和層の最下層と地下水層間の水フラックス qf (m/s)は両
層間での水理ポテンシャルの勾配によって表現される (Nakayama and Watanabe, 2004)。


g  3

3

q f   K    K
 K
K
 1,
D3

D3
z
 (D g h g )

(D

h
)
g
g
 2

2
ここで、 K (m/s)は不飽和層と地下水層間での有効透水係数、
g
(= hg) (m)と
3
(27)
(=  3 +
Dg + D3/2) (m)は地下水面及び不飽和層の最下層での水理ポテンシャル、 z (m)は鉛直方向へ
の距離、Dg (m)は地下水層の第2層の上端と第 20 層の下端間の距離、hg (m)はモデルによっ
て計算される水理水頭である。各時間ステップごとに、水フラックス qf が計算された後で各
層での土壌水分量が improved backward-implicit によって計算されるとともに、地下水層へ
涵養として与えられる。
本業務では、農地での地下水層への涵養量について、作物に使用される分を差し引いた余
剰水 AW (m/s)とみなし、下記のように与えた。


1
AW min  Q3 ,Pw1 
ETact  ,
w


(28)
ここで、 Q3 (m/s)は式(26)によって計算される排水量、 ETact (kg/m2/s)は NICE-AGR モデ
ルによって計算される各作物ごとの実蒸発散量、 Pw1 (m/s)は有効降水量、
w
(kg/m3)は水
の密度、である。式(28)の右辺第2項は理想状態での必要灌漑量、である。NICE-AGR モデ
ルは、従来の研究に使用されてきた作物係数(作物の生長段階や作物の種類に依存)や対象領
域ごとの経験に頼ってきた有効降水量 Pw1 を必要としない、という長所がある。非灌漑期で
は AW > 0 となって余剰水は涵養量として地下水へ浸透するが、灌漑期では AW < 0 となっ
て不足分(必要最少量)は地下水から汲み上げられると仮定した。NICE-AGR モデルでは、農
地での人工構造物によって排水量の一部は一時的に不飽和層に留まると仮定することによっ
て、余剰水は式(3)の右辺2項のうちの最小値として定義した。
2.2.1.2 入力データ及び境界条件
①
気象・植生・土性及び地質データ
モデル入力の気象データとして、1°  1°メッシュの ISLSCP (International Satellite Land
Surface Climatology Project)データ(Sellers, et al., 1996)の中の短波放射量・長波放射量・
降水量・気圧・気温・湿度・風速・FPAR 及び LAI 等の 6 時間刻みの再解析データを各メッ
シュに空間補間(距離に反比例)して入力した。特に、降水量データは地上観測データと若干
43
の誤差があったので、重みをかけて補正を行った。
約 1km の解像度の全球デジタル標高モデル(DEM; GTOPO30)を使用して、各 5km メッシ
ュの平均標高データを作成した(図 22)。また、中国植生土壌図(1:400 000 000) (Chinese
Academy of Sciences, 1988)を用いて、約 50 個の植生及び土性のパラメータを算定した。主
なパラメータは植物被服率、アルベド、粗度高さ、土壌伝導度、飽和土壌ポテンシャル、及
び環境要因に関連した気孔抵抗のいくつかのパラメータなどである。対象領域の地質構造は、
山地(Taihang 山地、Yanshan 山地)の洪積層、低地・海岸域の沖積層から主に構成される。
本業務では、既存の資料(Geological Atlas of China, 2002)をスキャン・デジタル化・カテゴ
リー化し3次元的に補間することによって、代表的な4種類の地質に分類した(図 23)。華北
平原は主に4つの帯水層から構成され、それぞれの帯水層厚さは 20-40、60-130、80-220 及
び 50-350 m となり、従来の資料に良好に一致する。
(a)計算条件
(b)従来の文献値
Soil Type
Shijiazhuang - Dezhou
4
3
2
1
0
First aquifer
Shijiazhuang
Second aquifer
Sulu
Hengshui Dezhou
Bohai Sea
Third aquifer
Fourth aquifer
図 23
②
地質構造
(38N線上での東西断面)
灌漑量の算定
華北平原ではほとんど全ての灌漑水は地下水から汲み上げられ(農地の大半では小麦及び
トウモロコシが栽培されている)、産業用水・家庭用水の一部は深層地下水からも汲み上げら
れる。地下水灌漑量として、下記の3通りの方法を使用した。
(i) ケース 1(図 24a): 統計データ及び従来の研究による水使用量。河北省の各 county で
の農業用地下水の年間使用量の統計データ(1:4 500 000) (Institute of Hydrogeology and
Engineering Geology of the National Geology Bureau, 1980)を計算領域全体に拡張し、5km
のメッシュにディジタル化した。単位面積当たりの灌漑地下水量の時系列データは、従来の
研究(Wang et al., 2001; Liu et al., 2002; Kendy et al., 2003)(図 24b)から評価した。トウモ
ロコシは 6 月から 9 月までの夏季に、小麦は 10 月から翌年の 6 月までの期間に生育する。
ケース 1 で推定された余剰水は、年間の灌漑量は華北平原全域において年に無関係に同一で
44
あるという仮定のもとでは便利である。
(ii) ケース 2(図 24b):従来の研究による作物ごとの蒸発散量から評価した水使用量。余剰
水は従来の観測データ(Liu et al., 2002)から算定した。毎月の蒸発散量は年に無関係に同一
で あり、 日蒸発 散量は 1ヶ月 間同 じであ るとい う仮定 では有 効であ る。ケ ース 2 で は
1987-1988 年の全計算期間で観測降水量を使用しており、ケース 2 で算定された余剰水はケ
ース 1 よりも精度が高い。
(iii) ケース 3(図 24c): NICE-AGR モデルによって計算された水使用量。2種類の作物の
灌漑量は理論的な水必要量として自動的に計算される。この必要量は灌漑期間中、全て地下
水から汲み上げられる。ケース 3 の水使用量は他の2ケースよりも精度が高い。
(a)統計データ
30
30
Prec.,Evapo,Irrigation(mm/day)
Irrigation(mm/day)
Launcheng
Irrigation
20
10
0
-10
10
0
-10
0
120
240
360
480
600
720
Launcheng(N37-38,E114)
Evap. by Liu et al.
Prec.
Evapo.
Irrigation
20
0
120
240
360
480
600
720
Date
Date
(c)NICE-AGRモデルで算定
Prec.,Evapo,Irrigation(mm/day)
30
Launcheng(N37-38,E114)
Prec.
Evapo.
Irrigation
20
10
0
-10
0
120
240
360
480
600
720
Date
図 24
③
地下水灌漑量の算定方法の比較
境界条件
観測データのない上流端(森林、草地、非灌漑地) (図 22b)の境界では、地下水は尾根を越
えて反対側には流れないという仮定で反射条件を用いた。東側の境界(渤海湾)では 0m の定
水頭を与えた。初期条件としては、地表面に平行な水頭を与えた。黄河や海河等の河川セル
では河床からの流入・流出量は地下水と河川水の水頭勾配として算定した。河南省の鄭州近
郊(34°4912N, 113°4000E, 平均標高 122 m)での黄河の観測流量データを計算領域内での
黄河の上流端条件として与えた。
45
④
シミュレーション期間及び領域
計算対象領域は Albers 座標(WGS 1984)において東西 530km、南北 840km とした(海河全
流域及び黄河下流域を含む)。同対象領域について、106  168  20 メッシュに分割した(最
上層 2m とし、鉛直下方向に等比級数的にメッシュを分割。最下層は-400m。)。シミュレー
ションは NEC SX-6 スーパーコンピュータで行った。シミュレーション期間は、1987 年 1
月 1 日~1988 年 12 月 31 日の2年間とし、時間ステップは 6 時間とした。農地では、小麦
及びトウモロコシの計算を連続的に行った。
2.2.1.3 結果及び考察
①
地下水位の経年変化の再現
図 25 は 過 去 30 年 間 の 華 北 平 原 に お け る 地 下 水 位 変 化 の 計 算 結 果 と 従 来 の 文 献 値
(Shimada, 2000)の比較である。同図より、華北平原では地下水位は年々急激に低下し、特
に農地での低下率が大きいことがわかる(過去 30 年間で 20~50m 低下)。1959 年には地下水
位は地表面のわずか 3m 程度下の浅い位置にあり場所によっては自噴も見られ、ほぼ平衡状
態を保っていたと考えられる。以上の理由により、1959 年の地下水汲み上げ量をゼロとして
シミュレーションを行った。シミュレーション結果は従来の文献値を良好に再現している。
動水勾配は Taihang 山地と Yanshan の山地近傍で大きくなっており、平原域では勾配は緩
やかになっている。両山地近傍は地下水の涵養地域になっており、これが平原域での重要な
水資源になっている。また、文献値では、1975 年、1992 年と現在に近づくにつれて大都市
(Cangzhou, Hengshui, Baoding など)付近で円錐状の地下水位低下が顕著になっているが、
シミュレーションでは再現できていない。この理由として、NICE-AGR モデルは産業用水及
び家庭用水のプロセスが含まれていないためと考えられ、この改善は今後の課題である。
②
潅漑による地下水流動の季節変化
図 26 は 1987 年 1 月 1 日から 1988 年 12 月 31 日までの華北平原における地下水位時系列
である。同図には観測値(China Institute for Geo-Environmental Monitoring, 2003)も併示
した。地下水位は 3 月から 7 月にかけての小麦の栽培時期に大きく低下しており、以降の季
節に涵養されていくことがわかる。沿岸域では地下水中に多量の塩分が含まれ使用できない
ので、この地域では地下水位低下が比較的小さくなっている(図 22a の G-12)。華北平原では
主に2種類の地下水位変動が見られる。タイプ I は地下水位が年とともに低下していくケー
スであり(G-1, 4, 5)、タイプ II は地下水位が農繁期に限って低下するケースである(G-3, 11,
12)。タイプ I は山麓地帯・山岳地方のまわりで見られ、潅漑には地下水のみ使用される。タ
イプ II は沖積地や海岸域の比較的平坦な地域に見られ、地下水の一部分は河川や運河によっ
て涵養される。両タイプともにケース 3 はケース 1 やケース 2 よりも観測値を良好に再現し
ており、NICE-AGR は非灌漑期の浸透及び灌漑期の汲み上げをともに再度良く計算している
ためである。
46
Sim. by NICE-AGR model
20
0
0
20
50
20
50
Obs.
20
20
0
0
0
50
50
20
1959
図 25
1975
1992
華北平原における地下水位の経年変化(上の Sim はシミュレーションした地下水位
の分布、下の Obs は観測された地下水の分布である)
50
North-China Plain
1987-1988, G-1
Obs.
Cal.case-1
Cal.case-2
Cal.case-3
46
26
North-China Plain
1987-1988, G-5
Obs.
Cal.case-1
Cal.case-2
Cal.case-3
24
G.W.L. (m)
G.W.L. (m)
48
44
22
20
42
18
40
0
120
240
360
480
600
0
720
120
240
North-China Plain
1987-1988, G-3
Obs.
Cal.case-1
Cal.case-2
Cal.case-3
480
600
720
8
North-China Plain
1987-1988, G-11
Obs.
Cal.case-1
Cal.case-2
Cal.case-3
14
12
G.W.L. (m)
10
G.W.L. (m)
360
Date
Date
12
6
10
8
4
6
2
0
120
240
360
480
600
0
720
120
240
40
600
720
North-China Plain
1987-1988, G-12
Obs.
Cal.case-1
Cal.case-2
Cal.case-3
8
G.W.L. (m)
G.W.L. (m)
36
34
6
4
2
32
0
0
120
240
360
480
600
720
地下水位(GWL)の季節変化
0
120
240
360
480
600
720
Date
Date
図 26
480
10
North-China Plain
1987-1988, G-4
Obs.
Cal.case-1
Cal.case-2
Cal.case-3
38
30
360
Date
Date
(1987 年 1 月 1 日-1988 年 12 月 31 日)
47
2.2.1.4
結論
統合型流域モデル(NICE モデル)に農業生産モデルを結合することによって、華北平原及
び黄河下流域での潅漑が地下水流動に及ぼす影響についてシミュレーションを行った
(NICE-AGR モデル)。 NICE-AGR モデルはトウモロコシ及び小麦の生育に必要な潅漑量を
従来の統計データ・文献データよりも精度良く再現し、両作物の栽培時期における土壌水分、
葉面積指数(LAI)、蒸発散、作物生産量、地下水位を良好に再現した。シミュレーションによ
って華北平原における空間的な地下水位分布が得られ、過度な灌漑によって地下水位及び水
収支が大きく影響を受けていることが明らかになった。今後、都市部での産業用水及び家庭
用水のプロセス、及びダムや運河などの人工構造物の影響を考慮することが華北平原におけ
るトータルの水収支を解明する上で不可欠である。
2.2.2
2.2.2.1
地球温暖化が食料需給バランスに与える影響予測モデル開発
地球温暖化による作物生産量(供給量)の変化予測モデルの構築
近年,東アジア地域では急激な人口増加に伴う大規模な農業開発,急速な工業化と大
規模な都市化などにより,自然環境と人間活動とのバランスが急速に崩れつつある。こ
のような状況下において,東アジア地域の持続的発展を支えるためのツールとして,大
陸スケールでの陸域生態系のモニタリングと膨大なモニタリングデータを集約した環境
情報システムの構築,さらには環境情報を活用した農業生産量の変化予測モデリングに
ついて,それぞれ高度な技術開発を行う必要がある。また,これら技術の統合的な利用
によって,大規模な土地利用改変や地球温暖化等が農業生態系に及ぼす影響および農業
生産量に与える影響の評価手法を開発することが急務となっている。
一般に,農業生産量は経済的要因におおきく影響を受け、また空間的に土地利用が不
均一で複雑な地形の影響を受けるため,農業生産量推定は大変困難であった。特に,広
域でこれらの主要作物生産量を推定することは、これまで困難であり、従来農業統計に
頼ってきた。しかし,農業統計は過去の農業生産量を集計したものであり、かつその集
計には長い時間が必要であった。
しかしAPEISプロジェクトによりMODIS衛
星データが整備されてきたことにより、地表面温度、葉面積指数、FPAR,純光合成
量などの解析結果が利用可能となってきており,これらMODIS衛星データを直接農
業生産モデルへ入力データとして用いることにより,広域にわたってより精度の高い農
業生産量の推定や将来予測を行うことが可能であると考えられる。
現在衛星データとしてMODISデータを利用し、そのデータ解析によって陸域にお
ける様々な環境情報(例えば,地表面温度や,植生指数等)の算定と,地上での生態系
観測データを用いた算定結果の検証を通じて解析手法の改良を行っている。
農 業 生 産 量 推 定 に は 従 来 モ デ ル を 用 い て 行 わ れ て き て お り 、 例 え ば DSSAT-wheat,
DSSAT-maize (DSSAT: Decision Support Systems for Agro-technology Transfer) を用い
て地球温暖化による米国における農業生産への影響が解析された(Adams et al., 1990)。
48
中国華北平野では冬小麦(Triticum aestivum L.)、夏トウモロコシ(Zea mays L.)
が主要作物となっており、6月の穀物収穫の90%が冬小麦であった。
の2つ
また河北省での全
耕作面積の76%についての統計値によれば、その内の80%が冬小麦とトウモロコシを栽
培していた。
一方農業作物生産量の現存量把握とそれらモデルの広域での検証
のためには、農業統計に依存しないリアルタイムでの農業作物生産量の推計及び現状の作物
の生育状態の観測値から近い将来での収穫量予測がなされる必要がある。
本プロジェクトでは、衛星データとして MODIS データを利用し,農業生産量の推定精度に
最も重要と考えられる、純一次生産量推定を行った(図 27)。
衛星観測
データ
NDVI
地上観測
データ
気象データ
土壌データ
植生データ
LAI
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
GIS
LST,℃
NDVI
0 10 20 30 40 50 60
リモセンモデル
生態系モデル
気候モデル
陸面過程モデル
栽 培
灌 漑
肥 料
FPAR
0.0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0
作物成長モデル
検証データ
水・熱・炭素・窒素の循環量及び生物生産量
LAI
0
図 27
2
4
6
8 10
研究のフレームワーク
(1)観測システム及びデータ解析
APEIS プロジェクトを通じて、アジア全域をカバーする MODIS 衛星データ受信ステーショ
ンと地上生態系観測サイトならびにデータ解析センターより構成される統合環境モニタリン
グネットワークが構築されてきた。このうち,地上生態系観測については,中国における様々
な陸域生態系の中から代表的な草地(青海省,37.48N,101.20E,3200m),灌漑農地(山東省,
36.95N, 116.60E, 20m),水田(湖南省,28.92N, 111.50E, 20m),森林(江西省,26.73N,
115.07E, 115m),砂漠化地域(新疆自治区,43.75N,87.75E,1600m)の 5 つの生態系に観測
49
サイトを設置し,気象,水文,土壌水分,植生等に関する基礎データを観測・収集して包括
的なデータベースを構築している。図 28 は,2003 年の様々な生態系における水蒸気・熱・
CO2 フラックスの観測データ例である。
40
1000.0
20
H
LE
800.0
0
CO2
600.0
-20
400.0
-40
200.0
-60
0.0
-80
-100
1/1
1/16
1/31
2/15
3/1
3/16
3/31
4/15
4/30
5/15
5/30
6/14
6/29
7/14
7/29
8/13
8/28
9/12
9/27
10/12
10/27
11/11
11/26
12/11
12/26
-200.0
(CO2,  mol m-2)
(H, LE, Wm-2)
Water, Heat and CO2 Fluxes at Fukang Station, 2003
1200.0
40
1000
20
800
0
600
-20
400
-40
200
-60
0
-80
-100
1/1
1/16
1/31
2/15
3/1
3/16
3/31
4/15
4/30
5/15
5/30
6/14
6/29
7/14
7/29
8/13
8/28
9/12
9/27
10/12
10/27
11/11
11/26
12/11
12/26
-200
LE
H
CO2
(CO2,  mol m-2)
(Wm-2)
Water, Heat and CO2 Fluxes at Yucheng Station, 2003
1200
40
1000
20
800
0
600
-20
400
-40
200
-60
0
-80
図 28
12/27
11/9
11/24
12/9
10/25
9/25
10/10
8/26
9/10
8/11
7/27
7/12
6/27
5/28
6/12
5/13
4/28
4/13
3/23
2/22
3/8
2/7
1/1
-100
1/23
-200
LE
H
CO2
(CO2,  mol m-2)
-2
(Wm )
Water, Heat and CO2 at Taoyuan Station, 2003
1200
2003 年の様々な生態系の水蒸気(LE),顕熱(H)と CO2 フラックスの季節変化
(30 分平均の観測データ)
(2)生態系モデルの改良とシミュレーション
陸域生態系における水・物質循環を明らかにするため,本業務では米国モンタナ大学で開
発された Biome-BGC モデル(Running and Coughlan, 1988; Running and Gower, 1991; Running
and Hunt, 1993; Running, 1994)を選択した。本モデルは,気象データの入力によって水・
エネルギー・炭素・窒素の循環を素過程から詳細に再現するプロセスモデルであるため,植
物による炭素や窒素の固定量を始めとした多くの生態学的要素のシミュレーションができる。
このような点から Biome-BGC モデルは,現在,陸域生態数値モデルのスタンダードの一つと
なっている。しかし,本モデルは,これまでの適用事例を見ると,北米大陸以外での計算結
果の検証が余りなされていないという問題点を有している。また,これまでに本モデルが適
50
用されてきた生態系は,森林や草地などの自然生態系がほとんどであり,人為活動の影響を
強く受ける農業生態系へ適用した計算結果の検証は不十分である。東アジア地域は,北米大
陸と比較して人為的土地改変が大きく,生態系の断片化が進んでいる。また,南部の湿潤な
地域での水稲栽培から北部の乾燥地域での灌漑農業まで,多様な農業形態を有している。こ
のため,アジア地域においてこのモデルの検証が必要であると同時に,農業生態系への適用
には,モデルの改良が必要と考えられた。
そこで,まず,上述したそれぞれ固有の生態系を有する 5 つの地上観測ステーションで測
定されている気象データを,Biome-BGC モデルの入力データとして用いて計算を行った。次
いで,各ステーションで測定された植生(農作物)の葉面積指数(LAI)や表面温度(LST)
を始めとする生態学的なデータと計算結果の比較作業を通じて,測定結果に対するモデル計
算結果の再現性をできるだけ高めるよう,モデルパラメータ値の設定を行った。加えて,農
業生態系を有するステーションへの適用にあたっては,作物生育期間,C/N(炭素/窒素)比,
光合成率など生理・生態学的パラメータをモデルにおいて新たに設定した。最後に,MODIS
衛星データを基に作成された土地利用や LST 等の高次プロダクトを改良したモデルへ取り込
むことで,1km メッシュの単位の空間分布モデルとしてシミュレーションを行い,東アジア
地域における水・炭素・窒素など物質の時間的・空間的な変動の推定を行った。
モデルの適用結果として,まず,本業務における改良によって,灌漑や CO2 濃度の増加,
施肥など人為活動の影響を考慮した水・熱と炭素(CO2)フラックスのシミュレーションの一
例として,図 29 に 2003 年の禹城ステーションでの小麦とトウモロコシを対象とした,計算
結果と観測値との比較結果を示している。この結果に示されるように,農業生態系を含めた
東アジアの様々な生態系における水・炭素・窒素循環機能および LAI や NPP で表される作物
成長状態を,改良された Biome-BGC モデルが精度良く再現することを確認した。
51
E _simu
E _simu =1.03E _obs -0.001
E _simu =1.02E _obs -0.001
2
R =0.763
26-Sep
16-Sep
2
R =0.743
16
Growing period of wheat
26-Sep
16-Sep
6-Sep
27-Aug
17-Aug
7-Aug
8-May
28-Jul
-4
18-Jul
-4
8-Jul
0
7-Jun
0
28-May
4
18-May
4
28-Apr
8
18-Apr
8
8-Apr
12
29-Mar
12
-2
-1
R =0.742
20
F c (gC m day )
16
6-Sep
F c_simu =1.06F c_obs +0.001
2
19-Mar
-2
F c_simu
F c_simu =0.98F c_obs +0.0001
-1
F c (gC m day )
20
27-Aug
17-Aug
7-Aug
28-Jul
18-Jul
8-May
18-Apr
8-Jul
0
7-Jun
0
28-May
1
18-May
1
28-Apr
2
8-Apr
2
29-Mar
3
F c_obs
図 29
4
3
19-Mar
E (mm)
2
R =0.793
4
5
E (mm)
E _obs
5
Growing period of corn
人為活動の影響を考慮した場合の水蒸気(E)と炭素(Fc)フラックスのシミュレー
ション結果と観測データとの比較
図 30 は同じく禹城ステーションでの小麦とトウモロコシの生産量を対象とした,人為活動
の影響ある場合とない場合のシミュレーション結果の比較を示している。それによると,光
合成生産量(GPP),とエコシステム純生産量(NEP)は人為的影響で大きく増大する一方で,
農作物による呼吸量(Rm と Rg)も増大する。しかし,土壌呼吸(Rh)はむしろ化学肥料の大
量使用によって減少する結果となった。これにより,施肥を主とする人為活動が水・熱と炭
素(CO2)フラックス及び吸収固定量に大きな影響を与えていることが定量的に分かった。
-2
(kg C m )
Carbon Budget during Corn Growth
(Yucheng Site in 2003)
Disturbed
Undisturbed
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
NPP
NEP
GPP
52
Rm
Rg
Rh
図 30
人為活動の影響あり(Disturbed)と影響なし(Undisturbed)の場合のシミュレーシ
ョン結果の比較:NPP:純一次生産量,NEP:エコシステム純生産量,GPP:光合成生産量,Rm
と Rg:植生の呼吸,Rh:土壌呼吸
また,改良されたモデルを用いて,様々の植物の葉,根,リター(落葉落枝)など各構成
部分の炭素・窒素濃度のシミュレーションも行った。さらに,異なる生態系間での炭素・窒
素の固定能力を定量的に比較したところ,NPP の場合,トウモロコシ>イネ>小麦>草地>
砂漠の順となった。土壌呼吸の場合には,イネ>草地>小麦>トウモロコシ>砂漠の順とな
った。その結果,生態系による CO2 の固定能力を表す指標である NEP は,トウモロコシ>小
麦>草地>イネ>砂漠の順となることが明らかになった。
(3)純一次生産量(NPP)分布
上記に示した改良モデルを用いて、アジア地域における純一次生産量(NPP)の分布を求め
た。この場合純一次生産量の推定精度を決定する要因の一つとして土地被覆分布の精度が挙
げられる。アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した解析アルゴリズムを用いて,受信した MODIS
衛星データから東アジア地域の土地被覆分布に関する高度な解析結果を行い、現実の土地被
覆データとの検証を行う必要がある。
しかし MODIS 衛星データから得られた土地被覆分布
は1kmの分解能であり、地上ステーションでの観測データを用いた検証と広域への拡張の
ためには、より細かい分解能の土地被覆分布との比較・検討を行う必要がある。このため今
回ランドサット衛星データを用いて作成された土地被覆図(中国科学院地理科学与資源研究
所、2000年)を用いて純一次生産量の推定を行った。しかし森林、水田、都市域等での
検証が十分になされておらず、
今後の改良が必要である。特に主要作物の一つである米の推定には水田での検証が不可欠
であるが、米の作付けは一期作、二期作、二毛作など気候帯や地域によって大きく異なり、
その正確な推計には更なる検証が必要となっている。
53
(gC/m2/年)
図 31
植生による2003年の年間純一次生産量(NPP:gC/m 2/年)
しかし、限定されたデータであっても小麦及びトウモロコシに関しては精度の高い推定分
布となっている。
今後はより多くの主要作物についての検証を行い、純一次生産量の推定
精度を高める必要があり、これらの高次プロダクトの検証と,必要に応じて解析アルゴリズ
ムの改良を進めていく。
2.2.2.2
産業連関分析モデルによる食料需要定量化モデルの開発
本業務では、地球温暖化による東アジアの環境資源および食料需給バランスへの影響を予
測するモデル開発の一環として、産業連関表を用いて食料需要量を推定可能なモデルを開発
する。具体的には、産業連関分析モデルをベースとする排出インベントリーモデルである.
本モデルを用いて,三峡ダム上流に位置する重慶市を対象として、社会経済活動に伴う水需
要や汚濁負荷の定量化を行ってきたが、今回は新たに長江流域全体にモデルの拡張を図り、
長江流域を中心とする中国全土における食料需要構造とそれに伴う水需要や汚濁負荷(炭素,
窒素,りん)の排出構造を定量的に評価する.
54
(1)
①
流域管理のための環境負荷排出インベントリーシステムについて
環境負荷排出インベントリーの系譜
人間活動に伴う「環境負荷排出インベントリー」の概念は,主に地球温暖化に関連して開
発が進められてきた.IPCC(1996)で温室効果ガス(GHGs)の算定方法のガイドラインが策定さ
れ,アメリカ(EPA) などいくつかの国々ではその手法を用いて GHGs の年報を発行している.
今日に至るまで,
「環境負荷排出インベントリー」の作成についてて様々な手法が開発されて
いるが,そのアプローチは大きく 3 つに分類できる.
積み上げ型アプローチ
1 つ目は,統計データを基に環境負荷を算定するアプローチで,IPCC で提唱された手法で
ある.このアプローチは 90 年代に世界的に研究( Kato et al.1992,Klimont et al.1988,
Sokona.1995,Kato,1996,Gielen,1997,Baldasano et al.1999)が進められ,近年では衛星
データを用いた新しい手法(Woo, J et al2003)も開発されている.
CGE モデル型アプローチ
2 つ目は応用一般均衡モデル(CGE)を用いたアプローチで,主にエネルギー消費や CO2 の排
出についての政策シミュレーショへと利用されている(Kainuma, M,et al 2000)
産業連関分析モデル型アプローチ
3 つ目は,産業連関表を用いたアプローチである.産業連関分析モデルは W.Lenotief によ
り 論 理 が 確 立 さ れ (Leontief, W 1966), 70 年 に そ の 枠 組 み は 環 境 問 題 へ と 拡 張 さ れ た
(Leontief, W,1970) .その後,Duchin ら(Duchin, F,et al 1985)によりアメリカ経済への
適用され,それ以降,主にエネルギー政策分野で開発が進み,GHGs や大気汚染物質の LCA の
ツールとして活用されてきた(Gay et al.1993 ,Lave et al.1995 ,Lenzen,1998,Nansai et
al.2003,Suh et al.2003 ,Ferng,2004).
それ以外にも様々な分野での研究が進められ,廃棄物マネジメント(Huang et al.1994,
Nakamura,1999)やエコロジカルフットプリント(Lenzen et al.2001,Ferng,2002)の算定にも
用いられてきている.
また流域管理とかかわりの深い水環境の分野でも,近年研究が進んでおり,水不足と社会
経済構造変化を背景に水消費の誘発効果を評価する研究(Duarte, R.et al ,2002)や COD の排
出インベントリーの構築(Ni, J. R., Zhong,et al 2001)に利用されており,三峡ダム上流の
主要都市である重慶市を対象とした水需要と汚濁負荷排出インベントリーについての研究成
果(Okadera,Watanabe,et,al 24))がある.
②
流域単位の環境負荷排出インベントリーの枠組み
これまでの排出インベントリーは Global もしくは National スケールのインベントリーで
あり,流域管理に適用するには,空間的バウンダリーが一致しないという問題があった.流
域という Sub-Global なスケールでの排出インベントリーを作成することで食料需給定量化
に資するシステムの開発を行うことが可能となる.ここで本業務における環境負荷排出イン
55
ベントリーの概要を説明する.
取り扱う環境指標
本業務では,エコシステムサービスの生産機能と支持機能に関連して「食料需要」と「水
需要」の 2 つの指標の定量化を行う.
③
産業連関分析によるインベントリーモデル
現在の人間活動は流域単位で営まれておらず,生産消費活動に伴い様々な財やサービスが
流域という空間スケールを超えてやり取りされている.そのため,流域の外部との関係を把
握する必要がある. そこで産業連関表を利用したマクロ計量経済モデルによって作成を行う.
経済モデルをベースとすることで,経済予測モデルへのリンクも容易であり,今後東アジア
における将来的な経済活動による影響評価への展開を想定している.
(2)方法論およびモデル
①
地域区分
本業務では,長江流域を上流,中流,下流の 3 地域に,長江流域以外の地域を北中国と南
中国に区分した(図 32).地域区分にあたっては,長江年鑑等を基にして,地理的条件,気
象条件,水文的条件などの自然条件から総合的に判断した上で,行政単位で設定した.その
理由は,社会経済活動データは行政界で整備されているため,活動量データベースとしては
自治体単位で構築する方が効率的であると判断したためである.
図 32
地域区分
56
②
部門分類
本業務で取り扱う産業部門は表 3 に示す 30 部門とする.
表3
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
産業部門
11
12
13
14
15
耕種農業
畜産業
林業
漁業
石炭鉱業
原油・天然ガス鉱業
その他鉱業
食品製造業
たばこ製造業
繊維工業
衣服,なめし皮,毛皮,その他の繊維
製造業
木材,木製品製造業
紙・パルプ
印刷・出版
石油・石炭製品製造業
③
産業連関分析によるインベントリーモデル
長江流域地域間産業連関表の作成:
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
化学工業
窯業・土石製品製造業
鉄鋼業
金属製品製造業
機械・電気・電子設備製造業
機械修理補修業
その他製造業
廃棄物処理業
電気・熱供給業
ガス業
26
27
28
29
30
水道業
建設業
運輸通信業
卸売小売業
サービス業
本業務では地域区分と産業分類に即した長江流域の
地域間産業連関表を作成を行った.以下のモデル式(1)をベースとして,アジア経済研究所と
共同で作成を行い,食料の需要は,耕種農業,畜産業,食品製造業の 3 つの部門から把握す
ることが可能となる.
Cˆ RR Cˆ RS  A R 0  X R  Cˆ RR Cˆ RS  F R  E R  M R  X R 
 ˆ SR ˆ SS  
          
   
C   0 A S   X S   Cˆ SR Cˆ SS   F S   E S   M S   X S 
C
ただし,
Ĉ RS :地域 R から S へのトレード係数の対角化行列
A R :地域 R の産業連関表から求まる投入係数行列
X R :地域 R の総産出列ベクトル
F R :地域 R の最終需要列ベクトル
E R :地域 R の輸出列ベクトル
M R :地域 R の輸入列ベクトル
トレード係数は式(2)より求まる.
57
(1)
ciRS 
t iRS
(2)
n
t
RS
i
R
ただし,
ciRS :財 i の地域 R から S へのトレード係数
t iRS :財 i の地域 R から S への移動量
産業部門の環境負荷排出モデル:
産業部門の環境負荷の排出量の算定は産業連関分析モデ
ルをベースとし,基本モデルは式(3)となる.
ˆ BFˆ
ELind  D
(3)
ただし
ELind :環境負荷排出量ベクトル
D̂ :環境負荷排出原単位の対角行列
B :レオンチェフの逆行列
F̂ :最終需要(輸出、移出含む)の対角行列
尚,本業務では流域単位の地域間産業連関分析モデルを用いるため,レオンチェフの逆行列
は式(4)となる


 
ˆ N
ˆ A*
B  IA M
 A RR
s.t. A  
*
 0
0 

A SS 
1
(4)
ただし,
A :投入係数行列
M̂ :輸入係数の対角行列
N̂ :移入係数の対角行列
A RS :地域 R から地域 S への投入係数行列
さらに、最終需要は域内最終需要 F̂d とその他地域による最終需要(移出 Ês ,輸出 Êx )に分割
することができ、式(4)から式(6) に変形できる.尚,行列式の「^」は対角行列を意味する.
58
ˆ BFˆ d  D
ˆ BE
ˆsD
ˆ BE
ˆx
ELind  D
(5)
式(5)より、域内の消費活動により誘発される環境負荷(第 1 項)とその他の地域での消費活動
により誘発される環境負荷(第 2 項と第 3 項)の排出量を求めることができる.
ここで、d ip を部門 i で排出される環境負荷 p の排出量, bij をレオンチェフの逆行列の要素,
f j を部門 j の最終需要とすると式(7) に示すマトリックスが得られる.
EL ind
 d 1p b11 f 1  d 1p b1 j f j





  d ip b11 f 1  d ip bij f j



 p
p
d
b
f

d
b
n
n
1
1
n
nj f j

 d 1p b1n f n 



 d ip bin f n 




p
 d n bnn f n 
(6)
式(6)より部門別の環境負荷排出量および域内外の消費活動に伴う誘発量を把握することが
できる.
産業部門の水需要パラメータの設定:
地域 R の耕種農業の水需要パラメータ  agr は式(7)
R
よりもとめる.

R
agr

R
R
R
R
agr
( k ) AR agr( k )  emp EPagr
R
X agr
(7)
ただし
R
ARagr
( k ) :地域 R の作物 k の農地面積
R
agr
( k ) :地域 R の作物 k の農地面積あたりの水需要量
R
EPagr
:地域 R の耕種農業の労働者数
R
emp
:地域 R の従業員一人当たりの水需要量
R
X agr
:地域 R の耕種農業の総産出
算定では,中国水資源公報のデータを基に,省別の水田,畑の面積あたりの用水量を推計し,
59
農地面積,従業者数を用いた.また従業者一人当たりの水需要量 emp は 1 日 8 時間労働とい
R
う仮定の下に,人口当たりの水需要量の 3 分の 1 とする.
R
地域 R の畜産部門の水需要パラメータ  liv
は式(8)よりもとめる.
 
R
liv
R
R
R
R
liv
( n ) LV( n )  emp EPliv
(8)
X livR
ただし,
LV( Rn) :地域 R の家畜 n の年末頭数
R
liv
( n ) :地域 R の家畜 n の1頭あたりの水需要量
EPlivR :地域 R の畜産の労働者数
X livR :地域 R の畜産業の総産出
算定に際しては,中国水資源公報の報告値および家畜あたりの水消費量
46)
を基に,牛,豚,
鶏の単位あたりの水需要量を設定し,家畜頭数,従業者数より求めた.
地域 R の工業部門 i の水需要パラメータ  ind (i ) は式(9)よりもとめる.
R
R
ind
(i ) 
R
R
ind
( i ) N ind ( i )
R
X ind
(i )
(9)
ただし,
R
N ind
( i ) :地域 R の工業部門 i の出荷額
R
ind
( i ) :地域 R の工業部門 i の出荷額あたりの水需要量
R
X ind
( i ) :地域 R の工業部門 i の総産出
中国水資源公報と中国環境年鑑のデータを基に,パラメータを設定を行った.工業部門は環
60
境年鑑から水の循環率を設定可能なため,総水需要量と水資源消費量の 2 つの水需要量を求
めることが可能となった.従業員の飲料水量も既にデータに含まれているため,工業部門で
は従業員数の水需要を加算しない.
耕種農業,畜産,工業を以外の産業 j (サービス業など) の水需要パラメータ  o th( j ) は式
R
(10)でもとめる.

R
oth( j )

R
R
emp
EPoth
( j)
R
X oth
( j)
(10)
ただし,
R
EPoth
( j ) :地域 R の部門 j の労働者数
R
X oth
( j ) :地域 R の部門 j の総産出
サービス業等は労働集約型産業であるため,そこで働く従業員の事業系の水需要を計算する.
また部門によっては,利用客による需要も考えられるが,部門ごとの利用客数に関するデー
タが入手できなかったため,今回の算定では取り扱っていない.また水道部門は給水に水を
必要とするが,これらは各経済主体に帰属させており,これを計上するとダブルカウントさ
れることから,水道部門自体が必要とする水需要量は事業系の水需要のみとした.またエネ
ルギー部門でも,冷却水として生産段階で水の需要が見込まれるが,データのアクセスビリ
ティの問題から,本業務においては含まれていない.
家計部門の水需要量の算定: 家計部門からの水需要 GELRhsh は県別人口から式(12)を用いて
推計する.
R
GELRhsh  hsh
PR
ただし,
R
:地域 R の一人当たりの環境負荷 p の排出量
 hsh
P R :地域 R の人口
算定は中国水資源公報の生活用水データに基づいて行った.
61
(11)
(3)
結果
① 長江流域の食料の需要構造
2000 年の長江流域における農作物の需給構造は図 33 となる. 農作物自給率が最も低い南
中国で 83%であり,総じて中国国内の農作物の自給率は高い.特に長江中流域の自給率は 97%
に達しており,さらに,北中国(150 億元),南中国(140 億元),長江下流(60 億元)といっ
た地域へ農作物供給拠点としての構造にあることが明らかとなった.(図 33
農作物の需給
構造)
また畜産の需給構造を図 34 に示す.畜産物自給率も総じて高く,最も低いに南中国で 78%
であった.畜産物でも長江中流域の自給率は 97%に達しているとともに,北中国(120 億元)
と南中国(100 億元)へ畜産物供給を行っていることがわかった.(図 34
畜産物の需給構造)
加工食品の需給構造は図 35 となる.加工食品については地域によって,自給率にばらつきが
あり,最も低いのは長江上流域の 62%であった.また長江下流域も 67%と低く,長江上流と下
流では加工食品の外部依存が高いことがわかった.加工食品についても長江中流域の自給率
は 88%と高い数値を示すと同時に,北中国(350 億元),長江上流(240 億元),長江下流(200
億元)の供給サイトとしての役割をもつことが示された.また,加工食品については,長江
下流の輸出率が 14%と,農産物(2%)および畜産物(2%)のそれに比べて高く,加工食品に
対する地域内需要を長江中流域に依存しつつ,海外の加工食品需要をまかなうという構造が
見てとれる.(図 35
食品加工業の需要構造)
50
4100
300140
20
7
80
6
150
14
10
2300
70
40
30
40
180 210
10 90
60
2500
80 7
10
40
20 390
170 50
10
30
単位:億元
80
1900
300
図 33
80
80 100
農作物の需給構造
62
1500
30 140
50
140
10
地域内
輸入
輸出
移出
移入
70
1800
230
90
60
80
30
20
10
20
7
30
120
15
7
1500
50
60
4
50
1900
50
7
70
300
5
1500
100
20
50
6
140
30
28
30
100
5
50
6
10
単位:億元
地域内
輸入
輸出
移出
移入
30
20
910
220
図 34
40 50
40
畜産物の需給構造
3600
910
660
190
220
300
110
240
80
1200
680
15
2000
180
920
240
20
40
200
1600
610
50
30
140
150
140
170
1600
340
160
図 35
510
170
食品加工業の需要構造
63
240
60
50
90
510
130
単位:億元
地域内
輸入
輸出
移出
移入
320
50
30
50
230
350
80
②
長江流域の水需要構造
地域別産業別水需要量は図 36 となる.地域別では北中国の水需要量(3200 億 m3)が最も大
きくなっており,耕種農業(33%)と電力・熱供給部門(23%)の水需要量が高いことがわか
る.また他の地域でも総じて,耕種農業および電力・熱供給部門の水需要が高く,特に耕種
農業にかかる水需要は平均して 4 割を占める.
実際の新規取水量について示すと,図 37 の結果が得られる.新規取水量も北中国(1500
億 m3)と最も大きいが,製造業部門における水の再利用によって,総水需要に対する新規取
水率を 5 割以下に抑えている.新規取水に対する部門別割合は,耕種農業が 69%を占めてい
る.他の地域でも同様に耕種農業の割合が高く,新規取水の約 6 割が耕種農業という結果と
なった.
このように,水需要や水資源消費という面において,耕種農業は最も重要な部門であり,
耕種農業の水需要の依存関係を示すと,図 38 となる.まずここでは注目すべきは中国では
3400 億 m3 の水資源が消費されているが,その 11%は海外により誘発されている点である.地
域別に海外からの依存度を見ると,南中国が 20%と最も高く,ついで北中国(12%),長江下
流(12%)となる.中国国内での依存関係を見ると,耕種農業の水需要の自給率はどの地域
も総じて高く,最も低いのは長江下流域の 84%であった.
(4)結論
本業務は地球温暖化による東アジアの環境資源および食料需給バランスへの影響を予測す
るモデル開発の一環として、産業連関表を用いた食料需要量を推定可能なモデルを構築し,
長江流域へと適用した.その結果,食糧需給については,中国では農作物や畜産物の自給率
は総じて高いが,加工食品の自給率は地域によってばらつきが大きく,長江上流および下流
での外部依存率が高いことが明らかとなった.また農作物,畜産物,加工食品ともに長江中
流域が主要な供給地域の役割を果たしているという構造であることがわかった.特に長江下
流域では地域内の加工食品の需要を長江中流域に依存しつつ,海外に加工食品を輸出すると
いう形態をとっていることも明らかとなった.一方,水需要については,新規取水の 6~7
割を耕種農業が占めており,耕種農業の約 1 割が海外から誘発されており,地域別の海外被
依存率は南中国が 20%,長江下流域,北中国が 12%であるとの結果が得られた.農作物その
ものの輸出率は 1~5%と低いにもかかわらず,海外が中国の耕種農業の水資源に依存する割
合が 10%~20%に達していることから,農作物の輸出による直接的な依存よりも,他の財・
サービスの輸出に伴い誘発される間接的な水需要の依存度が高いことが示された.
64
1800
3500
1600
3000
1400
2500
1200
2000
1000
1500
800
600
1000
400
500
200
0
0
上流
S_00
S_07
S_14
S_21
S_28
図 36
中流
S_01
S_08
S_15
S_22
S_29
S_02
S_09
S_16
S_23
S_30
下流
S_03
S_10
S_17
S_24
南中国 北中国
S_04
S_11
S_18
S_25
S_05
S_12
S_19
S_26
上流
S_06
S_13
S_20
S_27
S_00
S_07
S_14
S_21
S_28
全国(3,350)
地
域
外
か
ら
の
依
存
量
地
域
外
へ
の
依
存
量
130
80
860
S_05
S_12
S_19
S_26
S_06
S_13
S_20
S_27
210
31
21
14
20
45
18
4
7
上流
40
21
510
40
70
130
430
140
65
下流
中流
5
16
S_04
S_11
S_18
S_25
海外
(400)
北中国
8
380
S_03
S_10
S_17
S_24
VWT(80)
17
8 14
S_02
S_09
S_16
S_23
S_30
南中国 北中国
37
20
40
下流
地域部門別水需要量(億 m3,2000 年)
図 37
地域部門別水需要量(億 m3,2000 年)
地
域
内
依
存
量
S_01
S_08
S_15
S_22
S_29
中流
110
6
4
1
1
6
10
15
南中国
50
490
180
15
21
24
図 38
耕種農業の水需要依存構造
65
3.研究成果のとりまとめ・公表
3.1
インターネットを通じた研究成果の公表
昨年度に引き続き平成 18 年度も MODIS データの一般公開システムの構築を行った。MODIS
データの公開システムは NIES 内で独自のホームページサーバーを立ち上げインターネット
を通じて流域プロジェクト一般公開を行っている。
MODIS データ一般公開用ホームページは、国立環境研究所のホームページ内にある
(http://www-baisin.nies.go.jp/)から閲覧が可能である。
MODIS データのクイックルック画像に関しては受信から概ね 1 日遅れ(状況により数日の
場合あり)でほぼ毎日データの追加更新を行っている。
図 39 の「アジア-太平洋イノベーション戦略における総合環境モニタリング」のページが
開かれたら赤丸の部分をクリックする。
図 39
アジア-太平洋イノベーション戦略における総合環境モニタリングのページ
図 40 の「MODIS 受信ステーション画像」のページが開かれたら受信局を選択(標準では北
京局)して、受信年月日を指定したら「再表示」ボタンをクリックする。受信画像が存在す
れば図 41(f20060804.html)のようにリストされるのでクリックする。
66
図 40
MODIS 受信ステーション画像
図 40 のように MODIS クイックルック画像が表示される。
図 41
MODIS クイックルック画像
67
3.2
RCC 会議、雑誌や国際会議による成果発表
3.2.1 研究調整委員会(RCC) への出席
環境省の主催する APEIS の RCC に出席(平成 19 年 3 月 15 日)、平成 18 年度の成果報告
として、MODIS 衛星受信システムや、モニタリング及び解析システムを継続的に運用し、
これらのデータは中国の生態環境保全、植生監視、黄沙監視などに広く使われており、中国
科学院のデータバンクに収録されていることをインターネットで報じられていることを述べ
た。反射率、地表面温度、植生指数などの重要な環境指標の MODIS 高次プロダクツを NASA
のアルゴリズムによって作成すると同時に、土地被覆や蒸発散量など重要な環境指標の新し
いアルゴリズムを開発、また、中国で設置している5つの地上生態ステーションを維持しな
がら、新たにモンゴルで凍土観測ステーションを設置することによって地上生態観測ネット
ワークを拡張したことについて報告した。また、水資源・農業資源・二酸化炭素吸収等の環
境資源ストックを評価するモデルおよび産業連関表を用いたマネタリーフロー、マテリアル
フロー環境ストックを結びつけた環境資源管理モデルの開発を行って、特に、温暖化に伴う
永久凍土の融解、純一次生産力・食料需給バランス・水資源に与える影響評価を中心に行っ
たことについても報告した。さらに、APEIS のコンポーネットである統合環境アセスメント
(IEA)と革新的戦略オプション研究(RISPO)について、その成果の報告を聴取した。
3.2.2 雑誌や国際会議による研究成果発表
雑誌論文
1.
A Study on Replenishment and Decomposition of Organic Matter in and Mat-Cryic
Cambisols CO2 Flux between Vegetation and Atmosphere (In Chinese). Yingnian LI, Qinxue
WANG, Mingyuan DU, Liang ZHAO, Shixiao XU, Yanhong TANG, Guirui YU, Xinquan
ZHAO, Song GU.ACTA AGRESTIA SINICA, 2006, (2).
2.
Analysis of Water Demand and Water Pollutant Discharge using a Regional Input -Output
Table: An Application to the City of Chongqing, upstream of the Three Gorges Dam in China,
T. Okadera, M. Watanabe and K. XU, Ecological Economics, 58, pp221 -237, 2006
3.
Effect of underground urban structures on eutrophic coastal environment, Nakayama, T.,
Watanabe, M., Tanji, K. & Morioka, T.: Sci. Total Environ., 373(1), 270-288, doi:
10.1016/j.scitotenv.2006.11.033, 2007.
4.
Estimation of Biomass and Annual Turnover Quantities of Potentilla Froticosa Shrub. (In
Chinese). Yingnian LI, Liang ZHAO, Qinxue WANG, Mingyuan DU, Song GU, Shixiao XU,
Fawei ZHANG, Xinquan ZHAO. ACTA AGRESTIA SINICA, 2006, (1): 72-76.
5.
Estimation of groundwater use by crop production simulated by DSSAT-wheat and
DSSAT-maize models in the piedmont region of North China Plain. Yang, Y., Watanabe, M.,
68
Zhang, X. Hao, X. and Zhang, J. Hydrological Processes. 2006.
6.
Evaluation of MOD16 algorithm using MODIS and ground observational data in winter
wheat field in North China Plain. Zhigang SUN, Qinxue WANG, Zhu OUYANG, Masataka
WATNABE, Bunkei MATSUSHITA, Takehiko FUKUSHIMA.Hydrological Processes. 2007,
21(9): 1196-1206.
7.
N Simulation of spring snowmelt runoff by considering micro-topography andphase change
in soil layer, Hydrol. Earth Syst.akayama, T., and M. Watanabe. Sci. Discuss., 3,
2101-2144. 2006.
8.
Nitrogen budgets of agricultural fields of the Changjiang River basin from 1980 to 1990,
Xiang BAO, Masataka WATANABE, Qinxue WANG, Seiji HAYASHI, and Jiyuan LIU.
Science of the Total Environment, 2006, 363:136-148.
9.
Nitrogen transported to Three Gorges Dam from agro-ecosystems during 1980–2000, Chen
LIU, Qinxue WANG and Masataka WATANABE: Journal Biogeochemistry, 2006,
81(3):291-31.
10. Optimizing irrigation management for wheat to reduce groundwater depletion in the
piedmont region of the Taihang Mountains in the North China Plain. Yonghui YANG, Xiying
ZHANG, Masataka WATANABE, Jiqun ZHANG, Qinxue WANG, Seiji HAYASHI,
Agricultural Water Management, 2006, 82: 25-44.
11. Plant Community Structure and Ecological Characteristics of the Alpine Wetland in Haibei
Area of Qilian Mountains (In Chinese). Yingnian LI, Liang ZHAO, Shixiao XU, Guirui YU,
Mingyuan DU, Qinxue WANG,
Xiaomin SUN, Yanhong TANG, Xinquan ZHAO, Song GU.
Journal of Glaciology and Geocryology, 2006, 28(1): 76-84.
12. Responses of Soil Temperature and Humidity to Changes of Vegetation Coverage in Alpine
Kobresia tibetica Meadow (In Chinese). Yinnian LI, Fawei ZHANG, Anhua LIU, Liang
ZHAO, Qinxue WANG, Mingyuan ZHAO. Chinese Journal of Agrometeorology, 2006,
27(4): 265-268
13. Seasonal Characteristics of CO2 Fluxes from the Paddy Ecosystem in Subtropical Region (in
Chinese). Yongli ZHU, Chengli TONG, Jinshui WU, Kelin WANG, Qinxue WANG, Xiue
REN. Chinese Journal of Environmental Science, 2007, 28(2): 283-288.
14. Simulation of ground water dynamics in the North China Plain by coupled hydrology and
agricultural models, Nakayama, T., Yang, Y., Watanabe, M. and Zhang, X. 2006.
Hydrological Processes, 20, 3441-3466.
15. Simulation of spring snowmelt runoff by considering micro-topography and phase changes
in soil layer, Nakayama, T., & Watanabe, M.: Hydrol. Earth Syst. Sc. Discuss., 3, 2101 -2144,
2006.
16. Simulation of temperature, salinity and suspended matter distributions induced by the
69
discharge into the East China Sea during the 1998 flood of the Yangtze River,Watanabe, M.
Estuarine, Coastal and Shelf Science, 2007, 71, 81-97.
17. UV-B Changing Characteristics of Alpine Meadow Area at Haibei Station in Qiliang
Mountain (In Chinese). Yingnian LI, Mingyuan DU, Yanhong TANG, Qinxue WANG,
Xinquan ZHAO, Song GU. Journal of Arid Land Resources and Environment, 2006, (3):
79-84.
18. 農生態系から三峡ダムに輸送された窒素負荷量の時空変化, 劉晨・王勤学・渡辺正孝 :シ
ステム農学 2007 : 23–2, 153–164.
国際会議・ワークショップ発表
(1)
王勤学: 流域圏水・物質循環システムの評価と健康な河川. 長江論壇 、2007 年4月、中国・
長沙
(2)
王勤学、劉晨、水落元之、肖慶安. 流域水・物質循環評価モデルによる影響評価―淮河流
域を例として.“水循環と河川の健康 ”中日学術検討会 、2007 年 1 月、中国・北京
(3)
Zhigang SUN, Qinxue WANG, Takehiko FUKUSHIMA, Bunkei MATSUSHITA, Zhu
OUYANG, Masataka WATANABE. Comparison of Retreving Dry Edge Methods in VI-Ts
Space Using ASTER Data in the North China Plain. Proceedings of Fifth Workshop on
Remote Sensing of Hydrological Processes & Application, 49-55. Dec. 7, 2006, Chiba, Japan.
(4)
Qinxue WANG, Chen Liu, Qingan Xiao, Masataka WATANABE. Simulation of water, carbon
and nitrogen cycles over Changjiang River Basin in China, PS 36/P18. Global Environmental
Change: Regional Challenges. An Earth System Science Partnership (ESSP) Open Science
Conference. 9-12 November 2006, Beijing, China. www.essp.org/essp2006.
(5)
Bagan
HASI,
Qinxue
WANG,
Yoshifumi
YASUOKA,
Masataka
WATANABE.
SYNERGETIC USE OF MODIS, ASTER, AND LANDSAT DATA FOR LAND COVER
CLASSIFICATION IN ARID AND SEMI-ARID AREA OF NORTH CHINA. The 27th Asian
Conference on Remote Sensing, Oct.9-13, 2006. Ulaanbaatar, Mongolia.
(6)
Qinxue WANG, Chen LIU, Qingan XIAO and Masataka WATANABE. Evaluation of Water,
Carbon and Nitrogen Dynamics by an Integrated Hydro-ecosystem Model Coupled with
Remote-sensing Data and GIS. Proceedings of First Sino-Japan River Basin Water
Environment Workshop. Jun. 2006, Wuhan, China.
(7)
Qinxue WANG, Chen LIU, Qingan XIAO, Masataka WATANABE. Monitoring and
Simulating Water, Carbon and Nitrogen Dynamics over Catchments in Eastern Asia. Joint
Assembly, a partnership between AGU, GS, MAS, MSA, SEG, and UGM, 23-26 May 2006,
Baltimore, Maryland, USA.
受賞
70
(1)
The Zayed International Prize for the Environment (2nd Prize Awarded to the Authors of
the “Millennium Ecosystem Assessment” for Scientific and Technological Achievements in
Environment, http://fgic-gfci.scitech.gc.ca/details.php?lang=e&id=737 ).
(2)
学会受賞論文
( Bagan HASI, Qinxue WANG, Yoshifumi YASUOKA, Masataka
WATANABE. SYNERGETIC USE OF MODIS, ASTER, AND LANDSAT DATA FOR
LAND COVER CLASSIFICATION IN ARID AND SEMI-ARID AREA OF NORTH CHINA.
The 27th Asian Conference on Remote Sensing, October 9-13, 2006. Ulaanbaatar, Mongolia.
Oct, 2006).
71