地上カメラと衛星による離島火山の噴煙観測

地上カメラ
地上カメラと
衛星による離島火山
カメラと衛星による
による離島火山の
離島火山の噴煙観測
金柿主税、木下紀正(鹿大教育)、八木原寛(鹿大理)
1、はじめに
南九州は多くの活火山を有しており、なかでも桜島、薩摩硫黄島、諏訪之瀬島の火山は非常に活発
な噴火活動を行っている。噴火による火山灰や噴煙と挙動をともにする火山ガスは、島内だけでなく
近隣地域に影響を与え、航空機、船舶にとっても危険である。
火山活動の重要な指標である噴煙活動の観測記録のため、ネットワークを利用した火山噴煙観測シ
ステムと自動更新データベースを構築した。各種衛星データの解析と併せて、桜島、薩摩硫黄島、諏
訪之瀬島等、遠隔地の火山噴煙の観測記録を行った。また、デジタルスチルカメラ広角撮影による噴
煙の広域移流拡散、ビデオカメラによる近赤外映像など、火山性エアロゾルや火口周辺の熱異常の長
期自動観測を試みた。動画映像をはじめ、衛星画像、気象データ、降灰量、研究成果等の総合的なデ
ータベース化を進め、その教育・防災利用について検討した。
2、噴煙観測システム
噴煙観測システム
1)諏訪之瀬島(御岳 799m)
・ネットワークカメラによるライブ映像(25km NE 中之島小中学校より)
・ビデオカメラとワイドコンバータによるインターバル撮影映像(4km SWS 諏訪之瀬島分校より)
・デジタルカメラと外付バッテリによる火口周辺の長期インターバル撮影画像の試行
2)薩摩硫黄島(硫黄岳 704m)
・パソコンと USB カメラによる近赤外ライブ映像(3km WSW 三島開発総合センターより)
・ビデオカメラによる近赤外インターバル撮影映像(同体育館より)
・デジタルカメラ(28mm 広角撮影)によるインターバル撮影画像(同体育館より)
3)桜島(南岳 1040m)
・桜島を囲むように配置したネットワークカメラ等によるライブ映像
(10km WSW 鹿大郡元キャンパス、10km SE 垂水市役所、8km NW 南西島弧地震火山観測所より)
・ビデオカメラによる近赤外インターバル撮影映像(9km WSW 鴨池港近傍より)
4)霧島(御鉢 1408m)
・霧島町ライブカメラ映像(9km SW 霧島町役場提供)およびアーカイブ(鹿大で保存の自動化)
・デジタルカメラ(28mm 広角)によるインターバル撮影画像(5km WSW 神話の里公園より)
・ビデオカメラ(遠望)による近赤外映像(48km SW 鴨池港近傍より)
5)開聞岳(922m)
・デジタルカメラによる地形性雲のインターバル撮影画像(10km NW 頴娃町立別府小学校より)
6)フィリピン・マヨン火山(2462m)
・ビデオカメラによるインターバル撮影映像(10km SSE PHIVOLCS マヨン観測所より)
・デジタルカメラおよびビデオカメラによるインターバル撮影画像(同観測所より)
・ネットワークカメラによる可視・近赤外映像(2004 年 2 月設置、同観測所より)
なお、映像の多くはホームページ(http://arist.edu.kagoshima-u.ac.jp/volc/)で公開中である。
3、解析データ
解析データおよび
データおよび解析方法
および解析方法
1)地上観測データ
観測カメラ映像、目視情報や現地写真、デジタルカメラ等による観測のほか、新聞やテレビで報道
された空撮映像、Web で公開されている第十管区海上保安本部撮影映像や情報などを参照した。
近赤外映像データ
通常のビデオカメラやデジタルカメラは色再現性を保つためレンズの前後に赤外カットフィルタを
装着している。この赤外カットフィルタを除去し、可視カットフィルタや減光フィルタを用いて近赤
外映像を撮影した。近赤外映像により、散乱光や靄を抑えて噴煙エアロゾルや火口高温部を検出した。
蓄積映像データ
80 年代以降のビデオ映像は PC や DVD レコーダー等を用いてデジタル(MPEG)化し、Web でデータベ
ースを公開中で、適宜 CD や DVD で配布を行っている。必要に応じて噴煙映像の静止画を切り出した。
2)衛星データ
気象衛星ノアの AVHRR は鹿大受信データより、Terra/Aqua 衛星の MODIS データは NASA GES DAAC よ
り、静止気象衛星 GMS-5/VISSR や GOES-9/GVAR データは北大ひまわりサーバよりダウンロードした。
3)気象データ
インターネットで公開される米国海洋大気局 Radiosonde Database Access、第十管区海上保安本部
提供の中之島灯台はじめ南西諸島の気象データ、気象庁電子閲覧室より天気図や降雨量等を参照した。
4)その他
航空路火山灰情報センター(VAAC)パイロットレポートにより噴煙高度や移流情報等を参照した。
噴煙の挙動と密接に関連する降灰量データ(鹿児島県消防防災課提供)、二酸化硫黄データ(鹿児島
市環境保全課、鹿児島県環境生活部提供)を用いて、桜島噴煙の移流・拡散の解析を行った。
4、結果の
結果の事例
1)薩摩硫黄島硫黄岳の噴煙エアロゾルと火口高温部の観測
図 1a は、CMOS センサ USB カメラに IR-84 フィルタを装着した画像である。近赤外画像では、
眼下の椿や稲村岳(画面右)の竹が白く反射し鮮明に表示される。この時期、活発な噴気がみられ、
近赤外では白く強調されて分りやすい。図 1bは、ビデオカメラ Night-Shot mode、IR-85 装着、ND
フィルタなしで日没後に撮影した。通常、山頂の岩石や裸地は、太陽光を吸収するため近赤外画像で
黒く表されるが、画面中央部分は天候に関わらず輝度が高いため、高温部と思われる。
a.
ライブカメラ映像の噴煙エアロゾル
2003 年 12 月 4 日 11 時
図1
b. 火口高温部(画面中央)と噴煙
2003 年 12 月 2 日 17 時 12 分
硫黄岳の近赤外映像による噴煙エアロゾルと火口高温部観測
2)Terra-MODIS と GMS-5 による 2002 年 12 月 5 日の諏訪之瀬島噴煙
この日 72 回の噴火があり、終日活発に噴煙を放出した。高層の強い風によって噴煙が山麓に吹き降
ろされている場面を確認した。10 時台に 11 回、14 時台に 15 回の噴火がみられ、強風にもかかわら
ず噴煙が上昇する場面を確認した(図 2a)。なお、VAAC パイロットレポートでは 9 時台に高度 1000m
程度であったが、10 時台に 2000m 以上の噴煙が報告されている。GMS-5 や MODIS によって東に約
100km 移流した噴煙を観測した(図 2b、図 2c)。
図 2a
諏訪之瀬島ライブカメラ映像
2002 年 12 月 5 日 10 時 40 分
図 2b
GMS-5(Visible)画像
図 2c
2002 年 12 月 5 日 10 時 40 分
Terra-MODIS(TrueColor)画像
2002 年 12 月 5 日 10 時 55 分
3)NOAA/AVHRR による 2002 年 11 月 13 日桜島火山灰
風下の垂水市では大量の降灰がみられ、市民生活に大きな影響を与えた。NOAA/AVHHR データよ
り AVI 処理(12-11μm)を用いて、垂水市、鹿屋市、志布志湾へ流れる火山灰を検出した(図 3a)。
なお、新聞では同地域への降灰により、交通機関や露地栽培作物への影響を報じた。
a.
ノア画像 AVI 処理による火山灰
2002 年 11 月 13 日 16 時 25 分
図3
b.
鹿大カメラ画像
2002 年 11 月 13 日 15 時 25 分
衛星データと監視カメラによる桜島火山灰の検出
4)デジタルカメラ外部充電池パッケージによる長期無人観測
最近のデジタルカメラは高機能で省電力である。図 4a は CASIO QV-R4 と外付けリチウムイオンバッ
テリと組み合わせ、インターバル撮影で数ヶ月間無人観測できるカメラパッケージである。1 台を諏
訪之瀬島御岳火口に設置して噴煙観測を行った(図 4b)。
図 4a
カメラパッケージ
図 4b
噴火直後の諏訪之瀬島御岳火口の様子
2004 年 1 月 28 日 14 時 2 分
5、まとめ
・ネットワークカメラやデジタルカメラ等を用いて、火山噴煙の長期自動観測方法を開発した。
諏訪之瀬島や薩摩硫黄島等の爆発噴煙を観測記録し、即時情報の Web 公開を行った。
・ビデオカメラ近赤外映像により、散乱光や靄を抑えて噴煙を検出した。衛星データと同様に、
火口高温部や薄い噴煙エアロゾル、遠望の地形や広域の植生指標等を観測した。
・NOAA、GMS-5/GOES-9、MODIS 等の各種衛星データを用いて、噴煙検出方法を確立した。
衛星による噴煙移流の様相は地上観測映像や高層風データと整合的であった。
地上観測が行われていない西太平洋域の火山噴煙についても爆発噴煙を観測した。
・山頂付近が強風のとき、山岳波現象がみられ風下の山麓で高濃度の二酸化硫黄が検出された。
降雨があれば、降灰量、二酸化硫黄データともに殆ど観測されない。
・噴煙映像や衛星データ、気象データ等のデータベース化を行い、Web で公開を行った。
関係機関へデータベースの一部を CD-R 等で配布し、教育活動等へ利用して頂いた。
謝辞:
謝辞:これは鹿大噴煙研究グループの研究成果の一部です。メンバーの方々、院生、学生にご協力頂
きました。噴煙情報・写真は、住民の方にご連絡ご提供頂きました。観測カメラ設置に際し、各自治
体等にご配慮頂きました。衛星データ入手には、鹿大 NOAA 受信システム、NASA、JMA、北大ひま
わりサーバなど無償ダウンロードサイトを利用させて頂きました。ここに記して深く感謝致します。
参考文献
[1]金柿,木下,土田,三仲,Tupper,後藤,八木原,飯野,地上多点自動観測と衛星による桜島噴煙即時
監視の試み,地球惑星合同大会,V055-P023,2003.[2]木下,金柿,冨山,Tupper,松井,八木原,飯野,町田,
高原,福澄,自動撮影システムと衛星による南西諸島火山噴煙の観測,同,V055-P024.[3]C.Kanagaki,
K.Kinoshita, A.Tupper, H.Yakiwara, T.Fukuzumi, Ground and Satellite Observation of Eruptions
and Plumes at Suwanosejima, IUGG 2003.[4]金柿,Tupper,木下,町田,山本,浜田,観測カメラと MODIS
による離島火山の爆発噴煙,火山学会,p.108,2003.10.[5]金柿,川野,木下,ビデオカメラによる近赤外
画像の利用研究,鹿大教育学部研究紀要自然科学編,55,pp.11-24,2004.