Ⅳ 病害虫防除対策事業 1 総合的病害虫管理体系確立事業 (1)イチゴハダニ類のミヤコカブリダニを活用した天敵利用技術の現地実証試験 1.目的 促成イチゴにおけるハダニ類の防除対策として、これまでチリカブリダニを利用した技術が確 立・普及しているが、必ずしも安定した防除効果が得られていない。 このため、近年試験研究で取り組まれている新しいカブリダニであるミヤコカブリダニを利用し た防除効果を実証し普及を図る。 2.試験方法 (1)実証年度:平成 20 年度 (2)実証場所:西海市西彼町平原郷 福田氏ハウス(ハウス形状 5連棟、面積14a) (3)試験区の面積・区制:試験区 1(2棟)5a、試験区2(2棟)5a、慣行区(1棟)4a 反復なし (4)品種・栽培様式:さちのか、高設栽培、加温器設置 (5)試験区の構成 ・天敵の放飼日および放飼量 ○試験区1(12月チリカブリ追加区) ミヤコカブリダニ 4000頭 (スパイカル) /10a チリカブリダニ 2000頭 (スパイデックス) /10a チリカブリダニ 4000頭 (スパイデックス) /10a 11月13日 12月16日 1月27日 ○試験区2(ミヤコカブリダニ一発区) ミヤコカブリダニ 10000頭 (スパイカル) /10a 2月3日 チリカブリダニ (スパイデックス) 2月24日 4000頭 /10a チリカブリダニ (スパイデックス) 4000頭 /10a チリカブリダニ (スパイデックス) 4000頭 /10a 4000頭 /10a 3月3日 総放飼量 ○慣行区 ミヤコカブリダニ (スパイカル) 14000頭 /10a 総放飼量 10000頭 /10a 総放飼量 12000頭 /10a ・防除(殺虫剤)履歴 日付 8月1日 8月27日 9月3日 9月10日 9月13日 9月17日 9月22日 9月28日 10月1日 10月6日 10月16日 10月17日 9月21日 10月29日 11月11日 12月10日 1月6日 2月17日 3月2日 3月11日 3月23日 5月6日 ○試験区1(12月チリカブリ追加区) 農薬名 使用倍数 アファーム乳剤 1000倍 コテツフロアブル 2000倍 プレオフロアブル 1000倍 コロマイト水和剤 2000倍 定植 アドマイヤー1粒剤 0.5g/株 ノーモルト乳剤 2000倍 ベルクート水和剤 1000倍 プレオフロアブル 1000倍 コテツフロアブル 2000倍 プレオフロアブル 1000倍 アファーム乳剤 2000倍 コロマイト水和剤 2000倍 ノーモルト乳剤 2000倍 マルチ被覆 モスピラン粒剤 1g/株 ビニール被覆 − マイトコーネフロアブル 1000倍 フェニックス顆粒水和剤 2000倍 カスケード乳剤 4000倍 ダニサラバフロアブル 1000倍 − ウララDF 4000倍 マッチ乳剤 4000倍 スピノエース顆粒水和剤 5000倍 マイトコーネフロアブル 1000倍 主要作業 ○試験区2(ミヤコカブリダニ一発区) 農薬名 使用倍数 ○慣行区 農薬名 同左 − ダニサラバフロアブル 同左 使用倍数 同左 1000倍 − 同左 3.調査方法 (1)10∼14 日間隔で試験区1及び慣行区は 144 株、試験区2は 160 株の中位1小葉についてハダ ニ類、カブリダニ類の生息虫数を調査した。 (2)調査は、9 月30日(定植後)から6月 4 日(収穫終了期)まで行なった。 - 134 - 4.結果および考察 (1)天敵放飼前までのハダニ類の発生状況 9 月 13 日に定植し、9 月 30 日よりハダニ類の寄生状況について調査を開始した。 10 月 8 日の調査で 1 ヶ所(試験区2)ハダニ類の発生を確認、17 日に 1 ヶ所(試験区1) 、27 日に 5ヶ所(試験区2:2 ヶ所、慣行区3ヶ所)と発生が増えていった(図1)。ハダニ類の発生箇所は点在 しており、一部補植苗に寄生していたので、補植苗から持ち込んだ可能性も考えられる。 天敵放飼にむけ、 「0放飼」を基本とするため、10 月 16 日コロマイト水和剤、29 日にマイトコーネ フロアブルを散布した。農薬散布後の 11 月4日の調査ではハダニ類を確認することができなかった が、13 日放飼直前の調査では、2ヶ所(試験区1)でハダニ類を確認した。 (2)試験区1(12 月チリ追加区)の状況 11 月 13 日のミヤコカブリダニ放飼直前にもハダニ類を確認したため、 「0放飼」 とはならなかった。 その後の調査でもハダニ類は確認され、12 月 4 日調査では寄生小葉率 4.2%と今回の試験での防除目 安(寄生小葉率 10%)以下で、11 月 26 日調査でミヤコカブリダニを確認していたため、ダニ剤散布 は行なわず 12 月 16 日にチリカブリダニを放飼した。しかし、その後もハダニ類の寄生小葉率は高く なり、1 月 6 日調査で 16.4%となり、寄生頭数も1小葉当り1頭と上昇したためダニサラバフロアブ ルでの防除が必要となった(図3、4) 。 その後 1 月 16 日調査でもハダニ類の寄生を確認したため、2 月 3 日のチリカブリ放飼予定を 1 週 間早めて 1 月 27 日の放飼となった。2 月 3 日調査では再び寄生小葉率が上昇に転じたため、3 月 3 日チリカブリダニ放飼予定を 1 週間早めて 2 月24日に放飼した。2 月 23 日調査で減少していた寄 生小葉率も 3 月 3 日調査より上昇に転じているがダニ剤の散布が必要なレベルまでは達していないた め、経過を観察した。 天敵類の状況については、11 月 26 日の調査でミヤコカブリダニが確認され、12 月 25 日にはチリ カブリダニも確認されている。他の処理区と比べるとハダニ類の発生も多いが天敵類も頻繁に確認で きた。これは、他の区と比べるとハダニ類の発生が多かったためと考えられる。 (3)試験区2(ミヤコカブリダニ1発区)の状況 ミヤコカブリダニ放飼前の 10 月 8 日および 27 日の調査でハダニ類は確認されていた(図2) 。 10 月 29 日のマイトコーネ散布以降ハダニ類は確認されていなかったが、11 月 26 日から寄生を確 認した。寄生小葉率は防除を必要とするレベルとは言えず経過を見守ったが、2 月 12 日調査で寄生小 葉率は 6.3%であったが、寄生頭数が1小葉当り 0.4 頭と上昇しため 2 月 17 日にダニサラバフロアブ ルでの防除が必要となった(図5、6) 。その後、寄生小葉率および寄生頭数も減少し、防除を必要と しないレベルに抑えられている。 ミヤコカブリダニは 2 月 12 日調査から寄生が確認され始めたため、定着を確認できた。 4 月 30 日調査で、放飼していないチリカブリダニの寄生が確認されたが、これは管理作業等により 人間が運んだものと思われる。 (4)慣行区の状況 ミヤコカブリダニ放飼前の 10 月 27 日調査でハダニ類は確認されていた(図5) 。 10 月 29 日のマイトコーネ散布以降ハダニ類は確認されていなかったが、11 月 26 日から寄生を確 認した。寄生小葉率は防除を必要とするレベルとは言えず経過を見守ったが、1月 6 日調査で寄生小 葉率 4.2%、 寄生頭数が1小葉当り 0.3 頭となったためダニサラバフロアブルの防除が必要となった。 その後、ハダニ類の寄生は確認されているが防除の必要とするレベルではなく、天敵の放飼スケジ ュールも予定通り実施することができた。 ミヤコカブリダニは 12 月 4 日調査で、チリカブリダニは 2 月 12 日調査ではじめて確認できた。 (5)天敵利用による防除効果の検証 試験区1は 11 月 13 日ミヤコカブリダニ放飼直前にハダニ類の寄生(寄生小葉率 1.4%)があった ため「0放飼」ができず、ハダニ類の寄生が増える中 12 月 16 日チリカブリダニの追加放飼を行なっ - 135 - た。その後、1 月 6 日にはハダニ剤の散布が必要なり、天敵の防止スケジュールが前倒しとなってし まった。しかし、慣行区もハダニ剤の散布は必要となり、散布後は慣行区と同程度の防除効果が確認 できた。12 月チリカブリダニ追加放飼前にハダニ剤の散布を行なっていればその効果をより高めるこ とができ、最後のチリカブリダニ放飼を省力できた可能性があったが本試験ではできなかった。 試験区2は慣行区が 1 月 6 日にハダニ剤を散布しなければならなかったのに対し、2 月 17 日の散 布となり増殖のスピードを抑えることができ効果が確認された。 今回ハダニ類の発生状況において、ダニサラバ(1/6 試験区1及び慣行区、2/7 試験区2)およびマ イトコーネ(5/6 全区)に処理したが、マイトコーネについては収穫を 6 月まで続けるので散布した。 しかし、通常の 5 月で収穫を終えるものについては、散布の必要性はない。 天敵を利用する場合は、ダニ類の発生状況に応じて薬剤を使用しなければならないが、天敵に影響 の少ない薬剤を利用することでその効果を発揮することができる。 試験区2 20 19 18 17 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 20 19 18 17 慣行区 16 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 15 14 13 12 1 10/27 2 10/8,27 16 15 14 13 11 10 9 試験区1 8 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 12 11 10 9 7 6 5 1 10/27 1 10/27 1 10/27 8 7 4 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 6 5 3 2 1 24 23 22 21 20 19 18 17 16 15 14 13 12 11 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 3 11/13 2 11/13 1 10/17 4 3 2 1 図1 天敵放飼前までの圃場におけるハダニ類の発生状況 注)枠内の左の数字はダニ類の寄生頭数、数字は寄生を確認した調査日 40% 試験区1(12月チリ追加区) 寄 生 35% 小 葉 率 30% チ リ 放 飼 チ リ 放 ダ 飼 ニ サ2/24 ラ バ チ リ 放 飼 ︶ 25% ァー ネ ミ ヤ コ 放 飼 11/13 12/26 1/27 ダ ニ サ ラ 1/6 バ チ リ 放 飼 2/17 試験区2 慣行区 チ リ 放 飼 マ イ ト コ ー マ イ ト コ ー コ ア コ テ フ ロ 20% ツ マ イ 15% 9/28 ム ト 10% 慣行区 試験区1 ︵ % 試験区2(ミヤコ1発区) 3/3 2/3 ネ 5/6 10/6 10/16 10/29 5% 0% 9/30 10/8 17 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 27 2/3 12 図2 ハダニ類の寄生小葉率 - 136 - 23 3/3 17 26 4/7 15 30 5/7 18 28 6/4 ミヤコカブリダニ チリカブリダニ ハダニ類 ミヤコカブリダニ 12/26 1/27 2/24 マ イ ト コ 1.6 頭 / 1 1.4 小 葉 1.2 当 り 1.0 ネ 11/13 ︶ 5/6 10/6 コ ア コ テ フロ ツ マ イ ム ト 10/16 9/28 0.8 マ イ ト コ ネ 10/29 チ リ 放 飼 チ リ 放 飼 チ リ 放 飼 12/26 1/27 2/24 ミ ヤ コ 放 飼 マ イ ト コ ー チ リ 放 飼 ー ︶ ネ 10/29 チ リ 放 飼 ァー ー ︵ 10% 9/28 チ リ 放 飼 ミ ヤ コ 放 飼 ハダニ類 ︵ ァー マ イ ト コ ー 寄 生 コ ア コ 小 テ フロ 葉 ツ マ 15% 率 イ ム ト % 10/16 チリカブリダニ 寄 2.0 生 頭 1.8 数 20% ネ 11/13 5/6 10/6 0.6 5% 0.4 0.2 0% 9/30 10/8 17 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 27 2/3 12 23 3/3 17 26 4/7 15 30 5/7 18 0.0 28 6/4 9/30 10/8 17 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 1.0 チリカブリダニ 3/3 17 ミヤコカブリダニ 26 4/7 15 30 5/7 18 28 6/4 チリカブリダニ ハダニ類 2/17 ネ 0.7 ( 11/13 10/16 マ イ ト コ 頭 / 0.6 1 小 0.5 葉 当 り 0.4 5/6 10/29 ︶ 10/6 コ ア コ テ フロ ツ マ イ ム ト マ イ ト コ ミ ヤ コ 放 飼 ダ ニ サ ラ バ ネ ネ 2/17 11/13 10/16 9/28 マ イ ト コ ー 9/28 ダ ニ サ ラ バ ー ミ ヤ コ 放 飼 寄 生 0.8 頭 数 ァー マ イ ト コ ネ 10% 23 ハダニ類 ー コ ア コ テ フロ ツ マ イ ム ト ー ︶ % 12 0.9 ァー ︵ 20% 寄 生 葉 小 率 15% 2/3 図4 試験区1(12月チリ追加区)の1小葉当り寄生虫数 図3 試験区1(12月チリ追加区)の寄生小葉率 ミヤコカブリダニ 27 5/6 10/6 0.3 5% 0.2 0.1 0% 9/30 10/8 17 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 27 2/3 12 23 3/3 17 26 4/7 15 30 5/7 18 0.0 28 6/4 9/30 10/8 17 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 27 2/3 12 23 3/3 17 26 4/7 15 30 5/7 18 28 6/4 図6 試験区2(ミヤコ一発区)の1小葉当り寄生頭数 図5 試験区2(ミヤコ一発区)の寄生小葉率 ミヤコカブリダニ ミヤコカブリダニ チリカブリダニ ハダニ類 ( チ リ 放 飼 11/13 1/6 2/3 3/3 頭 0.8 / 1 0.7 小 葉 0.6 当 り 0.5 マ イ ト コ ネ 5/6 0.4 10/29 10/6 ハダニ類 コ ア コ テ フロ ツ マ イ 9/28 ム ト 10/16 10/6 マ イ ト コ ネ ミ ヤ コ 放 飼 ダ ニ サ ラ バ チ リ 放 飼 チ リ 放 飼 マ イ ト コ 11/13 1/6 2/3 3/3 ネ ー ネ チ リ 放 飼 ︶ 10/16 ダ ニ サ ラ バ ー ー 10% ミ ヤ コ 放 飼 ー マ イ ト コ ァー ︶ コ ア コ テ フロ ツ マ イ 9/28 ム ト チリカブリダニ 寄 生 1.0 葉 率 0.9 ァー ︵ 寄 生 20% 小 葉 率 15% % 5/6 10/29 0.3 5% 0.2 0.1 0.0 0% 9/30 10/8 17 9/30 10/8 17 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 27 2/3 12 23 3/3 17 26 4/7 15 30 5/7 18 27 11/4 13 26 12/4 16 25 1/6 16 27 2/3 12 23 3/3 17 28 6/4 図7 慣行区の寄生小葉率 図8 慣行区の寄生頭数 表1 10a当りの天敵コスト 薬剤名 ミヤコカブリダニ (スパイカルEX) チリカブリダニ (スパイデックス) 合 計 試験区1 試験区2 慣行区 放飼量 価格 放飼量 価格 放飼量 価格 4000頭 10000頭 4000頭 13,200 33,000 13,200 /10a /10a /10a 10000頭 8000頭 27,500 − − 22,000 /10a /10a 14000頭 10000頭 12000頭 40,700 33,000 35,200 /10a /10a /10a - 137 - 26 4/7 15 30 5/7 18 28 6/4
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