第 6 章 自律神経系− 交感神経・副交感神経

第6章
自律神経系− 交感神経・副交感神経
運動系:自律神経機能(内臓器官の運動)、反射、移動運動(歩行、遊泳、飛翔)、操作(環境とのかかわり
で、目的を持った諸機能)、コミュニケーションと会話、書字、創作活動
Ⅰ.自律神経系:内臓諸器官の運動(不随意運動)を支配、生命維持機能を調節
1.
自律神経系の構築
図 10.3(神経節の位置に注意)
節前ニューロン(神経節への入力線維)
節後ニューロン(神経節から出て内臓の機能を直接支配する線維)
自律神経節(ニューロンや神経線維の結節)→シナプスを形成
a)交感神経系
①節前ニューロンの細胞体は脊髄胸腰部の各節の中間外側角にあり、短い節前線維を神経節に延ばす
②神経節は頚部、脊柱に沿った交感神経幹と椎前神経節(腹腔神経節、上・下腸間膜)にある
③節後ニューロンは神経節から長い節後線維を支配臓器に出し、内臓諸機能を支配
b)副交感神経系
①節前ニューロンの細胞体は、脳幹(III 動眼、VII 顔面、IX 舌咽、X迷走神経核)または脊髄仙骨部に
あり、長い節前線維を神経節に延ばす
②神経節は支配される器官の中にある、
③節後ニューロンは神経節から短い節後線維(数 mm)を出し、内臓を支配
2.
自律神経系の機能(表 10.2)

交感神経系:瞳孔の散大、心拍数の増加、皮膚・内臓血管の収縮、肝臓や筋肉のグリコーゲンからの
ブドウ糖遊離、消化管運動および分泌の抑制、括約筋の収縮、気管支の拡張、立毛、脾臓の収縮
「呼吸の促進、心・循環系を活性化、身体活動を亢進し、闘争(fight)や逃走(flight)に備えてエネル
ギーの消費を高める(異化作用)」

副交感神経系:瞳孔縮小、気管支収縮、心拍数減少、消化管の分泌や運動の増大、括約筋の弛緩
「身体活動を沈静化し、食事摂取後のエネルギー蓄積や、安静時や睡眠時にエネルギーを保存する(同化
作用)」
「ほぼ全ての臓器は交感神経と副交感神経の→相反性2重支配を受ける」
交感神経支配のみ:瞳孔散大筋、副腎髄質、大部分の血管、汗腺、射精
副交感神経支配のみ:瞳孔括約筋、毛様体筋、勃起
唾液分泌:交感神経支配(粘稠液性分泌)・副交感神経(漿液性分泌)
3.
自律神経系の伝達物質・受容体
節前線維
神経節
交感神経
ACh
ニコチン性 ACh 受容体
副交感神経
ACh
節後線維
NAd (ACh *)
ニコチン性 ACh 受容体
ACh
コリン作動性交感神経− 汗腺、骨格筋血管
支配臓器
アドレナリン性α・β受容体
(mACh 受容体*)
ムスカリン性 ACh 受容体
*
4.
自律神経系の高次中枢
a)節前ニューロンの起始核
交感神経:胸髄第 1 節から腰髄第 3 節の中間質外側核(側角)
副交感神経:仙髄第 2 4 節の中間質外側核(側角)、脳幹の中脳− エディンガー-ウエストファール
核Ⅲ、橋− 上唾液核Ⅶ、延髄− 下唾液核Ⅸ、迷走神経背側核Ⅹ、疑核Ⅹ
b)脊髄:脊髄反射中枢
①交感神経性:血管運動中枢、発汗中枢、立毛中枢、心臓促進中枢、射精中枢
②副交感神経性:脊髄膀胱中枢、脊髄肛門中枢、勃起中枢
c)脳幹:生命中枢
①呼吸の調節:呼吸中枢、くしゃみ中枢、咳中枢
②摂食・消化の調節:唾液分泌中枢、嚥下中枢、嘔吐中枢
③循環の調節:血管運動中枢(昇圧中枢・降圧中枢)、心臓抑制中枢
④瞳孔の調節:縮瞳中枢(対光反射)
d)視床下部:情動中枢、体温中枢、血糖調節中枢(摂食中枢・満腹中枢)、飲水中枢、性欲中枢、概日
リズム中枢、ホルモン分泌中枢(神経調節系と体液調節系の統合)
例)怒り− 交感神経興奮、血圧・心拍上昇、呼吸促進、アドレナリン分泌、消化管運動抑制
例)摂食行動− 副交感神経興奮、消化管運動亢進、胃液・インスリン分泌
e)大脳辺縁系(扁桃核):情動中枢
恐怖、嫌悪、不快− ストレス反応、副腎皮質から糖質コルチコイド(cortisol)分泌、血圧・心拍上
昇、消化管運動抑制(食欲減退)
快感・多幸感− ???
5.
感覚入力系としての自律神経系:内臓求心性神経系
内臓壁内・実質内、漿膜、血管などに分布;交感神経・副交感神経と平行に走行
内臓壁や血管壁の伸展・収縮、体液性 pH、PO2,PCO2 などの情報を中枢へ伝達
肺− ヘリング-ブロイヤー反射
頸動脈洞(舌咽)・大動脈弓(迷走)− 動脈圧
頸動脈小体(舌咽)・大動脈体(迷走)− PO2,(PCO2,pH)
延髄・中枢化学受容野− PCO2
内蔵痛覚(病的状態に起因する痛み):内臓神経などの交感神経系→脊髄後角→脳
内臓感覚(空腹、満腹、尿意、便意):迷走神経、骨盤神経などの副交感神経系→延髄→脳
Ⅱ
ストレス刺激と生体反応
強いストレス刺激に対して適切なストレス反応が不能− ストレス反応が生体に害を与える→疾病
(ヒト− 不眠・うつ・心身症・神経症・自殺・暴力行為:動物− すくみ freezing・逃走 flee・攻撃 fight)
a. 疾患と身体因子・精神因子 図 8.1

身体疾患− 感染症

心身症− ストレス刺激が辺縁系・視床下部を介して自律神経系や内分泌系に影響,臓器に基
質的・機能的異常
① 循環器系(本態性高血圧症・狭心症・発作性頻脈・不整脈),呼吸器系(気管支喘息・過
換気症候群),消化器系(胃十二指腸潰瘍・過敏性腸症候群),内分泌・代謝系(バセド
ウ病・神経性食欲不振症・肥満),神経系(偏頭痛・自律神経失調症),骨・筋肉系(関
節リウマチ・筋痙攣),皮膚系(慢性蕁麻疹・円形脱毛症・神経皮膚炎),泌尿器系(神
経性頻尿・過敏性膀胱),歯(突発性舌痛症・義歯不適合症)

器官神経症(自律神経失調症)− 臓器に基質的・機能的障害がないのに,不定愁訴を呈す
① めまい、冷や汗が出る、体の一部が震える、緊張するようなところではないのに脈が速
くなる、血圧が激しく上下する、立ち眩みする、耳鳴りがする、吐き気、頭痛、微熱、
過呼吸、生理不順、人間不信、情緒不安定、不安感やイライラ、抑うつ気分

神経症− 心理的葛藤で起こる疾患で,臓器の基質的変化を来さない.不安・緊張・焦燥・抑
うつ・易疲労性・睡眠障害・自律神経症状が主症状
① 不安神経症・解離性障害・恐怖神経鞘・強迫神経症・抑うつ神経症・離人神経症 etc

精神疾患− 統合失調症
b.疾患と中枢神経系の関与 図 8.2
2
Ⅲ.心臓の自律神経支配
1.
脊椎動物の心臓:図 3.3



基本的には神経支配がなくても収縮し続ける「脳死状態の人の心臓も拍動している」
実際には、交感神経と副交感神経の支配を受ける(生体の運動活性に応じた心機能を保証)
移植された心臓は、生体の運動活性や精神状態の変化に応じた心機能の対応ができない(と言われて
きたが)
固有心筋:心房筋と心室筋。血液の拍出
特殊心筋:興奮(活動電位)の自動的発生と伝播
2.
心臓の周期的活動:心刺激伝導系
図 3.4
洞房結節(SA)(「ペースメーカー」)に生じる電気的インパルス→房室結節(AV)(「第2のペースメーカ
ー」)→ヒス束およびプルキンエ線維→心筋線維に伝わる
3.
心臓の自律神経支配



図 18.14
孤束核:圧受容器、化学受容器からの興奮を受け、血管運動中枢と心臓抑制中枢へ
心臓抑制中枢(迷走神経背側核・疑核):心臓の副交感支配
血管運動中枢(心臓血管中枢):心臓・血管の交感支配
 昇圧中枢:脊髄の交感神経核へ促進性インパルスを送る
 降圧中枢:
々
へ抑制性インパルスを送る
心筋 Ca チャネルに対する神経伝達物質の作用 図 18.13

交感神経伝達物質(NAd、Adr):洞房結節β1 受容体→Gs タンパク質→ACase を活性化→cAMP 増加
→cAMP→PKA 活性化→T 型 Ca チャネルリン酸化→Ca チャネル開口亢進→緩徐脱分極促進☞心拍増加
心室筋β1 受容体→Gs タンパク質→ACase を活性化→cAMP 増加→cAMP→PKA 活性化→L 型 Ca チャネ
ルリン酸化→L 型 Ca チャネル開口亢進→Ca2+流入促進☞心収縮力増大

副交感神経伝達物質(Ach)
:洞房結節 M2 受容体→Gk タンパク質→ACh 感受性 K+チャネル開口→4 相
の過分極と緩徐脱分極抑制→心拍数減少
心室筋 M2 受容体→Gi タンパク質→ACase 阻害→交感神経作用(cAMP 増加→cAMP→PKA 活性化→L 型
Ca チャネルリン酸化→L 型 Ca チャネル開口亢進→Ca2+流入促進)抑制☞心収縮力減少
アデノシン P1 受容体のサブタイプ A1 受容体は、Gi/o タンパク質を介して cAMP を減少させ、心拍数を
減少する。テオフィリンやカフェインは A1 受容体のアンタゴニストとして ACase 阻害を抑制することに
より cAMP を増加させ、結果として心拍数増加と心収縮力増大をきたす
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