助成事業 競艇の交付金による日本財団の 助成金をうけて作成しました。 昭和36年4月3日第3種郵便物認可 平成16年11月25日 (年4回25日) 発行 ISSN 0912-7437 日本海難防止協会情報誌 【特集】 2004 冬 NO.523 津波がくる! その時あなたは 目次 2004 冬 No.523 【特集】津波がくる! その時あなたは 体験者に聞く津波の恐怖と避難への備え/ 奥尻=水野哲雄、安藤 寛、木村孝義 笆 広尾=杉崎民治、久保田芳信、玉川晃一 パプアニューギニア大津波災害からの教訓と防災/ 笄 まちづくり計画研究所・渡辺 実 「津波が予想される場合の船舶安全確保に関する 調査研究委員会」での検討概要/海上保安大学校・高橋 勝 海上保安庁の津波への対応/海上保安庁・平湯輝久、菊本 豊 東海・東南海・南海で発生する津波と被害の予測 および津波が船舶に与える影響/神戸大学・久保雅義 「津波・高潮ハザードマップマニュアル」と 箒 その普及への取り組み/国土交通省・角湯克典 津波とは?<津波から命を守るために>/ 篋 気象庁・坂東恭子、上野 寛 津波防災情報図の活用を/海上保安庁・渡辺一樹 GPS津波計開発への取り組み/日立造船・寺田幸博 箴 簑 特集以外の記事 簀 津波に関する資料 海の気象 冬季、北西太平洋で 簇 発達する低気圧に注意を/気象庁・杵渕健一 篳 海保だより/海上保安庁交通部 簗 海守便り 会員が思う台風海難対策/海守事務局 日本海難防止協会のうごき 簍 簍 船舶海難の発生状況/海上保安庁交通部企画課 主な海難/海上保安庁警備救難部救難課 編集レーダー 篶 篶 筅 筮 箍 津波について考える 2 0 0 4年1 0月23日に震度7の新潟県中越地震が発生した。1, 000戸をはるかに超える家屋が 全半壊したほか、陥没や土砂崩れによって道路や川が寸断されるなど、大きな被害を受けた。 地震発生から1 0日が経過した時点での被災状況は、死者3 6人・負傷者2, 432人に及び、なお、 余震が続いている。津波対策をテーマとした今号の取材を終え、その編集校正段階での発生 だった。津波の発生はなかったものの、改めて地震の恐ろしさをまざまざと見せつけられた。 東海・東南海・南海で、地震や津波による大災害が近い将来、発生するといわれている。 8月下旬に政府の地震調査委員会は、相模湾から房総半島にかけての相模トラフで今後30年 以内に関東大震災型(マグニチュード8級)の地震発生は切迫していないとする一方で、ひ とまわり小さい地震が南関東で発生する確率は70%程度とする評価を発表し、対策の必要性 を訴えた。 「防災の日(9月1日) 」には、全国で約1 00万人(内閣府調べ)がさまざまな訓 練に参加し、国民の関心の深さを示した。そんななかでの新潟県中越地震であった。 いまや、国際語となっている津波は、それに関する資料も多く、さまざまな対策が研究さ れている。しかし、一方で船舶そのものに対する影響などの調査研究は意外に少ない。今号 では、海上保安庁が日本海難防止協会に委託し、調査研究委員会を設置して「津波が予想さ れる場合の船舶の安全確保」での調査や検討結果などの紹介を中心に、津波体験者の思いや 教訓、関係機関の津波に関するさまざまな広報活動、企業の津波をキャッチしようとする取 り組みなどについて探ってみた。 体験者に聞く津波の恐怖と避難への備え ! 1 9 9 3年:北海道南西沖地震と大津波によって 住民4, 00 0人ほどの“北の沖縄”と呼ば 西海岸の藻内地区などでは、考えられない れる奥尻島。豊かな海の幸と自然林に恵ま 高さの津波で集落が一瞬のうちに壊滅状態 れ、その自然と海の幸を満喫しようと、夏 となり、人的被害の多くはこの津波による ともなれば全国から多くの観光客が訪れる。 ものだったという。 9月下旬、筆者が空路で訪ねた時、島は秋 また、青苗地区では地震・津波の直後に 晴れのなかで愛称ぴったりの紺碧の海に囲 火災が発生。見る見るうちに広範囲に延焼 まれていた。 し、翌13日朝に鎮火するまで集落を焼き続 奥尻島を地震が襲ったのは、1 9 93年7月 けて被害に拍車をかけた。災害における奥 1 2日の22時1 7分。震源は、奥尻の北方沖約 尻島の人的被害は死者1 72人、行方不明26 5 0km で、深さ3 4km マグニチュード7. 8と 人、重軽傷者1 43人に及び、被害総額は約 いう、日本海側の地震として観測史上最大 664億円にも達した。 のもの。当時、奥尻島には地震計がなかっ たために正確な記録はないが、震度6(烈 震)以上と推測され、地震によって島全体 が7 0∼8 0cm 沈んだといわれている。 大津波から奇跡の生還 「津波に飲み込まれたときは、終わりか と観念しかけたよ」と当時の状況を話すの 田畑や道路は地割れや陥没が生じ建物が は、稲穂地区の北端に住み、民宿「いなほ」 倒壊するなど、各地区で大きな被害がでた。 を経営しながらウニやアワビ漁に従事して 奥尻地区では崖地崩落の土砂がホテルや灯 いる水野哲雄さん(71歳) 。家族は、母親 油備蓄タンクを押し潰し、島外からの宿泊 と本人と奥さんのほか、息子さん家族5人 客2 9人が犠牲となり、灯油が流出する大惨 の計8人という大所帯だ。 みずの てつお 事になった。 当時のその日の夜は風もなく、海も穏や 札幌管区気象台は、2 2時2 2分に北海道の 日本海沿岸に大津波警報を発表し、住民に 避難を呼びかけた。震源に近いこともあっ て、奥尻島には地震発生から3∼5分後に 津波の第1波が襲ったとみられており、到 達した津波の最大の高さは、藻内地区で2 9 m にも達している。 北端部の稲穂地区、南端部の青苗地区、 2 海と安全 2 0 0 4・冬号 津波に飲み込まれた状況を話す水野さん。 かに凪いでおり、息子さんは、イカ釣り漁 船で漁に出ていた。 水野さん夫婦は、海側に建つ民宿での仕 事を片づけ、道路を挟んで向かい(山側) の自宅に2 2時頃に戻った。家族はすでに就 寝していた。一服した後、水野さんは「明 日も早い。もう寝るべ」と奥さんに声をか け、茶の間から寝室に向かおうとした時に、 地震がきた。 戦争跡地のようになった当時の稲穂地区。 <奥尻町誌「蘇る夢の島!」 (写真:朝日新聞社提供)から> それは、「ドン・ドン・ド∼ン」と島の 足はその後、必然的に近くの舟揚場へと向 地底から3回ほど突き上げるような大きな かっていた。着くと、揚場の舟が「プカプ 地響きに続いて、 「グラ・グラ」揺れる強 カ」と盛り上がった海面に浮いていた。津 烈なものだったという。最初のうちは「島 波は直ぐそこまできていたのだ。 が爆発した」と思った水野さんだが、激し 状況に気づき、 「危険だ!」と逃げ出し い揺れに変わってから地震だと気づいた。 たがすでに遅く、 “山のような津波”が一 飾り棚や茶箪笥の上の置物や写真立てな 気に背後から彼を飲み込んだ。彼の身体は どが踊るように床に落ちてくる。すかさず、 波とともに海底に痛いほど叩きつけられ、 奥さんに「普通の地震じゃねえ。みんなを しこたま海水を飲んだが、泳ぎができたの 起こして山の方に逃げろと言え」と叫ぶと、 で、もがきながらもやがて海面に浮かんだ。 ギシギシと軋む窓を無理やりこじ開け、そ こから外に飛び出した。 ○海鳴りのなか船揚場へ 激しい揺れと同時に、電気もストップし た。暗闇に飛び出すと、地面の揺れが尋常 でないことを訴えていた。静かな夜の空気 「いずれ波が引きだせば、それで一巻の 終わりだ。少しでも山側に近づき、自分の 身を固定できれば助かるかも」ととっさに 判断した水野さんは、山に向かって必死に 泳ぎだした。 ○浮き沈む女性は妻だった のなかで、 これまで聞いたこともない 「ゴ・ 20mも泳いだだろうか。暗闇のなか数m ゴー」という異様な海鳴りが響いていた。 先に、ぼんやりと浮かんでは沈む女性の頭 揺れの続くなかを民宿に戻った水野さん が見えた。泳いでいくと、水を掻く右手が は、 「地震だ。早く起きて逃げれ!」と叫 再び浮かんできたその女性の右肩に偶然か び、寝ていた宿泊者の大学生ら3人を踏み かった。じっと見つめると、女性は妻だっ つけるようにして叩き起こした。 た。家族が車で避難した後、夫と一緒に避 この時、水野さんの頭には「明日から始 難しようと道路際で心配しながら様子を見 まるアワビ漁のために準備を終えている舟 ていて津波に飲み込まれてしまったのだ。 をなんとかしなければ」との思いがよぎり、 「大丈夫か?」と水野さんが声をかける 海と安全 2 0 0 4・冬号 3 と、 「お父さん!」 と弱々しい声。 「頑張れ!」 は、夫婦のほか舟揚場にいた親類2人と、 と励まし、腰のバンドをしっかりと握らせ 水野さん家族の車に乗りながら自宅に戻っ た。引き波は、すでに始まろうとしていた。 た弟の奥さんなど5人が津波に飲み込まれ 「一刻の猶予もならない。何とかしなけ たが、全員無事だったのは奇跡としか言い れば」と思った時、ススキやヨモギの茎先 ようがなかった。 が身体にあたった。 「そうだ!」と心を決 水野さんは「地震や津波はいつ襲ってく めた水野さんは、潜ると両手いっぱいに周 るかわからない。家族の逃げ道を普段から 辺の茎を掴んだが、それと同時に、海方向 考えておくことが必要。また、懐中電灯や への引き波の強い力が夫婦を襲ってきた。 ロウソク、食料・水といった緊急時に必要 握った茎の束の根元が、引っ張られる力 なものをまとめておくことも必要でしょう。 と重みで徐々に土面からめくれ剥がれてい 私のように、間違っても津波がくるのに海 くのが感覚で分かった。それでも水野さん に向かうなどということは、決して行って は「ここで死んでたまるか!」と、必死に はいけません」と事前の備えの必要さを訴 茎の束を握り続けた。 え、当時の行動を深く反省した。 間もなく、夫婦から第一波の引き波が去 った。眼を上げると、半分以上も根元を剥 素早い対応で危機かわす がされた根塊2つが前に並んであった。水 身体の弱った祖父とともに親戚2人と青 野さん夫婦は手を取り合って、すぐに灯台 苗地区の南端に住み、町役場に勤める安藤 あんどう ゆたか の立つ高台へと走り出した。高台では、す 寛さん(35歳)は、就寝しようとしたとこ でに避難していた家族が、涙とともに夫婦 ろを激しい横揺れに襲われ、飛び起きた。 の到着を迎えた。 同居者は、イカ釣り漁船で出漁していた。 この時初めて、水野さんは自分が裸足だ すでに、一帯は停電となっており、テレビ ったことに気がつく。あちこちに切り傷や で地震や津波の情報を見聞きすることもで 擦り傷を負い、身体は真っ赤になっていた きず、暗闇のなかで物を探すゆとりもなか が不思議と痛みは感じなかった。 った。 ○親類5人全員が助かる 安藤さんも日本海中部地震の際の津波を 経験しており、津波がくれば「わが家は真 津波は、その後も執拗に襲ってきたが、 その強さは次第に弱まり、ついには何事も なかったかのような海に戻った。 しばらくたってようやく夜が明け、高台 から見た地区の状況は、わが家も含め戦争 の跡地のように痛々しいものとなっていた。 稲穂地区では、死者・行方不明者含め1 6 人の犠牲者を出した。水野さんのところで 4 海と安全 2 0 0 4・冬号 祖父を肩に、家から運び出した安藤さん。 っ先に被害を受ける」と分かっていたが、 の後数度と押し寄せる津波のなかで、点灯 その恐ろしい津波よりも「とにかく、祖父 したまま横倒しとなり使用できなくなった を一刻も早く高台へ」との思いが、彼の気 車のライトや発生した火災の炎に崩れ落ち 持ちをいっぱいにしていた。 た屋根や流された廃材などがほのかに照ら 着替えもそこそこに、彼は祖父を肩に担 いで玄関から飛び出し、傍に止めてあった 自分の車に乗せ、エンジンをかけた。 し出され、 「地区の状況が一変してしまっ た」ことは、誰の眼にも推測できたという。 「生存者がいるぞ!」と下のほうで声が 「揺れは続いていたし、気味悪い海鳴り した。集まっていた者たちは、一斉にその が聞こえていた」が、それも彼の頭の中に 方向に走り出した。そして、協力し合って はなかった。アクセルを思いっきり踏み込 残った海水にずぶぬれになりながら助けを み、高台にある親類の家をめざして車を走 求めていた被災者1人を救助し、 「さらに らせた。まだ道路は混雑していなかった。 生存者がいるのでは?」と暗闇の周辺に眼 ○車で逃げるしか手段なかった を凝らしたが、人の気配はなかった。 この後、安藤さんは「連絡がとれる電話 安藤さんは言う。 「避難時の車の使用は があるのでは」と空港事務所に移動し朝ま 道路を混雑させ、避難を遅らせることにな で詰め、朝になってから青苗支所に戻った ることは知っていました。また、高台への のだが、そこで想像を超えて廃墟と化した 道は片側1車線で、私たちより5分ほど遅 青苗地区の変わりように呆然となった。当 れた車の何台かは津波に飲み込まれたと聞 然、わが家は跡形もなく消えていた。 いています。けれど、満足な運動もおぼつ かない祖父を背負って避難することは困難 で、車を使って避難することしか思いつき ませんでしたし、揺れの収まるのを待たず に行動したことが、結果として生死を分け ることになったと思っています」と当時の 状況を振り返る。 親類の家に到着した時は、揺れは収まっ ていた。多少の片づけを手伝い、祖父を預 津波の直後に火災が発生し延焼した当時の青苗地区。 <奥尻町誌「蘇る夢の島!」 (写真:朝日新聞社提供)から> けた後に、近くにある町役場の青苗支所に この日を境に、安藤さんは高台の親類の かけつけたが、その間に青苗地区を津波の 家に世話になりながら、青苗支所に設置さ 第1波が襲っていた。 れた復興対策本部で「被災者へのよろず相 ○暗闇のなか生存者を救助 青苗支所は、地区の町並みが望める場所。 真夜中過ぎの暗さと停電ではあったが、そ 談、何でも屋」として、被災者が仮設住宅 に入居するまで、役場職員としての職務に 忙殺されていった。彼が青苗地区での犠牲 者が107人にも及ぶのを知ったのは、数日 海と安全 2 0 0 4・冬号 5 が経過した後であった。 なかには、被災者が受け取るのを躊躇す 安藤さんは、心構えとして「地震が発生 るような衣類や「どうしてこれが被災者に したら、海に近づかないこと。まずは安全 必要なの」と首をかしげる不用品も混在し な場所に避難することを第1に考えてほし ていた。一方、ありがたかったのは女性の い。そのためには、地震や津波は恐ろしい 生理用品だったという。 ものだと認識し、その時には素早く行動す ることが必要です」と強調した。 支援で求められるものは 取材に同行してくれた町役場の総務課に 2点目は、ボランティアの受け入れ問題。 被災者収容がやっとのなかで、ボランティ アの多くは自分の宿営装備を持参していな い。なかには、ホテルの予約を依頼してく る者もいる。 き む ら たかよし 勤める木村孝義主幹(4 4歳)は、当時の災 ボランティアは、被災者に感謝される存 害後に立ち上げた復興対策室で「まちづく 在だが、事前に現地状況を把握し、どう現 り計画」に携わった1人だ。 地で貢献するかを考えることも必要だ。ま 「災害後に寄せられた救援物資や義援金、 た、被災状況に応じて復興対策本部の要請 そして被災者支援に駆けつけてくれたボラ に応じて機能的にボランティアを行動させ ンティアの皆さんの活動には、感謝の気持 るリーダー的存在も必要だ。 ちでいっぱいです」 と話す彼に、あえて 「今 後のための課題」について聞いた。 奥尻町では、救援にきたボランティアの 寝泊りするスペースを、同施設内の被災者 用のスペースを割いて設けた。 被災から復興に向けて 災害後、島に駐屯している航空自衛隊の 給水車がフル稼働したほか、島外からも自 衛隊員や潜水などの専門的な救助技術を持 つ海上保安庁の特殊救難隊員など多数が入 「町は計画から2年近くも早く復興した」と話す木村さん。 島し、陸海両面で救助捜索活動に入った。 1点目は救援物資。その多くは衣類だっ また、奥尻島での災害状況がマスコミによ たが、半端な量ではなかった。災害発生後 って全国に報道された直後から、さまざま 3日目ほどから被災者に配られだしたが、 な救助機関、民間の企業や団体、そして多 ボランティアが総出で被災者の寸法に合わ くのボランティアが次々と島に救援に駆け せ1人5∼6着用意しても、なお多くが余 つけ、住民へのサポートを懸命に続けた。 剰となった。島内には、これらの保管場所 全国から多額の義援金と膨大な量の救援 はなく、やむなく奥尻町では、北海道側の 物資が寄せられ、国もまた、いくつもの補 近隣町村にお願いし、保管を引き受けても 助事業を進めることにした。こうして、壊 らわねばならなかった。 滅的被害を受けた奥尻町は、 「災害に強い 6 海と安全 2 0 0 4・冬号 豊かさを実感できる、新しいまちづくり」 洋緑地公園となった。奥尻地区の崩壊崖地 をめざして立ち上がったのである。 は、大壁画を設置して整備された。小学校 全国から寄せられた多額の義援金によっ も一階を空間構造にしたり、土台を盛土で て「災害復興基金」を設立し、被災者の自 高くする工夫が施された。被災漁船は FRP 立復興を援助した。水産庁の補助事業「漁 (強化プラスチック製)船となった。そし 業集落環境整備事業」が青苗や稲穂地区で、 て、災害情報をいち早く伝えるための防災 また奥尻町の単独事業「まちづくり集落整 行政無線施設が改修された。 備事業」が初松前地区で進められた。 いずれも、津波の高さに対応できる防潮 堤の設置や堤の背後に盛土しての宅地整備、 津波によって打ち揚げられたウニなどの 海の資源は、しばらく姿を消したが約5年 を経た後に、やがて回復した。 海岸線や集落内道路の改良、生活廃水処理 施設の設置、避難場所や防災安全施設の設 置といった防災・安全面に配慮した「まち づくり計画」に基づくものであった。 また、国土庁の補助事業「防災集団移転 事業」が青苗の岬地区で進められ、その場 所は公園に整備 (非住宅地区) 、近くの高台 地区に宅地を造成し住民を集団移転させた。 この取り組みの結果、被害を受けた地区 は新しい町並みに生まれ変わった。 「被害 復興基金」からの助成が、被災者の住宅建 島民の居住地区には防潮堤が整備された。 津波館建て津波の怖さ後世に 設にも力を発揮した。防災対策としての防 奥尻町では、地震と大津波の災害による 潮堤も整備され、北海道で初めての津波水 鎮魂への祈りと、悲しいことが再び起きな 門も島内3カ所の川に設置された。また、 いことを願って津波館を建設し、その恐ろ 緊急時の避難路も整備された。 しさや災害からの教訓を後世に伝えている。 津波で完全流出した青苗の岬地区は、徳 館内は、奥尻島の歴史紹介をはじめ、犠 牲者の鎮魂を祈った1 98のひかり、災害時 の状況を写真で伝えるパネル展、誕生∼災 害∼復興までを再現した立体模型など、7 つのテーマで展示物が設置され、入館者に 職員が丁寧に説明してくれる。 圧巻なのは、地下一階にある3D映像 ホール。当時の地震や津波による災害の様 子と復興までの記録を臨場感溢れるDVD 一部岸壁上に避難用の「望海橋」が造られた青苗漁港。 映像で伝え、私たちに「地震や津波にどう 海と安全 2 0 0 4・冬号 7 向き合うべきなのか」について、考えさせ のマチ”をさすらった島民が、その再起、 てくれている。 再生の悲願に燃え立ち上がったのは、全国 町長が全国に復興を宣言 地震・津波による壊滅的被害から4年8 から差しのべられた救援のあたたかい手の ぬくもりであり、島民にとっては決して忘 れることのない人間の愛の尊さだった。 カ月が経過した1 9 98年3月1 7日、当時の奥 人は苦しみ、悲しみを時として忘却の彼 尻町長の越森幸夫氏は全国に向け、感謝を 方へ追いやる。しかし、家族や友人など198 込めて次のように述べ、北海道南西沖地 人の尊い人命を失った冷厳な事実を、私た 震・津波からの復興を声高らかに宣言した。 ち生きながらえた島民は、長く後世に語り 「1 9 9 3年7月1 2日午後1 0時1 7分、奥尻島 民にとっては永遠に忘れることのできない 日となった。 継ぐ責務がある。 私たち島民は、あの辛さ苦しみに耐え、 希望と勇気を今、21世紀の新しいスタート 自然の恵みにつつまれた平穏な島のたた に向け、未来『奥尻創造』の大いなる理想 ずまいが、大地の鳴動とともに一瞬にして に英知と総力を結集することを誓い、ここ 廃墟と化したあの日、あの時の悪夢を……。 に完全復興を宣言する」と……。 焦燥と悲惨さにあえぎ、さながら“瓦礫 ! 2 0 0 3年:十勝沖地震と津波のなかで 人口9, 0 0 0人ほどの広尾町は、北海道十 かったが、十勝川河口付近では釣りをして 勝管内の最南端にある小さな町。町の東側 いた2人が行方不明となり、負傷者は8 47 は太平洋、西側は日高山脈がそびえる豊か 人に及んだ。また、多くの住宅が全壊した。 な海と雄大な自然に恵まれた町だ。商店街 特に、苫小牧市では出光興産北海道製油所 は、十勝港の低地から5 0mほどもある高台 のタンクが出火し、4日間に渡って上空に に海岸線に沿って並び、民家の多くはその 黒煙と炎を吹き上げた様子がマスコミによ 周辺から西(山側)へと伸びる。港にはさ って全国に報道された。港では、液状化現 まざまな関係の工場や事務所が多く、その 象が広範囲に見られ、場所によっては岸壁 南端に5 0軒ほどの民家が連なっている。 の一部が沈下した。 十勝沖地震が発生したのは、2 0 03年9月 国道や道道の通行止め、JR 根室線・日 2 6日の早朝0 4時50分。震源は釧路沖 (N4 1. 7 高線・釧網線での運転見合せ、送電ストッ 度 E1 4 4. 2度)、震源地の深さは約60km で プ、断水といったライフラインにも影響が マグニチュード7. 8。北海道の太平洋沿岸 出て、自衛隊が隊員約2 50人を出動させ、 の胆振・日高・十勝・釧路・根室の管内を 給水や苫小牧への消化剤輸送にあたった。 中心に、震度6弱(烈震)∼5強(強震) 気象庁では、地震発生から6分後の04時 の地震を記録した。 この地震で、北海道内における死者はな 8 海と安全 2 0 0 4・冬号 56分に、北海道の太平洋沿岸の東部と中部 に津波警報を、また北海道の太平洋沿岸の 西部や青森県・岩手県・宮城県・福島県に 着替えて外へ。この時、防災無線の受信機 津波注意報を出し、避難や注意を呼びかけ は地震が震度6弱であったことを伝えてい た。北海道の太平洋沿岸では避難勧告で約 たが、津波には触れていなかった。 6, 0 0 0人余りが避難、また約1, 0 00人が自主 的に退避した。 音調津漁港へは、自宅から東に200m余 りしか離れていない。漁港南側の突端にあ 津波の第1波は、地震発生から1 6分後の る船揚場には、自分の持ち舟を含め近所の 05時0 6分∼2 7分にかけ、北海道の太平洋沿 漁業者の舟1 0隻余りが揚がっていた。 「舟 岸を襲った。 最大波は日高管内の浦河で1. 3 をさらに上に揚げ、舫(もやい)でしっか m、釧路管内の釧路で1. 0m、根室管内の り固定しなければ」と杉崎さんは、自分の 花咲で0. 9mを記録した。 軽トラックで漁港に向かった。 津波によって、北海道の太平洋沿岸の港 杉崎さんは、過去のチリ地震や十勝沖地 では、港内係留や上架中であった漁船数隻 震での津波を体験している。頭には、 「大 が転覆や横倒しになったほか、港に駐車し きな津波ほど、襲ってくる直前に海水が海 ていた車両数1 0台が高波によって海中に流 岸からはるか遠くまで引いていく」のを記 失した。これら地震と津波による被害額は、 憶していた。 約2 7 4億円にのぼるという。 津波はジワジワせりあがった 到着が早かったのか、港内に人はいなか ったが、ほどなく消防車がスピーカーで地 区の住民に津波警報と避難を呼びかけた後 広尾町から車で2 0分ほど南の音調津(お に、消防署員数人が港に駆けつけ、海面を しらべつ)に夫婦2人で住み、コンブ漁を 確認していた。やがて、舟揚場にも近所の 生業としている杉崎民治さん(7 4歳)は、 同業者仲間が数人やってきた。海面は普段 早朝の浅い眠りのところを突然の激しい横 とまったく変わりない状況だった。 揺れに襲われ、布団から飛び起きた。揺れ 杉崎さんは、自分の舟の近くに車を止め、 の程度や家の軋み、落ちる小物類などの状 舟の舳先につけてあるロープを車に結びつ 況で「これは津波がくるな」と直感した。 け、引き揚げ作業に取りかかった。昆布漁 地震のおさまるのを待ったが、揺れはし に使う小型の舟なので、作業は程なく終わ ばらく続いていた。やむなく、杉崎さんは った。海面は依然、変化がない。「まだ、 津波がくるまで時間があるな」と思った杉 崎さんは、今度は隣で舟を揚げる作業中の 仲間を手伝い始めた。 しかし、この手伝いの間に、海面は下が ることもなく波音も立てずに「ジワッ、ジ ワッ」とせり上がってきた。杉崎さんが「オ ヤッ!」と思った時は、せり上がった海水 「津波は腰まできた」と話す杉崎さん。 は勢いを増し、アッという間に腰の高さま 海と安全 2 0 0 4・冬号 9 でになっていた。 小高い通りの道路まで避難した消防隊員 や避難者たちが、 「こっちに、急いで!」 と叫んでいたが、腰まで海水に使った状況 では容易に身体を動かし進むことができな として、命を危うくした。津波を決して甘 く見てはいけない」と、経験を過信するこ との危険について反省を込め訴えた。 津波くるなか漁協車両を移動 く ぼ い。 「このままで波が引けば、その力で海 広尾漁業協同組合の管理部に勤める久保 の中に持っていかれるかもしれない」との 田芳信部長(54歳)とその管理部の経理課 不安もわいてきた。 に勤める玉川晃一課長(42歳)も、白々と た よしのぶ たまがわこういち その時、手伝っていた舟の反対側の近く 明け始めた早朝、浅い眠りにいたところを で同じような作業をしていた別の仲間が、 突然の激しい横揺れに襲われ、布団から飛 浮き上がった舟(船外機付)の舳先につい び起きた。 たロープを肩で引っ張りながら杉崎さんの 傍に現れ、 「この船で一緒に逃げるべ」と 声をかけてくれた。3人はその舟に這い上 がるように乗り込み、船外機のエンジンを 始動させ、 高台の道路まで海面となった1 00 m余りの距離を一気に舟を走らせた。 ○津波を甘く見るな 十勝港南側の風景。 (右側、横向きの建物が広尾漁協) 。 道路まで避難した杉崎さんは、津波がお さまるのをその場で待った。海面が岸壁を 超えて溢れてきたのはこの一度だけだった。 やがて津波がおさまり、自分の持ち舟の無 事を確認した後、軽トラック車を動かそう とエンジンをかけたが、エンジン部が冠水 した車は動くことはなかった。 仕方なく杉崎さんは「とにかく着替えな 久保田部長。 玉川課長。 ければ」と下半身ずぶ濡れのまま、仲間の 広尾町では、場所によって地盤の固さに 車で自宅に戻った。奥さんは、消防車の避 違いがあることから、被害も相当の程度差 難の呼びかけを聞いて、夫を心配しつつも があったようだ。高台の比較的西(山側) その帰りを待つことなく、別のトラックで に建っている久保田さんの住宅では、揺れ 西(山側)に建つ総合センターに避難した。 る割にコップや小物類が落ちるといったこ 杉崎さんは「津波も、状況によって前兆 とはなく、逆に町の商店街に近い玉川さん や襲ってくる程度も違うということを思い 知らされた。また、船という財産を守ろう 10 海と安全 2 0 0 4・冬号 の自宅では、軽度の被害も出た。 備え付けの受信機が地震発生を伝えるな か、久保田さんは着替えを素早く済まし、 自宅から自家用車で漁協事務所に向かった。 は出なかった。 2人は津波警報が鳴るなか、漁協事務所 途中、消防署がサイレンで津波がくる合図 に駆けつけたことに、 「今回の津波には、 の連続長音をけたたましく鳴らしていた。 これまでの経験則からさほど恐怖を感じな いつも通勤している高台から港に通じる かった。また、漁協職員として津波状況の 坂道にきた時、その道はすでに消防署員に 把握や適切対応への責務もあるし、年1∼ よって封鎖されていた。久保田さんは署員 2回の訓練で万一の場合の避難道も知って に漁協に向かう理由を手短に説明、その制 いた」と述べながらも、 「やはり、早めの 止を振り払うようにして坂道を下った。 避難が第1。津波を甘く見て、いつもと同 漁協事務所に到着し、事務所2階から見 じ程度だろうと決めつけることが、大きな る港内の水面は、普段の状態と変わりない。 被害につながるのかもしれない」と当時の 南側外防波堤と漁協前から小型船舶数隻 状況を振り返った。 を上架している造船所を結ぶ内側岸壁の間 を、定置網や底引船の関係者ら多数が車で 行き来していた。 まもなく、玉川さんも事務所に駆けつけ てきた。2人とも過去の津波の状況は知っ ていた。 「津波による海水をかぶれば、漁 協1階の車庫に格納している車がオシャカ 被災後1年、広尾漁協付近で補修中の沈下岸壁。 になるぞ!」 。2人は、直後に集まった職 員数人とともに、車庫内の車を漁協の傍か ら高台に続く坂道の上の方に移動し始めた。 おわりに 何台かの移動を終えた時、何波目かは不 地震や津波に備え、 「事前にどんな物を 明だったが、岸壁からいつの間にか溢れ出 備えておくべきなのか」、「襲ってくる初期 し、高さ1m以上となった海水が漁協事務 の段階でどう行動すべきか」 、また災害発 所1階の下部を超えて迫ってきた。 生後の「被災者に対する支援のあるべき 車庫には、まだ3台ほどが残っていたが 姿」とはどのようなものなのか。良否を含 「もう限度だ」と判断した久保田さんは、 め、検証できる過去例の一部がここにもあ 「これ以上は危険だ。ご苦労さんだった。 る。 後は避難してくれ」と職員に指示し、彼ら 関東∼四国にかけて地震や津波による大 とともに高台に避難した。2人の足は、く きな災害発生が予測される今こそ、関係す るぶしまでぐっしょりと海水に濡れていた。 る機関や団体は、国民に初歩的対処や被災 この津波で、漁協の車を含め車5 1台が冠 時の支援のあり方などをさらに明示し、万 水、そのうち港の岸壁周辺に駐車していた 一の場合の犠牲者発生の減少をめざし、一 車3台が海中に没したが、幸いにも犠牲者 体となり警鐘を鳴らすべきであろう。 海と安全 2 0 0 4・冬号 11 1998年:パプアニューギニア大津波災害からの教訓と防災 防災・危機管理ジャーナリスト ㈱まちづくり計画研究所 所長・技術士 まちづくり計画研究所とは まちづくり計画研究所(machiken)は、 わたなべ みのる 渡辺 実 を地震による大津波が襲い、2, 500人あま りの死者と、6, 000人と伝えられる行方不 明者が発生した大災害になった。被災地周 平成元年に設立した都市防災コンサルタン 辺は、旧日本軍兵士約13万人が飢えとマラ トです。安心・安全なまちづくりを基軸に リアで悲惨な死を遂げた地域に近く、毎年、 して、国・地方公共団体・民間企業・市民 遺骨収集墓参団が訪れる場所でもあり、日 団体などから委託を受け、調査・企画・計 本とはつながりが強い地域である。 画立案などコンサル業務を行っている。 このPNG大津波災害が発生する5日前 1 0年前の阪神・淡路大震災では、被災都 の7月12日は、奥尻島を大津波が襲い死者 市神戸市の防災計画、復興計画などに関わ 行方不明1 98人を出した北海道南西沖地震 り、地震直後から神戸市の行政支援を続け から5年目にあたり、津波災害の驚異を再 ている。現在も、この阪神・淡路大震災の 認識していた時期に、日本から約5, 000km 教訓を踏まえ、次の大震災へ向けて国の防 離れたPNGで今回の大津波災害が発生し 災機関、全国の自治体、民間企業へ提言・ た。 講演活動を行っている。 こうした背景から、筆者は、静岡第一テ また、 「見える防災」をキーワードに「安 レビ(SDT)の特番制作クルーとともに 心缶」などをはじめとする防災グッズの企 8月5日に成田を発ち、シドニー経由で6 画・開発・販売を実施している。併せて、 日にPNGの首都ポートモレスビーに着い 国内・海外の主要な地震災害、津波災害、 た。翌7日、ウエワクから被災地(アイタ 火山災害、台風・ハリケーンなどの自然災 ペ・ア ロ ッ プ・シ ッ サ ノ・ワ ラ ッ プ・ラ 害や、9.1 1米国同時多発テロなどの大規 モ・プア・テレス・ウエワクなど)に調査 模事故現場、大規模火災などの現地調査も に入り、11日に帰国した。 行い、それぞれの災害・事故から学んだ教 訓を提言している。 パプアニューギニア大津波 災害調査の動機 PNG大津波災害調査の概要 PNGは、1973年に独立し立憲君主制で、 人口約570万人。鉱業、農業、林業が主産 業で、海に囲まれた自然豊かな美しい国で 1 9 9 8年7月1 7日午後6時4 5分頃(日本時 ある。本調査では、!被害状況の調査、" 間午後5時4 5分頃)、パプアニューギニア 政府などの行政対応・市民対応、#なぜ、 (以下、PNG)北部のアイタペ以西沿岸 生き残れたのか、$わが国の津波対策への 12 海と安全 2 0 0 4・冬号 1 5mの大津波が襲ったシッサノラグーン 教訓、などを主な被災地調査の視点とした。 に流れるアーノルド川などから運ばれた大 1 15mの大津波が襲ってきた ! 量な土砂が海底に堆積し、この土砂が地震 7月1 7日午後6時頃、アロップ沖合3 0km で海底地滑りを起こした。地震と海底地滑 (当初発表された震源は1 0 0km 沖合)の りによって津波が増幅され、15mという大 海底3∼4km 付近でM7. 0の 地 震 が 発 生 津波を発生させた」と報告している。 し、アイタペから以西3 0∼3 5km にわたる 2 ! 被災状況 沿岸へ津波が集中して襲った。多くの被災 8月11日現在、政府発表の被害状況は、 者から「最初は波が引いて、地震から1 0秒 死者2, 1 34人、行方不明3, 500人となってい から5分以内に津波が押し寄せ、その後2 る。死者の多くは、津波にのみ込まれて助 回の津波が襲ってきた。その時ジェット機 かる術を持たない弱い子供や老人が多い。 のような音を聞いた。また、地震の揺れは 特に犠牲者が多かったワラプ(死者1, 071 2回発生した」との証言を得ている。 人、負傷者369人、生存者1, 460人)やアロ 現地に入った日本調査団が計測した津波 ップ(死者863人、負傷者0、生存者1, 404 高は、シッサノラグーンで最高1 5m、平均 人)では、津波による死亡率が約40%と非 9mにも達している。M7規模の地震で、 常に高くなっている。 1 5mもの規模の津波がなぜ発生し、さらに 8月8日、アイタペの現地災害対策本部 津波の襲来地域が3 0km の狭い範囲だった の許可(PNG政府は7月24日にシッサノ のかは謎で疑問が残る。 ラ・アイタペを含む被災地一帯を封鎖した。 調査団は「被災地は遠浅の海岸で、沖合 遺体収容を断念し、防疫のため住民の立入 で急に深さ3, 0 0 0∼4, 0 0 0m のニ ュ ー ギ ニ 禁止規制がとられていた)をとり、政府が ア海溝になり、沖合約3 0km でM7の海溝 チャーターしたヘリコプターで最大の被災 型地震(底角の逆断層または広角の正断層 地であるシッサノラグーンへ飛び、アロッ と推定)が発生し、シッサノラグーンの西 プ洲の中央部に降り立った。 海と安全 2 0 0 4・冬号 13 上空からみるシッサノラグーンは、九十 うちに人も家も何もかも波に巻き込み、こ 九里浜や日本平を思わせる美しい浜辺が続 のラグーン湖内へ全て流し去ってしまい、 く静かな美しい海岸線であった。大津波が 跡形もなかった。 襲ったアロップ、ワラップ、シッサノ上空 ここは前が海で背後が湖という、全く逃 では、ヤシの木がなぎ倒され、集落が跡形 げる高台がないところである。この津波の もない情景が目に入り、津波の凄まじさを 流速は秒速約9mで、過去の津波調査で推 実感した。 定された値の3倍以上に相当する。 ラグーンの水面には、流された家屋の残 骸や放置されて浮いている遺体と思われる 3 ! 証言:なぜ大津波から生き残れたのか 被災地の避難所などで生存者から「なぜ、 姿が見受けられた。政府は遺体収容を断念 この大津波から生き残れたのか」について したため、ラグーン水面や海上に浮いてい インタビューを行った。以下にその主な証 る遺体を防疫面から、また犬や鮫に食べら 言を記す。 れる前に水葬するため、上空からライフル ○「家族のことも何も考えずに、一人で必 で遺体を沈めているという話を聞いた。残 死になって泳いで生き残った」○「カヌー 酷極まる話である。 に乗って、転覆しそうになったが陸にたど ラグーン湖側には多くの集落があったが、 り着いた」○「犬を抱いて一緒に3km 泳 われわれの目の前にはまったく何もなく、 いで助かった」○「ニワトリを抱いて泳い ラグーン湖内には、多くの家屋の残骸や子 でいたらスーツケースが流れてきてこれに 供や大人の遺体が浮いている。あの5年前 つかまって助かった」○「ヤシの木に必死 の奥尻島青苗地区を思い出す。ラグーン湖 に登って助かった」○「流れてきた屋根に 側に、局所的に深さ1m以上の津波による つかまって泳いだ」 浸食箇所が見られる。想像を絶するエネル まさに、岩手県に伝わる津波避難の厳し ギーをもった津波が陸上に遡上し、一瞬の い教訓である「津波てんでんこ」 (後述) ラグーンを埋め尽くしたガレキや遺体 14 海と安全 2 0 0 4・冬号 が、PNGで実証されていた。 PNG大津波災害からの教訓 1 ! 津波防災対策にリアリズムを! 津波災害は数十年、数百年に1回という 長い時間的なスパンがあり、なかなか津波 災害を実感し、津波防災対策を現実視する ことが難しい災害である。 避難所を調査する筆者 しかし、われわれは奥尻の大津波災害を 共有しているはずである。 それでも、 阪神・ ラムを構築し、義務教育の過程で子供たち 淡路大震災で幸いにも津波災害が発生して にこの重要な災害文化を繰り返し教育して いないことから、津波防災対策が後回しに いく必要がある。現在は、教科書から消え されてきた傾向が強い。 てしまった「いなむらの火」の復活を、ぜ PNG津波災害で、シッサノラグーンで 見てきた、津波で何もかも失ってしまう災 害の驚異をあらためて直視する必要がある。 ひ実現させなければならない。 3 ! 海人に訴えたい! 先にも述べたが、近い将来われわれが経 そして、近い将来に発生する東海地震、東 験する巨大地震では、必ず大津波が襲って 南海地震、南海地震などの海溝型地震では、 くる。海で働く人々は、このことを頭にた 巨大津波が瞬時に襲ってくる。決して、P たき込んでおいてほしい。津波は、引き波、 NG大津波災害は他人事ではない。 押し波だけではなく、音もなく急激に海面 2 ! 上昇する津波もある。また、津波第1波だ 津波災害文化の伝承・教育を! 津波からの救命対策の原点は、沿岸部に けではなく、第2波、第3波と連続して襲 いたときや沿岸に生活している人々が「地 い、第2波以降のほうが第1波より大きい 震、即津波」とイメージし、迅速に安全に 場合もある。 避難できるかにかかっている。津波警報が 津波襲来時間によっては、船舶を沖合に 間に合わない可能性もある。過去に何度も 出すこともできない場合もあり、無理して 大津波を経験している三陸地方に「津波て 操船すれば転覆・破壊の危険もある。津波 んでんこ」という言い伝えがある。 災害の後では、港に膨大な材木などの浮遊 これは、 「津波が来たら、親も子供も何 物が押し寄せ、沈んだ車両などによって港 もかも見捨てて、テンデンバラバラに逃げ の水深が浅くなり、入港が不可能にもなる。 なければ命は助からない」という津波災害 こうした、津波災害の特殊性や怖さを十 から命を守るための非常に厳しい言い伝え 分に認識してほしいものである。 である。 ※「パプアニューギニア大津波災害調査結 津波災害文化の伝承のために、教育課程 果」 :http : //www. machiken. co. jp に掲載 のなかに津波災害文化を学ばせるカリキュ 海と安全 2 0 0 4・冬号 15 「津波が予想される場合の船舶安全確保に 関する調査研究委員会」での検討概要 海上保安大学校 はじめに 平成5年7月に発生した北海道南西沖地 震に伴う津波で、奥尻島では一瞬にして数 百棟の家と2 0 0人近い人命を失ったことは、 海上安全学講座教授 たかはし まさる 高橋 勝 合の手順と、検討すべき対応策の内容など についての提言を行いました。ここではそ の主な内容について紹介します。 津波の基礎知識 記憶に新しいところです。また、平成1 5年 津波対策を立てるためには、津波につい 9月の十勝沖地震に伴う津波では、北海道 て知っておく必要があります。そこでまず、 太平洋沿岸を中心に津波警報、注意報が発 津波の高さ、津波の速度、津波発生の条件 令され、漁船が岸壁に打ち上げられるなど などの基礎知識について改めて簡単に整理 の甚大な被害を生じ、地震発生から1 0時間 し、まとめました。 以上も津波注意報が解除されない状況が続 きました。 すなわち、 「津波の高さ」とは、津波が 来なかった場合に予想される水位との偏差 通常の場合、ひとたび津波を伴う地震が で、最大の偏差を「最大の高さ」というこ 発生すると、対応を検討する時間的余裕は と。地震のマグニチュードと同じように、 なく、事前に十分な対応策を検討しておく 津波にも規模を示す「−1」から「4」ま ことが必要ですが、現状では船舶の取るべ での津波規模階級が使われており、津波の き対応として詳細に例示しているものはあ 高さ2m 程度で海岸や船舶に被害が出始 りません。東海地震などの発生が予想され める規模が「階級1」 、4m から6m で若 ているなか、これらの地震に伴い津波が発 干の内陸まで被害が及び、人的損失も発生 生することは十分に想定されますので、こ する程度を「階級2」としていること。ま のような場合の船舶の取るべき安全対策に た、津波は震源が8 0km 以上の深い地震で ついて検討しておくことが急務と考えられ は、殆ど発生しないと考えられること。 ています。 発 生 し た 津 波 は、重 力 加 速 度(9. 8m/ 本委員会は、海上保安庁交通部安全課か sec2)と水深(m)を掛け合わせてルート らの委託を受け、今後、各港において津波 した値の速さで伝わり、水深が1 00m の場 に対する船舶の安全対策を検討する場合の 合では時速約100km にも達し、また、津 手引きとなるものを作成することを目的に、 波が進行していくときの海面の流速は、重 過去に各方面で検討された資料を調査し、 力加速度(9. 8m/sec2)を水深(m)で割 港内における船舶の津波対策を検討する場 ってルートした値に、波面の静水面からの 16 海と安全 2 0 0 4・冬号 高さ(m)を掛けたものになるため、水深 を行っています。 10m、高 さ2m の 津 波 で は 約2m/sec の また、震源が日本列島や南西諸島の沿岸 流速が発生することなどが主な内容です。 からおおむね600km 以遠にある地震(遠 そのほか、津波の変形や特異現象について 地地震)による津波(遠地津波)の予報は、 もまとめました。 気象庁本庁が行うようになっています。 さらに、過去に日本およびその周辺の沿 1987年には地震活動等総合監視システム 岸で発生した津波、日本およびその周辺の (EPOS)が気象庁に導入され、1 993年ま 沿岸に影響を与えた外国の沿岸で発生した でには地震津波監視システム(ETOS)が 津波を整理し、そのなかから特に新潟地震 全国の津波予報中枢に導入されており、地 と日本海中部地震、平成1 5年の十勝沖地震 震観測網の強化により、現在では地震発生 の3ケースについて、津波の状況と具体的 後約3分で津波予報が発表されるまでにな な船舶の被害状況を整理しました。 っています。さらに、これを30秒に短縮す いずれの場合も、船舶の被害については、 漁船などの小型船の乗り揚げや転覆がほと ることを目指して、さらなる観測網などの 整備が進められています。 んどで、大型船の係留索切断や船体と岸壁 津波予報には、津波の高さが1m 以上 との衝突などは、発生しなかったのか、調 の場合の津波警報と、5 0cm 程度の場合の 査されなかったのかは定かではありません 津波注意報の2種類があり、津波警報はさ が、報告されていません。 らに、津波の高さが1m・2m の場合の津 津波対策の現状 波警報と、3m 以上の場合の大津波警報 に分けられています。 港内における津波対策を考えるには、津 津波の情報には、津波の到達予想時刻や 波対策の現状を把握しておく必要がありま 予想される津波の高さをメートル単位で発 す。そこで、津波対策の現状について整理 表するものと、各地の満潮時刻・津波の到 しました。 達予想時刻を発表するもの、および実際に 1 ! 津波を観測した場合に、その時刻や高さを 津波情報の伝達 気象庁が発表する津波情報は、防災行政 機関や都道府県が行う災害応急対策の初動 情報となるため、災害対策基本法や気象業 発表するものの3種類があります。 津波予報や津波情報の伝達経路は、 【図 1】のようになっています。 務法の定めにより、関係の機関や報道機関 全 国 約1, 000箇 所 で 観 測 さ れ た 地 震 波 を通じて、住民や船舶などに迅速に周知さ データは、常時最寄りの津波予報実施官署 れるようになっています。津波予報のため へ テ レ メ ー タ ー で 伝 達 さ れ、EPOS や に、全国の海岸は6 6の津波予報区に分けら ETOS によって即時に自動処理され、震 れ、札幌・仙台・東 京(本 庁) ・大 阪・福 源地とマグニチュード並びに津波の大きさ 岡・沖縄の6カ所の津波予報実施官署がそ が決定されて予報文などが作成されます。 れぞれの区域を分担して担当し、予報業務 予報文などは最も迅速な方法で伝達中枢に 海と安全 2 0 0 4・冬号 17 [図1] 津波予報、地震津波情報の伝達経路 て一般的な対応策が検討されています。そ の主な内容は以下のとおりです。 ! 岸壁係留船への影響は、津波の水位変 動と流圧による船舶の移動による係留索 (特にスプリング・ライン)の切断が主な もので、大型船は流速の影響を強く受け、 小型船は水位上昇の影響を強く受ける。漁 船やプレジャーボートなどは、前後各1本 の係留索で係留していることが多く、津波 による高水位強水流で係留索が切断する可 能性が高く、無人のまま放流された船体は、 岸壁や他の係留船に激突したり、岸壁に乗 り上げる可能性が高い。 " 錨泊船への影響は、流圧による走錨で 送られ、伝達中枢からはそれぞれの定めら あるが、流速1m/sec を超えると風速2 0m れた方法により、市民や船舶などへ伝達さ /sec の中での錨泊に相当する流圧を受け、 れます。 流 速2m/sec で は 風 速2 0m/sec に 対 す る 伝達中枢には、NTT、報道機関、都道 正面風圧の4∼5倍の最大張力が錨鎖に加 府県、海上保安庁、警察庁および都道府県 わる可能性があるとされている。さらに、 警察本部が含まれており、常設の専用回線 流向が反転する時には、概略正面流圧の4 で伝達されますが、回線に障害があるとき 倍の最大張力が錨鎖に加わる可能性がある は、緊急衛星同報システムが使用されます。 とされている。 海上保安庁は、災害対策基本法に基づく # 浮標係留船への影響は、基本的には錨 海上保安庁防災業務計画や気象業務法の定 泊船と同様であるが、前後係留している浮 めにより、船舶や沿岸地域の住民および海 標係留船については、45°方向から流れを 水浴客などに伝達しますが、都道府県、報 受けた場合、正面流圧の80倍、9 0°方向か 道機関、NTT などの伝達中枢に伝わった らでは110倍以上の流圧が加わる可能性が 津波情報は、最終的には市町村による、防 あることが試算されている。 災行政同時一斉通報無線・サイレン・半 $ 鐘・広報車により、また、放送機関による 波を感知することはなく影響はない。湾内 緊急放送やテレビ・ラジオ放送により地域 や港内では、水流により偏位、偏針すると 住民に伝達されることになります。 ともに喫水に比して水深が十分でない場合 2 ! は、操船に影響を受ける可能性が高い。漁 船舶への影響 航行船への影響は、沖合いでは殆ど津 津波が船舶に及ぼす影響については、過 船やプレジャーボートなどの小型船が浅水 去において分析されており、これに基づい 域を航行する場合は、水流力や津波前面の 18 海と安全 2 0 0 4・冬号 巻き波により、操船の自由が失われ横倒沈 津波来襲の情報を得た場合や地震感知な 没するなど、大きな海難に発展する危険性 どにより津波来襲の可能性を察知した場合、 がある。 緊急避難を実施するか、係留場所にとどま 船舶の被害を左右する要素は、津波高、 って津波に対処するか、あるいは乗組員・ 津波周期、津波流速、到達所要時間、津波 作業員だけ陸上避難するかを判断し、実行 の形状、来襲方向、港湾の形状、港内水面 しなければなりません。その場合、津波の 積、港口部通水断面積、泊地水深、防波堤・ 大きさ、津波来襲までの時間など津波に関 岸壁の天端高、係留場所などですが、水産 する情報のほか、次のようなことを考慮す 庁漁港部の調べでは、漁船の被害率と津波 ることが必要となります。 高との間には大きな正の相関があり、波高 ! 1m 位から被害が出始め、漁港の岸壁天 イ.海上保安部署長(港長)の勧告・指示 端高に相当する1. 5m を超えると被害が増 ロ.港湾管理者、漁港管理者、漁港管理委 加する傾向を示し、3m を超えると被災 託者(漁業協同組合など) 、マリーナ管 率が増大すると報告されています。 理者などの指示 3 ! 船舶の対応 外的事項 ハ.運航安全対策や荷役管理規定、各種協 船舶は、津波発生時には海上保安庁が実 議会、社内の緊急時マニュアルなどに定 施する船舶に関する措置、指示、勧告など める津波来襲時の対応 を把握し、支援要請を行うため、海上保安 " 部署や巡視船艇との通信連絡手段を確保す イ.潮高、岸壁の天端高、本船喫水 る必要があります。 ロ.津波シミュレーションなどによる港湾 情報の流れと船舶の対応を【図2】に示 します。 港湾の状況など 域における津波の挙動 ハ.港内の収容可能隻数 ニ.港湾の状況と至近の他船の状況 [図2] 情報の流れと一般船舶の対応 # 自船の状況 イ.避難準備に要する時間 ロ.安全な海域までの所要時間 ハ.緊急避難の方法と各々の安全性 ニ.港内にとどまって津波に対処する手段 と所要時間 ホ.乗組員などの陸上避難場所と所要時間 へ.自力緊急避難の可否 さらに、沖出し避難について、二次災害 の危険度などを考慮して避難順序が申し合 わされている場合、時間に余裕があればそ れに従う必要があります。 海と安全 2 0 0 4・冬号 19 本委員会の報告書には、避難準備所要時 施設、貯木場、水産養殖施設などの施設は、 間について、過去に!日本海難防止協会と 流出などにより二次災害、航路障害などを !東京湾海難防止協会が行ったアンケート 招く恐れがあることから注意を要します。 調査の結果を紹介しています。また、災害 また、船舶の避難などの安全対策を検討 の防止措置に関する関係法令についても、 するためには、港内在船状況や運航形態な まとめて紹介しています。 どの港内利用状況を把握しておくことも必 港内津波対策の検討手引き 要ですが、緊急時に短時間で船舶の状況を 正確に把握することは困難です。 本委員会では、各港(地域)における港 従って日頃から、港内在船状況、運航形 内の津波対策の検討を促進することを目的 態、海上工事などの状況を把握しておき、 に、津波警報が発令された場合に、港内の これらの想定のうえで対策を検討する必要 船舶交通の安全を確保するため、津波に対 があります。このなかには、タグボートや して船舶の取るべき対応の基本的考え方や パイロットなどの船舶の入出港援助態勢の 港内の津波対策を策定する際の留意事項を 把握も含まれています。 検討手引きとして提示しました。 さらに、津波の影響は各港(地域)によ このなかで、津波の来襲までは時間的な って異なることはすでに述べたとおりです 余裕がない場合が多く、津波の現れ方や船 ので、各港(地域)ごとに津波防災情報図 舶への影響などは港(地域)の形態、利用 (津波シミュレーション) 、津波浸水予想 状況などによって異なることから、事前に 図、過去の津波被害状況などにより、津波 港(地域)ごとの港内津波対策を検討し策 が高くなりやすいところ、水流が大きくな 定する必要性があることを示し、検討・実 りやすいところ、渦が生じやすいところな 施の母体となる港内津波対策協議会(仮 どなど、港内の津波特性を可能な限り想定 称)の設置を提案しています。また、港内 して、適切な対策を立てる必要があります。 の津波対策を具体的に策定する際の標準的 ただ、過去の津波被害状況については、 な検討手順をフローチャートで示し、個々 陸上のものがほとんどで、船舶に関するも の項目について説明しています。港内津波 のは記録が少ないのが現状なので、船舶へ 対策検討フローは【図3】に示す通りです。 の影響評価の面で難しいところもあります 港内津波の影響調査 津波対策を策定するうえでは、海底地形、 が、シミュレーションなどで得られる資料 をもとに、船舶への影響の度合いを区域ご とに検討・評価し、津波の発生が予想され 海底勾配、水深、海岸地形、海象条件など る場合の避難場所・経路、避難順序などを の自然特性を把握するとともに、防波堤、 検討する必要があることを述べています。 岸壁などの港湾施設および危険物施設やド また、この際対策検討に資するため、この ックなどの港内の施設の配置状況について 危険度を図示して、港内版津波ハザードマ も把握する必要があります。特に、危険物 ップを作成することも提案しています。 20 海と安全 2 0 0 4・冬号 [図3]港内津波対策検討フロー 地域(港内津波対策協議会等)での検討内容 港 内 津 波 影 響 調 査 港湾特性の把握 港内利用状況の把握 ・自然特性(地形) ・港内在泊船舶 ・既往津波被害調査 ・施設等配置状況 ・運航形態 等 ・津波シミュレーション 港内津波特性の把握 ・対象津波の設定 地 域 防 災 計 画 ・区域ごとの津波特性(波高、流速等)の把握 津波による船舶への影響評価 ・区域ごとの船舶被害想定 港内版津波ハザードマップの作成(提案) 船舶対応策の策定 ・避難海域の設定 (区域、船種ごとに安全海域までの必要時間を推定) ・津波警報発令時の船舶対応表策定 港 内 津 波 対 応 策 の 策 定 調 整 ・ 連 携 港内津波対応計画の策定 ・各機関の役割分担(調整) ・情報伝達等(船舶動静把握) ・避難方法 避難順序、支援体制 避難勧告 避難勧告等の解除時期、再入港の調整等 海と安全 2 0 0 4・冬号 21 船舶の対応策と津波対応計画 はそれぞれの船舶、港ごとに異なるといえ ます。従って、今後、各港(地域)におい 津波による船舶への影響を検討したうえ ては、本委員会の検討を参考に、それぞれ で、船舶の船型、状況別に各船舶の望まし の特性などに応じた対応策を検討・策定す い対応を検討することになります。委員会 るとともに、各船舶においても適切な対応 では、望ましい対応策として標準的な対応 策を策定することが望まれます。 策を検討し、船型と船舶の状況別に整理し また、本委員会では、既存の資料や過去 て詳しく示すとともに、 「津波に対する船 の研究成果の整理分析を行いましたが、過 舶対応表」として、 【図4】にまとめて示 去の津波災害に関する資料は、陸上災害に しました。 関するものがほとんどで、船舶の被害につ 以上の検討結果を基に、地域防災計画と いて詳細に分析し、報告した事例はわずか の整合性を図って、津波対応計画を策定す しかありません。わずかに報告されている ることになります。津波対応計画のなかで ものについても、その大部分は小型漁船な は、津波対策協議会(仮称)の関係機関の どの陸上への打ち揚げ状況についてであり、 役割分担を定め、情報伝達の系統や効果的 津波規模と船舶被害について検証している な伝達手段を確立し、避難順序や支援体制 事例はほとんどありません。また、大型船 を構築し、避難勧告の発出要領、避難勧告 舶に関する被害(係留索の切断や岸壁との などの解除時期や再入港の調整などについ 衝突による被害など)についてもほとんど ても定めておくことが必要であるとしてい 報告されていません。 ます。 大地震の発生が予想され、津波来襲によ また参考として、作成した港内津波対策 る船舶への被害が想定される場合に、船舶 検討手引きに従って、実際に清水港につい の被害状況や被害程度を推定し、それに対 て津波対策の検討を簡易的に実施してみま する対策を検討するには、過去の津波に関 した。 する船舶被害の資料は非常に有用なものと おわりに 本委員会では、船舶の望ましい津波対応 なります。よって、このような資料の収集 態勢を整備し、将来の津波対策に生かせる ようにすることが必要と考えられます。 について検討を行い、各港(地域)におい それには、関係機関が連携し、津波来襲 て津波対策を検討する場合の参考に資する 後速やかに調査班などを組織し、港湾を中 ため、港内津波対策検討手引きを作成しま 心に幅広く船舶被害の状況を調査できる体 した。これは、一般的、標準的なものとし 制を整備するとともに、統一的で継続的な てまとめたものですが、船舶は、種類、大 調査を実施することが望まれます。 きさ、形態、航行状態、停泊状態などが各 船ごとに異なり、さらに港湾の状況、利用 状況なども異なることから、津波への対応 22 海と安全 2 0 0 4・冬号 [図4]津波に対する船舶対応表 船舶の対応 津波予報の種類 津波来襲 までの時 間的余裕 港内着岸船 大型船、中型船(漁船を含む) 危険物積載船舶 航行船 小型船 錨泊船、浮標係留船 一般船舶 (プレジャーボート、小型漁 (荷役・作業船含む) 船等) 大型船、中型船 (漁船を含む) 小型船 (プレジャーボート、小型 漁船等) なし 荷役・作業中止 原則、港外退避 荷役中止 陸上避難 陸上避難 機関使用 中間 荷役・作業中止 原則、港外退避 荷役中止 港外退避又は陸上避難 陸揚げ固縛又は陸上避難 (場合によっては港外退避) 機関使用又は港外退避 あり 荷役・作業中止 港外退避 荷役中止 港外退避 陸揚げ固縛 (場合によっては港外退避) 港外退避 港外退避又は着岸のうえ陸 揚げ固縛 なし 荷役・作業中止 原則、港外退避 荷役中止 陸上避難又は係留強化 陸上避難 機関使用 港外退避又は着岸のうえ陸 上避難 中間 荷役・作業中止 原則、港外退避 荷役中止 陸揚げ固縛又は陸上避難 港外退避、陸上避難又 (場合によっては港外退避) は係留強化 あり 荷役・作業中止 港外退避 荷役中止 港外退避又は係留強化 陸揚げ固縛 (場合によっては港外退避) 港外退避 津波注意 0.5m 荷役・作業中止 係留強化又は港外退避 荷役中止 係留強化又は港外退避 陸揚げ固縛又は港外退避 情報注意 (場合によっては港外退避、 機関使用) 備考 事業者側で予め対応マ ニュアルを作成 小型船でも十分津波に対応で きる海域が港外に存在し、か つ、避難する時間的余裕があ る場合は港外退避でも可 錨地として使用されている海 域のうち津波発生時に流速が 速くなる可能性の高い海域を 予め調査しておく 大津波 3m, 4m, 6m,8m, 10m以上 港外退避又は着岸のうえ陸 上避難 港外退避 港外退避又は着岸のうえ陸 揚げ固縛(場合によっては 陸上避難) 津波警報 津波 1m,2m 津波 注意報 機関使用又は港外退避 港外退避 港外退避又は着岸のうえ陸 揚げ固縛(場合によっては 陸上避難) 港外退避又は着岸のうえ陸 揚げ固縛 港外退避 海と安全 2 0 0 4・冬号 23 津波来襲までの時間的余裕 あり:津波警報が発せられた時点から避難に要する十分な時間(船舶を港外退避、陸揚げ固縛等の安全な状態に置くまで)がある場合 なし:津波警報が発せられた時点から避難に要する十分な時間(船舶を港外退避、陸揚げ固縛等の安全な状態に置くまで)がない場合 中間:上記「あり」と「なし」の中間 小型船:プレジャーボート、漁船等のうち、港内において陸揚げできる程度の船舶(造船所での陸揚げは含まない)をいう。 陸上避難:船舶での退避は高い危険が予想されるので、乗組員等は陸上の高い場所に避難する。可能な限り船舶の流出防止、危険物の安全措置を取る。 港外退避:港外の水深が深く、十分広い海域、沖合いに避難する(港外退避が間に合わない場合は港内の緊急避難海域において待機)。 情報注意:特に退避措置はとらないが、津波注意報が解除されるまで情報に留意し、船舶の安全対策を取る。 陸揚げ固縛:プレジャーボート、漁船等の小型船を陸揚げし、津波等により海上に流出しないよう固縛する。 機関使用:錨泊した状態で機関を起動し、必要に応じて使用することにより津波に対応する。 * 上記の表は標準的なものであり、それぞれの地域(港)の特性に応じた対応策を検討しておくことが望ましい。 陸揚げ固縛、港外退避又は 係留強化 海上保安庁の津波への対応 ひらゆ てるひさ 海上保安庁 警備救難部環境防災課 業務係長 平湯 輝久 きくもと ゆたか 海上保安庁 交通部安全課航行指導室港務係長 菊本 豊 昭和以降被害が生じた主な津波 これまでの津波の発生状況 地震発生 津波は、海域における震源の浅い大地震 年月日 によって生じることが多く、沖合いの深い 昭和8年 海域では小さくても、海岸に近づくにつれ て大きくなり、時として悲惨な災害をもた らします。 四囲を海に囲まれているわが国では、古 くから津波による大きな被害を被ってきま した。関東大震災以降、昭和の時代には、 三陸地震(昭和8年) 、東南海地震(昭和 1 9年) 、南海地震(昭和2 1年) 、十勝沖地震 (昭和2 7年) 、チリ地震(昭和3 5年) 、日本 海中部地震(昭和5 8年)に伴う大きな津波 が発生しており、平成に入ってからも、北 海道南西沖地震(平成5年)で発生した津 波により、一瞬にして奥尻島が大災害に見 3月3日 昭和19年 12月7日 昭和21年 12月21日 昭和27年 3月4日 昭和35年 5月22日 昭和58年 5月26日 平成5年 7月12日 地震名 発生津波 最大高さ 三陸地震 23m 東南海地震 9m 南海地震 6.5m 十勝沖地震 6.5m チリ地震 5m以上 (24日到達) 日本海中部地震 7.7m 北海道南西沖地震 30.6m 十勝沖地震 1.3m 東海道沖地震 0.9m 舞われたのは記憶に新しいところです。 最近では、去年の十勝沖地震、今年の東 平成15年 9月26日 海道沖地震において津波が発生しています。 この時は、過去の津波に比べ被害は小さい ものでしたが、それでも十勝沖地震におい ては、3 0の漁港で1 4 6件の施設の被害が発 生し、4 6隻の漁船が転覆などの被害を受け ました。さらに、地震発生から1 0時間以上 ※平成16年 9月5日 平成15年度 津波が予想される場合の船舶安全確保に関する 調査研究報告書から抜粋。 (※印については、気象庁HPによる) 国の地震・津波対策 の間、津波注意報が解除されない状況が続 地震・津波を含めた自然災害への対策に き、港湾機能に大きな影響が生じました。 ついては、昭和27年の十勝沖地震を契機に 防災行政に関する検討が進められ、昭和34 年の伊勢湾台風を契機として法制度の動き 24 海と安全 2 0 0 4・冬号 十勝沖地震(H1 5. 9. 2 6)の津波の状況(花咲港) が高まった結果、昭和3 6年に現在の防災に 震に係る地震防災対策の推進に関する特別 関する基本となる「災害対策基本法(昭和 措置法(平成14年法律第92号)」が整備さ 36年法律第2 23号) 」が制定され、平成7年 れています。 の阪神・淡路大震災後の大改正を経て、現 在に至っています。 予知可能な地震とされている東海地震へ の対応については「大規模地震対策特別措 また、個別の地震に関し、いつ発生して 置法」において、地震想定に基づく地震防 もおかしくないとされる東海地震、今世紀 災対策強化地域の指定、地震防災計画の作 前半にも発生するといわれる東南海・南海 成、警戒宣言の発令、警戒本部の設置など 地震については、中央防災会議の諮問を受 が規定されています。 けた各専門委員会において、その地震発生 これらにより、東海地震の発生が予知さ 時の被害想定が発表されており、この中で れた時から東海地震が発生するまでの対応 津波による人的被害については、東海地震 が策定されており、津波対策について、特 においては約1, 400人、東南海・南海地震 段の対策は規定されていないものの、東海 においては約8, 60 0人(いずれも最大値: 地震の特殊性から津波の発生までの事前措 地震発生の時間帯により人的被害者数に変 置を取ることにより、被害の局限化を図る 動がある。 )としています。 ものとなっています。 それぞれの地震への対応として、法的に 「東南海・南海地震に係る地震防災対策 は、東海地震については「大規模地震対策 の推進に関する特別措置法」においては、 特別措置法(昭和5 3年法律第7 3号) 」 、東南 地震想定に基づく東南海・南海地震防災対 海・南海地震については「東南海・南海地 策推進地域の指定、基本計画の作成などが 海と安全 2 0 0 4・冬号 25 規定されており、特に本地震は甚大な津波 により活動することとなっています。 被害が発生するおそれがあるとされている その中で、津波などの災害の発生が予想 ことから、基本計画などにおいては、津波 されるときの災害応急対策については、次 からの防護や円滑な避難の確保に関する事 のとおり規定されています(船舶に対する 項を規定することとなっています。 ものに限る)。 なお、房総半島の東方沖から三陸海岸の 1 ! 情報の伝達・周知 東方沖を経て、択捉島の東方沖までの日本 ○災害が予想される地域の周辺海域の在 海溝および千島海溝ならびにその周辺地域 泊船舶に対しては、船艇、航空機など における地震については、今年4月に「日 を巡回させ、訪船指導のほか、拡声器、 本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地 たれ幕などにより周知する。 震防災対策の推進に関する特別措置法(平 ○航行船舶に対しては、航行警報または 成1 6年法律第2 7号) 」が公布されており、 安全通報などにより周知する。 今後、東南海・南海地震と同様の対策がな 2 ! されることとなっています。 ○津波による危険が予想される海域に係 海上交通安全の確保 る港および沿岸付近にある船舶に対し、 海上保安庁の災害対応 港外や沖合いなど安全な海域への避難 地震・津波などの災害への海上保安庁の を勧告するとともに、必要に応じて入 対応については、災害対策基本法に基づき 港を制限し、または港内に停泊中の船 作成している「海上保安庁防災業務計画」 舶に対して移動を命ずるなど、所要の において、防災予防、災害応急対策、災害 規制を行う。 復旧・復興支援対策を規定しており、これ 3 ! 危険物の保安措置 十勝沖地震(H1 5. 9. 2 6)の津波の状況(十勝港) 26 海と安全 2 0 0 4・冬号 ○危険物積載船舶については、必要に応 研究成果をもとに、港内における津波の特 じて移動を命じ、または航行の制限若 性や津波による船舶への影響を整理すると しくは禁止を行う。 ともに、港内における船舶の津波対策を検 ○危険物荷役中の船舶については、荷役 討するにあたっての留意事項をまとめたも の中止など事故防止のために必要な指 ので、港内版の津波ハザードマップの作成 導を行う。 や、船舶の状態別および大きさ別に、想定 地震、津波などの災害が発生した場合に 津波から得られる津波の大きさや到達予想 ついては、巡視船艇、航空機による調査を 時間を考慮した津波に対する船舶の望まし もとに、その状況を迅速的確に把握し、そ い対応策の策定が提案されています。 の状況に応じた上記のような対応を適切に 実施することとなります。 港内における船舶の津波対策 津波の現れ方や船舶への影響などは港 (地域)の形態、利用状況などによって異 なることから、本手引きを活用することに より、津波の発生に対して在港船舶が状況 港内は多数の船舶で輻輳しており、津波 に応じた適切な対応【係留索の強化、港外 により船舶の漂流、乗揚げなどが引き起こ への退避、船体放棄(乗組員の陸上への避 されれば、船舶に甚大な被害が生じるだけ 難など) 】がとれるように、港ごとの津波 なく、港湾機能に支障をきたし、地域経済 対策を策定することが必要となりますが、 にも大きな影響を及ぼします。また、災害 そのような対策をとる場合には、関係者間 時において港湾は防災拠点としての機能が で事前に協議、検討、調整を行い、津波発 期待されていますが、この機能にも支障を 生時の対応を申し合わせておくことが必要 生じることが予想されます。 不可欠となります。 しかしながら、これまで津波に対する港 本手引きの中では、港内津波対策協議会 内の船舶の安全対策について検討した事例 (仮称)を設置して港内の津波対策を策定 が少なく、また、陸地に近い沿岸海域で津 することを提案しており、また、併せて津 波を伴う地震が発生した場合、地震発生後 波対策を策定する際の標準的な手順をフ にその対応を検討する時間的余裕がないた ローチャートで示しています。 め、事前に十分な対応策を検討しておく必 要があります。 台風対策などについては、すでに台風対 策などのための委員会などを設置し、適切 そこで、海上保安庁では、港内における な台風災害対策がとられている港も数多く 船舶の津波対策の検討促進をめざして、日 あります。津波対策についても、行政機関 本海難防止協会に「津波が予想される場合 だけでなく、港湾事業関係者や漁業関係者 の船舶安全確保に関する調査研究」を委託 といった当該港湾に関わる方々には、事前 し、 「港内津波対策の検討手引き」を作成 の津波対策の必要性を認識のうえ、津波対 しました。 策の策定に協力いただくようにお願いしま 本手引きは、各方面で検討された既存の す。 海と安全 2 0 0 4・冬号 27 東海・東南海・南海で発生する津波と 被害の予測および津波が船舶に与える影響 く 神戸大学 はじめに 海事科学部 教授 ぼ 久保 まさよし 雅義 年くらいの間に高い確率で発生することが 警告されている。 2 0 0 3年1 0月に神戸大学と統合して1年を 今回想定されている地震と津波は、昭和 迎えた。この1年の間に統合と法人化が同 19年と2 0年に起こった東南海と南海地震の 時に起こった。海事科学部では船を中心と 規模ではなく、江戸時代の安政地震津波の しながら陸上の輸送システムまで研究教育 規模を想定している。 の範囲を広げることをめざしている。 このように歴史的視野を広げると、いま 今回問題になっている東海・東南海・南 まで無視してきた大規模地震津波を無視す 海地震で発生する津波は、明治以降のわが ることはできず、早急な対応が求められる 国の近代化以後、経験したことのない規模 ことになる。地震と津波の広がりからする とされている。このため、まったく事例が と、その対応は多岐にわたる。本論では津 ないために対策の立て方は、数値計算と専 波が港湾に及ぼす影響を議論するが、その 門家や実務者の意見交換によるシナリオ想 なかでも特に、係留船に及ぼす影響につい 定が第1段階の仕事になる。 て検討を加える。 筆者は、文部科学省による「大都市大震 係留船に与える影響 災軽減化支援特別プロジェクト」に参加す ることができた。ここでは、津波の数値計 国立歴史民族博物館から出版されている 算が行なわれており、また専門家集団の集 ドキュメント災害史1)により、係留船に影 まりであることから、かなり深い意見交換 響を与える可能性のある津波の特徴をあげ が可能となった。これらを参考にしながら、 ると以下のようになる。 以下津波による船舶影響シナリオについて ! 考えてみる。 波の特徴を持っている。 津波と港湾計画 津波周期は数分∼1時間程度の長周期 これにより、津波が港や湾内で増幅され る性質を持つことが分かる。特に数分の周 津波の繰り返し周期が1 0 0年を越える場 期は係留船の固有周期とも近く、係留船の 合には、周期が長すぎるためにわが国の港 長周期運動との共振問題において重要な視 湾計画では、検討をせずに港湾計画を策定 点になる。 してきた。しかしながら、最近では東海地 " 震、東南海地震、そして南海地震がここ3 0 28 海と安全 2 0 0 4・冬号 大流速を伴った現象である。 港内での潮流は一般的に小さく、流速は 1ノット以内である。さらに係留船は流れ のような周期の短い波は、消波ブロックに と平行になるように岸壁法線が決められて より消波できるために、岸壁や岸で反射す いる。 るたびに減衰する。しかし波長が長くなる 今津波が港内に入った場合には、半日潮 と、波形勾配が小さくなるために、反射時 の周期と異なるために流向が異なる。これ においてもエネルギーが消耗されない。津 は大きな影響を与えることになる。 波は長周期波の性質を持っていることより、 ! 反射率が1に近くなるためになかなか消え 波高2mより漁船被害が出始め、8m 以上で全損に至る。 ず、湾内で反射を繰り返すことになる。 安政南海地震津波では、大阪で津波の高 津波が大阪湾に侵入すると、約8時間続 さ6mで、千石以上の船が安治川で6 0隻、 くといわれている。このことは、湾内の港 木津川で2 0 0隻が津波で打ち揚げられた。 の場合には単発的、短時間の現象という捉 当時の係留方法は不明であるが、大きな力 え方をすると、間違った結果を導くことを が働くことはこれからも分かる。 示唆している。さらに、潮位の高い時、低 1 " い時の両方で危険性を考慮しておく必要が 長周期波としての特徴 一般的に津波は海底の隆起で起こるもの であるために、緩やかな水位の上昇と下降 ある。 3 " 周期による流向の違い であると捉えられている。しかし先にも記 津波は半日潮よりも周期が短い。このた 述したように、津波は数分∼1時間程度の めに湾や港の大きさにより共振特性を持つ 長周期波の特徴を持っている。 ことになる。 ! [図1]津波による長周期波の発生 津 波 2. 5 2. 0 1. 5 1. 0 0. 0 − 0.5 − 1.0 流向の違いによる係留船流体力への影 響 津波高 さ 周期によって、港内の流れの方向は著し く異なる。この流向の違いは係留船流体力 波高 に大きな影響を与えることになる。 【図2】 は1万トンのタンカーが係留している場合、 0 60 120 180 240 300 360 時間(分) 流れの向きにより船が受ける流体力の違い を示したものである。横方向から受けると 大きな力になることが分かる。これらの力 【図1】は、京都大学の河田恵昭教授によ [図2]津波の流向による流体力変化 る津波時間波形の数値計算の事例である。 これより津波が段波ではなく、いろいろな 長周期成分を持つ長周期波の合成されたも 定反力防舷材 許容荷重 145 トン 流圧力は 小さくなる のであることが分かる。 2 " 反射率はほぼ1である 反射率は波長に依存する。風波やうねり 721 トン 984 トン 流速が2 m / s の場合 海と安全 2 0 0 4・冬号 29 は、フェンダーの破壊や係留索の破断の外 力になる。 ! 流向の違いが船舶接岸運動エネルギー に及ぼす影響 接岸時の船舶の接岸エネルギー E0は、 mV20/2で与えられる。ここに m は船の見か け質量、V0は船の接岸速度である。津波の 中で船が流速 Vt で流されている場合の運 動エネルギー Et は mV2t /2で与えられる。こ のため運動エネルギーと接岸エネルギーの 比は次式にて与えられる。 Et =V2t E0 V20 接岸速度は1 0cm/s 程度であり、津波の 【図3】大船渡町を襲ったチリ地震津波 (大船渡市2)所蔵写真から) 社会システムであったといえる。 一方、現在のわれわれの生活は、油や LNG、LPG といったエネルギーで成り立 っている。沿岸部には多くのエネルギー基 地があり、このエネルギー基地と都市が密 流速を10 0cm/s と想定するとエネルギー 接に結ばれる形で都市生活が成立している。 は約1 0 0倍にも達することが分かる。フェ ちなみに東海地震、東南海地震そして南海 ンダーのエネルギー吸収は、接岸エネル 地震で津波襲来が予想される地域には、約 ギーを対象としていることにより、津波来 300の港湾と約3, 000基のエネルギータンク 襲時に船が津波で流される場合には、接岸 が存在している。 施設は耐えられない可能性が高い。 4 " 陸に打ち揚げられた船舶 わが国は、近代化の過程でエネルギー基 地と都市との密接な関係を築いてきた。し 【図3】は、チリ地震津波の時に大船渡 かし、先の釧路地震でも石油タンクが出火 町に打ち揚げられた船舶の写真である。ど し、これを消火するために全国の消火器が のような経緯で船舶が陸に打ち揚げたかは 集められたといわれている。この時の出火 不明であるが、船舶が打ち揚げられた写真 原因は、地震により発生した5∼7秒の地 はこれ以外にも多く残されている。 震動周期がタンクのスロッシング周期と近 近代化の試練 北海道南西沖地震による火災発生(奥尻 島青苗) の原因は、 一説によると打ち揚げら れた船舶などの燃料であるといわれている。 今回対象になっている前回の地震は、江 かったためにタンク内の油が共振現象を起 こし、中の蓋を壊したと報じられている。 火のつき易いエネルギーがある限り、火災 対策は緊急の課題になる。 津波・ハザードチェーン 戸時代であるために使用するエネルギーは このように見てくると、近代化は多くの 薪などであり、このため生活は不便ではあ 恩恵をもたらしたが、津波と火災の視点で っても火災の面から見れば、非常にタフな 捉え直した時、そこには多くの危険性も内 30 海と安全 2 0 0 4・冬号 包していることに気づく。 されることが想定できる。港湾ごとに危険 記述してきたように、係留船には今まで な構造物は異なるので、何が危険になるか 考えていなかったかなり大きな外力が作用 については港湾ごとの評価が必要になる。 することが考えられる。これを個別に考え 構造物の中で最も危険なのは、エネル るのではなく、災害発生の連鎖として捉え ギータンクや危険物貯蔵タンクである。こ 直してみることにする。 のような物質が流出すれば、津波に乗って まず外力として津波の流れのより船に大 拡散していくことになる。都市側に拡散す きな流体力が作用する。これとは別に津波 る場合には火災に繋がり、海側に拡散すれ が持つ長周期波特性評価も今後の課題とし ば漁業被害に繋がる。水島で油流出事故が て重要になってくる。 起こった時に大きな問題になったが、今回 このような外力により、危険物流出に至 るハザードチェーンが動き始める。 [図4]危険物流出に至るハザードチェーン 船舶と港湾構造物の衝突 は対策を誤れば、水島事故とは比較になら ない大規模災害の危険性を秘めている。 事象間の生起確率は港により、さらには バースにより異なる。これらをできるだけ 正確に評価することが今後の仕事になる。 問題点を評価できれば、自ずとその対策を 立てることができる。 船舶と港湾構造物の破壊 おわりに わが国が築いた近代化に、津波が試練を 油・化学薬品などの流出 与えようとしている。問題の範囲は広く、 かつ深い知識を求められている。被害シナ リオは多岐にわたる。ここで示したこと以 火災発生 環境汚染 外にも、多くのシナリオがありうる。研究 者のみの視点では見えないものがある。 【図4】では船舶としているが、港内の これらを発掘するためには、実務者の経 漂流物としては、これ以外に材木、コンテ 験からくる意見が何よりも重要であると考 ナ、プレジャーボートなどが考えられる。 えている。津波に対して多弁になっていた 材木も岸壁に置かれているが、津波により だき、多くの意見交換が色々な形で出され 流木に化す可能性が高い。 特に、プレジャー ることを切望している。 ボートは生活圏と離れているため、特別の 対策を取らない限り、津波時の避難は不可 能であるため漂流物になる可能性が高い。 このような漂流物が、かなりの流速で構 造物に衝突するとき、各種の構造物が破壊 <参考文献> 1) =国立歴史民族博物館:ドキュメント災 0 0 3, pp. 1 0 0―1 2 0, 2 0 0 3. 害史1 7 0 3―2 2) =http : //www.iwate―np.co.jp/index.html 海と安全 2 0 0 4・冬号 31 「津波・高潮ハザードマップマニュアル」と その普及への取り組み 国土交通省河川局海岸室 はじめに 課長補佐 かどゆ かつのり 角湯 克典 特に、適切な避難に必要な津波・高潮の 危険度、避難場所・避難経路および避難の わが国は地震多発国であり、それによる 判断に資する情報を住民に提供するための 津波被害の発生が懸念されています。東海 ソフト対策として、ハザードマップは大き 地震はいつ発生してもおかしくない状況に な役割を果たします。このことから、国土 あり、東南海・南海地震は今世紀前半に発 交通省では、平成16年3月9日に、津波・ 生する可能性が指摘されています。昨年、 高潮ハザードマップ(以下、 「ハザードマ 内閣府が行った検討結果によると、東海地 ップ」という)の作成・活用にあたり、自 震と東南海・南海地震が同時に発生する可 治体にとって必要なノウハウをとりまとめ、 能性もあり、同時発生の場合、揺れによる 内閣府、農林水産省と協力して作成した「津 被害、津波による被害ともに過去最悪の事 波・高潮ハザードマップマニュアル(以下、 態となり、死者数約2万5, 00 0人、うち津 「マニュアル」という)」を発刊し(マニ 波による死者数は9, 0 00人を上回る可能性 ュアルの構成は【図1】参照) 、ハザード があるとされています。 マップの普及の促進を図っています。 また、高潮災害は近年増加傾向にあり、 本稿では、ハザードマップの概要、その 伊勢湾台風以降、施設整備は進んでいるも 作成手順や利活用方策、現状におけるハ のの、依然として被害が発生しており、平 ザードマップの作成・公表状況、マニュア 成1 1年には九州の八代海において1 2人の死 ルの説明会など、ハザードマップ普及に向 者と8 4 5軒の全壊・半壊による被害があり けての取り組みなどについて紹介します。 ました。本年8月には、四国の高松におい て多数の浸水被害があったのは記憶に新し いところです。 ハザードマップの概要 ハザードマップとは、津波・高潮災害に こうした災害から住民の生命を守るため より浸水が予測される区域と浸水の程度を には、ハード面とソフト面の防災対策の連 示した地図に、必要に応じ避難場所・避難 携が必要となります。適切な施設整備など 経路などの防災情報を加えたものです(【図 のハード対策により、防災水準を向上させ 2】参照)。ハザードマップは分かりやす つつ、防災情報の共有などのソフト対策に く使いやすい形態とし、災害の際にハザー より住民の自衛力向上を図り、被害の軽減 ドマップを適切に避難に活用するための蛍 を促進させることが重要になります。 光化、耐水化などの工夫が必要です。また、 32 海と安全 2 0 0 4・冬号 【図1】「津波・高潮ハザードマップマニュアル」の構成 ハザードマップの作成手順 本編 第1章 高潮津波・ハザードマップ の必要性と位置付け 第2章 津波・高潮ハザードマップ の概要 第3章 浸水予測区域の検討方法 第4章 浸水予測結果からの津波・高 潮ハザードマップの作成方法 第5章 津波・高潮ハザードマップ の周知、住民理解、利活用等 参考資料編 参考資料−1 時系列を考慮した数値シュミュ レーションによる浸水予測 1.津波浸水予測計算 2.高潮浸水予測計算 ハザードマップは、!浸水予測区域の設 定、"津波・高潮防災情報の表示の手順で 作成します(【図3】参照)。浸水予測区域 の設定においては、津波・高潮外力の条件 参考資料−2 津波・高潮防災対策における津波 ・高潮ハザードマップの活用例 の設定や施設の条件の設定などを行うとと 参考資料−3 関連ホームページリスト もに、浸水予測などのシミュレーションを 実施します。浸水予測においては、最悪の シンプルで分かりやすく図化して公表する 浸水状況を想定した外力設定を行うことを と固定化されたイメージを住民に与えるこ 基本としています。 とも懸念されるため、イメージの固定化に また、津波・高潮防災情報の表示におい つながらないための表現の工夫が必要です。 ては、記載事項の設定や表現方法の設定と ハザードマップは、津波・高潮による被 いった表示すべき防災情報の内容設定と、 害軽減に向けた、避難計画の策定、防災教 必要事項の記載、必要情報の図化といった、 育、防災意識の啓発、防災を意識したまち 具体的な表示情報の作成を行います。その づくりや住民とのリスクコミュニケーショ 際、ワークショップなどにより地域独自の ンなどのツールであり、また、災害発生時 情報を盛り込むといった工夫が重要となり の避難行動に役立てることが最大の目的で ます。 あるため、地域の状況を把握しており、住 民の避難に関して責任を有する市町村が作 成することとしています。 ハザードマップの周知、 住民の理解、利活用などを なお、津波と高潮はともに海岸からの浸 作成されたハザードマップについては、 水による災害ですが、その原因や災害パ 印刷物の配布、防災掲示板の設置、ホーム ターン避難方法などが異なることから、原 ページへの掲載などを適切に組み合わせて 則として個別に作成するものとしています。 周知することが望ましく、身体障害者や高 【図2】 ハザードマップの一例 齢者、外国人など災害時要援護者となりう る方々や、観光客、ドライバーなどの住民 以外への周知方法についても考慮する必要 があります。住民の理解の促進方法として は、ハザードマップの作成段階における地 域情報の反映などのための地域住民の参画 やハザードマップの意義、記載内容、避難 方法について住民理解を促進するため、ハ ザードマップに関するワークショップの開 海と安全 2 0 0 4・冬号 33 催が有効です。 成主体である市町村の防災担当者にとって、 また、各種施設の整備進捗、社会状況の !ハザードマップがどのようなものである 変化、予測技術の進歩などを考慮し、必要 か具体的なイメージがわからない。"ハ に応じて、ハザードマップの内容の検証や ザードマップは誰のために作成し、どのよ 見直しを行うことが必要です。 うに活用するものであるかが明確でない。 なお、ハザードマップの整備、周知、活 #ハザードマップ作成方法が難しい(技術 用を促進させるためには、その重要性など 力不足) 、多額の費用を要する。などが挙 を自治体における防災関連の諸計画に位置 げられます。 づけることなどが重要です。 【図3】津波・高潮ハザードマップ作成・活用の流れ ハザードマップ普及に 向けての取り組み 1)ハザードマップマニュアル説明会 国土交通省、内閣府および農林水産省は、 平成16年3月に「津波・高潮ハザードマッ プマニュアル」を発刊し、全国の沿岸自治 体などに配布しました。予定部数だけでは 足りず、数多くの要望を受けて増刷せざる を得ない状況となり、非常に反響の大きい ものとなりました。 また、平成16年4月から5月にかけてマ ニュアルの説明会を全国で開催し、全10カ 所の会場において延べ1, 100人を超える参 ハザードマップの作成と公表状況 加者が聴講しました。参加者は主に市町村 の職員、都道府県の職員などとなっており、 国土交通省は農林水産省と協力して、海 熱心な質問や意見が数多く出されるなど、 岸保全区域を有する市町村について、ハ 大変有意義な説明会となりました。すべて ザードマップの作成、公表状況を調査しま の説明会をマスコミにオープン(一切の取 した。調査結果によると、平成1 6年5月時 材制約なし)にしたこともあり、多くの新 点において、全国の海岸保全区域を有する 聞社や放送局などの記者から取材があり、 9 9 1市町村のうち、95市町村(約1 0%)が 実際に記事に掲載されたり、夕方の地方ニ 津波ハザードマップを( 【図4】参照) 、6 ュース番組で放送されました。 市町(約0. 6%)が高潮ハザードマップを 作成・公表しています。 ハザードマップの全国的な整備が進んで いない要因としては、ハザードマップの作 34 海と安全 2 0 0 4・冬号 これらのことから、地震防災に対する関 心の高さを伺わせるものと再認識しており、 今後の津波・高潮防災対策の進展とともに、 ハザードマップの普及が期待されます。 津波ハザードマップ作成・公表状況 ■ ■:作成・公表済 「浸水予測区域」「避難場所」の記載がある ■:作成・公表済 「浸水予測区域」もしくは「避難場所」の記載がない ■:未公表 ※海岸沿い市町村単位で色分けしています。 ※無着色は海岸保全区域がない市町村です。 【図4】市町村別の津波ハザードマップ作成・公表状況 2)ハザードマップ普及に向けての今後の メッシュ、予測手法)、表現・形態(記載事 取り組み 項、不確実性の考慮、大きさ) 、ワークシ ハザードマップマニュアル説明会におけ ョップの実施(地域特性・住民意見の反映)、 る意見交換では、作成主体となる自治体か 周知・理解促進・利活用方法(配布方法、活 ら、マニュアル記載の技術的内容・活用方 用例)について整理することとしています。 法などの要点に加え、実際に作成過程など が把握できる作成事例や作成地域の都市規 おわりに 模や地形状況に応じた作成方法についての 津波・高潮防災上の主な課題としては、 具体的な情報の提供に関して、強い要望が 防災意識の低下による住民の自衛力の低下、 ありました。 災害を受けやすい海岸特性、避難対象地域 このため、国土交通省は農林水産省と協 の設定の困難さなどが挙げられますが、ハ 力して、各作成主体が、すでにハザードマ ザードマップは、住民の自衛力向上のため ップを作成した自治体が作成時に工夫した の避難対策などのソフト面の役割だけでな 点などを、参考にできるような事例集を作 く、防護水準向上のための施設整備検討支 成することとしました。事例集はマニュア 援などのハード面の役割を担うことから、 ルの別冊という位置づけとし、マニュアル その整備が急がれます。本稿が、市町村に のポイントである整備主体と役割分担、浸 おけるハザードマップの整備の推進の一助 水予測区域の設定 (外力、施設条件、地盤高、 となれば幸いです。 海と安全 2 0 0 4・冬号 35 津波とは?<津波から命を守るために> 気象庁 ばんどう きょうこ 文書・情報管理官 板東 恭子 うえ の ひろし 地震火山部地震津波監視課 上野 寛 総務部総務課 日本近海で発生している 津波のメカニズム 【図1】 海溝型巨大地震によって 発生する津波の模式図 地球上で発生する津波のほとんどは、海 底で発生する地震によって起こります。日 本近海もその例外ではなく、太平洋沿岸ま たは日本海沿岸の海底で地震が発生するこ とによって、津波が発生しています。 日本およびその周辺には太平洋プレート、 フィリピン海プレート、ユーラシアプレー ト、北米プレートが存在し、その境界付近 では海溝型の巨大地震がたびたび発生して います。その模式図を【図1】に示します。 海のプレートが陸のプレートに沈みこん でいる 【図1】 の!が、この際に陸のプレー トが海のプレートに引きずり込まれ、ひず みがたまります( 【図1】の")。このひず 原因となります。 みが限界に達したときに、陸のプレートが 津波予報と津波予報の発表と通知 跳ね上がることによって巨大地震が発生し ます( 【図1】の#) 。この時に上下左右に ! 津波予報 地殻変動が発生し、その上にある海面を変 気象庁では津波災害軽減のために、地震 化させ、津波が発生します。この地殻変動 が発生してから約3分を目標に津波予報を は、同じ地震の規模(以下、マグニチュー 発表しています。まず、津波の高さを海岸 ド)であっても震源が浅いほど、またマグ 各地で細かく予測できるように、数値シミ ニチュードが大きいほど、大きくなります。 ュレーションにより、あらかじめ計算した そのため津波は震源の深さ、マグニチュー 結果を蓄積しておきます。 ドに大きく左右されます。 このデータを基に、予想される津波の高 このような海溝型巨大地震の他にも海底 さによって、津波警報(大津波、津波) 、 地滑り、火山爆発、隕石衝突なども津波の 津波注意報(津波注意)の3つに分け【表 36 海と安全 2 0 0 4・冬号 1】 、全国の沿岸を6 6に分けた津波予報区 察庁などの関係省庁、NHKや民放などの 【図2】ごとに発表しています。また、各 報道機関やNTT、地方自治体などがあり 地の満潮時刻、津波の到達予想時刻も津波 ます。国民は、主に報道機関や各市町村な 予報に続いて発表します。実際に津波を観 どを通して、津波予報を知ることになりま 測した場合には、津波の到着時刻、高さを す。気象庁のホームページ(以下、HP) 随時発表します。 <http : //www.jma.go.jp/JMA_HP/jp/ wave_j/>でも確認することができます。 【表1】 津波予報の種類 船舶関係者には各地方公共団体から無線 発表される津波 の高さ 予報の種類 大津波 津波警報 津波 津波注意報 津波注意 3m、4m、6m、 8m、10m以上 などで伝達されています。また、海上保安 庁から NAVTEX注)として伝達されます。 沿岸50km以内の海域の警報については、 1m、2m 海上保安庁の HP を介して携帯電話でも利 0.5m 用 で き ま す。詳 細 は、海 上 保 安 庁 の HP <http : //www.kaiho.mlit.go.jp/>を ご 覧 【図2】 津波予報区の例 ください。 注) =主に沿岸から約3 0 0海里までの航行中 福井県 相模湾・ 三浦半島 伊勢・三河湾 瀬戸内海 沿岸 大阪府 淡路島 南部 沿岸 愛媛県 瀬戸内海沿岸 の船舶に対する航行警報等の海上安全情報 津波防災広報用ビデオの制作 静岡県 三重県南部 ! 徳島県 制作の目的 内海 愛媛県 宇和海沿岸 道沿岸 平成15年に発生した十勝沖地震や平成14 年に発生した沖縄近海の地震では、津波警 報や津波注意報が発表されているにもかか わらず、津波の様子を見るために海岸へ近 津波予報区の全国版は気象庁 HP からご覧頂けます(http : // www.seisvol.kishou.go.jp/eq/fig/tsunami_yohoku.pdf) 。 づく人がいるなどの事例がみられました。 このため、気象庁では、津波の恐ろしさ " 津波予報の伝達 を十分に理解していただくとともに、津波 気象庁では、気象業務法に基づき、本庁 の事例や発生メカニズムを分かりやすく説 および各管区・沖縄気象台で津波予報を発 明し、迅速な避難行動を促すための広報用 表し、各地方気象台などを通して、津波予 ビデオ「津波から命を守るために!」(CD 報を関係機関に通知(伝達)しています【図 ―ROM)を平成1 6年6月に制作しました。 3】 。通常は地上の電話回線を用いて伝達 " しますが、通信障害時には、衛星を経由し 1)オープニング:過去の津波被害の映像 て伝達します。 伝達先には、内閣官房、海上保安庁や警 ビデオの概要 や写真 2)津波被害国日本:日本における過去の 海と安全 2 0 0 4・冬号 37 【図3】 津波予報の伝達経路図 津波被害の映像と説明(日本海中部地 などがあげられます。 震、北海道南西沖地震など) ! 3)津波体験:大津波のCG映像による津 ビデオ制作にあたって ビデオの制作は、 「CGや実写や実験場 波体験や実験装置を用いた津波の様子、 面を入れ込むようにして、体験に訴えるこ 5 0cm 程度の津波での被害写真 とのできるもの」というコンセプトの確認 4)津波の説明:津波の発生のしくみと特 徴についての説明 5)津波に対する注意:津波から命を守る ためにどうすればいいかの説明 6)エンディング:津波に対する注意の再 確認 から開始しました。 今回のビデオは、 「ツナミ博士」と女性 アシスタントの「さちよクン」の2人の会 話により話が進んでいく構成です。2人の 会話の中に、津波がどんなに恐ろしいもの で、そこからどう命を守ればよいのかにつ ポイントとしては、小学生でも集中力が いての情報を埋めこんでいきます。その過 続くと思われる1 7分という時間にしたこと、 程では、 「表現上不正確なもの」や「誤解 実際の津波の速度を基本に津波が迫ってく を受けそうなもの」、 「流れが不自然なもの」、 る映像を真正面から見た場合のCG映像を 「防災上の観点から他の表現を考えたほう 通して津波のこわさを体感してもらうこと、 がよいもの」などについて考慮しながら作 避難することの大切さを繰り返したこと、 業を進めていきました。 38 海と安全 2 0 0 4・冬号 子供にも理解できるような分かりやすい 表現で、かつ飽きずに見てもらえるもの、 読者の皆さんへ 書いてしまえば一言で終わるのですが、実 最近の津波予報技術の向上により、昔よ 際にはなかなか気を使う、骨の折れる作業 り早くかつ正確に津波予報を発表すること でした。 が可能になりましたが、震源が陸に近い場 ! 合は、津波予報が発表される前に津波が来 ビデオの配布 こうして完成したビデオは、CD−ROM 襲する場合があります。海岸で地震を感じ の形で、気象庁の各地方気象台などを通じ、 たときは、ただちに海岸から離れるように 全都道府県、全市町村に配布しました。ま してください。また、地震を感じなくても、 た、!気象業務支援センターから市販(税 津波予報が発表されたら、ただちに海岸か 込み5 0 0円)されています。気 象 庁 の HP ら離れ、急いで高台などの安全な場所に避 でもダイジェスト版を掲載しているので、 難してください。 ぜひ一度ご覧ください。 http : //www.kishou.go.jp/books/tsunami 津波から自分の命を守るためには、各自 の心がけが一番重要となります。 /tsunami.html 気象庁が国民への津波の関心を深め、迅速な避難を促すために作成した CD―RM のジャケット 海と安全 2 0 0 4・冬号 39 「津波防災情報図」の活用を 海上保安庁 海洋情報部技術・国際課 津波防災情報図とは 地震調査官 わたなべ かずき 渡辺 一樹 この時の津波のように、地震発生後にテ レビやラジオから津波警報が放送されてか 津波の伝播する速さが水深の平方根に比 らでは、避難が間に合わない場合もありま 例することは以前から知られていました。 す。あらかじめ津波の動きを計算して理解 つまり、海域における水深のメッシュデー していれば、警報などを待たずに避難行動 タが整備されれば、津波の動きを再現する を起こして、人身や財産が救われるケース ことができます。しかしながら、そのため も生まれてくるでしょう。 には、膨大な量の水深メッシュデータの整 現在では、海域で地震が発生し津波の危 備と、数値計算を行えるだけの計算機の能 険性が生じた場合、気象庁から津波注意報、 力向上を待たなければなりませんでした。 津波警報が発せられます。これは海域を適 近年になって、水深メッシュデータも整備 当な広さで区分し、ある海域である大き され、計算機の能力が向上して、港湾周辺 さ・深さの地震が発生した場合を想定して、 などの狭い海域での津波のシミュレーショ 津波の動きを数値シミュレーションにより ンが可能になりました。 予測することによって可能になっています。 今回は、東海地震、東南海地震、南海地 この数値シミュレーションは全国的に適用 震を想定して、神奈川県から高知県にかけ できるような大きなスケールで実施してい て襲来が予想される津波の数値シミュレー るものでしょう。 ションを行いました。津波防災情報図は、 海上や港湾内の安全に携わる者にとって この数値シミュレーションをもとに主要港 は、このような全国的なシミュレーション 湾周辺の津波の動きを図示したものです。 に加えて、さらに細かい沿岸域や港湾内で 各港ごとにA2版ほどの図面「進入図」 「引 の津波の動きを知ることができれば、具体 潮図」 と、津波アニメーションファイル (G 的な避難行動計画を検討することができま IFファイル)を作製しました。 す。 これまでの経緯 近年の日本での津波による大きな被害と 譛日本水路協会による 「港湾域における津波の挙動の調査研究」のモデル港 年度(平成) 8 9 想定地震 1983年 日本海 中部地震 1933年 三陸地震 1944年 昭和東南 海地震 1946年 昭和南海 地震 モデル港 能代港 秋田港 酒田港 宮古港 釜石港 大船渡港 尾鷲港 須崎港 しては、1 9 9 3年の北海道南西沖地震津波に よる被害が挙げられます。津波は地震発生 直後に奥尻島の青苗地区を襲い、大きな被 害を与えました。 40 海と安全 2 0 0 4・冬号 10 「津波防災情報図」の作製海域 年度 (平成) 14 15 想定地震 中央防災会議公表の 想定東海地震 中央防災会議公表の 想定東南海地震、想 定南海地震 作製海域 江ノ島付近、新島、 下田港、松崎港、宇 久須港、沼津港、田 子の浦港、清水港、 焼津港、御前崎港、 浜名港 豊橋、蒲郡、衣浦港、 名古屋港南部、名古 屋港北部、 四日市港、 鳥羽港付近、 尾鷲港、 串本港付近、 田辺港、 下津付近、堺泉北、 大阪、神戸、徳島小 松島港、高知港、土 佐清水港 (図名) 津波防災情報図の内容 津波を引き起こす地震による海底の変位 モデルには、中央防災会議から公表されて いる東海地震、東南海地震、南海地震の震 源モデルを使用しました。 まず、震源域を含む広い海域の水深メッ シュデータ(1次メッシュ、4, 05 0m メッ シュ)を作製し、津波のシミュレーション 平成7年の阪神淡路大震災を機に地震に を行います。ここから作図対象とする港湾 対する防災意識が高まるなか、平成8年度 に至るまで、順次小さいメッシュでの計算 から!日本水路協会が日本財団から事業補 にシミュレーション結果を引き継いでいき 助金を受けて、港湾域における津波の動き ます。最終的に作図する港湾周辺では50m に関する基礎的な調査研究を始めました。 メッシュ(5次メッシュ)で数値シミュレー 当時、過去の津波に対する経験的な知識と ションを実施しました。 数値シミュレーションに対応できるだけの 主要な港湾を中心に2万から3万分の1 水深データベースが整備されつつありまし の縮尺でA2版程度の大きさに地域を区切 た。 ってシミュレーションを行いましたが、 平成1 0年度まで続いたこの事業のなかで、 時々刻々と変化する津波を2次元の図面に 過去の津波被害の事例研究、計算手法の検 表現することはたいへん難しいものでした。 討、津波シミュレーションと実際の津波と 津波の動きを表現するためには、位置(経 の比較を行っています。この3年間にモデ 緯度)と津波の高さ、さらにそれに時間軸 ル港を設定し、各港における数値シミュ が加わり、4次元で起きている事象を2次 レーションの結果を評価・検証しています。 元の図面に表現しなければなりません。 この時期に港湾域での津波の数値シミュ レーションの基礎が築かれています。 今回は、陸から見た津波の押波と引波の 影響が最も大きくなる時に着眼し、 「進入 引き続き海洋情報部では、平成1 3年度に 図」と「引潮図」を作製しました。進入図 津波防災情報図の試作版を作製・検討し、 は、満潮時に押波が押し寄せる場合の最大 1 4年度に東海地震を想定した津波防災情報 水位上昇量、最大流速・流向を図示したも 図、1 5年度に東南海地震・南海地震を想定 のです。引潮図は、干潮時から引波が引い した津波防災情報図を作製しました。図の ていく場合の最大水位低下量、最大流速・ 作製にあたっては、 「津波防災情報図検討 流向を図示したものです。進入図、引潮図 会」を開催し、津波の研究者の方々からも を読む時には、それぞれの地点で最大水位 助言を受けております。 上昇量、最大水位低下量、最大流速・流向 が表されていますが、最大となる時間はそ 海と安全 2 0 0 4・冬号 41 清水港の進入図(満潮時を想定した図) 色調で水位表示 矢印で流向 ・流速表示 凡例 ○ 経時変化図出力点 最大水位上昇 550∼最大600cm 500∼550cm 450∼500cm 400∼450cm 350∼400cm 300∼450cm 250∼300cm 200∼250cm 150∼200cm 進入時最大流[knot] 3knot 2knot 1knot 図の凡例 水位の経時 変化グラフ れぞれの点で異なることに注意してくださ にはPDFファイル形式で保存し、ファイ い。 ルサイズも数メガバイト以内の大きさに納 津波による水位の時間変化を表現するた まっています。 め、代表的な地点における水位変化のグラ さらに平面図では十分に表現できない津 フを図の左に掲載しました。図は、最終的 波の動きをパソコンの画面で表示するよう 42 海と安全 2 0 0 4・冬号 に、津波アニメーションをGIFファイル のような他の簡便な手法を開発した方がよ で作製しました。このGIFファイルを画 いでしょう。 面上で表示すれば、時々刻々と変化する水 さらに、 「津波防災情報」という語を聞 位変化を色合いで、流れの流向流速を矢印 くと、一般には例えば、浸水域や避難施設 の向きと長さで読み取ることができます。 の所在場所などの「陸域での防災情報」が このGIFファイルのサイズも数メガバイ 記述されているのではないかと思われるで ト以内の大きさに納め、事務用のパソコン しょう。しかし、海上保安庁には、陸域の レベルのマシンでも十分動作するように配 防波堤、防潮堤、堤防、陸こう(陸上に設 慮しました。 置された水門) 、港湾施設などの位置・形 課題と問題点 一方、今回の津波防災情報図の作製にあ たり、多くの課題と問題点に直面したのも 事実です。津波防災情報図は、港湾内など 態・強度のデータがないため、陸上の浸水 域などの情報を描くことができませんでし た。 活用方法 の狭い地域の詳細な津波の動きを把握でき 今回作製した津波防災情報図は、中央防 るという長所があります。しかし、想定し 災会議から公表された東海、東南海、南海 ている地震の震源モデルが大幅に異なる場 地震の震源モデルを使用しています。この 合や、別の場所で異なる規模で発生する地 中央防災会議の震源モデルから被害想定が 震による津波まで、すべて津波の動きを共 なされ、法律に基づく地震災害対策強化地 通して表現しているものではありません。 域の指定がなされています。 港湾内などの狭い地域で詳細な津波の動 将来、東海、東南海、南海地震がこのよ きを再現するためには、正確な震源モデル うに想定されている震源モデルに近い形で が必要であり、別の大地震による津波をシ 発生した場合には、津波防災情報図は各港 ミュレーションするためには、別の震源モ 湾における津波の動きをかなりの確度で再 デルを用いて再計算しなければなりません。 現しているでしょう。 それぞれの大地震による津波を再現するた 地方の港湾の防災担当者が中央防災会議 めには、個々の震源モデルごとに再計算を 公表の想定、東海、東南海、南海地震の発 しなければならないという欠点があります。 生を仮定し、港湾内とその周辺の沿岸海域 また、この方法では、1つの震源モデル における防災避難計画を検討する際に、こ から港湾までのシミュレーションを完成さ の津波防災情報図で示した津波の詳細な動 せるのに、かなりの時間を要してしまいま きが大いに役立つと期待されます。 す。例えば、異なる多くの地震津波に対し また、地方の港湾の防災担当者が臨海地 て、特定の港での津波の到達時間だけを必 域の津波による被害などを検討する際、こ 要とするような場合には、その港から見た の津波防災情報図を参考資料として活用で 多くの想定地震による津波の到達時間線図 きるのではないかと期待しています。 海と安全 2 0 0 4・冬号 43 GPS 津波計開発への取り組み 日立造船!技術研究所 はじめに 生産技術研究室 室長 てらだ ゆきひろ 寺田 幸博 す【図1】。この GPS 津波計は、海面の変 位を数 cm の精度で検出します。その観測 Hitz 日立造船株式会社は、資本金約2 50 情報を、インターネットでリアルタイムに 億円で大阪と東京に本社を置き、連結従業 常時発信することによって、 「誰でも、ど 員8, 0 0 0人余りで環境機器を中心に、橋梁 こからでも」観ることができるようにする などの鉄鋼構造物、各種機械やプラントの ことを開発の基本コンセプトとしています。 設計製作据付を行う総合重工業会社です。 近年、東海地震、東南海地震、南海地震 連結での年間売り上げは約3, 40 0億円です。 などの発生確率が示され、これらの海溝型 創業12 1年を迎えた200 2年1 0月に社名に 地震に伴う津波に対する防災システムの充 もある造船部門を切り離し、当時の日本鋼 実が喫緊の課題となっています。 管!の造船部門と統合してユニバーサル造 有効な津波防災システムが構築でき、津 船!を設立し、協調して事業を行っていま 波の監視・検知からデータの伝達・避難勧 す。分離後は、伝統ある日立造船の名に 告、さらには防潮堤開口部の門扉の開閉制 Hitz の愛称をつけて、脱造船の事業展開 御に活用できるシステムが実用化されれば、 に向けて邁進中です。 それは地域に住む住民に計り知れない安心 技術研究所は大阪市大正区に所在し、約 感を与え、地域の発展基盤として大きな貢 1 5 0人の職員で新しい事業展開に向けた研 献が期待できます。また、日本列島だけで 究開発に取り組んでいます。基礎と要素技 なく世界の沿岸に多数設置してネットワー 術に重点を置いた研究と、より製品に密着 クで結び、これらのデータを活用すること した応用研究とを有機的に組み合わせて、 幅広い技術分野に対応しています。 ここで紹介する GPS 津波計も、このよ うな多彩な研究者群に支えられて実用に至 っています。 GPS 津波計って? GPS 津波計は、海面の変位に追随して 動く沖合洋上 ブ イ の 変 位 を GPS(Global Positioning System)で計測することによ って、津波をいち早く観測するシステムで 44 海と安全 2 0 0 4・冬号 【図1】 GPS 津波観測システム によって、世界的な災害軽減にも貢献する の変位を数 cm の精度で検出し、GPS 津波 ことが可能になります。 計の実用化に向けた技術開発が可能である このためには、大水深沖合海域における 津波の観測と検知が必要となります。気象 ことを、この基礎機能実験で明らかにする ことができました。 庁では、1 9 9 9年春から津波予報の大幅な改 この成果を受けて、平成12年度には文部 善を実施し、防災上の大きい情報発信がな 省の地域連携型研究費補助金テーマに採択 されています。現状では、地震動の揺れを され、岩手県大船渡市の支援のもとに GPS 検知することによって津波を推定していま 津波計の実用化実験を開始しました。この すが、やはり、発生した津波を沿岸に来襲 GPS 津波計による津波・海象情報モニタ する前に大水深沖合海域で計測し、その性 リングは、平成13年1月23日から平成16年 状を捉えることが最も良い方法だと考えて 1月10日まで継続しました。 います。 この間に、平成13年6月25日に来襲した 従来技術では、大水深沖合海域における 津波高約10cm のペルー沖地震津波や、平 信頼性の高い長期間にわたる津波観測は、 成15年9月26日に来襲した津波高約15cm 技術的条件と設置・運用におけるコスト面 の十勝沖地震津波を観測し、その実用性を で、社会的な要請に十分応えることができ 証明することができました。 ていません。 この津波観測システムは、大船渡市の津 この状況下で、宇宙技術を使い、これま 波避難訓練のセンサー役を果たすなど、大 での方式とはまったく原理を異にした計測 船渡市の津波防災への実際的取り組みにも 方法を提案してきました。すなわち、GPS 貢献してきました。この間、シップ・アン の測位精度の向上に着目し、あるいは独自 ド・オーシャン財団の補助金を得て、PVD の高精度測位法を開発して、海上に浮かべ 法(Point Variance Detection method)や たブイの最上部に取り付けた GPS アンテ KVD 法(simple Kinematics of Variance ナ位置を精密に測位し、その上下動の時系 Detection method)と名付けた独自の新し 列データを海面高の変位として津波を計測 い GPS 測位法の開発にも取り組み、その する装置を GPS 津波計と名付け、その開 基本機能を明らかにしてきました。 発を進めてきました。 GPS 津波計開発の経緯 平成14年度には、GPS 津波計測システ ムの開発は、文部科学省の独創的革新技術 開発補助金テーマに採択されました。この 平成1 0年度に、東京大学地震研究所の加 開発には、当初からの東京大学地震研究所 藤照之教授を研究代表者として、文部省の の加藤照之教授に加えて、波浪研究の専門 研究費補助金を得ることができ、相模湾の 独 港湾空港技術研究所の永井紀彦 家である" 油壺で基礎機能実験を実施しました。 室長や津波研究の専門家である!阪神淡路 GPS 測位法の1つであるリアルタイム 大震災記念協会・人と防災未来センターの キネマティック(RTK)法によって海面 越村俊一専任研究員に参画いただき、産官 海と安全 2 0 0 4・冬号 45 学4機関連携の協力体制を構築して推進し ています。 大水深域に設置できるブイと係留系をあ 防災システムとしての視点 津波の発生を止めることはできませんが, らたに設計製作し、平成1 6年4月には GPS その襲来の予測と情報の適切な伝達によっ 新測位法などの種々の測位法を組み込んだ て,被害を最小限にすることができます。 実用システムを室戸岬沖1 3km に設置【図 GPS 津波計は、この機能に大きく貢献で 2】して、現在も観測を続けています。 きます。 【図2】 室戸岬沖に設置した GPS 津波計 海面変位は、海上を吹く風に起因する波 浪、海溝型地震に伴う津波や主として太陽 と月の引力に関係する潮汐が基本的な事象 です。これらの中で、津波は、その周期が 数分から数10分であり、その波高は深海で は低く浅海域では高くなる傾向にあります。 気象庁の津波注意報は0. 5mで出され、 1m、2mでは津波警報となり、これ以上 は大津波警報が出されます。津波のエネル 観測結果は、3 0秒ごとに更新されるリア ギーは大きく、浅海域において後続の波が ルタイムデータとしてインターネット上で 重畳するなどのことから、打ち上げ高さが 配信し、室戸市役所総務課防災担当部門や 数10mになる場合があります。沿岸防災の 室戸消防署で連続監視を続けています。こ 観点から見ると津波はきわめて重要な現象 れは http : //www.tsunamiGPS.com/で広 であるが、稀にしか発生しない現象である く一般に公開しています。 ため、波浪や潮汐のような定常的な津波観 この GPS 津波観測システムは、平成16 年9月5日に発生した津波高約1 0cm の紀 測センサーおよび観測ネットワークは、ま だ構築されていないのが現状です。 伊半島沖地震津波を室戸岬到達1 0分前に捉 一方、外洋における波浪は、周期が数秒 えました。この計測値が津波伝播シミュ から数10秒で最大波高は数10mになります。 レーション結果と極めて良い一致を得るこ これまでの波浪観測は、沿岸域ではナウフ とができたことから、沖合大水深での津波 ァスシステムに代表される海底に設置した 観測が震源域での地震パラメータの決定に 超音波波高計を用い、外洋では船舶乗組員 大きく寄与できることを示し、地震・津波 による目視計測に頼っています。潮汐につ 研究の学問的価値が高いとの評価も得てい いては、周期が約12時間であり、その変位 ます。 は海域によって大きく異なることになりま すが、潮汐の記録は、海上保安庁・気象庁・ 国土地理院・港湾関係部局などが全国3 00 カ所に展開する井戸式の検潮所でなされて 46 海と安全 2 0 0 4・冬号 【図3】 GPS津波計による紀伊半島沖地震津波の観測 2 0 0 4年9月6日0:0 0から1時間の表示。下図の0:2 5頃からの立ち上がりが津波高1 0cm の第1波。上図は、同時間帯の波浪を示し、台風 1 8号の影響下で最大波高5m 強。 います。 海象情報を計測し、波浪・津波・高潮・潮 これまでの基礎機能実験から実用化実証 汐の基本データとともに、海上の観測ス 実験に至る一連の研究開発において、GPS テーションとしての役割を果たすことがで 津波計による観測性能は、風波による数秒 きます。 周期の波浪から、数分あるいは数1 0分の津 本来の目的の津波防災の視点では、海溝 波、時間単位で計測が必要な高潮、潮汐な 型地震の震源域に設置できることから、沖 どの計測において、これらを全てカバーで 合での正確な津波情報をいち早く住民に通 きる極めて広い周波数範囲でフラットな周 報できることに加えて、避難勧告や勧告解 波数特性を有していることを明らかにして 除などの公的情報発令に対して的確な判断 きました。 材料を提供できることになります。すなわ 従って、GPS 津波計は津波防災のみな らず、日常的には波浪情報を必要とする船 舶航行、漁業、港湾海岸施工などに対する 適切な海象情報の提供が可能です。 ち、津波災害発生前後における、公助活動 の重要な情報源となります【図3】。 また、海岸に構築された津波防波堤の機 能を守るために不可欠な作業である堤防開 また、これまでは観測手段がなかった沖 口部のゲートの自動開閉システムとの連動 合での潮汐計測データに地球科学分野や水 システムなど、津波来襲の危険にさらされ 産関係者の期待が高まっています。沖合に ながら作業してきた方々の危険回避にも大 展開する GPS 津波計は、気温、気圧、風 きく貢献できます。 向風速、水温、流向流速など多くの気象・ 本技術開発の節目において多くのマスコ 海と安全 2 0 0 4・冬号 47 ミが注目し、多数の報道を繰り返してきた 経緯から、GPS 津波計の役割とその期待 が社会的に認知されていると判断できます。 将来に向けて 津波監視は、国全体の重要課題であり、 これらの社会的要請に十分応えるには、 情報社会資本としての国主導による本シス 先に述べた開発の基本コンセプトである テムのネットワークが構築されることを期 「誰でも、どこからでも」観ることができ 待しています。 る環境を確保して、室戸岬沖実験で実証し これらの GPS 津波計に関する一連の技 ているように正確な基本データを公開する 術開発は、第6回技術開発賞・最優秀賞に ことによって、公助の手が差し延べられる 選定され、平成16年10月8日に国土交通大 までの自助と互助活動における適切な判断 臣表彰を受け、さらなる実機展開への期待 材料を提供することが必要であると考えて が膨らんでいます。 います。 また、研究チームとしてすでに手がけて これらのソフト防災活動の基本である自 いるリアルタイム津波情報とリアルタイム 助、互助、公助活動に大きく貢献し、安全 数値シミュレーションとの融合など、さら で安心なくらしの実現に寄与できることを に付加価値の高い情報発信システムにも発 願っています。 展させたいと考えています。 48 海と安全 2 0 0 4・冬号 津波に関する資料 ○「津波が予測される場合の船舶安全確保に関す ★2 0 0 0: る調査研究報告書」著者: (社) 日本海難防止協 ○「気象海象要覧」著者:日本気象協会 会 !:0 3−3 5 0 2−2 2 3 3 ○「次の南海地震津波時における四国沿岸域住民 ○「よくわかる津波ハンドブック」著者:東海・ 東南海・南海地震津波研究会 定価:7 0 0円 販売:事務局 !0 6−6 2 4 5−4 9 0 1 ○「津波・高潮ハザードマップマニュアル」 (平 成1 6年度版)著者: (財) 沿岸開発技術研究セン ター 定価:2, 1 0 0円 販売:書籍担当 !0 3 −3 2 3 4−5 8 6 1 ○広報 CD−RM「津波から命をまもるために」 著者:気象庁 定価:5 0 0円 販売:気象庁業 務支援センター !0 3−5 2 8 1−0 4 4 0 ○「静岡県市町村災害史」= (財) 静岡総合研究機 構防災研究所のHP ○「地震と津波」=http : //www5d.biglobe.ne.jp / ̄kabataf/tunami.htm <国立国会図書館蔵書から(1 9 9 8∼) > ★1 9 9 8: ○「パプアニューギニアの北西部沿岸域の津波災 害に関する調査研究」著者:河田恵昭(京都大 学) ○「パプアニューギニア津波災害救済国際緊急援 助隊医療チーム報告書」著者:国際協力事業団 ○「沖縄における地震・津波・火山噴火資料」著 者:沖縄気象台 ○「山腹崩壊に伴う津波災害に関する研究」 著者: 桧谷治(鳥取大学) ○「新津波警報伝達システムの普及事業実施報告 書」著者:日本海難防止協会 の避難および被災軽減対策」著者:村上仁士 (徳 島大学) ○「津波による物質移動と環境改変の解明」 著者: 箕浦幸治(東北大学) ○「水底・海辺堆積物に見られる地震および津波 痕跡の研究」著者:都司嘉宣 ★2 0 0 2: ○「近地津波の早期検知手法の開発」著者:大町 達夫(東京工業大学) ○「原子力発電所の津波評価技術」著者:土木学 会原子力土木委員会津波評価部会 ○「湖沼堆積物記録に残された昭和、 安政、 宝永南 海地震津波の検証」著者:松岡裕美(高知大学) ○「次世代レーザー津波計測ネットワークシステ ムの開発研究」著者:伊藤弘昌(東北大学) ○「堆積学的手法による地滑り津波の発生機構の 解明」著者:今村文彦(東北大学) ○「島嶼地域における危機管理に関する研究」著 者:亜熱帯総合研究所 ○「南海道地震津波阪神・淡路大震災被災地から のメッセージ」著者:中川健次 ★2 0 0 3: ○「恐怖の大津波」著者:鵠津波を語り継ぐ会 ○「神戸市地域防災計画 地震対策編南海地震津 波対策」著者:神戸市防災会議 ○「ドキュメント災害史」著者:国立歴史民俗博 物館 ○「日本被害津波総覧」著者:渡辺偉夫 ★2 0 0 4: ★1 9 9 9: ○「GIS を利用した地震防災情報管理の最前線」 ○「GPS 津波計測システムを用いた津波防災シ ステムの開発」著者:加藤照之(東京大学) ○「港湾域における津波の挙動の調査研究」 著者: 著者:地震工学委員会 ○「平成1 5年十勝沖地震調査報告」著者:札幌管 区気象台 日本水路協会 海と安全 2 0 0 4・冬号 49 冬季、北西太平洋で発達する低気圧に注意を 気象庁予報部予報課 きねぶち けんいち 杵渕 健一 はじめに 冬季の北西太平洋は、アイスランド沖の 大西洋北部と並んで、発達した低気圧の存 在することが多い海域です。一般的に、北 西太平洋の低気圧は、日本付近やオホーツ ク海から発達しながら進んでくるもので、 ここで最盛期を迎え、その後は動きが遅く なります。この際、時として低気圧は急速 に発達しながら進んでくるため、北西太平 洋では1∼2日の間に風や波が急速に強ま ることがあります。 図1 アジア地上天気図(2 0 0 4年2月2 4日9時) の一部抜粋 2 0 0 4年2月の低気圧 2 0 0 4年2月2 2日9時に日本海にあった低 気圧は、発達しながら北海道を通過し、2 日後の2 4日9時には千島の東海上に達しま し た。中 心 気 圧 は99 6hPa(2 2日9時)か ら2日間で4 4hPa 下降し、 2 4日9時には9 5 2 hPa になりました。低気圧の中心に近い海 域では、最大風速6 0ノット、波の高さは1 2 メートルを超える猛烈なしけとなりました (図1、図2) 。 図2 外洋波浪実況図(2 0 0 4年2月2 4日9時) の一部抜粋 同じように強風をもたらす台風と比較し て、このような低気圧は強風域が広く、発 以内の海域でした。一方、この事例の低気 達期には移動速度が速いのが特徴です。 圧の最大風速は60ノットでしたが、強風域 例えば2 00 4年の台風第6号の場合、最盛 は中心から南西側1, 400海里、北東側900海 期には9 1 5hPa に発達し中心付近の最大風 里以内まで広がりました。また、熱帯域に 速は1 0 0ノットに達しましたが、風速30ノ ある台風は一般に10ノット程度で移動する ット以上の強風域は中心から半径3 0 0海里 のに対して、この事例のような低気圧は20 50 海と安全 2 0 0 4・冬号 ∼3 0ノット、場合によっては4 0ノットもの を越える暴風は的確に予想できていること 速さで進みます。 が分かります。 このように、冬季の低気圧は広い強風域 この他に、気象庁は解析時刻から24時間 を伴いながら比較的速い速度で移動するた 先までの海上警報を、セーフティーネット め、船舶は低気圧から離れていても最新の やナブテックスを用いて配信しています。 予報・警報に注意し、早い段階から高波や ここでは50ノット以上の暴風を伴う低気圧 暴風への対策をとる必要があります。 を解析した場合、もしくは24時間以内に50 海上悪天予想図と海上警報 船舶の安全な航行を支援するため、気象 ノット以上の暴風を予想した場合に、最大 風速や強風域の広さ、24時間後の低気圧の 予想位置を報じています。また、アジア地 庁は海上の悪天予想図を作成し、JMH で 上天気図にも同様の情報を掲載しています。 配信しているほか、気象庁のHPにも掲載 海上悪天予想図や海上警報で報じる予想 しています。海上悪天予想図には2 4時間予 は、コンピューターを用いた数値シミュ 想図と4 8時間予想図があり、予想図には3 0 レーション(数値予報)による予想図をも ノット以上の風が予想される海域や、海氷 とに、予報官が作成しています。近年、数 や着氷・海霧が予想される海域を示してい 値予報の精度が向上し、この事例のように ます。 スケールの大きい低気圧については、発達 図3は、2月2 2日9時を初期時刻として、 の程度や位置を精度良く予想できるように 2 4日9時を予想した海上悪天4 8時間予想図 なりました。急速に発達する冬季の低気圧 です。図1と比較すると、低気圧の中心位 に対してこれらの資料が有効に利用され、 置や前線の位置はわずかにずれているもの 早めの対策、ひいては海難事故の防止につ の、低気圧の中心気圧や周辺での5 0ノット ながることを期待しています。 おわりに 数値予報の精度は年々向上していますが、 それを支えているのはさまざまな観測に基 づく実況のデータです。船舶から通報され る海上のデータも、貴重な資料として、実 況の解析や数値予報などに有効に活用され ています。より正確な解析・予報・警報の ために、今後とも船舶による観測・通報を よろしくお願いします。 図3 海上悪天4 8時間予想図(2 0 0 4年2月2 2日9時を初期の状態 として2 4日9時を予想) の一部抜粋 海と安全 2 0 0 4・冬号 51 海保だより 海上保安庁 交通部 台風海難への対策 平成1 6年に日本に上陸した台風は1 0月2 5 日現在、1 0個を数えており、1 9 51年に気象 庁が統計を開始して以来、年間上陸数最多 台風により海岸線に乗揚げた船舶 記録を更新中で、今後もさらなる警戒が必 外国船舶にあっては、本邦周辺海域の気 要です。なかでも9月に上陸した台風1 8号 象・海象に不案内な事例が見受けられます。 の記録的な暴風雨や波浪により、瀬戸内海 海上保安官による訪船指導の際は、台風避 において避泊中の船舶の走錨が多発、また 泊時の安全対策を含めた海難防止指導を行 避難勧告に従わず岸壁に係留し続けた船舶 っているところですが、各船社・代理店な が転覆し、多数の死亡・行方不明者を出す どにおかれても、外国船舶の船長、乗組員 海難が発生しています。 に対する情報提供や的確なアドバイスをお そこで、あらためてお願いしたいことは、 願いします。 船舶は台風接近時には最新の台風情報(気 また、各岸壁に置かれている木材などが 象・海象情報)を継続的に把握するととも 今般の台風による高潮、暴風雨、波浪によ に、 り流出し、通航船舶に重大な影響を与える ・港内停泊中に避難勧告が出た場合は、早 おそれのあった事例が相次ぎました。港内 期の避泊措置。 ・事前に避難海域の選定、その海域の底質 と錨かきを十分に考慮。 ・避泊後は、無線の常時聴取、海上保安庁 との連絡手段を確保。 ・錨泊中は、主機関をスタンバイとし、船 橋当直を強化し走錨監視。 や周辺海域に影響を与えないよう、積荷な どの流出防止策をしっかりと行ない、漂流 物などによる二次海難を防ぐためにもご協 力ください。 環日本海での木材流出に対す る海難防止強化月間の実施 に努めてほしいと思います。今年上陸した 木材流出事案は、平成9年1月から平成 台風のように、自分たちの経験を上回る暴 16年9月までに28件発生しており、その発 風雨や波浪を引き起こす可能性があること 生海域は冬季の日本海沿岸で多発(全体の を十分念頭におき、悲惨な結果を未然に防 67%)しており、そのうち船長国籍をみる ぐためにも、台風接近時における安全対策 と95%がロシア国籍でロシア人船員が乗り をしっかりと行ってください。 組んでいる木材運搬船です。また、流出原 因のほとんどが、風速15m/s 以上の気象・ 52 海と安全 2 0 0 4・冬号 海象状況下での甲板上に積み上げた木材の 象・海象情報の入手による荷主、運航者が 荷崩れによるものとなっています。 一体となった早期避難、または自主的な運 海上への木材流出は、通航船舶の安全な 航制限が重要です。 航行の阻害だけでなく、わが国沿岸におけ ※たとえば、本邦向け航行する木材運搬船に対し、 る漁業活動など地域の社会活動に多大な損 荷受け側または代理店側から航行ルート上の悪化 害を及ぼします。 しつつある気象・海象状況を FAX などで情報提 防止策としては、わが国沿岸海域の厳し い気象・海象に関する認識および早期の気 供することが有効であると思われます。 このため、海上保安庁においては、秋か ら冬季にかけて日本海沿岸で発生する木材 月別木材流出事案発生状況 (1997∼2004.9) 流出海難防止への取り組みを強化すること 発生件数 としており、当該海域を管轄する第一、第 件数 7 二、第八、第九管区が連携し、主に、ロシ 6 5 4 3 2 1 0 ア船籍およびロシア船員で構成されている 木材運搬船を重点対象とし、本年11月の1 カ月間を「環日本海木材流出海難防止強化 月間」と定め、集中的な海難防止啓発活動 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 を実施することとしました。 月 当該期間中においては、本邦へ入港する 海域別木材流出事案発生状況 (1997∼2004.9) 日本海 太平洋 18% 太平洋 東シナ海 11% 東シナ海 木材運搬船に対する訪船指導、代理店、荷 オホーツク海 主など関係先への協力依頼や外交ルートに よるロシア政府への申し入れを行うことと オホーツク海 4% し、気象・海象情報の早期入手、荷崩れ防 止対策の徹底、早期避難の励行および木材 流出時の当庁への早期通報などを指導する こととしています。 日本海 67% 日本海で発生した木材流出事案に係わる船長国籍状況 (1997∼2004.9) ロシア フィリピン フィリピン 5% ロシア 95% 荒天のため甲板上に積み上げた木材を流出させた船舶 海と安全 2 0 0 4・冬号 53 簿上は、正規の錨鎖の長さなのに、実際に 海守便り は短い錨鎖になっているのです。 会員が思う台風海難対策 (海守事務局) "は、守錨方法について教育されていな いのではと思われることです。具体的には a.機関の効果的使用を怠る。b.走錨の はじめに 今年は、日本に上陸する台風の多い年で 初期発見が遅れる。ということです。 例えば、 “振れ止め錨”などは、知らな い船員が多く、車両船のような嵩上げ船は、 したが、なかでも台風1 8号や2 3号は、大き 強風を受けるとほとんど真横から風を受け な爪痕を残しました。 るようになり、走錨の原因となるようです。 海守の会員から、台風による海難事故に 私は20年来、韓国やフィリピンの船員と ついての思いが寄せられました。 「海と安 混乗しましたが、彼らの知識のなかには、 全」を購読されている関係者に、ぜひ一読 強風が予想される時の投錨方法を、 「よく 願いたく、次に紹介します。 理解していないのでは」と受け取れました。 Nさんの思い 彼らにパンフレットの配布を 台風1 8号による海難事故は、瀬戸内海や 彼らは、2級航海士の免許証を所持して 外海で多数発生しましたが、これら事故に いますが、走錨の初期に関して、レーダー ついて気がついたことを述べ、何かのお役 観測はしますが、目視観測は怠りがちです。 に立てばと思います。 従って、目視観測の必要性を教えなければ 私は、世界の多くの港において、錨泊中 なりません。また、台風遭遇時の避難方法 に他船の走錨による危険を経験しました。 や対処方法、日本近海の風の変化などにつ 日本では京浜港、名古屋港、大阪港、博多 いては、ほとんど知らないようです。 港などですが、外国では大連港、上海港、 考えていきますと、これらに関して、外 ナホトカ港、リエカ港、ラスパルマス港、 国籍船乗組員への積極的指導の必要性を強 スエズなどです。 く感じます。約2年前に、茨城県日立港で 走錨での危険発生時には、時にはその船 走錨後に防波堤に座礁した北朝鮮のチルソ を訪れたり、VHF でどうして走錨したの ン号などは、まさに乗組員の操船ミスによ かを尋ねたりもしました。 る海難事故だったと思います。 その結果では、原因は!錨鎖が法定より 短いために発生した。"守錨方法が適切で なかった。の2つが多いようでした。 !は、船主が中古船を購入後、自社所有 の他船に錨鎖の半分を切って、分け移すこ とで短くなるようです。従って、検査記録 54 海と安全 2 0 0 4・冬号 海守事務局 TEL 03―3500―5707 FAX 03―3500―5708 URL http : //www. umimori.jp/pc/ e―mail : info@umimori.jp 日本海難防止協会のうごき(平成16年8∼10月) 本協会は、日本財団助成金、日本海事財団補助金および関係官公庁等の委託金により各事業を実施しています。 月 日 会 議 名 主 な 議 題 8.6 伊勢湾海上ハイウェイネットワーク ①海上ハイウェイネットワークの調査経過 委員会 ②「平成16年度伊勢湾海上ハイウェイネットワークの構 築に関する調査研究」事業計画の検討 ③伊勢湾の航行環境 ④伊勢湾の航行管制 9.17 吉の浦火力発電所建設計画に係る船 ①前回議事概要の確認 舶航行安全対策調査委員会 ②入出港シミュレーションの結果 ③係留動揺シミュレーション実施方案(案) 9.27 海事の国際的動向に関する調査研究 ①前回議事概要の承認 委員会(海洋汚染防止関係) ②平成16年度実施計画案の承認 ③MEPC52への対応(バラスト水作業部会への対応含む) 9.29 水先区・強制水先区の範囲に関する ①事業計画案 調査検討会 ②調査内容 10.1 伊勢湾海上ハイウェイネットワーク ①伊勢湾の航行環境など(追加) 委員会 ②伊勢湾交通体系・管制制御のレビュー ③伊勢湾の航行環境に係わる問題点の抽出およびニーズ の把握方法など 10.5 海事の国際的動向に関する調査研究 ①前回議事概要案の承認 委員会(海上安全) ②第50回NAVの審議報告 ③米国セキュリティ調査報告 ④スウェーデンおよびフィンランドAIS調査報告 10.18 海運・水産関係団体連絡協議会に係 ①平成16年度事業計画 る打合会 ②海運・水産の安全に係わる諸問題 ③本年度計画している調査 10.29 那覇港臨港道路空港線工事航行安全 ①4号・5号函沈埋トンネル工事および航路標識配置変更 連絡協議会・幹事会 ②4号・5号函沈設工事時および航路標識配置変更時の 航行安全対策 船舶海難の発生状況(速報) (平成1 6年7∼9月) 海上保安庁提供 単位:隻・人 海難種類 用途 貨物船 衝 乗 転 火 爆 浸 突 揚 覆 災 発 水 機 関 故 障 推 進 器 障 害 舵 害 行 方 不 明 他 計 35 26 0 3 1 1 2 0 0 0 0 4 1 73 33 障 運 航 阻 害 安 全 阻 害 そ 合 の 行 方 死 不 亡 明 ・ 一 般 タンカー 船 旅客船 舶 プレジャーボート 8 8 0 1 0 0 3 1 0 0 0 0 0 21 1 10 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 11 0 66 37 16 3 0 13 79 26 6 1 17 2 9 275 7 その他 13 4 11 1 0 4 2 1 0 0 3 4 1 44 4 漁 船 87 24 18 17 1 6 13 6 0 0 5 2 6 185 10 遊漁船 16 4 0 0 0 1 10 5 0 0 1 0 1 38 0 計 235 103 45 25 2 25 109 39 6 1 27 12 18 647 55 海と安全 2 0 0 4・冬号 55 主な海難(平成16年8∼10月発生の主要海難) No. 船種 笊 貨物船 船名等 VIHAN 05 総トン数 発生日時および発生場所 (人員) 5,552トン 海上保安庁提供 海難 種別 気象・海象 天気 雨 8月30日 12:30ころ (ベトナム) (乗員20人) 宇和島市由良岬の南沖合 死 亡 行方不明 死亡1人 乗揚 波浪 5m以上 行方不明 視程 1km 3人 大分港に入港していた「VIHAN 05」号は、接近中の台風を避けるため29日14:40ころ、由良半島の南に移動 し錨泊した。同日20:00ころ、船舶が錨を引きずりながら走錨、再投錨されないままに錨地を移動した。その後、 機関を前進にしてこれに対応したが走錨は続き、30日12:25ころ、岩場に接触して乗揚げ状態となった。 この際、乗員4人が大波により海中に転落。その後、1人は遺体で発見したが、残り3人は行方不明となっ た。他の16人は、航空自衛隊の救難ヘリによって吊り上げ救助された。 笆 TRIARDH貨物船 IANTO (インド 6,315トン (乗員22人) ネシア) 9月7日10:10ころ 天気 台風 山口県笠戸島の沖合 乗揚 波浪 20m以上 (N33−57−0E131−51−4) 視程 1km 死亡19人 行方不明 3人 横浜からシンガポールに向かっていた「TRIARDHIANTO」号は、折からの台風を避けるために6日14:45 ころ、笠戸島沖合に緊急入域して避泊していたが、走錨して7日10:10ころ、笠戸島の東海岸に乗揚げたもの。 捜索の結果、船首部分は横倒しで海岸に、他の船体部分は付近の海底にあるのが巡視船によって確認された。 乗組員22人のうち、19人は遺体で収容、残り3人は行方不明となった。 笳 練習船 海王丸 (日本) 2,556トン 10月20日 22:47ころ (乗船者 富山港東防波堤灯台から80度440 乗揚 波浪 5m以上 なし 天気 台風 167人) m付近 視程 1km 実習生104人が乗船し実習航海中の海王丸は、台風23号の接近によって富山港外で避泊中に強風により走錨、 発電機が停止したため航行不能となり、富山港の東防波堤灯台の近くに漂着・座標した。乗揚げ時に船体が損傷、 セカンドデッキまで浸水し救助を求めたもの。 海上保安庁は、巡視船艇9隻と航空機8機のほか、特殊救難隊や機動防除隊などを出動させ、懸命の救助活 動によって21日午後、乗船者全員を救助した。 ★今回の取材では、津波が 与えている話は、興味深く参考になりました。 襲ってくる緊急時だという ☆私たちも、鯛、ひらめ、はまち、ふぐといった のに、自分の財産や職責を 魚を養殖していますので、これらの養殖が周囲に 優先させる人が意外に多いのに驚きました。関係 与える影響について、いちど仲間と考えてみたい 機関や団体がいくら早期避難を呼びかけても、こ と思います。これから冬です。海難ゼロを祈りつ ういった気持ちが変化しない限り、災害での犠牲 つ、さらに「海と安全」が充実し、多くの関係者 者減少は難しいのでは、と強く感じました。 から注目されることを願ってやみません。 ★近い将来の災害を思えば、今こそ職場や家庭内 で、地震や津波の来襲をテーマに「どうすること が会社や自身にとって最良なのか」を話し合って 見てください。せめて、 職場や家庭の地域のハザー ドマップを入手し、緊急時の避難場所や、そこま での道順くらいは覚えてほしいものです。 ★今回も読者のご意見を紹介します。 (大下) ■四国の養殖漁業者・峰谷美智男さんから ☆「海と安全」秋号を読みました。バラスト水条 約は難解でしたが、福代教授の海水に棲む微生物 の話や、牡蠣やわかめ・鮭なども生態系に影響を 56 海と安全 2 0 0 4・冬号 海と安全 No. 523(38巻、冬号) 発 行 平成1 6年1 1月2 5日 発行所 社団法人 日本海難防止協会 〒1 0 5−0 0 0 1 東京都港区虎ノ門1−1 5−1 6 Tel 0 3 (3 5 0 2) 2 2 3 1 Fax 0 3 (3 5 8 1) 6 1 3 6 E-mail : jams2231@nikkaibo.or.jp URL http : //www.nikkaibo.or.jp 印刷所 第一資料印刷㈱ 購読料 年間5, 0 0 0円(送料とも) (正会員・賛助会員・協力会員の購読料は会費の中に含む) 海と安全 第38巻 冬号 ●昭和36年4月3日第3種郵便物認可 ●通巻523号 ●平成16年11月25日発行 ●購読料・年間送料とも5,000円
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