2013 No.2 APR - 公益社団法人 日本航空機操縦士協会

Pilot が作る季刊誌
ISSN 0389-5254
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『日本航空機操縦士協会のめざすもの』
1. 私達の活動の目的は、 定款に定められた通り 「航空技術の向上を図り、 航空の安全確
保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研究を行い、もって我が国航空の健全な発展を
促進する」ことです。
2. 私達は、 定款の目的を踏まえ、 将来のあるべき姿として「安全で誰からも信頼され、
愛される航空を実現する」というビジョンを描いています。
3. 私達は、目的・ビジョンを達成するために下記を基本的指針に掲げて活動して行きます。
(1)
航空の安全文化を構築する。(組織と個人が安全を最優先する気風や習慣を育て、
社会全体で安全意識を高めて行くこと)
(2)
地球環境と航空の発展との調和を図る。
(3)
航空に携わるもの同士が心を通わせ共存共栄を図る。
第49期重点施策
公益社団法人に移行して2年目の年であり、引き続き公益法人としての確固たる基盤の整備を継
続するとともに、変化する時代に対応し得る運営体制の確立と組織の近代化に努める年として、次
の三点を重点目標として取り組んでまいります。
1.公益法人としての活力ある事業活動の推進
航空安全文化の普及に資するべく、航空安全セミナー、航空教室や講習会等を積極的に展開し、
また関連諸団体と協力しながら各種の航空関連イベントに参画してまいります。また、航空安全の
制度に係っては、特定操縦技能審査制度など最近の制度変更等に対応した支援を行うとともに、航
空関係者と連携しながら、安全に資するための関係当局への働きかけ等に取り組んでまいります。
2.公益法人に相応しい組織体制の確立
IT環境の進展並びに会員や社会の皆様のニーズを踏まえ、出版物等の電子化など諸課題に対応
できる組織と関連する運営体制の整備に取り組んでまいります。また、当協会の専門知識/経験が
的確かつタイムリーに皆様に共有していただけるよう、ホームページその他による当協会の情報発
信についても改善をはかれる体制を構築してまいります。
3.財務体質の強靭化
一昨年度から収支については改善が着実に実現できましたが、これを長期的に維持できうる体質
を確保しなければなりません。上述の事業等を展開する上での財務面での効果効率化を目指すとと
もに、組織全体の健全な財務運営を心がけてまいります。
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操縦士協会は会員を募集しています。
JAPAは公益社団法人として内閣総理大臣より認定を受けた日本唯一の操縦士団体です。
目的 本協会は、航空技術の向上を図り、航空の安全確保につとめ航空知識の普及と諸般の調査研
究を行い、もって我が国航空の健全な発展を促進することを目的としています。
協会の会員は、下記のように分かれます。
正 会 員:協会の目的に賛同して入会された方で、原則として操縦士技能証明をお持ちの方です。
賛助会員:協会の事業を賛助するため入会した個人または法人です。個人賛助会員は、満16歳以上
の操縦士技能証明を持たない方で、法人賛助会員の資格は、特に定めはありません。
正 会 員 の 会 費 :年 額 18,000円
個人賛助会員(A)
:年 額 18,000円
個人賛助会員(B)
:年 額 6,000円
法 人 賛 助 会 員 :年 額 50,000円(1口)
入会すると?
①協会機関誌(AIMーJAPAN・PILOT誌など)の無償入手
②航空関連商品(書籍等)の割引購入
③会員向け、空港施設見学や講習会への参加
④協会契約割引施設の利用
お申し込みは別途「入会申込書」をお送り致しますので、事務局までご連絡下さい。
皆様のご入会をお待ち致しております!
公益社団法人 日本航空機操縦士協会 JAPAN AIRCRAFT PILOT ASSOCIATION
TEL 03-3501-0433 FAX 03-3501-0435 E-mail [email protected]
Home page URL http://www.japa.or.jp/
●航空会館 りそな銀行
●JTB
●
●みずほ銀行
NTTドコモ
●
橋駅
JR新
●八洲電機
烏森通り
至銀座
ニュー新橋ビル
赤レンガ通り
三菱東京UFJ銀行●
日比谷通り
サーモス●
西新橋1・2丁目交差点
外堀通り
■SL
● 三井住友銀行
小里会館
日本航空機操縦士協会事務所
入口はこちら側にあります
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歩道橋
内幸町駅
至虎ノ門
至東京
烏森口
至品川
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CONTENTS
ht t p : // w w w. j a p a .o r. j p
No.334 2013 No.2 APR
4
トピック
66
2013年の誌上ジャッジスクール(2)
7
LCC特集
72
FAIニュース
73
開催団体からのお知らせ
75
支部だより
77
開催予告
78
航空局操縦職職員の募集
80
フライト インストラクター ハンドブックの紹介
81
オススメ情報ボックス
83
JAPA 通信
84
PILOT誌に貴方の記事を!
14
38
43
51
55
62
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JAXA若田光一宇宙飛行士からのメッセージ
副会長 小林 宏之
エアライン探訪 関空発の新しい翼 Peach Aviation
若谷 哲也
エアライン探訪 エアアジア・ジャパン
山田 圭一
髙木 雄一
奥貫 博
第4回 全日本曲技飛行競技会 開催案内(予定)
寄稿
冬季の雷 航空機の被雷を防ぐには?
道本光一郎
着陸操作に関する考察
大野 匡次
V-22 オスプレイ ティルトロータ機の安全性とその考察(2)
大西 正芳
あるパイロットのつぶやき −機長編−
神谷 國夫
リレー連載
モノ好きの博物館巡り 第1回
柳井 健三
海自厚木航空基地および日本飛行機(株)厚木工場見学会
安全の分水領
アクシデント・インシデント概要
新地球環境問題 原子力関連用語の解説(8)
書籍&Goods 紹介
運航技術委員会
GA:ジェネアビ情報
小型飛行機・ヘリコプターの事故
奥貫 博
あなたが写した航空機の写真が本誌の表紙に!
Aviation Café
FA200の楽しみ方
Welldoneには拍手で
20世紀のナウシカァ
ロートルパイロット
85
JAPA Aerial Photo Exhibition
86
編集後記
湧井カレン
雑誌ライター
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トピック
協会名誉会員の
JAXA若田光一宇宙飛行士
からのメッセージ
昨年 4 月に当協会が公益法人となったのを機に、日本人宇宙飛行士の若田光一さんに当協
会の名誉会員になって頂いてから一年がたちました。若田さんは今年の後半から来年にかけ
て宇宙ステーションに半年間という長期滞在をされます。そして、日本人としては初めて、
コマンダー(地上の船長、機長に相当)を務められます。宇宙での長期滞在に向けての一連
の訓練の一環として、つくばでの訓練のために一時帰国された若田さんに、小林がインタ
ビュー形式で、私達にメッセージを頂きました。
小林 宏之
副会長 小林:超多忙ななかで、インタビューのお時間
をつくって頂きありがとうございます。昨年
当協会が公益法人となったのを機会に、名誉
会員になって頂いて以来一年になります。航
空界と宇宙開発がともに発展していくために
も大変喜ばしいことと思います。今日は私共
操縦士にメッセージを頂きたいと思います。
若田宇宙飛行士:名誉会員として選んで頂いた
ことは光栄に思っています。国際宇宙ステー
ションで仕事をしていますと、航空と宇宙の
は、若田さんにとっては、宇宙での活動の4
回目となり、かつ日本人として初めてコマ
ンダーを務められます。このことは、日本
の宇宙開発の技術、日本人の宇宙飛行士が
いかに優れているかを、世界から認められ
ている証であり、私どもパイロットだけで
なく日本人として、大変誇りに思っていま
す。宇宙での長期滞在に向けての訓練の様
子を紹介して頂きたいと思います。
若田宇宙飛行士:訓練の時間が一番長いのがア
分野は共通することが多くあります。航空機
の操縦士の方々の運用の仕方を、宇宙での仕
メリカのヒューストンです。いろんな機器の
操作、船外活動の訓練、ロボットアームの操
事に学ばせて頂くことが非常に多いと思いま
す。いろんな機会を使ってコミュニケーショ
ンを通じて、お互いにいろんなことを報告し
合いながら、
今後も学んでいきたいと思います。
縦訓練等がヒューストンを拠点に行われてい
るためです。
みなさんにも、宇宙での仕事、宇宙に向け
ての訓練など、いろんなテーマでお話しをさ
せて頂く機会が、
今後もあればと思っています。
小林:今回の宇宙ステーションでの長期滞在
4
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宇宙を往復する手段としてロシアのソユー
ズを使いますので、ソユーズの運用訓練をロ
シアで行っています。つくばでは「きぼう」
日本実験棟と、「こうのとり」というHTVロ
ケットに搭載して宇宙ステーションに物資を
運ぶ輸送機のシステムの操作訓練をおこなっ
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ています。
ヨーロッパ宇宙機関も「コロンバス実験棟」
す。いろんな職種もあります。国の違い、習
慣の違い、宗教の違い、言語の違い等からく
という実験施設を提供していますので、ドイ
ツのケルンで、ヨーロッパの実験棟の訓練を
行っています。その他カナダのロボットアー
る違いもたくさんあります。しかし、人間と
いうものは、一皮むけばみんな同じだと思い
ます。エアラインのパイロットはいろんなク
ムの訓練をモントリオールで行っています。
ルーの構成員の方と仕事をしていかなければ
ならないかと思います。
小林:今回の宇宙ステーションでの長期滞在で
は、日本人として初めてコマンダーを務めら
れることになりました。私も、長年機長とし
てハイジャック以外のトラブルをほとんど経
験してきました。キャプテン、コマンダーは
リソースマネジメント、危機管理が求められ
ると思います。これは飛行機の機長も宇宙ス
テーションのコマンダーも同じかと思いま
す。航空と宇宙の共通点、コマンダーとして
の若田さんの抱負をお伺いしたいと思います。
若田宇宙飛行士:これはまさに小林キャプテン
が言われるように、リソースマネジメントと
いう観点では、航空機と宇宙ステーションで
の基本的な知識、技量は共通していると思っ
ています。限られた人数のなかで、コクピッ
トも同じかと思いますが、2人ある時は3人、
ソユーズは3人、宇宙ステーションで長期滞
在のときは3人ないし6人というチームです。
それから、地上管制局が、ヒューストン、つ
くば、モスクワ、ドイツのミュンヘンの近く
にあり、全体のパーフォーマンスとしてきち
んとあげていかなければならない。そのため
宇宙ステーションの場合は、逆に固定した
クルーだけと半年間にわたって仕事をしてゆ
く。訓練は同じクルーと2年半という長い期
間行います。その同じクルーと半年間一緒で
す。私達のクルー以外に、最初に行っている
クルーが3人いて、私達3人が後からあがって
いく。そして前の3人が帰ったら、また別の
クルーが3人あがってくる。そのチームで活
動します。このチームだけでなく、地上管制
局のチームも違う、訓練の教官のチームも違
う。多くのチーム、いろんな国のみなさんと
意識を合わせていく必要がある。訓練の段階
から、いかにコミュニケーションを円滑にす
るか、特にフライトディレクターという地上
管制局の指揮者のような方がいます。
航空機とかなり違うところは、宇宙ステー
ションは、基本的には地上管制局が操縦して
います。「きぼう」の操縦もそうです。宇宙
飛行士が行うのは、例えばソユーズのドッキ
ングも自動ですが、コンピューターが壊れて
の心構えは、コクピットクルー、地上支援要
員、整備など全体のチームとしての力を結集
して安全運航をしていくのだ思います。宇宙
ステーションも同じで、セイフティーが最初
時にマニュアルで操縦するくらいです。宇宙
ステーションは、姿勢制御や環境制御は地上
が全部やっています。
に来なければならない。そしてミッションの
サクセス、その目標を達成するために適材適
所で、チームの構成員に最大限の仕事をして
システムを宇宙でいかに安全に操作してい
くかは、クルーの間だけのコミュニケーショ
ンでは、万全を期することはできないので、
もらう。そのための舵取り、テクニックを今
まで学んできた。それを実行に移していけれ
ばいいのかなと思っています。
地上管制局のみなさんとのコミュニケーショ
ンがすごく大事になってきます。いろんな国
のいろんなチームとのコミュニケーションを
いろんな文化というものがあって、一つの
国のなかにもいろんな文化があるかと思いま
しっかりとっておくということが、準備の段
階から要求されています。
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小林:私も機長としてリーダーシップを発揮す
るためには、いかにコミュニケーションが大
したいかということをきちんとくみ取ってあ
げる。半年間という長丁場ですので、彼らが
切かを痛感していました。パイロットの教育
のなかでも、コミュニケーションの5Cとし
て、Clear、Correct、Complete、Concise、
望んでいることに対して、自分が支援してあ
げることを、準備の段階でも、軌道上にいる
ときも、互いに支援し合うことによって、生
Confirmをあげています。特にComfirm、い
わゆる確認会話の重要性を強調しました。若
田さんもいろんな国の方とのコミュニケーシ
まれてくる信頼感というものがあります。相
手が何を望んでいるか、何をしたいのかをき
ちんと事前に理解をするということは、常に
ョンで、ご苦労されるかと思います。
若田宇宙飛行士:それはもう小林キャプテンが
一番よく経験されているかと思います。相手
をよく理解すること、自分をさらけ出して、
心がけています。それはクルーだけでなく、
フライトディレクター等も含めて、コミュニ
ケーションを事前にきちんとしておくことが、
ミッションの成功の鍵かなと思っています。
自分がどういう人間かということを、お互い
に理解し合うことが大切だと思います。そし
て操縦士の皆さんと同じように、宇宙の分野
でも高い志をもってこの仕事をしている方が
多いので、宇宙ステーションでのミッション
を通じて、彼ら、或いは彼女らが何を実現し
たいのか、個人的にも何を実現したいか、組
織として、チームとしてどういうことを実現
小林:今日はお忙しい中を、ありがとうござい
ました。私達も地上から若田さんの宇宙ステ
ーションでの長期滞在のミッション、そして
コマンダーとしてのご活躍、ご成功をお祈り
しています。
(2013年2月27日:JAXA広報部にて)
<インタビューを終えて>
日本人として初めて ISS のコマンダー(船長)を務めるということは、日本の宇宙開発技
術のみならず、若田さんの宇宙飛行士としての優秀さを世界が認めている証ですが、インタ
ビューの間に醸し出される雰囲気からも、その人柄、リーダーシップの素晴らしさを感ずる
ことが出来ました。
リーダーにとっての大切な要件として、目的に向かって、人的、ハード、情報などの総合
的なリソース・マネジメントがありますが、必然的に、コミュニケーションが重要な要素に
なるかと思います。宇宙でのミッションを成功させるために、ISS のクルーのみならず、地
上で支援してくれる全ての人達とのコミュニケーションにも、心を配っておられることがよ
く判りました。 我々パイロットも、航空に関わる全ての人達の立場を理解し、コミュニケーションに気を
配り、感謝の気持ちをもってフライトをすることの大切さを、今回のインタビューを通じて
再認識させられました。
ISS では、様々な実験が行なわれ、私達の生活に役立つ技術の発展に寄与しています。当
協会も公益社団法人として出発して1年になります。フライトや協会活動等を通じて、少し
でも社会に貢献できるように心掛けてゆくことが、大切ではないでしょうか。そして、今後
とも、航空と宇宙がともに学び合って発展することを期待しています。
(小林 記)
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LCC特集
エアライン探訪
関空発の新しい翼 Peach Aviation
若谷 哲也
西日本支部長 ● 関空発 新しい翼 Peach Aviation
Peach Aviation株式会社は、日本で初めての
ある私が、Peachを取材した。
Peach本社は関空のエアロプラザ北側、建設
本格的LCC。関西空港をベースに、2012年3月に
関空-札幌(新千歳)・福岡・長崎に就航。その後、
4月に鹿児島、5月にソウル(仁川)、7月に香港、
10月に台北(桃園)、沖縄(那覇)へ路線を拡大。
キャッチフレーズは「アジアの空をもっと近
く、面白くする」。ホームページで「日本にお
けるLCCの先駆者として、また、日本とアジア
を結ぶ懸け橋として、安全を最優先にしながら、
これまでの航空会社とは異なる仕組みから安定
的な低コスト体制を実現し、365日低価格の新
しい航空サービスを提供することをミッション
としています」と言っている。
棟にある。関空2期工事の建設業者が使用して
いたビルを活用している。
お話を伺ったのは、那覇を往復したばかりの
角城健次取締役・A320機長、ソウル(仁川)を
往復したばかりの尾崎智崇副操縦士、那波俊之
運航企画課長、佐々木基コミュニケーションオ
フィサーの4名。パイロットの制服は他のエア
ラインと同じだが、ネクタイの色が紫である点
がいかにもPeachらしい。
● Peach就航に湧く関西と就航地の住民
物を安く買ったことを自慢する関西人は、安
い運賃で飛行機に乗れるPeachが関空に誕生し
たことに湧き、飛びついた。
ある大阪人は「買い物は全てカードで支払い、
左から筆者、那波氏、尾崎副操縦士、角城機長、佐々木氏
マイルを貯めて、年2回沖縄へ行くのが楽しみ
だった。しかし最近は、大好きな立ち呑みへ行
く回数を減らし、節約したお金で毎月Peachに
乗って沖縄へ行くのが楽しみ」と言う。とある
● なぜ関空ベースなのか?
そ れ ま で 便 数 が 伸 び 悩 ん で い た 関 空 に、
Peachはなぜベースを置いたのか? 関空のメ
自家用機のオーナーは「自分の飛行機で飛ぶよ
りPeachで飛ぶ方が安いので、Peachで空を楽
リットは、アジアへの距離が首都圏の空港より
1時間近いこと。成田は門限が23時であるが、
しむことが多くなった」と言う。とあるウチナー
ンチュは「内地が近くなった」と言う。
しかし一方で、とある大阪のおばちゃんは言
う。「Peachは安いけど、安全性は大丈夫やの?
関空は24時間離着陸可能であること等。
関空管制によると、LCCの就航等により、関
空のトラフィックが増加しているとのこと。
安かろう、悪かろうやないの?」と。おばちゃ
んの疑問を調査すべく、またPeachの今を探る
● Peachのパイロット
角城機長は、Peach立ち上げのためANAか
べく、Peachにプライベートで2回乗ったこと
ら出向し、現在はPeachの取締役として飛行し
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ている。現在、ANAからの出向機長は1名。多
くのパイロットが他のエアライン経験者である
性も値段なり、ということは絶対ない。会社に
は安全文化が根付いていたよ」と報告しよう。
ということが特徴である。
パイロットの訓練は、ANAグループのpanda
Flight Academyで実施し、限定変更が終われ
● 安定的な低コスト体制の実現を目指して
文章はペーパーレスをめざし、可能な限り電
ば、路線OJTへと進む。
全ての路線が関空を往復する形で運航してい
る。その日の最終便は必ず関空に戻ってくるた
子化されている。紙1枚の節約額は小さいかも
しれないが、普段の働き方からコスト削減を身
に着けようとしている。
め、就航地でのステイはない。
コックピットでの仕事について、他のエアラ
インと違いがあるかを伺ったところ、やること
は同じであるとのこと。
便の間隔が30分程度と短いため、可能な場合
は、パイロットが機内清掃を手伝うことがあ
る。手伝うことがマニュアルに定められている
訳ではない。LCCのビジネスモデルが成立する
● 安全運航を何よりも最優先
機長の審査は6ヶ月に1回、国土交通省の運航
審査官により実施され、機長の知識・能力が維
持されていることが確認されている。
副操縦士の審査は、社内のチェッカーにより、
厳正に実施されている。
キャビンアテンダントの訓練は、ANA CA
アカデミーで保安訓練を、自社でサービス研修
を行った後、OJTへと進む。
運航関係以外の部門で働くスタッフ全員に対
しても、ANAグループ安全教育センターで、
過去に起きた事故事例、ヒューマンエラー研修
等、安全に関する教育が実施されている。
IDカードと共に安全理念を常に携帯。会社
一丸となって安全運航を継続させるという強い
意志が感じられる。
「安全性は大丈夫やの?」と言ったおばちゃん
に今度会ったら「Peachは値段が安い分、安全
要件をパイロットも理解しており、それを達成
するために一丸となって働いているという訳で
ある。もちろん、そういったことを実施したと
しても、パイロットが行うべき仕事に関する妥
協は一切ない。
● 念願の関空第2ターミナルが完成
関空の第2ターミナルが、2012年10月に完成
した。 第2ターミナルには、PBB(パッセンジャー・
ボーディング・ブリッジ)は設置されていない。
乗客の乗り降りは徒歩となるが、PBBの使用料
は発生しない。乗客がエプロンで物を飛ばさな
いよう、注意喚起は徹底されていた。
第2ターミナル前のスポットは、自走イン・自
走アウトできるよう設計されている。トーイン
グカーやトーバー、それらを扱う人を準備する
必要がない。
自走インは、一旦ターミナルに直角に入って
来た後、機首を右に30度に振る。30度振って駐
機させるのが、一番たくさん飛行機を駐機させ
ることができるとのこと。
第2ターミナルは、Peachの知恵が詰まった、
Peachが理想とするターミナルとなった。
● 新しい顧客層の開拓
飛行機に乗ったことのない人や、他の交通機
フライト準備中のパイロットやキャビンアテンダント
8
関を利用していた人が、Peachを利用し始めて
いる。
LCC の 座 席 は 狭 い と 言 わ れ る。 と こ ろ が
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Peachの座席に初めて座った際、私はびっくり
させられた。十分な広さがあったからだ。私が
日帰りスペシャルもユニークである。3月14
日放送のテレビ東京・カンブリア宮殿では、
どのような体型か知っている人にとっては、説
得力のある話と思う。
一方、フルサービスエアラインとPeachの違
Peachの日帰りスペシャルを利用し、ソウル(仁
川)を7,400円で往復した女性達が紹介されて
いた。札幌よりソウル(仁川)の方が近い関空
いを理解せず利用した顧客からのクレームがな
い訳ではない。しかしそこは他業種から転職し
てきた客室乗務員が、前職での経験等を活かし、
だからこそできる、新しい旅の形である。
キャンペーンでPeachを利用してもらうこと
をきっかけとし、リピーターになってもらうこ
顧客の理解を求める努力をしている。
「安全性は大丈夫やの?」と言ったおばちゃん
のように、興味はあっても利用をまだ躊躇して
いる人がいるのも事実。潜在的需要はまだまだ
とが期待されている。
あると思われる。
関西では、LCCという単語より、Peachとい
う単語の方が浸透しつつあると聞く。
ての誕生日を迎えた。この1年間、A320の機数
が増えるたびに路線・便数を拡大。国内5路線、
国外3路線、週322便を運航するまでに成長した。
1年間の累計搭乗者数は150万人、平均搭乗率
は76%といずれも目標を上回った。
定時出発率(出発における遅延15分未満の数
値)は83%。便間が短いため、1度遅れると遅
れを取り戻すのが難しい。
就航率は99%と、他のエアラインと同等レベ
ルを達成している。
● キャンペーン・セール
Peachはユニークなキャンペーン・セールを
続々と実施している。日帰りスペシャル・春旅
セール・バレンタインセール・72時間セール・就
航1周年キャンペーン・ホワイトデーセール等。
中 で も 就 航 1 周 年 キ ャ ン ペ ー ン は、 限 定
10,000席を全路線片道1,000円で販売し、大きな
話題となった。ラッキーにも1,000円で札幌(新
千歳)便のチケットを購入できた友人は「どこ
へ行こうか?」と、楽しい悩みを抱えているよ
うである。
このように、どこへ行きたいから飛行機を予
約しようというのではなく、飛行機のチケット
が取れたからどこへ行こう、という面白い現象
も起きている。
● 初めての誕生日
Peachは、2013年3月に就航から1周年、初め
● 発展し続けるPeach
Peachは2013年3月現在、A320を7機運航して
いる。今後さらに増機を続け、2015年には17機
体制になる予定である。
Peachは関空から4時間以内で行けて、搭乗
率が見込める空港であれば、国内外を問わず路
線開設の可能性を探っている。近い将来では、
2013年4月に仙台、6月に新石垣、9月に韓国釜
山への就航が予定されている。さらに、これま
では関空を発着する路線のみであったが、9月
には那覇-新石垣を就航させる。
現在のベースは関空のみだが、将来は沖縄(那
覇)を第2のベースとし、発展著しい東南アジ
アへの路線拡大を狙っている。
定時出発率・就航率の更なる向上等による、
運航品質の更なる向上を目指している。
ディスパッチカウンターの様子
運航実績を積み重ね、指定本邦航空運送事業
者の指定を目指している。
パイロットの採用はこれまで、他のエアライ
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ン経験者が主であった。しかし長いスパンでの
安定したパイロット確保という観点から、昨年
たからである。始発電車に乗っても、この時間
に関空に到着するのが難しい人が結構いる。な
は自費で事業用・多発・計器を取得した人や、大
学を卒業した人にまで範囲を広げてパイロット
募集が行われた。エアライン就職を目指し訓練
のにこれだけの人が、この時間にどうやって関
空まで来たんだろう?と思うと同時に、私は確
信した。Peachは確実に関西に根付いてきてい
する学生達にとっても、Peachから目が離せな
い状況が続くだろう。尾崎副操縦士は、エアラ
イン就職を目指す後輩達に「仲間と情報共有し、
る、と。
関空アクセスの電車やバスが、始発を早めた
り、終電を遅らせたりして、Peachの運航によ
力を合わせて訓練を乗り切ることが大切」と
エールを送っている。
Peachの誕生により、利用者は航空会社の選
り対応できる体制を取る動きが出てきた。JR
西日本は新大阪ー博多間の新幹線に片道1万円で
乗車できる切符の発売を発表し、対抗の様相を
見せ始めた。
択の幅が広がった。逆に航空会社を利用する客
層も広がった。新しい航空文化の誕生である。
私は、朝7時前の関空第2ターミナルの状況を
見てびっくりした。搭乗客でごったかえしてい
Peachの登場により、航空業界のみならず、
さまざまな業界に影響が出始めている。それら
の業界が今後どのように変化していくのか、当
分目を離すことができない。
フライト準備中のキャビンアテンダント
ディスパッチカウンター前での取材の様子
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LCC特集
エアライン探訪
エアアジア・ジャパン
山田 圭一
会員 ●エアアジア・ジャパン訪問
2012年は、
「ピーチ・アビエーション」「ジェッ
トスター・ジャパン」「エアアジア・ジャパン」の
LCC3社が運航を開始し、日本ではLCC元年とも
いえる年となった。
これらの航空会社の運航の様子はどのようなも
のであろうか。エアアジア・ジャパン株式会社を
訪問し、実際の現場の取材をしてきた。
成田から福岡への旅客搭乗の様子
●キーワードは、楽しい空の旅
ご存知の通り、東京ディズニーランドは、空間
ごとにデザインされており、雰囲気を含めた全て
の要素をお客様に楽しんでいただきたいというコ
このことを機内で或いは空港内で実践している
のがまさしくエアアジア・ジャパン株式会社である
と思う。
“楽しい空の旅”をキャッチフレーズとし
て掲げている。どの航空会社も掲げている言葉
だとは思うが、エアアジア・ジャパンではその言
葉に辿り着くまでの過程に大きな意味があるので
はないかと考える。
エアアジアグループでは「Safety Conscious」
はもちろんのこと、「FUN」という精神が大きな
支柱となっている。「FUN」とは、極めて通俗的
ンセプトで造られている。このため、あの空間に
は基本的には飲食物の持ち込みは禁止されてい
な響きを持つ言葉ではあるが、意味するところは
広く深い。まず、
“お客様と親しく”をモットーとし
る。ファンタジーの世界におにぎりや緑茶では世
界観が台無しになってしまうのである。また園内
にいるキャスト(従業員)と呼ばれる方々を思い出
していただきたい。スペースの清掃係の方々は見
て、最大限の楽しさを伝える為に、乗務員から率
先して仕事を楽しむという。当たり前の事だと思う
かもしれないが、そういった部分を目に見えるよう
な形式で実践した航空会社は今までにあったであ
る限り、ただ作業としての仕事を行ってはいない。
例えば、天候が雨の日にはモップを使って絵を描
ろうか。
いたりとお客様へのパフォーマンスやおもてなしを
決して忘れないのである。
目が釘付けになるフライトアテンダントの赤色の
制服にも色々なテーマが託されており、
「アジアの
元気」や「情熱」、
「健全なセクシーさ」そしてこ
2012年8月に運航を開始したエアアジア・ジャパ
ンの社員曰く、
“ライバルは東京ディズニーランド”。
航空業界にあって、テーマパークがライバルとは?
と不思議に思われる方も多いのではないだろうか。
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こにも「FUN」が存在している。よく見られるフ
ライトアテンダントのシニヨンと呼ばれるアップに
真髄ともいえる“機械ではなく人間をメインに”と
いうテーマが表れているように思える。
したヘアスタイルは、ここでは禁止されている。自
分に最も似合うヘアスタイルをすることによって、
個性を出し各々が楽しんで仕事に向かう方が大切
いろいろな場面において、機械によるオートメ
ーション化を進めれば それなりに効率を上げるこ
とは容易かもしれないが、あえてそれはしない。
と考えているためだそうだ。
機械はある一定の成果のみ上げることしかできな
いのに対し、人間は習熟、修練することによって
如何様にでも向上できる。更には徹底されている
コストカットの面にもつながる。
“人は成長するの
で、面白みがあります”という今井さんの話を聞
いて素直に感銘を受けてしまった。
サービス中の笑顔にも「FUN」が表れている
お客様への自己紹介も、まり子・ゆかり等名前
を使用して行われるのも特徴的である。
“私たちはサービスの見える化を基本としていま
す。”と広報担当の今井さん。従来、フルサービ
スキャリアが行ってきたサービス、例えばミール
の提供や座席指定、荷物お預かり等などを全て
お客様によってカスタマイズしていただくことによ
って、よりお客様に合ったサービスを提供しますと
いうことである。
社員の多くが、会社の立ち上げに関わりたいと
集まっているので、モチベーションは高く、各自
が様々な工夫を凝らして仕事にあたっているとのこ
とであった。色々なアイデアが分け隔てなく飛び
交う職場とは、本当に夢があって、より楽しんで
仕事ができる環境の第一条件ではないだろうか。
エアアジア・ジャパン側が求める人材は、コンセ
プトを理解し、とにかく仕事が楽しめる人という
話もしていただいた。
エアアジア・ジャパンの会社内においては、従
業員をスタッフとは呼ばない。社員一人ひとりが
「STAR」であるであるため、社員全員は「ALL
STARS」 であり、 社員個々がその自覚を持ち
活き活きと働こうとしている。
“ONE FOR ALL,
ALL FOR ONEがモットーだ。”と今井さん。
他にも、国内線でホットミールの用意があった
り、便によってはフライトアテンダントによる独自
のゲームをお客様と一緒に楽しむといった何とも
素晴らしいエンターテイメントもあるとのことであ
った。
“何よりも、お客様とのコミュニケーション
を大切にしている”と今井さんは言う。
●成田=福岡便をオブザーブ
成田にあるエアアジアのOCC(運航管理 室)
で福岡往復乗務前の黒瀬機長にお話を伺った。
運航乗務員の訓練は、クアラルンプールのエア
●社員は、ALL STARS
エアアジア・ジャパンの便を利用された方はご
アジア・アカデミーにて、24時間体制のシミュレ
ーターを使って行う。他のA320カスタマーも、こ
こで訓練を行うため、早朝、深夜のアサインもあ
存知だと思うが、チケットは全て人の手で切って
いる。その為、運航当初はそれなりに苦労があっ
た様ではあるが、そこにもエアアジアグループの
るそうだ。約3ヶ月の訓練後、審査を受ける。
運航パターンは、成田を拠点にSPK、FUK便の
場合は1日4LEG、OKA便の場合は1日2LEGと、
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いずれも偶数レグでステイは今のところない。
今回は成田国際空港から福岡空港までの往復
う。機内食のメニューも色鮮やかで非常に分かり
やすいものであった。事前に予約すれば、5種類
JW8543/JW8544 便を、オブザーブさせていた
だいた。Shipsideでキャビンクルーとのブリーフ
ィングがてきぱきと行われた。GROUND STAY
の中から選ぶことができる。どれも800円前後の
ものであった。
TIMEが短いため、一度遅延が出てしまうとどう
しても次の便に影響が出てしまうそうだ。
ルートマニュアルは、Ship備え付けのものを使
一通りお客様へのミール提供が完了すると、機
内でのグッズ販売がはじまる。ここでしか販売し
ていない物も何点かあって、航空ファンにはたま
用する。コールサインは、WING ASIAである。
福岡のディスパッチからアライバルインフォーメ
ーションが送られてくるが、エンルート情報は、
AEIS等を活用しているそうだ。
らない時間のように思える。
25分間のGROUND STAY TIME中、キャビ
ンクルーは次の便への準備やブリーフィング等で
かなり忙しそうであった。
客室は座席の間隔が少し狭いが、長時間のフ
「ALL STARS」の方々は本当に言葉のとおり、
どのセクションの社員の方々も輝きながら、また
楽しんで業務にあたられている姿がとても印象的
であった。お客様はもちろんのこと、社員をとて
も大事にする環境が整っているのもとても魅力的
な部分である。知らず知らずのうちにお客様も引
き込まれ、魅了され、心地よくなって笑顔になっ
てしまう。どのような人でもあの雰囲気の中に包ま
れれば「楽しい空の旅」に必然的になってしまう。
そのような何とも言えない不思議なエアアジア・ジ
ャパン独自のホスピタリティが存在しているように
思う。またこれからの航空業界においても、LCC
ならではの利便性や経済性を踏まえて、一貫して
大きな可能性を非常に強く感じることのできた取
材となった。以前もそうであったが、規模の拡大
事業や新たな路線の増設までのスピードには目を
ライトでなければそれほど気にならない感じであ
った。前方のシートは、ホットシートと呼ばれ、
有料ではあるがゆったりした席になっている。全
席赤を基調とした革張りのシートで座席前には
見張るものがある。とにかく誰もが気軽に利用が
できるところが最大の強みでもあることから、聞く
よりも何よりも、皆様自身の身をもってエアアジア・
ジャパンの“FUN”を是非とも体感していただけ
色々なパンフレットがあってつい手が伸びてしま
ればと思う。
フライトアテンダントからの報告を受ける黒瀬機長
●感想
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寄 稿
冬季の雷
航空機の被雷を防ぐには?
道本 光一郎
防衛大学校 教授 1 はじめに
「雷(かみなり)」は、夏の風物詩として有名で
す。季節別にみていくと、春先から温帯低気圧の
通過時の前線雷、停滞前線中の発雷もしばしば
観測されます。また、秋口にはやはり大陸から移
動してくる低気圧によって、その寒冷前線の通過
時に強烈な雷が観測されることがあります。
そして冬季には、シベリアからの北西の季節風
に乗ってやってくる雪雲のなかには、主に北陸地
方沿岸に多いのですが、雷現象を伴うものもあり
ます。今後地球温暖化の影響で、この冬季雷現
象が北上して、もしかすると北海道の西方でも頻
繁に冬季に雷放電が観測されるようになるかもし
れません。
本稿では、
「冬季の雷」について、特に「航空
機の被雷を避けるための具体的な方法」について
紹介したいと思います。
図 1 航空機の被雷事例(石川県小松空港)
平成9年1月6日
2 冬季雷の恐怖
図1は、冬の北陸地方石川県小松空港での被
雷事例です。離陸直後の航空機が「引き金」に
なって発雷したもので、これを「トリガード雷」と
呼ぶこともあります。
図 2 小松空港における月別被雷件数
(昭和56年~平成12年)
さて、この小松空港で被雷事例を長年に渡り
集計した結果が図2の棒グラフで示す小松空港
における月別被雷件数です。12月と1月の冬に
るように、被雷件数が増減していることがわかり
ます。
被雷が頻発していることが見て取れます。
このグラフをよく見ると、11月から事例が増加
ところで表1と表2は、この小松空港での20
し、12月に激増し、1月にそのピークを迎え、2月、
3月と次第に減少していることがわかると思います。
シベリアから日本海への寒気団の流入に対応す
年間の被雷事例の中から、信頼性のあるキャプテ
ンレポートが残っている105例を取りだして集計し
た結果です。
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雲中
93
みぞれ
24
の強さに応じた降水として観測されるようになりま
す。
雷雲の中には、これらのエコーセルがいくつか発
生し、順に盛衰を繰り返すのです。そして雷放電
雲下
11
しゅう雨
21
を伴うようになるのが一般的です。
雲層間
1
降水なし
11
合計
105
合計
105
表 1 雲との関係
しゅう雪
37
雪あられ
12
表 2 降水の種類
表1は航空機が被雷したときの、機体と雲との
関係であり、表2はそのときに観測された降水の
種類をそれぞれ示しています。
およそ9割が雲中で、しかも降水が観測されて
いるときに被雷していることがわかります。このこ
とは、雲中にある降水粒子が帯電していることの
有力な証拠であると言えます。
ただし、冬季の対流雲の中には、このエコー
セルの盛衰と雷放電現象が伴わないものがしば
しば見られ、それは1月、2月の厳冬期に頻発す
ることがわかっています。
これが冬の日本海側の対流雲の特徴ともいえる
と思います。
4 観測事例の紹介
3 雷雲の盛衰と気象レーダーエコーとの対応関係
図 4 北陸地方の観測地点
図 3 雷雲の盛衰とレーダーエコーとの対応関係
図3は、雷雲内部に細胞のようにいくつかのセ
ル状に盛衰する雷雲のエコーセルの時間変化とそ
の断面を示した模式図です。
上段がひとつひとつの雷雲セルの変化の断面図
を、下段がそれらの雷雲のエコーセルのレーダー
エコー強度の等値線の時間変化を示しています。
最初は雲だけですが、10分過ぎから弱いエコ
ー(10dBZ)が上空に形成され、15分過ぎには
次第に並のエコー(30dBZ)が現れ、さらに発達
して20分過ぎには強いエコー
(50dBZ)
ができます。
その後、それぞれの強度のレーダーエコーが降
下して、地上に到達すると、地面付近ではエコー
図 5 観測地点の拡大図
図4は北陸地方の観測地点の地図です。
中心が小松空港になっています。半径百㎞のレー
ダーエコー観測範囲が円で示されます。
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図5は観測地点の拡大図です。小松を中心とし
て、北東の金沢市付近と南西の福井市付近まで
の観測領域を示しています。1~27までの番号
は観測サイトを表しています。
これらの観測地点では、地上付近の電界強度
の時間変化を常時観測しています。
また、1,12,23の三カ所では、雷放電が発生した
場所を二次元評定するためのセンサーのアンテナ
が設置されています。
そして1の小松空港には気象レーダーがあり、現
在は新型のドップラー機能を備えたものに置き換
わっています。
図 6 被雷時の地上電界強度の時間変化(小松空港)
図6は、図1で紹介した航空機の被雷時の地
上電界強度の時間変化を示しています。晴天時に
観測される電界強度の百倍以上の強い値が観測
されています。
①
②
このようにして、雷雲の下を車両に搭載した電
界観測センサーによって観測した結果が、図8及
び図9です。図7の三つは、活発な雷放電を伴う
雷雲下の観測例です。
③
これら二つのケースを比較して、その断面を模
式図としてまとめたのが図9です。左側が活発な
図 7 活発な雷放電を伴う雷雲下の観測例
雷放電を伴い、右側が雷放電を伴わない例です。
両者の違いは、エコー強度の違い、そして地上
電界変化のパターンにはっきりと出ています。すな
これらの要素が、両者の雲の電気的な性質の
違いを表しています。
わち、強い雷現象の場合には、エコー強度が強く、
地上電界も強く、そして中心付近の強いエコーの
真下で正電界が観測されています。
5 航空機の被雷を防ぐには?
最後に、具体的な被雷回避のための方策につ
いて述べたいと思います。航空機の操縦等に従事
一方、雷放電を伴わない場合には、エコー強
度は並程度、地上電界はそれほど強くなく、そし
て中心付近でも正電界が観測されていません。
されている方々は、もうすでに気付いておられるか
もしれませんが、被雷が起こる高度帯は、季節に
よって変化します。凍結高度のプラスマイナス5℃
16
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①
図 9 成熟期の雷雲及び対流雲の模式図
②
図 10 小松空港周辺における各等温線の平均値の
月別変化を示すグラフ
③
図 8 雷放電を伴わない対流雲下の観測例
ことも、併せて認識していただきたいと思います。
操縦者各位におかれては、より一層の安全運
航に心がけられ、慎重な操縦を続けられることを
の範囲でおよそ7割、そしてプラスマイナス10℃の
範囲でおよそ9割の被雷が起こります。
祈っています。
なお、細部の帯電メカニズムや電荷分離の物
この高度帯は図10のように季節によって上下し
ますので、危険な高度帯がいったいどのあたりに
あるのか、ということを頭の中に入れて運航する
事が必要です。
理的な説明など知りたい方は、参考文献等を紐解
かれて補足されることを切に希望して結びとします。
(参考文献)
そしてもちろん、層雲系の雲ではなく、対流性
の雲内で、雪に混じってあられが降っているよう
な領域、又は、みぞれ混じりの激しい降雨域など
1. 冬季雷の科学、道本光一郎、コロナ社
新コロナシリーズ41(1998)
2.気象予報入門、道本光一郎、コロナ社
が、被雷を起こしやすい降水の組み合わせである
新コロナシリーズ53
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着陸に関する考察 大野 匡次
着陸操作
1. Aiming Point 派?Sink Rate
派?
と表されます。降下率は加速度と時間の関
数になっています。つまりどのように加速度
を制御すれば適切な時に適切な降下率にな
るのかが着陸操作の要点になる。そこで加速
度に関わる部分についておさらいをして見
ましょう。
定常状態で降下中の飛行機の上下方向の
力(推力の上下方向の成分は小さいので省略)
は次式で表現できます。
着陸操作は、人によってやり方、考え方等、
おそらく10人いれば10人とも違う表現
をすると思われます。違う一番大きなところ
W = L/cosγ
は flare 操作を Aiming point を前方に変
1
(2)
= ρV 2 CL S/cosγ
2
える Path control と捉える考えと、 sink
rate control と捉える考えがあるように思
W:重量
われます。この考えの違いは当然目線の置き
L:揚力
所なども変わってきます。この目線の置き所
γ:経路角
は、Aiming point 派は、当然 Touch down
ρ:空気密度
point になり、Sink Rate 派は、水平線また
V:対気真速度
は遠方の Runway End になります。
しかし、
CL :揚力係数
S:主翼面積
ニュートン力学のフィルターを通して見れ
ば path control も表現の違いはありますが、
変形して、
sink rate の control になります。どちらの
2Wcosγ
考え方をしたら、対応能力が高いのか?そこ
CL =
ρV 2 S
で運動力学的に着陸操作 (flare control) を
ちょっと考察してみましょう。
ここで、Stall speed(VS )の時CL は最大とな
そして、着陸操作は大型機、小型機またそ
るので
の重量によって何が変わらなくて何が変わ
2Wcosγ
CLmax =
るのか、そしてどんな考え方をすればどの飛
ρVS2 S
行機でも適用可能な着陸操作なのかを見て
みよう。
Approach speed (1.3VS = 𝑉𝑉𝑉𝑉𝑉𝑉𝑉𝑉)の時の揚力
係数(CL )は、
2. Final での Pitch は Weight によ
らず一定?
着陸は降下率をある許容範囲まで小さく
して接地させることになる。降下率(𝓌𝓌)はニ
ュートンの運動の法則から、
𝓌𝓌 = 𝓌𝓌0 + at
𝓌𝓌0 : 降下率の初期値
a: 上下方向の加速度
t: 時間
(1)
CL =
=
2Wcosγ
ρ(1.3VS )2 S
CLmax
1.69
となりVref で approach していれば重量にか
かわらずCL の値は一定となる。つまり上下方
向の気流変化が無ければ final での pitch は
同一機種であれば重量に関わらずいつも同
じになる。厳密に言えば、Weight が同じで
も C.G が 変 わ れ ば 釣 り 合 う た め の 揚 力
(Pitch)は変わりますが、数パーセントのオー
ダーで、Pitch の変化量は、通常の姿勢儀か
らは読み取り不能。
・
3. Pitch はアクセル?
Pitch を変化させ定常状態から外れた場合
の上下方向の加速度(a)は、次式のようになる
(推力の上下方向の成分は同様に省略すると)。
W
a = L − Wcosγ
g
L
a = g � − cosγ�(3)
W
pitch が変化した時の揚力の変化分(ΔL)、
定常状態の揚力(L0 )とすると、全揚力(L)は
L = L0 + ∆L
1
= ρV 2 (CL0 + ∆CL )S
2
となり、揚力係数を揚力傾斜(m)と迎角の積
の形に書き換えると
CL0 = mα0
∆CL = m∆α
1
= ρV 2 m(α0 + ∆α)S
2
(4)
となる。また飛行機の重量は定常状態の時
の揚力で次式のように表せる。
W = L0 /cosγ
1
= ρV 2 mα0 S/cosγ
2
(5)
式(4)(5)を式(3)に代入し、整理する。また、
経路角は修正中でも大きくて 0 度から-5 度
止まりなのでcosγ ≓ 1として、
α0 + ∆α
a = g�
− 1� cosγ
α0
∆α
= gα
0
間的な円の中心周
a=V ω
りの角速度(ω)に物
≓V q
体の速度(V)を乗じ
たものが加速度に
ω
なる。飛行機の運
動が釣り合い状態
F
からの微小擾乱と
したとき、中心周
q
りの角速度の代わ
a
りに Pitch rate(q)
にして計算しても
V
実際の動きよく表
していると言われています。
Final をある速度(V ft/sec)で飛行中一定の
Pitch Rate(q rad/sec)を保持すれば、一定の
継続した加速度(a )が得られる。加速度を重
力単位にするために g で割っています。
(6)
上下方向の加速度は迎角の変化分に比例
している。しかし、Elevator の舵角を保持し
ていれば数秒後この加速度即ち迎角、は最大
値となり、その後徐々に減少していく(Fig.8、
9)参照)。では、加速度を保持するにはどの
ような操作をすればよいのだろうか?
4. Pitch Rate は加速度
物体は力(F)が作用している方向へ移動す
る。運動している時の力(F)は瞬間的な円の
中心方向に作用する。その時の加速度(a)は瞬
a=
Vq
g
(7)
flare 操作をしているとき、高度に対応し
(5) になっているかどうか
た適切な Sink Rate
は、それまでの加速度すなわち Pitch Rate
の結果なので、どのような Pitch Rate にな
っているかを把握する必要がある。つまり
Flare 操作の時、修正操作の reference にな
るのは Pitch rate になる理由です。大型機、
小型機、重量の大小に関係なく言える部分で
す。
5. 一定の上向きの加速度(Pitch
Rate)で着陸操作をしたら
一定の上向きの加速度 0.09G(茶色)で着陸
操作をした場合をフレヤー開始から計算し
た結果が Fig.1,2,3 で破線は B747、実線はセ
スナです。この時の Pitch Rate は、B747 で
0.75 deg./sec.( 茶 破 線 )Cessna で 1.25
deg./sec.( 茶 実 線 ) に な り ま す 。 Cessna で
Pitch Rate を B747 と同じ 0.75deg./sec にな
Cessna22 ft 、B747 46ft、くらいでしょう
か。
Fig.1
6 大型機と小型機での違いは?
Fig.2
5 項で述べたことは大型機小型機という
よ り 、 一 般 的 に 言 え ば 、 大 型 機 の Final
Approach Speed が小型機に比べ大きいので
3 度の Path の時の降下率の違いになるだけ
で、Flare 開始高度に応じた、Pitch Rate(加
速度)にすればよく、本質的な違いにはなら
ない。
しかし飛行機によってまたその時の状況
によっても flare 操作(操舵量)は違う。何が
原因で操舵量が違うのか?
7. 着陸操作で必要なエレベータ
の角度は?
Fig.3
着陸操作である一定の加速度を使用した
場合の pitch rate は一定であることが分かっ
た。そのある加速度を得るための迎角は式(6)
により一義的に決まるが、所望の加速度を得
るために必要なエレベータの角度は変化す
る。ではどのような要素によってどのように
変化するのかを調べてみる。
(1) Target Approach Speed による違い
最初に Target Approach Speed によって
必要なエレベータの角度どのようになるの
Fig.4
るような操作をすれば、上向きの加速度は
0.054G(青実線)になり、0.054G での B747
の Pitch rate は 0.45deg./sec.(青破線)になり
ます。
フレアー開始高度が cessna 8ft, B4
23ft と低いですが、数値計算上エレベー
タの入力に必要な時間、飛行機の応答
遅れ(約 2 秒)がゼロになっている分を考
慮すれば、フレアー開始高度は
Elvator Angle for Flare(deg.)
0
Fig.1Required Elevator Angle for Landing
Wt 560k lb
-0.5
Vref+15
Vref+5
Vref-5
-1
-1.5
-2
-2.5
-3
-3.5
10
12
14
16
18
20
C.G(%)
22
24
26
28
30
か見てみよう。Fig.4 は、B747-400 Weight
560,000 lb で、加速度約 0.09G を得るための
エレベータの角度を Vref+5 とそれに対して
前後 10kts の場合について、計算した結果で
す。
Vref+5 CG 24%のときは約 1.9 度 Up 必要
になります。
Vref+15 のときは約 1.7 度 Up、
Vref-5 のときは約 2.2 度 Up となります。速
度が遅くなった分必要となるエレベータの
角度は大きくなります。
上向きの加速度 1G を得るために必要
な Elevator の角度を Elevator Angle per
G(δe/G)と称しています。Fig.4、5、はこの
Elevator Angle per G に基づいて計算し
たものです。B747 の場合、エレベータ 1 度
Up 側にするためには操縦桿を約 0.5 度
引くことになります。このときの操縦桿の手
元の移動量は約 10mm です。エレベータ
1 度 Down 側の場合は約 1 度押す。
Approach Speed が 10kts 違っていても、
エレベータの角度にしたら 0.3∼0.4 度の違い
で、操縦桿の手元の移動量にすれば約 3∼
4mm の違いとなります。しかしこの数ミリ
の違いでも明確に分かる。
20 から 25%とすれば、5mm くらいの変
化になるでしょう。
(3) Weight による違い
Fig.5 は、B747-400 Weight 420,000 と
560,000 lb Target Approach SpeedVref+5
で、加速度(0.09G)を得るためのエレベータ
の角度を計算したものです。
Weight が重いほうが必要なエレベータの
角度が少なくて良いことが分かります。この
差は約 0.2 度で、操縦桿の移動量にすれば約
2mm の違いとなります。Weight が重いほう
が必要なエレベータの角度が少なくなるの
は、7.(1)項で見たように速度が多いほど必要
なエレベータの角度は少なくなるからです。
(2) CG の位置による違い
Fig.4 で Vref+5 を見ると、CG 10%の
ときは約 2.6 度 up CG 30%のときは約
1.6 度 up で、その差は 1 度となってい
る。操縦桿の移動量にすれば約 10mm
の違いとなります。
通常の CG の位置が、
Fig.2 Required Elevator Angle for Landing
420k and 560k bl
Elevator Angle(deg)
0
Fig.5
-0.5
-1
-1.5
Vref150+5
Vref129+5
-2
-2.5
-3
10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30
C.G(%)
(4) Wind shear があるときは
1 秒で 5knots 及び 10knots の tail wind
shear があった時の数値計算例が Fig.6 です。
Flare 操作中にこの wind shear に逸早く気
が付くのは Visual cue の移動方向の変化で
沈 み を 感知 す る。 移 動方 向 の 変化 量 は、
Runway edge で視野内の一番手前部分が最
大になる。つまり周辺視野内の Visual cue
から判断するのが最も容易と思われる。
「中心視野は静止した対象の識別に
優れていて、周辺視野は時間的に変化
する対象に対して優れた反応特性を示す
と言われている。」
福田忠彦「人間の視野の機能差」
10knots の Tail の場合は、Motion cue と
して 0.1G の垂直加速度があるので感知可能
であるけれど 5knots の場合は 0.05G くらい
で感知不能です。
5 knots の tail の場合は elevator の入力は
2 度、
10 knots の時は 3 度入力して元の path
に戻っています。表1の elevator と比較して
もこの入力量は大きいと言えるでしょう。
(5) Wind shear に遭遇した時の修正操作
Tail wind shear に遭遇した時飛行機の応
答として、下向の加速度発生、速度の減少、
降下率の増加が同じタイミングで生じ、やや
遅れて Pitch(Fig.6、7 の右側の ΔPitch)が下
がり始めています。速度は、Fig.6、7 の Δu
で単位は kts、降下率は Fig.6、7 の左側 Δw、
単位は ft/sec、値を 10 倍にして表示していま
す。人間が上下方向の加速度を感じる変化の
下限値(閾値)は約 0.08G と言われていますの
で、10kts tail に遭遇した時、何とか最初に
身体で分かるでしょう。この不自然な沈みを
感じた時に何を基準にして修正操作をした
ら好いのでしょうか?
まずは Pitch が下がらないように支え、
Flare の為の Pitch Up(今までの Pitch rate)
に加え、増加しつつある降下率を適正な値に
なるように Pitch up(この数値実験では、
0.7~0.8deg.)を行いつつ、Wind Shear に遭
遇する前よりやや大きめの Pitch Rate にす
る。この修正操作をする時、目線は水平線に
置いておくと周辺視野にある runway edge
がよく見え沈みの判断が易しくなるでしょ
う(9 項(6)参照)。
Touch Down Zone Mark を aiming にして
る時に修正操作をすると Touch Down Zone
Mark は前後に移動しており、沈みに対して
の適切な修正量を入力することは難しくな
るでしょう。
(6) 必要なエレベータ角度のまとめ
着陸操作のときある上向きの加速度を発
生させる場合、増加すべき迎角は式(6)により
一義的に決まるが、飛行状況により必要なエ
レベータの角度は変化する。その影響する度
合いは、着陸重量、Target approach speed、
CG、(10kts tail)Wind shear の順に大きくな
る。特に Tail wind shear に遭遇した場合に
は大きな修正操作が必要になる。
また、通常の場合は C.G は許容範囲の中
心(22~24%)になるように Load Control され
ていますが、状況によっては、稀に大きく外
れる時があります。特に C.G が前方にある
時で、Flare 開始高度が低い着陸操作をして
い る 場 合 に は 、 Flare 不 足 に よ る Hard
Landing の原因になります。
8. 最適なフレヤー開始高度
(1) 必要なエレベータの角度の違い
降下率 800fpm で進入していて、接地時に
200fpm の降下率になるようにする為には、
式(1)からフレヤー開始高度が決まれば、必要
な加速度が決まり、この加速度が得られるよ
う な 必 要 な エ レ ベ ー タ の 角 度 は 7.(1) の
Elevator Angle per G(δe/G)から求める
ことが出来ます。計算例は B747-200 で、
表1
必要な
必要な
フレヤ
フレヤ
上向き
エレベ
ーに必
ー開始
加速度
ータ角
要な時
高度(ft)
度(deg.) 間(sec.)
(G)
50
0.052
1.56
6.0
30
0.086
2.58
3.6
20
0.130
3.90
2.4
25%CG、Vref+5 kts、560,000lbs で、エレ
ベータ入力時間は考慮されていません。表 1
はそれを纏めたものです。7 項で見たように
いろんな要素の影響を加味したものが必要
なエレベータの角度となります
C182
(2) 操舵開始後応答完了までの時間
エレベータ入力の仕方によって Pitch rate、
加速度がどのように変化するかを Fig.8、9
にしました。ゆっくりと入力すれば、入力後
の overshoot が無くなることは経験上知ると
ころです。ゆっくりとスムーズな操舵をする
ことによって飛行機の応答遅れの時間を短
B747
(3)フレヤー操作
上記(2)で見たように操縦操作を開始して
から飛行機が応答完了するまで、約 2 秒前後
必要となる。1 回または 2 回の修正操作に必
要な時間を考慮すれば、フレヤー操作は接地
まで少なくとも 4 秒以上確保できる高度か
ら開始した方が Hard Landing のリスクを
最小にできると思われる。個人的には、5 秒
前後の時間を掛ける Flare 操作が修正操作
を含め、易しくなると思う。人によっては高
起しと言われるかもしれませんが…。
9. 着陸操作の習得
く感じることが操縦を楽にする一つの方法
となる。
9.
(2)の YOUTUBE の night landing
では 50ft call 前からの Flare 操作を開始し、
かなりゆっくりとした Pitch 変化になってい
ます。
(1) 0.09G になるような Pitch Rate
初めて乗る飛行機で着陸操作を習得する
にはどうのようにしたらよいのだろうか。た
とえば、上向きの加速度 0.09G を得るような
エレベータの入力をどのようにして習得す
ればよいのか?
今、あるバンク(φ)で定常旋回している場
合 、 荷 重 倍 数 (n) は 次 式 で 表 さ れ る 。
W = Lcosφ
L
W
1
=
cosφ
n=
(2) Flare 操作中は Pitch Rate を保持
これから加速度が 0.09G(計算するときは
1.09)になるバンク角を求めると約 23.5 度と
なる。configuration を着陸状態、アプロー
チスピードにし高度をシュミレータの場合、
500ft の水平飛行で完全にトリムオフする。
そして求めたバンク角で水平旋回をする。こ
のときエレベータは flare 操作に必要な舵角
になっており、つまり 0.09G が得られる舵圧
になります。この着陸操作に必要になる舵圧
を感じ取って覚える。今度は、Wing Level
にして、先ほどと同じ舵圧を入力した時の
Pitch Rate を記憶する。
またこの時、バンクを 23.5 度にしたまま
100 か ら 200fpm (Approach Speed が
120kts の時約 0.5 度から 1.0 度の変化)でゆ
っくりと上昇降下を行い舵圧がどのように
変わるかを感じ取る。これは、Flare 中の修
正要領で必要な感覚になり、この微妙な舵圧
を体得することが、着陸操作を習得するのに
重要な要素となります。
そして、必要なエレベータ舵角が変化する
要素である CG、速度、重量を変化させ(一旦
水平飛行の状態でリトリムしてから)上記操
作、求めたバンク角で水平旋回を行い舵圧の
違いを感じ取る。
シュミレイターの教官卓で Pitch rate(q)
が分かるようになっていれば、式(7)から
Pitch rate を計算して(app. Speed が TAS
140kts の場合)
q=a∗
た重量、C.G の位置を変えて 0.7deg./sec に
なるように操作した時の舵圧の違いを感じ
取る。
g
32.15
= 0.09 ∗
6076 ∗ 57.3
V
140 ∗
3600
= 0.70deg/sec
この Pitch rate になるように操作をする。ま
0.09G の加速度で必要になるフレアー開
始高度は 30ft になるが、8(2)項で見たように
エレベータ入力に必要な時間があることか
ら B747 の場合目安として降下率(11ft/sec)
の 2 秒分を加算した高度から 50ft くらいか
らバンク 23.5 度の水平旋回で感じ取った感
覚の舵圧をゆっくりと入力する。入力をゆっ
くりすればするほど応答の遅れが無くなる。
所望の Pitch rate になった後は、Pitch rate
を保持するようにエレベータを操作する。こ
の 時 、 徐々 に コン ト ロー ル は 重く な る。
Control Force は、操舵量と速度によって変
化する。また、目線は水平線に置き、意識し
て runway edge (Light)を視野に入れる。周
辺視野にある Visual Cue は、意識しないと
見えない。適切な接地状況になる pitch rate
は数回実施すれば判明するでしょう。
Control force は実機とシュミレイターに若
干違いがありますが、シュミレイターで把握
したこの pitch rate と Visual Cue の見え方
は実機でもそのまま通用します。実機とシュ
ミレイターは違うと言われていますが、変動
要因がそれなりにシュミレイターに組み込
まれていないから違うだけです。特に風の
Model は、その飛行機の長周期モード、ダッ
チロールモードの周波数成分が含まれてい
ないと、それなりの揺れ方はしません。ANA
の シ ュ ミ レ イ タ ー ANA MODEL の
Continuous Gust を試してみてください。ま
たシュミレイターは Ground Effect が強いと
よく言われますが、
筆者はこれも風の Profile
が高度の 1/7乗のモデルの所為ではないか
と考えています。
You tube の“ANA Boeing 747-400
Cockpit view for Landing”を見ていただ
くと、50ft call 前から Flare 開始し、ゆっ
くりした Pitch の変化、そして接地前までの
Pitch Rate、接地直前の探り舵に近い修
正などの雰囲気を味わっていただけると
思います。
(3)The Invisible Gorilla
認知心理学の実験で有名な“The invisible
gorilla”(YOUTUBE で見られます)というの
があります。バスケットをしているチームの
パスの回数を数える実験です。この時画面中
央にゴリラが現れるのですが、この実験に参
加した半数の人はこのゴリラに気付きませ
んでした。注意力を一点に集中しているとた
とえ画面の中央にあるものでも見えなくな
ることがあるという事実、現実。同僚の何人
かにこの実験をしてもらったところ、ゴリラ
を見逃した人、見た人がいました。パスの回
数を数えることを諦めた人、結果パスの回数
を間違えた人にゴリラを見た人が多かった。
見逃さないようにするには、ゴリラが現れ
ることを意識すればパスの回数を数えなが
らでもゴリラを認識可能になるでしょう。タ
イトルからゴリラを予測し、ゴリラを視認し
且、正解の人もいました。
Runway Edge (Light)、Touch down Zone
Mark を意識すれば、「沈みは適切か?」、
「Touch Down Zone 内に接地出来るか?」、
判 断可 能に なる でし ょう 。目 線を Touch
Down Point に置くと上記(3)で見た状況にな
り(注意力が集中し)易く、
沈み Runway Edge
Line(Light)が Invisible Gorilla のように分
からなくなることがある。
(5)Flare 開始高度の判断
Flare 開 始 高 度 の 判 断 は 、 Runway
edge(Light)の見え方(φ)から判断する。
この時も、目線は水平線に置いて意識するこ
と に よ っ て 周 辺 視 野 内 に あ る Runway
edge(Light)への角度により正確な高度判定
が可能になる。滑走路幅には違いがあるので
それに対応した判断が出来る様に演練する。
Radio Altitude Call が無くても適切な高度
判定は出来る様になる。人によっては、Radio
Altitude Call out に依存して Flare 操作を開
始している人もいるが、Radio Alt Failure
Fig.10
φ
(4)Flare 操作中の目線は?
高度、沈みの判断は、いろいろな Visual
Cue のうち Runway Edge Line(light)からが
最適になる。高度、沈みを適切に判断できる
ようにするために、目線をどこに置いたらよ
いのでしょうか?廊下を滑走路に見立てて、
廊下の中央に立ち、目線を数メートル先にし
て膝を曲げ伸ばしした時と、目線を水平線と
思しきところにして膝を曲げ伸ばししたと
きでは、明らかに、後者のほうがより多くの
visual cue が視野の中に入り、廊下の縁の浮
き上がり具合により沈みの状況がより分る。
またこの時、数メートル先に Touch down
Zone Mark の代わりに見立てた紙を置いて
目線を水平線に置き膝を曲げ伸ばししたと
き視野内にこの紙が入ることを確認してみ
てください。目線を水平線に置きながら、
Eye Height
Fig.11
のことも考慮して、自分の目で高さ判定でき
るようにすることが肝要。接地時の高度判定
も重要なことからも的確に判断できるよう
にしておく必要がある。
Fig.12
(6)沈みの判定
着陸操作の最終目標は、沈みをある範囲内
の値で接地させることなので、この沈みを正
確にまたどんな状況、滑走路が雪で覆われて
Touch Down Zone Mark が見えないような
場合でも判断する必要がある。Fig10 で、目
か ら 滑 走路 面へ の 垂線と 目 から Runway
Edge への線がなす角度(φ)の単位時間当
たりの変化(φ’)が沈みを表していることか
ら、
B747 とセスナで沈みが 120fpm(2ft/sec)、
180fpm (3ft/sec)、300fpm(5ft/sec)で接地し
た場合のφの単位時間当たりの変化(φ’)を
グラフにしたのが Fig11 です(滑走路幅は
60m、Fig12 は 45m の場合を計算)
。破線が
B747 で実線がセスナです。この図から分か
ることは
①Eye height(機種)によらず沈みが同じで
あれば単位時間当たりの変化(φ’)は、ほぼ同
じであること
②接地時の沈下率の許容範囲を 200fpm と
すれば滑走路幅によらず、Runway edge の
変化率 2deg/sec 以上は避けた方良いことに
なる。
③沈みは Runway slope がある場合でも
Runway edge の浮き上がり具合から判定し
ていれば適切な沈みの判断は可能で、slope
の有る無しを意識する必要はない。[*]
[*] runway edge の上下動を判定でき
る下限値は0.4~0.5deg./sec と言わ
れていますので 120fpm、180fpm の違い
60fpm は、約 0.6deg/sec なので十分判
別可能と言えるでしょう。150kts の時、
slope が 0.5%であれば75fpm に相当する
ので判別可能な範囲となり、Runway
slope を特段意識する必要はなく、
Runway Edge の浮き上がりに応じた操舵
で十分であることが判ると思います。
(7)Pitch rate の判断
水平線が視認可能な時、Pitch rate の判断
は、水平線と Glare shield の間隔の変化から
判断している。
Manual Landing の 視 程 の 最 下 限 値
(550m)の場合や夜間着陸の場合は水平線の
視認は不可能ですが、Runway edge (light)
全体の動きから Pitch Rate は把握可能です。
10.総まとめ
通常の 3 度の Path を保持できた時は、
Flare 開始は通常同じ高度から行う。この高
度判定は Runway edge (light)への見え方
(φ)で行う。この時目線は水平線と思しきと
ころに置く。そうすることによって周辺視野
にある Runway edge (light)が認識し易くな
る。
降下率の変化は加速度の履歴に依存して
おり、この加速度は Pitch Rate に比例して
いることから、Pitch rate の把握が重要に
なる。同じく目線を水平線辺りに置くこと
により、より確実に Pitch rate が把握でき
るでしょう。
Flare の後半になったら Runway edge
(light)への見え方の変化率(φ’)が沈みの許容
範囲(滑走路幅 60m の場合 1.1~1.7deg./sec)
になるようにする。今までの Pitch Rate(加
速度)の結果である現在高度 (φ) と沈み
(φ’)を判断して今までの Pitch Rate を基本
にして修正量を決定し、新たな Pitch Rate
にする。そして接地高度になる頃に所望の沈
みになるように修正する。つまり目線は最初
から最後まで水平線と思しきところに置く
ことになる。
以 上 の よ う に Flare 操 作 中 に 必 要 な
Visual cue は Runway edge(現在高度φ,沈
みφ’)、水平線(加速度に比例している Pitch
rate)であり、どんな気象条件の場合でも、ま
たどんな飛行機でも同じ Visual cue を見な
がら、同じやり方で着陸操作が可能になる。
機 種 (Approach speed) に よ る 違 い は 、
Flare 開始高度に影響し、眼高と滑走路幅の
違いは、高度判定と沈みの判定に影響する。
11. 今後の課題
どんな Pitch Rate で Flare 操作をすれば
より正確に高度、沈みの判定が可能になり、
接地前までに確実に修正操作が可能になる
か、言い換えれば高度、沈みの判断に必要な
時間、操縦桿への入力から飛行機の応答まで
にかかる時間遅れを考慮して最適な Pitch
Rate(加速度)を決定できるようなルール作
りが可能になるようにしたい。
12. 自動車の停止操作
自動車の停止操作についてちょっと考え
てみます。100km、50km で走行中に停止操
作をする時のブレーキングはどのようにし
ているのでしょうか?
①まず、停止位置までの距離から必要と思
われる減速率になるようにブレーキ操作を
行う。この時所望の減速率になるまでゆっく
りとブレーキを踏み込む。
②①の操作の結果の減速率で停止位置ま
でに止まれるかの判断をし、ブレーキ操作の
修正を行う。即ち、減速率を変えて所望の接
近率に修正をする。
以上の操作中見ているものは、停止線(滑
走路高度)までの距離、と景色の流れ方から
速度をそして流れ方の変化から停止線への
接近率を判断、制御しているものはブレーキ
(加速度)。速度計を見る人は居ないでしょう。
Flare 操作で押さえるべき要素と類似して
いる。それは、速度を持った物体を所定の位
置で所望の速度にすることであり、運動の法
則(第二法則)を通して着陸操作を見た方がよ
いことを示唆しているように思われます。そ
れによって、何を reference にして何をどの
ように修正すればよいのか明確になり、flare
操作に迷いが無くなると思います。
13.最後に
金沢工業大学の片柳亮二先生から細部に
わたりご教授戴き、お礼申し上げます。
着陸操作について東京大学の鈴木真二先
生、J.O.Entzinger 先生、上村常治先生と話
す機会を設定して戴き感謝しております。ま
たその時、Entzinger 先生が「着陸操作の演
練は、Night landing でやればよい」と言わ
れました。一考すべき方法だと思います。
IBEX エアラインズの皆様には様々な局面
で支援を戴き書き上げることが出来ました。
心からお礼申し上げます。
寄 稿
V-22 オスプレイ
ティルトロータ機の安全性とその考察
(その2)
大西 正芳
大西技術士事務所 代表 はじめに
V-22 オ ス プ レ イ テ ィ ル ト ロ ー タ 機 の
オートローテーション着陸の能力について、
再度書いてみたい。
本 誌 1 月 号 1) で V-22 オ ス プ レ イ (図 - 1)
の安全性に関連して、3つの事項について考
察した。
「背風での遷移飛行(ヘリコプタモードか
ら飛行機モードへの形態変換)」は、飛行速
度 (対 気 速 度) と ナ セ ル 傾 角 の 組 み 合 わ せ
の 許 容 範 囲 の 問 題 で あ る か ら、 飛 行 規 程 に
記載して十分な訓練をすれば安全性は確保
さ れ る と 思 わ れ る が、 対 気 速 度 は 体 感 的 に
分かりにくいので許容範囲を超えないよう
な警報装置または自動制限装置が必要と思
われる。
「ボルテックス・リング・ステート(VRS)」
は、 低 飛 行 速 度 で 高 降 下 速 度 の 時 に 急 激 に
ロ ー タ の 推 力 が 失 わ れ る 現 象 で あ り、 左 右
非 対 称 に 発 生 す る 傾 向 が あ る た め、 急 激 で
回 復 困 難 な ロ ー ル 運 動 (横 転) に 入 る。 し
かし降下速度を増加していくと予兆的現象
図-1 V-22 Osprey
も あ る の で、 飛 行 規 程 で 安 全 余 裕 を 見 込 ん
だ制限や警報システムがあれば安全が確保
できると思われる。
ヘリコプタモードにおける両エンジン停
止時の「オートローテーション(以下ARと
記 す)」 に つ い て は、 AR が 出 来 た と し て も
降 下 速 度 が 大 き い た め、 最 終 的 に 着 陸 す る
ために前進速度と降下速度を止めるのが難
し い と 思 わ れ る。 従 っ て、 前 回 の 考 察 で 疑
問が残ったのは、①ティルトロータ機はAR
降下ができるのか?②できるとしたら安全
な AR 着 陸 は で き る の か ? の 2 点 で あ る 。
ティルトロータ機のARに関していくつかの
資料について調査し再度考察した。
V-22 オスプレイのARに対する要求基準、
解 析、 飛 行 試 験 結 果 等 に 関 す る 詳 細 な 技 術
的 資 料 に 筆 者 は ま だ 遭 遇 し て い な い の で、
民 間 型 テ ィ ル ト ロ ー タ 機 で あ る BA609 (現
AW609)
(図-2)の資料 2)からティルトロー
タ機のAR特性について調査し、V-22オスプ
レイのAR特性について限定的に公表されて
いる情報と比較してみたい。
図-2 BA609
2013 APR
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27
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1.BA609(AW609)のAR性能
り、非常着陸ができる飛行状態/形態まで転換
できること。
BA609は1996年にベル社とボーイング・バー
トル社がBB609として共同で開発を始め、その
②両エンジン停止状態で飛行機モードからヘリ
コプタモードに安定して転換できる上限転換飛
行速度(VCON(power-off))をパワーオン上限
後ボーイング社が撤退しベル社/アグスタウェ
ストランド社によるBA609として2003年3月7
日初飛行。さらにベル社の撤退により2011年か
らはAW609としてアグスタウェストランド社
が型式証明取得に向けて鋭意作業を進められ
ていることは前回記述した。(資料がBA609の
時代のものであるため、BA609と記述するが
AW609と同義。)
(1)民間ティルトロータ機のARに対する要求基準
民間型ティルトロータ機BA609の型式証明の
ための審査基準は、米国連邦航空局(FAA)に
よって、固定翼の審査基準(FAR Parts 23:
Normal Category、 FAR Parts 25 : Transport
Category)と回転翼の審査基準(FAR Parts
29:Transport Category)をまとめ、そこにティ
ルトロータ機固有の要求(TR:Tilt Rotorの略)
条項を追加して作成されている。
BA609 は Transport Category と し て 運 用
さ れ る の で、 FAR25 と FAR29 で 十 分 の は ず
で あ る が、 FAR23 が 入 っ て い る。 Transport
Categoryはエンジンの独立性の要求を満たし
ているので、基本的に両エンジンが停止するこ
とはないことが前提となっているが、ティルト
ロータとして特別に両エンジンが停止した場合
の安全性をFAR23のNormal Categoryの要求か
ら追加している。飛行機モードで飛行中に両エ
ンジンが停止した場合、プロップロータを風車
回転状態(ターボプロップ機の場合は「フェ
ザー」
して空気抵抗が最小の位置で停止するが、
ヒンジレスロータのため回転が困難と思われる
フェザー位置)にして最適滑空速度で降下する
時の飛行速度は150KCAS、降下速度は3000fpm
となり、
安全な着陸は困難に思われる。パイロッ
トはヘリコプタモードに転換してAR降下着陸
することを選択する。という前提から次のこと
が要求されている。
①あらゆる定常水平飛行状態において、両エン
ジンが停止した場合に機体の操縦が可能であ
28
転換飛行速度(VCON)より高い値に設定する
こと。
③1エンジン停止状態で飛行機モードからヘリ
コプタモードに転換飛行中に、両エンジン停止
状態になった場合は1エンジン停止状態の上限
転換飛行速度(VCON)から両エンジン停止状
態の上限転換飛行速度(VCON(power-off))ま
で特別なパイロット技術を必要としないで転換
できること。
④通常の巡航状態で両エンジンが停止した場合
に、あらかじめ整地された場所に安全に着陸で
きること。
(2)飛行試験
ベル社はBA609がこれらの要求を満足するこ
とを実証するための飛行試験を行っている。
飛行試験では両エンジン停止になってから非
常着陸まで安全に制御できることを実証するこ
とによって、両エンジン停止状態(power-off)の
飛行領域を調査することである。
通常の両エンジン作動状態での転換飛行に
おける飛行速度とヘリコプターモードと飛行
機モードのナセル角度の関係を図-3に示す。
転換中のナセル角度に対して許容される飛行
速度の下限(VMIN)と上限(VCON)による
Corridorが示されている。1エンジン停止状態
の時も同じCorridorが使われる。Power-onと
Power-offのCorridorを図-4に示す。
飛行試験は少しずつ飛行範囲を拡大しなが
ら、シミュレータで確認しては飛行試験で実行
するという慎重を期して行われた。飛行試験は
3つのフェーズに分けて実施した。
(a)フェーズⅠ
フェーズⅠでは、まずシミュレータを使って
ヘリコプターモードのエンジンナセルを上に向
ける(角度95度)定常AR、及び飛行機モード
のナセル角度0度の風車回転状態の確認、並び
に降下速度を減少させるための引き起こし(フ
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図-3 BA609の転換飛行のCorridor
レア)の効果の確認を行なった。飛行試験は1
回だけ行われた。飛行速度60KCASナセル角度
95度で両エンジン停止(power-off)を模擬した状
態の降下に入り、速度を110KCASまで増速、
30度バンクの左右旋回で良好な操縦特性を確認
した。また、定常AR降下中の飛行速度と降下
速度及びロータ回転速度との関係が解析結果と
良好な一致を示した(図-5)。
図-5には定常ARにおける重要な特性が示さ
れている。左の図は飛行速度と定常AR降下速
度の関係を示している。ヘリコプタモードの必
要馬力曲線は飛行速度50~80ktsで極小となり、
その速度で最大上昇速度と最小AR降下速度が
得られる。しかし、ティルトロータ機の場合
図-4 Power-onとPower-offの
転換飛行Corridor
は、AR降下の最終段階で降下速度を減少する
ためにロータを後ろに傾けてフレアする時に、
主翼の揚力を有効に使うため、比較的高速(90
~110kts)でフレアする方が有利とされている
が、そのために降下速度が2倍になってしまう
ことが本当に有利なのか検証する必要がある。
右の図は飛行速度と定常AR降下中のロータ回
転速度の関係を示している。飛行速度の増加と
ともに回転速度は低くなるが、フレアにおいて
回復する。
この飛行試験の中で降下速度と飛行速度を減
少させるフレアを行い、降着装置の強度限界内
で非常着陸できることが確認された。ヘリコプ
タの場合は、降下速度が最小となる50~80kts
図-5 定常ARにおける飛行速度と降下速度及びロータ回転速度の関係
2013 APR
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図-6 4200fpm、110kcas ARからのフレアの記録
の降下からフレアをかけるが、ティルトロータ
の場合は主翼の揚力を利用して前進速度のエネ
ルギーを降下速度の減少に使うため、比較的高
速度からフレアを開始する方が有利となる。降
下速度4200fpm、飛行速度110KCASのARから
フレアを行った結果を図-6に示した。
あり、ロータ回転速度は84%に維持された。
180KCASに増加しても回転数の減少はほとん
どなかった。また、ビープ操作によってロータ
回転速度を84%から100%に変更できた(図-7)
。
図-7は飛行機モードで両エンジン停止(ア
イドル)にし、プロップロータを定常風車回転
コレクティブ・ピッチ角を引き上げると降下
速度と前進速度が減少し、ロータ回転速度が増
加する。ロータ回転速度が再び減少する時点で
アイドル状態のパワーレバーを戻してパワーリ
状態の降下飛行における飛行速度とブレード・
ピッチ角度及び降下速度との関係を示してい
る。いずれも飛行試験とシミュレータ試験の結
果を比較して良好な一致が得られている。ロー
カバリーをしている。パワーリカバリーの時点
で70KCAS、400fpmであった。降下速度は十
タ回転速度84%と100%の時のブレードピッチ
角度と降下速度にも有意な差は見られない。
分に低下できたが、前進速度70ktsはかなり高
速なので滑走路のような場所以外では安全な着
陸は困難と思われる。また、この飛行試験では、
飛行機モードで両エンジン停止しプロップロー
フェーズⅠの試験結果はほぼ順調であった。
(b)フェーズⅡ
フェーズⅡでは、フェーズⅠの結果について
徹底的にリスク解析を行なった。飛行機モード
タを定常風車回転状態で滑空する試験を行って
いる。ナセル角度0度、ロータ回転速度84%、
で飛行中に両エンジンが停止した時の風車回転
(空転)状態で、ロータを駆動している空気流
飛行速度150kcasの時の降下速度は3000fpmで
はロータの上面(前面)から流入しているが、
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図-7 飛行機モードの風車回転状態におけるブレードピッチ角と降下速度
ナセル角度を0度から95度に転換してヘリコプ
タモードでAR降下中はロータの下面から空気
が流入してロータを駆動している。転換の途中
で空気流がロータ面と並行(edgewise flow)にな
り、ロータを駆動する力が減少するため回転速
度が減少する。まずは、ナセルを前傾させたヘ
リコプタモードのARからナセル角度を95度へ
転換するときの、ロータ回転速度の低下につい
て確認をする必要があった。ヘリコプタモード
でナセル角度を95度と75度の間(85度、80度、
75度)にセットして飛行中に、両エンジン停止
を模擬した状態でARに入り、降下速度が安定
した段階でナセル角度を95度まで転換する飛行
試験を行った。飛行試験結果はシミュレータの
結果よりロータ回転速度は3%低いが、安全上
問題がないことが確認された(表-1)。
表-1 オートローテーション中の転換飛行におけるロータ速度の低下
(c)フェーズⅢ
フェーズⅢでは飛行機モード(ナセル角度0
度)で飛行中に両エンジンが停止した場合に、
ル角度を変える転換操作を開始した。転換中に
ロータ回転速度が80%を下回ったため、パワー
レバーを戻して回転数を回復した。回転速度は
ヘリコプタモード(ナセル角度95度)まで転
換する非常操作の確認を行った。1回目の試験
76%を記録していた。転換は継続しナセル角
度95度で120KCASまで減速した。2回目の試験
では、飛行機モードで高度9000ftから飛行速度
150KCAS、100%Nrで2000fpmの定常降下状態
において、パワーレバーをアイドル位置にして
プロップロータを風車回転状態にすると、降下
は飛行速度145KCAS、降下速度3000fpmで定
常降下飛行中に、高度5500ftで転換操作を開始
した。今回はパワーの回復は行わなかったが回
転速度は76%から転換終了時に92%に回復し、
速度は3500fpmとなった。6500ft付近からナセ
102KCASまで減速した(図-8)(図-9)。
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図-8 両エンジン停止状態の転換飛行における飛行速度とナセル角度の関係
第1回
第2回
図-9 両エンジン停止状態の転換飛行におけるナセル角度とロータ回転速度(横軸:時間(sec))
(3)BA609のAR試験結果の総括
以上、民間型ティルトロータ機BA609の両エ
換飛行を行い、そこからAR着陸に向けて機体
を引き起こし(フレア)により、飛行速度と降
ンジン停止からの性能について、飛行試験の結
果を紹介した。飛行機モードの巡航飛行から両
エンジン停止した場合、まず、プロップロータ
下速度をAR着陸可能な状態まで減速できたと
している。パワーリカバリーの時点で飛行速度
70KCAS、降下速度400fpmが許容範囲か、全
を風車回転状態にして滑空飛行に入り、次い
で、ナセル角度を0度からヘリコプタモードの
ナセル角度95度まで変更し、定常ARまでの転
備重量や気象条件等のその他の条件でどこまで
AR着陸が可能なのか、高度なパイロット技術
が必要なのか等さらに調査をする必要があると
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思われる。
2012年2月にダラスで開催された国際ヘリコ
ンの独立性が証明されていることである。1999
年に量産初号機が引き渡され運用評価試験を行
プタ協会(HAI)の展示会Heli-Expo2012の前
日にダラスに近いアーリントン空港でアグスタ
ウェストランド・ティルトロータ社(AWTR)
はAW609のデモ飛行を行った3)。AWTR社は
この地を本拠地としてFAAの型式証明を取得
う段階ではAR着陸の要求はなくなっていた。
米国航空宇宙局(NASA)は、ヘリコプタモー
ドで飛行中に両エンジンが停止した場合はナセ
ル角度を前傾して、滑空に入り滑走着陸するこ
し量産も行う計画である。パイロットの談話と
して、
「AR試験は高度の余裕をとって実施した
が、AR降下から引き起こして降下速度をゼロ
にするまでに、それほど高度を必要としなかっ
た」と報じているが飛行条件等の詳細は不明で
ある。AWTR社は現在2機の飛行試験機を持っ
ており、さらに2機が追加される予定である。
ダラスに配備されている機体でAR着陸の証明
試験を実施する予定である。
とを推奨している。
Mark Thompsonは「TIME」の国防省担当
記者でワシントン支局の副局長であるが、2007
年10月8日付けのTIME誌に「A Flying Shame
(恥)」と題してV-22オスプレイの問題を指摘
している。この記事は9月26日付けのTIMEの
ホームページで公表されている。その記事5)の
中でThompsonは次のように述べている。
量産機による最初の評価試験の結果は1999年
の国防省の報告書に記されており、V-22オス
プレイのAR能力が十分でないことを認識して
2.V-22オスプレイのAR性能
いる。2001年の報告書では、まともなAR着陸
V-22オスプレイのARに関する情報を考察する。
の可能性は非常に低いことが明確となり、2002年
Richard Whittle は国防省の政策に批判的な
の報告書で安全なAR着陸はV-22の要求性能か
立場の人物でThe Dallas Morning Newsの記者
ら削除された。しかし、飛行規程には両エンジン
4)
であるが、その著書「The Dream Machine」
が同時に停止する可能性が示されている。例えば、
の中で次のように述べている。
燃料に不純物が混入、コンピュータ・ソフトの不
統合先進垂直離着陸機(JVX)の当初の要求
具合、戦闘場面での被弾等である。TIMEが入
仕様で
「飛行中に両エンジンが停止した場合は、 手した国防省の内部調査機関である国防研究所
滑空又はARによって生存可能な非常着陸がで
(IDA)の2003年の報告書では、
「唯一試みられ
きること」となっており、1995年に初期量産製
たV-22のARは失敗に終わった。試験結果のデー
造の承認を要求する段階でもこの要求は生きて
タによれば、過大な降下速度となり、そのまま着
いる。
陸を試みれば乗員の生存が望めない速度で地面
V-22の開発に従事しているパイロットはAR
に衝突したであろう。」と記されているようである
を試みているが、AR降下は出来ても安全な着
陸は困難としている。その理由として、ロータ
直径が小さく又ヘリコプターよりブレードの捻
り下げ角度が大きいため、ARの降下速度が大
きいことと、ロータの回転慣性モーメントが小
さいために、ARの最終段階で降下速度と前進
が、飛行条件等は不明である。
まとめ
速度を減少させるのに必要なロータ推力を得よ
うとすると回転速度が急激に減少してしまうた
め、推力が十分に得られないことを挙げている。
テストパイロットが飛行試験の継続に同意し
以 上、 民 間 型 テ ィ ル ト ロ ー タ 機 で あ る
BA609(AW609) と 軍 用 型 テ ィ ル ト ロ ー タ 機
V-22オスプレイのAR性能について見てきた
が、BA609は飛行機モードで飛行中に両エンジ
たのは、通常の飛行中に両エンジンが同時に停
止する可能性は極めて小さいことと、両エンジ
ンが停止した場合でも非常着陸の許容範囲内で
着陸できるようであるが、V-22はAR降下には
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入れるが沈下速度が大きすぎて安全な着陸が
できないようである。AR降下速度は円板荷重
参考文献
V-22 オスプレイ ティルトロータ機の安
1)
(Disk Loading:機体重量をロータ回転面積で
割った値)の2分の1乗に比例する。ちなみに、
V-22は最大離陸重量23860kgロータ直径11.62m
(2 基)、 DL は 112kgf/m2 、 BA609 は 7620kg、
7.92m、DLは77kgf/m2 。V-22はBA609に対し
てDLで45%、降下速度で21%大きい。また、ロー
全性とその考察 大西正芳
PILOT 2013 No.1 JAN (公益社団法人)
日本航空機操縦士協会
タが小さいことは、AR着陸の最終段階で降下
速度と前進速度を止めるための、ロータ推力に
よる仕事にエネルギーを供給するロータの回転
Society 66th Annual Forum, Phoenix
May 11-13, 2010
3)
AW609 Finally Ready for its Close-up by
慣性モーメントも小さいことを意味するので、
十分な減速が行えない。
V-22オスプレイのARの問題の対策として
は、飛行機モードにおけるロータ効率をあまり
犠牲にすることなく、ロータ直径を増加し、ブ
レードの捩り下げ角度を小さくして、降下中の
ロータ効率を改善し、回転慣性モーメントを増
加することが考えられる。しかし、大幅な設計
変更となるため実行は困難とすると、運用方法
でARの安全性を向上する方法を検討しなけれ
ばならない。さらに検討を進めるためにはAR
性能に関してもう少し詳細な解析計算をする必
要がある。
2)
I nitial Power-off Testing of the BA609
Tiltrotor J. C. Harris et al. (Bell)
Presented at the American Helicopter
James Wynbrandt
AIN online February 11, 2012
http://www.ainonline.com/aviation-news/
hai-convention-news/2012-02-11/aw609finally-ready-its-close
4)
The Dream Machine –The Untold History
of the Notorious V-22 Osprey- by Richard
Whittle Simon & Schuster April 2010
5)
V-22 Osprey: A Flying Shame by Mark
Thompson
TIME Magazine September 26, 2007
http://www.time.com/time/magazine/
article/0,9171,1666282,00.html
大西正芳氏のプロフィール
昭和16年4月16日生 千葉県市川市出身
昭和40年 東京大学航空学科を卒業し川崎航空機工業(現川崎重工業)入社 ヘリコプタの技術部門を歴任
平成6年4月から平成9年6月まで ヘリコプタ設計部長
平成9年7月から平成14年6月まで カワサキヘリコプタシステム社常務取締役
現在
* 大西技術士事務所 代表
* 名城大学工学部交通機械工学科非常勤講師(航空宇宙学、知的交通システム学)
*(株)航空ニュース社編集顧問
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寄 稿
あるパイロットのつぶやき
― 機長編 ―(その5)
元 JAL 機長
神谷 國夫
2013年今年になって、オスプレイの沖縄配備、韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島問題、
ロシアに隕石落下、中国のPM2.5汚染問題・アベノミクスの円安やTPP等きな臭い話題は尽き
ないが、中でも我々をおどろかせた話題は、颯爽とデビューしたボーイング787(ドリームラ
イナー)が蓄電池の火災というトラブルから、全面的に運航停止となったことである。メーカー
の改修が何時になるか不明だが、1日も早く優雅な姿が再び全世界の空に戻るよう切に願って
やまない。この運航全面停止は、大きな人身事故の結果、出されたのと違って、大事故になる
前にパイロットの処置で未然に防がれたことに端を発したことを付記しておきます。1機種の
運航の全面停止措置は過去にもありました。1979年5月から7月までの間ダグラスDC-10型機が
それです。(後述の予定)。さて今回もつぶやきはWHAT WHY HOWの続きです。
●大量輸送時代のひずみ
ジェット旅客機の台頭から世界の航空界は急
速な拡大をし、華やかな繁栄を謳歌した。私
の古巣のJALも大いに変貌した。世界1周便を
設けたり南米線やメキシコ線を開設したり、
ジェット機のスピードと大型で快適な客室の
サービスによって、世界に目を向け旅行する人
口が急速に増加したからだ。航空会社の定期便
は増加をたどり路線を広げ、加えてチャーター
た事が現実のものとなった。JALに対する世評
は厳しかった。社内のパイロットに対する目は
より厳しかった。JALの経営陣は強化対策を策
定したが特に機長昇格基準がより厳しく改定に
なった。即ち機長昇格時の最低飛行時間3000
時間だけであったものが、副操縦士3年以上か
つ 乗 員 部 長 承 認 を 得 て (Left Seat Approved
Copilot)として1年もしくは600時間100回以上
の離着陸を経験させ、そのあと厳重な審査に合
格した者を、更に2〜4か月担当する路線を経験
便も増加し、新たに巨人機のB747ジャンボが
就航しSSTコンコルドも話題に上っていたが、
徐々に需要と供給が高まり運賃制度の革新が始
まった。世界の航空界全般を見廻すとき、飛行
させて、法的審査に合格した者のみを機長に任
命するように改定した。これによって機長昇格
平均飛行時間が3800時間であったものから4600
時間となった。貴重な多くの人命と高価な機材
機自体の性能は著しく向上したが、地上施設や
自然環境の研究はまだまだで先進国はともかく
を失うことを考えれば当然の処置だが、私はつ
ぶやいた、“WHY”もっと早く適正且つ堅実
後進国では対応が遅れていた。そのうえ航空犯
罪テロによる安全阻害が増加した時代になっ
た。大量輸送時代のひずみが事故につながる結
果を招いたのだ。JALもその悪夢から逃れられ
な事業計画を立てられなかったか?と航空会社
でありながら17名の役員の中パイロット出身の
役員がただ1人平重役だ。外国のエアーライン
は中枢にパイロットの役員を置くのが普通だと
ず事故が相次ぎ、痛恨の極みであった。
急激な事業の拡大は綻びを招くと危惧してい
聞く、飛行機でお客を運ぶのが本業なのにJAL
はこれでいいのか?この世の総てのものがそう
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であるように、安定、安全は極めて狭い中にあ
り、そのバランスが崩れた時に災害や事故が起
取って安全に正しく動かすのが我々パイロット
の役目だよ。忘れるな!」と、読者は飛行機の
こる。我々パイロットはバランスを崩さないよ
うHOWの勉強を日常の中にいれて対処しなけ
ればならない宿命を持っているので、真のバッ
プロでしょうが、念のためもう一度この飛行機
の諸元を示せば、
クアップたりうるパイロットになれと願うもの
である。
B747-100の諸元
全 長
70.6メートル
全 幅
59.6メートル
●B747-100 INSの出現が
操縦を変えた。
全 高
最大重量
航続距離
巡航速度
19.3メートル
333トン
9800㌔
マッハ 0.84 896km/h
エンジン
搭載燃料
乗 員
C A
乗 客
推力 21000kg×4基 ドラム缶930本
3名
17名
452名(国際線361名)
DC-8-62型機は、現在の新鋭機B787の走り
の飛行機だったと思うオートパイロットを有効
に使い、航法ではドップラレーダーで対地速度
と編流を測定し目的地から自機の位置を割り出
す機材を搭載する等、我々の負担を少なくして
くれる思想の機だったが、着陸時にはパイロッ
トの勘が重要であった。なぜなら機材はまだ
オートランデングまで出来なかったから、接地
操作はパイロットが手動でするしかなかった。
1972年私はDC-8からB747-100に移行した。
ご承知のジャンボだ。ここで初めてINS(慣性
航法装置)に対面した。飛行機の大きさもさ
ることながら、この装置に驚いた。操縦に関わ
るデーターを簡単に検出してくれる、自分の手
で操縦して空港に着陸するとき偏流角、対地速
度等今まで探りながら滑走路に進入していたも
のが、INSのうちだすデーターを操縦術の中に
入れて操作すると相当の横風でも簡単そして着
陸フレアも電波高度計で精確に30フィートを認
めた時、3度機首上げして維持すればメインギ
ヤーのティルトのタイヤが滑走路面をスムーズ
に撫でる。この飛行機はオートランデングが可
能になったからオートパイロットから学べばマ
ニュアルも結果良しだ。勘の操作と頭脳の操作
をミックスさせればなんなく着陸が出来た。ス
ムーズに接地しようと過度に機首を上げる操作
はプロペラ機の翼型とジェット機とでは違う事
を一考すべきだと思う。1944年の戦中に大先輩
のN機長が言っていた言葉が思い出される。
「飛行機は頭脳明晰な人々が集まって作られ
る最高の機械だ。設計フィロソフィーを読み
36
まさにジャンボだ。大きな動翼を動かすには
油圧と電気、パイロットの五感に直接結びつく
のは目だけだ。見えないものを知らせてくれる
計器類を見て空を飛ぶ。たえずWHAT WHY
HOWの気持ちを持って操縦した。全部が全
部OKかといえば一つだけ気になったことは、
今までコクピットの横の窓はスライディングド
アーで開いたが、この機にはそれが無い。前面
から横まで1枚ガラスになって、機長席から左
前方を見るとガラスのカーブが外の物体をやや
歪んで見ずらいのが気になった。じっさい太平
洋線に飛び出しサンフランシスコからの帰り便
でホノルルに寄航の際、長年DC-8で飛んでい
たのに経験したことが無かったホノルルが珍し
く南風と強い雨でILSのない滑走路22に目視飛
行でサークリングアプローチとなった。
地上レーダーで滑走路22のべースレッグまで
誘導され、目視飛行に移ったが、ワイパーによ
る水の流れと曲面の全面ガラスが重なって滑走
路を見つけ出すのに一瞬とまどったことを覚え
ている。その他は言うことのないいい飛行機
だった。画期的な飛行機操縦の時代が来たこと
を覚えた。そして経験的に、一定した横風にラ
ダートリムを取って横滑り状態を作り着陸して
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みたが、風が変動する突風や着陸後には対処が
難しく、やはり邪道だろう。(40年前の話)
ついでに気になったエピソードを付け加える
と、安全監査室の仕事上何かないかとアンテナ
を張っていた所にB727の失速特性がおかしい
とのうわさが入った。
※ こ の 問 題 に つ い て は、 当 時 試 験 飛 行 室 で
B727 の 担 当 で あ っ た 岩 瀬 機 長 が、 PILOT 誌
2009 MARに紹介しているので詳細はそちらを
参照されたい。
●モーゼスレーク ジェット機訓練所
であった。いままでは目視で低いグライドパ
スで進入していたものを、ILSの3度のグライ
ドパスに乗せ5度の機首上げ姿勢をキープし
たまま接地までエンジンコントロ―ルのみで
操縦できたことだ。通常の着陸では速度を殺
し揚力を増すためフラップを使うが、15度か
ら30度と下げの角度が増えると操縦桿による
着陸のフレア操作は難しくなる。翼を取り巻
く空気の流れが乱れてくるからだ。現在の様
にシミュレーターで代用していない時代で、
国家試験は全て実機で行なった。離陸時には
1973年春、ワシントン州モーゼスレークのア
メリカ空軍撤退後の飛行場を借りて設置され
たJALのジェット機訓練所の所長兼教官として
転勤になった。家族ぐるみの2回目の海外生活
だった。WHY、どうしてJALのジェット機訓
練所がアメリカにあるの?と中学生の次男が問
う。皆さん返事をしてやってください。私はパ
イロットとして空を飛んでればいいだけでなく
訓練所全体の業務管理がプラスされた。本稿は
あくまで空へのつぶやきなので人間関係の対外
的な話は割愛しますが、一つだけ言えば地上の
仕事は空ほど単純明快ではないが、やはり秩序
の元で気配りと誠実さが大切の一言に尽きる。
空港関係は勿論、モーゼスレーク市との交流も
最良のものにと家族ぐるみの努力をした。さて
エンジン1発不作動にする課目があるから誤操
作されたら事故になるなど、ジェット機の訓
練は故障時の対応操作が多く含まれているの
で命がけだが、ラインと違った生きがいを覚
えた。圧巻は減圧を想定した急降下だ。1分間
に2000メートルの降下率で1万メートルから
4000メートルまで一気に降下する課目。酸素
マスクをつける動作が含まれるので冷静に要
領よく行なわないと難しいものになる。(参
考までに、当時の訓練状況をテレビ映画“白
い滑走路”1974年の作品で見られた方もおら
れるでしょう。)
順調に進んでいた訓練に思わぬ障害が立ちふ
さがった。第1次石油危機だ。アラブ石油輸出
国機構(OAPEC)が石油の減産と供給制限を
発表したからだ。燃料制限のため訓練量を減ら
す通達が来た。豊かなアメリカが国内のすべて、
当時はまだJALの主体はDC-8機にあったので、
最新鋭機のB747機から再び古いDC8-61型機に
戻って操縦教官も務めた。訓練はシラバスに
よって行うが、どうしても個人対個人の技術の
伝承なので、教官の個性が表に出る。
自家用自動車も含めて給油の制限が発動された
から当然飛行機の燃料も制限された。せめて現
在訓練中のパイロットをシラバス完了し、国家
試験を受験させて帰国させたいと、A空港長に
何か良い方法はないかと相談をしたところ、近
教官に選ばれてくるのは技量優秀な者たち
くの空港でジェット燃料の余裕あるところを探
だから自尊心が強い。いわゆる侍たちだ。だ
が教官教育は必要だ。安全を基盤とした教育
の均一性を保つために3か月毎に教官と互乗し
技術交換を実施した。私は幸いにもB747を体
験したので、ピッチコントロールを彼らに披
してくれた。スポーケン国際空港、ヤキマ飛行
場そしてカナダのバンクーバー国際空港には燃
料制限は無いから、訓練をそれらの飛行場を利
用し2〜3回ILSをした後、そこで燃料補給を満
タンにしてモーゼスレークに帰り訓練続行する
露し成果を上げたと思っている。1番顕著なの
ことにした。苦労した想い出である。
は、油圧故障を想定したフラップ零での着陸
以下次号
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▪リレー連載
モノ好きの博 物 館 巡り
第1回
運航技術委員会・編集委員会 委員 柳井 健三
表題を第1回とさせて頂きましたが、筆者に次回原稿の目途が立っているわけではありま
せん。皆様の中には筆者が望んでも及ばぬ「モノ好き」が大勢おられるはずです。国内外を
問わず、航空に限らず、お手元の資料から広く会員に「お宝」をご披露頂きたく、順次リレー
による連載投稿をお待ちしています。キャプションや解説が正しい必要はありません。個性的
な解説・コメントから生まれるトークバトルを楽しみましょう。
原稿送付先: [email protected]
何につけ浅学な筆者なので博物館などを訪れるときも、頭の中は空っぽになっている。
なまじ予備知識を持つより、その方が見聞の感動が大きいことを知っている。航空に限らず、そ
の時の興味や疑問がわいたものを写真に撮っておくが、謂れや背景、名称を記録することをしない。
後になって資料を調べようとするのだが、日が経てばいつかその資料も屑かご入りで、忘却の彼方
に行っている。
そんな手もとの十把ひとからげの写真の束の中から何枚かを紹介し、筆者なりのコメントを書いて
みた。見当違いを正そうと回りの識者に意見を仰いだら、多くの訂正を頂いた。読者諸賢のご高説も
伺えたら嬉しいことだ。
▪ドイツ国立博物館(ミュンヘン)
市内と郊外に3か所あり、全部を見ると3週間
かかると。以下写真は市内のメイン館(イーザル
川の中州全体を占める)と郊外のシュライスハイ
ム城に隣接するミュンヘン旧飛行場館のもの。
(写真右)メイン館のゲート
「Tante」=肝っ玉母さん、の愛称
をもつ。スイスでは現役の観光用機が
ある。外皮はほとんどcorrugateと言
う金属の波板だ。
い ま corrugate と 言 え ば ジ ェ ッ ト
エ ン ジ ン の 騒 音 抑 制 装 置 Corrugate
Mixerに思いが至る。
軍の署名
証明書
(写真左)ユンカースJu52 輸送機
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メッサーシュミットMe262型戦闘機
メッサーシュミットMe262型戦闘機
主翼下面に木材でできた「下ろしがね」(右)のようなものはVoltex Generatorの先祖?と思った
がRocket Launcherであると知見者の言。
写真上
礼服
(写真左右)機種名 不明、山椒魚のイメージ
フラップ位置と共にプロペラ推力線が変化す
るようだ。STOL性を狙ったGood Idea!
写真左 (写真下)Doering 32旅客機のレプリカ
機種名 不明、山椒魚のイメージ
写真右
V
これはFakeだ。3発turbo-Prop機だが、ひ弱な
同軸固定ピッチのプロペラが付いている、T尾翼
機。後退翼でしかも上反角の高翼配置では容易に
dutch rollを起こすだろう。
権威ある国立博物館にあるまじき展示。
Doering社はアメリカの有名なプラモデル会社
らしいが何か意味でもあるのか?
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革張りの手帳タイプ
はJCAB発行のモノを
筆者も持っている、今
の証明書は手帳から
薄っぺらなカードに
なってしまった、お気
の毒です。
メンゲル将軍の署名の入った操縦技能証明書
空軍将校の帽子と礼服、カッコ好い!
写真左の機体はハインケルHE111爆撃機のスペイン
製でエンジンを換装したCASA2111だ、と識者の言。
2発のターボジェットで推進、翼端の
ジェットで上下の推力を得るが、姿勢制御
にメインエンジンのブリードを使ったので
パワー不足で実用は叶わずと、実際にテス
(写真上)Dornier DO31E1 VTOL機と筆者
トを担当された学芸員(82歳)にお話を伺った。機内はダクトだらけだった。
写真の機体はFreidrichshafenのZeppelin本社工場に隣接するDornier博物館前庭の展示機。
3枚の写真はU Boat U-XXVⅡB型
2人乗りの小型潜航艇 ゼーフント(ア
ラダーにセットされた推進スクリュー
エレベーター
船首の魚雷発射管
ザラシ)だと、これも識者の教え。
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船の推進Screwいろいろ
メッサーシュミット3輪車(マニア垂涎)
Hanza HFB320 Business Jet
Hanza Jetの前縁固定スラット
前進翼で中翼構造。 写真の機体はプロトタイプ。量産機にある主翼前縁の防氷ブーツがなく
固定スラットがある、Retro Fitにしても念の入った造りだ。
Daily Mirror紙からのコピー
先猿の教官は言う 「900.000ftまで降りてくる
とだなあ、おまえたちもきっとバナナが喰いたく
なると思うよ」
Me109(Bf109)E型戦闘機
Space Flight の展示パネル
Battle of Britain の主力機だったと。
2013 APR
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左の写真は2機作られたが残存する貴重な1機、ホバリ
ングのみならず完全遷移にも成功し、超音速飛行も実現し
ているので、ハリアー以前のVTOL機としては、成功の部
類に入ると識者のコメント。
EWR VJ101 VTOL機
日本の凧づくし
スポーツクラシック機のCockpit
飛行帽とゴグルが似合いそう
Junkers スポーツ機
これも外皮は波板
19世紀のオートピアノ
森の民の粉挽き水車エンジン
(写真上)ドイツ海軍の対潜哨戒機
42
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フランス製Breguet Atlantic。筆者も対潜機の経験
が一番長いので、対潜哨戒機を見るとやたら嬉しく
なって、ついカシャ!
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“安全の分水領”
アクシデント・インシデント概要
フライト・セイフティ・ファウンデーション(FSF)2013年1月号より
訳 佐藤 裕
ここに示す文書は、読者の皆さんが飛行中に遭遇するかも知れない困難な状態を切り抜けるうえで、
何らかの手助けになれば、と思い掲載し続けています。
なお、この文書は各国の運輸安全委員会が発行した、正式な報告書をもとにまとめてあります。
:FSF編集部
2011年12月22日の午後、この除 雪車作 業員
はデンバー国際空港でランプ及び周辺の除雪を
行っていた。
6時間休憩した後、この作業員は6時間半ほど
作業し続けていて、この後現地時間1730~翌日
0200時までのシフト勤務に備え、除雪車の中で
作業員は除雪車を運転し始める。
除 雪車を運 転していた作 業員は事故調査官
に、しばらくの間除雪車を運転し除雪作業を行
い、ゲートからプッシュバックの準備が出来てい
る737の後方を通過しようとしていた最中、つい
居眠りをしてしまった、と話している。
報告書は“機体の後方を通過した除雪車の方
向は徐々に右へと変わってしまう。180度、つま
り反対の方角を向いてしまった除雪車は737航空
機の胴体左側後部にぶつかってしまった”と書
いている。
この衝突事故で737のオグジャリー・パワー・
ユニット用アクセス・ドアは曲がり、胴体外皮に
4インチ(10cm)ほどの穴が開き、しかもストリ
寝ようとしていた。
除雪作業を行う会社が設置している仮眠施設
ではなく、なぜ除雪車の中で仮眠しようとしたの
か、調査官は理由を突き止められなかった。
ンガーを破損した。
除雪車の運転席部分も破損したが、運転して
いた作業員は無事だった。
この除雪作業を行う会社には“従業員の疲労
作業車は他の作業員によって運転されていた
ため、車内で熟睡することなど出来なかったと考
について考慮する指針が存在せず”このことも
事故を招いた要因の一つである。
えられるうえ、睡眠時間も6時間に達しなかった、
と思われる。
この除雪作業を行う会社には、規則で要求さ
れていないという点もあるが、疲労を軽減させる
そして除雪作業を行う会社の担当者は“除雪
車を運転する作業員は通常12時間から14時間運
転するシフト勤務体制になっていて、疲労の認識
および疲労回復に関しては個人の責任で実施さ
方法とかこれに関する社内の規則も無い。
車内で仮眠し、シフトに従い作業を開始した
せている”と話している。
ジェット
除雪車を運転中に居眠りを。
ボーイング737-700:中破、負傷者なし。
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予期せぬ他機、高速度での離陸中断を。
エアバスA321-231、ボーイング737-800:損傷なし、負傷者なし。
737は加速し80ノットを通過した時、キャプテ
ン(女性)はランウェイのエンドに向かってタ
クシーしているA321に気付き、ファースト・
2011年5月21日午後、アイルランドのダブリ
ン空港ではランウェイ16が使用されていたが、
オフィサーに“あの機体はどこへ行こうとして
いるの?”と尋ねた。
“私たちの前方を横切ろうとしています”と
A321のクルーは、より長いランウェイ28から
離陸したいと要求し、許可される。
このエアバス機は乗客152名、クルー6名でス
ファースト・オフィサーは答える。
“Stop!”とコールしたキャプテンは、タワー
の管制官が離陸を中断せよと指示する前に、高
ペイン、テネリフェへ向かおうとしていた。
A321がタクシーを開始するとグランドの管
制官からタクシーウェイE1に進入し、ランウェ
速での離陸中断(RTO)操作を開始した。
737のキャプテンがブレーキを踏みパワーを
絞りRTO を開始した時、機体はV1より4ノッ
イ28の手前で待機するように、との指示を受け
る。
タ ク シ ー ウ ェ イ E1 は ラ ン ウ ェ イ 28 の ア プ
ロ ー チ エ ン ド 及 び ラ ン ウ ェ イ 16 の デ ィ パ ー
チャーエンドにつながっている。
タクシーウェイに向かうにはまず左に向きを
変え、次は右に方向を変えなくてはならないの
だが、クルーは誤って機体を真っ直ぐ進ませて
しまったため、タクシーウェイE1 の北西側に
あるタクシーウェイAに入ってしまった。
しかしこの間、グランドの管制官はA321航
空機のクルーに、タワー周波数に入りかえるよ
う指示し、この後管制官の注意は他の航空機に
振り向けられてしまった。
この管制官は、タクシーウェイAに進んでし
まったA321を見ていなかった。
“ランウェイ16のエッジに近づいた時、操縦
を担当していなかったファースト・オフィサー
トほど少ない速度123ノットに達していて、
ランウェイ16のアプローチエンドから820m
(2,690フィート)の位置にいた。
737はA321の手前約360m(1,181フィート)、
ランウェイ16アプローチ・スレッシュホールド
から約1,455m(4,774フィート)手前の地点で
停止した。
737のクルーは駐機場へ戻り、整備士にホイー
ル・ブレーキを点検してもらい、飛行しても支
障ないとの報告を受ける。
“事故調査官は737のキャプテンに、管制官か
ら指示される以前に離陸中断(RTO)操作を
開始しているが、その理由は?と尋ねると、女
性のキャプテンは微笑みながら、シミュレー
ターでの訓練通りに操作しただけと答え、多く
は答えなかった”と報告書。
A321の両パイロットは事故調査官の質問に、
パーキング・スポットからランウェイに通じる
はキャプテンに位置が変なのでは?と尋ね、
キャプテンも機体を停止させた”とアイルラ
ンド航空事故調査委員会(Irish Air Accident
Investigation Unit)の報告書は書いている。
タクシーウェイの距離は短いうえ複雑で、しか
も濡れた表面による太陽光線の照り返しが眩し
く、黄色いタクシーウェイの表示も見えにく
かった、と答えている。
A321の停止している場所はランウィ上だっ
た。この時、タワーの管制官はランウェイ16上
そして報告書は、タクシーウェイAには赤色
のストップ・バーが設置されているものの、視
で待機している737のクルーに離陸許可を与え
てしまう。
この737は乗客145名、クルー6名でロシアの
ビルニウスに向かおうとしている。
程の悪い状態でのみ使用され、常時点灯されな
いため、このインシデント発生時には点灯され
ていなかった、と注記している。
このインシデント発生後、ダブリン空港当局
クルーは離陸操作を開始し、一方A321はタ
クシーウェイAにタクシーしてしまう。
は、24時間ストップ・バーを点灯させ続けるこ
と、タクシーウェイの方向を示す標識を多くす
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る、そして空港のチャートに“hot-spot”に関
する情報を明記する等、多くの改善を実施して
いる。
ブレーキング・アクションは低下していた。
ガルフストリームG200:損傷なし、負傷者なし。
2010年11月22日朝、この航空機は合衆国モン
タナ州ボズマンを離陸し、ワイオミング州ジャ
クソンに向かおうとしていたが、ジャクソン・
ホール・エアポートの天候不良及びランウェイ・
サーフェス・フリクション(MU)値20と報じ
られていることでディレイが生じている。
“MU値は0~100の数値で示され、0は得られ
る摩擦が最低であることを示し、100は最大の
摩擦力の得られる状態を意味する。
MU値40、あるいはこれ以下の状態とは、航
空機のブレーキング性能は低下し始め、操作し
ても機体の方向維持が困難となってしまう”と
NTSBの事故報告書は書いている。
当初予定していた出発時刻の1時間ほど後、
この航空機を運航している会社のディスパッ
チャーはG200航空機のクルーに、ジャクソンの
気象状態は回復し、MU値も40を超えたので飛
行してください、と告げた。
目的地まであと10分ほどという時、航空交通
管制官からランウェイ19のMU 値について、接
地点付近では40、中央付近では42そしてエンド
付近では40、所々ランウェイ上には薄い雪に覆
われている部分と厚い積雪部分及び氷の存在す
る部分もある、との送信があった。
風向風速180度11ノット、弱い雪で視程1/2マ
イル(800m)
、ブロークン500フィート、そして
オーバーキャスト2,500フィートという気象状態
の中、クルーはランウェイ19ILSアプローチを
行った。
報告書は“しかし着陸した時点でのランウェ
イ・コンディションは悪化し、ブレーキ・パ
フォーマンスも先ほど送信された状態よりも悪
化していた。
着陸し、滑走し続けながらスラスト・リバー
サーを作動させたクルーは、グランド及びエ
アー・スラットの指示灯が緑色で点灯し、アン
チ・スキッド・システムも間欠的に作動してい
た…しかしスラスト・リバーサーを最大に操作
しても機体は減速せず、結局機体は長さ6,300
フィート(1,920m)あるランウェイから飛び出
てしまい、ブラスト・パッドの直前で停止した”
と書いている。
報告書は、このG200航空機がオーバーランし
てしまった7分ほど後、MU値はそれぞれ34、33
そして22に変更された点を強調して書いている。
ターボプロップ
引っかかったドア、ギア下げ操作の邪魔を。シュトゥットガルト
フェアチャイルド・ドルニエSA227-DC:小破、負傷者なし。
2010年1月19日夜、チェコ共和国ブロノを離
陸したパイロット2名が乗り込むこの航空機は、
ドイツのシュトゥットガルト空港ランウェイ07
のファイナル・アプローチ・コースを進入して
いた。ランディング・ギアを下げたが、右メイ
ン・ランディング・ギアは下がらず、ロックさ
れた表示も出ない。
ギア下げ操作を何回か繰り返したが同じ指示
が出るためゴーアラウンドし、クルーは緊急操
作手順に従いギアを下げようとした。
繰り返し、何度もギア下げ操作を行ったが降
りなかった。
右メイン・ランディング・ギアの表示は赤色
のままであった”とドイツ連邦航空事故調査委
員会(BFU)の事故報告書は書いている。
クルーは管制塔の近くを低空で飛行し、管制
官にギアが下りているかどうか確認してもらう
が、管制官の答えは降りていない、というもの
だった。
機体に正及び負の荷重を加え、ギアを降ろす
操作の可能な空域に誘導され、操作したものの
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右メイン・ランディング・ギアを下げ、その位
置にロックすることはできない。
何度繰り返しても降りないため、クルーは9
分ほど後に操作をあきらめた。
“クルーはエマージェンシーを宣告し、一方
のメイン・ランディング・ギアとノーズ・ラン
ディング・ギアで着陸することを決心した”と
報告書は書く。
着陸を決行する直前に両エンジンを停止さ
せ、両プロペラをフェザーに、そして全電源系
統をオフにした。
報告書は“着陸し、速度が低下し右主翼を空
中に支えきれなくなり、翼端をランウェイにこ
すり付け、機体は右に方向を変えてランウェイ
の外に飛び出し、柔らかな地面上で停止した。
機体が完全に停止した後、クルー2名は乗客
用出入り口から機外に逃れた”と書いている。
機体を調べた事故調査官は、右メイン・ラン
ディング・ギアの外側クラムシェル・ドアが脚
収納室の端に引っかかり、ギアが降ろせなく
なっている状態を発見した。
明らかに今回の事故原因と思われる、以前に
ついたと思われるギア・ドア外皮の大きな凹み、
そして曲りも発見されたが、なぜこのような損
傷を受けてしまったのか、原因についてはわか
らなかったという。
燃料の補給ミス、エンジン停止を招く。
セスナ208キャラバン:中破、1名軽傷。
2011年12月17日、あと2回スカイダイビング・
フライトを行うので16ガロン(61リットル)
ジェット燃料を補給すれば十分だ、と合衆国ネ
バダ州メスキート近郊で飛行していたキャラバ
ン航空機のパイロットは判断した。
NTSBの事故報告書は“2回目のスカイダイ
ビング・フライト中、ほかの航空機が近くを飛
行しているため、少し待つようにとスカイダイ
バーの降下を遅らせた。
再度降下開始空域に戻ろうとしたとき、この
航空機のエンジンは停止してしまった”と書い
46
ている。
飛び出すように、とスカイダイバーたちに合図
して飛び出させた後、パイロットは出力を失っ
た機体をランウェイに着陸させようとした。
しかし接地点をオーバーしてしまったこの
キャラバン航空機はランウェイから飛び出して
しまい、道路を横切り、ゴルフ・コースの手前
で停止する。
事故の原因について報告書は“飛行前、補給
すべき燃料の量を誤ってしまったため、飛行中
に燃料を使い果たし、エンジンの停止を招いて
しまった”と書いている。
同じではなかった左右エンジンのリバース推力。
ドルニエ328-100:小破、負傷者なし。
2012年1月10日午後、オーストラリア、クイー
ンズランド州ケアンズを離陸したこの航空機は
パイロット2名、捜索要員3名でホーン・アイラ
ンド付近の捜索救難飛行を行っていた。
一度着陸しようとNDBアプローチしていたク
ルーは着陸中、左から8ノットほどの横風を受
けているな、と気付く。
ランウェイのセンターライン上に着陸した
ファースト・オフィサー(操縦を担当していた)
はパワー・レバーをグランド・アイドル位置に
し、すぐリバース位置にした。
オーストラリア運輸安全委員会(Australian
Transport Safety Bureau)の報告書は“フラ
イト・データ・レコーダーの記録を見ると、リ
バース・スラストは操作後しばらく左右とも均
等だった”と書いている。
ファースト・オフィサーは機体が48ノットま
で減速したことを確認し、パワー・レバーに加
えていた力を抜くと、右側のレバー内臓のスプ
リングはレバーをグランド・アイドル位置に戻
したが、何故か左側パワー・レバーはリバース
位置を保ち続けてしまう。
左右の推力が不均一となってしまったドルニ
エ機の方向を維持しようと、ファースト・オフィ
サーは右ラダーを一杯に踏み込んだが、機体は
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左に向きを変えてしまった。
“ほぼ同時にノーズホイールのウェイト・オ
ン・ホイールセンサーはグランドになり、次に
エアー・モードに切り替わってしまうため、
ノーズホイールのステアリング装置は操作不能
イント・リンクを機体構造に固定しているボル
トが緩み、折れて取付位置から無くなっていた。
前回実施された航空機の点検整備時、ノーズ・
ギアのリギングは規定通りに点検されていな
かった、と報告書は書いている。
となってしまった”と報告書は書いている。
ランウェイの左端から飛び出しそうになる寸
前、キャプテンはファースト・オフィサーと操
縦を交代する。
“キャプテンは再び両パワー・レバーをリバー
ス・スラスト位置にし、ドルニエ機をランウェ
イ上へと戻した。
この出来事の後、整備士が点検すると、右側
のパワー・レバーは力を抜くとリバース位置か
ら前方に戻されるものの、左側レバーのスプリ
ングは弱く、力を抜いても前方に戻らなかった。
パワー・レバーの作動が左右同じにならない
という不具合は、この航空機を所有する会社の
ほかの同型機にも起こっていたという。しかし
運航している会社側は、社の承認している整備
士が実際にパワー・レバーを操作し、スプリン
グの張力に頼らずとも、操作力を加えるだけで
リバース・スラスト位置からグランド・アイド
ル位置へ戻せると言った言葉から、運航には差
し支えないと判断していた。
ピストン航空機
山は雲に覆われていた
パイパー・ナバホ:大破、2名死亡。
2011年1月16日午後、合衆国サウスカロライ
2012年1月18日の朝、エアーラインを定年退
職したこのパイロットはイギリス、ウェールズ
地方ウェルシュプール空港を離陸、ビジネス航
空機のパートタイム・パイロットとして飛行す
るため、操縦した経験のあるパイパー・ナバホ
航空機の慣熟飛行へと向かう。
空港の気象状態はVMCであったが、所々に
ブロークン程度の雲があり、周辺に存在する山
の頂上付近を覆っていた。
この航空機で良く飛行し、しかも周辺の地形
にも精通しているパイロットが同乗していた。
南に向かいしばらく飛行した後、着陸するため
空港に戻ってきた。
ランウェイ上空を通過したパイロットは機体
をランウェイ22のアップウインド、レフト・ダ
ウンウィンドそしてクロスウインドへと飛行さ
ナ州ワルターボロにアプローチしていたパイ
ロットはギアを降ろそうと操作したが、操作し
せる。
ダウンウインド前方をヘリコプターが飛行し
た途端、パイロットの耳に“ボン”という音が
響く。
“着陸し、滑走し続けているうちにノーズ・
ギアは折れてしまい、ノーズ・ギアのドア、ノー
ていたので、このパイロットはこの機体との間
隔を維持するため、ダウンウインド・レグの幅
を幾分広くして飛行していた、とAAIBの報告
書は書いている。
空港の北側にある丘陵地帯上空を飛行できる
ギアが折れた原因は無くなっていたボルトに。
三菱MU-2B-20:小破、負傷者なし。
ズ・ギア後方部分の外皮を小破してしまった”
とNTSBの報告書は書いている。
パイロットと同乗者は無事だった。
MU-2航空機を調査した結果、ギアを下げた
時、ダウンロック・ドラッグ・ブレース・ジョ
と考えていたのだろう、このパイロットはベー
スレグも広くしたが降下中、不意に雲に突入し
てしまった。
このナバホ機は木々の上部と衝突してしま
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い、この後空港から2ノーティカル・マイル(4
㎞)ほど北東にある丘の斜面に墜落した。
空のままのタンクで離陸を
セスナU206G:中破、1名重傷、3名軽傷。
無理にIMCの中を。
パイパー・ツイン・コマンチ:大破2名死亡
2011年6月17日の朝、V/Iコンポジット・フ
ライトプランをファイルしたパイロットは、
2011年2月17日の午後、チャーターされロッ
クランドに向かうため、この単発航空機は合衆
イタリアのルカスからフランス、トゥイスへ
向 か い、 高 度 2,000 フ ィ ー ト で 飛 行 し な が ら
ニース・フライト・インフォメーション・サー
国メイン州マティニクス・アイランドを離陸し
たが、洋上の200フィートほどの高度まで上昇
した時、エンジンは不調になってしまう。
ビスに、予定時間より早いがIFRに切り替え
たいのだが、と頼む。
“残念ながら、現時点では許可できないとフ
NTSBの報告書は“直ちにパイロットはス
ロットルを開き、補助燃料ポンプを作動させた
が何の変化も現れない”と書いている。
不時着水した後機体は沈み、パイロット1名
そして重傷者1名を含む乗客3名は1時間ほど、
不時着水した時の衝撃で引きちぎられたカー
ゴ・ポッドにしがみついていたが、全員現場付
近を通りかかった漁船に救助された。
飛行前、乗客はブリーフィングを受けていな
かった。
“機体の一部が浮いていなかったとしたら、
乗客たちはしがみつくことが出来なかったう
え、ブリーフィングを受けていないので機体に
搭載してあるライフ・ベストの収納場所もわか
らず、事故は大きな被害をもたらした、と言え
る”と報告書。
沈んでしまった機体を引き揚げて調査した結
果、燃料のセレクターは右燃料タンクの位置に
ライト・サービスは答えている”とフランス
の事故調査委員会(BEA)の報告書は書いて
いる。
そしてセンターの管制官はパイロットに、
ツインコマンチをフライトプランに記入した
ルートより北側にある2つのウェイポイント経
由で飛行するルートに変更出来るか確認した。
VFRで飛行していたパイロットはこの変更に
従って飛行した。
この航空機はイギリスで登録されていたた
め、事故調査の様子を見守っていたイギリス
の当局者は、この管制官が、ルート変更は可
能かどうか確認しているが、この際に使用し
た用語はATCで使用する標準の用語ではな
かったため、ツインコマンチのパイロットは
IFRクリアランスと勘違いした可能性がある、
と申し入れた。
この8分後、この航空機の機影がレーダーか
なっていて、右燃料タンク内には1パイント(1/4
リットル)の燃料及び25ガロン(95リットル)
の海水が入っていた。
左タンク内には27ガロン(102リットル)ほ
ら消えてしまったため、管制官はパイロット
に呼びかけている。
先ほどルート変更について同意し飛行して
いた2分ほど後、ツインコマンチは標高2,700
どの燃料と2ガロン(8リットル)ほどの海水が
入っていた。
フィートの山の斜面に激突、パイロットそし
て同乗者は死亡。
この事故の原因について報告書は“パイロッ
トの燃料に対する注意力が不足し、片方のタン
クの燃料を使い果たしてしまい、エンジン停止
を招いてしまった”と推定している。
BEAの報告書は“事故は、比較的標高の高
い地域上空をVFRで飛行しているにもかかわ
らず計器気象状態の中を飛行し続けてしまっ
たためである”とまとめている。
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乱気流、空中分解を招く。
セスナM337Bスカイマスター:大破、3名死亡。
2010年11月17日夜、この航空機はパイロッ
ト 1 名、 同 乗 者 2 名 で 合 衆 国 フ ロ リ ダ 州 エ ー
ボン・パークにあるマックディル空軍基地
周辺を飛行しながら軍事訓練を支援してい
た。
飛 行 開 始 前、 気 象 に 関 す る ブ リ ー フ ィ ン
グ で 、 軍 の 訓 練 空 域 ( Military Operation
Area)及び周辺の空域に関し、特に危険と
思われる気象状態は予報されていなかった、
とNTSBの報告書。
し か し 予 報 と 異 な り、 帯 状 の 積 乱 雲 を 伴
う 前 線 が 空 域 に 接 近 し、 天 候 は 急 速 に 悪 化
し始めた、と報告書は書く。
パ イ ロ ッ ト は、 飛 行 を 中 断 し マ ッ ク デ ィ
ル基地へ戻ろうと判断をした。
気象レーダー・システムを装備していな
い こ の ス カ イ マ ス タ ー は、 基 地 へ 戻 ろ う と
ア プ ロ ー チ し て い る 最 中、 シ ビ ア ― ・ タ ー
ビュランスを伴う激しい降水域に突入して
しまった。
そ し て 事 故 報 告 書 は “激 し い 乱 気 流 を 受
け た こ の 航 空 機 の 右 主 翼 は 折 れ、 機 体 か ら
飛 散 し て し ま い、 真 っ 逆 さ ま の 姿 勢 と な っ
た 機 体 は 付 近 に あ る 農 場 の 畑 に 墜 落 し た”
と書いている。
会社の担当者を乗せるためドイツ中央部に位置
するイェナ(Jena)の道路に着陸した。
“目撃者の話によると、着陸する前結構長い
時間雪の上でホバリングし続けていたため、舞
いあがった雪は結構広い範囲に広がっていた
が、ヘリコプターはその中で着陸した”とドイ
ツ航空事故調査委員会(DFU)と書いている。
担当者を乗せて離陸するためホバリングし始
めると、また雪を舞い上げ、広い範囲に雪が広
がってしまったものの、ヘリコプターはこの中
で離陸上昇し始め、高度100フィート付近まで
上昇した時、エンジンはフレームアウトしてし
まった。
MD-600ヘリコプターは道路上に落着してし
まい、搭乗していたパイロット2名は重傷を、
同乗者1名も軽傷を負ってしまう。
報告書は“離陸直後、氷を吸い込んだエンジ
ンは停止したが、この時の高度、速度ともに
オートローテーションに移るには不足しすぎて
いた”と書いている。
ハイウェイ上の送電線に衝突
ヒューズ369D:中破、負傷者なし。
2011年12月21日の午後、合衆国テネシー州ノッ
クスビルから同州内ブラウントビルまで飛行しよう
としていたパイロットは気象状態をチェックし、
VMCを維持したまま飛行できると判断した。
“対地高度400フィートでハイウェイ沿いに飛行
していたが突然雲は低くなってしまい、不意にパ
ヘリコプター
氷を吸い込みフレームアウト
MDヘリコプターMD600N:大破、2名重傷、1名軽傷。
イロットはこの雲の中に突入してしまった。
この直後、速度65ノット程度で飛行していたパ
イロットの目に送電線の存在を示すため、線に取
り付けてある標識であるマーカー・ボールが飛び
込んでくる”とNTSB(合衆国運輸安全委員会)
の報告書は書いている。
2010年12月28日の午後、積雪により損傷した
建物の屋根を調査するためチャーターされたこ
パイロットは送電線を避けようと、右へ旋回し
ながら急降下したが間に合わず、メイン・ローター
をぶつけてしまった。
報告書は“ローター回転数は限界範囲内に保た
のヘリコプターのパイロットは、ビル建設資材
れていたが振動が激しくなり始めたため、パイロッ
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トは近くの空き地に着陸しようと判断した”と書
いている。
機体を調査すると、ローター・ブレードは結構
破損していたという。
セットリング・ウィズ・パワー
ロビンソンR44:大破、2名死亡。
2012年1月19日朝、合衆国ルイジアナ州セン
タービルのグランドにいる人々の頭上を低空で
飛行し、自慢そうに飛行ぶりを見せていたR44
ヘリコプターは急降下し、この後地面に激突し
てしまう。
この事故でパイロット及び同乗者が死亡した。
NTSBの事故報告書は“墜落したヘリコプ
ターのエンジン及び機体を調査したが、事故に
結びついたと思われる故障、そして不具合は発
見されず、正常に作動していたと思われる。
墜落事故の痕跡から、エンジンは墜落するま
で正常に運転されていた…ヘリコプターが急降
下してしまった様子から、セットリング・ウィ
ズ・パワー(ローターが自分の作った渦流の下
降気流に入って揚力を失う現象)に陥ったと思
われる”と書いている。
マスト・バンピングの原因は操縦操作に。
ベル206Bジエットレンジャー:大破、1名死亡。
2010年10月15日の朝、地上の交通状態を監視
していたこのヘリコプターを操縦するパイロッ
トは同乗する2人の警察官に、これ以上飛行す
るなら燃料を補給しないといけないと告げた。
パイロットは合衆国ミズーリ州アーノルドに
50
ある警察のヘリパッド着陸、警官2名を降ろし
燃料補給のためセントルイスへ向かう。
20分ほど後、燃料を使い果たしエンジンはフ
レームアウト、オートローテーション飛行に移
ろうとパイロットはサイクリック・コントロー
ルを素早く、しかも荒い操作で前方に押してし
まう。
“オートローテーション飛行を開始する場合、
先にサイクリックを前方に、荒く素早く操作す
る方法は間違っていて、まずコレクティブ・ピッ
チ・コントロールを最低の位置に下げ、機首方
位を維持できる量アンチ・トルク・ペダルを操
作し、規定の速度を保つようサイクリックを操
作する”とNTSBの報告書は書いている。
このように操作ミスを犯してしまったため、
メイン・ローター・ハブは、ローター・マスト
とぶつかり合ってしまった。マスト・バンピン
グとして知られている現象である。
メイン・ローターは吹き飛び、ヘリコプター
はミズーリ州クラークソン・バレイ近くに墜落
した。
“パイロットの航空身体検査記録を調べた結
果、このパイロットにはうつ病、不安症及び睡
眠時の無呼吸症の病歴の有ったことが分かる。
2007年以降航空身体検査証に記入されているこ
れらの症状について、治療は継続されていると
の記入があるものの、連邦航空局の航空身体検
査適合判定部門には報告されていなかった”と
報告書。
薬物反応の検査も行われ、血液から抗鬱効果
のある、高い濃度のベンラファキシンが検出さ
れ、これらの薬品を服用していたパイロットの
能力は低下し、めまいを起こしていたのでは、
と報告書は書いている。
2013 APR
D_P043_050_安全の分水領.indd 50
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新地球環境問題 原子力関連用語の解説
(8)
―原子力規制委員会会議体・新安全基準骨子・PM 2.5 関連―
運航技術委員会(岩瀬 健祐)
原子力関連用語解説が8回目を数えるこの時期に、PM2.5という新たな環境用語が話題に
なっています。新聞・インターネット情報を参考に出来るだけ判り易く解説を試みました。
前号の解説用語
22.原発立地条件と活断層
以下、規制委員会の関与する会議体を紹介
する。
23.放射性物質拡散シミュレーション
24.原子力規制委員会
【原子力規制委員会関連会議体】
原子力規制委員会には、本来の原子力規制委
原子力規制委員会の有識者会合は、1月29日、 員会の他に、設置法で下記のような審議会等が
地震や津波に対する原発の新安全基準の骨子を
置かれている。
まとめた。今回の骨子案が従来の耐震安全基準
から大幅に変わった点は、新たに津波対策を盛
・原子炉安全専門審査会
り込んだことだ、と新聞各社は報じている。
・核燃料安全専門審査会
この有識者会合とは?という疑問に答えたい。
・放射線審議会
・独立行政法人評価委員会
25. 原子力規制委員会関連会議体
原子力規制委員会は、国会承認人事を例外規
定で事後承認をすることで2012年9月19日に正
式に発足し、同日、第一回委員会を開催して以
来、2013年2月27日まで約半年間に、31回開催
された。(定例委員会は毎週水曜日に行われて
いる。また、本年2月14日と15日に衆参両院で
委員長および4人の委員が国会で承認)
一方、原子力規制委員会は、この間に原子力
関連の懸案を処理するため、以下に紹介する各
種検討チーム、特定の原子力施設の問題に関す
る有識者会合、さらに特定の調査・検討会を設
け、数多くの課題の検討をしてきたが、その解
決策を見いだせないまま、議論を繰り返してき
た。
今回の新安全基準の骨子案提示で、やっと原
子力の安全確保のための基本的な考え方が示さ
れたと言える。
加えて原子力規制委員会は、下記のような検
討チーム、有識者会合、および検討会を次々と
発足させている。以下は、原子力規制委員会の
ホームページの 会議 からまとめたものである。
【検討チーム】と開催回数
① 発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する
検討チーム
(2012-10-25~2013-2-27 16回)
② 発電用原子炉施設の新安全規制の制度整備
に関する検討チーム
(2012-11-20~2013-2-21 4回)
③ 発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関
わる新安全設計基準に関する検討チーム
(2012-11-19~2013-1-29 6回)
④ 原子力災害事前対策等に関する検討チーム
(2012-11-22~2013-1-24 7回)
⑤ 緊急被ばく医療に関する検討チーム
(2012-11-15~2013-1-24 5回)
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51
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⑥ 緊急時モニタリングの在り方に関する検討
チーム
26. 原発の新安全基準骨子案
(2012-12-17~2013-2-7 4回)
⑦ 東京電力福島第一原子力発電所事故による住
民の健康管理の在り方に関する検討チーム
1月29日、地震と津波の新安全基準を検討し
ている有識者会合が提示した、新安全基準骨子
(2012-11-30~2013-2-19 5回)
(注)新聞報道は、有識者会合が新安全基準骨
子案を示したと言っているが、実際には上記①
と③の検討チームがまとめた結果ではないかと
思われる。検討チームのメンバーも有識者であ
ることに間違いはないが、何故正しく報道しな
いのか不思議である。
【原子力発電所敷地内破砕帯の調査に関する
有識者会合】と開催回数
① 東北電力東通原子力発電所敷地内破砕帯の
調査に関する有識者会合(事前会合1回、現
地調査1回、評価会合3回)
(2012-11-22~2013-2-18 計5回)
② 敦賀発電所敷地内破砕帯の調査に関する有
識者会合(事前会合1回、現地調査1回、評
価会合3回)
(2012-11-27~2013-1-28 計5回)
③ 大飯発電所敷地内破砕帯の調査に関する有
識者会合
(2012-11-30~2013-2-19 5回)
【特定の調査・検討会】と開催回数
① 特定原子力施設監視・評価検討会
(現地調査2回、監視・評価検討会5回)
(2012-12-6~2013-3-1 計7回)
② 浜岡原子力発電所5号機の海水流入事象に関
する監視・評価検討会
(2013-2-1 1回)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以上のような各会議体には、それぞれ専門分
野から有識者が委員として任命され、原子力規
制委員会からも担当委員、および原子力規制庁
からも担当者が出席し、毎回平均3~4時間の
議論が行われている。必要に応じて一部調査も
実施している。
52
案の主な内容は次のとおりである。
・原発ごとに発生する可能性のある最大規模の
津波を「基準津波」と想定
・活断層の活動性についての評価は、40万年前
以降までさかのぼって検討
・施設の極めて至近距離にある活断層は、十分
な余裕を考慮して地震動を想定
・敷地内や周辺で時しいの波の伝わり方に影響
を与える地下構造の詳細な調査を義務づけ
原子力規制委員会は、これらの骨子と重大事
故対策を国民からの意見を求めるパブリック・
コメントを実施した後、改正原子炉等規制法と
ともに新安全基準として7月中旬までに決定し、
施行するとしている。
各電力会社は、この新基準を満足する各種対
策(津波対策としての防潮堤や施設の耐震補強
や扉の防水化工事、拡大された活断層の基準を
満たすことの調査等)を実施後、原発の再稼働
を申請することになり、再稼働時期の見通しは
現階では相当に遅れるものと思われる。
現在国内の原発でこれらの新安全基準をクリ
アしている施設は非常に少ない。電力会社に
とっては、非常に高いハードルになる。
今回のこの新安全基準骨子案のみならず、原
子力安全委員会や原子力規制庁の仕事ぶりに対
し、多くの原発立地の自治体の関係者や、原子
力や地震の専門家等から多くの不満が表明され
ている。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
原子力規制委員会が多くの課題を次から次へ
と処理するのは大変であること、入手した一部
の情報が必ずしも正確でないことは百も承知の
上で、筆者の視点で感じている原子力安全委員
会の取り組み姿勢に対するコメントを、敢えて
紹介させてもらうことにする。
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▪懸案事項の優先順位付けが見えない。
▪懸案事項一覧表とそれらの工程表を明示する。
装置を透過する微粒子をいう。PM 6.5~7.0に
相当し、PM 10より少し小さな微粒子である。
▪国民が得心の行くような説明をする。
▪ことが安全に関することだけに拙速はいけな
いが、絶対安全の追求は出来ないことを明言
大気汚染の指標として日本のみで用いられてい
る。
すべきである。
▪出来るだけ早く結論を導くよう会議を進行さ
せなければ、いつまで経っても原発問題の決
(4)PM 2.5(微小粒子状物質)
大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概
ね2.5μm 以下のものをいう。粒子径2.5μmで
着をつけることはできない。
▪東電の情報の隠ぺいや、規制庁幹部による骨
子案のリーク、ノー・リターン・ルールを自
ら破る人事異動等、国民の信頼を損ねる行動
50 %の捕集効率をもつ分粒装置を透過する微
粒子で、日本では微小粒子状物質と訳されてい
るが、日本以外の国では相当する熟語は無く、
もっぱらPM 2.5と呼ばれている。PM 10と比べ
が多すぎる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
て小さいものが多いため、健康への悪影響が大
きいと考えられている。
PM 2.5 関連情報:フリー百科事典を参照
(5)UFP
UFP は“Ultrafine Particle”の略で、日本
語では、超微小粒子とか超微細粒子とよばれて
いる。粒子径が概ね0.1μm以下の微粒子を指
す。PM 2.5に比べて健康への影響が大きいと
言われているが、研究途上にある。
(1)PMとは
PMとは、Particulate Matterの略で、粒子状
物質と訳されている。一般的にはマイクロメー
トル(μm)の大きさの固体や液体の微粒子の
ことをいう。主に燃焼による煤塵、黄砂のよう
な飛散土壌、工場や建設現場で生じる粉塵等か
らなり、これらを大気汚染物質として扱う時の
用語である。
(2)PM 10
大気中に浮遊する微粒子のうち、粒子径が概
ね10 μm以下のもの。粒子径10 μmで50 %の
補集効率を持つ分粒装置を透過する微粒子。
1987年にアメリカで初めて環境基準が設定さ
れ、以降世界の多くの地域で採用されて、大気
汚染の指標として広く用いられている。
(3)SPM
Suspended Particulate Matter の 略 で、 浮 遊
粒子状物質と呼ばれるものである。日本の環境
基準法に基づく環境省告示の環境基準では、
「大
気中に浮遊する粒子状物質であって、その粒子
径が10マイクロメートル以下のもの」と定義さ
れているが、PM 10とは異なる。
粒子径10μm で100 %の捕集効率を持つ分粒
(6)その他
①DEP(Diesel Exhaust Particles)または、
DPM(Diesel Particulate Matter)
ディーゼル車の排気ガスに含まれる微粒子
で、PM 2.5の大部分を占めると言う研究も
ある。
②RSP(Respirable Suspended Particulate)
吸入性粒子または吸入性粉塵とよばれ、肺
の奥に達して沈着する可能性のある微粒子。
健康への影響の観点から定義したものであ
る。5μm以下の微粒子が主であるが、それ
より大きなものも重量や形状、個人差のあ
る呼吸の速さによっては肺に到達しうる。
③降下煤塵
大気中の微粒子のうち、粒子径が大きいた
め浮遊できずに降下・落下するものをいう。
大気中を徐々に降下するものと、雨や雪な
どの降水に混じって落下するものとがある。
④大気エアロゾル粒子(浮遊粉塵)
気象学用語で大気中を浮遊する微粒子をいう。
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
粒子状物資はその発生源や組成から、次のよう
生成プロセスには、化学反応、核生成、凝縮、
凝固、雲や霧を構成する水滴への溶解や蒸発に
に分けることもでき、こちらの名称の方が一般
的に使用されることが多い。
よる析出、微粒子同士の凝集等がある。高温環
境下で凝集するもの、常温下で自ら凝集するも
の、水滴に溶解して凝集する物など様々である。
一次生成粒子
微粒子として直接大気中に放出されるものを
一次生成粒子という。粗大粒子が多く、通常、
耐空時間は数分から数時間で、数kmから数十
km移動し、水溶性、吸湿性が低いものが多い。
以下に主な物を挙げる。
発生源は、石炭や石油、木材の燃焼、現在量
の熱(高温)処理、製鉄などの金属の精錬など
である。イソプレンやテルペンなど植物由来の
揮発性有機化合物もある。
鉱物由来のものの中には、石綿などがあり、
現在は厳しい法規制がかけられている。
・煤煙:燃焼によって発生。石炭や石油の燃焼
により発生するフライアッシュなど。
・粉塵:物の破砕等により発生。
・土壌粒子:風塵・砂嵐により大量に発生。主
にケイ素、アルミニウム、チタン、鉄などの
酸化鉱物からなる。大規模なものとして、東
アジアでは黄砂がある。
・海塩粒子:海面から発生。主に炭酸カルシウ
ムや塩化ナトリウムからなる。
・タイヤ摩耗粉塵:ゴムタイヤの摩耗により発生。
・植物性粒子:植物から発生。花粉など。
・動物性粒子:動物から発生。カビの胞子など
・スパイクタイヤ粉塵:スパイク(スタッド)
などによる道路面の摩耗により発生。
・宇宙塵:星間物質が宇宙から降下してくるも
の。人工的な宇宙ゴミとは違う。
二次生成粒子
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【環境省のPM2.5に対する暫定指針】
環境省は、PM 2.5の健康への影響について、
2月27日、現行の環境基準値*の倍を、注意を必
要とする暫定的な指針値「1日平均で70マイク
ロ・グラム/m³] と決めた。
日本では、1960年代から始まった高度成長時
期の工場からの煤煙、自動車の排気等による多
くの健康被害が発生した。1967年公害対策基本
法が制定され、1972年SPMの基準を初めて設
定した。その後も少しずつ改訂され2009年に現
在の基準値が環境省告示として定められている。
(* 1年の平均値が15μg/m³ 以下、且つ1日の平
均値が35μg/m³ 以下であること)
気体として大気中に放出されたものが、微粒
日本は、大気汚染防止対策では先進国である
と自負しているが、50年前の大気汚染の状況は
今中国で発生している大気汚染の状況に酷似し
子として生成されるものを二次生成粒子とい
う。微小粒子が多い。普通、滞空時間は数日か
ら数週間で、数百から数千kmを移動する。水
ている。当時、第1世代のジェット機である
DC-8で、高高度から降下して木更津上空まで
くると、亜硫酸ガスの臭いが操縦に入り込んで、
溶性、吸湿性、潮解性が高いものが多い。
成分では、硫酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩、
東京の空気の悪さを実感した。また、スモッグ
による視程の低下によるダイバージョンも経験
した。
水素化合物、有機化合物や、鉛、カドニウム、
バナジウム、ニッケル、銅、亜鉛、マンガン、
鉄などの金属、或いは水を含んだものがある。
黄砂とPM2.5の複合的悪影響を憂慮している
のは筆者だけだろうか。
(文責;岩瀬)
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GA:ジェネアビ情報(第61回)
小型飛行機・ヘリコプターの事故
奥貫 博
小型飛行機及びヘリコプターの事故について
はPILOT誌2010 Nov.(小型飛行機の事故)及
び2011 Jan.(ヘリコプターの事故)にて、詳細
に報告をさせていただきました。それぞれの内
容は、操縦士協会HP「会員ページ」のPILOT
誌の所で見ることが出来ます。
航空事故に関する運輸安全委員会の統計には
1974年からの情報が公表されています。前回の
「ジェネアビ情報」の報告では、2010年までの
36年間の航空事故件数の変化傾向を調べた後、
最近の傾向として、2000年以降の航空事故の内
容を詳細に分析してみました。
今回の報告は、同様に、1974年以降、現在ま
での変化傾向と、最近の3年間の傾向をまとめ、
その中から、常に事故件数が多い傾向にあるも
のを分析してみました。 その結果は、以降に述べさせていただきます
が、飛行機については、
・離着陸に関わる事故
・有視界飛行での山岳への衝突
が上位を占め、また、ヘリコプターでは、
・物輸・荷つり関係
・離着陸、ホバリング関係
が上位を占める状況です。いずれも、前回の報
告の結果と今回の最近3年間の航空事故の傾向
は同じでした。
現在、小型飛行機の航空事故件数は、年間平
均約5件、ヘリコプターでは、約3件の状況です
が、この件数の減少には、繰り返される事故へ
の対策が必要です。では、個々にその内容を述
べさせていただきます。
事故の件数及び要因別の現状
1974年から2012年の間における航空機事故の
件数は、以下のような状況です。回転翼航空機
が最も多く、次に小型機の順です。
滑空機
大型機
小型飛行機
回転翼航空機
超軽量機
回転翼機
小型飛行機
滑空機
超軽量機
大型機
ジャイロ
飛行船
412
361
186
158
155
23
2
1297
31.8%
27.8%
14.3%
12.2%
12.0%
1.8%
0.2%
100.0%
₁₉₇₄-₂₀₁₂ 航空事故件数
事故の要因としては、操縦者の判断、操作等
に関わるもの(含気象判断等)が70%を占めて
いる状況です。
その他17%
機材等13%
操縦者の判断、操作等 70%
事故の要因別割合
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事故件数の傾向と現状
運輸安全委員会の毎年の航空事故件数の情報
を、小型飛行機、ヘリコプター、グライダー、
大型機の順に並べてみました。
横軸は暦年で1974年から2012年までの39年間
です。縦軸は航空事故の件数です。件数の比較
を容易にするため上限を30件とする同じ目盛に
してあります。
グラフの折れ線は、各年の事故件数を示して
います。また1本の曲線は、変化傾向の近似曲
線です。
小型飛行機の事故件数は、39年間を通じて件
数の減少傾向は見られるものの、最近10年間で
は、減少傾向が従来ほどではなく、また、事故
件数は5件程度で、ヘリコプター、グライダー、
大型飛行機に比べて最も大きな値です。注意が
必要な状況です。
これに対し、ヘリコプターの事故は、一定の
減少傾向が見られ、小型飛行機よりは若干少な
いレベルに達しています。登録機の数を見ます
と、ヘリコプターの登録機は、小型飛行機より
も約200機(約30%)は多い状況ですから、小
型飛行機は、機数が少ないのに、事故件数が多
いと言うことになります。
グライダーでは、2005年には事故件数7件で
死亡者6名でしたが、以降は減少の傾向が見ら
れます。
大型機の事故件数は、低く維持されていたの
ですが、最近の10年ほどは増加の傾向が見られ
ます。特に平成2012年には8件の事故が発生し
ていて、要注意の状況と判断されます。
小型飛行機の航空事故件数
ヘリコプターの航空事故件数
グライダーの航空事故件数
これらの結果から見ましても、小型飛行機の
事故は減少の傾向がみられるものの、まだその
絶対件数は大きく、事故の発生防止について、
一層の努力が必要な状況と見られます。
先進国に比べてその規模が貧弱な日本の小型
飛行機ですが、その発展のためにも、小型飛行
機の事故の傾向については謙虚に受け止め、そ
の対策を考えなければなりません。
56
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大型飛行機の航空事故件数
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小型飛行機の事故の傾向
小型飛行機の着陸関係の事故
航空機の事故原因は、全体では70%が操縦者
にありますが、小型飛行機では、操縦者に起因
着陸関係の事故で多いのが引込脚機体の脚下
げ忘れ、地上で誤って脚上げ等です。その結果
するものは86%にも達しています。2000年以降
について、その原因を分析してみますと、以下
の通りです。
は、滑走路閉鎖となって、空港の利用者に大変
な迷惑をかけることになります。
残念ながら、人間の行為の信頼性は低く、誰
最近の事故の内容
件数
%
離着陸関係操作の不良
32
37
脚下げ忘れ、地上で脚上げ
13
15
視程不良での山へ衝突、接水
11
13
燃料管理不良
5
6
その他操作不良
5
6
曲技飛行、スピン
4
5
写真撮影旋回失速
2
2
機材故障、整備不良等
10
11
その他
4
5
計
86
小型飛行機の事故の内容別割合(2000年以降)
更に、最近3年間の事故件数は、以下の通りで
す。離着陸に関わる事故、有視界飛行で山に衝
突(CFIT)の順で、その両方で事故件数全体の
50%以上を占めていて、同じような事故が繰り返
し発生しています。何らかの対策が必要です。
内容別の件数
件数
%
脚下げ忘れ、地上で誤って脚上げ
2
着陸時オフランウェイして人に衝突
1
横風対処不良ハードランディング
1
バウンドしてハードランディング
3
有視界飛行で山に衝突(CFIT)
3
20
鳥との衝突
2
13
脚メカニズム不具合、地上で擱座
1
7
原因不明の海面への墜落
1
降下ダイバーが機体に接触
1
計
15
でも単純なミスを犯す可能性があります。
・チェックリストを使用しなかった
・脚は降ろしたものと思い込んでしまった
・それで「ギア・グリーン」と言ってしまった
・脚の警報音は、失速警報と思ってしまった
その結果が胴体着陸と言う訳です。手順忘れ
は常に起こりうると考え、その対策が必要です。
ダウンウインドでの脚下げの段階を過ぎ、滑
走路が正面に迫ってきますと、意識は着陸操作
に切替り、脚下げに意識がいきません。また滑
走路に集中している状況では、脚下げランプが
緑でなくても、警報が鳴ろうとも、意識がそこ
へ行ってないのではどうにもなりません。
対策としては「声を出して点検する機会をも
う一回増やして習慣化する」のが有効でしょう。
ファイナルの最終段階に、脚、プロップ、ミク
スチュア、キャブヒート等の点検項目を「ファ
イナルチェック」として追加し、大きな声を出
して実行し、手で触って確認することの習慣化
です。数秒で実施できます。
最近、もしも声を出さないで飛んでいるとし
たら、それは意識の欠落の可能性があり、危険
の兆候と考えた方が良いでしょう。
47
13
小型飛行機の2010-2012年の事故の内容
繰り返される離着陸関係の事故
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有視界飛行での山への衝突(CFIT)
CFIT ( Controlled Flight Into Terrain ) は
機体及びパイロットに異常が無い航空機が、飛
行中に、地面、山、海面、障害物等に衝突する
事故の事を言います。上昇、巡航、降下等の高
速度で地面等に激突するものですから、結果は
安定した着陸姿勢の確立が基本
着陸関係の接地操作不良による事故は、この
3年間で5件発生しています。
・バウンドしてハードランディング(3件)
・着陸時オフランウェイして人に衝突
・横風対処不良によるハードランディング
バウンドしてハードランディングの事故は、
いずれも、最初のバウンドの後、機首下げ姿勢
となり、前脚から強く接地して機体を損傷、あ
るいは、更にポーポイズ状態になって機体を損
傷というものです。
バウンドの防止には、安定したファイナルの
確立、そして接地姿勢に至るまでの円滑な引き
起こしと沈下率の管理が重要ですが、大きくバ
ウンドしてしまった時は、迷うことなく直ちに
着陸復行することが必要です。
バウンドは、接地した機体が空中に跳ね上が
るものですから、その過程で速度を失います。
最初のバウンドで、まだ速度が残っている状態
での着陸復行が必要という訳です。
着陸時のオフランウェイも度々発生してい
て、それだけであればインシデントで済むこと
も多いのですが、昨年は人に衝突して死亡させ
る事故が発生してしまいました。特定操縦技能
審査制度も始まりますが、それ以前の問題とし
て、技量が不足のまま飛行するようなことが
あってはなりません。
横風や、風の急変への対処も、ひとつ間違え
れば事故になります。大きな姿勢の変化あるい
は沈下等の場合は、瞬時の判断で、無理をする
ことなく、着陸復行等の安全な手段を講じるこ
とが必要です。
58
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極めて悲惨なこととなります。
その要因は様々ですが、旅客機等では人間の
ミスがあっても事故の発生を阻止しようとの発
想で「対地接近警報装置(GPWS)」の装備が
義務付けられることになりました。
このGPWSは、電波高度計を主体として地上
接近率等を計算し、そのままでは地上に衝突す
る可能性がある場合に、音声で警告を発して衝
突の回避を指示するものです。この装置により、
大型旅客機はCFITの発生を防止出来るように
なりました。
日本では、一昨年、昨年と、旅客機のGPWS
が作動するインシデントが続いて発生しまし
た。そのうちの一例は、空港の管制官が計器飛
行中の旅客機に、低い高度で山岳に向かう降下
経路を指示し、それに従った機体が地表の視認
ができないまま山岳に接近してGPWSが作動し
たというものです。
この時は、雲の中を山に衝突する降下経路で
飛行中にGPWSの「プルアップ」の警報が作動
し、それに従って引き起こし、急上昇した結果、
山から約200~220mの高度差で衝突を回避でき
たというものです。
GPWSが装備されていて、作動したから助
かったものの、そうでなければ200ktを超える
速度での山への激突となり、乗客乗員全員死亡
は避けられなかったことでしょう。
このGPWSは旅客機やビジネスジェット機等
には装備されているものの、高価なため、小型
機への装備は実現できていません。そのため、
小型機のパイロットは、自分でCFITの防止を
図らなければならないのですが、残念ながら日
本では、この数年間に3件の小型機のCFIT事故
2013 APR
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ヘリコプターの事故
ヘリコプターの2000年以降の事故件数は、以
下の状況です。ヘリコプターの場合も、操縦者
に起因するものが多くを占めています。
雲と山、CFITの罠は常に存在する
が発生しています。
1件は有視界飛行で航法飛行中のセスナ機が
悪気象状態に遭遇し、引き返そうとして山に衝
突。もう1件は、教官の指導のもと、有視界飛
行で訓練中のビーチクラフト・ボナンザ機が山
に衝突。更にもう1件は、空港を有視界飛行で
出発したパイパーマリブ機が、上昇中に山に衝
突というものです。いずれも有視界飛行のはず
が、山を視認できずに衝突というものです。
この2件の操縦士及び1件の教官は、計器飛
行証明の所有者でした。航法援助施設や、レー
ダーサービスが発展し、GPS等が利用できる時
代になっても、また計器飛行証明の技量を身に
付けていても、有視界飛行のはずが、低高度の
山岳地で「雲の中」ではどうにもなりません。
有視界飛行方式における雲中飛行事故を防止
するため、運輸安全委員会からは、以下の内容
が勧告されています。
1. 最新気象情報に基づき、全経路で有視界気
象状態維持可能と判断した場合のみ出発
2. 気象の変化が予想される場合の代替案の検
討及び飛行中の継続的な気象情報収集
3. 予期せぬ天候悪化時の引き返し又は着陸の
早期判断
有視界飛行は、地図に線を引くなどして自分
自身で経路の安全を確認し、有視界気象状態を
維持して飛行するのが基本です。これを肝に銘
じて飛行をしていれば、CFITは避けられます。
繰り返される事故例を謙虚に受け止め、有視
界飛行の基本の重要性を再確認し、CFIT事故
の再発防止に努めなければなりません。
最近の事故の内容
件数
物輸・荷つり関係
12
防災・捜索・救難等
7
ホバリング関係
9
送電線等への接触
7
機材の故障
7
視程不良、雲中等
6
離着陸関係
6
ヘリ個有の特性に起因するもの
5
オートローテーション
4
燃料欠乏に起因するもの
4
機材の故障と操縦者の複合
2
同乗者に起因するもの
2
空中衝突
1
飛行前の確認不良
1
空中操作不良
2
計
75
%
16%
9%
12%
9%
9%
8%
8%
7%
5%
5%
3%
3%
1%
1%
3%
全事故の原因別割合(2000年以降)
最近3年間の事故件数は、以下の状況です。
物輸・荷つり関係、防災・捜索・救難、ホバ
リング関係、送電線、樹木等への接触等の事故
が上位を占め、ヘリコプターの場合も、同じよ
うな傾向の事故が繰り返し発生しています。
最近 3 年の事故の内容
件数
物輸・荷つり関係
2
防災・捜索・救難等
1
ホバリング関係
2
送電線、樹木等への接触
1
機材の故障
1
離着陸関係
2
ヘリ個有の特性に起因するもの
1
空中操作不良
1
計
11
%
18%
9%
18%
9%
9%
18%
9%
9%
ヘリコプターの2010-2012年の事故の内容
2013 APR
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59
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救助員、荷物等吊り下げ状態での事故
ヘリコプターでは、救助員のホイスト降下形
態、及び、荷物等の吊り下げ形態での事故が目
立ちます。これらの状態では、機体性能、障害
物との間隔、気流状態等、様々な要因が関わっ
てきます。そのため、運航安全の確保には、周
到な準備と、慎重な判断が要求されます。その
主なものを以下に列記してみます。
・体系的な事前訓練の実施
・現場等の事前情報収集
・機体性能の再確認と重量管理
・基準に基づく出動可否の判断
・天候、機体性能を考慮した燃料の搭載
・確実な飛行前準備及び確認事項の実施
・地上作業員への安全関係事項の徹底
・作業現場への進入前の上空からの状況確認
・障害物等要注意事項の全乗員への周知徹底
・風向風速の判断、乱気流等の見極め
・無理のない、安全最優先での判断
・機体の死角を考慮した進入方向の決定
・ホバリングの位置及び方向の決定
・機内での役割分担と意思疎通
・障害物とのクリアランスの確保と見張り
・気象等状況変化兆候の把握と早期判断
・作業中止、退避等の安全最優先での実施
・有視界気象状態の維持
・最低安全高度の維持
・必要な場合は安全確保のための予防着陸
ヘリコプターは慎重な離着陸操作が必要
離着陸・ホバリング等の事故
ヘリコプター特有の事故としては、離着陸及
びホバリング関係のものが継続して発生してい
ます。その内容は以下のものです。
・着陸時、コレクティブ・ピッチレバー操作に
伴うラダーペダルの踏み込み不足により、機
体が旋転して横転
・離陸のホバリング移動で、スキッドをひっか
けて横転
・離陸時、スキッドが障害物に拘束された状態
で離陸操作を続け、ダイナミックロールオー
バーとなって横転
これらの事故については、離着陸をする場所
の地上の障害物の状況を確認するとともに、離
着陸においては、安定したホバリング状態から
の、慎重なコレクティブ・ピッチ・レバー操作
及びそれに調和させたラダー操作により、機体
の安定を保ち、旋転やローリングを防ぐことが
必要とされています。操縦士の知識及び技能の
不足が懸念されるとの、運輸安全委員会の指摘
もあります。
また、着陸の最終進入中に、何らかの理由で
メインローターの回転数が低下し、その状況で
コレクティブ・ピッチ・レバーを引き上げたた
め、急激にMR回転が低下して揚力を喪失し、
墜落に至った事例も報告されています。
ヘリコプターの操縦者は、ヘリコプターの特
性を理解し、隅々まで注意の行き届いた慎重な
十分な訓練と慎重な操作が必要な救助作業
60
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操縦が必要です。
2013 APR
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おわりに
小型機の航空事故については、これまでにも
PILOT誌のジェネアビ情報に、以下の内容で
掲載をしてきました。
・2006 Mar.(小型機の事故と思い込み)
・2010 Nov.(小型飛行機の事故)
・2011 Jan.(ヘリコプターの事故)
しかしながら、その後の航空事故の発生状況
には、大きな変化は見られません。
特に2010年から2011年にかけて、小型飛行機
では、有視界飛行方式での山岳衝突事故が3件
発生しています。また離着陸関連の事故と、脚
下げ忘れの胴体着陸等も後を絶ちません。
着陸時のオフランウェイは、これまでにも繰
返し発生していましたが、2012年には、とうと
う死亡事故になってしまいました。
ヘリコプターにおいても、救助員のホイスト
降下形態、及び、荷物等の吊り下げ形態での事
故が継続して発生しています。また、離着陸及
びホバリング関係の事故も、継続して発生して
います。
これらの状況から、以下の2点について、重
点的に考えていく必要があると判断されます。
1.離着陸等の操縦技量の維持向上
2.チェックリストの実施忘れの防止
1.「離着陸等の操縦技量の維持向上」につ
いては、操縦士の技量の維持に関わる特定操縦
 独りで飛んでいる小型機の操縦士の場合、何
らかの理由で飛行中のワークロードが増えます
と、チェックリストの実施忘れや、思い込みに
よる確認の欠落が生じがちです。
その対策として、脚下げ操作忘れ事故ゼロを
目指す「ファイナルチェック」を追加して実行
することを提唱したいと思います。
本来のダウンウインドでの着陸前の点検に加
え、ショート・ファイナルで、声を出して再確
認を、というものです。内容は上の図のFuel,
Mixture, Prop, Gearで十分です。
更に、知識の活用の面では、異常又は緊急事
技能の審査制度も法制化され、来年の4月から
施行になりますが、離着陸等の基本的な技量は、
実際に飛行する機体について、その操縦技量の
維持向上に努め、技量、あるいは、機体に関す
態への想定シナリオとして、環境、機材、人間
の要素から、気象悪化、ロストポジション、機
器の故障、燃料欠乏、無線の故障、アイシング、
照明の故障等々、様々な組み合わせを含めた、
る知識が不足のまま飛行するようなことが無い
ようにすることが必要です。
想定対応訓練も有効でしょう。
繰り返される事故に終止符を打つべく、これ
チェックリストを忘れずに!
2.
「チェックリストの実施忘れの防止」は、
「人間はミスをするもの」との前提に立ち、そ
の上での対策が必要です。特に着陸のチェック
リスト忘れは事故に直結するばかりでなく、空
からも対策を考えて行きたいと思います。
港利用者に多大な迷惑をかけることになります
ので、絶対に防止しなければなりません。
2.(公社)日本航空機操縦士協会 PILOT誌
3.(社)日本飛行連盟 AERONCA誌
参考資料:
1. 運輸安全委員会 事故調査報告及び統計資料
2013 APR
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61
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航空に携わる方々の、チョットした一コマなどを紹介する、皆さまからの投稿で成り立つ、
Café で気楽に読める様な投稿コーナーです。日常的な事ごとや思い出など、色々なジャンルの
読物をお寄せ下さい。
FA200 の楽しみ方
ロートルパイロット
航 空の先 進国である諸外国の人たちの飛行
機を見るセンスには感心させられます。
国産機FA200の場合も、その昔、主に欧州
やオーストラリア等を中心に輸出した結果、様々
な洗礼を受けました。機体の素質を見て、色々
と注文を付けてくるのです。背面飛行用システ
ム、グライダー曳航装置、スティック式操 縦系
統等、いずれも外国の要求によって実現したも
のでした。
一方では、極めて固いところもあって、アクロ
機の強度基準を満たしたFA200といえども、改
めてアクロ飛行中の荷重とその頻度の状態を精
密に測定する等、確認しなければ気のすまない
ところもあったようです。
その上、オーストラリアでは、アクロ飛行時
これは、目一杯に加速した後、垂直姿勢に引
き起こし、そこからまた思い切り操縦輪を引い
て背面飛行にもち込み、次に垂直降下姿勢にし
て、最後に水平に引き起こすというものです。
飛行機の能力の限りを引き出した飛びかたと
いえばそれまでですが、なかなか過酷なことを
するものです。
FA200は正の制限荷重倍数が6Gの機体なの
ですが、承認された曲技 飛行は3Gもかければ
出来ますし、少々頑張っても、プラス4G程度ま
でにとどめておいた方がたのしくて楽です。
FA200のアクロ飛行 競技への使 用も、諸外
国では古くから実施されていました。日本では、
2010 年の全日本曲技 飛行 競技会から、ようや
く始まったばかりです。実施してみればどうとい
の機 体への負荷を考慮して、整 備実 施間隔等
の基準となる飛行時間を、アクロ飛行の場合は
倍にして記録する等の頑固なところもあって、な
るほどと妙に感心させられたりもします。
うことは無いことでも、実績のないことは、実
行までには、時間がかかるのです。
では一体どのような飛ばしかたをしているか
が活発で、草地の離着陸場が多いことから、そ
と聞いてみれば、FA200での四角宙返りをやっ
ていたりして、驚かされます。
のような場所での共存のためにグライダーの曳
航装置が必要とされたのです。
62
FA200によるグライダー曳航は、当時の西独
からの要求でした。西独ではグライダーの活動
2013 APR
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とはいえ、日本には飛行機によるグライダー
曳航の耐空 性審 査 基 準がありませんので、型
FA200の飛行といえば当然アクロで、最初か
らパラシュートを装着していますから、それを
式証明や耐空証明を受けることが出来ません。
そのため、西独の耐空 性審査 基 準に従って設
計製造が実施され、試験飛行で無事に曳航で
使わない手はないという訳です。
きることを確認した後、西独で耐空性の証明を
得ることとして、輸出が行われました。
後「じゃ先にな!」と言ってパラシュートで飛び
降りるといった楽しみ方です。
残念ながら、日本国内でのFA200によるグラ
イダー曳航は試験の時のみで、以降は実現して
いません。要望はあっても、修理改造の耐空性
審 査 基 準が無いのは現在も同じですから、そ
FA200ならではのものと、納得するやら、あ
きれるやらといったところですが、軽い気持ち
での取り組みが危険な事は言うまでも無く、慎
重な検討と準備の結果によって得られる楽しみ
れが障害となって簡単にはいかないのです。あ
るいはグライダー曳航装置を取り付けたFA200
の中古機の逆輸入の手があるかもしれません。
である事を理解する必要があります。単なる形
だけのまねは、禁物です。
FA200のグライダー曳航装置の開発は、1970
年代のことです。当時の羽布貼りグライダーは
飛行速度も低く、抵抗が大きくてFA200による
曳航では苦しい面もあったようです。現在は、
プラスチック製の高性能グライダーばかりですか
ら、FA200での曳航も楽なことでしょう。
そのようなことを考えていましたら、オースト
ラリアからの楽しい話題です。FA200でスカイ
ダイビングを楽しんでいるというのです。
空中でキャノピーを開く事の出来るFA200で
すから、キャノピーを開ければ飛び降りること
は可能なのですが、機体の特徴に目を付けた自
由奔放な遊び方には、感心させられます。
飛行場上空で、二人でアクロ飛行を楽しんだ
「FA200は低速でも舵が 効くので、翼の上に
立たれても操縦性にはぜんぜん問題無い」等と
言ってますし、確かに写真からは、それ程エル
ロン操舵角は大きくないようにも見えます。
主翼の上に立っても、真後ろには水平尾翼が
ありますから、そのままでは、水平尾翼に接触
する危険があります。そこで、一旦、しゃがん
だ低い姿勢になった後、飛び降りるとのこと。
FA200なら、何も主翼の上に立たなくても、
ロールで裏返しにして、落っことしてしまえば早
いのに、といった声もありそうですが、そうは
いっても、安 全確実に、となると、やはり主翼
の上からとなるのでしょう。
アクロを楽しんだ後では1人しか飛び降りるこ
とが出来ませんが、パラシュートジャンプを目的
としてFA200を使用する場合は、ノーマル使用
のまま3人が飛び降りることが可能です。
日本 での実 施 例は聞いたことがありません
が、空の楽しみかたの一例として紹介をさせて
いただきます。興味がある方は、航空法90条の
落下傘降下の許可申請を提出し、許可を得た上
でお楽しみください。
FA200からのパラシュートジャンプ
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Welldone には拍手で
湧井 カレン
今のように新幹線網もJRも無かった筆者の若
いころには、旅といえば列車(コクテツ=日本国
本題に入ろう。
有鉄道)の旅が普通だった。しかしまれに出張
で僻地の街や離島へ行くには仕方なく飛行機に
乗ることもあった。 無事に着陸できればホッとするのは今も同じ
だが、飛行機への信頼も今ほどなかった時代だ。
メインギアが接地すると同時に客室から拍手
幹線を飛んでいたB727やCV880などはお金
持ちや高級ビジネスマンのツールで、筆者には
対象外であった。多くはローカル路線のF27フレ
ンドシップやバイカウント機だ。
が起きる。
“Welldone”という機長への賛辞な
のだ。プロから言えばまだ減速やタクシーでの
操作があって、Welldoneは機長がパーキングブ
レーキをONとして初めて言えることなのだが、
そんなイケズは言うまい。
なかには12人 乗りのレシプロ4発機、デ・ハ
ビランド・ヘロンというのがあって、エンルート
は対岸の島へ 30 分、幅40センチほどの狭い通
路を挟んで左右に1席づつの客席がある。すべ
ての席が窓側で通 路 側、乗客には平等な飛行
機である。
スチュワーデスが通るとお尻の幅が通 路より
大きいから必然的に乗客の頬っぺたを擦ってい
く。中ほどには主翼の応力ビームが邪魔してお
り、膝下10センチのスカートをたくし上げて前
後を移動するスチュワーデスも魅力的に映った。
「ベルトの掛け方が分からん」と言って彼女
ともあれ、安着に拍手はつきものであった。
飛行機の旅が一般的になると、いつしか乗客の
拍手も少なくなり、やがてそんなことは忘れ去
られた。
まさか多くの乗客がCatⅢやAuto landingを
知っているとも思えないのだ。時に拍手などす
る輩には、「あいつ田舎モンやなあ」と、冷や
やかな視線が注がれたりする時代になった。
ところが、である。
最近になって筆者は久しぶりにロシアのエア
ラインに乗った。以前乗った時にはソビエトと
を呼びつける中年オヤジの蛮行もよく見られた。
30分のエンルートより離陸前の15分の方がアト
ラクティブだったのである。
言った時代だったから約30年振りのことだ。
スチュワーデスといえば、このころは憧れの
職業婦人、いつしかエア・ホステスと呼び 換え
Airbus、CAにはアジア系を見習ったスマイル
サービスも加わり、大きく様 変わりした感があ
られたが、これには繁 華街などに地 上職 専門
の業種もあって、その女性たちがエア・ホステス
のコスチュームなどで仕事場に現れるようにな
ると、混同されるのはかなわんと、今のようにキャ
る。最近になって偶然にもテレビでその航空会
社のコマーシャルにお目に掛った。真っ赤なユ
ニフォームのロシア美人が優雅にキャビン
(First
Classであろう)を案内する姿にうっとり!
ビン・アテンダント(CA)と変わった。
CAでは女か男か 分からん!という中年オヤ
ジの文句も聞こえるが、CAは女性とする固定
・・Very Welldone・・
で、そのフライトがモスクワのシェレメチェボ
空 港 の滑 走 路にタッチダウンした瞬 間に、 客
観念こそ不純なのだ。
席のアチコチから大きな拍手が起きたではない
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コクテツの 客 車のように網 棚に荷 物を置く
だけのツポレフ機と違って、機 材はピカピカの
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か! 拍手が起きなかった部分は東洋系と思し
き乗客の辺り
(それは日本の若者だろうか)だっ
ズであり、清々しい思いであった。
たようだ。
そして、モスクワで乗り継いだ短距離便でも
中年オヤジは 既に通り越して中期高齢 者に
なった今、心の若返りを味わった思いでもある。
余談ながら鉄道の呼び名も今のJRの前がコクテ
目的地の着陸と同時に乗客のほとんどから拍手
が起きたのである。日本人旅客は私の他に居な
かったようだが、もちろん筆者も拍手に加わっ
ツ、その前は省線であった、その省線も母体は
逓信省(これは汽笛一声新橋のころ)から運輸
省に代わっている。
た。それは自然にわき出た同業者へのアプロー
・・古いなあ!・・
20世紀のナウシカァ
雑誌ライター
季節の変化につれて、夜空を彩る星々の顔ぶ
れもまた変わってゆく。
軍水 路 部に動員された、立教高等女学院の少
女達にゆだねられた。
電波航法が実用化される以前、天測は陸地
の見えない洋上で、船や飛行機が自らの位置を
知るための数少ない手段であった。
これが可能だったのは本来の計算式を用いる
ことなく、ほぼ 加減乗除のみで答えを求められ
る計 算法が見いだされていたからであるが、そ
れでも流れ作 業式に計 算、検 算、清書をする
ために校舎や礼拝堂も作業スペースに利用され
た。もちろん授業は中断である。
しかし天測による航法計算は面倒である。こ
のため昭和19年頃の日本海軍では、あらかじめ
地上で計算をおこない、機上では任意の天体を
観測するだけで機 位を得られる「高度方位暦」
を搭乗員に支給していた。
広い作戦空域のどこで使用されても支障のな
いように、この「高度方位暦」には多くの地点
昭和20 年春、本土空襲へのささやかな反撃
として、サイパンや沖縄を目指した爆撃機
「彗星」
や「銀河」の機上にある「高度方位暦」は、こ
うした少女達の計算によるものだった。
が 網羅され、毎日の太 陽、月、惑 星、明るい
恒星(デネブやベガなど)の20 分ごとの高度と
戦時にもかかわらず星の名をつけられた爆撃
機を操るパイロット、オデッセウス達にとって、
方位が計算されていた。
その小さな冊子は故郷への帰還を助けるスケリ
アの王女ナウシカァそのものだったろう。
とはいえ、現代のようなコンピューターのな
かった時代である。日々更新される膨大な量の
星と飛行にまつわる、戦争中のエピソードで
計算は人海戦術によるしかなく、その計算は海
ある。
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2013年の誌上ジャッジスクール
(2)
米国 IAC(International Aerobatic Club)
公認審判員
●2013年のルール及び判定基準の改正点
昨年11月のFAI-CIVA(曲技飛行)会議に
おいて、ルールの改正がいくつか決定されま
した。それに伴って、IACに採用された改正
点と、また今年度の全日本曲技飛行競技会の
競技進行に関する変更点をご説明します。
1. パーシャルループの半径の相互関係
パーシャルループの半径の相互関係は競技
飛行をする上で、関心を寄せる大きな変更点
です。シークエンスの組み立てや、機種によっ
ては飛行の可否を決める要素にもなります。
これまでも、ファミリー1のラインとアング
ルを含むフィギュアなど、例えば身近なとこ
ろではリバースシャークストゥース(図1)や
フィギュアN(図8)では、それぞれのパーシャ
ルループの半径が異なっても許容されました。
今回の改正では、この判定基準がさらに広が
り、ハンマーヘッドやハンプティバンプ、ハー
フキューバンなど、多くのフィギュアにも見
られるようになりました。
髙木 雄一
基準は、アレスティカタログ内のパーシャル
ループが、円弧か、または角で描かれている
かで判断できます。ここを理解していれば、
競技判定中の限られた時間でも確認が可能で
すから、今回の改正は判定を容易にするもの
として、好意的に考えられているようです。
まず、複数のパーシャルループが同一の円
弧で描かれている場合です。リバーシングホー
ルループ(図2)やホリゾンタルエイト(図
16)などがこれに該当し、これまで通りに同
じ半径での飛行が求められます。例外は、ファ
ミリー8.8のダブルハンプティバンプ(図3)
で、上部と下部のハーフループは異なる半径
であっても許容されます。
図2:リバーシングホールループ
図1: リバースシャークストゥース
いくつかの例外を除いて、この新たな判定
66
図3:ダブルハンプティバンプ
2013 APR
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次は、複数のパーシャルループが角で描か
れている場合です。シャークストゥース、ハ
以上のように、描かれているパーシャルルー
プが円弧か、それとも角で描かれているかで、
ンマーヘッド(図4)、ゴールドフィッシュ(図
5)などに見られる、角で描かれたパーシャル
ループ部分は、それぞれを異なる半径で飛行
半径の相互関係を判断できますので、理解し
易く、判定も楽に行えることでしょう。
しても許容されるように変更されました。
2. 飛行方向の特定
X軸上のフィギュアの飛行にはオフィシャ
ルウィンドに対する方向性があり、Y軸上に
は方向性がないということはすでにお伝えし
た通りです。しかし、フィギュアの組み合わ
せによっては、考えられる飛行方向が複数存
在する状況もあり、ここ数年議論の対象になっ
ています。
図4:ハンマーヘッド
図5:ゴールドフィッシュ
ここでの例外は、ファミリー3のラインの複
合(図6、ファミリー3.3.1.1)と、ファミリー
7.4.3.Xから7.4.6.Xまでの、ヘジテイションルー
プです。スクエアループ(図7)やダイアモン
ドループなどでは、パーシャルループが角で
描かれていますが、この場合は同一の半径で
なくてはならず、また直線部分も同一の長さ
であることが求められます。
図8:フィギュアN
図9:ハンプティバンプ
例えば、図8と図9のように、Y軸から開始し、
図6:ファミリー3.3.1.1
垂直アップで1/4ロールを行ってX軸上を飛行
し、その後の垂直ダウンの1/4ロールで再びY
軸へ戻るというフィギュアです。開始と終了
の軸がY軸であることは問題ありませんが、
フィギュアN(図8)の45ダウンと、ハンプティ
バンプ(図9)の頂上の1/2ループがX軸に移
図7:スクエアループ
行するため、そこでの飛行をアップウィンド
側であるべきか、それともダウンウィンド側
の飛行でも許容されるのか判断が分かれます。
2013 APR
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67
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最終的には、「シークエンスに表記されたよう
に飛行すること」という判定基準に落ち着き、
いほど平均化され、信頼性が上がるものです
から、今年度からはFAIのルールに合せて予
図8と図9のフィギュアでは、共にアップウィ
ンド側への飛行のみが認められることになり
ました。
選を廃止し、全3回の成績を最終結果に反映す
ることとなりました。それぞれ、競技1、競技
2、競技3として取り扱われます。
●プライマリーノウン
図10:ターン
図12:2013年プライマリーノウン
図11:テールスライド
例外は、ファミリー2のターンとローリング
ターン、ファミリー5のハンマーヘッド、そし
てファミリー6のテールスライドです。例えば、
Y軸から開始してY軸で終了する、180度ター
ン(図10)と、テールスライド(図11)は、アッ
IACのプライマリーのノウンシークエンス
の更新はおよそ数年に1回で、前回更新された
のは2007年のことでした。昨年までの全日本
では、IACに倣って同じノウンを採用してき
ましたが、プライマリーを魅力あるカテゴリー
とするために、今年度はJACとして、独自の
ノウンシークエンス(図12)を採用しました。
プウィンド側とダウンウィンド側のどちらに
行っても許容されます。
ただ、これらの例外も、今後のルール改正
図13: リバースハーフキューバン
の議論に再び上る可能性は十分にありますか
ら、今後の動向に注意しましょう。
このノウンの総フィギュア数は6つ。3番に
新たにリバースハーフキューバンが加えられ
3. 予選(Qフライト)の取り扱い
過去3回の全日本では、全3回の飛行をそれ
ぞれ予選、決勝1、決勝2として行い、うち2回
ている以外は、基本的には前回のノウンを構
成するフィギュアの順序を変えて作成されて
います。
リバースハーフキューバン(図13)は、低
出力機では45アップ上の速度低下が原因で、
の決勝の成績を最終結果に反映させました(悪
天候などで、決勝2が行われなかった場合は、
予選と決勝1の2回)。競技成績は飛行回数が多
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ロールレートを確保できない可能性があり、
ハーフキューバンに比べると若干難易度が高
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いフィギュアです。判定基準では45アップで
の1/2ロールがライン上の中心にあること、つ
まりロールの前後の長さを揃えることとされ
ていますが(図14)、低出力機ではラインを確
保することに囚われず、あえてロールの前後
のラインをなくして2点の減点を受けることも
作戦の一つと思われます。この作戦が功を奏
し、高得点を得られるかもしれません。
背面45アップ姿勢へのロール
●スポーツマンノウン
図14:ロールを含むラインの判定基準
図15:2013年スポーツマンノウン
このように、リバースハーフキューバンは
2013年のスポーツマンノウンは意外なシー
クエンス(図15)になりました。これまで、
難易度が高いフィギュアですが、同時にリス
クを含むものでもあります。例えば、45アッ
プで姿勢を崩す、または45アップがシャロー
(角度が浅い)となることで速度を高度に変換
できず、フィギュア終了時に高速度かつ低高
度となってしまうことはよく見られる失敗例
です。安全に行えるよう、十分な練習飛行を
行っていただきたいと思います。
ほぼ必須とも考えられていたスピンがなくな
り、代わりにホリゾンタルエイト(図16)と
いう、高いKファクターを持つフィギュアが6
番に加えられています。さらに、2オブ4ロー
ルと1/2ロールがそれぞれの45ダウンにあり、
ここでの総Kファクターは28Kと、インターミ
ディエイトに匹敵する高さです。ここでの完
成度で勝敗は大きく変わることでしょう。
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図16:フィギュア6、ホリゾンタルエイト
先にお伝えしたように、ホリゾンタルエイ
トは2つのパーシャルループが曲線で描かれて
いますから、これらは同一の半径であること、
そしてそれぞれのパーシャルループでは、上
下の高度が揃っていることが求められます。
45ダウンでの正確な演技がポイント
ここについては、ループ時の操縦桿の操作
を同様に扱うことと、最初の45ダウンライン
上の2オブ4ロールの時間配分でおおよその形
に仕上げることができます。そして、次の2番
目の45ダウンは、長さの短縮は認められませ
んが、延長は可能ですから、最初の45ダウン
よりも多少長い時間を設けることで克服でき
ます。一つの方法として、図17をご覧ください。
通 常、 Super Decathlon や Pitts な ど の 競 技
機でスポーツマンのシークエンスを飛行する
と、スピンを除いて、出力調整はほぼ必要と
しませんでした。シークエンス内で出力を絞
るということは、総合エネルギーの損失を意
味します。しかし、ここに限っては、フィギュ
ア9の45ダウンでの速度超過を避けるため、出
力調整が不可欠です。
写真:Pitts S-2Cの吸気圧力計(上側)
図17:ホリゾンタルエイトの飛行例
もう一つの挑戦となる部分は、フィギュア8
Pittsで飛行する場合の例として、インメル
マンターンから加速後、2ポイントロール開
始前に出力を16-18in/Hg辺りに下げ、速度を
の2ポイントロールです。この2ポイントロー
ルを単体として見れば、安定した飛行を求め
て、出力は全開とし、加速しながら飛行する
ことでしょう。しかし、その次には低速度の
110-120MPH付近に保ちながら2ポイントロー
ル、その後の45ダウンを確立した後に出力を
上げる方法が考えられます。
進入が求められるフィギュア9の45ダウンがあ
り、意外に難しい組み合わせです。
または、2ポイントロールでは通常通りに出
力を全開、45ダウンでは出力を全閉にして、
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加速を極力防ぐ方法もあるでしょう。どちら
にしても、出力調整が必要なシークエンスで
あることに変わりはありません。練習飛行を
通して、ご自身に合った好みの方法を探し出
これまでは、インターミディエイトでは1
ターンのポジティブスナップのみで、1/2ス
してください。
ナップはアドバンスドからのフィギュアでし
た。1ターンスナップにスナップの開始と継続、
そして停止という要素があるのに対し、1/2ス
●他カテゴリーのノウンシークエンス
ナップには開始と停止しかなく、技術的に見
ればそれほど難しいものではありません。難
しさがあるとすれば、45アップを保つという
今年度は、他のカテゴリーのノウンシーク
エンスでも目新しいフィギュアが含まれてい
ます。昨年、新たに追加されたダブルハンプ
ティがアドバンスドのノウンの1番目のフィ
ギュアに加わりました。そしてインターミディ
エイトのノウン(図18)では、通称「ボウタイ」
が7番目に入り、45アップでの1/2ポジティブ
スナップが見られます。
点ですが、45アップのラインを保つことがで
き、そして1ターンスナップを取得した方なら
ば、難なく身に付けられるはずです。
●曲技飛行訓練環境の拡充
昨年12月は、米国CA州レッドランズ空港
の Redlands Aerobatic Academy が 開 校 し 、
Pittsを使用して第1回目の訓練キャンプが実
施されました。
FEAT(極東曲技飛行チーム)は名古屋空
港をベースに、Pitts S-2Bでの活動を本格的に
開始し、2月には訓練キャンプが行われました。
更 に ふ く し ま ス カ イ パ ー ク の JAS(Japan
Aerobatic School)は、Extra 300Lを使用して
本格的な曲技飛行訓練を開始すべく、準備を
進めています。FA200のグループも頑張って
います。
滑空機の曲技飛行では、群馬県板倉滑空場
のRed Fox 2が、今年も滑空機曲技飛行世界
選手権への参戦を目指して、毎週のように訓
練に励んでいます。
日本での曲技飛行の訓練環境も徐々に広が
りを見せていることは、曲技飛行を愛するパ
イロット及びジャッジ等の皆さまと、理解し
てくださる多くの方々の支えがあってのこと
です。
さて、9月の第4回全日本曲技飛行競技会は、
いよいよ世界選手権レベルのアドバンストを
図18:2013年
インターミディエイトノウン
視野に入れた取り組みになります。選手も、
ジャッジも、スタッフも、更なる成長が必要
です。共に頑張りましょう。
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FAI
FAI ニュース
Federation Aeronautique Internationale
奥貫 博
FAI各部門の競技会は実行準備の段階になり
ました。競技会への参加希望者は、まずは練
前回の総会への参加以降、国内ではラリー飛
行競技の着陸部分のみを試行的に実施してきま
習ですが、その他、様々な準備があります。
JAPAはその手助けをすべく活動しています。
また関連する情報はFAIニュース及びJAPA
したが、競技全体の形での実施にはまだ手が届
いていません。その間、FAIのジェネラル・ア
ビエーション分野では、エア・ナビゲーション
競技の創設等、様々な変化がありました。
HPを通じて紹介します。
◉ロータークラフト(ヘリコプター)
昨年、
11か国から計50名の選手の参加により、
第14回FAI世界ヘリコプター選手権が開催され
ましたが、その中で若い競技選手の参加が目を
引きました。ドイツからCabri G2 ヘリコプター
で参戦した17歳のTony Iberler選手です。FAI
世界ヘリコプター選手権への参加選手としては
最年少の記録となるもので、もちろんドイツの
国内選手権を勝ち抜いての参戦です。世界選手
権での総合成績は50名中28位、ジュニアの部で
は6名中2位の結果でした。年齢的には、自動車
の運転免許証は18歳からですから、その1年前
ということになります。この辺の事情は日本で
も同じです。
その他、米国等でも世界選手権への参加資格
を得た17歳の選手が存在するとのことです。
航空スポーツの先進国では、このように若い競
技者の育成及び競技会への参加が積極的に推進
されています。日本でもヘリコプターの自家用
操縦士免許は17歳から取得出来ますから、若い
うちから競技に参加して、技量の向上を図るこ
とのできる環境の整備が望まれます。
◉GAC:ジェネラル・アビエーション
(飛行機)
昨年は、久しぶりにFAI ジェネラル・アビ
エーション部門総会への日本代表の参加があり
ました。前回の総会への参加は2006年のことで
すから、実に6年ぶりの参加となります。
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今回の総会参加で得られた新たな人脈を通じ
て情報を入手し、競技の実施に関する手がかり
が得られることが期待されます。
◉エアロバティクス(FAA-CIVA)
CIVAミーティングが終わると、すぐに翌年
の競技会のオフィシャル・ジャッジの選定作業
が始まります。前年に引き続いて、日本から
もWGAC/WAGAC(フィンランドで開催)に
ジャッジのエントリーを行い、鐘尾みや子氏、
白鳥洋平氏がジャッジ及びアシスタントジャッ
ジとして正式に承認されました。また、今年2
月には、FAI主催としては初めてとなるジャッ
ジング・セミナーがベルギーの飛行場サンチュ
ベール(Saint-Hubert)で開催され、主として
ヨーロッパから24名の参加者がありました。実
際に飛行機を飛ばしての実践セミナーというふ
れこみでしたが、雪が深くてとても飛行機が飛
べる状況にはなく、ビデオを使用して実際の
ジャッジングスキルについての講習が行われま
した。
その他、昨年のCIVAミーティングで決まっ
たルール改正のわかりやすい解説などがあり、
1日半の講習としてはかなり中身の濃いもので、
日本のジャッジの育成にも役立つ内容を持ち帰
ることができました。
3月に入ると、今年の各競技会の概要が発表
されます。競技会への参加を希望する方はエン
トリーのための準備を進めて下さい。
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開催団体からのお知らせ
第 4 回 全日本曲技飛行競技会 開催案内(予定)
第4回全日本曲技飛行競技会を実施します(予定)。この競技会は、曲技飛行競技の要領、安全確保、
技量向上、審判・採点要領等の講習を含むものとして、曲技飛行競技の安全で厳正な実行とその普
及発展を目指します。競技の課目は、プライマリー、スポーツマン及びインターミディエイトとし、
国内競技者の状況によっては、アドバンストの実施も考慮します。 各クラスの規定課目は下図に
掲載のものとします。規定課目については、次頁の解説を合せて御参照下さい。
1.日 時:平成25年9月20日(金)、21日(土)、22(日) (予定)
第1日 AMフライイン/ブリーフィング/PM競技1(規定)
第2日 競技2(規定/フリー)競技終了後、翌日のアンノウン課目公表(練習禁止)
第3日 競技3(規定/フリー/アンノウン)ディブリーフィング&表彰式 /フライアウト
2.場 所 : 福島県ふくしまスカイパーク フリー: 競技者が自由に作成して実施する競技課目
アンノウン: 主催者が競技日の前日に示す競技課目
3.競 技 : プライマリー(規定×3)
スポーツマン(規定/フリーフリー×2*)
*:スポーツマンのフリーは、
インターミディエイト(規定/フリー/アンノウン)規定課目の実施でも良い。
アドバンスド(規定/フリー/アンノウン)
各クラス共、3回の競技得点の合計で順位を決定
4.参加機体:曲技飛行の実施が承認された飛行機
5.安全対策:全てに優先して関係者全員に周知徹底
6.主 催 等 :主催: JAC(日本曲技飛行協会)(予定)
大会名誉会長: 福島市長(予定)
共催、公認、後援、協賛等:(未定)
7.連絡先等 株式会社パスファインダー 福島市北沢又日行壇7-48
TEL 024-558-8318 URL: http://teamdeepblues.jp/championship/
曲技飛行競技規定科目(Known)
プライマリー(K=69+3)
インターミディエイト(K =181+8)
アドバンスド(K =273+12)
スポーツマン(K=149+6)
競技はIACの2013年競技ルールに準拠して実施します。
アドバンスドはFAIの2013年競技ルールで実施します。
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支部だより(中部支部/西日本支部)
●中部支部だより
「開催報告」平成24年度中部支部総会、安全セミナー
操縦士協会中部支部
平成25年3月2日、名古屋駅前の愛知県産業労働センター(ウインクあいち)に約30名の会員が集まり、
平成24年度中部支部総会が開催されました。
支部会則の変更により、本年度より議決事項は支部委員会で実施することとし、これまでの総会は「活
動報告会」というかたちで開催されることとなりました。
当日は、協会本部 菅生副会長からの協会の近況報告のあと、平成24年度の活動や会計、25年度の
活動予定などが委員より報告されました。
以下、その模様を報告いたします。
1 平成24年度活動報告
奥本支部長より、支部委員会、安全セミナー、航空安全講習会、航空教室(Yes I Can)などの
活動報告。
2 平成24年度支部決算報告
野口理事より報告。
3 平成25年度支部役委員紹介
(留任)
本部理事 野口 義博 :元 中日新聞社
本部理事 中里 巧 :三菱重工(株)
支 部 長 奥本 進介 :新日本ヘリコプター(株)
副支部長 木滑 和明 :中日本航空(株)
支部委員 青木 富男 :(株)セコインターナショナル
支部委員
支部委員
支部委員
支部委員
和田 光範 :川崎重工(株)
具志 賢治 :名古屋市消防航空隊
野寺 芳成 :朝日航洋(株)
林 晃一 :川崎重工(株)
支部委員 吉田 善彦 :自家用
支部委員 木島 浩一 :三菱重工(株)
(HP担当)
(新任)
支部委員 原 稔 :中日本航空(株)
以上12名 4 平成25年度活動予定
奥本支部長より報告。
5 質疑応答
特になし
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「安全セミナー」
総会に引き続き、安全セミナーとして、2件の講演が行われ、約40名の参加がありました。
「夢をかなえるコツ」エアレース・パイロット 室屋 義秀氏
レッドブル・エアレース・パイロットである室屋氏の講演では、平凡な家庭に育ったごく普通の少年(本
人談)がいかにして日本で唯一のエアレース・パイロットになることが出来たのか? 夢を諦めず他の人
より1日に3分間余計に頑張ること、その積み重ねでここまで来たという。同じパイロットでありながら全
く違う世界に生きる室屋氏のお話に興味津々で聞き入りました。
「騒音とヘッドセット」サカイ商事 奥田 隆一氏
ジェット機、ヘリコプターなどのコックピット、また、地上機外や多種多様な試験の現場など、様々な
騒音の中でコミュニケーションを図るために欠かせないヘッドセット。
BOSE、ゼンハイザーなど、ANC(Active Noise Canceling)のヘッドセットを輸入販売するサカイ商
事の技術者、奥田氏から騒音と聴力の関係、様々なシーンに適するヘッドセットの種類や特性、正しい
使い方などの興味深いお話を伺いました。
その後行われた同社のヘッドセットのデモでは、ANCの効果に驚愕!早速導入したいとの声も聞かれ
ました。
●西日本支部だより
・小型航空機安全セミナー、支部総会、懇親会報告
西日本支部主催の小型航空機安全セミナーと支部総会が、3月3日、ドーンセンター(大阪市)で
開催されました。
セミナーには33名が参加。講師からのお話しを伺い、参加者一同安全への意識をあらたにしました。
支部総会では支部枠選出理事、支部委員、平成24年度支部事業報告及び決算、平成25年度支部
事業計画及び予算について審議し、すべての議案が可決されました。
懇親会では空港や会社等の枠を越えて会員同士の交流・情報交換・親睦が図られました。
セミナーの一部と支部総会の模様は http://www.ustream.tv/channel/japawest で動画でご覧いた
だけます。
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開 催 予 告
海自厚木航空基地および日本飛行機(株)厚木工場見学会
JAPA運航技術委員会は、平成25年度の行事として海上自衛隊厚木航空基地および日本飛行機(株)
厚木工場の見学会を下記要領にて催します。
記
日 時: 平成25年5月24日(金) 11:00~17:00
(集合時間・場所は参加者のみ追ってお知らせします)
場 所: 海上自衛隊 第4航空群 厚木航空基地
日本飛行機株式会社 航空機整備事業部 厚木工場 参加者: 参加をご希望の会員は住所(郵便番号)・氏名(ふりがな)・年齢・所属・役職
電話番号、電子メール宛先・懇親会参加の有無を下記にメールしてください。
5月10日必着で申し込んでください。先着20名で締め切らせて頂きます。 なお、厚木航空基地入場に際しては写真付きの本籍地を表示した身分証明書が必要です。
運転免許証は本籍地が不表示なので不可です。パスポートの持参をお勧めします。
メール先: JAPA事務局 [email protected]
日 程: 現在調整中ですが、概略下記のような日程を予定しています。
11 : 00 日本飛行機概要説明
12 : 00 昼食(有料)
13 : 00 海上自衛隊見学(管制塔・航空機)
15 : 00 日本飛行機工場見学
17 : 45 懇親会(希望者)
その他:①参加の可否は5月15日までにメールで
連絡します。
②昼食費(400円程度)と懇親会費
(金額未定・参加者に連絡)は当日徴収
します。
③公共交通機関は相鉄線/小田急線大和駅
下車が便利です。 2013 APR
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オススメ ! 情報ボックス
書籍 & Goods紹介
編集委員会
このコーナーでは、書籍紹介を始めとして航空に関するお勧めグッズ等を紹介しています。読者の皆
さんも、是非、フライトで使用している便利グッズや、パイロット仲間に紹介したいグッズ、書籍などの
情報を編集委員会までお知らせください。もちろん、ステイ先などでの飲食店情報なども大歓迎です。
半世紀にもなろうとする著者の空の人生は、そのま
まジェット旅客機の歴史とも重なっている。1951 年に
戦後初の民間航空会社として発足した日本航空は、プ
ロペラ旅客機によって運航を開始したが、それから10
年も経たないうちにジェット旅客機の高速大量輸送の
時代を迎える。そこから現代のハイテク旅客機の時代
まで、まだ 50 年しか経っていないのである。
その時代を経験された著者に危機一髪の状況が無
かった訳では無く、幸運に恵まれたことはあるにしても、
著者のパイロット人生からは、安全の原点としての、機
交通新聞社新書 050
ジャンボと飛んだ空の半世紀
“世界一”の機長が語るもう一つの航空誌
杉 江 弘 著 発行:株式会社交通新聞社
http://www.kotsu.co.jp/
〒 102-0083
東京都千代田区麹町 6-6
TEL:03-5216-3217(販売部)
ISBN 978-4-330-33712-8
定価 800 円 + 税
長と乗客、客室乗務員及びコクピット・クルーとの人間
としての関わりを強く感じる。
筆者は、出発前のチェックリストが完了し、乗客搭乗
の段階になると、ゲートから乗客のお顔を見るようにし
ていたという。
上空では、視界が悪かったり、横風が強いもとでの
進入中に気象が急変し、自信が薄れても、規定範囲内
なら何とかなるだろうと、そのまま行ってしまうことが
ある。失敗しても問題にならないシミュレーターとは違
うのに、そこに思いが行かない。
本書は、総飛行時間 21,000 時間、B747 乗務時
その様な時に、出発時に目に焼き付けた乗客のお顔
間は世界一となる14,051 時間の著者が、42 年間一
が浮かんで来れば、ここはひとまず進入を中止し、冷
度も乗客乗員の怪我や機材の損傷も起こさなかったパ
静に本当に大丈夫かと問い直すことも可能になるのだ
イロット人生を振り返り、様々な航空事故や自身の体験
という。
を検証しつつ、航空の歴史をひも解いた一冊である。
その内容はただの回顧録にとどまらず、職務の全う
ハイテク化がいかに進んでも、安全運航を守る最後
とは何か、真のプロフェッショナルについて考えさせら
の砦は人間との認識を新たにするためにも、本書の一
れる書でもある。
読をお勧めしたい。
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オススメ ! 情報ボックス
書籍 & Goods紹介
編集委員会
このコーナーでは、書籍紹介を始めとして航空に関するお勧めグッズ等を紹介しています。読者の皆
さんも、是非、フライトで使用している便利グッズや、パイロット仲間に紹介したいグッズ、書籍などの
情報を編集委員会までお知らせください。もちろん、ステイ先などでの飲食店情報なども大歓迎です。
Q1:GPS受信機を搭載していれば、公示された
RNAV5経路を飛行してよい。
Q2:FMSを搭載していれば、公示されたRNAV
SIDを飛行してよい。
Q3:航空機がRNAV5に対する要件を満足していれ
ば、公示されたRNAV5経路を飛行してよい。
Q4:RNAV1飛行方式を飛行する許可を受けていれ
ば、当然のことながら、RNAV5経路を飛行し
てもよい。
PBNとは、我が国流にいえば「航法精度を指定し
たRNAV」ということで、RNAVを昇華し、元の広
RNAVハンドブック
PBNの理解と普及のために
中内 義信 著
発行:鳳文書林出版販売(株)
http://hobun.com/rnav.html
〒 105-0004
港区新橋 3-7-3
TEL:03-3591-0909
ISBN 978-4-89279-411-7
定価 2,800 円 + 税
注文方法:直接出版会社へ、書店経由の注文も可
RNAVなどというものを少しかじってみるか、と
この本を手に取ってみたが、副題に「PBNの理解
域航法以外の要素が盛り込まれているのだそうです。
内容のあらましは、
第1部 RNAVとPBNの概要
第1章 イントロダクション
第2章 PBN
第3章 RNAVいろいろ
第4章 RNAVにおける測位
第2部 RNAVを支えるもの
第5章 RNAV飛行方式の設計
第6章 航法用データベース
第7章 RNAVの安全と品質の確保
第3部 RNAVによる航行
第8章 RNAV航行許可取得の手引き
第9章 まとめに代えて:RNAV方式の飛び方
と普及のために」と書いてある。PBNって何?と
となっています。
R985星型レシプロエンジンを勉強していたロートル
RNAVに興味のある方、学科試験でRNAVの問題
パイロットは最初からつまずいた。
「はじめに」のペー
に遭遇する方は一読する必要があるかもしれません
ジにクイズが載っているとおり、パイロットの立場か
が、難解な本です。最初のクイズの正解はすべてNO
らお答えください、答はYESまたはNOの2択とあり、
であって、このクイズの背景や理由を知りたい方も一
これを転記しますので皆様考えてみてください。
読してください。
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■第49回通常総会開催予告
早いもので今年も総会開催の時期が近づいてまいりました。なるべく大勢の会員の皆様方に出席い
ただきますようお願い致します。
日 時
平成25年6月14日(金)
第49回通常総会16時~17時30分(予定) 懇親パーティー 18時~20時(予定)
場 所
東京国際空港第一旅客ターミナルビル マーケットプレイス6F
「ギャラクシーホール」
予定されている総会議案は以下の通りです。
(報告事項)
平成25年度事業計画及び予算について
(審議事項)
平成24年度事業報告及び決算報告について
定款の一部変更について
*議案書につきましては、別途各会員宛に送付させていただきます。
今回ホームページより出席届、書面表決権行使書、委任状の提出が可能となります。
■理事会だより(第270回理事会より主な承認事項)
・平成25年度事業計画及び予算の承認
今年度の重点目標
①公益法人としての活力ある事業の推進 ②公益法人に相応しい組織体制の確立
③財務体質の強靭化
・規程改定ならびに設定
「組織図」「規程用語の定義」…事業サポート室の新設、FTD訓練室を明示
「職員職務規程」…事業サポート室新設に関連して当該職掌を追加
「FAI航空スポーツ運営細則」…登録基準、申請等の追加 等
・支部委員、委員会委員の承認
沖縄支部長(簡牛 晋氏)、沖縄支部委員、中部支部委員、FAI分科会委員
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PILOT誌に貴方の記事を!
『貴方の経験や知識をPILOT誌に載せませんか!』
日本航空機操縦士協会の PILOT 誌の記事は、会員や一般読者の方々からの投稿が中心になってい
ますが、誌面の内容をより多様化するため、航空に関心のある貴方からの投稿をお待ちしています。
投稿する記事は、技術的なもの(運航技術講座)、チョットした軽い読み物(Aviation Café)等々、
航空に関係する記事であればジャンルを問いません。
『貴方の記事は、経験と知識を伝え、そして一服の清涼剤!』
投稿方法:① 投稿は、JAPA事務局E–Mail([email protected])にお願いします。
② 投稿は、E–Mailで取りだせる原稿台紙の電子ファイルで送付して下さい。
③ 掲載予定の場合は、掲載紙面の形で PDF File が返送されます。
④ PILOT誌に掲載された場合は、薄謝を進呈します。
あなたが写した航空機の写真が本誌の表紙に!
編集委員会では、PILOT誌の表紙を飾る
皆様からの航空機の写真を募集しています。
尚、応募写真は編集委員会で検討の上、掲載いたします。
以下の応募要領をご了承の上、ふるってご応募ください。
・写真はカラー・モノクロ・Digital Data を問いませんが、投稿者が撮影されたものに限ります。撮
影日時・場所・説明等の添書きも添付してください。
・表紙には縦方向で採用します。尚、Digital 写真の場合は、できるだけ大きな画素数で撮影したもの
として下さい。
・PILOT 誌の表紙に採用させて頂いた場合、または、表紙に掲載とならなかった場合でも優秀な写
真は Aerial Photo Exhibition に掲載し、薄謝を進呈いたします。
・応募写真は、日本航空機操縦士協会で利用させて頂く事と返却できない事をご了承ください。
・住所、氏名、年齢、職業、電話番号、E-Mail Address 等を明記してください。
※個人情報に関しては当協会で厳重な秘守扱いと致します。
送付・お問合せ先
公益社団法人 日本航空機操縦士協会 編集委員会
〒 105-0003 東京都港区西新橋 1–18–14 TEL 03(3501)0433 FAX 03(3501)0435
E-mail:[email protected]
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2013 APR
13/04/09 10:30
JAPA
Aerial Photo Exhibition
日本エアシステム時代のダグラスDC-9-87
(MD-87)JA8278 (2005年)
鶴丸塗装のダグラスMD-90-30 JA8070 (2012年)
日本の空を飛んだ DC-9 シリーズ旅客機
2列+3列座席の細長い胴体、リアマウント式双発エンジンにT型尾翼の旧ダグラス製DC-9シリーズ旅客機が、この
3月末で全機リタイアしました。日本における戦後のダグラス旅客機の歴史は、航空再開と共に昭和26年の日本航空と
ノースウエスト航空の共同運航のDC-4から始まり、翌昭和27年には最初の日本国籍機JA6001のDC-4が就航しまし
た。以降DC-9シリーズの他に、DC-3、DC-6、DC-7、DC-8、DC-10、MD-11が就航していましたが、3月末の
MD-90のリタイアで、戦後60余年に及んだ日本でのダグラス旅客機の歴史に幕が閉じられました。
2013 APR
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編集後記
●中国からの黄砂とPM2.5、さらに杉花粉のト
リプル汚染が深刻な状況です。 東日本大震
災から2年以上経過しても、一向に進まない
復旧復興に、無力な政治と縦割り行政の弊害
に憤りを禁じ得ません。 PILOT誌4月号の
発刊までに、B-787の運航再開のニュースを
期待するものです。
(KEN)
●春一番、二番、三番、……。自分のフライト
スケジュールで運試し。
(T.O)
●冬が去り、エルロンに当たる空気が柔らか
く感じられるようになると、今年の曲技飛
行シーズンが始まる。毎年、同じことの繰
り返しのようでも、油断はならない。小さ
な変化を見逃すことなく、飛び続けること
を心がけたい。
(奥貫)
●1938年のことですが、スワヒリ語には「飛行
機」を意味する語がなく、「ヌデジ」=「鳥」
が同義語だったと。私小説「単独飛行」、ロ
アルド・ダール著、永井淳訳に。この世の創
造物はすべて有機質とするアフリカン・シン
プルライフですね。
(カレン)
●日本国民は、今後のエネルギー政策をどうす
るのかしっかりと論議を深めてほしい。福島
原発事故の検証作業がなされないまま「のど
元過ぎれば……」の原発再開論議は許されな
いと思う。
(K.A)
●この所、天気が何か変だ。寒い寒いといって
たのが、3月に入ると急に暖かくなり、中旬
には10日の間に3回も南からの強風が吹き荒
れた。
“砂じんあらし”かと思ったら“煙霧”。
これも地球温暖化の影響か。
(T.A)
1973 年の東亜国内航空 DC-9-31型の就航に始まり、
MD-90 型まで続いた DC-9 シリーズ機が、40 年の
時を経て、この 3 月末に日本の空からリタイアしまし
た。日本の空で活躍した最後のダグラス旅客機に「お
疲れ様でした」の言葉を贈りたいと思います。
(奥貫)
●いつもの年より早く桜は咲き、今年もまた暑
い夏となるんでしょうか?ヤレヤレと言う感
じです。
(佐藤)
●新しい航空会社の取材を通じて大きく変わり
つつある日本の航空界を実感しました。
(編集委員長 山田)
No.334 2013 年 4 月号/平成 25 年 4 月発行
発行 公益社団法人 日本航空機操縦士協会
(Japan Aircraft Pilot Association)
〒105-0003 東京都港区西新橋1−18−14
TEL 03-3501-0433(代) ホームページ URL http://www.japa.or.jp/
FAX 03-3501-0435 E-Mail:[email protected] 振替口座/00180-9-88490
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禁無断転載
落丁・乱丁本がありましたら
お取替えいたします
編集人 山 田 光 男
発行人 中 村 俊 治
定価 1050円(税込)
印 刷 星光社印刷株式会社
2013 APR
13/04/09 12:32
JAPAで飛行訓練を!
FTD ( Flight Training Device )
当協会の FTD は国土交通省の「模擬飛行装置等認定要領」の規定による
<飛 行 訓 練 装 置 レ ベ ル 3>に認定されています。
当機による訓練で Flight Log Book への飛行時間の記入が可能です。
FTDを利用して
IBEXエアラインズ 株式会社
運航部 運航乗員課
峯 匡太朗
航空大学校を卒業してから入社ま
で、JAPA の FTD には知識や技量
だけでなくモチベーションも支えて
頂きました。フライトに携れない日々が続き、不安な気
持ちが大きくなる中、JAPA の方々に FTD を通じて交
流することで「自分はまだやれる!」という自信を持つ
ことが出来たと思います。そして FTD で学んだことは
エアラインで飛び出してからも非常に役に立っていると
感じています。長くフライトから離れてしまった方や、
自分の知識や技量を深めたい方は是非利用してみて下さ
い。きっと得られるものがあるはずです。
平成 23 年4月1日より新料金により訓練を行っております。
より充実した訓練を提供できるよう関係者一同お待ち致しております。
《訓練 A》Flight Log Book へ飛行時間の記入が可能です(技能証明が必要)。
メニュー
会員
一般
技量維持訓練
18,000 円
25,000 円
計器飛行(180日)
15,000 円
20,000 円
計器飛行訓練
18,000 円
25,000 円
・技量維持訓練
航空局乗員課通達国空乗第 2077 号(自家用操縦士の飛行の安全確保について)にて推奨されている技量維持を行う訓練
・計器飛行(180 日)
航空法施行規則第 161 条(計器飛行を行うために必要な最近 180 日の飛行経験)を満たすための訓練
・計器飛行訓練
全 15 回の訓練
《訓練 B》Flight Log Book へ飛行時間の記入は致しません。
メニュー
会員
一般
ポイントレッスン
12,000 円
16,000 円
試験前訓練
12,000 円
16,000 円
6,000 円
8,000 円
体験搭乗
※詳しくは JAPA ホームページ(http://www.japa.or.jp/)をご覧下さい。
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