炎症性腸疾患のストーマケア

この小冊子は2012年2月4日に開催された第29回日本ストーマ・排泄リハビ
リテーション学会総会におけるランチョンセミナーの内容をまとめたものです。
炎症性腸疾患のストーマケア
司会のことば
潰瘍性大腸炎やクローン病をはじめとする炎症性腸疾患
(IBD)
は,寛解と再燃を繰り返す難治の疾患です。近年では
新たな薬剤・治療法の開発が進み,治療の選択肢は増えて
います。しかし,IBD患者数とIBDを原因とするストーマ造設者
の数は年々増加しているのが現状です。またIBDは若年者に
多く発症する疾患であるため,治療・ケアに当たっては患者
さんの社会的・心理的状況に配慮しなければなりません。
本セミナーでは,IBD 治療,ストーマケアについての最新
トピックを3人の専門家の先生にご講演いただきます。
● 演者
炎症性腸疾患の最新治療と
総合的アプローチ
社会保険中央総合病院炎症性腸疾患センター
河口 貴昭
先生
● 司会
藤田保健衛生大学消化器外科
前田 耕太郎
先生
炎症性腸疾患の外科的治療
独立行政法人労働者健康福祉機構
東北労災病院大腸肛門外科
舟山 裕士
先生
炎症性腸疾患のストーマケア
東邦大学医療センター佐倉病院 皮膚・排泄ケア認定看護師
清藤 友里絵
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先生
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炎症性腸疾患の最新治療と総合的アプローチ
社会保険中央総合病院炎症性腸疾患センター 河口
貴昭
先生
一方,クローン病では,直腸肛門病変に対して小腸 / 大腸
IBDの内科的治療の目標は外科的手術の回避
クローン病では肛門病変のコントロールが重要
ストーマを造設しますが,直腸肛門病変は難治であるため,し
ばしば永久ストーマとなります。このためクローン病の内科的
治療では,直腸肛門病変をコントロールし,ストーマ造設を防
潰瘍性大腸炎とクローン病はIBDと総称され,どちらも腸管
ぐことが重要な課題です。
免疫の異常によって腸管障害を来す疾患です。しかし,両者
は「似て非なる疾患」であり,さまざまな相違点があります。潰
瘍性大腸炎は基本的に大腸のみが障害される疾患です。直
潰瘍性大腸炎の内科的治療
免疫調整薬や抗体製剤で重症例でも手術回避が可能
腸から連続性の病変が形成されますが,腸管粘膜層に限ら
れています。一方,クローン病は口から肛門までの全消化管
潰瘍性大腸炎の内科的治療は,近年新しい治療薬が開発
にわたり非連続性に病変が形成されます。また腸管粘膜層だ
されたこともあり,治療成績が向上しています。
けではなく,腸管壁全層に炎症が生じます。このためクローン
まず寛解導入療法について説明します(図1)。軽症の場
病では狭窄や瘻孔など,形態変化を伴った腸管合併症を来
合は,5-アミノサリチル酸製剤(以下,5A S A 製剤)
を投与し
す可能性が高くなります。さらにクローン病では肛門病変が高
ます。中等症の方には,ステロイド剤を投与しますが,長期
率で発生します。難治性痔瘻の場合,ストーマ造設が必要と
使用により合併症や副作用が出現します。このため,最近で
なる例も少なくありません。
はステロイド投与の代替として血球成分除去療法が行われる
潰瘍性大腸炎とクローン病では,造設されるストーマにも違
ことがあります。
いがあります。潰瘍性大腸炎の場合は,大腸全摘術の後に一
ステロイド抵抗性のある難治性症例は,従来は内科的治
時的にストーマが造設されることがありますが,最終的には小腸
療の限界と判断し,手術を実施する場合がほとんどでしたが,
と肛門をつなぐ手術が行われるために,ストーマは閉鎖されま
近 年では免 疫 調 整 薬(タクロリムス,シクロスポリン)や抗
す。またほとんどの場合,手術を行うことで疾患が完治します。
TNFα抗体製剤(インフリキシマブ)
の登場で,手術を回避で
図1
潰瘍性大腸炎の寛解導入療法
図2
クローン病の内科的治療
手 術
トップダウン
タクロリムス
(プログラフ®)
重症
シクロスポリン
(サンディミュン®)
抗TNFα
抗体製剤
インフリキシマブ
アダリムマブ
インフリキシマブ
(レミケード®)
ステロイド
中等症
ステップアップ
免疫調整薬
血球成分
除去療法
アザチオプリン
®
アサコール
ステロイド剤
サラゾピリン®
軽症
プレドニゾロン
ペンタサ®
注腸剤・坐剤
経口剤
成分
栄養療法
注射剤
(提供:河口貴昭氏)
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血球成分
除去療法
5ASA製剤
ペンタサ®・サラゾピリン®
(提供:河口貴昭氏)
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炎症性腸疾患の最新治療と総合的アプローチ
河口 貴昭
先生
きるケースも増えてきました。
寛解維持療法ですが,軽症の場合は5A S A 製剤,中等症
の場合は免疫調整薬(タクロリムス,アザチオプリン),重症
クローン病患者のストーマには
さまざまな問題が発生する可能性がある
例には抗TNFα抗体製剤(インフリキシマブ)が投与されます。
内科的治療を実施してもストーマ造設を避けることができな
クローン病の内科的治療
腸管の形態変化を防ぐために“トップダウン”で投与する
かった場合,特にクローン病患者ではストーマに関するさまざ
まな問題が発生する可能性があります。①ストーマ合併症(ス
トーマ皮膚瘻,ストーマ狭窄,ストーマ陥凹),②皮膚障害(周
クローン病の内科的治療で使用される薬剤は,潰瘍性大
囲皮膚炎,壊疽性膿皮症),③短腸症候群(脱水,低栄養),
腸炎で使用されるものとオーバーラップしています(図2)。ク
④空置腸管トラブル
(盲端症候群,発癌),⑤心理的問題,
ローン病においても5A S A 製剤,ステロイド剤,免疫調整薬,
⑥社会的問題,⑦経済的問題などです。ストーマ障害,皮
抗 TNFα抗体製剤が投与されます。その他,成分栄養療法
膚障害に対しては,IBDの治療を並行して進めます。
や,血球成分除去療法(大腸病変を有する症例)が適用され
ストーマを造設すると,本人の意志とは無関係に水分を排
ることもあります。
出してしまうので,オストメイトは脱水症状に陥りやすい状態に
従来,クローン病の内科的治療は,効果の弱い薬剤から開
あるということを意識すべきです。特に腸炎を起こした場合は,
始し,強い薬剤へとステップアップして投与されていましたが,
かなり重症の脱水症状に陥る可能性があります。短腸症候群
この方法では,疾患の進行を食い止めることができず,形態
を合併したオストメイトの脱水を回避するために,腸の蠕動運
変化を来してしまうことが多くありました。このため,近年では,
動を抑制する薬剤の投与や,夜間の経腸栄養などの対策が
形態変化を防ぐために初期の段階から抗体製剤を投与する
あります。経腸栄養を行う場合は,栄養より,水分と電解質を
トップダウン療法が主流になりつつあります(図3)。
補給することを主眼とします。
また,クローン病と診断された時点で狭窄や瘻孔などの形
心理的,社会的,経済的問題については,医療スタッフが
態変化が認められる場合は,その状態で内科的治療を開始
患者を丁寧にサポートすることが大切です。
するのではなく,手術を実施して腸管病変を
“リセット”
してから,
内科的治療を実施するという流れが一般的です。
ストーマ造設後の人生の在り方を決めるのは患者自身
医療スタッフは患者の目標達成をサポートすべき
図3
クローン病のトップダウン療法
しばしば「今後はあれもできない,
ストーマを造設した患者は,
トップダウン
これもできない」
というネガティブな心情に陥ります。「ストーマ
抗体製剤
造設後,何ができますか」
という質問に対して,私は「ストーマ
は今のつらい状況を打開して人生をより良いものにするために
造設するものです。自分に『何ができるか』ではなく『何をやり
たいか』
を考えて,積極的に行動する人は困難も乗り越えられ
ます」
と答えています。I B D 治療は食
形態変化
療法や服薬の遵守,
ストーマケアの実践など,患者が主体的に治療に取り組むこと
が不可欠です。この意味で,IBDの主治医は患者自身である
5ASA製剤
ステロイド
免疫調整薬
抗体製剤
と言えます。そしてわれわれ医療スタッフは患者が自分の目標
に向かって問題を乗り越えていくことをサポートする役割を担っ
ステップアップ
ています。
(提供:河口貴昭氏)
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炎症性腸疾患の外科的治療
独立行政法人労働者健康福祉機構 東北労災病院大腸肛門外科 舟山
裕士
先生
腸粘膜を全て除去する方法で,通常2∼3期に分割して手術
IBDの外科的治療には特殊条件がある
若年者には社会生活に配慮した術式を選択
を行います。IACAは歯状線の上の直腸を2∼3cm残して器
械で吻合する手術です。直腸粘膜が一部残存するため癌発
生リスクは残りますが,1回の手術で済みます。I R A は直腸
IBDの外科的治療には,癌の外科的治療とは異なる特殊な
粘膜が全て残存するため,内科的治療でコントロールが可能
条件があります。まずほとんどの患者は,免疫調整薬投与に
である症例に限られます。 よって,免疫不全状態にあります。そのため,感染を来しやす
TPCはIAAやIACAが普及する以前は標準的な術式でし
い状態にある上,創傷治癒もなかなか進みません。また,食
た。安定した優れた術式であるため,高齢者で A D L が不良
事量が少なく,かつ下痢を来しやすい状態ですので,蛋白質
である場合,肛門機能が著しく低下している場合,重度の肛
が喪失されやすく低栄養状態にあることがしばしばあります。
門狭窄や痔瘻が認められる場合など,歯状線付近まで潰瘍
壊疽性膿皮症をはじめとする腸管外合併症も手術を困難に
が存在する場合,進行直腸癌合併により肛門温存が不可能
する一因です。さらにIBDは学業や仕事で忙しい若年者に多
な場 合などは T P C の適 用が検 討されます。しかし,I A A,
い疾患です。また女性の場合,多くの方が20∼30歳代に妊
IACAではストーマ造設が一時的であるのに対し,TPC の場
娠・出産をします。このため,特に若年者に対しては,社会的
合は永久ストーマとなります。
活動をできるだけ制限しないような術式を検討すべきです。
クローン病は手術しても再発することが多い
ストーマ合併症も高頻度で起こる
潰瘍性大腸炎の4つの術式
潰瘍性大腸炎の手術には4つの術式があります(図1)。回
クローン病の外科的手術の適用となるのは,腸閉塞,穿孔,
腸囊肛門吻合術(I A A),回腸囊肛門管吻合術(I A C A),
狭窄,膿瘍,内瘻,外瘻などです。しかし,クローン病は手術
回腸直腸吻合術(IRA),回腸人工肛門造設術(TPC)
です。
を行っても高頻度で再発するという問題があります。
当院で最も多く実施しているのはIAAです。この術式は直
また,クローン病の手術では種々の理由でストーマを造設し
図1
潰瘍性大腸炎に対する手術術式
写真 1
壊疽性膿皮症(クローン病)
回腸瘻
大腸全摘,
回腸囊肛門
吻合術
IAA
大腸全摘,
回腸囊肛門管
吻合術
IACA
結腸全摘,
回腸直腸
吻合術
IRA
大腸全摘,
回腸人工肛門
造設術
TPC
(「潰瘍性大腸炎治療指針」 平成23年度改訂案
難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班)
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潰瘍性大腸炎
大腸全摘後の
回腸ストーマ周囲
壊疽性膿皮症
治療:ステロイド,免疫調整薬(シクロスポリン)
の全身投与
局所療法(ステロイド,カデキソマーヨウ素,
免疫調節薬(プロトピック ®軟膏)
(提供:舟山裕士氏)
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炎症性腸疾患の外科的治療
舟山 裕士
先生
ますが,さまざまなストーマ合併症を来します。原疾患を原因
シートン法を行います。多くはこの治療によってコントロール可
とする合併症としては,ストーマでの腸病変の出現,壊疽性
能ですが,難治であることもしばしばです。シートン法の術後
膿皮症,ストーマ周囲瘻孔などがあります。
の長期成績を見てみると,累積非再手術率が20%,累積ストー
写真1は壊疽性膿皮症です。左はループ式回腸瘻,中央
マ非造設率が60%という報告※があり,一定の割合で,再手術,
は単孔式ストーマに発症した壊疽性膿皮症です。壊疽性膿
ストーマ造設を実施しなければいけない症例が存在します。
皮症では,穿掘性の潰瘍が形成され,強い痛みを伴うのが特
シートン法で改善しない場合は,ストーマ造設を検討します。
徴です。治療法は外用剤としてステロイド軟膏やシクロスポリ
肛門機能が失われている場合や,悪性化が見られる,あるい
ンなどの免疫調整薬の全身投与が一般的です。ストーマ局
は悪性化の疑いがある場合は,直腸切断術を実施します。
所に対しては,ステロイド軟膏やカデキソマーヨウ素,免疫調
肛門病変を有するクローン病患者は,Q O L が悪いのです
整薬(タクロリムス軟膏)
などを使用することもあります。
が,ストーマ造設によって改善することが報告されています。
写真2は,Cobblestone appearance( 敷石状外観)
と瘻
このため肛門病変を有するクローン病患者で,QOLが低下し
孔です。瘻孔では,ストーマ直下の病変が原因で生じます。
ている方には,ストーマ造設を積極的に検討すべきだと思い
写真3も小腸に広い活動性病変があり,また腸間膜の肥厚
ます。
があったため可動性が乏しく,十分な高さのストーマをつくるこ
※小川仁ほか: 日本大腸肛門病会誌 2008; 61: 101-106
とができなかった症例です。
クローン病は肛門病変の発症率が高い
シートン法で改善しない痔瘻の場合は手術を実施
IBD治療ではストーマ造設術は不可欠なツール
ストーマに関する知識と経験を得ることが重要
IBD 治療においては,ストーマ造設術は不可欠,かつ心強
クローン病は直腸肛門病変を高率に合併する疾患です。
いツールです。肛門病変を有する患者では,ストーマ造設に
そして,直腸肛門病変を合併した場合,ストーマ造設率が高
よりQ O L が向上する傾向があります。一方でストーマを造設
くなります。当院で,クローン病患者77例に対するストーマ造
した場合,I B D 特有のストーマ合併症に注意する必要があり
設の状況について調べたところ,肛門病変,肛門膣瘻,直腸
ます。特にクローン病では,ストーマ部病変の再発が頻繁に
病変などの直腸肛門病変に対する症例は58例でした。
起こります。I B D 治療に携わる医療スタッフは,より良い治療
肛門病変の中で最も多いのは痔瘻です。痔瘻の治療はま
やケアを提供するために,ストーマに関する知識を蓄え,経験
ず肛門局所の炎症を制御し,肛門機能を温存するために,
を積むことが求められています。
写真 2
Cobblestone appearanceと瘻孔(クローン病)
写真 3
ストーマ陥凹(クローン病)
潰瘍瘢痕
Cobblestone appearance
(敷石状外観)
瘻孔
(提供:舟山裕士氏)
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小腸穿孔のため緊急手術(回腸人工肛門造設術)施行。
小腸に広範な活動性病変があり,腸間膜の肥厚を伴って可動性が乏しく,
十分な高さを取ることができなかった。
(提供:舟山裕士氏)
14.5.8 11:10:37 AM
炎症性腸疾患のストーマケア
東邦大学医療センター佐倉病院 皮膚・排泄ケア認定看護師 清藤
IBD患者は皮膚障害を生じやすい状態にある
友里絵
先生
トーマ周囲にあるくぼみを補正するために,C P B 系単品系凸
面装具を使用しました。3日後に外来で同様の処置を行い,
I B D 患者のストーマケアを行うに当たって,認識しておくべ
その4日後には色素沈着は残っていましたが,紅斑とびらんは
き点が幾つかあります。I B D 患者に造設されるストーマの多く
改善しました。皮膚障害が生じないように予防的なスキンケア
は回腸ストーマで,水様・粥状の便が多量に排泄されるとい
を行うことは勿論ですが,それでも皮膚障害が生じてしまうこと
う特徴があります。その便性,量は原疾患の炎症増悪によっ
が少なくなく,状態の変化を早期に発見し,初期段階で適切
て変化します。また,便は消化酵素を含みアルカリ性であるた
に対処することが最も重要です。
め,皮膚に付着すると障害の原因となります。
ストーマ造設後に起こるさまざまな合併症に注意
更にIBD患者のほとんどはステロイド剤投与や低栄養, 貧血
によって皮膚が菲薄化,脆弱化しており,乾燥状態であることも
ストーマ造設後にはさまざまな合併症が起こります。IBD 患
しばしばあります。すなわちストーマ造設を行ったIBD 患者は
者は皮膚が菲薄化・脆弱化しているのみならず,創傷治癒も
皮膚障害が生じやすく治癒しにくい状態にあると言えます。
遅延傾向にあります。また術直後だけでなく数カ月・数年後
症例1は排泄物の付着により皮膚障害が生じた例です。ス
に合併症が生じる場合もあるため,長期にわたる観察が必要
トーマを造設して退院した後,体重増加によりストーマ周囲の腹
です。
壁の凹凸が強くなったため,装具が密着せずに頻回に便が漏
①縫合不全,創離開
れるようになりました。すぐに剝がれてしまうため,装具を貼らず
症例2は,ストーマ粘膜皮膚接合部の縫合不全,創離開の
に紙おむつを当てて過ごし,翌日ストーマ外来を受診しました。
症例です。一般的にはハイドロファイバーやアルギン酸塩など
ステロイド外用剤を長期間繰り返し使用すると,皮膚は菲
の創傷被覆材を用いて湿潤環境を保った上に,局所の血流障
薄化・脆弱化しやすくなります。よって,ストーマ周囲の皮膚
害を生じにくい平面面板を使用します。しかし,この症例の場合,
には極力ステロイド外用剤は使用しません。しかし,ストーマ
そのようなケアを実施したところ, 創傷治癒が促進されませんでし
外来受診時の皮膚状態は炎症が強く,びらん部からの滲出
た。これは,吸水性の高い創傷被覆材が水様便を吸収し,創
液が多いため,装具の密着が困難であり,短時間で炎症を抑
離開部に便を留めてしまい,肉芽形成が促進されなかったこと
えるために,ステロイド外用剤を使用しました。
が原因と考えられます。
ステロイド外用剤を塗布して約10分後に石鹸で洗浄し,粉
このため,便が創離開部に入り込まないように,非アルコール系
状皮膚保護剤を塗布後ストーマ装具を貼付しました。またス
練状皮膚保護剤で離開部を保護しました。非アルコール系練
症例 1
排泄物の付着により皮膚障害が生じた例
3日後
4日後
症例 2
縫合不全,創離開
1カ月後
2カ月後
・ステロイド軟膏塗布(受診時)
・ 皮膚保護パウダー
・ CPB/CPBS系単品系凸面
(5mm)装具
・ ベルト固定
・ 1回/日交換 → 1回/2∼3日交換へ
・ 離開部に非アルコール性ペーストで保護
・ CPB系単品系平面装具 → KPB系単品系凸面装具
(プレカットサイズ40→25 徐々に小さくする)
・ ベルト固定
・ 1回/日交換 → 1回/2∼3日交換へ
ストーマ周囲皮膚障害の予防と早期発見,
初期段階での適切な対処が最も重要
離開部に便を停滞させないことが,
肉芽形成・上皮化を促進させるこつ
(提供:清藤友里絵氏)
Alcare_CELLCARE.indd Sec1:6
(提供:清藤友里絵氏)
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炎症性腸疾患のストーマケア
清藤 友里絵
先生
状皮層保護剤は水分を吸収して溶解しますが,短期交換であ
れば効果的に使用できます。また,排泄物の潜り込みを防ぐこと
に主眼を置いて凸面装具を選択し,ベルトで固定を行いました。
IBD患者のストーマでは
さまざまな皮膚障害が混在することがある
面板の装具ストーマ孔は,初めは40mmのものから開始して徐々
I B D 患者のストーマでは,さまざまな皮膚障害が混在して
に小さくしていき,最終的には25mmのものを使用しました。この
発現することがあります。症例5は,ストーマ周囲皮膚に排泄
結果,
1カ月後の外来受診時には離開創の治癒を確認しました。
物が付着したために,びらんが生じています。さらに汗の付
②壊疽性膿皮症
着によって発生した毛囊炎や,面板外周の接触部には紅斑も
症例3は壊疽性膿皮症の患者です。壊疽性膿皮症では痛
見られます。
みが強く発現するのが特徴です。しかし,I B D 患者は,普段
この症例では,水分を吸収して溶解するタイプの面板を使
から腹痛をはじめとするさまざまな痛みを抱えています。痛み
用していたために,ストーマ周囲に排泄物が付着しやすくなっ
に対し過剰に反応したり我慢したりする患者がいますが,痛み
ていました。またこの面板は,粘着材が残留しやすく,剝離
の訴えを安易に捉えてはいけません。患者の言動やバイタル
刺激が強いタイプの製品であったことも,皮膚障害を来した原
サインなど客観的にアセスメントすることが重要です。皮膚障
因と考えられました。
害の原因が排泄物の付着や皮膚保護剤によるものか壊疽性
このため,水分を吸収しても溶解せず,かつ粘着材の残留
膿皮症かを鑑別し,早期に適切な処理を行うことが必要です。
も少ない C P B H S 系単品系凸面装具に変更したところ,皮膚
局所治療だけでなく,全身治療が必要なケースもあり,皮膚
障害は次第に改善しました。
科医など専門医との連携も必要となります。
症例6も,水分を吸収して溶解し,かつ粘着材の残留が多
③ストーマ近接部の瘻孔
いタイプの面板を使用していましたが,CPBHS系単品系凸面
症例4は瘻孔を併発した患者です。ストーマからの排便は
装具に変更後に改善が見られました。
なく,
3時方向の瘻孔から水様便が排泄されます。また,正
I B D 患者はわずかな外的刺激(剝離刺激や摩擦など)
でも
中創下端の瘻孔からは,便臭のある膿性の排液があります。
発赤や膨隆疹,表皮剝離などの皮膚障害が発現することが
原疾患の悪化に伴って,症状の悪化や排泄物の増加が見ら
あります。このため,剝離刺激をできるだけ和らげるために,
れたため,抗 TNFα抗体製剤を増量しました。その結果,原
その方に合った剝離剤を積極的に使用しています。
疾患のコントロールが図られたことで,体調が改善し,瘻孔か
らの排泄物の量も減少しました。
まとめ IBDのストーマケアでの注意点
瘻孔は原疾患の病態悪化のサインの1つです。他に病態
IBD患者のストーマケアにおいて,注意すべきポイントをまと
悪化を示すものは,便性の変化(下痢,血便),ストーマ粘膜
めます。まず,ストーマ局所のみならず全身状態にも着目すべ
のびらん・出血,眼疾患(ぶどう膜炎,虹彩炎など),関節炎 ,
きです。また,ストーマ合併症を生じやすい状態にあることを
結節性紅斑, 静脈血栓,膵炎,胆管炎,胆石症等があります。
常に念頭に置き,異常を早期に発見し,初期段階で適切に対
サインを発見したら,直ちに医師へ報告しましょう。
処することが重要です。そのために医療スタッフは鋭い目で
症例 3
症例 4
壊疽性膿皮症
ストーマ近接部の瘻孔
*痛みは重要な観察ポイント
*排泄物付着などによる皮膚障害
と思い込んではいけない
*早期対処が重要
瘻孔
瘻孔
・ CPB系二品系装具
・ 用手形成皮膚保護剤で
全周と7時方向のくぼみを補正
・ びらん部に皮膚保護パウダー
・ ベルト固定
・ 1回/3日交換
正中創の瘻孔;
排液が多いときにはパウチング
クローン病の病態悪化により,瘻孔も悪化する
原疾患のコントロールが重要
手術後31日目
手術後34日目
1年後
(提供:清藤友里絵氏
写真提供:東邦大学医療センター佐倉病院・佐藤美和氏)
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(提供:清藤友里絵氏)
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炎症性腸疾患のストーマケア
清藤 友里絵
先生
患者を観察し,外科医,内科医,皮膚科医などと連携を取っ
設した女性の中には,ストーマケアと育児の両立に悩まれる方
て対処していく必要があります。
もいます。また学業や仕事,家庭を優先するあまり,定期的な
I B D 患者は若年者が多いため,ストーマ造設を行った際に
受診を怠ってしまい,全身・局所管理を自己流にアレンジして
は特有の心理的,社会的な問題にも向き合う必要があります。
しまう方も多くいらっしゃいます。そのため定期的に管理方法
一時的ストーマの場合は,装具代の補助が受けられません。
を再評価し,指導することが重要です。
就職後数年では収入も少なく,経済的な負担を強いられる場
つまり,IBD患者のライフスタイルを考慮し,身体的・心理的・
合もあります。妊娠・出産を機にIBD が悪化し,ストーマを造
社会的の各側面から医療スタッフがサポートする必要があります。
症例 5
毛囊炎,びらん,紅斑が混在した例
症例 6
表皮剝離,紅斑,色素沈着が混在した例
混在する皮膚障害
便付着によるびらん
1カ月後
毛囊炎
1カ月後
面板外周の接触
による紅斑
面板貼付部の表皮剝離,
紅斑,色素沈着
1カ月後
CPBE系単品系凸面装具
↓
CPBHS系単品系
凸面装具へ変更
2カ月後
(提供:清藤友里絵氏)
(提供:清藤友里絵氏)
発行:アルケア株式会社
編集制作:株式会社メディカルトリビューン
2012年6月作成
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