発明の進歩性8(動機付け<引用例中の示唆>)

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発明の進歩性8(動機付け<引用例中の示唆>)
特許出願をした発明に特許が認められるためには、出願発明に進歩性が要求されます。
進歩性があるとは、出願発明が引用発明(先行技術)に基づいて容易に創作をすることが
できないことをいいます。進歩性を判断するときは、当業者が引用発明に基づいて出願発
明を容易に想到できたことの論理付けを試み、論理付けができなければ進歩性は肯定され、
論理付けができれば進歩性は否定されます。
論理付けにおいては、
①出願発明が、引用発明の設計変更又は数値範囲の最適化に過ぎないか?
②引用発明に動機付けとなり得るものがあるか?
③出願発明には、引用発明と比較して有利な効果があるか?
等が考慮されます。これらのうち、今回は、②動機付け(引用例中の示唆)が考慮された
裁判例を取り挙げ、その要旨を述べます。
下記1と2は、引用例の中に、出願発明に対する示唆があれば、当業者が出願発明を容
易に想到できたことの有力な根拠になると判断しています。
1.東京高判昭62.11.18(昭和61(行ケ)240)
引用例には、陽イオン性であり、しかも化学的前処理が不要な水性電着浴を得るという
本願発明と同様の目的に適する金属イオンとして、電位列中の電位が鉄の電位よりも高い
ものという条件が挙げられ、具体的に7種の金属イオンが例示されている。この中には、
本願発明の鉛イオンは記載されていないが、鉛は電位列中の電位が鉄の電位よりも高いこ
とが周知の事実であるから、鉛イオンを用いることは引用例に示唆されているといえる。
したがって、鉛イオンを用いることが、本願発明の目的を実現する上で不適当である等の
事情がない以上、鉛イオンを電着浴に添加することは、当業者であれば容易に着想できる
ことであるとして、進歩性を否定しています。
2.東京高判昭53.3.30(昭和51(行ケ)19)
本願発明の3-位クロル体は、引用例に挙げられた2-位クロル体及び4-位クロル体と化学
構造上、置換基の位置しか相違しない。また、引用例には、化合物が明色化剤として使用
できるためには、置換基の位置を特定の位置に限定しなければならない旨の記載はない。
したがって、3-位クロル体は、引用例に示唆されているものといえるから、3-位クロル体
を明色化剤として使用することは当業者であれば容易に予測できるとして、進歩性を否定
しています。
(文責)弁理士 川瀬 裕之
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