「後知恵」による認定を否定した判決

「後知恵」による認定を否定した判決
第2電気情報
1.事件番号
2.関連条文
3.判決言渡日
4.原告
(控訴人)
5.被告
(被控訴人)
6.出願番号
等
(出願経過)
7.要約
2008.2.1
酒井 將行
平成18年(行ケ)第10422号審決取消請求事件
29条第2項(進歩性)
2007年3月29日
ジオックス エス ピイ エイ
特許庁長官
平成06年(1994)03月05日
1)出願日
(特願平06-59875)
平成13年08月08日
2)拒絶理由通知書
平成14年02月19日
3)意見書・補正書
平成14年05月30日
4)拒絶査定
平成14年09月09日
5)拒絶査定不服審判請求
平成14年09月26日
6)補正
平成17年08月01日
7)拒絶理由通知
平成18年02月08日
8)補正
平成18年05月22日
9)拒絶審決
平成19年03月29日
10)審決取消訴訟
(審決取消)
(実務の指針)
1) いわゆる「後知恵」により進歩性を否定する判断を明確に誤りであると認定した判決である(他
に、平成18年(行ケ)第10421号審決取消請求事件を参照)。
2) 「後知恵」であるかぎり、いわゆる「阻害要因」の存在するとまでいえないと考えられる場合、す
なわち、「主引用例の構成で、課題を解決するに足る」と記載しているような場合でも、進歩性
は否定されない、としている点で注目される。本事案は、本件発明を知った上で事実認定を行
うという誤りをおかしたという側面とともに、この点で、本件発明においては、「新たな課題の発
見」自体も進歩性の一部と認定されたとも見ることができると考える。
3) 2003年改訂後の日本の原稿審査基準は、EPOの審査ガイドライン等と比べて、「後知恵」に
よる進歩性の否定の防止に消極的な記載であり、今後の審査の運用の変更が期待される。
(事件の内容)
1.引用例に本願発明の相違点に係る構成については記載も示唆もなく、また、審決が周知技術と
して引用する刊行物にも記載がないのであるから、当該相違点に係る構成を容易想到とすること
はできない、被告の主張は裏付けがなく、後から論理付けしたもので採用できないなどとして、相
違点に係る構成の進歩性を否定した審決を取り消した。
2.(事案の概要)
(発明の名称)「履物用の耐水性で通気性のある靴底」
(本願発明の構成)(平成18年2月8日付け手続補正により補正)
A)履物用の耐水性で通気性のある靴底(10;110;210)であって、
B)革又はそれと類似の材料でできた同様に通気性の底(11;111;211)、
C)上部領域で上記の底を少なくとも部分的に被覆する通気性でかつ耐水性の材料からなる膜
(12;113;212)および
D)少なくとも周縁に沿って上記の底と共に組み合わされ、少なくとも該膜の影響を受ける領域に1
つ以上の貫通孔(14;115;214)を備えた、ゴム又はそれと同等に不透過性の材料でできた少なくと
も1つの上部部材(13;114;213)とからなり、
E)上記の上部部材が上記膜の少なくとも周辺領域を被覆することを特徴とする靴底。
(審決の認定)
1
主引用例(実開平2-125604)と本願発明とは、両者は「履物用の耐水性で通気性のある靴底
であって、革又はそれと類似の材料でできた同様に通気性の底および上部領域で上記の底を少な
くとも部分的に被覆する通気性でかつ耐水性の材料からなる膜とからなる靴底。」である点で一致
し、一方、両者は、「本願発明は、少なくとも周縁に沿って底と共に組み合わされ、少なくとも膜の影
響を受ける領域に1つ以上の貫通孔を備えた、ゴム又はそれと同等に不透過性の材料でできた少
なくとも1つの上部部材を備え、上部部材が膜の少なくとも周辺領域を被覆しているのに対し、引用
発明は、かかる上部部材を備えない点」で相違すると認定した。
さらに、審決は、実開昭63-161506号等の記載により、「靴底において合成ゴム等の合成樹
脂層を革に組合わせること」が周知技術であるとした上、「引用発明の防水性をより向上させるた
めに、革製本底1の上面が露出する部分を防水性のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにする
とともに、防水部材2との境界部分からの漏れも生じないように、防水部材2の周辺部をも防水性
のある合成ゴム等の合成樹脂で覆うようにして、相違点に係る本願発明の構成とすることは、当業
者が容易に想到し得た」として、本願発明の進歩性を否定した。
(本件明細書に開示された構成)
(主引用例の構成)
(裁判所の認定)
引用例には、更に防水性を高めるために「不透過性の材料でできた上部部材」で覆うというよう
なことについては記載も示唆もなく、また、審決が周知技術として引用する刊行物にも記載がない
のであるから、防水布の通気性を保つために貫通孔を備えた不透過性の材料でできた上部部材
により被覆するという本願発明の相違点に係る構成を採用することが、当業者に容易想到とするこ
とはできない。
引用発明は、防水性を「通気性を有する防水部材」を積層することにより達成しているものであ
り、かつ、「本実施例のように踏付け部のみに防水布2(判決注:本願発明の「通気性でかつ耐水
性の材料からなる膜」に相当)を積層配置しただけで充分に効果的である」(甲1の明細書5頁第2
段落)とあるように、それで足りるとしているものである。
被告の主張は、裏付けのない主張であり、本願発明の相違点に係る構成を後から論理付けした
ものというほかなく、採用することができず、本願発明は、引用発明及び審決が引用する周知技術
によって容易想到とすることはできないなどとして、審決を取り消した。
以上
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