後期高齢者世代のライフプランを考える(理論編)

2014 年 6 月 21 日
勉強会資料:担当
梅原健次郎
後期高齢者世代のライフプランを考える(理論編)
-後期高齢期のサクセスフル・エイジングを実現するために-
-はじめに-
2050 年、我が国では 4 人に一人が 75 歳以上の後期高齢者になるという、世界
でもこれまで経験したことのない超高齢社会の到来が想定されている。
この未曾有の超高齢社会の到来をどう迎えるべきか、将来にわたり持続可能
な生き活きした新しい社会をどのように構築すべきか、我が国にとって極めて
大きな課題である。
そのためには、国家レベル、市場レベル、コミュニティレベル、個人レベル
でのパラダイムを変え、新しい価値を創造し、一丸となってソーシャルイノベ
ーションを起こしていくことが求められている。
本格的な超高齢社会を迎えるということは、高齢者といっても 75 歳以上の後
期高齢者が急速に増加していくことでもある。つまり、大多数の人々が 80 歳代、
90 歳代の後期高齢期を生きることが一般的になっていくということでもある。
そして、現に迎えつつある超高齢未来に向けた大きな課題は2つある。
① 国民一人一人が向き合う個人の課題として、「超高齢・長寿時代に相応し
い個人の生き方の変革」、つまり、新しい生き方づくりであり、また、人
生 90 年時代の人生設計力が求められているということである。
② 社会として取り組まなければならない課題として、「社会システム全体の
変革」、それは、新しい社会システムづくりであり、安心して活力ある持
続可能な超高齢社会の創造という、社会全般にわたって多面的な制度・シ
ステムの抜本的な見直しが求められているということである。
この 2 つの課題は、まさにこれからの超高齢未来をどのように創造・構築す
るかという課題そのものである。
今回は、以下、個人の課題のなかから、高齢期の生き方・老い方、人間の根
源的な願望である「より良く生きる」
「自分らしく生きる」ために何が大切かに
ついての考察の一端である。
Ⅰ、高齢期-「3 つのステージ」-
長寿時代の高齢期を生活の自立度(概ね健康度)の変化-基本的日常生活動
1
作(ADL)と手段的日常生活動作(IADL)の統計的調査分析の結果-を踏まえて
次の 3 つのステージに分けて考える。
① 「自立生活期」:人生の可能性が拡大、アクティブな多毛作人生の実現を
~75 歳くらいまでを想定~
2010 年の完全生命表によると、最も死亡する人が多いと推計される年齢(死
亡時年齢最頻値)は、男性 85 歳、女性 91 歳である。また、65 歳を起点とし
て死亡するまでに介護が必要な時間はどれだけの割合であるかについてみる
と、男性 9%、女性 13%程度という結果のようである。つまり、高齢期の約 9
割の期間は介護を必要としないで自立生活が可能というステージである。
② 「自立度低下期」:誰もが緩やかに老いる後期高齢期の生活の充実を
~75 歳以降をイメージ~
徐々に緩やかに老いていく期間である。自立度変化データでも男性の 7 割、
女性の 9 割は 70 歳代後半から徐々に身体的な衰えがみられる。そこで、老い
を体感していくなかで、社会資源の活用や内面における心理的な適応を含め
て自分らしい生活をどのように維持し、生活の充実を図っていくかが問われ
る重要なステージである。
③ 「要介護期」:最後まで安心して自分らしく老いる生活の実現を
~介護・療養を要する期間(Aging in Place)~
介護に期間を経ずに最期を迎えられる人は稀である。したがって、誰しも
晩年をどのように過ごし「自分らしく」最期を迎えるかという準備と対策は、
人生設計を考える上で極めて重要な課題である。
以上の 3 つのステージにおける人生・生活課題を連続的に乗り越えていく
ことが望ましい生き方・老い方であるという考え方である。
Ⅱ、「サクセスフル・エイジング」(Successful Aging)を目指す
「自分らしく生きる」「より良く生きる」「幸福な老い」などの表現に訳さ
れているが、より良く生きるにあたっては、このサクセスフル・エイジング
という理念、概念を抑える必要がある。
長年、高齢者研究は、加齢に伴う生理的老化の原因の解明や生活習慣病の
克服を目指す、つまり、人間の寿命をどこまで延ばすことができるかという
研究が中心であった。20 世紀後半の寿命革命により、人は長く生きるように
なったが、寝たきりの高齢者や退職後無為に生きながらえる人も多くなると
いう新たな課題が生じてきたことによって、高齢者研究の課題も寿命の延長
という「量」から、高齢者の生活の「質」(QOL:Quality of Life)を高める
ことに移行していった。つまり、従来の高齢者研究は高齢期の疾病や障害と
2
いうネガティブな面が中心であったが、対照的に高齢期における可能性とい
ったポジティブな面に注目することでもあった。
この転換は、1987 年にジョン・ロウ(老年医学者)とロバート・カーン(心
理学者)によって『Science』に発表された「サクセスフル・エイジング」と
いう理念・概念の登場が大きく影響している。
1、当時のサクセスフル・エイジングを追求した 3 つの理論-
①離脱理論(disengagement theory)-1960 年代前半-
「老化とは、人々と社会体系の他の成員との間の相互作用が減少してい
く、段階的で不可避的な撤退と離脱の過程であるとし、加齢に伴う引退
は避けられず、それは社会システムを維持していくためにも必要であり
個人の適応にとっても好ましい」とする考えである。引退したら社会で
の役割や人間関係も徐々に縮小していくので、田舎で静かに余生を過ご
すことは高齢期に相応しいと考えられた。
②活動理論(activity theory)-1960 年代後半~1970 年代-
「壮年期の社会的活動の水準を維持することが、幸福に生きるための必
要条件である」という考えである。つまり、高齢期に失う仕事や役割の代
わりに次の仕事やボランティアなど新たな役割を引き受けて活動し続け
る、いわゆる生涯現役を貫き通すことが、最もふさわしい生き方として考
えられた。
③継続理論(continuity theory)-1980 年代~1990 年代-
「中年期までに形成してきた行動パターンや生活、パーソナリティの継
続性を保ちつつ、変化に対処していくことが老年期における望ましい適
応の様式である」。この理論は、加齢とともにそれまで培った習慣や社会
関係、ライフスタイルはそのまま維持されており、適応のパターンが多
様であることを示している。
2、長寿時代のサクセスフル・エイジング
後期高齢者が前期高齢者を数においてはるかにしのぐこれからの超高齢
社会における「サクセスフル・エイジング」を考えると、前期高齢者が高
齢者の大半を占めていた当時のサクセスフル・エイジングのスローガンの
下に劇的な生活変化をもたらした高齢者像は、必ずしも後期高齢者の現実
を反映していないし、
「サクセスフル・エイジング」=「自立して生涯現役」
という画一的なイメージを与えかねない。
後期高齢期は、老化に伴う身体的な自立度低下、配偶者・近親者や友人
らとの死別、介護を受けるなど後期高齢期ならではの様々な変化に直面す
3
る。加齢に伴う様々な変化に対してどのように適応していくかは、後期高
齢期を生きる上での重要課題である。また、後期高齢期を射程に入れた「サ
クセスフル・エイジング」が改めて問い直される時が来ているということ
でもある。
後期高齢期のサクセスフル・エイジングを実現するためには、次の 3 つ
の適応手段が注目されている。
A:SOC モデル(Selective Optimization with Compensation)
加齢に伴う様々な機能の低下を認め、残された機能や資源を上手に
活用して充実した人生を送ることがサクセスフル・エイジングの理念で
あるとする考えである。これは、選択、最適化、補顛という 3 つの相互
関連するプロセスからなるとされている。
ⅰ)選択 : 自分が取り組んできたいろいろな活動領域の中から、自
分の現状に即して重要で意味のある領域を選び、新たな
生活の目標を設定する。
ⅱ)最適化:新たな目標の達成に向けて、まだ自分に残っている機能
や資源を、選択した活動領域に集中して投入する。
ⅲ)補填
:失われた機能や資源は残存機能や資源を充分に活用し、
目標の達成を可能にする。
B:老年の超越(gerotranscendence)
92 歳で亡くなったエリクソンは晩年に、長寿化による高齢期の延
長という大きな社会変化の下で、人間のライフサイクルの概念を根本
から再考する必要を感じ、従来から論じてきた 8 段階の発達段階に、
もう 1 段階を追加する必要があると考えた。エリクソンの死後、生涯
の共同研究者でもあった妻のジョーン・エリクソンは夫との共著『ラ
イフサイクル、その 完結』 (The Life Cycle Completed Expanded
edition)の増補版で、人生の第 9 段階を追加し、その発達目標とし
てスエーデンのウプサラ大学のトレンスタㇺが提起した「老年の超越」
(gerotranscendence)を挙げた。
-参考- エリクソンの発達段階と課題(8 段階)
-段 階-
-年 齢- -課題、構成要素-
-基礎的活力-
① 乳児期
0~1,5
信頼-不信
希望
② 早期児童期
1,5~3
自立性―恥と疑惑
意志力
③ 遊戯期
3~6
自発性-罪悪感
目的性
④ 学齢期
6~12
勤勉-劣等感
適格感
⑤ 青年期
12~20
自我同一性-性-役割拡散
忠誠
4
⑥ 初期成人期
20~40
親密さ-孤独
愛
⑦ 成人期
40~60
生産性-停滞
世話
自我統合-絶望
英知
⑧ 成熟期(老年期)60~
C:社会情緒的選択理論(Socio‐Emotional Selectivity Theory)
後期高齢期には身体的衰えや疾病などにより自立した生活が困難に
なってくることは否めない。しかし、高齢者の主観的幸福感は若い人
たちと比べて低くなくむしろ高いという研究結果が多くみられる。
高齢期には、生あるものの運命の兆しを認識し、ネガティブな感情は
最小化し、ポジティブな感情の最大化をめざす、つまり、情緒的充足
感の増大を求めるようになる。人間は生涯、自分自身の変化に適応的
に生きているわけなので、こうした高齢者の適応的な心の働きという
高齢期の心理的特性を適応という観点から説明するのが社会情緒的選
択理論である。
3、Tornstam による「老年的超越」について
トレンスタㇺは「老年的超越」
(gerotranscendence)とは、高齢期に高
まるとされる、「物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非
合理的な世界観への変化を指す」という概念を提唱した。
内容として、①物質的な合理的思考からの解放、②自己中心性に基づく
動機づけから利他性に基づく動機づけへの移行、③社会的な役割や表面的
な人間関係、そして社会の一般常識からの解放などを挙げている。また、
この価値観の変化によって、①身体的な健康を重視しない、②外に向けた
活動を重視しない、③社会的役割を重視しない、④社会的ネットワークの
縮小にこだわらないといった、およそ活動理論的なサクセスフル・エイジ
ング像とは異なる状態に至るとしている。
このように、老年的超越の具体的な内容として、「宇宙的意識」、「自己
意識」、
「社会との関係」という 3 つの領域や次元の変化があることを挙げ
ている。高齢期の後半において、活動理論的な適応が困難な要介護者や後
期高齢者のサクセスフル・エイジングを支える重要な新しい概念であると
して、大きな期待と注目を集めている。
*Tornstam の老年的超越概念の内容:3 つの領域・次元の変化
①宇宙的意識の獲得
・時間や空間についての認識の変化:現在と過去、そして未来の区別
や、「ここ」と「あそこ」といった空間の区別がなくなり、一体化
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して感じられるようになる。
・前の世代とのつながりの認識の変化:先祖や昔の時代の人々とのつ
ながりをより強く感じるようになる。
・生と死の認識の変化:死は 1 つの通過点であり、生と死を区別する
本質的なものはないと認識する。
・神秘性に対する感受性の向上:何気ない自然や生活のなかに、生命
の神秘や宇宙の意思を感じるようになる。
・一体感の獲得:人類全体や宇宙(大いなるもの)との一体感を感じ
るようになる。
②自己認識の変化
・自己意識の変化:自己のなかに、これまで知らなかった隠された部
分を発見する。
・自己中心性の減少:自分が世界の中心にあるという考え方をしなく
なる。
・自己の身体へのこだわりの減少:身体機能や容姿の低下をそのまま
受容できるようになる。
・自己に対するこだわりの減少:自己中心的な考え方から利他主義的
な考え方に変化する。
・自己統合の意識:人生の良かったことも悪かったことも、すべて自
分の人生を完成させるために必要であったことを認識する。
③社会との関係の変化
・人間関係の意義と重要性の変化:友人の数や交友範囲の広さといっ
た表面的な部分は重視せず、少数の人と深い関係を結ぶことを重視
するようになる。
・社会的役割についての認識の変化:社会的役割と自己の違いを再認
識し、社会的な役割や地位を重視しなくなる。
・無垢さの解放:内なる子どもを意識することや無垢であることが成
熟にとって重要であることを認識する。
・物質的豊かさについての認識の変化:物質的な富や豊かさは自らの
幸福には重要でないことを認識する。
・経験に基づいた知恵の獲得:何が善で何が悪であるかを決めるのは
困難であることを認識する。
4、日本の超高齢者における老年的超越
Tornstam が提唱した老年的超越理論とその内容は、日本でも同様に適用
されるかについては、おおむね同じではあるが、比較文化的な検討が必要で
6
ある。たとえば、老年的超越の宇宙的次元については、その内容とスピリチ
ュアリティ(霊性、精神性)との関係が検討されているが、スピリチュアリ
ティ自体、キリスト教が文化の基礎にあるヨーロッパとわが国では概念構成
や要素が異なることが指摘されている。
*日本版老年的超越質問紙改訂版:下位尺度と内容
①「ありがたさ」、「おかげ」の認識:自己の存在が他者により支えられていることを認識す
ることにより、他者への感謝の念が高まる。
-Tの「前の世代とのつながりの認識の変化」(宇宙)に対応-
②内向性:一人でいることの良い面を認識する、一人でいても孤独感を感じない、外界の世
界からの刺激がなくとも肯定的態度でいられる。
-Tの「人間的関係の意義と重要性の変化」(社会)に対応
③二元論からの脱却:善悪,正誤,生死、現在過去という概念の対立の無効性や対立の解消
を認識する。(対立的な概念の境界があいまいになる)
-Tの「経験に基づいた知恵の獲得」(社会)に対応
④宗教的もしくはスピリチュアルな態度:神仏の存在や死後の世界、生かされている感じ
など、宗教的またはスピリチュアルな内容を認識する。
-Tの「生と死の認識の変化、神秘性に関する感受性の向上」
(宇宙)に対応
⑤社会的自己からの脱却:見栄や自己主張、自己のこだわりなど、社会に向けての自己主張
が低下する。
-Tの「社会的役割についての認識の変化」(社会)、「自己中心性の減少」(自己)に対応
⑥基本的で生得的な肯定感:自己に対する肯定的な評価やポジティブな感情を持つ、また、
生得的な欲求を肯定する。
-Tの「自我統合の発達」
(自己)に対応
⑦利他性:自己中心的から他者を重んじる傾向への変化が生じる。
-Tの「自己に対するこだわりの減少」(自己)に対応
⑧無為自然:
「考えない」
「気にならない」
「無理しない」といったあるがままの状態を受け入
れるようになる。
-Tの老年的超越概念の内容にはない日本でのオリジナルな要素-
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このように、日本版老年的超越質問紙改訂版(JGS)の下位尺度と内容
は、内容的に Tornstamの老年的超越理論の 3 つの次元がバランスよく含まれ
る内容となっているので、日本人高齢者の老年的超越の検討に適した内容であ
るといえる。
Ⅲ QOL(生活の質)につて
-高齢期を生きぬくための重要なキーワード-
1、QOL とは
人生 90 年時代を迎えた今日の課題は、単に寿命を延ばすだけではなく、
高齢期をより豊かに生きることである。つまり主要な関心が、寿命の延長と
いう「量」から、よりよい生活の追求という「質」の課題へと変わってきて
いる。そのキーワードが QOL(Quality of Life)である。
“Life”は、①生命、命、生存、②生計、暮らし、暮らし向き、③人生、
生涯、生き方、生き様という三重構造があり、絶えざる生命維持の過程から、
自己実現、生きがいといった高次の心理的活動を含む多様で無数な活動が
束のようになって成立しているものと解釈されていている。したがって、一
般的に QOL は、「生活の質」、「人生の質」、「生命の質」と訳されている。
WHO(世界保健機構)は QOL の定義を、「1 個人が生活する文化や価値観の
中で、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認
識」としている。満足感などの主観的要素から住居環境などの環境的要素の
どこまでを QOL の範囲として捉えるかという議論もあり、広義にとらえると、
生きる意味、幸福とは、人生とは、自分とはといった哲学的・思想的な領域
から身体的な健康状態(医学的分野)に関する領域に及ぶとも言われている。
結論として、
「QOL の定義」についての統一的な見解はない。それぞれの目
的に応じて操作的な抽象概念として取り扱われているのが実態である。
2、QOL の概念化の試み
①マズロー(Maslow)の欲求5段階説
QOL は人間の欲求がどの程度満たされているかということでもあると考
えられている。マズローは人間の欲求には 5 つの段階があると考え、それを
理論化した。
Ⅰ生理的欲求:生命維持のための食欲・性欲・睡眠欲などの本能的・
根源的な欲求
Ⅱ安全の欲求:衣類・住居など、安定・安全な状態を得ようとすり欲
求
Ⅲ親和の欲求:集団に属したい、誰かに愛されたいといった欲求
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Ⅳ自我の欲求:自分が集団から価値ある存在と認められ、尊敬される
ことを求める欲求
Ⅴ自己実現の欲求:自分の能力・可能性を発揮し、創造的活動や自己
の成長を図りたいと思う欲求
通常は、第Ⅰ段階の生理的欲求をまず充足することが先決で、それが
満たされると第Ⅱ段階の安全の欲求が生じ、最後に自己実現の欲求の充
足が課題になる。したがって、どの段階まで、どの程度、欲求が充足さ
れているかということと QOL は、近似の概念であるという考えである。
3、ロートン(Lowton)の多次元モデル-1983 年-
QOL を個人の行動能力、客観的環境と心理的幸福感、主観的な生活の質
という 2 つの次元の組み合わせで、4 つの領域に分けて概念化している。
*「グッドライフの 4 セクター」
① 行動能力:健康、知覚、運動、認知
客観的評価<
② 客観的環境:住居、近隣、収入、仕事、活動などの現実
③ 心理的幸福感:幸福、楽観主義、目標と達成の一致
主観的評価<
④ 主観的な生活の質:家族、友人、活動、仕事、収入、住
居に関する主観的評価
以上の幾つもの下位次元から構成されていて、これら個々の下位次元に
おけるける評価の積み重ねが各領域の評価となる。したがって、その評価
水準が望ましい水準を維持していれば、高齢期にあってもサクセスフル・
エイジングの実現が可能であると考えられている。このモデルは、高齢者
の QOL を考える上での基本となるものと考えられていて、様々な研究や各
種の QOL 測定尺度作成に応用されている。
4、QOL の尺度-WHO の QOL26(包括的多次元尺度)-
[身体的領域]
1日常世活動作 :毎日の生活をやり遂げる能力に満足していますか
2医薬品と医療への依存 :毎日の生活の中で治療(医療)がどれくらい
必要ですか
3活力と疲労 :毎日の生活を送るための活力はありますか
4移動能力
:家の周囲を出回ることがよくありますか
5痛みと不快
:体の痛みや不快のせいで、しなければならないこと
9
がどのくらい制限されていますか
6睡眠と休養 :睡眠は満足のいくものですか
7仕事の能力 :自分の仕事をする能力に満足していますか
[心理的領域]
8ボディ・イメージ
:自分の容姿【外見】を受け入れることが
できますか
9否定的感情 :気分がすぐ れなかったり、絶望、不安、落ち込みと
いったいやな気分をどのくらい頻繁に感じますか
10 肯定的感情 :毎日の生活をどのくらい楽しく過ごしていますか
11 自己評価 :自分自身に満足していますか
12 精神性/宗教/信条 :自分の生活をどのくらい意味のあるものと感じ
ていますか
13 思考、学習、記憶、集中 :物事にどのくらい集中することができま
すか
[社会的領域]
14 人間関係 :人間関係に満足していますか
15 社会的支援 :友達たちの支えに満足していますか
16 性的活動 :性生活に満足していますか
[環境的領域]
17 金銭関係 :必要なものが買えるだけのお金を持っていますか
18 自由、安全と治安 :毎日の生活はどのくらい安全ですか
19 健康と社会的ケア
:医療施設や福祉サービスの利用のしやすさに
満足していますか
20 居住環境 :家と家の周りの環境に満足していますか
21 新しい情報と
技術の獲得機会 :毎日の生活に必要な情報をどのくらい得ることが
できますか
22 余暇活動の参加と機会 :余暇を楽しむ機会はどのくらいありますか
23 生活圏の環境 :あなたの生活環境はどのくらい健康的ですか
24 交通手段 :周辺の交通の便に満足していますか
25 全体総合 :あなたの生活の質をどのように評価しますか
26 ″
:自分の健康状態に満足していますか
5、日本における豊かさ指標策定の経緯
1971 年に「社会指標-よりよい暮らしへのものさし」が発表された。以
10
降、指標の改訂が重ねられ、1992 年には「新国民生活指標=豊かさ指標」
が策定された。これは人間の活動領域として 8 項目-①住む、②費やす、
③働く、④育てる、⑤癒やす、⑥遊ぶ、⑦学ぶ、⑧交わる-、生活評価軸
領域として 4 項目-①安全・安心、②公正、③自由、④快適、-において、
さらに細分化された項目に基づき、定量的に生活の豊かさの評価を実施し
てきた。しかしながら、評価結果の自治体ランキングに過当な関心が集中
したこともあり、評価を受ける自治体からの批判を受けて、1998 年に廃止
された。したがって、現在は、地域の豊かさを評価する指標は存在いない。
日本にとっては、このように、いまだ定まらない QOL の概念や定義の明
確化に加えて、役に立つ QOL 測定尺度の開発は、重要かつ不可欠の課題で
あると考える。
6、高齢者についてのイメージ、エイジズㇺ
*内閣府「年齢・加齢に対する考え方に関する意識調査」(2004 年)より
-肯定的イメージ-
経験や知識が豊かである
43,5%
時間にしばられず、好きなことに取り組める
健康的な生活習慣を実践している
ボランティアや地域の活動で、社会に貢献している
貯蓄や住宅などの資産があり、経済的にゆとりがある
-否定的イメージ-
心身が衰え、健康面での不安が大きい
29,9%
11,3%
7,7%
6,9%
収入が少なく、経済的に不安が大きい
古い考え方にとらわれがちである
まわりの人とのふれあいが少なく、孤独である
仕事をしていないため、社会の役に立っていない
33,0%
27,1%
19,4%
6,2%
72,3%
*高齢化・高齢者に関する打破すべき 6 つの神話(WHO)
-”Aging,Explodingthe myths”Aging and Health programme,WHO 1999①
ほとんどの高齢者は先進国に住んでいる
②
高齢者はみな同じである
③
男性も女性も同じように年をとる
④
高齢者は虚弱である
⑤
高齢者は何も貢献できることはない
⑥
高齢者は社会に対する経済的な負担である
WHO は、上記のような高齢化や高齢者に関して、6 つの打破すべき神話を掲
11
げる一方で、「高齢者は社会にとって有用な資源」であり、「年齢による差別
をやめる」、「高齢者に対し適切な医療と健康増進教育を行う」、「世代間の連
帯を強化する」などによって、活力ある高齢社会を実現できると説いている。
本格的な超高齢社会に向き合っていく上で、高齢化の現象や高齢社会の実
態体、高齢者の存在・価値をどのように捉えるか、その考え方とスタンスが
超高齢未来の在り方を左右するといっても過言ではない。
時代とともに高齢者の社会的存在・価値は変遷するが、日本は世界の高齢
化最先進国として、世界に先駆けて超高齢未来をしっかり見据え、新しい社
会の創造と高齢者の社会的存在・価値の見直しは国を挙げて取り組む必要が
ある。
12