「サードエイジャーの自分探し」

VR の生活者研究
「VR エイジング・ラボ」SPECIALCOLUMN
「サードエイジャーの自分探し」
「VRエイジング・ラボ」のメンバーのおひとりでもあり、
ご自身もサードエイジャーである大島氏に
ご寄稿いただいたコラムをご紹介します。
writer
VR エイジング・ラボメンバー 大島 曜(おおしま あきら)
経営・マーケティングコンサルタント
元食品会社事業・マーケティング部長
自身がサードエイジャー
この 4 月で 59 歳になった。還暦まであと1 年だ。
還暦というとあるシーンを思い出す。30 年前の先輩
の還暦祝いだ。赤いチャンチャンコを着た先輩は大
変上機嫌でパーティーはとても盛り上がった。だが
私は、先輩のしぐさがひどく年寄り臭く見え心の中で
密かに同情した。
あの頃の彼と同じ年頃になった。しかし 30 年前と
今では年齢感覚が随分違うのではないかと思う。赤
永年夢だった柴犬を買った。犬小屋も作った。愛犬
と接すると自分でも驚くのだが、少年の頃のように無
邪気になれる。映画や小説で感動すると涙が止まら
ない。20 年以上ほこりをかぶった本を読み直し、な
るほどあの頃はと改めて納得したりする。結婚記念日
には家内と二人で温泉に行った。二人だけの時間が
ひどくいとおしい。多少財布は痛んでも納得のいくお
金の使い方がしたいと思う。以上、
若いころには無かっ
いチャンチャンコは今では見ることもなくなった。私自
たことだ。
婚当初と変わらない友達夫婦関係が続いている。週
転機は 2 年前、57 歳で 33 年務めた会社を辞め
身老いの自覚症状は無く至って健康だ。家内とは結
末には10㎞程のジョギングで汗をかく。シルバーシー
た時だった。悩んだ末の退職だった。結局一番のポ
台使いこなしている。
「還暦」の風景とは無縁の自分
だった。進退に悩んでいた時「サードエイジ」という
トには絶対近寄らない。ウィンドウズ8のパソコンも2
がいる。
イントは残りの人生に自分自身が納得できるかどうか
では、30 代、40 代と全く変わらないのかと言え
ばそうでもない。色々な面で思考パターンや行動が
変わってきている。密かに生涯あと何食食べるのか
なと考える。20 年で 22000 食、30 年で 33000 食
という概算になる。毎回の食事は、ありがたくいただ
かなければと思う。会合などで近くの方の老人臭や
口臭が鼻につく。自分は大丈夫かとひどく気になる。
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Video Research Digest 2014. 8
VR エイジング・ラボにて企画案を発表する大島氏
言葉に出会った。ちょうど 55 歳だった。昔なら定年
退職の年である。しかし今や平均寿命は 80 歳を超
え、これから人生は 30 年の長きに及ぶ。考えてみ
ると今までの結婚生活や会社勤めと同じ長さだ。
「サードエイジ」は人類が史上初めて経験する未知
の世界だと言われている。人生第 3 期を実りと充実
の 30 年とするか、憔悴と衰退に悩むか。個人には
もちろんだが、社会にも決定的な岐路である。このま
ま会社に居続けていては、
「サードエイジ」の準備が
出来ない。自分探しには時間がかかる。そんな気持
ちが独立を促した。
20 代までのファーストライフには学校が、50 代ま
でのセカンドライフには会社がある。それぞれ目標と
こなすべき課題が予め準備されている。現代の日本
では人は 50 歳半ばまで、為すべき義務が与えられ、
いわば自動的に人生というベルトコンベアーに乗る。
20 世紀の中盤まで、人生設計は 50 年を区切りとし
ていた。社会システムも50 年基準だった。しかし時
代は変わった。平均寿命が 80 歳を超えた今、多く
の「サードエイジャー」が新たなライフスタイル探し
を強いられている。人生の第 3 期は、豊富な経験と
知識を活かした充実と実りの季節であるべきだ。し
かし、
「サードエイジ」のライフスタイルの選択は個
人に丸投げされている。選択可能なメニューすら探
すのは一苦労。年金はセカンドライフまでの収入と
はかけ離れ、病気や要介護になって初めて公的な扶
助が始まる。まるで余った時間を静かに邪魔になら
ぬように過ごせと言わんばかりだ。
活力ある社会を創る為、そして次世代が夢を持っ
て人生設計に挑むためにも、今「サードエイジャー」
のライフスタイル創造が求められている。個人にとっ
て大きな課題、
社会の急務である。そして、
企業にとっ
ては市場創造の大きなチャンスだと思えてならない。
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